(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転型レオメータを用いて角速度6.3rad/sで計測した−15℃と−25℃の2点間における複素粘度の温度勾配|Δη*|が2.0Pa・s/℃以下であり、APIカテゴリーでグループ3に分類される鉱油(A1)及びAPIカテゴリーでグループ2に分類される鉱油(A2)のみからなる鉱油(A)と、
酸化防止剤としてフェノール系化合物(B)及び酸化防止剤としてアミン系化合物(C)とを含有し、
前記鉱油(A1)のASTM D−3238環分析(n−d−M法)により測定した芳香族分(%CA)が0であり、前記鉱油(A2)の芳香族分(%CA)が2以下であり、
前記鉱油(A)の含有量が、真空ポンプ油の全量(100質量%)基準で、65質量%以上であり、
前記フェノール系化合物(B)の含有量が、前記真空ポンプ油の全量(100質量%)基準で、0.01〜10質量%であり、
前記アミン系化合物(C)の含有量が、前記真空ポンプ油の全量(100質量%)基準で、0.01〜10質量%であり、
粘度指数が160未満である、真空ポンプ油。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283に準拠して測定された値を意味する。
【0013】
〔真空ポンプ油〕
本発明の真空ポンプ油は、回転型レオメータを用いて角速度6.3rad/sで計測した−15℃と−25℃の2点間における複素粘度の温度勾配|Δη*|が10Pa・s/℃以下である鉱油(A)と、フェノール系化合物(B)及びアミン系化合物(C)から選ばれる1種以上の化合物とを含有する。
なお、本発明の一態様の真空ポンプ油は、本発明の効果を損なわない範囲で、基油として合成油を含有してもよく、さらに成分(B)及び(C)以外の汎用添加剤を含有してもよい。
【0014】
本発明の一態様の真空ポンプ油において、成分(A)、(B)及び(C)の合計含有量は、当該真空ポンプ油の全量(100質量%)基準で、好ましくは70〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%、更に好ましくは90〜100質量%、より更に好ましくは97〜100質量%である。
【0015】
また、本発明の真空ポンプ油は、粘度指数が160未満である。
一般的に、粘度指数向上剤を多く配合し、高粘度指数であり、VG46規格に適合した真空ポンプ油に調製される場合がある。高粘度指数の真空ポンプ油は、低温及び高温下での粘度特性は優れているものの、せん断安定性に問題がある。つまり、長期間の使用によって、粘度指数向上剤を構成する重合体成分がせん断され、それが真空ポンプ油の性能が低下し、真空ポンプの動作不良を引き起こす要因となる。
一方で、本発明の真空ポンプ油は、粘度指数が160未満とし、粘度指数向上剤として添加される重合体成分の含有量に制限を課している。また、本発明では、鉱油(A)を調製することで、VG46規格に適合した真空ポンプ油とすることが好ましく、数平均分子量(Mn)が2000以上の重合体成分(粘度指数向上剤)を含有せずに、鉱油(A)を調製することで、VG46規格に適合した真空ポンプ油とすることがより好ましい。
そのため、本発明の真空ポンプ油は、せん断安定性に優れており、長期間の使用によっても優れた性能を維持でき、真空ポンプの動作不良を抑制することができる。
【0016】
上記観点から、本発明の一態様の真空ポンプ油の粘度指数は、好ましくは155以下、より好ましくは150以下、更に好ましくは145以下である。
また、高温及び低温での粘度特性を良好とする観点から、本発明の一態様の真空ポンプ油の粘度指数は、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは100以上、より更に好ましくは110以上である。
【0017】
なお、本発明の一態様の真空ポンプ油において、粘度指数を上記範囲に調整し、せん断安定性に優れた真空ポンプ油とする観点から、数平均分子量(Mn)が2000以上の重合体成分の含有量は、当該真空ポンプ油の全量(100質量%)基準で、好ましくは3質量%未満、より好ましくは1.5質量%未満、更に好ましくは0.9質量%未満、より更に好ましくは0.5質量%未満である。
【0018】
本明細書において、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であり、測定条件としては、下記に示す条件が挙げられる。
