(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
<イリジウム錯体化合物>
本発明のイリジウム錯体化合物は、下記式(1)で表されることを特徴とする。
Ir(L
1)
m(L
2)
3−m (1)
式(1)において、Irはイリジウム原子を表す。L
1とL
2はそれぞれ独立にIrと結合する有機配位子を表し、mは1〜2の整数である。ただし、L
1は、赤色発光に関与する配位子であり、後述の式(2−1)または式(2−2)のいずれかで表される配位子から選ばれ、L
2は、式(3)で表される配位子を表す。
【0019】
以下、配位子L
1およびL
2について詳述するが、式(2−1)または式(2−2)のいずれかで表される配位子L
1、及び、式(3)で表されるL
2は、共通する置換基を有しうることから、便宜上、以下にまとめて説明する。
【0022】
上記式中、R
1〜R
14およびR
31〜R
38は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数7〜40の(ヘテロ)アラルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数が1〜20であるアルキルシリル基、炭素数が6〜20であるアリールシリル基、炭素数2〜20のアルキルカルボニル基、炭素数7〜20のアリールカルボニル基、炭素数1〜20のアルキルアミノ基、炭素数6〜20のアリールアミノ基、または炭素数3〜30の(ヘテロ)アリール基を表すが、これらの基はさらに置換基を有していても良い。
ただし、R
1〜R
14のうち少なくとも1つは、炭素数10〜20の芳香族縮合環基で
あり、この芳香族縮合環基はさらに置換基を有していても良い。
【0023】
<式(2−1)および式(2−2)について>
式(2−1)および式(2−2)において、R
1〜R
14は、耐久性の観点から、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数7〜40の(ヘテロ)アラルキル基、炭素数6〜20のアリールアミノ基、または炭素数3〜30の(ヘテロ)アリール基であることがより好ましく、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数7〜40の(ヘテロ)アラルキル基または炭素数3〜20の(ヘテロ)アリール基であることがさらに好ましい。なお、水素原子以外は、さらに置換されていても良い。
【0024】
なお、本明細書において(ヘテロ)アリール基、(ヘテロ)アラルキル基、(ヘテロ)アリールオキシ基とは、それぞれヘテロ原子を含んでいてもよいアリール基、ヘテロ原子を含んでいてもよいアラルキル基、ヘテロ原子を含んでいてもよいアリールオキシ基を表す。「ヘテロ原子を含んでいてもよい」とは、アリール基、アラルキル基又はアリールオキシ基の主骨格を形成する炭素原子のうち1又は2以上の炭素原子がヘテロ原子に置換されていることを表し、ヘテロ原子としては窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子等が挙げられ、中でも耐久性の観点から窒素原子が好ましい。
【0025】
耐久性の観点からは、(ヘテロ)アリール基、(ヘテロ)アラルキル基、(ヘテロ)アリールオキシ基は、ヘテロ原子で置換されていないことが好ましい。
前記炭素数1〜20のアルキル基としては、直鎖、分岐または環状のアルキル基のいずれでもよく、より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。中でも、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等の直鎖の炭素数1〜8のアルキル基が好ましい。
【0026】
前記炭素数7〜40の(ヘテロ)アラルキル基の具体例としては、直鎖のアルキル基および分岐のアルキル基、環状のアルキル基を構成する水素原子の一部が(ヘテロ)アリール基で置換された基のことを指し、より具体的には、2−フェニル−1−エチル基、クミル基、5−フェニル−1−ペンチル基、6−フェニル−1−ヘキシル基、7−フェニル−1−ヘプチル基、テトラヒドロナフチル基などが挙げられる。中でも、5−フェニル−1−ペンチル基、6−フェニル−1−ヘキシル基、7−フェニル−1−ヘプチル基が好ましい。
【0027】
前記炭素数1〜20のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクタデシルオキシ基等が挙げられる。中でも、ヘキシルオキシ基が好ましい。
前記炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールオキシ基の具体例としては、フェノキシ基、4−メチルフェニルオキシ基等が挙げられる。中でも、フェノキシ基が好ましい。
【0028】
前記炭素数1〜20であるアルキルシリル基の具体例としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチルフェニル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基等が挙げられ、中でもトリイソプロピル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基が好ましい。
前記炭素数6〜20であるアリールシリル基の具体例としては、ジフェニルピリジルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられ、中でもトリフェニルシリル基が好ましい。
【0029】
前記炭素数2〜20のアルキルカルボニル基の具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ピバロイル基、カプロイル基、デカノイル基、シクロヘキシルカルボニル基等が
挙げられ、中でもアセチル基、ピバロイル基が好ましい。
前記炭素数7〜20のアリールカルボニル基の具体例としては、ベンゾイル基、ナフトイル基、アントライル基等が挙げられ、中でもベンゾイル基が好ましい。
【0030】
前記炭素数1〜20のアルキルアミノ基の具体例としては、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、ジオクチルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基等が挙げられ、中でもジメチルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基が好ましい。
前記炭素数6〜20のアリールアミノ基の具体例としては、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジ(4−トリル)アミノ基、ジ(2,6−ジメチルフェニル)アミノ基等が挙げられ、中でもジフェニルアミノ基、ジ(4−トリル)アミノ基が好ましい。
【0031】
前記炭素数3〜30の(ヘテロ)アリール基とは、1個の遊離原子価を有する、芳香族炭化水素基および芳香族複素環基の両方を意味する。
具体例としては、1個の遊離原子価を有する、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の基が挙げられる。
【0032】
