(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887211
(24)【登録日】2021年5月20日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】端子および端子付き電線
(51)【国際特許分類】
H01R 4/18 20060101AFI20210603BHJP
H01R 4/70 20060101ALI20210603BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H01R4/70 K
H01B7/00 306
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-39835(P2019-39835)
(22)【出願日】2019年3月5日
(65)【公開番号】特開2020-145049(P2020-145049A)
(43)【公開日】2020年9月10日
【審査請求日】2020年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏和
(72)【発明者】
【氏名】河中 裕文
(72)【発明者】
【氏名】生沼 良樹
【審査官】
井上 信
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−95388(JP,A)
【文献】
特開2012−124100(JP,A)
【文献】
特開2012−54143(JP,A)
【文献】
特開2013−80682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/18
H01R 4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆導線と接続されるオープンバレル型の端子であって、
前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、
前記圧着部は、前記被覆導線の導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆導線の被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、
少なくとも前記バレル間部の内面の表面粗さが、算術平均粗さRaで0.2μm以上0.5μm以下であることを特徴とする端子。
【請求項2】
前記バレル間部の内面の表面粗さは、前記被覆圧着部の内面の表面粗さよりも粗いことを特徴とする請求項1記載の端子。
【請求項3】
被覆導線と接続されるオープンバレル型の端子であって、
前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、
前記圧着部は、前記被覆導線の導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆導線の被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、
少なくとも前記バレル間部の内面に粗面化部が設けられ、前記バレル間部の内面の表面粗さは、前記被覆圧着部の内面の表面粗さよりも粗いことを特徴とする端子。
【請求項4】
前記バレル間部の内面の表面粗さは、前記端子本体の他の端子との接触面の表面粗さよりも粗いことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の端子。
【請求項5】
前記バレル間部の内面の表面粗さは、前記端子本体と前記圧着部との間のトランジション部の内面の表面粗さよりも粗いことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の端子。
【請求項6】
前記バレル間部の内面の表面粗さは、前記端子の外面の表面粗さよりも粗いことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の端子。
【請求項7】
被覆導線と端子とが接続される端子付き電線であって、
前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する導線とを具備し、
前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、
前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、
少なくとも前記バレル間部の内面の表面粗さが、算術平均粗さRaで0.2μm以上0.5μm以下であり、