(測定条件)
・ゲル浸透クロマトグラフ装置:アジレント社製、「1260型HPLC」
・標準試料:ポリスチレン
・カラム:Shodex社製「LF404」を2本、順次連結したもの。
・カラム温度:35℃
・展開溶媒:クロロホルム
・流速:0.3mL/min
【0019】
以下、本発明の真空ポンプ油に含まれる各成分の詳細について説明する。
<鉱油(A)>
本発明の真空ポンプ油に含まれる鉱油(A)は、下記要件(I)を満たすように調製されたものである。
・要件(I):回転型レオメータを用いて角速度6.3rad/sで計測した−15℃と−25℃の2点間における複素粘度の温度勾配|Δη*|(以下、「複素粘度の温度勾配|Δη*|」ともいう)が10Pa・s/℃以下である。
【0020】
本発明で用いる鉱油(A)は、1種の鉱油のみからなるものであってもよく、2種以上の鉱油からなる混合鉱油であってもよい。
なお、鉱油(A)が、2種以上の鉱油からなる混合鉱油である場合、当該混合鉱油が上記要件(I)を満たすことを要するが、当該混合鉱油を構成する各鉱油が上記要件(I)を満たすものであれば、「当該混合鉱油も上記要件(I)を満たす」とみなすこともできる。
【0021】
上記要件(I)で規定の「複素粘度の温度勾配|Δη*|」は、−15℃における複素粘度η*の値と、−25℃における複素粘度η*の値とを、それぞれ独立に、もしくは、−15℃から−25℃又は−25℃から−15℃まで温度を連続的に変化させながら測定し、当該値を温度−複素粘度の座標平面においた際、−15℃と−25℃の2点間における複素粘度の単位あたりの変化量(傾きの絶対値)を示す値である。より具体的には、下記計算式(f1)から算出される値を意味する。
・計算式(f1):複素粘度の温度勾配Δη*=|([−25℃における複素粘度η*]−[−15℃における複素粘度η*])/(−25−(−15))|
本明細書において、所定の温度における複素粘度η*は、上記の条件にて測定された値であり、具体的には、実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
【0022】
通常、鉱油に、フェノール系化合物(B)やアミン系化合物(C)を配合すると、抗乳化性の悪化を引き起こす。抗乳化性の悪化の度合いが大きい場合、得られる真空ポンプ油は、水分離性が劣るものとなり、例えば、食品加工用の真空ポンプのような、水の混入が想定される装置への適用が難しい。
抗乳化性の悪化は、フェノール系化合物やアミン系化合物等の添加剤の配合が原因となる。そのため、このような添加剤を配合しなければ、抗乳化性の悪化は生じず、水分離性が良好である真空ポンプ油を調製することは可能である。
しかしながら、このような添加剤を含まない真空ポンプ油は、特に酸化安定性に問題があり、高温下での長期間の使用には不向きなものとなってしまう。
【0023】
このような問題に対して、本発明者は、フェノール系化合物やアミン系化合物等の添加剤を配合した場合においても、添加剤の存在に起因する抗乳化性の悪化を抑制し得るような手段について検討を重ねた。
そして、本発明者は、真空ポンプ油の基油として、上記要件(I)を満たすように調製した鉱油(A)を用いることで、フェノール系化合物(B)やアミン系化合物(C)等の添加剤の配合による抗乳化性の悪化を効果的に抑制することができるとの知見を得た。本発明は、その知見に基づいてなされたものである。
【0024】
ところで、要件(I)で規定する「複素粘度の温度勾配|Δη*|」は、鉱油を構成する各種成分に関する様々な特性(例えば、分岐鎖のイソパラフィンと直鎖パラフィンの存在割合;芳香族分、硫黄分、窒素分、ナフテン分等の含有量;ワックスの含有量;鉱油の精製状態)のバランスを総合的に示した指標であるといえる。
【0025】
例えば、鉱油には、ワックス分が含まれているため、鉱油の温度を徐々に低下させていくと、鉱油中でワックス分が析出し、ゲル状構造を形成する。ワックス分には、パラフィンやナフテン等が含まれているが、これらの構造や含有量によって、ワックス分の析出速度に違いが生じる。
検討を重ねた結果、分岐鎖のイソパラフィンに比べて直鎖パラフィン(ノルマルパラフィン)を多く含むワックス分の析出速度は速く、複素粘度の温度勾配|Δη*|の値は大きくなる一方で、直鎖パラフィンに比べて分岐鎖のイソパラフィンを多く含むワックス分の析出速度は遅く、複素粘度の温度勾配|Δη*|の値は小さくなる、といった傾向があることが分かった。
