特許第6887210号(P6887210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6887210レーザ処理方法、接合方法、銅部材、多層プリント配線基板の製造方法、及び多層プリント配線基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887210
(24)【登録日】2021年5月20日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】レーザ処理方法、接合方法、銅部材、多層プリント配線基板の製造方法、及び多層プリント配線基板
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/354 20140101AFI20210603BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20210603BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20210603BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   B23K26/354
   C23C26/00 E
   H05K3/00 N
   H05K3/38 B
【請求項の数】18
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-530344(P2018-530344)
(86)(22)【出願日】2017年7月26日
(86)【国際出願番号】JP2017026996
(87)【国際公開番号】WO2018021392
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2020年3月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-147575(P2016-147575)
(32)【優先日】2016年7月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】岩間 真木
(72)【発明者】
【氏名】松下 俊一
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−212013(JP,A)
【文献】 特開2013−242475(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/035255(WO,A1)
【文献】 特開平06−212451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/354
C23C 26/00
H05K 3/00
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザを用いて銅表面の表面処理を行うレーザ処理方法において、
レーザパワーが銅を加工可能な閾値近傍で且つパルス幅がナノオーダー秒であるパルスレーザを、前記銅表面に照射し、
前記銅表面にレーザ波長オーダーの周期構造を形成することを特徴とするレーザ処理方法。
【請求項2】
前記銅表面にレーザ波長オーダーの周期構造を形成するとともに、前記銅表面上に被膜を形成することを特徴とする請求項1記載のレーザ処理方法。
【請求項3】
前記レーザ波長オーダーの周期構造の凸部に銅を堆積又は析出させて、前記レーザ波長オーダーの周期構造よりも周期が短いデンドライト構造物を形成することを特徴とする請求項1又は2記載のレーザ処理方法。
【請求項4】
前記銅表面に加工ビーム径に相当する溝を形成可能な第1パルス幅と第1フルエンスとからなるレーザ処理条件と、前記第1パルス幅及び第1フルエンスに比べてそれぞれ値が小さく前記銅表面から銅化合物被膜のみ除去可能な第2パルス幅と第2フルエンスとからなるレーザ処理条件と、を参照し、
パルス幅が前記第1パルス幅と前記第2パルス幅との間に設定されるとともにフルエンスが前記第1フルエンスと前記第2フルエンスとの間に設定されたパルスレーザを前記銅表面に照射し、レーザ波長オーダーの周期構造を形成することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載のレーザ処理方法。
【請求項5】
波長が1000−1600nm、パルス幅が0.8ns−5.0ns、フルエンスが1.0×10W/cm−4.0×10W/cmであるパルスレーザを、大気ないし、酸素と水と活性ガスとのうちのいずれかの雰囲気で、前記銅表面に照射することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載のレーザ処理方法。
【請求項6】
前記銅表面に形成させる周期構造における高さと形状とに応じて、繰り返し周波数とレーザ強度と走査速度とスポットサイズと波長と雰囲気のうち1以上のパラメータを調整したパルスレーザを、前記銅表面に照射することを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一項記載のレーザ処理方法。
