(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)100質量部に対して、集束剤で表面処理された無機充填剤(2)1〜100質量部を配合してなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
前記集束剤が
少なくとも、ポリエーテル樹脂(γ1)、ウレタン樹脂(γ2)およびシランカップリング剤(γ3)を含む集束剤(γ)であり、かつ、ポリエーテル樹脂(γ1)およびウレタン樹脂(γ2)からなる群から選ばれる少なくとも1つの樹脂は、繰り返し単位中に炭素原子数が3〜5のオキシアルキレン基を有すること、かつ、前記炭素原子数が3〜5のオキシアルキレン基がポリオキシテトラメチレングリコール由来であること、を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)および集束剤で表面処理された無機充填剤(2)に対して、さらに、シランカップリング剤(3)を、ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)100質量部に対して0.01〜5質量部の範囲で含む請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)100質量部に対して、集束剤で表面処理された無機充填剤(2)1〜100質量部を配合して溶融混練するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
前記集束剤が
少なくとも、ポリエーテル樹脂(γ1)、ウレタン樹脂(γ2)およびシランカップリング剤(γ3)を含む集束剤(γ)であり、かつ、ポリエーテル樹脂(γ1)およびウレタン樹脂(γ2)からなる群から選ばれる少なくとも1つの樹脂は、繰り返し単位中に炭素原子数が3〜5のオキシアルキレン基を有すること、かつ、前記炭素原子数が3〜5のオキシアルキレン基がポリオキシテトラメチレングリコール由来であること、を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)および集束剤で表面処理された無機充填剤(2)に対して、さらに、シランカップリング剤(3)を、ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)100質量部に対して0.01〜5質量部の範囲で配合して溶融混練する請求項5または6記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
・ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)を必須成分として含有する。本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)
【0017】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0018】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001〜3モル%の範囲が好ましく、特に0.01〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0019】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR
1及びR
2は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0020】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(4)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0021】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、前記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)〜(8)
【0022】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記一般式(5)〜(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂中に、上記一般式(5)〜(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0023】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0024】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0025】
(融点(Tm)と再結晶化温度(Tc2))
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の融点(Tm)は、耐熱性や機械的強度に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、270℃以上の範囲であることが好ましく、さらに270〜300℃の範囲であることがより好ましい。また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の再結晶化温度(Tc2)は、耐熱性や機械的強度に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、200〜260℃の範囲であることが好ましい。
【0026】
(溶融粘度)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂は、300℃で測定した溶融粘度(V6)が2〜1000〔Pa・s〕の範囲であることが好ましく、さらに流動性および機械的強度のバランスが良好となることから10〜500〔Pa・s〕の範囲がより好ましく、特に60〜200〔Pa・s〕の範囲であることが特に好ましい。但し、本発明において、溶融粘度(V6)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT−500Dを用い、300℃、荷重:1.96×10
6Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に溶融粘度を測定した値とする。
【0027】
(非ニュートン指数)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の非ニュートン指数は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、0.90〜2.00の範囲であることが好ましい。リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が0.90〜1.50の範囲であることが好ましく、さらに0.95〜1.20の範囲であることがより好ましい。このようなポリアリーレンスルフィド樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて300℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度及び剪断応力を測定し、下記式を用いて算出した値である。
【0028】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒
−1)、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)、そしてKは定数を示す。]N値は1に近いほどPPSは線状に近い構造であり、N値が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0029】
(製造方法)
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、例えば1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、3)p−クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02〜0.5モルの範囲にコントロールすることによりポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法(特開平07−228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01〜0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0030】
重合工程により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、(2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともポリアリーレンスルフィドに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィドや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法、(4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過および乾燥する方法、等が挙げられる。
【0031】
尚、上記(1)〜(5)に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0032】
・集束剤で表面処理された無機充填剤(2)
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)と、集束剤で表面処理された無機充填剤(2)を必須成分として配合する。これら無機充填剤(2)としては本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられ、このうち、機械的強度と耐湿熱性により優れることから繊維状のものが好ましく、優れた機械的強度と高い靭性を同時に発現することから、好ましくは1〜50μmの範囲、より好ましくは6〜15μmの範囲の繊維径を有する繊維状充填剤であることがより好ましい。
【0033】
無機充填剤(2)として、具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0034】
無機充填剤(2)がガラス繊維である場合、例えば、含アルカリガラス、低アルカリガラス、無アルカリガラス(Eガラス)等を原料にして得られたものを使用することができるが、特に、経時劣化も少なく機械的特性が安定している無アルカリガラスを使用することが好ましい。
【0035】
また、無機充填剤(2)が炭素繊維である場合、例えば、ポリアクリロニトリル系、ピッチ系等の炭素繊維を使用することができるが、優れた強度を付与する観点から、ポリアクリロニトリル系の炭素繊維を使用することが好ましい。
【0036】
・集束剤
本発明に用いる前記集束剤としては
少なくとも、アルコキシポリオキシアルキレン構造を有するウレタン変性エポキシ樹脂(α1)およびスルホン酸塩基を有するウレタン樹脂(α2)を含む集束剤(α)、
少なくとも、(メタ)アクリル酸エステル(β1a)と(無水)マレイン酸(β1m)との重合性単量体混合物を、(メタ)アクリル酸エステル(β1a)と(無水)マレイン酸(β1m)との質量比〔(β1a)/(β1m)〕が7/3〜3/7の範囲でラジカル共重合して得られる質量平均分子量が5000〜150000の範囲の共重合体(β1)を含む集束剤(β)、および、
少なくとも、ポリエーテル樹脂(γ1)、ウレタン樹脂(γ2)およびシランカップリング剤(γ3)を含む集束剤(γ)
からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0037】
・集束剤(α)
