(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極活物質の一次粒子の表面に厚さ0.5nm以上10nm以下の炭素質被膜が形成された炭素質被覆一次粒子と、該炭素質被覆一次粒子が複数個集合した造粒体と、該造粒体の一部が解砕された一部解砕造粒体と、を含む混合物であり、
前記混合物の累積粒度分布における累積百分率90%の粒子径(D90)が5μm以下である、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
[リチウムイオン二次電池用正極材料]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、N−メチル−2−ピロリドンを用いて測定した単位質量当たりの粉体に対する吸油量(A)と単位質量当たりの粉体の空隙体積(B)との比(A/B)が0.30以上0.85以下であり、粉体の圧密試験において、4.5MPaの圧力を加えた場合の粉体密度(C)と初期の粉体密度(D)との比(C/D)が1.3以上1.7以下である。
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、後述するリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法によって作製され、正極活物質の一次粒子の表面に炭素質被膜が形成された炭素質被覆一次粒子と、該炭素質被覆一次粒子が複数個集合した造粒体と、該造粒体の一部が解砕された一部解砕造粒体と、を含む混合物であることが好ましい。本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料において、造粒体は、
図1に示すように、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)により1000倍で観察した粒子形状において、それぞれの二次粒子を区別することができるもののことである。一方、一部解砕造粒体は、
図2に示すように、走査型電子顕微鏡(SEM)により1000倍で観察した粒子形状において、それぞれの粒子を区別することができない状態にあるもののことである。
【0016】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、上記の比(A/B)が0.30以上0.85以下であり、0.4以上0.8以下であることが好ましく、0.5以上0.7以下であることがより好ましい。上記比(A/B)が上記下限値未満であると、ペースト作製時に微小な空隙を生じやすく、電極の密度が下がってしまう。上記比(A/B)が上記上限値を超えると、ペースト作製時に必要な溶媒量が増加してしまい、高濃度のペーストを作製することが難しい。
【0017】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いて測定した単位質量当たりの粉体に対する吸油量(A)は、50mL/100g以下であることが好ましく、45mL/100g以下であることがより好ましく、40mL/100g以下であることがさらに好ましい。上記吸油量(A)が上記上限値以下であると、正極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合して、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する際に、結着剤や溶剤を造粒体内に浸透し難くし、ペースト粘度の増大を抑制し、アルミニウム集電体への塗工性を良好にすることができる。また、必要な結着剤量が得られ、正極合材層とアルミニウム集電体の結着性を向上させることができる。
【0018】
上記吸油量(A)は、JIS K5101−13−1(精製あまに油法)に準ずる方法により、あまに油をN−メチル−2−ピロリドンに代えて測定する。
リチウムイオン二次電池用正極材料に対する吸油量(A)をN−メチル−2−ピロリドンを用いて測定した理由は、ペースト作製時に導電助剤、結着剤の分散溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンが一般的に使用されているからである。
【0019】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、単位質量当たり(1g当たり)の粉体の空隙体積(B)は、0.4cm
3以上0.6cm
3以下であることが好ましく、0.45cm
3以上0.58cm
3以下であることがより好ましく、0.5cm
3以上0.55cm
3以下であることがさらに好ましい。上記空隙体積(B)が上記下限値以上であると導電助剤や結着剤が入り込む隙間が発生し、正極材料の導電性や、集電体との結着性を担保し易い。上記空隙体積(B)が上記上限値以下であると、ペーストの正極材料の密度が向上し易く、電極密度が向上する。
【0020】
上記空隙体積(B)は、実施例に記載の方法により測定する。
【0021】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、粉体の圧密試験において、4.5MPaの圧力を加えた場合の粉体密度(C)と初期の粉体密度(D)との比(C/D)が1.3以上1.7以下であり、1.35以上1.65以下であることが好ましく、1.4以上1.6以下であることがより好ましい。上記比(C/D)が上記下限値未満であると、ロールプレス時に密度が上昇し辛く、高密度の正極を作製することが難しい。上記比(C/D)が上記上限値を超えると、初期の粉体が殻状の構造体を持っていることを示しており、電極作製時に空隙が生じ、密度が低下する。
