【文献】
BAIRD, Geoffrey, S., ZACHARIAS, David, A., and TSIEN, Roger, Y.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1999年 9月,Vol. 96,,p.11241-11246,特に要旨, 材料と方法, 第11243頁左欄第2段落の第16-19行, 第11244頁右欄最下段−第11245頁右欄第1段落, 図
【文献】
Wang, Jing, W. et al.,Cell,2003年 1月24日,Vol.112,p.271-282,特に要旨
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除および置換を行うことができる。
【0013】
本明細書において「タンパク質」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「ポリペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合で連結した化合物である。「タンパク質」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「ポリペプチド」は、アミド基、メチル基を含むアルキル基、リン酸基、糖鎖、及び/又は、エステル結合その他の共有結合による修飾を含む場合がある。また、「タンパク質」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「ポリペプチド」は、金属イオン、補酵素、アロステリックリガンドその他の原子、イオン、原子団か、他の「タンパク質」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「ポリペプチド」か、糖、脂質、核酸等の生体高分子か、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニル、ポリエステルその他の合成高分子かを共有結合又は非共有結合により結合又は会合している場合がある。
【0014】
本発明において、ある特定のアミノ酸配列に「1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列」とは、n以下の個数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列をいう。ここでnは、当該特定のアミノ酸配列の全アミノ酸の数の10%を超えない整数である。すなわち、ある特定のアミノ酸配列に1個以上n個以下のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列をいう。同様に、本発明のいずれかのドメインのN末端又はC末端が、ある特定のタンパク質又はタンパク質ドメインのN末端又はC末端に「さらに1個〜数個のアミノ酸がペプチド結合で追加して連結される」とは、当該本発明のいずれかのドメインのN末端又はC末端は、当該特定のタンパク質又はタンパク質ドメインのN末端又はC末端に1個以上n個以下のアミノ酸がペプチド結合で追加して連結されることをいう。また本発明のいずれかのドメインのN末端又はC末端が、ある特定のタンパク質又はタンパク質ドメインのN末端又はC末端から「1個〜数個目のアミノ酸残基」であるとは、当該本発明のいずれかのドメインのN末端又はC末端は、当該特定のタンパク質又はタンパク質ドメインのN末端又はC末端から1個目以上n個目以下のアミノ酸残基であることをいう。
【0015】
≪リガンド蛍光センサータンパク質≫
一実施形態において、本発明は、リガンドに特異的に応答して蛍光特性が変化するリガンド蛍光センサータンパク質であって、前記リガンド蛍光センサータンパク質は、第1の蛍光タンパク質ドメインと、N末端側リンカーと、リガンド結合ドメインと、C末端側リンカーと、第2の蛍光タンパク質ドメインとを含み、前記リガンド蛍光センサータンパク質に用いられる蛍光タンパク質がβバレル構造を有するものであり、前記第1の蛍光タンパク質ドメインが前記蛍光タンパク質のN末端からβ1〜β3のβシート領域と、これに続くαへリックス領域と、β4〜β6のβシート領域とを含み、前記第2の蛍光タンパク質ドメインが前記第1の蛍光タンパク質ドメインと同一の前記蛍光タンパク質のβ7〜β11のβシート領域を含み、前記N末端側リンカー及び前記C末端側リンカーは、それぞれ独立して1個又は数個のアミノ酸からなるポリペプチドであるリガンド蛍光センサータンパク質を提供する。
【0016】
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質によれば、検出するリガンドの種類を選ばず、高感度にリガンドを検出することができる。
【0017】
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質は、リガンドの濃度に特異的に応答して蛍光特性が変化する。該蛍光特性は、蛍光強度を含むが、これに限られない。蛍光強度は、蛍光顕微鏡、蛍光顕微分光光度計等の蛍光光学機器を用いて、所定の励起光源からの光のスペクトルを励起光フィルターにより一定の波長帯域に制限して、本発明のリガンド蛍光センサータンパク質又はリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質を含む生物試料に照射し、その蛍光を蛍光フィルターにより一定の波長帯域の制限して冷却CCDカメラで撮像し、得られた画像のうち特定の視野又はその一部の領域の画素の輝度値を基に定量的に表される。
【0018】
(リガンド)
なお、本明細書における「リガンド」とは、特定の受容体(レセプター)に特異的に結合する物質を意味する。リガンドとして具体的には、例えば、ヌクレオチド若しくはその誘導体、核酸、糖鎖、タンパク質、脂質複合体、低分子化合物等が挙げられ、これらに限定されない。
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質は、上述した特定のリガンドに対するレセプターを備えることで、高感度に生体内におけるリガンド濃度の分布や時間変化を簡便に検出することができる。
【0019】
前記ヌクレオチド若しくはその誘導体としては、例えば、アデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン一リン酸(AMP)、環状AMP(cAMP)、グアノシン三リン酸(GTP)、グアノシン二リン酸(GDP)、グアノシン一リン酸(GMP)、環状GMP(cGMP)等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、ヌクレオチド若しくはその誘導体としては、ATP、cAMP、及びcGMPであることが好ましい。
【0020】
ATPは、化学反応、輸送や筋収縮のエネルギー源になり、またシグナル伝達等の役割を担い、生命システムの維持に広範に関与している。ATP産生が低下する、又はATPが消費されずに過剰になると、細胞はそのエネルギーバランスを失い、疾患が起る。
また、cAMPは、グルカゴンやアドレナリンといったホルモン伝達の際の細胞内シグナル伝達においてセカンドメッセンジャーとして働くことが知られている。
また、cGMPは、イオンチャネルの伝導性、グリコーゲン分解、細胞のアポトーシスなどを調整している。また、平滑筋の弛緩にも関わっている。その他に目の光情報伝達においてセカンドメッセンジャーの役割を果たしている。
よって、本実施形態において、リガンドがATP、cAMP、又はcGMPであるリガンド蛍光センサータンパク質(すなわち、ATP蛍光センサータンパク質、cAMP蛍光センサータンパク質、又はcGMP蛍光センサータンパク質)を用いることで、細胞内の各種リガンドの濃度分布や時間変化(時空間ダイナミクス)を可視化解析でき、各種生命現象や疾患発症機構の解明に応用できる。
【0021】
前記タンパク質としては、例えば、抗原、抗体、酵素等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、タンパク質としては、抗原、又は抗体であることが好ましい。
リガンドが各種生体分子である場合、レセプターとして特定の生体分子に対する抗体を用いることで、生体分子の種類を選ばず、生体内における当該生体分子の濃度分布や時間変化を簡便且つ正確に検出することができる。
また、リガンドが生体内に存在する抗体である場合、例えば、レセプターとして各種アレルギー物質を用いることで、ヒト又は非ヒト動物におけるアレルギー物質に対する抗体の存在を簡便且つ正確に検出することができる。
【0022】
抗体は抗体断片も含む。抗体断片としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、およびこれらの重合体等が挙げられる。
【0023】
前記脂質複合体としては、例えば、リポタンパク質、DNA−脂質複合体等が挙げられ、これらに限定されない。
【0024】
前記低分子化合物としては、例えば、水素イオン、カルシウム、塩素、酸素その他のイオン、グルコース、酸化還元物質等が挙げられ、これらに限定されない。
【0025】
(構成)
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質及びリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質に含まれるポリペプチドのドメイン及びリンカーの構成は以下のとおりである。まず、リガンドと特異的に結合するドメインを「リガンド結合ドメイン」という。挿入又は円順列変異により分断された無脊椎動物由来の蛍光タンパク質及び該蛍光タンパク質の改変体のアミノ末端側ドメイン及びカルボキシル末端側ドメインを、以下では、「第1の蛍光タンパク質ドメイン」及び「第2の蛍光タンパク質ドメイン」という。リガンド結合ドメイン又は第1の蛍光タンパク質ドメインのアミノ末端に連結するポリペプチドリンカーを「N末端側リンカー」といい、リガンド結合ドメイン又は第2の蛍光タンパク質ドメインのカルボキシル末端に連結するポリペプチドリンカーを「C末端側リンカー」という。
【0026】
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質において、リガンド結合ドメインを1つ含んでいてもよく、2つ含んでいてもよい。
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質において、リガンド結合ドメインを1つ含む場合、N末端からC末端に向かって、第1の蛍光タンパク質ドメインと、N末端側リンカーと、リガンド結合ドメインと、C末端側リンカーと、第2の蛍光タンパク質ドメインとが、直接この順番にペプチド結合で連結してなるポリペプチドを含むことが好ましい。
【0027】
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質において、リガンド結合ドメインを2つ含む場合、N末端からC末端に向かって、第1のリガンド結合ドメインと、N末端側リンカーと、第2の蛍光タンパク質ドメインと、第1の蛍光タンパク質ドメインと、C末端側リンカーと、第2のリガンド結合ドメインと、が、直接この順番にペプチド結合で連結してなるポリペプチドを含むことが好ましい。また、前記第2の蛍光タンパク質ドメインと前記第1の蛍光タンパク質ドメインとの間にさらにポリペプチドリンカーを有していてもよい。
例えば、リガンド結合ドメインが抗体である場合、分子構造が大きいことから、後述実施例に示すとおり、抗体の重鎖(第1のリガンド結合ドメイン)と軽鎖(第2のリガンド結合ドメイン)とを分けた構成とすることで、リガンド蛍光センサータンパク質内に置いて、当該抗体と蛍光タンパク質との間に立体障害が生じることを防ぐことができる。
【0028】
・蛍光タンパク質
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質及びリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質は、無脊椎動物由来の蛍光タンパク質の改変体と、リガンド結合タンパク質のリガンド結合ドメインとに基づく人工改変体タンパク質である。無脊椎動物由来の蛍光タンパク質は、下村脩博士らによって発見されたヒドロ虫類に属するオワンクラゲ(Aequorea victoria)から単離された緑蛍光タンパク質や、造礁サンゴDiscosoma sp.から単離された赤蛍光タンパク質DsRedを含むが、これらに限られない。
【0029】
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質及びリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質に用いる、無脊椎動物由来の蛍光タンパク質及び該蛍光タンパク質の改変体に含まれるポリペプチドは、典型的には11個のβシート構造領域と1個のαヘリックス構造領域とを含み、該αヘリックス構造領域はN末端から3個目と4個目のβシート領域(以下、それぞれ、「β3」及び「β4」と称する場合がある。他のβシートもこれらに準じて表記する。)の間に存在する。前記ポリペプチドがフォールディングすると、樽状の立体構造を形成する。すなわち、前記11個のβシート構造領域はアンチパラレルに配向して樽の側面を形成し、前記αヘリックス構造領域は、樽の側面をなすβシート構造領域が終わった前記樽の一方の端から樽の内部を貫いて反対側の端に伸びるポリペプチド部分であって、次のβシート構造領域につながる。無脊椎動物由来の蛍光タンパク質及び該蛍光タンパク質の改変体の発色団は、前記αヘリックス領域の2個のアミノ酸残基と、前記αヘリックスを挟んで相対する2本のβシート領域(β4及びβ11)に含まれるそれぞれ1個のアミノ酸残基とで形成される。無脊椎動物由来の蛍光タンパク質及び該蛍光タンパク質の改変体がフォールディングして樽状の立体構造を形成するとき、前記の4個のアミノ酸残基は側鎖間で自発的に反応して多員環を形成し、蛍光を発生する発色団となる。無脊椎動物由来の蛍光タンパク質及び該蛍光タンパク質の改変体の発色団は、水分子その他の該蛍光タンパク質の外部環境から前記樽状の立体構造によって保護されるため、いつでも蛍光を発生することができる。また前記発色団は、水分子その他のタンパク質の外部環境から前記樽状の立体構造によって保護されるため、pHその他の外部環境の変化の影響を受けにくい。
【0030】
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質及びリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質に含まれるポリペプチドの第1の蛍光タンパク質ドメイン及び第2の蛍光タンパク質ドメインは、いずれかの無脊椎動物由来の特定の蛍光タンパク質又はその改変体のN末端側及びC末端側のポリペプチドを含む。本実施形態に用いられる蛍光タンパク質としては、例えば、BFP、GFP、Citrine、mApple等があげられ、これらに限定されない。BFP、GFP、Citrine、mAppleは、それぞれ、Wachter, R.ら(Biochemistry 2960, 9759−9765 (1997))、Chalfie,M.ら(Science 263(5148), 802−805 (1994))、Griesbeck, O.ら、(J. Biol. Chem. 276, 29188−29194 (2001))、及びShaner, N. Cら(Nat. Methods 5, 545−551 (2008))に報告されている。なお、BFP及びmAppleは、Zhao, Y.ら(Science. 333, 1888−1891 (2011))を参照して数カ所にアミノ酸置換変異を導入した(配列番号1、2、7及び8)。
【0031】
典型的には、本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質及びリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質に含まれる第1の蛍光タンパク質ドメインは、無脊椎動物由来の特定の蛍光タンパク質又はその改変体(例えば、BFP、GFP、Citrine又はmApple等)のN末端から、β1〜β3のβシート領域と、これに続くαヘリックス領域と、β4〜β6のβシート領域とを含む。しかし、第1の蛍光タンパク質ドメインのN末端又はC末端にさらに1個〜数個のアミノ酸がペプチド結合で追加して連結される場合もある。すなわち、第1の蛍光タンパク質ドメインのN末端は、無脊椎動物由来の特定の蛍光タンパク質又はその改変体(例えば、BFP、GFP、Citrine又はmApple等)のN末端の場合がある。また、該N末端にさらに1個〜数個のアミノ酸がペプチド結合で追加して連結される場合がある。あるいは、第1の蛍光タンパク質ドメインのN末端は、無脊椎動物由来の特定の蛍光タンパク質又はその改変体(例えば、BFP、GFP、Citrine又はmApple等)のN末端から1個〜数個目のアミノ酸残基の場合がある。
また、第1の蛍光タンパク質ドメインのC末端は、β6とβ7との間のいずれかのアミノ酸残基の場合がある。あるいは、これにさらに1個〜数個のアミノ酸がペプチド結合で追加して連結される場合もある。
【0032】
典型的には、本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質及びリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質に含まれる第2の蛍光タンパク質ドメインは、第1の蛍光タンパク質ドメインと同一の蛍光タンパク質のβ7〜β11のβシート領域を含む。第2の蛍光タンパク質ドメインのN末端は前記β7のN末端の場合がある。また、前記β7のN末端にさらに1個〜数個のアミノ酸がペプチド結合で追加して連結される場合もある。あるいは、第2の蛍光タンパク質ドメインのN末端は、前記β7のN末端から1個〜数個目のアミノ酸残基の場合がある。
また、第2の蛍光タンパク質ドメインのC末端は、無脊椎動物由来の特定の蛍光タンパク質又はその改変体(例えば、BFP、GFP、Citrine又はmApple等)のC末端の場合がある。あるいは、これにさらに1個〜数個の追加のアミノ酸がペプチド結合で連結される場合もある。
【0033】
第1の蛍光タンパク質ドメイン及び第2の蛍光タンパク質ドメインとして具体的には、例えば、以下の(B1)及び(C1)に示すポリペプチド等が挙げられる。
(B1)配列番号1、3、5、又は7で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(C1)配列番号2、4、6、又は8で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【0034】
上記(B1)における配列番号1、3、5、又は7で表されるアミノ酸配列は、それぞれBFP、GFP、Citrine、又はmAppleのβ1〜β3のβシート領域と、これに続くαヘリックス領域と、β4〜β6のβシート領域とからなるアミノ酸配列である。
また、上記(C1)における配列番号2、4、6、又は8で表されるアミノ酸配列は、それぞれBFP、GFP、Citrine、又はmAppleのβ7〜β11のβシート領域からなるアミノ酸配列である。
【0035】
本実施形態における第1の蛍光タンパク質ドメイン及び第2の蛍光タンパク質ドメインは、前記(B1)及び(C1)のポリペプチドと、機能的に同等なポリペプチドとして、下記(B2)及び(C2)のポリペプチドを含有する。
(B2)配列番号1、3、5、又は7で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、且つ、前記第2の蛍光タンパク質ドメインとβバレル構造を形成し、蛍光を発するポリペプチド、
