特許第6886585号(P6886585)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6886585水性樹脂組成物、コーティング剤及び物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886585
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】水性樹脂組成物、コーティング剤及び物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20210603BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20210603BHJP
   C08L 33/26 20060101ALI20210603BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20210603BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20210603BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20210603BHJP
   A01G 9/14 20060101ALI20210603BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   C08L75/04
   C08L33/14
   C08L33/26
   C08K3/22
   C09D133/14
   C09D175/04
   A01G9/14 S
   B05D7/24 301C
   B05D7/24 302P
   B05D7/24 302T
   B05D7/24 303B
【請求項の数】13
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-127446(P2017-127446)
(22)【出願日】2017年6月29日
(65)【公開番号】特開2019-11394(P2019-11394A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2020年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】神成 広義
(72)【発明者】
【氏名】永浜 定
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/144951(WO,A1)
【文献】 特開2005−248091(JP,A)
【文献】 特開平02−169651(JP,A)
【文献】 特開2005−036177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 75/04
A01G 9/14
B05D 7/24
C08K 3/22
C08L 33/14
C08L 33/26
C09D 133/14
C09D 175/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される基を有するウレタン樹脂(A)と、下記一般式(1)で表される基を有する親水性アクリル重合体(B)と、金属酸化物微粒子(D)と、水性媒体(C)とを含み、前記ウレタン樹脂(A)が有する前記一般式(1)で表される基の含有率が5mmol/kg以上500mmol/kg以下であることを特徴とする水性樹脂組成物。
【化1】
[一般式(1)中、R1は、水素原子又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。
2は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。aは、1以上3以下の整数を表す。]
【請求項2】
前記金属酸化物微粒子(D)が、シリカ微粒子、酸化チタン微粒子、酸化アルミニウム微粒子及び酸化ジルコニウム微粒子よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属酸化物微粒子(D)が、2以上の金属酸化物微粒子が接合することにより一平面内でつながった構造を形成しているものである請求項1又は2記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
前記金属酸化物微粒子(D)の平均粒子径が、1nm以上500nm以下である請求項1〜3のいずれか1項記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
前記金属酸化物微粒子(D)の含有量が、前記アクリル樹脂(A)及び前記親水性アクリル重合体(B)の合計100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下である請求項1〜4のいずれか1項記載の水性樹脂組成物。
【請求項6】
前記親水性アクリル重合体(B)が、アミド基を有するアクリルモノマー(b1−1)
に由来する単位と、オキシエチレン基を有するアクリルモノマー(b1−2)に由来する単位と、前記一般式(1)で表される基を有するアクリルモノマー(b1−3)に由来する単位とを含むものである請求項1〜5のいずれか1項記載の水性樹脂組成物。
【請求項7】
前記アミド基を有するアクリルモノマー(b1−1)に由来する単位と前記オキシエチレン基を有するアクリルモノマー(b1−2)に由来する単位のモル比((b1−1)/(b1−2))が、99/1以上50/50以下である請求項6記載の水性樹脂組成物。
【請求項8】
前記親水性アクリル重合体(B)が有する前記一般式(1)で表される基の含有率が、
前記親水性アクリル重合体(B)中、5mmol/kg以上600mmol/kg以下である請求項1〜7のいずれか1項記載の水性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項記載の水性樹脂組成物を含むことを特徴とするコーティン
グ剤。
【請求項10】
農業用フィルムに用いられるものである請求項記載のコーティング剤。
【請求項11】
請求項又は10記載のコーティング剤から形成されることを特徴とする塗膜。
【請求項12】
請求項又は10記載のコーティング剤の塗膜を有することを特徴とする物品。
【請求項13】
請求項又は10記載のコーティング剤の塗膜を有することを特徴とする農業用フィ
ルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂組成物、コーティング剤及び該コーティング剤の塗膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング剤には、各種基材表面の劣化を防止可能な塗膜を形成できること、基材の表面に意匠性を付与できること等が求められる。屋外で使用される場合には、親水性や基材密着性を備え、さらに水汚れや油汚れ、洗浄剤等の薬品や酸性雨等の付着による親水性の低下がもたらす基材表面の劣化を防止可能であることが求められる。近年では、農業界、製造業界、建設業界、工業生産業界等の多種多様な分野において、優れた親水持続性を備えた塗膜を形成できるコーティング剤が求められており、鋼板をはじめとする金属基材、鏡を含むガラス基材、難付着性基材といわれるプラスチック基材の表面処理用途で需要が高まっている。
【0003】
特に、農業界では、塩化ビニル樹脂フィルムやポリオレフィン樹脂フィルム等の農業用フィルムにより内部の温度を維持しつつ日光の照射を確保して植物を栽培するハウス栽培、トンネル栽培等が行われており、こうした農業用フィルムには、防曇性等を付与することを目的として、表面コーティングが行われている。
【0004】
基材表面に用いられるコーティング剤の塗膜としては、合成樹脂バインダー及び無機質コロイドゾルを含む組成物から形成される下層塗膜上に、アルコキシシラン化合物を含む組成物から形成される防曇性塗膜が積層された塗膜が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、(メタ)アクリル酸系共重合体と親水性無機物及び水性樹脂を含む防曇塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−067645号公報
【特許文献2】特開2005−248091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、2に記載の塗膜では、基材との密着性や耐熱水性が十分でない場合があった。本発明が解決しようとする課題は、基材との密着性を維持したまま防曇性を向上することができ、さらに耐熱水性が向上した塗膜を形成可能な水性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、水性樹脂組成物に含まれるウレタン樹脂及び親水性アクリル重合体のいずれもが特定の加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有するものとし、さらに、水性樹脂組成物に金属酸化物微粒子を含有させることで、基材との密着性を維持したまま防曇性を高めることができ、さらに耐熱水性をも向上できることを見出して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される基を有するウレタン樹脂(A)と、下記一般式(1)で表される基を有する親水性アクリル重合体(B)と、金属酸化物微粒子(D)と、水性媒体(C)とを含むことを特徴とする水性樹脂組成物、前記水性樹脂組成物を含むことを特徴とするコーティング剤、前記コーティング剤から形成されることを特徴とする塗膜、前記コーティング剤の塗膜を有することを特徴とする物品及び前記コーティング剤の塗膜を有することを特徴とする農業用フィルムに関する。
【0009】
【化1】
[一般式(1)中、R1は、水素原子又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。R2は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。aは、1以上3以下の整数を表す。]
【発明の効果】
【0010】
本発明の水性樹脂組成物を用いることで、基材との密着性を維持したまま防曇性を高めることができ、さらに耐熱水性をも向上できる塗膜を提供可能である。
