(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般的に、光ファイバは、ガラスからなる光ファイバ母材を加熱炉にて加熱延伸し、そこから鉛直下方に引き出すことによって製造される。引き出された光ファイバは、加熱炉の略鉛直下方に設置された引取装置によって引き取られた後にその外周に硬化性樹脂等からなる被覆が形成され、巻取装置によって巻き取られる(特許文献1)。この工程は線引工程とも呼ばれ、光ファイバの製造装置を用いて実施される。
【0003】
引き出された直後の光ファイバは、加熱されたガラスからなるために高温である。そのため、光ファイバの外周に被覆となる樹脂を良好な状態に付着させるには、樹脂を付着させる前に光ファイバの温度を制御する必要がある。光ファイバの温度を制御する方法としては、光ファイバを引き出してから樹脂を付着するまでの時間を長くし、樹脂を付着させるまでに光ファイバの温度が十分に低下するようにする方法がある。この方法を実現するために、光ファイバの線引き速度を遅くする方法がある。しかしながら、線引き速度を遅くすると、光ファイバの製造性が低下する。
【0004】
樹脂を付着させるまでの時間に光ファイバの温度が十分に低下する他の方法として、引き出し後、樹脂を付着させるまでに光ファイバが進行する経路を長くする方法もある。しかしながら、経路を長くするために、たとえば光ファイバの製造装置が設置される建屋の高さを高くする方法を採用すると、建屋の新設や増築が必要となるため、設備コストの面で困難性がある。
【0005】
これに対して、光ファイバを冷却することによって、樹脂を付着させる前の光ファイバの温度を制御する方法が開示されている。なお、光ファイバを急冷させると、光ファイバの伝送損失が増加する場合がある。そこで、伝送損失の増加を抑制するために、引き出された光ファイバを熱処理炉によってアニールし、その後強制冷却する方法も開示されている(特許文献2)。
【0006】
また、光ファイバの進行する方向を方向変換器によって変換し、光ファイバが進行する経路を長くする方法も開示されている(特許文献3、4)。これらの技術によれば、限られた高さの建屋において、経路を長くすることができる。たとえば、特許文献3では、光ファイバを一度下方に向かって進行させた後、上方に向かって進行させることを1回以上行い、またはその途中で左右に進行させている。そして、この経路の途中で加熱や冷却を行っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3、4に開示される技術は、依然として改善の余地がある。たとえば、特許文献3のように、光ファイバの進行方向を上下方向に変換する場合、特に線引き工程の初期において、引き出した光ファイバの先端を上下の方向変換器に交互に取り回す作業が必要となる。この作業を作業員が行う場合、作業員は階段などの昇降手段を用いて建屋内を昇降し、取り回しをするという煩雑な作業が必要となる。また、特許文献3では、光ファイバをチャンバ内にて左右方向に進行させているが、チャンバ内のため、経路の延長には制限がある。また、特許文献4のように光ファイバの進行方向を変換する場合、方向変換器を挟んだ上下で、光ファイバが下方に進行する位置が水平面内においてずれている。その結果、方向変換器より下の部分を設置し直したり新設したりするなど、既存の製造装置を大幅に改造したり製造装置を新設したりする必要がある。そのため、設備コストの面で困難性がある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、設備コストや作業負荷を抑制しながら良質の光ファイバを製造できる光ファイバの製造装置および光ファイバの製造方法を提供することにある。
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る光ファイバの製造装置は、3階以上の建屋の上層階に設置され、光ファイバ母材を加熱延伸する加熱炉と、前記上層階より下方の下層階において前記加熱炉の下方に設置され、前記加熱延伸された光ファイバ母材から引き出された光ファイバを引き取る引取装置と、前記上層階と前記下層階との間に位置する少なくとも一つの中層階に設置され、前記光ファイバ母材から前記引取装置に引き取られる途中の前記光ファイバの進行方向を、該中層階における所定位置において、該中層階の床に沿った方向に変換し、該光ファイバを所定距離だけ進行させた後に前記所定位置側に向かって折り返し、その後さらに前記光ファイバの進行方向を前記引取装置に向かう方向に変換する経路延長装置と