特許第6887687号(P6887687)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6887687樹脂組成物、接着剤、封止材、ダム剤、半導体装置、およびイメージセンサーモジュール
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  • 特許6887687-樹脂組成物、接着剤、封止材、ダム剤、半導体装置、およびイメージセンサーモジュール 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887687
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、接着剤、封止材、ダム剤、半導体装置、およびイメージセンサーモジュール
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/66 20060101AFI20210603BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20210603BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20210603BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20210603BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20210603BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   C08G59/66
   C09J163/00
   C09J11/06
   H01L23/30 F
   C09K3/10 L
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-547645(P2018-547645)
(86)(22)【出願日】2017年10月23日
(86)【国際出願番号】JP2017038137
(87)【国際公開番号】WO2018079466
(87)【国際公開日】20180503
【審査請求日】2020年4月24日
(31)【優先権主張番号】特願2016-209413(P2016-209413)
(32)【優先日】2016年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 一希
(72)【発明者】
【氏名】新井 史紀
【審査官】 岸 智之
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/66
C09J 11/06
C09J 163/00
C09K 3/10
H01L 23/29
H01L 23/31
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)下記一般式(1)で表されるチオール化合物
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素あるいはC2nSH(式中、nは2〜6である)である。R、R、R、およびRの少なくとも1つは、C2nSH(式中、nは2〜6である)である。)、
(b)前記(B)以外の多官能チオール化合物、
(C)潜在性硬化促進剤、
を含有する樹脂組成物。
【請求項2】
(b)成分が、エステル結合を有しないチオール化合物である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(b)成分が、チオール置換グリコールウリル誘導体である、請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分及び(b)成分のチオール化合物の合計量100質量部に対する、(B)成分の量が5〜80質量部である、請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項5】
80℃、1時間で硬化可能な請求項1〜4のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の樹脂組成物を含む、接着剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載の樹脂組成物を含む、封止材。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項記載の樹脂組成物を含む、ダム剤。
【請求項9】
請求項1〜5記載の樹脂組成物の硬化物、請求項6記載の接着剤の硬化物、請求項7記載の封止材の硬化物、または請求項8記載のダム剤の硬化物を含む、半導体装置。
【請求項10】
エンジニアリングプラスチック、セラミックス、および金属からなる群より選択される少なくとも1種の材料により形成される少なくとも2個の被着材が、請求項6記載の接着剤の硬化物で接着されている、請求項9記載の半導体装置。
【請求項11】
エンジアリングプラスチックが、スーパーエンジニアリングプラスチックである、請求項10記載の半導体装置。
【請求項12】
エンジニアリングプラスチックが、液晶ポリマー、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項10または11記載の半導体装置。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか1項記載の半導体装置を含む、イメージセンサーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低温速硬化可能な樹脂組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
低温速硬化可能で、硬化後に耐湿性に優れる樹脂組成物が知られている。現在、半導体装置中にある半導体チップ等の電子部品は、信頼性等を保持するため、樹脂組成物により、接着および封止等されて、使用されている。この半導体装置の中でも、特に、イメージセンサーモジュールの製造工程が高温になると、イメージセンサーモジュールに用いられるレンズ等が劣化してしまう。そのため、イメージセンサーモジュール用途として、イメージセンサーモジュールの製造に使用される接着剤および封止材には、低温硬化性が要求される。また、生産コストの面から、短時間硬化性も同時に要求される。さらに、樹脂組成物の使用可能時間が長いこと、すなわち、ポットライフが長いことも要求される。
【0003】
また、近年のイメージセンサーモジュールの部材は、ガラス、金属、あるいは液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer、以下、LCPという)等の多様な材質を含む。このように、これら多様な材質で形成される部材を含む被着材に対して、被着材の材質にかかわらず、接着強度の耐湿信頼性が高い接着剤が求められている。
