特許第6886507号(P6886507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6886507分析装置、分析装置用プログラム及び分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886507
(24)【登録日】2021年5月18日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】分析装置、分析装置用プログラム及び分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/39 20060101AFI20210603BHJP
【FI】
   G01N21/39
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-230176(P2019-230176)
(22)【出願日】2019年12月20日
(65)【公開番号】特開2020-106528(P2020-106528A)
(43)【公開日】2020年7月9日
【審査請求日】2020年11月4日
(31)【優先権主張番号】特願2018-242183(P2018-242183)
(32)【優先日】2018年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 享司
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−096974(JP,A)
【文献】 特開2009−047677(JP,A)
【文献】 特開2007−101186(JP,A)
【文献】 特開2016−080403(JP,A)
【文献】 特開2008−064688(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0273681(US,A1)
【文献】 特開2019−066477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数の干渉成分が含まれるサンプル中の測定対象成分を分析する分析装置であって、
所定の変調周波数で波長が変調された変調光を射出する光源と、
前記変調光が前記サンプルを透過したサンプル光の強度を検出する光検出器と、
前記サンプル光の強度に関連する強度関連信号と所定の特徴信号との相関値であるサンプル相関値を算出する相関値算出部と、
前記相関値算出部により得られた前記サンプル相関値を用いて前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部と
前記測定対象成分及び各干渉成分が単独で存在する場合のそれぞれの前記強度関連信号と複数の前記特徴信号とから求められた前記測定対象成分及び各干渉成分それぞれの単位濃度当たりの相関値である単独相関値を格納する格納部とを備え、
前記濃度算出部は、前記相関値算出部により得られた複数のサンプル相関値と、前記複数の単独相関値とに基づいて、前記測定対象成分の濃度を算出するものである、分析装置。
【請求項2】
前記相関値算出部は、前記測定対象成分の種類数及び前記干渉成分の種類数を合わせた数以上の数の特徴信号を用いて複数のサンプル相関値を算出する、請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
前記光検出器により得られた光強度信号に対数演算を施す対数演算部をさらに備え、
前記相関値算出部は、前記対数演算された光強度信号を前記強度関連信号として用いるものである、請求項1乃至2の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項4】
前記強度関連信号は、前記サンプル光と基準となるリファレンス光との比を対数化した吸光度信号である、請求項1乃至3の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項5】
前記相関値算出部は、基準となるリファレンス光の強度関連信号と前記特徴信号との相関値であるリファレンス相関値を用いて、前記サンプル相関値を補正する、請求項1乃至4の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項6】
前記リファレンス光は、前記サンプル光と同時、前記サンプル光の測定の前後又は任意のタイミングで測定されたものである、請求項4又は5記載の分析装置。
【請求項7】
前記特徴信号は複数あり、
前記複数の特徴信号のうち少なくとも2つは、互いに直交関係にある信号である、請求項1乃至6の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項8】
前記格納部は、前記リファレンス相関値を用いて補正した単独相関値を格納する、請求項5記載の分析装置。
【請求項9】
前記濃度算出部は、前記相関値算出部により得られた複数のサンプル相関値と、前記複数の単独相関値と、前記測定対象成分及び前記各干渉成分それぞれの濃度とからなる連立方程式を解くことにより、前記測定対象成分の濃度を算出するものである、請求項1乃至8の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項10】
前記相関値算出部は、前記測定対象成分の種類数及び前記干渉成分の種類数を合わせた数よりも大きい数の特徴信号を用いて複数の相関値を算出するものであり、
前記濃度算出部は、前記測定対象成分の種類数及び干渉成分の種類数を合わせた数よりも大きい元数の連立方程式から最小二乗法を用いて、前記測定対象成分の濃度を算出するものである、請求項記載の分析装置。
