【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、システマチックに発生する入力オフセット電圧低減のための方策を図った上述の従来回路(
図3参照)にあっても、ベース電流補償回路63を構成する素子であるトランジスタQ8Aのコレクタ・エミッタ間電位が小さくなり、不活性領域(飽和領域)での動作となる。そのため、トランジスタQ8Aのベース電流が増加し、トランジスタQ10Aから供給される補償電流も増加し、入力オフセット電圧の発生要因となるトランジスタQ1A,Q2Aのベース・エミッタ間電圧の差が大きくなることを十分に抑圧、低減することができず、入力オフセット電圧の低減が必ずしも満足できるものではないという問題がある。
【0010】
ここで、
図3に示された演算増幅器においてシステマチックに発生する入力オフセット電圧について具体的に説明する。
最初に、前提条件として、トランジスタQ1AとQ2Aは同一の特性であり、トランジスタQ3A、Q4A、Q7A、及び、Q8Aも同一の特性であり、また、トランジスタQ5AとQ6Aも同一の特性であると仮定する。また、電流源CS2とCS3から出力される電流は同一の大きさであると仮定し、さらに、電圧増幅器Gmの入力インピーダンスは限りなく大きいと仮定する。
【0011】
また、説明を簡単にして理解を容易とするため、トランジスタQ10Aのエミッタ面積は、トランジスタQ9Aの3倍であるとする。
かかる前提の下、トランジスタQ1Aのコレクタに流れる電流ICQ1Aは、下記する式1Aで表される。
【0012】
ICQ1A=ICQ3A−IBQ5A=hfeQ3A×IBQ3A−ICS3/(hfeQ5A+1)・・・式1A
【0013】
ここで、ICQ3AはトランジスタQ3Aのコレクタ電流、IBQ5AはトランジスタQ5Aのベース電流、hfeQ3AはトランジスタQ3Aの電流増幅率、ICS3は第3の定電流源CS3の出力電流、hfeQ5AはトランジスタQ5Aの電流増幅率である。
トランジスタQ2Aのコレクタ電流ICQ2Aは、下記する式2Aで表される。
【0014】
ICQ2A=IBQ4A(1+hfeQ4A)+IBQ3A+IBQ7A−IBQ6A−ICQ10A・・・式2A
【0015】
ここで、IBQ4AはトランジスタQ4Aのベース電流、hfeQ4AはトランジスタQ4Aの電流増幅率、IBQ3AはトランジスタQ3Aのベース電流、IBQ7AはトランジスタQ7Aのベース電流、IBQ6AはトランジスタQ6Aのベース電流、ICQ10AはトランジスタQ10Aのコレクタ電流である。
【0016】
この2つの式より、トランジスタQ1Aのベース・エミッタ間の電位差VBEQ1Aは、下記する式3Aにより、トランジスタQ2Aのベース・エミッタ間の電位差VBEQ2Aは、下記する式4Aにより、それぞれ表される。
【0017】
VBEQ1A=Vtln(ICQ1A/Is)=Vtln[{hfeQ3A×IBQ3A−ICS3/(hfeQ5A+1)}/Is]・・・式3A
【0018】
VBEQ2A=Vtln(ICQ2A/Is)=Vtln[{(hfeQ4A+1)×IBQ4A+IBQ3A+IBQ7A−IBQ6A−ICQ10A}/Is]・・・式4A
【0019】
上記の式中、Vtは熱電圧、Isはバイポーラトランジスタの逆方向飽和電流である。
ここで、hfeQ3A=hfeQ4A=100、hfeQ5A=hfeQ6A=100、IBQ3A=IBQ4A=IBQ7A=0.1μA、ICS1=20μA、ICS2=ICS3=10μA、ICQ11A=ICS1/2とすると、トランジスタQ1Aのベース・エミッタ間の電位差VBEQ1Aは式5Aにより、トランジスタQ2Aのベース・エミッタ間の電位差VBEQ2Aは式6Aにより、それぞれ表される。
【0020】
VBEQ1A=Vtln(9.901μA/Is)・・・式5A
【0021】
VBEQ2A=Vtln{(10.3μA−IBQ6A−ICQ10A)/Is)}・・・式6A
【0022】