(C2)配列番号2、4、6、又は8で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、且つ、前記第1の蛍光タンパク質ドメインとβバレル構造を形成し、蛍光を発するポリペプチド。
【0036】
ここで、欠失、置換、若しくは付加されてもよいアミノ酸の数としては、1〜15個が好ましく、1〜10個がより好ましく、1〜5個が特に好ましい。
【0037】
本実施形態における第1の蛍光タンパク質ドメイン及び第2の蛍光タンパク質ドメインは、前記(B1)及び(C1)のポリペプチドと、機能的に同等なポリペプチドとして、下記(B3)及び(C3)のポリペプチドを含有する。
(B3)配列番号1、3、5、又は7で表されるアミノ酸配列と同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、且つ、前記第2の蛍光タンパク質ドメインとβバレル構造を形成し、蛍光を発するポリペプチド、
(C3)配列番号2、4、6、又は8で表されるアミノ酸配列と同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、且つ、前記第1の蛍光タンパク質ドメインとβバレル構造を形成し、蛍光を発するポリペプチド。
【0038】
前記(B1)及び(C1)のポリペプチドと機能的に同等であるためには80%以上の同一性を有する。係る同一性としては、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、98%以上が特に好ましく、99%以上が最も好ましい。
【0039】
蛍光タンパク質として、BFP、GFP、Citrine、又はmAppleを用いるとき、第1の蛍光タンパク質ドメイン及び第2の蛍光タンパク質ドメインは、それぞれ、「BFP−Nドメイン」及び「BFP−Cドメイン」、「GFP−Nドメイン」及び「GFP−Cドメイン」、「Citrine−Nドメイン」及び「Citrine−Cドメイン」、又は「mApple−Nドメイン」及び「mApple−Cドメイン」と称する場合がある。BFP−Nドメイン及びBFP−Cドメインのアミノ酸配列は配列番号1及び2として配列表に列挙する。GFP−Nドメイン及びGFP−Cドメインのアミノ酸配列は配列番号3及び4として配列表に列挙する。Citrine−Nドメイン及びCitrine−Cドメインのアミノ酸配列は配列番号5及び6として列挙する。mApple−Nドメイン及びmApple−Cドメインのアミノ酸配列は配列番号7及び8として列挙する。
【0040】
・リガンド結合ドメイン
無脊椎動物由来の蛍光タンパク質及び該蛍光タンパク質の改変体を用いて、リガンドの濃度変化に応答して蛍光特性が変化する蛍光センサータンパク質を作成するためには、隣接する2個のβシート構造領域を連結するポリペプチドに当該リガンドと結合する別のタンパク質のポリペプチドの一部(すなわち、リガンド結合ドメイン)を挿入することが試みられる。これにより、前記物質の影響で蛍光タンパク質の樽状の立体構造が乱れるために蛍光特性が変化することが期待されるからである。
【0041】
リガンド結合ドメインとしては、特定のリガンドが特異的に結合可能なものであればよく、特別な限定はない。例えば、リガンドがATP、cAMP、又はcGMP等のヌクレオチド若しくはその誘導体である場合には、ATP、cAMP、又はcGMP等のヌクレオチド若しくはその誘導体の公知の結合ドメインをリガンド結合ドメインとして用いればよい。また、例えば、リガンドが任意の生体分子である場合には、該生体分子に対する抗体をリガンド結合ドメインとして用いればよい。また、例えば、リガンドが抗体である場合には、抗原をリガンド結合ドメインとして用いればよい。また、例えば、リガンドが水素イオン、カルシウム、塩素、酸素その他のイオン、グルコース、酸化還元物質等の低分子化合物である場合には、前記低分子化合物のレセプター(受容体)(具体的には、リガンドがグルコースである場合、グルコース輸送体内のグルコース結合部位等)をリガンド結合ドメインとして用いればよい。
【0042】
リガンド結合ドメインとしてより具体的には、例えば、リガンドがATPである場合、ATP結合ドメインとしては、F
0F
1−ATP合成酵素のεサブユニット等が挙げられる。前記εサブユニットは細菌のF
0F
1−ATP合成酵素のεサブユニットであってもよく、枯草菌のF
0F
1−ATP合成酵素のεサブユニットであってもよい。ATP結合ドメインのN末端は、F
0F
1−ATP合成酵素のεサブユニットのN末端であってもよい。あるいは、前記ATP結合ドメインのN末端は、F
0F
1−ATP合成酵素のεサブユニットのN末端から1個又は数個目のアミノ酸残基であってもよい。ATP結合ドメインのC末端は、F
0F
1−ATP合成酵素のεサブユニットのC末端であってもよい。あるいは、前記ATP結合ドメインのC末端は、F
0F
1−ATP合成酵素のεサブユニットのC末端から1個又は数個目のアミノ酸残基であってもよい。ATP結合ドメインは、配列番号15のアミノ酸配列であってもよい。
【0043】
また、例えば、リガンドがcAMPである場合、cAMP結合ドメインとしては、exchange factor directly activated by cAMP 1(EPAC1)等が挙げられる。前記EPAC1はヒト由来のものであってもよく、非ヒト動物由来のものであってもよい。cAMP結合ドメインのN末端は、EPAC1のN末端であってもよい。あるいは、前記cAMP結合ドメインのN末端は、EPAC1のN末端から1個又は数個目のアミノ酸残基であってもよい。cAMP結合ドメインのC末端は、EPAC1のC末端であってもよい。あるいは、前記cAMP結合ドメインのC末端は、EPAC1のC末端から1個又は数個目のアミノ酸残基であってもよい。cAMP結合ドメインは、配列番号20のアミノ酸配列であってもよい。
【0044】
また、例えば、リガンドがcGMPである場合、cGMP結合ドメインとしては、Phosphodiesterase5α(PDE5α)等が挙げられる。前記PDE5αはヒト由来のものであってもよく、非ヒト動物由来のものであってもよい。cGMP結合ドメインのN末端は、PDE5αのN末端であってもよい。あるいは、前記cGMP結合ドメインのN末端は、PDE5αのN末端から1個又は数個目のアミノ酸残基であってもよい。cGMP結合ドメインのC末端は、PDE5αのC末端であってもよい。あるいは、前記cGMP結合ドメインのC末端は、PDE5αのC末端から1個又は数個目のアミノ酸残基であってもよい。cGMP結合ドメインは、配列番号21のアミノ酸配列であってもよい。
【0045】
また、例えば、リガンドがオステオカルシン(osteocalcin、bone Gla protein(BGP))である場合、BGP結合ドメインとしては、抗BGP抗体等が挙げられる。前記抗BGP抗体はヒト由来のものであってもよく、非ヒト動物由来のものであってもよい。BGP結合ドメインを2つ含む場合、第1のBGP結合ドメインのN末端は、抗BGP抗体の重鎖のN末端であってもよく、第2のBGP結合ドメインのN末端は、抗BGP抗体の軽鎖のN末端であってもよい。あるいは、前記第1のBGP結合ドメインのN末端は、抗BGP抗体の重鎖のN末端から1個又は数個目のアミノ酸残基であってもよく、前記第2のBGP結合ドメインのN末端は、抗BGP抗体の軽鎖のN末端から1個又は数個目のアミノ酸残基であってもよい。第1のBGP結合ドメインのC末端は、抗BGP抗体の重鎖のC末端であってもよく、第2のBGP結合ドメインのN末端は、抗BGP抗体の軽鎖のC末端であってもよい。あるいは、前記第1のBGP結合ドメインのC末端は、抗BGP抗体の重鎖のC末端から1個又は数個目のアミノ酸残基であってもよく、前記第2のBGP結合ドメインのC末端は、抗BGP抗体の軽鎖のC末端から1個又は数個目のアミノ酸残基であってもよい。第1のBGP結合ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列であってもよく、第2のBGP結合ドメインは、配列番号23のアミノ酸配列であってもよい。
【0046】
・リンカー
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質及びリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質に含まれるポリペプチドでは、リガンド結合ドメインが、そのN末端側及びC末端側にそれぞれ1個〜数個のアミノ酸からなるポリペプチドリンカー(以下、それぞれ、「N末端側リンカー」及び「C末端側リンカー」と称する場合がある。)を介して第1及び第2の蛍光タンパク質ドメインの間に挿入される。あるいは、第2及び第1の蛍光タンパク質ドメインが、そのN末端側リンカー及びC末端側リンカーを介して第1及び第2のリガンド結合ドメインの間に挿入される。
N末端側リンカー及びC末端側リンカーのアミノ酸配列は、それぞれの本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質及びリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質ごとに異なる。しかし、アミノ酸には、保存的置換が可能な場合がある。
【0047】
なお、本明細書において、「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することを意味する。アミノ酸残基はその側鎖によって、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパルギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は、好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
したがって、本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質のC末端側リンカーのアミノ酸配列は、以下の実施例で特定されたアミノ酸配列と1個以上のアミノ酸が異なっていても、同じリガンド結合能及び蛍光特性を示す場合があり、かかるアミノ酸配列も本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質のC末端側リンカーのアミノ酸配列に含まれる。
【0048】
(好適なリガンド蛍光センサータンパク質)
本実施形態におけるATP蛍光センサータンパク質及びATP蛍光センサー陰性対照タンパク質のうち、BFP−Nドメイン及びBFP−Cドメインを第1の蛍光タンパク質ドメイン及び第2の蛍光タンパク質ドメインとして用いるものを、「MaLion Bシリーズ」という。
本実施形態におけるATP蛍光センサータンパク質及びATP蛍光センサー陰性対照タンパク質のうち、Citrine−Nドメイン及びCitrine−Cドメインを第1の蛍光タンパク質ドメイン及び第2の蛍光タンパク質ドメインとして用いるものを、「MaLion Gシリーズ」という。
本実施形態におけるATP蛍光センサータンパク質及びATP蛍光センサー陰性対照タンパク質のうち、mApple−Nドメイン及びmApple−Cドメインを第1の蛍光タンパク質ドメイン及び第2の蛍光タンパク質ドメインとして用いるものを、「MaLion Rシリーズ」という。
本実施形態におけるcGMP蛍光センサータンパク質のうち、Citrine−Nドメイン及びCitrine−Cドメインを第1の蛍光タンパク質ドメイン及び第2の蛍光タンパク質ドメインとして用いるものを、「cGullシリーズ」という。
本実施形態におけるcAMP蛍光センサータンパク質のうち、mApple−Nドメイン及びmApple−Cドメインを第1の蛍光タンパク質ドメイン及び第2の蛍光タンパク質ドメインとして用いるものを、「Pink Flamindoシリーズ」という。
本実施形態におけるBGP蛍光センサータンパク質のうち、GFP−Nドメイン及びGFP−Cドメインを第1の蛍光タンパク質ドメイン及び第2の蛍光タンパク質ドメインとして用いるものを、「gBGPシリーズ」という。
【0049】
以下の実施例で説明するとおり、本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質及びリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質は、第1及び第2の蛍光タンパク質ドメインとして、BFP−Nドメイン及びBFP−Cドメインか、GFP−Nドメイン及びGFP−Cドメインか、Citrine−Nドメイン及びCitrine−Cドメインか、mApple−Nドメイン及びmApple−Cドメインかを用い、ATP結合ドメインとして枯草菌のF
0F
1−ATP合成酵素のεサブユニットか、cGMP結合ドメインとしてPDE5αか、cAMP結合ドメインとしてEPAC1か、BGP結合ドメインとして抗BGP抗体かを用い、N末端側リンカー及びC末端側リンカーとしてさまざまなポリペプチドの組み合わせを用いて、それぞれ、MaLion B、G及びRシリーズタンパク質、cGullシリーズタンパク質、Pink Flamindoシリーズタンパク質、並びにgBGPシリーズタンパク質の候補分子をエンコードするポリヌクレオチドを合成し、大腸菌発現ベクターに組み込んで、大腸菌で発現させ、それぞれの蛍光特性を解析して、リガンド存在下と、リガンド非存在下とでの蛍光強度の比(ダイナミックレンジ)に基づいて、最もダイナミックレンジの高い候補分子をMaLion B、G及びRシリーズ、cGullシリーズ、Pink Flamindoシリーズ、並びにBGP蛍光センサーシリーズのターン・オン型リガンド蛍光センサータンパク質(以下、それぞれ、「MaLion B」、「MaLion G」及び「MaLion R」、「cGull」、「Pink Flamindo」、並びに「gBGP」と称する場合がある。)として選択した。また、最もダイナミックレンジが1に近い候補分子をMaLion B、G及びRシリーズのATP蛍光センサー陰性対照タンパク質(それぞれ、「negMaLion B」、「negMaLion G」及び「negMaLion R」という。)として選択した。
【0050】
本明細書及び特許請求の範囲において参照する配列表の配列番号で特定されるアミノ酸配列と、本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質及びリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質、あるいは、これらのドメイン及びリンカーとの関係は以下の表に示すとおりである。
【0055】
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質として、より具体的には、例えば、以下の(D1)のポリペプチド等が挙げられる。
(D1)配列番号9〜14のいずれかで表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【0056】
上記(D1)における配列番号9で表されるアミノ酸配列は、アミノ末端からカルボキシル末端の向きに、[BFP−Nドメイン]−[N末端側リンカー]−[ATP結合ドメイン]−[C末端側リンカー]−[BFP−Cドメイン]の順にポリペプチドドメイン及びポリペプチドリンカーが連結された構造である。
上記(D1)における配列番号10で表されるアミノ酸配列は、アミノ末端からカルボキシル末端の向きに、[Citrine−Nドメイン]−[N末端側リンカー]−[ATP結合ドメイン]−[C末端側リンカー]−[Citrine−Cドメイン]の順にポリペプチドドメイン及びポリペプチドリンカーが連結された構造である。
上記(D1)における配列番号11で表されるアミノ酸配列は、アミノ末端からカルボキシル末端の向きに、[mApple−Nドメイン]−[N末端側リンカー]−[ATP結合ドメイン]−[C末端側リンカー]−[mApple−Cドメイン]の順にポリペプチドドメイン及びポリペプチドリンカーが連結された構造である。
上記(D1)における配列番号12で表されるアミノ酸配列は、アミノ末端からカルボキシル末端の向きに、[Citrine−Nドメイン]−[N末端側リンカー]−[cGMP結合ドメイン]−[C末端側リンカー]−[Citrine−Cドメイン]の順にポリペプチドドメイン及びポリペプチドリンカーが連結された構造である。
上記(D1)における配列番号13で表されるアミノ酸配列は、アミノ末端からカルボキシル末端の向きに、[mApple−Nドメイン]−[N末端側リンカー]−[cAMP結合ドメイン]−[C末端側リンカー]−[mApple−Cドメイン]の順にポリペプチドドメイン及びポリペプチドリンカーが連結された構造である。
上記(D1)における配列番号14で表されるアミノ酸配列は、アミノ末端からカルボキシル末端の向きに、[抗BGP抗体の重鎖]−[N末端側リンカー]−[GFP−Cドメイン]−[ペプチドリンカー]−[GFP−Nドメイン]−[C末端側リンカー]−[抗BGP抗体の軽鎖]の順にポリペプチドドメイン及びポリペプチドリンカーが連結された構造である。
【0057】
本実施形態におけるリガンド蛍光センサータンパク質は、前記(D1)のポリペプチドと、機能的に同等なポリペプチドとして、下記(D2)のポリペプチドを含有する。
(D2)配列番号9〜14のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、且つ、前記ポリペプチド(D1)と同一の、リガンドへの結合能及び蛍光特性を有するポリペプチド。
【0058】
ここで、欠失、置換、若しくは付加されてもよいアミノ酸の数としては、1〜15個が好ましく、1〜10個がより好ましく、1〜5個が特に好ましい。
【0059】
本実施形態におけるリガンド蛍光センサータンパク質は、前記(D1)のポリペプチドと、機能的に同等なポリペプチドとして、下記(D3)のポリペプチドを含有する。
(D3)配列番号9〜14のいずれかで表されるアミノ酸配列と同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、且つ、前記ポリペプチド(D1)と同一の、リガンドへの結合能及び蛍光特性を有するポリペプチド。
【0060】
前記(D1)のポリペプチドと機能的に同等であるためには80%以上の同一性を有する。係る同一性としては、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、98%以上が特に好ましく、99%以上が最も好ましい。
【0061】
(その他の構成)
・細胞膜透過性ペプチド
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質又は本実施形態のリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質は、細胞膜を透過して細胞内に到達するために、従来技術において周知である細胞膜透過ペプチド(参考文献:Zorko, M.及びLangel, U., Adv. Drug Deliv. Rev. 57, p529−545,2005.)を含んでいていもよい。細胞膜透過ペプチドとしては、例えば、配列番号38〜41で表されるアミノ酸配列からなるペプチド等が挙げられ、これらに限定されない。
配列番号38で表されるアミノ酸配列は、HIV−1ウイルスtatタンパク質の第48番目から第60番目までのアミノ酸配列である。
配列番号39で表されるアミノ酸配列は、ショウジョウバエAntennapediaタンパク質の第339番目から第354番目までのアミノ酸配列(penetratinの第43番目から第58番目までのアミノ酸配列)である。
配列番号40で表されるアミノ酸配列のペプチドのC末端がアミド化されたペプチドは、細胞膜を透過して細胞内に局在化できる。このアミノ酸配列はマウスVEカドヘリン前駆体タンパク質の第616番目から第633番目までのアミノ酸配列である。
