(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0018】
図1は、一実施形態に係るプラズマ処理方法を示す流れ図である。
図1に示すプラズマ処理方法(以下、「方法MT」という)は、基板の膜をエッチングするために実行される。
図2は、一例の基板の一部拡大断面図である。方法MTが適用される基板Wは、膜SFを有する。膜SFは、任意の膜であり得る。一例において、膜SFは、シリコンを含有する。一例において、膜SFは、多層膜である。多層膜は、複数の第1の膜F1及び複数の第2の膜F2を含み得る。複数の第1の膜F1及び複数の第2の膜F2は交互に積層されている。一例において、複数の第1の膜F1の各々はシリコン酸化膜であり、複数の第2の膜F2はシリコン窒化膜である。
【0019】
基板Wは、下地領域UR及びマスクMKを更に有し得る。膜SFは下地領域UR上に設けられている。マスクMKは、膜SF上に設けられている。マスクMKは、パターニングされた領域である。マスクMKは、膜SFに転写すべきパターンを提供している。マスクMKは、一つ以上の開口OMを提供している。
【0020】
方法MTでは、膜のエッチングがプラズマ処理装置を用いて行われる。
図3は、
図1に示すプラズマ処理方法の実行に用いることが可能な一例のプラズマ処理装置を概略的に示す図である。
図3に示すプラズマ処理装置1は、容量結合型プラズマ処理装置である。プラズマ処理装置1は、チャンバ10を備えている。チャンバ10は、その中に内部空間10sを提供している。
【0021】
チャンバ10は、チャンバ本体12を含んでいる。チャンバ本体12は、略円筒形状を有している。内部空間10sは、チャンバ本体12の内側に提供されている。チャンバ本体12は、例えばアルミニウムから形成されている。チャンバ本体12の内壁面には、耐腐食性を有する膜が施されている。耐腐食性を有する膜は、酸化アルミニウム、酸化イットリウムといったセラミックから形成された膜であり得る。
【0022】
チャンバ本体12の側壁には、通路12pが形成されている。基板Wは、内部空間10sとチャンバ10の外部との間で搬送されるときに、通路12pを通過する。通路12pは、ゲートバルブ12gにより開閉可能となっている。ゲートバルブ12gは、チャンバ本体12の側壁に沿って設けられている。
【0023】
チャンバ本体12の底部上には、支持部13が設けられている。支持部13は、絶縁材料から形成されている。支持部13は、略円筒形状を有している。支持部13は、内部空間10sの中で、チャンバ本体12の底部から上方に延在している。支持部13は、支持台14を支持している。支持台14は、内部空間10sの中に設けられている。支持台14は、内部空間10sの中で、基板Wを支持するように構成されている。
【0024】
支持台14は、下部電極18及び静電チャック20を有している。支持台14は、電極プレート16を更に有し得る。電極プレート16は、例えばアルミニウムといった導体から形成されており、略円盤形状を有している。下部電極18は、電極プレート16上に設けられている。下部電極18は、例えばアルミニウムといった導体から形成されており、略円盤形状を有している。下部電極18は、電極プレート16に電気的に接続されている。
【0025】
静電チャック20は、下部電極18上に設けられている。静電チャック20の上面の上には、基板Wが載置される。静電チャック20は、本体及び電極を有する。静電チャック20の本体は、誘電体から形成されている。静電チャック20の電極は、膜状の電極であり、静電チャック20の本体内に設けられている。静電チャック20の電極は、スイッチ20sを介して直流電源20pに接続されている。静電チャック20の電極に直流電源20pからの電圧が印加されると、静電チャック20と基板Wとの間で静電引力が発生する。発生した静電引力により、基板Wは、静電チャック20に引き付けられ、静電チャック20によって保持される。
【0026】
下部電極18の周縁部上には、基板Wのエッジを囲むように、フォーカスリングFRが配置される。フォーカスリングFRは、基板Wに対するプラズマ処理の面内均一性を向上させるために設けられている。フォーカスリングFRは、限定されるものではないが、シリコン、炭化シリコン、又は石英から形成され得る。
【0027】