少なくとも、前記バレル間部から前記導線圧着部までの前記導線が露出する部位が樹脂部材で覆われることを特徴とする端子付き電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に用いられる端子および端子付き電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、OA機器、家電製品等の分野では、電力線や信号線として、電気導電性に優れた銅系材料からなる電線が使用されている。特に、自動車分野においては、車両の高性能化、高機能化が急速に進められており、車載される各種電気機器や制御機器が増加している。したがって、これに伴い、使用される端子付き電線も増加する傾向にある。
【0003】
一方、環境問題が注目される中、自動車の軽量化が要求されている。したがって、ワイヤハーネスの使用量増加に伴う重量増加が問題となる。このため、従来使用されている銅線に代えて、軽量なアルミニウム電線が注目されている。
【0004】
ここで、このような電線同士を接続する際や機器類等の接続部においては、接続用端子が用いられる。しかし、アルミニウム電線を用いた端子付き電線であっても、接続部の信頼性等のため、端子部には、電気特性に優れる銅が使用される場合がある。このような場合には、アルミニウム電線と銅製の端子とが接合されて使用される。
【0005】
しかし、異種金属を接触させると、標準電極電位の違いから、いわゆる電食が発生する恐れがある。特に、アルミニウムと銅との標準電極電位差は大きいため、接触部への水の飛散や結露等の影響により、電気的に卑であるアルミニウム側の腐食が進行する。このため、接続部における電線と端子との接続状態が不安定となり、接触抵抗の増加や線径の減少による電気抵抗の増大、更には断線が生じて電装部品の誤動作、機能停止に至る恐れがある。
【0006】
このため、電線と端子との接続部を樹脂部材で被覆する方法が提案されている。例えば、被覆圧着部と導線圧着部との間に露出する導線等に樹脂部材を塗布して被覆した端子付き電線が提案されている(特許文献1)。
【0007】
図5は、従来の端子付き電線の部分断面図である。通常、被覆導線111の先端近傍は、被覆部115が除去されて内部の導線103が露出する。露出した導線103は導線圧着部107で圧着され、被覆部115は、被覆圧着部109で圧着される。被覆圧着部109と導線圧着部107の間のバレル間部108には、導線103の一部が露出するため、バレル間部108から導線圧着部107は、樹脂部材117で被覆される。
【0008】
しかし、被覆部115の端部と導線103の露出部の境界部において、外径の変化に伴う微小な隙間(図中X)が生じやすい。このような隙間が生じると、被覆圧着部109と被覆部115との間を浸透した水分が、導線103及び導線圧着部107へ浸透する恐れがある。このため、十分な防食性を確保するためには、この隙間Xへも樹脂部材117を浸透させて硬化させる必要がある。
【0009】
この隙間Xへの樹脂部材117で埋めるために、例えば、導線103をまず先に圧着し、樹脂部材117を塗布した後に被覆部115を圧着する方法が提案されている(例えば特許文献2)。
【0010】
また、バレル間部108の底面に孔を設けて、塗布した樹脂部材117を孔から吸引することで、隙間に樹脂部材117を浸透させる方法が提案されている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2017−102998号公報
【特許文献2】特開2018−063762号公報
【特許文献3】特開2017−199602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の方法では、製造工程が複雑となるため、加工コストが増加するという問題がある。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、加工コストの増加を抑制し、防食性に優れた端子付き電線およびこれに用いられる端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達するために第1の発明は、被覆導線と接続されるオープンバレル型の端子であって、前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、前記圧着部は、前記被覆導線の導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆導線の被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、少なくとも前記バレル間部の内面の表面粗さが、算術平均粗さRaで0.2μm以上0.5μm以下であることを特徴とする端子である。
