特許第6885657号(P6885657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6885657樹脂組成物、ヒートシール剤、液体包装容器用フィルム、液体包装容器、液体排出部材および医療容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885657
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、ヒートシール剤、液体包装容器用フィルム、液体包装容器、液体排出部材および医療容器
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20210603BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20210603BHJP
   C08F 297/04 20060101ALI20210603BHJP
   C08F 10/06 20060101ALI20210603BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20210603BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20210603BHJP
   B65D 30/02 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   C08L23/10
   C08L53/00
   C08F297/04
   C08F10/06
   B32B27/32 Z
   C08J5/00CEQ
   C08J5/00CES
   B65D30/02
【請求項の数】25
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2018-506012(P2018-506012)
(86)(22)【出願日】2017年3月16日
(86)【国際出願番号】JP2017010715
(87)【国際公開番号】WO2017159800
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2020年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-53153(P2016-53153)
(32)【優先日】2016年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(72)【発明者】
【氏名】野島 裕介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 壱
(72)【発明者】
【氏名】大下 晋弥
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/104068(WO,A1)
【文献】 特開2013−122055(JP,A)
【文献】 特開2002−036433(JP,A)
【文献】 特開2010−106200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/10
B32B 27/32
B65D 30/02
C08F 10/06
C08F 297/04
C08J 5/00
C08L 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂(a)と水添ブロック共重合体(b)とを含有する樹脂組成物であって、
前記水添ブロック共重合体(b)が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(A)と、イソプレンに由来する構造単位、またはイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(B)とを含むブロック共重合体の水素添加物であり、前記イソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位においては、それらの混合比率[イソプレン/ブタジエン](質量比)が5/95〜95/5であり、かつ、該水添ブロック共重合体(b)のガラス転移温度が−50〜−35℃であり、
前記ポリプロピレン系樹脂(a)が連続相をなし、前記水添ブロック共重合体(b)が島状の分散相をなしており、該分散相を形成する島において、その長軸方向の長さが500nm以上の島が存在し、
さらに、前記ポリプロピレン系樹脂(a)を被着体とし、前記水添ブロック共重合体(b)を接着層としたときのJIS K 6850(1999年)に準じて測定した引張せん断接着強さが1.0MPa以上である樹脂組成物。
【請求項2】
下記式(1)を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
2.5℃≦|tp(a)−tp(ab)|≦12℃ (1)
[tp(a):ポリプロピレン系樹脂(a)単独における、ポリプロピレン系樹脂(a)由来のTanδピークトップ温度(℃)
tp(ab):ポリプロピレン系樹脂(a)/水添ブロック共重合体(b)=70/30(質量比)で混練したポリプロピレン系樹脂(a)と水添ブロック共重合体(b)のみからなる樹脂組成物における、ポリプロピレン系樹脂(a)由来のTanδピークトップ温度(℃)]
【請求項3】
ポリプロピレン系樹脂(a)と水添ブロック共重合体(b)との合計に対するポリプロピレン系樹脂(a)の含有割合[(a)/{(a)+(b)}](質量比)が50/100〜95/100である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記水添ブロック共重合体(b)の島相が、MD方向(流れ方向)に大きな切れ目がなく線状に伸びているモルフォロジーを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(A’)と、イソプレンに由来する構造単位、ブタジエンに由来する構造単位、またはイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(B’)とを含むブロック共重合体の水素添加物であり、かつ、ガラス転移温度が、−60℃以上−50℃未満または−35℃を超えて−5℃以下である水添ブロック共重合体(b’)をさらに含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記水添ブロック共重合体(b)における重合体ブロック(A)の含有量が3〜35質量%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記水添ブロック共重合体(b)の水素添加率が80モル%以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記水添ブロック共重合体(b)の重量平均分子量が20,000〜500,000である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記重合体ブロック(B)が、イソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリプロピレン系樹脂(a)が、プロピレンに由来する構造単位を60モル%以上含有し、かつ、230℃、荷重21.6Nの条件下におけるメルトフローレートが0.1〜70g/10分である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
ポリプロピレン系樹脂(a)が、ホモポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテンランダム共重合体、プロピレン−ペンテンランダム共重合体、プロピレン−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−オクテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ペンテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ヘキセンランダム共重合体、およびこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
ポリプロピレン系樹脂(a)および水添ブロック共重合体(b)の合計含有量が90質量%以上である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
ヤング率が650MPa以下である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含有してなるヒートシール剤。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含有してなる液体包装容器用フィルム。
【請求項16】
請求項15に記載の液体包装容器用フィルムから形成される液体包装容器。
【請求項17】
内層と外層とを有する2層以上の積層体からなる液体包装容器であって、
内層が、請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなり、
外層が、プロピレンに由来する構造単位の含有量が60モル%以上であるポリプロピレン系樹脂を55質量%以上含有する樹脂組成物(Y)からなる、液体包装容器。
【請求項18】
内層と外層との間に中間層を有する3層以上の積層体からなる液体包装容器であって、
内層および中間層からなる群から選択される少なくとも一方が、請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなり、
外層が、プロピレンに由来する構造単位の含有量が60モル%以上であるポリプロピレン系樹脂を55質量%以上含有する樹脂組成物(Y)からなる、液体包装容器。
【請求項19】
内層と外層とを有する2層以上の積層体からなる液体包装容器であって、内層及び外層からなる群から選択される少なくとも1つが請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる、液体包装容器。
【請求項20】
内層と外層との間に中間層を有する3層以上の積層体からなる液体包装容器であって、外層が請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる、液体包装容器。
【請求項21】
前記樹脂組成物(Y)が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(A’)と、イソプレンに由来する構造単位、ブタジエンに由来する構造単位、またはイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(B’)とを含むブロック共重合体の水素添加物であり、かつ、ガラス転移温度が−60℃以上−50℃未満または−35℃を超えて−5℃以下である水添ブロック共重合体(b’)を含有する、請求項17または18に記載の液体包装容器。
【請求項22】
前記各層の厚みが、内層5〜50μm、中間層100〜300μm、外層10〜120μmの範囲である、請求項18または20に記載の液体包装容器。
【請求項23】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含有してなる液体排出部材。
【請求項24】
請求項23に記載の液体排出部材を備えた、請求項16〜22のいずれか1項に記載の液体包装容器。
【請求項25】
請求項16〜22および24のいずれか1項に記載の液体包装容器を有する医療容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、ヒートシール剤、液体包装容器用フィルム、液体包装容器、液体排出部材および医療容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用の液体包装容器、例えば輸液バッグとしては、ガラス製のものやプラスチック製のものなどが用いられている。輸液バッグに注入された薬液は、密封された後、一般的には水蒸気滅菌やオートクレーブ滅菌等の方法によって滅菌される。ガラス製のものはプラスチック製のものに比べて重く、且つ輸送時の衝撃や落下等によって破損し易いという問題があるため、プラスチック製の輸液バッグが広く用いられている。
プラスチック製の輸液バッグとしては、軟質塩化ビニル樹脂製のものや、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン製のものが用いられてきた。しかし、軟質塩化ビニル樹脂製の輸液バッグは、柔軟性を付与するために多量の可塑剤を含有させるため、輸液の種類によっては可塑剤が輸液中に溶出するおそれがあり、安全性の面で指摘されている。また、医療用具は使い捨てされるため、軟質塩化ビニル樹脂製の輸液バッグも使用後には焼却されるが、軟質塩化ビニル樹脂に起因する有毒ガスが発生するという問題がある。また、ポリオレフィン製の輸液バッグは、可塑剤を含まないために衛生面で好ましいが、ポリエチレン製のものは柔軟性に優れる一方で滅菌処理時の耐熱性に劣り、ポリプロピレン製のものは滅菌処理時の耐熱性には優れる一方で柔軟性が低いと共に耐衝撃性が不十分であるため、これらは取り扱い性の点で充分とはいえない。