下部電極18の内部には、流路18fが設けられている。チャンバ10の外部には、チラーユニット22が設けられている。チラーユニット22は、配管22aを介して流路18fに熱交換媒体(例えば冷媒)を供給する。流路18fに供給された熱交換媒体は、配管22bを介してチラーユニット22に戻される。プラズマ処理装置1では、静電チャック20上に載置された基板Wの温度が、熱交換媒体と下部電極18との熱交換により、調整される。
【0028】
プラズマ処理装置1には、ガス供給ライン24が設けられている。ガス供給ライン28は、伝熱ガス供給機構からの伝熱ガス(例えばHeガス)を、静電チャック20の上面と基板Wの裏面との間に供給する。
【0029】
プラズマ処理装置1は、上部電極30を更に備えている。上部電極30は、支持台14の上方に設けられている。上部電極30は、部材32を介して、チャンバ本体12の上部に支持されている。部材32は、絶縁性を有する材料から形成されている。上部電極30と部材32は、チャンバ本体12の上部開口を閉じている。
【0030】
上部電極30は、天板34及び支持体36を含み得る。天板34の下面は、内部空間10sの側の下面であり、内部空間10sを画成している。天板34は、シリコンといった導電体又は酸化シリコンといった絶縁体から形成されている。天板34には、複数のガス吐出孔34aが形成されている。複数のガス吐出孔34aは、天板34をその板厚方向に貫通している。
【0031】
支持体36は、天板34を着脱自在に支持する。支持体36は、アルミニウムといった導電性材料から形成される。支持体36の内部には、ガス拡散室36aが設けられている。支持体36には、複数のガス孔36bが形成されている。複数のガス孔36bは、ガス拡散室36aから下方に延びている。複数のガス孔36bは、複数のガス吐出孔34aにそれぞれ連通している。支持体36には、ガス導入口36cが形成されている。ガス導入口36cは、ガス拡散室36aに接続している。ガス導入口36cには、ガス供給管38が接続されている。
【0032】
ガス供給管38には、バルブ群41、流量制御器群42、及びバルブ群43を介して、ガスソース群40が接続されている。ガスソース群40は、複数のガスソースを含んでいる。ガスソース群40の複数のガスソースは、方法MTで利用される複数のガスのソースを含んでいる。バルブ群41及びバルブ群43の各々は、複数の開閉バルブを含んでいる。流量制御器群42は、複数の流量制御器を含んでいる。流量制御器群42の複数の流量制御器の各々は、マスフローコントローラ又は圧力制御式の流量制御器である。ガスソース群40の複数のガスソースの各々は、バルブ群41の対応の開閉バルブ、流量制御器群42の対応の流量制御器、及びバルブ群43の対応の開閉バルブを介して、ガス供給管38に接続されている。
【0033】
プラズマ処理装置1では、チャンバ本体12の内壁面に沿って、シールド46が着脱自在に設けられている。シールド46は、支持部13の外周にも設けられている。シールド46は、チャンバ本体12にエッチング副生成物が付着することを防止する。シールド46は、例えば、アルミニウムから形成された母材の表面に耐腐食性を有する膜を形成することにより構成される。耐腐食性を有する膜は、酸化イットリウムといったセラミックから形成された膜であり得る。
【0034】
支持部13とチャンバ本体12の側壁との間には、バッフルプレート48が設けられている。バッフルプレート48は、例えば、アルミニウムから形成された母材の表面に耐腐食性を有する膜を形成することにより構成される。耐腐食性を有する膜は、酸化イットリウムといったセラミックから形成された膜であり得る。バッフルプレート48には、複数の貫通孔が形成されている。バッフルプレート48の下方、且つ、チャンバ本体12の底部には、排気口12eが設けられている。排気口12eには、排気管52を介して排気装置50が接続されている。排気装置50は、圧力調整弁及びターボ分子ポンプといった真空ポンプを有している。
【0035】
プラズマ処理装置1は、第1の高周波電源62及び第2の高周波電源64を更に備えている。第1の高周波電源62は、第1の高周波電力を発生する電源である。第1の高周波電力は、プラズマの生成に適した周波数を有する。第1の高周波電力の周波数は、例えば27MHz〜100MHzの範囲内の周波数である。第1の高周波電源62は、整合器66及び電極プレート16を介して下部電極18に接続されている。整合器66は、第1の高周波電源62の出力インピーダンスと負荷側(下部電極18側)のインピーダンスを整合させるための回路を有している。
【0036】
