特許第6885656号(P6885656)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885656
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】タービン油、及びタービン油の使用方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20210603BHJP
   C10M 105/38 20060101ALN20210603BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20210603BHJP
   C10M 145/14 20060101ALN20210603BHJP
   C10M 127/06 20060101ALN20210603BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20210603BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20210603BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20210603BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20210603BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20210603BHJP
   C10N 40/13 20060101ALN20210603BHJP
【FI】
   C10M169/04
   !C10M105/38
   !C10M133/12
   !C10M145/14
   !C10M127/06
   C10N20:00 Z
   C10N20:02
   C10N20:04
   C10N30:02
   C10N30:08
   C10N40:13
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-44352(P2017-44352)
(22)【出願日】2017年3月8日
(65)【公開番号】特開2018-145361(P2018-145361A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎治
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02055763(EP,A1)
【文献】 国際公開第2010/147016(WO,A1)
【文献】 特表2014−523471(JP,A)
【文献】 特開2004−277712(JP,A)
【文献】 特開2005−325241(JP,A)
【文献】 特開2005−194416(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0028861(US,A1)
【文献】 特開昭48−091462(JP,A)
【文献】 特表2001−501991(JP,A)
【文献】 特開平05−194331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 40/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールエステル(A1)を含む基油(A)65〜90質量%、アミン系酸化防止剤(B1)を含む酸化防止剤(B)0.05〜7質量%、重量平均分子量5万〜60万のポリメタクリレート(C)、及びアルキル芳香族化合物(D)1.5〜15質量%をそれぞれタービン油全量基準で含有し、
前記ポリオールエステル(A1)が、ヒンダードポリオールと、炭素数5〜22の脂肪族モノカルボン酸とのエステルであり、
成分(A)中のポリオールエステル(A1)の含有割合が、成分(A)の全量基準で80〜100質量%であり、
成分(B)中のアミン系酸化防止剤(B1)の含有割合が、成分(B)の全量基準で60〜100質量%であり、
成分(B)がナフチルアミン(B11)とジフェニルアミン(B12)とを含み、
成分(C)が、非分散型ポリメタクリレートであり、
成分(C)の樹脂分換算での含有量が、タービン油全量基準で0.3〜7.0質量%であり、
成分(C)の樹脂分換算での全量100質量部に対する、成分(D)の含有量が、1000質量部以下であり、
成分(D)が、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、アルキルアントラセン、アルキルフェナントレン及びアルキルビフェニルから選択される1種又は2種以上であり、
下記要件(1)〜(2)を満たす、ジェットエンジンに用いられる、タービン油。
・要件(1):粘度指数が140以上である。
・要件(2):Fed. Test Method Std. 791−3462に準拠し、パネル温度320℃、油温130℃の条件下で、スプラッシュ時間15秒及び停止時間30秒を1サイクルとして、連続的に6時間のパネルコーキング試験を行った後、パネルに付着したコーキング量が80mg以下である。
【請求項2】
金属原子の含有量が、前記タービン油の全量基準で、100質量ppm未満である、請求項1に記載のタービン油。
【請求項3】
無灰系分散剤の含有量が、前記タービン油の全量基準で、0.1質量%未満である、請求項1又は2に記載のタービン油。
【請求項4】
−40℃におけるBF粘度が、25,000mPa・s以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のタービン油。
【請求項5】
ポリオールエステル(A1)を含む基油(A)65〜90質量%、アミン系酸化防止剤(B1)を含む酸化防止剤(B)0.05〜7質量%、重量平均分子量5万〜60万のポリメタクリレート(C)、及びアルキル芳香族化合物(D)1.5〜15質量%をそれぞれタービン油全量基準で含み、
ポリオールエステル(A1)が、ヒンダードポリオールと、炭素数5〜22の脂肪族モノカルボン酸とのエステルであり、
