特許第6885742号(P6885742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885742
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】麺類用結着防止剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20210603BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20210603BHJP
【FI】
   A23L7/109 A
   A23L7/10 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-18617(P2017-18617)
(22)【出願日】2017年2月3日
(65)【公開番号】特開2018-121603(P2018-121603A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年7月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 貴康
(72)【発明者】
【氏名】大井 瑞季
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−195446(JP,A)
【文献】 特開平06−121647(JP,A)
【文献】 特表2004−520058(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/056216(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2005−0092018(KR,A)
【文献】 特開2012−235746(JP,A)
【文献】 特開平08−038083(JP,A)
【文献】 日本調理科学会誌,2016年,49(5),pp.297-302
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L7/00−7/25,29/00−29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂処理が施されていない米糠の温熱水抽出物を有効成分として含み、
前記温熱水抽出物が、pH6〜11に調整された80100℃の温熱水で抽出されたものであることを特徴とする麺類用結着防止剤。
【請求項2】
前記温熱水抽出物が、前記温熱水で、1分間以上抽出されたものである請求項1に記載の結着防止剤。
【請求項3】
さらに、有機酸又はその塩、及び/又は乳化剤を含む請求項1又は2に記載の結着防止剤。
【請求項4】
脱脂処理が施されていない米糠をpH6〜11に調整された80100℃の温熱水で、1分間以上抽出し、不溶性画分を除去する工程を含むことを特徴とする麺類用結着防止剤の製造方法。
【請求項5】
脱脂処理が施されていない米糠の温熱水抽出物に有機酸又はその塩を添加し、前記抽出物をpH3〜7に調整する工程を含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
さらに、乳化剤を配合する工程を含む請求項4又は5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺類用結着防止剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スーパーやコンビニエンスストアでは、調理済みの中華麺類、日本そば類、うどん類、パスタ類等が広く販売されている。コンビニエンスストア、スーパーマーケットなどで販売されている調理麺類等は製造後、冷蔵又はチルド流通された後に喫食に供されるが、麺線表面のデンプンが糊状に変化し麺同士が結着してしまい、さらに保存中の麺類は麺線表面の水分が減少しさらに結着が強くなり、喫食時に麺線がほぐれ難いという問題がある。また、沸騰水や熱水で湯戻しする即席麺でも、喫食時に麺塊がほぐれ難いという問題がある。
【0003】
これらの問題を解決するため、食用油脂や乳化油脂を麺線の表面付着させる方法が知られているが、これらの方法は適用できる麺類の種類や形態が限られ、また食味の点でも問題がある。
【0004】
