(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6886647
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】キルン排ガスの処理方法、および、セメント製造設備
(51)【国際特許分類】
C04B 7/60 20060101AFI20210603BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
C04B7/60
F27D17/00 104G
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-218836(P2020-218836)
(22)【出願日】2020年12月28日
【審査請求日】2021年2月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】稲津 和喜
【審査官】
手島 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−180941(JP,A)
【文献】
特開2010−42971(JP,A)
【文献】
特開2015−98406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/60
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キルンからプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスの一部が抽気される抽気部と、抽気部に冷却エアを導入する導入管とを備えるセメント製造設備における前記抽気部から前記導入管にわたる領域であって前記抽気部および前記導入管を含む領域に、硫酸カリウム、炭酸カリウム、及び、水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも一つの塩素凝集促進剤を供給することを特徴とする、
キルン排ガスの処理方法。
【請求項2】
キルンからプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスの一部が抽気される抽気部と、抽気部からキルン排ガスを抽気する抽気管とを備えるセメント製造設備における前記抽気部から前記抽気管にわたる領域であって前記抽気部および前記抽気管を含む領域に、硫酸カリウム、炭酸カリウム、及び、水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも一つの塩素凝集促進剤を供給することを特徴とする、
キルン排ガスの処理方法。
【請求項3】
前記塩素凝集促進剤は、水に溶解して散水することによって供給することを特徴とする、
請求項1または2に記載のキルン排ガスの処理方法。
【請求項4】
抽気率が所定値未満であるときは、前記塩素凝集促進剤を供給し、
抽気率が所定値以上であるときは、前記塩素凝集促進剤の供給を停止することを特徴とする、
請求項1乃至3の何れか一項に記載のキルン排ガスの処理方法。
【請求項5】
キルンからプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスの一部が抽気される抽気部と、抽気部に冷却エアを導入する導入管とを備えるセメント製造設備であって、
前記抽気部から前記導入管にわたる領域であって前記抽気部および前記導入管を含む領域に、硫酸カリウム、炭酸カリウム、及び、水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも一つの塩素凝集促進剤を供給可能に構成されることを特徴とする、
セメント製造設備。
【請求項6】
キルンからプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスの一部が抽気される抽気部と、抽気部からキルン排ガスを抽気する抽気管とを備えるセメント製造設備であって、
前記抽気部から前記抽気管にわたる領域であって前記抽気部および前記抽気管を含む領域に、硫酸カリウム、炭酸カリウム、及び、水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも一つの塩素凝集促進剤を供給可能に構成されることを特徴とする、
セメント製造設備。
【請求項7】
前記塩素凝集促進剤を水に溶解した水溶液を、前記抽気部から前記導入管にわたる領域であって前記抽気部および前記導入管を含む領域に散水する散水設備を備えることを特徴とする、
請求項5に記載のセメント製造設備。
【請求項8】
前記塩素凝集促進剤を水に溶解した水溶液を、前記抽気部から前記抽気管にわたる領域であって前記抽気部および前記抽気管を含む領域に散水する散水設備を備えることを特徴とする、
請求項6に記載のセメント製造設備。
【請求項9】
抽気率が所定値未満であるときは、前記塩素凝集促進剤を供給し、
