(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載のトリブロック共重合体を含む架橋剤であって、トリブロック共重合体が、スクシンイミド−ポリエチレングリコール−ポリ(D,L−ラクチド)−ポリエチレングリコール−スクシンイミドである、架橋剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生分解性インジェクタブルゲルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、Poly(D,L−ラクチド)(PLA)を導入したトリブロック共重合体PEG−PLA−PEG(Figure 1)を用いる、生分解性インジェクタブルゲル(キトサン/PEG−PLA−PEG/RADA16)を提供する。
【0006】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]ポリエチレングリコール−ポリ(D,L−ラクチド)−ポリエチレングリコール骨格を有する、トリブロック共重合体、
[2]式I:
【化1】
(式中、
nは、重合度を表し、好ましくは、10〜1000の範囲であり、
mは、重合度を表し、好ましくは、1〜100の範囲である)
で示される繰り返し単位を含む、請求項1に記載のトリブロック共重合体、
[3]上記[1]又は[2]に記載のトリブロック共重合体、キトサン、自己組織化ペプチドを含む、生分解性インジェクタブルゲル、
[4]自己組織化ペプチドが、(RADA)
4である、[3]に記載の生分解性インジェクタブルゲル、
[5]下記:
【化2】
(式中、
nは、重合度を表し10〜1000の範囲である)
をD,L−ラクチドと反応させ、
【化3】
(式中、
mは、重合度を表し1〜100の範囲である)
を得る工程、
得られた
【化4】
を
【化5】
と反応させ
【化6】
を得る工程、
得られた
【化7】
を脱保護し、
【化8】
を得る工程、
得られた
【化9】
を炭酸ジ(N−スクシンイミジル)と反応させ
【化10】
を得る工程
を含む、ポリエチレングリコール−ポリ(D,L−ラクチド)−ポリエチレングリコール骨格を有する、トリブロック共重合体の製造方法、
[6]上記[1]のトリブロック共重合体を含む、架橋剤。
【0007】
用語「ポリマー」又は「重合体」は、互換的に使用することができ、分子量の小さいモノマーから得ることができる、モノマー単位の繰り返しで構成された構造を有する分子をいう。用語「高分子」は、ポリマーのほか、例えばタンパク質、核酸等のような多数の原子が共有結合してなる巨大分子をいう。
【0008】
ポリマーにおいて用語「平均重合度」は、1個のポリマー分子中に含まれるモノマー単位の平均数をいう。すなわち、ポリマー組成物中には、異なる長さのポリマー分子がある程度の範囲で分散して存在している。
【0009】
ポリマーの重合度に関して「数平均分子量」とは、ポリマー組成物中の分子1個あたりの分子量の平均をいい、「重量平均分子量」とは、重量に重みをつけて計算した分子量をいう。また、数平均分子量と重量平均分子量の比を分散度といい、ポリマー組成物の分子量分布の尺度となる。分散度が1に近いほど、ポリマー組成物中の平均重合度が近くなり、同じ程度の長さのポリマー鎖を多く含むことになる。
【0010】
本発明において、「生分解性」とは、加水分解、酵素分解、微生物分解等の作用により化学的に分解することが可能なものをいう。
【0011】
本発明のインジェクタブルゲルには、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて、例えば、ラジカル捕捉剤、過酸化物分解剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤を添加して使用することができる。また、本発明のポリマー以外のポリマーと混合させて使用することができる。このような、本発明の生分解性インジェクタブルゲルを含む組成物もまた、本発明の目的である。
【0012】
本発明の生分解性インジェクタブルゲルは、適宜の有機溶媒に溶解させて単独で使用することもできるし、使用の目的に応じて他の高分子化合物と混合して使用する等、各種の組成物として使用することができる。また、本発明の医療用機器は、生体内組織や血液と接して使用される表面の少なくとも一部分に本発明の生分解性インジェクタブルゲルを有していればよい。つまり、医療用機器を成す基材の表面に対して、本発明の生分解性インジェクタブルゲルを含む組成物を表面処理剤として用いることができる。また、医療用機器の少なくとも一部の部材を本発明の生分解性インジェクタブルゲル、又は、その組成物で構成しても良い。
【0013】
本発明の一つの態様は、生体内組織や血液に接して使用されたときに、分解されるまでの間、血液や組織に対して異物反応を抑制するための、本発明の生分解性インジェクタブルゲルである。
【0014】
