(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886619
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】焼入鋼帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/573 20060101AFI20210603BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20210603BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20210603BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20210603BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
C21D9/573 101Z
C21D9/56 101B
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D1/18 Q
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-150509(P2017-150509)
(22)【出願日】2017年8月3日
(65)【公開番号】特開2018-31073(P2018-31073A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2020年7月16日
(31)【優先権主張番号】特願2016-160432(P2016-160432)
(32)【優先日】2016年8月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 和也
【審査官】
河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−067873(JP,A)
【文献】
特開昭50−053212(JP,A)
【文献】
特開2004−285403(JP,A)
【文献】
実開昭56−138869(JP,U)
【文献】
特開昭57−171628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/573
C21D 1/18
C21D 9/56
C22C 38/00 − 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯を巻出す巻出し工程と、
鋼帯を加熱炉に通板し、変態点以上の温度まで加熱した後、冷却する焼入れ工程と、
焼入れ後の鋼帯を焼戻し炉に通板して焼戻しする焼戻し工程と、
焼戻し後の鋼帯を巻戻す巻戻し工程と、を連続して行う焼入鋼帯の製造方法であって、
前記焼入れ工程の冷却は、
冷却液噴霧装置により前記鋼帯をMs点超、かつ(Ms点+200℃)以下の温度範囲まで冷却する第一冷却工程と、
前記第一冷却工程後、冷却液除去装置にて前記鋼帯表面の液滴を除去する冷却液除去工程と、
前記冷却液除去工程後の鋼帯を、冷却定盤で挟みながら(Ms点−50℃)以下に冷却する第二冷却工程とを備えることを特徴とする焼入鋼帯の製造方法。
【請求項2】
前記冷却液除去工程における冷却液除去装置は、気体噴射装置であることを特徴とする請求項1に記載の焼入鋼帯の製造方法。
【請求項3】
前記焼入鋼帯は伸び差率が0.02%以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の焼入鋼帯の製造方法。
【請求項4】
前記鋼帯はマルテンサイト系ステンレスであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の焼入鋼帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な平坦度を有する、焼入鋼帯の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マルテンサイト組織を含む焼入鋼帯は一般的に、所定の板厚まで圧延を行った後、予熱帯および加熱帯を有する焼入れ用の加熱炉、冷却装置および焼戻し炉を、この順番で連続的に配置した連続加熱設備を利用して、鋼帯を巻出しながら連続的に焼入れと焼戻しを行う方法により製造されている。
