特許第6885940号(P6885940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6885940酸化物焼結体及びスパッタリングターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885940
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】酸化物焼結体及びスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/01 20060101AFI20210603BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20210603BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20210603BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210603BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20210603BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20210603BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   C04B35/01
   C23C14/34 A
   H01B1/08
   H01B13/00 503B
   H01L29/78 618A
   H01L29/78 618B
   H01L21/363
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-524029(P2018-524029)
(86)(22)【出願日】2017年6月16日
(86)【国際出願番号】JP2017022276
(87)【国際公開番号】WO2017217529
(87)【国際公開日】20171221
【審査請求日】2019年12月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-121063(P2016-121063)
(32)【優先日】2016年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 一吉
(72)【発明者】
【氏名】笘井 重和
(72)【発明者】
【氏名】柴田 雅敏
(72)【発明者】
【氏名】竹嶋 基浩
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/098060(WO,A1)
【文献】 特開平09−209134(JP,A)
【文献】 特開2000−169219(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/032432(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Inで表されるビックスバイト相、及び
InGa12で表されるガーネット相を含む酸化物焼結体。
【請求項2】
In、Ga及びYの原子比が、下記の範囲である請求項1に記載の酸化物焼結体。
In/(In+Y+Ga)が0.60以上0.97以下
Ga/(In+Y+Ga)が0.01以上0.20以下
Y/(In+Y+Ga)が0.02以上0.20以下
【請求項3】
Ga及びYの原子比が、下記の範囲である請求項1又は2に記載の酸化物焼結体。
Ga/(In+Y+Ga)が0.02以上0.12以下
Y/(In+Y+Ga)が0.03以上0.16以下
【請求項4】
前記Inで表されるビックスバイト相の最大ピーク強度の、前記YInGa12で表されるガーネット相の最大ピーク強度に対する、ピーク強度比が、1〜500である請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項5】
さらに、正四価の金属元素を含む請求項1〜のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項6】
前記正四価の金属元素が、前記Inで表されるビックスバイト相又はYInGa12で表されるガーネット相に固溶している請求項に記載の酸化物焼結体。
【請求項7】
前記正四価の金属元素の含有量が、酸化物焼結体中の全金属元素に対して、原子濃度で100〜10000ppmである、請求項5又は6に記載の酸化物焼結体。
【請求項8】
前記正四価の金属元素がSnである請求項5〜7のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項9】
相対密度が95%以上である請求項1〜のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項10】
バルク抵抗が、30mΩ・cm以下である請求項1〜のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の酸化物焼結体を含むスパッタリングターゲット。
【請求項12】