抽気率が所定値以上であるときは、前記塩素凝集促進剤の供給が停止する供給切替手段を備えることを特徴とする、
請求項5乃至8の何れか一項に記載のセメント製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キルン排ガスの処理方法、および、セメント製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの製造では、原料や燃料の代替材料として廃棄物を利用するため、キルンから排出されるキルン排ガスは、塩素を含有するものとなる。斯かるキルン排ガスは、複数のサイクロンを備えるプレヒータに流入し、プレヒータに供給される原料と接触して該原料を加熱する。
【0003】
このようにキルン排ガスが原料と接触すると、キルン排ガス中の塩素が原料に付着してキルンへ戻るため、セメント製造設備の継続的な操業によって、キルン排ガス中の塩素量が経時的に増加する。これに伴って原料に付着してキルンへ戻る塩素量が増加するため、キルンで焼成されるクリンカに含まれる塩素量が増加し、セメントの品質が低下する。そこで、多くのセメント製造設備では、キルンから最下段サイクロンへ向けて流れるキルン排ガスの一部を抽気し、抽気したキルン排ガスを脱塩設備に供給することで、キルンへ戻る塩素量の削減を図っている。
【0004】
抽気したキルン排ガス中の塩素は、キルン排ガスの温度低下によって気相状態から液相状態や固相状態に変化し、キルン排ガス中のダストに付着する。このため、抽気したキルン排ガス中のダストを回収することで塩素を回収することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−180941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、気相状態の塩素は、温度低下に伴って液相状態、固相状態の順に変化する。このため、抽気したキルン排ガスの温度低下が十分ではない場合、抽気したキルン排ガス中に液相状態の塩素が比較的多く存在することになる。このような場合、液相状態の塩素が、抽気したキルン排ガスの流路の内面に付着して析出物(所謂、コーチング)となり、流路を細くしたり、析出物の脱落によって流路を閉塞したりする虞がある。そこで、抽気したキルン排ガス中に存在する液相状態の塩素を減らし、固相状態の塩素を増やすことが要求されている。例えば、冷却エアと共にキルン排ガスを抽気してキルン排ガスを冷却することで、固相状態の塩素を増やすことが考えられる。
【0007】
しかしながら、単位時間当たりに抽気可能なガス量を一定にする必要がある場合、冷却エアの供給によってキルン排ガス自体の抽気量を減少させる必要があるため、キルン排ガスの抽気効率が低下する。また、キルン排ガス自体の抽気量を維持しつつ、冷却エアの供給を行うと、単位時間当たりに抽気するガス量を増加させる必要があるため、後のガス処理設備(例えば、脱塩設備など)に意図しない負荷がかかったり、後のガス処理設備の変更や改修が必要となったりする場合がある。
【0008】
そこで、本発明は、抽気したキルン排ガスの温度が比較的高い状態であっても該キルン排ガス中の塩素を固相状態に変化させることができるキルン排ガスの処理方法、および、該処理方法を用いたセメント製造設備を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るキルン排ガスの処理方法は、キルンからプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスの一部が抽気される抽気部と、抽気部に冷却エアを導入する導入管とを備えるセメント製造設備における前記抽気部から前記導入管にわたる領域であって前記抽気部および前記導入管を含む領域に、硫酸カリウム、炭酸カリウム、及び、水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも一つの塩素凝集促進剤を供給することを特徴とする。
【0010】
斯かる構成によれば、セメント製造設備における抽気部から導入管にわたる領域であって抽気部および導入管を含む領域に、上記の塩素凝集促進剤を供給することで、抽気したキルン排ガス中の塩素の固相転移温度が上昇する。このため、抽気したキルン排ガスの温度が比較的高い状態であっても気相状態の塩素を固相状態に変化させることができる。これにより、抽気したキルン排ガスの流路に塩素が析出する(所謂、コーチングが生じる)のを抑制することができる。また、抽気したキルン排ガスの温度が比較的高い状態であっても気相状態の塩素が固相状態に容易に変化するため、冷却エアの供給量を低減することができ、単位時間当たりのキルン排ガスの抽気量を増加させることができる。
【0011】
