(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、水性顔料分散体とは、顔料が水等の溶媒に分散した状態のものを指す。前記水性顔料分散体は、水性顔料インクを製造する際に使用する材料、または、水性顔料インクそのものを指す場合がある。
【0016】
前記水性顔料分散体としては、顔料濃度が10〜50質量%の範囲に調整されたものを使用することができる。前記水性顔料分散体に適宜、水または添加剤を添加し、顔料濃度0.1〜20質量%となるように希釈するのみで、インクを得ることができる。
【0017】
(キナクリドン系顔料を含む顔料)
本発明で使用する顔料は、キナクリドン系顔料を含有するものである。前記キナクリドン系顔料とともに、顔料誘導体等の分散助剤を組み合わせ含有する使用する場合、本発明で使用する顔料は、前記キナクリドン系顔料と前記分散助剤との合計を指す。
【0018】
前記キナクリドン系顔料としては、公知慣用のものがいずれも使用でき、具体例としては、C.I.ピグメントレッド122等のジメチルキナクリドン系顔料、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッドレッド209等のジクロロキナクリドン系顔料、C.I.ピグメントバイオレット19等の無置換キナクリドン、及びこれらの顔料から選ばれる少なくとも2種以上の顔料の混合物もしくは固溶体を挙げることができる。顔料の形態は粉末状、顆粒状あるいは塊状の乾燥顔料でもよく、ウェットケーキやスラリーでもよい。
【0019】
キナクリドン系顔料と組み合わせ使用可能な顔料誘導体からなる分散助剤としては、顔料の技術分野において通常使用されるキナクリドン系、アゾ系等の顔料誘導体を使用することができる。前記顔料誘導体は、前記顔料にジアルキルアミノメチル基、アリールアミドメチル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸基及びその塩、フタルイミド基などの顔料と親和性を有する官能基が導入された化合物であり、前記顔料の分散性を高める効果がある。
【0020】
前記分散助剤としては、キナクリドン系顔料誘導体を使用することが好ましい。キナクリドン系顔料誘導体としては、キナクリドン系顔料にジアルキルアミノメチル基、アリールアミドメチル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸基及びその塩、フタルイミド基等が導入された顔料誘導体があげられる。
【0021】
前記キナクリドン系顔料100質量部に対する前記分散助剤の含有量は1質量部以上であることが好ましく、2〜15質量部であることがより好ましい。前記分散助剤の含有量が上記の範囲であると、得られる水性顔料分散体やインクジェット記録用インク組成物の保存安定性が良好である。特にサーマルジェット方式のプリンターで印字した際のインク吐出状態が良好である。更に、凝集物の発生をより低減させるためには、分散助剤の含有量は10質量部以下とすることがなお好ましい。
【0022】
前記キナクリドン系顔料は、その一次粒子径が1μm以下のものからなる顔料が好ましく、10nm〜250nmであるものを使用することがより好ましく、50nm〜200nmであるものを使用することが最も好ましい。なお、上記一次粒子径の測定は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して測定した平均粒子径の値を採用することができる。
【0023】
前記キナクリドン系顔料は、前記顔料及び顔料誘導体等の分散助剤との合計量に対して5質量%以上使用することが好ましく、10質量%以上使用することがより好ましく、20質量%以上使用することがさらに好ましく、30質量%以上使用することが、より一層優れた分散性及び保存安定性を備え、発色性に優れた印刷物を形成可能な水性顔料分散体を得るうえで最も好ましい。
【0024】
前記キナクリドン系顔料は、ドライパウダー及びウェットケーキのいずれも用いることができる。また、これらの顔料は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また前記キナクリドン系顔料は、分散処理後に体積平均粒径が1μm以下が好ましく、より好ましくは10nm〜180nmであることがなお好ましく、40nm〜150nmであることが最も好ましい。また顔料は固溶体であってもよく、2種類以上の顔料を混合して使用してもよい。
【0026】
(ラジカル共重合体)
前記ラジカル共重合体としては、芳香族乾式構造または複素乾式構造と、アニオン性基とを有する酸価50〜120mgKOH/gのラジカル共重合体を使用する。
【0027】
前記ラジカル共重合体は、前記した顔料を水等の溶媒中に安定して分散させるために使用する。
【0028】
前記ラジカル共重合体としては、芳香族乾式構造または複素乾式構造を有するものを使用する。これにより、顔料表面への吸着効果を有するインクの製造可能な水性顔料分散体を得ることができる。
【0029】
また、前記ラジカル共重合体としては、アニオン性基を有するものを使用する。これにより、親水効果を有するインクの製造可能な水性顔料分散体を得ることができる。
【0030】
前記ラジカル共重合体としては、酸価が50〜120mgKOH/gのものを使用する。これにより、表面が疎水性の顔料を水中で安定して分散する効果を有するインクの製造可能な水性顔料分散体を得ることができる。前記酸価は、70〜120mgKOH/gの範囲内であることが好ましく、80〜120mgKOH/gの範囲内にあることがより好ましい。
【0031】
なお、酸価は、日本工業規格「K0070:1992. 化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に従って測定された数値であり、前記ラジカル共重合体1gを完全に中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg)である。
【0032】
前記ラジカル共重合体としては、芳香族環式構造または複素環式構造を有する単量体と、アニオン性基を有する単量体を重合することによって製造することができる。
【0033】