【請求項11】
前記測定対象成分が排ガス等のサンプルガス中に含まれるものであり、
前記光源は、前記測定対象成分の光吸収スペクトルのピークを含む波長範囲で波長が変調された変調光を射出する半導体レーザであり、
前記サンプルガスが導入されるセルをさらに備え、
前記半導体レーザから射出された変調光が前記セルに照射されるとともに、前記セルを透過したサンプル光の光路上に前記光検出器が配置されている請求項1乃至10の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項12】
前記特徴信号は、正弦波信号以外の信号であり、前記正弦波信号を用いたときよりも前記強度関連信号との相関値が大きいものである、請求項1乃至11の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項13】
前記特徴信号又は前記強度関連信号の少なくとも一方は、直流成分が除去されたものである、請求項1乃至12の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項14】
サンプル中に含まれる測定対象成分を分析する分析装置であって、
所定の変調周波数で波長が変調された変調光を射出する光源と、
前記変調光が前記サンプルを透過したサンプル光の強度を検出する光検出器と、
前記サンプル光の強度に関連する強度関連信号と所定の特徴信号との相関値であるサンプル相関値を算出する相関値算出部と、
前記相関値算出部により得られた前記サンプル相関値を用いて前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部とを備え、
前記相関値算出部は、基準となるリファレンス光の強度関連信号と前記特徴信号との相関値であるリファレンス相関値を用いて、前記サンプル相関値を補正する、分析装置。
【請求項15】
1又は複数の干渉成分が含まれるサンプル中の測定対象成分を分析すべく、所定の変調周波数で中心波長に対して波長が変調する変調光を射出する光源と、前記変調光が前記サンプルを透過したサンプル光の強度を検出する光検出器とを具備した分析装置に適用されるプログラムであって、
前記サンプル光の強度に関連する強度関連信号と所定の特徴信号との相関値であるサンプル相関値を算出する相関値算出部と、
前記相関値算出部により得られたサンプル相関値を用いて、前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部と、
前記測定対象成分及び各干渉成分が単独で存在する場合のそれぞれの前記強度関連信号と複数の前記特徴信号とから求められた前記測定対象成分及び各干渉成分それぞれの単位濃度当たりの相関値である単独相関値を格納する格納部としての機能を前記分析装置に発揮させるものであり、
前記濃度算出部は、前記相関値算出部により得られた複数のサンプル相関値と、前記複数の単独相関値とに基づいて、前記測定対象成分の濃度を算出するものであることを特徴とする分析装置用プログラム。
【請求項16】
1又は複数の干渉成分が含まれるサンプル中の測定対象成分を分析する分析方法であって、
所定の変調周波数で中心波長に対して波長が変調する変調光を射出し、
前記変調光が前記サンプルを透過したサンプル光の強度を検出し、
前記サンプル光の強度に関連する強度関連信号と所定の特徴信号との相関値であるサンプル相関値を算出し、
前記サンプル相関値を用いて前記測定対象成分の濃度を算出する方法であり、
前記測定対象成分及び各干渉成分が単独で存在する場合のそれぞれの前記強度関連信号と複数の前記特徴信号とから求められた前記測定対象成分及び各干渉成分それぞれの単位濃度当たりの相関値である単独相関値を格納し、
複数の前記サンプル相関値と、前記複数の単独相関値とに基づいて、前記測定対象成分の濃度を算出することを特徴とする分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばガスの成分分析等に用いられる分析装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、半導体レーザの注入電流を変調して発振波長を掃引し、測定対象ガスの吸収スペクトルを得ることにより濃度定量を行う分析手法(TDLAS:Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−90521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通常のTDLASでは、波長掃引によって得られた吸収信号から濃度定量を行うために、まず吸収信号の時間軸を波長軸へ変換し、吸収スペクトルにした上で、スペクトルフィッティングやベースライン推定、多変量解析などの複雑なスペクトル演算処理が必要である。その結果、高度な演算処理装置が必要となり、分析装置のコスト増大、大型化に繋がってしまう。
【0005】
そこで、本発明は上記の問題点を解決すべくなされたものであり、光吸収を利用した分析装置において、複雑なスペクトル演算処理をすることなく、測定対象成分の濃度を簡単な演算で測定できるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る分析装置は、サンプル中に含まれる測定対象成分を分析する分析装置であって、所定の変調周波数で波長が変調された変調光を射出する光源と、前記変調光が前記サンプルを透過したサンプル光の強度を検出する光検出器と、前記サンプル光の強度に関連する強度関連信号と所定の特徴信号との相関値を算出する相関値算出部と、