つまり、複素粘度の温度勾配|Δη*|の値は、直鎖パラフィンと分岐鎖のイソパラフィンとの比率を示した指標であるともいえる。
【0026】
そして、本発明者は、用いる鉱油について、直鎖のノルマルパラフィンに比べて分岐鎖のイソパラフィンの割合が多いものほど、フェノール系化合物(B)やアミン系化合物(C)等の添加剤の配合による水分離性(抗乳化性)の悪化の抑制効果が高いとの知見を得た。
その理由としては、使用する鉱油中のイソパラフィンの割合が多くなると、フェノール系化合物(B)やアミン系化合物(C)等の添加剤を囲い込むようになり、界面活性剤と同様の機能を発揮するためと考えられる。
【0027】
また、要件(I)で規定する「複素粘度の温度勾配|Δη*|」の値が大きい鉱油ほど、当該鉱油中の芳香族分や硫黄分の含有量が多い傾向がある。
芳香族分や硫黄分の存在は、抗乳化性の悪化を引き起こす要因ともなる。また、長期間の使用に伴うスラッジの発生の要因となり易く、酸化安定性の低下も引き起こす。
【0028】
つまり、上記要件(I)で規定する鉱油の複素粘度の温度勾配|Δη*|の値は、対象となる鉱油中に添加剤を配合した場合に、水分離性(抗乳化性)の悪化の抑制効果や酸化安定性に影響を与え得る各種成分に関する特性が総合的に考慮された指標である。
そのため、本発明では、複素粘度の温度勾配|Δη*|を10Pa・℃以下に調製された鉱油(A)を用いることで、水分離性と酸化安定性をバランス良く向上させた真空ポンプ油とすることができる。
逆に、複素粘度の温度勾配|Δη*|を10Pa・℃を超える鉱油に、フェノール系化合物(B)やアミン系化合物(C)等の添加剤を配合すると抗乳化性は悪化し、得られる真空ポンプ油の水分離性が劣る。
【0029】
上記観点から、鉱油(A)の要件(I)で規定する複素粘度の温度勾配|Δη*|は、好ましくは8.0Pa・s/℃以下、より好ましくは5.0Pa・s/℃以下、更に好ましくは3.0Pa・s/℃以下、より更に好ましくは2.0Pa・s/℃以下、特に好ましくは1.5Pa・s/℃以下である。
また、鉱油(A)の要件(I)で規定する複素粘度の温度勾配|Δη*|は、好ましくは0.05Pa・s/℃以上、より好ましくは0.10Pa・s/℃以上、更に好ましくは0.15Pa・s/℃以上である。
【0030】
本発明の一態様で用いる鉱油(A)としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;当該常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化仕上げ、溶剤脱ろう、接触脱ろう、異性化脱ろう、減圧蒸留等の精製処理の一つ以上の処理を施した鉱油又はワックス(スラックワックス、GTLワックス等);等が挙げられる。
【0031】
本発明の一態様において、添加剤の配合による水分離性(抗乳化性)の悪化の抑制効果をより向上させる観点から、鉱油(A)としては、API(American Petroleum Institute)カテゴリーでグループ3に分類される鉱油(A1)や、グループ2に分類される鉱油(A2)を含むことが好ましい。
上記観点に加えて、VG46規格に適合する真空ポンプ油とすると共に、長期間の使用に伴い発生し得るスラッジの抑制効果の向上の観点から、鉱油(A)が、鉱油(A1)及び鉱油(A2)を共に含むことがより好ましい。
【0032】
鉱油(A)が、鉱油(A1)及び鉱油(A2)を共に含む場合、添加剤の配合による水分離性(抗乳化性)の悪化の抑制効果をより向上させる観点から、鉱油(A1)と鉱油(A2)との含有量比〔(A1)/(A2)〕は、質量比で、好ましくは50/50〜99/1、より好ましくは55/45〜99/1、更に好ましくは60/40〜98/2であり、酸化安定性をより向上させた真空ポンプ油とする観点から、更に好ましくは60/40〜90/10、より更に好ましくは60/40〜80/20である。
【0033】
また、本発明の一態様において、添加剤の配合による水分離性(抗乳化性)の悪化の抑制効果をより向上させる観点から、グループ2に分類される鉱油(A2)が、パラフィン系鉱油であることが好ましい。
鉱油(A2)の%C
Pは、通常50以上、好ましくは55以上、より好ましくは60以上、更に好ましくは65以上であり、また、好ましくは90以下、より好ましくは85以下、更に好ましくは80以下である。
【0034】
鉱油(A2)の%C