本発明に用いる無機充填剤(2)は、アルコキシポリオキシアルキレン構造を有するウレタン変性エポキシ樹脂(α1)およびスルホン酸塩基を有するウレタン樹脂(α2)を含有する集束剤(α)により表面処理されたものであってよい。該無機充填剤(2)を用いることにより得られるポリアリーレンスルフィド樹脂成形品は、マトリックス樹脂であるポリアリーレンスルフィドとの界面密着性に優れるため、機械的強度および耐湿熱性に優れる。
【0038】
前記アルコキシポリオキシアルキレン構造を有するウレタン変性エポキシ樹脂(α1)について説明する。前記ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)は、アルコキシポリオキシアルキレン構造を有するが、アルコキシポリオキシアルキレン構造とは、ポリオキシアルキレン鎖の片末端がアルコキシ基で封鎖された構造である。
【0039】
前記ポリオキシアルキレン鎖としては、例えば、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、ポリオキシブチレン鎖等が挙げられ、これらがブロック状又はランダム状に配置されたものも含まれる。
【0040】
前記ポリオキシアルキレン鎖の末端を封鎖するアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0041】
前記アルコキシポリオキシアルキレン構造は、水分散性がより向上することから、その構造中に、オキシエチレン単位による構造を40質量%以上有するものであることが好ましい。
【0042】
また、前記アルコキシポリオキシアルキレン構造は、水分散性がより向上することから、300〜7,000の数平均分子量を有するものであることが好ましい
【0043】
前記アルコキシポリオキシアルキレン構造は、水分散性がより向上することから、前記エポキシ樹脂(α1)中に、好ましくは3質量%以上、より好ましくは10質量%以上から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下の範囲で存在する。
【0044】
前記ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)は、例えば、無溶剤下または有機溶剤の存在下で、エポキシ基と水酸基とを有する化合物(α1−1)、ポリイソシアネート(α1−2)、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル(α1−3)、必要に応じて、前記化合物(α1−1)以外のポリオール(α1−4)及び鎖伸長剤(α1−5)を、従来知られた方法で反応させることによって製造することができる。具体的には、安全性を考慮し、50℃以上120℃以下の反応温度で、1時間以上15時間以下の範囲で反応させることが好ましい。
【0045】
前記エポキシ基と水酸基とを有する化合物(α1−1)としては、例えば、水酸基を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂や、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エチルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ブチルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、オクチルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシンノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールADノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールSノボラック型エポキシ樹脂等の有するエポキシ基の一部が、カルボン酸等と反応することによって開環し、水酸基を形成したものを使用することができる。
【0046】
前記化合物(α1−1)としては、得られる成形品の機械的強度がより向上することから、水酸基を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂、水酸基を有するクレゾールノボラック型エポキシ樹脂または水酸基を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0047】
前記化合物(α1−1)としては、エポキシ当量が、好ましくは100g/当量以上、好ましくは2,000g/当量以下、より好ましくは500g/当量以下であるものを使用することがより好ましい。
【0048】
前記化合物(α1−1)の有する水酸基は、繊維の集束性、得られる成形品の機械的強度をより向上できることから、前記ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)が有するエポキシ基の全量に対して、好ましくは5モル%以上から、好ましくは150モル%以下、より好ましくは130モル%以下、さらに好ましくは120モル%以下の範囲である。
【0049】
前記エポキシ樹脂の有するエポキシ基の一部とカルボン酸との反応は、反応容器内で前記エポキシ樹脂と前記カルボン酸とを混合し、40℃以上90℃以下で、5時間以上15時間以下の範囲で撹拌することで行うことができる。
【0050】
前記ポリイソシアネート(α1−2)としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、クルードジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族環式構造を有するポリイソシアネート、それらのヌレート体や、トリメチロールプロパン等とのアダクト体などを使用することができる。これらの中でも、ジイソシアネートを使用することが好ましい。
【0051】
前記ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル(α1−3)は、下記一般式(b1)で示されるものである。
【0052】
【化5】
式(b1)中、R
1はアルキル基を表し、R
2はアルキレン基を表し、nは1以上の整数を表す。
【0053】
前記ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル(α1−3)としては、保存安定性がより向上することから、上記一般式(b1)中のR
1がメチル基やエチル基やプロピル基やブチル基であるものが好ましく、メチル基であるものがより好ましい。
【0054】
また、上記一般式(b1)中のR
2は保存安定性及び繊維集束性がより向上することから、エチレン基やプロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0055】
上記一般式(b1)中のnは、保存安定性、繊維集束性、得られる成形品の強度がより向上することから、5〜150の整数が好ましく、5〜100の整数がより好ましい。
【0056】
また、前記ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル(α1−3)としては、保存安定性がより向上することから、水酸基価が、好ましくは10以上、より好ましくは15以上から、好ましくは200以下の範囲である。
【0057】
前記ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル(α1−3)としては、保存安定性及び繊維集束性がより向上することから、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテルを使用することがより好ましく、ポリオキシエチレンモノメチルエーテルを使用することが特に好ましい。
【0058】
前記ポリオール(α1−4)としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、アクリル共重合体に水酸基を導入したアクリルポリオール、分子内に水酸基を有するブタジエンの共重合体であるポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、エチレン−酢酸ビニル共重合体の部分鹸化物などを使用することができる。
【0059】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、活性水素原子を2以上有する化合物の1種または2種以上を開始剤として、アルキレンオキサイドを付加重合させたものを使用することができる。
【0060】
また、前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、炭酸エステルとポリオールとを反応させて得られるものや、ホスゲンとビスフェノールA等とを反応させて得られるものを使用することができる。
【0061】
また、前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子量のポリオールとポリカルボン酸とをエステル化反応して得られるポリエステルポリオールや、ε−カプロラクトンやγ−ブチロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステルや、これらの共重合ポリエステルなどを使用することができる。
【0062】
前記ポリエーテルポリオール、前記ポリカーボネートポリオール、前記脂肪族ポリエステルポリオールとしては、数平均分子量が、好ましくは300以上、より好ましくは500以上から、好ましくは4,000以下、より好ましくは2,000以下の範囲のものを使用する。
【0063】
前記鎖伸長剤(α1−5)としては、ポリアミンや、その他活性水素原子を有する化合物等を使用することができる。
【0064】
前記ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミン類;N−ヒドロキシメチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシプロピルアミノプロピルアミン、N−エチルアミノエチルアミン、N−メチルアミノプロピルアミン;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン;ヒドラジン、N,N’−ジメチルヒドラジン、1,6−ヘキサメチレンビスヒドラジン;コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド;β−セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド、3−セミカルバジドプロピルカルバジン酸エステル、セミカルバジド−3−セミカルバジドメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサンを使用することができる。
【0065】
前記その他活性水素を有する化合物としては、例えば、トリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、サッカロース、メチレングリコール、ソルビトール等のグリコール化合物;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等のフェノール化合物、及び水等を使用することができる。
【0066】
前記鎖伸長剤(α1−5)は、例えば、ポリアミンが有するアミノ基と過剰のイソシアネート基との当量比が、1.9以下(当量比)となる範囲で使用することが好ましく、0.3以上1.0以下(当量比)の範囲で使用することがより好ましい。
【0067】
前記ウレタン化反応は、無触媒下で行うこともできるが、公知の触媒、例えば、オクチル酸第一錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ジフタレート、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ジアセチルアセテート、ジブチル錫ジバーサテート等の錫化合物、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、トリエタノールアミンチタネート等のチタネート化合物、その他、3級アミン化合物、4級アンモニウム塩等を使用してもよい。
【0068】