【0004】
ここで、エポキシ樹脂−チオール硬化剤系樹脂組成物が、近年要求の高い低温速硬化性を達成する上で有効であることが知られている(特許文献1および2)。しかしながら、従来のチオール系硬化剤(例えば、SC有機化学製ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(商品名:PEMP)、SC有機化学製トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(商品名:TMMP)、および、昭和電工製ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(商品名:カレンズMT PE1))は、その硬化後の樹脂組成物が、耐湿性に劣る、という問題を有している。これは、従来のチオール系硬化剤が、いずれもその分子骨格にエステル構造を含むためである、と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−211969号公報
【特許文献2】特開平6−211970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の樹脂組成物等は、上記のような問題点に鑑みて、完成された。すなわち、本開示の目的は、低温速硬化可能で、硬化後に高い接着強度(特に、ピール強度)を有し、さらに、硬化後の耐湿試験後の接着強度(特に、ピール強度)の低下を抑制することができ、さらに、優れたポットライフを有するi)樹脂組成物、ii)樹脂組成物を用いた接着剤、封止材およびダム剤、iii)接着剤、封止材またはダム剤を用いた半導体装置、ならびに、iv)半導体装置を用いたイメージセンサーモジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、エポキシ樹脂と、特定のチオール化合物と、の併用、および、潜在性硬化促進剤の使用によって、低温速硬化可能で、高い接着強度(特に、ピール強度)を有し、耐湿試験後の接着強度の低下を抑制することができ、さらに、優れたポットライフを有する樹脂組成物を得ることができた。
【0008】
本開示は、以下の構成により、上記問題を解決した樹脂組成物、接着剤、封止材、ダム剤、および半導体装置に関する。
〔1〕(A)エポキシ樹脂、
(B)下記一般式(1)で表されるチオール化合物
【0009】
【0010】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素またはC2nSH(式中、nは2〜6である)である。R、R、R、およびRの少なくとも1つは、C2nSH(式中、nは2〜6である)である。)、
(b)前記(B)以外の多官能チオール化合物、
(C)潜在性硬化促進剤、
を含有することを特徴とする、樹脂組成物。
〔2〕(b)成分が、エステル結合を有しないチオール化合物である、上記〔1〕記載の樹脂組成物。
〔3〕(b)成分が、チオール置換グリコールウリル誘導体である、上記〔1〕または〔2〕記載の樹脂組成物。
〔4〕(B)成分及び(b)成分のチオール化合物の合計量100質量部に対する、(B)成分の量が5〜80質量部である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の樹脂組成物。
〔5〕80℃、1時間で硬化可能な上記〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の樹脂組成物。
〔6〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の樹脂組成物を含む、接着剤。
〔7〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の樹脂組成物を含む、封止材。
〔8〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の樹脂組成物を含む、ダム剤。
〔9〕上記〔1〕〜〔5〕記載の樹脂組成物の硬化物、上記〔6〕記載の接着剤の硬化物、上記〔7〕記載の封止材の硬化物、または上記〔8〕記載のダム剤の硬化物を含む、半導体装置。
〔10〕エンジニアリングプラスチック、セラミックス、および金属からなる群より選択される少なくとも1種の材料により形成される少なくとも2個の被着材が、上記〔6〕記載の接着剤の硬化物で接着されている、上記〔9〕記載の半導体装置。
〔11〕エンジアリングプラスチックが、スーパーエンジニアリングプラスチックである、上記〔10〕記載の半導体装置。
〔12〕エンジニアリングプラスチックが、液晶ポリマー、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、上記〔10〕または〔11〕記載の半導体装置。
〔13〕上記〔9〕〜〔12〕のいずれか1項記載の半導体装置を含む、イメージセンサーモジュール。
【発明の効果】
【0011】
本開示〔1〕によれば、低温速硬化可能で、硬化後に高い接着強度(特に、ピール強度)を有し、硬化後の耐湿試験後の接着強度(特に、ピール強度)の低下を抑制することができ、さらに、優れたポットライフを有する樹脂組成物を提供することができる。
【0012】
本開示〔6〕によれば、低温速硬化可能で、硬化後に高い接着強度(特に、ピール強度)を有し、硬化後の耐湿試験後の接着強度(特に、ピール強度)の低下を抑制することができる、接着剤を得ることができる。本開示〔7〕によれば、低温速硬化可能で、硬化後に高い接着強度(特に、ピール強度)を有し、さらに、硬化後の耐湿試験後の接着強度(特に、ピール強度)の低下を抑制することができる、封止材を得ることができる。本開示〔8〕によれば、低温速硬化可能で、硬化後に高い接着強度(特に、ピール強度)を有し、さらに、硬化後の耐湿試験後の接着強度(特に、ピール強度)の低下を抑制することができる、ダム剤を得ることができる。本開示〔9〕によれば、低温速硬化可能で、硬化後に高い接着強度(特に、ピール強度)を有し、さらに、硬化後の耐湿試験後の接着強度(特に、ピール強度)の低下を抑制することができる、樹脂組成物、接着剤、封止材、またはダム剤の硬化物による、信頼性の高い半導体装置、例えば、イメージセンサーモジュールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】イメージセンサーモジュールの断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔樹脂組成物〕
本実施形態の樹脂組成物(以下、樹脂組成物という)は、
(A)エポキシ樹脂、
(B)下記一般式(1)で表されるチオール化合物
【0015】