Nは、好ましくは10〜40、より好ましくは15〜35、更に好ましくは20〜32である。
鉱油(A2)の%C
Aは、好ましくは0〜10、より好ましくは0〜5、更に好ましくは0〜2、より更に好ましくは0〜1である。
なお、本明細書において、%C
P、%C
N及び%C
Aは、ASTM D 3238環分析(n−d−M法)に準拠して測定された値を意味する。
【0035】
本発明の一態様において、鉱油(A)の40℃における動粘度としては、好ましくは41.4〜50.6mm
2/s、より好ましくは42.0〜50.0mm
2/s、更に好ましくは43.0〜49.5mm
2/sである。
【0036】
本発明の一態様において、鉱油(A)の粘度指数としては、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは100以上、より更に好ましくは110以上であり、また、好ましくは160未満、より好ましくは155以下、更に好ましくは150以下、より更に好ましくは145以下である。
【0037】
また、本発明の一態様の真空ポンプ油において、鉱油(A)の含有量としては、当該真空ポンプ油の全量(100質量%)基準で、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上であり、また、好ましくは99.98質量%以下、より好ましくは99.90質量%以下、更に好ましくは99.00質量%以下である。
【0038】
<要件(I)を満たす鉱油(A)の調製例>
上記要件(I)を満たす鉱油(A)は、以下に示す事項を適宜考慮することで調製することができる。なお、以下の事項は、調製法の一例であって、これら以外の事項を考慮することによっても調製可能である。
【0039】
(1)鉱油(A)の原料である原料油の選択
鉱油(A)の原料である原料油としては、石油由来のワックス(スラックワックス等)を含む原料油、並びに、石油由来のワックス及びボトム油を含む原料油であることが好ましい。また、溶剤脱ろう油を含む原料油を用いてもよい。
なお、本発明の一態様の真空ポンプ油に含まれる鉱油(A)は、石油由来のワックスを含む原料油を精製して得られたものであることが好ましい。
【0040】
石油由来のワックス及びボトム油を含む原料油を用いる場合、当該原料油中のワックスとボトム油との含有量比〔ワックス/ボトム油〕としては、質量比で、好ましくは50/50〜99/1、より好ましくは60/40〜98/2、更に好ましくは70/30〜97/3、より更に好ましくは80/20〜95/5である。
なお、上記原料油中のボトム油の割合が多くなると、鉱油の要件(I)で規定する複素粘度の温度勾配|Δη*|の値が、上昇する傾向にある。
【0041】
ボトム油としては、原油を原料とした通常の燃料油の製造工程において、減圧蒸留装置から得られた重質燃料油を水素化分解して、ナフサ−軽油を製造する際に得られるボトム留分が挙げられ、芳香族分、硫黄分、及び窒素分の低減の観点から、重質燃料油を水素化分解して得られるボトム留分が好ましい。
【0042】
また、ワックスとしては、上記のボトム留分を溶剤脱ろうして分離されるワックスのほか、パラフィン系鉱油、中間基系鉱油、ナフテン系鉱油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を溶剤脱ろうして得られるワックス;当該常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油を溶剤脱ろうして得られるワックス;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化仕上げしたものを溶剤脱ろうして得られるワックス;フィッシャー・トロプッシュ合成により得られるGTLワックス等が挙げられる。
【0043】
一方、溶剤脱ろう油としては、上述のボトム留分等を溶剤脱ろうし、上記のワックスを分離除去した後の残油が挙げられる。また、溶剤脱ろう油は、溶剤脱ろうの精製処理が施されており、上述のボトム油とは異なるものである。
【0044】
溶剤脱ろうによりワックスを得る方法としては、例えば、ボトム留分をメチルエチルケトンとトルエンとの混合溶媒を混合し、低温領域下で撹拌しながら、析出物を取り除いて得る方法が好ましい。
なお、溶剤脱ろうにおける低温環境下の具体的な温度としては、一般的な溶剤脱ろうでの温度よりも低いことが好ましく、具体的には、−25℃以下であることが好ましく、−30℃以下であることがより好ましい。