【0015】
この場合、前記バレル間部の内面の表面粗さは、前記被覆圧着部の内面の表面粗さよりも粗いことが望ましい。
【0016】
また、第1の発明は、被覆導線と接続されるオープンバレル型の端子であって、前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、前記圧着部は、前記被覆導線の導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆導線の被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、少なくとも前記バレル間部の内面に粗面化部が設けられ、前記バレル間部の内面の表面粗さは、前記被覆圧着部の内面の表面粗さよりも粗いことを特徴とする端子であってもよい。
【0017】
前記バレル間部の内面の表面粗さは、前記端子本体の他の端子との接触面の表面粗さよりも粗くてもよい。
【0018】
前記バレル間部の内面の表面粗さは、前記端子本体と前記圧着部との間のトランジション部の内面の表面粗さよりも粗くてもよい。
【0019】
前記バレル間部の内面の表面粗さは、前記端子の外面の表面粗さよりも粗くてもよい。
【0020】
第1の発明によれば、バレル間部の内面の表面粗さが粗いため、樹脂部材と端子との濡れ性が向上し、樹脂部材を塗布した際に、効率よく樹脂部材を前述した隙間に浸透させることができる。
【0021】
特に、バレル間部の内面の表面粗さを、算術平均粗さRaで0.2μm以上0.5μm以下とすることで、樹脂部材の濡れ性を向上させるとともに、圧着部の品質を確保することができる。
【0022】
また、被覆圧着部の内面の表面粗さよりも、バレル間部の内面の表面粗さを粗くすることで、被覆圧着部内面の水の濡れ性を低くして、水分が被覆圧着部と被覆部の隙間に浸透することを抑制することができる。
【0023】
また、端子本体の内面の表面粗さよりも、バレル間部の内面の表面粗さを粗くすることで、端子本体と他の端子との接触部における導通低下を抑制することができる。
【0024】
また、端子の外面の表面粗さよりも、トランジション部の内面の表面粗さを粗くすることで、樹脂部材が端子本体へ流れることを抑制することができる。
【0025】
また、端子の外面の表面粗さよりも、バレル間部の内面の表面粗さを粗くすることで、端子の外観が悪くなることを抑制することができる。
【0026】
第2の発明は、被覆導線と端子とが接続される端子付き電線であって、前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する導線とを具備し、前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、少なくとも前記バレル間部の内面の表面粗さが、算術平均粗さRaで0.2μm以上0.5μm以下であり、少なくとも、前記バレル間部から前記導線圧着部までの前記導線が露出する部位が樹脂部材で覆われることを特徴とする端子付き電線である。
【0027】
第2の発明によれば、高い防食性能を確保することが可能な端子付き電線を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、加工コストの増加を抑制し、防食性に優れた端子付き電線およびこれに用いられる端子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】(a)は端子付き電線10を示す断面図、(b)は(a)のA部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、端子付き電線10を示す斜視図であり、
図2(a)は断面図である。なお、
図1は、樹脂部材17を透視した図である。端子付き電線10は、端子1と被覆導線11が接続されて構成される。
【0031】
被覆導線11は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製である導線13と、導線13を被覆する被覆部15からなる。すなわち、被覆導線11は、被覆部15と、その先端から露出する導線13とを具備する。導線13は、例えば、複数の素線が撚り合わせられた撚り線である。
【0032】
端子1は、オープンバレル型であり、銅または銅合金製である。端子1には被覆導線11が接続される。端子1は、端子本体3と圧着部5とがトランジション部4を介して連結されて構成される。圧着部5と端子本体3の間に位置するトランジション部4は、上方が開口する。