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造装置は、前記中層階の少なくとも一つに設置され、前記床に沿った方向に進行する前記光ファイバの温度を制御する少なくとも一つの温度制御装置を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造装置は、前記温度制御装置の少なくとも一つは前記光ファイバを加熱することを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造装置は、前記温度制御装置の少なくとも一つは光ファイバを冷却することを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造装置は、複数の前記温度制御装置を備え、前記複数の温度制御装置は、前記光ファイバが前記光ファイバ母材側よりも前記引取装置側において温度が低くなるように設置されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造装置は、前記光ファイバの経路における前記経路延長装置と前記引取装置との間において、前記光ファイバの外周に被覆を形成する被覆形成装置を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造装置は、前記光ファイバの経路における前記加熱炉と前記経路延長装置との間において、前記光ファイバの外周に耐熱性の保護層を形成する保護膜形成装置を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造装置は、前記経路延長装置は、前記光ファイバの進行方向を、前記中層階の床に沿った方向に複数回変換するように構成されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造方法は、3階以上の建屋の上層階において、光ファイバ母材を加熱延伸する工程と、前記上層階より下方の下層階において、前記加熱延伸された光ファイバ母材から引き出された光ファイバを引き取る工程と、を含み、前記上層階と前記下層階との間に位置する少なくとも一つの中層階において、前記光ファイバ母材から引き取られる途中の前記光ファイバの進行方向を、該中層階における所定位置から、該中層階の床に沿った方向に変換し、該光ファイバを所定距離だけ進行させた後に前記所定位置側に向かって折り返し、その後さらに前記光ファイバの進行方向を引き取る方向に変換することを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造方法は、前記中層階の少なくとも一つにおいて、前記床に沿った方向に進行する前記光ファイバの温度を制御することを特徴とする。
【0020】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造方法は、前記光ファイバに対して加熱および冷却の少なくとも一つを行うことを特徴とする。
【0021】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造方法は、前記光ファイバ母材側よりも前記光ファイバを引き取る側において温度が低くなるように前記光ファイバの温度を制御することを特徴とする。
【0022】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造方法は、前記光ファイバの進行方向を引き取る方向に変換してから前記光ファイバを引き取るまでの間に、前記光ファイバの外周に被覆を形成することを特徴とする。
【0023】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造方法は、前記光ファイバの進行方向を変換する前に、前記光ファイバの外周に耐熱性の保護層を形成することを特徴とする。
【0024】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造方法は、前記光ファイバの進行方向を、前記中層階の床に沿った方向に複数回変換することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれは、設備コストや作業負荷を抑制しながら良質の光ファイバを製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一又は対応する構成要素には適宜同一の符号を付している。また、図中で適宜xyz座標軸を示し、これにより方向を説明する。
【0028】
