(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885930
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】3−メチルシクロペンタデカン−1,5−ジオールを調製する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/153 20060101AFI20210603BHJP
C07C 35/02 20060101ALI20210603BHJP
C07C 45/62 20060101ALI20210603BHJP
C07C 45/57 20060101ALI20210603BHJP
C07C 49/385 20060101ALI20210603BHJP
C07C 49/527 20060101ALI20210603BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20210603BHJP
B01J 25/02 20060101ALN20210603BHJP
【FI】
C07C29/153
C07C35/02
C07C45/62
C07C45/57
C07C49/385 E
C07C49/527
!C07B61/00 300
!B01J25/02 Z
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-514959(P2018-514959)
(86)(22)【出願日】2016年9月20日
(65)【公表番号】特表2018-528969(P2018-528969A)
(43)【公表日】2018年10月4日
(86)【国際出願番号】EP2016072215
(87)【国際公開番号】WO2017050713
(87)【国際公開日】20170330
【審査請求日】2019年9月18日
(31)【優先権主張番号】15186290.1
(32)【優先日】2015年9月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエイエスエフ・ソシエタス・エウロパエア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブル ローク,ミリアム
(72)【発明者】
【氏名】ルーデンナウアー,ステファン
【審査官】
前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−192680(JP,A)
【文献】
特開昭56−046881(JP,A)
【文献】
特開昭51−024498(JP,A)
【文献】
Helvetica Chimica Acta,1977年,60(6),p.1969-1979
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/00
C07C 35/00
C07C 45/00
C07C 49/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
のジオールを調製する方法であって、
塩基、及びモリブデンがドープされたラネーニッケルを含む触媒の存在下における、式(II)
【化2】
のオゾニドの水素化分解を含む、方法。
【請求項2】
水素化分解が、5MPa以下の水素圧及び120℃以下の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
モリブデンがドープされたラネーニッケルが、式(II)のオゾニドの質量に対して少なくとも8wt%の量で使用される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
水素化分解が液体有機溶媒又は希釈剤の非存在下で実施される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
水素化分解が、塩基と、C1〜C4-アルカノールから選択される有機溶媒と、場合により水とを含む液相中に分散されている式(II)のオゾニドを用いて実施される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
式(II)のオゾニドが、溶媒に対して2から200g/lの量で使用される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
塩基が、アルカリ金属水酸化物から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
塩基の濃度が、5mMから50mMの範囲内である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
水素化分解が、50℃から120℃の範囲内の温度で、1から5MPaの水素圧で実施される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