本発明の生分解性インジェクタブルゲルは、医療用途に好ましく使用されることができる。本発明の生分解性インジェクタブルゲルを他の高分子化合物等と混合して組成物として使用する場合には、その使用の用途に応じて適宜の混合割合で使用することができる。特に、本発明の生分解性インジェクタブルゲルの割合を90重量%以上とすることで、本発明の特徴を強く有する組成物とすることができる。その他、使用の用途によっては、本発明の生分解性インジェクタブルゲルの割合を50〜70重量%とすることで、本発明の特徴を活かしつつ、各種の特性を併せ持つ組成物とすることができる。
【0015】
本発明の一つの態様は、本発明の生分解性インジェクタブルゲルを含む、医療用機器である。ここで、「医療用機器」とは、人工器官等の体内埋め込み型デバイス及びカテーテル等の一時的に生体組織と接触することがあるデバイスを含み、生体内で取り扱われるものに限定されない。また、本発明の医療用機器は、本発明のポリマー組成物を少なくとも表面の一部に有する医療用途に使用される機器である。本発明でいう医療用機器の表面とは、例えば、医療用機器が使用される際に血液等が接触する医療用機器を構成する材料の表面並びに材料内の孔の表面部分等をいう。
【0016】
本発明において、医療用機器を構成する基材の材質や形状は特に制限されることなく、例えば、多孔質体、繊維、不織布、粒子、フィルム、シート、チューブ、中空糸や粉末等いずれでも良い。その材質としては木錦、麻等の天然高分子、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(メタ)アクリレート、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体等の合成高分子あるいはこれらの混合物が挙げられる。また、金属、セラミクス及びそれらの複合材料等が例示でき、複数の基材より構成されていても構わず、その血液と接する表面の少なくとも一部、好ましくは血液と接する表面のほぼ全部に本発明に係る生分解性インジェクタブルゲルが設けられることが望ましい。
【0017】
本発明の生分解性インジェクタブルゲルは、生体内組織や血液と接して使用される医療用機器の全体をなす材料、又はその表面部をなす材料として用いることができ、体内埋め込み型の人工器官や治療器具、体外循環型の人工臓器類、手術縫合糸、さらにカテーテル類(血管造影用カテーテル、ガイドワイヤー、PTCA用カテーテル等の循環器用カテーテル、胃管カテーテル、胃腸カテーテル、食道チューブ等の消化器用カテーテル、チューブ、尿道カテーテル、尿菅カテーテル等の泌尿器科用カテーテル)等の医療用機器の血液と接する表面の少なくとも一部、好ましくは血液と接する表面のほぼ全部が本発明に係る生分解性インジェクタブルゲルで構成されることが望ましい。また、本発明に係る生分解性インジェクタブルゲルが有する生分解性を利用して、治療の際に体内に留置される医療用機器に特に好ましく用いることができる。
【0018】
本発明の生分解性インジェクタブルゲルは、止血剤、生体組織の粘着材、組織再生用の補修材、薬物徐放システムの担体、人工すい臓や人工肝臓等のハイブリッド人工臓器、人工血管、塞栓材、細胞工学用の足場のためのマトリックス材料等に用いても良い。
【0019】
これらの医療用機器においては、血管や組織への挿入を容易にして組織を損傷しないため、さらに表面潤滑性を付与してもよい。表面潤滑性を付与する方法としては水溶性高分子を不溶化して材料表面に吸水性のゲル層を形成させる方法が優れている。この方法によれば、生体親和性と表面潤滑性を併せ持つ材料表面を提供できる。
【0020】
本発明の生分解性インジェクタブルゲルはそれ自体が生体親和性に優れた材料であるが、様々な生理活性物質をさらに担持させることもできるため、血液フィルターのみならず、血液保存容器、血液回路、留置針、カテーテル、ガイドワイヤー、ステント、人工肺装置、透析装置、内視鏡等の様々な医療用機器に用いることができる。
【0021】
具体的には、本発明の生分解性インジェクタブルゲルを、血液フィルターを構成する基材表面の少なくとも一部にコーティングしてもよい。また、血液バッグと前記血液バッグに連通するチューブの血液と接する表面の少なくとも一部に本発明の高分子化合物をコーティングしてもよい。また、チューブ、動脈フィルター、遠心ポンプ、ヘモコンセントレーター、カーディオプレギア等からなる器械側血液回路部、チューブ、カテーテル、サッカー等からなる術野側血液回路部から構成される体外循環血液回路の血液と接する表面の少なくとも一部を本発明の生分解性インジェクタブルゲルでコーティングしてもよい。
【0022】
また、先端に鋭利な針先を有する内針と、前記内針の基端側に設置された内針ハブと、前記内針が挿入可能な中空の外針と、前記外針の基端側に設置された外針ハブと、前記内針に装着され、かつ前記内針の軸方向に移動可能なプロテクタと、前記外針ハブと前記プロテクタとを連結する連結手段とを備えた留置針組立体の、血液と接する表面の少なくとも一部が本発明の生分解性インジェクタブルゲルでコーティングされてもよい。また、長尺チューブとその基端(手元側)に接続させたアダプターから構成されるカテーテルの血液と接触する表面の少なくとも一部が本発明の生分解性インジェクタブルゲルでコーティングされてもよい。