芳香族環式構造を有する単量体としては、例えばスチレン、p−tert−ブチルジメチルシロキシスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−tert−ブトキシスチレン、m−tert−ブトキシスチレン、p−tert−(1−エトキシメチル)スチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、p−フロロスチレン、α−メチルスチレン、p−メチル−α−メチルスチレン等のスチレン系単量体、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。
【0034】
複素環式構造を有する単量体としては、例えば2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等のビニルピリジン系単量体が挙げられる。
【0035】
前記芳香族環式構造または複素環式構造を有する単量体は、単独で使用しても2種以上を組み合わせ使用してもよい。
【0036】
前記芳香族環式構造または複素環式構造を有する単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン等のスチレン系単量体を用いることが、顔料表面への吸着効果を奏するうえで好ましく、スチレンを使用することがより好ましい。
【0037】
前記芳香族環式構造または複素環式構造を有する単量体は、前記ラジカル共重合体の製造に使用する単量体の全量に対して、60〜95質量%の範囲で使用することが好ましく、70〜90質量%の範囲で使用することが、水性顔料分散体の分散性及び保存安定性をより一層向上させることができ、また、普通紙に印刷した場合に画像濃度の高い印刷物を形成可能なインクを製造できるため、より好ましい。
【0038】
前記アニオン性基としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸基または燐酸基等が挙げられ、カルボキシル基が好ましい。
【0039】
前記カルボキシル基を有する単量体としては、例えばアクリル酸またはメタクリル酸を使用することができる。
【0040】
前記単量体としては、本発明の効果を損なわない範囲で、アニオン性基を有する単量体のほかに、必要に応じて、その他の単量体を併用することができる。
【0041】
前記その他の単量体としては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチルブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−メチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、3−エトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−エトキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル−α−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(メタ)アクリレート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、酢酸ビニル等を単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0042】
前記アニオン性基を有する単量体は、前記ラジカル共重合体の酸価を前記した範囲内とするうえで、5〜40質量%となる範囲で使用することが好ましく、10〜30質量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0043】
また、前記その他の単量体としては、架橋性を有する単量体を使用することができる。
【0044】
前記架橋性を有する単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングルコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(オキシエチレンオキシプロピレン)グリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンのアルキレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0045】
なお、前記ラジカル共重合体としては、前記顔料の表面への吸着がより強固となるため、前記芳香族環式構造または複素環式構造を有する単量体及び前記カルボキシル基を有する単量体以外の、その他の単量体の使用量は、20質量%以下が好ましく、10質量%が更に好ましく、1質量%以下が最も好ましい。
【0046】
前記ラジカル共重合体としては、線状(リニア)である重合体、分岐(グラフト)した構造を有する重合体、架橋した構造を有する重合体を使用することができる。前記ラジカル共重合体としては、ランダム型やブロック型の重合体を使用することができる。
【0047】
前記ラジカル共重合体は、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の方法で製造することができる。その際、必要に応じて公知慣用の重合開始剤、連鎖移動剤(重合度調整剤)、界面活性剤及び消泡剤を使用することができる。
【0048】
重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。前記重合開始剤は、前記ラジカル重合体の製造に使用する単量体の全量に対して0.1〜10質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0049】
なお、本発明では、前記ラジカル重合の際の各単量体のラジカル重合率(反応率)は、ほぼ同一とし、各単量体の使用割合(仕込み割合)が、ラジカル重合体を構成する各単量体由来の構造単位の割合と同一であるとみなした。
【0050】
前記ラジカル共重合体としては、具体的にはスチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体やスチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体を使用することが好ましく、スチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体を使用することが、より一層優れた分散安定性を備え、発色性に優れた印刷物を形成可能な水性顔料分散体を得るうえで特に好ましい。