図1は、実施形態に係る光ファイバの製造装置の構成およびこれを用いた製造方法を示す模式図である。光ファイバの製造装置100(以下、適宜製造装置100とする)は、建屋B内に設置されている。建屋Bは、1階L1、2階L2、3階L3、4階L4、5階L5を有する3階以上の建屋である。各階はxy面と略平行に広がる床F1、F2、F3、F4、F5をそれぞれ有する。xy面は水平な面であり、+z方向は鉛直方向下方である。
【0029】
製造装置100は、加熱炉10と、経路延長装置20、30、40と、下部装置50と、温度制御装置61、62、63と、を備える。
【0030】
加熱炉10は、上層階である5階L5に設置されている。加熱炉10は、ヒータ11を有する公知の構造の加熱炉である。加熱炉10は、公知の石英系ガラス等からなる光ファイバ母材Pがセットされ、これを加熱延伸する。これにより、ガラス光ファイバである光ファイバOF1が引き出される。ガラス光ファイバは、外周に被覆が形成される前の、全体がガラスで構成されている状態の光ファイバである。
【0031】
下部装置50は、5階L5より下方の下層階である1階L1に設置されている。下部装置50は、被覆形成装置51と、引取装置52と、巻取装置53と、を備える。
【0032】
被覆形成装置51は、加熱炉10の略鉛直下方に設置されており、光ファイバOF1の経路における経路延長装置40と引取装置52との間に配置されている。被覆形成装置51は、経路延長装置40と引取装置52との間において、光ファイバ母材Pから引き出された光ファイバOF1の外周に被覆を形成し、被覆された光ファイバOF2とする装置である。被覆形成装置51は、たとえば紫外線硬化性樹脂を光ファイバOF1の外周に塗布する樹脂塗布装置と、塗布された紫外線硬化性樹脂を硬化させて被覆とする紫外線光源とを備えている公知の装置である。
【0033】
引取装置52は、加熱炉10および被覆形成装置51の略鉛直下方に設置されている。引取装置52は、光ファイバ母材Pから引き出された光ファイバOF1に被覆が形成され光ファイバOF2を下方に引き取る。引取装置52は引取ローラと引取ローラを回転駆動する駆動源とを備えた公知の装置である。なお、引取装置52によって引き取られた光ファイバOF2は、その進行方向が、5階L5の別の位置に設置された巻取装置53へ進行する方向に変換される。
【0034】
なお、床F1、F2、F3、F4、F5には、それぞれ、加熱炉10から引取装置52まで光ファイバOF1が下方(+z方向)に進行するための貫通孔が形成されている。
【0035】
巻取装置53は、光ファイバOF2を巻取ボビンに巻き取る装置であり、巻取ボビンを回転駆動する駆動源を備えた公知の装置である。なお、引取装置52と巻取装置53との間には、引取装置52から巻取装置53へ光ファイバOF2をガイドするガイドロールが適宜設けられる。
【0036】
経路延長装置20、30、40は、それぞれ、上層階と下層階との間に位置する中層階である4階L4、3階L3、2階L2にそれぞれ設置されている。
【0037】
経路延長装置20は、方向変換器21、22、23を有している。光ファイバOF1は光ファイバ母材Pから引き出された後、床F5の貫通孔を通過して4階L4の方向変換器21に到達する。方向変換器21は、光ファイバ母材Pから引取装置52に引き取られる途中の光ファイバOF1の進行方向を、4階L4の所定位置において、床F4に沿った方向に変換する。本実施形態では、方向変換器21は光ファイバOF1の進行方向を+z方向から+x方向に沿った方向に変換する。ここで、床に沿った方向とは、床に平行な方向だけでなく、床に対してある程度傾いた方向も含む。同様に、或る方向に沿った方向とは、或る方向に平行な方向だけでなく、或る方向に対してある程度傾いた方向も含む。
【0038】
方向変換器22は、方向変換器21に対して+x方向に離間した位置に配置されている。方向変換器21および方向変換器22は、光ファイバOF1を第1の所定距離だけ進行させる。方向変換器22は、光ファイバOF1の進行方向を+x方向から−x方向に変換し、前記所定位置側に向かって折り返す。
【0039】
方向変換器23は、方向変換器22の下方に設置されている。方向変換器23は、光ファイバOF1の進行方向を引取装置52に向かう方向(+z方向)に変換する。方向変換器23が光ファイバOF1の進行方向を変換する位置は、方向変換器21が光ファイバOF1の進行方向を変換する前記所定位置の鉛直方向直下であることが好ましいが、引取装置52が光ファイバOF1を引き取れる程度であれば、前記所定位置に対して水平方向にずれていてもよい。その後、光ファイバOF1は床F4に形成された貫通孔を通過して3階L3に進む。
