(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886105
(24)【登録日】2021年5月18日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】ブレード固定装置及びダイシング装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20210603BHJP
B24D 5/12 20060101ALI20210603BHJP
B24D 5/16 20060101ALI20210603BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
H01L21/78 F
B24D5/12 Z
B24D5/16
B24B27/06 M
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-45099(P2017-45099)
(22)【出願日】2017年3月9日
(65)【公開番号】特開2018-148182(P2018-148182A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】新井 裕介
【審査官】
鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−224926(JP,A)
【文献】
特開2005−324438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B24B 27/06
B24D 5/12
B24D 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側面と内側面とを有するリング状の一対の挟持部材であって、回転軸に装着されたダイシングブレードの両側面を、前記内側面に形成されたフランジ面で挟持するリング状の前記一対の挟持部材と、
前記一対の挟持部材の各々の前記フランジ面を前記ダイシングブレードの側面に押圧する押圧部材と、
前記挟持部材の前記外側面の外周部に沿って備えられた突出部であって、前記外側面に対して外方に突出した前記突出部と、
を備え、
前記突出部は、前記挟持部材の前記外側面の外周端側に備えられる、ブレード固定装置。
【請求項2】
前記突出部は、前記挟持部材とは別部材で構成される、請求項1に記載のブレード固定装置。
【請求項3】
外側面と内側面とを有するリング状の一対の挟持部材であって、回転軸に装着されたダイシングブレードの両側面を、前記内側面に形成されたフランジ面で挟持するリング状の前記一対の挟持部材と、
前記一対の挟持部材の各々の前記フランジ面を前記ダイシングブレードの側面に押圧する押圧部材と、
前記挟持部材の前記外側面の外周部に沿って備えられた突出部であって、前記外側面に対して外方に突出した前記突出部と、
を備え、
前記突出部は、前記挟持部材とは別部材で構成される、ブレード固定装置。
【請求項4】
前記突出部は、前記挟持部材の前記外側面の外周部に沿ったリング状部材である、請求項1から3のいずれか1項に記載のブレード固定装置。
【請求項5】
前記突出部は、前記挟持部材の前記外側面の外周部に沿って配置された複数の突起状部材である、請求項1から3のいずれか1項に記載のブレード固定装置。
【請求項6】
外側面と内側面とを有するリング状の一対の挟持部材であって、回転軸に装着されたダイシングブレードの両側面を、前記内側面に形成されたフランジ面で挟持するリング状の前記一対の挟持部材と、
前記一対の挟持部材の各々の前記フランジ面を前記ダイシングブレードの側面に押圧する押圧部材と、
前記挟持部材の前記外側面の外周部に沿って備えられた突出部であって、前記外側面に対して外方に突出した前記突出部と、
を備え、
前記突出部は、前記挟持部材の前記外側面の外周部に沿って配置された複数の突起状部材である、ブレード固定装置。
【請求項7】
前記挟持部材の前記外側面には、前記ダイシングブレードの回転中心を中心とする円周に沿った溝が形成される、請求項1から6のいずれか1項に記載のブレード固定装置。
【請求項8】
ワークを保持するワーク保持部と、
回転軸を有するスピンドルユニットと、
前記スピンドルユニットの前記回転軸に装着されるダイシングブレードと、