前記相関値算出部により得られた相関値を用いて前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部とを備えることを特徴とする。なお、本発明において、相関値を算出することには、強度関連信号と特徴信号との相関を取ることの他に、強度関連信号と特徴信号との内積を取ることを含む。
【0007】
このような構成であれば、サンプル光の強度に関連する強度関連信号と、特徴信号との相関値を算出し、算出された相関値を用いて測定対象成分の濃度を算出するので、吸収信号を吸収スペクトルへ変換することなく、吸収信号の特徴を少ない変数で捉えることができ、複雑なスペクトル演算処理をすることなく、測定対象成分の濃度を簡単な演算で測定できる。例えば一般的なスペクトルフィッティングで用いるデータ点数は数百点必要だが、本発明ではせいぜい数個から数十個程度の相関値を使えば同等の精度で濃度の算出が可能となる。その結果、演算処理の負荷を小さくすることができ、高度な演算処理装置が不要となり、分析装置のコストを削減することができるとともに、小型化が可能となる。
【0008】
前記相関値算出部は、前記測定対象成分の種類数及び前記干渉成分の種類数を合わせた数以上の数の特徴信号を用いて複数の相関値を算出することが望ましい。
【0009】
また、本発明によれば、サンプル中に干渉成分が含まれていても、対数演算による線形問題とし、最終的には連立方程式を解くという順問題に帰着させるという従来にない飛躍的な発想によって、確実に測定対象成分の濃度を測定することができるようになる。そのための具体的な構成の一例は以下のようなものである。
【0010】
本発明の分析装置は、前記光検出器により得られた光強度信号に対数演算を施す対数演算部をさらに備え、前記相関値算出部は、前記対数演算された光強度信号を前記強度関連信号として用いるものであることが望ましい。この時、前記強度関連信号としては、前記対数演算された光強度信号から直流成分を除去した信号を用いてもよい。こうすることで光強度の変動による強度関連信号にオフセットが乗った時の影響を除去することができる。なお、特徴信号の直流成分を除去して相関値を算出するようにしても同様の結果が得られる。
【0011】
本発明の分析装置は、1又は複数の干渉成分が含まれるサンプル中の測定対象成分を分析するものであって、前記測定対象成分及び各干渉成分が単独で存在する場合のそれぞれの前記強度関連信号と複数の前記特徴信号とから求められた前記測定対象成分及び各干渉成分それぞれの単位濃度当たりの相関値である単独相関値を格納する格納部をさらに備え、前記濃度算出部は、前記相関値算出部により得られた複数の相関値と、前記複数の単独相関値とに基づいて、前記測定対象成分の濃度を算出するものであることが望ましい。
【0012】
前記濃度算出部は、前記相関値算出部により得られた複数の相関値と、前記複数の単独相関値と、前記測定対象成分及び前記各干渉成分それぞれの濃度とからなる連立方程式を解くことにより、前記測定対象成分の濃度を算出するものである。この構成であれば、せいぜい数個から数十個程度の元数の連立方程式を解くという簡単かつ確実な演算により、干渉影響が取り除かれた測定対象成分の濃度を決定することができる。
【0013】
より測定ノイズに対しても誤差の小さい濃度決定を可能にするためには、前記相関値算出部は、前記測定対象成分の種類数及び前記干渉成分の種類数を合わせた数よりも大きい数の特徴信号を用いて複数の相関値を算出するものであり、前記濃度算出部は、前記測定対象成分の種類数及び干渉成分の種類数を合わせた数よりも大きい元数の連立方程式から最小二乗法を用いて、前記測定対象成分の濃度を算出するものであることが望ましい。
【0014】
特徴信号から得られた相関値の差を大きくして、例えば連立方程式を用いて、測定対象成分の濃度の測定精度を向上させるためには、前記特徴信号は複数あり、前記複数の特徴信号のうち少なくとも2つは、互いに直交関係にある信号であることが望ましい。
【0015】
より測定精度を向上させるためには、前記サンプル光の測定とは別にリファレンス光の測定を行い、リファレンス光の強度関連信号と前記複数の特徴信号との相関値であるリファレンス相関値を用いて、前記サンプル光の強度関連信号と前記複数の特徴信号との相関値であるサンプル相関値及び前記単独相関値の値を補正することが望ましい。
ここで、リファレンス光としては、光源から射出された変調光と等価なものだけでなく、測定対象成分を含まないセルやゼロガスが流れているセル、または既知の濃度のガスが入ったセルを透過した光もリファレンス光として利用できる。また、セルに入る前にビームスプリッタ等で前記変調光の一部を分離した光もリファレンス光として利用できる。
ここで、前記リファレンス光は、前記サンプル光と同時、前記サンプル光の測定の前後又は任意のタイミングで測定されたものであることが考えられる。
【0016】
また、前記リファレンス相関値で前記サンプル相関値や単独相関値を補正する代わりに、前記サンプル光と前記リファレンス光との比を対数化した吸光度信号を前記強度関連信号として用いても良い。
【0017】
本発明の分析装置は、ガス等の分析に適用することができる。
【0018】
具体的には、前記光源が、前記測定対象成分の光吸収スペクトルのピークを含む波長範囲で波長が変調された変調光を射出する半導体レーザであり、前記サンプルガスが導入されるセルをさらに備え、前記半導体レーザから射出された変調光が前記セルに照射されるとともに、前記セルを透過したサンプル光の光路上に前記光検出器が配置されているものを挙げることができる。
【0019】