(ヘテロ)アリール基の中でも、量子収率および耐久性の観点から、1個の遊離原子価を有する、ベンゼン環、ナフタレン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環が好ましく、中でも、1個の遊離原子価を有し、炭素数が1〜8のアルキル基で置換されていても良いベンゼン環、ナフタレン環またはフェナントレン環などの炭素数6〜18のアリール基、または、1個の遊離原子価を有し、炭素数が1〜4のアルキル基で置換されていても良いピリジン環がより好ましく、1個の遊離原子価を有し、炭素数が1〜8のアルキル基で置換されていても良いベンゼン環、ナフタレン環またはフェナントレン環などの炭素数6〜18のアリール基であることがさらに好ましい。
【0033】
前記炭素数10〜20の芳香族縮合環基とは、1個の遊離原子価を有する、2環以上が縮合した芳香族炭化水素基を意味する。具体例としては、1個の遊離原子価を有する、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、テトラセン環、トリフェニレン環、ペリレン環等が挙げられ、中でも発光色に影響を及ぼしにくいことから、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、であることが好ましく、発光色に影響を及ぼしにくいことと耐久性の観点から、ナフタレン環、フェナントレン環であることがさらに好ましい。
【0034】
ここで、本発明において、遊離原子価とは、有機化学・生化学命名法(上)(改定第2版、南江堂、1992年発行)に記載のとおり、他の遊離原子価と結合を形成できるものを言う。すなわち、例えば、「1個の遊離原子価を有するベンゼン環」はフェニル基のことを言い、「2個の遊離原子価を有するベンゼン環」はフェニレン基のことを言う。
なお、R
1〜R
14がさらに有していてもよい置換基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、および上述のR
1〜R
14で表される置換基に列記の置換基からなる群より選ばれ
る少なくとも1つの基である。これらの置換基の具体例は、前項までに述べたものと同様であるが、好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数7〜40のアラルキル基、炭素数6〜24のアリール基である。
【0035】
<式(3)について>
式(3)におけるR
31〜R
38は、上述のR
1〜R
14と同様の定義で表される置換基である。なお、本発明のイリジウム錯体化合物は、式(3)で表される配位子L
2が、フェニルベンゾチアゾール骨格を有することを特徴のひとつとするものである。 R
31〜R
38で表される基の例示および好ましい基は、R
1〜R
14の場合と同様であるが、アリール基として、ビフェニル基、ターフェニル基、クオーターフェニル基なども好ましいものであり、したがって、アリール基の好ましい炭素数は6〜24、特に好ましくは6〜18である。
【0036】
これらの中でも、耐久性の観点から、R
31〜R
38は、独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜24のアリール基(但し、アルキル基またはアラルキル基で置換されたフェニル基は除く)、炭素数10〜15のアラルキル基、炭素数4〜12のアルキル基で置換されたフェニル基および炭素数10〜15のアラルキル基で置換されたフェニル基から選ばれる基が好ましく、独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基(但し、アルキル基またはアラルキル基で置換されたフェニル基は除く)、炭素数4〜12のアルキル基で置換されたフェニル基および炭素数10〜15のアラルキル基で置換されたフェニル基から選ばれる基がより好ましい。
さらに、式(3)における置換基R
31〜R
38の少なくとも1つが水素原子以外の基であるのが耐久性ならびに溶解性の点から好ましい。
【0037】
<イリジウム錯体化合物の合成方法>
本発明のイリジウム錯体化合物は、既知の方法の組み合わせなどにより合成され得る配位子を用い、配位子とイリジウム化合物により合成することができる。
本発明のイリジウム錯体化合物の合成方法については、下記(式A)に示すようなイリジウム2核錯体を形成したのちにトリス体を形成させる方法、下記(式B)または(式C)に示すようにイリジウム2核錯体からイリジウム錯体中間体を形成したのちに本発明のイリジウム錯体化合物を形成させる方法等、一般的なイリジウム錯体化合物の合成方法を適用することが可能であるが、これらに限定されるものではない。なお、(式A)、(式B)及び(式C)において、Rは水素または任意の置換基を表し、複数存在するRは同一でも異なっていてもよい。
【0039】
反応式(式A)、(式B)及び(式C)いずれにおいても、反応の効率および選択性を考慮し、実際の配位子とIr化合物の仕込み比は適当に調整することができる。イリジウム化合物としては上記のIrCl
3・xH
2O錯体の他に、Ir(acac)
3錯体やIrシクロオクタジエニル錯体など、適当なIr化合物を用いても良い。また、中間体として合成するイリジウム錯体化合物は上記のケトネート錯体のほか、ピコリナート錯体等、公知の補助配位子を用いることができる(例えば、前記非特許文献3、および、Inorganic Chemistry, 2001年, 40号, 1704-1711頁等を参照)。炭酸塩などの塩基化合物、銀塩などのハロゲントラップ剤などを併用して反応を促進させてもよい。反応温度は50℃〜4
00℃程度の温度が好ましく用いられる。より好ましくは90℃以上の高温が用いられる。反応は無溶媒で行っても良いし、既知の溶媒を用いてもよい。
【0040】
合成収率の観点から、本発明のイリジウム錯体化合物を合成する際には、イリジウム2核錯体またはイリジウム錯体中間体と、任意の配位子を、トリフルオロメタンスルホン酸銀、トリフルオロ酢酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、ピコリン酸銀、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド銀などの銀塩、好ましくはトリフルオロメタンスルホン酸銀の存在下で反応するのが好ましい。
【0041】
<分子量>
本発明のイリジウム錯体化合物の分子量は、錯体の安定性の高さから、通常500以上、好ましくは600以上、通常3000以下、好ましくは2000以下であるが、本発明のイリジウム錯体化合物を側鎖に含む高分子化合物にも好適に用いることができる。
<具体例>
以下に、本発明のイリジウム錯体化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお本明細書において、Meはメチル基、Phはフェニル基をそれぞれ表す。
(1)式(1)におけるL
1が式(2−1)のイリジウム錯体化合物
【0046】
(2) 式(1)におけるL
1が式(2−2)のイリジウム錯体化合物
【0051】
<構造上の特徴>
本発明のイリジウム錯体化合物は、高い量子収率で赤色に発光し、この化合物を用いて作製した有機電界発光素子は発光効率が高いという効果を奏する。本効果を奏する理由については、構造上の特徴から以下の通りと考えられる。
一般に、赤色発光イリジウム錯体化合物は、緑色発光イリジウム錯体に比べて、発光エネルギーギャップが小さいため無輻射遷移速度が大きいことが知られており(エネルギーギャップ則)、この小さなエネルギーギャップに起因して発光量子収率は相対的に低い。したがって、赤色に発光するイリジウム錯体化合物の発光量子収率を向上するためには、非発光遷移過程(無輻射失活)に関与する無輻射遷移速度を小さくすることが必要である。
【0052】