【0033】
端子本体3は、所定の形状の板状素材を、断面が矩形の筒体に形成したものである。端子本体3は、内部に、板状素材を矩形の筒体内に折り込んで形成される弾性接触片を有する。端子本体3は、前端部から雄型端子などが挿入されて接続される。なお、以下の説明では、端子本体3が、雄型端子等の挿入タブ(図示省略)の挿入を許容する雌型端子である例を示すが、本発明において、この端子本体3の細部の形状は特に限定されない。例えば、雌型の端子本体3に代えて例えば雄型端子の挿入タブを設けてもよい。
【0034】
圧着部5は、被覆導線11と圧着される部位であり、圧着前においては、端子1の長手方向に垂直な断面形状が略U字状のバレル形状を有する。端子1の圧着部5は、被覆導線11の先端側に被覆部15から露出する導線13を圧着する導線圧着部7と、被覆導線11の被覆部15を圧着する被覆圧着部9と、導線圧着部7と被覆圧着部9の間のバレル間部8からなる。
【0035】
導線圧着部7の内面の一部には、幅方向(長手方向に垂直な方向)に、図示を省略したセレーションが設けられる。このようにセレーションを形成することで、導線13を圧着した際に、導線13の表面の酸化膜を破壊しやすく、また、導線13との接触面積を増加させることができる。
【0036】
被覆導線11の先端は、被覆部15が剥離され、内部の導線13が露出する。被覆導線11の被覆部15は、端子1の被覆圧着部9によって圧着される。また、被覆部15が剥離されて露出する導線13は、導線圧着部7により圧着される。導線圧着部7において、導線13と端子1とが電気的に接続される。なお、被覆部15の端面は、被覆圧着部9と導線圧着部7の間のバレル間部8に位置する。
【0037】
また、少なくとも、バレル間部8から導線圧着部7までの導線13が露出する部位が樹脂部材17で覆われている。したがって、導線13は、樹脂部材17によって外部に露出しない。なお、樹脂部材17としては、例えば、ウレタンアクリレートなどの紫外線硬化性樹脂、シアノアクリレートなどの湿気硬化性樹脂、アクリロイル基または、メタクリロイル基を持つ樹脂もしくは、両方持つジメタクリレートなどの嫌気硬化性樹脂などが挙げられる。このように、紫外線硬化性、湿気硬化性または嫌気硬化性の少なくとも1種以上の硬化性樹脂であることが望ましい。
【0038】
特に、樹脂部材17が、紫外線硬化性と湿気硬化性の両方の特性を併せ持つことで、紫外線の届きにくい部位においても、大気中や端子等の表面の水分によって、直ちに樹脂部材17を硬化させることができる。さらに、紫外線硬化によるウレタンと金属との水素結合に加えて、湿気硬化部分のシリコン変性アクリレートのアルコキシ基の加水分解物が、端子等の表面にある水酸基と脱水縮合反応を経て強固な共有結合を形成し、金属との接着力向上に大きく寄与させることができる。
【0039】
図2(b)は、
図2(a)のA部拡大図である。本実施形態では、少なくともバレル間部8の内面には、粗面化部19が設けられる。
【0040】
ここで、発明者らは、樹脂部材17を効率よく導線13の下部における端子1(バレル間部8)との隙間に浸透させるためには、樹脂部材17と端子1との濡れ性が重要である点に着目した。通常、表面粗さと濡れ性の関係は、下記のWenzelの式で説明することができる。
rcosθ=cosθ
w
但し、rは比表面積、θは平滑面での接触角、θ
wは、粗面での接触角。
【0041】
上式より、平滑面において濡れ性の悪いもの(接触角が90°を超えるもの)は、表面粗さを大きく(粗く)していくと、接触角がさらに大きくなり、濡れ性が悪くなる。一方、平滑面において濡れ性の良いもの(接触角が90°未満のもの)は、表面粗さを大きく(粗く)していくと、接触角がさらに小さくなり、濡れ性がよくなる。
【0042】
ここで、通常の銅板(Raは0.05〜0.1μm程度)の硬化前の樹脂に対する接触角は、10〜30°程度である。このため、発明者らは、端子1の表面粗さを大きくすることで、樹脂部材17との接触角をより小さくすることができると考え、樹脂部材17と端子1に適用した結果、樹脂部材17と端子1の内面との濡れ性が向上し、小さな隙間にも樹脂部材17が浸透しやすくなることを見出した。
【0043】
なお、粗面化部19の算術平均粗さRaは、0.2μm以上0.5μm以下であることが望ましい。すなわち、粗面化処理を行っていない未処理の板材の一般的な算術平均粗さRaが0.05〜0.1μm程度であるのに対し、粗面化部19は、それよりも表面粗さが大きい部位となる。
【0044】