【0045】
原料油の油分としては、好ましくは5〜55質量%、より好ましくは7〜45質量%、更に好ましくは10〜35質量%、より更に好ましくは15〜32質量%、特に好ましくは21〜30質量%である。
【0046】
(2)原料油の精製条件の設定
上記の原料油に対して、精製処理を施すことが好ましい。
精製処理としては、水素化異性化脱ろう処理及び水素化処理の少なくとも一方を含むことが好ましい。なお、使用する原料油の種類に応じて、精製処理の種類や精製条件は適宜設定されることが好ましい。
【0047】
より具体的には、使用する原料油の種類に応じて、以下のように精製処理を選択することが好ましい。
・石油由来のワックスとボトム油とを上述の含有量比で含む原料油(α)を用いる場合、当該原料油(α)に対して、水素化異性化脱ろう処理及び水素化処理の双方を含む精製処理を行うことが好ましい。
・溶剤脱ろう油を含む原料油(β)を用いる場合、当該原料油(β)に対して、水素化異性化脱ろう処理を行わず、水素化処理を含む精製処理を行うことが好ましい。
【0048】
上述の原料油(α)は、ボトム油を含むため、芳香族分、硫黄分、及び窒素分の含有量が多くなる傾向にある。
水素化異性化脱ろう処理によって、芳香族分、硫黄分、及び窒素分を除去し、これらの含有量の低減を図ることができる。
水素化異性化脱ろう処理は、鉱油に含まれるワックス中の直鎖パラフィンを分岐鎖のイソパラフィンへとすることで、要件(I)を満たす鉱油(A)に調製し易くなる。
【0049】
一方、上述の原料油(β)は、ワックスを含むものであるが、溶剤脱ろう処理によって、低温環境下で直鎖パラフィンを析出させ分離除去しているため、要件(I)で規定する複素粘度の値に影響を与える直鎖パラフィンの含有量が少ない。そのため、「水素化異性化脱ろう処理」を行う必要性は低い。
【0050】
(水素化異性化脱ろう処理)
水素化異性化脱ろう処理は、上述のとおり、原料油中に含まれる直鎖パラフィンを分岐鎖のイソパラフィンへとする異性化、芳香族分を開環させパラフィン分の変換、並びに硫黄分や窒素分等の不純物の除去等を目的に行われる精製処理である。特に、直鎖パラフィンの存在は、要件(I)で規定する複素粘度の温度勾配|Δη*|の値を大きくする要因の一つとなるため、本処理では、直鎖パラフィンを分岐鎖のイソパラフィンへと異性化をし、複素粘度の温度勾配|Δη*|の値を低く調整している。
【0051】
水素化異性化脱ろう処理は、水素化異性化脱ろう触媒の存在下で行われることが好ましい。
水素化異性化脱ろう触媒としては、例えば、シリカアルミノフォスフェート(SAPO)やゼオライト等の担体に、ニッケル(Ni)/タングステン(W)、ニッケル(Ni)/モリブデン(Mo)、コバルト(Co)/モリブデン(Mo)等の金属酸化物や、白金(Pt)や鉛(Pd)等の貴金属を担持した触媒が挙げられる。
【0052】
水素化異性化脱ろう処理における水素分圧としては、好ましくは2.0〜220MPa、より好ましくは10〜100MPa、更に好ましくは10〜50MPa、より更に好ましくは10〜25MPaである。
【0053】
水素化異性化脱ろう処理における反応温度としては、一般的な水素化異性化脱ろう処理での反応温度よりも高めに設定されることが好ましく、具体的には、好ましくは270〜480℃、より好ましくは280〜420℃、更に好ましくは290〜400℃、より更に好ましくは300〜370℃である。
当該反応温度が高温であることで、原料油中に存在する直鎖パラフィンを分岐鎖のイソパラフィンへ異性化を促進させることができ、要件(I)を満たす鉱油(A)の調製が容易となる。
【0054】
また、水素化異性化脱ろう処理における液時空間速度(LHSV)としては、好ましくは5.0hr
−1以下、より好ましくは2.0hr
−1以下、更に好ましくは1.5hr
−1以下、より更に好ましくは1.0hr
−1以下である。
また、生産性の向上の観点から、水素化異性化脱ろう処理におけるLHSVは、好ましくは0.1hr
−1以上、より好ましくは0.2hr
−1以上である。
【0055】
水素化異性化脱ろう処理における水素ガスの供給割合としては、供給する原料油1キロリットルに対して、好ましくは100〜1000Nm
3、より好ましくは300〜800Nm
3、更に好ましくは300〜650Nm
3である。
なお、水素化異性化脱ろう処理を行った生成油に対して、軽質留分を除去するために、減圧蒸留を施してもよい。