前記ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)の有するエポキシ基は、前記ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)のエポキシ当量が250g/当量以上から、2,000g/当量以下までの範囲で存在することが、集束性が向上し、かつ、より高強度の成形品が得られることから好ましい。
【0069】
前記スルホン酸塩基を有するウレタン樹脂(α2)について説明する。前記ウレタン樹脂(α2)は、スルホン酸塩基を有するが、水分散時の安定性がより向上することから、前記ウレタン樹脂(α2)中のスルホン酸塩基の濃度は、好ましくは0.02mmol/g以上、より好ましくは0.05mmol/g以上から、好ましくは1mmol/g以下、より好ましくは0.7mmol/g以下の範囲である。
【0070】
また、前記ウレタン樹脂(α2)中のカルボキシル基の濃度は0.05mmol/g以下であることが好ましいが、エポキシ基の保存安定性がより向上することから、0.02mmol/g以下であることが好ましく、0.01mmol/g以下であることがより好ましい。
【0071】
前記ウレタン樹脂(α2)としては、得られる成形品の機械的強度や保存安定性がより向上することから、質量平均分子量が、好ましくは8,000以上、より好ましくは10,000以上から、好ましくは300,000以下、より好ましくは200,000以下の範囲である。
【0072】
前記ウレタン樹脂(α2)としては、得られる成形品の機械的強度がより向上することから、ガラス転移温度が、好ましくは−80℃以上から、好ましくは60℃以下、より好ましくは10℃以下の範囲のものである。
【0073】
前記ウレタン樹脂(α2)は、スルホン酸塩基を有するものであればよいが、例えば、無溶剤下または有機溶剤の存在下で、スルホン酸塩基を有するポリオール(α2−1)と、ポリイソシアネート(α2−2)と、必要に応じて、鎖伸長剤(α2−3)と、前記ポリオール(α2−1)以外のポリオール(α2−4)とを、従来知られた方法で反応させることによって製造することができる。具体的には、安全性を考慮し、50℃以上、120℃以下の範囲の反応温度で、1時間以上15時間以下の範囲で反応させることが好ましい。
【0074】
前記スルホン酸塩基を有するポリオール(α2−1)としては、例えば、ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)の製造に使用可能なポリオール(α1−4)として記載したポリオールにスルホン酸塩基を導入したものを使用することができるが、これらの中でも、前記ウレタン樹脂(α2)の耐熱分解性が良好になることから、スルホン酸塩基を有するポリエステルポリオール(α2−1−1)が好ましい。
【0075】
前記ポリエステルポリオール(α2−1−1)の有するスルホン酸塩基は、原料として、例えば、スルホン酸塩基を有するポリオール、スルホン酸塩基を有するポリカルボン酸及びそのエステル化物等のスルホン酸塩基を有する化合物を使用することによって、前記ポリエステルポリオール(α2−1−1)中に導入することができる。
【0076】
前記ポリエステルポリオール(α2−1−1)の原料として使用されるスルホン酸塩基を有するポリオールとしては、例えば、2−ブテン−1,4−ジオール等の不飽和基を有するポリオールをスルホン化することによって得られるものを使用することができる。
【0077】
前記ポリエステルポリオール(α2−1−1)の原料として使用されるその他のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族環式構造を有するジオール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の水酸基を3以上有するポリオールなどを使用することができる。これらのポリオールは、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0078】
前記ポリエステルポリオール(α2−1−1)の原料として使用されるスルホン酸塩基を有するポリカルボン酸及びそのエステル化物としては、例えば、4−スルホイソフタル酸、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸、及びこれらのエステル化物等の金属塩などが挙げられる。これらの中でも、ポリエステルポリオール(α2−1−1)を製造する際の反応効率が向上することから、5−ナトリウムスルホイソフタル酸のエステル化物を使用することが好ましく、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを使用することがより好ましい。
【0079】
前記ポリエステルポリオール(α2−1−1)の原料として使用されるその他のポリカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、水添ダイマー酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸等の飽和又は不飽和の脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸及びその無水物、テトラヒドロフタル酸及びその無水物等の脂肪族環式構造を有するジカルボン酸などを使用することができる。これらの中でも、耐熱性がより向上することから、芳香族ジカルボン酸(無水物)を使用することが好ましく、テレフタル酸又はイソフタル酸を使用することがより好ましい。
【0080】
また、前記ポリカルボン酸としては、前記したものの他に、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等の3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸を使用することもできる。これらのポリカルボン酸は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0081】
また、前記ポリエステルポリオール(α2−1−1)の原料としては、ε−カプロラクトンやγ−ブチロラクトン等の環状エステル化合物を使用することもできる。これらの環状エステル化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。これらの中でも、集束性やマトリックス樹脂に対する接着性がより向上することから、ε−カプロラクトンを使用することが好ましい。
【0082】
前記ポリエステルポリオール(α2−1−1)は、無溶剤下または有機溶剤下で、前記ポリオールと前記ポリカルボン酸とを、従来知られる方法でエステル化反応させることによって製造することができる。また、必要に応じて、環状エステル化合物が開環した化合物をエステル化反応させることができる。
【0083】
前記エステル化反応は、具体的には、不活性ガス雰囲気中で触媒の存在下または不存在下に、前記ポリオールと前記ポリカルボン酸とを180〜300℃に加熱してエステル化あるいはエステル交換反応させ、重縮合させる方法で行うことができる。
【0084】
また、前記ポリエステルポリオール(α2−1−1)を製造する際に使用するスルホン酸塩基を有する化合物は、保存安定性がより向上することから、前記ポリオール及び前記ポリカルボン酸の合計の3質量%以上、30質量%以下の範囲で使用することが好ましい。
【0085】
前記ポリエステルポリオール(α2−1−1)としては、集束性及び機械的強度がより向上することから、ポリエステルポリオール(α2−1−1)の水酸基価は50以上、500以下の範囲が好ましい。
【0086】
前記ポリイソシアネート(α2−2)としては、ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)の製造に使用可能なポリイソシアネート(α1−2)として記載したものを使用することができる。
【0087】
前記鎖伸長剤(α2−3)としては、ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)の製造に使用可能な鎖伸長剤(α1−5)として記載したものを使用することができる。
【0088】
前記ポリオール(α2−4)としては、ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)の製造に使用可能なポリオール(α1−4)として記載したポリオールを使用することができる。
【0089】
また、前記ウレタン樹脂(α2)の製造には、前記ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)の製造に使用可能な触媒として記載したものを使用することができる。
【0090】
前記水性媒体としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−及びイソプロパノール等のアルコール化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール化合物;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル化合物;N−メチル−2−ロリドン等のラクタム化合物、などが挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみが特に好ましい。
【0091】
集束剤(α)の製造方法としては、例えば、前記ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)を水性媒体に溶解又は分散したものと、前記ウレタン樹脂(α2)を水性媒体に溶解又は分散したものとを混合する方法や、前記ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)と前記ウレタン樹脂(α2)とを混合後、得られた混合物と水性媒体とをさらに混合する方法が挙げられる。
【0092】
集束剤(α)の固形分中の前記ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)の質量比率は、開繊性及び機械強度がより向上することから、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下の範囲がより好ましい。
【0093】
集束剤(α)の固形分中の前記ウレタン樹脂(α2)質量比率は、集束性及び機械強度がより向上することから、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下の範囲である。
【0094】
集束剤(α)中の前記水性媒体の質量比率は、保存安定性及び塗工作業性がより向上することから、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上から、好ましくは98質量%以下、より好ましくは90質量%以下の範囲である。
【0095】
集束剤(α)中の固形分の質量比率は、保存安定性及び塗工作業性がより向上することから、好ましくは2質量%以上、より好ましくは10質量%以上から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下の範囲である。
【0096】
また、集束剤(α)は、必要に応じてシランカップリング剤、硬化触媒、潤滑剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤等の添加剤、pH調整剤、レベリング剤、ゲル化防止剤、分散安定剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、耐熱性付与剤、無機充填剤、有機充填剤、可塑剤、補強剤、触媒、抗菌剤、防カビ剤、防錆剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、顔料、染料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、難燃剤、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤を併用することができる。