【0003】
例えば引用文献1には、鋼帯表面の疵や歪みを抑制するために、加熱後の鋼帯を噴霧焼入装置でMs点以下とならない温度まで急冷した後、冷却定盤で押圧しながらMs点以下の温度まで冷却する鋼帯の製造方法が記載されている。また引用文献2には、巻出し工程、予熱工程、焼入れ工程、焼戻し工程を連続して行い、焼入れ工程時の急冷は冷却液噴霧装置による一次冷却工程と、水冷定盤による二次冷却工程とで行っているマルテンサイト系ステンレス鋼鋼帯の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−139627号公報
【特許文献2】特開2015−67873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した焼入鋼帯は多様な用途に対応するために、薄板化(例えば、板厚0.1μm以下)が求められているが、薄板化の進行により中伸びや耳波といった形状不良が発生しやすく、平坦度が低下する傾向にある。この平坦度の低下は、鋼帯を所望の製品幅に切断して金属条を作製した際に、横曲り不良が発生する原因ともなる。
引用文献1の製造方法は鋼帯表面に発生する疵を抑制するとともに硬度を高めることができ、引用文献2の発明は熱処理能力を向上させることができる優れた発明だが、引用文献1、2ともに上記課題の解決について示唆されておらず、検討の余地が残されている。
よって本発明の目的は、良好な平坦度が得られ、さらに鋼帯を切断して得られる金属条の横曲り不良を抑制することができる焼入鋼帯の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、焼入れ時の冷却方法について検討を重ねた。その結果、一次冷却に冷却液による噴霧冷却、二次冷却に冷却定盤による冷却を選択した際、一次冷却後に鋼帯表面に残る液滴が、二次冷却時の冷却分布を偏らせ、形状不良の原因となっていることを突き止め、さらに簡易な工程を一次冷却と二次冷却の間に挿入することで、良好な平坦度を有する焼入れ鋼帯を得ることができ、切断後の横曲り量を低減できることを見いだし、本発明に想到した。
【0007】
すなわち本発明は、
鋼帯を巻出す巻出し工程と、
鋼帯を加熱炉に通板し、変態点以上の温度まで加熱した後、冷却する焼入れ工程と、
焼入れ後の鋼帯を、焼戻し炉に通板して焼戻しする焼戻し工程と、
焼戻し後の鋼帯を巻戻す巻戻し工程と、を連続して行う焼入鋼帯の製造方法であって、
前記焼入れ工程の冷却は、
冷却液噴霧装置により前記鋼帯をMs点超、かつ(Ms点+200℃)以下の温度範囲まで冷却する第一冷却工程と、
前記第一冷却工程後、冷却液除去装置にて前記鋼帯表面の液滴を除去する冷却液除去工程と、
前記冷却液除去工程後の鋼帯を、冷却定盤で挟みながら(Ms点−50℃)以下に冷却する第二冷却工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
前記冷却液除去工程における冷却液除去装置は、気体噴射装置であることが好ましい。また、前記焼入鋼帯は伸び差率が0.02%以下であることが好ましく、前記鋼帯はマルテンサイト系ステンレスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な平坦度を有する焼入鋼帯を得ることができる。さらには上述した焼入鋼帯から、横曲り量が少ない優れた金属条を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の製造方法に用いる装置の一例を示す参考図である。
【
図4】本発明例の鋼帯を切断して得られた金属条の横曲り量を示す図である。
【
図5】比較例の鋼帯を切断して得られた金属条の横曲り量を示す図である。
【
図6】鋼帯に対する金属条の位置を説明するための参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、巻出し工程、焼入れ工程、焼戻し工程、巻戻し工程を連続して行い、焼入れ工程における冷却方法は、冷却液噴霧装置による第一冷却工程、冷却液除去工程、および冷却定盤による第二冷却工程を備えることで、良好な平坦度を有する焼入鋼帯が得られることを特徴とする。