また、配列番号41で表されるアミノ酸配列は、アルギニンの7量体ホモオリゴマーである。
【0062】
・細胞膜局在化ペプチド
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質又は本実施形態のリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質は、細胞膜上に局在化させるために、従来技術において周知である細胞膜局在化ペプチドを含んでいていもよい。
細胞膜局在化ペプチドとしては、例えば、配列番号42で表されるアミノ酸配列からなるペプチド等が挙げられ、これらに限定されない。
配列番号42で表されるアミノ酸配列は、Zuber, M.X.ら(Nature,vol.341,p345−348,1989.)に報告されるヒト神経タンパク質GAP−43(Neuromodulin)由来の細胞膜局在化ペプチドの第1番目から第21番目までのアミノ酸配列である。
【0063】
・オルガネラ局在化シグナルペプチド
本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質又は本実施形態のリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質は、特定のオルガネラに局在化させるために、従来技術において周知であるオルガネラ局在化シグナルペプチドを含んでいていもよい。前記オルガネラとしては、例えば、ミトコンドリア、核、核小体、小胞体、クロロプラスト、ペロキシゾーム、細菌ペリプラズム等が挙げられ、これらに限定されない。
【0064】
核局在化シグナルペプチドとしては、例えば、配列番号43で表されるアミノ酸配列からなるペプチド等が挙げられ、これらに限定されない。
配列番号43で表されるアミノ酸配列は、SV40ウイルスT抗原の第126番目から第132番目までのアミノ酸配列である(Lanford, R.E., et al., Cell, vol.46,p575−582,1986.)。
【0065】
ミトコンドリア局在化シグナルペプチドとしては、例えば、配列番号44、45で表されるアミノ酸配列からなるペプチド等が挙げられ、これらに限定されない。
配列番号44で表されるアミノ酸配列は、ヒトシトクロムcオキシダーゼのサブユニットVIII−肝臓/心臓型(8Aサブユニット又は8−2サブユニット)のアミノ酸配列の第2番目から第29番目までのアミノ酸配列である。
配列番号45で表されるアミノ酸配列は、ニワトリアスパラギン酸アミノ転移酵素の第2番目から24番目までのアミノ酸配列である(Jaussi, R. et al., J. Biol Chem., vol.260, p16060−16063, 1985.)。
【0066】
小胞体(endoplasmic reticulum)局在化シグナルペプチドとしては、例えば、配列番号46、47で表されるアミノ酸配列からなるペプチド等が挙げられ、これらに限定されない。
配列番号46で表されるアミノ酸配列は、ヒト骨格筋筋小胞体高親和性カルシウム結合タンパク質カルレティキュリンのアミノ酸配列の第1番目から17番目までのアミノ酸配列である(Fliegel, L. et al., J Biol Chem., vol.264, no.36, p21522−21528, 1989.)。
配列番号47で表されるアミノ酸配列は、ラットgrp78タンパク質の小胞体膜局在化シグナルペプチドの第651番目から第654番目(C末端)のアミノ酸配列である(Munro, S.及びPelham H.R., Cell, vol.48, no.5, p899−907, 1987.)。
【0067】
中でも、本実施形態のリガンド蛍光センサータンパク質又は本実施形態のリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質は、核局在化シグナルペプチド又はミトコンドリア局在化シグナルペプチドを含むことが好ましい。
【0068】
<ATP蛍光センサータンパク質>
一実施形態において、本発明は、ATP濃度に特異的に応答して蛍光特性が変化するATP蛍光センサータンパク質であって、該ATP蛍光センサータンパク質は、N末端からC末端に向けて、第1の蛍光タンパク質ドメインと、N末端側リンカーと、ATP結合ドメインと、C末端側リンカーと、第2の蛍光タンパク質ドメインとが、直接この順にペプチド結合で連結したポリペプチドを含み、該ポリペプチドは、第1の蛍光タンパク質ドメインは、蛍光タンパク質BFP、Citrine又はmAppleのN末端から、β1〜β3のβシート領域と、これに続くαヘリックス領域と、β4〜β6のβシート領域とを含み、第2の蛍光タンパク質ドメインは、第1の蛍光タンパク質ドメインと同一の蛍光タンパク質のβ7〜β11のβシート領域を含み、ATP結合ドメインはF
0F
1−ATP合成酵素のεサブユニットからなり、N末端側リンカー及びC末端側リンカーは、それぞれ、1個又は数個のアミノ酸からなるポリペプチドであるATP蛍光センサータンパク質を提供する。
【0069】
本実施形態のATP蛍光センサータンパク質によれば、生理学的条件下で高濃度のATPの存在下での蛍光強度とATP非存在下での蛍光強度の比が十分に高く、細胞の生理学的及び/又は病理学的なATP濃度の変動を検出することができる。また、励起波長及び発光波長が異なる本実施形態のATP蛍光センサータンパク質を複数種類用いることで、それぞれを同一細胞の異なるオルガネラに局在させ、あるいは、生物体内の異なる細胞に局在させ、蛍光顕微鏡の同一視野で同時に、あるいは、ほぼ同時に検出して、該細胞又は生物の生理的及び/又は病理的変化に伴うATP濃度の経時的及び/又は空間的変化(時空間ダイナミクス)を光学的に解析する技術を提供することができる。
【0070】
本実施形態のATP蛍光センサータンパク質において、ポリペプチドは、
(A11)ATP結合ドメインは配列番号15のアミノ酸配列であり、第1及び第2の蛍光タンパク質ドメインは、それぞれ、配列番号1及び2のアミノ酸配列であり、N末端及びC末端側のリンカーは、それぞれ、配列番号16及び17のアミノ酸配列である、MaLion Bポリペプチドと、
(A12)ATP結合ドメイン、第1の蛍光タンパク質ドメイン、第2の蛍光タンパク質ドメイン、N末端側のリンカー、及びC末端側のリンカーは、それぞれ独立に、配列番号15、1、2、16、及び17のアミノ酸配列か、配列番号13、1、2、14、及び15のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列かであり、かつ、MaLion Bポリペプチド(A11)と同一のATP結合能及び蛍光特性を有する、MaLion Bポリペプチドと、
(B11)ATP結合ドメインは配列番号15のアミノ酸配列であり、第1及び第2の蛍光タンパク質ドメインは、それぞれ、配列番号5及び6のアミノ酸配列であり、N末端及びC末端側のリンカーは、それぞれ、WRG(Trp−Arg−Gly)及び配列番号18のアミノ酸配列である、MaLion Gポリペプチドと、
(B12)ATP結合ドメイン、第1の蛍光タンパク質ドメイン、第2の蛍光タンパク質ドメイン、N末端側のリンカー及びC末端側のリンカーは、それぞれ独立に、配列番号15、5、6、WRG(Trp−Arg−Gly)、及び配列番号18のアミノ酸配列か、配列番号15、5、6、WRG(Trp−Arg−Gly)、及び配列番号18のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列かであり、かつ、MaLion Gポリペプチド(B11)と同一のATP結合能及び蛍光特性を有する、MaLion Gポリペプチドと、
(C11)ATP結合ドメインは配列番号15のアミノ酸配列であり、第1及び第2の蛍光タンパク質ドメインは、それぞれ、配列番号7及び8のアミノ酸配列であり、N末端及びC末端側のリンカーは、それぞれ、配列番号19及びPEE(Pro−Glu−Glu)のアミノ酸配列である、MaLion Rポリペプチドと、
(C12)ATP結合ドメイン、第1の蛍光タンパク質ドメイン、第2の蛍光タンパク質ドメイン、N末端側のリンカー及びC末端側のリンカーは、それぞれ、配列番号15、7、8、19、及びPEE(Pro−Glu−Glu)のアミノ酸配列か、配列番号15、7、8、19、及びPEE(Pro−Glu−Glu)のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列かであり、かつ、MaLion Rポリペプチド(C11)と同一のATP結合能及び蛍光特性を有する、MaLion Rポリペプチドとからなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを含むことが好ましい。
【0071】
本実施形態のATP蛍光センサータンパク質において、ポリペプチドは、
(A21)配列番号9のアミノ酸配列からなる、MaLion Bポリペプチドと、
(A22)配列番号9のアミノ酸配列のうち、配列番号16及び17のアミノ酸配列を除くアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、MaLion Bポリペプチド(A21)と同一のATP結合能及び蛍光特性を有する、MaLion Bポリペプチドと、
(B21)配列番号10のアミノ酸配列からなる、MaLion Gポリペプチドと、
(B22)配列番号10のアミノ酸配列のうち、配列番号10の第146−148位のWRG(Trp−Arg−Gly)のアミノ酸配列と、配列番号18のアミノ酸配列とを除くアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、MaLion Gポリペプチド(B21)と同一のATP結合能及び蛍光特性を有する、MaLion Gポリペプチドと、
(C21)配列番号11のアミノ酸配列からなる、MaLion Rポリペプチドと、
(C22)配列番号11のアミノ酸配列のうち、配列番号11の第288−290位のPEE(Pro−Glu−Glu)のアミノ酸配列と、配列番号19のアミノ酸配列とを除くアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、MaLion Rポリペプチド(C21)と同一のATP結合能及び蛍光特性を有する、MaLion Rポリペプチドとからなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを含むことがより好ましい。
【0072】
本実施形態のATP蛍光センサータンパク質は、さらにオルガネラ局在化シグナルペプチドを含んでいてもよい。前記オルガネラ局在化シグナルペプチドとしては、上述の(その他の構成)において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、オルガネラ局在化シグナルペプチドとしては、核局在化シグナルペプチド又はミトコンドリア局在化シグナルペプチドであることが好ましい。
本実施形態のATP蛍光センサータンパク質は、さらに細胞膜透過ペプチドを含んでいてもよい。
【0073】
<ATP蛍光センサー陰性対照タンパク質>
一実施形態において、本発明は、ATP蛍光センサー陰性対照タンパク質negMaLion B、G及びRを提供する。
【0074】
本実施形態のATP蛍光センサー陰性対照タンパク質は、N末端からC末端に向けて、第1の蛍光タンパク質ドメインと、N末端側リンカーと、ATP結合ドメインと、C末端側リンカーと、第2の蛍光タンパク質ドメインとが、直接この順にペプチド結合で連結したポリペプチドを含み、該ポリペプチドは、
(A31)ATP結合ドメインは配列番号15のアミノ酸配列であり、第1及び第2の蛍光タンパク質ドメインは、それぞれ、配列番号1及び2のアミノ酸配列であり、N末端及びC末端側のリンカーは、それぞれ、配列番号27及び28のアミノ酸配列である、negMaLion Bポリペプチドと、
(A32)ATP結合ドメイン、第1の蛍光タンパク質ドメイン、第2の蛍光タンパク質ドメイン、N末端側のリンカー及びC末端側のリンカーは、それぞれ独立に、配列番号15、1、2、27、及び28のアミノ酸配列か、配列番号15、1、2、27、及び28のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列かであり、かつ、negMaLion Bポリペプチド(A31)と同一のATP結合能及び蛍光特性を有する、negMaLion Bポリペプチドと、
(B31)ATP結合ドメインは配列番号15のアミノ酸配列であり、第1及び第2の蛍光タンパク質ドメインは、それぞれ、配列番号5及び6のアミノ酸配列であり、N末端及びC末端側のリンカーは、それぞれ、PRG(Pro−Arg−Gly)及び配列番号29のアミノ酸配列である、negMaLion Gポリペプチドと、
(B32)ATP結合ドメイン、第1の蛍光タンパク質ドメイン、第2の蛍光タンパク質ドメイン、N末端側のリンカー及びC末端側のリンカーは、それぞれ独立に、配列番号15、5、6、PRG(Pro−Arg−Gly)、及び配列番号29のアミノ酸配列か、配列番号15、5、6、PRG(Pro−Arg−Gly)、及び配列番号29のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列かであり、かつ、negMaLion Gポリペプチド(B31)と同一のATP結合能及び蛍光特性を有する、ポリペプチドと、
(C31)ATP結合ドメインは配列番号15のアミノ酸配列であり、第1及び第2の蛍光タンパク質ドメインは、それぞれ、配列番号7及び8のアミノ酸配列であり、N末端及びC末端側のリンカーは、それぞれ、配列番号30及びPEG(Pro−Glu−Gly)のアミノ酸配列である、negMaLion Rポリペプチドと、
(C32)ATP結合ドメイン、第1の蛍光タンパク質ドメイン、第2の蛍光タンパク質ドメイン、N末端側のリンカー及びC末端側のリンカーは、それぞれ独立に、配列番号15、7、8、30、及びPEG(Pro−Glu−Gly)のアミノ酸配列か、配列番号15、7、8、30、及びPEG(Pro−Glu−Gly)のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列かであり、かつ、negMaLion Rポリペプチド(C31)と同一のATP結合能及び蛍光特性を有する、ポリペプチドとからなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを含むことが好ましい。
【0075】
本実施形態のATP蛍光センサー陰性対照タンパク質は、
(A41)配列番号24のアミノ酸配列からなる、negMaLion Bポリペプチドと、
(A42)配列番号24のアミノ酸配列のうち、配列番号27及び28のアミノ酸配列を除くアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、negMaLion Bポリペプチド(A41)と同一のATP結合能及び蛍光特性を有するポリペプチドと、
(B41)配列番号25のアミノ酸配列からなるnegMaLion Gポリペプチドと、
(B42)配列番号25のアミノ酸配列のうち、配列番号25の第146−148位のPRG(Pro−Arg−Gly)のアミノ酸配列と、配列番号29とを除くアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、negMaLion Gポリペプチド(B41)と同一のATP結合能及び蛍光特性を有するnegMaLion Gポリペプチドと、
(C41)配列番号26のアミノ酸配列からなるnegMaLion Rポリペプチドと、
(C42)配列番号26のアミノ酸配列のうち、配列番号30のアミノ酸配列と、配列番号26の第288−290位のPEG(Pro−Glu−Gly)のアミノ酸配列とを除くアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、negMaLion Rポリペプチド(C41)と同一のATP結合能及び蛍光特性を有するポリペプチドとからなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを含むことがより好ましい。
【0076】
本実施形態のATP蛍光センサー陰性対照タンパク質は、さらにオルガネラ局在化シグナルペプチドを含んでいてもよい。前記オルガネラ局在化シグナルペプチドとしては、上述の(その他の構成)において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、オルガネラ局在化シグナルペプチドとしては、核局在化シグナルペプチド又はミトコンドリア局在化シグナルペプチドであることが好ましい。
本実施形態のATP蛍光センサー陰性対照タンパク質は、さらに細胞膜透過ペプチドを含んでいてもよい。
【0077】
(用途)
・蛍光組成物
一実施形態において、本発明は、上述のATP蛍光センサータンパク質を含む蛍光組成物を提供する。
【0078】
本実施形態の蛍光組成物において、上述のATP蛍光センサータンパク質は固体支持体に不動化されていてもよい。
【0079】
前記固体支持体の形状としては、特別な限定はなく、例えば、平板状、球状等が挙げられる。
【0080】
固体支持体の材質としては、たとえば無機物質としてシリカ、アルミナ、ガラス、金属等が挙げられる。また、有機高分子物質として熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0081】
固体支持体として、より具体的には、担体(例えば、磁気担体、アフィニティーカラム精製用担体等)、細胞培養用基材、プレパラート、マイクロデバイス、膜等が挙げられる。細胞培養用基材としては、任意の数のウェルが配置されたマルチウェルプレート、シャーレ等が挙げられる。ウェルの数としては、プレート1枚当たり、たとえば、6、12、24、96、384、1,536個等が挙げられる。
【0082】
本実施形態の蛍光組成物において、上述のATP蛍光センサータンパク質は、第1及び第2の蛍光タンパク質ドメインの対の異なる少なくとも2種類の励起波長及び蛍光波長のATP蛍光センサータンパク質であってもよい。
後述の実施例に示すとおり、蛍光波長の異なる複数種類のATP蛍光センサータンパク質を用いることにより、該ATP蛍光センサータンパク質をそれぞれ異なるオルガネラに局在させ、あるいは、生物体内の異なる細胞に局在させ、蛍光顕微鏡の同一視野で同時に、あるいは、ほぼ同時に検出して、該細胞又は生物の生理的及び/又は病理的変化に伴うATP濃度の経時的及び/又は空間的変化(時空間ダイナミクス)を光学的に解析することができる。
【0083】
また、本実施形態の蛍光組成物の使用方法として、ATP蛍光センサータンパク質が容器の壁面に不動化されている場合に、ATPか、ATPγSのような非加水分解性のATP類縁体かを含む溶液を注ぎ、これをブラックライトのようなわずかに眼で見える長波長の紫外線光源を励起光源として照射することができる。あるいは、ATP蛍光センサータンパク質を不動化したビーズのような固体支持体を、ATP又は非加水分解性のATP類縁体を含む溶液に懸濁して、容器又は流路を流すことができる。例えば、容器をシャンパングラスの形状とし、該容器を複数層に積み上げておき、その頂上の容器に前記溶液を注ぐことにより、最上層の容器からあふれた溶液が直下の層の容器に注がれ、該直下の層の容器からあふれた溶液がさらに下の層の容器に注がれる、いわゆるシャンパンタワー又はトリクルダウン状態を、さまざまな角度及びタイミングの励起光源を照射することにより視覚的効果の高い蛍光照明を行うことができる。
【0084】
≪ポリヌクレオチド≫
一実施形態において、本発明は、上述のリガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0085】