また、本発明に係る分析装置用プログラムは、サンプル中に含まれる測定対象成分を分析すべく、所定の変調周波数で中心波長に対して波長が変調する変調光を射出する光源と、前記変調光が前記サンプルを透過したサンプル光の強度を検出する光検出器とを具備した分析装置に適用されるプログラムであって、前記サンプル光の強度に関連する強度関連信号と、所定の特徴信号との相関値を算出する相関値算出部と、前記相関値算出部により得られた相関値を用いて、前記測定対象成分の濃度を算出する濃度算出部としての機能を前記分析装置に発揮させることを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明に係る分析方法は、サンプル中に含まれる測定対象成分を分析する分析方法であって、所定の変調周波数で中心波長に対して波長が変調する変調光を射出し、前記変調光が前記サンプルを透過したサンプル光の強度を検出し、前記サンプル光の強度に関連する強度関連信号と、所定の特徴信号との相関値を算出し、前記相関値を用いて前記測定対象成分の濃度を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上に述べた本発明によれば、光吸収を利用した分析装置において、複雑なスペクトル演算処理をすることなく、測定対象成分の濃度を簡単な演算で測定できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る分析装置の全体模式図である。
図2】同実施形態における信号処理装置の機能ブロック図である。
図3】同実施形態におけるレーザ発振波長の変調方法を示す模式図である。
図4】同実施形態における発振波長、光強度I(t)、対数強度L(t)、特徴信号F(t)、相関値Sの一例を示す時系列グラフである。
図5】同実施形態の単独相関値及びサンプル相関値を用いた濃度算出の概念図を示す図である。
図6】変形実施形態の濃度計算を示すフローチャートである。
図7】疑似連続波動作における駆動電流(電圧)及び変調信号を示す図である。
図8】疑似連続波動作による測定原理を示す模式図である。
図9】変形実施形態に係る分析装置の全体模式図である。
図10】変形実施形態における信号処理装置の機能ブロック図である。
図11】変形実施形態における複数の半導体レーザのパルス発振タイミング及び光強度信号の一例を示す模式図である。
図12】変形実施形態の信号分離部の構成を示す模式図である。
図13】変形実施形態のサンプルホールド回路の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る分析装置100について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
本実施形態の分析装置100は、排ガス等のサンプルガス中に含まれる測定対象成分(ここでは、例えばCOやCO等)の濃度を測定する濃度測定装置であり、図1に示すように、サンプルガスが導入されるセル1と、セル1に変調するレーザ光を照射する光源たる半導体レーザ2と、セル1を透過したレーザ光であるサンプル光の光路上に設けられてサンプル光を受光する光検出器3と、光検出器3の出力信号を受信し、その値に基づいて測定対象成分の濃度を算出する信号処理装置4とを備えている。
【0025】
各部を説明する。
セル1は、測定対象成分の吸収波長帯域において光の吸収がほとんどない石英、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の透明材質で光の入射口及び出射口が形成されたものである。このセル1には、図示しないが、ガスを内部に導入するためのインレットポートと、内部のガスを排出するためのアウトレットポートとが設けられており、サンプルガスは、このインレットポートからセル1内に導入されてる。
【0026】
半導体レーザ2は、ここでは半導体レーザ2の一種である量子カスケードレーザ(QCL:Quantum Cascade Laser)であり、中赤外(4〜12μm)のレーザ光を発振する。この半導体レーザ2は、与えられた電流(又は電圧)によって、発振波長を変調(変える)ことが可能なものである。なお、発振波長が可変でさえあれば、他のタイプのレーザを用いても良く、発振波長を変化させるために、温度を変化させる等しても構わない。
【0027】
光検出器3は、ここでは、比較的安価なサーモパイル等の熱型のものを用いているが、その他のタイプのもの、例えば、応答性がよいHgCdTe、InGaAs、InAsSb、PbSe等の量子型光電素子を用いても構わない。
【0028】
信号処理装置4は、バッファ、増幅器等からなるアナログ電気回路と、CPU、メモリ等からなるデジタル電気回路と、それらアナログ/デジタル電気回路間を仲立ちするADコンバータ、DAコンバータ等とを具備したものであり、前記メモリの所定領域に格納した所定のプログラムに従ってCPUやその周辺機器が協働することによって、図2に示すように、半導体レーザ2の出力を制御する光源制御部5や、光検出器3からの出力信号を受信し、その値を演算処理して測定対象成分の濃度を算出する信号処理部6としての機能を発揮する。
【0029】
以下に各部を詳述する。
光源制御部5は、電流(又は電圧)制御信号を出力することによって半導体レーザ2の電流源(又は電圧源)を制御するものである。具体的に光源制御部5は、半導体レーザ2の駆動電流(又は駆動電圧)を所定周波数で変化させ、半導体レーザ2から出力されるレーザ光の発振波長を中心波長に対して所定周波数で変調させる。これによって、半導体レーザ2は、所定の変調周波数で変調された変調光を射出することになる。
【0030】