【請求項7】
前記パルスレーザの偏光方向を制御しながら、前記パルスレーザを前記銅表面に照射することで、前記銅表面上に所定方向に沿った前記周期構造を形成することを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか一項記載のレーザ処理方法。
【請求項8】
前記パルスレーザのエネルギープロファイルをトップハット形状に設定して、前記パルスレーザを前記銅表面に照射することを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか一項記載のレーザ処理方法。
【請求項9】
前記パルスレーザを、前記銅表面における同一照射位置に対して、逐次フルエンスを引き下げながら照射することを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか一項記載のレーザ処理方法。
【請求項10】
銅箔を樹脂材料に接合させる接合方法において、
レーザパワーが銅を加工可能な閾値近傍で且つパルス幅がナノオーダー秒であるパルスレーザを、前記銅箔の表面に照射し、
前記銅箔の表面にレーザ波長オーダーの周期構造の粗化部分を形成し、
前記銅箔の表面に形成された粗化部分を、前記樹脂材料に、レーザ溶接又は熱圧着させることを特徴とする接合方法。
【請求項11】
面方向の周期が0.35μm〜2μmであって高さが1.5μm未満である周期構造が、少なくとも一方の表面に形成されており、
前記周期構造の上には被膜が形成されており、
前記被膜は、その表面に、前記周期構造よりも短い周期の凹凸構造が形成されていることを特徴とする銅部材。
【請求項12】
前記銅部材の厚さに対する前記周期構造の高さの割合は、0.15%以上30%以下であることを特徴とする請求項11記載の銅部材。
【請求項13】
前記凹凸構造が形成された前記被膜の表面積は、前記周期構造が形成された前記表面の表面積の少なくとも10倍であることを特徴とする請求項11又は12記載の銅部材。
【請求項14】
前記凹凸構造は、デンドライト構造物から構成されていることを特徴とする請求項11乃至13のうちいずれか一項記載の銅部材。
【請求項15】
前記銅部材は、銅箔であることを特徴とする請求項11又は12記載の銅部材。
【請求項16】
多層プリント配線基板の製造するプリント配線基板の製造方法において、
前記多層プリント配線基板の内層配線部分に、レーザパワーが銅を加工可能な閾値近傍で且つパルス幅がナノオーダー秒であるパルスレーザを選択的に照射し、
前記内層配線部分にレーザ波長オーダーの周期構造を形成することを特徴とする多層プリント配線基板の製造方法。
【請求項17】
内層配線部分が形成された多層プリント配線基板において、
前記内層配線部分には、電流の導通方向と平行に、面方向の周期が0.35μm〜2μmであって高さが1.5μm未満である周期構造が形成されていることを特徴とする多層プリント配線基板。
【請求項18】
前記周期構造の上には被膜が形成されており、
前記被膜は、その表面に、前記周期構造よりも短い周期の凹凸構造が形成されていることを特徴とする請求項17記載の多層プリント配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザを用いて銅表面を加工するレーザ処理方法、銅箔を樹脂材料に接合させる接合方法、及び表面処理が施された銅部材に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス、自動車等諸産業の急速な発展とともに、材料の多様化と高機能化が進む中で、特に、樹脂と金属との異種材料を効率的に組み合わせた部材は、部品の軽量化、設計自由度の向上およびコストの削減等の観点から、その需要が拡大してきている。
【0003】
一般に、異種材料を組み合わせた部材では、接合部の密着性を高めることが難しく、例えば、基材を樹脂でモールドする半導体パッケージ構造では、特に高温時に樹脂と金属とのくっつきが不十分であったり、樹脂とリードフレーム(金属)と間の熱膨張率の差やパッケージ内の水分の膨張により、樹脂クラックやチップ剥がれが生じたりするなどの問題があった。
【0004】
上記のような問題を解決するため、特許文献1〜3では、金属部材の表面を粗面化することで、特に異種材料との接合部に凹凸を形成し、接合部における密着性を高める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−294024号公報
【特許文献2】特開2010−167475号公報
【特許文献3】特開2013−111881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1〜3に係る発明では、異種材料との接合部に凹凸を形成するため、金属部材の表面を粗面化している。銅箔に高周波信号を伝送させる場合には、表皮効果に起因した伝送損失を抑制しつつ樹脂材料との密着性を高めるため、より微細な凹凸を銅表面に形成することが望まれる。
【0007】