【0097】
また、集束剤(α)は、例えば、酢ビ系、エチレン酢ビ系、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系等のエマルジョン;スチレン−ブタジエン系、アクリロニトリル−ブタジエン系、アクリル−ブタジエン系等のラテックス、更には、ポリビニルアルコールやセルロース等の水溶性樹脂等と組み合わせ使用することもできる。
【0098】
集束剤(α)としては、本発明の効果を損なわない範囲で乳化剤等を使用しても良い。前記乳化剤の使用量は、前記ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)及び前記ウレタン樹脂(α2)の合計100質量部に対して10質量部以下が好ましい。
【0099】
前記無機充填材(2)を、本発明の集束剤(α)を用いてその表面に、皮膜を形成する方法としては、例えば、集束剤(α)をキスコーター法、ローラー法、浸漬法、スプレー法、刷毛などその他公知の方法で、表面に集束剤(α)を均一に塗布する方法が挙げられる。集束剤(α)が溶媒として水性媒体や有機溶剤を含む場合には、前記塗布後に加熱ローラーや熱風、熱板等を用いて、加熱乾燥することが好ましい。
【0100】
前記無機充填材(2)の表面に形成された集束剤の付着量(塗布量)は、集束剤で表面処理された無機充填剤(2)100質量部に対して、集束剤が、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上、最も好ましくは0.3質量部以上から、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは1.5質量部以下の範囲である。
【0101】
・集束剤(β)
本発明に用いる無機充填剤(2)は、少なくとも、(メタ)アクリル酸エステル(β1a)と(無水)マレイン酸(β1m)との重合性単量体混合物を、(メタ)アクリル酸エステル(β1a)と(無水)マレイン酸(β1m)との質量比〔(β1a)/(β1m)〕が7/3〜3/7の範囲でラジカル共重合して得られる質量平均分子量が5000〜150000の範囲の共重合体(β1)を含む集束剤(β)により表面処理されたものであってよい。当該集束剤(β)により表面処理された該無機充填剤(2)を用いることにより得られるポリアリーレンスルフィド樹脂成形品は、マトリックス樹脂であるポリアリーレンスルフィドとの界面密着性に優れるため、機械的強度および耐湿熱性に優れる。
【0102】
本発明に用いる前記共重合体(β1)は、少なくとも、(メタ)アクリル酸エステル、特に好ましくは、H
2C=CXHCOOR
1(ここでXは水素原子あるいはメチル基を表し、R
1は炭素原子数1〜4の直鎖あるいは分岐鎖アルキル基を表す)にて示される(メタ)アクリル酸エステルと(無水)マレイン酸との重合性単量体混合物を有機溶剤の存在下、ラジカル開始剤にてラジカル重合して得られる。前記共重合体(β1)の一部あるいは全部を塩基性化合物を用いて中和してカルボキシキル基を塩とし、水中に分散させた水分散体の形態をとってもよい。また、さらに該水分散体を脱溶剤したものでもよい。
【0103】
また、前記水分散体は、造膜性、無機充填剤表面へのぬれ性等の理由から500nm以下の範囲の平均粒子径のものであることが好ましい。ここで言う平均粒子径とは、動的光散乱法により測定した体積基準での平均粒子径を指す。
【0104】
また、前記共重合体(β1)は、前記水分散体の全量に対して10質量%以上、70質量%以下の範囲で含まれることが、樹脂貯蔵安定性及び樹脂塗工適性の理由により好ましい。
【0105】
ここで、前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、たとえばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル等があるが、集束性と機械的強度のバランスを考慮すると、メタクリル酸−n−ブチルが特に好ましい。
【0106】
また塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミンや、モノエタノールアミン等のアルカノールアミンや、Na、K、Li、Ca等を含む金属塩基化合物等が挙げられる。
該塩基性化合物による中和率は、変性ポリオレフィンの固形分酸価にもよるが、分散後の樹脂安定性を考慮すれば、80%以上が好ましく、100%以上がより好ましい。
【0107】
前記有機溶剤としては、エステル系、芳香族系、ケトン系、アルコール系等々の有機溶剤が使用可能であるが、ラジカル重合温度あるいは脱溶剤等を考慮すると、エステル系あるいはアルコール系、とりわけ酢酸ブチル、酢酸エチル、イソブタノール、ブタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0108】
前記共重合体(β1)は、優れた耐湿熱性および機械的特性を付与できる理由から5,000以上から150,000以下の範囲の質量平均分子量を有するものを使用することが好ましい。なお、前記質量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定された値を指す。
【0109】
また、該共重合体(β1)の固形分酸価は、好ましくは340mgKOH/g以上、より好ましくは440mgKOH/g以上から、好ましくは800mgKOH/g以下、より好ましくは690mgKOH/g以下の範囲である。
【0110】
また、該混合物は、溶剤中にて重合を完了させて共重合体(β1)を得た状態で、塩基性化合物によりカルボキシル基を一部ないし全部を中和して塩とし、その後、必要ならば共重合体(β1)100質量部に対し、10質量部以下の割合で乳化剤を加えてから、水性溶媒を添加して水分散体を得ることも可能である。更に該水分散体を減圧蒸留して、脱溶剤を行うことも可能である。前記水性媒体としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−及びイソプロパノール等のアルコール化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール化合物;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル化合物;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム化合物、などが挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみが特に好ましい。
【0111】
本発明に用いる集束剤(β)は、前記共重合体(β1)に、必要に応じてシランカップリング剤、硬化触媒、潤滑剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤等の添加剤、pH調整剤、レベリング剤、ゲル化防止剤、分散安定剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、耐熱性付与剤、無機充填剤、有機充填剤、可塑剤、補強剤、触媒、抗菌剤、防カビ剤、防錆剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、顔料、染料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、難燃剤、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤を併用することができる。
本発明に用いる集束剤(β)に併用することができるシランカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシランカップリング剤;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシシランカップリング剤;γ−クロロプロピルトリメトキシシランのようなクロルシランカップリング剤;γ−メルカプトトリメトキシシランのようなメルカプトシランシランカップリング剤;ビニルメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランのようなビニルシランカップリング剤;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのようなアクリルシランカップリング剤;等が挙げられ、中でもポリアリーレンスルフィド樹脂(1)と無機充填剤(2)とのより高い反応性が得られることから、アミノシランカップリング剤が好ましい。
【0112】
前記無機充填材(2)を、本発明の集束剤(β)を用いてその表面に、皮膜を形成する方法としては、例えば、集束剤(β)をキスコーター法、ローラー法、浸漬法、スプレー法、刷毛などその他公知の方法で、表面に集束剤(β)を均一に塗布する方法が挙げられる。集束剤(β)が溶媒として水性媒体や有機溶剤を含む場合には、前記塗布後に加熱ローラーや熱風、熱板等を用いて、加熱乾燥することが好ましい。
【0113】
前記無機充填材(2)の表面に形成された該集束剤(β)からなる集束剤の付着量(塗布量)は、集束剤で表面処理された無機充填剤(2)100質量部に対して、集束剤が、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上、最も好ましくは0.3質量部以上から、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは1.5質量部以下の範囲である。
【0114】
・集束剤(γ)
本発明に用いる無機充填剤(2)は、ポリエーテル樹脂、ウレタン樹脂及びシランカップリング剤を含有する集束剤(γ)により表面処理されたものであってよい。当該集束剤(γ)により表面処理された該無機充填剤(2)を用いることにより得られるポリアリーレンスルフィド樹脂成形品は、マトリックス樹脂であるポリアリーレンスルフィドとの界面密着性に優れるため、機械的強度および耐湿熱性に優れる。
【0115】
該無機充填剤(2)を表面処理するための集束剤(γ)に用いられるポリエーテル樹脂(γ1)としてはポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール類の炭素原子数2〜4のアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。このうち、炭素原子数3〜5のオキシアルキレン基を有するものが好ましく、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールが特に好ましい。
【0116】
該無機充填剤(2)を表面処理するための集束剤(γ)に用いられるウレタン樹脂(γ2)としては、例えばポリオール、ジイソシアネート、更に必要により鎖伸長剤及び/または架橋剤とから形成される従来既知のウレタン樹脂を挙げることができる。該ウレタン樹脂の製造方法としては特に限定されることなく従来法を使用でき、例えば、無溶剤下または有機溶剤の存在下で、ポリオール、ジイソシアネート、更に必要により鎖伸長剤及び/または架橋剤とを、50〜120℃の反応温度で、1〜15時間反応させる方法が挙げられる。
【0117】
その際のポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール類の炭素原子数2〜4のアルキレンオキシド付加物等が挙げられ、このうち、炭素原子数3〜5のオキシアルキレン基を有するものが好ましく、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールが特に好ましい。その際、ポリオールとしては、ポリエステルポリオールを使用しても良い。ポリエステルポリオールの原料としては、前述のポリオールの他、ポリカルボン酸として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、水添ダイマー酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸等の飽和又は不飽和の脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸及びその無水物、テトラヒドロフタル酸及びその無水物等の脂肪族環式構造を有するジカルボン酸などを使用することができる。これらの中でも、耐熱性がより向上することから、芳香族ジカルボン酸(無水物)を使用することが好ましく、テレフタル酸又はイソフタル酸を使用することがより好ましい。具体的なポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリネオペンチルテレフタレートジオール、ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール、ポリバレロラクトンジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等が挙げられる。