トランジスタが活性領域で動作するためには、式7Aに示すようにトランジスタのエミッタとコレクタ間の電位差VCEを、トランジスタのベース・エミッタ間の電位差VBEより大きくする必要がある。
【0023】
VCE≧VBE・・・式7A
【0024】
差動回路を構成するトランジスタQ3A,Q4Aは、同等の活性領域で動作しているものとし、ベース電流補償回路63を構成するトランジスタQ8Aのコレクタ・エミッタ間電圧VCEを導出するため、トランジスタQ8Aのコレクタ電位VCQ8Aとエミッタ電位VEQ8Aを、下記する式8A、式9Aにより求める。
【0025】
VCQ8A=VBEQ4A+VBEQ6A+VD1A−VBEQ11A・・・式8A
【0026】
VEQ8A=VBEQ4A+VBEQ6A+VD1A−VBEQ9A−VBEQ8A・・・式9A
【0027】
ここで、VBEQ4AはトランジスタQ4Aのベース・エミッタ間の電位差、VBEQ6AはトランジスタQ6Aのベース・エミッタ間の電位差、VD1AはダイオードD1Aの順方向電圧、VBEQ9AはトランジスタQ9Aのベース・エミッタ間の電位差、VBEQ8AはトランジスタQ8Aのベース・エミッタ間の電位差である。
【0028】
トランジスタQ8Aのコレクタ・エミッタ間の電位差VCEQ8Aは、式8Aから式9Aを差し引くことで導かれ、下記する式10Aのように表される。
【0029】
VCEQ8A=VBEQ8A+VBEQ9A−VBEQ11A・・・式10A
【0030】
ここで、トランジスタQ8AとトランジスタQ11Aは、同一特性であるとし、VBEQ8A=VBEQ11Aと近似すると、式10Aは下記する式11Aのように表される。
【0031】
VCEQ8A=VBEQ9A・・・式11A
【0032】
トランジスタQ8Aのコレクタ電流ICQ8AとトランジスタQ9Aのコレクタ電流ICQ9Aを比べると、コレクタ電流ICQ8Aはコレクタ電流ICQ9Aより十分に大きい。したがって、下記する式12A、式13Aが成立する。
【0033】
VBEQ9A<VBEQ8A・・・式12A
【0034】
VCEQ8A=VBEQ9A<VBEQ8A・・・式13A
【0035】
先に述べた通り、トランジスタが活性領域で動作するためには、式7Aに示されたように、トランジスタのエミッタ・コレクタ間の電位差VCEを、ベース・エミッタ間の電位差VBE以上とする必要がある。しかしながら、式13Aに示されたように、トランジスタQ8Aは、この条件を満たしていないため、不活性領域(飽和領域)での動作となる。
【0036】
不活性領域における電流増幅率が活性領域における電流増幅率より劣ることは、例えば、非特許文献1の「システムLSIのためのアナログ集積回路設計技術」にも記載されている通りである。したがって、不活性領域にあるトランジスタQ8Aの電流増幅率hfeQ8Aは、活性領域にある場合に比して低下することとなる。
トランジスタQ7Aのコレクタ電圧は、トランジスタQ8Aのエミッタ電圧と等しいので、下記する式14Aのように表される。
【0037】
VCEQ7A=VBEQ8A=VBEQ4A+VBEQ6A−VD1A−VBEQ9A−VBEQ8A・・・式14A
【0038】
ここで、VBEQ4A=VBEQ6A=VBEQ8A=VD1A=VBEと定義し、また、負電源電圧Vee=0とおくと、トランジスタQ7Aのコレクタ・エミッタ間電圧VCEQ7Aは、下記する式15Aのように表される。
【0039】
VCEQ7A=2VBE−VBEQ9A・・・式15A
【0040】
なお、トランジスタQ9Aのベース・エミッタ間の電位差VBEQ9Aは、式12Aに示されたようにトランジスタQ8Aのベース・エミッタ間の電位差VBEQ8Aより小さい。すなわち、式15Aに示すVCEQ7Aは、1VBEより大きくなり、トランジスタQ7Aは活性領域で動作することになる。
【0041】