そこで、水溶性ヘミセルロースからなる穀類加工食品用ほぐれ改良剤(例えば、特許文献1参照)、乾燥前に麺を水溶性ヘミセルロースで処理する即席乾燥麺類の製造法(例えば、特許文献2参照)、豆由来の水溶性多糖類と蛋白質の酵素分解物を含む麺類のほぐれ改良剤(例えば、特許文献3参照)、大豆由来の水溶性ヘミセルロース及び酢酸モノグリセリドを含む飯、パスタまたは麺用のほぐれ性改良剤(例えば、特許文献4)、豆類由来の水溶性ヘミセルロース及びHLBが8以上のショ糖脂肪酸エステルを含む穀類加工食品用ほぐれ改良剤(例えば、特許文献5参照)、(A)水溶性ヘミセルロース、(B)レシチン、(C)ステアロイル乳酸塩を含む穀類加工食品用ほぐれ改良剤(例えば、特許文献6参照)、(A)水溶性ヘミセルロース、(B)レシチン、(C)グリセリンの重合度が4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含む穀類加工食品用ほぐれ改良剤(例えば、特許文献7参照)、麺や穀類の結着防止機能を有する水溶性多糖類の製造方法であって、pH12以上且つ95℃以上135℃未満の処理により、米糠から水溶性画分を抽出する製造方法(例えば、特許文献8参照)などが開発されてきた。
しかし、麺線の結着防止の効果がいまだ十分とはいえず、また、麺類に好ましくない風味や食味を付与してしまうという問題も残されている。
【0005】
したがって、茹で麺や蒸し麺、即席麺などの麺類に付着させることにより、麺類の結着を防止し、ほぐれ性を改善することができ、しかも麺類の風味や食味を損なうことがない麺類用結着防止剤及びその製造方法の速やかな提供が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−121647号公報
【特許文献2】特開2000−139387号公報
【特許文献3】特開2001−238622号公報
【特許文献4】特許第4281364号公報
【特許文献5】特開2013−162753号公報
【特許文献6】特開2013−201947号公報
【特許文献7】特開2013−192549号公報
【特許文献8】特許第4725333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、茹で麺や蒸し麺、即席麺などの麺類に付着させることにより、麺類の結着を防止し、ほぐれ性を改善することができ、しかも麺類の風味や食味を損なうことがない麺類用結着防止剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、米糠の温熱水抽出物を茹で麺や蒸し麺、即席麺などの麺類に付着させることにより、麺類の結着を防止し、ほぐれ性を改善することができ、しかも麺類の風味や食味を損なうことがないことを知見した。
【0009】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 米糠の温熱水抽出物を有効成分として含むことを特徴とする麺類用結着防止剤である。
<2> 前記温熱水抽出物が、65℃以上の温熱水で、1分間以上抽出されたものである前記<1>に記載の結着防止剤である。
<3> 前記温熱水抽出物が、pH6〜12に調整された温熱水で抽出されたものである前記<1>又は<2>に記載の結着防止剤である。
<4> さらに、有機酸又はその塩、及び/又は乳化剤を含む前記<1>〜<3>のいずれかに記載の結着防止剤である。
<5> 米糠を65℃以上の温熱水で、1分間以上抽出し、不溶性画分を除去する工程を含むことを特徴とする麺類用結着防止剤の製造方法である。
<6> pH6〜12に調整された温熱水で抽出する前記<5>に記載の方法である。
<7> 米糠の温熱水抽出物に有機酸又はその塩を添加し、前記抽出物をpH3〜7に調整する工程を含む前記<5>又は<6>に記載の方法である。
<8> さらに、乳化剤を配合する工程を含む前記<5>〜<7>のいずれかに記載の方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、茹で麺や蒸し麺、即席麺などの麺類に付着させることにより、麺類の結着を防止し、ほぐれ性を改善することができ、しかも麺類の風味や食味を損なうことがない麺類用結着防止剤及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(麺類用結着防止剤及びその製造方法)
本発明の麺類用結着防止剤(以下、「結着防止剤」と称することがある)は、米糠の温熱水抽出物を有効成分として含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
本発明の結着防止剤は、本発明の麺類用結着防止剤の製造方法(以下、「結着防止剤の製造方法」と称することがある)により、好適に製造することができる。
以下、本発明の結着防止剤の製造方法の説明と併せて、本発明の結着防止剤を説明する。
【0012】
<結着防止剤の製造方法>
本発明の結着防止剤の製造方法は、抽出工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0013】
<<抽出工程>>