【0016】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素またはC2nSH(式中、nは2〜6である)である。R、R、R、およびRの少なくとも1つは、C2nSH(式中、nは2〜6である。)である。)、
(b)前記(B)成分以外の多官能チオール化合物、および、
(C)潜在性硬化促進剤、
を含有する。
【0017】
(A)成分であるエポキシ樹脂の例としては、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、液状ナフタレン型エポキシ樹脂、液状水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、液状脂環式エポキシ樹脂、液状アルコールエーテル型エポキシ樹脂、液状環状脂肪族型エポキシ樹脂、液状フルオレン型エポキシ樹脂、および液状シロキサン系エポキシ樹脂が挙げられる。このうち、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、液状シロキサン系エポキシ樹脂、およびアミノフェノール型エポキシ樹脂が、硬化性、耐熱性、接着性、および耐久性の観点から好ましい。また、エポキシ当量は、硬化性および硬化物弾性率の観点から、好ましくは80〜1000g/eq、より好ましくは80〜500g/eqである。市販品の例としては、新日鉄住金化学製ビスフェノールF型エポキシ樹脂(品名:YDF8170)、DIC製ビスフェノールA型エポキシ樹脂(品名:EXA−850CRP)、DIC製ビスフェノールA型ビスフェノールF型混合エポキシ樹脂(品名:EXA−835LV)、DIC製ナフタレン型エポキシ樹脂(品名:HP4032D)、信越化学製シロキサン系エポキシ樹脂(品名:TSL9906)、三菱化学製アミノフェノール型エポキシ樹脂(グレード:JER630、JER630LSD)、および旭化成製特殊エポキシ樹脂(グレード:AER9000)が、挙げられる。(A)成分としては、単独の樹脂が用いられてもよいし、2種以上の樹脂が併用されてもよい。
【0018】
(B)成分であるチオール化合物は、下記一般式(1):
【0019】
【0020】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素またはC2nSH(nは2〜6)である。R、R、R、およびRの少なくとも1つは、C2nSH(nは2〜6)である。)で表される。(B)成分のnは、硬化性の観点から、好ましくは2〜4である。また、硬化物の物性と硬化速度のバランスの観点から、nは、好ましくは3である。すなわち、(B)成分がメルカプトプロピル基を有することが好ましい。また、(B)成分は、異なる数のメルカプトアルキル基を有する複数のチオール化合物の混合物であってもよい。(B)成分は、硬化性の観点から、好ましくは、2〜4個のメルカプトプロピル基を有するチオール化合物である。さらに、硬化物の物性と硬化速度のバランスの観点から、(B)成分は、最も好ましくは、3個のメルカプトプロピル基を有するチオール化合物である。この(B)成分は、これ自身が十分に柔軟な骨格を持っている。そのため、効果的に硬化物の弾性率を低減することができる。(B)成分を加えることにより、硬化物の弾性率をコントロールできる。そのため、硬化後の接着強度(特に、ピール強度)を高めることができる。また、(B)成分は、分子中にエステル骨格を有しない。このため、(B)成分により、硬化された樹脂組成物の耐湿試験後の接着強度の低下を抑制することができる。ここで、従来、チオール化合物として使用されているペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)、およびペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)は、いずれもエステル結合を含む。このエステル結合は、加水分解し易い。そのため、これら従来のチオール化合物は、耐湿性に劣る、と考えられる。これに対して、(B)成分は、エステル結合を含有しておらず、エーテル結合を有する。そのため、(B)成分は、より柔軟であり、かつ、高い耐加水分解性を有すると考えられる。さらに、(B)成分は、より低い極性有しているため、その粘度も低いと考えられる。(B)成分の市販品の例としては、SC有機化学製チオール化合物(品名:PEPT、チオール当量:124g/eq)が挙げられる。(B)成分としては、単独のチオール化合物が用いられてもよいし、2種以上のチオール化合物が併用されてもよい。
(B)成分は、上述のように、その構造から他のチオール化合物に比べて低い粘度を有する。(C)成分に含まれ得るイミダゾールおよび3級アミンは、アミノ基を有している。そのアミノ基と樹脂組成物中のチオール基との反応が起点となり、(A)成分と(B)成分の重合が開始される。潜在性硬化促進剤としての成分(C)は、室温ではアミノ基の反応が起こりにくいように、設計されている。しかしながら、本発明者らの得た知見によると、(B)成分は、その低い粘度のため、成分(C)に浸透しやすい。その結果、(B)成分と(C)成分とが反応しやすい。そのため、樹脂組成物のポットライフが短くなってしまう。そこで、本実施形態では、(B)成分と(B)成分以外のチオール化合物((b)成分)とを併用することにより、ポットライフの向上が図られている。
【0021】
(b)成分の多官能チオール化合物は、(B)成分以外のチオール化合物である。(b)成分の多官能チオール化合物の例としては、(b1)エステル結合を有しないチオール化合物、および、(b2)エステル結合を有するチオール化合物が挙げられる。(B)成分及び(b)成分のチオール化合物の合計量100質量部に対して、(B)成分の量は、ピール強度(初期および耐湿試験後)およびポットライフ向上の観点から、好ましくは5〜80質量部である。(B)成分の重量が5質量部未満だと、硬化物の弾性率が高くなってしまうので、所望のピール強度を得られない可能性がある。(B)成分の重量が80質量部以上だと、樹脂組成物のポットライフが短くなるおそれがある。また、(b)成分の分子量は、低粘度化の観点から、好ましくは300〜1000である。
【0022】
(b1)成分の例としては、チオール置換グリコールウリル誘導体が挙げられる。チオール置換グリコールウリル誘導体の例としては、次の一般式(2)
【0023】
【0024】
(式中、R、およびRは、それぞれ独立して、水素、炭素数1〜10のアルキル基、またはフェニル基である。nは、0〜10の整数である。)で表される含窒素複素環化合物が挙げられる。さらに、その一例としては、化学式(3)または化学式(4):
【0025】
【0026】
【0027】
で表され、かつ、含窒素複素環化合物の4つの各窒素原子に結合している官能基(−CH−CH―SH、または、−CH−CH−CH―SH)を有する、多官能の含窒素複素環化合物が挙げられる。
【0028】