【0051】
前記スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体としては、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−メタクリル酸共重合体のいずれも使用できるが、スチレン−アクリル酸−メタクリル酸共重合体を使用することが、前記単量体の共重合性が向上して、重合体の均一性が向上し、その結果、より微粒子化された、分散安定性に優れた顔料分散体が得られるため好ましい。
【0052】
前記スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体としては、その製造に使用する単量体の全量に対するスチレンとアクリル酸とメタクリル酸との合計量が80質量%以上であるものを使用することが好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上のものを使用することがさらに好ましい。
【0053】
また、前記スチレン−アクリル酸系重合体としては、リニア重合体、グラフト重合体のどちらも使用することができる。
【0054】
前記グラフト重合体としては、(メタ)アクリル酸および/またはスチレンとを含む単量体の共重合体が分岐鎖または主鎖を構成し、ポリスチレンやエポキシ、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイド鎖、ビスフェノール、長鎖アルキルなどの疎水性側鎖で構成するグラフト共重合体が挙げられる。スチレン−アクリル酸系重合体は、このグラフト重合体とリニア重合体の混合物であってもよい。
【0055】
前記方法で得られたラジカル共重合体としては、重量平均分子量が2000〜40000の範囲内であるものを使用することが好ましく、5000〜30000の範囲内にあるものを使用することがより好ましく、5000〜20000の範囲内のものを使用することがさらに好ましく、7000〜15000範囲内にあるものを使用することが、
前記範囲内の重量平均分子量を有するラジカル共重合体を使用することによって、水性顔料分散体の長期保存安定性に優れ、顔料の凝集などによる沈降が発生しにくい傾向となり、インクの吐出安定性に優れたインクの製造に使用可能な水性顔料分散体を得ることができる。
【0056】
ここで重量平均分子量とはGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0057】
本発明の水性顔料分散体としては、前記キナクリドン系顔料を含む顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率が0.001〜0.100の範囲であるものを使用する。これにより、普通紙に対する高発性及び顔料の分散性及び水性顔料分散体の保存安定性を向上させることができる。
【0058】
なお、前記キナクリドン系顔料を含む顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率の算出に際し使用する「キナクリドン系顔料を含む顔料」の質量は、前記分散助剤を使用する場合であればキナクリドン系顔料と分散助剤との合計質量を指す。また、前記キナクリドン系顔料以外の顔料を使用する場合であれば、前記質量はキナクリドン系顔料とその他の顔料との合計質量を指す。
【0059】
前記キナクリドン系顔料を含む顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率は、0.010〜0.100の範囲内であることが好ましく、0.040〜0.100の範囲内にあることが、普通紙に対する発色性に優れ、且つ分散性及び保存安定性に優れたインクの製造に使用可能な水性顔料分散体を得るうえで好ましい。
【0060】
本発明の水性顔料分散体は、前記キナクリドン系顔料を含む顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率が小さいため、前記ラジカル共重合体で分散された顔料は、水中で安定であるが刺激には弱い。
【0061】
そのため、前記水性顔料分散体を用いて得られたインクは、普通紙に着弾した際に受ける大きな外部刺激により、前記ラジカル共重合体で分散された顔料は急激に凝集すると推定される。凝集した顔料は普通紙の内部に浸透しにくくなり、普通紙の表面付近に固着されるので、発色性に優れた印刷物が得られるのではないかと推定される。
【0062】
なお、前記ラジカル共重合体を、本願の範囲を著しく越えて使用すると、顔料分散性は著しく悪化する傾向にある。この理由は明らかではないが、使用量が増しても、顔料に吸着する前記ラジカル共重合体量には限りがあるため、吸着されない余剰の前記ラジカル共重合体が増え、これが凝集等の要因になっていると推定している。
【0063】
(塩基性化合物)
本発明で使用する塩基性化合物は、前記ラジカル共重合体のアニオン性基を中和する目的で使用する。塩基性化合物としては公知のものを使用でき、例えばカリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属などの炭酸塩;水酸化アンモニウム等の無機系塩基性化合物や、トリエタノールアミン、N,N−ジメタノールアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N−N−ブチルジエタノールアミンなどのアミノアルコール類、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンなどのモルホリン類、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、ピペラジンヘキサハイドレートなどのピペラジン等の有機系塩基性化合物が挙げられる。なかでも、塩基性化合物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムに代表されるアルカリ金属水酸化物は、水性顔料分散体の低粘度化に寄与し、インクジェット記録用インクの吐出安定性の面から好ましく、特に水酸化カリウムが好ましい。