しかしながら、銅のような熱伝導率がきわめてよく、光の吸収率の悪い金属では、特許文献1〜3に係る発明を適用して表面に微細な凹凸を形成することは難しい。具体的に、微細な凹凸を表面に形成するためには、ピコ秒・フェムト秒といった超短パルスレーザを用いることが必要となるが、このような超短パルスレーザは、光と金属の相互作用時間が短いため加工効率が悪く、レーザ自体も高コストであるという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、良好な電気的特性を実現しつつ樹脂材料との密着性が良好となるように、銅表面を加工可能なレーザ処理方法、銅箔を樹脂材料に接合させる接合方法、表面処理が施された銅部材、多層プリント配線基板の製造方法、及び多層プリント配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の態様に係るレーザ処理方法は、レーザを用いて銅表面の表面処理を行うレーザ処理方法であって、レーザパワーが銅を加工可能な閾値近傍で且つパルス幅がナノオーダー秒であるパルスレーザを、前記銅表面に照射し、前記銅表面にレーザ波長オーダーの周期構造を形成することを特徴とする。具体的には、従来検討されてこなかった高フルエンスの領域でパルス幅をナノ秒オーダーで管理し、前記銅表面にレーザ波長オーダーの周期構造を形成する。ここで、フルエンスとはパルスレーザのピークパワをビームの面積で除算した値である。
【0010】
上記構成によれば、レーザパワーが銅を加工可能な閾値近傍で且つパルス幅がナノオーダー秒であるパルスレーザを銅表面に照射することによって、銅表面にレーザ波長オーダーの周期構造を形成することができる。このようなレーザ波長オーダーの周期構造では、高周波信号を低損失で伝送することができ、かつ他の部材と接合した際にアンカーとして機能して良好な密着性を実現することができる。また、ナノ秒オーダーのレーザを用いることで、例えばピコ秒・フェムト秒といった超短パルスレーザを用いる場合に比べて高速かつ安価な加工を実現できる。
【0011】
また、本発明に係るレーザ処理方法の好ましい態様によれば、前記銅表面にレーザ波長オーダーの周期構造を形成するとともに、前記銅表面上に被膜を形成することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るレーザ処理方法の好ましい態様によれば、前記レーザ波長オーダーの周期構造の凸部に銅を堆積又は析出させて、前記レーザ波長オーダーの周期構造よりも周期が短いデンドライト構造物を形成することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るレーザ処理方法の好ましい態様によれば、波長が1000−1600nm、パルス幅が0.8ns−5.0ns、フルエンスが1.0×10W/cm−4.0×10W/cmであるパルスレーザを、大気ないし、酸素と水と活性ガスとのうちのいずれかの雰囲気で、前記銅表面に照射することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るレーザ処理方法の好ましい態様によれば、前記パルスレーザの偏光方向を制御しながら、前記パルスレーザを前記銅表面に照射することで、前記銅表面上に所定方向に沿った前記周期構造を形成することを特徴とする。本態様によれば、所定方向に対する密着性が強く、所定方向に直行した方向に対する密着性が弱くなるような、異方的な密着性のコントロールが可能となる。
【0015】
また、本発明に係るレーザ処理方法の好ましい態様によれば、前記パルスレーザのエネルギープロファイルをトップハット形状に設定して、前記パルスレーザを前記銅表面に照射することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るレーザ処理方法の好ましい態様によれば、前記パルスレーザを、前記銅表面における同一照射位置に対して、逐次フルエンスを引き下げながら照射することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一の態様に係る接合方法は、銅箔を樹脂材料に接合させる接合方法であって、レーザパワーが銅を加工可能な閾値近傍で且つパルス幅がナノオーダー秒であるパルスレーザを、前記銅箔の表面に照射し、前記銅箔の表面にレーザ波長オーダーの周期構造の粗化部分を形成し、前記銅箔の表面に形成された粗化部分を、前記樹脂材料に、レーザ溶接又は熱圧着させることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の一の態様に係る銅部材は、面方向の周期が0.35μm〜2μmであって高さが1.5μm未満である周期構造が、少なくとも一方の表面に形成されている。
【0019】