前記スピンドルユニットの前記回転軸に装着される請求項1から7のいずれか1項に記載のブレード固定装置であって、前記回転軸に装着された前記ダイシングブレードを前記回転軸に固定する前記ブレード固定装置と、
を備える、ダイシング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレード固定装置及びダイシング装置に係り、特に、半導体ウェーハ等のワークに対して切削加工を行うダイシングブレードを回転軸に固定するブレード固定装置及びダイシング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイシング装置は、半導体装置又は電子部品が形成されたウェーハ等のワークに対して切断又は溝入れ等の切削加工を行う。ダイシング装置は、スピンドルユニットの回転軸に装着されて高速で回転するダイシングブレードを有しており、回転するダイシングブレードの切刃部をワークに接触させて切削加工を行う。
【0003】
ダイシング装置に使用されるダイシングブレードとしては、特許文献1の如く、切刃部と支持部であるハブとが一体となったハブブレードが知られており、また、特許文献2の如く、ハブを備えておらずリング形状の切削刃のみで構成されたハブレスブレードが知られている。ハブレスブレードは、一対のリング形状のフランジ(挟持部材に相当)をナットによって締結することにより、一対のフランジにその両側面が押圧されて固定される。また、フランジの外周部の断面形状は、フランジの外周端に向けて厚さが薄くなるように楔状に形成されている。
【0004】
一方、特許文献3には、回転軸に対するハブブレードの取付構造の一例が開示されている。特許文献3によれば、回転軸に台座が形成されており、この台座に形成されたフランジ面にハブブレードのブレード面(側面)が当接されてハブブレードが台座に固定されている。また、特許文献3には、台座のフランジ面が回転軸に対して垂直な面であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−343746号公報
【特許文献2】特開2009−279662号公報
【特許文献3】特開平6−262515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ハブレスブレードは、一般に、挟持部材によって固定されたときの挟持部材から径方向への突き出し量が大きく設定されている。このため、特に難削材(リチウムタンタレート、サファイヤ又はアルチック等)をハブレスブレードによって切削加工した場合には、ハブレスブレードに大きな振れが生じてハブレスブレードがワーク上を蛇行し、結果としてカットラインが蛇行したり、最悪の場合にはハブレスブレードが破損したりするという虞があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ハブレスブレードのように挟持部材から径方向への突き出し量が多いダイシングブレードであっても、ダイシングブレードの振れを抑制してワークに対するダイシングブレードの蛇行を防止することができるブレード固定装置及びダイシング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のブレード固定装置は、本発明の目的を達成するために、外側面と内側面とを有するリング状の一対の挟持部材であって、回転軸に装着されたダイシングブレードの両側面を、内側面に形成されたフランジ面で挟持するリング状の一対の挟持部材と、一対の挟持部材の各々のフランジ面をダイシングブレードの側面に押圧する押圧部材と、挟持部材の外側面の外周部に沿って備えられた突出部であって、外側面に対して外方に突出した突出部と、を備える。
【0009】
本発明のブレード固定装置によれば、挟持部材をダイシングブレードとともに高速回転させると、挟持部材の外側面の外周部には突出部が備えられているので、挟持部材の外周部には、ダイシングブレードの側面に向いた内向きの慣性力が働く。この慣性力によって、挟持部材のフランジ面は、その外周端側の面がダイシングブレードの側面に押圧される。
【0010】
したがって、本発明のブレード固定装置によれば、ハブレスブレードのように挟持部材から径方向への突き出し量が多いダイシングブレードであっても、ダイシングブレードの振れを抑制することができるので、ワークに対するダイシングブレードの蛇行を防止することができる。
【0011】