【0023】
また、ガイドワイヤーの血液と接触する表面の少なくとも一部が本発明の生分解性インジェクタブルゲルでコーティングされてもよい。また、金属材料や高分子材料よりなる中空管状体の側面に細孔を設けたものや金属材料のワイヤや高分子材料の繊維を編み上げて円筒形に成形したもの等、様々な形状のステントの血液と接触する表面の少なくとも一部が本発明の生分解性インジェクタブルゲルでコーティングされてもよい。
【0024】
また、多数のガス交換用多孔質中空糸膜をハウジングに収納し、中空糸膜の外面側に血液が流れ、中空糸膜の内部に酸素含有ガスが流れるタイプの中空糸膜外部血液灌流型人工肺の、中空糸膜の外面もしくは外面層に、本発明の生分解性インジェクタブルゲルが被覆されている人工肺としてもよい。
【0025】
また、透析液が充填された少なくとも一つの透析液容器と、透析液を回収する少なくとも一つの排液容器とを含む透析液回路と、前記透析液容器を起点とし、又は、前記排液容器を終点として、透析液を送液する送液手段とを有する透析装置であって、その血液と接する表面の少なくとも一部が本発明の生分解性インジェクタブルゲルでコーティングされてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、優れた軟骨組織再生の足場であり、かつ、優れた生分解性を有するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[実施例1]
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、以下の例で用いた薬品は、とくに断りの無い場合は市販品をそのまま用いた。以下の例において、各実施例で得られた重合体の分子量分布の測定は以下のようにして行った。
【0029】
数平均分子量([Mn]、単位:g/mol)
ピーク分子量が既知の標準ポリスチレンを用い、該標準ポリスチレンで校正したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(東ソー社製「TOSO HLC−8320GPC」、カラム構成:TSKguardcolumn SuperMP(HZ)−M, TSKgel SuperMultiporeHZ−M 4本直列)を使用して、重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定した。(溶媒:THF、温度:40℃、流量:0.35mL/min)。
【0030】
分子量分布([Mw/Mn])
上記の方法で求めた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の値を用い、その比(Mw/Mn)として求めた。
【0031】
NMR測定
ポリマーの構造解析については、NMR測定装置(Bruker製、400MHz)を用い、
1H−NMR測定及び
13C−NMR測定を行った。なお、ケミカルシフトはCDCl
3(
1H:7.26ppm、
13C:77.1ppm)を基準とした。
【0032】
両末端反応性PEG−PLA−PEG の合成
全体の合成スキームを示す。
【化11】
【0033】
THP−PEG−OH(Mx=2,355)の合成
【化12】
【0035】
Ar雰囲気下で、エチレングリコール(1)15.0g(223mmol)をジクロロメタン(無水)200mlに溶解し、TsOH・H
2O 424mg(2.23mmol, 1mol%/vs.(1))を加え、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン 9.33g(111mmol,0.5equiv./vs. (1))をゆっくり滴下し、常温で攪拌30分後、微量のTEAを添加した。反応溶液を濃縮し、カラム(EtOAc/Hexane=1/1)にかけて片末端THP保護体(2)を得た(7.36g(22%))。さらに減圧蒸留により精製を行った。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ 4.58−4.54(q,1H,J=2.6Hz),3.95−3.51(m,6H),2.92−2.88(t,1H,J=5.6Hz),1.91−1.75(m,6H)(
図20)。
【0037】
(2)146mg(1mmol)をAr置換{(真空15分+Ar)×3}し、Arフロー下でTHF(無水)15mlを添加し、THF中のカリウムナフタレン1mmol分を滴下し、メタル化した。メタル化後、Arフロー下でエチレンオキシド 2.5ml(50mmol)を滴下し、常温で2日間攪拌した。反応溶液をジエチルエーテル400mlで再沈澱精製して、フリーズドライによりTHP−PEG−OH(3)を得た(2.2g(回収率100%))。GPC:数平均分子量(M
n)=2355,M
w/M
n=1.07.