水素化分解の条件が、最大36時間までの期間にわたって適用される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
水素化分解が連続的に又はバッチ方式で実施される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
式(III)
【化3】
の化合物のオゾン化による式(II)のオゾニドの調製をさらに含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
モリブデンがドープされたラネーニッケルが、アルミニウムと、モリブデンがドープされたラネーニッケルの合計質量に基づいて75から95wt%のニッケル及び0.5から2.0wt%のモリブデンとを含有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
式(V)又は式(VI)の大環状の着臭剤を調製する方法であって、
(i)請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法を実施することにより、
式(I)
【化4】
のジオールを調製するステップと、
(ii)式(I)のジオールを脱水素及び脱水して、式(IV)
【化5】
のエノール-エーテルを形成させるステップと、
(iii)式(IV)のエノール-エーテルを酸性試薬で処理して、式(V)
【化6】
の化合物を形成させるステップと
場合により、
(iv)式(V)の化合物を水素化して式(VI)
【化7】
の化合物を形成させるステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、14-メチル-16,17,18-トリオキサトリシクロ[10.3.2.1]オクタデカン(II)の水素化分解により3-メチルシクロペンタデカン-1,5-ジオール(I)を調製する方法に関する。
【0002】
【化1】
【背景技術】
【0003】
3-メチルシクロペンタデカン-1,5-ジオールは、大環状のムスク着臭剤、例えば、ムスコン(3-メチルシクロペンタデカノン)及びムスセノン(デヒドロムスコン、3-メチルシクロペンタデセノン)(特許文献1)の前駆体として役立ち得る大環状ジオールである。
【0004】
特許文献2及び3には、非置換及び3-メチル置換ビシクロ[10.3.0]ペンタデセン[1(12)]のオゾン化、及びそれに続く、亜硫酸ナトリウム、トリフェニルホスフィンによるオゾン化生成物、例えば、14-メチル-16,17,18-トリオキサトリシクロ[10.3.2.1]オクタデカン化合物(II)の還元的開裂又はPd/C触媒の存在下における水素化分解が、対応するシクロペンタデカン-1,5-ジオンを生じさせることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,335,262号明細書
【特許文献2】スイス特許第519454号明細書
【特許文献3】英国特許第1205049号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
典型的には、従来のラネーニッケル触媒の存在下における、中程度の条件下(例えば、120℃未満及び15MPa未満の水素圧)及び許容される反応時間内のオゾニドの水素化では、基本的には対応するジケトンが生ずるだけである。オゾニドの対応するジオールへの変換は、それよりはるかに強烈な条件、例えば、少なくとも140℃の温度及び少なくとも18MPaの水素圧を必要とする。そのような条件は、取り扱いが難しく、特に生産規模では、高価な高圧設備及び安全措置が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、モリブデンがドープされたラネーニッケルを触媒として使用すると、式(II)のオゾン化生成物の式(I)のジオールへのより容易でより効果的な変換が、5MPa以下の水素圧という中程度の条件下でさえ可能になることが見出された。必要とされる温度は、一般的に120℃を超えないであろう。これらの条件下で、14-メチル-16,17,18-トリオキサトリシクロ[10.3.2.1]オクタデカン(II)の完全な変換が、高選択性で36時間未満内に達成され得る。
【0008】
したがって、本発明は、式(I)の3-メチルシクロペンタデカン-1,5-ジオールを調製する方法に関する。該方法は、塩基及びモリブデンがドープされたラネーニッケルを含む触媒の存在における、式(II)のオゾニドの水素化分解を含む。
【0009】
モリブデンがドープされたラネーニッケルを使用することにより、オゾニド(II)の所望のジオール化合物(I)への水素化分解を、中程度の条件下で達成することができることが本発明の特別の利点である。前記中程度の条件は、5MPa以下、特に1から5MPa、好ましくは1.5から4MPa、より好ましくは1.7から2.5MPaの水素圧により特徴づけられる。必要とされる温度は、一般的に120℃を超えず、特に110℃を超えず、50から120℃、特に55から110℃、さらに特に60℃から100℃、好ましくは65℃から80℃、より好ましくは68℃から75℃の範囲であることが多いであろう。