【0022】
上記粉体密度(C)および上記粉体密度(D)は、実施例に記載の方法により測定する。
【0023】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、正極活物質の一次粒子の表面に厚さ0.5nm以上10nm以下の炭素質被膜が形成された炭素質被覆一次粒子と、該炭素質被覆一次粒子が複数個集合した造粒体と、該造粒体の一部が解砕された一部解砕造粒体と、を含む混合物であることが好ましい。
【0024】
一部解砕造粒体とは、造粒体の少なくとも一部を解砕したものである。
ここで、「造粒体の少なくとも一部を解砕する」とは、造粒体の少なくとも一部が解砕されていればよく、造粒体全てが解砕されている必要はない。
【0025】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、上記混合物の累積粒度分布における累積百分率90%の粒子径(D90)が5μm以下であることが好ましく、4μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。上記粒子径(D90)の下限は、0.5μm以上であってもよく、1.0μm以上であってもよく、1.2μm以上であってもよい。上記粒子径(D90)が上記上限値以下であると、電極作製時の塗布膜の密度が高くなりやすい。
【0026】
上記混合物の粒子径(D90)は、動的光散乱法により得られる散乱強度分布の累積粒度分布における累積百分率が90%のときの混合物の平均粒子径である。混合物の粒子径(D90)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所社製、商品名:LA−950V2)により測定することができる。この粒度分布計によれば、固形分をアルコール化合物で5質量%に調整した分散液を対象として、光路長10mm×10mmの石英セルを用いて、混合物の粒子径(D90)を測定することができる。
【0027】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、上記混合物の累積粒度分布における累積百分率10%の粒子径(D10)が100nm以上1000nm以下であることが好ましく、150nm以上800nm以下であることがより好ましく、200nm以上600nm以下であることがさらに好ましい。上記粒子径(D10)が上記下限値未満であると、解砕に伴う正極活物質やカーボンの破片が混入していることを示し、電池特性が悪化する。上記粒子径(D10)が上記上限値を超えていると、解砕強度が足りていない、もしくは一次粒子が大きいことを示しており、密度の低下、あるいは電池特性の低下を起こす。
【0028】
混合物の粒子径(D10)は、上記混合物の粒子径(D90)と同様に測定することができる。
【0029】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、上記混合物の平均粒子径は、0.4μm以上4.0μm以下であることが好ましく、0.6μm以上2.0μm以下であることがより好ましく、0.8μm以上1.0μm以下であることがさらに好ましい。混合物の平均粒子径が上記下限値以上であると、導電助剤や結着剤に対し、充分に大きくなることで集電体への密着度が向上する。混合物の平均粒子径が上記上限値以下であると、塗布膜厚に対して適した粒径をしており、均一分散した膜を作製できる。
【0030】
上記混合物の平均粒子径は、動的光散乱法により得られる散乱強度分布の累積百分率が50%のときの混合物の平均粒子径(粒子径(D50))である。混合物の平均粒子径(粒子径(D50))は、上記混合物の粒子径(D90)と同様に測定することができる。
【0031】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、上記混合物の比表面積が3m
2/g以上20m
2/g以下であることが好ましく、5m
2/g以上16m
2/g以下であることがより好ましく、7m
2/g以上12m
2/g以下であることがさらに好ましい。混合物の比表面積が上記下限値以上であると、一次粒子径が充分に小さく、充放電に適した粒子であり、粒子同士の結着が少ないことを示している。混合物の比表面積が上記上限値以下であると、カーボンの剥離に伴う比表面積の増加が少なく、電池特性に優れる。
【0032】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、上記混合物の比表面積は、比表面積計を用いて、窒素(N
2)吸着によるBET法により求められる。
【0033】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、正極活物質の一次粒子の表面に形成された炭素質被膜の厚さが0.5nm以上10nm以下であることが好ましく、0.8nm以上8nm以下であることがより好ましく、1nm以上5nm以下であることがさらに好ましい。炭素質被膜の厚さが上記下限値以上であると、活物質表面の電子伝導性を保持することができる。炭素質被膜の厚さが上記上限値以下であると、リチウムイオンの脱挿入の阻害になりづらい。
【0034】