1HNMR(500MHz,CDCl
3):δ4.63−4.6(t,1H),3.90−3.37(m,208H),1.89−1.47(m,6H)(
図21)。
【0038】
THP−PEG−PLA−OHの合成
【化15】
【0039】
N
2雰囲気下、トルエン97.92mL(dl−ラクチド:10mg/mL)にTHP−PEG−OH(Mn=2,355、Mw/Mn=1.094)2000mg(0.8493mmol)、dl−ラクチド(再結晶済み)979.2mg(6.794mmol、8eq.vs.THP−PEG−OH)、Sn(Oct)
234.40mg(0.0849mmol、0.1eq.vs.THP−PEG−OH)を溶解させ、120℃で48時間撹拌した。反応後、濃縮し、ジエチルエーテルで再沈殿させた。ベンゼンによる凍結乾燥後、化合物の構造は
1H−NMRにより解析した。(収量:2531mg、収率85.0%、
図1)
【0040】
図1より、プロトンの帰属を行った。積算値の基準は、PEGのEO鎖由来ピークaを基準として214.00とした。PLA由来のピークbの値から、PLA連鎖数を5連鎖とした。
【0041】
THP−PEG−PLA−PEG−THP の合成
【化16】
【0042】
N
2雰囲気下、CH
2Cl
230mLにTHP−PEG−PLA−OH2000mg(0.7366mmol)、DMAP539.9mg(4.419mmol、3.0eq.vs.THP−PEG−PLA−OH)を溶解させ、TEA411μL(2.946mmol,2eq.vs.THP−PEG−PLA−OH)を添加し、氷冷下(0℃)10分間撹拌した。CH
2Cl
220mLに溶解させた塩化アジポイル67.41mg(0.3683mmol、0.5eq.vs.THP−PEG−PLA−OH)を混ぜ合わせた後、室温で48時間撹拌した。反応後、1N HCl、MilliQで洗浄し、この操作を2回繰り返した。さらに、MgSO
4を加え、濃縮後、ベンゼンによる凍結乾燥を行った。化合物の構造は
1H−NMR、GPCにより解析した(収量1619mg、収率79.3%、
図2)。
【0043】
図2より、プロトンの帰属を行った。積算値の基準は、塩化アジポイルの両末端にTHP−PEG−PLA−OHが完全に結合していると仮定し、PEGのEO鎖由来のピークaを基準として428.00とした。PLA由来のピークbの値から、PLA連鎖数を10連鎖とした。また、GPC測定結果を
図3に示す。
【0044】
GPC測定の結果、単峰性の溶出ピークはTHP−PEG−OH,THP−PEG−PLA−OH,THP−PEG−PLA−PEG−THPの順に高分子量側へとシフトした。これらの結果より、THP−PEG−PLA−PEG−THPの合成を確認した。
【0045】
OH−PEG−PLA−PEG−OHの合成
【化17】
【0046】
N
2雰囲気下、MeOH 20mLにTHP−PEG−PLA−PEG−THP 1500mg(0.2707mmol)、ピリジニウムパラトルエンスルホナート(PPTS) 68.03mg(0.2707mmol、1.0eq.vs.THP−PEG−PLA−PEG−THP)を溶解させ、室温で7時間撹拌した。反応後、濃縮し、ジエチルエーテルで再沈殿させた。ベンゼンによる凍結乾燥後、化合物の構造を
1H−NMRにより解析した(収量1385mg、収率95.2%、
図4)。
【0047】
図4より、プロトンの帰属を行った。積算値の基準は、PEGのEO鎖由来のピークaを基準として428.00とした。THP由来ピークが消失していることから、THPの脱保護を確認した。
【0048】
NHS−PEG−PLA−PEG−NHSの合成
【化18】
【0049】
N
2雰囲気下、CH
2Cl
2 50mLにOH−PEG−PLA−PEG−OH 1200mg(0.2232mmol)を溶解させた。別途、CH
3CN 20mLに炭酸ジ(N−スクシンイミジル)(DSC) 285.9mg(1.116mmol)を50℃で30分間溶解させた。20mLのDSC溶液と50mLのPEG溶液を混ぜ合わせた後、ピリジン200μLを添加し、室温で48時間攪拌した。反応後、ろ過・濃縮の後、ジエチルエーテルで再沈殿した。ベンゼンによる凍結乾燥後、化合物の構造を