請求項11に記載のスパッタリングターゲットを用いる酸化物半導体薄膜の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の酸化物半導体薄膜を含む薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物焼結体及びスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(TFT)に用いられるアモルファス(非晶質)酸化物半導体は、汎用のアモルファスシリコン(a−Si)に比べて高いキャリア移動度を有し、光学バンドギャップが大きく、低温で成膜できるため、大型・高解像度・高速駆動が要求される次世代ディスプレイや、耐熱性の低い樹脂基板等への適用が期待されている。
【0003】
上記酸化物半導体(膜)の形成に当たっては、スパッタリングターゲットをスパッタリングするスパッタリング法が好適に用いられている。これは、スパッタリング法で形成された薄膜が、イオンプレーティング法や真空蒸着法、電子ビーム蒸着法で形成された薄膜に比べ、膜面方向(膜面内)における成分組成や膜厚等の面内均一性に優れており、スパッタリングターゲットと同じ成分組成の薄膜を形成できるためである。
【0004】
特許文献1には、In,Y及びOからなり、Y/(Y+In)が、原子濃度で2.0〜40原子%、体積抵抗率が5×10−2Ωcm以下である酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いることが記載されている。また、Sn元素の含有量は、Sn/(In+Sn+他の全金属原子)が、原子濃度で2.8〜20原子%であることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、In,Sn,Y及びOからなり、Y/(In+Sn+Y)が、原子濃度で0.1〜2.0原子%である酸化物焼結体、これを用いたスパッタリングターゲットが記載されている。
【0006】
特許文献3には、YInOとInの格子定数の中間の格子定数を有する焼結体、及びこれをスパッタリングターゲットとして用いることが記載されている。
【0007】
特許文献4には、酸化インジウム、酸化イットリウム、及び酸化アルミニウム又は酸化ガリウムを含む原料を焼結して得られる、A12型ガーネット構造の化合物を含有するスパッタリングターゲットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−209134号公報
【特許文献2】特開2000−169219号公報
【特許文献3】国際公開2010−032432号
【特許文献4】国際公開2015−098060号
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、新規な酸化物焼結体及びスパッタリングターゲットを提供することである。
【0010】
従来、特許文献4に記載されるように、酸化イットリウムと酸化ガリウムからなる化合物は、A12型のガーネット相を含むと考えられていた。しかしながら、本発明者らが鋭意研究の結果、A12型のガーネット相ではなく、Inで表されるビックスバイト相を主成分とする酸化物焼結体において、YInGa12で表されるガーネット相が出現することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明によれば、以下の酸化物焼結体及びスパッタリングターゲット等が提供される。
1.Inで表されるビックスバイト相、及び
InGa12で表されるガーネット相を含む酸化物焼結体。
2.In、Ga及びYの原子比が、下記の範囲である1に記載の酸化物焼結体。
In/(In+Y+Ga)が0.60以上0.97以下
Ga/(In+Y+Ga)が0.01以上0.20以下
Y/(In+Y+Ga)が0.02以上0.20以下
3.前記Inで表されるビックスバイト相の最大ピーク強度の、前記YInGa12で表されるガーネット相の最大ピーク強度に対する、ピーク強度比が、1〜500である1又は2に記載の酸化物焼結体。
4.さらに、正四価の金属元素を含む1〜3のいずれかに記載の酸化物焼結体。
5.前記正四価の金属元素が、前記Inで表されるビックスバイト相又はYInGa12で表されるガーネット相に固溶している4に記載の酸化物焼結体。
6.前記正四価の金属元素の含有量が、酸化物焼結体中の全金属元素に対して、原子濃度で100〜10000ppmである、4又は5に記載の酸化物焼結体。
7.前記正四価の金属元素がSnである4〜6のいずれかに記載の酸化物焼結体。
8.相対密度が95%以上である1〜7のいずれかに記載の酸化物焼結体。
9.バルク抵抗が、30mΩ・cm以下である1〜8のいずれかに記載の酸化物焼結体。
10.1〜9のいずれかに記載の酸化物焼結体を含むスパッタリングターゲット。
11.10に記載のスパッタリングターゲットを用いる酸化物半導体薄膜の製造方法。
12.11に記載の酸化物半導体薄膜を含む薄膜トランジスタの製造方法。
【0012】
本発明によれば、新規な酸化物焼結体及びスパッタリングターゲットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の酸化物焼結体のX線回折パターンである。
図2】実施例12の酸化物焼結体のX線回折パターンである。
図3】本発明のTFTの一実施形態を示す図である。
図4】本発明のTFTの一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の酸化物焼結体は、Inで表されるビックスバイト相、及びYInGa12で表されるガーネット相を含む。
【0015】
これにより、焼結体密度(相対密度)の向上及び体積抵抗率(バルク抵抗)の低減を実現することができる。また、線膨張係数を小さく、熱伝導率を大きくすることができる。また、雰囲気焼成炉を用いて酸素雰囲気下という特殊な条件下や、大気下等で行うような簡便な方法で焼成した場合でも、体積抵抗率も低く焼結体密度も高い焼結体とすることができる。