本発明に係る他のキルン排ガスの処理方法は、キルンからプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスの一部が抽気される抽気部と、抽気部からキルン排ガスを抽気する抽気管とを備えるセメント製造設備における前記抽気部から前記抽気管にわたる領域であって前記抽気部および前記抽気管を含む領域に、硫酸カリウム、炭酸カリウム、及び、水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも一つの塩素凝集促進剤を供給することを特徴とする。
【0012】
斯かる構成によれば、セメント製造設備における抽気部から抽気管にわたる領域であって抽気部および抽気管を含む領域に、上記の塩素凝集促進剤を供給することで、抽気したキルン排ガス中の塩素の固相転移温度が上昇する。このため、抽気したキルン排ガスの温度が比較的高い状態であっても気相状態の塩素を固相状態に変化させることができる。これにより、抽気したキルン排ガスの流路に塩素が析出する(所謂、コーチングが生じる)のを抑制することができる。また、抽気したキルン排ガスの温度が比較的高い状態であっても気相状態の塩素が固相状態に変化するため、単位時間当たりのキルン排ガスの抽気量を増加させることができる。
【0013】
前記塩素凝集促進剤は、水に溶解して散水することによって供給してもよい。
【0014】
斯かる構成によれば、塩素凝集促進剤を水に溶解して散水することによって塩素凝集促進剤を供給することで、抽気したキルン排ガス中の気相状態の塩素をより効果的に固相状態に変化させることができる。
【0015】
抽気率が所定値未満であるときは、前記塩素凝集促進剤を供給し、
抽気率が所定値以上であるときは、前記塩素凝集促進剤の供給を停止してもよい。
【0016】
斯かる構成によれば、抽気率が所定値以上であるときは、塩素凝集促進剤の供給を停止するため、塩素凝集促進剤の使用量を低減することができる。
【0017】
本発明に係るセメント製造設備は、キルンからプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスの一部が抽気される抽気部と、抽気部に冷却エアを導入する導入管とを備えており、前記抽気部から前記導入管にわたる領域であって前記抽気部および前記導入管を含む領域に、硫酸カリウム、炭酸カリウム、及び、水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも一つの塩素凝集促進剤を供給可能に構成されることを特徴とする。
【0018】
斯かる構成によれば、抽気部から導入管にわたる領域であって抽気部および導入管を含む領域に、上記の塩素凝集促進剤を供給することで、抽気したキルン排ガス中の塩素の固相転移温度が上昇する。このため、抽気したキルン排ガスの温度が比較的高い状態であっても気相状態の塩素を固相状態に変化させることができる。これにより、抽気したキルン排ガスの流路に塩素が析出する(所謂、コーチングが生じる)のを抑制することができる。また、抽気したキルン排ガスの温度が比較的高い状態であっても気相状態の塩素が固相状態に変化するため、冷却エアの供給量を低減することができ、単位時間当たりのキルン排ガスの抽気量を増加させることができる。
【0019】
本発明に係る他のセメント製造設備は、キルンからプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスの一部が抽気される抽気部と、抽気部からキルン排ガスを抽気する抽気管とを備えており、前記抽気部から前記抽気管にわたる領域であって前記抽気部および前記抽気管を含む領域に、硫酸カリウム、炭酸カリウム、及び、水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも一つの塩素凝集促進剤を供給可能に構成されることを特徴とする。
【0020】
斯かる構成によれば、抽気部から抽気管にわたる領域であって抽気部および抽気管を含む領域に、上記の塩素凝集促進剤を供給することで、抽気したキルン排ガス中の塩素の固相転移温度が上昇する。このため、抽気したキルン排ガスの温度が比較的高い状態であっても気相状態の塩素を固相状態に変化させることができる。これにより、抽気したキルン排ガスの流路に塩素が析出する(所謂、コーチングが生じる)のを抑制することができる。
【0021】
前記塩素凝集促進剤を水に溶解した水溶液を、前記抽気部から前記導入管にわたる領域であって前記抽気部および前記導入管を含む領域に散水する散水設備を備えてもよい。
【0022】
斯かる構成によれば、塩素凝集促進剤の水溶液を散水設備から散水することによって塩素凝集促進剤を供給できるため、抽気したキルン排ガス中の気相状態の塩素をより効果的に固相状態に変化させることができる。
【0023】
前記塩素凝集促進剤を水に溶解した水溶液を、前記抽気部から前記抽気管にわたる領域であって前記抽気部および前記抽気管を含む領域に散水する散水設備を備えてもよい。
【0024】
斯かる構成によれば、塩素凝集促進剤の水溶液を散水設備から散水することによって塩素凝集促進剤を供給できるため、抽気したキルン排ガス中の気相状態の塩素をより効果的に固相状態に変化させることができる。