【0010】
式(II)の化合物の完全な変換を達成するために、前記中程度の条件下における反応時間は、一般的に36時間を超えず、特に25時間を超えず、好ましくは20時間を超えないであろう。しばしば、中程度の条件は、完全な変換を達成するために、36時間以下、特に25時間以下又は20時間以下の持続時間にわたって適用されるであろう。それより長い反応時間は、一般的に必要とされないが、より長い反応時間を適用することはいうまでもなく可能である。通常、前記中程度の条件下における反応時間は、2から36時間、特に3から36時間、又は5から36時間、又は8から36時間、又は5から25時間、又は5から20時間、又は8から25時間、又は8から20時間である。
【0011】
式(II)のオゾニドは、例えば、英国特許第1205049号明細書に記載されているように、式(III)
【0012】
【化2】
の二環式オレフィン化合物のオゾン化によって調製することができる。前記オゾン化は、式(III)の化合物及び有機溶媒又は溶媒混合物を含む液相中で実施することができる。適当な有機溶媒は、アルカノール、特にC
1〜C
4-アルカノール、例えばメタノール、並びに、例えば、もっぱら又は少なくとも80wt%、90wt%、95wt%までの、少なくとも1種のアルカノール、特にC
1〜C
4-アルカノール、例えばメタノールと、少なくとも1種のハロゲン化された、例えば塩素化された炭化水素、例えばジクロロメタンとから本質的になる有機溶媒混合物を含むが、これらに限定されない。オゾンは、通常、オゾン-酸素混合物として、例えば-10℃以下に冷却されて、数時間にわたって、例えば、約1から10時間、特に4から8時間導入される。オゾンの添加が完了した後、オゾン化反応混合物は、追加の期間、例えば、1から36時間、特に4から24時間インキュベートされてもよい。しばしば、式(III)の化合物の1g当たり10から50mgのオゾンが使用される。例えば、(III)のオゾン化は、1時間に式(III)の化合物1g当たり10〜50mgオゾンを、約4〜8時間、液相中に最高-10℃の温度で導入して、オゾン化反応混合物を、追加の期間、例えば1から36時間、特に4から24時間(例えば、終夜)、同じ温度で(例えば、-10℃以下)インキュベートすることにより達成することができる。
【0013】
式(III)の化合物は、シクロドデカノンから、下のスキーム及び、例えばスイス特許第519454号明細書に記載された方法に従って調製することができる。
【0014】
【化3】
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の特定の実施形態において、水素化分解で使用される式(II)のオゾニドは、本発明の方法で使用する前に、少なくとも75%の純度、例えば、少なくとも80%、90%まで又は実質的に100%までの純度に、好ましくは仕上げられる。例えば、式(II)のオゾニドは、式(III)の化合物のオゾン化後に得られた粗生成物溶液から結晶性物質として単離され得る。式(II)のオゾニドの同定は、例えば、
1H核磁気共鳴(
1H-NMR)分析及び液体クロマトグラフィー(LC)又は質量分析法(MS)などの方法を使用して立証することができる。しかしながら、式(II)のオゾニドは、不純な形態でも(例えば、60%未満、約50%未満、40%の純度まで下がっても)、又は式(III)の化合物のオゾン化から得られた溶液として、さらに仕上げせずに使用することもできる。
【0016】
本発明の方法において、式(II)のオゾニドの水素化分解は、液体有機溶媒又は希釈剤の非存在下で実施することができる。あるいは、式(II)のオゾニドを、液体有機溶媒に分散又は溶解することができる。したがって、加水分解は、式(II)のオゾニド、液体有機溶媒、塩基及び、任意選択で水(特に素材となるものが水溶液として提供された場合に)を含むか又は基本的にそれらからなる液相で実施することができる。適当な有機溶媒は、23℃及び周囲圧で液体であり、C
1〜C
4-アルカノール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びそれらの混合物並びに反応条件で不活性の溶媒、例えば、脂肪族炭化水素溶媒及び脂肪族エーテルとの混合物を含むが、これらに限定されないものである。オゾニド(II)の濃度は、一般的に、2から200g/l、特に10から50g/l又は15から30g/lの範囲内、好ましくは、23から28g/lの範囲内であってもよい。
【0017】
本発明の方法で使用される触媒は、モリブデンがドープされたラネーニッケルを含む。前記モリブデンがドープされたラネーニッケルは、通常、(i)主成分としての、典型的には75から95wt%、特に80から90wt%又は84から88wt%の範囲内の量でニッケル(Ni)、(ii)典型的には0.5から2.0wt%、特に0.8から1.3wt%又は0.9から1.1wt%の範囲内の量でモリブデン(Mo)、及び(iii)1種以上の他の金属を含有する。前記他の金属は、例えば、アルミニウム(Al)及び鉄(Fe)を含んでもよい。典型的には、アルミニウムの量は、存在するならば、2.0から15.0wt%、特に3.0から10.0wt%、又は4.0から6.0wt%の範囲内である。典型的には、鉄の量は、存在するならば、0.00から0.30、例えば、0.05から0.20又は0.10から0.15wt%の範囲内である。モリブデンがドープされたラネーニッケル中に含有されて、ここでwt%で表示された金属の量は、モリブデンがドープされたラネーニッケルの合計(乾燥)質量に基づく。