【0040】
経路延長装置30は、方向変換器31、32、33を有している。方向変換器31は、方向変換器23の下方に設置されており、光ファイバOF1の進行方向を、3階L3の所定位置において、床F3に沿った方向に変換する。本実施形態では、方向変換器31は光ファイバOF1の進行方向を+z方向から+x方向に沿った方向に変換する。
【0041】
方向変換器32は、方向変換器31に対して+x方向に離間した位置に配置されている。方向変換器31および方向変換器32は、光ファイバOF1を第2の所定距離だけ進行させる。方向変換器32は、光ファイバOF1の進行方向を+x方向から−x方向に変換し、前記所定位置側に向かって折り返す。
【0042】
方向変換器33は、方向変換器32の下方に設置されている。方向変換器33は、光ファイバOF1の進行方向を引取装置52に向かう方向(+z方向)に変換する。方向変換器33が光ファイバOF1の進行方向を変換する位置は、方向変換器31が光ファイバOF1の進行方向を変換する前記所定位置の鉛直方向直下であることが好ましいが、引取装置52が光ファイバOF1を引き取れる程度であれば、前記所定位置に対して水平方向にずれていてもよい。その後、光ファイバOF1は床F3に形成された貫通孔を通過して2階L2に進む。
【0043】
経路延長装置40は、方向変換器41、42、43を有している。方向変換器41は、光ファイバOF1の進行方向を、2階L2の所定位置において、床F2に沿った方向に変換する。本実施形態では、方向変換器41は光ファイバOF1の進行方向を+z方向から+x方向に沿った方向に変換する。
【0044】
方向変換器42は、方向変換器41に対して+x方向に離間した位置に配置されている。方向変換器41および方向変換器42は、光ファイバOF1を第3の所定距離だけ進行させる。方向変換器42は、光ファイバOF1の進行方向を+x方向から−x方向に変換し、前記所定位置側に向かって折り返す。
【0045】
方向変換器43は、方向変換器42の下方に設置されている。方向変換器43は、光ファイバOF1の進行方向を引取装置52に向かう方向(+z方向)に変換する。方向変換器43が光ファイバOF1の進行方向を変換する位置は、方向変換器41が光ファイバOF1の進行方向を変換する前記所定位置の鉛直方向直下であることが好ましいが、引取装置52が光ファイバOF1を引き取れる程度であれば、前記所定位置に対して水平方向にずれていてもよい。その後、光ファイバOF1は床F2に形成された貫通孔を通過して1階L1の下部装置50に進む。
【0046】
方向変換器21、22、23、31、32、33、41、42、43は、ガラス光ファイバである光ファイバOF1が折れないようにその進行方向を変換するものである。方向変換器21、22、23、31、32、33、41、42、43としては、特許文献3に示す流体ベアリングや、特許文献4に示す、流体によって光ファイバOF1を浮上させる機構を有するものなどの、非接触型のものを採用できる。また、光ファイバOF1が接触しても破損しないような柔らかい材質や、光ファイバOF1がその表面を滑らかに滑ることができる材質などからなるガイドロールを備え、そのガイドロールに光ファイバOF1を接触させて進行方向を変換する機構を有する方向変換器を採用してもよい。
【0047】
つぎに、温度制御装置61、62、63について説明する。温度制御装置61は、4階L4の方向変換器21、23と方向変換器22との間に設置されている。温度制御装置61は、方向変換器21、23と方向変換器22との間で床F4に沿った方向に進行する光ファイバOF1の温度を制御する。温度制御装置62は、3階L3の方向変換器31、33と方向変換器32との間に設置されている。温度制御装置62は、方向変換器31、33と方向変換器32との間で床F3に沿った方向に進行する光ファイバOF1の温度を制御する。温度制御装置63は、2階L2の方向変換器41、43と方向変換器42との間に設置されている。温度制御装置63は、方向変換器41、43と方向変換器42との間で床F2に沿った方向に進行する光ファイバOF1の温度を制御する。
【0048】
