特許第6885732号(P6885732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885732
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】研削装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20210603BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20210603BHJP
   B23Q 1/01 20060101ALI20210603BHJP
   B23Q 1/38 20060101ALI20210603BHJP
   F16C 32/06 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   H01L21/304 631
   B24B41/06 L
   B23Q1/01 T
   B23Q1/38 B
   H01L21/304 622K
   F16C32/06 C
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-5927(P2017-5927)
(22)【出願日】2017年1月17日
(65)【公開番号】特開2018-117013(P2018-117013A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】桑名 一孝
【審査官】 内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−015570(JP,A)
【文献】 特開2001−326203(JP,A)
【文献】 特開2008−246628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23Q 1/01
B23Q 1/38
B24B 41/06
F16C 32/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエーハを保持する保持手段と、該保持手段が保持したウエーハを研削砥石の研削面で研削する研削手段とを備えた研削装置であって、
該保持手段は、
保持面を有するチャックテーブルと、該チャックテーブルを装着する基台と、該基台の中心から垂下する回転軸と、該回転軸の側面に隙間を配して囲繞し該隙間に液体を流通させラジアルベアリングとスラストベアリングとを形成するケーシングと、を備え、
該スラストベアリングは、軸方向に離間して配置された上側のスラストベアリングと下側のスラストベアリングとを有し、
該ラジアルベアリングは、該上側のスラストベアリングの内周端の該隙間と該下側のスラストベアリングの内周端の該隙間とを連ねることで形成され、
該スラストベアリングは、該回転軸の中心を中心に等角度で同一面積の3つの液体噴出部と、該3つの液体噴出部から噴出する液体の流量バランスを調整する調整手段とを備え、
該ラジアルベアリングの内周面に、該回転軸の側面に液体を噴出する他の液体噴出部を備え、
該ケーシングの下部には、該液体噴出部から噴出された液体を受け止める桶部と、該桶部で受け止めた液体を排水する排水口と、が設けられ、
該調整手段による流量バランス調整により該回転軸の傾きを調整して研削する研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエーハを研削する研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
研削装置は、チャックテーブルに保持されたウエーハに対して、研削砥石を環状に配設した研削ホイールを回転接触させることでウエーハを所望の厚みまで研削している。チャックテーブルはチャック軸ユニットに下方から支持されており、チャック軸ユニットによって中心軸回りに回転される。チャック軸ユニットの天板にチャックテーブルが装着され、天板から下方に延びる回転軸がメカニカルベアリングやエアベアリングで回転可能に支持されている。また、回転軸にはベルトを介してモータが連結されており、モータの駆動力が回転軸に伝達されることでチャックテーブルが回転される。
【0003】