第2の高周波電源64は、第2の高周波電力を発生する電源である。第2の高周波電力は、第1の高周波電力の周波数よりも低い周波数を有する。第1の高周波電力と共に第2の高周波電力が用いられる場合には、第2の高周波電力は基板Wにイオンを引き込むためのバイアス用の高周波として用いられる。第2の高周波電力の周波数は、例えば400kHz〜13.56MHzの範囲内の周波数である。第2の高周波電源64は、整合器68及び電極プレート16を介して下部電極18に接続されている。整合器68は、第2の高周波電源64の出力インピーダンスと負荷側(下部電極18側)のインピーダンスを整合させるための回路を有している。
【0037】
図4は、
図3に示す一例のプラズマ処理装置において採用可能な上部電極及びチラーユニットの一例を示す図である。以下、
図3と共に
図4を参照する。上部電極30は、冷却可能であるように構成されている。
【0038】
一例では、
図3及び
図4に示すように、上部電極30の中には、流路30fが形成されている。流路30fは、入口30i及び出口30eを有しており、入口30iと出口30eとの間で延在している。流路30fは、例えば支持体36の中に形成されている。流路30fは、例えば上部電極30の中で渦巻き状に延在している。
【0039】
チャンバ10の外部には、チラーユニット70が設けられている。チラーユニット70の出力ポートは、入口30iに接続されている。チラーユニット70の戻りポートは、出口30eに接続されている。チラーユニット70は、その出力ポートから冷媒を出力し、当該冷媒を入口30iを介して流路30fに供給する。流路30fに供給された冷媒は、出口30e及び戻りポートを介して、チラーユニット70に戻される。即ち、上部電極30の流路30fとチラーユニット70との間では、冷媒が循環される。チラーユニット70は、上部電極30の流路30fとチラーユニット70との間で、液状の冷媒を循環するものであってもよい。
【0040】
或いは、チラーユニット70は、直膨式のチラーユニットであってもよい。チラーユニット70は、直膨式のチラーユニットである場合に、圧縮機71、凝縮器72、及び膨張弁73を有する。圧縮機71、凝縮器72、及び膨張弁73は、流路30fの出口30eと入口30iの間で、順に接続されている。上部電極30は、蒸発器を構成している。圧縮機71の入力は、チラーユニット70の戻りポートを介して、流路30fの出口30eに接続されている。圧縮機71の出力は、凝縮器72の入力に接続されている。凝縮器72の出力は、膨張弁73の入力に接続されている。膨張弁73の出力は、チラーユニット70の出力ポートを介して、流路30fの入口30iに接続されている。
【0041】
流路30fの出口30eから出力された冷媒は、圧縮機71の入力に戻され、圧縮機71によって圧縮される。圧縮機71から出力された高圧の冷媒は、凝縮器72によって冷却されて、液化する。凝縮器72から出力された液状の冷媒は、膨張弁73において減圧される。膨張弁73から流路30fに供給された冷媒は、上部電極30から吸熱することにより、気化する。そして、流路30fから出力された冷媒は、再び圧縮機71の入力に戻される。膨張弁73の開度は可変である。膨張弁73の開度が低いほど、冷媒の圧力は低くなり、気化する温度が下がる。よって、上部電極30の温度をより低い温度に冷却することができる。
【0042】
チラーユニット70は、分流弁74を更に有していてもよい。分流弁74は、圧縮機71と流路30fの入口30iとの間で、凝縮器72及び膨張弁73をバイパスするように接続されている。即ち、分流弁74の入力は、圧縮機71の出力に接続されている。また、分流弁74の出力は、流路30fの入口30iに接続されている。分流弁74の開度は可変である。分流弁74の開度が高いほど、流路30fに供給される冷媒の乾き度が高くなる。乾き度が高いほど、冷媒の抜熱能力は低くなる。
【0043】
上部電極30の中には、ヒータ75(抵抗発熱素子)が更に設けられていてもよい。ヒータ75によって上部電極30を加熱することにより、上部電極30の温度を高い温度に設定することができる。また、分流弁74を開いて冷媒の抜熱能力を低下させ、且つ、ヒータ75によって上部電極30を加熱することにより、上部電極30の温度を短時間で上昇させることが可能である。
【0044】
プラズマ処理装置1は、温度センサ79を更に備え得る。温度センサ79は、上部電極30(例えば天板34)の温度を測定するように構成されている。温度センサ79のセンサ部は、上部電極30(例えば天板34)内に設けられていてもよい。チラーユニット70及びヒータ75は、温度センサ79によって測定された温度に応じて、上部電極30の温度を指定された温度に設定するように制御される。