前記抽出工程は、米糠を65℃以上の温熱水で、1分間以上抽出し、不溶性画分を除去する工程である。
【0014】
−米糠−
前記米糠の種類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、玄米の精米歩合90%程度で得られる赤糠、85%程度までの中糠、75%程度までの白糠、これ以下の部分の上糠や特糠などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記米糠の中でも、入手のし易さ、価格等の観点や、麺類の結着防止効果がより優れる点から赤糠、中糠が好ましく、赤糠がより好ましい。
また、前記米糠は、熱処理や脱脂処理を施したものでもよい。
前記米糠の原料となる米の種類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、うるち米、もち米、インディカ米などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記米糠は、公知の方法により調製したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0015】
−抽出−
前記抽出の際の温熱水の温度としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、65℃以上が好ましく、65〜105℃がより好ましく、80〜100℃が特に好ましい。前記温度が65℃未満であると、米糠中の有効成分の抽出効率が低下するおそれがあり、105℃を超える温度であると加圧加熱するための装置・設備が必要になる。一方、前記温度が好ましい範囲内であると、米糠中の有効成分を効率良く抽出することができる。
【0016】
前記抽出の時間としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、1分間以上が好ましく、5分間以上がより好ましく、5〜120分間が特に好ましい。前記抽出の時間が1分間未満であると、米糠中の有効成分の抽出効率が低下するおそれがある。一方、抽出時間を120分間以上としても、得られる米糠の温熱水抽出物による麺類の結着防止効果が向上しない。
【0017】
前記抽出の際の温熱水における米糠の量(以下、「濃度」と称することもある)としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、1〜50質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましい。前記米糠の量1質量%未満であると、米糠中の有効成分の量が不足し、所望の結着防止効果が得られないおそれがある。また、50質量%を超えると、抽出後の固形分の除去において作業性が低下するおそれがある。なお、米糠の量が1質量%未満であっても、得られた抽出液を濃縮し、結着防止剤の成分とすることもできる。
【0018】
前記抽出の際の米糠を含む温熱水のpHとしては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、pH6〜12が好ましく、pH7〜11がより好ましい。前記pHが6未満であると抽出物の麺類の結着防止効果が低下するおそれがあり、pH12を超えると抽出物にアルカリ臭など好ましくない風味が生じるおそれがある。一方、前記好ましい範囲内であると、優れた麺類の結着防止効果と、優れた麺類の風味や食味とを両立することができる点で、有利である。
前記pHの調整方法としては、特に制限はなく、公知のpH調整剤を適宜選択して調整することができる。
【0019】
−不溶性画分の除去−
前記抽出後、不溶性画分を除去する手段としては、特に制限はなく、公知の固液分離の手段を適宜選択することができ、例えば、フィルターなどによる濾過、限外濾過、遠心分離などの手段が挙げられる。これらは、1種単独で行ってもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
<<その他の工程>>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、有機酸又はその塩添加工程、乳化剤配合工程などが挙げられる。
【0021】
−有機酸又はその塩添加工程−
前記有機酸又はその塩添加工程は、米糠の温熱水抽出物に有機酸又はその塩を添加し、前記抽出物をpH3〜7に調整する工程である。
前記結着防止剤を麺類に適用する際の作業性の向上や、麺類の風味や食味の向上の点で、前記有機酸又はその塩添加工程を含むことが好ましい。
【0022】