ウエーハを均等な厚みに研削するためには、ウエーハの回転中心を研削砥石の旋回軌道が通過するような位置関係にチャックテーブルに研削ホイールが位置付けられ、さらにチャックテーブルの保持面に対して研削砥石の研削面を平行にする必要がある。従来、このチャックテーブルと研削砥石を平行にするために、チャックテーブル又は研削ホイールを傾ける傾き調整機構が設けられている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の傾き調整機構は、チャックテーブルが一対の可動部と1つの固定部の3点で支持されており、一対の可動部の可動によって固定部を支点にチャックテーブルが傾けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−150642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の傾き調整機構では、一対の可動部及び固定部等の機械的な構造を備えていたため、研削装置の装置構成が複雑になるという問題があった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、簡易な装置構成でチャックテーブルの傾きを適切に調整することができる研削装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の研削装置は、ウエーハを保持する保持手段と、該保持手段が保持したウエーハを研削砥石の研削面で研削する研削手段とを備えた研削装置であって、該保持手段は、保持面を有するチャックテーブルと、該チャックテーブルを装着する基台と、該基台の中心から垂下する回転軸と、該回転軸の側面に隙間を配して囲繞し該隙間に液体を流通させラジアルベアリングとスラストベアリングとを形成するケーシングと、を備え、該スラストベアリングは、該回転軸の中心を中心に等角度で同一面積の3つの液体噴出部と、該3つの液体噴出部から噴出する液体の流量バランスを調整する調整手段とを備え、該調整手段による流量バランス調整により該回転軸の傾きを調整して研削する。
【0008】
この構成によれば、回転軸とケーシングの隙間に液体が流通されてラジアルベアリングとスラストベアリングが形成される。回転軸が液体を介してケーシングに浮動支持されるため、チャックテーブルに作用した加工負荷による回転軸の傾き変化が抑えられる。また、スラストベアリングの3箇所の液体噴出部の流量バランスによって回転軸の傾きが調整される。スラストベアリング内の液体の流量バランスでチャックテーブルが傾き調整されるため、機械的な構造が不要になって装置構成が簡略化される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スラストベアリング内の3箇所の液体噴出部による液体の流量バランスを可変することで、簡易な装置構成でチャックテーブルの傾きを適切に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態の研削装置の斜視図である。
図2】本実施の形態の保持手段の模式図である。
図3】本実施の形態の液体の供給経路の模式図である。
図4】本実施の形態の調整手段の流量バランスの調整動作の説明図である。
図5】本実施の形態のチャックテーブルの傾き調整の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本実施の形態の研削装置について説明する。図1は、本実施の形態の研削装置の斜視図である。なお、以下の説明では、研削装置は、図1に示すように研削加工専用の装置構成に限定されず、例えば、研削加工、研磨加工、洗浄加工等の一連の加工が全自動で実施されるフルオートタイプの加工装置に組み込まれてもよい。
【0012】
図1に示すように、研削装置1は、多数の研削砥石45を環状に並べた小型の研削ホイール44を用いて、チャックテーブル21(保持手段20)上のウエーハWを研削するように構成されている。ウエーハWは保護テープTが貼着された状態で研削装置1に搬入され、保護テープTを介してチャックテーブル21に保持される。なお、ウエーハWは、研削対象となる板状部材であればよく、シリコン、ガリウム砒素等の半導体ウエーハでもよいし、セラミック、ガラス、サファイア等の光デバイスウエーハでもよいし、デバイスパターン形成前のアズスライスウエーハでもよい。
【0013】
研削装置1の基台10の上面には、X軸方向に延在する長方形状の開口が形成され、この開口はチャックテーブル21と共に移動可能な移動板11及び蛇腹状の防水カバー12に覆われている。防水カバー12の下方には、チャックテーブル21をX軸方向に進退移動させるボールねじ式の進退手段(不図示)が設けられている。チャックテーブル21は、回転手段(不図示)に連結されており、回転手段の駆動によって回転可能に構成されている。また、チャックテーブル21の上面には、多穴質のポーラスセラミック材によってウエーハWを吸引保持する保持面22が形成されている。
【0014】