本発明のブレード固定装置の一態様は、突出部は、挟持部材とは別部材で構成されることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様によれば、挟持部材とは比重の異なる材質の突出部を挟持部材に装着することができるので、挟持部材の外周部に働く慣性力の大きさを調整することができる。
【0013】
本発明のブレード固定装置の一態様は、突出部は、挟持部材の外側面の外周部に沿ったリング状部材であることが好ましい。
【0014】
本発明の一態様によれば、挟持部材の外周部に、ダイシングブレードの側面に向いた内向きの慣性力を働かせることができる。
【0015】
本発明のブレード固定装置の一態様は、突出部は、挟持部材の外側面の外周部に沿って配置された複数の突起状部材であることが好ましい。
【0016】
本発明の一態様によれば、挟持部材の外周部に、ダイシングブレードの側面に向いた内向きの慣性力を働かせることができる。
【0017】
本発明のブレード固定装置の一態様は、挟持部材の外側面には、ダイシングブレードの回転中心を中心とする円周に沿った溝が形成されることが好ましい。
【0018】
本発明の一態様によれば、溝の本数又は深さを調整することにより、挟持部材の曲げ強度を変更することができるので、挟持部材の外周部に働く慣性力の大きさを調整することができる。
【0019】
本発明のダイシング装置は、本発明の目的を達成するために、ワークを保持するワーク保持部と、回転軸を有するスピンドルユニットと、スピンドルユニットの回転軸に装着されるダイシングブレードと、スピンドルユニットの回転軸に装着される本発明のブレード固定装置であって、回転軸に装着されたダイシングブレードを回転軸に固定するブレード固定装置と、を備える。
【0020】
本発明のダイシング装置によれば、ハブレスブレードのように挟持部材から径方向への突き出し量が多いダイシングブレードであっても、ダイシングブレードの振れを抑制することができるので、ワークに対するダイシングブレードの蛇行を防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ハブレスブレードのように挟持部材から径方向への突き出し量が多いダイシングブレードであっても、ダイシングブレードの振れを抑制することができるので、ワークに対するダイシングブレードの蛇行を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】ダイシング装置の加工部の構造を示した拡大斜視図
【
図3】第1実施形態のブレード固定装置の外観を示す斜視図
【
図4】第1実施形態のブレード固定装置の概略断面図
【
図5】第1実施形態のブレード固定装置の要部拡大断面図
【
図6】第1実施形態のブレード固定装置の組立斜視図
【
図8】第2実施形態のブレード固定装置の外観を示す斜視図
【
図9】第2実施形態のブレード固定装置の要部拡大断面図
【
図10】第3実施形態のブレード固定装置の外観を示す斜視図
【
図11】第3実施形態のブレード固定装置の要部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面に従って本発明に係るブレード固定装置及びダイシング装置の好ましい実施形態について詳説する。
【0024】
図1は、ダイシングブレード10を備えた実施形態のダイシング装置12の外観を示す斜視図である。
【0025】
ダイシング装置12は、加工部18を備える。加工部18は、先端にダイシングブレード10が取り付けられた一対の高周波モータ内蔵型のスピンドルユニット14、14と、ワークWを吸着保持するワークテーブル(ワーク保持部)16とを有する。また、ダイシング装置12は、加工済みのワークWをスピン洗浄する洗浄部20と、多数枚のワークWを収納したカセットが載置されるロードポート22と、ワークWを搬送する搬送装置24等を備える。
【0026】
図2は、加工部18の構造を示した拡大斜視図である。
【0027】
図2に示す加工部18は、Xベース25の一対のXガイド26、26にガイドされたXテーブル28であって、リニアモータ30によってX方向に駆動されるXテーブル28を有する。このXテーブル28には、θ方向に回転する回転テーブル32を介してワークテーブル16が設けられている。
【0028】