粗面化部19の算術平均粗さRaが0.2μm未満では、粗面化処理の効果を得ることができない。一方、粗面化部19の算術平均粗さRaが0.5μmを超えると、被覆部15や導線13が滑りにくくなり、圧着した際に、被覆部15や導線13にかかる力を分散することができず、局所的な潰れや破れなどが生じやすくなる。
【0045】
なお、粗面化部19は、粗面化処理が施されて形成された部位であり、例えばエッチングなどの化学研磨や、サンドブラストなどの物理研磨などで形成することができる。また、放電加工やめっき処理の条件を調整して所定の面粗さを得ることもできる。
【0046】
また、粗面化部19は、少なくともバレル間部8の内面に形成されれば、他の部位にも形成してもよい。例えば、端子1を形成する元材の全面に粗面化処理を施してもよい。すなわち、少なくともバレル間部8の内面に粗面化部19が形成され、粗面化部19の表面粗さが、算術平均粗さRaで0.2μm以上0.5μm以下であれば、他の部位において、粗面化処理を行っていない未処理部があってもよく、またはなくてもよい。
【0047】
なお、被覆圧着部9の内面には粗面化部19を形成しないことが望ましい。すなわち、バレル間部8の内面の表面粗さが、被覆圧着部9の内面の表面粗さよりも粗いことが望ましい。
【0048】
前述したように、バレル間部8の下部における隙間への水分の浸入経路としては、被覆圧着部9の後端から被覆部15との隙間を伝うルートが考えられる。このため、被覆圧着部9の表面粗さが大きいと、被覆圧着部9の内面と水滴との濡れ性が高くなり、例えば、水滴などが被覆圧着部9の後端に付着した際に、水分が被覆部15と被覆圧着部9との隙間に浸透する恐れがある。このため、被覆圧着部9の表面粗さは小さい方が望ましい。
【0049】
また、端子本体3の内面には粗面化部19を形成しないことが望ましい。なお、前述したように、端子本体3が、雄型端子の場合には、端子本体の外面には粗面化部19を形成しないことが望ましい。すなわち、バレル間部8の内面の表面粗さが、端子本体3の他の端子との接触面の表面粗さよりも粗いことが望ましい。
【0050】
端子本体3は、他の端子と接続する部位であり、例えば雄雌嵌合などが行われるため、表面粗さを大きくしてしまうと、両者の滑りが悪くなり、端子の挿抜抵抗が大きくなる。また、表面に微細な凹凸ができることで、両者の導通に悪影響を与える恐れがある。このため、端子本体3の他の端子との接触面の表面粗さは小さい方が望ましい。
【0051】
また、トランジション部4の内面には粗面化部19を形成しないことが望ましい。すなわち、バレル間部8の内面の表面粗さは、端子本体3と圧着部5との間のトランジション部4の内面の表面粗さよりも粗いことが望ましい。
【0052】
トランジション部4の表面粗さを大きくしてしまうと、端子1と被覆導線11とを圧着した後、樹脂部材17を導線圧着部7の先端部分に塗布した際に、端子本体3側へ樹脂部材17が流れやすくなる。このため、樹脂部材17の流出を抑制するためには、トランジション部4の表面粗さは小さい方が望ましい。
【0053】
また、端子1の外面には粗面化部19を形成しないことが望ましい。すなわち、バレル間部8の内面の表面粗さが、端子1の外面の表面粗さよりも粗いことが望ましい。粗面化処理を行うことで、金属光沢がなくなり、端子1の外観が悪くなる。このため、端子1の外面には粗面化処理を行わないことが望ましい。
【0054】
次に、端子付き電線10の製造方法について説明する。まず、
図3に示すように、少なくとも、バレル間部8に予め粗面化部19を形成した端子1と、被覆部15の先端部を剥離して導線13を露出させた被覆導線11を準備する。なお、前述したように、粗面化部19は、バレル間部8以外の部位に形成されていてもよい。
【0055】
次に、被覆導線11の導線13を導線圧着部7に配置し、被覆部15を被覆圧着部9に配置する。この際、被覆部15の先端部がバレル間部8に位置する。次に、導線13を導線圧着部7で圧着するとともに、被覆部15を被覆圧着部9で圧着し、被覆導線11と端子1とを圧着により接続する。
【0056】
次に、少なくとも、バレル間部8から導線圧着部7までの導線13が露出する部位に樹脂部材17を例えばディスペンサ等で塗布して、硬化させる。以上により、端子付き電線10を得ることができる。
【0057】