本発明のコーティング剤が適用可能な基材としては、例えば、亜鉛めっき鋼板やアルミニウム−亜鉛めっき鋼板、アルミ板、アルミ合金板、電磁鋼板、銅板、ステンレス鋼板等の金属基材;ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA樹脂)等の各種プラスチックやそのフィルム;ガラス;紙;木材などが挙げられる。また、本発明のコーティング剤は、これらの基材の表面の劣化を防止可能な親水持続性及び耐薬品性に優れた塗膜を形成できることから、農業用フィルム、アルミフィン、建築部材、家電製品、自動車外装材、ゴーグル、防曇フィルムシート、防曇ガラス、鏡、医療器具等の各種物品に用いることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水性樹脂組成物は、一般式(1)で表される基を有するウレタン樹脂(A)(以下、「ウレタン樹脂(A)」と称する場合がある。)と、一般式(1)で表される基を有する親水性アクリル重合体(B)(以下、「親水性アクリル重合体(B)」と称する場合がある。)と、金属酸化物微粒子(D)と、水性媒体(C)とを含有することを特徴とする。
【0012】
【化2】
[一般式(1)中、R1は、水素原子又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。R2は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。aは、1以上3以下の整数を表す。]
【0013】
前記R1又はR2で表される炭素原子数1以上4以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、メチル基、エチル基等の炭素原子数1以上2以下のアルキル基が好ましい。
【0014】
前記ウレタン樹脂(A)は、例えば、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(a1)(以下、「ウレタンプレポリマー(a1)」と称する場合がある。)と;少なくとも一つの活性水素と少なくとも一つの前記一般式(1)で表される基とを有する化合物(s1)(以下、「シラン化合物(s1)」と称する場合がある。)とを反応させて得ることができる。また、前記ウレタン樹脂(A)は、前記ウレタンプレポリマー(a1)又はイソシアネート基を有しないウレタンプレポリマー(a2)に、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基等の官能基を導入し、シランカップリング剤(s2)を反応させて得ることもできる。
【0015】
前記ウレタンプレポリマー(a1)としては、ポリオール(a1−1)とポリイソシアネート(a1−2)とを反応させて得られたものを用いることができる。
【0016】
前記ポリオール(a1−1)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等が挙げられる。これらの中でも、基材密着性に優れた塗膜を形成できることから、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールを含むことが好ましい。
基材密着性をよりいっそう向上する観点から、前記ポリオールの数平均分子量は500以上3,000以下であることが好ましい。
【0017】
前記ポリエーテルポリオールとしては、活性水素原子を2個以上有する化合物の1種又は2種以上を開始剤として、アルキレンオキシドを付加重合(開環重合)させたもの等が挙げられる。
【0018】
前記開始剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−プロパンジオ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の直鎖状ジオール;ネオペンチルグリコール等の分岐鎖状ジオール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ピロガロール等のトリオール;ソルビトール、蔗糖、アコニット糖等のポリオール;アコニット酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸等のトリカルボン酸;リン酸;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のポリアミン;トリイソプロパノールアミン;ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタル酸等のフェノール酸;1,2,3−プロパントリチオールなどが挙げられる。
【0019】
前記アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0020】
前記ポリエーテルポリオールとしては、前記開始剤にテトラヒドロフランを付加重合(開環重合)させたポリオキシテトラメチレングリコールを使用することが好ましい。
【0021】
前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子量ポリオール(例えば、分子量50以上300以下のポリオール)とポリカルボン酸とをエステル化反応して得られるポリエステルポリオール;ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステルポリオール;これらの共重合ポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0022】
前記低分子量ポリオールとしては、分子量が50以上300以下程度のポリオールを用いることができ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール等の炭素原子数2以上6以下の脂肪族ポリオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式構造含有ポリオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物及びそれらのアルキレンオキシド付加物等の芳香族構造含有ポリオールなどが挙げられる。
【0023】
前記ポリカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸;並びに前記脂肪族ポリカルボン酸及び芳香族ポリカルボン酸の無水物又はエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0024】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、炭酸エステルとポリオールとの反応物;ホスゲンとビスフェノールA等との反応物などが挙げられる。
【0025】
前記炭酸エステルとしては、例えば、メチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルカーボネート、ジエチルカーボネート、シクロカーボネート、ジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0026】
前記炭酸エステルと反応しうるポリオールとしては、例えば、上記低分子量ポリオールとして例示したポリオール;ポリエーテルポリオール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、ポリエステルポリオール(ポリヘキサメチレンアジペート等)等の高分子量ポリオール(重量平均分子量500以上5,000以下)などが挙げられる。
【0027】
前記ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、ポリイソブテンポリオール、水素添加(水添)ポリブタジエンポリオール、水素添加(水添)ポリイソプレンポリオール等が挙げられる。
【0028】
前記ポリオール(a1−1)に含まれるポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール及びポリオレフィンポリオールの合計の含有率は、前記ポリオール(a1−1)中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、好ましくは100質量%以下である。
【0029】
また、前記ポリオール(a1−1)としては、前記ウレタン樹脂(A)に良好な水分散安定性を付与する観点から、さらに、親水性基を有するポリオールを組み合わせて使用することが好ましい。
【0030】
前記親水性基を有するポリオールとしては、例えば、上記ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール及びポリオレフィンポリオール以外のポリオールを用いることができ、具体的には、アニオン性基を有するポリオール、カチオン性基を有するポリオール、及び、ノニオン性基を有するポリオールを使用することができる。これらの中でも、アニオン性基を有するポリオール又はカチオン性基を有するポリオールを使用することが好ましい。
【0031】
前記アニオン性基を有するポリオールとしては、例えば、カルボキシ基を有するポリオール及びスルホン酸基を有するポリオール等が挙げられる。
【0032】
前記カルボキシ基を有するポリオールとしては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸等のヒドロキシ酸;及び前記カルボキシ基を有するポリオールと前記ポリカルボン酸との反応物などが挙げられる。前記ヒドロキシ酸としては、2,2−ジメチロールプロピオン酸が好ましい。
【0033】
前記ポリオール(a1−1)にカルボキシ基を有するポリオールが含まれる場合、その含有量は、ポリオール(a1−1)の合計100質量部中、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0034】
前記スルホン酸基を有するポリオールとしては、例えば、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸、5−(4−スルホフェノキシ)イソフタル酸等のスルホン酸基を有するジカルボン酸;前記ジカルボン酸の塩と、前記芳香族構造含有ポリオールとを反応させて得られるポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0035】
前記カルボキシ基を有するポリオールやスルホン酸基を有するポリオールを使用する場合、前記ウレタン樹脂(A)の酸価は、好ましくは2mgKOH/g以上70mgKOH/g以下、より好ましくは10mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である。
本発明でいう酸価は、前記ウレタン樹脂(A)の製造に使用したカルボキシ基やスルホン酸基を有するポリオール等の酸基含有化合物の使用量に基づいて、前記ウレタン樹脂(A)1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数として算出した理論値である。
【0036】