Xベース25の上方には、Xベース25を跨ぐようにYベース34が設けられる。Yベース34の正面には、一対のYガイド36、36にガイドされた一対のYテーブル38、38であって、図示しない送り装置によってY方向に駆動される一対のYテーブル38、38が設けられる。
【0029】
また、一対のYテーブル38、38には、図示しない送り装置によってZ方向に駆動されるZテーブル40、40が設けられている。Zテーブル40、40には高周波モータ内蔵型のスピンドルユニット14、14が対向した状態で固定され、スピンドルユニット14の回転軸14A(
図3参照)にダイシングブレード10、10が対向した状態で固定されている。
【0030】
このように構成された加工部18によれば、スピンドルユニット14、14はY方向にインデックス送りされるとともにZ方向に切り込み送りされ、また、ワークテーブル16はX方向に切削送りされる。
【0031】
図3は、第1実施形態のブレード固定装置42の外観を示す斜視図であり、
図4は、ブレード固定装置42の概略断面図である。
【0032】
図4の如く、ブレード固定装置42は、一対の挟持部材である第1フランジ部材44及び第2フランジ部材46と、押圧部材であるナット48と、を備えている。ダイシングブレード10は、第1フランジ部材44と第2フランジ部材46との間で狭持される。
【0033】
ダイシングブレード10は、リング形状に構成されたハブレスブレードである。ダイシングブレード10の中央部には、ダイシングブレード10を回転軸14A側に装着するための装着孔10Aが形成される。
【0034】
ダイシングブレード10は、ダイヤモンド砥粒を結合材によって結合させたものであり、ダイシングブレード10の外周部の切刃部10Bに、ダイヤモンド砥粒が散りばめられた形で存在している。
【0035】
第1フランジ部材44は、円盤状に形成され、その中央部に第1フランジ部材44を回転軸14Aに装着するための装着孔44Aが形成される。また、第1フランジ部材44の外側面44Bには、回転軸14Aの台座15に当接される位置決め面44Cが形成される。また、第1フランジ部材44の内側面44Dには、装着孔44Aに連通された筒状部44Eであって、ダイシングブレード10の装着孔10Aが嵌合される筒状部44Eが形成される。ダイシングブレード10は、その装着孔10Aが筒状部44Eに嵌合されることにより、筒状部44Eを介して回転軸14Aに装着される。
【0036】
また、第1フランジ部材44の内側面44Dには、ダイシングブレード10の一方の側面10Cに当接されるフランジ面44Fが形成される。このフランジ面44Fは、内側面44Dの外縁部に沿ったリング状の面であり、
図5の拡大断面図の如く、外周端aと内周端bとを有する。
【0037】
図4に戻り、第2フランジ部材46は、円盤状に形成され、その中央部に第2フランジ部材46を筒状部44Eに装着するための装着孔46Aが形成される。また、第2フランジ部材46の内側面46Bには、ダイシングブレード10の他方の側面10Dに当接されるフランジ面46Fが形成される。このフランジ面46Fは、第2フランジ部材46が筒状部44Eに装着された際に、第1フランジ部材44のフランジ面44Fに対向される。また、フランジ面46Fは、内側面46Bの外縁部に沿ったリング状の面であり、
図5の如く、フランジ面44Fと同様に外周端aと内周端bとを有する。
【0038】
なお、第1及び第2フランジ部材44、46は、ダイシングブレード10とともに高速回転されることから、慣性変形を抑制するために軽量で剛性のあるチタン製であることが好ましい。
【0039】
ナット48は、筒状部44Eの外周面に形成されたネジ部(不図示)に螺合されて、第2フランジ部材46の外側面46Cに当接される。この状態からナット48を締結していくと、ナット48の軸力(押圧力)により第2フランジ部材46が第1フランジ部材44に向けて押圧付勢される。これにより、ダイシングブレード10の側面Cが第1フランジ部材44のフランジ面44Fに押圧され、かつダイシングブレード10の側面Dが第2フランジ部材46のフランジ面46Fに押圧される。これにより、ダイシングブレード10が、第1及び第2フランジ部材44、46に挟持されて回転軸14A(
図4参照)に固定される。
【0040】
一方、
図4及び