1H−NMRにより解析した(収量1142mg、収率90.1%、
図5)。
【0050】
図5より、プロトンの帰属を行った。積算値の基準は、PEGのEO鎖由来のピークaを基準として428.00とした。NHS由来のピークから、99.3%NHS化されていることがわかった。
【0051】
キトサン/PEG−PLA−PEG/RADAゲルの作製と物性評価
キトサン/PEG 2.0/1.0wt% 300μLゲルの作製
PBS(150mM,pH7.4)を用いて調製した6.0wt%キトサン100μLにPBS 150μLを添加した。そこにPBS(150mM,pH7.4)を用いて調製した6.0wt%両末端NHS−PEG 50μLを添加した。
【0052】
キトサン/PEG/RADA16 2.0/1.0/0.25wt%300μLゲルの作製
PBS(150mM,pH7.4)を用いて調製した6.0wt%キトサン100μLにPBS(300mM,pH7.4)75μLを添加した。そこにPBS(150mM,pH7.4)を用いて調製した6.0wt%両末端NHS−PEG50μLを添加した後、1.0wt%RADA16水溶液75μLを素早く添加した。
【0053】
[ゲル化相図の作製]
・実験操作
溶液のゲル化を、20分間静置させた後、tilting test により評価した。各々のゲル化挙動を観察した後、ゲル化相図を作成した。目的とする濃度のキトサン/PEG−PLA−PEGゲルは、キトサン,PEG−PLA−PEG,PBSの混合比を適宜変化させることで作製した。すべてのゲルにおいて、イオン濃度の異なるPBSを適宜用いることで、最終PBS濃度が150mMとなるように調整した。ゲル化相図を
図5に示す。
【0054】
キトサン/PEG−PLA−PEGは、PEG 5kと比較して、より高濃度領域においてゲル化することを確認した。これは、PLAを含有することで溶媒和性が減少し、結果として反応性が減少したためであると考えられる。また、PEG−PLA−PEGは、室温(20℃)において、30wt%のような高濃度領域において初めて、温度相転移(Sol−Gel転移)による物理架橋ゲルを形成することが知られている(T, Mukose et al., Macromol. Biosci. 2014, 4, 361-367)。本系のゲル化は極めて低濃度領域で生じていることから、分子鎖間の化学架橋形成に基づくゲル化が示唆された。
【0055】
周波数依存測定
体積300μLのゲルを、直径15mmのディスク型に成形した。PBS(150mM,pH7.4)中で24時間膨潤させた(4℃)後、装置台座にセットした。パラレルプレートを、0.5Nの荷重が掛かるようにゲルに接近させた。周波数測定において、せん断応力ひずみは1%(=γ)とし、発振周波数を0.1−100Hzの範囲で測定した(
図7)。双方において、貯蔵弾性率(G’)は損失弾性率(G”)よりも高く、典型的なゲル物性を確認した。
【0056】
ゲル化挙動観察
ゲル化挙動を、ゲルの典型的作製法と同様の手法でレオメーター台座上に体積210μLのゲル前駆体溶液を調製した後、即座に粘弾性測定を開始することで評価した。測定周波数は1Hzとし、測定荷重は1Paで行った。なお、RADAのゲル化は、PBS(200mM,pH7.4)157.5μLに対して1.0wt%RADA16水溶液52.5μLを添加することで観察した(
図8)。
【0057】
双方において、所定時間経過後にG’は急激に増加し、明確なゲル化点(G’>G”)が観測された。また、PEG−PLA−PEGを用いた場合、ゲル化速度の減少を確認した。これは、PLAを含有することで、溶媒和性が減少し、結果として反応速度が減少したためである。
【0058】
次に、RADA混合系におけるゲル化挙動測定結果を示す(