【0064】
これらを使用した前記アニオン性基の中和率は特に限定はないが、未中和状態のラジカル共重合体の凝集物の生成を抑えるために一般に80〜120%となる範囲で行うことが好ましい。なお本発明において、中和率とは以下の式で計算される。
【0065】
中和率(%)=[{塩基性化合物の質量(g)×56.11×1000}/{ラジカル重合体の酸価(mgKOH/g)×塩基性化合物の当量×ラジカル重合体の質量(g)}]×100
【0066】
本願においては、顔料分散時の水の量を考慮した方が好ましく、その場合、前記塩基性化合物は通常水溶液として配合することから、水の量は該塩基性化合物水溶液の水も考慮して決定する。
【0067】
(水溶性有機溶剤)
本発明で使用する水溶性有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素原子数が3〜6のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メトキシエタノール等の炭素原子数1〜5のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、およびこれらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシルの各エーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、トリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;スルホラン;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;グリセリン及びその誘導体、ポリオキシエチレンベンジルアルコールエーテル等を、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0068】
なかでも、前記水溶性有機溶剤としては、前記グリコール類やジオール類を使用することが好ましく、高沸点で低揮発性で高表面張力のグリコール類やジオール類を使用することが湿潤剤としてはたらくためより好ましく、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールを使用することが特に好ましい。
【0069】
(水)
本発明で使用する水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、紫外線照射、または過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより得られた水性顔料分散体やそれを使用したインク等は長期保存する場合にカビまたはバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0070】
前記水は、本発明の水性顔料分散体の全量に対して、60質量%〜80質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0071】
(水性顔料分散体の製造方法)
本発明の水性顔料分散体の製造方法は、キナクリドン系顔料を含む顔料、塩基性化合物、水溶性有機溶剤、及び前記ラジカル共重合体を含む混練物を水に分散させる工程を有する。
【0072】
前記混練物を得る工程は、特に限定されず公知の分散方法で行うことができる。例えば、ペイントシェーカー、ビーズミル、サンドミル、ボールミル等のメディアを使用するメディアミル分散法;超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、アルティマイザー等を使用したメディアレス分散法;ロールミル、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、インテンシブミキサー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー等の混練分散法等が挙げられる。このうち混練分散法は、顔料を含有する高固形分濃度の混合物に混練機で強い剪断力を与えることによって顔料粒子を微細化させる方法であり、顔料濃度の高い混練物を得ることができ、且つ粗大粒子の低減に有効な方法であり好ましい。前記混練分散法においては、水は、全固形分に対し50質量%以下で含むかあるいは水を含まないことが好ましい。
【0073】
前記混練分散法は、キナクリドン系顔料を含む顔料、塩基性化合物、水溶性有機溶剤、及び、前記ラジカル共重合体の混合物を混練する。このときの混合物の仕込み順序には特に限定はなく全量を同時に仕込んで混合を開始してもよいし、各々を少量ずつ仕込んでもよいし、例えばラジカル共重合体と塩基性化合物と顔料とを仕込んだのち水溶性有機溶剤を仕込む等、原料によって仕込み順を変えてもよい。各々の原料の仕込み量は前述の範囲で行うことができる。なお塩基性化合物は通常水溶液として配合することから、混練分散中の水の量は該塩基性化合物水溶液の水も考慮して決定することが好ましい。
【0074】
混練分散法のメリットである強い剪断力を混合物に与えるためには、該混合物の固形分比率が高い状態で混練するほうが好ましく、より高い剪断力を該混合物に加えることができる。固形分比率としては、20〜100質量%が好ましく、30〜90質量%がより好ましく、40〜80質量%が最も好ましい。20質量%未満では混合物の粘度が低下するため、混練が十分に行われず、顔料の解砕が不十分となるおそれがある。そして、固形分比率をこのように高めることによって混練中の混練物の粘度を適度に高く保ち、混練中の混練機から混練物にかかる負荷を大きくして、混練物中の顔料の粉砕と顔料のラジカル共重合体による被覆を同時に進行させることができる。
【0075】
混練時の温度は混練物に十分な剪断力が加わるように、使用するラジカル共重合体のガラス転移点等の温度特性を考慮して適宜調整を行うことができる。例えばラジカル共重合体がスチレン−アクリル酸系共重合体の場合、ガラス転移点より低く、かつ該ガラス転移点との温度差が50℃より小さい範囲で行うことが好ましい。このような温度範囲で混練を行うことにより、混練温度の上昇による共重合体の溶融に伴う混練物の粘度低下によって剪断力が不足することがない。
【0076】