これらを踏まえて、ICQ10Aを導出するために、トランジスタQ8Aのベース電流IBQ8Aを求める。なお、トランジスタQ7Aの電流増幅率hfeQ7Aを、hfeQ7A=100と仮定すると共に、トランジスタQ8Aの電流増幅率hfeQ8Aについては、先に述べたようにトランジスタQ8Aが不活性領域での動作状態にあることを考慮し、その電流増幅率が活性領域の電流増幅率より20%減少したと仮定して、hfeQ8A=80とする。
しかして、ベース電流IBQ8Aは、下記する式16Aのように表される。
【0042】
IBQ8A=(hfeQ7A×IBQ7A)/(hfeQ8A+1)=0.123μA・・・式16A
【0043】
また、トランジスタQ10Aのベース電流IBQ10Aは、トランジスタQ8Aのベース電流IBQ8Aを用いて下記する式17Aで表される。
【0044】
ICQ10A=(3・hfeQ10A×IBQ8A)/(hfeQ9A+4)=0.355μA・・・式17A
【0045】
ここで、トランジスタQ9A,Q10Aの電流増幅率であるhfeQ9A、hfeQ10Aを、hfeQ9A=hfeQ10A=100とした。
次に、トランジスタQ6Aのベース電流IBQ6Aを求める。
ベース電流IBQ6Aは、トランジスタQ9A,Q10Aのエミッタ電流IEQ9A、IEQ10A、及び、トランジスタQ11Aのベース電流IBQ11Aを用いて、下記する式18Aで表される。
【0046】
IBQ6A=(ICS2−IBQ11A−IEQ9A−IEQ10A)/(hfeQ6A+1)=・・・式18A
【0047】
トランジスタQ11Aのベース電流IBQ11Aは、トランジスタQ11Aの電流増幅率hfeQ11Aを用いて、下記する式19Aで与えられる。
【0048】
IBQ11A=(IBQ8A・hfeQ8A)/(hfeQ11A+1)=0.0974μA・・・式19A
【0049】
但し、トランジスタQ11Aの電流増幅率hfeQ11Aを、hfeQ11A=100とした。
また、トランジスタQ9A,Q10Aのエミッタ電流IEQ9A、IEQ10Aは、式16A、式17Aを用いて下記する式20Aで表される。
【0050】
IEQ9A+IEQ10A=IBQ8A+ICQ10A=0.123μA+0.355μA=0.478μA・・・式20A
【0051】
したがって、トランジスタQ6Aのベース電流IBQ6Aは、下記する式21Aで表される。
【0052】
IBQ6A=(ICS2−IBQ11A−IEQ9A−IEQ10A)/(hfeQ6A+1)=0.0933μA・・・式21A
【0053】
但し、ICS2=10μA、hfeQ6A=100とした。
したがって、トランジスタQ2Aのベース・エミッタ間の電位差VBEQ2Aは、式6Aに式21A、式17Aを代入し、下記する式22Aで与えられる。
【0054】
VBEQ2A=Vtln(9.852μA/Is)・・・式22A
【0055】
式3Aで求められるトランジスタQ1Aのベース・エミッタ間の電位差VBEQ1Aと式4Aで求められるトランジスタQ2Aのベース・エミッタ間の電位差VBEQ2Aの差が入力オフセット電圧Vioであり、下記する式23Aで表される。
なお、熱電圧VtはVt=26mVと仮定する。
【0056】
Vio=VBEQ2A−VBEQ1A=Vtln(9.852μA/9.901μA)=−0.129mV=−129μA・・・式23A
【0057】
このように、従来回路にあっては、ベース電流補償回路63を構成する素子であるトランジスタQ8Aのコレクタ・エミッタ間電位が小さくなり、不活性領域(飽和領域)での動作となるため、トランジスタQ8Aのベース電流が増加し、トランジスタQ10Aから供給される補償電流も増加し、そのため、入力オフセット電圧の要因となるトランジスタQ1A、Q2Aのベース・エミッタ間の電位差が大きくなってしまう。
【0058】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、入力電圧範囲を狭くすることなく、システマチックに発生する入力オフセット電圧を簡素な構成で確実に低減可能な演算増幅器を提供するものである。