成分(A)中のポリオールエステル(A1)の含有割合が、成分(A)の全量基準で80〜100質量%であり、
成分(B)中のアミン系酸化防止剤(B1)の含有割合が、成分(B)の全量基準で60〜100質量%であり、
成分(B)がナフチルアミン(B11)とジフェニルアミン(B12)とを含み、
成分(C)が、非分散型ポリメタクリレートであり、
成分(C)の樹脂分換算での含有量が、タービン油全量基準で0.3〜7.0質量%であり、
成分(C)の樹脂分換算での全量100質量部に対する成分(D)の含有量が250質量部以下であり、
成分(D)が、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、アルキルアントラセン、アルキルフェナントレン及びアルキルビフェニルから選択される1種又は2種以上であり、
下記要件(1)〜(2)を満たすタービン油を、ジェットエンジン内のタービンの潤滑に用いる、タービン油の使用方法。
・要件(1):粘度指数が140以上である。
・要件(2):Fed. Test Method Std. 791−3462に準拠し、パネル温度320℃、油温130℃の条件下で、スプラッシュ時間15秒及び停止時間30秒から1サイクルを連続的に6時間行ったパネルコーキング試験後におけるコーキング量が80mg以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェットエンジンに用いられるタービン油、及び、当該タービン油の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機械装置および動力装置等の技術進歩による高性能化、高効率化に伴い、苛酷な使用条件に耐え得る潤滑油組成物が求められている。例えば、航空機に搭載されるジェットエンジンが備えるタービンは、運転中は非常に高温となる。このようなタービンに使用される潤滑油組成物(タービン油)には、高度の耐熱性が要求される。
【0003】
例えば、特許文献1には、3環〜5環の芳香環を有するポリフェニルエーテル及び/又はポリフェニルチオエーテルからなる基油に、アミン系酸化防止剤、リン酸エステル、及び酸性リン酸エステルアミン塩をそれぞれ所定量配合してなる潤滑油組成物が開示されている。
特許文献1によれば、当該潤滑油組成物は、ジェットエンジン用潤滑油として米国航空規格MIL−PRF−87100Aの要件基準を満たすほどの耐熱性を有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−003878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、航空機に搭載されるジェットエンジンで用いられるタービン油には、耐熱性だけではなく、高温環境下でも油膜を保持し得るように、一定以上の粘度を維持できる程に、高粘度指数であることも要求される。
特許文献1には、潤滑油組成物の粘度指数に関して記載はない。ただし、特許文献1の実施例1として開示された潤滑油組成物は、40℃及び100℃動粘度についての値の開示があるが、これらの値から算出された粘度指数は「約61」であり非常に低い。
そのため、特許文献1に記載の潤滑油組成物は、ジェットエンジンのタービンのような高温環境下で使用した場合、粘度が低下し、油膜が保持し難いと推測される。
【0006】
一方で、通常の用途に使用されるタービン油において、粘度指数を向上させるために、ポリマーである粘度指数向上剤を配合する場合がある。
しかしながら、粘度指数向上剤として使用されるポリマーの存在は、タービン油の耐熱性の低下を引き起こすと考えられる。つまり、ポリマーを含むタービン油を高温環境下で使用すると、当該ポリマーに起因したコーキングやデポジットが発生してしまい、これらがタービンの部材に付着すると、動作不良を引き起こすという問題が懸念される。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、航空機に搭載されるジェットエンジンのような高温環境下で使用した場合でも油膜を保持できるほどに高粘度指数であって、且つ、優れた耐熱性を有しつつも、低温粘度特性にも優れるタービン油、及び、当該タービン油の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ポリオールエステルを含む基油、アミン系酸化防止剤、ポリメタクリレート、及びアルキル芳香族化合物を含有すると共に、ポリメタクリレートとアルキル芳香族化合物との含有量比を所定の範囲に調製したタービン油が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、下記〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕ポリオールエステル(A1)を含む基油(A)、アミン系酸化防止剤(B1)を含む酸化防止剤(B)、重量平均分子量5万〜60万のポリメタクリレート(C)、及びアルキル芳香族化合物(D)を含有し、
成分(C)の樹脂分換算での全量100質量部に対する、成分(D)の含有量が、250質量部以下であり、
下記要件(1)〜(2)を満たす、ジェットエンジンに用いられる、タービン油。
・要件(1):粘度指数が140以上である。
・要件(2):Fed. Test Method Std. 791−3462に準拠し、パネル温度320℃、油温130℃の条件下で、スプラッシュ時間15秒及び停止時間30秒を1サイクルとして、連続的に6時間のパネルコーキング試験を行った後、パネルに付着したコーキング量が80mg以下である。
〔2〕ポリオールエステル(A1)を含む基油(A)、アミン系酸化防止剤(B1)を含む酸化防止剤(B)、重量平均分子量5万〜60万のポリメタクリレート(C)、及びアルキル芳香族化合物(D)を含み、成分(C)の樹脂分換算での全量100質量部に対する成分(D)の含有量が250質量部以下であり、下記要件(1)〜(2)を満たすタービン油を、ジェットエンジン内のタービンの潤滑に用いる、タービン油の使用方法。
・要件(1):粘度指数が140以上である。