(b1)成分の市販品の例としては、四国化成工業製チオール置換グリコールウリル誘導体(商品名:TS−G(チオール当量:100g/eq)、C3TS−G(チオール当量:114g/eq))が挙げられる。(b1)成分としては、単独の化合物が用いられてもよいし、2種以上の化合物が併用されてもよい。(b1)を併用する際には、(B)成分と(b1)成分との重量比が、好ましくは5:95〜80:20、より好ましくは20:80〜80:20である。(B)成分と(b1)成分とを併用することにより、耐湿性を保持したまま、硬化後の弾性率を調整することができる。その結果として、接着強度(ピール強度)を向上することができる。また、(b1)成分の使用により、樹脂組成物中の(B)成分の使用量を減らすことができる。そのため、ポットライフを向上することができる。
【0029】
(b2)成分の例としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチレート)、およびトリメチロールエタントリス(3−メルカプトブチレート)が、挙げられる。これら化合物のエステル結合は、加水分解し易い。そのため、その硬化物の耐湿性が劣る。その結果、耐湿試験後のピール強度が低下する。しかしながら、(b2)成分の使用により、樹脂組成物中の(B)成分の使用量を減らすことができる。そのため、ポットライフを向上することができる。このため、(b2)成分を併用する際には、(b2)成分の重量は、耐湿試験後のピール強度およびポットライフの観点から、(B)成分と(b2)成分との重量比は、好ましくは33:67〜80:20である。なお、(B)成分と(b1)成分とを併用する場合は、(b2)成分の重量は、(B)成分と(b1)成分との合計量を100質量部としたとき、好ましくは5.3質量部以上200質量部以下、より好ましくは5.3質量部以上100質量部以下である。
【0030】
(C)成分の潜在性硬化促進剤とは、室温では不活性の状態にあり、かつ、加熱することにより活性化して、硬化促進剤として機能する化合物である。(C)成分の例としては、常温で固体のイミダゾール化合物、アミン化合物とエポキシ化合物との反応生成物(アミン−エポキシアダクト系)等の固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤、および、アミン化合物とイソシアネート化合物または尿素化合物との反応生成物(尿素型アダクト系)が、挙げられる。(C)成分は、(B)成分及び(b)成分と組み合わされて、接着剤を低温速硬化させることができる。
【0031】
常温で固体のイミダゾール化合物の例としては、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−ベンジル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−(2−メチルイミダゾリル−(1))−エチル−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2′−メチルイミダゾリル−(1)′)−エチル−S−トリアジン・イソシアヌール酸付加物、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール−トリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール−トリメリテイト、N−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)−尿素、および、N,N′−(2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル)−アジポイルジアミドが挙げられる。ただし、上記イミダゾール化合物は、これら化合物に限定されるものではない。
【0032】
固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤(アミン−エポキシアダクト系)の製造原料の一つとして用いられるエポキシ化合物の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、カテコールあるいはレゾルシノールのような多価フェノールと、エピクロロヒドリンと、を反応させて得られるポリグリシジルエーテル、および、グリセリンあるいはポリエチレングリコールのような多価アルコールと、エピクロロヒドリンと、を反応させて得られるポリグリシジルエーテルが挙げられる。また、他の例として、p−ヒドロキシ安息香酸あるいはβ−ヒドロキシナフトエ酸のようなヒドロキシカルボン酸と、エピクロロヒドリンと、を反応させて得られるグリシジルエーテルエステル、フタル酸あるいはテレフタル酸のようなポリカルボン酸と、エピクロロヒドリンと、を反応させて得られるポリグリシジルエステル、および、4,4′−ジアミノジフェニルメタンあるいはm−アミノフェノールのようなアミン化合物と、エピクロロヒドリンと、を反応させて得られるグリシジルアミン化合物が挙げられる。さらに、他の例として、エポキシ化フェノールノボラック樹脂、エポキシ化クレゾールノボラック樹脂、あるいはエポキシ化ポリオレフィンのような多官能性エポキシ化合物、および、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、あるいはグリシジルメタクリレートのような単官能性エポキシ化合物が挙げられる。ただし、上記エポキシ化合物はこれら化合物に限定されるものではない。
【0033】
固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤のもう一つの製造原料として用いられるアミン化合物は、エポキシ基と付加反応しうる活性水素を分子内に1個以上有し、かつ、1級アミノ基、2級アミノ基、および3級アミノ基の中から選ばれた官能基を少なくとも分子内に1個以上有する化合物であればよい。このような、アミン化合物の例を以下に示す。ただし、上記アミン化合物は、これら化合物に限定されるものではない。その例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、n−プロピルアミン、2−ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、および4,4′−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタンのような脂肪族アミン類、4,4′−ジアミノジフェニルメタンあるいは2−メチルアニリンのような芳香族アミン化合物、および、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、ピペリジン、あるいはピペラジンのように、窒素原子を含有する複素環化合物が挙げられる。ただし、上記アミン化合物は、これら化合物に限定されるものではない。