図9)。RADA16ペプチドゲルの場合、測定開始時のG’はG”より高く、PBSとの混和により即座にゲル化することが示唆された。また、RADAを混合することにより、G’の値は、それぞれ単独の場合と比べて顕著に増大した。さらに、G’は時間経過とともに多段階に変化し、その変曲点はキトサン/PEG 5k、キトサン/PEG−PLA−PEGのゲル化時間と高く相関していた。これらの結果から、キトサン/PEG/RADA16、キトサン/PEG−PLA−PEG/RADA16ゲルは、RADA16のネットワークが形成された後に、その間をキトサン/PEG、キトサン/PEG−PLA−PEGが架橋する相互侵入高分子網目(Interpenetrating Polymer Network:IPN)構造を形成していることが示唆された。
【0059】
力学強度測定
体積300μLのゲルを、直径15mmのディスク型に成形した。PBS(150mM,pH7.4)中で24時間膨潤させた(4℃)後、装置台座にセットした。
測定周波数を1Hzに固定した後、各ゲルサンプルに1Paから3000Paまでの圧力を印加することで力学強度を測定した。損失弾性率G”が貯蔵弾性率G’を上回る点をゲルの破断点と定義し、応力−ひずみ曲線を作成した。得られた応力−ひずみ曲線の初期の傾きを直線近似することで、ヤング率を算出した(
図10)。
【0060】
キトサン/PEG−PLA−PEGゲルは、キトサン/PEG5kゲルよりも力学強度が低くなった。これは、PLAを導入したことによって反応性が低下し、力学強度が低くなったためと考えられる。また、双方において、ペプチドを内包した結果、力学強度が向上した。これは、ゲルの網目が複合したためであり、IPN構造の形成を示唆している。
【0061】
膨潤度測定
体積300μLのゲルを作製し、PBS(150mM,pH7.4)中で48時間膨潤させた(4℃)後、膨潤後のゲルの重量を測定した。各サンプルを24時間凍結乾燥させた後、ゲルの重量を再度測定した。以下の式を用いて、膨潤度Q0を算出した(
図11)。
Q0=(W
s−W
d)/W
d
W
s:膨潤ゲルの重量、W
d:乾燥ゲルの重量
【0062】
キトサン/PEG−PLA−PEGゲルは、キトサン/PEG5kゲルよりも膨潤度が高くなった。これは、PLAを導入したことによって反応性が低下し、膨潤度が高くなったと考えられる。また、双方において、ペプチドを内包した結果、膨潤度が有意に低下した。これは、IPN構造の形成に基づく網目密度の増加を示唆している。
【0063】
分解挙動評価
分解試験を、以下:
・酸加速分解試験(酢酸、室温条件下)
・実験操作
について行った。
体積300μLのゲルをそれぞれ作製し、1mLのPBS(150mM,pH7.4)中で48時間膨潤させた(4℃)。ゲルを膨潤させた後、PBSを取り除き、CH
3COOHを1mL加え、室温条件下で静置した。所定時間経過後、サンプルを、PBSを用いて3回洗浄し、ゲルの膨潤重量を測定した。各サンプルを24時間凍結乾燥させた後、ゲルの乾燥重量を測定した。以下の式を用いて、膨潤度Q、重量損失を算出した。溶液は1日毎に取り換えた(
図12)。
Q=(W
s−W
d)/W
d
W
S:膨潤ゲルの重量、W
d:乾燥ゲルの重量
重量損失(%)=(W
d0−W
d)/W
d0×100
W
d0:初期乾燥重量(day0)
【0064】
PEG5kを用いたゲルでは、分解挙動を示さなかった。一方、PEG−PLA−PEGを用いたゲルにおいては、RADAの有無に依らず、顕著な分解挙動が確認された。PEG−PLA−PEGを用いた場合、PLAの加水分解に基づく分解挙動を示すことが確認された。
【0065】
生理条件下分解試験(PBS(150mM,pH7.4)、37℃)
体積300μLのゲルをそれぞれ作製し、1mLのPBS(150mM,pH7.4)中で48時間膨潤させた(4℃)。ゲルを膨潤させた後、PBSを取り除き、新たなPBSを1mL加え、37℃条件下で静置した。所定時間経過後、サンプルをPBSを用いて3回洗浄し、ゲルの膨潤重量を測定した。各サンプルを24時間凍結乾燥させた後、ゲルの乾燥重量を測定した。以下の式を用いて、膨潤度Q、重量損失を算出した。溶液は3日毎に取り換えた(
図13)。
Q=(W
s−W
d)/W
d
W
S:膨潤ゲルの重量、W
d:乾燥ゲルの重量
重量損失(%)=(W
d0−W
d)/W
d0×100
W
d0:初期乾燥重量(day0)
【0066】