そこで、柔軟性、シール性および耐ブロッキング性を改善することを課題として、結晶性ポリプロピレン系樹脂50〜98質量%、特定のエチレン−α−オレフィン共重合体1〜49質量%、および特定の水添ブロック共重合体1〜49質量%を含むポリプロピレン系樹脂組成物をシール層(内層)として用いた医療用多層フィルムが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1の実施例ではエチレン−α−オレフィン共重合体の含有量を一律5質量%以下に調整されているが、エチレン−α−オレフィン共重合体の含有量がこの程度であるポリプロピレン系樹脂組成物を輸液バッグ等の医療容器の中間層の材料とした場合、衝撃や落下等によって液体包装容器が破損し易いという問題、および特許文献1の実施例で用いているシール層(内層)の材料では、内層膠着のおそれが高いという問題があった。そのため、以前、本発明者らは、良好な柔軟性、透明性、高いヒートシール強度、低温(例えば−10℃〜10℃程度)および常温(例えば15℃〜30℃程度)における高い破袋強度、並びに低い内層膠着性を有する液体包装容器を提供することを課題として、特定のポリプレピレン系樹脂(1)100質量部、特定の熱可塑性エラストマー(2)5〜95質量部、および特定のエチレン−α−オレフィン共重合体(3)10〜95質量部を含有する樹脂組成物を液体包装容器の中間層として用いることを提案した(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−149861号公報
【特許文献2】国際公開第2015/156334号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等のさらなる検討によると、特許文献2に記載の液体包装容器は確かに前記課題を解決し得るものではあるものの、柔軟性と、寒冷地での輸送の際に重要な低温耐衝撃性とを高い水準で両立させることは容易ではなく、柔軟性を高めようとすると低温耐衝撃性が不十分となり、低温耐衝撃性を高めようとすると柔軟性が不十分となる傾向にあることが判明した。
一方、液体包装容器に取り付ける液体排出部材は、液体包装容器に高温でヒートシールすることによって取り付けられるが、ヒートシール温度が高いと液体包装容器が薄肉化してしまう傾向にあり、これが原因で破袋強度が低下することが分かった。そのため、液体包装容器の材料開発とは別に、ヒートシール温度を低下させても高いヒートシール強度を有する液体排出部材の材料開発も切望されている。
そこで、本発明の課題は、高い柔軟性と低温耐衝撃性とを両立し、低温ヒートシール強度に優れ、且つ破袋強度にも優れる液体包装容器を与え得る樹脂組成物を提供すること、該樹脂組成物を含有してなるヒートシール剤および液体包装容器用フィルムを提供すること、該液体包装容器用フィルムから形成される液体包装容器、該樹脂組成物を用いて得られる液体包装容器および液体排出部材、並びに該液体包装容器を有する医療容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、ポリプロピレン系樹脂(a)と、特定のガラス転移温度の水添ブロック共重合体(b)とを含有する樹脂組成物であって、該ポリプロピレン系樹脂(a)を被着体とし、該水添ブロック共重合体(b)を接着層としたときの引張せん断接着強さが所定値以上である樹脂組成物を用いることにより、上記課題を解決し得ることが判明し、本発明に至った。
【0006】
本発明は、下記[1]〜[24]に関するものである。
[1]ポリプロピレン系樹脂(a)と水添ブロック共重合体(b)とを含有する樹脂組成物であって、
前記水添ブロック共重合体(b)が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(A)と、イソプレンに由来する構造単位、ブタジエンに由来する構造単位、またはイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(B)とを含むブロック共重合体の水素添加物であり、かつ、該水添ブロック共重合体(b)のガラス転移温度が−50〜−35℃であり、
さらに、前記ポリプロピレン系樹脂(a)を被着体とし、前記水添ブロック共重合体(b)を接着層としたときのJIS K 6850(1999年)に準じて測定した引張せん断接着強さが1.0MPa以上である樹脂組成物。
[2]下記式(1)を満たす、上記[1]の樹脂組成物。
2.5℃≦|tp(a)−tp(ab)|≦12℃ (1)
[tp(a):ポリプロピレン系樹脂(a)単独における、ポリプロピレン系樹脂(a)由来のTanδピークトップ温度(℃)
tp(ab):ポリプロピレン系樹脂(a)/水添ブロック共重合体(b)=70/30(質量比)で混練したポリプロピレン系樹脂(a)と水添ブロック共重合体(b)のみからなる樹脂組成物における、ポリプロピレン系樹脂(a)由来のTanδピークトップ温度(℃)]
[3]ポリプロピレン系樹脂(a)と水添ブロック共重合体(b)との合計に対するポリプロピレン系樹脂(a)の含有割合[(a)/{(a)+(b)}](質量比)が50/100〜95/100である、上記[1]または[2]の樹脂組成物。
[4]前記ポリプロピレン系樹脂(a)が連続相をなし、前記水添ブロック共重合体(b)が島状の分散相をなしており、該分散相を形成する島において、その長軸方向の長さが500nm以上の島が存在する、上記[1]〜[3]のいずれかの樹脂組成物。
[5]芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(A’)と、イソプレンに由来する構造単位、ブタジエンに由来する構造単位、またはイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(B’)とを含むブロック共重合体の水素添加物であり、かつ、ガラス転移温度が、−60℃以上−50℃未満または−35℃を超えて−5℃以下である水添ブロック共重合体(b’)をさらに含有する、上記[1]〜[4]のいずれかの樹脂組成物。
[6]前記水添ブロック共重合体(b)における重合体ブロック(A)の含有量が3〜35質量%である、上記[1]〜[5]のいずれかの樹脂組成物。
[7]前記水添ブロック共重合体(b)の水素添加率が80モル%以上である、上記[1]〜[6]のいずれかの樹脂組成物。
[8]前記水添ブロック共重合体(b)の重量平均分子量が20,000〜500,000である、上記[1]〜[7]のいずれかの樹脂組成物。
[9]前記重合体ブロック(B)が、ブタジエンに由来する構造単位、またはイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とする、上記[1]〜[8]のいずれかの樹脂組成物。
[10]前記ポリプロピレン系樹脂(a)が、プロピレンに由来する構造単位を60モル%以上含有し、かつ、230℃、荷重21.6Nの条件下におけるメルトフローレートが0.1〜70g/10分である、上記[1]〜[9]のいずれかの樹脂組成物。
[11]ポリプロピレン系樹脂(a)が、ホモポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテンランダム共重合体、プロピレン−ペンテンランダム共重合体、プロピレン−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−オクテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ペンテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ヘキセンランダム共重合体、およびこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]〜[10]のいずれかの樹脂組成物。
[12]ヤング率が650MPa以下である、上記[1]〜[11]のいずれかの樹脂組成物。
[13]上記[1]〜[12]のいずれかの樹脂組成物を含有してなるヒートシール剤。
[14]上記[1]〜[12]のいずれかの樹脂組成物を含有してなる液体包装容器用フィルム。
[15]上記[14]の液体包装容器用フィルムから形成される液体包装容器。
[16]内層と外層とを有する2層以上の積層体からなる液体包装容器であって、
内層が、上記[1]〜[12]のいずれかの樹脂組成物からなり、
外層が、プロピレンに由来する構造単位の含有量が60モル%以上であるポリプロピレン系樹脂を55質量%以上含有する樹脂組成物(Y)からなる、液体包装容器。
[17]内層と外層との間に中間層を有する3層以上の積層体からなる液体包装容器であって、
内層および中間層からなる群から選択される少なくとも一方が、上記[1]〜[12]のいずれかの樹脂組成物からなり、
外層が、プロピレンに由来する構造単位の含有量が60モル%以上であるポリプロピレン系樹脂を55質量%以上含有する樹脂組成物(Y)からなる、液体包装容器。
[18]内層と外層とを有する2層以上の積層体からなる液体包装容器であって、内層及び外層からなる群から選択される少なくとも1つが上記[1]〜[12]のいずれかの樹脂組成物からなる、液体包装容器。
[19]内層と外層との間に中間層を有する3層以上の積層体からなる液体包装容器であって、外層が上記[1]〜[12]のいずれかの樹脂組成物からなる、液体包装容器。
[20]前記樹脂組成物(Y)が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(A’)と、イソプレンに由来する構造単位、ブタジエンに由来する構造単位、またはイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(B’)とを含むブロック共重合体の水素添加物であり、かつ、ガラス転移温度が−60℃以上−50℃未満または−35℃を超えて−5℃以下である水添ブロック共重合体(b’)を含有する、上記[16]または[17]の液体包装容器。
[21]前記各層の厚みが、内層5〜50μm、中間層100〜300μm、外層10〜120μmの範囲である、上記[17]または[19]の液体包装容器。
[22]上記[1]〜[12]のいずれかの樹脂組成物を含有してなる液体排出部材。
[23]上記[20]の液体排出部材を備えた、上記[15]〜[21]のいずれかの液体包装容器。
[24]上記[15]〜[21]および[23]のいずれかの液体包装容器を有する医療容器。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い柔軟性と低温耐衝撃性とを両立し、低温ヒートシール強度に優れ、且つ破袋強度(特に低温における破袋強度)にも優れる液体包装容器を与え得る樹脂組成物を提供することができる。また、該樹脂組成物を含有してなるヒートシール剤および液体包装容器用フィルム、該液体包装容器用フィルムから形成される液体包装容器、該樹脂組成物を用いて得られる液体包装容器および液体排出部材、並びに該液体包装容器を有する医療容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】走査型プローブ顕微鏡(SPM)により観察した液体包装容器用フィルムの相構造の画像であり、実施例におけるモルフォロジーの評価Aに相当する。
図2】走査型プローブ顕微鏡(SPM)により観察した液体包装容器用フィルムの相構造の画像であり、実施例におけるモルフォロジーの評価Bに相当する。
図3】走査型プローブ顕微鏡(SPM)により観察した液体包装容器用フィルムの相構造の画像であり、実施例におけるモルフォロジーの評価Cに相当する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、好ましいとする規定は任意に選択でき、好ましいとする規定同士の組み合わせはより好ましいといえる。また、好ましいとする選択肢の中から任意の数の選択肢を選択することができる。
【0010】
[樹脂組成物]
本発明は、ポリプロピレン系樹脂(a)と水添ブロック共重合体(b)とを含有する樹脂組成物であって、
前記水添ブロック共重合体(b)が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(A)と、イソプレンに由来する構造単位、ブタジエンに由来する構造単位、またはイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(B)とを含むブロック共重合体の水素添加物であり、かつ、該水添ブロック共重合体(b)のガラス転移温度が−50〜−35℃であり、
さらに、前記ポリプロピレン系樹脂(a)を被着体とし、前記水添ブロック共重合体(b)を接着層としたときのJIS K 6850(1999年)に準じて測定した引張せん断接着強さが1.0MPa以上の樹脂組成物である。
以下、本発明の樹脂組成物の各成分について順に説明する。
【0011】
〔ポリプロピレン系樹脂(a)〕
ポリプロピレン系樹脂(a)は、プロピレンに由来する構造単位(以下、プロピレン単位と略称することがある。)の含有量が60モル%以上であれば特に制限はなく、公知のポリプロピレン系樹脂を用いることができる。プロピレン単位の含有量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは80〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%、特に好ましくは95〜99モル%である。プロピレン以外に由来する構造単位としては、例えば、エチレンに由来する構造単位、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ノネン、1−デセン等のα−オレフィンに由来する構造単位のほか、後述の変性剤に由来する構造単位なども挙げられる。