温度制御装置61は、加熱炉10よりも低く、室温よりも高い温度に光ファイバOF1の温度を制御する。温度制御装置61は、たとえば光ファイバOF1を加熱してアニールできる公知の構成のアニール炉である。温度制御装置62は、温度制御装置61よりも低く、室温よりも高い温度に光ファイバOF1の温度を制御する。温度制御装置62は、たとえば光ファイバOF1を自然冷却できる公知の構成の冷却路である。温度制御装置63は、温度制御装置62よりも低く、室温よりも高い温度に光ファイバOF1の温度を制御する。温度制御装置63は、たとえば光ファイバOF1を強制的に冷却できる公知の構成の冷却装置である。なお、温度制御装置61、62、63のそれぞれは長手方向において温度勾配を有していてもよい。このように、温度制御装置61、62、63は、光ファイバOF1が光ファイバ母材P側よりも引取装置52側において温度が低くなるように設置される。
【0049】
製造装置100によって光ファイバOF2を製造する工程を以下に説明する。本製造工程では、5階L5に設置された加熱炉10が光ファイバ母材Pを加熱延伸する。そして、1階L1に設置された下部装置50において、被覆形成装置51が、光ファイバ母材Pから引き出された光ファイバOF1の外周に被覆を形成し、引取装置52が、光ファイバOF2を下方に引き取り、巻取装置53が光ファイバOF2を巻き取る。
【0050】
このとき、4階L4、3階L3、2階L2のそれぞれに設置された経路延長装置20、30、40のそれぞれにおいて、光ファイバOF1の進行方向を、各階の床面に沿った方向に変換する。そして、光ファイバOF1を所定距離だけ進行させた後に折り返し、その後、進行方向を引取装置52に向かう方向に変換する。
【0051】
製造装置100では、引取装置52が加熱炉10の略鉛直下方に設置されており、既存の製造装置と同様の構造である。したがって、既存の製造装置を大幅に改造したり製造装置を新設したりする必要がなく実施することができるので、設備コストを抑制できる。そして、光ファイバ母材Pから引取装置52に引き取られる途中の光ファイバの進行方向を変換し、中層階である4階L4、3階L3、2階L2の各床に沿った方向に進行させた後に折り返し、再び進行方向を引取装置52に向かう方向に変換している。これによって、容易に光ファイバOF1の経路を長くできる。また、製造装置100は、既存の製造装置の各中層階に経路延長装置を増設するだけで構成できるので、設備コストを抑制できる。また、4階L4を例に説明すると、線引き工程の初期において、引き出した光ファイバOF1の先端を方向変換器21、22、23に取り回す作業を作業員が行う場合、作業員は単に4階L4内で床F4を移動して取り回しを行えばよいので、作業が容易であり、作業負荷が大幅に低減される。また、加熱炉10から被覆形成装置51までの光ファイバOF1の経路を長くしたので、被覆形成装置51において良質な被覆を形成できる。さらに、経路を長くしたことで、光ファイバOF1を適正に温度制御することができるので、伝送損失の増加を抑制することができる。なお、本実施形態では、温度制御装置61、62、63によって光ファイバOF1の温度をより一層好適に制御できるので、線引き速度を増加させて製造性を高めつつ伝送損失の増加を抑制することができる。温度制御装置61、62、63による温度制御は、線引き速度の増加と伝送損失の増加の抑制との観点から、適宜設計することができる。
【0052】
以上のように、製造装置100によれば、設備コストや作業負荷を抑制しながら良質の光ファイバOF2を製造でき、かつ製造性を高くすることができる。
【0053】
なお、上記では、温度制御装置61としてアニール炉を例示し、温度制御装置62として冷却路を例示し、温度制御装置63として冷却装置を例示している。しかしながら、これらの温度制御装置61、62、63の構成の組み合わせは、光ファイバOF1の経路における温度を適正に調整できるようにされればよく、上記例示に限定されない。
【0054】
図2は、製造装置100を用いた別の製造方法の一例を示す模式図である。ここで、方向変換器21、23、31、33、41、43は、加熱炉10から引取装置52に向かう経路から退避可能に構成されている。
図2の場合は、方向変換器31、33、41、43が、
図1に示す位置から、+x方向に退避した状態となっている。
【0055】
図2の場合は、経路延長装置および温度制御装置として、経路延長装置20および温度制御装置61のみを製造に使用している。この例のように、中層階である4階L4、3階L3、2階L2の経路延長装置20、30、40および温度制御装置61、62、63のうち、少なくとも1つに設置された経路延長装置および温度制御装置を適宜使用してもよい。さらには、経路延長装置および温度制御装置のいずれも使用せず、光ファイバ母材Pから引き出された光ファイバOF1を直接、被覆形成装置51に進行させ、被覆を形成して光ファイバOF2を製造してもよい。経路延長装置および温度制御装置の使用数や温度制御状態に応じて、被覆形成装置51において光ファイバOF1に良質の被覆が形成されるように、線引き速度や被覆形成装置51の動作条件を調整することが好ましい。