本発明者らが、種々のイリジウム錯体化合物の構造物性相関について検討したところ、フェニルベンゾチアゾール系配位子とともにフェニルキナゾリン系配位子(赤色発光に寄与する配位子)を有するイリジウム錯体化合物において、フェニルキナゾリン系配位子に少なくとも1つの芳香族縮合環基を置換すると無輻射遷移速度が小さくなり、発光量子収率が増大することが明らかとなった。その理由は、芳香族縮合環基を導入することで、分子内の置換基の自由運動による励起エネルギーの無輻射失活が抑制された結果と推測される。
【0053】
また、芳香族縮合環基を導入すると、分子の最高占有分子軌道(HOMO)や最低非占有分子軌道(LUMO)が拡張され、発光色(発光波長)に影響を及ぼす可能性がある。したがって、導入される芳香族縮合環基としては縮合環数が少ない(分子軌道拡張の影響が少ない)方が好ましく、発光色に影響を及ぼしにくいことと耐久性の観点から、ナフチル基およびフェナンチル基が好ましい。
以上より、本発明のイリジウム錯体化合物は、フェニルベンゾチアゾール系配位子とともに、少なくとも1つの芳香族縮合環基を置換したフェニルキナゾリン系配位子を有することで、高い量子収率で赤色に発光し、該化合物を利用した発光効率の高い有機電界発光素子を提供することを可能とする。
【0054】
<イリジウム錯体化合物の用途>
本発明のイリジウム錯体化合物は、有機電界発光素子に用いられる材料、すなわち有機電界発光素子材料として好適に使用可能であり、有機電界発光素子やその他の発光素子等の発光材料としても好適に使用可能である。
【0055】
<イリジウム錯体化合物含有組成物>
本発明のイリジウム錯体化合物は、溶媒とともに使用されることが好ましい。以下、本発明のイリジウム錯体化合物と溶媒とを含有する組成物(以下、「イリジウム錯体化合物含有組成物」と称することがある。)について説明する。
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物は、上述の本発明のイリジウム錯体化合物および溶媒を含有する。本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物は通常湿式成膜法で層や膜を形成するために用いられ、特に有機電界発光素子の有機層を形成するために用いられることが好ましい。該有機層は、特に発光層であることが好ましい。
【0056】
つまり、イリジウム錯体化合物含有組成物は、有機電界発光素子用組成物であることが好ましく、更に発光層形成用組成物として用いられることが特に好ましい。
該イリジウム錯体化合物含有組成物における本発明のイリジウム錯体化合物の含有量は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下である。組成物のイリジウム錯体化合物の含有量をこの範囲とすることにより、該組成物を有機電界発光素子用途に利用した場合に、隣接する層(例えば、正孔輸送層や正孔阻止層)から発光層へ、効率よく正孔や電子の注入が行われ、駆動電圧を低減することができる。なお、本発明のイリジウム錯体化合物はイリジウム錯体化合物含有組成物中に、1種のみ含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0057】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物を例えば有機電界発光素子用に用いる場合には、上述のイリジウム錯体化合物や溶媒の他、有機電界発光素子、特に発光層に用いられる電荷輸送性化合物を含有することができる。
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物を用いて、有機電界発光素子の発光層を形成する場合には、本発明のイリジウム錯体化合物を発光材料とし、他の電荷輸送性化合物をホスト材料として含むことが好ましい。
【0058】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物に含有される溶媒は、湿式成膜によりイリジウム錯体化合物を含む層を形成するために用いる、揮発性を有する液体成分である。
該溶媒は、溶質である本発明のイリジウム錯体化合物および後述する電荷輸送性化合物が良好に溶解する溶媒であれば特に限定されない。好ましい溶媒としては、例えば、n−デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メシチレン、フェニルシクロヘキサン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル類;シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類等が挙げられる。中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類であり、特に、フェニルシクロヘキサンは湿式成膜プロセスにおいて好ましい粘度と沸点を有している。
【0059】
これらの溶媒は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
溶媒の沸点は、通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、特に好ましくは200℃以上である。また、通常沸点270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下である。この範囲を下回ると、湿式成膜時において、組成物からの溶媒蒸発により、成膜安定性が低下する可能性がある。
【0060】
溶媒の含有量は、組成物100重量部に対して、好ましくは10重量部以上、より好ましくは50重量部以上、特に好ましくは80重量部以上であり、また、好ましくは99.95重量部以下、より好ましくは99.9重量部以下、特に好ましくは99.8重量部以下である。
通常発光層の厚みは3〜200nm程度であるが、溶媒の含有量がこの下限を下回ると、組成物の粘性が高くなりすぎ、成膜作業性が低下する可能性がある。一方、この上限を上回ると、成膜後、溶媒を除去して得られる膜の厚みが稼げなくなるため、成膜が困難となる傾向がある。
【0061】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物が含有し得る他の電荷輸送性化合物としては、従来有機電界発光素子用材料として用いられているものを使用することができる。例えば、カルバゾール、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クリセン、ナフタセン、フェナントレン、コロネン、フルオランテン、ベンゾフェナントレン、フルオレン、アセトナフトフルオランテン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体、キナクリドン誘導体、DCM(4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6−(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン、アリールアミノ基が置換された縮合芳香族環化合物、アリールアミノ基が置換されたスチリル誘導体等が挙げられる。
【0062】
これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物中の他の電荷輸送性化合物の含有量は、該組成物を100重量部とすると、通常0.1重量部以上、また、通常50重量部以下、好ましくは30重量部以下である。