【0012】
ポリプロピレン系樹脂(a)としては、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテンランダム共重合体、プロピレン−ペンテンランダム共重合体、プロピレン−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−オクテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ペンテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ヘキセンランダム共重合体、およびこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。該変性物としては、ポリプロピレン系樹脂に変性剤をグラフト共重合して得られるものや、ポリプロピレン系樹脂の主鎖に変性剤を共重合させて得られるものなどが挙げられる。該変性剤としては、例えば、マレイン酸、シトラコン酸、ハロゲン化マレイン酸、イタコン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エンド−シス−ビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸等の不飽和ジカルボン酸;不飽和ジカルボン酸のエステル、アミドまたはイミド;無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ハロゲン化無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、無水エンド−シス−ビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;不飽和モノカルボン酸のエステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等)、アミドまたはイミド等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂(a)としては、変性されていないものが好ましい。
中でも、比較的安価、かつ容易に入手できるという観点から、ホモポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体が好ましく、ホモポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体がより好ましく、プロピレン−エチレンランダム共重合体がさらに好ましい。
ポリプロピレン系樹脂(a)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
ポリプロピレン系樹脂(a)の230℃、21.6Nの条件下におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1〜70g/10分であることが好ましく、1〜30g/10分であることがより好ましく、特に、押出成形する場合は、樹脂組成物の成形性の観点から、0.1〜30g/10分であることが好ましく、1〜20g/10分であることがより好ましく、1〜10g/10分であることがさらに好ましく、射出成形する場合は、樹脂組成物の成形性の観点から、1〜70g/10分であることが好ましく、1〜60g/10分であることがより好ましく、1〜30g/10分であることがさらに好ましい。なお、本明細書および特許請求の範囲に記載の「メルトフローレート」は、JIS K 7210(1999年)に準拠して測定した値である。
また、ポリプロピレン系樹脂(a)の融点は、特に制限されるものではないが、好ましくは120〜180℃、より好ましくは120〜170℃である。本明細書および特許請求の範囲に記載の「融点」は、示差走査熱量計(DSC)「TGA/DSC1 Star System」(Mettler Toledo社製)を用いて、30℃から250℃まで昇温速度10℃/分で加熱して融解させたサンプルを、250℃から30℃まで降温速度10℃/分で冷却後、昇温速度10℃/分で再度30℃から250℃まで昇温した際に測定される吸熱ピークのピークトップ温度である。
【0014】
〔水添ブロック共重合体(b)〕
水添ブロック共重合体(b)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(A)と、イソプレンに由来する構造単位(イソプレン単位)、ブタジエンに由来する構造単位(ブタジエン単位)、またはイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位(イソプレン/ブタジエン単位)を主体とする重合体ブロック(B)とを含むブロック共重合体の水素添加物であり、かつ、該水添ブロック共重合体(b)のガラス転移温度(Tg)は−50〜−35℃である。
以下、重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)について順に説明する。
【0015】
(重合体ブロック(A))
重合体ブロック(A)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする。ここで言う「主体とする」とは、重合体ブロック(A)の合計質量に基づいて芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を50質量%以上含むことをいう。該重合体ブロック(A)中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有量は、樹脂組成物(X)の透明性および機械的特性の観点から、重合体ブロック(A)の合計質量に基づいて、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。
上記芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,6−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチル−o−メチルスチレン、α−メチル−m−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、β−メチル−o−メチルスチレン、β−メチル−m−メチルスチレン、β−メチル−p−メチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α−メチル−2,6−ジメチルスチレン、α−メチル−2,4−ジメチルスチレン、β−メチル−2,6−ジメチルスチレン、β−メチル−2,4−ジメチルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、α−クロロ−o−クロロスチレン、α−クロロ−m−クロロスチレン、α−クロロ−p−クロロスチレン、β−クロロ−o−クロロスチレン、β−クロロ−m−クロロスチレン、β−クロロ−p−クロロスチレン、2,4,6−トリクロロスチレン、α−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、α−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、o−t−ブチルスチレン、m−t−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、o−クロロメチルスチレン、m−クロロメチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、o−ブロモメチルスチレン、m−ブロモメチルスチレン、p−ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン等が挙げられる。中でも、製造コストおよび物性バランスの観点から、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンおよびこれらの混合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0016】
但し、本発明の効果の妨げにならない限り、重合体ブロック(A)は芳香族ビニル化合物以外の他の不飽和単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。該他の不飽和単量体としては、例えばブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、イソブチレン、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、メタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、N−ビニルカルバゾール、β−ピネン、8,9−p−メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2−メチレンテトラヒドロフラン等から選択される少なくとも1種が挙げられる。重合体ブロック(A)が該他の不飽和単量体に由来する構造単位を含有する場合の結合形態は特に制限はなく、ランダム、テーパー状のいずれでもよい。
重合体ブロック(A)が芳香族ビニル化合物以外の他の不飽和単量体に由来する構造単位を含有している場合、その含有量は、重合体ブロック(A)の合計質量に基づいて10質量%以下であることが好ましい。
【0017】
重合体ブロック(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは2,500〜100,000、より好ましくは2,500〜50,000、さらに好ましくは3,000〜30,000である。なお、本明細書および請求の範囲に記載の「重量平均分子量」は全て、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
また、重合体ブロック(A)の含有量は、ゴム弾性および柔軟性の観点から、3〜35質量%であることが好ましく、5〜35質量%であることがより好ましく、5〜25質量%であることがさらに好ましく、5〜20質量%であることが特に好ましく、5〜15質量%であることが最も好ましい。なお、水添ブロック共重合体(b)における重合体ブロック(A)の含有量は、H−NMRスペクトルにより求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0018】
(重合体ブロック(B))
重合体ブロック(B)は、イソプレンに由来する構造単位(イソプレン単位)、ブタジエンに由来する構造単位(ブタジエン単位)、またはイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位(イソプレン/ブタジエン単位)を主体とする。ここで言う「主体とする」とは、重合体ブロック(B)の合計質量に基づいてイソプレン及び/又はブタジエンに由来する構造単位を50質量%以上含むことをいう。該重合体ブロック(B)中のイソプレン及び/又はブタジエンに由来する構造単位の含有量は、重合体ブロック(B)の合計質量に基づいて、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。
重合体ブロック(B)としては、ブタジエンに由来する構造単位、またはイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とするものがより好ましく、イソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とするものがさらに好ましい。
重合体ブロック(B)がイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とする場合、それらの混合比率[イソプレン/ブタジエン](質量比)に特に制限はないが、好ましくは5/95〜95/5、より好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは40/60〜70/30、特に好ましくは45/55〜65/35である。また、それらの結合形態は特に制限はなく、ランダム、テーパー、完全交互、一部ブロック状、ブロック、またはそれらの2種以上の組合せからなることができる。
【0019】
重合体ブロック(B)の重量平均分子量は、柔軟性の観点から、好ましくは10,000〜500,000であり、より好ましくは20,000〜400,000、さらに好ましくは40,000〜300,000、特に好ましくは75,000〜240,000、最も好ましくは85,000〜220,000である。
重合体ブロック(B)においては、ビニル結合構造単位(例えば、ブタジエン単量体の場合は1,2−結合構造単位であり、イソプレン単量体の場合は1,2−結合構造単位と3,4−結合構造単位の合計)の含有量(以下、ビニル結合量と称することがある)は、好ましくは40〜85モル%、より好ましくは40〜80モル%である。特に、重合体ブロック(B)がイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とする場合、好ましくは40〜85モル%、より好ましくは40〜80モル%、さらに好ましくは45〜60モル%、特に好ましくは45〜58モル%、最も好ましくは47〜57モル%であり、重合体ブロック(B)がブタジエンに由来する構造単位を主体とする場合、好ましくは40〜80モル%、より好ましくは60〜80モル%、さらに好ましくは70〜80モル%、特に好ましくは70〜78モル%、最も好ましくは72〜78モル%である。重合体ブロック(B)がイソプレンに由来する構造単位を主体とする場合、好ましくは20〜60モル%、より好ましくは30〜55モル%、さらに好ましくは40〜50モル%である。