・要件(2):Fed. Test Method Std. 791−3462に準拠し、パネル温度320℃、油温130℃の条件下で、スプラッシュ時間15秒及び停止時間30秒から1サイクルを連続的に6時間行ったパネルコーキング試験後におけるコーキング量が80mg以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のタービン油は、航空機に搭載されるジェットエンジンのような高温環境下で使用した場合でも油膜を保持できるほどに高粘度指数であって、且つ、優れた耐熱性を有しつつも、低温粘度特性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の本明細書の記載において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283に準拠して、測定又は算出した値を意味する。
【0012】
〔タービン油〕
本発明のタービン油は、ポリオールエステル(A1)を含む基油(A)、アミン系酸化防止剤(B1)を含む酸化防止剤(B)、重量平均分子量5万〜60万のポリメタクリレート(C)、及びアルキル芳香族化合物(D)を含有する。
そして、本発明のタービン油は、下記要件(1)〜(2)を満たし、ジェットエンジンに用いられるものである。
・要件(1):粘度指数が140以上である。
・要件(2):Fed. Test Method Std. 791−3462に準拠し、パネル温度320℃、油温130℃の条件下で、スプラッシュ時間15秒及び停止時間30秒を1サイクルとして、連続的に6時間のパネルコーキング試験を行った後、パネルに付着したコーキング量が80mg以下である。
【0013】
本発明のタービン油は、要件(1)で規定するように高粘度指数であるため、航空機に搭載されるジェットエンジンのような高温環境下で使用した場合でも、油膜を保持できる。
本発明のタービン油の粘度指数としては、140以上であるが、好ましくは155以上、より好ましくは170以上、更に好ましくは180以上、より更に好ましくは190以上である。
【0014】
ところで、要件(1)で規定するような高粘度指数とするため、一般的に粘度指数向上剤であるポリマーを配合する場合が多い。
しかしながら、上述のとおり、粘度指数向上剤として使用されるポリマーは、高温環境下で使用した際にタービン油中に生じ得るコーキングやデポジットの発生原因となり、動作不良を引き起こす要因となりかねない。
そのため、航空機に搭載されるジェットエンジンで用いられるタービン油においては、動作不良を引き起こすコーキング等が生じる要因ともなる粘度指数向上剤は、原則添加しないことが、本分野における一般的な知見であった。
【0015】
これに対して、本発明者は、粘度指数向上剤として、重量平均分子量5万〜60万のポリメタクリレート(C)を用いた際に、ジェットエンジンのような高温環境下で使用した際に生じるコーキング等を抑制し得る、タービン油の最適な処方について鋭意検討した。
そして、基油として、ポリオールエステル(A1)を用い、且つ、酸化防止剤として、アミン系酸化防止剤(B1)を用いることで、ポリメタクリレート(C)に起因するコーキングの発生を効果的に抑制し得ることを見い出した。
さらに、ポリメタクリレート(C)に対して、所定量のアルキル芳香族化合物(D)を含有することで、コーキングの発生を更に効果的に抑制することができることも分かった。
つまり、本発明のタービン油は、ポリメタクリレート(C)と共に、ポリオールエステル(A1)、アミン系酸化防止剤(B1)、及びアルキル芳香族化合物(D)を組み合わせて含有することで、上記要件(1)で規定するような高粘度指数としつつも、上記要件(2)を満たすようにコーキング量が抑制されたものである。
【0016】
本発明の一態様のタービン油において、要件(2)で規定するコーキング量としては、好ましくは55mg以下、より好ましくは50mg以下、更に好ましくは45mg以下、より更に好ましくは40mg以下である。
【0017】
また、本発明の一態様のタービン油の100℃における動粘度としては、好ましくは5.0〜15.0mm/s、より好ましくは6.5〜13.0mm/s、更に好ましくは7.5〜12.0mm/s、より更に好ましくは8.5〜11.0mm/sである。
【0018】
また、本発明の一態様のタービン油の−40℃におけるBF粘度(ブルックフィールド粘度)としては、低温粘度特性に優れたタービン油とする観点から、好ましくは25,000mPa・s以下、より好ましくは23,000mPa・s以下、更に好ましくは21,000mPa・s以下、より更に好ましくは20,000mPa・s以下であり、また、通常9,000mPa・s以上である。
なお、本明細書において、BF粘度は、ASTM D2983に記載の方法に準拠して測定した値を意味する。
【0019】
なお、本発明の一態様のタービン油は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記の成分(B)〜(D)以外の他の添加剤を含有してもよい。
【0020】
本発明の一態様のタービン油において、成分(A)、(B)、(C)及び(D)の合計含有量は、当該タービン油の全量(100質量%)基準で、好ましくは70〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%、更に好ましくは90〜100質量%、より更に好ましくは95〜100質量%である。
以下、本発明の一態様のタービン油に含まれる各成分について説明する。
【0021】
<基油(A)>
本発明のタービン油は、ポリオールエステル(A1)を含む基油(A)を含有する。
ポリオールエステル(A1)を含む基油(A)を用いることで、低温粘度特性を良好としつつ、高温環境下においても形成される油膜を保持し易く、さらに耐熱性をより向上させたタービン油とすることができる。
【0022】
なお、本発明の一態様で用いる基油(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A1)以外の合成油をさらに含有してもよい。