PEG−PLA−PEG及びRADAにおいて、初期の段階では未架橋鎖の流出に伴う重量損失上昇が確認された。PEG−PLA−PEGを用いた場合、RADAの有無によらず、緩やかな分解挙動が確認された。分解速度は、PEG 5kを用いた場合と比較して加速しており、生理条件下においても同様に、PLAの加水分解に伴う分解挙動が確認された。
【0067】
円二色性(CD)スペクトル測定
体積90μLの各サンプルをそれぞれ作製し、光路長0.1mmの石英セルに塗布した。測定条件は以下のとおりである。
測定波長:300−205nm
データ間隔:0.5nm
走査速度:200nm/min
積算回数:3回
レスポンス:2.0s
バンド幅:1.0nm
測定温度:20℃
【0068】
RADAは、CDスペクトルの220nm付近にβシート構造に基づく負のコットン効果を示すことが知られている。ペプチドを内包したゲルにおいても同様に、負のコットン効果が得られたことから、ペプチドの繊維構造はゲル内部で安定に保持されていることがわかった。
【0069】
キトサン/PEG−PLA−PEG/RADAゲルの細胞培養
(1)20分間のUV滅菌処理を施したキトサン(カルボキシメチルキトサン、甲陽ケミカル)を用い、4wt%キトサン溶液(150mM PBS)を調製した。
(2)予めインキュベーター(37℃、5%CO
2)で培養したサブコンフルのウシ由来軟骨細胞(P1)をトリプシン処理により基板から剥がし、遠心後(1,500rpm,5分間)、上澄みを除去した。
(3)DMEM培地を10mL加え、細胞数を測定した。
(4)遠心(1,500rpm,5分間)し、上澄み除去後、4wt%キトサン溶液を用いて、細胞懸濁液を作製した。
(5)1.5mLサンプリングチューブに細胞懸濁液を25μL加えた。
(6)20分間のUV処理を施したNHS−PEG−PLA−PEG−NHSを用いて、4wt%PEG溶液(300mMPBS中)を別途調製した。
(7)上記の(5)に(6)の4wt%PEG溶液を12.5μL加え、ピペッティングを行った後すぐに、1.0wt%RADA16溶液を12.5μL加え混ぜ合わせた。なお、キトサン/PEG−PLA−PEG=2.0/1.0wt%を足場とする場合には、RADA16溶液の代わりに同体積の150mM PBSを添加した。
(8)10分間ゲル化させた後、ゲル上部にDMEM(10%FBS,2%pen−strep)を500μL加え、インキュベーター(37℃,5%CO
2)内で培養した。2−3日毎に培地サンプルを回収し、フレッシュなDMEMを500μL添加した。回収した培地サンプルは−80℃で保存した。
【0070】
ゲル組成:
1.キトサン/PEG5k=2.0/1.0wt%
2.キトサン/PEG−PLA−PEG=2.0/1.0wt%
3.キトサン/PEG5k/RADA16=2.0/1.0/0.25wt%
4.キトサン/PEG−PLA−PEG/RADA16=2.0/1.0/0.25wt%
【0071】
培養条件:
細胞数:5.0×10
5細胞
細胞密度:1.0×10
7細胞/ml
ゲル体積:50μL
培地量:500μL
【0072】
キトサン/PEG−PLA−PEG/RADA ゲルの軟骨細胞機能評価
分解挙動評価(細胞存在下)
上記と同様の方法で、体積300μLのキトサン/PEG 5k ゲル及びキトサン/PEG−PLA−PEGゲルをそれぞれ作製し、DMEMを1mL加え、37℃、5%CO
2条件下で静置した。所定時間経過後、サンプルをPBSを用いて3回洗浄し、各サンプルを24時間凍結乾燥させ、ゲルの乾燥重量を測定した。以下の式を用いて、重量損失を算出した。培地は2,3日毎に取り換えた。
重量損失(%)=(W
d0−W
d)/W
d0×100
W
d0:初期乾燥重量(day0)
【0073】
培養条件:
細胞数:3.0×10
6細胞
細胞密度:1.0×10
7細胞/ml
ゲル体積:300μL
培地量:1000μL
【0074】
細胞存在下において、キトサン/PEG5kゲルはday40まで顕著な分解挙動は示さず、キトサン/PEG−PLA−PEGゲルは経過時間に伴う緩やかな分解挙動を示した。従って、細胞存在下においても同様に、PLAに由来する分解挙動を示していることが示唆された。また、キトサン/PEG5kゲルにおいて、day40以降、細胞の伸展に伴い架橋鎖が切断され、顕著な分解挙動を示していると考えられる。
