(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886154
(24)【登録日】2021年5月18日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】水中探査システム
(51)【国際特許分類】
B63C 11/48 20060101AFI20210603BHJP
B63C 11/00 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
B63C11/48 D
B63C11/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2019-127117(P2019-127117)
(22)【出願日】2019年7月8日
(65)【公開番号】特開2021-11210(P2021-11210A)
(43)【公開日】2021年2月4日
【審査請求日】2019年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391025730
【氏名又は名称】岡野電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】後藤 慎平
(72)【発明者】
【氏名】脇嶋 智晴
(72)【発明者】
【氏名】伴野 善政
(72)【発明者】
【氏名】井手 一充
【審査官】
伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−063051(JP,A)
【文献】
特開平06−344979(JP,A)
【文献】
特開2009−244554(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0156998(US,A1)
【文献】
中国実用新案第206251095(CN,U)
【文献】
中国実用新案第208581233(CN,U)
【文献】
中国実用新案第206921573(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/00
B63C 11/48
B63G 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中探査機、制御装置、ケーブルを有する水中探査システムであって、
前記水中探査機は、
メタル通信方式で前記制御装置と通信する探査通信部と、
当該水中探査機を移動させるための駆動部と、
情報を収集する情報収集部と、
前記駆動部と前記情報収集部を制御する制御部と、
前記制御部と前記探査通信部への給電のみを安定化する安定化電源部と、
を備え、
前記ケーブルは、
メタル通信方式のための通信用メタル線と、
給電のための給電用メタル線と、
を備え、
前記制御装置は、
前記メタル通信方式で前記水中探査機と通信する制御通信部と、
前記水中探査機へ電力を供給する電力供給部と、
前記水中探査機への指示の入力と、前記水中探査機からの情報の出力を行う操作部と、
を備える、
水中探査システム。
【請求項2】
請求項1記載の水中探査システムであって、
前記ケーブルは、密度が海水に近づくように樹脂を含んでいる
ことを特徴とする水中探査システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の水中探査システムであって、
前記メタル通信方式は、デジタル加入者線である
ことを特徴とする水中探査システム。
【請求項4】
請求項1または2記載の水中探査システムであって、
前記メタル通信方式は、VDSL方式である
ことを特徴とする水中探査システム。
【請求項5】
請求項3または4記載の水中探査システムであって、
前記水中探査機から前記制御装置への通信が下り、前記制御装置から前記水中探査機への通信が上りである
ことを特徴とする水中探査システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の水中探査システムであって、
前記安定化電源部は、無停電電源装置である
ことを特徴とする水中探査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中探査システムと水中探査機に関し、特に小型の水中探査機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すような水中探査装置が従来技術として知られ、水中探査装置と観測船とはアンビリカルケーブルで接続することなどが説明されている。また、水中探査装置と観測船とを接続するケーブルとして、特許文献2に示された技術などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018−197022号公報
【特許文献2】特開2014−189233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通信速度を速くするために光ファイバを使うと強度を補強する必要があり、ケーブルが太くなりやすい。また、ケーブルにかかる負荷も水中探査機の移動の妨げになるので、ケーブルが太くなると水中探査機の駆動部を大きくせざるを得なくなる。したがって、水中探査機を小型にすることが困難になる。
【0005】
本発明は、上述の課題を鑑みてなされたものであり、水中探査機に接続するケーブルを細くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水中探査システムは、水中探査機、制御装置、ケーブルを有する。水中探査機は、メタル通信方式で制御装置と通信する探査通信部と、給電を安定化する安定化電源部と、水中探査機を移動させるための駆動部と、情報を収集する情報収集部と、駆動部と情報収集部を制御する制御部とを備える。ケーブルは、メタル通信方式のための通信用メタル線と、給電のための給電用メタル線とを備える。制御装置は、メタル通信方式で水中探査機と通信する制御通信部と、水中探査機へ電力を供給する電力供給部と、水中探査機への指示の入力と水中探査機からの情報の出力を行う操作部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水中探査システムによれば、通信方式がメタル通信方式なので光ファイバを使用していない。そして、通信用メタル線のためにケーブルを太くする必要が無い。また、水中探査機が安定化電源部を備えているので、電力の供給が不安定でも水中探査機内の制御部と探査通信部を安定して動作させることができる。よって、給電用メタル線を、瞬間的な駆動部の最大出力に対応させるために太くする必要が無い。したがって、ケーブルを細くできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の水中探査システムの構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0010】