【0118】
また、該ジイソシアネートとしては、例えば、2,4’−又は4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、1,3−又は1,4−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)等の芳香族ジイソシアネートや、エチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添トリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−ジイソシアネートシクロヘキサン、1,4−ジイソシアネートシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジイソシアネート、m−テトラメチルキシレンジイソシアネート、p−テトラメチルキシレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルシクロヘキサンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルシクロヘキサンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートまたは脂環式ジイソシアネート等が挙げられ、これらの2種類以上を併用してもよい。
【0119】
該鎖伸長剤及び/または該架橋剤としては、数平均分子量が30〜500の活性水素含有化合物が好ましく、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、2,2−ビス(4,4’−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等の2価アルコール、グリセリン,トリメチロールプロパン等の3価アルコール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、α−メチルグルコシド、ソルビトール、キシリット、マンニット、ジペンタエリスリトール、グルコース、フルクトース、ショ糖等の4〜8価のアルコール等の多価アルコール類;ピロガロール、カテコール、ヒドロキノン等の多価フェノール類;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール類;エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン等の脂肪族ポリアミン類;イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン等の脂環族ポリアミン類;4,4’−ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン類;キシリレンジアミン等の芳香脂環族ポリアミン類;ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールペンタン酸、ジメチロールヘキサン酸、酒石酸等のカルボン酸類;ヒドラジン又はその誘導体等のポリアミン、等が挙げられる。
【0120】
ポリエーテル樹脂(γ1)およびウレタン樹脂(γ2)からなる群から選ばれる少なくとも1つ樹脂は、繰り返し単位中に炭素原子数が3〜5のオキシアルキレン基を有するものであることが好ましい。
【0121】
該無機充填剤(2)を表面処理するための集束剤(γ)に用いられるシランカップリング剤(γ3)としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)の末端構造や、ポリエーテル樹脂(γ1)、ウレタン樹脂(γ2)の末端構造と反応性を有する官能基を有することが好ましく、たとえば、このような官能基としてはアミノ基、グリシジル基、クロル基、メルカプト基、ビニル基、(メタ)アクリル基が挙げられ、このうち、アミノ基が特に好ましい。
【0122】
シランカップリング剤(γ3)としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシランカップリング剤;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシシランカップリング剤;γ−クロロプロピルトリメトキシシランのようなクロルシランカップリング剤;γ−メルカプトトリメトキシシランのようなメルカプトシランシランカップリング剤;ビニルメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランのようなビニルシランカップリング剤;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのようなアクリルシランカップリング剤;等が挙げられる。
【0123】
前記無機充填剤(2)への集束剤(γ)の表面処理方法としては、例えば、前記ポリエーテル樹脂(γ1)、前記ウレタン樹脂(γ2)及びシランカップリング剤(γ3)を含む混合物と乳化剤とを混合、撹拌し、次いで、得られた混合物と前記水性媒体とを混合して、分散体を得た後、さらに、該分散体を無機充填剤表面に均一に接触させる方法が挙げられる。具体的にはキスコーター法、ローラー法、浸漬法、スプレー法、刷毛などその他公知の浸漬、塗布または噴霧方法でよい。該接触後、水性媒体を除去する目的で加熱ローラーや熱風、熱板等を用いて、加熱乾燥することが好ましい。
【0124】
前記水性媒体としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−及びイソプロパノール等のアルコール化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール化合物;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル化合物;N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム化合物、などが挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみが特に好ましい。
【0125】
前記分散体中の前記水性媒体の質量比率は、保存安定性及び塗工作業性がより向上することから、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上から、好ましくは98質量%以下、より好ましくは90質量%以下の範囲である。
【0126】
また、前記分散体は、本発明の効果を損なわない範囲で公知の乳化剤等を使用しても良い。前記乳化剤を使用する場合、その量は、前記ポリエーテル樹脂(γ1)及び前記ウレタン樹脂(γ2)の合計100質量部に対して0.1質量部以上から10質量部以下の範囲が好ましい。前記分散体は、必要に応じて公知の添加剤を併用することができる。
【0127】
本発明に用いる集束剤(γ)中の前記ポリエーテル樹脂(γ1)と前記ウレタン樹脂の質量割合は、開繊性及び機械強度がより向上することから、前記ポリエーテル樹脂(γ1)および前記ウレタン樹脂(γ2)の合計100質量部に対して、前記ポリエーテル樹脂(γ1)が、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上から、好ましくは90質量部以下、より好ましくは80質量部以下の範囲であり、残部がウレタン樹脂(γ2)である。
さらに該集束剤中のシランカップリング剤(γ3)の質量割合は、前記ポリエーテル樹脂(γ1)と前記ウレタン樹脂(γ2)の合計100質量部に対して、シランカップリング剤(γ3)が、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下の範囲である。
【0128】
該無機充填剤(2)を表面処理する際の該集束剤(γ)の付着量(塗布量)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)と無機充填剤(2)とのより高い界面密着性が得られることから、集束剤で表面処理された無機充填剤(2)100質量部に対して、集束剤が、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上、最も好ましくは0.3質量部以上から、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは1.5質量部以下の範囲である。
【0129】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物において、必須成分として配合される、前記無機充填剤(2)の配合の割合は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、下限値が1質量部以上の範囲であることが好ましく、さらに10質量部以上の範囲であることがより好ましく、一方、上限値は100質量部の範囲であることが好ましく、さらに80質量部の範囲であることがより好ましい。上記範囲のうち、成形品が良好な耐湿熱性と機械的強度を示す観点から、1〜100質量部の範囲が好ましく、10〜100質量部の範囲がより好ましく、さらに、樹脂組成物が良好な成形性も示す観点から、1〜80質量部の範囲が好ましく、10〜80質量部の範囲がより好ましい。
【0130】
・シランカップリング剤(3)
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じてシランカップリング剤(3)を任意成分として配合してもよい。シランカップリング剤(3)としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシランカップリング剤;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシシランカップリング剤;γ−クロロプロピルトリメトキシシランのようなクロルシランカップリング剤;γ−メルカプトトリメトキシシランのようなメルカプトシランシランカップリング剤;ビニルメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランのようなビニルシランカップリング剤;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのようなアクリルシランカップリング剤;等が挙げられ、中でもポリアリーレンスルフィド樹脂(1)と集束剤で表面処理された無機充填剤(2)とのより高い反応性が得られることから、アミノシランカップリング剤が好ましい。本発明において該シランカップリング剤(3)は任意成分であるが、配合する際の割合は特に限定されず、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下の範囲である。かかる範囲において、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその成形品が優れた耐湿熱性、機械的強度、特に靱性を呈し、さらに成形時のガス発生量を抑制しつつかつ溶融時の流動性にも優れるため好ましい。