本発明の焼結体(酸化物焼結体)により、強度が高いスパッタリングターゲット(ターゲット)を得ることができ、熱応力によりマイクロクラックを発生せず、チッピングや異常放電をおこさず、大パワーでのスパッタリングが可能なスパッタリングターゲットを得ることができる。
本発明の焼結体は、ターゲットの強度が高い。また熱伝導率が高く、線膨張係数が小さいため、熱応力を抑えることができ、その結果、ターゲットのマイクロクラックやチッピングの発生を抑制し、ノジュールや異常放電の発生を抑制することができる。
加えて、本発明の焼結体により、高移動度で、TFT製造プロセス過程で酸化物半導体層の積層後に行われる化学気相成長プロセス(CVDプロセス)やTFT作製後の加熱処理等での熱による特性への劣化が少なく、高性能のTFTを得ることができる。
【0016】
Inで表されるビックスバイト相及びYInGa12で表されるガーネット相は、例えばX線回折(XRD)法により、XRDチャートから検出することができる。
【0017】
本発明の焼結体は、Inで表されるビックスバイト相が主成分であることが好ましい。
【0018】
Inで表されるビックスバイト相の最大ピーク強度の、YInGa12で表されるガーネット相の最大ピーク強度に対する、ピーク強度比(In/YInGa12)は、1〜500が好ましく、より好ましくは5〜300であり、さらに好ましくは7〜290である。
上記範囲内であることにより、安定したスパッタを行うことができる。
【0019】
Inで表されるビックスバイト相の最大ピーク強度の、YInGa12で表されるガーネット相の最大ピーク強度に対する、ピーク強度比(In/YInGa12)は、例えばXRD測定から算出することができる。
具体的には、Inで表されるビックスバイト相の最大ピークが現れるピーク強度(2θ/θ=30〜31°付近、例えば、29.5〜31°)と、YInGa12で表されるガーネット相の最大ピークが現れるピーク強度(2θ/θ=32°付近、例えば、31.1〜32.5°)とを用いて、Inで表されるビックスバイト相の最大ピークが現れるピーク強度を、YInGa12で表されるガーネット相の最大ピークが現れるピーク強度で除することで求めることができる。
【0020】
Inで表されるビックスバイト相に、Y、Ga、又はY及びGaが固溶していてもよい。Inで表されるビックスバイト相に、Y及びGaが固溶していることが好ましい。固溶は、置換型固溶が好ましい。
これにより、安定したスパッタを行うことができる。
【0021】
Y、Ga、又はY及びGaの固溶は、例えばXRD測定を用いて、ビックスバイト相の格子定数から同定することができる。
Inで表されるビックスバイト相の格子定数が、例えば、Inで表されるビックスバイト相のみの格子定数よりも小さくなっていれば、Gaの固溶が優位的に作用しており、Inで表されるビックスバイト相のみの格子定数よりも大きくなっていれば、Yの固溶が優位的に作用している。
【0022】
ここで、「格子定数」とは、単位格子の格子軸の長さと定義され、例えばX線回折法によって求めることができる。
【0023】
また、YInGa12で表されるガーネット相を構成する各サイトに、Y、In、Ga、又はY、In及びGaが固溶していてもよい。
これら金属元素が固溶していることは、酸化物焼結体に含まれるガーネット相が、YInGa12で表される組成から少し外れて現れることにより確認できる。具体的には、リードベルト解析で確認することができる。
これにより、安定したスパッタを行うことができる。
【0024】
InGa12で表されるガーネット相の平均粒径は、15μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以下であり、さらに好ましくは8μm以下であり、特に好ましくは5μm以下である。下限値に特に制限はないが、通常0.1μm以上である。
InGa12で表されるガーネット相の平均粒径が15μm以下の場合、放電を安定化しやすくなる。
InGa12で表されるガーネット相の平均粒径は、例えば、電子プローブ微小分析器(EPMA)により、YInGa12で表されるガーネット相を特定し、その最大径を直径とする円を仮定し、その直径の平均値として、求めることができる。
【0025】
酸化物焼結体に含まれるIn元素、Y元素及びGa元素に対するIn元素の原子比In/(In+Y+Ga)は、0.60以上0.97以下であることが好ましく、0.70以上0.96以下がより好ましく、0.75以上0.95以下がさらに好ましい。
In/(In+Y+Ga)が0.60未満の場合、形成する酸化物半導体薄膜を含むTFTの移動動が小さくなるおそれがある。In/(In+Y+Ga)が0.97超の場合、TFTの安定性が得られないおそれや、導電化して半導体になりにくいおそれがある。
【0026】
酸化物焼結体に含まれるIn元素、Y元素及びGa元素に対するGa元素の原子比Ga/(In+Y+Ga)は、0.01以上0.20以下であることが好ましく、0.02以上0.15以下がより好ましく、0.02以上0.12以下がさらに好ましい。
Ga/(In+Y+Ga)が0.01未満の場合、YInGa12で表されるガーネット相が形成されず、焼結体のバルク抵抗が高くなったり、焼結体密度及び焼結体強度が低く、そのためスパッタ時の熱による割れ等が発生しやすくなったり、安定したスパッタリングができなくなるおそれがある。一方、Ga/(In+Y+Ga)が0.20超の場合、形成する酸化物半導体薄膜を含むTFTの移動動が小さくなるおそれがある。