前記有機酸又はその塩としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、メタリン酸、ポリリン酸、酢酸、コハク酸、フィチン酸又はこれらの塩や、醸造酢などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記有機酸又はその塩の中でも、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、醸造酢又はその塩から選択される1種以上が、麺類の風味や食味をより向上することができる点で、好ましい。
【0023】
前記有機酸又はその塩の添加量(以下、「配合量」と称することもある)としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、前記結着防止剤を麺類に適用する際の作業性の向上や、麺類の風味や食味の向上の点で、前記抽出物の溶液がpH3〜7になる量が好ましく、pH4〜6になる量がより好ましい。
【0024】
−乳化剤配合工程−
前記乳化剤配合工程は、米糠の温熱水抽出物に乳化剤を配合する工程である。
前記乳化剤は、前記抽出工程における温熱水に添加してもよいし、前記抽出工程後の抽出物の溶液に添加してもよい。
前記結着防止剤の結着防止効果を増強することができる点で、前記乳化剤配合工程を含むことが好ましい。
【0025】
前記乳化剤の種類としては、食品に適用できるものであれば特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記乳化剤の配合量としては、その種類などにより異なるが、特に制限はなく、適宜選択することができるが、通常は0.01〜1質量%であり、好ましくは0.05〜0.5質量%である。前記好ましい範囲内であると、前記結着防止剤の結着防止効果を増強することができる点で、有利である。
【0027】
<結着防止剤>
本発明の結着防止剤は、前記米糠の温熱水抽出物を有効成分として含み、さらに、前記有機酸又はその塩、及び/又は前記乳化剤を含むことが好ましい。
【0028】
−米糠の温熱水抽出物−
前記結着防止剤における前記米糠の温熱水抽出物の濃度としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、3質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、12質量%以上が特に好ましい。前記濃度が、前記好ましい範囲内であると、麺類の結着の防止効果がより優れる点で、有利である。
【0029】
−有機酸又はその塩、乳化剤−
前記有機酸又はその塩、前記乳化剤は、上記したとおりである。
【0030】
−その他の成分−
前記結着防止剤におけるその他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、増粘多糖類、油脂、香料、色素、酸化防止剤、保存料などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の成分の結着防止剤における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0031】
−麺類−
本発明の結着防止剤が対象とする麺類の種類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、中華麺(焼そばを含む)、うどん、そば、そうめん・ひやむぎ、パスタなどが挙げられる。
前記麺類の形態としては、茹で麺や蒸し麺(冷蔵・チルド麺)、ロングライフ麺、冷凍麺、即席麺(フライ麺、ノンフライ麺)が挙げられるが、麺類の結着がより問題となる茹で麺や蒸し麺(冷蔵・チルド麺)、ロングライフ麺、ノンフライ即席麺が好ましい。
【0032】
−使用−
本発明の結着防止剤の使用方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、茹で麺や蒸し麺(冷蔵・チルド麺)やロングライフ麺の場合には、茹で処理・蒸し処理の後から冷蔵・チルド保存までの段階で麺類の表面に付着させるのが好ましい。また、ノンフライ即席麺の場合には、蒸し処理から熱風乾燥の工程のいずれかで麺類の表面に付着させるのが好ましい。
前記結着防止剤を麺類の表面に付着させる手段としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、噴霧、浸漬、塗布、滴下などの手段が挙げられる。
前記結着防止剤の使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、麺類に対して、0.1〜5質量%などが挙げられる。
【0033】
本発明の結着防止剤によれば、茹で麺や蒸し麺、即席麺などの麺類に付着させることにより、麺類の結着を防止し、ほぐれ性を改善することができ、しかも麺類の風味や食味を損なうことがない。したがって、本発明は、本発明の結着防止剤を用いる、麺類の結着防止方法及び麺類の製造方法にも関する。