この実施形態においては、光源制御部5は駆動電流を三角波状に変化させ、発振波長を三角波状に変調する(図4の「発振波長」参照)。実際には、発振波長が三角波状になるように、駆動電流の変調を別の関数で行う。また、レーザ光の発振波長は、図3に示すように、測定対象成分の光吸収スペクトルのピークを中心波長として変調されるようにしてある。その他、光源制御部5は、駆動電流を正弦波状や鋸波状、または任意の関数状に変化させ、発振波長を正弦波状や鋸波状、または任意の関数状に変調してもよい。
【0031】
信号処理部6は、対数演算部61、相関値算出部62、格納部63、濃度算出部64等からなる。
【0032】
対数演算部61は、光検出器3の出力信号である光強度信号に対数演算を施すものである。光検出器3により得られる光強度信号の継時変化を示す関数I(t)は、図4の「光強度I(t)」のようになり、対数演算を施すことにより、図4の「対数強度L(t)」のようになる。
【0033】
相関値算出部62は、サンプル光の強度に関連する強度関連信号と複数の所定の特徴信号とのそれぞれの相関値を算出するものである。特徴信号とは、強度関連信号と相関を取ることで、強度関連信号の波形特徴を抽出するための信号である。特徴信号としては、例えば正弦波信号や、それ以外の強度関連信号から抽出したい波形特徴に合わせた様々な信号を用いることができる。
【0034】
以下では、特徴信号に正弦波信号以外のものを用いた場合の例を説明する。相関値算出部62は、サンプル光の強度に関連する強度関連信号と、当該強度関連信号に対して正弦波信号(正弦関数)とは異なる相関が得られる複数の特徴信号とのそれぞれの相関値を算出する。ここでは、相関値算出部62は、対数演算された光強度信号(対数強度L(t))を強度関連信号として用いる。
【0035】
また、相関値算出部62は、測定対象成分の種類数及び干渉成分の種類数を合わせた数よりも大きい数の特徴信号F(t)(i=1,2,・・・,n)を用いて、下式(数1)により、サンプル光の強度関連信号と複数の特徴信号とのそれぞれの相関値である複数のサンプル相関値Sを算出するものである。なお、数1におけるTは、変調の周期である。
【0036】
【数1】
【0037】
相関値算出部62は、サンプル相関値を算出する時、数1のように、サンプル光の強度関連信号L(t)と複数の特徴信号F(t)との相関値Sからリファレンス光の強度関連信号L(t)と複数の特徴信号F(t)との相関値であるリファレンス相関値Rを差し引く補正をしたサンプル相関値S’を算出することが望ましい。これにより、サンプル相関値に含まれるオフセットを除去し、測定対象成分及び干渉成分の濃度に比例した相関値となり、測定誤差を低減できる。なお、リファレンス相関値を差し引かない構成であっても良い。
【0038】
ここで、リファレンス光の取得タイミングは、サンプル光と同時、測定の前後又は任意のタイミングである。リファレンス光の強度関連信号又はリファレンス相関値は、予め取得して格納部63に記憶させておいても良い。また、リファレンス光を同時に取得する方法は、例えば、光検出器3を2つ設けて、半導体レーザ2からの変調光をビームスプリッタなどにより分岐させて、一方をサンプル光測定用とし、他方をリファレンス光測定用とすることが考えられる。
【0039】
本実施形態では、相関値算出部62は、複数の特徴信号F(t)として、正弦関数よりも対数強度L(t)の波形特徴を捉えやすい関数を用いている。測定対象成分及び1つの干渉成分を含むサンプルガスの場合には、2つ以上の特徴信号F(t)、F(t)を用いることが考えられ、2つの特徴信号F(t)、F(t)としては、例えば、吸収スペクトルの形に近いローレンツ関数に基づいた関数と、当該ローレンツ関数に基づいた関数の微分関数とを用いることが考えられる。また、特徴信号としては、ローレンツ関数に基づいた関数の代わりに、フォークト関数に基づいた関数、又はガウス関数に基づいた関数等を用いることもできる。このような関数を特徴信号に用いることで、正弦関数を用いた時よりもより大きな相関値を得ることができ、測定精度を向上させることができる。
【0040】
ここで、特徴信号は、直流成分を除去、すなわち変調周期で積分した時にゼロになるようにオフセットを調整することが望ましい。こうすることで、光強度の変動による強度関連信号にオフセットが乗った時の影響を除去することができる。なお、特徴信号の直流成分を除去する代わりに、強度関連信号の直流成分を除去してもよいし、特徴信号と強度関連信号の両方とも直流成分を除去してもよい。その他、特徴信号として、測定対象成分及び/又は干渉成分の吸収信号のサンプル値、またはそれらを模したものをそれぞれ用いてもよい。
【0041】
なお、2つの特徴信号F(t)、F(t)を互いに直交する直交関数列又は直交関数列に近い関数列とすることにより、対数強度L(t)の特徴をより効率的に抽出することができ、後述する連立方程式により得られる濃度を精度良くすることができる。
【0042】
格納部63は、測定対象成分及び各干渉成分が単独で存在する場合のそれぞれの強度関連信号と複数の特徴信号F(t)とから求められた測定対象成分及び各干渉成分それぞれの単位濃度当たりの相関値である単独相関値を格納するものである。この単独相関値を求めるのに用いる複数の特徴信号F(t)は、相関値算出部62で用いる複数の特徴信号F(t)と同一である。
【0043】
ここで、格納部63は、単独相関値を格納する時、測定対象成分及び各干渉成分が単独で存在する場合の相関値からリファレンス相関値を差し引いた上で、単位濃度当たりに換算する補正をした単独相関値を格納することが望ましい。これにより、単独相関値に含まれるオフセットを除去し、測定対象成分及び干渉成分の濃度に比例した相関値となり、測定誤差を低減できる。なお、リファレンス相関値を差し引かない構成であっても良い。