正極活物質の一次粒子の表面を被覆する炭素質被膜の厚さは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて測定される。
【0035】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、正極活物質の一次粒子の表面に厚さ0.5nm以上10nm以下の炭素質被膜が形成された炭素質被覆一次粒子の平均粒子径が、50nm以上900nm以下であることが好ましく、80nm以上500nm以下であることがより好ましく、100nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。炭素質被覆一次粒子の平均粒子径が上記下限値以上であると、粒子の活物質としての利用率が向上し、エネルギー密度が向上する。炭素質被覆一次粒子の平均粒子径が上記上限値以下であると、充放電をした際に、体積変化が起こり難く、サイクル特性が向上する。
【0036】
炭素質被覆一次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡を用いて、直接観察を行い、粒子の長軸と短軸の平均を粒子径と計算し、粒子500個の粒子径の平均から算出することができる。
【0037】
炭素質被覆一次粒子における炭素含有量は、炭素分析計(炭素硫黄分析装置:EMIA−810W(商品名)、堀場製作所社製)を用いて、測定される。
【0038】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、炭素質被覆一次粒子における炭素質被膜の被覆率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。炭素質被覆一次粒子における炭素質被膜の被覆率が上記下限値以上であると、炭素質被覆の被覆効果が充分に得られる。
【0039】
炭素質被覆一次粒子における炭素質被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて測定される。
【0040】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、造粒体の平均粒子径が、1μm以上50μm以下であることが好ましく、2μm以上30μm以下であることがより好ましく、3μm以上15μm以下であることがさらに好ましい。造粒体子の平均粒子径が上記下限値以上であると、粉砕に必要なエネルギーが小さくなり解砕し易くなる。造粒体の平均粒子径が上記上限値以下であると、解砕時に巨大な破片状の一部解砕造粒体が残り難くなる。造粒体の平均粒子径は解砕前の粉体にて測定することができる。
【0041】
造粒体の平均粒子径は、動的光散乱法により得られる散乱強度分布の累積百分率が50%のときの造粒体の平均粒子径(粒子径(D50))である。造粒体の平均粒子径(粒子径(D50))は、上記混合物の粒子径(D90)と同様に測定することができる。
【0042】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、造粒体の比表面積が、3m
2/g以上20m
2/g以下であることが好ましく、5m
2/g以上16m
2/g以下であることがより好ましく、7m
2/g以上12m
2/g以下であることがさらに好ましい。造粒体の比表面積が上記下限値以上であると、一次粒子径が充分小さく、充放電に適した粒子であり、粒子同士の結着が少ないことを示している。造粒体の比表面積が上記上限値以下であると、炭素質被膜の剥離に伴う比表面積の増加が少なく、電池特性に優れる。
【0043】
造粒体の比表面積は、解砕前の粉体にて、上記混合物の比表面積と同様に測定することができる。
【0044】
「正極活物質」
正極活物質としては、オリビン系正極活物質を含むことが好ましい。
オリビン系正極活物質は、一般式Li
xA
yD
zPO
4(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる化合物からなる。
【0045】
Li
xA
yD
zPO
4において、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1を満たす正極活物質であることが、高放電容量、高エネルギー密度の観点から好ましい。
【0046】
高い放電電位、高い安全性を実現可能な正極合剤層とすることができる点から、Aは、Co、Mn、Ni、Feが好ましく、Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Alが好ましい。
【0047】
オリビン系正極活物質の結晶子径は、30nm以上300nm以下であることが好ましく、50nm以上250nm以下であることがより好ましい。オリビン系正極活物質の結晶子径が30nm未満であると、正極活物質の表面を熱分解炭素質被膜で充分に被覆するためには多くの炭素を必要とし、また、大量の結着剤が必要となるために、正極中の正極活物質量が低下し、電池の容量が低下することがある。同様に、結着力不足により炭素質被膜が剥離することがある。一方、オリビン系正極活物質の結晶子径が300nmを超えると、正極活物質の内部抵抗が大きくなり、電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量を低下させることがある。また、充放電を繰り返す際に、中間相を形成しやすく、そこから構成元素が溶出することで、容量が低下してしまう。
【0048】