図1に本発明の水中探査システムの構成例を示す。本発明の水中探査システム10は、水中探査機100、制御装置200、ケーブル300を有する。
図1では、電力用の線を実線で示し、通信用の線を点線で示している。また、抗張力線は一点鎖線で示している。
【0011】
水中探査機100は、メタル通信方式で制御装置200と通信する探査通信部110と、給電を安定化する安定化電源部120と、水中探査機100を移動させるための駆動部130と、情報を収集する情報収集部140と、駆動部130と情報収集部140を制御する制御部150とを備える。駆動部130は、具体的には、垂直スラスタや水平スラスタなどである。情報収集部140は、具体的には、水温計、方位計、圧力計、カメラ、灯光器などであり、水中探査機100の外部および内部の情報を収集する。
【0012】
ケーブル300は、メタル通信方式のための通信用メタル線310と、給電のための給電用メタル線320と、ケーブル300を補強する抗張力線340と、通信用メタル線310と給電用メタル線320と抗張力線340を覆う樹脂330とを備える。通信用メタル線310も給電用メタル線320も、それぞれ2心あれば十分である。ただし、一般的に流通している2心よりも多いメタル心線を利用してもよい。抗張力線340には、アラミド繊維などを用いればよいが、これらに限定しなくてもよい。また、抗張力線340で通信用メタル線310と給電用メタル線320を覆う抗張力線層を形成してもよい。樹脂330には、ポリエチレン、塩化ビニルなどの樹脂を用いればよいが、これらに限定しなくてもよい。
【0013】
制御装置200は、メタル通信方式で水中探査機100と通信する制御通信部210と、水中探査機100へ電力を供給する電力供給部220と、水中探査機100への指示の入力と水中探査機100からの情報の出力を行う操作部230と、情報を記録する記録部290を備える。操作部230は、制御装置200と同一の筐体でもよいし、別体でもよい。例えば、コントローラとして動作させるためのソフトウェアをインストールしたタブレット端末を操作部230としてもよい。
【0014】
メタル通信方式としては、例えば、デジタル加入者線(DSL:Digital Subscriber Line)を用いればよい。特に、VDSL(Very high-bit-rate DSL)通信方式であれば、上りが1.5〜2Mbit/s、下りが約50Mbit/sであり、1.5km程度の距離で通信が可能である。したがって、水中探査機100が1000m程度の深海の探査を行う場合でも利用できる。デジタル加入者線を利用すれば、通信用メタル線310には、通常の電話と同等のメタル線を利用できるので、通信用メタル線310のためにケーブルを太くする必要はない。また、水中探査システム10においては、水中探査機100から制御装置200への通信を下り、制御装置200から水中探査機100への通信を上りに設定すればよい。非対称なデジタル加入者方式の場合には、水中探査機100からの大量の情報(例えば動画など)を取得しやすくなるからである。
【0015】
水中探査機100が1000m程度の深海の探査を行うためには、ケーブル300の長さは1000m以上になる。水中探査機100での消費電力が小さいときは電流が小さいのでケーブル300での電圧降下は小さいが、消費電力が大きいときは電流が大きくなるのでケーブル300での電圧降下を無視できなくなる。全体の消費電力は、駆動部130と情報収集部140に大きく依存し、特に駆動部130に瞬間的な大きな出力が求められるときに消費電力が大きくなる。水中探査機100は安定化電源部120を備えているので、電力の供給が不安定でも水中探査機100内の制御部150と探査通信部110を安定して動作させることができる。例えば、無停電電源装置を安定化電源部120として用いてもよい。よって、給電用メタル線320を、瞬間的な駆動部130の最大出力に対応させるために太くする必要が無い。したがって、ケーブルを細くできる。
【0016】
また、水中探査システム10のケーブル300では、光ファイバに急峻な曲げが加わらないような補強部材も必要ない。よって、ケーブル300をしなやかにできるので、作業しやすく、持ち運びやすい。特に、小型の水中探査機の場合は船に搭載して移動するだけではなく、地上を運ぶこともある。その場合、ケーブル300が長いほど、作業しやすく、持ち運びやすいという効果は大切である。このように、船に搭載して移動することが前提の大型の水中探査機には求められない効果も求められる。本発明の水中探査システムであれば、目的地まで地上を運ぶ必要がある場合であっても、ケーブル300を小さい径でまとめやすく、運びやすいので、小型の水中探査機用に適している。
【0017】
なお、
図1では、安定化電源部120とは、探査通信部110と制御部150が接続され、駆動部130と情報収集部140は接続されていない。しかし、情報収集部140も安定化電源部120に接続してもよいし、駆動部130と情報収集部140の両方も安定化電源部120に接続してもよい。ただし、制御部150が動作を停止すると水中探査機100に関する情報を操作部230で確認できなくなるため、制御部150への給電を優先的に安定化するように設計することが望ましい。
【0018】
ケーブル300が太くなると海流などによるケーブル300への負荷が大きくなり、駆動部130に大きな出力が求められることが増える。本発明によってケーブル300を細くできれば、駆動部130に求められる定常的な出力を下げることも可能になる。このことは、さらにケーブル300を細くできる要因になる。つまり、安定化電源部120を備えることは、駆動部130を小型化できることにもつながるので、相乗的にケーブル300を細くできる。また、ケーブル300の樹脂330の量を、ケーブル300の密度が海水に近づくように調整してもよい。1000m以上のケーブル300の重さは無視できないが、重力と浮力が釣り合う密度にすれば、駆動部130への負荷を低減できる可能性がある。本発明の水中探査システム10であれば、通信用メタル線310と給電用メタル線320を細くできるので、ケーブル300の密度の調整の自由度を高くできる。
【符号の説明】
【0019】
100 水中探査機 110 探査通信部
120 安定化電源部 130 駆動部
140 情報収集部 150 制御部
200 制御装置 210 制御通信部
220 電力供給部 230 操作部
290 記録部 300 ケーブル
310 通信用メタル線 320 給電用メタル線
330 樹脂 340 抗張力線