【0056】
さらに、製造装置100を用いた別の製造方法の一例として、経路延長装置20、30、40のうち少なくとも1つを使用して光ファイバOF1の経路を長くするが、温度制御装置61、62、63の動作を停止させて使用することもできる。この場合、光ファイバOF1は主に自然冷却されることとなる。この場合も、被覆形成装置51において光ファイバOF1に良質の被覆が形成されるように、線引き速度や被覆形成装置51の動作条件を調整することが好ましい。
【0057】
(変形例)
図3は、製造装置100に適用できる経路延長装置および温度制御装置の変形例1を示す模式図である。この変形例1では、製造装置100における4階L4に設置された経路延長装置20が有する方向変換器22を、2つの方向変換器22a、22bに置き換え、温度制御装置61を、3つの温度制御装置61a、61b、61cに置き換えている。
【0058】
方向変換器22aは、4階L4において、方向変換器21に対して離間した位置に配置されている。方向変換器21および方向変換器22aは、光ファイバOF1を床F4に沿って第4の所定距離だけ進行させる。方向変換器22aは、光ファイバOF1の進行方向を、床F4に沿った方向であり、かつ方向変換器21と方向変換器22aとの間における進行方向とは別の方向に変換する。具体的には、方向変換器22aは光ファイバOF1の進行方向を、離間した位置に配置された方向変換器22bに向かう方向に変換する。方向変換器22aおよび方向変換器22bは、光ファイバOF1を第5の所定距離だけ進行させる。
【0059】
方向変換器22bは、光ファイバOF1の進行方向を、床F4に沿った方向であり、かつ方向変換器23に向かう方向に変換する。すなわち、方向変換器22a、22bは、光ファイバOF1の進行方向を、複数回である2回変換して、方向変換器21から進行してきた光ファイバOF1を方向変換器23に向かって折り返す。このように同一階において光ファイバOF1の進行方向を複数回変換することによって、単一階において、光ファイバOF1の経路をより長くすることができる。
【0060】
また、温度制御装置61aは方向変換器21と方向変換器22aとの間に配置されており、床F4に沿って進行する光ファイバOF1の温度を制御する。温度制御装置61bは方向変換器22aと方向変換器22bとの間に配置されており、床F4に沿って進行する光ファイバOF1の温度を制御する。温度制御装置61cは方向変換器22bと方向変換器23との間に配置されており、床F4に沿って進行する光ファイバOF1の温度を制御する。温度制御装置61a、61b、61cは、光ファイバOF1を互いに異なる温度に制御するが、温度制御装置61a、61b、61cの順番で温度が低くなるように制御することが好ましい。このように、同一階で光ファイバOF1を互いに異なる温度に制御することによって、単一階においてより細かい温度制御をすることができる。たとえば、温度制御装置61aをアニール炉とし、温度制御装置61bを冷却路とし、温度制御装置61cを冷却装置とすることで、単一階において、
図1の温度制御装置61、62、63と同等の温度制御をすることができる。
【0061】
図4は、製造装置100に適用できる経路延長装置および温度制御装置の変形例2を示す模式図である。この変形例2では、製造装置100における4階L4に設置された経路延長装置20が有する方向変換器22を、3つの方向変換器22c、22d、22eに置き換え、温度制御装置61を、4つの温度制御装置61d、61e、61f、61gに置き換えている。
【0062】
この変形例2では、互いに離間して配置された方向変換器22c、22d、22fによって、光ファイバOF1の進行方向を3回変換して、方向変換器21から進行してきた光ファイバOF1を方向変換器23に向かって折り返す。このように同一階において光ファイバOF1の進行方向を複数回変換することによって、単一階において、光ファイバOF1の経路をより長くすることができる。
【0063】