【0027】
酸化物焼結体に含まれるIn元素、Y元素及びGa元素に対すY元素の原子比Y/(In+Y+Ga)は、0.02以上0.20以下であることが好ましく、0.02以上0.18以下がより好ましく、0.03以上0.16以下がさらに好ましい。
Y/(In+Y+Ga)が0.02未満の場合、YInGa12で表されるガーネット相が形成されず、焼結体のバルク抵抗が高くなったり、焼結体密度及び焼結体強度が低く、そのためスパッタ時の熱による割れ等が発生しやすくなったり、安定したスパッタリングができなくなるおそれがある。一方、Y/(In+Y+Ga)が0.20超の場合、形成する酸化物半導体薄膜を含むTFTの移動動が小さくなるおそれがある。
【0028】
本発明の酸化物焼結体は、さらに、正四価の金属元素を含むことが好ましい。
これにより、より安定的にスパッタリングを行うことができる。
【0029】
正四価の金属元素としては、Sn、Ti、Zr、Hf、Ce、Ge等が挙げられる。
上記正四価の金属元素のうちSnが好ましい。Snのドーピング効果によりバルク抵抗が低下し、より安定的にスパッタリングを行うことができる。
【0030】
正四価の金属元素は、Inで表されるビックスバイト相又はYInGa12で表されるガーネット相に固溶していることが好ましく、Inで表されるビックスバイト相に固溶していることがより好ましい。固溶は、置換型固溶が好ましい。
これにより、より安定的にスパッタリングを行うことができる。
【0031】
正四価の金属元素の固溶については、例えば、酸化物焼結体のバルク抵抗からから同定することができる。正四価の金属元素を加えない場合や固溶していない時の酸化物焼結体のバルク抵抗は高く、異常放電の原因となる場合もある。正四価の金属元素を添加し、固溶した場合は、酸化物焼結体のバルク抵抗が低下し、安定したスパッタリング状態が得られるようになる。
【0032】
正四価の金属元素の含有量は、酸化物焼結体中の全金属元素に対して、原子濃度で100〜10000ppmが好ましく、より好ましくは500ppm以上8000ppm以下であり、さらに好ましくは800ppm以上6000ppm以下である。
正四価の金属元素の含有量が100ppm未満の場合、バルク抵抗が低下しないおそれがある。一方、正四価の金属元素の含有量が10000ppm超の場合、形成する酸化物半導体薄膜が高キャリア状態になりTFTが導通するおそれや、オン/オフ値が小さくなるおそれがある。
【0033】
本発明の酸化物焼結体は、相対密度が95%以上であることが好ましく、より好ましくは96%以上であり、さらに好ましくは97%以上であり、特に好ましくは98%以上である。上限値は、特に制限はないが、通常100%である。
酸化物焼結体の相対密度が95%以上の場合、ターゲットとして用いた際に、異常放電の原因やノジュール発生の起点となる空隙を減少させることができる。
相対密度は、例えば、アルキメデス法で測定した酸化物焼結体の実測密度を、酸化物焼結体の理論密度で除した値を、百分率にして、算出することができる。
例えば、酸化物焼結体の原料粉末として酸化物A、酸化物B、酸化物C、酸化物Dを用いた場合において、酸化物A、酸化物B、酸化物C、酸化物Dの使用量(仕込量)をそれぞれa(g)、b(g)、c(g)、d(g)とすると、理論密度は、以下のように当てはめることで算出できる。
理論密度=(a+b+c+d)/((a/酸化物Aの密度)+(b/酸化物Bの密度)+(c/酸化物Cの密度)+(d/酸化物Dの密度))
尚、各酸化物の密度は、密度と比重はほぼ同等であることから、化学便覧 基礎編I日本化学編 改定2版(丸善株式会社)に記載されている酸化物の比重の値を用いるとよい。なお、理論密度は、各酸化物の重量比を用いて以下のように算出することもできる。
理論密度=1/((酸化物Aの重量比/酸化物Aの密度)+(酸化物Bの重量比/酸化物Bの密度)+(酸化物Cの重量比/酸化物Cの密度)+(酸化物Dの重量比/酸化物Dの密度))
【0034】
本発明の酸化物焼結体は、バルク抵抗が、好ましくは30mΩ・cm以下であり、より好ましくは15mΩ・cm以下であり、さらに好ましくは10mΩ・cm以下である。下限値は、特に制限はないが、通常1mΩ・cm以上である。
酸化物焼結体のバルク抵抗が30mΩ・cm以下の場合、大パワーでの成膜時に、ターゲットの帯電による異常放電が発生しにくく、また、プラズマ状態が安定し、スパークが発生しにくくなる。また、パルスDCスパッタ装置を用いる場合、さらにプラズマが安定し、異常放電等の問題もなく、安定してスパッタできるようになる。
バルク抵抗は、例えば、四探針法に基づき測定することができる。
【0035】
本発明の酸化物焼結体は、3点曲げ強度が、120MPa以上であることが好ましく、140MPa以上がより好ましく、150MPa以上がさらに好ましい。
酸化物焼結体の3点曲げ強度が120MPa未満の場合、大パワーでスパッタ成膜した際に、ターゲットの強度が弱く、ターゲットが割れたり、チッピングを起こして、チッピングした破片がターゲット上に飛散し、異常放電の原因となるおそれがある。
【0036】
3点曲げ強度は、例えばJIS R 1601「ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験」に準じて、試験することができる。
具体的には、幅4mm、厚さ3mm、長さ40mmの標準試験片を用いて、一定距離(30mm)に配置された2支点上に試験片を置き、支点間の中央からクロスヘッド速度0.5mm/分荷重を加え、破壊した時の最大荷重より、曲げ強さを算出することができる。