混練工程に用いる混練装置としては、固形分比率の高い混合物に対して高い剪断力を発生させることのできるものであればよく、前述したような公知の混練装置の中から選択して用いることが可能であるが、二本ロール等の撹拌槽を有しない開放型の混練機を用いるよりは、撹拌槽と撹拌羽根を有し撹拌槽を密閉可能な混練装置を用いることが好ましい。このような装置としては、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサーなどが例示され、特にプラネタリーミキサーなどが好適である。本発明においては、好ましくは顔料濃度と顔料とラジカル共重合体からなる固形分濃度が高い状態で混練を行うため、混練物の混練状態に依存して混練物の粘度が広い範囲で変化するが、プラネタリーミキサーは二本ロール等と比較すると、広い範囲の粘度領域で混練処理が可能であり、更に水性媒体の添加及び減圧溜去も可能であるため、混練時の粘度及び負荷剪断力の調整が容易である。
【0077】
前記混合物を混練した混練物を水に分散させる工程においては、例えば撹拌槽と撹拌羽根を有し撹拌槽を密閉可能な混練装置を使用しておれば、混練後続いて水を添加することが可能である。ここで使用する水は、前記水単独で使用する他、前記水溶性有機溶剤を併用していてもよい。
【0078】
このようにして得た水性顔料分散体は、用途にもよるが、通常、顔料濃度が10〜50質量%となるように調整されたものであると、インク化しやすいため好ましい。具体的には、前記濃度の水性顔料分散体と、水や前記水以外の溶媒とを混合し、顔料濃度を0.1〜20質量%となるように希釈することによって、容易にインクを得ることができる。
【0079】
前記水性顔料分散体の製造方法としては、例えば前述のように撹拌槽を有する混練機で顔料混練物を製造した後、該撹拌槽に水性媒体を添加、混合し、必要に応じて撹拌して直接希釈することにより水性顔料分散体を製造できる。また、撹拌翼を備えた別の攪拌機で固体の顔料分散体と水を混合し、必要に応じて撹拌して水性顔料分散体を調製できる。
【0080】
前記水は、顔料混練物に対して必要量を一括混合してもよいが、連続的あるいは断続的に必要量を添加して混合した方が、希釈が効率的に行われ、より短時間で水性顔料分散体を作製することができる。
【0081】
また、得られた水性顔料分散体を、更に分散機により分散処理しても良い。分散機としては、ペイントシェーカー、ビーズミル、ロールミル、サンドミル、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミル、ジュースミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機、ニーダー、プラネタリーミキサーなどがあげられる。
【0082】
以上の方法で得られた水性顔料分散体に含まれる粒子の体積平均粒子径は、50nmから300nmであることが好ましく、100nmから200nmであることが優れた分散性および保存安定性を備え、発色性に優れた印刷物を形成するうえで最も好ましい。
【0083】
前記水性顔料分散体は、自動車や建材用の塗料分野や、オフセットインキ、グラビアインキ、フレキソインキ、シルクスクリーンインキ等の印刷インキ、あるいはインクジェット記録用インク等の製造に使用することができる。
【0084】
本発明の水性顔料分散体をインクジェット記録用インクに適用する場合、前記水性顔料分散体に、さらに水、水溶性有機溶剤等の水以外の溶媒、バインダーとしてアクリル系共重合体やポリウレタン系樹脂、必要に応じて乾燥抑止剤、浸透剤、界面活性剤等のその他の添加剤を添加することによってインクジェット記録用インクを得ることができる。前記インクの製造途中または製造後に、遠心分離あるいは濾過処理してもよい。
【0085】
前記乾燥抑止剤は、インクの乾燥防止を目的として使用することができる。乾燥抑止剤のインク中の含有量は3〜50質量%であることが好ましい。
【0086】
前記本発明で使用する乾燥抑止剤としては特に限定はないが、水との混和性がありインクジェットプリンターのヘッドの目詰まり防止効果が得られるものが好ましい。例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、分子量2000以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドンなどのラクタム類等が挙げられる。なかでもグリセリン、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、2−ピロリドンを含むことが安全性を有し、かつインク乾燥性、吐出性能に優れた効果が見られる。
【0087】
なお、該乾燥防止剤は、水性顔料分散体で使用する前述の水溶性有機溶剤と同じ化合物を使用することができる。従って水性顔料分散体に既に水溶性有機溶剤を使用している場合、乾燥防止剤としての役割を兼ねることできる。
【0088】
前記浸透剤は、記録媒体への浸透性改良や記録媒体上でのドット径調整を目的として添加する。
【0089】
浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;エチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのグリコールモノエーテルが挙げられる。インク中の浸透剤の含有量は0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0090】
前記界面活性剤は、表面張力等のインク特性を調整するために使用する。界面活性剤は特に限定されるものではなく、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0091】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩などを挙げることができる。
【0092】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーが好ましい。
【0093】
その他の界面活性剤としては、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
【0094】