また、本発明に係る銅部材の好ましい態様によれば、前記銅部材の厚さに対する前記周期構造の高さの割合は、0.15%以上30%以下であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る銅部材の好ましい態様によれば、前記周期構造の上には被膜が形成されており、前記被膜は、その表面に、前記周期構造よりも短い周期の凹凸構造が形成されていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る銅部材の好ましい態様によれば、前記凹凸構造が形成された前記被膜の表面積は、前記周期構造が形成された前記表面の表面積の少なくとも10倍であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る銅部材の好ましい態様によれば、前記凹凸構造は、デンドライト構造物から構成されていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る銅部材の好ましい態様によれば、前記銅部材は、銅箔であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の一の態様に係るプリント配線基板の製造方法は、多層プリント配線基板の製造するプリント配線基板の製造方法であって、前記多層プリント配線基板の内層配線部分に、レーザパワーが銅を加工可能な閾値近傍で且つパルス幅がナノオーダー秒であるパルスレーザを選択的に照射し、前記内層配線部分にレーザ波長オーダーの周期構造を形成することを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係るプリント配線基板の製造方法の好ましい態様によれば、内層配線部分が形成された多層プリント配線基板であって、前記内層配線部分には、電流の導通方向と平行に、面方向の周期が0.35μm〜2μmであって高さが1.5μm未満である周期構造が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、良好な電気的特性を実現しつつ樹脂材料との密着性が良好となるように、銅表面を加工可能なレーザ処理方法、銅箔を樹脂材料に接合させる接合方法、表面処理が施された銅部材、多層プリント配線基板の製造方法、及び多層プリント配線基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、レーザを用いて銅表面の表面処理を行うレーザ処理工程を模式的に示した図である。
図2図2は、横軸をパルス幅[ns]とし、縦軸をフルエンス[W/cm]とし、複数種類の条件下でレーザ処理を施した表面処理について、「加工」、「加工・被膜除去混在」、「被膜除去」「黒化処理」の4項目に評価した図である。
図3図3は、レーザ処理工程により表面処理を施した銅表面11を電子顕微鏡で2000倍に拡大視した画像を示した図である。
図4図4(A)は、パルスレーザを用いて表面処理を施した銅箔10の断面構造を電子顕微鏡で10000倍に拡大視した画像であり、図4(B)は、パルスレーザを用いて表面処理を施した銅箔10の断面構造を電子顕微鏡で50000倍に拡大視した画像である。
図5図5は、レーザ処理後の銅箔10の銅表面11をX線光電子分光解析法を用いて解析した結果を示した図である。
図6図6(A)は、比較例として、レーザ処理を行っていない銅箔610の表面611を、樹脂材料620にレーザ溶接又は熱圧着させた複合材料61の断面構造を示した図である。図6(B)は、レーザ処理を行った銅箔10の銅表面11を、樹脂材料20にレーザ溶接又は熱圧着させた複合材料100の断面構造を示した図である。
図7図7は、剥離試験を実施する実施方法について説明するための図である。
図8図8(A)は、銅箔のM面をFR4からなる樹脂基板に貼り付けた複合材料を、レーザ処理の有無に合わせて2種類準備し、それぞれ剥離試験を行ったピール強度を示した図である。図8(B)は、銅箔のS面をFR4からなる樹脂基板に貼り付けた複合材料を、レーザ処理の有無の2種類準備し、それぞれ剥離試験を行ったピール強度を示した図である。図8(C)は、銅箔のS面をMegtron6からなる樹脂基板に貼り付けた複合材料を、レーザ処理の有無の2種類準備し、それぞれ剥離試験を行ったピール強度を示した図である。
図9図9は、本実施形態に係るレーザ処理工程によって周期構造12が形成された銅箔10を模式的に示す図である。
図10図10は、被膜450の表面積の算出方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための形態(以下、本実施形態という。)について具体例を示して説明する。本実施形態は、レーザを用いて銅表面の表面処理を行うレーザ処理方法に関する。
【0029】
図1は、レーザを用いて銅表面の表面処理を行うレーザ処理工程を模式的に示した図である。本実施形態に係るレーザ処理工程では、銅部材10の銅表面11に対して、従来検討されてこなかった高フルエンスの領域でパルス幅がナノ秒オーダーで管理されたパルスレーザを照射する。具体的には、図1に示すように、銅部材10の銅表面11に対して、レーザパワーが銅を加工可能な閾値近傍で且つパルス幅がナノオーダー秒であるパルスレーザ2を照射する。ナノオーダー秒とは、たとえば0.8ns〜5.0nsの範囲を指す。また、フルエンスとはパルスレーザのピークパワをビームの面積で除算した値である。