【0020】
なお、耐熱性および耐候性の観点から、重合体ブロック(B)が有する炭素−炭素二重結合の80モル%以上が水素添加(以下、水添と略称することがある。)されていることが好ましく、85モル%以上が水添されていることがより好ましく、90モル%以上が水添されていることがさらに好ましく、93モル%以上が水添されていることが特に好ましい。なお、該値を水素添加率(水添率)と称することがある。水素添加率の上限値に特に制限はないが、上限値は99モル%であってもよく、98モル%であってもよい。
なお、上記の水素添加率は、重合体ブロック(B)中の共役ジエン化合物由来の構造単位中の炭素−炭素二重結合の含有量を、水素添加後のH−NMR測定によって求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0021】
さらに、重合体ブロック(B)は、本発明の効果の妨げにならない限り、イソプレン及びブタジエン以外の他の重合性単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。該他の重合性単量体としては、例えば2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等のイソプレン及びブタジエン以外の共役ジエン化合物、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレンおよびビニルアントラセン等の芳香族ビニル化合物、並びにメタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、N−ビニルカルバゾール、β−ピネン、8,9−p−メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2−メチレンテトラヒドロフラン等から選択される少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられる。重合体ブロック(B)が他の重合性単量体に由来する構造単位を含有する場合、その結合形態は特に制限はなく、ランダム、テーパー状のいずれでもよい。
重合体ブロック(B)が他の重合性単量体に由来する構造単位を含有している場合、その含有量は、重合体ブロック(B)の合計質量に基づいて30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
(重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の結合様式)
水添ブロック共重合体(b)は、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とが結合している限りは、その結合形式は特に限定されず、直鎖状、分岐状、放射状、またはこれらの2つ以上が組合わさった結合様式のいずれでもよい。中でも、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の結合形式は直鎖状であることが好ましく、その例としては重合体ブロック(A)をAで、また重合体ブロック(B)をBで表したときに、A−B−Aで示されるトリブロック共重合体、A−B−A−Bで示されるテトラブロック共重合体、A−B−A−B−Aで示されるペンタブロック共重合体、(A−B)nX型共重合体(Xはカップリング剤残基を表し、nは3以上の整数を表す)等を挙げることができる。中でも、トリブロック共重合体(A−B−A)が、水添ブロック共重合体(b)の製造容易性および柔軟性等の観点から好ましく用いられる。
ここで、本明細書においては、同種の重合体ブロックが二官能のカップリング剤等を介して直線状に結合している場合、結合している重合体ブロック全体は一つの重合体ブロックとして取り扱われる。これに従い、上記例示も含め、本来、厳密にはY−X−Y(Xはカップリング残基を表す)と表記されるべき重合体ブロックは、特に単独の重合体ブロックYと区別する必要がある場合を除き、全体としてYと表示される。本明細書においては、カップリング剤残基を含むこの種の重合体ブロックを上記のように取り扱うので、例えば、カップリング剤残基を含み、厳密にはA−B−X−B−A(Xはカップリング剤残基を表す)と表記されるべきブロック共重合体はA−B−Aと表記され、トリブロック共重合体の一例として取り扱われる。
また、水添ブロック共重合体(b)には、本発明の効果を損なわない範囲内で、重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)以外の、他の重合性単量体からなる重合体ブロック(C)が存在していてもよい。この場合、重合体ブロック(C)をCで表したとき、ブロック共重合体の構造としては、A−B−C型トリブロック共重合体、A−B−C−A型テトラブロック共重合体、A−B−A−C型テトラブロック共重合体等が挙げられる。
水添ブロック共重合体(b)において、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の合計含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは実質的に100質量%である。
【0023】
水添ブロック共重合体(b)の重量平均分子量は、好ましくは20,000〜500,000、より好ましくは70,000〜400,000、さらに好ましくは70,000〜300,000、特に好ましくは90,000〜250,000、最も好ましくは130,000〜200,000である。水添ブロック共重合体(b)の重量平均分子量が20,000以上であれば、樹脂組成物の耐熱性が良好となり、一方、500,000以下であれば、樹脂組成物の成形性が良好となる。
また、水添ブロック共重合体(b)の分子量分布(Mw/Mn)に特に制限はないが、得られる樹脂組成物の機械強度の観点から、1.0〜1.4であることが好ましく、1.0〜1.2であることがより好ましい。なお、該分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算分子量として求めたMwおよびMnから算出した値である。
【0024】
水添ブロック共重合体(b)は、本発明の効果を損なわない限り、分子鎖中および/または分子末端に、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基等の官能基を1種または2種以上を有していてもよい。
水添ブロック共重合体(b)の流動性は、樹脂組成物(X)の成形性を向上させる観点から、230℃、21.6Nで測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜100g/10分であることが好ましく、1〜90g/10分であることがより好ましい。特に、押出成形する際の成形性の観点からは0.1〜80g/10分であることが好ましく、1〜50g/10分であることがさらに好ましい。また、射出成形体の低温ヒートシール強度の観点からは、MFRは20〜100g/10分であることが好ましく、40〜100g/10分であることがより好ましく、60〜100g/10分であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明で使用する水添ブロック共重合体(b)としては、高い柔軟性と低温耐衝撃性とを両立し、低温ヒートシール強度に優れ、且つ高い破袋強度を得る観点から、ガラス転移温度が−50〜−35℃の水添ブロック共重合体を用いる。水添ブロック共重合体(b)のガラス転移温度が上記範囲にあることにより、水添ブロック共重合体(b)はポリプロピレン系樹脂(a)との親和性が適切なものとなり、本発明の樹脂組成物は後述するモルフォロジーを有すると考えられる。また、水添ブロック共重合体(b)が−50℃〜−35℃にガラス転移温度を有するため、本発明の樹脂組成物は、低温特性に影響する想定温度域における貯蔵弾性率(E’)が低下し、内部損失(Tanδ)が高くなることも判明した。これにより低温での耐衝撃性および低温での破袋強度がより一層改善されたものと推測する。なお、本明細書において水添ブロック共重合体(b)のガラス転移温度は、水添ブロック共重合体(b)が有する重合体ブロック(B)に由来するガラス転移温度を意味する。
上記観点から、水添ブロック共重合体(b)のTgは、好ましくは−48〜−35℃、より好ましくは−45〜−35℃、さらに好ましくは−45〜−37℃である。
【0026】
高い柔軟性と低温耐衝撃性とを両立し、低温ヒートシール強度に優れ、且つ高い破袋強度を得るためには、前記範囲のTgを有する水添ブロック共重合体(b)を用いながら、且つ、前記ポリプロピレン系樹脂(a)を被着体とし、前記水添ブロック共重合体(b)を接着層としたときのJIS K 6850(1999年)に準じて測定した引張せん断接着強さが1.0MPa以上であることが重要である。同様の観点から、該引張せん断接着強さは、好ましくは1.3MPa以上、より好ましくは1.5MPa以上、より好ましくは1.85MPa以上、さらに好ましくは2.0MPa以上である。該引張せん断接着強さの上限値に特に制限はなく、4.0MPaであってもよく、3.0MPaであってもよく、2.5MPaであってもよい。
なお、引張せん断接着強さは、より詳細には実施例に記載の方法に従って求めたものである。
【0027】
(前記水添ブロック共重合体(b)の製造方法)
水添ブロック共重合体(b)は、溶液重合法、乳化重合法または固相重合法等により製造することができる。中でも溶液重合法が好ましく、例えば、アニオン重合やカチオン重合等のイオン重合法、ラジカル重合法等の公知の方法を適用できる。中でも、アニオン重合法が好ましい。アニオン重合法では、溶媒、アニオン重合開始剤、および必要に応じてルイス塩基の存在下、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物を逐次添加して、ブロック共重合体を得、次いでブロック共重合体を水素添加することにより、水添ブロック共重合体(b)を得ることができる。
【0028】
上記方法において重合開始剤として用いられる有機リチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、ペンチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等のモノリチウム化合物およびテトラエチレンジリチウム等のジリチウム化合物等が挙げられる。
溶媒としては、アニオン重合反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ペンタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。また、重合反応は、通常、0〜100℃で0.5〜50時間行う。
ルイス塩基は共役ジエン化合物由来の構造単位におけるミクロ構造を制御する役割がある。かかるルイス塩基としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ピリジン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、N−メチルモルフォリン等が挙げられる。ルイス塩基は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記した方法により重合を行った後、アルコール類、カルボン酸類、水等の活性水素化合物を添加して重合反応を停止させ、公知の方法にしたがって不活性有機溶媒中で水添触媒の存在下に水添して、水素添加物とすることができる。
水添反応は、水添触媒の存在下に、反応温度20〜100℃、水素圧力0.1〜10MPaの条件下で行うことができる。
水添触媒としては、例えば、ラネーニッケル;白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ニッケル(Ni)等の金属をカーボン、アルミナ、硅藻土等の担体に担持させた不均一触媒;ニッケル、コバルト等の第8族の金属からなる有機金属化合物とトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物または有機リチウム化合物等の組み合わせからなるチーグラー系の触媒;チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の遷移金属のビス(シクロペンタジエニル)化合物とリチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、亜鉛またはマグネシウム等の有機金属化合物の組み合わせからなるメタロセン系触媒等が挙げられる。
【0030】
このようにして得られた水添ブロック共重合体(b)は、重合反応液をメタノールなどに注ぐことにより凝固させた後、加熱または減圧乾燥させるか、重合反応液を沸騰水中に注ぎ、溶媒を共沸させて除去するいわゆるスチームストリッピングを施した後、加熱または減圧乾燥することにより取得することができる。
【0031】
(ポリプロピレン系樹脂(a)の含有割合)