なお、塗布時の樹脂部材17の粘度は、300〜3000mPa・sであることが望ましい。樹脂部材17の粘度が高すぎると、導線13に浸透させて、導線13の下部に樹脂部材17を浸透させることが困難となる。一方、樹脂部材17の粘度が低すぎると、塗布した樹脂部材17が流れてしまい、樹脂部材17の所望の厚みを確保することが困難となる。但し、本発明によれば、粘度の高い樹脂部材17を用いても、従来と比較して浸透性が向上している。このため、例えば、塗布時の樹脂部材17の粘度が、従来は浸透性が低くかった1500〜3000mPa・sの場合に、本発明の効果がより大きい。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、バレル間部8の内面に粗面化部19が形成されるため、樹脂部材17を塗布した際に、樹脂部材17とバレル間部8の内面との濡れ性を向上させることができる。このため、導線13の下部のわずかな隙間にも、より確実に樹脂部材17を浸透させて、樹脂部材17を充填することができる。
【0059】
この際、粗面化部19の表面粗さが適切な範囲に設定されることで、濡れ性向上による効果を得ることができるとともに、圧着時に被覆部15や導線13の破損等を抑制することができる。
【0060】
また、被覆圧着部9の内面の表面粗さを、バレル間部の内面に対して相対的に小さくすることで、被覆圧着部9の後方からの水分の浸入を抑制することができる。
【0061】
また、端子本体3における、他の端子との接触面の表面粗さを、バレル間部の内面に対して相対的に小さくすることで、端子同士を接続する際の接続が容易であるとともに、両者の導通を確保することができる。
【0062】
また、トランジション部4の内面の表面粗さを、バレル間部の内面に対して相対的に小さくすることで、樹脂部材17が端子本体3側へ流出することを抑制することができる。
【0063】
また、端子1の外面の表面粗さを、バレル間部の内面に対して相対的に小さくすることで、外観が良好な端子付き電線10を得ることができる。
【実施例】
【0064】
バレル間部8における表面粗さを変えて、樹脂部材17の浸透性について評価した。
図4は、使用した端子1の概略平面図であり、バレル間部8に対して、放電処理によって粗面化処理を施した。なお、粗面化処理を行わない端子を比較例として用いた。
【0065】
それぞれの端子に対して算術平均粗さRaを測定した。測定は、バレル間部8の幅方向の略中央において、バレル間部8と被覆圧着部9との境界部(粗面化部19の端部近傍)から、導線圧着部7方向に向けて(図中矢印B)測定した。なお、基準長さは0.8mmとした。使用機器は、LEXT−OKS4100(オリンパス社製)を用い、倍率50倍、開口数0.95の対物レンズを用いた。
【0066】
なお、端子および被覆導線は、1.5sqサイズのものを用い、圧着後に塗布する樹脂部材17としては、ウレタンアクリレート系(塗布時の粘度は1500mPa・s)を用いた。樹脂部材17を塗布してから、所定の時間を放置した後、紫外線を照射して樹脂部材17を硬化させ、その後、端子付き電線を解体して、導線下部の隙間への樹脂部材17の浸透を目視で確認した。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
比較例1、2は、粗面化処理を行わなかったものであり、粗さの低いもの(Ra=0.05)と、粗さが大きいもの(Ra=0.1)とを選別して評価した。各サンプルに対して、樹脂部材17を塗布してから、20秒後、40秒後、90秒後のそれぞれの条件で紫外線を照射した。各条件ともに30個のサンプルを評価し、樹脂部材17が浸透していたものを合格とした。
【0069】
粗面化処理を行った実施例1〜5は、塗布後20秒であっても半数以上において樹脂部材17の浸透が確認され、塗布後40秒では、全てのサンプルで樹脂部材17の浸透が確認できた。一方、粗面化処理を施しておらず、Raが0.2未満の比較例1、2は、塗布後40秒でも半数以上のサンプルにおいて樹脂部材17が浸透しておらず、全数の樹脂部材17の浸透が確認されるまでに塗布してから90秒を要した。
【0070】
このように、バレル間部8に粗面化部19を形成することで、短時間で樹脂部材17を導線下部に浸透させることができるため、サイクルタイムを短縮することができ、より確実に止水性の高い端子付き電線を得ることができる。また、同条件であれば、より粘度の高い樹脂部材17を用いることもできるため、樹脂部材17の膜厚を確保することもできる。
【0071】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0072】
1………端子
3………端子本体
4………トランジション部
5………圧着部
7………導線圧着部
8………バレル間部
9………被覆圧着部
10……端子付き電線
11………被覆導線
13………導線
15………被覆部
17………樹脂部材
19………粗面化部
103………導線
107………導線圧着部
108………バレル間部
109………被覆圧着部
111………被覆導線
115………被覆部
117………樹脂部材