【0063】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物には、必要に応じて、上記の化合物等の他に、更に他の化合物を含有していてもよい。例えば、上記の溶媒の他に、別の溶媒を含有していてもよい。そのような溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0064】
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、基板上に少なくとも陽極、陰極及び前記陽極と前記陰極の間に少なくとも1層の有機層を有するものであって、前記有機層のうち少なくとも1層が本発明の錯体化合物を含むことを特徴とする。前記有機層は発光層を含む。
本発明の錯体化合物を含む有機層は、本発明における組成物を用いて形成された層であることがより好ましく、湿式成膜法により形成された層であることがさらに好ましい。前記湿式成膜法により形成された層は、該発光層であることが好ましい。
【0065】
図1は本発明の有機電界発光素子10に好適な構造例を示す断面の模式図であり、
図1において、符号1は基板、符号2は陽極、符号3は正孔注入層、符号4は正孔輸送層、符号5は発光層、符号6は正孔阻止層、符号7は電子輸送層、符号8は電子注入層、符号9は陰極を各々表す。
これらの構造に適用する材料は、公知の材料を適用することができ、特に制限はないが、各層に関しての代表的な材料や製法を一例として以下に記載する。また、公報や論文等を引用している場合、該当内容を当業者の常識の範囲で適宜、適用、応用することができるものとする。
【0066】
[1]基板1
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板1のガスバリア性が小さすぎると、基板1を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがある。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0067】
[2]陽極2
基板1上には陽極2が設けられる。陽極2は発光層側の層(正孔注入層3、正孔輸送層4又は発光層5など)への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。
【0068】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などを用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、
基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0069】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。
【0070】
不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることが好ましい。
【0071】
[3]正孔注入層3
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。本発明に係る正孔注入層3の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0072】
<湿式成膜法による正孔注入層3の形成>
湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶媒(正孔注入層用溶媒)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0073】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層3の構成材料として正孔輸送性化合物及び溶媒を含有する。正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される正孔輸送性を有する化合物であれば、重合体などの高分子化合物であっても、単量体などの低分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
【0074】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。
正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0075】
尚、本発明において誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例にするならば、芳香族アミンそのもの及び芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものであり、重合体であっても、単量体であってもよい。
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何
れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種又は2種以上とを併用することが好ましい。
【0076】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、従来の公知化合物である正孔輸送性化合物を選択すれば特に問題はなく、例えば、日本国特開2000−036390号公報、日本国特開2007−169606号公報、日本国特開2009−212510号公報等に開示されている高分子化合物が挙げられる。
【0077】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層3の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上である化合物がさらに好ましい。
【0078】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、及びアリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、塩化鉄(III)(日本国特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(日本国特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;有機基の置換したオニウム塩(国際公開第2005/089024号);フラーレン誘導体;ヨウ素;ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、ショウノウスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0079】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層3の導電率を向上させることができる。
正孔注入層3或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0080】
(溶媒)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶媒のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層3の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶媒の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上がより好ましく、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶媒の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶媒の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があり、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0081】