ポリプロピレン系樹脂(a)と水添ブロック共重合体(b)との合計に対するポリプロピレン系樹脂(a)の含有割合[(a)/{(a)+(b)}](質量比)は、好ましくは50/100〜95/100、より好ましくは55/100〜90/100、さらに好ましくは60/100〜90/100、特に好ましくは65/100〜85/100である。該含有割合が50/100以上であれば、成形性が良好となり易く、一方、95/100以下であれば、柔軟性および透明性が良好となり易い。
【0032】
(その他の成分)
本発明の樹脂組成物は、前記ポリプロピレン系樹脂(a)および水添ブロック共重合体(b)に加えて、本発明の効果が損なわれない範囲において、その他の成分を含有していてもよい。
その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、結晶核剤等の添加剤;水添クマロン・インデン樹脂、水添ロジン系樹脂、水添テルペン樹脂、脂環族系水添石油樹脂等の水添系樹脂;オレフィンおよびジオレフィン重合体からなる脂肪族系樹脂等の粘着付与樹脂;水添ポリイソプレン、水添ポリブタジエン、水添スチレン−ブタジエンランダム共重合体、水添スチレン−イソプレンランダム共重合体、ブチルゴム、ポリイソブチレン、ポリブテン等の他の重合体などが挙げられる。
【0033】
また、本発明の樹脂組成物は、破袋性能(常温および低温)をより向上させる観点から、さらにエチレン−α−オレフィン共重合体(c)(但し、該(c)成分には前記ポリプロピレン系樹脂(a)が含まれない。)を含有してもよい。
エチレン−α−オレフィン共重合体(c)としては、エチレン単量体に由来する構造単位の含有量(以下、エチレン含有量と略称することがある。)が50〜95モル%であれば特に制限はなく、公知のエチレン−α−オレフィン共重合体を用いることができる。
【0034】
前記エチレン−α−オレフィン共重合体としては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ヘプテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ノネン共重合体、エチレン−1−デセン共重合体等や、これらの変性物等が挙げられる。該変性物としては、これら共重合体に変性剤をグラフト共重合して得られるものや、これら共重合体の主鎖に変性剤を共重合させて得られるものなどが挙げられる。変性剤としては、例えば、マレイン酸、シトラコン酸、ハロゲン化マレイン酸、イタコン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エンド−シス−ビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸等の不飽和ジカルボン酸;不飽和ジカルボン酸のエステル、アミドまたはイミド;無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ハロゲン化無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、無水エンド−シス−ビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;不飽和モノカルボン酸のエステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等)、アミドまたはイミド等が挙げられる。エチレン−α−オレフィン共重合体(c)としては、変性されていないものが好ましい。
【0035】
その他にも、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(A’)と、イソプレンに由来する構造単位、ブタジエンに由来する構造単位、またはイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(B’)とを含むブロック共重合体の水素添加物であり、かつ、ガラス転移温度(Tg)が、−60℃以上−50℃未満または−35℃を超えて−5℃以下である水添ブロック共重合体(b’)が挙げられる。水添ブロック共重合体(b’)のTgは、好ましくは−60℃以上−50℃未満または−35℃を超えて−10℃以下、より好ましくは−58℃以上−52℃以下または−35℃を超えて−10℃以下である。
水添ブロック共重合体(b’)については、ガラス転移温度以外は、前記水添ブロック共重合体(b)の説明と同じように説明される。
【0036】
樹脂組成物が前記水添ブロック共重合体(b’)を含有する場合、水添ブロック共重合体(b)と水添ブロック共重合体(b’)とは互いに相溶しない組み合わせが好ましい。ここでいう「相溶しない」とは、水添ブロック共重合体(b)と水添ブロック共重合体(b’)とのガラス転移温度の差が好ましくは6℃以上であることを意味する。両者のガラス転移温度の差は、より好ましくは10℃以上である。水添ブロック共重合体(b)と水添ブロック共重合体(b’)とが互いに相溶しない組み合わせであることにより、水添ブロック共重合体(b)と水添ブロック共重合体(b’)は樹脂組成物中でそれぞれ単独分散する傾向が強くなり、所望の効果を有する樹脂組成物を調製しやすい観点から好ましい。
【0037】
樹脂組成物中、ポリプロピレン系樹脂(a)および水添ブロック共重合体(b)の合計含有量は、本発明の効果の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
なお、樹脂組成物が前記水添ブロック共重合体(b’)を含有する場合、水添ブロック共重合体(b’)の含有量は、水添ブロック共重合体(b)と水添ブロック共重合体(b’)の合計量100質量部に対して、好ましくは10〜90質量部、より好ましくは20〜80質量部、さらに好ましくは30〜70質量部、特に好ましくは40〜60質量部である。
また、樹脂組成物が前記エチレン−α−オレフィン共重合体(c)を含有する場合、その含有量としては、樹脂組成物100質量部に対して30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさら好ましい。また、樹脂組成物100質量部に対して1質量部以上含有させることによってエチレン−α−オレフィン共重合体(c)を含有させることによる前記効果が得られ易くなり、同様の観点から、3質量部以上であってもよく、5質量部以上であってもよい。
【0038】
(樹脂組成物の特性)
本発明の樹脂組成物は、高い柔軟性と低温耐衝撃性とを両立し、低温ヒートシール強度に優れ、且つ破袋強度(常温であれば15〜30℃、低温であれば−10〜10℃における破袋強度)にも優れる液体包装容器を与えることができる。その一つの要因として、本発明の樹脂組成物のモルフォロジーが挙げられると考える。本発明の樹脂組成物のモルフォロジー(微細構造)を観察すると、ポリプロピレン系樹脂(a)と水添ブロック共重合体(b)の親和性が適切な範囲であるため、図1のように混ざり過ぎず、また分離し過ぎてはいない相分離構造を有する。そのため、正確な理由は不明であるが、上述のような効果に優れると考えられる。中でも、前記ポリプロピレン系樹脂(a)が連続相をなし、水添ブロック共重合体(b)が島状の分散相をなしており、該分散相を形成する島において、その長軸方向の長さが500nm以上の島が存在するモルフォロジー(微細構造)を有することが特に好ましい。水添ブロック共重合体(b)が長軸方向の長さが500nm以上の島相として存在することにより、水添ブロック共重合体(b)の島相を起点とするボイドが形成され易くなるために該樹脂組成物からなる海相への応力集中を抑制でき、また該樹脂組成物からなる相に亀裂が入ったとしても、その亀裂の進行が前記水添ブロック共重合体(b)の島相により堰き止められるため、低温及び常温での破袋強度により一層優れると推測される。この観点から、水添ブロック共重合体(b)の島相が、がMD方向(流れ方向)に大きな切れ目がなく線状に伸びているモルフォロジーを有することも、より好ましいと考えられる。
前記樹脂組成物中における水添ブロック共重合体(b)の適切な分散径(長軸方向の径)は、要求物性にもよるが、500nm〜10μmが好ましく、500nm〜8μmがより好ましく、500nm〜6μmがさらに好ましい。
樹脂組成物がエチレン−α−オレフィン共重合体(c)を含有する場合、エチレン−α−オレフィン共重合体(c)は水添ブロック共重合体(b)と同様に、モルフォロジー中で島状の分散相を形成することが好ましく、長軸方向の長さが500nm以上の島相として存在することがより好ましい。
【0039】
また、本発明の樹脂組成物は、高い柔軟性と低温耐衝撃性とを両立し、低温ヒートシール強度に優れ、且つ高い破袋強度を得る観点から、下記式(1)を満たすことが好ましい。
2.5℃≦|tp(a)−tp(ab)|≦12℃ (1)
[tp(a):ポリプロピレン系樹脂(a)単独における、ポリプロピレン系樹脂(a)由来のTanδピークトップ温度(℃)
tp(ab):ポリプロピレン系樹脂(a)/水添ブロック共重合体(b)=70/30(質量比)で混練したポリプロピレン系樹脂(a)と水添ブロック共重合体(b)のみからなる樹脂組成物における、ポリプロピレン系樹脂(a)由来のTanδピークトップ温度(℃)]
ここで、|tp(a)−tp(ab)|は、tp(a)とtp(ab)の差の絶対値を表す。
式(1)中の|tp(a)−tp(ab)|の下限値は、好ましくは3.0℃、より好ましくは3.5℃、さらに好ましくは4.0℃である。また、式(1)中の|tp(a)−tp(ab)|の上限値は、好ましくは10.0℃、より好ましくは9.0℃、さらに好ましくは8.0℃である。但し、樹脂組成物が水添ブロック共重合体を2種以上含有する場合は、少なくとも1種の水添ブロック共重合体が上式を満たしていればよい。
【0040】
前述のように、本発明の樹脂組成物では、水添ブロック共重合体(b)がポリプロピレン系樹脂(a)と分離しすぎておらず、程よく混ざっているために、ポリプロピレン系樹脂(a)の内部損失(Tanδ)のピーク温度が、より低温に位置する水添ブロック共重合体(b)のTanδのピーク温度側へシフトする傾向にある。この傾向は、水添ブロック共重合体(b)がポリプロピレン系樹脂(a)と「程よく」混ざっている場合に強くなる。前記式(1)は、その傾向を式で表したものであり、本明細書では、該式から得られる値を、Tanδピークトップシフト値と称することがある。
【0041】
本発明の樹脂組成物のヤング率は、柔軟性の観点から、好ましくは650MPa以下である。
特に、ポリプロピレン系樹脂(a)と水添ブロック共重合体(b)との合計に対するポリプロピレン系樹脂(a)の含有割合[(a)/{(a)+(b)}](質量比)が50/100以上および75/100以下である場合は、柔軟性の観点から、ヤング率は470MPa以下であることがより好ましく、400MPa以下であることがさらに好ましく、380MPa以下であることが特に好ましく、350MPa以下であることが最も好ましく、330MPa以下であってもよい。
また、ポリプロピレン系樹脂(a)と水添ブロック共重合体(b)との合計に対するポリプロピレン系樹脂(a)の含有割合[(a)/{(a)+(b)}](質量比)が75/100を超えて90/100以下である場合は、柔軟性の観点から、ヤング率は650MPa以下であることがより好ましく、600MPa以下であることがさらに好ましい。
ヤング率の下限値に特に制限はないが、上記いずれの説明においても、100MPaであってもよく、150MPaであってもよい。
なお、ヤング率は実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0042】
[ヒートシール剤]
本発明の樹脂組成物は、ヒートシール強度、特に低温ヒートシール強度に優れている。そのため、本発明は、本発明の前記樹脂組成物を含有してなるヒートシール剤も提供する。
ヒートシール剤として用いる際には、例えば、フィルム等の所望の形状に成形してから用いることが好ましい。フィルムの成形方法に特に制限はないが、例えば射出成形、圧縮成形、押出成形等が挙げられる。射出成形または圧縮成形により得られたフィルムであれば低温ヒートシール強度に一段と優れており、圧縮成形により得られたフィルムであればより一段と低温ヒートシール強度に優れる傾向にある。フィルムとする場合、その厚みに特に制限はないが、好ましくは100〜500μm、より好ましくは110〜400μmである。
ヒートシール剤を用いてヒートシールする際の温度は、好ましくは140〜180℃であり、140〜170℃、さらには140〜160℃という低温でもヒートシールが可能である。
ヒートシールの対象物としては、接着性の観点から、好ましくは熱可塑性樹脂組成物を含有してなる成形体であり、より好ましくは、ポリオレフィン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を含有してなる成形体であり、さらに好ましくは、ポリプロピレン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を含有してなる成形体である。該熱可塑性樹脂組成物は、ヒートシール強度、特に低温ヒートシール強度の観点から、水添スチレン系熱可塑性エラストマー等を含有していることが好ましく、本発明の前記樹脂組成物であることがより好ましい。
なお、本発明においては、成形前であるか成形後であるかによらずに、いずれにおいても、前記樹脂組成物を含有してなるものをヒートシール剤と称する。
【0043】
[液体包装容器用フィルムおよび液体包装容器]