また、温度制御装置61dは方向変換器21と方向変換器22cとの間に配置されており、光ファイバOF1の温度を制御する。温度制御装置61eは方向変換器22cと方向変換器22dとの間に配置されており、光ファイバOF1の温度を制御する。温度制御装置61fは方向変換器22dと方向変換器22eとの間に配置されており、光ファイバOF1の温度を制御する。温度制御装置61fは方向変換器22dと方向変換器22eとの間に配置されており、光ファイバOF1の温度を制御する。温度制御装置61gは方向変換器22eと方向変換器23との間に配置されており、光ファイバOF1の温度を制御する。温度制御装置61d、61e、61f、61gは、光ファイバOF1を互いに異なる温度に制御するが、温度制御装置61d、61e、61f、61gの順番で温度が低くなるように制御することが好ましい。このように、同一階で光ファイバOF1を互いに異なる温度に制御することによって、単一階においてより細かい温度制御をすることができる。たとえば、温度制御装置61dをアニール炉とし、温度制御装置61eを第2のアニール炉とし、温度制御装置61fを冷却路とし、温度制御装置61gを冷却装置とすることで、単一階において、
図1の温度制御装置61、62、63よりも細かい温度制御をすることができる。
【0064】
図5は、経路延長装置の変形例3を示す模式図である。この変形例3では、製造装置100における4階L4に設置された経路延長装置20が有する方向変換器22を、方向変換器22fに置き換えている。なお、温度制御装置61は図示を省略しているが、方向変換器21、23と方向変換器22fとの間に配置されている。
【0065】
方向変換器22fは、中心軸がz方向に平行な円柱状の形状を有しており、光ファイバOF1を多数回だけ巻回できるように構成されている。方向変換器22fは、方向変換器21から進行してきた光ファイバOF1の進行方向を連続的に変換して、方向変換器23に向かって折り返す。このような構成の方向変換器22fを用いることによって、光ファイバOF1の経路を長くすることができる。
【0066】
図6は、経路延長装置の変形例4を示す模式図である。この変形例4では、製造装置100における4階L4に設置された経路延長装置20が有する方向変換器22を、方向変換器22gに置き換えている。なお、温度制御装置61は図示を省略しているが、方向変換器21、23と方向変換器22gとの間に配置されている。
【0067】
方向変換器22gは、中心軸がz方向に平行な多角柱状(図示する例では四角柱状)の形状を有しており、光ファイバOF1を多数回だけ巻回できるように構成されている。方向変換器22gは、方向変換器21から進行してきた光ファイバOF1の進行方向を複数回だけ変換して方向変換器23に向かって折り返す。このような構成の方向変換器22gを用いることによって、光ファイバOF1の経路を長くすることができる。方向変換器22gは、三角柱状や六角柱状等、他の多角柱状の形状でもよい。
【0068】
なお、方向変換器22f、22gの中心軸はz方向に平行に限られず、様々な方向に設定することができる。また、方向変換器22f、22gは、中心軸を回転軸として回転させてもよい。
【0069】
また、
図3〜6に示す変形例1〜4の構成は、製造装置100における3階L3または2階L2に設置された経路延長装置および温度制御装置に適用してもよい。
【0070】
図7は、光ファイバの製造装置の変形例を示す模式図である。この製造装置100Aは、製造装置100に保護膜形成装置70を追加した構成を有する。
【0071】
保護膜形成装置70は、加熱炉10と、光ファイバOF1の経路における最初の方向変換器21との間に配置されている。保護膜形成装置70は、方向変換器21が光ファイバOF1の進行方向を変換する前に光ファイバOF1の外周に耐熱性の保護層を形成する装置である。
【0072】
このような保護膜を形成することによって、光ファイバOF1の進行方向を変換する際に光ファイバOF1が破損する可能性を低減することができる。なお、光ファイバOF1は加熱炉10から出てきた後は高温であるので、保護層はその高温に耐え得る耐熱性を有する。
【0073】
保護膜形成装置70としては、たとえばTEOS(オルトケイ酸テトラエチル)から作製されたゾルを光ファイバOF1の外周に吹き付け、シリカガラスのゲルからなる保護層を形成する装置を使用できる。なお、この保護層の外周にそのまま被覆形成装置51にて被覆を形成してもよい。または、光ファイバOF1の経路における最後の方向変換器43を通過した後、被覆形成装置51にて被覆を形成する前に、保護層を除去してもよい。保護層を除去する方法としては、気体や液体などの流体を保護層に吹き付け、保護層を吹き飛ばして除去する方法や、貯留した液体に保護層を通過させ、保護層を溶解させて除去する方法などを適宜採用できる。
【0074】
なお、上記実施形態では、中層階は2階L2、3階L3、4階L4の3階があるが、中層階の数はこれに限られず、1つ以上であればよい。
【0075】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。