良好な水分散性を発現する観点から、前記アニオン性基の一部又は全部は、塩基性化合物等によって中和されていることが好ましい。
【0037】
前記アニオン性基を中和する際に使用可能な塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を含む金属水酸化物などが挙げられる。ウレタン樹脂組成物の水分散安定性を向上させる観点から、前記塩基性化合物とアニオン性基とのモル比(塩基性基/アニオン性基)は、好ましくは0.5以上3.0以下、より好ましくは0.8以上2.0以下である。
【0038】
前記カチオン性基を有するポリオールとしては、N−メチル−ジエタノールアミン;1分子中にエポキシを2個有する化合物と2級アミンとを反応させて得られるポリオール等の3級アミノ基を有するポリオールなどが挙げられる。
【0039】
前記カチオン性基としての3級アミノ基は、その一部又は全部が、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等のカルボン酸;酒石酸等のヒドロキシ酸;リン酸などの酸性化合物で中和されていることが好ましい。
【0040】
前記カチオン性基としての3級アミノ基は、その一部又は全部が4級化されているものであることが好ましい。前記4級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、メチルクロリド、エチルクロリド等が挙げられる。これらの中でもジメチル硫酸を使用することが好ましい。
【0041】
前記カチオン性基を有するポリオールを用いる場合、前記ウレタン樹脂(A)のアミン価は、好ましくは2mgKOH/g以上50mgKOH/g以下、より好ましくは5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下である。なお本発明で言うアミン価は、前記ウレタン樹脂(A)の製造に使用した3級アミノ基を有するポリオール等の3級アミノ基含有化合物の使用量に基づいて、ウレタン樹脂(A)1gを中和するのに必要な塩化水素のモル数(mmol)及び水酸化カリウムの式量(56.1g/mol)の積として算出した理論値である。
【0042】
前記ノニオン性基を有するポリオールとしては、ポリオキシエチレン構造を有するポリオール等が挙げられる。
【0043】
前記親水性基を有するポリオールの含有率は、前記ポリオール(a1−1)の合計100質量%中、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0044】
前記ポリオール(a1−1)としては、上記ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール及び親水性基を有するポリオールの他に、必要に応じてその他のポリオールを使用してもよい。
【0045】
前記その他のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の比較的低分子量(例えば、分子量50以上300以下)のポリオールが挙げられる。
【0046】
前記ポリオール(a1−1)と反応しうるポリイソシアネート(a1−2)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、クルードジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリエンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環式構造含有ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0047】
前記イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(a1)は、例えば、無溶剤下又は有機溶剤の存在下で、前記ポリオール(a1−1)と前記ポリイソシアネート(a1−2)とを反応させることによって製造することができる。必要に応じて、さらに、後述する鎖伸長剤を付加する鎖伸長反応を行ってもよい。
【0048】
前記ポリオール(a1−1)が有する水酸基に対する、前記ポリイソシアネート(a1−2)が有するイソシアネート基の当量割合[イソシアネート基/水酸基]は、モル基準で、0.9以上3以下であることが好ましく、0.95以上2以下であることがより好ましい。
【0049】
前記ポリオール(a1−1)と前記ポリイソシアネート(a1−2)との反応温度は、通常50℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0050】
前記反応によって得られるウレタンプレポリマー(a1)のイソシアネート基当量は、耐久性に優れた塗膜を形成できることから、好ましくは3,500g/eq.以上100,000g/eq.以下、より好ましくは10,000g/eq.以上60,000g/eq.以下である。
【0051】
前記ウレタンプレポリマー(a1)を製造する際に使用可能な有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル溶剤;アセトニトリル等のニトリル溶剤;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶剤などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0052】
安全性や環境に対する負荷低減を図るため、前記ウレタン樹脂(A)の製造途中又は製造後に、減圧留去などによって前記有機溶剤の一部又は全部を除去してもよい。
【0053】
前記一般式(1)で表される基を有する化合物(s1)としては、例えば、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物;γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0054】
前記イソシアネート基を有しないウレタンプレポリマー(a2)としては、例えば、前記ポリオール(a1−1)が有する水酸基が、前記ポリイソシアネート(a1−2)が有するイソシアネート基の当量割合[イソシアネート基/水酸基]に対して過剰の設計で反応し、水酸基が残存したウレタンプレポリマーや、前記ウレタンプレポリマー(a1)と、鎖伸長剤を付加して得られるウレタンプレポリマー等が挙げられ、前記鎖伸長剤としては、ポリアミン、ヒドラジン化合物、その他活性水素原子含有化合物等を使用することができる。
【0055】
前記ポリアミンとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミン;N−ヒドロキシメチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシプロピルアミノプロピルアミン、N−エチルアミノエチルアミン、N−メチルアミノプロピルアミン;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。
【0056】
前記ヒドラジン化合物としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、ヒドラジン、N,N’−ジメチルヒドラジン、1,6−ヘキサメチレンビスヒドラジン;コハク酸ジヒドラジッド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド;β−セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド等が挙げられる。
【0057】
前記その他活性水素含有化合物としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のグリコール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等のフェノール、及び水等が挙げられ、本発明の水性樹脂組成物の保存安定性が低下しない範囲内で用いることもできる。
【0058】
前記シランカップリング剤(s2)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリクロロシラン等のイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物;γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物;γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基含有アルコキシシラン化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有アルコキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン等のスチリル基含有アルコキシシランなどが挙げられる。
【0059】
前記ウレタン樹脂(A)は、耐薬品性に優れた塗膜を形成できることから脂環式構造を有するものであることが好ましい。
【0060】
前記脂環式構造に含まれる環としては、例えば、シクロブチル環、シクロペンチル環、シクロヘキシル環、シクロヘプチル環、シクロオクチル環、プロピルシクロヘキシル環等の単環;トリシクロ[5.2.1.0.2.6]デシル環、ビシクロ[4.3.0]−ノニル環、トリシクロ[5.3.1.1]ドデシル環、プロピルトリシクロ[5.3.1.1]ドデシル環、ノルボルニル環、イソボルニル環、ジシクロペンタニル環、アダマンチル環等の架橋環などが挙げられる。これらの中でも、単環構造が好ましく、シクロヘキシル環構造が好ましい。
【0061】
前記脂環式構造は、ウレタンプレポリマー(a1)又はウレタンプレポリマー(a2)を形成する成分として、前記脂環式構造含有ポリオール及び/又は前記脂環式構造含有ポリイソシアネート(以下、脂環式構造含有ポリオール及び脂環式構造含有ポリイソシアネートを「脂環式構造含有化合物」と総称する場合がある。)を用いることで導入することができ、前記脂環式構造含有ポリイソシアネートを用いることで導入されたものであることが好ましい。
【0062】
前記脂環式構造の含有量は、耐薬品性に優れた塗膜を形成する観点から、前記ウレタン樹脂(A)全体中、好ましくは10mmol/kg以上6,000mmol/kg以下、より好ましくは10mmol/kg以上5,000mmol/kg以下、さらに好ましくは1,000mmol/kg以上3,000mmol/kg以下である。
本発明でいう脂環式構造の含有量は、前記ウレタン樹脂(A)の製造に使用するポリオール(a1−1)及びポリイソシアネート(a1−2)の合計質量と、前記ウレタン樹脂(A)の製造に使用する脂環式構造含有化合物が有する脂環式構造の物質量に基づいて算出した値である。