これらの界面活性剤は、単独で用いることもでき、又2種類以上を混合して用いることもできる。界面活性剤を添加する場合は、その添加量はインクの全質量に対し、0.001〜2質量%の範囲が好ましく、0.001〜1.5質量%であることがより好ましく、0.01〜1質量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0095】
また、前記水性顔料分散体としては、必要に応じて防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を含有するものを使用することができる。
【0096】
(記録媒体)
インクジェット記録用水性インクの記録媒体としては特に限定はなく、複写機で一般的に使用されているコピー用紙(PPC紙)等の吸収性の記録媒体、インクの吸収層を有する記録媒体、インクの吸収性を有しない非吸水性の記録媒体、インクの吸水性の低い難吸収性の記録媒体などがありうる。
【0097】
吸収性の記録媒体の例としては、例えば普通紙、布帛、ダンボール、木材等があげられる。また吸収層を有する記録媒体の例としては、インクジェット専用紙等のインクジェット専用普通紙があげられ、この具体例としては、例えば、株式会社ピクトリコのピクトリコプロ・フォトペーパーやEPSON株式会社のプロフェッショナルフォトペーパー等が挙げられる。
【0098】
インクの吸収性を有しない非吸水性の記録媒体の例には、例えば食品用の包装材料に使用されているもの等を使用することができ、公知のプラスチックフィルムが使用できる。具体例としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ナイロン等のポリアミド系フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリ乳酸フィルム等が挙げられる。特にポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリアミド系フィルムが好ましく、さらにポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロンが好ましい。またバリア性を付与するためのポリ塩化ビニリデン等のコーティングをした上記フィルムでもよいし、必要に応じてアルミニウム等の金属、あるいはシリカやアルミナ等の金属酸化物の蒸着層を積層したフィルムを併用してもよい。
【0099】
前記プラスチックフィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、1軸もしくは2軸方向に延伸されたものでも良い。さらにフィルムの表面は、未処理であってもよいが、コロナ放電処理、オゾン処理、低温プラズマ処理、フレーム処理、グロー放電処理等、接着性を向上させるための各種処理を施したものが好ましい。
【0100】
前記プラスチックフィルムの膜厚は用途に応じて適宜変更されるが、例えば軟包装用途である場合は、柔軟性と耐久性、耐カール性を有しているものとして、膜厚が10μm〜100μmであることが好ましい。より好ましくは10μm〜30μmである。この具体例としては、東洋紡株式会社のパイレン(登録商標)などが挙げられる。
【0101】
インクの吸水性の低い難吸収性の記録媒体には、印刷本紙などのアート紙、コート紙、軽量コート紙、微塗工紙などが使用できる。これら難吸収性の記録媒体は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものであり、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。
【実施例】
【0102】
(ラジカル共重合体A)
ラジカル共重合体Aは、溶液重合で製造された粉体状(直径1mm以下)の共重合体であり、単量体組成比は、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸/ブチルアクリレート=92.80/7.00/0.10/0.10(質量比)であり、重量平均分子量8500、酸価51mgKOH/gである、ガラス転移点95℃。
【0103】
(ラジカル共重合体B)
ラジカル共重合体Bは、溶液重合で製造された粉体状(直径1mm以下)の共重合体であり、単量体組成比は、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸/ブチルアクリレート=88.40/0.10/11.40/0.10(質量比)であり、重量平均分子量8000、酸価72mgKOH/g、ガラス転移点101℃である。
【0104】
(ラジカル共重合体C)
ラジカル共重合体Cは、溶液重合で製造された粉体状(直径1mm以下)の共重合体であり、単量体組成比は、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸/ブチルアクリレート=85.40/0.10/14.40/0.10(質量比)であり、重量平均分子量11000、酸価88mgKOH/g、ガラス転移点112℃である。
【0105】
(ラジカル共重合体D)
ラジカル共重合体Dは、溶液重合で製造された粉体状(直径1mm以下)の共重合体であり、単量体組成比は、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸/ブチルアクリレート=83.00/7.35/9.55/0.10(質量比)であり、重量平均分子量11000、酸価117mgKOH/g、ガラス転移点121℃である。
【0106】
(ラジカル共重合体E)
ラジカル共重合体Eは、溶液重合で製造された粉体状(直径1mm以下)の共重合体であり、単量体組成比は、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=74.00/11.26/14.64/0.10(質量比)であり、重量平均分子量11000、酸価173mgKOH/g、ガラス転移点130℃である。
【0107】
(ラジカル共重合体F)
ラジカル共重合体Fは、溶液重合で製造された粉体状(直径1mm以下)の共重合体であり、単量体組成比は、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=56.00/19.09/24.81/0.10(質量比)であり、重量平均分子量6000、酸価173mgKOH/g、ガラス転移点129℃である。