【0018】
モリブデンがドープされたラネーニッケルは、ニッケル、モリブデン、アルミニウム及び任意選択で鉄の合金から本質的になる組成物から通常調製される。不純物は、該材料に典型的なもの(性質及び比率において)である。該合金は、Al及びMoの部分を合金から浸出除去するアルカリ性溶液、例えば、NaOHの濃厚溶液で処理することにより活性化される。
【0019】
本発明の方法では、モリブデンがドープされたラネーニッケルは、純粋な形態、すなわち、モリブデンがドープされたラネーニッケルから基本的になる触媒で、又は他の材料、例えば不活性担体材料との組合せで使用することができる。適当な不活性担体材料は、無機酸化物、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、マグネシア、酸化亜鉛、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、他の無機材料、例えば、セラミックス、金属、ガラス、活性炭、炭化ケイ素、炭酸カルシウム及び硫酸バリウム、及びそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0020】
触媒は、種々の形態で提供することができる。例えば、触媒は、モノリシック形態、例えばハニカムの、又は分割された生成物の形態、例えば、微粉の生成物(粉末)、中実の又は中空のビーズ、ペレット、球、顆粒、押し出し物、凝集塊、又は例えば、円形、楕円形、三葉形、四葉形のもしくは他の断面を有する他の成形体の、モリブデンがドープされたラネーニッケルから基本的に構成することができる。あるいは、触媒は、モリブデンがドープされたラネーニッケルの層でコートされた担体材料から基本的に構成することができ、担体材料は、モノリシック形態、例えばハニカム、又は分割された生成物の形態、例えば、中実の又は中空のビーズ、ペレット、球、顆粒、押し出し物、凝集塊、又は円形、楕円形、三葉形、四葉形のもしくは他の断面を有する他の成形体の形態を有する。
【0021】
純粋なモリブデンがドープされたラネーニッケル、すなわち、担体材料なしのモリブデンがドープされたラネーニッケルを、分割された生成物の形態、特に粉末の形態で使用することが好ましい。そのような粉末の質量平均粒子サイズd(0.5)は、典型的には、10μmから60μm、特に20μmから40μm又は24μmから32μmの範囲内、例えば、約28μmである。モリブデンがドープされたラネーニッケルが粉末の形態にある場合、それは、通常、安全上の理由で、水中のスラリーとして提供される。
【0022】
知られた方法により水素化分解後の反応媒体から触媒を分離するために必要な手段は、触媒の形態により決定される。モノリシックな触媒の形態は、反応媒体が回収される間、反応容器中に残留することができる。触媒粉末は、反応媒体から、固液分離、例えば、濾過又は遠心分離により除去されなければならないこともあるが、それに対してより大きい分割された形態の触媒、例えば、触媒ペレット又はビーズは、反応媒体から、容器の底における簡単な堆積によって分離することができる。
【0023】
本発明の方法では、モリブデンがドープされたラネーニッケルは、しばしば、式(II)のオゾニドの質量に対して、少なくとも8wt%、特に少なくとも10wt%、少なくとも15wt%、少なくとも18wt%、又は約19wt%、例えば、19±5wt%の量で使用される。これより上の量はそれほど重要ではない。式(II)のオゾニドの質量に対して30wt%を超えるモリブデンがドープされたラネーニッケルに対応する量は、典型的には、追加の利益を提供せず、それゆえ、経済的考慮が理由で適用されない。
【0024】
本発明の方法で使用するために適当な塩基は、アルカリ金属水酸化物、例えば、NaOH又はKOHを含み、これらに限定されないが、NaOHが特に好ましい。塩基は水溶液として使用することができる。典型的には、水素化分解反応混合物(式(II)のオゾニド、塩基、触媒及び、任意選択で液体有機溶媒又は希釈剤を含む)中における塩基の濃度は、5mMから50mM、特に8mMから40mM、又は9mMから25mMの範囲内である。
【0025】
一般的に、本発明の方法の水素化分解反応は、有機化学の標準的手順に従って実施することができる。便宜上、反応は、反応混合物の温度制御を可能にする耐圧容器、例えば、例えばオートクレーブ、オートクレーブ反応装置、固定床反応装置又は気泡流反応装置中で実施される。
【0026】