【0030】
ここで、銅部材10は、銅(Cu)を主成分とする金属材料から構成されており、例えば銅板である。本実施形態では、上記銅板のうち、厚さが500μm以下のものを銅箔と称する。本実施形態では、一例として、銅部材10が銅箔であるとし、以下「銅箔10」と表記する。
【0031】
ここで、レーザパワーであるフルエンス[W/cm]とパルス幅[ns]とを変化させたときの、レーザ処理された銅箔の表面の特性について説明する。図2は、横軸をパルス幅[ns]とし、縦軸をフルエンス[W/cm]とし、複数種類の条件下でレーザ処理を施した表面処理について、「加工」、「加工・被膜除去混在」、「被膜除去」「黒化処理」の4項目に評価した図である。
【0032】
ここで、「加工」とはアブレーションあるいは入熱に伴う溶融・蒸発により銅が除去され加工ビーム径に相当する溝が形成されることであり、「被膜除去」とは銅箔表面の錆などの銅化合物被膜のみが除去されることであり、「加工・被膜除去混在」とは前記の加工と被膜除去が同時に起きることであり、「黒化処理」とは「加工」と「被膜除去」の中間領域であり、銅箔表面に酸化物などの被膜を形成すると同時にレーザ波長オーダーの微細な周期構造を形成することである。ここでビーム径とはガウシアンビームのスポットサイズを指す。ガウシアンビームで加工する場合は、黒化処理においても、フルエンスの高いビームの中心部において銅表層の除去が起きることがある。したがって、加工ビームのエネルギープロファイルはガウシアンよりもトップハット形状の方がより好ましい。つまり、パルスレーザのエネルギープロファイルをトップハット形状に設定することが好ましい。
【0033】
上記図2に示した評価から「加工」と「被膜除去」の中間のフルエンス・パルス幅で加工することが好ましい。すなわち、銅表面11に加工ビーム径に相当する溝を形成可能なパルス幅(第1パルス幅)とフルエンス(第1フルエンス)とからなるレーザ処理条件と、第1パルス幅及び第1フルエンスに比べてそれぞれ値が小さく銅表面11から銅化合物被膜のみ除去可能なパルス幅(第2パルス)とフルエンス(第2フルエンス)とからなるレーザ処理条件とを取得し、例えば、プロファイルデータとしてレーザ加工装置に設けられたストレージなどに予め記憶しておく。そして、レーザ加工装置が、このプロファイルデータを参照し、パルス幅が第1パルス幅と第2パルス幅との間に設定されるとともにフルエンスが第1フルエンスと第2フルエンスとの間に設定されたパルスレーザを銅表面11に照射し、レーザ波長オーダーの周期構造を形成する。図2の結果から得られる具体的な数値としては、パルス幅が0.8ns−5.0ns、フルエンスが1.0×10W/cm−4.0×10W/cmに設定されたパルスレーザを用いることで、パルスエネルギーが銅箔の加工閾値近傍となり、図1に示すように銅箔10の銅表面11に周期構造12と被膜13とを形成することができる。
【0034】
特に、レーザパワーが銅を加工可能な閾値近傍で且つパルス幅がナノオーダー秒であるパルスレーザとしては、次のような条件を満たすことが好ましい。
【0035】
ここで、ナノオーダー秒のパルス幅とは、0.8nsから999nsの範囲を言う。
【0036】
すなわち、波長が1000−1600nm、パルス幅が0.8ns−999ns、フルエンスが1.0×10W/cm−4.0×10W/cmであるパルスレーザを、大気ないし、酸素と水と活性ガスとのうちのいずれかの雰囲気で、銅表面11に照射することが好ましい。
【0037】
より好ましくは、波長が1000−1600nm、パルス幅が0.8ns−5.0ns、フルエンスが1.0×10W/cm−4.0×10W/cmであるパルスレーザを、大気ないし、酸素と水と活性ガスとのうちのいずれかの雰囲気で、銅表面11に照射する。
【0038】
更に好ましくは、波長が1000−1600nm、パルス幅が1.0ns−5.0ns、フルエンスが1.0×10W/cm−4.0×10W/cmであるパルスレーザを、大気ないし、酸素と水と活性ガスとのうちのいずれかの雰囲気で、銅表面11に照射する。
【0039】
銅は表面に酸化被膜が形成されると、光の吸収率の向上及び熱伝導率の低下を引き起こし、レーザ処理が促進される。そのため、同一か所を何度もレーザ処理する場合は、逐次フルエンスを引き下げつつ処理することが好ましい。
【0040】
また、周期構造は加工ビームの偏光方向に垂直に形成される。このため、パルスレーザの偏光方向を波長板などで制御しながら銅表面11に照射することで、任意の方向(所定方向)に周期を持った構造を形成できる。このように所定方向に周期構造を形成することにより、所定方向に対する密着性が強く、所定方向に直行した方向に対する密着性が弱くなるような、異方的な密着性のコントロールが可能となる。
【0041】
上述したようにレーザパワーが銅を加工可能な閾値近傍となるように、適切にフルエンスをコントロールすることで、銅箔10の銅表面11に波長オーダーの周期構造12と被膜13とを形成することができる。波長オーダーとは、たとえば1000nm〜1600nmを指す。なお、レーザ波長を短くすることで、1000nm以下の周期構造を形成してもよい。