前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号48又は49で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は、配列番号48又は49で表される塩基配列と80%以上、例えば85%以上、例えば90%以上、例えば95%以上の同一性を有し、リガンドへの結合能及び蛍光特性を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド等が挙げられる。なお、配列番号48又は49で表される塩基配列は、配列番号12又は13で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列である。
【0086】
本実施形態のポリヌクレオチドは、哺乳類、植物、及び/又は線虫における発現のためにコドン選択が最適化されていてもよい。
【0087】
なお、本明細書において、「哺乳類、植物、及び/又は線虫における発現のためにコドン選択が最適化され」るとは、哺乳類、植物、及び/又は線虫でのコドン使用頻度及び/又はアミノアシルt−RNA分子種の細胞内濃度の生物種間相違に対応して、それぞれの生物種で最も翻訳効率が高いようにコドンが選択された、所望のタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドの塩基配列を設計することを意味する。コドン選択の最適化は、例えば、Gustafsson, C.ら(Trends in biotechnology 22.7 (2004): 346−353)等を参照して実行することができる。
【0088】
≪発現ベクター≫
一実施形態において、本発明は、上述のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
【0089】
なお、本明細書における「発現ベクター」とは、所望のタンパク質を宿主細胞内で発現できるように、該タンパク質をエンコードするポリヌクレオチドと、該ポリヌクレオチドの転写、RNAスプライシング、RNAプロセッシング、RNA成熟、翻訳、翻訳後プロセッシングその他の機能に必要な、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター及びリボソーム結合部位を含むが、これらに限られない、核酸を含むベクターを意味する。
【0090】
(発現ベクターの種類)
哺乳類における発現のための発現ベクターとしては特に制限されず、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のプラスミド;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のプラスミド;pSH19、pSH15等の酵母由来プラスミド;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。
線虫(C. elegans)における発現のための発現ベクターとしては特に制限されず、例えば、Okkema, P.G.及びAndrew F.(Development 120, 2175−2186 (1994))が報告するpOKベクター等を用いることができる。
植物における発現のための発現ベクターとしては特に制限されず、例えば、タバコモザイクウイルス、キュウリモザイクウイルス等のウイルス及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。
【0091】
(発現ベクターの構成)
・哺乳類における発現のための発現ベクターの構成
哺乳類における発現のための発現ベクターは、例えば、前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターを含んでいていもよい。
【0092】
本明細書において、「作動可能に連結」とは、遺伝子発現制御配列(例えば、プロモーター又は一連の転写因子結合部位)と発現させたい遺伝子(本実施形態においては、前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチド)との間の機能的連結を意味する。ここで、「発現制御配列」とは、その発現させたい遺伝子(本実施形態においては、前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチド)の転写を指向するものを意味する。
【0093】
前記プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、細胞の種類等に応じて適宜決定できる。プロモーターの具体例としては、例えば、ウイルス性プロモーター、発現誘導性プロモーター、組織特異的プロモーター、又はエンハンサー配列やプロモーター配列を融合させたプロモーター等が挙げられる。上記プロモーターは、前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドの上流(5’側)に連結されていることが好ましい。
【0094】
本明細書において、「ウイルス性プロモーター」とは、ウイルス由来のプロモーターを意味する。由来となるウイルスとしては、例えば、サイトメガロウイルス、モロニー白血病ウイルス、JCウイルス、乳癌ウイルス、シミアンウイルス、レトロウイルス等が挙げられる。
【0095】
本明細書において、「発現誘導性プロモーター」とは、化学薬剤、物理的ストレス等の特定の刺激を与えたときに発現させたい遺伝子(本実施形態においては、前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチド)を発現することができ、刺激の非存在下では発現活性を示さないプロモーターを意味する。発現誘導性プロモーターとしては、例えば、TetO(テトラサイクリンオペレーター)プロモーター、メタロチオネイン(metallothionine)プロモーター、IPTG/lacIプロモーター系、エクジソンプロモーター系、及び翻訳又は転写についての阻害配列を不可逆的に欠失させるための「lox stop lox」系等が挙げられ、これらに限定されない。
【0096】
本明細書において、「組織特異的プロモーター」とは、特定の組織においてのみ活性を有するプロモーターを意味する。
【0097】
エンハンサー配列やプロモーター配列を融合させたプロモーターとしては、例えば、シミアンウイルス40(SV40)の初期遺伝子のプロモーターとヒトT細胞白血病ウイルス1のロング・ターミナル・リピートの一部の配列からなるSRαプロモーター、サイトメガロウイルスの前初期(IE)遺伝子エンハンサーとニワトリβ−アクチンプロモーターからなるCAGプロモーター等が挙げられる。特に、CAGプロモーターは、発現させたい遺伝子(本実施形態においては、前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチド)の3’末端にウサギのβ−グロビン遺伝子のpolyA signalサイトを有することにより、発現させたい遺伝子(本実施形態においては、前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチド)をほぼ全身で過剰発現させることができる。
【0098】
哺乳類における発現のための発現ベクターにおいて、さらに、例えば、前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドの下流(3’側)に、mRNAの3’末端のポリアデニル化に必要なポリアデニル化シグナルが作動可能に連結されていてもよい。ポリアデニル化シグナルとしては、上記のウイルス由来、各種ヒト又は非ヒト動物由来の各遺伝子に含まれるポリアデニル化シグナル、例えば、SV40の後期遺伝子又は初期遺伝子、ウサギβグロビン遺伝子、ウシ成長ホルモン遺伝子、ヒトA3アデノシン受容体遺伝子等のポリアデニル化シグナル等を挙げることができる。
【0099】
・植物における発現のための発現ベクターの構成
植物における発現のための発現ベクターには、例えば、カリフラワーモザイクウイルス由来のプロモーター/エンハンサー、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子由来の5’非翻訳領域(翻訳エンハンサー領域)、及び/又は、熱ショックタンパク質遺伝子由来ターミネーター等を含んでいていもよい。
【0100】
・線虫における発現のための発現ベクターの構成
線虫における発現のための発現ベクターには、例えば、Myo2遺伝子由来のプロモーター等を含んでいていもよい。
【0101】
・その他発現ベクターの構成
プラスミドベクターには、例えば、pBluescriptベクターその他の大腸菌を宿主とするベクターを改変したものや、pcDNA3ベクターのように哺乳類で発現効率が高いCMVプロモーター等を含んでいていもよい。
【0102】
上述の発現ベクターは、さらに、例えば、マルチクローニングサイト、スプライシングシグナル、選択マーカー、複製起点等を有していてもよい。
前記選択マーカーとしては、例えば、薬剤選択マーカー遺伝子等が挙げられる。
薬剤選択マーカー遺伝子として、具体的には、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。薬剤選択マーカー遺伝子を挿入することにより、後述に示す本実施形態の発現ベクターが導入された細胞において、該薬物を含む培地を用いて細胞を培養することで、発現ベクターが導入された細胞を選択することができる。
【0103】
≪細胞≫
上述のリガンド蛍光センサータンパク質又は上述のリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質の発現ベクターを細胞に導入することにより、上述のリガンド蛍光センサータンパク質又は上述のリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質に含まれる細胞膜透過ペプチドの作用で、あるいは、前記タンパク質を細胞内に送達するための試薬により、前記タンパク質が一時的又は恒久的に存在する細胞を提供することができる。
【0104】
本実施形態における細胞の由来となる生物種としては、特別な限定はなく、例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞(特に、哺乳動物細胞)等が挙げられ、これらに限定されない。
前記哺乳動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、マーモセット、サル等が挙げられ、これらに限定されない。
【0105】
動物細胞として具体的には、例えば、生殖細胞(精子、卵子等)、生体を構成する体細胞、幹細胞、前駆細胞、生体から分離されたがん細胞、生体から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(細胞株)、生体から分離され人為的に遺伝子改変された細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞等が挙げられ、これらに限定されない。
【0106】
<第一実施形態>
一実施形態において、本発明は、上述のリガンド蛍光センサータンパク質を少なくとも1種類含む細胞を提供する。
【0107】
本実施形態の細胞によれば、生細胞におけるリガンドの濃度の変動を検出することができる。また、励起波長及び発光波長が異なる上述のリガンド蛍光センサータンパク質を複数種類含む細胞を用いることで、それぞれを同一細胞の異なるオルガネラに局在させ、蛍光顕微鏡の同一視野で同時に、あるいは、ほぼ同時に検出して、該細胞の生理的及び/又は病理的変化に伴う各種リガンド濃度の経時的及び/又は空間的変化(時空間ダイナミクス)を光学的に解析する技術を提供することができる。
【0108】
(細胞の作製方法)
上述のリガンド蛍光センサータンパク質又は上述のリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質を細胞内に導入するための方法としては、例えば、前記タンパク質を細胞内に送達するための試薬を用いる方法等が挙げられる。
前記試薬としては、例えば、陽イオン性脂質である塩化N−[1−(2,3−ジオレイロキシ)プロピル]−N,N,N−(DOTMA)と、中性脂質であるジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)との混合物、1,2−ジオレオイル−3−トリメチル−アンモニウム−プロパン(DOTAP)1,2−ジオレオイル−3−ジメチルアンモニウム−プロパン(DODAP)その他の陽イオン性脂質を含む脂質混合物等が挙げられ、これらに限定されない。
これらの試薬には、Lipofectin(登録商標)、Lipofectamine(登録商標)、Pierce(登録商標)タンパク質トランスフェクション試薬(いずれもThermo Fisher Scientific Inc.)等の市販品が含まれる。
また、その他の上述のリガンド蛍光センサータンパク質又は上述のリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質を細胞内に送達するための試薬としては、例えば、脂質を含まないX−fect(商標)トランスフェクション試薬(Clontech Laboratories, Inc.)等を用いてもよい。この試薬は上述のリガンド蛍光センサータンパク質又は上述のリガンド蛍光センサー陰性対照タンパク質が細胞膜透過性ペプチドを含む場合に細胞内に送達することができる。
【0109】
細胞に含まれる上述のリガンド蛍光センサータンパク質は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上含む場合、同一細胞内において容易に検出するために、各リガンド蛍光センサータンパク質は励起波長及び発光波長が異なることが好ましい。
【0110】
<第二実施形態>
一実施形態において、本発明は、上述のリガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドを少なくとも1種類含む染色体を有する細胞を提供する。
【0111】
本実施形態の細胞によれば、生細胞におけるリガンドの濃度の変動を検出することができる。また、励起波長及び発光波長が異なる上述のリガンド蛍光センサータンパク質を複数種類含む細胞を用いることで、それぞれを同一細胞の異なるオルガネラに局在させ、蛍光顕微鏡の同一視野で同時に、あるいは、ほぼ同時に検出して、該細胞の生理的及び/又は病理的変化に伴う各種リガンド濃度の経時的及び/又は空間的変化(時空間ダイナミクス)を光学的に解析する技術を提供することができる。
【0112】
(細胞の作製方法)
本実施形態の細胞は、例えば、上述の発現ベクターをドナーベクターとして細胞内に導入し、相同組換え修復(HDR)を誘発する公知のゲノム編集技術を用いて作製することができる。
【0113】
上述の発現ベクターを細胞内に導入する方法としては、公知の遺伝子導入の手法を用いることができ、具体的には、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法等を用いることができる。
【0114】
公知のゲノム編集技術としては、例えば、CRISPR−Cas9システム、TALENシステム、Znフィンガーヌクレアーゼシステム等が使用できる。または、例えば、染色体における前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入したい部位と相同な配列を、上述の発現ベクターの前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドの上流及び下流に付加することにより、相同組換え修復を誘発させる方法等が使用できる。
また、前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドに薬剤選択マーカーを持たせておくことにより、薬剤選択により前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドの導入が起きた細胞を効率よく選択できる。
【0115】
細胞が植物細胞である場合、例えば、アグロバクテリウム法、単離プロトプラストへのDNA導入法等を用いて、リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドを植物細胞に導入し、相同組換え修復(HDR)を誘発させて作製することができる。
また、前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドに薬剤選択マーカーを持たせておくことにより、薬剤選択により前記リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドの導入が起きた細胞を効率よく選択できる。
【0116】
(染色体上の構成)
染色体に導入された上述のリガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドは、例えば、上流にプロモーター、下流にポリアデニル化シグナル等を備えていてもよい。
プロモーター及びポリアデニル化シグナルとしては、上述の≪発現ベクター≫において例示されたものと同様のものが挙げられる。
その他リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドをさらに高発現させるために、各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域、イントロンの一部を、プロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間或いは翻訳領域の3’下流に連結してもよい。
また、リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドの導入が起きた細胞を効率よく選択するために、選択マーカー(例えば、薬剤選択マーカー遺伝子)を、プロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間或いは翻訳領域の3’下流に連結してもよい。
【0117】
染色体に導入されたリガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドは1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上含む場合、同一細胞内において容易に検出するために、各リガンド蛍光センサータンパク質は励起波長及び発光波長が異なることが好ましい。
【0118】
また、2種類以上のリガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む場合、同一染色体上であってもよく、異なる染色体上であってもよい。
リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドが導入される遺伝子座としては、セーフハーバー座位であることが好ましい。
【0119】
なお、本明細書における「セーフハーバー座位」とは、恒常的且つ安定的に発現が行われている遺伝子領域であり、かつ当該領域に本来コードされている遺伝子が欠損又は改変された場合であっても、生命の維持が可能な領域を意味する。
CRISPRシステムを用いて、外来DNA(本実施形態においては、リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチド)をセーフハーバー座位に挿入する場合には、近傍にPAM配列を有することが好ましい。
セーフハーバー座位としては、例えば、Rosa26遺伝子座、AAVS1遺伝子座等が挙げられる。
【0120】
<第三実施形態>
一実施形態において、本発明は、上述の発現ベクターを少なくとも1種類含む細胞を提供する。
【0121】