【0044】
濃度算出部64は、相関値算出部62により得られた複数のサンプル相関値を用いて測定対象成分の濃度を算出するものである。
【0045】
具体的に濃度算出部64は、相関値算出部62により得られた複数のサンプル相関値と、格納部63に格納された複数の単独相関値とに基づいて、測定対象成分の濃度を算出するものである。より詳細には、濃度算出部64は、相関値算出部62により得られた複数のサンプル相関値と、格納部63に格納された複数の単独相関値と、測定対象成分及び各干渉成分それぞれの濃度とからなる連立方程式を解くことにより、測定対象成分の濃度を算出するものである。
【0046】
次に、前記各部の詳細説明を兼ねて、この分析装置100の動作の一例を説明する。以下では、サンプルガス中に1つの測定対象成分と1つの干渉成分とが含まれる場合を想定している。
【0047】
<リファレンス測定>
まず、光源制御部5が、半導体レーザ2を制御し、変調周波数で且つ測定対象成分の吸収スペクトルのピークを中心に、レーザ光の波長を変調する。なお、スパンガスを用いたリファレンス測定の前に、ゼロガスを用いたリファレンス測定を行い、リファレンス相関値の測定を行ってもよい。
【0048】
次に、オペレータにより又は自動的に、セル1内にスパンガス(成分濃度既知のガス)が導入されて、リファレンス測定が行われる。このリファレンス測定は、測定対象成分が単独で存在するスパンガスと、干渉成分が単独で存在するスパンガスとのそれぞれにおいて行われる。
【0049】
具体的には、リファレンス測定において、対数演算部61が光検出器3の出力信号を受信して対数強度L(t)を算出する。そして、相関値算出部62は、その対数強度L(t)と2つの特徴信号F(t)、F(t)との相関値を算出し、その相関値からリファレンス相関値を差し引いたものをスパンガスの濃度で割ることにより、単位濃度当たりの各スパンガスの相関値である単独相関値を算出する。なお、単独相関値を算出する代わりに、スパンガス濃度と当該スパンガスの相関値との関係を記憶させておいても良い。
【0050】
具体的には以下の通りである。
測定対象成分が単独で存在するスパンガスをセル1内に導入することにより、相関値算出部62により測定対象成分の相関値S1t、S2tを算出する。ここで、S1tは、第1の特徴信号との相関値であり、S2tは、第2の特徴信号との相関値である。そして、相関値算出部62は、それら相関値S1t、S2tからリファレンス相関値Rを差し引いたものを測定対象成分のスパンガス濃度cで割ることにより、単独相関値s1t、s2tを算出する。なお、測定対象成分のスパンガス濃度cは、予めユーザ等により信号処理部6に入力される。
【0051】
また、干渉成分が単独で存在するスパンガスをセル1内に導入することにより、相関値算出部62により干渉成分の相関値S1i、S2iを算出する。ここで、S1iは、第1の特徴信号との相関値であり、S2iは、第2の特徴信号との相関値である。そして、相関値算出部62は、それら相関値S1i、S2iからリファレンス相関値Rを差し引いたものを干渉成分のスパンガス濃度cで割ることにより、単独相関値s1i、s2iを算出する。なお、干渉成分のスパンガス濃度cは、予めユーザ等により信号処理部6に入力される。
【0052】
上記により算出された単独相関値s1t、s2t、s1i、s2iは、格納部63に格納される。なお、このリファレンス測定は、製品出荷前に行うようにしても良いし、定期的に行うようにしてもよい。
【0053】
<サンプル測定>
光源制御部5が、半導体レーザ2を制御し、変調周波数で且つ測定対象成分の吸収スペクトルのピークを中心に、レーザ光の波長を変調する。
【0054】
次に、オペレータにより又は自動的に、セル1内にサンプルガスが導入されて、サンプル測定が行われる。
【0055】
具体的には、サンプル測定において、対数演算部61が光検出器3の出力信号を受信して対数強度L(t)を算出する。そして、相関値算出部62は、その対数強度L(t)と複数の特徴信号F(t)、F(t)とのサンプル相関値S、Sを算出し、その相関値からリファレンス相関値Rを差し引いたサンプル相関値S’、S’を算出する。
【0056】
そして、濃度算出部64は、相関値算出部62が算出したサンプル相関値S’、S’と、格納部63の単独相関値s1t、s2t、s1i、s2iと、測定対象成分及び各干渉成分それぞれの濃度Ctar、Cintとからなる以下の二元連立方程式を解く。
【0057】
【数2】
【0058】
これにより、上式(数2)の連立方程式を解くという簡単かつ確実な演算により、干渉影響が取り除かれた測定対象成分の濃度Ctarを決定することができる。
【0059】
なお、干渉成分が2以上存在すると想定し得る場合でも、干渉成分の数だけ、単独相関値を追加して、成分種の数と同じ元数の連立方程式を解くことで、同様に干渉影響が取り除かれた測定対象成分の濃度を決定することができる。
【0060】
すなわち、一般に測定対象成分と干渉成分を合わせてn種のガスが存在する場合、m番目の特徴信号におけるk番目のガス種の単独相関値をsmk、k番目のガス種の濃度をC、m番目の特徴信号F(t)におけるサンプル相関値をS’とすると、以下の式(数3)が成り立つ。
【0061】
【数3】
【0062】
この式(数3)で表されるn元連立方程式を解くことで、測定対象成分及び干渉成分の各ガスの濃度を決定することができる。
【0063】