【0045】
さらに、プラズマ処理装置1は、上部電極30においてバイアス電圧を生じさせることが可能であるように構成されている。
図3に示すように、上部電極30(支持体36)には、電源76が接続されている。天板34がシリコンといった導電体から形成されている場合には、電源76は、直流電源又は高周波電源である。天板34が酸化シリコンといった絶縁体から形成されている場合には、電源76は、高周波電源である。電源76は、高周波電源である場合には、整合器77を介して上部電極30(支持体36)に接続されている。整合器77は、電源76の出力インピーダンスと電源76の負荷側(上部電極30側)のインピーダンス場合とを整合させるための回路を含んでいる。
【0046】
電源76が直流電源である場合には、電流センサ78が電源76に接続されていてもよい。或いは、電源76は、電流センサ78を内蔵していてもよい。電流センサ78は、上部電極30に流れる電流を測定するように構成されている。
【0047】
プラズマ処理装置1は、制御部80を更に備え得る。制御部80は、プロセッサ、メモリといった記憶部、入力装置、表示装置、信号の入出力インターフェイス等を備えるコンピュータであり得る。制御部80は、プラズマ処理装置1の各部を制御する。制御部80では、入力装置を用いて、オペレータがプラズマ処理装置1を管理するためにコマンドの入力操作等を行うことができる。また、制御部80では、表示装置により、プラズマ処理装置1の稼働状況を可視化して表示することができる。さらに、制御部80の記憶部には、制御プログラム及びレシピデータが格納されている。制御プログラムは、プラズマ処理装置1で各種処理を実行するために、制御部80のプロセッサによって実行される。制御部80のプロセッサが、制御プログラムを実行し、レシピデータに従ってプラズマ処理装置1の各部を制御することにより、方法MTがプラズマ処理装置1で実行される。
【0048】
再び
図1を参照する。以下、方法MTがプラズマ処理装置1を用いて実行される場合を例として、方法MTについて説明する。また、以下の説明では、
図1に加えて
図5を参照する。
図5は、
図1に示す方法の実行後の状態における一例の基板の一部拡大断面図である。
【0049】
方法MTは、基板Wが支持台14上に載置された状態で実行される。
図1に示すように、方法MTでは、工程ST1が実行される。工程ST1では、上部電極30が冷却される。具体的には、冷媒がチラーユニット70から上部電極30の流路30fに供給される。上部電極30は、例えば50℃以下の温度に冷却される。
【0050】
工程ST2では、基板Wの膜SFがエッチングされる。工程ST2は、工程ST1の実行中に実行される。即ち、上部電極30の冷却の実行中に、膜SFがエッチングされる。工程ST2において、膜SFは、チャンバ10内で生成されたプラズマによりエッチングされる。
【0051】
具体的に、工程ST2では、処理ガスが内部空間10sに供給される。処理ガスは、ガスソース群40の複数のガスソースのうち選択された一つ以上のガスソースから供給される。処理ガスは、膜SFをエッチングするためのガスである。工程ST2では、内部空間10sにおける圧力が指定された圧力に設定されるよう、排気装置50が制御される。工程ST2では、支持台14の温度が指定された温度に設定されるよう、チラーユニット22が制御される。工程ST2では、処理ガスのプラズマの生成のために、第1の高周波電力が供給される。工程ST2では、第2の高周波電力が更に供給されてもよい。
【0052】
一実施形態において、膜SFは、上述したように、シリコンを含有する。この実施形態の工程ST2では、処理ガスは、炭素、水素、及びフッ素を含む。処理ガスは、例えば、一つ以上の水素含有ガス及び一つ以上のフッ素含有ガスの混合ガスであり得る。処理ガスは、水素含有ガスとして、水素ガス(H
2ガス)を含み得る。処理ガスは、一つ以上のフッ素含有ガスとして、ハイドロフルオロカーボンガス、フルオロカーボンガス、三フッ化窒素ガス、及び六フッ化硫黄ガスのうち一つ以上のガスを含み得る。処理ガスは、炭素含有ガスとして、炭化水素ガスを更に含んでいてもよい。
【0053】
工程ST2では、処理ガスのプラズマからのイオン及び/又はラジカルといった化学種により膜SFがエッチングされる。工程ST2の実行によって、マスクMKのパターンが膜SFに転写される。即ち、工程ST2の実行によって、