【0056】
(水素化処理)
水素化処理は、原料油中に含まれる芳香族分の完全飽和化、及び、硫黄分や窒素分等の不純物の除去等を目的に行われる精製処理である。
水素化処理は、水素化触媒の存在下で行われることが好ましい。
水素化触媒としては、例えば、シリカ/アルミナ、アルミナ等の非晶質やゼオライト等の結晶質担体に、ニッケル(Ni)/タングステン(W)、ニッケル(Ni)/モリブデン(Mo)、コバルト(Co)/モリブデン(Mo)等の金属酸化物や、白金(Pt)や鉛(Pd)等の貴金属を担持した触媒が挙げられる。
【0057】
水素化処理における水素分圧としては、一般的な水素化処理での圧力よりも高めに設定されることが好ましく、具体的には、好ましくは16MPa以上、より好ましくは17MPa以上、更に好ましくは20MPa以上であり、また、好ましくは30MPa以下、より好ましくは22MPa以下である。
【0058】
水素化処理における反応温度としては、好ましくは200〜400℃、より好ましくは250〜350℃、更に好ましくは280〜330℃である。
【0059】
水素化処理における液時空間速度(LHSV)としては、好ましくは5.0hr
−1以下、より好ましくは2.0hr
−1以下、更に好ましくは1.0hr
−1以下であり、また、生産性の観点から、好ましくは0.1hr
−1以上、より好ましくは0.2hr
−1以上、更に好ましくは0.3hr
−1以上である。
【0060】
水素化処理における水素ガスの供給割合としては、供給する工程(3)で得た生成油1キロリットルに対して、好ましくは100〜1000Nm
3、より好ましくは200〜800Nm
3、更に好ましくは250〜650Nm
3である。
【0061】
なお、水素化処理を行った生成油に対して、軽質留分を除去するために、減圧蒸留を施してもよい。減圧蒸留の諸条件(圧力、温度、時間等)としては、鉱油(A)の40℃における動粘度が所望の範囲内となるように、適宜調整される。
【0062】
<合成油>
本発明の一態様の真空ポンプ油は、本発明の効果を損なわない範囲で、基油として、鉱油(A)と共に、合成油を含有してもよい。
合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン(PAO)、エステル系化合物、エーテル系化合物、ポリグリコール、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられる。
なお、合成油の含有量は、真空ポンプ油に含まれる鉱油(A)100質量部に対して、好ましくは0〜30質量部、より好ましくは0〜20質量部、更に好ましくは0〜10質量部、より更に好ましくは0〜5質量部である。
【0063】
<フェノール系化合物(B)>
本発明で用いるフェノール系化合物(B)としては、フェノール構造を有する化合物であればよく、単環フェノール系化合物であってもよく、多環フェノール系化合物であってもよい。
なお、本発明の一態様において、成分(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
単環フェノール系化合物としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、2,6−ジ−t−アミル−4−メチルフェノール、ベンゼンプロパン酸3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。
【0065】
多環フェノール系化合物としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0066】
本発明の一態様の真空ポンプ油において、フェノール系化合物(B)としては、一分子中に下記式(b−1)で表される構造を少なくとも一つ有するヒンダードフェノール化合物が好ましく、ベンゼンプロパン酸3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシアルキルエステルがより好ましい。
【化1】
(上記式(b−1)中、*は結合位置を示す。)
【0067】
本発明の一態様において、到達真空度が高い真空ポンプ油とする観点から、フェノール系化合物(B)の分子量は、好ましくは100〜1000、より好ましくは150〜900、更に好ましくは200〜800、より更に好ましくは250〜700である。
【0068】
<アミン系化合物(C)>