溶媒としては例えば、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミ
ド系溶媒などが挙げられ、従来の溶媒を選択すれば特に問題はなく、例えば、日本国特開2007−169606号公報、国際公開第2006/087945号、日本国特開2009−212510号公報等に開示されている。
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成することができる。例えば、日本国特開2009−212510号公報等に開示されている従来の方法を適用することができる。
【0082】
<真空蒸着法による正孔注入層3の形成>
真空蒸着により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種又は2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10
−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合は各々独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板1の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0083】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10
−6Torr(0.13×10
−4Pa)以上、通常9.0×10
−6Torr(12.0×10
−4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。
【0084】
[4]正孔輸送層4
正孔輸送層4は、正孔注入層3がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。また、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
正孔輸送層4の形成方法は真空蒸着法でも湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、正孔輸送層4は発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0085】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、従来の公知化合物である正孔輸送性化合物を選択すれば特に問題はなく、例えば、日本国特開2009−212510号公報等に開示されている化合物を採用できる。
【0086】
[5]発光層5
正孔輸送層4の上には通常、発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から正孔注入層3を通じて注入された正孔と、陰極9から電子輸送層7を通じて注入された電子との再結合により励起された、主たる発光源となる層である。
【0087】
発光層5は本発明のイリジウム錯体化合物を発光材料として含有するが、さらに1種又
は2種以上の電荷輸送性化合物を含むことが好ましい。発光層5は、真空蒸着法で形成してもよいが、本発明の組成物を用い、湿式成膜法によって作製された層であることが特に好ましい。
ここで、湿式成膜法とは、前述の如く、溶媒を含む組成物を、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。
【0088】
なお、発光層5は、本発明の性能を損なわない範囲で、他の材料、成分を含んでいてもよい。一般に有機電界発光素子において、同じ材料を用いた場合、電極間の膜厚が薄い方が、実効電界が大きくなる為に注入される電流が多くなるので、駆動電圧は低下する。その為、電極間の総膜厚は薄い方が有機電界発光素子の駆動電圧は低下するが、あまりに薄いと、ITO等の電極に起因する突起により短絡が発生する為、ある程度の膜厚が必要となる。
【0089】
本発明においては、発光層5以外に、正孔注入層3及び後述の電子輸送層7等の有機層を有する場合、発光層5と正孔注入層3や電子輸送層7等の他の有機層とを合わせた総膜厚は通常30nm以上、好ましくは50nm以上であり、さらに好ましくは100nm以上で、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下であり、さらに好ましくは300nm以下である。また、発光層5以外の正孔注入層3や後述の電子注入層8の導電性が高い場合、発光層5に注入される電荷量が増加する為、例えば正孔注入層3の膜厚を厚くして発光層5の膜厚を薄くし、総膜厚をある程度の厚みに維持したまま駆動電圧を下げることも可能である。
【0090】
よって、発光層5の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは20nm以上で、通常300nm以下、好ましくは200nm以下である。なお、本発明の有機電界発光素子が、陽極2及び陰極の両極間に、発光層5のみを有する場合の発光層5の膜厚は、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、通常500nm以下、好ましくは300nm以下である。
【0091】
[6]正孔阻止層6
正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極側の界面に接するように積層形成される。特に、発光物質として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合、正孔阻止層6を設けることは効果的である。
正孔阻止層6は正孔と電子を発光層5内に閉じこめて、発光効率を向上させる機能を有する。即ち、正孔阻止層6は、発光層5から移動してくる正孔が電子輸送層7に到達するのを阻止することで、発光層5内で電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、電子輸送層7から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割がある。
【0092】
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMOとLUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
このような条件を満たす正孔阻止層材料としては、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(日本国特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(日本国特
開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(日本国特開平10−79297号公報)が挙げられる。
【0093】