【0025】
抽気率が所定値未満であるときは、前記塩素凝集促進剤を供給し、
抽気率が所定値以上であるときは、前記塩素凝集促進剤の供給を停止する供給切替手段を備えてもよい。
【0026】
斯かる構成によれば、抽気率が所定値以上であるときは、塩素凝集促進剤の供給を停止するため、塩素凝集促進剤の使用量を低減することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によれば、抽気したキルン排ガス中の塩素を容易に固相状態に変化させることができるキルン排ガスの処理方法、および、該処理方法を用いたセメント製造設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係るセメント製造設備を示した概略図。
【
図2】同実施形態に係るセメント製造設備における抽気口の近傍の断面を示した概略図。
【
図3】他の実施形態に係るセメント製造設備における抽気口の近傍の断面を示した概略図。
【
図4】さらに他の実施形態に係るセメント製造設備における抽気口の近傍の断面を示した概略図。
【
図5】さらに他の実施形態に係るセメント製造設備における抽気口の近傍の断面を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態について、
図1,2を参照しながら説明する。
なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0030】
本実施形態に係るキルン排ガスの処理方法は、
図1,2に示すように、セメント製造設備10を構成するキルン1から排出されるキルン排ガスを処理するものである。セメント製造設備10は、セメント原料を焼成するキルン1と、複数のサイクロン2aを有するプレヒータ2とを備える。また、セメント製造設備10は、キルン1からプレヒータ2の最下段のサイクロン2aへ向けて流れるキルン排ガスの流路に、キルン1に連結された窯尻部3と、該窯尻部3に連結されたライジングダクト4と、ライジングダクト4に連結された仮焼炉5とを備える。
【0031】
また、セメント製造設備10は、キルン1からプレヒータ2の最下段のサイクロン2aへ向けて流れるキルン排ガスの一部が抽気される抽気部6を備える。抽気部6は、キルン1からプレヒータ2の最下段のサイクロン2aへ向けて流れるキルン排ガスの流路を形成する。本実施形態では、抽気部6は、窯尻部3から仮焼炉5にわたる領域であって窯尻部3および仮焼炉5を含む領域に形成される。具体的には、抽気部6としては、窯尻部3の下部から仮焼炉5の下部にわたる領域であってもよく、窯尻部3の上部から仮焼炉5の下部にわたる領域であってもよく、ライジングダクト4の下部から仮焼炉5の下部にわたる領域であってもよく、ライジングダクト4であってもよい。また、抽気部6は、例えば、最下段のサイクロン2aと窯尻部3とを連結するサイクロンシュート2bの下端部よりも上側に形成されてもよい。
【0032】
また、セメント製造設備10は、
図2に示すように、抽気部6からキルン排ガスの一部を抽気する抽気管7と、抽気部6に冷却エアを導入する導入管8とを備える。抽気管7は、抽気部6に連結されると共に、抽気したキルン排ガスから塩素成分を除去する脱塩設備(図示せず)に連結される。また、抽気管7は、先端部に抽気口7aを備える。該抽気口7aは、抽気部6におけるキルン排ガスの流路Rに露出する。導入管8は、抽気部6に連結される。また、導入管8の内側には、抽気管7が配置され、導入管8と抽気管7との間を冷却エアが流通する。また、導入管8は、先端部に導入口8aを備える。該導入口8aは、抽気部6におけるキルン排ガスの流路Rに露出する。本実施形態では、抽気口7aと導入口8aとは、略面一となる。
【0033】
本実施形態に係るセメント製造設備10では、導入管8から抽気部6(流路R)に冷却エアを供給しつつ、抽気管7によってキルン排ガスを冷却エアと共に抽気する。換言すれば、セメント製造設備10では、抽気部6を流れるキルン排ガスの一部を冷却エアで冷却しつつ抽気する。
【0034】
本実施形態に係るキルン排ガスの処理方法は、抽気部6から導入管8にわたる領域であって抽気部6および導入管8を含む領域に、硫酸カリウム、炭酸カリウム、及び、水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも一つの塩素凝集促進剤を供給する。塩素凝集促進剤を供給する位置としては、抽気部6(具体的には、流路R)、および、導入管8(本実施形態では、導入管8と抽気管7との間)の少なくとも一方とすることができる。
【0035】
塩素凝集促進剤を抽気部6に供給する場合の供給位置としては、抽気部6における抽気管7および導入管8との連結位置の近傍の位置Aとすることができる。また、他の供給位置としては、抽気部6における流路Rを形成する壁部のうち、導入管8および抽気管7との連結位置に対向する位置の近傍の位置Bとすることができる。また、さらに他の供給位置としては、位置Aと位置Bとの間の位置とすることができる。上記の供給位置は、一つであってもよく、複数であってもよい。塩素凝集促進剤を導入管8の内側(本実施形態では、導入管8と抽気管7との間)の位置Cに供給する場合、導入管8から冷却エアと共に塩素凝集促進剤が抽気部6(流路R)に供給される。