【0063】
前記ウレタン樹脂(A)が有する前記一般式(1)で表される基の含有率は、親水持続性、耐薬品性及び基材密着を向上する観点から、前記ウレタン樹脂(A)中、好ましくは5mmol/kg以上、より好ましくは10mmol/kg以上、さらに好ましくは50mmol/kg以上、よりいっそう好ましくは100mmol/kg以上であり、好ましくは500mmol/kg以下、より好ましくは300mmol/kg以下、さらに好ましくは200mmol/kg以下である。
【0064】
本発明の水性樹脂組成物において、ウレタン樹脂(A)の含有率は、水性樹脂組成物の不揮発分100質量%中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。
なお本明細書において、「水性樹脂組成物の不揮発分」とは、水性樹脂組成物の全量から水性媒体(C)の含有量を除いた量のことをいう。
【0065】
前記一般式(1)で表される基を有する親水性アクリル重合体(B)(以下、「親水性アクリル重合体(B)」という場合がある。)は、アミド基を有するアクリルモノマー(b1−1)(以下、「アクリルモノマー(b1−1)」と称する場合がある。)に由来する単位と、オキシエチレン基を有するアクリルモノマー(b1−2)(以下、「アクリルモノマー(b1−2)」と称する場合がある。)に由来する単位と、前記一般式(1)で表される基を有するアクリルモノマー(b1−3)(以下、「アクリルモノマー(b1−3)」と称する場合がある。)に由来する単位とを含むものであることが好ましい。
本明細書において、各モノマーに由来する単位とは、各モノマーが重合するにより形成する基を意味するものとする。
【0066】
前記親水性アクリル重合体(B)の「親水性」とは、水との間に親和性を示すことを意味するものであり、前記親水性アクリル重合体(B)の100gの水(20℃)への溶解度は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。
【0067】
前記アミド基を有するアクリルモノマー(b1−1)としては、下記一般式(2)で表される化合物を用いることができる。
【0068】
【化3】
【0069】
[一般式(2)中、R3は、水素原子又は炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表す。R4は、炭素原子数1以上3以下のアルキル基、−(CH23−N(CH32又は−(CH23−N(CH32の塩化メチル塩を表す。]
【0070】
前記一般式(2)で表される化合物としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの塩化メチル塩、N−イソプロピルアクリルアミド等が挙げられる。
【0071】
また、前記アミド基を有するアクリルモノマー(b1−1)としては、例えば、下記一般式(3)で表される化合物を用いることができる。
【0072】
【化4】
[一般式(3)中、R5及びR6は、互いに独立に、炭素原子数1以上3以下のアルキレン基を表す。]
【0073】
前記一般式(3)で表される化合物としては、例えば、N−アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0074】
前記オキシエチレン基を有するアクリルモノマー(b1−2)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール共重合(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール共重合(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコール共重合(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコール共重合(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0075】
前記一般式(1)で表される基を有するアクリルモノマー(b1−3)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有アルコキシシラン化合物;p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン等のスチリル基含有アルコキシシラン化合物;γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0076】
前記アクリルモノマー(b1−1)、(b1−2)及び(b1−3)に由来する単位の合計含有率は、前記親水性アクリル共重合体(B)100質量%中、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0077】
前記アミド基を有するアクリルモノマー(b1−1)に由来する単位とオキシエチレン基を有するアクリルモノマー(b1−2)に由来する単位との比率((b1−1)/(b1−2))は、親水性と親水持続性とを高いレベルで維持する観点から、モル基準で、好ましくは99/1以上50/50以下、より一層優れた親水持続性を得る観点から、より好ましくは90/10以上70/30以下である。
【0078】
前記一般式(1)で表される基を有するアクリルモノマー(b1−3)に由来する単位の含有量は、前記アミド基を有するアクリルモノマー(b1−1)に由来する単位及びオキシエチレン基を有するアクリルモノマー(b1−2)に由来する単位の合計100モルに対して、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.3モル以上、さらに好ましくは0.5モル以上であり、好ましくは20モル以下、より好ましくは15モル以下、さらに好ましくは10モル以下である。
【0079】
また、前記オキシエチレン基を有するアクリルモノマー(b1−2)におけるオキシエチレン基の平均付加モル数は、親水持続性の点から、好ましくは5以上13モル以下、より好ましくは8以上10モル以下である。
【0080】
前記親水性アクリル重合体(B)は、必要に応じて、前記アクリルモノマー(b1−1)、(b1−2)及び(b1−3)に由来する単位以外に、その他のアクリルモノマー(b1−4)に由来する単位を含んでいてもよい。
【0081】
前記その他のアクリルモノマーとしては、スルホン酸基を有するアクリルモノマー、カルボキシ基を有するアクリルモノマー、水酸基を有するアクリルモノマー、4級アンモニウム基を有するアクリルモノマー、アミノ基を有するアクリルモノマー、シアノ基を有するアクリルモノマー、イミド基を有するアクリルモノマー、メトキシ基を有するアクリルモノマー、その他のラジカル重合性モノマー等が挙げられる。
【0082】
前記スルホン酸基を有するアクリルモノマーとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、スルホプロピル(メタ)アクリレートナトリウム、2−スルホエチル(メタ)アクリレートナトリウム、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0083】
前記カルボキシ基を有するアクリルモノマーとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、(メタ)アクリル酸、プロピル(メタ)アクリル酸、イソプロピル(メタ)アクリル酸、クロトン酸、フマル酸等が挙げられる。
【0084】
前記水酸基を有するアクリルモノマーとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0085】
前記4級アンモニウム基を有するアクリルモノマーとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、テトラブチルアンモニウム(メタ)アクリレート、トリメチルベンジルアンモニウム(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0086】
前記アミノ基を有するアクリルモノマーとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−tert−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0087】
前記シアノ基を有するアクリルモノマーとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、(メタ)アクリロニトリル、シアノメチル(メタ)アクリレート、2−シアノエチル(メタ)アクリレート、シアノプロピル(メタ)アクリレート、1−シアノメチルエチル(メタ)アクリレート、2−シアノプロピル(メタ)アクリレート、1−シアノシクロプロピル(メタ)アクリレート、1−シアノシクロヘプチル(メタ)アクリレート、1、1−ジシアノエチル(メタ)アクリレート、2−シアノフェニル(メタ)アクリレート、3−シアノフェニル(メタ)アクリレート、4−シアノフェニル(メタ)アクリレート、3−シアノベンジル(メタ)アクリレート、4−シアノベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0088】
前記イミド基を有するアクリルモノマーとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、(メタ)アクリルイミド、N−メチロールマレイミド、N−ヒドロキシエチルマレイミド、N−グリシジルマレイミド、N−4−クロロメチルフェニルマレイミド、N−アセトキシエチルマレイミド等が挙げられる。
【0089】
前記メトキシ基を有するアクリルモノマーとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート)、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0090】
前記ラジカル重合性モノマーとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、3−メチルブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート等の脂肪族(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニル化合物などが挙げられる。
【0091】
前記親水性アクリル樹脂(B)が有する前記一般式(1)で表される基の含有量は、親水持続性及び基材密着性に優れた塗膜を形成する観点から、前記アクリル樹脂(B)中、好ましくは5mmol/kg以上、より好ましくは20mmol/kg以上、より好ましくは40mmol/kg以上、さらに好ましくは50mmol/kg以上であり、好ましくは1000mmol/kg以下、より好ましくは600mmol/kg以下、さらに好ましくは800mmol/kg以下、よりいっそう好ましくは700mmol/kg以下である。