さらに、国際公開第2005/022962号に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も正孔阻止材料として好ましい。正孔阻止層6の膜厚は、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上で、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。正孔阻止層6も正孔注入層3と同様の方法で形成することができるが、通常は真空蒸着法が用いられる。
【0094】
[7]電子輸送層
電子輸送層7は素子の発光効率をさらに向上させることを目的として、正孔阻止層6と電子注入層8との間に設けられる。電子輸送層7は、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物により形成される。電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極9又は電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し、注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0095】
このような条件を満たす材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(日本国特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−又は5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5,645,948号明細書)、キノキサリン化合物(日本国特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(日本国特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
電子輸送層7の膜厚は、通常下限は1nm、好ましくは5nm程度であり、上限は通常300nm、好ましくは100nm程度である。
電子輸送層7は、正孔注入層3と同様にして湿式成膜法、或いは真空蒸着法により形成されるが、通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0096】
[8]電子注入層8
電子注入層8は陰極9から注入された電子を効率よく発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行うには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましく、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属が用いられる。電子注入層8の膜厚は0.1〜5nmが好ましい。
【0097】
また、陰極9と電子輸送層7との界面にLiF、MgF
2、Li
2O、Cs
2CO
3等の極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Appl.Phys.Lett.,70巻,152頁,1997年;日本国特開平10−74586号公報;IEEE Trans.Electron.Devices,44巻,1245頁,1997年;SID 04 Digest,154頁)。さらに、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(日本国特開平10−270171号公報、日本国特開2002−100478号公報、日本国特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は通常5nm以上、好ましくは10nm以上で、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0098】
[9]陰極9
陰極9は、発光層側の層(電子注入層8又は発光層5など)に電子を注入する役割を果たす。陰極9として用いられる材料は、前記陽極2に使用される材料を用いることも可能であるが、効率よく電子注入を行うには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0099】
陰極9の膜厚は通常、陽極2と同様である。
低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上にさらに、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層してもよく、これにより有機電界発光素子の安定性を増すことができる。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
【0100】
[10]その他の構成層
以上、
図1に示す層構成の素子を中心に説明してきたが、本発明の有機電界発光素子における陽極2及び陰極9と発光層5との間には、その性能を損なわない限り、上記説明にある層の他にも、任意の層を有していてもよく、また発光層5以外の任意の層を省略してもよい。
【0101】
正孔阻止層6と同様の目的で、正孔輸送層4と発光層5の間に電子阻止層を設けることも効果的である。電子阻止層は、発光層5から移動してくる電子が正孔輸送層4に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔輸送層4から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割がある。
【0102】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMOとLUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。また、発光層5を湿式成膜法で形成する場合、電子阻止層も湿式成膜法で形成することが、素子製造が容易となるため、好ましい。
このため、電子阻止層も湿式成膜適合性を有することが好ましく、このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号)等が挙げられる。
【0103】
なお、
図1とは逆の構造、即ち、基板1上に陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に積層することも可能であり、少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。
さらには、
図1に示す層構成を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その際には段間(発光ユニット間)の界面層(陽極2がITO、陰極9がAlの場合はその2層)の代わりに、例えばV
2O
5等を電荷発生層として用いると段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極2と陰極9がX−Yマトリックス状に配置された構造の素子など、いずれにおいても適用することができる。
【0104】
<表示装置及び照明装置>
本発明の表示装置及び照明装置は、上述のような本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の表示装置及び照明装置の形式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発刊、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の表示装置および照明装置を形成することができる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例における各種の条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