オリビン系正極活物質の結晶子径の算出方法としては、X線回折測定により測定した粉末X線回折図形をウィリアムソン−ホール法により解析することで、結晶子径を決定することが実行可能である。
【0049】
「炭素質被膜」
炭素質被膜は、原料となる有機化合物が炭化することにより得られる熱分解炭素質被膜である。炭素質被膜の原料となる炭素源は、炭素の純度が40.00%以上かつ60.00%以下の有機化合物由来であることが好ましい。
【0050】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、炭素質被膜の原料となる炭素源の「炭素の純度」の算出方法としては、複数種類の有機化合物を用いる場合、各有機化合物の配合量(質量%)と既知の炭素の純度(%)から、各有機化合物の配合量中の炭素量(質量%)を算出、合算し、その有機化合物の総配合量(質量%)と総炭素量(質量%)から、下記の式(1)に従って算出する方法が用いられる。
炭素の純度(%)=総炭素量(質量%)/総配合量(質量%)×100・・・(1)
【0051】
なお、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料は、上記混合物以外の成分を含んでいてもよい。混合物以外の成分としては、例えば、バインダー樹脂からなる結着剤、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の導電助剤等が挙げられる。
【0052】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料では、N−メチル−2−ピロリドンを用いて測定した単位質量当たりの粉体に対する吸油量(A)と単位質量当たりの粉体の空隙体積(B)との比(A/B)が0.30以上0.85以下であり、粉体の圧密試験において、4.5MPaの圧力を加えた場合の粉体密度(C)と初期の粉体密度(D)との比(C/D)が1.3以上1.7以下であるため、粉体表面の濡れ性が改善され、電極ペーストを高濃度で均一に作製することが可能となり、プレス時に密度が向上しやすいため、これまでのオリビン系の正極材料に比べて、電極密度を向上することができる。従って、エネルギー密度や、高出力特性を向上するために充分な電極密度を実現するリチウムイオン二次電池用正極材料を提供することができる。
【0053】
[リチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法は特に限定されないが、例えば、上記一般式Li
xA
yD
zPO
4で表される正極活物質および正極活物質前駆体を製造する工程Aと、正極活物質および正極活物質前駆体からなる群より選択される少なくとも1種の正極活物質粒子原料、有機化合物および水を混合してスラリーを調製する工程Bと、該スラリーを乾燥し、得られた乾燥物を500℃以上1000℃以下の非酸化性雰囲気下にて焼成する工程Cと、該工程Cで得られた一次粒子が複数個集合した造粒体の少なくとも一部を粉砕機で解砕する工程Dと、を有する方法が挙げられる。
【0054】
「工程A」
Li
xA
yD
zPO
4は、特に限定されない。
工程Aでは、例えば、Li源、A源、D源、およびPO
4源を、これらのモル比がx:y+z=1:1となるように水に投入し、撹拌してLi
xA
yD
zPO
4の前駆体溶液とし、さらにこの前駆体溶液を15℃以上かつ70℃以下の状態で1時間以上かつ20時間以下、撹拌混合し、水和前駆体溶液を作製し、この水和前駆体溶液を耐圧容器に入れ、高温、高圧下、例えば、130℃以上かつ190℃以下、0.2MPa以上にて、1時間以上かつ20時間以下、水熱処理を行うことにより、Li
xA
yD
zPO
4で表される正極活物質および正極活物質前駆体を得る。
この場合、水和前駆体溶液撹拌時の温度および時間と水熱処理時の温度、圧力および時間を調整することにより、Li
xA
yD
zPO
4粒子の粒子径を所望の大きさに制御することが可能である。
【0055】
この場合、Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、塩化リチウム(LiCl)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCH
3COO)、蓚酸リチウム((COOLi)
2)等のリチウム有機酸塩の群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
これらの中でも、塩化リチウムと酢酸リチウムは、均一な溶液相が得られやすいため好ましい。
【0056】
A源としては、コバルト化合物からなるCo源、マンガン化合物からなるMn源、ニッケル化合物からなるNi源、鉄化合物からなるFe源、銅化合物からなるCu源、および、クロム化合物からなるCr源からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
また、D源としては、マグネシウム化合物からなるMg源、カルシウム化合物からなるCa源、ストロンチウム化合物からなるSr源、バリウム化合物からなるBa源、チタン化合物からなるTi源、亜鉛化合物からなるZn源、ホウ素化合物からなるB源、アルミニウム化合物からなるAl源、ガリウム化合物からなるGa源、インジウム化合物からなるIn源、ケイ素化合物からなるSi源、ゲルマニウム化合物からなるGe源、スカンジウムム化合物からなるSc源、および、イットリウム化合物からなるY源からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0057】