【0092】
前記親水性アクリル重合体(B)の製造方法としては、公知のラジカル重合法を採用することができ、前記アクリルモノマー(b1−1)、(b1−2)及び(b1−3)を重合開始剤、反応溶剤の存在下で、必要に応じて用いる前記アクリルモノマー(b1−4)とともにラジカル重合する方法が挙げられる。
【0093】
前記重合開始剤としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過酸化物;ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、クメンハイドロペルオキシド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス−(2−アミノジプロパン)2塩酸塩、2,2’−アゾビス−(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)2塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル吉草酸ニトリル)等のアゾ化合物などが挙げられる。
前記重合開始剤の使用量は、親水性アクリル重合体(B)の原料である前記アクリルモノマー(b1−1)、(b1−2)及び(b1−3)並びに必要に応じて用いる前記アクリルモノマー(b1−4)の合計100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下であることが好ましい。
【0094】
前記反応溶剤としては、水及び/又は有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、メタノール、エタノール、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン、アセトン、シクロヘキサノン、3−ペンタノン、アセトニトリル、イソプロピルアルコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール等が挙げられる。前記有機溶剤の使用量は、例えば、前記アクリルモノマー(b1−1)、(b1−2)及び(b1−3)並びに必要に応じて用いる前記アクリルモノマー(b1−4)の合計100質量部に対して、10質量部以上500質量部以下であることが好ましい。
【0095】
反応温度は、40℃以上90℃以下であることが好ましく、反応時間は1時間以上10時間以下であることが好ましい。
【0096】
前記親水性アクリル重合体(B)の重量平均分子量は、前記ウレタン樹脂(A)との親和性の観点から、好ましくは10,000以上100,000以下、より好ましくは15,000以上50,000以下である。前記親水性アクリル重合体(B)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定して得られた値を示す。
【0097】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用する。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:以下の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成する。
【0098】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0099】
前記親水性アクリル重合体(B)の含有量は、前記ウレタン樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上であり、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下である。
【0100】
前記金属酸化物微粒子(D)は、金属酸化物の微粒子であり、本明細書において、前記金属には、ケイ素、ゲルマニウム、アンチモン等の半金属も含まれる。前記金属酸化物微粒子としては、シリカ微粒子、酸化チタン微粒子、酸化アルミニウム微粒子及び酸化ジルコニウム微粒子が好ましく、シリカ微粒子及び酸化アルミニウム微粒子がより好ましい。
【0101】
前記金属酸化物微粒子(D)の形状としては、球状、粒状又は塊状が好ましく、球状がより好ましい。
【0102】
前記金属酸化物微粒子(D)は、2以上の金属酸化物微粒子が独立して存在している構造(独立構造)を有するものであってもよく、2以上の金属酸化物微粒子が連なって結合した構造(集合構造)を形成しているものであってもよい。中でも、2以上の金属酸化物微粒子が連なって結合した構造(鎖状構造、パールネックレス構造等)を形成していることが好ましく、2以上の金属酸化物微粒子が接合することにより一平面内でつながった構造(パールネックレス構造)を形成しているものであることがより好ましい。前記構造としては、具体的には、鎖状構造又はパールネックレス構造が挙げられ、パールネックレス構造が好ましい。
2以上の金属酸化物微粒子が接合することにより一平面内につながった構造を形成しているものとしては、例えば、スノーテックス(登録商標)ST−UP、ST−PS−S、ST−PS−M、ST−OUP、ST−PS−SO、ST−PS−MO、ST−AK−PS−S(以上、日産化学工業株式会社製)に含まれる金属酸化物微粒子が挙げられる。
【0103】
前記金属酸化物微粒子の平均粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上であり、さらに好ましくは10nm以上であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下、よりいっそう好ましくは100nm以下、とりわけ好ましくは80nm以下、特に好ましくは50nm以下である。前記金属酸化物微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した50%メジアン径を意味するものとする。
【0104】
前記金属酸化物微粒子(D)は、直接水性樹脂組成物の調製に供してもよく、予め金属酸化物微粒子と水性媒体とを含む水性分散体としてから水性樹脂組成物の調製に供してもよい。前記水性媒体としては、後述する水性媒体(C)として例示する化合物と同様の化合物を用いることができる。
【0105】
水性樹脂組成物中における分散性を向上する観点から、前記金属酸化物微粒子(D)は、前記シランカップリング剤等により表面処理されていてもよく、前記水性分散体には、酸性化合物又は塩基性化合物が含まれていてもよい。特に、アクリルモノマー(b1−4)としてスルホン酸基を有するアクリルモノマー、カルボキシ基を有するアクリルモノマー、4級アンモニウム基を有するアクリルモノマー、アミノ基を有するアクリルモノマー等が含まれる場合、前記金属酸化物微粒子(D)又は前記水性分散体は、これらのモノマーに由来する酸性基(スルホン酸基、カルボキシ基等)又は塩基性基(4級アンモニウム基、アミノ基等)と同じ電荷を有する基(酸性基若しくは塩基性基)又は化合物(酸性化合物又は塩基性化合物)を含むものであることが好ましい。
【0106】
前記水性分散体に酸性化合物が含まれる場合、該水性分散体のpHは、好ましくは1以上6.5以下、より好ましくは2以上6以下である。前記水性分散体に塩基性化合物が含まれる場合、該水性分散体のpHは、好ましくは8以上12以下、より好ましくは9以上11以下である。
【0107】
前記水性分散体における金属酸化物微粒子の濃度は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0108】
前記金属酸化物微粒子(D)の含有量は、前記アクリル樹脂(A)及び前記親水性アクリル重合体(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上であり、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは25質量部以下、よりいっそう好ましくは20質量部以下である。
【0109】
前記水性媒体(C)としては、水、水と混和する有機溶剤及びこれらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等のアルコール溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;エチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル等のグリコールエーテル溶剤;N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン等のラクタム溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド溶剤などが挙げられ、アルコール溶剤が好ましい。
【0110】
前記水性媒体(C)は、安全性や環境に対する負荷低減を考慮すると、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみがより好ましい。水の含有率は、前記水性媒体(C)100質量%中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。
【0111】
前記水性媒体(C)の含有率は、水性樹脂組成物の全量100質量%中、好ましくは30質量%以上80質量%以下、より好ましくは50質量%以上70質量%以下である。
【0112】
本発明の水性樹脂組成物は、さらに架橋剤、界面活性剤、可塑剤、帯電防止剤、ワックス、光安定剤、流動調整剤、染料、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光触媒性化合物、無機顔料、有機顔料、体質顔料等の各種の添加剤等を含んでいてもよい。
【0113】
前記架橋剤を使用することで、水性樹脂組成物から形成される塗膜やフィルムの耐久性をより向上させることができる。前記架橋剤としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、アミノ樹脂、アジリジン化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物及びイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0114】
前記界面活性剤を使用することで、水性樹脂組成物の分散安定性をより一層向上できる。界面活性剤を使用する場合、得られる塗膜の基材密着性や耐水性を維持する観点から、その含有量は、前記ウレタン樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下である。