【0106】
<本発明化合物(D−1)の合成>
(中間体1の合成)
【0107】
【化14】
【0108】
2−アミノ−5−ブロモベンゾニトリル(15.8g、80.2mmol)、2−ナフタレンボロン酸(15.2g、88.4mmol)、トルエン/エタノール混合溶液(2:1、180mL)、リン酸三カリウム水溶液(2.0M、100mL)を順に加えた後、窒素バブリングを30分間おこなった。そこに、Pd(PPh
3)
4(2.30g、1.99mmol)を加えたのち、加熱還流させながら3時間撹拌を行った。室温に戻した後、水層を除去し、残った有機層を氷浴で冷却した。析出した沈殿を吸引濾過で回収し、冷トルエンで白色になるまで洗浄した。白色沈殿を減圧乾燥し、中間体1(15.7g、収率80%)を得た。
(中間体2の合成)
【0109】
【化15】
【0110】
中間体1(15.4g、63.0mmol)、脱水ピリジン(100mL)を加え、氷浴で冷却しながら、3−ブロモベンゾイルクロリド(15.0g、68.3mmol)の脱水THF(100mL)溶液をゆっくりと滴下した。室温で1時間撹拌した。メタノール(100mL)を加えた後、沈殿を吸引濾過で回収し、メタノールで洗浄した。白色沈殿を減圧乾燥し、中間体2(22.5g、収率83%)を得た。
(中間体3の合成)
【0111】
【化16】
【0112】
中間体2(14.2g、33.3mmol)に脱水THF(200mL)を加え、2−ブロモ−m−キシレン(25.0g、119mmol)とマグネシウム(3.35g)と脱水THF(70mL)から調製したグリニヤール試薬をゆっくりと滴下した。加熱還流させながら4時間撹拌を行った。室温に戻した後に、氷浴で冷却しながら、飽和塩化アンモニウム水溶液をゆっくり加えた。減圧下で溶媒を留去した後、塩化メチレンを加え、有機層を塩化アンモニウム水溶液にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をメタノールで洗浄後、酢酸エチル・エタノール混合溶媒で加熱懸濁洗浄を行い、中間体3(12.6g、収率73%)を得た。
(中間体4の合成)
【0113】
【化17】
【0114】
中間体3(12.6g、24.4mmol)、フェニルボロン酸(3.3g、27.1mmol)、トルエン/エタノール混合溶液(2:1、120mL)、リン酸三カリウム水溶液(2.0M、30mL)を順に加えた後、窒素バブリングを30分間おこなった。そこに、Pd(PPh
3)
4(0.71g、0.61mmol)を加えたのち、加熱還流させながら3時間撹拌を行った。室温に戻した後、蒸留水を加え、トルエンを用いて抽出を行った。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、中間体4(12.0g、収率95%)を得た。
(中間体5の合成)
【0115】
【化18】
【0116】
中間体4(10.8g、21.1mmol)、IrCl
3・nH
2O(3.65g、10.1mmol)、2−エトキシエタノール(110mL)、H
2O(30mL)を順に加え、窒素バブリングを30分間おこなった。110〜145℃にて16時間加熱しながら撹拌した。室温まで放冷後、反応液中にメタノールと水を加え、吸引濾過した。ろ取物をメタノールにて洗浄し、減圧乾燥した。得られた固体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、中間体5(6.60g、収率52%)を得た。
(中間体8の合成)
【0117】
【化19】
【0118】
中間体6(10.4g、35.8mmol)、中間体7(9.20g、39.3mmol)、トルエン/エタノール混合溶液(2:1、195mL)、リン酸三カリウム水溶液(2.0M、45mL)を順に加えた後、窒素バブリングを30分間おこなった。そこに、Pd(PPh
3)
4(1.00g、0.87mmol)を加えたのち、加熱還流させながら3時間撹拌を行った。室温に戻した後、蒸留水を加え、トルエンを用いて抽出を行った。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、中間体8(13.6g、収率95%)を得た。なお、中間体6は、国際公開第2015/087961号に記載の方法を参考にして合成した。
(化合物D−1の合成)
【0119】
【化20】
【0120】
中間体5(6.60g、2.64mmol)、中間体8(5.11g、12.8mmol)、ジグリム(30mL)、トルエン(30mL)を順に加えた後、窒素バブリングを30分間おこなった。そこに、トリフルオロメタンスルホン酸銀(2.05g、7.98mmol)を加えた後、140℃にて5.5時間加熱しながら撹拌した。室温まで放冷後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、化合物D−1(1.0g、収率13%)を得た。
図2に、得られた化合物D−1(10mg)を重クロロホルム(850mg)に溶解させて測定した
1H−NMRチャートを示す。
【0121】
<本発明化合物(D−2)の合成>
(中間体10の合成)
【0122】
【化21】
【0123】
中間体9(23.9g、51.0mmol)、2−ナフタレンボロン酸(22.0g、128mmol)、トルエン/エタノール混合溶液(2:1、450mL)、リン酸三カリウム水溶液(2.0M、130mL)を順に加えた後、窒素バブリングを30分間おこなった。そこに、Pd(PPh
3)
4(3.0g、2.60mmol)を加えたのち、加熱還流させながら3時間撹拌を行った。室温に戻した後、蒸留水を加え、トルエンを用いて抽出を行った。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、中間体10(24.5g、収率85%)を得た。なお、中間体9は、国際公開第2015/087961号に記載の方法を参考にして合成した。
(中間体11の合成)
【0124】
【化22】
【0125】
中間体10(14.2g、25.2mmol)、IrCl
3・nH
2O(4.36g、12.0mmol)、2−エトキシエタノール(100mL)、ジグリム(100mL)、H
2O(42mL)を順に加え、窒素バブリングを30分間おこなった。110〜145℃にて8時間加熱しながら撹拌した。室温まで放冷後、反応液中にメタノールと水を加え、吸引濾過した。ろ取物をメタノールにて洗浄し、減圧乾燥した。得られた固体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、中間体11(13.5g、収率83%)を得た。
(化合物D−2の合成)
【0126】
【化23】
【0127】
中間体11(13.1g、4.85mmol)、中間体8(11.6g、29.0mmol)、ジグリム(100mL)を順に加えた後、窒素バブリングを30分間おこなった。そこに、トリフルオロメタンスルホン酸銀(5.71g、22.2mmol)を加えた後、160℃にて3時間加熱しながら撹拌した。室温まで放冷後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、化合物D−2(1.31g、収率9%)を得た。
【0128】
<本発明化合物(D−3)の合成>
(中間体12の合成)
【0129】
【化24】
【0130】
中間体3(14.4g、27.9mmol)、中間体7(7.21g、30.8mmol)、トルエン/エタノール混合溶液(2:1、150mL)、リン酸三カリウム水溶液(2.0M、35mL)を順に加えた後、窒素バブリングを30分間おこなった。そこに、Pd(PPh