図5に示すように、一つ以上の開口OMに連続する開口OPが膜SFに形成される。工程ST2の実行中には、エッチングの副生成物が発生し、内部空間10sを画成する壁面に付着し、堆積物を形成する。堆積物は、上部電極30の天板34にも付着する。
【0054】
方法MTでは、上部電極30の天板34上の堆積物の量を減少させるか、上部電極30の天板34から堆積物を除去するために、工程ST2の実行中に工程ST3が実行される。即ち、工程ST3は、工程ST1の実行中に実行される。工程ST3では、上部電極30において負極性のバイアス電圧を生じさせる。
【0055】
電源76が直流電源である場合には、工程ST3において、負極性の直流電圧が電源76から上部電極30に印加される。電源76が高周波電源である場合には、工程ST3において、負極性のバイアス電圧(自己バイアス電圧Vdc)を上部電極30において生じさせるために、高周波電力が電源76から上部電極30に供給される。
【0056】
方法MTでは、膜SFのエッチングの実行中(工程ST2の実行中)に、工程ST3が実行される。したがって、工程ST2の実行中に、負極性のバイアス電圧が上部電極30において生じ、プラズマ中の正イオンが上部電極30に向けて加速される。また、工程ST2の実行中には、上部電極30が冷却されている。したがって、堆積物をエッチングし得る化学種の量が上部電極30の周囲で増加して、上部電極30に付着した堆積物が効率的にエッチングされる。故に、方法MTによれば、上部電極30に付着した堆積物の量が低減されるか、上部電極30から堆積物が除去される。
【0057】
図6は、上部電極の温度が比較的高い場合の上部電極上の堆積物の除去に関連する化学種の反応の例を示す図である。
図7は、上部電極の温度が比較的低い場合の上部電極上の堆積物の除去に関連する化学種の反応の例を示す図である。
図6及び
図7において、円で囲まれた「Si」は、シリコンを表している。
図6及び
図7において、円で囲まれた「C」は、炭素を表している。
図6及び
図7において、円で囲まれた「F」は、フッ素を表している。
図6及び
図7において、円で囲まれた「H」は、水素化合物を表している。
図6及び
図7において、円で囲まれた「+」は、正イオンを表している。以下、
図6及び
図7を参照しつつ、上部電極30の天板34がシリコンを含んでおり、工程ST2で用いられる処理ガスが、水素、フッ素、及び炭素を含んでいる場合について考察する。
【0058】
工程ST2で用いられる処理ガスが、水素、フッ素、及び炭素を含んでいる場合には、
図6及び
図7に示すように、炭素及びフッ素を含む化学種が、上部電極30の天板34に付着して堆積物を形成する。上部電極30において負極性のバイアス電圧が生じている状態では、
図6及び
図7に示すように、正イオンがプラズマから上部電極30に引き付けられる。上部電極30に引き付けられた正イオンのエネルギーにより、天板34のシリコンと堆積物中のフッ素とが反応し、フッ化シリコンが生成される。生成されたフッ化シリコンは、上部電極30から離れるように排気される。その結果、堆積物中のフッ素の量が減少する。
【0059】
上部電極30の温度が比較的高い場合には、水素化合物の運動エネルギーが高く、上部電極30及び/又は堆積物に付着する水素化合物の量が少なくなる。その結果、
図6に示すように、堆積物中の炭素は、天板34の表面上に残される。一方、上部電極30が工程ST1によって冷却されている状態では、水素化合物の運動エネルギーが低下し、上部電極30及び/又は堆積物に付着する水素化合物の量が多くなる。そして、上部電極30に引き付けられた正イオンのエネルギーにより、
図7に示すように、堆積物中の炭素と水素化合物又は当該水素化合物中の水素とが反応して、炭化水素が生成される。生成された炭化水素は、上部電極30から離れるように排気される。その結果、堆積物中の炭素の量が減少する。したがって、上部電極30を冷却し且つ上部電極30において負極性のバイアス電圧を生じさせている状態で工程ST2を実行することにより、上部電極30に付着した堆積物の量が低減されるか、上部電極30から堆積物が除去される。
【0060】
図1を再び参照する。
図1に示すように、方法MTは、工程ST4を更に含んでいても良い。工程ST4は、工程ST3の実行中に実行される。工程ST4では、上部電極30に流れる電流が測定される。上部電極30に流れる電流は、電流センサ78によって測定される。上部電極30に付着している堆積物は、上部電極30に流れる電流を減少させる。したがって、上部電極30に流れる電流を測定することにより、上部電極30に付着している堆積物の量を検出することが可能となる。