本実施形態の細胞によれば、生細胞におけるリガンドの濃度の変動を検出することができる。また、励起波長及び発光波長が異なる上述のリガンド蛍光センサータンパク質を複数種類含む細胞を用いることで、それぞれを同一細胞の異なるオルガネラに局在させ、蛍光顕微鏡の同一視野で同時に、あるいは、ほぼ同時に検出して、該細胞の生理的及び/又は病理的変化に伴う各種リガンド濃度の経時的及び/又は空間的変化(時空間ダイナミクス)を光学的に解析する技術を提供することができる。
【0122】
(細胞の作製方法)
上述の発現ベクターを細胞内に導入する方法としては、公知の遺伝子導入の手法を用いることができ、上述の<第二実施形態>において例示されたものと同様の方法が挙げられる。
【0123】
導入された上述の発現ベクターは1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上含む場合、同一細胞内において容易に検出するために、各発現ベクターから発現されるリガンド蛍光センサータンパク質は励起波長及び発光波長が異なることが好ましい。
【0124】
≪非ヒト生物≫
一実施形態において、本発明は、上述の細胞を含む非ヒト生物を提供する。
【0125】
本実施形態の非ヒト生物によれば、生理学的条件下で高濃度のリガンドの存在下での蛍光強度とリガンド非存在下での蛍光強度の比が十分に高く、非ヒト生物の生理学的及び/又は病理学的なリガンドの濃度の変動を検出することができる。また、励起波長及び発光波長が異なるリガンド蛍光センサータンパク質を複数種類発現する細胞を生物体内の1箇所若しくは複数箇所に含む非ヒト生物を用いることで、それぞれを同一細胞の異なるオルガネラに局在させ、あるいは、生物体内の異なる細胞に局在させ、蛍光顕微鏡の同一視野で同時に、あるいは、ほぼ同時に検出して、非ヒト生物の生理的及び/又は病理的変化に伴うリガンド濃度の経時的及び/又は空間的変化(時空間ダイナミクス)を光学的に解析する技術を提供することができる。
【0126】
なお、本明細書における「非ヒト生物」とは、ヒト以外の生物種であればよく、具体的には、上述の≪細胞≫において例示されたもののうちヒト以外のものが挙げられる。
本実施形態の非ヒト生物は、上述の細胞が移植された非ヒト生物であってもよく、リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドが生殖細胞系にも導入され、次世代に受け継がれた遺伝子改変非ヒト生物であってもよい。
【0127】
<非ヒト生物の作製方法>
本実施形態の非ヒト生物の作製方法としては、例えば、上述の細胞を非ヒト生物の体内に外科的又は非外科的に導入する方法、上述のベクターを直接非ヒト生物の細胞に導入する方法等が挙げられる。
【0128】
又は、非ヒト生物が非ヒト哺乳動物である場合、例えば、上述の≪細胞≫の<第二実施形態>において、細胞として非ヒト哺乳動物の受精卵、胚性幹細胞、精子又は未受精卵を用いて、リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを導入し、これらの細胞を用いて発生させた個体から、リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドが胚芽細胞を含むすべての細胞の染色体上に組み込まれた個体を選択する方法によっても作製することができる。
【0129】
得られた非ヒト哺乳動物の胚芽細胞においてリガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドが存在することは、得られた動物の子孫がその胚芽細胞及び体細胞の全てに該導入遺伝子を有することで確認することができる。個体の選択は、個体を構成する組織、例えば、血液組織、上皮組織、結合組織、軟骨組織、骨組織、筋組織、口腔内組織又は骨格系組織の一部から調製したゲノムDNAにリガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドが存在することをDNAレベルで確認することによって行われる。このようにして選択された個体は通常、相同染色体の片方にリガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドを有するヘテロ接合体であるため、ヘテロ接合体の個体同士を交配することにより、子孫の中からリガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドを相同染色体の両方に持つホモ接合体動物を取得することができる。このホモ接合体の雌雄の動物を交配することにより、すべての子孫がリガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドを安定に保持するホモ接合体となるので、通常の飼育環境で、非ヒト哺乳動物を繁殖継代することができる。
【0130】
又は、非ヒト生物が植物である場合、例えば、上述の≪細胞≫の<第二実施形態>においてアグロバクテリウム法、又は単離プロトプラストへのDNA導入法によって、作製された植物細胞を、植物組織培養法により遺伝子組換え植物全体を再分化させることで作製することができる。
又は、非ヒト生物が植物である場合、例えば、未成熟胚を酵素で部分的に分解し、エレクトロポレーション法等によって、リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを導入し、前記ポリヌクレオチドが染色体に挿入された胚細胞を植物組織培養法により再分化させることによって作製することができる。
【0131】
≪リガンド濃度測定キット≫
一実施形態において、本発明は、上述のリガンド蛍光センサータンパク質、上述のポリヌクレオチド、上述の発現ベクター、上述の細胞、及び上述の非ヒト生物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むリガンド濃度測定キットを提供する。
【0132】
本実施形態のリガンド濃度測定キットによれば、生理学的条件下で高濃度のリガンドの存在下での蛍光強度とリガンド非存在下での蛍光強度の比が十分に高く、細胞又は非ヒト生物の生理学的及び/又は病理学的なリガンドの濃度の変動を検出することができる。
【0133】
また、例えば、リガンドがATPである場合、本実施形態のリガンド濃度測定キットを用いることで、ATPか、前記細胞又は生物によって代謝されるとATPが産生されるグルコースその他の生体エネルギー源かが存在するときにのみ蛍光を発生し、検出することができる。
また、リガンドがATPである場合、ルシフェラーゼによる発光反応を利用する従来の生細胞検出技術では、細胞膜を溶解して、酵素ルシフェラーゼ及び基質ルシフェリンに細胞内のATPを接触させる必要があった。しかし、本実施形態のリガンド濃度測定キットを用いれば、細胞を破壊してATPを拡散させることなく生細胞を検出することができるので、微生物フロラのように空間的な構造のどの場所に生細胞が分布するか検出することができる。
【0134】
本実施形態のリガンド濃度測定キットは、上述のリガンド蛍光センサータンパク質を含む場合に、1種類のリガンド蛍光センサータンパク質を含んでいてもよく、励起波長及び発光波長が異なる複数種類のリガンド蛍光センサータンパク質を含んでいてもよい。
また、本実施形態のリガンド濃度測定キットは、上述のリガンド蛍光センサータンパク質を含む場合に、前記リガンド蛍光センサータンパク質は固体支持体に固定化されていてもよい。
固体支持体としては、上述の≪リガンド蛍光センサータンパク質≫に記載されていたものと同様のもの等が挙げられる。
【0135】
本実施形態のリガンド濃度測定キットは、上述のポリヌクレオチドを含む場合に、リガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドを1種類含んでいていもよく、励起波長及び発光波長が異なるリガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドを複数種類含んでいてもよい。
【0136】
本実施形態のリガンド濃度測定キットは、上述の発現ベクターを含む場合に、1種類のリガンド蛍光センサータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含んでいていもよく、励起波長及び発光波長が異なるリガンド蛍光センサータンパク質を含む発現ベクターを複数種類含んでいていもよい。
【0137】
本実施形態のリガンド濃度測定キットは、上述の細胞を含む場合に、1種類の細胞を含んでいていもよく、複数種類の細胞を含んでいてもよい。
また、本実施形態のリガンド濃度測定キットは、リガンド蛍光センサータンパク質が発現又は導入されている細胞を1種類含んでいてもよく、励起波長及び発光波長が異なるリガンド蛍光センサータンパク質が発現又は導入されている細胞を複数種類含んでいてもよい。
また、細胞内において1種類のリガンド蛍光センサータンパク質が発現又は導入されていてもよく、複数種類の励起波長及び発光波長が異なるリガンド蛍光センサータンパク質が発現又は導入されていてもよい。
【0138】
本実施形態のリガンド濃度測定キットは、上述の非ヒト生物を含む場合に、1種類の非ヒト生物を含んでいていもよく、複数種類の非ヒト生物を含んでいてもよい。
また、本実施形態のリガンド濃度測定キットは、リガンド蛍光センサータンパク質が発現又は導入されている非ヒト生物を1種類含んでいてもよく、励起波長及び発光波長が異なるリガンド蛍光センサータンパク質が発現又は導入されている非ヒト生物を複数種類含んでいてもよい。
また、本実施形態のリガンド濃度測定キットに含まれる非ヒト生物の同一細胞内において、1種類のリガンド蛍光センサータンパク質が発現又は導入されていてもよく、複数種類の励起波長及び発光波長が異なるリガンド蛍光センサータンパク質が発現又は導入されていてもよい。
また、本実施形態のリガンド濃度測定キットに含まれる非ヒト生物の異なる細胞内において、1種類のリガンド蛍光センサータンパク質が発現又は導入されていてもよく、複数種類の励起波長及び発光波長が異なるリガンド蛍光センサータンパク質が発現又は導入されていてもよい。
【0139】
本実施形態において、上述のリガンド蛍光センサータンパク質を含む場合、本実施形態のリガンド濃度測定キットは、さらに、上述の≪細胞≫の<第一実施形態>において例示された試薬を含んでいてもよい。
【0140】
本実施形態において、上述の発現ベクターを含む場合、本実施形態のリガンド濃度測定キットは、さらに、ベクター導入用のトランスフェクション試薬を含んでいてもよい。
ベクター導入用のトランスフェクション試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質、ポリアミン系試薬、ポリイミン系試薬及びリン酸カルシウムからなる群より選択される。このようなトランスフェクション試薬としては、例えば、Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA)、TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI)、TfxTM−20 Reagent(E2391,Promega,WI)、SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA)、PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA)、LipofectAMINE 2000 Reagent(11668−019,Invitrogen corporation,CA)、JetPEI(×4)conc.(101−30,Polyplus−transfection,France)、ExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD)等が挙げられ、それらに限定されない。
【0141】
本実施形態において、上述の細胞を含む場合、本実施形態のリガンド濃度測定キットは、さらに、細胞培養用培地を備えていてもよい。
細胞培養用培地としては、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等を含む基本培地であればよく、細胞の種類により適宜選択することができる。
前記細胞培養用培地として具体的には、例えば、LB培地、大腸菌用最少培地(Davis培地)、大腸菌用最少塩培地(MS)等の大腸菌培養用培地;枯草菌用最少培地(Spizizen最少培地)、枯草菌用最少塩培地、枯草菌形質転換用培地I、枯草菌形質転換用培地II等の枯草菌培養用培地;酵母用最少培地(YPD培地)、酵母用完全培地(YPAD培地)等の酵母培養用培地;MurashigeとSkoogの培地(MS培地)、B5培地、ハイポネックス培地等の植物培養用培地;グレース昆虫培地、シュナイダー昆虫培地等の昆虫細胞培養用培地;DMEM、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI−1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F−12(DMEM/F−12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)等の動物細胞培養用培地等が挙げられ、これらに限定されない。
【0142】
本実施形態のリガンド濃度測定キットは、さらに、励起用光源を含んでいていもよい。励起用光源は、蛍光センサータンパク質の励起波長に応じて、適宜選択すればよい。
【0143】
≪被検試料中のリガンド濃度の決定方法≫
一実施形態において、本発明は、上述のリガンド蛍光センサータンパク質と、既知の濃度のリガンドを含む標準溶液と接触させて、蛍光強度を測定し、検量線を作成する検量線作成工程と、前記リガンド蛍光センサータンパク質と、未知の濃度のリガンドを含む溶液と接触させて、蛍光強度を測定する蛍光測定工程と、前記検量線作成工程において、作成された検量線に基づいて、前記蛍光測定工程において測定された蛍光強度に対するリガンド濃度を決定する濃度決定工程と、を備える被検試料中のリガンド濃度の決定方法を提供する。
【0144】
本実施形態の被検試料中のリガンド濃度の決定方法によれば、被検試料中のリガンド濃度を簡便且つ正確に決定することができる。
本実施形態の被検試料中のリガンド濃度の決定方法の各工程について、以下に詳細に説明する。
【0145】
[検量線作成工程]
まず、上述のリガンド蛍光センサータンパク質と、既知の濃度のリガンドを含む標準溶液とを接触させ、蛍光強度を測定する。
リガンドとしては、特別な限定はなく、上述の≪リガンド蛍光センサータンパク質≫において例示されたものと同様のものが挙げられる。
標準溶液は、1種類の濃度のリガンドを含む溶液を用いてもよく、複数種類の濃度のリガンドを含む溶液を用いてもよい。中でも、検量線を正確に作成するために、標準溶液は、複数種類の濃度のリガンドを含む溶液を用いることが好ましい。
【0146】
前記リガンド蛍光センサータンパク質は、溶媒中に懸濁された状態であってもよく、固体支持体に固定化された状態であってもよい。
前記リガンド蛍光センサータンパク質を懸濁する溶媒としては、リガンド蛍光センサータンパク質のリガンド結合能及び蛍光特性に影響を与えないものであればよい。溶媒として具体的には、例えば、水、塩化ナトリウム溶液(例えば、0.9%(w/v)NaCl)、グルコース溶液(例えば、5%グルコース)、界面活性剤含有溶液(例えば、0.01%ポリソルベート20)、pH緩衝溶液(緩衝剤として、例えば、HEPES−KOH、Tris−HCl、酢酸−酢酸ナトリウム、クエン酸−クエン酸ナトリウム、リン酸、ホウ酸、MES、PIPESHEPES−KOH、Tris−HCl、酢酸−酢酸ナトリウム、クエン酸−クエン酸ナトリウム、リン酸、ホウ酸、MES、PIPES等を含む溶液)等が挙げられ、これらに限定されない。
固体支持体としては、上述の≪リガンド蛍光センサータンパク質≫に記載されていたものと同様のもの等が挙げられる。
【0147】
蛍光強度の測定は、公知の定常蛍光測定装置を用いればよい。次いで、得られた蛍光強度と既知のリガンド濃度から、検量線を作成する。
【0148】
[蛍光測定工程]
次いで、前記リガンド蛍光センサータンパク質と、未知の濃度のリガンドを含む溶液と接触させて、蛍光強度を測定する。蛍光強度の測定は、公知の定常蛍光測定装置を用いればよい。
未知の濃度のリガンドを含む溶液としては、特別な限定はなく、例えば、ヒト又は非ヒト生物から採取された体液試料、ヒト又は非ヒト生物から採取された細胞の抽出液、ヒト又は非ヒト生物から採取された細胞の培養上清、ヒト又は非ヒト生物由来の培養細胞の抽出液、ヒト又は非ヒト生物由来の培養細胞の培養上清等が挙げられ、これらに限定されない。
【0149】
前記体液試料として、より具体的には、例えば、血液、血清、血漿、尿、パフィーコート、唾液、精液、胸部滲出液、脳脊髄液、涙液、痰、粘液、リンパ液、腹水、胸水、羊水、膀胱洗浄液、気管支肺胞洗浄液等が挙げられ、これらに限定されない。
【0150】
[濃度決定工程]
次いで、前記検量線作成工程において、作成された検量線に基づいて、前記蛍光測定工程において測定された蛍光強度に対するリガンド濃度を決定する。
前記検量線の作成及び蛍光強度に対するリガンド濃度の決定については、市販のデータ解析ソフトウェア等を用いて実施していもよい。
【0151】
≪リガンド濃度の経時変化の検知方法≫
上述の細胞又は上述の非ヒト生物を用いることで、生理学的条件下で高濃度のリガンドの存在下での蛍光強度とリガンド非存在下での蛍光強度の比が十分に高く、生きた細胞又は生きた非ヒト生物の生理学的及び/又は病理学的なリガンドの濃度の変動を簡便に検出することができる。
【0152】
<第一実施形態>
一実施形態において、本発明は、上述の細胞を用いて、経時的な蛍光強度を測定する工程を備える生細胞におけるリガンド濃度の経時変化の検知方法を提供する。
【0153】
本実施形態の検知方法によれば、生細胞におけるリガンドの濃度の経時的な変化を簡便に検出することができる。また、励起波長及び発光波長が異なる上述のリガンド蛍光センサータンパク質が複数種類導入された又は発現している細胞を用いることで、それぞれを同一細胞の異なるオルガネラに局在させ、蛍光顕微鏡の同一視野で同時に、あるいは、ほぼ同時に検出して、該細胞の生理的及び/又は病理的変化に伴う各種リガンド濃度の経時的及び/又は空間的変化(時空間ダイナミクス)を光学的に解析する技術を提供することができる。
【0154】
本実施形態の検知方法において、細胞を生きたままの状態で、定常蛍光測定装置を有する蛍光顕微鏡等を用いて、蛍光強度を測定することができる。さらに、継続的に蛍光強度を測定することにより、蛍光強度の経時的な変化を測定することができる。
【0155】
<第二実施形態>
一実施形態において、本発明は、上述の非ヒト生物を用いて、経時的な蛍光強度を測定する工程を備える生きた非ヒト生物におけるリガンド濃度の経時変化の検知方法を提供する。
【0156】
本実施形態の検知方法によれば、生理学的条件下で高濃度のリガンドの存在下での蛍光強度とリガンド非存在下での蛍光強度の比が十分に高く、非ヒト生物の生理学的及び/又は病理学的なリガンドの濃度の変動を検出することができる。また、励起波長及び発光波長が異なるリガンド蛍光センサータンパク質を複数種類発現する細胞を生物体内の1箇所若しくは複数箇所に含む非ヒト生物を用いることで、それぞれを同一細胞の異なるオルガネラに局在させ、あるいは、生物体内の異なる細胞に局在させ、蛍光顕微鏡の同一視野で同時に、あるいは、ほぼ同時に検出して、非ヒト生物の生理的及び/又は病理的変化に伴うリガンド濃度の経時的及び/又は空間的変化(時空間ダイナミクス)を光学的に解析する技術を提供することができる。
【0157】
本実施形態の検知方法において、非ヒト生物を生きたままの状態で、定常蛍光測定装置を有する蛍光顕微鏡等を用いて、蛍光強度を測定することができる。さらに、継続的に蛍光強度を測定することにより、蛍光強度の経時的な変化を測定することができる。
【実施例】