本発明の樹脂組成物は、フィルムまたはシート等の成形体とすることができ、該フィルムまたはシートから液体包装容器を製造することができる。つまり、本発明は、本発明の樹脂組成物を含有してなる液体包装容器用フィルムと、該液体包装容器用フィルムから形成される液体包装容器をも提供する。ここで、フィルムとシートとは厚さの違いによって区別されることがあるが、その境界は必ずしも明確ではないため、本発明においては、両者を含む意味で、単に「フィルム」と称することもあるし、「シート」と称することもある。
液体包装容器用フィルムは、単層であってもよいし、多層であってもよい。多層である場合には、少なくとも1層が本発明の樹脂組成物を含有していればよい。
液体包装容器用フィルムの厚みに特に制限はないが、好ましくは100〜500μm、より好ましくは110〜400μmである。
該液体包装容器用フィルムから形成される液体包装容器は、柔軟性、透明性、ヒートシール強度(特に低温ヒートシール強度)および破袋強度を併せ持つ。液体包装容器は、一部が仕切れられた複室包装容器であってもよい。また、この仕切りは、一定の圧力によって開放され、仕切られている複室が1つになるものであってもよい。
【0044】
本発明の液体包装容器の好ましい一態様として、例えば以下の〔I〕〜〔IV〕の液体包装容器が挙げられる。
〔I〕内層と外層とを有する2層以上の積層体からなる液体包装容器であって、
内層が、本発明の樹脂組成物[以下、樹脂組成物(X)と称する。]からなり、
外層が、プロピレンに由来する構造単位の含有量が60モル%以上であるポリプロピレン系樹脂を55質量%以上含有する樹脂組成物(Y)からなる、液体包装容器。
〔II〕内層と外層との間に中間層を有する3層以上の積層体からなる液体包装容器であって、
内層および中間層からなる群から選択される少なくとも一方が、本発明の樹脂組成物(X)からなり、
外層が、プロピレンに由来する構造単位の含有量が60モル%以上であるポリプロピレン系樹脂を55質量%以上含有する樹脂組成物(Y)からなる、液体包装容器。
〔III〕内層と外層とを有する2層以上の積層体からなる液体包装容器であって、内層及び外層からなる群から選択される少なくとも1つが本発明の樹脂組成物(X)からなる、液体包装容器。
〔IV〕内層と外層との間に中間層を有する3層以上の積層体からなる液体包装容器であって、外層が本発明の樹脂組成物(X)からなる、液体包装容器。
これらの液体包装容器は、樹脂組成物(X)からなる層を有することにより、柔軟性、透明性、ヒートシール強度(特に低温ヒートシール強度)および破袋強度を併せ持っている。
以下、〔I〕〜〔IV〕の液体包装容器の各層に用いる材料について説明する。
【0045】
(内層および中間層)
内層は、液体包装容器に液体を入れたときに液体と接することになる層である。中間層は、該内層と、外層との間に位置する層であり、中間層を有していてもいなくてもよいが、より高い破袋強度を得る観点からは有していることが好ましい。
前記〔I〕の液体包装容器においては、該内層は本発明の樹脂組成物(X)からなる。また、前記〔II〕の液体包装容器においては、内層および中間層からなる群から選択される少なくとも一方が、本発明の樹脂組成物(X)からなる。前記〔III〕の液体包装容器においては、内層は樹脂組成物(X)からなっていてもよいし、その他の樹脂からなるものであってもよい。前記〔IV〕の液体包装容器においては、内層および中間層を構成する樹脂については特に限定されないが、樹脂組成物(X)からなっていてもよいし、樹脂組成物(X)以外の樹脂からなるものであってもよい。前記〔IV〕の液体包装容器においては、内層および中間層からなる群から選択される少なくとも一方が、本発明の樹脂組成物(X)からなるものも好ましい一態様であり、内層および中間層いずれもが本発明の樹脂組成物(X)からなるものも好ましい一態様である。
さらに、前記内層を構成する樹脂成分の融点MPinと、前記中間層を構成する樹脂成分の融点MPmidは、下記式
MPin<MPmid
を満たすことが好ましい。
【0046】
(外層)
前記〔I〕および〔II〕の液体包装容器において、外層はプロピレンに由来する構造単位の含有量が60モル%以上であるポリプロピレン系樹脂を55質量%以上含有する樹脂組成物(Y)からなる。
該ポリプロピレン系樹脂は、前記ポリプロピレン系樹脂(a)の説明と同じように説明される。中でも、ポリプロピレン系樹脂のプロピレンに由来する構造単位の含有量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは80〜100モル%、さらに好ましくは85〜100モル%、特に好ましくは90〜100モル%である。
ポリプロピレン系樹脂の融点は130〜180℃であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂の融点が130℃以上であることにより、ヒートシール時のフィルムの肉痩せが抑制される。また、ポリプロピレン系樹脂の融点が180℃以下であることにより、フィルム成形性が良好となる。同様の観点から、ポリプロピレン系樹脂の融点は140〜175℃であることがより好ましく、150〜175℃であることがさらに好ましい。
また、ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテンランダム共重合体、プロピレン−ペンテンランダム共重合体、プロピレン−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−オクテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ペンテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ヘキセンランダム共重合体、およびこれらの変性物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ホモポリプロピレンであることがより好ましい。
【0047】
該樹脂組成物(Y)は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主体とする重合体ブロックと共役ジエン化合物由来の構造単位を主体とする重合体ブロックとを有する水添ブロック共重合体を含有することが好ましい。該水添ブロック共重合体としては、例えば、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(A’)と、イソプレンに由来する構造単位、ブタジエンに由来する構造単位、またはイソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(B’)とを含むブロック共重合体の水素添加物であり、かつ、ガラス転移温度(Tg)が、−60℃以上−50℃未満または−35℃を超えて−5℃以下である水添ブロック共重合体(b’)が挙げられる。該水添ブロック共重合体(b’)については、前述の通りである。
【0048】
樹脂組成物(Y)は、前述の通り、ポリプロピレン系樹脂を55質量%以上含有し、好ましくは60質量%以上含有し、より好ましくは60〜99質量%含有し、さらに好ましくは70〜99質量%、特に好ましくは85〜99質量%含有する。ポリプロピレン系樹脂の含有量が55質量%以上であれば、力学強度および成形性が良好となる傾向にある。
また、樹脂組成物(Y)が前記水添ブロック共重合体(b’)を含有する場合、水添ブロック共重合体(b’)の含有量としては、45質量%未満であり、好ましくは40質量%未満含有し、より好ましくは1質量%超40質量%未満含有し、さらに好ましくは1質量%超30質量%未満含有し、特に好ましくは1質量%超15質量%未満含有する。
樹脂組成物(Y)において、各成分の含有量が上記範囲にあると、透明性、柔軟性および耐熱性が良好となる傾向にある。
【0049】
前記樹脂組成物(Y)は、前記成分以外に、本発明の効果が損なわれない範囲において、その他の成分を含有していてもよい。
該その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、結晶核剤等の添加剤;水添クロマン・インデン樹脂、水添ロジン系樹脂、水添テルペン樹脂、脂環族系水添石油樹脂等の水添系樹脂;オレフィンおよびジオレフィン重合体からなる脂肪族系樹脂等の粘着付与樹脂;水添ポリイソプレン、水添ポリブタジエン、水添スチレン−ブタジエンランダム共重合体、水添スチレン−イソプレンランダム共重合体、ブチルゴム、ポリイソブチレン、ポリブテン等の他の重合体が挙げられる。
なお、樹脂組成物(Y)中、その他の成分の合計含有量は、本発明の効果の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0050】
前記〔III〕の液体包装容器においては、内層と外層のいずれか一方または両方が本発明の樹脂組成物(X)からなっている。また、前記〔IV〕の液体包装容器においては、外層は本発明の樹脂組成物(X)からなる。特に外層に本発明の樹脂組成物(X)を用いることにより、本発明の効果の一つである常温及び低温での破袋強度により一層優れる液体包装容器が得られる。
前記〔I〕〜〔IV〕の液体包装容器を構成する複数の層が本発明の樹脂組成物(X)からなる場合、それらの各層の区別は、樹脂組成物(X)に含まれるポリプロピレン系樹脂(a)及び水添ブロック共重合体(b)の種類や配合量等によって区別することができる。
【0051】
前記〔I〕〜〔IV〕の液体包装容器は、上記構成を満たす限りにおいて、その他の層を構成する成分について特に制限はなく、例えば前記樹脂組成物(X)及び前記樹脂組成物(Y)以外の樹脂からなる層を用いることができる。また、例えば前記〔II〕〜〔IV〕の液体包装容器において、内層や中間層に、樹脂組成物(Y)を用いることもできる。前記〔I〕〜〔IV〕の液体包装容器を構成する複数の層が樹脂組成物(Y)からなる場合、それらの各層の区別は、樹脂組成物(Y)に含まれるポリプロピレン系樹脂の種類や配合量等によって区別することができる。
【0052】
(内層、中間層および外層それぞれの厚み)
前記〔I〕〜〔IV〕の液体包装容器において、前記内層、中間層および外層の厚みに特に制限はなく、用途に応じて適宜調整することができる。内層の厚みは5〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。中間層の厚みは100〜300μmが好ましく、100〜200μmがより好ましく、100〜180μmがさらに好ましい。外層の厚みは10〜120μmが好ましく、15〜80μmがより好ましく、15〜70μmがさらに好ましい。
【0053】
前記内層、中間層、外層の層間や、外層の表面には、本発明の効果を損なわない限り、さらに他の層を有していてもよい。他の層としては、接着層、保護層、コーティング層、光反射層、光吸収層等が挙げられる。
本発明の液体包装容器としては、前記内層と前記中間層とが接していることが好ましく、前記中間層と前記外層とが接していることが好ましい。また、そのような内層、中間層および外層の3層からなる液体包装容器であることが好ましい。
【0054】
(液体包装容器の製造方法)
前記液体包装容器の製造方法としては特に制限はなく、公知の積層体の製造方法を利用して積層体を形成し、次いでヒートシールを行った後、切り離す(切り出す)ことによって液体包装容器とし、医療用途の場合にはさらに滅菌処理される。ここで、前記した各層の材料を用いるとフィルム成形性が良好となるため、フィッシュアイおよび異物などが無いフィルム(積層体)を形成し易いというメリットがある。
積層体の製造方法としては、例えば次の方法が好ましく挙げられる。まず、各層の材料を、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等の混練機を用いて混練して各層の樹脂組成物を調製する。得られた各樹脂組成物を、多層Tダイを用いた共押出し成形や、多層円形Tダイを用いた空冷または水冷インフレーション成形等により、フィルム状またはチューブ状等に成形する。成形時の樹脂温度は、好ましくは150〜300℃、より好ましくは180〜250℃、さらに好ましくは180〜220℃である。空冷または水冷インフレーション成形時の冷却温度は、好ましくは7〜70℃、より好ましくは10〜40℃である。また、液体包装容器の製造容易性の観点からは、チューブ状に成形するのが好ましい。チューブ状の成形体であれば、ヒートシールした後、切り離す(切り出す)ことによって、液体包装容器を製造できる。一方、フィルム状の成形体の場合には、2枚を重ね合わせてからヒートシールする必要がある。
医療用途の場合にはさらに滅菌処理として、水蒸気滅菌、オートクレーブ滅菌等がなされる。オートクレーブ滅菌の場合には、加熱温度は、好ましくは100〜150℃、より好ましくは110〜140℃である。
【0055】
なお、ポート、およびゴム栓等のキャップを含む液体排出部材を有することで、液体包装容器の排出口を有する液体包装容器となり、輸液バッグ等の医療容器として有効に利用される。このように、本発明は、前記液体包装容器を有する医療容器をも提供する。該医療容器は、一部が仕切られた複室容器であってもよい。また、この仕切りは、一定の圧力によって開放され、仕切られている複室が1つになるものであってもよい。
(液体排出部材の材料)
ポートは液体排出部材の一部である。ポートまたは液体排出部材は、液体包装容器用フィルムとのヒートシール強度(低温ヒートシール強度)の観点から、熱可塑性エラストマー組成物を含有してなるものであることが好ましく、スチレン系熱可塑性エラストマー組成物を含有してなるものであることがより好ましく、本発明の前記樹脂組成物(X)を含有してなるものであることがさらに好ましい。