図1に本実施形態の装置レイアウトを示す。以下、本発明の構成要件について説明する。
【0012】
(巻出し工程、焼入れ工程)
まず本発明は、焼入れ焼戻しを連続で行うために、巻出し機1より圧延済みの鋼帯2を巻出した後(巻出し工程)、加熱炉3に通板して変態点(オーステナイト化温度)以上の温度まで加熱した後、冷却する(焼入れ工程)。この加熱炉3の温度は850〜1200℃であることが好ましい。850℃未満の場合、炭化物の固溶が不十分となり、特性が低下する。1200℃超の場合、炭化物の固溶量が大きくなり、焼戻し時の硬さが低下する傾向にある。加熱炉3の温度の下限は900℃がより好ましく、930℃がさらに好ましい。加熱炉3の温度の上限は1150℃がより好ましく、1120℃がさらに好ましい。なお、焼入れ工程における通板速度が過度に速すぎると、上述した温度範囲に到達しない可能性があるため、鋼帯のある部位が加熱炉3を通過する時間(加熱される時間)を50〜120秒と設定することが好ましい。また加熱炉3内の雰囲気は、窒素、アルゴン、水素混合ガス等の非酸化性ガスを選択することが出来る。
【0013】
本発明はさらに生産効率を向上させるために、巻出し工程と焼入れ工程との間に予熱工程を設けてもよい。予熱炉(図示せず)には既存の加熱装置を適用することができるが、鋼帯の急速昇温を可能とする誘導加熱装置を使用することが好ましい。
また予熱工程時の予熱温度は、予熱を有効なものにするために、600℃以上に設定することが好ましい。一方で急激な昇温による変形をより確実に抑制するために、800℃以下に設定することが好ましい。
【0014】
また、本発明の焼入れ工程において、加熱炉3にて加熱した鋼帯を冷却する冷却工程は、冷却液噴霧装置4にて鋼帯をMs点超、かつ(Ms点+200℃)以下の温度範囲まで冷却する第一冷却工程と、第一冷却工程後、冷却液除去装置5により鋼帯2の表面に存在する液滴の除去を行う冷却液除去工程と、冷却液除去工程後の鋼帯を冷却定盤6で挟みこみ、(Ms点−50℃)以下まで冷却する第二冷却工程とを順に含むことが特徴である。上記の構成を有することで、パーライトノーズを避けつつ歪みや横曲りを抑制した鋼帯を作製することが出来る。
【0015】
<第一冷却工程>
本発明の第一冷却工程は、冷却液噴霧装置を用いて加熱後の鋼帯をMs点超、かつ(Ms点+200℃)以下の温度範囲まで冷却する。第一冷却方法にはソルト焼入れや溶融金属による焼入れ等も候補に挙がるが、温度調節がし易い点や、後述する冷却定盤による冷却時に鋼帯を保護する酸化皮膜を発生させることが出来るため、本発明の第一冷却工程には冷却液噴霧装置を用いた冷却が適している。第一冷却工程で鋼帯の温度がMs点以下となる場合、鋼帯に発生する歪が大きくなり過ぎて形状が不安定になる可能性がある。第一冷却時の鋼帯の温度がMs点+200℃を超える場合、後述する冷却定盤による冷却でMs点以下とすることが困難となる。
ここで上記の冷却液噴霧装置を用いた冷却に使用する冷却液は、例えば水(水溶性の油脂を添加したものも含む)を使用することができるが、より好ましくは純水を使用する。純水を使用することで、水道水に含まれるカルシウム等の不純物が焼入炉出口に堆積しなくなるため、上述した堆積物が鋼帯表面に引っ掛かることで発生する疵を抑制することができる。なおここでいう純水とは、電気伝導率が1mS/m以下の水である。
【0016】
<冷却液除去工程>
本発明では、第一冷却工程の後に冷却液除去装置による冷却液除去工程を行う。第一冷却工程で用いた冷却液噴霧装置による冷却を行うと、鋼帯の表面には液滴が残存する。この残存した液滴は後述する第二冷却工程時に、不均一な冷却を引き起こし、鋼帯の圧延方向における伸び差が増大する原因となるため、第二冷却工程の前に液滴を除去する工程が必要となる。この冷却液除去装置として、吸水性材(フェルトなど)を備えたローラー等も使用できるが、簡易に設置でき、鋼帯に疵を付けずに液滴を除去するという観点からは、空気やガス等の気体を吹き付けて水滴を飛ばすことができる気体噴射装置を使用することが好ましい。上記の気体噴射装置を適用することによって、マルテンサイト変態の進行をコントロールして形状を矯正することも可能である。