【0158】
以下、実施例及び比較例等を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0159】
[実施例1]ATP特異的蛍光センサータンパク質の構築
1.試薬等
ATP、ADP、及びAMPは和光純薬工業株式会社から購入し、GTPはシグマ−アルドリッジから購入した。フッ化ナトリウム(NaF)、オリゴマイシン、イソプロテレノール及び3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(DCMU)のようなその他の試薬はシグマ−アルドリッジから購入した。dATPはサーモサイエンティフィックから購入した。プライマー用の全てのポリヌクレオチドはシグマ−アルドリッジから購入した。ライゲーションはそれぞれの最適バッファー(タカラ)中でT4DNAリガーゼを用いて反応を行った。PCRには、PrimeSTAR HS DNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を用いた。PCR反応産物又は制限酵素消化産物は、ルーティンとして、電気泳動(アガロースゲル)により精製し、その後ゲル抽出(QIAquick、株式会社キアゲン)を行った。大腸菌からのプラスミドDNA単離には、Axy Prep(商標)ミニプレップキット(Axygenbio、コーニングジャパン株式会社)を用いた。
【0160】
2.ATP蛍光センサータンパク質及びこれに対応する陰性対照タンパク質の設計
本発明のATP蛍光センサータンパク質は、ATP結合ドメインとして枯草菌F
0F
1−ATP合成酵素のイプシロン(ε)サブユニットを用い、蛍光タンパク質として、BFP(Wachter, R.ら、Biochemistry 2960, 9759−9765 (1997))、Citrine(Griesbeck, O.ら、J. Biol. Chem. 276, 29188−29194 (2001))、及びmApple(Shaner,N.C.ら、Nature Methods 5:545−551(2008))を用いた。
なお、BFP及びmAppleは、Zhao, Y.ら(Science. 333, 1888−1891 (2011))を参照して数カ所にアミノ酸置換変異を導入した(配列番号1、2、7、及び8)。蛍光タンパク質BFP、Citrine、及びmAppleの励起波長は、それぞれ、380、490、及び550nmで、発光波長域は、それぞれ、410〜600、505〜650及び575〜700nmである。εサブユニットのアミノ末端及びカルボキシル末端にさまざまなポリペプチドリンカーを連結して、蛍光タンパク質BFP、Citrine及びmAppleの内部に挿入した融合タンパク質を、ATP蛍光センサータンパク質の候補タンパク質として作製した(それぞれMaLion B、G、及びRシリーズと称する場合がある。)。
【0161】
ATP蛍光センサーの候補タンパク質のドメイン及びリンカーの構成は以下のとおりである。まず、ATPと特異的に結合するドメインを「ATP結合ドメイン」と称する場合がある。ATP結合ドメインは、枯草菌F
0F
1−ATP合成酵素のεサブユニットに由来し、そのアミノ酸配列は配列番号15として配列表に列挙する。ATP結合ドメインのアミノ末端に連結するポリペプチドリンカーを「N末端側リンカー」、ATP結合ドメインのカルボキシル末端に連結するポリペプチドリンカーを「C末端側リンカー」と称する場合がある。。挿入により分断された各蛍光タンパク質BFP、Citrine、及びmAppleのアミノ末端側ドメイン及びカルボキシル末端側ドメインを、以下では、「BFP−Nドメイン」、「BFP−Cドメイン」、「Citrine−Nドメイン」、「Citrine−Cドメイン」、「mApple−Nドメイン」、及び「mApple−Cドメイン」と称する場合がある。BFP−Nドメイン及びBFP−Cドメインのアミノ酸配列は配列番号1及び2として列挙する。Citrine−Nドメイン及びCitrine−Cドメインのアミノ酸配列は配列番号5及び6として列挙する。mApple−Nドメイン及びmApple−Cドメインのアミノ酸配列は配列番号7及び8として列挙する。
【0162】
したがって、MaLion BシリーズのATP蛍光センサーの候補タンパク質は、アミノ末端からカルボキシル末端の向きに、[BFP−Nドメイン]−[N末端側リンカー]−[ATP結合ドメイン]−[C末端側リンカー]−[BFP−Cドメイン]の順にポリペプチドドメイン及びポリペプチドリンカーが配置される。
同様に、MaLion GシリーズのATP蛍光センサーの候補タンパク質は、アミノ末端からカルボキシル末端の向きに、[Citrine−Nドメイン]−[N末端側リンカー]−[ATP結合ドメイン]−[C末端側リンカー]−[Citrine−Cドメイン]の順にポリペプチドドメイン及びポリペプチドリンカーが配置される。
また、MaLion RシリーズのATP蛍光センサーの候補タンパク質は、アミノ末端からカルボキシル末端の向きに、[mApple−Nドメイン]−[N末端側リンカー]−[ATP結合ドメイン]−[C末端側リンカー]−[mApple−Cドメイン]の順にポリペプチドドメイン及びポリペプチドリンカーが配置される。
【0163】
ATP蛍光センサータンパク質の候補タンパク質の構築の手順は概略以下のとおりである。まず、ATP結合ドメインとして、枯草菌F
0F
1−ATP合成酵素のεサブユニットをコードするポリヌクレオチドを合成した(Integrated DNA Technologies、株式会社医学生物学研究所)。つぎに、ATP結合ドメインの両端にさまざまなアミノ酸配列のN末端側リンカー及びC末端側リンカーをコードするポリヌクレオチドを連結した。前記N末端側リンカー、ATP結合ドメイン及びC末端側リンカーをエンコードするポリヌクレオチドが、アミノ酸配列の読み枠がずれないように、各蛍光タンパク質の発色団よりカルボキシル末端側で挿入された融合したキメラタンパク質をコードするポリヌクレオチドをPCR法により作製した。前記ATP蛍光センサーの候補タンパク質をコードするポリヌクレオチドをpRSET
Aベクター(Invitrogen、Life Technologies Corporation)に挿入するために、MaLion GシリーズはXhoI/BstbI部位を、MaLion B及びRシリーズはBamHI/HindIII部位を用いた。ATP蛍光センサーの候補タンパク質を含むpRSET
Aベクターコンストラクトは大腸菌JM109(DE3)に形質転換され、ATP蛍光センサーの各候補タンパク質を含む発現ベクターのクローンが単離された。各クローンの大腸菌は2.5mLのLB培地中で20℃で3〜4日間培養された。その後、該大腸菌の懸濁液を15,300gで5分間遠心して、ペレットにし、PBSバッファー液で再懸濁して、30秒間超音波処理(130W、20kHz、強度30%、Vibra cell(商標)、SONICS & Materials, Inc.)を施して菌体溶解液を得た。該菌体溶解液の遠心上清40μLに、460μLのバッファー液(50mM Mops−KOH(pH 7.4)、50mM KCl、0.5mM MgCl
2、及び0.05% triton X−100)を添加した。最終濃度10mMのATPの存在下又は非存在下で、各クローンのATP蛍光センサーの候補タンパク質の蛍光特性を蛍光分光光度計(日立F−2700、株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いて測定した。
【0164】
3.ATP蛍光センサーの候補タンパク質の蛍光特性の測定結果
図1AはMaLion BシリーズのATP蛍光センサーの候補タンパク質19種類のATPの存在下での蛍光強度とATP非存在下での蛍光強度の比(以下、「ダイナミックレンジ」という。)のヒストグラムであり、
図1BはMaLion GシリーズのATP蛍光センサーの候補タンパク質27種類のダイナミックレンジのヒストグラムであり、
図1CはMaLion RシリーズのATP蛍光センサーの候補タンパク質47種類のF/F
0のヒストグラムである。ここでATP存在下のATP濃度はすべて10mMである。
図1A、
図1B、及び
図1Cの横軸はダイナミックレンジで、目盛の数字は各区間の端を表し、縦軸は、ダイナミックレンジの区間内にダイナミックレンジが含まれる候補タンパク質の個数を表す。
図1A、
図1B、及び
図1Cにおいて、ダイナミックレンジが1であれば、ATPの有無で蛍光特性に変化がないことを意味し、ダイナミックレンジが1を超える場合はATP存在下で蛍光が強くなり(以下、「ターン・オン型」(turn−on type)と称する場合がある。)、ダイナミックレンジが1未満の場合はATP存在下で蛍光が弱くなる(以下、「ターン・オフ型」(turn−off type)と称する場合がある。)。
【0165】
MaLion B、G、及びRシリーズで最もダイナミックレンジが大きい候補タンパク質をそれぞれMaLion B、G及びRと命名した。MaLion BのN末端側リンカー及びC末端側リンカーのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号16及び17に列挙する。MaLion GのN末端側リンカーのアミノ酸配列はWRG(Trp−Arg−Gly)で、MaLion GのC末端側リンカーのアミノ酸配列を配列番号18に列挙する。MaLion RのN末端側リンカーのアミノ酸配列を配列番号19に列挙する。MaLion RのC末端側リンカーのアミノ酸配列はPEE(Pro−Glu−Glu)である。MaLion B、G、及びRの全長アミノ酸配列を、それぞれ、配列番号9、10、及び11に列挙する。
【0166】
MaLion B、G、及びRシリーズでダイナミックレンジが1に近い候補タンパク質の1つをそれぞれnegMaLion B、G、及びRと命名した。negMaLion BのN末端側リンカー及びC末端側リンカーのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号27及び28に列挙する。配列番号negMaLion GのN末端側リンカーのアミノ酸配列はPRG(Pro−Arg−Gly)で、negMaLion GのC末端側リンカーのアミノ酸配列を配列番号29に列挙する。negMaLion RのN末端側リンカーのアミノ酸配列を配列番号30に列挙する。negMaLion RのC末端側リンカーのアミノ酸配列はPEG(Pro−Glu−Gly)である。negMaLion B、G、及びRの全長アミノ酸配列を、それぞれ、配列番号24、25、及び26に列挙する。
【0167】
[実施例2]ATP蛍光センサータンパク質等の蛍光特性の解析
1.ATP蛍光センサータンパク質等の精製
MaLion B、G、及びRと、negMaLion B、G、及びRとを以下では「ATP蛍光センサータンパク質等」と称する場合がある。タンパク質精製の目的には、ATP蛍光センサータンパク質等をpRSET
Aベクターに連結して、翻訳開始コドン、ヒスチジンヘキサマーポリペプチド等を含む融合タンパク質をT7プロモーターで駆動するコンストラクトとして大腸菌JM109(DE3)に導入した。ATP蛍光センサータンパク質等の発現ベクターを含む大腸菌は、100mLのLB培地中で20℃4日間培養した。その後、大腸菌の懸濁液は15,300g、20分間、4℃で遠心して上清を除去し、ペレットの凍結及び溶解を3回繰り返し、氷上で3分間超音波処理(30W、20kHz、強度70%、Vibra cell(商標))を施して菌体溶解液を得た。該菌体溶解液の遠心上清をNi−NTAアガロース(株式会社キアゲン)を充填したPD−10カラム(GE ヘルスケア・ジャパン株式会社)に吸着させ、常法に従い、カラムを洗浄し、ATP蛍光センサータンパク質等の融合タンパク質を前記カラムから溶出した。ATP蛍光センサータンパク質等の融合タンパクはBradford法タンパク質アッセイ(バイオラッドタンパク質アッセイ、バイオラッド ラボラトリーズ株式会社)を用いて、ウシ血清アルブミンを標準タンパク質とする較正曲線により定量した。
【0168】
2.精製ATP蛍光センサータンパク質等の蛍光特性の測定
精製されたATP蛍光センサータンパク質等の融合タンパクを蛍光分光光度計(日立F−2700)による測定実験に用いた。以下の実験では、pHを変化させる実験を除いて、Mopsバッファー(50mM Mops−KOH(pH7.4)、50mM KCl、0.5mM MgCl
2、及び0.05% トリトン X−100)を用いた。ATP濃度による蛍光特性の変化を調べる実験では、0−8mMのさまざまな最終濃度のATPを用いた。分子特異性を調べる実験では、ATPの類縁体化合物のうち、ADP、AMP、GTP、又はdATPを最終濃度10mMで用いた。精製されたATP蛍光センサータンパク質等の融合タンパクの吸光スペクトルの測定には該融合タンパク質の濃度を20μMに調整し、紫外線−可視光分光光度計(日本分光株式会社)を用いた。精製されたATP蛍光センサータンパク質等の融合タンパクの反応速度論的解析には、ストップトフロー装置を備えた蛍光分光光度計(RX2000、Applied photophysics Limited)を用いた。該タンパク質は、異なるATP濃度の溶液と1:1で迅速に混合され、所定の波長(440nm、520nm及び585nm)での蛍光変化を記録して、各ATP濃度での見かけの速度定数(k
appを指数曲線の当てはめにより算出した。その後、各ATP濃度でのk
appをプロットして、結合定数(k
on)及び解離定数(k
off)をそれぞれ決定した。ここで、これら3種類の定数の関係は以下の式(1)で表される。
【0169】
【数1】
【0170】
3.ATP蛍光センサータンパク質等の蛍光特性の測定結果
図2Aは10mMのATP存在下及び非存在下でのMaLion B、G、及びRの励起スペクトル図であり、
図2Bは10mMのATP存在下及び非存在下でのMaLion B、G、及びRの励起スペクトル及び蛍光スペクトル図である。
図2A及び
図2Bの横軸は、それぞれ、励起波長及び蛍光波長を表し、縦軸は蛍光強度の相対値を表す。グラフの実線及び点線は、それぞれ、ATP存在下及び非存在下でのスペクトル曲線を表す。
図2A及び
図2Bから明らかなとおり、MaLion B、G、及びRはいずれもATP非存在下と比較して10mMのATP存在下での蛍光が、それぞれ、80%、390%及び350%も増大した。
図2Cは10mMのATP存在下及び非存在下でのnegMaLion B、G、及びRの蛍光スペクトル図である。
図2Cから、negMaLion B、G、及びRはいずれもATP非存在下と比較して10mMのATP存在下での蛍光が、それぞれ、104%、95%、及び106%増大した。
【0171】
図3AはMaLion B、G、及びRの蛍光強度のATP濃度依存的変化を示すグラフである。
図3Aの異なるATP濃度と蛍光強度変化のプロットから解離平衡定数(K
D)を算出した結果は以下の表5のとおりであった。
【0172】
【表5】
【0173】
細胞内のATP濃度は、従来の知見より、諸説あるが、ほとんどの場合、5mM以下であることが知られている(Rangarajuら、Cell. 156, 825−35 (2014)、Traut,T. W.、Mol. Cell. Biochem. 140, 1−22 (1994))。したがって、MaLion B、G、及びRの解離平衡定数を考慮すると、それぞれ、生理的な条件下で、十分に機能するものと期待できる。
【0174】
図3BはMaLion B、G、及びRの蛍光強度の分子特異性を示すグラフである。ATP非存在下と比較した10mMのATP存在下での蛍光強度の相対値を正規化ダイナミックレンジとすると、ATP類縁体化合物は正規化ダイナミックレンジの10%以下しか蛍光強度に影響を与えないことが明らかになった。したがって、今回のATP蛍光センサーは非常にATPに特異性が高い。またこの結果から、同じ枯草菌F
0F
1−ATP合成酵素のεサブユニットをATP結合ドメインとして利用するATPセンサータンパク質であっても、改変体ごとにATP類縁体化合物の影響が異なり、MaLion B、及びGでは、ADP、AMP、及びdATP存在下では蛍光が減少するが、MaLion Rでは蛍光が増大した。したがって、個々の蛍光センサーの蛍光特性は、ATP結合ドメインの両端に連結されたN末端側リンカー及びC末端側リンカーの配列が決定しているといえる。
【0175】
図4A、
図4B、及び
図4Cは、それぞれ、MaLion B、G、及びRのATP存在下又はATP非存在下での蛍光強度と、ダイナミックレンジとのpH依存的変化を示すグラフである。
図4A、
図4B、及び
図4Cの横軸はpH、左側の縦軸は蛍光強度、右側の縦軸はダイナミックレンジを表す。
図4A、
図4B、及び
図4Cから、MaLion B、G、及びRは、ATP濃度が同じでも、pHが変化すると蛍光特性が変化し、そのpHによる蛍光特性への影響は、改変体ごとに異なる。これは、
図3Bに示すATP類縁体化合物の蛍光特性への影響と同様である。実際、ATP蛍光センサー陰性対照タンパク質negMaLion B、G、及びRのpHによる蛍光特性の変化パターンは、MaLion B、G、及びRのpHによる蛍光特性の変化パターンと同じであった。そこで、ATP濃度の変化と同時にpHも変化する可能性のある実験系では、MaLion B、G、及びRによる蛍光測定と、negMaLion B、G、及びRの蛍光測定とを並行して行うことによって、pH変化による影響を除外してATP濃度を決定することができる。
【0176】
[実施例3]ATP蛍光センサータンパク質等の細胞内発現用ベクターの構築
1.哺乳類細胞内発現用ベクターの構築
哺乳類細胞内で発現させるために、MaLion G又はnegMaLion GをコードするポリヌクレオチドをpcDNA3.1(−)ベクターのXhoI/HindIII部位に挿入した。MaLion B及びR、あるいは、negMaLion B及びRをコードするポリヌクレオチドをpcDNA3.1(−)ベクターのBamHI/HindIII部位に挿入した。ATP蛍光センサータンパク質等を哺乳類細胞ミトコンドリアに局在化させるために、ATP蛍光センサータンパク質のアミノ末端にシトクロムcオキシダーゼのサブユニットVIII由来局在化シグナル配列(SVLTPLLLRGLTGSARRLPVPRAKIHSL、配列番号44)を連結した融合タンパク質をミトコンドリア特異的発現ベクターで発現させた。すなわち、MaLion R又はnegMaLion RをコードするポリヌクレオチドをpEYFP−Mitoベクター(Clontech Laboratories, Inc.)のBamHI/NotI部位に挿入した。MaLion R又はnegMaLion Rのアミノ末端にシトクロムcオキシダーゼのサブユニットVIII由来局在化シグナル配列が連結した融合タンパク質を、「mito−MaLion R」又は「mito−negMaLion R」と命名した。
【0177】
2.線虫細胞内発現用ベクターの構築
線虫のミトコンドリアでMaLion R又はnegMaLion Rを局在化させるために、MaLion R又はnegMaLion Rのアミノ末端に、ニワトリアスパラギン酸アミノ転移酵素由来のミトコンドリア局在化シグナル(ALLQSRLLLSAPRRAAATARASS、配列番号45)が連結した融合タンパク質を「Cemito−MaLion R」又は「Cemito−negMaLion R」と命名した。線虫の咽頭筋でATP蛍光センサータンパク質等を発現させるためには、myo2pプロモーターを導入したpBueScript由来のベクターに、MaLion G、negMaLion G、Cemito−MaLion R、又はCemito−negMaLion RのそれぞれをコードするポリヌクレオチドをXhoI/SacI部位に挿入した。
【0178】
3.植物細胞内発現用ベクターの構築