図5に示すように、第1フランジ部材44の外側面44Bには、外側面44Bの外周部に沿って備えられた突出部50であって、外側面44Bに対して矢印Aで示す外方に突出した突出部50が備えられる。また、第2フランジ部材46の外側面46Cにも同様に、外側面46Cの外周部に沿って備えられた突出部52であって、外側面46Cに対して矢印Bで示す外方に突出した突出部52が備えられる。これらの突出部50、52は同形状であって、ダイシングブレード10の回転中心10Fを中心とする円周に沿ってリング状に設けられている。
【0041】
また、
図6に示すブレード固定装置42の組立斜視図の如く、突出部50、52は、第1及び第2フランジ部材44、46とは別体で構成されたリング状部材である。突出部50は、
図5の如く、外側面44Bの外周部に沿って形成された段部44Gに固定され、突出部52は、外側面46Cの外周部に沿って形成された段部46Gに固定される。この段部44G、46Gは、ダイシングブレード10の回転中心10Fを中心とする円周に沿って形成されている。よって、段部44G、46Gに突出部50、52が固定されることにより、リング状部材である突出部50、52は、突出部50、52の中心がダイシングブレード10の回転中心10Fと一致するように第1及び第2フランジ部材44、46に配置される。
【0042】
なお、突出部50、52を第1及び第2フランジ部材44、46と一体に構成してもよいが、別部材として構成することが好ましい。突出部50、52を別部材として構成する態様によれば、第1及び第2フランジ部材44、46とは比重の異なる材質の突出部50、52を第1及び第2フランジ部材44、46に装着することができる。すなわち、突出部50、52の材質を第1及び第2フランジ部材44、46の材質と変更することにより、第1及び第2フランジ部材44、46の外周部に働く回転時の慣性力の大きさを調整することができる。以下、慣性力について説明する。
【0043】
第1実施形態のブレード固定装置42によれば、第1及び第2フランジ部材44、46の外側面44B、46Cの外周部には突出部50、52が備えられているので、第1及び第2フランジ部材44、46をダイシングブレード10とともに高速回転させると、第1及び第2フランジ部材44、46の外周部には、
図5の如く、ダイシングブレード10の側面10C、10Dに向いた矢印C、Dで示す内向きの慣性力が働く。この慣性力によって、第1及び第2フランジ部材44、46のフランジ面44F、46Fは、その外周端a側の面がダイシングブレード10の側面10C、10Dに押圧される。
【0044】
ここで、従来例と比較する。
図7は、従来のブレード固定装置1の要部拡大断面図である。
図7には、ダイシングブレード6の高速回転時における、第1及び第2フランジ部材3、4のフランジ面3A、4Aの変形状態が示されている。
【0045】
従来の第1及び第2フランジ部材3、4の外周部の断面形状は、例えば特許文献2に開示されているように、第1及び第2フランジ部材3、4の外周端に向けて厚さが薄くなるように楔状に形成されている。また、第1及び第2フランジ部材3、4のフランジ面3A、4Aは、例えば特許文献3にも開示されているように、回転軸(不図示)の軸5に対して垂直な面であることが一般的である。
【0046】
このような形状の第1及び第2フランジ部材3、4をダイシングブレード6とともに高速回転させると、第1及び第2フランジ部材3、4の外周部には、ダイシングブレード6の側面6A、6Bに対して矢印E、Fで示す外向きの慣性力が働く。この慣性力によって、第1及び第2フランジ部材3、4のフランジ面3A、4Aは、フランジ面3A、4Aの内周端bからフランジ面3A、4Aの外周端aに向けて、ダイシングブレード6の側面6A、6Bから次第に離間するように弾性変形する。
【0047】
このようなフランジ面3A、4Aの弾性変形により、ダイシングブレード6は、フランジ面3A、4Aの全面で挟持されなくなり、フランジ面3A、3Bの内周端b側の面でのみ挟持され、外周端a側の面はダイシングブレード6の挟持に寄与しなくなる。すなわち、フランジ面3A、4Aによるダイシングブレード6の挟持点が、外周端a側から内周端b側に変化するので、切削加工中のダイシングブレード6に想定外の大きな振れが発生し易くなる。
【0048】
上記の従来例に対し、