【0131】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じて、さらに上記無機充填剤(2)以外の無機充填剤(4)を任意成分として配合しても良い。無機充填剤(4)としては本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0132】
本発明において、前記無機充填剤(2)以外の無機充填剤(4)は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上から、好ましくは600質量部以下、より好ましくは200質量部以下の範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な機械強度と成形性を示すため好ましい。
【0133】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じて、熱可塑性エラストマー(5)を任意成分として配合してもよい。熱可塑性エラストマー(5)としては、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマーまたはシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらの熱可塑性エラストマー(5)を配合する場合、その配合の割合は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部質量部以下、より好ましくは5質量部以下の範囲である。かかる範囲において、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物および成形品の耐衝撃性が向上するため好ましい。
【0134】
前記ポリオレフィン系エラストマーは、例えば、α−オレフィンの単独重合または異なるα−オレフィン同士の共重合により、さらに、官能基を付与する場合には、α−オレフィンと官能基を有するビニル重合性化合物との共重合により得ることができる。α−オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン及びブテン−1等の炭素原子数2〜8の範囲のものが挙げられる。また、官能基としては、カルボキシ基、式−(CO)O(CO)−で表される酸無水物基、それらのエステル、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、またはオキサゾリン基などが挙げられる。
【0135】
このような官能基を有するビニル重合性化合物の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステル等のα,β−不飽和カルボン酸及びそのアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びその他の炭素原子数4〜10のα,β−不飽和ジカルボン酸及びその誘導体(モノ若しくはジエステル、及びその酸無水物等)、並びにグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、上述したエポキシ基、カルボキシ基、及び、該酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するエチレン−プロピレン共重合体及びエチレン−ブテン共重合体が、機械的強度、特に靭性及び耐衝撃性の向上の点から好ましい。
【0136】
更に、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂を除く他の合成樹脂、例えばポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリ二弗化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー、エポキシ樹脂等(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。本発明において前記合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中に配合する樹脂成分(前記ポリアリーレンスルフィド樹脂及び合成樹脂の合計)の割合としてポリアリーレンスルフィド樹脂が75.0質量%以上の範囲、好ましくは80質量%以上、99.99質量%以下の範囲となるよう、換言すると、上記の合成樹脂が25.0質量%以下の範囲、好ましくは0.01質量%以上20.0質量%以下の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0137】
また本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、およびチタネート系ないしアルミネート系カップリング剤等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として配合してもよい。これらの添加剤は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上1,000質量部以下の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0138】
・ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)と、前記無機充填剤(2)とを必須成分として配合して、ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)の融点以上で溶融混練する。
【0139】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の好ましい製造方法は、上述した配合割合となるよう、ポリアリーレンスルフィド樹脂(1)と、前記無機充填剤(2)の各必須成分と、必要に応じて、上記任意成分を、粉末、ペレット、細片など様々な形態でリボンブレンター、ヘンシェルミキサー、Vブレンダーなどに投入してドライブレンドした後、バンバリーミキサー、ミキシングロール、単軸または2軸の押出機およびニーダーなどの公知の溶融混練機に投入し、樹脂温度がポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは融点+10℃〜融点+100℃となる温度範囲、さらに好ましくは融点+20〜融点+50℃となる温度範囲で溶融混練する工程を経て製造することができる。溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。
【0140】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5(kg/hr)以上500(kg/hr)以下の範囲と、スクリュー回転数50(rpm)以上500(rpm)以下の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02(kg/hr/rpm)以上5(kg/hr/rpm)以下の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、前記成分のうち、充填剤や添加剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1以上0.9以下の範囲であることが好ましい。中でも0.3以上0.7以下の範囲であることが特に好ましい。
【0141】
このように溶融混練して得られる本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必須成分であるポリアリーレンスルフィド樹脂(1)と、前記無機充填剤(2)と、必要に応じて加える任意成分およびそれらの由来成分を含む溶融混合物であり、該溶融混練後に、公知の方法でペレット、チップ、顆粒、粉末等の形態に加工してから、必要に応じて100℃以上150℃以下の温度で予備乾燥を施して、各種成形に供することが好ましい。
【0142】
上記製造方法により製造される本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂をマトリックスとし、当該マトリックス中に、必須成分である前記無機充填剤(2)と、それらに由来する成分、必要に応じて添加する任意成分が分散したモルフォロジーを形成する。前記無機充填剤(2)の表面上の前記集束剤がマトリックス樹脂であるポリアリーレンスルフィド樹脂との界面密着性を良好なものとし、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品に、優れた機械的強度および耐湿熱性を付与するものと考えられる。
【0143】
本発明の成形品は、上記のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる。すなわち、本発明の成形品は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形法で成形することによって得られるが、特に離形性にも優れるため射出成形により成形することが好ましい。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な溶融成形方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃〜融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20〜融点+50℃の温度範囲で前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)〜300℃の範囲、好ましくは40〜180℃の範囲に設定することができる。本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は通常の成形温度として好ましい120〜180℃の温度範囲に設定することもできる。
【0144】
(成形品の用途)
本発明の成形品は、耐湿熱性、機械的特性、特に靭性に優れるだけでなく、耐衝撃性に優れ、酸性及びアルカリ性環境中での耐久性にも優れ、更に熱水環境下での機械的強度の低下が認められないという特性を有する。この特長により本発明の樹脂組成物は流体と接触する部品を扱う、トイレ関連部品、給湯器関連部品、ポンプ関連部品、風呂関連部品、自動車関連部品等の流体移送用部材、特に流体が水、あるいは、自動車用冷却水などで見られるようなエチレングリコール等の前記水と混和する有機溶剤を含む水性媒体等である、水周り用部材に用いることができる。本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその成形品は、配管用部材として有用なだけでなく、特に弁、栓といったバルブ部品(開閉部品)の分野においても有用である。バルブ部品(開閉部品)の分野は、一般に恒常的に高応力負荷が係り、酸性或いはアルカリ性の洗浄剤及び熱水によるダメージが大きく、その結果長期に亘る使用が困難なため、特にこの開閉部品の分野においても有用性が高い。
【0145】
本実施形態に係る流体移送用部材は、上記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなるものである。これら流体移送用部材としては、例えば、パイプ、ライニング管、袋ナット類、管継ぎ手類(エルボー、ヘッダー、チーズ、レデューサ、ジョイント、カプラー、等)、各種バルブ、流量計、ガスケット(シール、パッキン類)、サーマルマネージメントモジュール、マルチコントロールバルブ、サーモスタット、など流体を搬送する為の配管及び配管に付属する各種の部品が挙げられる。
【0146】
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその成形品は、上記の優れた特性を活かして、上記以外の用途、例えば各種家電製品、携帯電話、及びPC(Personal Computer)等の電子機器の筐体、箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体またはモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディヤ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイルおよびそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、その他各種用途にも適用可能である。