【0115】
本発明の水性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて硬化剤や硬化触媒を含んでいてもよい。
【0116】
前記硬化剤としては、例えば、前記シランカップリング剤(s2)として例示した化合物と同様の化合物(以下、「シランカップリング剤(s3)」という場合がある。)、ポリエポキシ化合物、ポリカルボジイミド化合物、ポリオキサゾリン化合物及びポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
耐久性、耐水性及び基材密着性に優れた塗膜を形成する観点から、前記硬化剤としては、前記シランカップリング剤(s3)が好ましい。本発明の水性樹脂組成物をコーティング剤として使用する場合、該化合物の式(1)で表される基が、基材との密着性を向上させ、その結果、耐久性に優れた塗膜を形成することができる。
【0117】
前記硬化剤として用いることができるシランカップリング剤(s3)としては、塗膜の架橋密度を向上し、耐久性、耐水性及び基材密着性を良好にする観点から、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物などが好ましく、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン及びβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0118】
前記硬化剤(好ましくはシランカップリング剤(s3))の含有率は、耐薬品性に優れた塗膜を形成し、かつ貯蔵安定性に優れた本発明の水性ウレタン樹脂組成物を得る観点から、ウレタン樹脂(A)の全量100質量%中、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0119】
前記硬化触媒としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸カリウム、ナトリウムメチラート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、オクチル酸錫、オクチル酸鉛、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ジ−n−ブチル錫ジアセテート、ジ−n−ブチル錫ジオクトエート、ジ−n−ブチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫マレエート、p−トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸、燐酸、モノアルキル燐酸、ジアルキル燐酸、モノアルキル亜燐酸、ジアルキル亜燐酸等を使用することができる。
【0120】
本発明の水性樹脂組成物は、必要に応じて乳化剤、分散安定剤やレベリング剤を含んでいても良いが、本発明の水性樹脂組成物を含むコーティング剤から形成される塗膜やフィルムの耐水性の低下を抑制する観点から、できるだけ含まないことが好ましく、前記水性樹脂組成物の不揮発分に対して0.5質量%以下であることが好ましい。
【0121】
本発明の水性樹脂組成物は、ウレタン樹脂(A)と、親水性アクリル重合体(B)と、金属酸化物微粒子(D)と、水性媒体(C)と、必要に応じて用いる各種の添加剤、硬化剤及び硬化触媒等とを混合することにより調製することができる。前記成分を混合後、減圧蒸留等により易揮発成分を除去してもよい。
【0122】
本発明の水性樹脂組成物は、各種基材の表面保護や、各種基材への意匠性付与を目的としたコーティング剤として使用することができる。
【0123】
前記基材としては、例えば、金属、各種プラスチックやそのフィルム、ガラス、紙、木材等が挙げられる。
【0124】
金属基材としては、例えば、自動車、家電、建材等の用途に使用される亜鉛めっき鋼板やアルミニウム−亜鉛めっき鋼板、アルミ板、アルミ合金板、りん酸クロメート処理されたアルミ板、電磁鋼板、銅板、ステンレス鋼板等が挙げられる。
【0125】
プラスチック基材としては、一般に、農業用フィルム、携帯電話、家電製品、自動車内外装材、OA機器等のプラスチック成型品に採用されている素材として、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ABS/PC樹脂、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA樹脂)、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA樹脂)等が挙げられ、プラスチックフィルム基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、TAC(トリアセチルセルロース)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等を使用することができる。
【0126】
本発明の水性樹脂組成物は、その膜厚が5μm以下、さらには1μm以下であっても、親水性や耐熱水性に優れる塗膜を形成することができる。
【0127】
本発明の水性樹脂組成物及び本発明の水性樹脂組成物を含むコーティング剤を基材上に塗工し、得られたコーティング剤層を乾燥、硬化することにより塗膜を形成することができる。このようにして得られた硬化塗膜を本発明のフィルムとすることができる。
【0128】
なお、前記乾燥工程において、水性樹脂組成物中の水性媒体が揮発した後、有機溶剤が揮発する。前記水性媒体の揮発後は、有機溶剤とウレタン樹脂と親水性アクリル重合体からなり、前記有機溶剤が前記ウレタン樹脂と親水性アクリル重合体の融着を促進させることで、塗膜欠陥のない良好な塗膜が形成される。
【0129】
前記塗工方法としては、例えばスプレー法、カーテンコーター法、フローコーター法、ロールコーター法、刷毛塗り法、浸漬法等が挙げられる。
【0130】
前記乾燥は、常温下で自然乾燥でも良いが、加熱乾燥させることもできる。加熱乾燥は、通常40℃以上250℃以下で、1秒以上600秒以下程度の時間で行うことが好ましい。
【0131】
なお、基材がプラスチック基材等のように熱によって変形しやすいものである場合には、プラスチック基材のガラス転移温度以下でコーティング剤層を乾燥(硬化)することが好ましく、例えば90℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下の乾燥温度で乾燥することが好ましい。
【0132】
本発明の水性樹脂組成物を含むコーティング剤から形成されるフィルムも本発明の技術的範囲に包含される。前記フィルムの膜厚は、好ましくは0.1μm以上10μm以下、より好ましくは0.3μm以上5μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上3μm以下である。
【0133】
本発明の水性樹脂組成物を用いたコーティング剤の硬化塗膜を有する物品としては、例えば、農業用フィルム、アルミフィン、建築部材、家電製品、自動車外装材、ゴーグル、防曇フィルムシート、防曇ガラス、鏡、医療器具等が挙げられる。
【0134】
本発明の水性樹脂組成物は、基材との密着性を維持したまま防曇性を高めることができ、さらに耐熱水性をも向上できる硬化塗膜を形成できることから、農業用フィルム、アルミフィン、建築部材、家電製品、自動車外装材、ゴーグル、防曇フィルムシート、防曇ガラス、鏡、医療器具等の各種物品に用いることが可能であり、特に、農業用フィルムに好適に用いられる。
【実施例】
【0135】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0136】
(調製例1:ウレタン樹脂(A−1)水分散体の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールを用いて得られるポリカーボネートポリオール(水酸基価56.1mgKOH/g)100質量部を仕込み、減圧度0.095MPaにて120〜130℃で脱水した。脱水後、70℃に冷却し、メチルエチルケトン50質量部を加え、50℃まで冷却しながら十分に撹拌混合した。撹拌混合後、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(4,4’−H−MDI)26質量部とオクチル酸第一錫0.1質量部とを加え、70℃で2時間反応させた。
【0137】
反応終了後、2,2−ジメチロールプロピオン酸を4質量部添加し、4時間反応させた後、55℃に冷却し、メチルエチルケトン36質量部を加え、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製「KBE−903」)4質量部を添加し1時間反応させ、末端イソシアネ−ト基を有するウレタンプレポリマー溶液を調製した。
【0138】
次いで、トリエチルアミンを3質量部添加して、40℃で10分保持した後、イオン交換水291質量部を添加することにより、水分散体を調製した。次いで、前記水分散体に20質量%エチレンジアミン水溶液2質量部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が30質量%であるウレタン樹脂(A−1)水分散体を得た。
【0139】
(調製例2:ウレタン樹脂(A−2)水分散体の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールを用いて得られるポリカーボネートポリオール(水酸基価56.1mgKOH/g)100質量部を仕込み、減圧度0.095MPaにて120〜130℃で脱水した。脱水後、70℃に冷却し、メチルエチルケトン47質量部を加え、50℃まで冷却しながら十分に撹拌混合した。撹拌混合後、ヘキサメチレンジイソシアネート16質量部とオクチル酸第一錫0.1質量部とを加え、70℃で2時間反応させた。
【0140】
反応終了後、2,2−ジメチロールプロピオン酸を4質量部添加し、4時間反応させた後、55℃に冷却し、メチルエチルケトン33質量部を加え、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製「KBE−903」)4質量部を添加し1時間反応させ、末端イソシアネ−ト基を有するウレタンプレポリマー溶液を調製した。
【0141】
次いで、トリエチルアミンを3質量部添加して、40℃で10分保持した後、イオン交換水271質量部を添加することにより、水分散体を調製した。次いで、前記水分散体に20質量%エチレンジアミン水溶液2質量部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が30質量%であるウレタン樹脂(A−2)水分散体を得た。