本発明の一態様で用いるアミン系化合物(C)は、より酸化安定性を向上させた真空ポンプ油とする観点から、芳香族アミン化合物であることが好ましく、ジフェニルアミン化合物及びナフチルアミン系化合物から選ばれる1種以上であることがより好ましい。
なお、本発明の一態様において、成分(C)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
ジフェニルアミン系化合物としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン等の炭素数1〜30(好ましくは4〜30、より好ましくは8〜30)のアルキル基を1つ有するモノアルキルジフェニルアミン系化合物;4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミン等の炭素数1〜30(好ましくは4〜30、より好ましくは8〜30)のアルキル基を2つ有するジアルキルジフェニルアミン化合物;テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン等の炭素数1〜30(好ましくは4〜30、より好ましくは8〜30)のアルキル基を3つ以上有するポリアルキルジフェニルアミン系化合物;4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等が挙げられる。
【0070】
ナフチルアミン系化合物としては、例えば、1−ナフチルアミン、フェニル−1−ナフチルアミン、ブチルフェニル−1−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−1−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−1−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−1−ナフチルアミン、オクチルフェニル−1−ナフチルアミン、ノニルフェニル−1−ナフチルアミン、デシルフェニル−1−ナフチルアミン、ドデシルフェニル−1−ナフチルアミン等が挙げられる。
【0071】
本発明の一態様の真空ポンプ油において、アミノ系化合物(C)としては、ジフェニルアミン系化合物が好ましく、炭素数1〜30(好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10)のアルキル基を2つ有するジアルキルジフェニルアミン化合物がより好ましい。
【0072】
本発明の一態様において、到達真空度が高い真空ポンプ油とする観点から、アミン系化合物(B)の分子量は、好ましくは100〜1000、より好ましくは150〜900、更に好ましくは200〜800、より更に好ましくは250〜700である。
【0073】
<成分(B)及び(C)の含有量>
本発明の真空ポンプ油は、フェノール系化合物(B)及びアミン系化合物(C)から選ばれる1種以上の化合物を含有するが、より酸化安定性を向上させる真空ポンプ油とする観点から、少なくともフェノール系化合物(B)を含有することが好ましく、フェノール系化合物(B)及びアミン系化合物(C)を共に含有することがより好ましい。
【0074】
本発明の一態様の真空ポンプ油において、成分(B)の含有量は、水分離性及び酸化安定性をバランス良く向上させた真空ポンプ油とする観点から、前記真空ポンプ油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.03〜5質量%、更に好ましくは0.05〜2質量%、より更に好ましくは0.07〜1質量%である。
【0075】
本発明の一態様の真空ポンプ油において、成分(C)の含有量は、水分離性及び酸化安定性をバランス良く向上させた真空ポンプ油とする観点から、前記真空ポンプ油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.05〜5質量%、更に好ましくは0.07〜2質量%、より更に好ましくは0.10〜1質量%である。
【0076】
また、本発明の一態様の真空ポンプ油において、より酸化安定性を向上させた真空ポンプ油とする観点から、成分(B)と成分(C)との含有量比〔(B)/(C)〕は、質量比で、好ましくは1/4〜6/1、より好ましくは1/3〜5/1、更に好ましくは1/2〜4/1、より更に好ましくは1/1〜3/1である。
【0077】