【0034】
また、この中で特に分子内に3級アミノ基を有する化合物は、優れた硬化促進能を有する潜在性硬化促進剤を与える原料である。そのような化合物の例としては、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジ−n−プロピルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、あるいはN−メチルピペラジンのようなアミン化合物、および、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、あるいは2−フェニルイミダゾールのようなイミダゾール化合物、のように、分子内に3級アミノ基を有する1級もしくは2級アミン類が挙げられる。また、他の例として、2−ジメチルアミノエタノール、1−メチル−2−ジメチルアミノエタノール、1−フェノキシメチル−2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−ブトキシメチル−2−ジメチルアミノエタノール、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)−2−フェニルイミダゾリン、1−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)−2−メチルイミダゾリン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N−β−ヒドロキシエチルモルホリン、2−ジメチルアミノエタンチオール、2−メルカプトピリジン、2−ベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、4−メルカプトピリジン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸、N,N−ジメチルグリシン、ニコチン酸、イソニコチン酸、ピコリン酸、N,N−ジメチルグリシンヒドラジド、N,N−ジメチルプロピオン酸ヒドラジド、ニコチン酸ヒドラジド、およびイソニコチン酸ヒドラジド等のように、分子内に3級アミノ基を有するアルコール類、フェノール類、チオール類、カルボン酸類、およびヒドラジド類等が挙げられる。ただし、上記分子内に3級アミノ基を有する化合物は、これら化合物に限定されるものではない。
【0035】
固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤の、さらに、もう一つの製造原料として用いられるイソシアネート化合物の例としては、n−ブチルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、フェニルイソシアネート、あるいはベンジルイソシアネートのような単官能イソシアネート化合物、および、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、あるいはビシクロヘプタントリイソシアネートのような多官能イソシアネート化合物が挙げられる。さらに、これら多官能イソシアネート化合物と活性水素化合物との反応によって得られる、末端イソシアネート基含有化合物等も用いることができる。このような末端イソシアネート基含有化合物の例としては、トルイレンジイソシアネートと、トリメチロールプロパンと、の反応により得られる、末端イソシアネート基を有する付加化合物、および、トルイレンジイソシアネートと、ペンタエリスリトールと、の反応により得られる、末端イソシアネート基を有する付加化合物が挙げられる。ただし、末端イソシアネート基含有化合物は、これら化合物に限定されるものではない。
【0036】
また、尿素化合物の例としては、尿素およびチオ尿素が挙げられる。ただし、尿素化合物は、これら化合物に限定されるものではない。
【0037】
本実施形態に用いることのできる固体分散型潜在性硬化促進剤は、例えば、以下のように容易に調製することができる。上記のアミン化合物とエポキシ化合物との2成分、この2成分と活性水素化合物との3成分、または、アミン化合物とイソシアネート化合物および/または尿素化合物との2成分もしくは3成分の組合せを成すように、採取された各成分が混合される。そして、これら成分は、室温から200℃の温度において反応する。その後、冷却固化された反応物が粉砕される。あるいは、メチルエチルケトン、ジオキサン、またはテトラヒドロフラン等の溶媒中で、上記各成分が反応する。そして、脱溶媒後、その固形分が粉砕される。
【0038】
上記の固体分散型潜在性硬化促進剤の市販品の代表的な例のうち、アミン−エポキシアダクト系(アミンアダクト系)の例としては、「アミキュアPN−23」(味の素ファインテクノ(株)商品名)、「アミキュアPN−40」(味の素ファインテクノ(株)商品名)、「アミキュアPN−50」(味の素ファインテクノ(株)商品名)、「ハードナーX−3661S」(エー・シー・アール(株)商品名)、「ハードナーX−3670S」(エー・シー・アール(株)商品名)、「ノバキュアHX−3742」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHX−3721」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHXA9322HP」(旭化成(株)商品名)、「FXR1121」(T&K TOKA(株)商品名)などが挙げられる。また、尿素型アダクト系の例としては、「フジキュアFXE−1000」(T&K TOKA(株)商品名)、「フジキュアFXR−1030」(T&K TOKA(株)商品名)等が挙げられる。ただし、上記市販品は、これらに限定されるものではない。(C)成分としては、単独の物質が用いられてもよいし、2種以上の物質が併用されてもよい。(C)成分の潜在性硬化促進剤としては、ポットライフおよび硬化性の観点から、固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤が好ましい。
【0039】
樹脂組成物は、チオール官能基当量とエポキシ官能基当量との比(官能基当量比)、〔チオール官能基当量〕/〔エポキシ官能基当量〕は、好ましくは、0.5〜2.0である。ここで、チオール官能基当量とは、樹脂組成物中の全チオール基の数を意味する。そして、エポキシ官能基当量とは、樹脂組成物中の全エポキシ基の数を意味する。チオール官能基当量は、樹脂組成物中の各チオール化合物の重量を、各チオール当量で除することにより得られる数値である。ここで、チオール当量とは、チオール化合物の分子量を1分子中のチオール基の数で除することにより得られる数値である。実際のチオール当量は、例えば、電位差測定によってチオール価を求めることにより、決定することができる。エポキシ官能基当量は、樹脂組成物中の各エポキシ樹脂の重量を、各エポキシ当量で除することにより得られる数値である。ここで、エポキシ当量とは、エポキシ樹脂の分子量を1分子中のエポキシ基の数で除することにより得られる数値である。上記官能基当量比を、0.5〜2.0の範囲にすることによって、エポキシ基とチオール基とが一定量以上反応して、より確実に高重合体を形成しうる。そのため、高い接着強度を発現し易くすることが可能となる。官能基当量比が0.5未満では、エポキシ樹脂のホモ重合が進行する。そのため、高くなりすぎた架橋密度により、ピール強度が低下し易くなる、というおそれが生じる。また、官能基当量比が2.0超では、分子架橋が十分に形成されない。そのため、硬化物表面にブリードが発生し易くなる。その結果、ピール強度が低下し易くなる、というおそれが生じる。