【実施例】
【0147】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0148】
(測定例1:ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度の測定)
参考例で製造したポリフェニレンスルフィド樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT−500Dを用い、300℃、荷重:1.96×10
6Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した。
【0149】
(測定例2:スルホンさん塩基及びカルボキシル基濃度)
スルホン酸塩基の濃度及びカルボキシル基濃度は、原料の仕込み量から計算により求めたものである。
【0150】
(測定例3:酸価)
また、酸価はJIS K 0070−1992に準拠し、水酸基価はJIS K 1557−1に準拠して測定したものである。
【0151】
(測定例4:ガラス転移温度)
ガラス転移温度は、示差走査熱量計「DSC Q−100」(TA Instrument社製)を用い、JIS K7121に準拠した方法で測定した。真空吸引して完全に溶剤を除去したサンプルを、20℃/分の昇温速度で−100℃〜+200℃の範囲で熱量変化を測定し、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点をガラス転移温度とした。
【0152】
(測定例5:質量平均分子量(Mw))
質量平均分子量(Mw)は、下記の測定条件で測定した。
[GPC測定条件]
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度4mg/mLのテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0153】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0154】
(参考例1)ポリフェニレンスルフィド樹脂(1.1)の製造
圧力計、温度計、コンデンサ、デカンター、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブにp−ジクロロベンゼン(以下、「p−DCB」と略記する。)33.222kg(226モル)、NMP2.280kg(23モル)、47.23質量%NaSH水溶液27.300kg(NaSHとして230モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533g(NaOHとして228モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300kgを留出させた後、オートクレーブを密閉した。脱水時に共沸により留出したp−DCBはデカンターで分離して、随時オートクレーブ内に戻した。脱水終了後のオートクレーブ内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp−DCB中に分散した状態であった。この組成物中のNMP含有量は0.069kg(0.7モル)であったことから、仕込んだNMPの97モル%(22.3モル)がNMPの開環体(4−(メチルアミノ)酪酸)のナトリウム塩(以下、「SMAB」と略記する。)に加水分解されていることが示された。オートクレーブ内のSMAB量は、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.097モルであった。仕込んだNaSHとNaOHが全量、無水Na
2Sに変わる場合の理論脱水量は27.921gであることから、オートクレーブ内の残水量621g(34.5モル)の内、401g(22.3モル)はNMPとNaOHとの加水分解反応に消費されて、水としてオートクレーブ内に存在せず、残りの220g(12.2モル)は水、あるいは結晶水の形でオートクレーブ内に残留していることを示していた。オートクレーブ内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.053モルであった。
【0155】
上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP47.492kg(479モル)に含む溶液を仕込み、185℃まで昇温した。オートクレーブ内の水分量は、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.025モルであった。ゲージ圧が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp−DCBと水の混合蒸気はコンデンサで凝縮し、デカンターで分離して、p−DCBはオートクレーブへ戻した。留出水量は179g(9.9モル)で、オートクレーブ内水分量は41g(2.3モル)で、脱水後に仕込んだNMP1モル当たり0.005モルで、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.010モルであった。オートクレーブ内のSMAB量は脱水時と同じく、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.097モルであった。
【0156】
次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で1.5時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。内温200℃時点のゲージ圧は0.03MPaで、最終ゲージ圧は0.30MPaであった。冷却後、得られたスラリーの内、6.5kgを30リットルの80℃温水に注いで1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び30リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。次に、得られたケーキに30リットルの水を加え、酢酸でpHを4.5に調整し、常温で1時間撹拌したのち、濾過した。さらに得られたケーキに30リットルの温水を加え、1時間撹拌したのち、ろ過する操作を2回繰返して、熱風循環乾燥機を用い120℃で一晩乾燥して白色粉末上のPPS樹脂(以下、1.1)を得た。得られたポリマーの溶融粘度は73Pa・sであった。また、融点(Tm)は282℃であった。
【0157】
(参考例2)ポリフェニレンスルフィド樹脂(1.2)の製造
「次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で1.5時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。」とする部分を「次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。」としたこと以外は参考例1と同様にして、白色の粉末状のPPS樹脂(以下、1.2)を得た。得られたポリマーの溶融粘度は13Pa・sであった。
【0158】
(参考例3)ポリフェニレンスルフィド樹脂(1.3)の製造
圧力計、温度計、コンデンサを連結した撹拌翼および底弁付き150リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.3重量%Na2S)19.413kgと、NMP45.0kgを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4.644kgを留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、パラジクロロベンゼン22.185kg及びNMP18.0kgを仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温230℃で3時間、その後260℃で2時間攪拌しつつ反応を進め、オートクレーブ上部を散水することにより冷却した。次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、0.85MPaであった。
【0159】
反応後、冷却し、冷却後、得られたスラリーの内、650gを3リットルの水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を7回繰り返した。熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥した。
【0160】
その後、熱風乾燥機で190℃、3時間熱処理し、PPS樹脂(以下、1.3)を得た。得られたポリマーの溶融粘度は110Pa・sであった。
【0161】
(実施例1)表面修飾チョップドGF(2.α)の製造
・ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)の合成
温度計、撹拌装置、還流冷却管、滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、ポリエチレングリコール(水酸基価:187)10質量部、及びメチルエチルケトン100質量部を加え、40℃で十分に攪拌溶解後、40℃でトリレンジイソシアネート30質量部を添加し、60〜65℃で4時間反応させた。次いで、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロン1050」、エポキシ当量:477g/当量)80質量部、及びポリエチレングリコールモノメチルエーテル(水酸基価:102)70質量部を加えて60〜65℃で4時間反応させることによって、メトキシポリオキシエチレン構造とエポキシ基とを有するウレタン変性エポキシ樹脂(α1)を得た。なお、ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)の質量平均分子量は、10,000であった。次いで、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル(第一工業製薬株式会社製「ノイゲンXL−400」)19質量部を加え十分に攪拌した。次いで、イオン交換水736質量部を30分かけて滴下し、更に15分間攪拌混合した。この水分散物を減圧蒸留により濃縮して、不揮発分30質量%のウレタン変性エポキシ樹脂(α1)の水分散体を得た。
【0162】
・スルホン酸塩基を有するウレタン樹脂(α2)の合成)
温度計、撹拌装置、還流冷却管、滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、ポリエステルポリオール30質量部、及びメチルエチルケトン60質量部を加え、十分に撹拌溶解した。次いで、イソホロンジイソシアネート34部及びヘキサメチレンジイソシアネート4質量部を加えて80℃で3時間反応させた。次いで、メチルエチルケトン95質量部を投入し60℃まで冷却後、1,4−ブチレングリコール5質量部、1,4−ブチレングリコールとアジピン酸とからなるポリエステルであるポリブチレンアジペート(水酸基価37mgKOH/g、酸価0.3mgKOH/g)160質量部を加え80℃にて反応を行った。その後、イソシアネート含有量が0.79%以下になったことを確認した後、40℃まで冷却し、水280質量部を加え十分に撹拌混合した後、10%ピペラジン水溶液29.7質量部(残存イソシアネート基に対しアミン基として95当量%)を加えて乳化分散した。得られた乳化液を脱溶剤し、不揮発分50質量%のスルホン酸塩基を有するウレタン樹脂(α2)の水分散体を得た。なお、スルホン酸塩基を有するウレタン樹脂(α2)のスルホン酸塩基の濃度は、0.137mmol/g、カルボキシル基の濃度は、0.004mmol/g、質量平均分子量は、80,000、ガラス転移温度は−45℃であった。
【0163】
・表面修飾チョップドGF(2.α)の製造
ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)の水分散体233質量部(ウレタン変性エポキシ樹脂(α1)として70質量部)、スルホン酸塩基を有するウレタン樹脂(α2)の水分散体60質量部(スルホン酸塩基を有するウレタン樹脂(α2)として30質量部)、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.8質量部、及びイオン交換水を混合することによって、不揮発分5質量%の水分散体(2.α)を調製した。
【0164】
続いて、直径が約10μmである約3000本のガラスフィラメントに、上記で得た水分散体(2.α)を塗布し、ガラス繊維束を得た。次いで、前記ガラス繊維束を約3mmの長さに裁断してから熱風乾燥機を用いて乾燥することによって、集束剤の付着量が0.7質量%のガラス繊維チョップドストランド(2.α)を得た。
【0165】
(実施例2)表面修飾チョップドGF(2.β)の製造
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに酢酸-n-ブチル95質量部を仕込み120℃に昇温、これに無水マレイン酸98質量部、メタクリル酸−n−ブチル147質量部、酢酸ブチル75質量部、パーブチルD(ジターシャリーブチルハイドロパーオキサイド:日本油脂(株)製)1.6質量部、パーブチルZ(ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート:日本油脂(株)製)3.0質量部の溶解混合物を2時間かけて滴下し、120〜125℃にて反応を行った。その後120℃に120分間ホールドしたのち、温度を90℃に下げ、25%安水137質量部、イオン交換水600質量部を添加し、中和、水溶解を行った。これを90℃減圧(0.080〜0.095MPa)下、脱溶剤(約60分)、冷却を行い、不揮発分約23質量%、pH7.6、粘度580mPa・s、質量平均分子量7.0万の共重合体(β1)を得た。
【0166】
上記共重合体(β1)を固形分で3.0質量%、γ−アミノプロピルトリエトキシシランを固形分として0.5質量%を混合して水分散体(2.β)を調製した。
【0167】
続いて、直径が約10μmである約3000本のガラスフィラメントに、上記で得た水分散体(2.β)を塗布し、ガラス繊維束を得た。次いで、前記ガラス繊維束を約3mmの長さに裁断してから熱風乾燥機を用いて乾燥することによって、集束剤の付着量が0.7質量%のガラス繊維チョップドストランド(2.β)を得た。
【0168】
(実施例3)表面処理チョップドGF(2.γ1)の製造
温度計、撹拌装置、還流冷却管、滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、ポリオキシテトラメチレングリコール(水酸基価86mgKOH/g)63質量部と、ネオペンチルグリコール0.5質量部と、トルエン38質量部とを加え、十分に撹拌溶解した。
次いで、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート25質量部を加え、100℃で4時間反応させて末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの溶液を得た。
【0169】
前記ウレタンプレポリマーの溶液を40℃に冷却し、分子量約11,000のポリオキシエチレンポリオキシプロプレングリコール7質量部を含む水溶液97質量部を加え、ホモミキサーで高速攪拌しウレタンプレポリマーの乳化物を得た。
【0170】
次いで、イソホロンジアミン6.5質量部を含む水溶液71質量部を前記ウレタンプレポリマーの乳化物に攪拌下加えて鎖伸長反応を完結させた後、減圧蒸留することによって不揮発分40質量%のウレタン樹脂水分散体を得た。
【0171】
上記で得たウレタン樹脂水分散体5質量部と、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール2質量部、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.8質量部と、脂肪酸アミド0.1質量部と、水89.1質量部とを混合し、攪拌することによって、不揮発分4.9質量%のガラス繊維集束剤(2.γ1)を得た。
【0172】
続いて、直径が約10μmである約3000本のガラスフィラメントに、上記で得た水分散体(2.γ1)を塗布し、ガラス繊維束を得た。次いで、前記ガラス繊維束を約3mmの長さに裁断してから熱風乾燥機を用いて乾燥することによって、集束剤の付着量が0.7質量%のガラス繊維チョップドストランド(2.γ1)を得た。
【0173】
(実施例4)表面処理チョップドGF(2.γ2)の製造
「上記で得たウレタン樹脂水分散体5質量部と、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール2質量部、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.8質量部と、脂肪酸アミド0.1質量部と、水89.1質量部とを混合し」とする部分を、「上記で得たウレタン樹脂水分散体2質量部と、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール3.2質量部、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.8質量部と、脂肪酸アミド0.1質量部と、水89.1質量部とを混合し」としたこと以外は実施例3と同様にして、ガラス繊維チョップドストランド(2.γ2)を得た。
【0174】
(実施例5)表面処理チョップドGF(2.γ3)の製造
「上記で得たウレタン樹脂水分散体5質量部と、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール2質量部、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.8質量部と、脂肪酸アミド0.1質量部と、水89.1質量部とを混合し」とする部分を、「上記で得たウレタン樹脂水分散体8質量部と、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール0.8質量部、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.8質量部と、脂肪酸アミド0.1質量部と、水89.1質量部とを混合し」としたこと以外は参考例3と同様にして、ガラス繊維チョップドストランド(2.γ3)を得た。
【0175】
(比較例1) 比較例用チョップドGF(2.c1)の製造
温度計、撹拌装置、還流冷却管、滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、ポリブチレンアジペートジオール89質量部と、ネオペンチルグリコール0.5質量部と、トルエン38質量部とを加え、十分に撹拌溶解した。
【0176】
次いで、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート16質量部を加え、100℃で4時間反応させて末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの溶液を得た。
【0177】
前記ウレタンプレポリマーの溶液を40℃に冷却し、分子量約11,000のポリオキシエチレンポリオキシプロプレングリコール7質量部を含む水溶液97質量部を加え、ホモミキサーで高速攪拌しウレタンプレポリマーの乳化物を得た。
【0178】
次いで、イソホロンジアミン6.5質量部を含む水溶液71質量部を前記ウレタンプレポリマーの乳化物に攪拌下加えて鎖伸長反応を完結させた後、減圧蒸留することによって不揮発分40質量%のウレタン樹脂水分散体を得た。
【0179】
上記で得たウレタン樹脂水分散体5質量部と、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロンN−770」、エポキシ当量:187g/当量)の有効成分20%水分散体を10質量部、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.8質量部と、脂肪酸アミド0.1質量部と、水89.1質量部とを混合し、攪拌することによって、不揮発分4.9質量%のガラス繊維集束剤(2.c1)を得た。
【0180】
その後、直径が約10μmである約3000本のガラスフィラメントに、上記で得たガラス繊維集束剤(2.c1)を塗布し、ガラス繊維束を得た。次いで、前記ガラス繊維束を約3mmの長さに裁断してから熱風乾燥機を用いて乾燥することによって、集束剤の付着量が0.7質量%のガラス繊維チョップドストランド(2.c1)を得た。
【0181】
(実施例6〜25及び比較例2〜4)PPS樹脂組成物および成形体の製造
表1〜8に記載する組成成分および配合量(全て質量部)にしたがい、各材料をタンブラーで均一に混合した。その後、東芝機械株式会社製ベント付き2軸押出機「TEM−35B」に前記配合材料を投入し、樹脂成分吐出量25kg/hr、スクリュー回転数250rpm、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)=0.1(kg/hr・rpm)、設定樹脂温度330℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを用いて各種評価試験を行った。試験及び評価の結果は、表1〜8に示す。
【0182】
(測定例6) 機械強度の測定
・(MD方向)引張強度、引張伸び
得られたペレットをシリンダー温度320℃に設定した住友−ネスタール社製射出成形機(SG75−HIPRO・MIII)に供給し、金型温度130℃に温調したISO Type−Aダンベル片成形用金型を用いて射出成形を行い、試験片を作製した。なお、ウエルド部を含まない試験片とするため前記ISO Type−Aダンベル片の1点ゲートから樹脂を射出して作製した。試験片における試験部の各寸法は、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmとした。流動方向(射出方向)における「引張強度」及び「引張伸び」を評価するため、得られた試験片を用いてISO 527−1および2に準拠した測定方法で測定した。
【0183】
・ウエルド強度
得られたペレットをシリンダー温度320℃に設定した住友−ネスタール社製射出成形機(SG75−HIPRO・MIII)に供給し、金型温度130℃に温調したISO Type−Aダンベル片成形用金型を用いて射出成形を行い、試験片を作製した。なお、ウエルド部を含む試験片とするため前記ISO Type−Aダンベル片の2点ゲートから樹脂を射出してウエルド部を作製した。試験片における試験部の各寸法は、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmとした。流動方向(射出方向)における「ウエルド強度」を評価するため、得られた試験片を用いてISO 527−1および2に準拠した測定方法で測定した。
【0184】
(測定例7) 耐湿熱性(冷却水浸漬後保持強度)の測定
耐湿熱性の評価用試験片としてISO TypeAダンベルの試験片を作製し、測定試験に用いた。得られた試験片を140℃の高温下で冷却水に3000時間浸漬し、ISO527に準拠した方法で、株式会社島津製作所「AGS−J」を用いて引張強度を測定した。
【0185】
【表1】
【0186】
【表2】
【0187】
【表3】
【0188】
【表4】
【0189】
【表5】
【0190】
【表6】
【0191】
【表7】
【0192】
【表8】
【0193】
なお、表1〜8中の配合樹脂、材料の配合比率は質量部を表し、下記のものを用いた。
2.c2:炭酸カルシウム(平均粒径5〔μm〕)
3.1 :3−アミノプロピルトリエトキシシラン
3.2 :γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
4.1 :熱可塑性エラストマー(住友化学社製「ボンドファースト7L」エチレンにグリシジルメタクリレート(3質量部)およびアクリル酸メチル(27質量部)を共重合)