本発明の方法は、オゾニドの水素化分解が連続的か又はバッチ方式のいずれかで起こるように設計することができる。バッチ方式の水素化分解は、この目的のために従来使用されている反応装置中で、例えば、オートクレーブ又は任意選択で計量デバイスを備えた攪拌されているオートクレーブ反応装置中で実施することができる。連続水素化分解は、例えば、固定床又は気泡流反応装置中で実施することができる。
【0027】
反応混合物は、例えば、触媒の除去(例えば、濾過により)、有機溶媒、例えば、酢酸エチルを使用する抽出による仕上げ、揮発性物質の除去等の従来の仕上げに供することができる。得られた粗生成物は、蒸留又はクロマトグラフィー又はそのような手段の組合せを含む従来の精製手段に供してもよい。式(I)のジオールの精製のために適当な蒸留デバイスには、例えば、蒸留カラム、例えば、気泡キャップ棚、篩い板、篩い棚、パッケージもしくは充填材を備えた棚段カラム、又は回転バンドカラム、例えば、薄膜蒸発装置、落下膜蒸発装置、強制循環蒸発装置、Sambay蒸発装置、その他及びそれらの組合せが含まれる。
【0028】
本発明の方法は、大環状化合物、特に大環状の着臭剤、例えばムスコン又はムスセノンの合成に利用することができる。
【0029】
したがって、本発明は、大環状の着臭剤を調製する方法であって、
(i)本明細書に記載された方法により、式(I)のジオールを調製するステップと、
(ii)式(I)のジオールを脱水素及び脱水して式(IV)
【0030】
【化4】
のエノール-エーテルを形成するステップと、
(iii)式(IV)のエノール-エーテルを酸性試薬で処理して、式(V)
【0031】
【化5】
の化合物(3-メチルシクペンタデカ-5-エン-1-オン)を形成させるステップと
を含む、方法をさらに提供する。
【0032】
場合により、式(V)の化合物を水素化して、式(VI)
【0033】
【化6】
の化合物(3-メチルシクロペンタデカノン)を形成することもできる。
【0034】
式(I)のジオールを式(IV)のエノール-エーテルに、及びさらに式(V)又は(VI)の化合物に変換する方法は、例えば、米国特許第4,335,262号明細書から当技術分野で知られている。
【0035】
式(I)のジオールの脱水素及び脱水による式(IV)のエノール-エーテルへの変換は、150℃から200℃の範囲内の温度におけるラネー銅の存在(触媒として作用する)に影響され得る。例えば、ラネー銅は、1:1から1:20、特に1:5から1:15又は1:6から1:10の範囲内(例えば、約1:8)の、式(I)のジオールに対するラネー銅の質量比に対応する量で使用することができる。式(I)のジオールの一部(例えば、3分の1から5分の1又は約4分の1)をラネー銅と一緒に、150から200℃の範囲内の温度(例えば、約165℃)に達するまで加熱することができて、次に、温度を保ちながら、残存する式(I)のジオールをゆっくり添加することができる。式(IV)のエノール-エーテルは、反応媒体から蒸留によって直接収集することができて、知られた方法、例えば、気相クロマトグラフィーにより精製することができる。式(V)の化合物を調製するために、式(IV)のエノール-エーテルを、精製された形態で又は粗生成物として使用することができる。
【0036】
式(IV)のエノール-エーテルの式(V)の化合物への変換は、式(IV)のエノール-エーテルを酸性試薬で処理することにより遂行することができる。前記変換は、通常、不活性有機溶媒中で実施される。適当な不活性有機溶媒は、芳香族炭化水素溶媒、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン及びそれらの混合物を含み、これらに限定されないがトルエンが好ましい。適当な酸性試薬は、プロトン性鉱酸、酸性カチオン樹脂及び珪藻土を含み、これらに限定されないが、リン酸が好ましい。例えば、変換は、80wt%水性リン酸及び芳香族炭化水素溶媒の混合物中で、便宜上、水が共沸で除去されることを可能にする横側に蒸留カラムを備えた容器で実施される。リン酸と式(IV)の化合物の質量比は、例えば、1:1から1:50、例えば、1:4から1:16又は1:6から1:10の範囲内であることができる。反応温度は、広い範囲内で選ぶことができる。有機溶媒の沸点における反応温度が実用的理由で有利である。変換後、反応媒体は、便宜上、塩基(例えば、炭酸ナトリウム水溶液)で中和されて、生成した式(V)の化合物は、有機溶媒(例えば、トルエン)を用いる反応媒体の抽出及び有機抽出物を仕上げる通常の手段の適用により単離することができる。
【0037】
式(V)の化合物は、触媒の存在下における式(V)の化合物の水素化により式(VI)の化合物に変換することができる。適当な触媒は、貴金属触媒、例えば白金及びパラジウム、例えば10wt%パラジウムチャーコールを含む。触媒、例えば10wt%パラジウムチャーコールの式(V)の化合物に対する質量比は、例えば1:1から1:400、例えば1:2から1:200、又は1:3から1:150の範囲内であることができる。式(V)の化合物の水素化は、反応混合物の温度を制御することを可能にする耐圧容器、例えば、オートクレーブ、オートクレーブ反応装置、固定床反応装置、又は気泡流反応装置中で実施するのが得策である。水素化は、有機溶媒、例えば、キシレン又は石油エーテルの存在下で実施することができる。適当な水素化温度は、例えば、60℃から110℃、例えば、80℃から100℃の範囲内である。水素化のためには、1〜5MPa、特に2〜4MPaの範囲内の水素圧を使用することができる。生成した式(VI)の化合物は、知られた方法、例えば、気相クロマトグラフィーによって精製することができる。