ただし、本発明の一態様のタービン油において、成分(A)中のポリオールエステル(A1)の含有割合は、成分(A)の全量(100質量%)基準で、好ましくは70〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%、更に好ましくは90〜100質量%、より更に好ましくは95〜100質量%である。
【0023】
本発明の一態様で用いる基油(A)の100℃における動粘度としては、好ましくは3.0〜8.0mm/s、より好ましくは3.5〜7.0mm/s、更に好ましくは4.0〜6.0mm/s、より更に好ましくは4.5〜5.5mm/sである。
【0024】
本発明の一態様のタービン油において、基油(A)の含有量は、当該タービン油の全量(100質量%)基準で、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは75質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは92質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。
【0025】
[ポリオールエステル(A1)]
本発明の一態様で用いるポリオールエステル(A1)としては、例えば、分子内に四級炭素を一つ以上有し、且つ、当該四級炭素の少なくとも一つにメチロール基が1〜4個結合してなるヒンダードポリオールと、脂肪族モノカルボン酸とのエステルであるヒンダードエステルが挙げられる。
ポリオールエステル(A1)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
なお、ポリオールエステル(A1)は、通常、ポリオールの全ての水酸基がエステル化された完全エステルであるが、本発明の効果に影響を与えない範囲で、一部の水酸基がエステル化されずに残った部分エステルを少量含んでいてもよい。
【0027】
ポリオールエステル(A1)の原料となる、前記ヒンダードポリオールとしては、下記一般式(a−1)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
【0028】
前記一般式(a−1)中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜6の一価の炭化水素基、又はメチロール基(−CHOH)である。
nは、0〜4の整数を示し、好ましくは0〜2、より好ましくは0〜1、更に好ましくは0である。
【0029】
として選択し得る、炭素数1〜6の一価の炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基)、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が挙げられる。
なお、上記アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
これらの中でも、Rとして選択し得る、炭素数1〜6の一価の炭化水素基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましい。
【0030】
具体的な前記一般式(a−1)で表される化合物としては、ジアルキルプロパンジオール(アルキル基の炭素数は1〜6である)、トリメチロールアルカン(アルカンの炭素数は2〜7である)、ペンタエリスリトール等のヒンダードポリオール及びこれらの脱水縮合物が挙げられ、より具体的には、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールペンタン、トリメチロールヘキサン、トリメチロールヘプタン、ペンタエリスリトール、2,2,6,6−テトラメチル−4−オキサ−1,7−ヘプタンジオール、2,2,6,6,10,10−ヘキサメチル−4,8−ジオキサ−1,11−ウンデカジオール、2,2,6,6,10,10,14,14−オクタメチル−4,8,12−トリオキサ−1,15−ペンタデカジオール、2,6−ジ(ヒドロキシメチル)−2,6−ジメチル−4−オキサ−1,7−ヘプタンジオール、2,6,10−トリ(ヒドロキシメチル)−2,6,10−トリメチル−4,8−ジオキサ−1,11−ウンデカジオール、2,6,10,14−テトラ(ヒドロキシメチル)−2,6,10,14−テトラメチル−4,8,12−トリオキサ−1,15−ペンタデカジオール、ジ(ペンタエリスリトール)、トリ(ペンタエリスリトール)、テトラ(ペンタエリスリトール)、ペンタ(ペンタエリスリトール)等が挙げられる。
これらの中でも、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、及びこれらの二分子又は三分子の脱水縮合物が好ましく、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、及びペンタエリスリトールがより好ましく、ペンタエリスリトールが更に好ましい。
【0031】
ポリオールエステル(A1)の原料となる、前記脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数5〜22の飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。
当該飽和脂肪族モノカルボン酸のアシル基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。
飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸等の直鎖状飽和モノカルボン酸;イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、2,2−ジメチルプロパン酸、2,2−ジメチルブタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、2−エチル−2,3,3−トリメチルブタン酸、2,2,3,4−テトラメチルペンタン酸、2,5,5−トリメチル−2−t−ブチルヘキサン酸、2,3,3−トリメチル−2−エチルブタン酸、2,3−ジメチル−2−イソプロピルブタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸等の分岐状飽和モノカルボン酸等が挙げられる。