【0040】
(A)成分の含有量は、樹脂組成物の硬化物の物性の観点から、好ましくは、樹脂組成物100質量部に対して、10〜90質量部である。
【0041】
(C)成分は、樹脂組成物の硬化速度、ポットライフの観点から、樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.1〜40質量部、より好ましくは1〜40質量部である。
【0042】
本開示の樹脂組成物は、さらに、樹脂組成物の硬化後の耐湿試験後の接着強度の観点から、好ましくは、(D)シランカップリング剤を含む。(D)成分の例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、および3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。これら化合物の中でも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、および3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミンが好ましい。市販品の例としては、信越化学工業製3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(品名:KBM403)、信越化学工業製3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(品名:KBM803)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(品名:KBE903)、および、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン(品名:KBE9103)が挙げられる。(D)成分としては、単独の化合物が用いられてもよいし、2種以上の化合物が併用されてもよい。
【0043】
(D)成分の含有量は、樹脂組成物の硬化後の接着強度、耐湿試験後の接着強度の観点から、好ましくは、樹脂組成物100質量部に対して、0.1〜5質量部である。
【0044】
樹脂組成物には、本実施形態の目的を損なわない範囲で、更に必要に応じて、カーボンブラック、チタンブラック、シリカフィラー、アルミナフィラー、タルクフィラー、炭酸カルシウムフィラー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィラー、イオントラップ剤、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、あるいは揺変剤のような添加剤等を配合させることができる。また、樹脂組成物に、粘度調整剤、難燃剤、または溶剤等を配合させてもよい。
【0045】
樹脂組成物は、例えば、(A)成分、(B)成分、(b)成分、(C)成分、およびその他添加剤等を、同時にまたは別々に、必要により加熱処理を加えながら、撹拌、溶融、混合、および分散させることにより得ることができる。これらの混合、撹拌、および分散等の装置は、特に限定されるものではない。撹拌装置および加熱装置を備えたライカイ機、ヘンシェルミキサー、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、あるいはビーズミル等を使用することができる。また、これら装置が適宜組み合わされて使用されてもよい。
【0046】
このようにして得られた樹脂組成物は、熱硬化性である。特に、この樹脂組成物は、80℃で、好ましくは5時間、より好ましくは1時間で硬化可能である。ここでの硬化とは、硬化後の樹脂組成物のピール強度が、0.1N/mm以上であることをいう。樹脂組成物の熱硬化の条件は、イメージセンサーモジュールに使用する場合には、低温速硬化性の観点から、好ましくは60〜90℃で、30〜120分である。
【0047】
本開示の樹脂組成物は、例えば、部品同士を接合するための接着剤、封止材、ダム剤、またはその原料として用いることができる。電子部品用の接着剤および封止材には、狭小部への注入性が求められることがある。本開示の樹脂組成物は、低粘度化が可能なため、これらの用途に適している。また、本開示の樹脂組成物は、ポットライフに優れている。なお、ダム剤とは、例えば、基板上に、複数の半導体チップ等を低粘度アンダーフィル剤等で封止する前に、予め基板の外周に形成される。このダム剤の形成により、その後の複数の半導体チップを封止する低粘度アンダーフィル剤の流出を防ぐことができる。また、本開示の樹脂組成物を含む接着剤は、エンジニアリングプラスチック、セラミックス、および金属に対しても、良好な接合を可能にする。
【0048】
〔半導体装置〕
本開示の半導体装置は、エンジニアリングプラスチック、セラミックス、および金属からなる群より選択される少なくとも1種の材料から形成される少なくとも2個の被着材が、上述の接着剤の硬化物で接着されている。
【0049】
被着材は、エンジニアリングプラスチック、セラミックス、および金属からなる群より選択される少なくとも1種の材料から形成される。ここで、エンジニアリングプラスチック(以下、エンプラ(EP)という)とは、100℃の環境に100時間晒されても、49MPa以上の引っ張り強度と、2.5GPa以上の曲げ弾性率と、を有するプラスチックをいう。エンプラとしては、熱可塑性のエンプラおよび熱硬化性のエンプラのいずれをも使用することができる。熱可塑性のエンプラの例としては、ポリアセタール、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ガラスファイバー(GF)強化ポリエチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、およびシンジオタクチックポリスチレンが挙げられる。熱硬化性のエンプラの例としては、エポキシ、ガラスエポキシ(FR−4)、フェノール、およびシリコーンが挙げられる。
【0050】