この気体噴射装置は2台以上設置することも可能であり、例えば2台設置した場合、一方を液滴除去用、もう一方を形状矯正用とすることもできる。このとき形状矯正用の気体は、形状不良が発生しやすい箇所に集中的に吹き付けてもよい。上述した形状不良は第一冷却工程による冷却ばらつきにより、後述する第二冷却工程によるマルテンサイト変態が均一に進行しないことが原因の一つとして挙げられる。このマルテンサイト変態の不均一な進行を抑制するために、気体噴射冷却で鋼帯の冷却分布を調整することが有効である。例えば耳波が発生する際は鋼帯の端部に、中伸びが発生する場合には鋼帯の中央部に気体を吹き付けることが効果的である。この気体噴射工程を終えた鋼帯の温度は、第一冷却工程の温度以下、かつ(Ms点−50℃)を超える温度の範囲内に設定することができる。これは気体噴射で(Ms点−50℃)以下を達成するためには大がかりな設備改良が必要となるためである。また上述した気体の流速は、鋼帯表面から十分に液滴を除去させるために、5〜110m/sの範囲内で設定することが好ましい。より好ましい流速の上限は、95m/sである。より好ましい流速の下限は20m/sであり、さらに好ましい流速の下限は40m/sであり、最も好ましい流速の下限は60m/sである。なお噴射する気体は、例えば窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス、空気などの既存の噴射用気体から選択できるが、安価な空気を選択することがより好ましい。気体噴射装置自体も、冷却液に合わせて既存のエアブロー装置や扇風機等を用いることができる。また本発明に用いる気体噴射装置は、
図1に示すように鋼帯の上面のみに設置するだけでなく、鋼帯の表面側と裏面側とに1台ずつ設置したり、鋼帯の横側に設置してもよい。
【0017】
<第二冷却工程>
本発明の第2冷却工程は、冷却液除去工程後の鋼帯を冷却定盤にて挟み込み、(Ms点−50℃)以下まで冷却する。これにより鋼帯を物理的接触による熱伝導で急速に冷却しつつ、変形を抑制することが出来る。本発明で用いる冷却定盤は水により冷却する水冷定盤を使用することが好ましく、更に、複数個を連続して配置することが好ましい。水冷定盤を複数個連続して配置することにより、水冷定盤内で拘束する時間を長くすることができる。これにより確実に(Ms点−50℃)以下まで冷却することができ、鋼帯2の変形の防止や矯正をより確実に行うことができる。なお本実施形態では、
図1に示すように3個の水冷定盤を設置している。
【0018】
(焼戻し工程)
焼き入れ工程後、焼戻し炉7にて鋼帯を焼戻し、鋼帯を所望の硬さに調整する。この焼戻し炉の温度は300〜350℃に設定することが良い。焼戻しの温度が300℃未満の場合、鋼帯の硬度が高くなり過ぎ、焼戻しの温度が350℃を超える場合、硬度が低くなる。なお、焼戻し工程における通板速度が過度に速すぎると、上述した温度範囲に到達しない可能性があるため、鋼帯のある部位が加熱炉3を通過する時間(加熱される時間)を30〜90秒と設定することが好ましい。また焼戻し炉内の雰囲気は、窒素、アルゴン、水素混合ガス等の非酸化性ガスを選択することができる。
【0019】
(巻戻し工程)
焼戻し工程後、巻取り機8によって巻取ることにより、脱炭を発生させることなく所望の硬さを有する焼入れ鋼帯を得ることができる。
本発明では、前述したように、巻出し工程から巻取り工程までの各工程をコイルから巻
き出した鋼帯を再びコイルに巻き取るまでを連続で行うことが可能なため、高い生産性を有する。
【0020】
(伸び差率)
本発明の焼入鋼帯は伸び差率が0.02%以下であることが好ましい。伸び差率をこの数値範囲に収めることで、中伸びや耳波等の鋼帯に発生する形状不良を抑制し、切断後の金属条に発生する横曲がり量を低減させることができる。ここでの伸び差率とは、焼入れ時に生じた長手方向(圧延方向)における歪みの差を示す。伸び差率の測定方法としては、複数条に切断したり、既存の三次元測定装置を使用することで計測することができる。本実施形態での測定方法は、例として下記に示す方法で測定することができる。まず鋼帯を一定長さに切断して水平定盤上に置き、レーザー変位計等を用いて切断した鋼帯の浮上り高さを測定する。この浮上り高さより、幅方向の位置ごとに一定長さにおける伸びが算出できるので、最も伸びが小さい測定部位を基準伸び長さLとする。そして各幅位置における伸び長さをLxとした際、伸び差率は(Lx−L)/Lの計算により求めることができる。