これらの脂肪族モノカルボン酸は、エステル化の際、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
飽和脂肪族モノカルボン酸の炭素数としては、好ましくは4〜18、より好ましくは5〜14、更に好ましくは5〜10である。
【0032】
本発明の一態様で用いるポリオールエステル(A1)の100℃における動粘度としては、好ましくは3.0〜8.0mm/s、より好ましくは3.5〜7.0mm/s、更に好ましくは4.0〜6.0mm/s、より更に好ましくは4.5〜5.5mm/sである。
【0033】
また、本発明の一態様で用いるポリオールエステル(A1)の粘度指数としては、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上、より更に好ましくは120以上である。
【0034】
本発明の一態様で用いるポリオールエステル(A1)の数平均分子量(Mn)としては、好ましくは100〜8,000、より好ましくは200〜4,000、更に好ましくは300〜2,000、より更に好ましくは400〜1,000である。
【0035】
[成分(A1)以外の基油]
本発明の一態様のタービン油は、本発明の効果を損なわない範囲で、基油(A)として、成分(A1)以外の合成油をさらに含有してもよい。
成分(A1)以外の合成油としては、例えば、二塩基酸エステル(例えば、ジトリデシルグルタレート等)、三塩基酸エステル(例えば、トリメリット酸2−エチルヘキシル)、リン酸エステル等の成分(A1)以外の各種エステル;ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル等の各種エーテル;等が挙げられる。
【0036】
なお、本発明の一態様のタービン油において、鉱油の含有量は、少ない方が好ましい。
鉱油にはワックス分が含まれているため、低温環境下でワックス分が析出し、低温粘度特性が低下してしまう恐れがある。また、ジェットエンジンのような高温環境下で使用した際に、形成される油膜の保持に悪影響を及ぼす恐れがあり、耐熱性に問題がある。
上記観点から、本発明の一態様のタービン油において、鉱油の含有量は、成分(A)の全量(100質量%)基準で、好ましくは10質量%未満、より好ましくは5質量%未満、更に好ましくは1質量%未満、より更に好ましくは0.1質量%未満である。
【0037】
また、本発明の一態様のタービン油において、低温での分離を抑制する観点から、ポリα−オレフィンの含有量は、少ない方が好ましい。
具体的なポリα−オレフィンの含有量は、成分(A)の全量(100質量%)基準で、好ましくは10質量%未満、より好ましくは5質量%未満、更に好ましくは1質量%未満、より更に好ましくは0.1質量%未満である。
【0038】
<酸化防止剤(B)>
本発明のタービン油は、アミン系酸化防止剤(B1)を含む酸化防止剤(B)を含有する。
アミン系酸化防止剤(B1)を含有することで、ポリオールエステル(A1)との溶解性が良好であるため、より酸化安定性を向上させ、上記要件(2)を満たすタービン油とすることができる。
【0039】
なお、本発明の一態様で用いる酸化防止剤(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、アミン系酸化防止剤(B1)以外の酸化防止剤をさらに含有してもよい。
ただし、本発明の一態様のタービン油において、成分(B)中のアミン系酸化防止剤(B1)の含有割合は、成分(B)の全量(100質量%)基準で、好ましくは30〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%、更に好ましくは60〜100質量%、より更に好ましくは70〜100質量%である。
【0040】
本発明の一態様のタービン油において、酸化防止剤(B)の含有量は、当該タービン油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.05〜7質量%、更に好ましくは0.1〜5質量%である。
【0041】
[アミン系酸化防止剤(B1)]
本発明の一態様で用いるアミン系酸化防止剤(B1)としては、酸化防止性能を有するアミン系化合物であればよいが、ナフチルアミン(B11)、ジフェニルアミン(B12)等が挙げられる。
アミン系酸化防止剤(B1)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明の一態様において、ナフチルアミン(B11)とジフェニルアミン(B12)とを共に含むことが好ましい。
【0042】
本発明の一態様のタービン油において、ナフチルアミン(B11)とジフェニルアミン(B12)との含有量比〔(B11)/(B12)〕としては、質量比で、好ましくは10/90〜95/5、より好ましくは25/85〜90/10、更に好ましくは40/60〜85/15、より更に好ましくは55/45〜80/20である。
【0043】
ナフチルアミン(B11)としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−β−ナフチルアミン等が挙げられるが、アルキルフェニル−α−ナフチルアミンが好ましい。
アルキルフェニル−α−ナフチルアミンが有するアルキル基の炭素数としては、好ましくは1〜30であるが、基油(A)との溶解性を向上させると共に、スラッジ抑制効果をより向上させる観点から、好ましくは1〜20、より好ましくは4〜16、更に好ましくは6〜14、より更に好ましくは6〜10である。
【0044】
ジフェニルアミン(B12)としては、下記一般式(b−1)で表される化合物であることが好ましく、下記一般式(b−2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0045】
【化2】
【0046】