PO
4源としては、例えば、オルトリン酸(H
3PO
4)、メタリン酸(HPO
3)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)、リン酸アンモニウム((NH
4)
3PO
4)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)、リン酸水素二リチウム(Li
2HPO
4)、リン酸二水素リチウム(LiH
2PO
4)およびこれらの水和物の中から選択される少なくとも1種が好ましい。
特に、オルトリン酸は、均一な溶液相を形成しやすいので好ましい。
【0058】
「工程B」
工程Bで用いる有機化合物としては、正極活物質の表面に炭素質被膜を形成できる化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、2価アルコール、3価アルコール等が挙げられる。
【0059】
正極活物質粒子原料と有機化合物との配合比は、有機化合物の全量を炭素量に換算したとき、正極活物質粒子原料100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.7質量部以上3質量部以下であることがより好ましい。有機化合物の炭素量換算の配合比が上記下限値以上であると、電池を形成した場合に高速充放電レートにおける放電容量が低くなり難く、充分な充放電レート性能を実現することができる。有機化合物の炭素量換算の配合比が上記上限値以下であると、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に立体障害が少なく、リチウムイオン移動抵抗が低くなる。その結果、電池を形成した場合に電池の内部抵抗が上昇し難く、高速充放電レートにおける電圧低下を抑制することができる。
【0060】
正極活物質粒子原料と有機化合物とを、水に溶解または分散させて、均一なスラリーを調製する。溶解あるいは分散の際には、分散剤を加えるとなおよい。正極活物質粒子原料と有機化合物とを水に溶解または分散させる方法としては、正極活物質粒子原料が分散し、有機化合物が溶解または分散する方法であればよく、特に限定されないが、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の分散装置を用いることが好ましい。
【0061】
正極活物質粒子原料と有機化合物とを水に溶解または分散する際には、正極活物質粒子原料を一次粒子として分散し、その後、有機化合物を添加して溶解するように攪拌することが好ましい。このようにすれば、正極活物質の一次粒子の表面が有機化合物で被覆され易い。その結果として、正極活物質の表面が均一に有機化合物由来の炭素質被膜によって被覆される。
【0062】
「工程C」
工程Cでは、工程Bで調製したスラリーを高温雰囲気中、例えば、70℃以上250℃以下の大気中に噴霧し、乾燥させる。
次いで、この乾燥物を、非酸化性雰囲気下、500℃以上1000℃以下、好ましくは600℃以上900℃以下の範囲内の温度にて、0.1時間〜40時間焼成する。
【0063】
非酸化性雰囲気としては、窒素(N
2)、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気が好ましく、より酸化を抑えたい場合には水素(H
2)等の還元性ガスを数体積%程度含む還元性雰囲気が好ましい。また、焼成時に非酸化性雰囲気中に蒸発した有機分を除去する目的で、酸素(O
2)等の支燃性または可燃性ガスを不活性雰囲気中に導入してもよい。
【0064】
ここで、焼成温度を500℃以上とすると、乾燥物に含まれる有機化合物の分解および反応が充分に進行し易く、有機化合物の炭化を充分に行い易い。その結果、得られた造粒体中に高抵抗の有機化合物の分解物が生成することを防止し易い。焼成温度を1000℃以下とすることで、正極活物質中のLiが蒸発し難く、また、正極活物質の粒成長が抑制される。その結果、高速充放電レートにおける放電容量が低くなることを防止することができ、充分な充放電レート性能を実現することができる。
この焼成過程では、乾燥物を焼成する際の条件、例えば、昇温速度、最高保持温度、保持時間等を適宜調整することにより、得られる造粒体の粒度分布を制御することが可能である。この造粒体の平均粒子径は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、2μm以上30μm以下であることがより好ましい。なお、平均粒子径は、レーザー式回折粒度分布測定装置(商品名:SALD−1000、島津製作所社製)を用いて測定した。
【0065】
「工程D」
工程Dでは、工程Cで得られた造粒体の少なくとも一部を粉砕機で解砕する。
【0066】
造粒体の解砕に用いられる装置としては、造粒体を完全に粉砕することなく、造粒体の一部が解砕されるものであればよく、例えば、乾式ボールミル、湿式ボールミル、ミキサー、ジェットミル等の気流式微粉砕機、超音波破砕機等が挙げられる。
本実施形態においては、上記比(A/B)と上記比(C/D)を所望の範囲とするために、ジェットミルを解砕に用いることが好ましく、また、ジェットミルへの造粒体の投入量を10kg/分以上30kg/分以下、粉砕圧を粒子0.3MPa以上0.7MPa以下、空気圧を0.03MPa以上0.55MPa以下とすることが好ましい。