基台10上のコラム15には、研削手段40をチャックテーブル21の保持面22に対してZ軸方向に研削送りする研削送り手段30が設けられている。研削送り手段30は、コラム15に配置されたZ軸方向に平行な一対のガイドレール31と、一対のガイドレール31にスライド可能に設置されたモータ駆動のZ軸テーブル32とを有している。Z軸テーブル32の背面側には図示しないナット部が形成され、これらナット部にボールネジ33が螺合されている。ボールネジ33の一端部に連結された駆動モータ34によりボールネジ33が回転駆動されることで、研削手段40がガイドレール31に沿ってZ軸方向に移動される。
【0015】
研削手段40は、ハウジング39を介してZ軸テーブル32の前面に取り付けられており、スピンドルユニット41で研削ホイール44を中心軸回りに回転させるように構成されている。スピンドルユニット41は、いわゆるエアスピンドルであり、ケーシング42の内側で高圧エアを介してスピンドル(不図示)を回転可能に支持している。スピンドルの先端にはマウント43が連結されており、マウント43には多数の研削砥石45が環状に配設された研削ホイール44が装着されている。研削砥石45は、ダイヤモンド砥粒をメタルボンドやレジンボンド等の結合剤で固めて形成されている。
【0016】
また、研削装置1には、装置各部を統括制御する制御手段49が設けられている。制御手段49は、各種処理を実行するプロセッサやメモリ等により構成される。メモリは、用途に応じてROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の一つ又は複数の記憶媒体で構成される。研削装置1では、研削ホイール44の旋回軌道がチャックテーブル21の中心に位置合わせされ、各研削砥石45の研削面45aとチャックテーブル21の保持面22とが平行に調整されることで、チャックテーブル21上のウエーハW全体が均一に研削される。
【0017】
ところで、通常の研削装置のチャックテーブルでは、チャックテーブルから下方に延びる回転軸がエアベアリングを介してケーシングに回転可能に浮動支持されている。研削加工時には、チャックテーブル上のウエーハに研削ホイールが押し当てられて加工負荷が生じるため、加工負荷に負けないように回転軸とケーシングの隙間を狭めてエアの圧力が高められている。このような加工負荷によるチャックテーブルの傾きを抑える一方で、研削装置にはチャックテーブルの傾きを調整する機構が設けられている。しかしながら、機械的な構造から成る一般的な傾き調整機構では、研削装置の装置構成が複雑になるという不具合がある。
【0018】
そこで、本実施の形態の保持手段20(図2参照)では、エアベアリングの代わりに液体でベアリングを形成して回転軸52とケーシング61の隙間を広げ、この広がった隙間を利用してケーシング61に対して回転軸52を傾けたまま浮動支持するようにしている。これにより、回転軸52とケーシング61の隙間が広がっても、隙間が液体で満たされているため、加工負荷によるチャックテーブル21の傾き変化が抑えられる。さらに、回転軸52とケーシング61の隙間を使って、ケーシング61に対して回転軸52を傾けるようにしたことで、機械的な構造を用いることなく簡易な構成でチャックテーブル21の傾きを調整することができる。
【0019】
以下、図2から図4を参照して、本実施の形態の保持手段について説明する。図2は、本実施の形態の保持手段の模式図である。図3は、本実施の形態の液体の供給経路の模式図である。図4は、本実施の形態の調整手段の流量バランスの調整動作の模式図である。
【0020】
図2に示すように、保持手段20の基台51上には、円錐状の保持面22を有するチャックテーブル21が装着されている。基台51の中心には回転軸52が垂下しており、この回転軸52の側面に隙間を配して囲繞するようにケーシング61が設けられている。回転軸52の上端部分及び下端部分には円板部53、54が形成されており、ケーシング61には円板部53、54の間に入り込むように環状部62が形成されている。ケーシング61の環状部62には液体の流路が形成されており、環状部62から回転軸52の外面に向けて液体が噴出されることで、環状部62と回転軸52の隙間が液体で満たされている。
【0021】
この場合、環状部62の内周面には回転軸52の側面に液体を噴出する3つ(2箇所のみ図示)の液体噴出部63、環状部62の上下面には円板部53、54に液体を噴出する3つ(2箇所のみ図示)の液体噴出部64、65が形成されている。各液体噴出部63は環状部62内の流路66を通じて液体供給源71に接続され、各液体噴出部64、65は環状部62内の流路67、68を通じて液体供給源72に接続されている。液体供給源71、72から供給された液体は、環状部62内の流路66、67、68を通って液体噴出部63、64、65から回転軸52とケーシング61の隙間に流れ込む。