【0042】
特に、銅表面11に形成させる周期構造12における高さと形状とに応じて、繰り返し周波数とレーザ強度と走査速度とスポットサイズと波長と雰囲気のうち1以上のパラメータを調整したパルスレーザを、銅表面11に照射することが好ましい。
【0043】
以上のように、本実施形態に係るレーザ処理工程では、従来検討されてこなかった高フルエンスの領域でパルス幅がナノ秒オーダーで管理されるパルスレーザを銅表面11に照射することで、レーザ波長オーダーの周期構造12を形成する。具体的には、レーザパワーが銅を加工可能な閾値近傍で且つパルス幅がナノオーダー秒であるパルスレーザを銅表面11に照射することによって、銅表面11にレーザ波長オーダーの周期構造12を形成することができる。また、ナノ秒オーダーのレーザを用いることで、例えばピコ秒・フェムト秒といった超短パルスレーザを用いる場合に比べて高速かつ安価な加工を実現できる。
【0044】
図9は、本実施形態に係るレーザ処理工程によって周期構造12が形成された銅箔10を模式的に示す図である。
図9に示すように、銅箔10の厚さ、すなわち、銅表面11と銅表面11に対向する裏面14との間の距離をL1とし、周期構造12における高さ、すなわち、周期構造12を構成する凹部(溝)120の底面から銅表面11までの距離をL2としたとき、銅箔10の厚さL1に対する周期構造12の高さL2の割合は、0.15%以上30%以下である。
【0045】
次に、周期構造12および被膜13について詳述する。
【0046】
まず、上記のレーザ処理工程により表面処理を施した銅表面11を電子顕微鏡で2000倍に拡大視した画像を図3に示す。この図3から明らかなように、銅箔の表面には約1200nmの均一な周期構造200が形成される。
【0047】
また、図4は、パルスレーザを用いて表面処理を施した銅箔10の断面構造を示した画像であって、具体的に図4(A)は電子顕微鏡で10000倍に拡大視した画像であり、図4(B)は電子顕微鏡で50000倍に拡大視した画像である。図4(A)から明らかなように、10000nm(10μm)あたり約8周期、すなわち1250nm周期で、高さが約400nmの周期構造400が形成される。また、図4(B)に示すように周期構造400を拡大すると、周期構造400の上には、周期がより短く高さ400nm程度の凹凸構造としてのデンドライト構造の被膜450が形成される。
【0048】
次に、レーザ処理後の銅箔10の銅表面11をX線光電子分光解析法した解析結果を図5に示す。具体的に、図5は、レーザ処理後の銅箔に係る分析結果を実線で示し、比較例として、レーザ処理前の銅箔に係る分析結果を破線で示している。また、図5において、結合エネルギE1が有機物C−O結合の測定値に相当し、結合エネルギE2がCu水酸化物の有機物C=O結合の測定値に相当し、結合エネルギE3がCuOの測定値に相当し、結合エネルギE4がCuOの測定値に相当する。図5の実線と破線との比較結果から、未処理の銅箔に比べ、レーザ処理後の銅箔では、Cu水酸化物とCuOの増加がみられ、銅表面に酸化被膜が形成されていることが明らかである。
【0049】
例えば、銅箔をプリント配線基板の用途などに使用する際に、酸化被膜450を残すことが好ましくない場合には、希硫酸による洗浄で除去することができる。この場合にも、周期構造400を残すことができる。
【0050】
上記の図3乃至図5から明らかなように、銅箔10の銅表面11に波長オーダー(約1200nm)の周期構造12と被膜13とが形成される。このような周期構造12と被膜13は、次のような理由から、高周波信号を低損失で伝送することができ、かつ他の部材と接合した際にアンカーとして機能して良好な密着性を実現することができる。
【0051】
まず、図6(A)は、比較例として、レーザ処理を行っていない銅箔610の表面611を、樹脂材料620にレーザ溶接又は熱圧着させた複合材料61の断面構造を示した図である。図6(A)に示したような比較例に係る銅箔610の表面611は、例えば製造工程などに起因して、上述した本実施形態に係る銅箔10の銅表面11よりも高さ(厚み)方向に凹凸な形状となっている。このため、当該銅箔610に高周波信号を流すと、表皮効果によって表面611の凹凸に沿って上下しながら信号が流れることになり、抵抗が大きくなってしまう。
【0052】
一方、図6(B)は、レーザ処理を行った銅箔10の銅表面11を、樹脂材料20にレーザ溶接又は熱圧着させた複合材料100の断面構造を示した図である。図6(B)の断面図に示すように、銅箔10の銅表面11は、上述した周期構造と被膜とにより、比較例に係る銅箔610の表面611よりも高さ(厚み)方向の凹凸が小さい。このため、当該銅箔10に高周波信号を流した場合には、表皮効果によって銅表面11の凹凸に沿って上下しながら信号が流れるものの、上述した表面611に比べて凹凸の高さが低いため、抵抗が小さくなる。
【0053】
さらに、銅表面11に形成される周期構造はアンカー効果を発揮し、樹脂材料20に対する密着性を向上させることができる。銅表面11に形成される酸化被膜は、樹脂材料20に対する化学結合の形成を促進し、銅箔10と樹脂材料20との化学的密着性の向上に貢献することができる。