【0067】
上記造粒体は、この解砕過程で、少なくともその一部が解砕されて、造粒体と、造粒体の一部が解砕された一部解砕造粒体との他に、正極活物質の一次粒子の表面に炭素質被膜が形成された炭素質被覆一次粒子とを含む混合物が得られる。
【0068】
造粒体の解砕にあたっては、造粒体に導電助剤を加えた後に、解砕することもできる。
導電助剤としては、炭素源である、カーボンブラック、アセチレンブラック、無定形炭素、結晶性炭素および繊維状炭素からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
導電助剤の添加量は、正極材料に所望の導電性を付与することのできる炭素源の量に相当する量であればよく、特に限定されない。造粒体に導電助剤を加えた後に解砕することにより、炭素質被覆一次粒子、造粒体および一部解砕造粒体が均一に混合された混合物を得ることができる。
【0069】
また、造粒体の解砕にあたっては、造粒体に粉砕助剤を加えた後に、解砕することもできる。
粉砕助剤としては、電極材料の炭素源となるとともに、後工程の正極形成用スラリーにも用いられる有機溶媒が好適に用いられる。このような有機溶媒としては、例えば、一価アルコール、多価アルコール、ケトン類等が挙げられる。一価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール等が挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール等が挙げられる。ケトン類としては、例えば、アセトン等が挙げられる。
造粒体に粉砕助剤を加えた後に解砕することにより、上記の有機溶媒が炭素源となって、炭素質被覆一次粒子、造粒体および一部解砕造粒体が均一に混合された混合物を得ることができる。
【0070】
解砕工程を経た混合物の平均粒子径は上述の通りである。
【0071】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、電極集電体と、その電極集電体上に形成された正極合剤層(電極)と、を備え、正極合剤層が、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するものである。
すなわち、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されてなるものである。
【0072】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層を形成できる方法であれば特に限定されない。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合してなる、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する。
【0073】
「結着剤」
結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
【0074】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける結着剤の含有率は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上かつ6質量%以下であることがより好ましい。
【0075】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素の群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0076】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける導電助剤の含有率は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上かつ10質量%以下であることがより好ましい。
【0077】
「溶媒」
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を含むリチウムイオン二次電池用正極材料ペーストでは、電極集電体等の被塗布物に対して塗布し易くするために、溶媒を適宜添加してもよい。
電極形成用塗料または電極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよい。
溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0078】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と溶媒の合計質量を100質量部とした場合に、60質量部以上かつ400質量部以下であることが好ましく、80質量部以上かつ300質量部以下であることがより好ましい。
上記の範囲で溶媒が含有されることにより、電極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを得ることができる。
【0079】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合する方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカー、ホモジナイザー等の混錬機を用いた方法が挙げられる。
【0080】