【0022】
環状部62の液体噴出部63、64、65から回転軸52の外面に液体が噴出されることで、回転軸52がケーシング61に対して液体を介して浮動支持される。これにより、ケーシング61にラジアルベアリングとスラストベアリングが形成され、ラジアルベアリングとスラストベアリングによって径方向及び軸方向で回転軸52の外面が回転可能に支持される。このとき、スラストベアリングによって広い範囲で回転軸52の円板部53、54が環状部62に浮動支持されているため、回転軸52に対してスラスト方向に作用する加工負荷が適度に分散されている。
【0023】
また、スラストベアリングには、後述する調整手段81によって各液体噴出部64、65から流量バランスが調整された液体が噴出されている。環状部62の上下面の液体噴出部64、65の流量バランスが調整されることで、上側及び下側のスラストベアリングのうち一方の隙間が広げられると共に他方の隙間が狭められる。流量バランスの調整がスラストベアリングの周方向の3箇所の液体噴出部64、65で実施されることで、回転軸52を介してチャックテーブル21の傾きが調整される。なお、調整手段81及び液体の供給経路の詳細については後述する。
【0024】
ケーシング61の下部は回転軸52と環状部62の隙間から排出された液体を受ける桶部73になっており、桶部73の底面には液体を外部に排水する排水口74が形成されている。また、回転軸52の下端にはロータリジョイント75を介してモータ76が取り付けられており、モータ76によって回転軸52を介してチャックテーブル21が回転される。チャックテーブル21の保持面22は、基台51、回転軸52、ロータリジョイント75内の流路77を通じて吸引源78に接続されている。吸引源78の吸引力によって保持面22が負圧になることでチャックテーブル21にウエーハWが保持される。
【0025】
図3に示すように、上側のスラストベアリング及び下側のスラストベアリングでは、液体噴出部64a−64c、65a−65cが回転軸52の中心を中心に等角度で同一面積の扇状に形成されている。各液体噴出部64a−64c、65a−65cは、それぞれポーラス材で形成されており、円板部53、54(図3参照)に対して全体に亘って均一に液体を噴き当てることができるように構成されている。上側の液体噴出部64a−64cにはそれぞれ流路67a−67cを通じて各調整手段81a−81cの一方の流出口が接続され、下側の液体噴出部65a−65cにはそれぞれ流路68a−68cを通じて各調整手段81a−81cの他方の流出口が接続される。
【0026】
各調整手段81a−81cの流入口には液体供給源72が接続されており、液体供給源72からの液体が各調整手段81a−81cで流量調整される。上側の液体噴出部64a−64cよりも下側の液体噴出部65a−65cからの流量が増加すると、上側のスラストベアリングよりも下側のスラストベアリングの隙間が広げられる。一方で、上側の液体噴出部64a−64cよりも下側の液体噴出部65a−65cの流量が減少すると、上側のスラストベアリングよりも下側のスラストベアリングの隙間が狭められる。上下のスラストベアリングの隙間調整によって回転軸52を介してチャックテーブル21(図2参照)が傾けられる。
【0027】
例えば、各調整手段81a−81cで上側の液体噴出部64aの流量が増加して液体噴出部64b、64cの流量が減少するように調整すると、下側の液体噴出部65aの流量が減少して液体噴出部65b、65cの流量が増加する。このため、矢印A側では上側のスラストベアリングの隙間が広がって下側のスラストベアリングの隙間が狭められ、矢印B、C側では上側のスラストベアリングの隙間が狭まって下側のスラストベアリングの隙間が広げられる。これにより、チャックテーブル21の矢印A側が低くなるように、回転軸52の傾きが調整される。
【0028】
図4Aに示すように、各調整手段81は、筒状部82の内側の流体室83内で調整棒84を摺動させることで、液体供給源72からの液体を上下のスラストベアリングに配分するように形成されている。筒状部82には中央には液体供給源72に連なる流入口85が形成され、流入口85よりも一端寄りに上側のスラストベアリングに連なる流出口86、流入口85よりも他端寄りに下側のスラストベアリングに連なる流出口87が形成されている。また、調整棒84は、中央の大径部91を小径部92、93で挟んだ段付きの円柱状に形成され、小径部92、93の両端に流体室83を液密に仕切るパッキン94、95が設けられている。
【0029】