植物のミトコンドリアでMaLion R又はnegMaLion Rを局在化させるために、MaLion R又はnegMaLion Rのアミノ末端に、AR791(AT1G52080、NM_104089.3)が連結した融合タンパク質を、「Plmito−MaLion R」又は「Plmito−negMaLion R」と命名した。植物でATP蛍光センサータンパク質等を発現させるためには、35Sプロモーター2重連結したpGreen_0281ベクターに、植物(シロイヌナズナ)での翻訳にコドンが最適化されたMaLion G、negMaLion G、Cemito−MaLion R、又はCemito−negMaLion RのそれぞれをコードするポリヌクレオチドをXhoI/SacI部位に挿入した。
【0179】
[実施例4]ATP蛍光センサータンパク質等を用いる細胞内ATP濃度測定
1.HeLa細胞の細胞内ATPの蛍光センサー測定
HeLa細胞は、ATCC(American Type Culture Collection、米国バージニア州)から入手し、ウシ胎仔血清10%、ペニシリン100IU/mL及びストレプトマイシン100μg/mLを添加したダルベッコ変法イーグル培地(グルコース4.5g/L、以下、「増殖培地」と称する場合がある。)中37℃、5%CO
2雰囲気下で培養した。HeLa細胞内で発現したATP蛍光センサータンパク質等の蛍光顕微鏡測定には、HeLa細胞を播種して50%コンフルエントになった3.5cmのガラス底ディッシュを用意した。ATP蛍光センサータンパク質等を含む発現ベクター0.2μgと0.2μLのFuGENE HDトランスフェクション試薬(プロメガ株式会社)とを予め添加した10μLのOpti−MEM培地(Life Technologies Corporation、Thermo Fisher Scientific Inc.)を前記3.5cmのガラス底ディッシュ上のHeLa細胞に添加した。8時間培養後、新鮮な増殖培地に交換して、さらに2−3日培養した。蛍光測定の直前に培地をフェノールレッド不含増殖培地に交換した。
【0180】
蛍光顕微鏡測定には、冷却CCDカメラ(Cool SNAP HQ2、Photometrics)及び油浸対物レンズ(Plan Apo 60×1.42 NA)を備えた倒立顕微鏡(IX81、オリンパス株式会社)を用いた。細胞質ATP産生阻害実験にはNaFを用いた。
【0181】
1.5mLの増殖培地中でHeLa細胞を培養しているディッシュにNaF40mMを含む増殖培地0.5mLを添加してNaFの最終濃度を10mMにした。ミトコンドリアATP産生阻害実験にはオリゴマイシンを用いた。900μLの増殖培地中でHeLa細胞を培養しているディッシュにオリゴマイシン100μg/mLを含む増殖培地100μLを添加して、オリゴマイシンの最終濃度を20μg/mLにした。
【0182】
細胞の蛍光顕微鏡画像は10秒ごとに撮影した。カメラ及びフィルターの制御と、データ記録には、MetaFluorソフトウェア(Molecular Devices, LLC)を用いた。MaLion Gの単色蛍光撮像には、励起フィルターにFF01−500/24を、ダイクロイックミラーにDi02−FF520を、発光フィルターにFF01−542/27を用いた(全てSemrock、株式会社オプトライン)。MaLion Rの単色蛍光撮像には、励起フィルターにBP535−555HQを、ダイクロイックミラーにDM565HQを、発光フィルターにBA570−625HQを用いた(全てオリンパス株式会社)。MaLion G及びRの細胞質又はミトコンドリア局在化融合タンパク質の同時撮像には、励起フィルターにBP460−480HQ及びBP535−555HQ(オリンパス株式会社)を、ダイクロイックミラーにDi01−FF493/574(Semrock、株式会社オプトライン)を、発光フィルターにBA495−540HQ及びBA570−625HQを用いた(オリンパス株式会社)。MaLion Bの単色蛍光撮像には、励起フィルターにFF01−377を、ダイクロイックミラーにDi03−FF409を、発光フィルターにFF02−447を用いた(全てSemrock、株式会社オプトライン)。全ての実験は、CO
2インキュベーター付きの温度制御循環チャンバーを用いて実行した。
【0183】
図5A、
図5B、及び
図5Cは、それぞれ、MaLion G、R、及びBを発現させたHeLa細胞に解糖系ATP産生を阻害するNaFを投与後の蛍光の変化を示すグラフである。
図5A、
図5B、及び
図5Cでは、縦軸は正規化した蛍光強度を表し、横軸は時間(分)を表す。測定開始3分後にNaFを最終濃度10mMとなるように添加した。各図の薄い灰色の3本の波形は、異なる3個のディッシュでの測定値を示し、濃い灰色の1本の波形はこれら3本の波形の平均値を示す。ターン・オン型のATP蛍光センサーMaLion G、R、及びBではNaF添加から15分後まで蛍光強度が減少した。これは細胞内のATP濃度が低下したことを意味する。
【0184】
図5D、
図5E、及び
図5Fは、negMaLion G、R、及びBを発現させたHeLa細胞に解糖系ATP産生を阻害するNaFを投与後の蛍光の変化を示すグラフである。
図5Gは、
図5A〜
図5Fのグラフの実験結果に基づいて、MaLion G、R、及びBと、negMaLion G、R、及びBとについて、HeLa細胞で発現させた各蛍光タンパク質の蛍光測定開始から25分後の正規化した蛍光強度の平均値及び標準偏差を示す棒グラフである。
【0185】
図5D、
図5E、及び
図5Fから、NaF投与後の蛍光の変化には、ATPの濃度変化にはほとんど反応しないnegMaLion G、R、及びBでも蛍光強度の変化が起こった。これは、細胞質のpHが変化が原因である可能性がある(Berg, J.ら、Nat. Methods 6, 161-166 (2009))。しかし、
図5Gに示されるとおり、MaLion G、R、及びBの測定結果と、negMaLion G、R、及びBの測定結果とを組み合わせると、前者の蛍光強度は後者の蛍光強度より有意に低かった。そこで、MaLion G、R、及びBの測定結果と、negMaLion G、R、及びBの測定結果とを組み合わせることにより、解糖系が阻害された細胞の細胞質のように、ATP濃度の変化がpHの変化と同時に起こる条件でも、ATP濃度をpH変化の影響を除外して測定することが可能になった。
【0186】
つぎに、蛍光波長の異なる2種類のATP蛍光センサータンパク質を一方は細胞質に局在させ、他方はミトコンドリアに局在させて、ミトコンドリアでのATP産生を阻害するが細胞質での解糖系ATP産生は阻害しないオリゴマイシンを投与後の細胞質及びミトコンドリア両方のATP濃度変化を同時に測定した。2種類のATP蛍光センサータンパク質の発現ベクターの同時トランスフェクションには、細胞質に局在するATP蛍光センサータンパク質を含む発現ベクター0.2μgと、ミトコンドリアに局在するATP蛍光センサータンパク質を含む発現ベクター0.2μgと、0.2μLのFuGENE HDトランスフェクション試薬(プロメガ株式会社)とを予め添加した10μLのOpti−MEM培地(Life Technologies Corporation、Thermo Fisher Scientific Inc.)を用いた。
図6は、MaLion Gの発現ベクターと、mito−MaLion Rの発現ベクターとをHeLa細胞に同時にトランスフェクションした後、同一視野での2種類の異なるATP蛍光センサータンパク質に対応する2つの波長での蛍光顕微鏡撮像開始から3分後にオリゴマイシンを投与し、その後の蛍光の変化を示したグラフである。
【0187】
図6から明らかなとおり、ミトコンドリアでのATP濃度は、ミトコンドリアのATP産生阻害に伴って低下した。細胞質のATP濃度は、オリゴマイシン投与直後は減少したが、その後15分間にわたって増大した。この細胞質及びミトコンドリアのATP動態は、ミトコンドリアのATP産生阻害により細胞内ATPが減少しはじめると、解糖系のATP産生が亢進したことを示唆する。本実施例は、同一細胞内の異なるオルガネラでのATP動態の同時観察に成功した世界最初の実験である。がん細胞では、ミトコンドリアのATP産生よりも解糖系のATP産生のほうが発達していることが知られている(Warburg効果)。抗がん剤の開発では、これら2つのATP産生系を阻止して細胞死に至らしめることをねらう戦略を採用することが多い。しかし、本実施例から、これら2つのATP産生系は相互作用することが具体的に示された。そこで、ATP産生系を作用点とする制がん剤等の今後の医薬開発では、ATP蛍光センサータンパク質を用いる細胞質及びミトコンドリアのATP動態の同時観察が薬物評価に利用されることが推察される。
【0188】
2.褐色脂肪細胞での細胞内ATPの蛍光センサー測定
不死化褐色脂肪細胞(前脂肪細胞)株のマウスWT−1細胞は、ウシ胎仔血清10%、GlutaMax(商標)、並びにペニシリン100IU/mL及びストレプトマイシン100μg/mLを添加したダルベッコ変法イーグル培地(低グルコース、Thermo Fisher Scientific Inc.)中37℃、5%CO
2雰囲気下で培養した。WT−1細胞はDr.Yu−Hua Tseng(Joslin Diabetes Center、Harvard Medical School、Boston、アメリカ合衆国)から恵与された。WT−1細胞は、BMP(骨形成タンパク質)−7による分化誘導によりガラス底ディッシュ上で褐色脂肪細胞に分化した(Tsengら(Nature、454:1000−1004(2008))。簡潔には、細胞がコンフルエント状態に達した後、3.3nMのBMP−7(354−BP、R&D Systems, Inc.)、20nMのインシュリン(Sigma−Aldrich Co. LLC.)、及び1nMのT3(Sigma−Aldrich Co. LLC.)を添加した基本培地を用いて3日間前処理することで細胞分化を開始させた。コンフルエント状態の細胞は誘導カクテル(0.5mMの3−イソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX)、0.125mMのインドメタシン、5μMのデキサメタゾン、20nMのインシュリン(全てSigma−Aldrich Co. LLC.))を添加した基本培地で2日間処理された。
【0189】
その後、培地を20nMのインシュリン及び1nMのT3を添加した基本培地に交換して、ATP蛍光センサータンパク質の発現ベクターのトランスフェクションを行った。分化したWT−1細胞の細胞質及びミトコンドリアのATP濃度を測定する実験には、0.4μgのMaLion Gの発現ベクターと、0.4μgのmito−MaLion Rの発現ベクターと、2μLのLipofectamine2000(Invitrogen)とを用いてトランスフェクションを行った。分化したWT−1細胞のカルシウムイオン、cAMP及びミトコンドリア内ATPの濃度を測定する実験には、1.0μgのB−Geco(Zhao, Y.ら、Science. 333, 1888-91 (2011))の発現ベクター、0.3μgのFlamindo2(Odaka, H.ら、PLoS One 9, e100252 (2014))の発現ベクターと、0.2μgのmito−MaLion R発現ベクターと、2μLのLipofectamine2000(Invitrogen)とを用いてトランスフェクションを行った。ここで、これらの蛍光タンパク質の発現ベクターは、すべてpcDNA3.1(−)ベクターを用いた。トランスフェクション後、細胞を37℃、5%CO
2雰囲気下で12時間培養し、その後、培地を20nMのインシュリン及び1nMのT3を添加した基本培地に交換して、28℃で2日間培養した。蛍光観察実験の前に、ウシ胎仔血清やホルモンを含まない、4.5g/Lのグルコースを添加したDMEM培養で1日細胞を培養した。MaLion G及びmito−MaLion Rを用いる2波長蛍光観察は前節1.HeLa細胞の細胞内ATPの蛍光センサー測定と同じプロトコールで行った。
【0190】
3波長蛍光観察は、油浸対物レンズ(PLAPO、60×1.45NA)を備えた共焦点顕微鏡(FV1000、オリンパス株式会社)で行った。B−Geco、Flamindo2及びmito−MaLion Rは、それぞれ、405nm、488nm、及び543nmのレーザー光で励起され、蛍光は、それぞれ、405−475nm、500−530nm、及び560nmを超える波長で撮像された。撮像は10秒ごとに行った。薬物刺激実験には、イソプロテレノール及びフェニレフリンの原液200μLを1.8mLの培養に添加して、それぞれ、最終濃度1μM及び10μMとした。全ての実験は、CO
2インキュベーター付きの温度制御循環チャンバーを用いて実行された。
【0191】
図7Aは、同一視野の分化したWT−1細胞のB−Geco(Ca
2+イオン、青色)、Flamindo2(cAMP、緑色)及びmito−MaLion R(ATP、赤色)の蛍光顕微鏡画像である。各コマの左上の数字は観察開始後の時間(分)を表す。
図7Bは、各プローブの正規化された蛍光強度の経時的変化を示すグラフである。矢印は1μMのイソプレテレノールを添加したのが観察開始5分後(
図7Aでは1コマ目と2コマ目との間)であることを表す。イソプロテレノールはβアドレナリン受容体のアゴニストであり、B−GecoはCa
2+イオンのターン・オン型蛍光プローブ(励起波長378nm、蛍光波長446nm)で、Flamindo2はcAMPのターン・オフ型蛍光プローブ(励起波長504nm、蛍光波長523nm)である。
【0192】
したがって、
図7A及び
図7Bから、イソプロテレノールによるβアドレナリン受容体の活性化にともなって、まずcAMPが増大し、少し遅れてATPが減少することがわかった。褐色脂肪細胞は、受容体の刺激によって活性化された細胞膜上のアデニル酸シクラーゼがcAMPを合成し、これがシグナル伝達となって、cAMP依存性のPKAを活性化する。その後、脂肪酸を遊離、ミトコンドリア膜上の脱共役タンパク質UCP1と作用して、ミトコンドリア膜上の膜電位のもととなるプロトン勾配を解消させることが知られている(褐色脂肪細胞の熱産生)。
図7A及び
図7Bの結果は、この提唱されているメカニズムに合致する。本実施例では、cAMP及びATPの蛍光プローブに加えてCa
2+イオンの蛍光プローブも同時に細胞内に発現させ、cAMP、ATP及びCa
2+イオンの同一細胞内での局在をほぼ同時に経時的に定量測定することが可能であることを実証した。そこで、褐色脂肪細胞における熱産生におけるカルシウムイオンの役割の解明には、ATP蛍光センサータンパク質が利用することができると推察された。
【0193】
3.線虫咽頭筋の細胞内ATPの蛍光センサー測定
ATP蛍光センサータンパク質等を発現するトランスジェニック線虫(C. elegans)の成虫は、少量のシアノアクリル酸糊(Aron Alpha A、Daiichi−Sankyo)を用いて、3.5cmガラス底ディッシュ上に固定し、その上を厚さ0.5cmの1.7%寒天ゲルパッドで覆った。固定された線虫はM9バッファー(22mM KH
2PO
4、86mM NaCl、42mM Na
2HPO
4及び1mM MgSO
4)中に浸漬され、顕微鏡撮像に供された。室温は25°Cに保たれ、試料調製は30分以内に完了した。
【0194】
線虫の撮像は、20倍乾燥系対物レンズと、Nipkow−ディスク共焦点スキャナ(CSU−10、Yokogawa)と、電子増倍電荷結合素子(EM−CCD)カメラ(C9100−02、Hamamatsu Photonics)とを備えた倒立落射蛍光顕微鏡(Observer D1、Zeiss)を用いて行った。MaLion G及びMaLion RのNipkow−ディスク共焦点照明による撮像には、それぞれ、光励起半導体488nmレーザ(Sapphire 488LP、50mW、Coherent)及び568nmレーザ(Sapphire 568LP、50mW、Coherent)を、ダイクロイックミラー及び発光フィルターのセット(Di01−T 405/488/568/647ビームスプリッター及びFF01−524/628デュアルバンド帯域通過フィルター、Semrock)とともに用いた。レーザ光束の光路に電磁駆動シャッター(SSH−C4RA、Sigmakoki CO.,LTD.)を配置して、該シャッターの開閉は前記EM−CCDカメラと同期し、MetaMorphソフトウェア(Molecular Devices, LLC)が制御した。露出時間は100ミリ秒であった。撮像は10秒ごとに30分間行った。線虫の麻酔は、撮像開始5分後に0.5%の1−フェノキシ−2−プロパノールを含むM9生理食塩水を適用して行った。
【0195】
図8A及び
図8Bは、線虫咽頭筋の細胞質及びミトコンドリアのATP濃度の経時的変化の同時測定結果を示すグラフで、矢印は、麻酔剤として0.5%の1−フェノキシ−2−プロパノールを含む(
図8A)又は含まない(
図8B)M9生理食塩水を観察開始5分後に投与したことを表す。
【0196】
図8Aから、線虫咽頭筋の細胞質ATP濃度は麻酔剤投与の直後から急激に低下し、麻酔剤投与の30秒後には正規化蛍光強度は麻酔剤投与時の20%まで低下した。これに対しミトコンドリアATP濃度は、ゆっくりと低下して、正規化蛍光強度が麻酔剤投与時の20%まで低下するのは麻酔剤投与の3分後であった。この結果から、麻酔剤はミトコンドリアでのATP産生をまず阻害し、これにともなって、細胞質のATPが低下したと考えられる。
図8Bから、線虫咽頭筋のATP濃度は、細胞質でもミトコンドリアでも、対照のM9生理食塩水投与直後に大きい変化は認められなかった。正規化蛍光強度は観測開始から5分間で、ミトコンドリアで80%に、細胞質で60%まで低下した。これは、紫外線レーザ照射による線虫の疲労のためミトコンドリアでのATP産生が低下し、これに伴って細胞質のATP濃度も低下したことが考えられる。本実施例は、単一動物個体内の同一細胞内のATP動態を異なるオルガネラで同時観察した世界で初めての例であり、本発明がなければ成し得なかったものである。ATPセンサーを恒常的に発現している線虫を用いることで、ATP合成を阻害する薬物スクリーニングツール、つまり、抗がん剤や毒性スクリーニングの有用なツールとして利用できる可能性がある。
【0197】
[実施例5]cGMP特異的蛍光センサータンパク質の構築
1.cGMP蛍光センサータンパク質の設計
cGMP蛍光センサータンパク質は、cGMP結合ドメインとしてPhosphodiesterase5α(PDE5α)を用い、蛍光タンパク質として、Citrine(Griesbeck, O.ら、J. Biol. Chem. 276, 29188−29194 (2001))を用いた。蛍光タンパク質Citrineの励起波長は、490nmで、発光波長域は、505〜650nmである。PDE5αのアミノ末端及びカルボキシル末端にさまざまなポリペプチドリンカーを連結して、蛍光タンパク質Citrineの内部に挿入した融合タンパク質を、cGMP蛍光センサータンパク質の候補タンパク質として作製した(cGullシリーズと称する場合がある。)。
【0198】
cGMP蛍光センサーの候補タンパク質のドメイン及びリンカーの構成は以下のとおりである。まず、cGMPと特異的に結合するドメインを「cGMP結合ドメイン」と称する場合がある。cGMP結合ドメインは、PDE5αに由来し、そのアミノ酸配列は配列番号21として配列表に列挙する。cGMP結合ドメインのアミノ末端に連結するポリペプチドリンカーを「N末端側リンカー」、cGMP結合ドメインのカルボキシル末端に連結するポリペプチドリンカーを「C末端側リンカー」と称する場合がある。
【0199】
したがって、cGullシリーズのcGMP蛍光センサーの候補タンパク質は、アミノ末端からカルボキシル末端の向きに、[Citrine−Nドメイン]−[N末端側リンカー]−[cGMP結合ドメイン]−[C末端側リンカー]−[Citrine−Cドメイン]の順にポリペプチドドメイン及びポリペプチドリンカーが配置される。