次いで、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、この塗膜を乾燥し、次いで、加圧圧着することにより、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されたリチウムイオン二次電池用正極を得ることができる。
【0081】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極によれば、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を含有しているため、エネルギー密度や、高出力特性を向上するために充分な電極密度を実現することができる。
【0082】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を備え、正極として、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極を備える。
【0083】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池では、負極、非水電解質、セパレータ等は特に限定されない。
負極としては、例えば、金属Li、炭素材料、Li合金、Li
4Ti
5O
12等の負極材料を用いることができる。
また、非水電解質とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0084】
非水電解質は、例えば、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を、例えば、濃度1モル/dm
3となるように溶解することで作製することができる。
セパレータとしては、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
【0085】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池では、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極を備えるため、エネルギー密度や、高出力特性を向上することができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
<製造例:正極活物質(LiFePO
4)の製造>
以下のようにして、LiFePO
4を製造した。
まず、LiFePO
4の合成について記載する。
Li源としてLi
3PO
4を用い、P源としてNH
4H
2PO
4を用い、Fe源としてFeSO
4・7H
2Oを用い、これらを、Li、FeおよびPのモル比がLi:Fe:P=3:1:1となるように純水に混合して、200mL(リットル)の均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量500mLの耐圧密閉容器に入れ、170℃にて12時間、水熱合成を行った。
反応後、耐圧密閉容器内の雰囲気が室温(25℃)になるまで冷却して、ケーキ状態の反応生成物の沈殿物を得た。
この沈殿物を蒸留水で複数回、充分に水洗し、乾燥しないように含水率30%に保持し、ケーキ状物質とした。
このケーキ状物質を若干量採取し、70℃にて2時間真空乾燥させて、得られた粉末をX線回折で測定したところ、単相のLiFePO
4が形成されていることが確認された。
【0088】
[実施例1]
製造例で得られたLiFePO
4(正極活物質)20gと、炭素源としてポリビニルアルコール0.73gとを総量で100gとなるように水に混合し、直径0.1mmのジルコニアビーズ150gとともに、ビーズミルを行い、分散粒径(D50)が100nmとなるスラリーを得た。
その後、スプレードライヤーを用いて、乾燥出口温度が60℃となる温度で、スラリーを乾燥、造粒し、造粒体を得た。
次に、管状炉を用い、造粒体を昇温速度5℃/分で300℃まで昇温した後、30分間保持し、その後15℃/分の昇温速度で700℃まで昇温し、30分間熱処理を行い、正極活物質の一次粒子の表面に炭素質被膜が形成された炭素質被覆一次粒子が複数個集合した造粒体を得た。
次いで、得られた造粒体をジェットミルにて解砕後、分級を行い、租な粒子を取り除いた後、2回目の解砕処理を実施し、造粒体と、造粒体の一部が解砕された一部解砕造粒体と、正極活物質の一次粒子の表面に炭素質被膜が形成された炭素質被覆一次粒子とを含む混合物からなる正極材料を得た。
【0089】
[実施例2]
2回目の解砕処理を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして、造粒体と、造粒体の一部が解砕された一部解砕造粒体と、正極活物質の一次粒子の表面に炭素質被膜が形成された炭素質被覆一次粒子とを含む混合物からなる正極材料を得た。
【0090】
[比較例1]
1回目、2回目の解砕処理、および分級処理を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして、造粒体と、造粒体の一部が解砕された一部解砕造粒体と、正極活物質の一次粒子の表面に炭素質被膜が形成された炭素質被覆一次粒子とを含む混合物からなる正極材料を得た。
【0091】
[比較例2]
分級処理、および2回目の解砕処理を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして、造粒体と、造粒体の一部が解砕された一部解砕造粒体と、正極活物質の一次粒子の表面に炭素質被膜が形成された炭素質被覆一次粒子とを含む混合物からなる正極材料を得た。