大径部91の外周面と筒状部82の内周面の間には、流入口85に連なる隙間96が狭く空けられており、小径部92、93の外周面と筒状部82の内周面の間には、流出口86、87に連なる隙間97、98が広く空けられている。これら隙間96、97、98は液体の流路を形成しており、流路の広さによって液体の流量が調整される。この場合、調整棒84(小径部92)の一端側に連結したアクチュエータ99によって流体室83内で調整棒84が摺動され、流入口85と流出口86、87を連ねる流路の広さが可変される。これにより、流入口85から流出口86、87に向かう流路の広さに応じて液体の流量が配分される。
【0030】
アクチュエータ99で調整棒84が流体室83の中央に位置付けられる場合には、流入口85に調整棒84の大径部91の中心位置が合わせられている。このため、流入口85から各流出口86、87に向かう流路に、筒状部82の内周面と大径部91の外周面の狭い隙間96が均等に用いられる。流出口86側の流路と流出口87側の流路の流路抵抗が均等になるため、流入口85から流出口86、87に配分される液体の流量が同一になるように流量バランスが調整される。これにより、上側のスラストベアリングと下側のスラストベアリングに対して液体が同一の流量で供給される。
【0031】
図4Bに示すように、アクチュエータ99で調整棒84が流体室83の一端側に位置付けられる場合には、流入口85に調整棒84の大径部91の他端側が合わせられている。このため、主に流入口85から流出口86に向かう流路に、筒状部82の内周面と大径部91の外周面の狭い隙間96が用いられる。流出口86側の流路が流出口87側の流路よりも流路抵抗が大きくなるため、流入口85から流出口86への液体の流量よりも、流入口85から流出口87への液体の流量が多くなるように流量バランスが調整される。これにより、上側のスラストベアリングよりも下側のスラストベアリングに多くの液体が供給される。
【0032】
図4Cに示すように、アクチュエータ99で調整棒84が流体室83の他端側に位置付けられる場合には、流入口85に調整棒84の大径部91の一端側が合わせられている。このため、主に流入口85から流出口87に向かう流路に、筒状部82の内周面と大径部91の外周面の狭い隙間96が用いられる。流出口87側の流路が流出口86側の流路よりも流路抵抗が大きくなるため、流入口85から流出口87への液体の流量よりも、流入口85から流出口86への液体の流量が多くなるように流量バランスが調整される。これにより、上側のスラストベアリングに下側のスラストベアリングよりも多くの液体が供給される。
【0033】
続いて、図5を参照して、チャックテーブルの傾き調整について説明する。図5は、本実施の形態のチャックテーブルの傾き調整の説明図である。なお、図5においては、説明の便宜上、2つの調整手段だけを図示している。
【0034】
図5Aに示すように、調整手段81a−81cで上側の液体噴出部64a−64c及び下側の液体噴出部65a−65cから噴出する液体の流量バランスが均一に調整されている。上側の液体噴出部64a−64c及び下側の液体噴出部65a−65cから同量の液体が噴射されているため、上下のスラストベアリングの隙間が同じ大きさに調整されてケーシング61に対して回転軸52が直立姿勢で支持される。この場合、チャックテーブル21の保持面22が円錐状に形成されているため、研削ホイール44の研削面45aに対してチャックテーブル21の保持面22が傾斜している。
【0035】
図5Bに示すように、調整手段81a−81cで上側の液体噴出部64a−64c及び下側の液体噴出部65a−65cから噴出する液体の流量バランスが可変され、研削ホイール44の研削面45aに合わせてチャックテーブル21が傾けられる。例えば、調整手段81aで上側の液体噴出部64aから噴出する液体の流量が、下側の液体噴出部65aから噴出する液体の流量よりも多くなるように流量バランスが調整される。また、調整手段81b、81cで上側の液体噴出部64b、64cから噴出する液体の流量が、下側の液体噴出部65b、65cから噴出する液体の流量よりも少なくなるように流量バランスが調整される。
【0036】
保持手段20の図示右側では上側のスラストベアリングの隙間が下側のスラストベアリングの隙間よりも広がり、保持手段20の図示左側では上側のスラストベアリングの隙間が下側のスラストベアリングの隙間よりも狭くなる。これにより、研削ホイール44の研削面45aに対してチャックテーブル21の保持面22の傾斜(半径領域)が平行になるように角度θだけ回転軸52が傾けられる。このとき、液体の流通によってスラストベアリングが形成されるため、ウエーハWとしてサファイア等の硬質ワークを研削する時の研削加工負荷にスラストベアリングが押し負けることがない。そのため、ウエーハの径方向の厚み差が発生しない。このようにして、調整手段81a−81cによる上側の液体噴出部64a−64c及び下側の液体噴出部65a−65cに対する流量バランスの調整によって、回転軸52と共にチャックテーブル21の傾きが調整される。