【0036】
また、塩素凝集促進剤は、水に溶解して散水する(具体的には、セメント製造設備10が備える散水設備(図示せず)によって水溶液を散水する)ことによって供給してもよく、空気と共に粉状で散布することによって供給してもよい。また、塩素凝集促進剤の供給量は、キルン排ガス中の塩素濃度および/またはキルンに供給される原料の塩素含有量に基づいて設定してもよく、後述の抽気率に基づいて設定してもよい。
【0037】
また、塩素凝集促進剤は、抽気率が所定値未満であるときに供給し、抽気率が所定値以上であるときは供給を停止することが好ましい。具体的には、セメント製造設備10が備える供給切替手段(図示せず)によって、抽気率が所定値未満であるときは塩素凝集促進剤を供給し、抽気率が所定値以上であるときは塩素凝集促進剤の供給を停止するように切り替えることが好ましい。抽気率は、下記式に基づいて算出することができる。塩素凝集促進剤を水に溶解して散水することで供給する場合、水への塩素凝集促進剤の添加のみを停止し、散水による水の供給は継続することが好ましい。水の供給を継続することで、キルン排ガスの流路における蒸気量に変動が生じるのが抑制され、キルン排ガス量が増減してセメント製造設備のガスバランスが不安定になるのを抑制することができる。塩素凝集促進剤の供給と供給の停止とを判断する流れとしては、例えば、以下のような流れが考えられる。即ち、塩素凝集促進剤を用いなければ冷却エアの供給量を増やす必要がある場合(具体的には、抽気するキルン排ガスをより低い温度まで冷却する必要がある場合)、冷却エアの増加に対応して、抽気できるキルン排ガスの量が減少するため、抽気率が所定値未満となることが想定される。このように、想定される抽気率が所定値未満であるときには、塩素凝集促進剤を供給する。一方、塩素凝集促進剤を用いなくても冷却エアの供給量を増やす必要がない場合(具体的には、抽気するキルン排ガスをより低い温度まで冷却しなくてもよい場合)、冷却エアの増加に対応して、抽気できるキルン排ガスの量が減少することがないため、抽気率が所定値以上に維持されることが想定される。このように、想定される抽気率が所定値以上であるときには、塩素凝集促進剤の供給を停止する。
抽気率(%)=抽気ガス量[Nm
3/h]/抽気部ガス量[Nm
3/h]×100
(抽気ガス量:抽気管7によって抽気されるキルン排ガスの量)
(抽気部ガス量:抽気部6を最下段のサイクロンへ向けて流通するキルン排ガスの量)
【0038】
以上のように、本実施形態に係るキルン排ガスの処理方法、および、セメント製造設備10は、抽気したキルン排ガス中の塩素を容易に固相状態に変化させることができる。
【0039】
即ち、セメント製造設備10における抽気部6から導入管8にわたる領域であって抽気部6および導入管8を含む領域に、上記の塩素凝集促進剤を供給することで、抽気したキルン排ガス中の塩素の固相転移温度が上昇する。このため、抽気したキルン排ガスの温度が比較的高い状態であっても気相状態の塩素を固相状態に容易に変化させることができる。これにより、抽気したキルン排ガスの流路に塩素が析出する(所謂、コーチングが生じる)のを抑制することができる。また、抽気したキルン排ガスの温度が比較的高い状態であっても気相状態の塩素が固相状態に容易に変化するため、冷却エアの供給量を低減することができ、単位時間当たりのキルン排ガスの抽気量を増加させることができる。
【0040】
また、塩素凝集促進剤を水に溶解して散水することによって供給する場合、抽気したキルン排ガス中の気相状態の塩素をより容易に固相状態に変化させることができる。
【0041】
また、抽気率が所定値未満であるときは、塩素凝集促進剤を供給し、抽気率が所定値以上であるときは、塩素凝集促進剤の供給を停止することで、塩素凝集促進剤の使用量を低減することができる。
【0042】
なお、本発明に係るキルン排ガスの処理方法およびセメント製造設備は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記および下記の複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよい(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよい)ことは勿論である。
【0043】
上記実施形態では、セメント製造設備10は、導入管8を備えているが、これに限定されず、例えば、