【0021】
本発明の鋼帯はマルテンサイト系ステンレス鋼であることが好ましい。本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼の具体的な成分組成には、例えばJIS−G−4303に示されるものの他に、これらの改良鋼等、そして、従来提案されてきたものも適用できる。例えば、本発明の鋼帯の成分組成は、質量%で、C:0.3〜1.2%、Cr:10.0〜18.0%を含むことが好ましい。また本鋼の成分組成は、C:0.3〜1.2%、Si:1%以下(0%を含まない)、Mn:2%以下(0%を含まない)、Mo:3.0%以下(0%を含む)、Ni:1.0%以下(0%を含む)、Cr:10.0〜18.0%、残部:Feおよび不可避不純物であるマルテンサイト系ステンレス鋼であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0022】
まず厚さが0.1mmであり、幅が115mmであるマルテンサイト系ステンレス鋼帯を用意した。成分組成を表1に示す。本実施形態で用いるマルテンサイト系ステンレス鋼帯のMs点は、約280℃である。用意した鋼帯を巻出し機にセットし、鋼帯を巻出し機より巻き出し、巻き出された鋼帯を、アルゴンガス雰囲気とした加熱炉に通板させて、1000〜1050℃に昇温保持して加熱した。鋼帯の搬送速度は、9m/minであり、この時の鋼帯のある部位が加熱炉を通過する時間(加熱される時間)は、約90秒であった。続いて、加熱炉の出側に設置された冷却液噴霧装置により、鋼帯に純水を噴霧して第一冷却工程を行い、鋼帯を290〜350℃まで冷却した後、水冷定盤で挟みながらする第二冷却工程を行い、100℃以下まで冷却した。その後、鋼帯をアルゴンガス雰囲気とした焼戻し炉に通板して300〜350℃で焼戻しを行い、巻取り機によって鋼帯を巻取って焼入鋼帯を作成した。この焼戻し工程時における鋼帯の加熱される時間は、約40秒であった。このうち本発明例となるNo.1の試料では、第一冷却工程と第二冷却工程との間に、風速80〜90m/sのエアブローにより、鋼帯表面の冷却液滴を除去した。冷却液滴除去後の鋼帯の温度は、250℃〜310℃程度であった。比較例となるNo.2の試料は第一冷却工程の後に冷却液除去工程を行わなかった。
【0023】
【表1】
【0024】
次に本発明の焼入鋼帯の伸び差率、および焼入鋼帯から作製した金属条の横曲り量を測定した。伸び差率の測定方法は、まず本発明の焼入鋼帯から長さ800mm、幅115mmの試験片を切り出し(このときの長さ方向は、
図6における圧延方向Tである。)、三次元形状測定器を用いて、その試験片を水平定盤上に置き、レーザー変位計等を用いて、800mm長さにおける鋼帯の浮上り高さを2.3mm幅の間隔で測定した。続いて得られた浮上り高さから各幅位置における伸び長さを求め、最も伸びが小さい端部の伸び長さを基準伸び長さL、各幅位置における伸び長さをLxとして、伸び差率を(Lx−L)/Lの式より求めた。伸び差率の測定結果を
図2および
図3に示す。横曲り量は得られた焼入鋼帯を長さ2〜3m、幅26mmに切断して(
図6の点線の位置で切断)4条の金属条a〜dとした後、それぞれの金属条の任意の2m長さにおいて、幅方向の最大曲がり量を横曲がり量として、水平定盤を用いて測定した。結果を
図4、
図5および表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
図2〜
図5、表2の結果より、冷却液除去工程を行っていない比較例のNo.11は、最大伸び差率が0.03%を超えており、No.11から得られた金属条も、鋼帯の両端部である条a、条dの位置において2.0mm以上の横曲りが発生していることが確認された。対して本発明例は、最大伸び差率が0.016%未満、金属条の横曲りが端部・中央部ともに1.0mm以下と優れた値を示し、比較例よりも形状不良が抑制できていることが確認できた。
【符号の説明】
【0027】
1 巻出し装置
2 鋼帯
3 加熱炉(焼入れ用)
4 冷却液噴霧装置
5 冷却液除去装置
6 冷却定盤
7 焼戻し炉
8 巻取り装置