【0037】
本発明の酸化物焼結体は、線膨張係数が9.0×10−6−1以下であることが好ましく、8.5×10−6−1以下がより好ましく、8.0×10−6−1以下がさらに好ましい。下限値は、特に制限はないが、通常5.0×10−6−1以上である。
酸化物焼結体の線膨張係数が9.0×10−6−1を超える場合、大パワーでスパッタリング中に加熱され、ターゲットが膨張し、ボンディングされている銅版側との間で変形が起こり、応力によりターゲットにマイクロクラックが入ったり、割れやチッピングにより、異常放電の原因となるおそれがある。
線膨張係数は、例えば幅5mm、厚さ5mm、長さ10mmの標準試験片を用いて、昇温速度を5℃/分にセットし、300℃に到達した時の熱膨張による変位を、位置検出機で検出することにより求めることができる。
【0038】
本発明の酸化物焼結体は、熱伝導率が5.0W/m・K以上であることが好ましく、5.5W/m・K以上がより好ましく、6.0W/m・K以上がさらに好ましく、6.5W/m・K以上が最も好ましい。
上限値は、特に制限はないが、通常10W/m・K以下である。
酸化物焼結体の熱伝導率が5.0W/m・K未満の場合、大パワーでスパッタリング成膜した際に、スパッタ面とボンディングされた面の温度が異なり、内部応力によりターゲットにマイクロクラックや割れ、チッピングが発生するおそれがある。
熱伝導率は、例えば直径10mm、厚さ1mmの標準試験片を用いて、レーザーフラッシュ法により比熱容量と熱拡散率を求め、これに試験片の密度を乗算することにより算出できる。
【0039】
本発明の酸化物焼結体は、ヤング率が200GPa以下であることが好ましく、190GPa以下がより好ましく、185GPa以下がさらに好ましく、180GPa以下が最も好ましい。
ヤング率の下限値は、特に制限はないが、通常100GPa以上である。
酸化物焼結体のヤング率が200GPa以下であれば、スパッタリング中に発生する熱応力でも割れなくなり好ましい。
ヤング率は、例えば超音波パルス反射法による音速測定より求めることができる。
【0040】
本発明の酸化物焼結体は、本質的に、In、Y、Ga、及び任意に正四価の金属元素からなっており、本発明の効果を損なわない範囲で他に不可避不純物を含んでもよい。
本発明の酸化物焼結体の金属元素の、例えば、90原子%以上、95原子%以上、98原子%以上、99原子%以上又は100原子%が、In、Y及びGa、又はIn、Y、Ga及び正四価の金属元素からなっていてもよい。
【0041】
本発明の酸化物焼結体は、結晶相としてInで表されるビックスバイト相、及びYInGa12で表されるガーネット相を含めばよく、これら結晶相のみからなってもよい。
【0042】
本発明の酸化物焼結体は、In元素を含む原料粉末、Y元素を含む原料粉末、及びGa元素を含む原料粉末の混合粉末を調製する工程、混合粉末を成形して成形体を製造する工程、及び成形体を焼成する工程により、製造できる。
混合粉末は、正四価の金属元素を含む原料粉末を含んでもよい。
原料粉末は、酸化物粉末が好ましい。即ち、In元素を含む原料粉末は、酸化インジウム粉末が好ましく、Y元素を含む原料粉末は、酸化イットリウム粉末が好ましく、Ga元素を含む原料粉末は、酸化ガリウム粉末が好ましい。正四価の金属元素を含む原料粉末は、正四価の金属元素の酸化物粉末が好ましく、なかでも酸化スズ粉末が好ましい。
【0043】
原料粉末の混合比は、例えば得ようとする焼結体の原子比に対応させる。
【0044】
原料粉末の平均粒径は、好ましくは0.1〜1.2μmであり、より好ましくは0.5〜1.0μm以下である。原料粉末の平均粒径はレーザー回折式粒度分布装置等で測定することができる。
【0045】
原料の混合、成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いて行うことができる。また、混合する際にはバインダーを添加してもよい。
原料の混合は、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル又は超音波装置等の公知の装置を用いて行うことができる。粉砕時間は、適宜調整すればよいが、6〜100時間程度が好ましい。
【0046】
成形方法は、例えば、混合粉末を加圧成形して成形体とすることができる。この工程により、製品の形状(例えば、スパッタリングターゲットとして好適な形状)に成形することができる。
【0047】
原料を成形型に充填し、通常、金型プレス又は冷間静水圧プレス(CIP)により、例えば1000kg/cm以上の圧力で成形を施して、成形体を得ることができる。
尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやポリエチレングリコール、メチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸、ステアリン酸等の成形助剤を用いてもよい。
【0048】
得られた成形体を、例えば1200〜1650℃の焼結温度で10時間以上焼結して焼結体を得ることができる。
焼結温度は、好ましくは1350〜1600℃、より好ましくは1400〜1600℃、さらに好ましくは1450〜1600℃である。焼結時間は好ましくは10〜50時間、より好ましくは12〜40時間、さらに好ましくは13〜30時間である。
【0049】