また、エンプラとしては、スーパーエンジニアリングプラスチックが好ましい。ここで、スーパーエンジニアリングプラスチック(以下、スーパーエンプラという)とは、150℃の環境に100時間晒されても、49MPa以上の引っ張り強度と、2.5GPa以上の曲げ弾性率と、を有するエンプラをいう。スーパーエンプラの例としては、非晶ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド(PAI)、フッ素樹脂、および液晶ポリマー(LCP)が挙げられる。
【0051】
エンプラは、耐熱性、寸法安定性、および電気絶縁性の観点から、好ましくは、LCP、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0052】
セラミックスの例としては、アルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化珪素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、窒化ケイ素(SiN)、およびガラスが挙げられる。熱伝導率、熱膨張係数、および化学的耐久性の観点から、アルミナおよび窒化ケイ素が好ましい。
【0053】
金属の例としては、ステンレス鋼、チタンおよびその合金、ニッケルおよびその合金、銅およびその合金、スズおよびその合金、アルミニウムおよびその合金、およびはんだ等が挙げられる。耐酸化などの化学的な安定性の観点から、ステンレス鋼、および、ニッケルおよびその合金が好ましい。
【0054】
ここで、セラミックスは、撮像素子を有するイメージセンサーモジュールの基板として、好適に用いられる。また、エンジニアリングプラスチックは、光学部品を有するイメージセンサーモジュールのVCM(Voice Coil Motor)として、好適に用いられる。
【0055】
本開示の半導体装置は、上述のように構成されており、その構成は、イメージセンサーモジュールに非常に好適に適応される。図1に、イメージセンサーモジュールの断面図の一例を示す。図1に示すイメージセンサーモジュール1は、上部から下部に向かう光で照射される。この光は、光学レンズ40から光学フィルタ(赤外線(IR)フィルタ)50を通過して、基板20上のイメージセンサー30に到達して、イメージセンサー30で電気信号に変換される。ここで、光学レンズ40は、レンズバレル60で固定されている。VCM(Voice Coil Motor)70に固定されたレンズバレル60は、VCM70により上下に移動する。このようにして、イメージセンサー30への焦点調節が行われる。本発明の半導体装置に使用される接着剤は、「基板20−VCM70間、VCM70−レンズバレル60間、およびVCM70−光学フィルタ50間」の全ての接着に使用することができる。基板20に使用される材料としては、「ポリイミド等のエンプラ、および、アルミナ等のセラミックス」が挙げられる。レンズバレル60に使用される材料としては、LCP等のエンプラが挙げられる。VCM70に使用される材料としては、LCP等のエンプラが挙げられる。本発明の半導体装置に使用される接着剤は、特に、優れた「耐湿試験後の接着強度」を有する。そのため、この接着剤は、これら各材料の接着に適している。従来のチオール系硬化剤を使用する接着剤には、耐湿試験後の接着強度の低下が著しいため、長時間の耐湿試験後には、接着剤が劣化してしまうという問題があった。
【実施例】
【0056】
以下、本実施形態が、実施例により説明される。ただし、本実施形態は、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、部および%は、ことわりのない限り、質量部および質量%を示す。
【0057】
表1および2に示す配合で、3本ロールミルを用いて、樹脂組成物が調製された。表1〜表2では、(B’)成分として、前述の(b2)例示されている。また、(B’’)および(B’’’)成分として、前述の(b1)が例示されている。また、(C)がエポキシ樹脂を含む場合には、(C)に含まれるエポキシ官能基当量が求められて、官能基当量比が算出された。
【0058】
〔粘度〕
調製されてから1時間以内に、樹脂組成物の粘度が、東機産業社製E型粘度計(型番:TVE−22H、ロータ名称:1°34’×R24)を用いて、10rpm、および、予め設定された適切な測定レンジ(H、R、またはU)で、測定された。粘度は、注入性の観点から、低ければ低いほど好ましい。表1〜表2に、測定結果を示す。
【0059】
〔ポットライフ〕
調製された樹脂組成物の初期粘度(Pa・s)が、東機産業社製E型粘度計(型番:TVE−22H、ロータ名称:1°34’×R24)を用いて、10rpm、25℃で測定された。次に、25℃、湿度50%の環境にて、密閉容器に保存された樹脂組成物の一部が、1時間おきに密閉容器から取り出された。そして、取り出された樹脂組成物の粘度が測定された。初期粘度測定時から、初期粘度の2倍の粘度が測定される迄の経過時間が、ポットライフ(hr)と定義された。ポットライフは3時間以上であることが好ましい。表1〜表2に、結果を示す。
【0060】
〔ピール強度〕
下側基材(SUS−304製、平滑板:40mm×60mm×0.3mm)上の、20mm×60mmの領域が、樹脂組成物で塗布された。塗布された領域上の樹脂組成物は、50μmの厚みを有するように、スペーサを用いて、調整された。気泡を噛み込まないように注意しながら、上側基材(SUS―304製リボン(厚さ20μm、幅5mm、長さ50mm))が、樹脂組成物の上に載置された。このようにして、5mm×20mmの接着面をもつ試験片が5つ作製された。次に、送風乾燥機で、作製された試験片を80℃×60分保持することにより、試験片の樹脂組成物が熱硬化された。これにより、ピール強度測定用の試験片が得られた。
その後、室温にて、ピール試験機(ミネベア株式社製荷重測定器LTS−500N−S100、および90°剥離ジグ)により、上記試験片の上側基材が把持された。その後、硬化物の一端がわずかに剥がされたあと、90°の角度および50mm/minの引き上げ速度で、15mmの引き上げ距離まで、上記基材が試験片から剥がされた。このとき、引き上げ距離と同じ距離だけ、試験片が、剥離操作に追従するように、水平に移動した。引き上げ距離が5〜15mmのときの測定値の平均値が、初期ピール強度と定義された。
【0061】
また、以下の手法により、耐湿試験後のピール強度も求められた。上記ピール強度測定用の試験片が、温度85℃および湿度85%の条件下で、恒温恒湿槽内に500時間放置された。恒温恒湿槽から取り出された試験片の温度が、1時間以内に、常温と同じになったことが確認された。この試験片を用いて、上記と同じ測定方法で求められたピール強度が、耐湿試験後のピール強度と定義された。初期ピール強度および耐湿試験後のピール強度は、好ましくは0.1N/mm以上、より好ましくは1N/mm以上である。表1〜表2に、測定結果(単位は、N/mm)を示す。
【0062】
〔初期注入速度〕