前記熱可塑性エラストマー組成物としては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリブタジエン;ポリイソプレン;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、EPDM等のα−オレフィン系エラストマー;エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA);後述のスチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。前記スチレン系熱可塑性エラストマー組成物としては、公知のスチレン系熱可塑性エラストマーを含有する組成物であれば特に制限はないが、ポリプロピレン系樹脂を含有していることが好ましい。該ポリプロピレン系樹脂としては、前記ポリプロピレン系樹脂(a)と同じものを使用でき、好ましいものも同じである。該ポリプロピレン系樹脂(a)は、シリコーンゴム等によって改質されていてもよい。
前記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレンのトリブロック共重合体の水素添加物(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレンのトリブロック共重合体の水素添加物(SEPS)、スチレン−(イソプレン/ブタジエン)−スチレンのトリブロック共重合体の水素添加物(SEEPS)等が挙げられる。スチレン系熱可塑性エラストマー組成物がポリプロピレン系樹脂を含有する場合、スチレン系熱可塑性エラストマーとポリプロピレン系樹脂の総量に対するスチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは5〜70質量%、さらに好ましくは10〜70質量%である。
ポートまたは液体排出部材は、さらに着色剤等の添加剤を含有してなるものであってもよい。
また、液体排出部材を有する液体包装容器において、液体排出部材の材料は、液体包装容器の材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、(i)液体包装容器が本発明の樹脂組成物(X)を含有してなるものであり、液体排出部材が樹脂組成物(X)以外の熱可塑性エラストマー組成物(またはスチレン系熱可塑性エラストマー組成物)を含有してなるものであってもよいし、(ii)液体包装容器が本発明の樹脂組成物(X)を含有してなるものであり、且つ、液体排出部材が樹脂組成物(X)を含有してなるものであってもよいし、(iii)液体包装容器が本発明の樹脂組成物(X)以外の熱可塑性エラストマー組成物(またはスチレン系熱可塑性エラストマー組成物)を含有してなるものであり、且つ、液体排出部材が樹脂組成物(X)を含有してなるものであってもよい。
【0056】
(液体排出部材の製造方法)
液体排出部材の製造方法に特に制限はないが、通常、射出成形によって製造される。射出成形条件に特に制限はないが、例えば、各成分をドライブレンドしてペレットを製造してから、射出成形機を用いて、シリンダー温度170〜230℃、金型温度10〜50℃、射出速度10〜50mm/秒、射出圧力70〜130MPaという条件にて射出成形することが好ましい。液体排出部材の形状に特に制限はないが、液体の流れ易さの観点から通常は空洞部が円柱状、つまり液体の流動方向に対して垂直方向の断面が円形であることが好ましい。
本発明は、液体排出部材を備えた液体包装容器も提供する。液体排出部材は、通常、液体包装容器にヒートシールによって取り付けられるが、本発明の樹脂組成物を用いることにより、低温ヒートシール強度が高まるため、低温にてヒートシールすることが可能であり、高温でヒートシールする場合に発生し得るフィルムの薄肉化に起因する破袋強度の低下のおそれが小さい。
【0057】
(用途)
以上のように、本発明の樹脂組成物は、液体包装容器の材料のほか、液体包装容器の液体排出部材、特にポートの材料としても有効に利用できる。
また、本発明の液体包装容器は、例えば、前述の医療容器のほか、レトルト食品、マヨネーズ、ケチャップ、清涼飲料水、アイス等を包装する食品包装容器等の種々の用途にも有効に利用できる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されない。なお、実施例および比較例中の各物性は、以下の方法により測定または評価した。
【0059】
[測定または評価方法]
<重量平均分子量(Mw)>
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算分子量として求めた。
・装置:GPC装置「HLC−8020」(東ソ−株式会社製)
・分離カラム:東ソ−株式会社製の「TSKgel GMHXL」、「G4000HXL」および「G5000HXL」を直列に連結した。
・溶離剤:テトラヒドロフラン
・溶離剤流量:1.0ml/分
・カラム温度:40℃
・検出方法:示差屈折率(RI)
【0060】
<水添ブロック共重合体(b)、(b’)における、重合体ブロック(A)、(A’)の含有量、並びに重合体ブロック(B)の水素添加率>
H−NMR測定によって求めた。
・装置:核磁気共鳴装置「Lambda−500」(日本電子株式会社製)
・溶媒:重水素化クロロホルム
【0061】
<水添ブロック共重合体(b)、(b’)における重合体ブロック(B)のビニル結合量(1,2−結合および3,4−結合の合計含有量)>
水素添加前のブロック共重合体のH−NMR測定を測定し、1,2−結合および3,4−結合のピーク面積と1,4−結合のピーク面積の合計に対する1,2−結合および3,4−結合のピーク面積の割合を算出し、ビニル結合量とした。
【0062】
<ガラス転移温度>
セイコー電子工業社製、示差走査型熱量計「DSC6200」を用い、各例で製造した水添ブロック共重合体(b)、(b’)または樹脂組成物を精秤し、10℃/分の昇温速度にて−120℃から100℃まで昇温し、測定曲線の変曲点の温度を読みとり、ガラス転移温度(Tg)とした。
【0063】
<Tanδピークトップシフト値(℃):|tp(a)−tp(ab)|>
各製造例で得た水添ブロック共重合体(b)または(b’)30質量部と、各例で用いたポリプロピレン系樹脂(a)70質量部とからなる樹脂組成物を用いて、実施例1と同じ方法によってフィルムを作製した。該フィルムをMD方向に5mm×20mmのサイズに切り出し、試験片とした。Tanδは、JIS K 7244(1999年)に基づいて、動的粘弾性測定装置(ネッチ・ジャパン社製、DMA 242E Artemis)を用い、引張モード、昇温速度3℃/分、PF(静的荷重/動的荷重)=1.300、目標振幅絶対値30μm、最大動的荷重2.182Nの応力−歪み混合制御モードにて、−120℃から100℃までの貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E’’)を測定し、それらからTanδ(E’’/E’)を算出し、ピークが最大値となる値をtp(ab)とした。昇温過程において3周波数(1Hz、5Hz、10Hz)を15秒/1ポイントでこの順で測定し、10Hzの測定データを用いた。
上記樹脂組成物の代わりに、各例で用いたポリプロピレン系樹脂(a)のみを用いて同様の操作を行い、Tanδ(E’’/E’)を算出し、ピークが最大値となる値をtp(a)とした。
ポリプロピレン系樹脂(a)のみからなるフィルムを評価した場合のピークトップ温度tp(a)と、ポリプロピレン系樹脂(a)と水添ブロック共重合体(b)の混合物からなるフィルムを評価した場合のポリプロピレン系樹脂(a)に由来するピークトップ温度tp(ab)の差|tp(a)−tp(ab)|を求め、これをTanδピークトップシフト値とした。
【0064】
<樹脂組成物のモルフォロジー、分散相を形成する島のサイズ>
走査型プローブ顕微鏡「プローブステーションSPI4000/環境制御型ユニットE−sweep」(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を用いて、層断面のモルフォロジーを観察した。観察試料は、液体窒素を用いてサンプルを凍結した状態で、ガラスナイフを使用してウルトラミクロトームでMD方向に沿って断面を切り出すことによって作製した。観察は、25℃、常圧化、スキャンサイズ5×5μmおよび2×2μmの範囲で、DFMモードで位相像を取得して行った。ここで、図1〜3は、走査型プローブ顕微鏡を用い、液体包装容器用フィルムの内層または中間層を、フィルム製造時の機械方向(MD)に沿って走査して得られた画像である。図1〜3において、1の領域(硬い領域)はポリプロピレン系樹脂(a)に相当し、2の領域(軟らかい領域)は水添ブロック共重合体(b)に相当する。
(モルフォロジー)
5×5μmの範囲のスキャンサイズ内の島相について下記評価基準に従って評価した。
A:図1に示される1a〜1cのいずれかのモルフォロジーを有する。1aは、大きな切れ目がなくMD方向に連なった分散相を有する。1bおよび1cは、島状の分散相と共に、MD方向に連なった分散相とを有する。
B:図2に示されるモルフォロジーを有する。大部分が島状の分散相からなる。
C:図3に示されるモルフォロジーを有する。MD方向に伸びた楕円状の分散相を有する。
(分散相を形成する島のサイズ)
2×2μmの範囲のスキャンサイズ内の島の長軸方向の長さをものさしで計測し、下記評価基準に従って評価した。
A:島のサイズが500nm以上のものが存在する。
B:島のサイズが500nm以上のものが存在しない。
なお、水添ブロック共重合体(b)と水添ブロック共重合体(b’)を併用している場合には、分散相は両者を含んでおり、つまり、島のサイズは、両者を含む分散相から求めた値である。
【0065】
<ポリプロピレン系樹脂(a)と、水添ブロック共重合体(b)または(b’)との間の引張せん断接着強さ>
各例で用いているポリプロピレン系樹脂(a)を被着体(厚み1mm)とし、水添ブロック共重合体(b)または(b’)を接着層(厚み0.5mm)とし、JIS K 6850(1999年)に準じて、試験片の両端に2.6mmのスペーサーを配置し、0.4MPa、30秒、160℃の条件で熱融着させた後、引張速度500mm/分の条件にて引張せん断接着強さを測定した。
なお、水添ブロック共重合体(b)のみを2種以上用いる場合は、それらの混合物を用いて接着層とし、同様に、水添ブロック共重合体(b’)のみを2種以上用いる場合は、それらの混合物を用いて接着層とした。一方、水添ブロック共重合体(b)と水添ブロック共重合体(b’)とを併用する場合(実施例)は、水添ブロック共重合体(b)のみを接着層とした。
【0066】
<低温耐衝撃性>
各例において作製した単層フィルムを用いて、前述の「Tanδピークトップシフト値」に記載のフィルムの測定方法と同じ方法で測定を行い、−25℃におけるE’の値とTanδのピーク強度とを算出し、低温耐衝撃性の指標とした。
E’は小さい方が耐衝撃性に優れることを示しており、E’が2,200MPa以下である場合、−10〜10℃における耐衝撃性が優れるため好ましく、2,000MPa以下である場合、より好ましい。
また、Tanδのピーク強度は大きい方が耐衝撃性に優れることを示しており、該ピーク強度が0.040以上である場合、−10〜10℃における耐衝撃性が優れるため好ましく、0.060以上である場合、より好ましい。
【0067】
<ヤング率>
各例において作製した単層フィルムまたは3層フィルムを用いて、25mm×75mmのサイズの試験片(厚さ200μm)を作製し、「インストロン3345」(インストロン社製)を用いて、常温(23℃)、5mm/分の条件下にてヤング率を測定した。値が小さいほど柔軟性に優れる。
【0068】
<ヒートシール強度>
各例で得た射出シートまたはプレスシートを用いて、150℃または160℃、ゲージ圧0.4MPa、および2秒間の条件下で、比較例18の3層フィルムの内層側とヒートシールを行い、試験片を作製した。この試験片を用いて「インストロン3345」(インストロン社製)にて、300mm/分の条件下にて、180°剥離試験を行った。
【0069】
<破袋強度(常温)>
各例で得た単層フィルムまたは3層フィルムを15cm×9cmの大きさに切り出し、それを2枚用いて重ね合わせ(但し、3層フィルムにおいては内層同士を重ね合わせ)、4辺のうち3辺を、140℃、ゲージ圧0.4MPa(但し、単層フィルムの場合には0.05MPa)、および加熱時間1秒間(但し、単層フィルムの場合には2秒間)の条件下にてヒートシールを行った後、口が開いている1辺から100ccの水を注入し、次いで該1辺を上記同様の条件にてヒートシールを行うことにより、内容量100ccの液体包装容器を作製した。
得られた液体包装容器を鉄板上に23℃の環境下で静置した後、上方から1kg(9.8N)の鉄板を3回落下させた。3cm間隔で同様の測定を行い、非破袋の上限高さを常温における破袋強度の指標とした。値が大きいほど、常温における破袋強度が高いことを示す。
【0070】
<破袋強度(低温)>
上記破袋強度(常温)の評価で作製した液体包装容器を4℃の環境下で鉄板上に静置した後、上方から1kg(9.8N)の鉄板を3回落下させた。2cm間隔で同様の測定を行い、非破袋の上限高さを破袋強度(低温)の指標とした。値が大きいほど、低温における破袋強度が高いことを示す。
【0071】
[実施例で使用した原料重合体]