【0061】
以上、種々の実施形態について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく種々の変形態様を構成可能である。例えば、方法MTにおいて用いられるプラズマ処理装置は、容量結合型のプラズマ処理装置であり、上部電極において負極性のバイアス電圧を生じさせることができ、且つ、上部電極を冷却可能であれば、任意のプラズマ処理装置であってもよい。
【0062】
また、プラズマ処理装置1は、上部電極30の代わりに、
図8に示す上部電極30Aを備えていてもよい。
図8は、
図1に示すプラズマ処理方法の実行に用いることが可能なプラズマ処理装置の上部電極の一例を示す図である。上部電極30Aは、天板34及び支持体36Aを有している。支持体36Aは、上部電極30の支持体36とは異なっている。即ち、上部電極30Aは、支持体の構造において上部電極30と異なっている。
【0063】
支持体36Aには、支持体36と同様に、ガス拡散室36a及び複数のガス孔36bが形成されている。支持体36Aには、流路30fは形成されておらず、第1空間301及び第2空間302が形成されている。第1空間301は、第2空間302の上方で延在している。第1空間301及び第2空間302は、平面視においては略円形の平面形状を有している。第1空間301と第2空間302との間では、壁部303が延在している。壁部303は、水平方向に延在している。
【0064】
第1空間301は、入口30iに接続されており、入口30iは、チラーユニット70の出力ポートに接続されている。入口30iを提供する流路は、支持体36内において第1空間301から上方に延びている。即ち、チラーユニット70から出力された冷媒は、上方から第1空間301に供給される。
【0065】
第2空間302を画成する底面302bは、複数の突出部302pを提供している。複数の突出部302pの各々は、底面302bにおける周囲の領域から上方に突き出している。複数の突出部302pは、底面302b内において二次元的に分散されている。壁部303には、複数の貫通孔303hが形成されている。複数の貫通孔303hの各々は、鉛直方向に延びており、第1空間301と第2空間302とを連通させている。複数の貫通孔303hの各々の下端は、複数の突出部302pのうち対応の突出部に対面している。チラーユニット70から第1空間301に供給された冷媒は、複数の貫通孔303hを介して複数の突出部302pに向けて吐出されることにより、第2空間302に供給される。
【0066】
第2空間302は、出口30eに接続されており、出口30eは、チラーユニット70の戻りポートに接続されている。出口30eを提供する流路は、支持体36内において第2空間302から上方に延びている。即ち、第2空間302において液化は、上方から冷媒が供給される。第2空間302に供給されて気化した冷媒は、第2空間302から上方に排出されて、チラーユニット70に戻される。
【0067】
以下、方法MTの評価のために行った実験について説明する。以下に説明する実験は本開示を限定するものではない。
【0069】
第1の実験では、第1〜第3のサンプルを準備した。第1〜第3のサンプルの各々は、多結晶シリコン製の膜を有していた。第1の実験では、容量結合型プラズマ処理装置を用いた。第1の実験で用いたプラズマ処理装置は、上部電極30を冷却する機能及び上部電極30にバイアス電圧を生じさせる機能を有していない点を除いて、プラズマ処理装置1と同様の構成を有していた。第1の実験では、第1〜第3のサンプルの各々を支持台上に載置し、プラズマ処理装置の内部空間の中でプラズマ処理を行った。第1〜第3のサンプルに対するプラズマ処理では、フッ素化合物ガス、CF系ガス、及び水素含有ガスを含む混合ガスを処理ガスとして用いた。第1のサンプルに対するプラズマ処理では、下部電極の自己バイアス電圧を−1260Vに設定した。第2のサンプルに対するプラズマ処理では、下部電極の自己バイアス電圧を−1770Vに設定した。第3のサンプルに対するプラズマ処理では、下部電極の自己バイアス電圧を−1835Vに設定した。自己バイアス電圧は、第2の高周波電力の電力レベルを調整することにより、設定した。以下、第1〜第3のサンプルの各々に対するプラズマ処理の他の条件を示す。
【0070】