前記一般式(b−1)、(b−2)中、RB1及びRB2は、それぞれ独立に、炭素数1〜30のアルキル基、環形成原子数6〜18のアリール基で置換された炭素数1〜30のアルキル基である。
当該アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
前記一般式(b−1)中、p及びqは、それぞれ独立に、0〜5の整数であり、好ましくは0又は1であり、より好ましくは1である。
なお、RB1及びRB2が複数存在する場合、複数のRB1及びRB2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0047】
なお、RB1及びRB2として選択し得る、当該アルキル基の炭素数としては、1〜30であるが、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10である。
当該アルキル基に置換し得るアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられるが、フェニル基が好ましい。
【0048】
アルキルフェニル−ナフチルアミンが有するアルキル基、及び、ジフェニルアミンが有し得るアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。
【0049】
本発明の一態様のタービン油において、アミン系酸化防止剤(B1)の窒素原子換算での含有量としては、当該タービン油の全量(100質量%)基準で、好ましくは200〜3000質量ppm、より好ましくは500〜2500質量ppm、更に好ましくは800〜2300質量ppm、より更に好ましくは1000〜2000質量ppmである。
【0050】
[成分(B)以外の酸化防止剤]
本発明の一態様のタービン油は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤(B)して、成分(B1)以外の酸化防止剤をさらに含有してもよい。
成分(B1)以外の酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0051】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、2,6−ジ−t−アミル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等の単環フェノール系化合物や、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等の多環フェノール系化合物が挙げられる。
【0052】
本発明の一態様のタービン油において、アミン系酸化防止剤(B1)100質量部に対する、フェノール系酸化防止剤の含有量比としては、好ましくは0〜100質量部、より好ましくは0〜60質量部、更に好ましくは0〜40質量部である。
【0053】
<ポリメタクリレート(C)>
本発明のタービン油は、重量平均分子量5万〜60万のポリメタクリレート(C)を含有する。
ポリメタクリレート(C)としては、非分散型ポリメタクリレートであってもよく、分散型ポリメタクリレートであってもよいが、非分散型ポリメタクリレートが好ましい。
【0054】
非分散型ポリメタクリレートとしては、例えば、炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来の構成単位を有する重合体が挙げられる。なお、当該重合体は、水酸基、カルボキシ基等の官能基を有するモノマーに由来の構成単位をさらに有する共重合体であってもよい。
【0055】
また、分散型ポリメタクリレートとしては、例えば、メタクリレートとエチレン性不飽和結合を有する含窒素単量体との共重合体が挙げられる。
ここで、当該含窒素単量体としては、例えば、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0056】
ポリメタクリレート(C)の重量平均分子量(Mw)としては、要件(1)を満たすタービン油に調製する観点から、5万〜60万であるが、好ましくは10万〜55万、より好ましくは15万〜50万、更に好ましくは20万〜45万である。
【0057】
また、ポリメタクリレート(C)の分子量分布(Mw/Mn)(Mnは数平均分子量)としては、要件(1)を満たすタービン油に調製する観点から、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.7以下、更に好ましくは3.5以下であり、また、通常は1.01以上である。
なお、本明細書において、成分(C)の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であって、具体的には実施例に記載の測定条件で測定された値を意味する。
【0058】
本発明の一態様のタービン油において、ポリメタクリレート(C)の樹脂分換算での含有量は、当該タービン油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.1〜10.0質量%、より好ましくは0.3〜7.0質量%、更に好ましくは0.5〜5.0質量%、より更に好ましくは0.8〜3.5質量%である。
【0059】
なお、ハンドリング性や基油(A)との溶解性を考慮し、ポリメタクリレート(C)は、希釈油により溶解された溶液の形態で市販されていることが多い。
ここで、(C)成分の希釈油を含む含有量は、タービン油の全量(100質量%)基準で、好ましくは4〜15質量%、より好ましくは4.5〜13質量%、更に好ましくは5〜12質量%である。
しかし、本明細書において、上記「ポリメタクリレート(C)の含有量」は、ポリメタクリレートである樹脂分に換算した含有量である。
【0060】
本発明の一態様のタービン油において、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(C)には該当しないポリマー成分を含有してもよい。
このようなポリマー成分としては、流動点降下剤として使用される、重量平均分子量5万未満のポリメタクリレート等が挙げられる。
【0061】
<アルキル芳香族化合物(D)>