【0092】
[比較例3]
スラリーへのポリビニルアルコールの投入量を0.36gとし、造粒後に再度、ポリビニルアルコール0.37gを投入して、混錬したこと以外は比較例2と同様にして、造粒体と、造粒体の一部が解砕された一部解砕造粒体と、正極活物質の一次粒子の表面に炭素質被膜が形成された炭素質被覆一次粒子とを含む混合物からなる正極材料を得た。
【0093】
<リチウムイオン二次電池用正極の作製>
N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に、実施例1、2および比較例1〜3で得られた正極材料90質量%と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)5質量%と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%とを加えて混合し、正極材料ペーストを調製した。
次いで、この正極材料ペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、アルミニウム箔の両面に正極合剤層を形成した後、所定の密度となるように、プレス間隔30μmの設定でロールプレスにより正極合剤層を圧着して正極板とした。
【0094】
<正極密度計算>
正極板を3cm×3cmの大きさに切り出し、正極板の質量、正極板の厚さ、また、同サイズの集電体の質量、集電体の厚さを測定した。これらの測定結果を用いて、下記式(2)により正極合剤層の質量を算出し、下記式(3)により正極合剤層の厚さを算出した。
(正極板の質量)−(集電体の質量)=(正極合剤層の質量)・・・(2)
(正極板の厚さ)−(集電体の厚さ)=(正極合剤層の厚さ)・・・(3)
得られた正極合剤層の質量と正極合剤層の厚さを用いて、下記式(4)により正極合剤層の密度(正極密度:g/cm
3)を算出した。結果を表2に示す。
(正極合剤層の質量)/(正極合剤層の面積×正極合剤層の厚さ)=(正極合剤層の密度)・・・(4)
【0095】
<N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いた吸油量(NMP吸油量)>
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いた、100g当たりの粉体(正極材料)に対する吸油量は、JIS K5101−13−1(精製あまに油法)に準ずる方法により、あまに油をNMPに代えて測定した。結果を表1に示す。
【0096】
<圧粉体試験>
正極材料を直径2cmの円筒形の容器に3g投入し、上部から10秒で0.01mmの速度で圧力を加えることで圧粉体試験を行った。
圧粉体試験時の粉体の厚み、および加えられた圧力は、それぞれ、マイクロメータと圧力センサーにより検出した。
粉体(正極材料)の密度は、(粉体の質量)/(粉体の厚さ×粉体の面積)として算出した。
圧力を加え始めた際、応力伝達線が形成される前は、粉体は圧縮されても圧力は上昇しない。圧縮されて応力伝達線が形成され、圧力が上昇する直前の粉体の密度を、初期の粉体密度として検出した。圧縮を加えて、検出される圧力が4.5MPaに到達した時の粉体の密度を、4.5MPaの圧力を加えた場合の粉体密度として検出した。結果を表1に示す。
【0097】
<粉体単位質量当たりの吸油量/単位質量当たりの空隙体積>
正極材料(粉体)の単位質量当たりの吸油量を、上記のNMP吸油量とした。
また、圧粉体試験において、下記式(5)により正極材料の単位質量当たりの空隙体積を算出した。結果を表1に示す。
(初期の粉体密度から算出した正極材料の単位質量当たりの体積)−(正極材料の真密度から算出した正極材料の単位質量当たりの体積)=(正極材料の単位質量当たりの空隙体積)・・・(5)
【0098】
<粉体の粒度分布測定(D10、D50、D90)>
粉体(正極材料)の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(商品名:LA−950V2、堀場製作所社製)を用いて測定した。検出された混合物の累積粒度分布における、累積百分率が10%の粒子径をD10、累積百分率が50%の粒子径をD50、累積百分率が90%の粒子径をD90とした。結果を表2に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
表1、表2の結果から、正極作製時に高密度な正極を作製することができ、体積当たりの特性が向上する。
【課題】エネルギー密度や、高出力特性を向上するために充分な電極密度を実現するリチウムイオン二次電池用正極材料、そのリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するリチウムイオン二次電池用正極、そのリチウムイオン二次電池用正極を備えるリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、N−メチル−2−ピロリドンを用いて測定した単位質量当たりの粉体に対する吸油量(A)と単位質量当たりの粉体の空隙体積(B)との比(A/B)が0.30以上0.85以下であり、粉体の圧密試験において、4.5MPaの圧力を加えた場合の粉体密度(C)と初期の粉体密度(D)との比(C/D)が1.3以上1.7以下である。