1枚のヘモカバーグラス(松浪硝子工業株式会社製、幅(W)16mm×長さ(L)22mm×厚さ(T)0.5mm)の両長辺端(22mm)のそれぞれに、その全長にわたって、スペーサとして、厚さ(T)0.05mmの両面テープ(幅(W)3mm×長さ(L)20mm)2枚が重ねて貼付けられた。引き続き、もう一枚のヘモカバーグラスが、前述のヘモカバーガラス上に、それらヘモカバーグラスの両長辺が、対向するように、載置された。このようにして、その両端に開口部を有し、さらに、高さ(H)0.1mm×幅(W)10mm×長さ(L)20mmの空間を有する試験片が、作製された。この後、調製された樹脂組成物で、試験片の一方の開口部が塗布された。その後、一分間に試験片の空間内で、樹脂組成物が移動した距離が、初期注入速度(mm/分)と定義された。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1および2からわかるように、実施例1〜12の全てにおいて、低温速硬化条件である80℃×60分で硬化された後の樹脂組成物は、高い初期ピール強度、高い耐湿試験後ピール強度、および、優れたポットライフを有していた。なお、初期ピール強度に比べて耐湿試験後ピール強度が高いのは、耐湿試験環境下において硬化物が膨潤することにより、硬化物の弾性率が低下したためと考えられる。これに対して、多官能チオール化合物として、(B)成分のみを含む比較例1の樹脂組成物の、ポットライフは、短かった。多官能チオール化合物として、加水分解するチオール化合物のみを含む比較例2の樹脂組成物は、耐湿試験後に液状化したため、接着用途に不向きであると判断された。そのため、比較例2のピール強度測定は行なわれなかった(表2中、NGと表記)。多官能チオール化合物として、エステル結合を有しない(b1)成分のみを含む、比較例3および4の初期ピール強度は、測定不能のため、0と表記された。そして、比較例3および4の耐湿試験は、行なわれなかった。(C)成分の代わりに潜在性硬化促進剤ではない硬化触媒を含む比較例5の樹脂組成物は、試料作製中に硬化した。そのため、比較例5の各評価は、行うことができなかった。
【0066】
〔異種材質の接着剤強度試験〕
〈接着強度〉
表3に示す組合せで、選択された材料(SUS−304平滑板、アルミナ、LCP(液晶ポリマー)、PC(ポリカーボネート)、PI(ポリイミド)、PA(ポリアミド)、FR−4(ガラスエポキシ)、PE(ポリエチレン)、およびPP(ポリプロピレン))からなる基板が、下段の被着材として、実施例6の接着剤または比較例2の接着剤で塗布された。次いで、上段の被着材(SUS―304製リボン(幅5mm、厚み20μm、長さ50mm))が下段の被着材の上に載置された。このようにして作製された試験片を80℃で60分保持することにより、試験片の接着剤が熱硬化された。ここで、LCP、PC、PI、PA、およびFR−4は、エンジニアリングプラスチックである。これらの中で、LCPおよびPIは、スーパーエンジニアリングプラスチックである。
【0067】
前述した手法により、上記作製された試験片の初期ピール強度と、耐湿試験後のピール強度と、が測定された。0.1N/mm以上のピール強度を有していた試験片の接着剤が「Good」と評価された。0.1N/mm未満のピール強度を有していた試験片の接着剤が「Bad」と評価された。また、試験片作製後に、液状化したため、接着用途に不向きであると判定された接着剤も「Bad」と評価された。表3に、結果を示す。
【0068】
【表3】
【0069】
表3からわかるように、実施例6の接着剤は、SUS、アルミナ、およびエンジニアリングプラスチックの試験片で、高いピール強度を有していた。これに対して、比較例2の接着剤は、SUS、アルミナ、エンジニアリングプラスチック、PE、およびPPの試験片の全てで、耐湿試験後に液状化したため、接着用途に不向きであると判定された。なお、実施例6の接着剤も、PEおよびPPの試験片では、低いピール強度を有していた。
本開示の樹脂組成物は、以下の第1〜5の樹脂組成物であってもよい。
上記第1の樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)下記一般式(1)で表されるチオール化合物
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素、C2nSH(式中、nは2〜6である)であり、かつR、R、RおよびRの少なくとも1つは、C2nSH(式中、nは2〜6である)である)、(b)前記(B)以外の多官能チオール化合物、(C)潜在性硬化促進剤、を含有することを特徴とする。
上記第2の樹脂組成物は、(b)成分が、エステル結合を有しないチオール化合物である、上記第1の樹脂組成物である。
上記第3の樹脂組成物は、(b)成分が、チオール置換グリコールウリル誘導体である、上記第1または2の樹脂組成物である。
上記第4の樹脂組成物は、(B)成分及び(b)成分のチオール化合物の合計100質量部に対して、(B)成分が5〜80質量部である、上記第1〜3のいずれかの樹脂組成物である。
上記第5の樹脂組成物は、80℃、1時間で硬化可能な上記第1〜4のいずれかの樹脂組成物である。
本開示の接着剤は、上記第1〜5のいずれかの樹脂組成物を含んでいてもよい。
本開示の封止材は、上記第1〜5のいずれかの樹脂組成物を含んでいてもよい。
本開示のダム剤は、上記第1〜5のいずれかの樹脂組成物を含んでいてもよい。
本開示の半導体装置は、以下の第1〜4の半導体装置であってもよい。
上記第1の半導体装置は、上記第1〜5の樹脂組成物の硬化物、上記接着剤の硬化物、上記封止材の硬化物、または上記ダム剤の硬化物を含む。
上記第2の半導体装置は、エンジニアリングプラスチック、セラミックス、および金属からなる群より選択される少なくとも1種の材料により形成される少なくとも2個の被着材が、上記接着剤の硬化物で接着されていることを特徴とする、上記第1の半導体装置である。
上記第3の接着剤は、エンジアリングプラスチックが、スーパーエンジニアリングプラスチックである、上記第2の半導体装置である。
上記第4の半導体装置は、エンジニアリングプラスチックが、液晶ポリマー、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、上記第2または3の半導体装置である。
本開示のイメージセンサーモジュールは、上記第1〜4のいずれかの半導体装置を含んでいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示の樹脂組成物は、低温速硬化可能で、硬化後に高い接着強度(特に、ピール強度)を有し、硬化後の樹脂組成物の耐湿試験後の接着強度(特に、ピール強度)の低下を抑制することができ、さらに、優れたポットライフする。そのため、この樹脂組成物は、特に、接着剤、封止材、およびダム剤として、非常に有用である。
図1