【0054】
特に、銅箔10は、面方向の周期が0.35μm〜2μmであって高さが1.5μm未満である周期構造が銅表面11に形成されていることで、特に1GHz帯域以上の高周波信号を伝送する際に抵抗を低くすることができる点で好ましい。具体的な理由としては、電気信号の周波数が1GHz以上になると、電流が導体の表面にだけ流れる表皮効果の影響が顕著になり、表面の凹凸で電流伝送経路が変化して導体損失が増大する影響が無視できなくなるからである。
【0055】
また、凹凸構造が形成された被膜13の表面の表面積を、周期構造12が形成された銅表面11の表面積の少なくとも10倍にすることにより、銅箔10と樹脂材料20との密着性を確実に向上させることが可能となる。
【0056】
以下、周期構造12が形成された銅表面11の表面積とデンドライト構造物450Aが形成された被膜13(被膜450)の表面積の数値例を示す。
【0057】
図10は、被膜450の表面積の算出方法を説明するための図である。
図10に示すように、被膜450の凹凸構造を構成するデンドライト構造物450Aは、樹枝状に形成されている。そこで、デンドライト構造物450Aを、銅表面11に形成された一次構造物451と、一次構造物451から枝分かれして形成された二次構造物452とに分けて、被膜13の表面積を考える。
【0058】
一次構造物451の1本当たりの平均の高さを0.25μm、一次構造物451の1本当たりの平均の直径を0.06μmとする。また、銅表面11の1μm当たり15本の一次構造物451が形成されているとした場合、銅表面11の1μm当たりには、225(=15×15)本の一次構造物451が形成される。また、図10に示すように、一次構造物451は、周期構造12を構成する凸部121と凹部120のうち、主に凸部121に多く形成されている。そのため、凸部121と凹部120の面積比を3:1とした場合、凸部121に形成される一次構造物451は168本となる。そこで、銅表面11の1μm当たりに形成される一次構造物451の本数を160本とする。
【0059】
一方、二次構造物452の1本当たりの平均の高さを0.012μm、二次構造物452の1本当たりの平均の直径を0.025μmとし、1本の一次構造物451当たり50本の二次構造物452が形成されているとする。
【0060】
この場合、一次構造物451の表面積は、一次構造物451の上部面積と側面積を考慮すると、銅表面11の表面積1μm当たり7.992μmと見積もることができる。また、二次構造物452の表面積は、二次構造物452の側面積を考慮すると、銅表面11の表面積1μm当たり7.540μmと見積もることができる。したがって、デンドライト構造物450Aが形成された被膜450の表面積は、15.53(=7.992+7.540)μmと見積もることができる。
【0061】
一方、周期構造12を形成することによる銅表面11の面積向上率を20%とした場合、銅表面11の表面積は、1μm当たり1.2μmに増加する。
【0062】
したがって、図10の場合、被膜450の表面の表面積は、銅表面11の表面積の約12.94(=15.53/1.2)倍となる。
【0063】
このように、凹凸構造としてのデンドライト構造物450Aが形成された被膜13の表面の表面積を銅表面11の表面積の少なくとも10倍にすることにより、樹脂材料20を銅表面11に直接密着させる場合に比べて樹脂材料20との密着面積を確実に広くすることができるので、銅箔10と樹脂材料20との密着性を確実に向上させることが可能となる。
【0064】
次に、レーザ処理を表面に施した銅箔と、レーザ処理を表面に施していない銅箔との密着性能を評価するため、剥離試験として、図7に示すように、銅箔71を樹脂材料72に接合した接合材料70について、銅箔71を矢印Y方向に引き剥がすのに必要な力(引っ張り強度)を測定した。
【0065】
具体的には、第1の剥離試験として、銅箔のM面をパナソニック社製FR4 R−1766からなる樹脂基板に貼り付けた複合材料を、レーザ処理の有無に合わせて2種類準備した。銅箔をパナソニック社製R−1766に接合する際の硬化温度は170℃として、硬化時間は1時間とした。
【0066】
そして、これら準備した複合材料について、それぞれ切れ込みを入れ、引き剥がした際の引っ張り強度(ピール強度)を測定した。具体的には、作製した測定用サンプルの樹脂側を支持金具により固定し、銅箔を測定サンプルの90度方向に50mm/分の速度で剥離し、剥離強度を測定した。ピール幅は10mm±0.1mmとした。剥離強度の測定は、東洋ボールドウィン株式会社製TENSILON UMT−4−100を用いて行った。
【0067】
図8(A)は、左側の棒グラフが、レーザ処理を行っていない銅箔を樹脂材料に貼り合わせた複合材料(比較例)の引っ張り強度を示し、右側の棒グラフが、レーザ処理を行った銅箔を樹脂材料に貼り合わせた複合材料(実施例)の引っ張り強度を示したグラフである。図8(A)から明らかなように、銅箔に対してレーザ処理を施すことで、16%程度、引っ張り強度が向上した。