以下に、実施例および比較例で用いた各成分の詳細または製造方法を示す。また、表1〜3に各成分の物性値を纏める。
【0072】
〔ポリプロピレン系樹脂(a)〕
ポリプロピレン系樹脂(a−1):「ウィンテック(登録商標)WFX4」(日本ポリプロ株式会社製)、プロピレン−エチレンランダム共重合体、MFR7g/10分(230℃、21.6N)、融点125℃
ポリプロピレン系樹脂(a−2):「PT−100」(LCY CHEMICAL社製)、ホモポリプロピレン、MFR1.6g/10分(230℃、21.6N)、融点164℃、プロピレン含有量100モル%
ポリプロピレン系樹脂(a−3):「SB−520Y」(LOTTE CHEMICAL社製)、プロピレン−エチレンランダム共重合体、MFR2.4g/10分(230℃、21.6N)、融点154℃、プロピレン含有量97モル%
ポリプロピレン系樹脂(a−4):「SFC−750D」(LOTTE CHEMICAL社製)、プロピレン−ブテンランダム共重合体、MFR5.8g/10分(230℃、21.6N)、融点130℃、プロピレン含有量90モル%
【表1】
【0073】
〔水添ブロック共重合体(b)、(b’)〕
水添ブロック共重合体(b−1)〜(b−15)および水添ブロック共重合体(b’−1)〜(b’−6):下記製造例1〜21で得た水添ブロック共重合体(b−1)〜(b−15)および水添ブロック共重合体(b’−1)〜(b’−6)を用いた。
【0074】
[製造例1:水添ブロック共重合体(b)の製造]
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50kg、アニオン重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)76g(sec−ブチルリチウム8.0g相当)を仕込み、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン170gを仕込んだ。50℃に昇温した後、スチレン(1)0.5kgを加えて1時間重合させ、引き続いて40℃にてイソプレン8.2kgおよびブタジエン6.5kgの混合液[イソプレン/ブタジエン(質量比)=55/45]を加えて2時間重合を行い、さらに50℃に昇温した後、スチレン(2)1.5kgを加えて1時間重合することにより、ポリスチレン−ポリ(イソプレン/ブタジエン)−ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
この反応液に、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を前記ブロック共重合体に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。
放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、さらに真空乾燥することにより、ポリスチレン−ポリ(イソプレン/ブタジエン)−ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、水添ブロック共重合体(b−1)と称する)を得た。得られた水添ブロック共重合体(b−1)について、物性評価を前記方法に従って行った。その結果を表3に示す。
【0075】
[製造例2〜3および7〜11、13、15:水添ブロック共重合体(b)の製造]
製造例1において、イソプレンとブタジエンの比率(質量比)およびスチレン含有量を表2(1)に記載のとおりに変更したこと以外は、製造例1と同様にして水添ブロック共重合体(b−2)〜(b−3)および(b−7)〜(b−11)、(b−13)、(b−15)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−2)〜(b−3)および(b−7)〜(b−11)、(b−13)、(b−15)について、物性評価を前記方法に従って行った。その結果を表3に示す。
【0076】
[製造例4、5および12:水添ブロック共重合体(b)の製造]
製造例1において、イソプレンとブタジエンの比率(質量比)およびスチレン含有量、ルイス塩基を表2(1)に記載のとおりに変更し、イソプレン/ブタジエンの重合温度を30℃としたこと以外は、製造例1と同様にして水添ブロック共重合体(b−4)、(b−5)、(b−12)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b−4)、(b−5)、(b−12)について、物性評価を前記方法に従って行った。その結果を表3に示す。
【0077】
[製造例6:水添ブロック共重合体(b)の製造]
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50kg、アニオン重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)110g(sec−ブチルリチウム11.6g相当)を仕込み、ルイス塩基としてN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン20gを仕込んだ。50℃に昇温した後、スチレン(1)1.1kgを加えて1時間重合させ、引き続いて30℃にてブタジエン(1)13.6kgを加えて2時間重合を行い、次いで50℃にてスチレン(2)1.1kgを加えて1時間重合し、さらに30℃にてブタジエン(2)0.8kgを加えて2時間重合を行うことにより、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン−ポリブタジエンテトラブロック共重合体を含む反応液を得た。
この反応液に、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を前記ブロック共重合体に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。
放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、さらに真空乾燥することにより、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン−ポリブタジエンテトラブロック共重合体の水素添加物(以下、水添ブロック共重合体(b−6)と称する)を得た。水添ブロック共重合体(b−6)について、物性評価を前記方法に従って行った。その結果を表3に示す。
【0078】
[製造例14:水添ブロック共重合体(b)の製造]
製造例1において、イソプレン8.2kgおよびブタジエン6.5kgの混合液を加えて2時間重合を行った後にスチレンを30g加えて30分重合し、分子量確認用にサンプリングした後、カップリング剤である安息香酸メチルを加えて1時間カップリング反応を行ってブロック共重合体を含む反応液を得たこと、および各試薬の使用量を表2(1)に記載のとおりに変更したこと以外は同様にして操作を行い、水添ブロック共重合体(b−15)を製造した。水添ブロック共重合体(b−15)の物性測定結果を表3に示す。
【0079】
[製造例16〜20、22および23:水添ブロック共重合体(b’)の製造]
製造例1において、イソプレンとブタジエンの比率(質量比)およびスチレン含有量を表2(2)に記載のとおりに変更したこと以外は、製造例1と同様にして水添ブロック共重合体(b’−1)〜(b’−5)、(b’−7)および(b’−8)を製造した。得られた水添ブロック共重合体(b’−1)〜(b’−5)、(b’−7)および(b’−8)について、物性評価を前記方法に従って行った。その結果を表3に示す。
【0080】
[製造例21:水添ブロック共重合体(b’)の製造]
製造例1において、イソプレン14.5kgを加えて2時間重合を行った後にスチレンを30g加えて30分重合し、分子量確認用にサンプリングした後、カップリング剤である安息香酸メチルを加えて1時間カップリング反応を行ってブロック共重合体を含む反応液を得たこと、および各試薬の使用量を表2(2)に記載のとおりに変更したこと以外は同様にして操作を行い、水添ブロック共重合体(b’−6)を製造した。水添ブロック共重合体(b’−6)の物性測定結果を表3に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
〔エチレン−α−オレフィン共重合体(c)〕
エチレン−α−オレフィン共重合体(c−1):「タフマー(登録商標)P−0775」(三井化学株式会社製)、エチレン−プロピレンランダム共重合体、MFR0.6g/10分(230℃、21.6N)、融点43℃、エチレン含有量56モル%
【0084】
[実施例1〜18、比較例1〜9:単層フィルムの製造]
表4に示す配合割合で、各成分を溶融単軸混練して樹脂組成物を作製した。
次いで、水冷式下向インフレーション成形機を用いて、樹脂温度200℃、冷却水温度20℃、ライン速度10m/分の条件で、厚さ200μmの単層の液体包装容器用フィルムを成形した。得られたフィルムを用いて、前記方法に従って各評価および測定を行った。結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
実施例で得られた樹脂組成物は高い成形性を有しており、且つ、表4より、実施例のフィルムは、高い柔軟性と低温耐衝撃性とを両立していることがわかる。さらに、実施例のフィルムは、常温および低温での破袋強度に優れており、特に低温における破袋強度が大きく改善されていると言える。
比較例で得られた樹脂組成物は、高い成形性を有しているが、比較例のフィルムは、柔軟性と低温耐衝撃性の少なくとも一方が不十分であり、且つ破袋強度、特に低温における破袋強度に乏しいことがわかる。
【0087】
[実施例19〜32、比較例10〜15:射出シートの製造]
表5に示す配合割合で全成分を予備混合した後、[COPERION社製「ZSK26MC」、スクリュー長(L)/スクリュー径(D)=56]に供給して温度200℃で溶融混練し、ペレット状の樹脂組成物を製造した。各例で得られた樹脂組成物のペレットを、射出成形機「EC75SX」(東芝機械株式会社製)によりシリンダー温度200℃で射出成形し、縦100mm、横35mm、厚さ1mmのシートを作製した。得られた射出シートを用いて、前記方法に従って各評価および測定を行った。結果を表5に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
表5より、実施例で得られた射出シートは、低温(160℃)ヒートシール強度が高いことがわかる。特に、MFRの高い水添ブロック共重合体(b−11)を用いた実施例29の射出シート、および「ABA+AB」タイプの水添ブロック共重合体(b−14)を用いた実施例32の射出シートでは、低温(160℃)ヒートシール強度がより一段と向上した。以上より、本発明の樹脂組成物は、通常、射出成形によって製造されるポートとしても有用であるといえる。
一方、比較例で得られた射出シートでは、低温(160℃)ヒートシール強度が不十分となっている。
【0090】
[実施例33〜37、比較例16〜18:プレスシートの製造]
表6に示す配合割合で、バッチ式ミキサーを用いて230℃、100rpmで溶融混練し、樹脂組成物を作製した。次いで、厚み1mmの金型を用いて200℃で5分間プレス成形した後、冷却プレス機を用いて10℃で冷却することで厚さ1mmのプレスシートを作製した。得られたプレスシートを用いて、前記方法に従って各評価および測定を行った。結果を表6に示す。
【0091】
【表6】
【0092】
表6より、実施例で得られたプレスシートは、低温(150℃または160℃)ヒートシール強度が高いことがわかる。特に、MFRの高い水添ブロック共重合体(b−11)を用いた実施例36のプレスシートでは、低温(150℃または160℃)ヒートシール強度がより一段と向上した。
一方、比較例で得られたプレスシートでは、低温(150℃または160℃)ヒートシール強度が不十分となっており、特に、150℃におけるヒートシール強度が大幅に低下していることがわかる。
【0093】
[実施例38〜52、比較例19〜21:積層体(3層フィルム)の製造]
前記表7に記載の材料を用いて、内層用の材料、中間層用の材料、および外層用の材料それぞれについて、下記表7に示す配合割合で、水冷式下向インフレーション成形機を用いて、樹脂温度200℃、冷却水温度20℃、ライン速度10m/分の条件で、厚さ200μmの3層の積層体(液体包装容器用フィルム)を成形した。各層の厚みは、内層20μm、中間層130μm、外層50μmとした。得られたフィルムを用いて、前記方法に従って各評価および測定を行った。結果を表7に示す。
【0094】
【表7】
【0095】
表7より、実施例で得られた3層フィルムは柔軟性に優れており、破袋強度、特に低温における破袋強度が高い。
一方、比較例19で得られた3層フィルムは、常温および低温における破袋強度がいずれも低い。比較例20で得られた3層フィルムは、低温における破袋強度が低い。比較例21で得られた3層フィルムは、柔軟性に乏しく、且つ、常温および低温における破袋強度がいずれも低い。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の液体包装容器は、種々の用途に使用できる。例えば、前述の医療容器のほか、レトルト食品、マヨネーズ、ケチャップ、清涼飲料水、アイス等を包装する食品包装容器等としても有効に利用できる。
【符号の説明】
【0097】
1.ポリプロピレン系樹脂(a)
2.水添ブロック共重合体(b)または(b’)
図1
図2
図3