このように構成した本実施形態の分析装置100によれば、サンプル光の強度に関連する強度関連信号である対数強度L(t)と、当該対数強度L(t)に対して複数の特徴信号F(t)とのそれぞれの相関値Sを算出し、算出された複数の相関値Sを用いて測定対象成分の濃度を算出するので、吸収信号を吸収スペクトルへ変換することなく、吸収信号の特徴を少ない変数で捉えることができ、複雑なスペクトル演算処理をすることなく、測定対象成分の濃度を簡単な演算で測定できる。例えば一般的なスペクトルフィッティングで用いるデータ点数は数百点必要だが、本発明ではせいぜい数個から数十個程度の相関値を使えば同等の精度で濃度の算出が可能となる。その結果、演算処理の負荷を小さくすることができ、高度な演算処理装置が不要となり、分析装置100のコストを削減することができるとともに、小型化が可能となる。
【0064】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0065】
例えば、前記実施形態の対数演算部61は、光検出器3の光強度信号を対数演算するものであったが、光検出器3の光強度信号を用いて、サンプル光の強度とリファレンス光の強度との比の対数(いわゆる吸光度)を算出するものであってもよい。このとき、対数演算部61は、サンプル光の強度の対数を演算し、リファレンス光の強度の対数を演算した後にそれらを差し引くことで吸光度を算出しても良いし、サンプル光の強度とリファレンス光の強度との比を求めた後にその比の対数を取ることで吸光度を算出してもよい。
【0066】
また、前記実施形態の相関値算出部62は、強度関連信号と特徴信号との相関値を算出するものであったが、強度関連信号と特徴信号との内積値を算出するものであってもよい。
【0067】
また、前記実施形態では、格納部63はリファレンス相関値を用いて補正した単独相関値を格納するものであったが、格納部63に補正前の単独相関値を格納しておき、濃度算出部63が、補正前の単独相関値からリファレンス相関値を差し引いた上で、単位濃度当たりに換算する補正をした単独相関値を求める構成としても良い。
【0068】
複数の特徴信号は、前記実施形態に限られず、互いに異なる関数であれば良い。また、特徴信号として、例えば濃度既知のスパンガスを流して得られた光強度や対数強度又は吸光度の波形(サンプルスペクトル)を示す関数を用いてもよい。また、1つの測定対象成分の濃度を測定する場合には、特徴信号は少なくとも1つあれば良い。
【0069】
さらに、nより大きい種類の特徴信号を用いて、ガス種の数より大きい個数の単独相関値及びサンプル相関値を求めて、ガス種の数よりも大きい元数の連立方程式を作り、最小二乗法で、各成分濃度を決定してもよく、こうすることで、より測定ノイズに対しても誤差の小さい濃度決定が可能となる。
【0070】
ここで、測定対象成分と干渉成分を合わせてn種のガスについて各ガスの濃度を計算し、それら各ガスの濃度に所定の閾値以下の成分がある場合には、当該閾値以下成分を除くガスについて各ガスの濃度を再計算することが考えられる。
【0071】
具体的には、図6に示すように、第2算出部63は、上記の式(数3)で表されるn元連立方程式を解いて、n種それぞれの濃度を計算する(S1)。そして、信号処理部6に設けられた判断部によって、各ガスの濃度に所定の閾値以下の閾値以下成分があるか否かを判断する(S2)。閾値以下成分がj種類ある場合には、濃度算出部64は、当該閾値以下成分を除く(n−j)種類のガスについて上記の式(数3)と同様の考えた方に基づいて表される(n−j)元連立方程式各ガスの濃度を再計算する(S3)。これにより、存在するガス種について精度良くその濃度を計算することができる。これらの計算は、閾値以下成分が検出されなくなるまで又は所定回数、測定対象成分の濃度算出を繰り返す。
【0072】
また、閾値以下成分がないと判断された後の動作としては、例えば、算出された濃度に異常値があるか否かを判断する態様が挙げられる(S4)。S4において、異常値が含まれている場合は、濃度算出部64が1つ前に計算した濃度に戻り(S5)、その1つ前に計算した濃度に異常値があるか否かを判断する。異常値が含まれていない場合には、その異常値が含まれていない濃度を出力する(S6)。
【0073】
前記実施形態の光源制御部5は半導体レーザを連続波(CW)動作させるものであったが、図7に示すように、疑似連続波(疑似CW)動作させるものであってもよい。この場合、光源制御部5は、電流(又は電圧)制御信号を出力することによって各半導体レーザ2の電流源(又は電圧源)を制御して、電流源(又は電圧源)の駆動電流(駆動電圧)をパルス発振させるための所定のしきい値以上とする。具体的に光源制御部5は、所定の周期(例えば1〜5MHz)で繰り返される所定のパルス幅(例えば10〜50ns、Duty比5%)のパルス発振で疑似CW動作させるものである。そして、光源制御部5は、電流源(又は電圧源)の駆動電流(駆動電圧)を前記パルス発振用のしきい値未満である波長掃引用の値で、所定周波数で変化させることにより温度変化を発生させてレーザ光の発振波長の掃引を行うものである。駆動電流を変調させる変調信号としては、三角波状、鋸波状又は正弦波状で変化するとともに、その周波数は例えば1〜100Hzである。
【0074】
このように半導体レーザを疑似CW動作させて光検出器3により得られる光強度信号は、図8のようになる。このようにパルス列全体で吸収スペクトルを取得することができる。疑似CW動作はCW動作に比べて光源の消費電力が小さく排熱処理も容易となり、さらに光源の長寿命化もできる。
【0075】
また、分析装置100は、図9に示すように、セル1にレーザ光を照射する光源たる複数の半導体レーザ2を備えるものであってもよい。そして、この分析装置100において信号処理装置4は、図10に示すように、半導体レーザ2の出力を制御する光源制御部5、光検出器3により得られた光強度信号から半導体レーザ2毎の信号を分離する信号分離部7、及び、信号分離部6により分離された半導体レーザ2毎の信号を受信し、その値を演算処理して測定対象成分の濃度を算出する信号処理部6等としての機能を発揮する。