【0037】
ここで、上側のスラストベアリングと下側のスラストベアリングを構成する液体の流量バランスによって調整される回転軸52の傾き調整は、研削したウエーハの径方向の厚み変化傾向を参考に調整される。例えば、ウエーハの中心が薄く外周に至ほど厚く研削されたら、その研削結果をもとに、保持面22の外周部分を研削面45aに近づける方向に回転軸52の傾きを調整して研削されたウエーハの径方向での厚み差がなくなるようにする。
【0038】
以上のように、本実施の形態の研削装置1では、回転軸52とケーシング61の隙間に液体が流通されてラジアルベアリングとスラストベアリングが形成される。回転軸52が液体を介してケーシング61に浮動支持されるため、チャックテーブル21に作用した加工負荷による回転軸52の傾きの変化が抑えられる。また、上側のスラストベアリングの液体噴出部64a−64cと下側のスラストベアリングの液体噴出部65a−65cの流量バランスによって回転軸52の傾きが調整される。スラストベアリング内の液体の流量バランスでチャックテーブル21が傾き調整されるため、機械的な構造が不要になって装置構成が簡略化される。
【0039】
なお、本実施の形態では、3つの調整手段にアクチュエータを設けて、各調整手段で個々に流量バランスを調整する構成にしたが、この構成に限定されない。調整手段は、3つの液体噴出部から噴出する液体の流量バランスを調整可能な構成であればよく、例えば、一部の調整手段でのみ調整棒がアクチュエータで摺動され、他の調整手段では調整棒が自由に摺動可能に構成されていてもよい。この場合、3つの調整手段が流路を介して連結されているため、一部の調整手段のアクチュエータによって調整棒を摺動させることで、他の調整手段の調整棒が連れ動きされる。また、アクチュエータの代わりにハンドルを備え、ハンドルを回転させ調整棒が摺動される構成としてもよい。
【0040】
また、本実施の形態では、研削装置の保持手段について説明したが、この構成に限定されない。研磨装置の保持手段も同じように構成されてもよく、保持手段で保持されたウエーハを研磨手段の研磨パッドで研磨してもよい。すなわち、本実施の形態において研削とは研磨を含む概念である。研削加工、研磨加工においてウエーハに加工熱が伝達(蓄熱)され、ウエーハに伝達された加工熱はウエーハを保持するチャックテーブルに伝達(蓄熱)され、チャックテーブルを変形させウエーハの厚みばらつきを発生される。本発明のベアリングには液体を流通させているのでエアを流通させるより冷却効果が高く、チャックテーブルが冷却され変形を抑えることができる。
【0041】
また、本実施の形態では、液体噴出部がポーラス材によって形成される構成にしたが、この構成に限定されない。液体噴出部は液体を均一に噴出可能に形成されていればよく、例えば無数の小孔によって形成されていてもよい。
【0042】
また、本実施の形態では、筒状部の流体室で調整棒を摺動させることで、流量バランスを調整する構成にしたが、この構成に限定されない。調整手段は、液体の流量バランスを調整可能に構成されていれば、どのように構成されていてもよい。
【0043】
また、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の他の実施の形態として、上記実施の形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0044】
また、本発明の実施の形態は上記の実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施形態をカバーしている。
【0045】
また、本実施の形態では、本発明を研削装置に適用した構成について説明したが、簡易な装置構成でテーブルの傾きを適切に調整することができる他の装置に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上説明したように、本発明は、簡易な装置構成でチャックテーブルの傾きを適切に調整することができるという効果を有し、特に、ウエーハを研削する研削装置に有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 研削装置
20 保持手段
21 チャックテーブル
22 保持面
40 研削手段
45 研削砥石
51 基台
52 回転軸
61 ケーシング
64、65 液体噴出部
81 調整手段
W ウエーハ
図1
図2
図3
図4
図5