図5に示す第1実施形態のブレード固定装置42は、第1及び第2フランジ部材44、46に突出部50、52を備えているので、第1及び第2フランジ部材44、46の外周部には、矢印C、Dで示す内向きの慣性力が働き、この慣性力によってフランジ面44F、46Fは、その外周端a側の面がダイシングブレード10の側面10C、10Dに押圧される。つまり、第1実施形態では、フランジ面44F、46Fによるダイシングブレード10の挟持点が外周端a側となる。
【0049】
したがって、第1実施形態によれば、第1及び第2フランジ部材44、46から径方向への突き出し量が多いハブレス型のダイシングブレード10であっても、ダイシングブレード10の振れを効果的に抑制することができ、これによって、ワークWに対するダイシングブレード10の蛇行を防止することができる。
【0050】
図8は、第2実施形態のブレード固定装置54の外観を示す斜視図であり、
図9はブレード固定装置54の要部拡大断面図である。
【0051】
図3から
図6に示した第1実施形態のブレード固定装置42に対する、
図8及び
図9に示すブレード固定装置54の相違点は、第1及び第2フランジ部材44、46の外側面44B、46Cに、ダイシングブレード10の回転中心10Fを中心とする円周に沿って複数の溝56、58を形成した点にある。この溝56、58の本数又は深さを調整することにより、第1及び第2フランジ部材44、46の曲げ強度を変更することができるので、第1及び第2フランジ部材44、46の外周部に働く慣性力の大きさを調整することができる。
【0052】
図10は、第3実施形態のブレード固定装置60の外観を示す斜視図であり、
図11はブレード固定装置60の要部拡大断面図である。
【0053】
図3から
図6に示した第1実施形態のブレード固定装置42と
図10及び
図11に示すブレード固定装置60とは、突出部の形態が異なる。ブレード固定装置42の突出部50、52は、リング状部材である。これに対し、ブレード固定装置60の突出部62、64は、第1及び第2フランジ部材44、46の外側面44B、46Cの外周部に沿って配置されたブロック状又はピン状の突起状部材であり、外側面44B、46Cに対して外方に突出した突起状部材である。これらの突出部62、64は、ダイシングブレード10の回転中心10Fを中心とする円周に沿って等間隔に配置されており、突出部50、52と同様の慣性力を第1及び第2フランジ部材44、46の外周部に働かせることができる。なお、突出部62、64は必ずしも等間隔に配置する必要はない。その場合には、ダイシングブレード10が偏心回転しないようにバランスの取れた位置に配置する。
【0054】
第1及び第2フランジ部材44、46をダイシングブレード10とともに高速回転させると、第1及び第2フランジ部材44、46の外周部には、突出部62、64によってダイシングブレード10の側面10C、10Dに向いた矢印C、Dで示す内向きの慣性力が働く。この慣性力によって、第1及び第2フランジ部材44、46のフランジ面44F、46Fは、その外周端a側の面がダイシングブレード10の側面10C、10Dに押圧される。
【0055】
これにより、第3実施形態によれば、第1及び第2フランジ部材44、46から径方向への突き出し量が多いハブレス型のダイシングブレード10であっても、ダイシングブレード10の振れを効果的に抑制することができ、これによって、ワークWに対するダイシングブレード10の蛇行を防止することができる。
【0056】
なお、第3実施形態においても、突出部62、64を第1及び第2フランジ部材44、46とは別部材で構成してもよく、第1及び第2フランジ部材44、46と一体に構成してもよい。
【0057】
また、第3実施形態においても、第1及び第2フランジ部材44、46の外側面44B、46Cに、ダイシングブレード10の回転中心10Fを中心とする円周に沿った溝56、58(
図8及び
図9参照)を形成することが好ましい。
【符号の説明】
【0058】
10…ダイシングブレード、12…ダイシング装置、14…スピンドルユニット、14A…回転軸、15…台座、16…ワークテーブル、18…加工部、20…洗浄部、22…ロードポート、24…搬送装置、25…Xベース、26…Xガイド、28…Xテーブル、30…リニアモータ、32…回転テーブル、34…Yベース、36…Yガイド、38…Yテーブル、40…Zテーブル、42…ブレード固定装置、44…第1フランジ部材、46…第2フランジ部材、44F…フランジ面、46F…フランジ面、48…ナット、50、52…突出部、54…ブレード固定装置、56、58…溝、60…ブレード固定装置、62、64…突出部