【0076】
光源制御部5は、複数の半導体レーザ2それぞれをパルス発振させるとともに、レーザ光の発振波長を所定の周波数で変調させるものである。また、光源制御部5は、複数の半導体レーザ2がそれぞれ異なる測定対象成分に対応した発振波長となるように制御するものであり、互いに同じ発振周期で且つそれらの発振タイミングが互いに異なるようにパルス発振する。
【0077】
具体的に光源制御部5は、電流(又は電圧)制御信号を出力することによって各半導体レーザ2の電流源(又は電圧源)を制御する。本実施形態の光源制御部5は、図7に示すように、各半導体レーザ2を、所定の周期(例えば0.5〜5MHz)で繰り返される所定のパルス幅(例えば10〜100ns、Duty比5%)のパルス発振で疑似CW動作させるものである。
【0078】
また、光源制御部5は、図7に示すように、電流源(又は電圧源)の駆動電流(駆動電圧)を所定周波数で変化させることにより温度変化を発生させてレーザ光の発振波長の掃引を行うものである。各半導体レーザにおけるレーザ光の発振波長は、図3に示すように、測定対象成分の光吸収スペクトルのピークを中心にして変調される。駆動電流を変化させる変調信号としては、三角波状、鋸波状又は正弦波状で変化するとともに、その周波数が例えば100Hz〜10kHzの信号である。なお、図7には、変調信号が三角波状で変化する例を示している。
【0079】
このように1つの半導体レーザ2を疑似CW動作させて光検出器3により得られる光強度信号は、図8のようになる。このようにパルス列全体で吸収信号を取得することができる。
【0080】
また、光源制御部5は、複数の半導体レーザ2を互いに異なるタイミングでパルス発振する。具体的には、図11に示すように、複数の半導体レーザ2が順次パルス発振し、1つの半導体レーザ2におけるパルス発振の1周期内にその他の半導体レーザ2それぞれの1パルスが含まれる。つまり、1つの半導体レーザ2の互いに隣り合うパルス内にその他の半導体レーザ2それぞれの1パルスが含まれる。このとき、複数の半導体レーザ2のパルスは、互いに重複しないように発振される。
【0081】
信号分離部7は、光検出器3により得られた光強度信号から、複数の半導体レーザ2それぞれの信号を分離するものである。本実施形態の信号分離部7は、図12に示すように、複数の半導体レーザ2それぞれに対応して設けられた複数のサンプルホールド回路71と当該サンプルホールド回路71により分離された光強度信号をデジタル変換するAD変換器72とを有している。なお、サンプルホールド回路71及びAD変換器72は、複数の半導体レーザ2に共通の1つのものとしても良い。
【0082】
サンプルホールド回路71は、対応する半導体レーザ2の電流(又は電圧)制御信号と同期されたサンプリング信号により、半導体レーザ2のパルス発振のタイミングと同期したタイミングで、光検出器3の光強度信号から、対応する半導体レーザ2の信号を分離して保持する。サンプルホールド回路71の一例を図13に示すが、これに限られない。ここで、サンプルホールド回路71は、半導体レーザ2のパルス発振の後半部分に対応する信号を分離して保持するように構成されている。具体的には、サンプルホールド回路71のスイッチSWの開閉タイミングが、半導体レーザ2のパルス発振のタイミングと同期してパルス発振の後半部分に対応する信号を保持する。また、サンプルホールド回路71は、図11に示すように、前記後半部分(例えば80〜90ns時点)における所定のサンプリングポイントで信号を分離する。この信号分離部7により分離された各半導体レーザ2の複数の信号を集めることにより1つの光吸収信号となり、1つの半導体レーザ2を疑似CW動作させた場合に得られる光吸収信号よりも波長分解能の良い光吸収信号を得ることができる。ここで、パルス内の吸収変化位置が変調信号により変化するので、パルス発振に対して同じタイミングで信号を採取することで、波形を再現できる。また、サンプルホールド回路71によりパルス発振の一部分に対応する信号を分離しているので、AD変換器72は処理速度の遅いものであってもよい。各半導体レーザ2毎に得られた複数の光吸収信号を時間平均して用いても良い。
【0083】
このように信号分離部7により分離された各半導体レーザ2の光吸収信号を用いて信号処理部6は、各半導体レーザ2に対応する測定対象成分の濃度を算出する。なお、信号処理部6による測定対象成分の濃度の算出は前記実施形態と同様である。
【0084】
また、サンプルガスは、排ガスのみならず大気などでもよいし、液体や固体でも構わない。その意味では、測定対象成分もガスのみならず液体や固体でも本発明を適用可能である。また、測定対象を貫通透過した光のみならず、反射した光による分析にも用いることができる。
【0085】
光源も、半導体レーザに関わらず、他のタイプのレーザでもよいし、測定精度を担保するに十分な線幅をもつ単波長光源であって、波長変調さえできるものなら、どのような光源を用いてもよい。また、光源を強度変調するものであっても良い。
【0086】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0087】
100・・・分析装置
1 ・・・セル
2 ・・・光源(半導体レーザ)
3 ・・・光検出器
61 ・・・対数演算部
62 ・・・相関値算出部
63 ・・・格納部
64 ・・・濃度算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13