図3に示すように、導入管8を備えないように構成してもよい。斯かる場合には、抽気部6から抽気管7にわたる領域であって抽気部6および抽気管7を含む領域に、上記の塩素凝集促進剤を供給する。具体的には、抽気部6に塩素凝集促進剤を供給する場合の供給位置としては、上記実施形態のように、位置A,位置B,および、位置Aと位置Bとの間の位置から選択される少なくとも一か所とすることができる。また、抽気管7に塩素凝集促進剤を供給する場合の供給位置としては、抽気管7内の流路(位置D)とすることができる。
【0044】
上記実施形態では、抽気口7aと導入口8aとが略面一となっているが、これに限定されず、例えば、
図4に示すように、抽気口7aが導入管8の内側に位置してもよい。斯かる場合、導入管8の内側でキルン排ガスに冷却エアが供給され、冷却エアと共にキルン排ガスが抽気管7に抽気される。
【0045】
また、上記実施形態では、抽気管7は、導入管8内に配置されているが、これに限定されず、例えば、
図5に示すように、導入管8の外側に位置してもよい。斯かる場合、導入口8aが抽気口7aの近傍に位置し、導入口8aから抽気口7a側へ向かって冷却エアを排出することが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例、および、比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
<塩素凝集促進剤>
・硫酸カリウム(K
2SO
4)
・炭酸カリウム(K
2CO
3)
・水酸化カリウム(KOH)
・硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)
・炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)
・水酸化ナトリウム(NaOH)
【0048】
<抽気ガス量>
気相状態の塩素を含むキルン排ガスに、上記の各塩素凝集促進剤(以下では、単に「促進剤」とも記す)を添加した場合の塩素の固相転移温度と、添加しない場合の塩素の固相転移温度とを算出した。そして、抽気管7で抽気したキルン排ガスの抽気管7の出口部分での温度が各固相転移温度となるように、キルン排ガスの抽気量(抽気ガス量)と冷却エアの供給量とをヒートバランスから算出し、抽気ガス量を求めた。固相転移温度の算出方法、抽気ガス量の算出方法については下記に示す。
【0049】
<固相転移温度算出方法>
キルン排ガスに、促進剤を添加した場合の固相転移温度と、促進剤を添加しない場合の固相転移温度とを、解析ソフトを用いて算出した。解析ソフトは、Factsage 6.2(GTT−Technologies社、ドイツ)を用いた。シミュレーション条件は、下記表1に示す。また、固相転移温度は、下記表2に示す。
【0050】
<抽気ガス量算出方法>
(1)抽気したキルン排ガスの抽気管7の出口部分での温度が各固相転移温度となる抽気ガス量(kg/s)と冷却エア量とを、ヒートバランスより算出し、抽気ガス量を求めた。冷却エアの条件、キルン排ガスの条件、促進剤溶液の条件については、下記表3に示す。また、下記表4には、比較例1の抽気ガス量を100%として他の比較例および各実施例の抽気ガス量の割合を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
<まとめ>
表2を見ると、各実施例の方が各比較例よりも固相転移温度が高いことが認められる。つまり、各実施例の塩素凝集促進剤を用いることで、抽気したキルン排ガス中の塩素の固相転移温度が上昇する。このため、抽気したキルン排ガスの温度が比較的高い状態であっても気相状態の塩素を固相状態に変化させることができる。これにより、抽気したキルン排ガスの流路に塩素が析出する(所謂、コーチングが生じる)のを抑制することができる。
また、表4を見ると、各実施例の方が各比較例よりも、抽気ガス量が多いことが認められる。つまり、各実施例の塩素凝集促進剤を用いることで、抽気したキルン排ガスの温度が比較的高い状態であっても気相状態の塩素が固相状態に変化するため、冷却エアの供給量を低減することができ、単位時間当たりのキルン排ガスの抽気量(抽気ガス量)を増加させることができる。
【符号の説明】
【0056】
1…キルン、2…プレヒータ、2a…サイクロン、2b…サイクロンシュート、3…窯尻部、4…ライジングダクト、5…仮焼炉、6…抽気部、7…抽気管、7a…抽気口、8…導入管、8a…導入口、10…セメント製造設備、R…キルン排ガスの流路
【要約】
【課題】抽気したキルン排ガス中の塩素を容易に固相状態に変化させることを課題とする。
【解決手段】本発明に係るキルン排ガスの処理方法は、キルンからプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスの一部が抽気される抽気部と、抽気部に冷却エアを導入する導入管とを備えるセメント製造設備における前記抽気部から前記導入管にわたる領域であって前記抽気部および前記導入管を含む領域に、硫酸カリウム、炭酸カリウム、及び、水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも一つの塩素凝集促進剤を供給することを特徴とする。
【選択図】なし