本発明のタービン油は、アルキル芳香族化合物(D)を含有する。
アルキル芳香族化合物(D)としては、1以上のアルキル基を有する芳香族化合物であればよく、例えば、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、アルキルアントラセン、アルキルフェナントレン、アルキルビフェニル等が挙げられる。
アルキル芳香族化合物(D)は、単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
当該アルキル基の炭素数としては、好ましくは1〜40、より好ましくは1〜35、更に好ましくは4〜30である。
【0062】
本発明の一態様で用いるアルキル芳香族化合物(D)の100℃における動粘度としては、好ましくは2.0〜7.0mm/s、より好ましくは2.5〜6.0mm/s、更に好ましくは3.0〜5.5mm/s、より更に好ましくは3.5〜5.2mm/sである。
【0063】
本発明の一態様で用いるアルキル芳香族化合物(D)の粘度指数としては、好ましくは−50〜120、より好ましくは−45〜100、更に好ましくは−40〜90、より更に好ましくは−38〜85である。
【0064】
本発明のタービン油において、成分(C)の樹脂分換算での全量100質量部に対する、アルキル芳香族化合物(D)の含有量は、1000質量部以下である。
ここで、当該含有量が1000質量部超であると、低温粘度特性が著しく低下すると共に、高温環境下で生じ得るコーキング量も増大してしまう。
【0065】
低温粘度特性の低下を抑制すると共に、要件(2)を満たすタービン油に調製する観点から、アルキル芳香族化合物(D)の含有量は、成分(C)の樹脂分換算での全量100質量部に対して、好ましくは900質量部以下、更に好ましくは800質量部以下、より更に好ましくは700質量部以下である。
また、要件(2)を満たすタービン油に調製する観点から、アルキル芳香族化合物(D)の含有量は、成分(C)の樹脂分換算での全量100質量部に対して、好ましくは100質量部以上、より好ましくは110質量部以上、更に好ましくは130質量部以上、より更に好ましくは150質量部以上である。
【0066】
本発明の一態様のタービン油において、上記観点から、アルキル芳香族化合物(D)の含有量は、当該タービン油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.1〜17質量%、より好ましくは1.5〜15質量%、更に好ましくは2.0〜13質量%、より更に好ましくは2.5〜11質量%である。
【0067】
<他の添加剤>
本発明の一態様のタービン油は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の成分(B)〜(D)以外の他の添加剤を含有してもよい。
このような添加剤としては、例えば、極圧剤、消泡剤、摩擦調整剤、耐摩耗剤、防錆剤、及び金属不活性化剤等が挙げられる。
これらの添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
これらの添加剤を配合する場合、添加剤のそれぞれの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、添加剤の種類に応じて適宜調整されるが、タービン油の全量(100質量%)基準で、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜2質量%である。
【0069】
本発明の一態様のタービン油において、上記要件(2)を満たすタービン油に調製する観点から、金属原子含有化合物の含有量は、少ない方が好ましい。
ここで、「金属原子含有化合物」が含有する金属原子とは、アルカリ金属原子、アルカリ土類原子、遷移金属原子を指す。
【0070】
本発明の一態様のタービン油において、金属原子の含有量としては、上記要件(2)を満たすタービン油に調製する観点から、当該タービン油の全量(100質量%)基準で、好ましくは100質量ppm未満、より好ましくは50質量ppm未満、更に好ましくは10質量ppm未満である。
本明細書において、金属原子の含有量は、JPI−5S−38−92に準拠して測定した値を意味する。
【0071】
本発明の一態様のタービン油において、上記要件(2)を満たすタービン油に調製する観点から、無灰系分散剤の含有量は少ない方が好ましい。
本発明の一態様のタービン油において、無灰系分散剤の含有量としては、当該タービン油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.1質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくは0.001質量%未満である。
ここで、無灰系分散剤としては、例えば、コハク酸イミド、コハク酸エステル、ベンジルアミン、ポリアミンが挙げられる。
【0072】
〔タービン油の製造方法〕
本発明のタービン油の製造方法としては、下記工程(I)を有する製造方法が挙げられる。
・工程(I):ポリオールエステル(A1)を含む基油(A)に、アミン系酸化防止剤(B1)を含む酸化防止剤(B)、重量平均分子量5万〜60万のポリメタクリレート(C)、及びアルキル芳香族化合物(D)を少なくとも配合する工程。
【0073】
工程(I)において、必要に応じて、上述の成分(B)〜(D)以外の他の添加剤を配合してもよい。
工程(I)において、各成分を配合後、適宜昇温して、十分に撹拌することが好ましい。
なお、成分(A)〜(D)の好適な化合物の構造、物性値や、各成分の配合量(含有量)等は、上述のタービン油の項目に記載のとおりである。
また、工程(I)を経て得られるタービン油は、上述の要件(1)及び(2)を満たすものであり、当該要件以外の当該タービン油の各種性状、物性値等についても、上述の記載のとおりである。
【0074】
〔本発明のタービン油の用途、使用方法〕
本発明のタービン油は、航空機に搭載されるジェットエンジンのような高温環境下で使用した場合でも油膜を保持できるほどに高粘度指数であって、且つ、優れた耐熱性を有しつつも、低温粘度特性にも優れる。