焼結温度が1200℃未満又は焼結時間が10時間未満であると、焼結が十分進行しないため、ターゲットの電気抵抗が十分下がらず、異常放電の原因となるおそれがある。一方、焼結温度が1650℃を超えるか、又は、焼結時間が50時間を超えると、著しい結晶粒成長により平均結晶粒径の増大や、粗大空孔の発生を来たし、焼結体強度の低下や異常放電の原因となるおそれがある。
【0050】
常圧焼結法では、通常、成形体を大気雰囲気、又は酸素ガス雰囲気にて焼結する。酸素ガス雰囲気は、酸素濃度が、例えば10〜50体積%の雰囲気であることが好ましい。昇温過程を大気雰囲気下で行ったとしても、焼結体密度を高くすることができる。
【0051】
さらに、焼結に際しての昇温速度は、800℃から焼結温度(1200〜1650℃)までを50〜150℃/時間とすることが好ましい。
本発明の酸化物焼結体において800℃から上の温度範囲は、焼結が最も進行する範囲である。この温度範囲での昇温速度が50℃/時間より遅くなると、結晶粒成長が著しくなって、高密度化を達成することができないおそれがある。一方、昇温速度が150℃/時間より速くなると、成形体に温度分布が生じ、焼結体が反ったり割れたりするおそれがある。
800℃から焼結温度における昇温速度は、好ましくは60〜140℃/時間、より好ましくは70〜130℃/時間である。
【0052】
本発明のスパッタリングターゲットは、上述の酸化物焼結体を用いて作製することができる。これにより、酸化物半導体薄膜を、スパッタリング法等の真空プロセスで製造することができる。
【0053】
例えば、焼結体を、切削又は研磨加工し、バッキングプレートにボンディングすることにより、スパッタリングターゲットを作製することができる。
例えば、切断加工することで、焼結体表面の、高酸化状態の焼結部や、凸凹した面を除くことができる。また、指定の大きさにすることができる。
表面を#200番、もしくは#400番、さらには#800番の研磨を行ってもよい。これにより、スパッタリング中の異常放電やパーティクルの発生を抑えることができる。
ボンディングの方法としては、例えば金属インジウムにより接合することが挙げられる。
【0054】
本発明のスパッタリングターゲットは、直流(DC)スパッタリング法、高周波(RF)スパッタリング法、交流(AC)スパッタリング法、パルスDCスパッタリング法等に適用することができる。
【0055】
上記スパッタリングターゲットを用いて製膜することにより、酸化物半導体薄膜を得ることができる。これにより、TFTに用いたときに優れたTFT性能が発揮される薄膜を形成できる。
【0056】
製膜は、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザー蒸着法等により行うことができる。
【0057】
本発明のTFTは、上述の酸化物半導体薄膜を含む。酸化物半導体薄膜は、例えばチャネル層として好適に使用できる。
TFTの素子構成は特に限定されず、公知の各種の素子構成を採用することができる。本発明TFTは、例えば液晶ディスプレイや有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表示装置等に用いることができる。
【0058】
図3に本発明のTFTの一例を示す。このTFTでは、シリコンウエハー(ゲート電極)20上にあるゲート絶縁膜30に、本発明のスパッタリングターゲットを用いて得られる半導体膜40を形成し、層間絶縁膜70,70aが形成されている。半導体膜40上の70aはチャネル層保護層としても作用するものである。半導体膜上にソース電極50とドレイン電極60が設けられている。
【0059】
図4に本発明のTFTの一例を示す。このTFTでは、シリコンウエハー(ゲート電極)20上にあるゲート絶縁膜(例えばSiO)30に、本発明のスパッタリングターゲットを用いて得られる半導体膜40を形成し、半導体膜40上にソース電極50とドレイン電極60を設け、半導体膜40、ソース電極50及びドレイン電極60上に保護層70b(例えばCVD成膜したSiO膜)が設けられている。
シリコンウエハー20及びゲート絶縁膜30は、熱酸化膜付きシリコンウエハーを用いて、シリコンウエハーをゲート電極とし、熱酸化膜(SiO)をゲート絶縁膜としてもよい。
【0060】
また、図3及び図4において、ガラス等の基板上にゲート電極20を形成してもよい。
【0061】
半導体膜は、バンドギャップが3.0eV以上であることが好ましい。バンドギャップが3.0eV以上の場合、波長が420nm付近から長波長側の光を吸収しなくなる。これにより、有機ELやTFT−LCDの光源からの光を光吸収することがなく、TFTのチャネル層として用いた際に、TFTの光による誤作動等がなく、光安定性を向上させることができる。好ましくは3.1eV以上、より好ましくは3.3eV以上である。
【0062】
本発明のTFTにおいて、ドレイン電極、ソース電極及びゲート電極の各電極を形成する材料に特に制限はなく、一般に用いられている材料を任意に選択することができる。例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、ZnO、SnO等の透明電極や、Al、Ag、Cu、Cr、Ni、Mo、Au、Ti、Ta等の金属電極、又はこれらを含む合金の金属電極や積層電極を用いることができる。また、シリコンウエハーを基板として用いてもよく、その場合はシリコンウエハーが電極としても作用する。
【0063】
本発明のTFTにおいて、バックチャネルエッチ型(ボトムゲート型)のTFTの場合、ドレイン電極、ソース電極及びチャネル層上に保護膜を設けることが好ましい。保護膜を設けることにより、TFTの長時間駆動した場合でも耐久性が向上しやすくなる。尚、トップゲート型のTFTの場合、例えばチャネル層上にゲート絶縁膜を形成した構造となる。