【0200】
cGMP蛍光センサータンパク質の候補タンパク質の構築の手順としては、cGMP結合ドメインとして、PDE5αをコードするポリヌクレオチドを合成した(Integrated DNA Technologies、株式会社医学生物学研究所)以外は、実施例1の「ATP蛍光センサータンパク質の候補タンパク質の構築」と同様の方法を用いて行った。最終濃度100μMのcGMPの存在下又は非存在下で、各クローンのcGMP蛍光センサーの候補タンパク質の蛍光特性を蛍光分光光度計(日立F−2700、株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いて測定した。
【0201】
詳細は省略するが、N末端側リンカー及びC末端側リンカーのアミノ酸配列がそれぞれ配列番号31及び32のとき、ダイナミックレンジが6.5倍となり、cGMP存在下での蛍光強度が最も大きいcGMP蛍光センサータンパク質が得られた。
この最もダイナミックレンジが大きい候補タンパク質をcGullと命名した。cGullの全長アミノ酸配列を配列番号12に示す。
【0202】
図9Aは、100μMのcGMP存在下及び非存在下でのcGullの蛍光スペクトル図である。
図9Aの横軸は、蛍光波長を表し、縦軸は蛍光強度の相対値を表す。グラフの実線及び点線は、cGMP存在下及び非存在下でのスペクトル曲線を表す。
図9Aから明らかなとおり、cGullはcGMP非存在下と比較して100μMのcGMP存在下での蛍光が、それぞれ、550%も増大した。
【0203】
2.HeLa細胞の細胞内cGMPの蛍光センサー測定
実施例4と同様の方法を用いて、HeLa細胞にcGMP蛍光センサータンパク質を含む発現ベクターを導入した。次いで、蛍光測定の直前に培地をフェノールレッド不含増殖培地(1mM 8−Br−cGMP含有)に交換した。蛍光顕微鏡測定には、冷却CCDカメラ(Cool SNAP HQ2、Photometrics)及び油浸対物レンズ(Plan Apo 60×1.42 NA)を備えた倒立顕微鏡(IX81、オリンパス株式会社)を用いた。
細胞質cGMP産生阻害実験には一酸化窒素供与体であるSNAP(S−Nitroso−N−Acetyl−D,L−Penicillamine)を用いた。1.5mLの増殖培地中でHeLa細胞を培養しているディッシュにSNAPを添加してSNAPの最終濃度を300μMにした。細胞の蛍光顕微鏡画像は5分ごとに撮影した。カメラ及びフィルターの制御と、データ記録には、MetaFluorソフトウェア(Molecular Devices, LLC)を用いた。単色蛍光撮像には、励起フィルターにFF01−500/24を、ダイクロイックミラーにDi02−FF520を、発光フィルターにFF01−542/27を用いた(全てSemrock、株式会社オプトライン)。全ての実験は、CO
2インキュベーター付きの温度制御循環チャンバーを用いて実行した。
【0204】
図9Bは、cGullを発現させたHeLa細胞に8−Br−cGMP(1mM)又は一酸化窒素供与体であるSNAP(300μM)を投与での蛍光顕微鏡画像撮影開始から20分後までの蛍光の変化を示す画像である。
また、
図9Cは、cGullを発現させたHeLa細胞に8−Br−cGMP(1mM)又は一酸化窒素供与体であるSNAP(300μM)を投与での蛍光顕微鏡画像撮影開始から20分後までの蛍光の変化を示すグラフである。
図9Cでは、縦軸は正規化した蛍光強度を表し、横軸は時間(分)を表す。各図の薄い灰色の2又は3本の波形は、異なる2又は3個のディッシュでの測定値を示し、濃い灰色の1本の波形はこれら3本の波形の平均値を示す。
【0205】
ターン・オン型のcGMP蛍光センサーcGullでは、8−Br−cGMP添加から5分後まで蛍光強度が上昇し維持されたのに対し、SNAP添加から20分後まで蛍光強度が緩やかに上昇した。これは細胞内のcGMP産生が一部阻害されたことを意味する。
【0206】
[実施例6]cAMP特異的蛍光センサータンパク質の構築
1.cAMP蛍光センサータンパク質の設計
cAMP蛍光センサータンパク質は、cAMP結合ドメインとしてexchange factor directly activated by cAMP 1(EPAC1)を用い、蛍光タンパク質として、mApple(Shaner,N.C.ら、Nature Methods 5:545−551(2008))を用いた。なお、mAppleは、Zhao, Y.ら(Science. 333, 1888−1891 (2011))を参照して数カ所にアミノ酸置換変異を導入した(配列番号7及び8)。蛍光タンパク質mAppleの励起波長は、550nmで、発光波長域は、575〜700nmである。EPAC1のアミノ末端及びカルボキシル末端にさまざまなポリペプチドリンカーを連結して、蛍光タンパク質mAppleの内部に挿入した融合タンパク質を、cAMP蛍光センサータンパク質の候補タンパク質として作製した(Pink Flamindoシリーズと称する場合がある。)。
【0207】
cAMP蛍光センサーの候補タンパク質のドメイン及びリンカーの構成は以下のとおりである。まず、cAMPと特異的に結合するドメインを「cAMP結合ドメイン」と称する場合がある。cAMP結合ドメインは、EPAC1に由来し、そのアミノ酸配列は配列番号20として配列表に列挙する。cAMP結合ドメインのアミノ末端に連結するポリペプチドリンカーを「N末端側リンカー」、cAMP結合ドメインのカルボキシル末端に連結するポリペプチドリンカーを「C末端側リンカー」と称する場合がある。
【0208】
したがって、Pink FlamindoシリーズのcAMP蛍光センサーの候補タンパク質は、アミノ末端からカルボキシル末端の向きに、[mApplee−Nドメイン]−[N末端側リンカー]−[cAMP結合ドメイン]−[C末端側リンカー]−[mApple−Cドメイン]の順にポリペプチドドメイン及びポリペプチドリンカーが配置される。
【0209】
cAMP蛍光センサータンパク質の候補タンパク質の構築の手順としては、cAMP結合ドメインとして、EPAC1をコードするポリヌクレオチドを合成した(Integrated DNA Technologies、株式会社医学生物学研究所)以外は、実施例1の「ATP蛍光センサータンパク質の候補タンパク質の構築」と同様の方法を用いて行った。最終濃度100μMのcAMPの存在下又は非存在下で、各クローンのcAMP蛍光センサーの候補タンパク質の蛍光特性を蛍光分光光度計(日立F−2700、株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いて測定した。
【0210】
詳細は省略するが、N末端側リンカー及びC末端側リンカーのアミノ酸配列がそれぞれ配列番号33及び34のとき、ダイナミックレンジが4.5倍となり、cAMP存在下での蛍光強度が最も大きいcAMP蛍光センサータンパク質が得られた。
この最もダイナミックレンジが大きい候補タンパク質をPink Flamindoと命名した。Pink Flamindoの全長アミノ酸配列を配列番号13に示す。
【0211】
図10Aは、100μMのcAMP存在下及び非存在下でのPink Flamindoの蛍光スペクトル図である。
図10Aの横軸は、蛍光波長を表し、縦軸は蛍光強度の相対値を表す。グラフの実線及び点線は、cAMP存在下及び非存在下でのスペクトル曲線を表す。
図10Aから明らかなとおり、Pink FlamindoはcAMP非存在下と比較して100μMのcAMP存在下での蛍光が、それぞれ、350%も増大した。
【0212】
2.HeLa細胞の細胞内cGMPの蛍光センサー測定
実施例4と同様の方法を用いて、HeLa細胞にcAMP蛍光センサータンパク質を含む発現ベクターを導入した。次いで、蛍光測定の直前に培地をフェノールレッド不含増殖培地(アデニル酸シクラーゼ活性剤であるForskolin 100μM含有)に交換した。蛍光顕微鏡測定には、冷却CCDカメラ(Cool SNAP HQ2、Photometrics)及び油浸対物レンズ(Plan Apo 60×1.42 NA)を備えた倒立顕微鏡(IX81、オリンパス株式会社)を用いた。
細胞質cAMP産生阻害実験にはホスホジエステラーゼ阻害剤であるIBMX(3−isobutyl−1−methylxanthine)を用いた。1.5mLの増殖培地中でHeLa細胞を培養しているディッシュにIBMXを添加してIBMXの最終濃度を500μMにした。細胞の蛍光顕微鏡画像は5分ごとに撮影した。カメラ及びフィルターの制御と、データ記録には、MetaFluorソフトウェア(Molecular Devices, LLC)を用いた。単色蛍光撮像には、励起フィルターにBP535−555HQを、ダイクロイックミラーにDM565HQを、発光フィルターにBA570−625HQを用いた(全てオリンパス株式会社)。全ての実験は、CO
2インキュベーター付きの温度制御循環チャンバーを用いて実行した。
【0213】
図10Bは、Pink Flamindoを発現させたHeLa細胞にForskolin(100μM)又はIBMX(500μM)を投与での蛍光顕微鏡画像撮影開始から20分後までの蛍光の変化を示す画像である。
また、
図10Cは、Pink Flamindoを発現させたHeLa細胞にForskolin(100μM)又はIBMX(500μM)を投与での蛍光顕微鏡画像撮影開始から20分後までの蛍光の変化を示すグラフである。
図9Cでは、縦軸は正規化した蛍光強度を表し、横軸は時間(分)を表す。各図の薄い灰色の3本の波形は、異なる3個のディッシュでの測定値を示し、濃い灰色の1本の波形はこれら3本の波形の平均値を示す。
【0214】
ターン・オン型のcAMP蛍光センサーPink Flamindoでは、Forskolin添加から3分後まで蛍光強度が急激に上昇し徐々に減少したのに対し、IBMX添加から20分後まで蛍光強度が緩やかに上昇した。これは細胞内のcAMP産生が一部阻害されたことを意味する。
【0215】
[実施例7]BGP特異的蛍光センサータンパク質の構築
1.BGP蛍光センサータンパク質の設計
オステオカルシン(osteocalcin、bone Gla protein(BGP))の細胞内での局在を観察するために、BGP蛍光センサータンパク質を設計した。
BGP蛍光センサータンパク質は、BGP結合ドメインとして抗BGP抗体を用い、蛍光タンパク質として、GFP(Griesbeck, O.ら、(J. Biol. Chem. 276, 29188−29194 (2001)))を用いた。蛍光タンパク質GFPの励起波長は、480nmで、発光波長域は、500〜520nmである。また、GFPのN末端側1番目から144番目までのアミノ酸残基からなるドメインを「GFP−Nドメイン」、GFPのN末端側から145番目から238番目までのアミノ酸残基からなるドメインを「GFP−Cドメイン」と称する場合がある。GFP−Nドメインのアミノ酸配列は配列番号3、GFP−Cドメインのアミノ酸配列は配列番号4としてそれぞれ配列表に列挙する。GFP−Cドメインのアミノ末端及びGFP−Nドメインのカルボキシル末端にさまざまなポリペプチドリンカーを連結して、抗BGP抗体の重鎖と軽鎖との間に挿入した融合タンパク質を、BGP蛍光センサータンパク質の候補タンパク質として作製した(gBGPシリーズと称する場合がある。)。
【0216】
BGP蛍光センサーの候補タンパク質のドメイン及びリンカーの構成は以下のとおりである。まず、BGPと特異的に結合するドメインを「BGP結合ドメイン」と称する場合がある。BGP結合ドメインは、抗BGP抗体に由来し、そのアミノ酸配列は配列番号22(重鎖)及び23(軽鎖)として配列表に列挙する。GFP−Cドメインのアミノ末端に連結するポリペプチドリンカーを「N末端側リンカー」、GFP−Cドメインのカルボキシル末端及びGFP−Nドメインのアミノ末端に結合するポリペプチドリンカーを「中間リンカー」、GFP−Nドメインのカルボキシル末端に連結するポリペプチドリンカーを「C末端側リンカー」と称する場合がある。
【0217】
したがって、gBGPシリーズのBGP蛍光センサーの候補タンパク質は、アミノ末端からカルボキシル末端の向きに、[抗BGP抗体の重鎖]−[N末端側リンカー]−[GFP−Cドメイン]−[中間リンカー]−[GFP−Nドメイン]−[C末端側リンカー]−[抗BGP抗体の軽鎖]の順にポリペプチドドメイン及びポリペプチドリンカーが配置される。
【0218】
BGP蛍光センサータンパク質の候補タンパク質の構築の手順としては、BGP結合ドメインとして、抗BGP抗体の重鎖及び軽鎖をコードするポリヌクレオチドをそれぞれ合成した(Integrated DNA Technologies、株式会社医学生物学研究所)以外は、実施例1の「ATP蛍光センサータンパク質の候補タンパク質の構築」と同様の方法を用いて行った。最終濃度100μMのBGP7Cの存在下又は非存在下で、各クローンのBGP蛍光センサーの候補タンパク質の蛍光特性を蛍光分光光度計(日立F−2700、株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いて測定した。
【0219】
詳細は省略するが、N末端側リンカー、中間リンカー、及びC末端側リンカーのアミノ酸配列がそれぞれ配列番号35、36、及び37のとき、ダイナミックレンジが4.0倍となり、BGP7C存在下での蛍光強度が最も大きいBGP蛍光センサータンパク質が得られた。
この最もダイナミックレンジが大きい候補タンパク質をgBGPと命名した。gBGPの全長アミノ酸配列を配列番号14に、塩基配列を配列番号50に示す。
【0220】
図11Aは、100μMのBGP7C存在下及び非存在下でのgBGPの励起/蛍光スペクトル図である。
図11Aの横軸は、励起波長及び蛍光波長を表し、縦軸は蛍光強度の相対値を表す。グラフの実線及び点線は、BGP7C存在下及び非存在下でのスペクトル曲線を表す。
図11Aから明らかなとおり、gBGPはBGP7C非存在下と比較して100μMのBGP7C存在下での蛍光が、それぞれ、300%も増大した。
【0221】
図11Bは、gBGPの蛍光強度のリガンド特異性及びBGP7C濃度依存的変化を示すグラフである。
図11Bの横軸は、BGP7C又は対照であるMycの濃度を表し、縦軸は蛍光強度の相対値を表す。
図11Bから明らかなとおり、gBGPの蛍光強度はBGP7Cの濃度にのみ依存的に変化することが示された。
【0222】
2.HeLa細胞の細胞内BGPの蛍光センサー測定
まず、細胞膜局在性ペプチド(配列番号42)及びmCherryが結合したBGP7C(以下、「PMmCherry−BGP7C」と称する場合がある。)並びに、核局在性ペプチド(配列番号43)及びmCherryが結合したBGP7C(以下、「NLSmCherry−BGP7C」と称する場合がある。)を発現するベクターを調製した。
次いで、実施例4と同様の方法を用いて、HeLa細胞にBGP蛍光センサータンパク質を含む発現ベクター又はGFPのみを含む発現ベクター、及びPMmCherry−BGP7C、又はNLSmCherry−BGP7Cを含む発現ベクターを導入した。次いで、蛍光測定の直前に培地をフェノールレッド不含増殖培地に交換した。測定には、共焦点レーザー顕微鏡(FV1000、オリンパス株式会社)を用いた。レーザーの波長は、488nm及び543nmであり、500〜530nm、及び560nmを超える波長で撮像された。
【0223】
図11Cは、gBGP又はGFP、及び細胞膜局在性mCherry−BGP7C又は細胞膜局在性mCherryを発現させたHeLa細胞での蛍光を示す画像である。
また、
図11Dは、gBGP又はGFP、及び核局在性mCherry−BGP7C又は細胞膜局在性mCherryを発現させたHeLa細胞での蛍光を示す画像である。
【0224】
ターン・オン型のBGP蛍光センサーgBGPでは、PMmCherry−BGP7Cとともに導入した場合では、細胞膜上での局在が観察され、NLSmCherry−BGP7Cとともに導入した場合では、核内での局在が観察された。
【0225】
[実施例8]HSA特異的蛍光センサータンパク質の構築
1.HSA蛍光センサータンパク質の設計
ヒト血清アルブミン(Human Serum Albumin;HSA)蛍光センサータンパク質を設計した。
HSA蛍光センサータンパク質は、HSA結合ドメインとして抗HSA抗体を用い、蛍光タンパク質として、GFP(Griesbeck, O.ら、(J. Biol. Chem. 276, 29188−29194 (2001)))を用いた。蛍光タンパク質GFPの励起波長は、480nmで、発光波長域は、500〜520nmである。また、GFPのN末端側1番目から144番目までのアミノ酸残基からなるドメインを「GFP−Nドメイン」、GFPのN末端側から145番目から238番目までのアミノ酸残基からなるドメインを「GFP−Cドメイン」と称する場合がある。GFP−Nドメインのアミノ酸配列は配列番号3、GFP−Cドメインのアミノ酸配列は配列番号4としてそれぞれ配列表に列挙する。GFP−Cドメインのアミノ末端及びGFP−Nドメインのカルボキシル末端にさまざまなポリペプチドリンカーを連結して、抗HSA抗体の重鎖と軽鎖との間に挿入した融合タンパク質を、HSA蛍光センサータンパク質の候補タンパク質として作製した(gHSAシリーズと称する場合がある。)。
【0226】
HSA蛍光センサーの候補タンパク質のドメイン及びリンカーの構成は以下のとおりである。まず、HSAと特異的に結合するドメインを「HSA結合ドメイン」と称する場合がある。HSA結合ドメインは、抗HSA抗体に由来する。GFP−Cドメインのアミノ末端に連結するポリペプチドリンカーを「N末端側リンカー」、GFP−Cドメインのカルボキシル末端及びGFP−Nドメインのアミノ末端に結合するポリペプチドリンカーを「中間リンカー」、GFP−Nドメインのカルボキシル末端に連結するポリペプチドリンカーを「C末端側リンカー」と称する場合がある。
【0227】
したがって、gHSAシリーズのHSA蛍光センサーの候補タンパク質は、アミノ末端からカルボキシル末端の向きに、[抗HSA抗体の重鎖]−[N末端側リンカー]−[GFP−Cドメイン]−[中間リンカー]−[GFP−Nドメイン]−[C末端側リンカー]−[抗HSA抗体の軽鎖]の順にポリペプチドドメイン及びポリペプチドリンカーが配置される。
【0228】
HSA蛍光センサータンパク質の候補タンパク質の構築の手順としては、HSA結合ドメインとして、抗HSA抗体の重鎖及び軽鎖をコードするポリヌクレオチドをそれぞれ合成した(Integrated DNA Technologies、株式会社医学生物学研究所)以外は、実施例1の「ATP蛍光センサータンパク質の候補タンパク質の構築」と同様の方法を用いて行った。最終濃度2μMのHSAの存在下又は非存在下で、各クローンのHSA蛍光センサーの候補タンパク質の蛍光特性を蛍光分光光度計(日立F−2700、株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いて測定した。
【0229】
詳細は省略するが、N末端側リンカー、中間リンカー、及びC末端側リンカーのアミノ酸配列がそれぞれ、「LE」(Leu−Glu)、「GGTGGS」(配列番号53)、及び「TR」(Thr−Arg)のとき、ダイナミックレンジが1.2倍となり、HSA存在下での蛍光強度が最も大きいHSA蛍光センサータンパク質が得られた。
この最もダイナミックレンジが大きい候補タンパク質をgHSAと命名した。gHSAの全長アミノ酸配列を配列番号51に、塩基配列を配列番号52に示す。
【0230】
図12は、2μMのHSA存在下及び非存在下でのgHSAの蛍光スペクトル図である。
図12の横軸は、蛍光波長を表し、縦軸は蛍光強度の相対値を表す。グラフの実線及び点線は、HSA存在下及び非存在下でのスペクトル曲線を表す。
図12から明らかなとおり、gHSAはHSA非存在下と比較して2μMのHSA存在下での蛍光が、20%も増大した。