そのため、本発明のタービン油は、航空機に搭載されるジェットエンジンに用いられることが好ましい。
【0075】
すなわち、本発明は、下記のタービン油の使用方法も提供し得る。
ポリオールエステル(A1)を含む基油(A)、アミン系酸化防止剤(B1)を含む酸化防止剤(B)、重量平均分子量5万〜60万のポリメタクリレート(C)、及びアルキル芳香族化合物(D)を含み、成分(C)の樹脂分換算での全量100質量部に対する成分(D)の含有量が250質量部以下であり、下記要件(1)〜(2)を満たすタービン油を、ジェットエンジン内のタービンの潤滑に用いる、タービン油の使用方法。
・要件(1):粘度指数が140以上である。
・要件(2):Fed. Test Method Std. 791−3462に準拠し、パネル温度320℃、油温130℃の条件下で、スプラッシュ時間15秒及び停止時間30秒から1サイクルを連続的に6時間行ったパネルコーキング試験後におけるコーキング量が80mg以下である。
【0076】
なお、上記のタービン油の使用方法において、成分(A)〜(D)の好適な化合物の構造、物性値や、各成分の配合量(含有量)等は、上述のタービン油の項目に記載のとおりであり、タービン油が満たす要件(1)及び(2)の詳細、並びに、タービン油の各種性状、物性値等についても、上述の記載のとおりである。
【0077】
また、本発明のタービン油は、ジェットエンジン以外にも、例えば、ポンプ、真空ポンプ、送風機、ターボ圧縮機、蒸気タービン、原子力タービン、ガスタービン、水力発電用タービン等のターボ機械の潤滑に用いられるターボ機械用潤滑油(ポンプ油、タービン油等);回転式圧縮機、往復動式圧縮機等の圧縮機の潤滑に用いられる軸受油、ギヤ油及び制御系作動油;油圧機器に用いられる油圧作動油;工作機械の油圧ユニットに用いられる工作機械用潤滑油;等としても好適に使用し得る。
【実施例】
【0078】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0079】
[各種物性値の測定方法]
(1)40℃及び100℃における動粘度、粘度指数
JIS K2283に準拠して測定又は算出した。
(2)金属原子の含有量
JPI−5S−38−92に準拠して測定した。
(3)−40℃におけるBF粘度
ASTM D2983に準拠して測定した(単位:mPa・s)。
(4)重量平均分子量(Mw)
ゲル浸透クロマトグラフ装置(アジレント社製、「1260型HPLC」)を用いて、下記の条件下で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「Shodex LF404」を2本、順次連結したもの。
・カラム温度:35℃
・展開溶媒:クロロホルム
・流速:0.3mL/min
【0080】
実施例1〜4、比較例1〜6
基油(A)、酸化防止剤(B)、ポリメタクリレート(C)、アルキル芳香族化合物(D)、及び他の添加剤を、表1に示す配合量にて配合し、十分に混合して、タービン油をそれぞれ調製した。
なお、タービン油の調製に使用した、基油、酸化防止剤、ポリメタクリレート、アルキル芳香族化合物、及び他の添加剤の詳細は、以下のとおりである。
【0081】
<基油(A)>
・ポリオールエステル(a−1):ペンタエリスリトールテトラエステル(ペンタエリスリトールとC5〜C10カルボン酸との完全エステル)。40℃動粘度=23.41mm/s、100℃動粘度=4.872mm/s、粘度指数=135。
<酸化防止剤(B)>
・アミン系酸化防止剤(b1−1):N−(オクチルフェニル)−α−ナフチルアミン、成分(B11)に相当する化合物、窒素原子含有量=4.2質量%。
・アミン系酸化防止剤(b1−2):ジ(p−オクチルフェニル)アミン、前記一般式(b−2)中のRB1及びRB2がオクチル基である成分(B12)に相当する化合物、窒素原子含有量=3.6質量%。
<ポリメタクリレート(C)>
・PMA(c−1):Mw20万の非分散型ポリメタクリレート、Mw/Mn=2.7、樹脂分含有量=28.2質量%
・PMA(c−2):Mw42万の非分散型ポリメタクリレート、Mw/Mn=2.9、樹脂分含有量=30.5質量%
・PMA(c−3):Mw38万の非分散型ポリメタクリレート、Mw/Mn=3.4、樹脂分含有量=16.5質量%
・PMA(c−4):Mw40万の非分散型ポリメタクリレート、Mw/Mn=2.3、樹脂分含有量=20.1質量%
<アルキル芳香族化合物(D)>
・アルキルベンゼン(d−1):100℃における動粘度=4.25mm/s、粘度指数=−34。
・アルキルナフタレン(d−2):100℃における動粘度=4.75mm/s、粘度指数=77。
<他の添加剤>
・極圧剤と金属不活性化剤からなる添加剤混合物。
【0082】
調製したタービン油について、40℃及び100℃における動粘度、粘度指数、及び−40℃におけるBF粘度を上述の方法に基づき測定又は算出すると共に、以下のパネルコーキング試験を行い、コーキング量を測定した。これらの結果を表1に示す。
[パネルコーキング試験]
Fed. Test Method Std. 791−3462に準拠し、パネルコーキング試験機を用いて、パネル温度320℃、油温130℃の条件下で、スプラッシュ時間15秒及び停止時間30秒を1サイクルとして、連続的に6時間の試験を行った。試験終了後にパネルに付着したコーキング量を測定した。コーキング量が少ないほど、耐熱性に優れたタービン油であるといえる。
【0083】
【表1】
【0084】
表1より、実施例1〜4で調製したタービン油は、高粘度指数であって、低温粘度特性にも優れると共に、コーキング量が少なく、耐熱性も良好であることが分かる。
一方、比較例1で調製したタービン油は、ポリメタクリレートを含有していないため、粘度指数が低く、高温環境下での油膜形成が不十分との懸念がある。
また、比較例2〜5で調製したタービン油は、粘度特性は良好であるものの、コーキング量が実施例で調製したものと比べて多く、耐熱性に問題がある。
さらに、比較例6で調製したタービン油は、耐熱性にも問題があるが、さらに低温粘度特性も劣る結果となった。