【0068】
また、第2の剥離実験として、銅箔のS面をパナソニック社製FR4 R−1766からなる樹脂基板に貼り付けた複合材料を、レーザ処理の有無の2種類準備した。銅箔をパナソニック社製R−1766に接合する際の硬化温度は170℃として、硬化時間は1時間とした。
【0069】
そして、これら準備した複合材料について、それぞれ切れ込みを入れ、引き剥がした際の引っ張り強度(ピール強度)を測定した。具体的には、作製した測定用サンプルの樹脂側を支持金具により固定し、銅箔を測定サンプルの90度方向に50mm/分の速度で剥離し、剥離強度を測定した。ピール幅は10mm±0.1mmとした。剥離強度の測定は、東洋ボールドウィン株式会社製TENSILON UMT−4−100を用いて行った。
【0070】
図8(B)は、左側の棒グラフが、レーザ処理を行っていない銅箔を樹脂材料に貼り合わせた複合材料(比較例)の引っ張り強度を示し、右側の棒グラフが、レーザ処理を行った銅箔を樹脂材料に貼り合わせた複合材料(実施例)の引っ張り強度を示したグラフである。図8(B)から明らかなように、銅箔に対してレーザ処理を施すことで、86%程度、引っ張り強度が向上した。
【0071】
また、第3の剥離実験として、銅箔のS面をMEGTRON6 R−5670からなる樹脂基板に貼り付けた複合材料を、レーザ処理の有無の2種類準備した。銅箔をMEGTRON6 R−5670に接合する際の硬化温度は200℃として、硬化時間は2時間とした。
【0072】
そして、これら準備した複合材料について、それぞれ切れ込みを入れ、引き剥がした際の引っ張り強度(ピール強度)を測定した。具体的には、作製した測定用サンプルの樹脂側を支持金具により固定し、銅箔を測定サンプルの90度方向に50mm/分の速度で剥離し、剥離強度を測定した。ピール幅は10mm±0.1mmとした。剥離強度の測定は、東洋ボールドウィン株式会社製TENSILON UMT−4−100を用いて行った。
【0073】
図8(C)は、左側の棒グラフが、レーザ処理を行っていない銅箔を樹脂材料に貼り合わせた複合材料(比較例)の引っ張り強度を示し、右側の棒グラフが、レーザ処理を行った銅箔を樹脂材料に貼り合わせた複合材料(実施例)の引っ張り強度を示したグラフである。図8(C)から明らかなように、銅箔に対してレーザ処理を施すことで、128%程度、引っ張り強度が向上した。
【0074】
上記の図8に示す引っ張り強度の測定結果から明らかなように、銅箔に対してレーザ処理を施して周期構造と被膜とを形成することで、周期構造と被膜とが樹脂材料と接合する際にアンカーとして機能し、樹脂材料との密着性の向上を図ることができる。
【0075】
以上の図6乃至図8を用いて説明したように、銅箔10の銅表面11にレーザ波長オーダーの周期構造を形成することにより、高周波信号を低損失で伝送することができ、かつ他の部材と接合した際にアンカーとして機能して良好な密着性を実現することができた。
【0076】
また、本実施形態に係るレーザ処理方法は、上述した実施例に限定されず、例えば次に示すような、多層プリント配線基板の製造方法に適用することができる。具体的に、多層プリント配線基板の積層プレス工程においては、エッチングにより形成された内層配線の上面が、その上層側に積層される樹脂と密着することになる。そのために、配線の上面の粗化が求められている。上述した本実施形態にかかるレーザ処理は、高度な位置選択性を持つため、このような多層基板の製造工程における配線の上面の粗化に好適である。そこで、多層プリント配線基板の内層配線部分に、レーザパワーが銅を加工可能な閾値近傍で且つパルス幅がナノオーダー秒であるパルスレーザを選択的に照射し、内層配線部分にレーザ波長オーダーの周期構造を形成することが好ましい。特に、たとえば加工ビーム径は10μmまで絞ることができるため、10μm幅の微細な配線の選択的粗化が可能となる点で好ましい。
【0077】
さらに偏光を制御することで、周期構造の方向を配線に合わせ変化させることができる。具体的には、偏光を制御することで、電流の導通方向と平行に、面方向の周期が0.35μm〜2μmであって高さが1.5μm未満である周期構造を形成することができる。すなわち、このように周期構造の方向を変化することにより、電流の流れる方向に平行に微細な周期構造を形成できる。このため、電流の流れる方向に平行に微細な周期構造を形成した場合は、例えば電流の流れる方向に垂直に微細な周期構造が形成されている場合に比べ、伝送損失の劣化を抑えながら、樹脂に対する密着を上げることができる。
【0078】
また、上記実施形態では、被膜13に形成される凹凸構造としてデンドライト構造を例示したが、被膜13の表面積が銅表面11の表面積よりも大きくなるのであれば、デンドライト構造以外の構造であってもよい。
【符号の説明】
【0079】
10 銅箔
11 銅表面
12 周期構造
13 被膜
2 パルスレーザ
450A デンドライト構造物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10