【0108】
なお、本発明における重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。なお測定は以下の装置及び条件により実施した。
【0109】
送液ポンプ:LC−9A
システムコントローラー:SLC−6B
オートインジェクター:S1L−6B
検出器:RID−6A
以上島津製作所社製
データ処理ソフト:Sic480IIデータステーション(システムインスツルメンツ社製)。
カラム:GL−R400(ガードカラム)+GL−R440+GL−R450+GL−R400M(日立化成工業社製)
溶出溶媒:THF
溶出流量:2ml/min
カラム温度:35℃
【0110】
(実施例1 水性顔料分散体の製造方法)
ラジカル共重合体Aを5質量部、キナクリドン系顔料として「FASTOGEN Super Magenta RY(DIC社製)略称:RY」48.75質量部、キナクリドン系顔料誘導体としてフタルイミド化メチル付加物1.25質量部、プラネタリーミキサー(商品名:ケミカルミキサーACM04LVTJ−B 株式会社愛工舎製作所製)に仕込み、ジャケットを加温し、内容物温度が80℃に達した後、自転回転数:80回転/分、公転回転数:25回転/分で混合した。5分後、トリエチレングリコールを50質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を0.75質量部加えた。
【0111】
プラネタリーミキサーの電流値が最大電流値を示してから120分を経過した時点まで混練を継続し混練物を得た。尚、この時の顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率(R/P)は0.100である。
【0112】
得られた混練物80質量部をジャケットから取出し、1cm角状に切断した後、市販のジューサーミキサーに入れた。そこにイオン交換水80質量部を加え10分間ミキサーにかけて混合、希釈しイオン交換水に分散させた。
【0113】
さらにイオン交換水とトリエチレングリコールを加え、キナクリドン系顔料濃度14.5質量%、前記顔料に対するトリエチレングリコール濃度が100質量%の水性顔料分散体を得た。
【0114】
(インクジェット記録用水性インクの製造方法)
得られた水性顔料分散体を純水で顔料濃度12質量%に希釈し、該希釈液に対して以下を配合し、顔料濃度6質量%のインクジェット記録用水性インクを作製した。
水性顔料分散体の水希釈液:50質量部
2−ピロリジノン:8質量部
トリエチレングリコール:4質量部
トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル:8質量部
精製グリセリン:3質量部
サーフィノール440 (エアープロダクツ社製):0.5質量部
純水:26.5質量部
【0115】
(実施例2)
ラジカル共重合体Bを2.25質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を0.48質量部使用した以外は、実施例1と同様にして水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクを得た。前記顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率(R/P)は0.045であった。
【0116】
(実施例3)
ラジカル共重合体Bを5.00質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を1.06質量部使用した以外は、実施例1と同様にして水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクを得た。前記顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率(R/P)は0.100であった。
【0117】
(実施例4)
ラジカル共重合体Cを2.25質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を0.58質量部使用した以外は、実施例1と同様にして水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクを得た。前記顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率(R/P)は0.045であった。
【0118】
(実施例5)
ラジカル共重合体Cを2.5質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を0.65質量部使用した以外は、実施例1と同様にして水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクを得た。前記顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率(R/P)は0.050であった。
【0119】
(実施例6)
ラジカル共重合体Cを5.00質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を1.29質量部使用した以外は、実施例1と同様にして水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクを得た。前記顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率(R/P)は0.100であった。
【0120】
(
参考例
1)
ラジカル共重合体Dを5.00質量部、トリエチレングリコール45質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を1.72質量部使用した以外は、実施例1と同様にして水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクを得た。前記顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率(R/P)は0.100であった。
【0121】
(比較例1)