保護膜又は絶縁膜は、例えばCVDにより形成することができるが、その際に高温度によるプロセスになる場合がある。また、保護膜又は絶縁膜は、成膜直後は不純物ガスを含有していることが多く、加熱処理(アニール処理)を行うことが好ましい。加熱処理によりそれらの不純物ガスを取り除くことにより安定した保護膜又は絶縁膜となり、耐久性の高いTFT素子を形成しやすくなる。
本発明の酸化物半導体薄膜を用いることにより、CVDプロセスにおける温度の影響、及びその後の加熱処理による影響を受けにくくなるため、保護膜又は絶縁膜を形成した場合であっても、TFT特性の安定性を向上させることができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を、実施例を用いて説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0065】
実施例1〜14
(酸化物焼結体の製造)
酸化インジウム粉末、酸化ガリウム粉末、酸化イットリウム粉末及び酸化スズ粉末を、表1及び2に示す酸化物焼結体の原子比及びSn原子濃度となるように、秤量し、ポリエチレン製のポットに入れて、乾式ボールミルにより72時間混合粉砕し、混合粉末を作製した。
この混合粉末を金型に入れ、500kg/cmの圧力でプレス成型体とした。この成型体を2000kg/cmの圧力でCIPにより緻密化を行った。次に、この成型体を常圧焼成炉に設置して、大気雰囲気下で、350℃で3時間保持した後に、100℃/時間にて昇温し、1450℃にて20時間焼結し、その後、放置して冷却し、酸化物焼結体(焼結体)を得た。
【0066】
(XRDの測定)
得られた焼結体について、X線回折測定装置Smartlabにより、以下の条件で、焼結体のX線回折(XRD)を測定した。得られたXRDチャートをJADE6により分析し、焼結体中の結晶相を求めた。結果を表1及び2に示す。表1及び2中、「In」は「Inで表されるビックスバイト相」を示し、「YInGa12」は「YInGa12で表されるガーネット相」を示す。
【0067】
・装置:Smartlab(株式会社リガク製)
・X線:Cu−Kα線(波長1.5418Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
・2θ−θ反射法、連続スキャン(2.0°/分)
・サンプリング間隔:0.02°
・スリットDS(発散スリット)、SS(散乱スリット)、RS(受光スリット):1.0mm
【0068】
実施例1について、得られた焼結体のXRDチャートを図1に示す。図1中、強度5500以上の部分は省略した。
図1から、実施例1の焼結体は、「Inで表されるビックスバイト相」及び「YInGa12で表されるガーネット相」を有することが分かった。
また、実施例12について、得られた焼結体のXRDチャートを図2に示す。図2中、強度10500以上の部分は省略した。図2から、実施例12の焼結体は、「Inで表されるビックスバイト相」及び「YInGa12で表されるガーネット相」を有することが分かった。
【0069】
図1における、Inで表されるビックスバイト相の最大ピーク(2θ/θ=30〜31°付近)の強度と、YInGa12で表されるガーネット相の最大ピーク(2θ/θ=32°付近)の強度とを、ベースの影響を排除して用いた。
Inで表されるビックスバイト相の最大ピーク強度の、YInGa12で表されるガーネット相の最大ピーク強度に対する、ピーク強度比(In/YInGa12)は、Inで表されるビックスバイト相の最大ピーク強度が現れる2θ/θ=30〜31°付近のピーク強度を、YInGa12で表されるガーネット相の最大ピーク強度が現れる2θ/θ=32°付近のピーク強度で除することで求めた。
実施例1の焼結体において、Inで表されるビックスバイト相の最大ピーク強度の、YInGa12で表されるガーネット相の最大ピーク強度に対する、ピーク強度比(In/YInGa12)は71.09であった。
【0070】
図2から同様に算出した。実施例12の焼結体において、Inで表されるビックスバイト相の最大ピーク強度の、YInGa12で表されるガーネット相の最大ピーク強度に対する、ピーク強度比(In/YInGa12)は10.86であった。
【0071】
上述の実施例2〜11及び13〜14の焼結体において、Inで表されるビックスバイト相の最大ピーク強度の、YInGa12で表されるガーネット相の最大ピーク強度に対する、ピーク強度比(In/YInGa12)を同様に求めた。結果を表1及び2に示す。
また、実施例2〜11及び13〜14の焼結体は、XRDチャートから、「Inで表されるビックスバイト相」及び「YInGa12で表されるガーネット相」を有することが分かった。
【0072】
また、XRDの測定から、「Inで表されるビックスバイト相」のビックスバイト構造の格子定数を求めた。結果を表1及び2に示す。
得られた格子定数から、実施例1及び2の焼結体はInで表されるビックスバイト相にY及びGaが固溶していることが分かり、実施例1の焼結体はYの固溶が優位的に作用しており、実施例2の焼結体はGaの固溶が優位的に作用していることが分かった。
また、実施例3〜14の焼結体においては、得られた格子定数からInで表されるビックスバイト相にY、Ga及びSnが固溶していることが分かった。
【0073】
(YInGa12で表されるガーネット相の平均粒径の測定)