3)
4(0.81g、0.70mmol)を加えたのち、加熱還流させながら3時間撹拌を行った。室温に戻した後、蒸留水を加え、トルエンを用いて抽出を行った。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、中間体12(17.2g、収率99%)を得た。
(中間体13の合成)
【0131】
【化25】
【0132】
中間体12(17.2g、27.5mmol)、IrCl
3・nH
2O(4.76g、13.1mmol)、2−エトキシエタノール(150mL)、H
2O(50mL)を順に加え、窒素バブリングを30分間おこなった。110〜140℃にて7時間加熱しながら撹拌した。室温まで放冷後、反応液中にメタノールと水を加え、吸引濾過した。ろ取物をメタノールにて洗浄し、減圧乾燥した。得られた固体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、中間体13(13.9g、収率71%)を得た。
(中間体14の合成)
【0133】
【化26】
【0134】
中間体6(29.8g、103mmol)、m−ターフェニルボロン酸(30.0g、109mmol)、トルエン/エタノール混合溶液(2:1、300mL)、リン酸三カリウム水溶液(2.0M、135mL)を順に加えた後、窒素バブリングを30分間おこなった。そこに、Pd(PPh
3)
4(3.10g、2.68mmol)を加えたのち、加熱還流させながら3時間撹拌を行った。室温に戻した後、蒸留水を加え、トルエンを用いて抽出を行った。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、中間体14(36.9g、収率82%)を得た。
(化合物D−3の合成)
【0135】
【化27】
【0136】
中間体13(13.7g、4.64mmol)、中間体14(12.3g、28.0mmol)、ジグリム(130mL)を順に加えた後、窒素バブリングを30分間おこなった。そこに、トリフルオロメタンスルホン酸銀(4.05g、15.8mmol)を加えた後、160℃にて2.5時間加熱しながら撹拌した。室温まで放冷後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、化合物D−3(1.78g、収率11%)を得た。
【0137】
<本発明化合物(D−4)の合成>
(中間体15の合成)
【0138】
【化28】
【0139】
2−アミノ−3,5−ジブロモベンゾニトリル(24.1g、87.3mmol)、2−ナフタレンボロン酸(30.8g、179mmol)、トルエン/エタノール混合溶液(2:1、350mL)、リン酸三カリウム水溶液(2.0M、255mL)を順に加えた後、窒素バブリングを30分間おこなった。そこに、Pd(PPh
3)
4(5.17g、4.47mmol)を加えたのち、加熱還流させながら6時間撹拌を行った。室温に戻した後、蒸留水を加え、トルエンを用いて抽出を行った。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、中間体15(32.0g、収率99%)を得た。なお、2−アミノ−3,5−ジブロモベンゾニトリルは、Eur.J.Org.Chem.,2010,6588−6599.に記載の方法を参考にして合成した。
(中間体17の合成)
【0140】
【化29】
【0141】
中間体15(31.0g、83.7mmol)、脱水ピリジン(100mL)を加え、氷浴で冷却しながら、3−ブロモベンゾイルクロリド(20.0g、91.1mmol)の脱水THF(15mL)溶液をゆっくりと滴下した。室温で5時間撹拌した。蒸留水を加え、塩化メチレンを用いて抽出を行った。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去し、残渣(中間体16)を得た。その残渣に脱水THF(350mL)を加え、2−ブロモ−m−キシレン(75.0g、0.41mol)とマグネシウム(10.1g)と脱水THF(100mL)から調製したグリニヤール試薬をゆっくりと滴下した。加熱還流させながら4.5時間撹拌を行った。室温に戻した後に、氷浴で冷却しながら、飽和塩化アンモニウム水溶液をゆっくり加えた。減圧下で溶媒を留去した後、塩化メチレンを加え、有機層を塩化アンモニウム水溶液にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をメタノールで洗浄後、酢酸エチル・エタノール混合溶媒で加熱懸濁洗浄を行い、中間体17(44.0g、収率82%)を得た。
(中間体19の合成)
【0142】
【化30】
【0143】
中間体17(44.0g、68.6mmol)、中間体18(21.5g、76.2mmol)、トルエン/エタノール混合溶液(2:1、320mL)、リン酸三カリウム水溶液(2.0M、90mL)を順に加えた後、窒素バブリングを30分間おこなった。そこに、Pd(PPh
3)
4(2.07g、1.79mmol)を加えたのち、加熱還流させながら3時間撹拌を行った。室温に戻した後、蒸留水を加え、トルエンを用いて抽出を行った。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、中間体19(53.1g、収率97%)を得た。
(化合物D−4の合成)
【0144】
【化31】
【0145】
窒素雰囲気下、中間体20(12.5g、10.3mmol)、中間体19(40.0g、50.1mmol)を加え、オイルバス220℃で加熱した。そこに、トリフルオロメタンスルホン酸銀(4.63g、18.0mmol)を加えた後、220℃にて1時間撹拌した。室温まで放冷後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、化合物D−4(1.10g、収率6%)を得た。なお、中間体20は、国際公開第2015/087961号に記載の方法を参考にして合成した。
【0146】
<発光量子収率の評価>
(実施例1)
本発明化合物であるイリジウム錯体化合物D−1を2−メチルテトラヒドロフラン(脱水、安定剤無添加)に溶解し、1×10
−5mol/Lの溶液を調製した。テフロン(登
録商標)コック付きの石英セルに移したのち、20分間窒素バブリングをおこない、発光量子収率を測定した。結果を表1に示す。なお、2−メチルテトラヒドロフラン(脱水、安定剤無添加)は、シグマアルドリッチ社製のものを使用した。
【0147】
<発光量子収率測定>
装置:浜松ホトニクス(株) 有機EL量子収率測定装置C9920−02
(光源:モノクロ光源L9799−01)
(検出器:マルチチャンネル検出器PMA−11)
励起光:380nm
(実施例2、実施例3、比較例1)
実施例1において、化合物D−1に代えて化合物D−2、化合物D−3または化合物D−5を用いたほかは実施例1と同様に2−メチルテトラヒドロフラン溶液を調製し、絶対量子収率測定を実施した。これらの測定結果について表1にまとめた。
【0148】
【化32】
【0149】
【表1】
【0150】
(実施例4、比較例2)
実施例1において、化合物D−1に代えて化合物D−4または化合物D−6を用いたほかは実施例1と同様に2−メチルテトラヒドロフラン溶液を調製し、絶対量子収率測定を実施した。これらの測定結果について表2にまとめた。
【0151】
【化33】
【0152】
【表2】
【0153】
表1および表2から明らかなように、本発明のイリジウム錯体化合物は高い発光量子収率で赤色に発光することがわかった。したがって、本発明のイリジウム錯体化合物は有機電界発光素子の発光材料として有用である。