ラジカル共重合体Dを10.00質量部、トリエチレングリコールを45質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を3.44質量部使用した以外は、実施例1と同様にして水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクを得た。前記顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率(R/P)は0.200であった。
【0122】
(比較例2)
ラジカル共重合体Eを5.00質量部、トリエチレングリコールを35質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を2.54質量部使用した以外は、実施例1と同様にして水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクを得た。前記顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率(R/P)は0.100であった。
【0123】
(比較例3)
ラジカル共重合体Eを10.00質量部、トリエチレングリコールを35質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を5.09質量部使用した以外は、実施例1と同様にして水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクを得た。前記顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率(R/P)は0.200であった。
【0124】
(比較例4)
ラジカル共重合体Fを2.00質量部、トリエチレングリコールを30質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を1.62質量部使用した以外は、実施例1と同様にして水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクを得た。前記顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率(R/P)は0.040であった。
【0125】
(比較例5)
ラジカル共重合体Fを5.00質量部、トリエチレングリコールを30質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を4.04質量部使用した以外は、実施例1と同様にして水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクを得た。前記顔料に対する前記ラジカル共重合体の質量比率(R/P)は0.100であった。
【0126】
以上の実施例、比較例で作製した水性顔料分散体の評価を以下の方法を用いて行った。
【0127】
(水性顔料分散体の評価)
〔体積平均粒子径の測定方法〕
はじめに、実施例及び比較例で調製した水性顔料分散体を、イオン交換水で1000倍に希釈した。
【0128】
次に、希釈後の水性顔料分散体の約4mlをセルにいれ、マイクロトラック・ベル(株)社製ナノトラック粒度分布計「UPA150」を用い、25℃環境下で、レーザー光の散乱光を検出することにより、体積平均粒子径(MV)を測定した。
【0129】
前記体積平均粒子径を3回測定し平均値を算出した。平均値の一桁目を切り捨てた値を、体積平均粒子径の値(単位:nm)とした。
【0130】
〔粗大粒子数の測定方法〕
はじめに、実施例及び比較例で調製した水性顔料分散体を、イオン交換水で500〜1000倍に希釈した。
【0131】
次に、Particle Sizing Systems社製、個数カウント方式 粒度分布計(Accusizer 780 APS)を用い、前記希釈後の水性顔料分散体に含まれる直径0.5μm以上の粒子数を3回測定した。
【0132】
次に、前記測定値に、それぞれ希釈濃度を乗じることによって、粗大粒子数を算出した。次に、上記方法で算出した3つの粗大粒子数の平均値を算出し、その値を実施例及び比較例で調製した水性顔料分散体の粗大粒子数とした。
【0133】
(水性顔料分散体の保存安定性の評価方法)
水性顔料分散体をポリプロピレン容器に密封し、常温で4週間保存した後の体積平均粒子径の変化率を〔平均粒子径測定方法〕と同様の方法で測定した。水性顔料分散体の体積平均粒子径の変化率が10%以内であれば保存安定性は良好であると判断する。
【0134】
〔印刷濃度の測定方法〕
はじめに、製造後24時間以上静置したインクジェット記録用水性インクを、市販のインクジェットプリンターのカートリッジに充填し、リサイクル紙とインクジェット専用紙(IJ専用紙)とOHPフィルムに、画像濃度設定100%設定の印刷パターンを印刷した。
【0135】
次に、X−Rite社製の「eXact」で前記印刷パターンを測色し、印刷パターンのC*(彩度)、及び、C*をL*(明度)で除した値(C*/L*)を算出した。
【0136】
次に、日本分光社製「V‐660」を用いて、前記印刷前のOHPフィルムをブランクとして、前記印刷後のOHPフィルムの印刷面の波長570nmにおける吸光度(Abs.)を測定し、インク打ち込み量の指標とした。なお、波長570nmの吸光度の値が高いほどインク吐出量が多いことを示す。
【0137】
次に、前記値(C*/L*)と、吸光度(Abs.)と、評価値=[値(C*/L*)/吸光度(Abs.)]の式に基づき、実施例及び比較例で得たインクジェット記録用水性インクの評価値を算出し、その値に基づいて印刷濃度を評価した。
【0138】
なお、上記評価値は、単位インク吐出量あたりの印刷濃度を表し、評価値が高いほど色が濃く見える(高評価)ことを示す。
【0139】
水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクの評価結果を表1に示す。
【0140】
【表1】
【0141】
この結果、実施例1〜6の水性顔料分散体は、粗大粒子数が少なく、保存安定性が良好であることが明らかである。また本発明における水性顔料分散体を使用したインクジェット記録用インクは、リサイクル紙、インクジェット専用紙共に(C*/L*)を(Abs.)で除した単位インク吐出量あたりの印刷面濃度が高い値を示した。