【0142】
(調製例3:ウレタン樹脂(A−3)水分散体の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールを用いて得られるポリカーボネートポリオール(水酸基価56.1mgKOH/g)100質量部を仕込み、減圧度0.095MPaにて120〜130℃で脱水した。脱水後、70℃に冷却し、メチルエチルケトン58質量部を加え、50℃まで冷却しながら十分に撹拌混合した。撹拌混合後、1,4−シクロヘキサンジメタノール5質量部、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(4,4’−H−MDI)39質量部とオクチル酸第一錫0.1質量部とを加え、70℃で2時間反応させた。
【0143】
反応終了後、2,2−ジメチロールプロピオン酸を5質量部添加し、4時間反応させた後、55℃に冷却し、メチルエチルケトン41質量部を加え、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製「KBE−903」)12質量部を添加し1時間反応させウレタン溶液を調製した。
【0144】
次いで、トリエチルアミンを4質量部添加して、40℃で10分保持した後、イオン交換水355質量部を添加することにより、水分散体を調製した。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が30質量%であるウレタン樹脂(A−3)水分散体を得た。
【0145】
(調製例4:ウレタン樹脂(A−4)水分散体の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールを用いて得られるポリカーボネートポリオール(水酸基価56.1mgKOH/g)100質量部を仕込み、減圧度0.095MPaにて120〜130℃で脱水した。脱水後、70℃に冷却し、メチルエチルケトン120質量部を加え、50℃まで冷却しながら十分に撹拌混合した。撹拌混合後、1,4−シクロヘキサンジメタノール45質量部、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(4,4’−H−MDI)150質量部とオクチル酸第一錫0.1質量部とを加え、70℃で2時間反応させた。
【0146】
反応終了後、2,2−ジメチロールプロピオン酸を14質量部添加し、4時間反応させた後、55℃に冷却し、メチルエチルケトン86質量部を加え、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製「KBE−903」)11質量部を添加し1時間反応させ、末端イソシアネ−ト基を有するウレタンプレポリマー溶液を調製した。
【0147】
次いで、トリエチルアミンを10質量部添加して、40℃で10分保持した後、イオン交換水690質量部を添加することにより、水分散体を調製した。次いで、前記水分散体に20質量%エチレンジアミン水溶液15質量部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が30質量%であるウレタン樹脂(A−4)水分散体を得た。
【0148】
(調製例5:ウレタン樹脂(A−5)水分散体の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールを用いて得られるポリカーボネートポリオール(水酸基価56.1mgKOH/g)100質量部を仕込み、減圧度0.095MPaにて120〜130℃で脱水した。脱水後、70℃に冷却し、メチルエチルケトン178質量部を加え、50℃まで冷却しながら十分に撹拌混合した。撹拌混合後、1,4−シクロヘキサンジメタノール84質量部、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(4,4’−H−MDI)252質量部とオクチル酸第一錫0.1質量部とを加え、70℃で2時間反応させた。
【0149】
反応終了後、2,2−ジメチロールプロピオン酸を20質量部添加し、4時間反応させた後、55℃に冷却し、メチルエチルケトン127質量部を加え、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製「KBE−903」)18質量部を添加し1時間反応させ、末端イソシアネ−ト基を有するウレタンプレポリマー溶液を調製した。
【0150】
次いで、トリエチルアミンを15質量部添加して、40℃で10分保持した後、イオン交換水1,025質量部を添加することにより、水分散体を調製した。次いで、前記水分散体に20質量%エチレンジアミン水溶液26質量部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が30質量%であるウレタン樹脂(A−5)水分散体を得た。
【0151】
(調製例6:ウレタン樹脂(A−6)水分散体の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールを用いて得られるポリカーボネートポリオール(水酸基価56.1mgKOH/g)100質量部を仕込み、減圧度0.095MPaにて120〜130℃で脱水した。脱水後、70℃に冷却し、メチルエチルケトン50質量部を加え、50℃まで冷却しながら十分に撹拌混合した。撹拌混合後、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(4,4’−H−MDI)25質量部とオクチル酸第一錫0.1質量部とを加え、70℃で2時間反応させた。
【0152】
反応終了後、2,2−ジメチロールプロピオン酸を4質量部添加し、4時間反応させた後、55℃に冷却し、メチルエチルケトン36質量部を加え、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製「KBE−903」)0.2質量部を添加し1時間反応させ、末端イソシアネ−ト基を有するウレタンプレポリマー溶液を調製した。
【0153】
次いで、トリエチルアミンを3質量部添加して、40℃で10分保持した後、イオン交換水278質量部を添加することにより、水分散体を調製した。次いで、前記水分散体に20質量%エチレンジアミン水溶液3質量部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が30質量%であるウレタン樹脂(A−6)水分散体を得た。
【0154】
(比較調製例1:ウレタン樹脂(A’−1)水分散体の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールを用いて得られるポリカーボネートポリオール(水酸基価56.1mgKOH/g)100質量部を仕込み、減圧度0.095MPaにて120〜130℃で脱水した。脱水後、70℃に冷却し、メチルエチルケトン50質量部を加え、50℃まで冷却しながら十分に撹拌混合した。撹拌混合後、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(4,4’−H−MDI)25質量部とオクチル酸第一錫0.1質量部とを加え、70℃で2時間反応させた。
【0155】
反応終了後、2,2−ジメチロールプロピオン酸を4質量部添加し、4時間反応させ、末端イソシアネ−ト基を有するウレタンプレポリマー溶液を調製した。
【0156】
次いで、トリエチルアミンを3質量部添加して、40℃で10分保持した後、イオン交換水278質量部を添加することにより、水分散体を調製した。次いで、前記水分散体に20質量%エチレンジアミン水溶液3質量部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が30質量%であるウレタン樹脂(A’−1)水分散体を得た。
【0157】
調製例1〜6及び比較調製例1で得られたウレタン樹脂水分散体の不揮発分当たりの脂環式構造の割合及び一般式(1)で表される基の含有量を表1に示す。
【0158】
【表1】
【0159】
(調製例7:親水性アクリル重合体(B−1)の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール30質量部を仕込み、その後、N,N−ジメチルアクリルアミド/メトキシポリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製「AM−90G」、オキシエチレン基の平均付加モル数が9モル)=85/15(モル比率)の混合物100質量部および、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン2質量部をイソプロピルアルコール51質量部で希釈した溶液と、0.5質量%イソプロピルアルコール溶液(和光純薬工業株式会社製アゾ系重合開始剤「V−59」)20質量部を、80℃の反応装置内に4時間滴下し、ラジカル重合を行い、親水性アクリル重合体(B−1)の溶液(不揮発分50質量%)を得た。得られた親水性アクリル重合体(B−1)の重量平均分子量は20,000であった。
【0160】
(調製例8:親水性アクリル重合体(B−2)の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール30質量部を仕込み、その後、N,N−ジメチルアクリルアミド/メトキシポリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製「AM−90G」、オキシエチレン基の平均付加モル数が9モル)=45/55(モル比率)の混合物100質量部および、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン2質量部をイソプロピルアルコール51質量部で希釈した溶液と、0.5質量%イソプロピルアルコール溶液(和光純薬工業株式会社製アゾ系重合開始剤「V−59」)20質量部を、80℃の反応装置内に4時間滴下し、ラジカル重合を行い、親水性アクリル重合体(B−2)の溶液(不揮発分50質量%)を得た。得られた親水性アクリル重合体(B−2)の重量平均分子量は20,000であった。
【0161】
(調製例9:親水性アクリル重合体(B−3)の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール30質量部を仕込み、その後、N,N−ジメチルアクリルアミド/メトキシポリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製「AM−90G」、オキシエチレン基の平均付加モル数が9モル)=85/15(モル比率)の混合物100質量部および、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン25質量部をイソプロピルアルコール63質量部で希釈した溶液と、0.5質量%イソプロピルアルコール溶液(和光純薬工業株式会社製アゾ系重合開始剤「V−59」)20質量部を、80℃の反応装置内に4時間滴下し、ラジカル重合を行い、親水性アクリル重合体(B−3)の溶液(不揮発分50質量%)を得た。得られた親水性アクリル重合体(B−3)の重量平均分子量は20,000であった。