<第1〜第3のサンプルの各々に対するプラズマ処理の条件>
・支持台の温度:15℃
・チャンバの内部空間における圧力:20mTorr(2.666Pa)
・第1の高周波電力:40MHz、1000W
・第2の高周波電力:400kHz
【0071】
第1のサンプルのプラズマ処理の結果、膜はエッチングされず、膜上に堆積物が形成されていた。第2のサンプルのプラズマ処理の結果、膜はエッチングされず、膜上に堆積物が形成されていたが、膜上の堆積物の量は、第1のサンプルの膜上に形成された堆積物の量よりも少なかった。第3のサンプルに対するプラズマ処理の結果、膜上に堆積物は生成されておらず、膜がエッチングされていた。第1の実験の結果から、その上に堆積物が形成された物体に与えられる負極性のバイアス電圧を調整することにより、堆積物の量を低減させることができることが確認された。したがって、プラズマ処理(プラズマエッチング)中に上部電極において負極性のバイアス電圧を生じさせることにより、上部電極上に堆積する堆積物の量を低減させることが可能であると推測された。
【0073】
第2実験では、第4〜第8のサンプルを準備した。第4〜第8のサンプルの各々は、多結晶シリコン製の膜を有していた。第2の実験では、第1の実験で用いたプラズマ処理装置と同じプラズマ処理装置を用いた。第2の実験では、第4〜第8のサンプルの各々を支持台上に載置して、プラズマ処理を行った。第4〜第8のサンプルに対するプラズマ処理では、第1の実験における処理ガスと同じ処理ガスを用いた。第4〜第8のサンプルの各々に対するプラズマ処理では、下部電極における自己バイアス電圧の絶対値を低く設定するために、第2の高周波電力を利用しなかった。第2の実験のプラズマ処理の実行中に、第4〜第8のサンプルの温度を、50℃、25℃、15℃、0℃、−37℃に設定した。以下、第4〜第8のサンプルの各々に対するプラズマ処理の他の条件を示す。
【0074】
<第4〜第8のサンプルの各々に対するプラズマ処理の条件>
・チャンバの内部空間における圧力:20mTorr(2.666Pa)
・第1の高周波電力:40MHz、1500W
【0075】
第2実験のプラズマ処理の結果、第4のサンプル及び第5のサンプルの上には堆積物が形成されていた。第2実験のプラズマ処理の結果、第6のサンプルの表面上には部分的に堆積物が形成されていた。第2実験のプラズマ処理の結果、第7のサンプル及び第8のサンプルの上には堆積物が形成されていなかった。第2の実験の結果から、物体における自己バイアス電圧の絶対値が低くても、当該物体の温度を低く設定することにより、当該物体上の堆積物の量を低減させることが可能であることが確認された。したがって、プラズマエッチング中に上部電極を冷却することにより、上部電極に付着した堆積物の量を低減させることが可能であると推測される。また、第1及び第2の実験の結果から、膜のプラズマエッチング中に上部電極を冷却し且つ上部電極において負極性のバイアス電圧を生じさせることにより、上部電極上に形成される堆積物の量をより効率的に低減させることが可能であることが確認された。
【0077】
第3の実験では、プラズマ処理装置1を用いてプラズマ処理を行った。第3の実験におけるプラズマ処理では、第1の実験における処理ガスと同じ処理ガスを用いた。第3の実験では、支持台14上にサンプルを載置して、上部電極30の温度に関する五つの条件下でプラズマ処理(プラズマエッチング)を行った。即ち、五つの条件下における上部電極30の温度はそれぞれ、−50℃、−10℃、50℃、100℃、150℃であった。以下、第3の実験におけるプラズマ処理の他の条件を示す。
【0078】
<第3の実験におけるプラズマ処理の条件>
・チャンバの内部空間における圧力:20mTorr(2.666Pa)
・第1の高周波電力:40MHz、4500W
・第2の高周波電力:400kHz,7kW
・上部電極30に印加した直流電圧:−1200V
【0079】
第3の実験の結果、上部電極30の温度が150℃である場合に、上部電極30上に堆積物が形成されていた。上部電極30の温度が100℃である場合には、上部電極30の表面上に部分的に堆積物が形成されていた。上部電極30の温度が50℃、−10℃、−50℃である場合には、上部電極30上には堆積物は形成されなかった。したがって、膜のプラズマエッチング中に上部電極30を冷却し且つ上部電極30において負極性のバイアス電圧を生じさせることにより、上部電極30に付着した堆積物の量を低減させるか、上部電極30から堆積物を除去可能であることが確認された。