また、本発明の結着防止剤は、米糠の温水抽出物を有効成分とするため、安全性が高い。
【実施例】
【0034】
以下、試験例等示して本発明を説明するが、本発明はこれらの試験例等に何ら限定されるものではない。
【0035】
(試験例1:素材の検討)
以下の素材について、麺類のほぐれ性を改善することができるか検討した。
<素材>
・ 米糠(秘蔵いりぬか、下田商事株式会社製)を水に懸濁した溶液(米糠の含有量は1質量%)
・ 小麦ふすまを水に懸濁した溶液(小麦ふすまの含有量は1質量%)
・ 米酵素分解物(米酵素分解物No.1、播州調味料株式会社製)を1質量%含有する溶液
・ 米糠酵素分解物(米ペプチド、長田産業株式会社製)を1質量%含有する溶液
【0036】
<試験方法>
沸騰した鍋の中にうどん(半生讃岐うどん包丁切り、石丸製麺株式会社製)を入れ、15分間茹でた後、2〜3℃の氷水で3分間冷却した。次いで、3分間液切りし、その後、前記各素材溶液を対麺重量で2%添加し、混合した。丸型の惣菜パックに入れ、蓋をして10℃、48時間保存し、試料とした。
なお、前記素材を用いなかった場合(無添加区)をネガティブコントロールとし、前記素材に代えて、ソヤアップM3000(水溶性大豆多糖類及び乳化剤含有、不二製油株式会社製)を用いた場合(ソヤアップ添加区)をポジティブコントロールとした。
【0037】
−評価−
水500mLの中に、試料50gを添加し、箸を使用して麺線一本一本がばらけるまで撹拌した回数を測定した。なお、評価の際は、無添加区を0、ソヤアップ添加区を3となるように、評価数字を付けて評価した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1の結果から、米糠に麺類のほぐれ性を改善する効果が確認された。
【0040】
(試験例2:米糠の温熱水抽出物の濃度の検討)
<米糠の温熱水抽出物の調製>
ビーカーに、米糠(秘蔵いりぬか、下田商事株式会社製)と水を入れ(米糠濃度15質量%、pH6)、アルミホイルで蓋をし、95℃で10分間加熱した。放冷後、さらしで濾過し、液体部分をとり、米糠の温熱水抽出物とした。
温熱水抽出物の濃度を水で調整し、5質量%、10質量%、15質量%、又は20質量%の温熱水抽出物を含有する抽出液とした。
【0041】
<試験方法>
試験例1における素材溶液を前記各抽出液に代えた以外は、試験例1と同様にしてほぐれ性を試験し、評価した。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2の結果から、様々な米糠の温熱水抽出物の濃度において、麺類のほぐれ性を改善する効果が確認された。中でも、15質量%以上とした場合には、ポジティブコントロールよりも優れた効果を有することが確認された。
【0044】
(試験例3:抽出の際の加熱時間の検討)
<米糠の温熱水抽出物の調製>
ビーカーに、米糠(秘蔵いりぬか、下田商事株式会社製)と水を入れ(米糠濃度15質量%、pH6)、アルミホイルで蓋をし、95℃に達したところからの加熱時間を5分間、10分間、30分間、45分間、60分間、90分間、又は120分間として、加熱した。放冷後、さらしで濾過し、液体部分をとり、米糠の温熱水抽出物とした。
得られた各温熱水抽出物の濃度を水で調整し、15質量%の温熱水抽出物を含有する各抽出液とした。
【0045】
<試験方法>
試験例1における素材溶液を前記各抽出液に代えた以外は、試験例1と同様にしてほぐれ性を試験し、評価した。結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3の結果から、抽出の際の加熱時間による麺類のほぐれ性を改善する効果の差は確認されず、本発明によれば、短時間で麺類用結着防止剤の有効成分を得ることができることが確認された。
【0048】
(試験例4:温熱水のpHの検討)
<米糠の温熱水抽出物の調製>
ビーカーに、米糠(秘蔵いりぬか、下田商事株式会社製)と水を入れ(米糠濃度15質量%、pH6、9、11、又は13に調整)、アルミホイルで蓋をし、95℃で10分間加熱した。放冷後、さらしで濾過し、液体部分をとり、米糠の温熱水抽出物とした。
得られた各温熱水抽出物の濃度を水で調整し、15質量%の温熱水抽出物を含有する各抽出液とした。
【0049】
<試験方法>
−ほぐれ性−
試験例1における素材溶液を前記各抽出液に代えた以外は、試験例1と同様にしてほぐれ性を試験し、評価した。結果を表4に示す。
【0050】
−風味、食味−
上記ほぐれ性の試験後のうどんを食し、以下の評価基準で評価した。結果を表4に示す。
[評価基準]
A : アルカリ臭及び/又は異質な風味がなく、穀物らしい好ましい風味がある。