【0162】
(調製例10:親水性アクリル重合体(B−4)の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール30質量部を仕込み、その後、N,N−ジメチルアクリルアミド/メトキシポリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製「AM−90G」、オキシエチレン基の平均付加モル数が9モル)=85/15(モル比率)の混合物100質量部および、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン17質量部をイソプロピルアルコール59質量部で希釈した溶液と、0.5質量%イソプロピルアルコール溶液(和光純薬工業株式会社製アゾ系重合開始剤「V−59」)20質量部を、80℃の反応装置内に4時間滴下し、ラジカル重合を行い、親水性アクリル重合体(B−4)の溶液(不揮発分50質量%)を得た。得られた親水性アクリル重合体(B−4)の重量平均分子量は20,000であった。
【0163】
(調製例11:親水性アクリル重合体(B−5)の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール30質量部を仕込み、その後、N,N−ジメチルアクリルアミド/メトキシポリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製「AM−90G」、オキシエチレン基の平均付加モル数が9モル)=95/5(モル比率)の混合物100質量部および、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン2質量部をイソプロピルアルコール51質量部で希釈した溶液と、0.5質量%イソプロピルアルコール溶液(和光純薬工業株式会社製アゾ系重合開始剤「V−59」)20質量部を、80℃の反応装置内に4時間滴下し、ラジカル重合を行い、親水性アクリル重合体(B−5)の溶液(不揮発分50質量%)を得た。得られた親水性アクリル重合体(B−5)の重量平均分子量は20,000であった。
【0164】
(比較調製例2:親水性アクリル重合体(B’−1)の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール30質量部を仕込み、その後、N,N−ジメチルアクリルアミド/メトキシポリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製「AM−90G」、オキシエチレン基の平均付加モル数が9モル)=85/15(モル比率)の混合物100質量部をイソプロピルアルコール50質量部で希釈した溶液と、和光純薬工業株式会社製アゾ系重合開始剤「V−59」の0.5質量%イソプロピルアルコール溶液20質量部を、80℃の反応装置内に4時間滴下し、ラジカル重合を行い、親水性アクリル重合体(B’−1)の溶液(不揮発分50質量%)を得た。得られた親水性アクリル重合体(B’−1)の重量平均分子量は20,000であった。
【0165】
調製例7〜11及び比較調製例2で用いたアクリルモノマー(b1−1)及びアクリルモノマー(b1−2)のモル比((b1−1)/(b1−2))並びに調製例7〜11及び比較調製例2で得られた親水性アクリル重合体の式(1)で表される基の含有量を表2に示す。
【0166】
【表2】
【0167】
表2中の略語について説明する。
「DMAA」;N,N−ジメチルアクリルアミド
「AM−90G」;メトキシポリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製「AM−90G」)
【0168】
(実施例1〜13、比較例1〜3:水性樹脂組成物(1)〜(13)、(C1)〜(C3)の調製)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、以下の表に示す量のウレタン樹脂(A)の水分散体(それぞれ不揮発分30質量%)、親水性アクリル重合体(B)の溶液(それぞれ不揮発分50質量%)及び金属酸化物微粒子(D)の水性分散体と、1,2−プロピレングリコール30質量部と、1,3−ブチレングリコール30質量部と、イオン交換水30質量部とを加えて水分散体を得た。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が30質量%である水性樹脂組成物(1)〜(13)、(C1)〜(C3)を得た。
【0169】
【表3】
【0170】
表3において、金属酸化物微粒子(D−1)〜(D−3)の水性分散体における金属酸化物微粒子の種類、構造、割合及び以下の方法で測定した平均粒子径は、以下の通りである。
【0171】
[金属酸化物微粒子の平均粒子径の測定方法]
金属酸化物微粒子の水性分散体を水で希釈し、濃度0.1質量%の希釈分散体とした後、この希釈分散体を用い、粒子径測定装置(日機装株式会社製「ナノトラックUPA−Ex150」:動的光散乱法により算出)にて測定し、50%メジアン径を平均粒子径とした。
なお金属酸化物微粒子(D−1)の水性分散体の粒子径分布には2つのピークが存在しており、括弧内の数値は、各ピークの最頻値を表す。
【0172】
【表4】
【0173】
[基材密着性の評価方法]
実施例及び比較例で得た水性樹脂組成物を、下記に示すそれぞれの基材上にバーコーターを使用して乾燥後の膜厚が約1μmになるように塗工し、金属基材では雰囲気温度200℃の乾燥機に30秒間入れて乾燥し、プラスチック基材では60℃で5分間乾燥して塗膜を作製した。その後、室温で3日間養生して試片とした。得られた塗膜の表面に、JIS K−5400に準じて、1mm角100個の碁盤目のセロテープ(登録商標)剥離試験を実施した。剥離しない碁盤目数を計測し下記の評価基準に従って評価した。なお、使用した金属基材は、りん酸クロメート処理されたアルミ板(AL板)であり、使用したプラスチック基材は、二軸延伸したポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)からなる基材、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)からなる基材、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA樹脂)からなる基材、である。
A:剥離しない碁盤目数が90以上であった。
B:剥離しない碁盤目数が60以上90未満であった
C:剥離しない碁盤目数が40以上60未満であった。
D:剥離しない碁盤目数が40未満であった。
【0174】
[防曇性の評価方法]
実施例及び比較例で得た水性樹脂組成物を、二軸延伸したポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)からなる基材上にバーコーターを使用して乾燥後の膜厚が約1μmになるように塗工し、60℃で5分間乾燥して塗膜を作製した。その後、室温で3日間養生して試片とした。次に、90℃の水の水面3cmの位置に、得られた試片の塗膜面が下を向くように設置し、10秒経過後の塗膜面の状態から防曇性を下記の評価基準に従って評価した。
A:塗膜の表面は全く曇っていなかった。
B:塗膜の表面の一質量部に僅かな曇りが見られたが、実用上問題ないレベルであった。
C:塗膜の表面が全体的に曇るが、試片を水面上から外すと10秒未満で透明に戻る。
D:塗膜の表面が全体的に曇り、試片を水面上から外しても曇りが消えるまで10秒以上かかる。
【0175】
[耐熱水性の評価方法]
実施例及び比較例で得た水性樹脂組成物を、二軸延伸したポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)からなる基材上にバーコーターを使用して乾燥後の膜厚が約1μmになるように塗工し、60℃で5分間乾燥して塗膜を作製した。その後、室温で3日間養生して試片とした。次に、60℃の水に8時間浸漬し、室温で1日乾燥した後の水接触角を下記の評価基準に従って評価した。
A:塗膜の水接触角が20°未満であった。
B:塗膜の水接触角が20°以上30°未満であった。
C:塗膜の水接触角が30°以上40°未満であった。
D:塗膜の水接触角が40°以上であった。
【0176】
[耐ブロッキング性の評価方法]
実施例及び比較例で得た水性樹脂組成物を、りん酸クロメート処理されたアルミ板(AL板)からなる基材上にバーコーターを使用して乾燥後の膜厚が約1μmになるように塗工し、200℃で30秒間乾燥して塗膜を作製した。その後、室温で3日間養生して試片とした。次に、得られた試片の塗膜面を重ね合わせ、100kg/cm2(10MPa)の圧力を加えつつ所定の温度で5分間保持した。室温に冷却後、試片が貼り合わされていない耐ブロッキング温度を下記の評価基準に従って評価した。
A:塗膜の耐ブロッキング温度が60℃以上であった。
B:塗膜の耐ブロッキング温度が50℃以上60℃未満であった。
C:塗膜の耐ブロッキング温度が40℃以上50℃未満であった。
D:塗膜の耐ブロッキング温度が40℃未満であった。
【0177】
実施例1〜13、比較例1〜3で調製した水性樹脂組成物(1)〜(13)、(C1)〜(C3)におけるウレタン樹脂(A)水分散体、親水性アクリル重合体(B)溶液及び金属酸化物微粒子(D)水性分散体の不揮発分量、並びに、水性樹脂組成物(1)〜(13)、(C1)〜(C3)の評価結果を表5に示す。
【0178】
【表5】
【0179】
前記一般式(1)で表される基を有するウレタン樹脂(A)と、前記一般式(1)で表される基を有する親水性アクリル重合体(B)と、金属酸化物微粒子(D)と、水性媒体(C)とを含む実施例1〜13の水性樹脂組成物を用いた場合は、基材との密着性を維持したまま防曇性を向上することができ、さらに耐熱水性と耐ブロッキング性が向上した塗膜を形成可能であることが確認された。
【0180】
比較例1の水性樹脂組成物は、金属酸化物微粒子(D)含まない水性樹脂組成物を用いた例であり、耐熱水性、耐ブロッキング性に劣ることが確認された。
【0181】
比較例2の水性樹脂組成物は、前記一般式(1)で表される基を有しない親水性アクリル重合体(B)を含む水性樹脂組成物を用いた例であり、基材密着性、防曇性、耐熱水性に劣ることが確認された。
【0182】
比較例3の水性樹脂組成物は、前記一般式(1)で表される基を有しないウレタン樹脂(A)を含む水性樹脂組成物を用いた例であり、基材密着性、防曇性、耐熱水性に劣ることが確認された。