上述の焼結体について、電子プローブ微小分析器(EPMA)により、焼結体中のYInGa12で表されるガーネット相を50μm×50μmの視野の中で特定し、ガーネット相の最大径を直径とする円(外接円)を仮定し、焼結体に含まれる複数のガーネット相の直径の平均値を、ガーネット相の平均粒径とした。結果を表1及び2に示す。
【0074】
(相対密度の測定)
上述の焼結体について、アルキメデス法で測定した実測密度を、各構成元素の酸化物の密度及び重量比から算出される理論密度で除した値を、百分率にして、算出した。結果を表1及び2に示す。
尚、各原料粉末の密度は、密度と比重はほぼ同等であることから、化学便覧 基礎編I日本化学編 改定2版(丸善株式会社)に記載されている酸化物の比重の値を用いた。
【0075】
(バルク抵抗の測定)
上述の焼結体のバルク抵抗(導電性)を、抵抗率計ロレスタ(三菱化学株式会社製、ロレスタAX MCP-T370)を使用して、四探針法(JISR1637)に基づき測定した。結果を表1及び2に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
実施例1〜14について、常圧焼成炉を用いた大気雰囲気下での焼成方法は、HIP(Hot Isostatic Press)、放電プラズマ焼結(SPS)又は雰囲気焼成炉を用いる技術よりも、焼結体密度が上がりにくい方法にもかかわらず、簡便な常圧焼成炉を用いた大気雰囲気下での焼成で、高密度な実施例1〜14の焼結体が得られた。
【0079】
(線膨張係数、熱伝導率及びヤング率の測定)
実施例2及び実施例11で製造した焼結体について、線膨張係数、熱伝導率及びヤング率をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。
線膨張係数は、得られた焼結体を幅5mm、厚さ5mm、長さ10mmに切り出したものを標準試験片として用いて、昇温速度を10℃/分にセットし、30℃〜300℃の平均熱膨張率を熱機械分析法により、熱機械分析装置TMA7100((株)日立ハイテクサイエンス )より計測した。
熱伝導率は、得られた焼結体を直径10mm、厚さ2mmに切り出したものを標準試験片として用いて、レーザーフラッシュ法により、比熱容量を熱定数測定装置(アルバック理工製 TC−9000特型)及び熱拡散率を熱物性測定装置(京都電子工業製 LFA501)を用いて求め、これに試験片の外形寸法、重量測定より求めた密度を乗算することにより算出した。
ヤング率は、得られた焼結体を直径20mm、厚さ5mmに切り出したものを標準試験片として用いて、超音波探傷装置(Panametrics社製、5900PR)で室温、大気中、板厚方向の測定で求めた。
【0080】
比較例1
酸化インジウム粉末、酸化ガリウム粉末を、それぞれ、95:5wt%(In/(In+Ga)=0.928、Ga/(On+Ga)=0.072)なるように、秤量し、ポリエチレン製のポットに入れて、乾式ボールミルにより72時間混合粉砕し、混合粉末を作製した。
この混合粉末を金型に入れ、500kg/cmの圧力でプレス成型体とした。この成型体を2000kg/cmの圧力でCIPにより緻密化を行った。次に、この成型体を常圧焼成炉に設置して、大気雰囲気下で、350℃で3時間保持した後に、100℃/時間にて昇温し、1430℃にて28時間焼結し、その後、放置して冷却し、酸化物焼結体(焼結体)を得た。
得られた酸化物焼結体について、実施例1と同様の評価を行った。その結果、得られた焼結体の結晶構造はInで表されるビックスバイト構造のみであることを確認した。ビックスバイト構造の格子定数(Å)=10.0686Å、相対密度(%)=96.0%、バルク抵抗=3.6mΩcmであった。
また、得られた酸化物焼結体について、実施例2と同様にして線膨張係数及び熱伝導率を評価した。測定した線膨張係数、熱伝導率の結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
(スパッタリングターゲットの製造)
実施例1〜14の焼結体について、スパッタリングターゲットを作製した。
【0083】
実施例15
得られた実施例5のスパッタリングターゲットを用いて、熱酸化膜付きシリコン基板上にチャネル形状のメタルマスクを用い、酸化物半導体層(チャネル層)をスパッタリングにより成膜した。スパッタリング条件は、スパッタ圧=1Pa,酸素分圧=5%、基板温度=室温で行い、膜厚は50nmに設定した。次に、ソース・ドレイン形状のメタルマスクを用い、金電極を50nm成膜した。最後に、空気中300℃、1時間の条件でアニールすることで、チャネル長200μm、チャネル幅1000μmのボトムゲート、トップコンタクトの簡易型TFTを得た。アニール条件としては、250℃〜450℃、0.5時間〜10時間の範囲でチャネルドーピングの効果を見ながら適宜選択した。アニール後の薄膜のX線回折結果より、薄膜は結晶化しており、その結晶構造はIn型のビックスバイト構造であった。
得られたTFTの特性を評価した結果、移動度=28cm/V・sec、電流値が10−8Aを超えるゲート電圧の値Vth>0.51V、S値(Swing Factor)=0.71であった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の酸化物焼結体はスパッタリングターゲットに利用でき、本発明のスパッタリングターゲットは、酸化物半導体薄膜及び薄膜トランジスタの製造に利用できる。
【0085】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
本願のパリ優先の基礎となる日本出願明細書の内容を全てここに援用する。
図1
図2
図3
図4