【0038】
定義
本明細書において使用する単位「wt%」は質量パーセンテージを表す。
【0039】
特に断りのない限り、単数形の冠詞、例えば、本明細書で使用される「a」又は「an」は、それに続く名詞の複数の及び単数の両方を指示する。
【実施例】
【0040】
I)ガスクロマトグラフィーの分析
ガスクロマトグラフィー(GC)システム及び分離方法:
GC-システム:Agilent7890シリーズA;
GC-カラム:DB-WAX(30m(長さ)、0.32mm(内径)、0.25μm(膜厚));
インジェクター;230℃、検出器280℃及び流量1.5ml。
温度プログラム:3℃/分で80℃から250℃、15分で250℃。
【0041】
wt%で表される下に記載される典型的合成の収率は、GCによって決定された。
【0042】
II)比較例1:
2gの14-メチル-16,17,18-トリオキサトリシクロ[10.3.2.1]オクタデカン(NMRにより決定された純度は80〜90%)を25℃で100mlのメタノールに分散した。この混合物に、0.5mlの水中10wt%のNaOH及び0.5gのラネーニッケル(2400ラネーニッケル、CAS7440-02-0)を添加した。300mlのオートクレーブ中で、該混合物を70℃の温度に加熱して、この温度でシステムを2MPa水素で加圧した。該システムをこれらの条件下で18時間反応させた。この時間の後、オートクレーブを室温に冷却して、ラネーニッケルを濾過により除去した。溶媒を蒸発させ、生成物を酢酸エチルで抽出して1.6gの粗生成物を得たが、それは43wt%の3-メチルシクロペンタデカン-1,5-ジオンを含有しており、14-メチル-16,17,18-トリオキサトリシクロ[10.3.2.1]オクタデカンの初期量に基づいて45%の収率を示した。痕跡量の僅かな3-メチルシクロペンタデカン-1,5-ジオールが検出された(GCにより決定して<10wt%)。
【0043】
実施例1で触媒として使用したラネーニッケル(2400ラネーニッケル)は、質量平均粒子サイズd(0.5)を25〜55μmの範囲内に有する粉末であり、乾燥触媒と水との質量比が50:50の水中におけるスラリーとして提供される。実施例1では、2400ラネーニッケルを、スラリー沈殿の形態(乾燥触媒と水との質量比75:25)で使用した。2400ラネーニッケルの組成物の分析は、2400ラネーニッケルの合計(乾燥)質量に対して75wt%Ni及び2.2wt%Fe及び2.1wt%クロム(Cr)の検出という結果であった。前記分析のために、2400ラネーニッケルの試料を終夜アルゴン下に105℃で乾燥させた。Ni、Fe及びCrに加えて、2400ラネーニッケルはアルミニウムも含有する。
【0044】
III)実施例2:
2gの14-メチル-16,17,18-トリオキサトリシクロ[10.3.2.1]オクタデカン(NMRにより決定された純度80〜90%)を25℃で100mlのメタノール中に分散した。この混合物に、0.5mlの水中10wt%NaOH及び0.5gモリブデンがドープされたラネーニッケルを添加した。300mlのオートクレーブ中で、混合物を70℃の温度に加熱して、この温度でシステムを2MPa水素で加圧した。システムをこれらの条件下で18時間反応させた。この時間の後、オートクレーブを室温に冷却して、ラネーニッケルを濾過により除去した。溶媒を蒸発させ、生成物を酢酸エチルで抽出して、1.75gの粗生成物を得たが、それは71wt%の3-メチルシクロペンタデカン-1,5-ジオールを含有しており、14-メチル-16,17,18-トリオキサトリシクロ[10.3.2.1]オクタデカンの初期量に基づいて80%の収率を示した。
【0045】
実施例2で触媒として使用したモリブデンがドープされたラネーニッケルは、33μmの質量平均粒子サイズd(0.5)(d(0.1):8μm; d(0.9):101μm)を有する粉末であり、それは、乾燥触媒と水との質量比が50:50の水中のスラリーとして提供される。実施例2では、モリブデンがドープされたラネーニッケルを、スラリー沈殿の形態で(乾燥触媒と水との質量比75:25)使用した。触媒組成物の分析結果は、モリブデンがドープされたラネーニッケルの合計(乾燥)質量に対して80wt%Ni及び1.0wt%Moが検出された。C、H及びNの含有率は各々<0.5wt%であり、Sの含有率は<0.01wt%であった。前記分析は不活性雰囲気下で実施されなかったので、見出されたかもしれない如何なるNiOも計算に入れていない。Ni及びMoに加えて、触媒はアルミニウムも含有する。