【0075】
MTTアッセイ
(1)サンプルの培地を交換する際に、DMEMを450μL加え、5mg/mL MTT試薬を50μL加えた。
(2)24時間、インキュベーション(37℃,5%CO
2)した。
(3)上澄みを除去し、ゲルを崩し、MTT抽出用試薬(2−プロパノール:1M HCl=24:1vol%)を500μL加え、37℃で24時間振とうした。
(4)遠心(1,500rpm,5分間)後、96ウェルプレートに上澄みを100μL/ウェル加え、570nmにおける吸光度を測定した(
図16)。
【0076】
MTTアッセイによるミトコンドリア活性は、培養初期において全てのハイドロゲルにおいて低下した。その後、RADA非混合ゲルでは低い状態を維持していたが、RADA混合ゲルでは顕著な活性の上昇が見られた。これは、ペプチドの繊維構造が生体環境を模倣した結果、細胞活性が向上したと考えられる。また、PEG−PLA−PEGを用いた場合、細胞活性は有意に向上した。これは、分解性を付与した影響であると考えられる。また、培養後期において、PEG−PLA−PEGを用いた場合、活性の低下を確認した。これは、ゲルが分解し細胞が放出されていることを示唆している。
【0077】
ジメチルメチレンブルー(DMMB)アッセイ
(1)DMMB 4mgをエタノール1.25mLに溶解させ、ギ酸0.75mL,1.0M NaOH溶液6.4mLを添加し、計250mLになるまでMilli Q水でメスアップすることにより、DMMB溶液を調製した。
(2)96ウェルプレートにDMMB溶液を125μL/ウェル加えた。
(3)検量線用コンドロイチン硫酸溶液(PBS中),サンプル(2倍希釈培地、ゲル融解液)を20μL/ウェル加え、よくピペッティングした。
(4)570nmにおける吸光度を測定した(
図17〜19)。
【0078】
作製したキトサン/PEG−PLA−PEG/RADA16ゲルは、キトサン/PEG5k/RADA16ゲルと比較すると、培地中のGAG産生、及びゲル中のGAG産生量は、培養初期の段階では同程度のGAG産生量を示しているが、培養後期の段階では、キトサン/PEG−PLA−PEG/RADA16ゲルの方がGAG産生量が高くなっている。キトサン/PEG−PLA−PEG/RADA16ゲルは、培養条件下において緩やかな分解挙動を示すことを確認しており、ゲルに分解性を付与した結果GAG産生量が向上していると考えられる。
【0079】
重合官能基−PEG−PLA−PEG−重合官能基、または重合官能基−PLA−PEG−PLA−重合官能基をゲル化の架橋材料として用いる場合は、重合開始剤、重合性の刺激(紫外線、ガンマ線、など)が必要となる。
【0080】
この場合、(1)光毒性、重合開始剤分解物等の毒性シグナルによって、ゲル化反応後の細胞生存率が大きく低下する、(2)光(主に紫外線)照射による細胞に対する遺伝子異常、癌化等のリスクが高まり、臨床ステージの安全性確保が困難である、などのデメリットが大きい(Wiliams et al, Biomaterials 2005, 26, 1211-1218; Liu et al, Adv. Mater. 2014, 26, 3912-3917; Cui et al, Biomacromolecules 2013, 14, 1904-1912)。
【0081】
一方、スクシンイミド−PEG−PLA−PEG−スクシンイミドは、PEG−PLA−PEG、またはPLA−PEG−PLAを用いる物理架橋ゲルと違い、極めて低濃度での架橋が可能である。したがって粘性の低い細胞混和物として扱うことが可能なため、生体内投与型のインジェクタブルゲルとしての利用が可能であり、臨床治療への適合性が高い。
【0082】
また、ゲル化反応の駆動力として、分解生成物(副生成物)の安全なスクシンイミドとタンパク分子アミノ酸残基との反応を用いており、しかも混合するだけでゲル化が進むため、他の第3刺激因子を必要としない。
【0083】
その結果、ゲル化反応後の細胞生存率は、架橋前に対して100%を維持する極めて毒性の低い反応である。