B : アルカリ臭及び/又は異質な風味がなく、やや穀物らしい好ましい風味がある。
C : ややアルカリ臭及び/又は異質な風味がある、若しくはやや穀物とは異なる風味がある。
D : アルカリ臭及び/又は異質な風味があり、穀物とは異なる風味が感じられる。
【0051】
【表4】
【0052】
表4の結果から、本発明の米糠の温熱水抽出物を用いた場合には、抽出の際のpHを変えて得られた抽出物を用いた場合でも、麺類のほぐれ性を改善することができることが確認された。また、抽出の際のpHを13未満にすることで、麺類の風味・食味を優れたものとすることができることが確認された。
一方、ソヤアップ添加区では、麺類の風味・食味が、やや劣る結果となった。
【0053】
(試験例5:有機酸及び乳化剤の検討)
<試験例5−1>
−米糠の温熱水抽出物の調製−
ビーカーに、米糠(秘蔵いりぬか、下田商事株式会社製)と水を入れ(米糠濃度15質量%、pH9に調整)、アルミホイルで蓋をし、95℃で10分間加熱した。放冷後、さらしで濾過し、液体部分をとり、米糠の温熱水抽出物とした。
得られた温熱水抽出物の濃度を水で調整し、15質量%の温熱水抽出物を含有する抽出液とした。
【0054】
<試験例5−2〜5−5>
−米糠の温熱水抽出物の調製−
ビーカーに、米糠(秘蔵いりぬか、下田商事株式会社製)と水を入れ(米糠濃度15質量%、pH9に調整)、アルミホイルで蓋をし、95℃で10分間加熱した。放冷後、さらしで濾過し、液体部分をとり、米糠の温熱水抽出物とした。
前記米糠の温熱水抽出物に、有機酸として、クエン酸(試験例5−2)、リンゴ酸(試験例5−3)、乳酸(試験例5−4)、又は醸造酢(試験例5−5)を加え、pH4に調整した。
pH調整後の温熱水抽出物の濃度を水で調整し、15質量%の温熱水抽出物を含有する抽出液とした。
【0055】
<試験例5−6>
−米糠の温熱水抽出物の調製−
ビーカーに、米糠(秘蔵いりぬか、下田商事株式会社製)と水を入れ(米糠濃度15質量%、pH9に調整)、アルミホイルで蓋をし、95℃で10分間加熱した。放冷後、さらしで濾過し、液体部分をとり、米糠の温熱水抽出物とした。
得られた温熱水抽出物の濃度を水で調整し、15質量%の温熱水抽出物を含有する抽出液とし、そこに、乳化剤として、ショ糖脂肪酸エステルを前記抽出液の全量に対し、0.05質量%加えた。
【0056】
<試験方法>
−ほぐれ性−
試験例1における素材溶液を前記試験例5−1〜5−6の各抽出液に代えた以外は、試験例1と同様にしてほぐれ性を試験し、評価した。結果を表5に示す。
【0057】
−風味、食味−
上記ほぐれ性の試験後のうどんを食し、試験例4と同じ評価基準で評価した。結果を表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5の結果から、本発明の米糠の温熱水抽出物を用いた場合は、穀物らしい好ましい風味が感じられ、有機酸を加えることにより、風味・食味が更に優れたものとなることが確認された。また、乳化剤を加えることにより、ほぐれ性が向上することも確認された。
【0060】
(試験例6:米糠の種類の検討)
<米糠の温熱水抽出物の調製>
ビーカーに、下記のいずれかの米糠と水を入れ(米糠濃度20質量%、pH6)、アルミホイルで蓋をし、95℃で10分間加熱した。放冷後、さらしで濾過し、液体部分をとり、米糠の温熱水抽出物とした。
得られた温熱水抽出物の濃度を水で調整し、20質量%の温熱水抽出物を含有する抽出液とした。
[米糠]
・ 赤糠
・ 上糠
・ 特糠
・ 脱脂糠
【0061】
<試験方法>
−ほぐれ性−
試験例1における素材溶液を前記各抽出液に代えた以外は、試験例1と同様にしてほぐれ性を試験し、評価した。結果を表6に示す。
【0062】
−風味、食味−
上記ほぐれ性の試験後のうどんを食し、試験例4と同じ評価基準で評価した。結果を表6に示す。
【0063】
【表6】
【0064】
表6の結果から、米糠の種類に関わらず、ほぐれ性と、風味や食味を両立することができることが確認された。
【0065】
(試験例7:温熱水の温度の検討)
<米糠の温熱水抽出物の調製>
ビーカーに、米糠(秘蔵いりぬか、下田商事株式会社製)と水を入れ(米糠濃度15質量%、pH6)、アルミホイルで蓋をし、60℃で10分間加熱した。放冷後、さらしで濾過し、液体部分をとり、米糠の温熱水抽出物とした。
温熱水抽出物の濃度を水で調整し、15質量%の温熱水抽出物を含有する抽出液とした。
【0066】
<試験方法>
試験例1における素材溶液を前記抽出液に代えた以外は、試験例1と同様にしてほぐれ性を試験し、評価したところ、評価結果は「3」であった。
したがって、60℃を超える温度の温熱水で米糠を抽出することにより、ほぐれ性に優れる米糠の抽出物を得ることができることが確認された。