本発明の一態様の真空ポンプ油において、成分(B)及び(C)の合計含有量は、水分離性及び酸化安定性をバランス良く向上させた真空ポンプ油とする観点から、前記真空ポンプ油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.02〜15質量%、より好ましくは0.05〜10質量%、更に好ましくは0.10〜5質量%、より更に好ましくは0.15〜2質量%である。
【0078】
<汎用添加剤>
本発明の一態様の真空ポンプ油は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、更に成分(B)及び(C)以外の汎用添加剤を含有してもよい。
このような汎用添加剤としては、例えば、成分(B)及び(C)以外の酸化防止剤、金属不活性化剤、消泡剤等が挙げられる。
これらの汎用添加剤は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、これらのそれぞれの汎用添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、汎用添加剤の種類に応じて、適宜調整することができる。
【0079】
なお、本発明の一態様の真空ポンプ油において、汎用添加剤の合計含有量は、当該真空ポンプ油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、更に好ましくは0〜10質量%、より更に好ましくは0〜3質量%である。
【0080】
〔真空ポンプ油の各種性状〕
本発明の一態様の真空ポンプ油は、ISO 3448で規定の粘度グレードのVG46規格に適合するものであることが好ましい。
本発明の一態様の真空ポンプ油の40℃における動粘度は、具体的には、好ましくは41.4〜50.6mm
2/s、より好ましくは42.0〜50.0mm
2/s、更に好ましくは43.0〜49.5mm
2/sである。
【0081】
本発明の一態様の真空ポンプ油において、硫黄原子の含有量は、長期間の使用に伴うスラッジの生成を抑制し、酸化安定性に優れる真空ポンプ油とする観点から、当該真空ポンプ油の全量(100質量%)基準で、好ましくは200質量ppm未満、より好ましくは100質量ppm未満、更に好ましくは50質量ppm未満、より更に好ましくは10質量ppm未満である。
なお、本明細書において、硫黄原子の含有量は、JIS K2541−6に準拠して測定された値を意味する。
【0082】
本発明の一態様の真空ポンプ油のRPVOT値としては、好ましくは200分以上、より好ましくは220分以上、更に好ましくは240分以上である。
なお、本明細書において、真空ポンプ油のRPVOT値は、JIS K2514−3の回転ボンベ式酸化安定度試験(RPVOT)に準拠し、後述の実施例に記載の条件下で測定した値を意味する。
【0083】
本発明の一態様の真空ポンプ油に対して、JIS K2520に準拠し、温度54℃のおける水分離性試験を行った際、乳化層が3mLに到達するまでの時間を表す抗乳化度としては、好ましくは20分未満、より好ましくは15分以下、更に好ましくは10分以下、より更に好ましくは5分以下である。
【0084】
本発明の一態様の真空ポンプ油のJIS B8316に準拠して測定した到達真空度としては、好ましくは0.6Pa未満、より好ましくは0.5Pa未満、更に好ましくは0.4Pa未満である。
【0085】
〔真空ポンプ油の用途〕
本発明の真空ポンプ油は、到達真空度が良好であると共に、水分離性、酸化安定性、及びせん断安定性に優れる。そのため、本発明の真空ポンプ油は、このような特性をバランス良く向上させることができるために、様々な用途に適用し得る。
真空ポンプ油の用途としては、特に限定されないが、例えば、半導体、太陽電池、航空機、自動車、真空パック加工やレトルト加工等を伴う食品等の製造の際に用いられる真空ポンプの潤滑油として好適である。
なお、真空ポンプ油としては、特に限定されないが、例えば、油回転真空ポンプ、メカニカルブースタポンプ、ドライポンプ、ダイヤフラム真空ポンプ、ターボ分子ポンプ、エジェクタ(真空)ポンプ、油拡散ポンプ、ソープションポンプ、チタンサプリメーションポンプ、スパッタイオンポンプ、クライオポンプ、揺動ピストン型ドライ真空ポンプ、回転翼型ドライ真空ポンプ、スクロール型ドライ真空ポンプ等が挙げられる。
【0086】
つまり、本発明は、下記(1)の真空ポンプ、及び、下記(2)真空ポンプ油の使用方法も提供し得る。
(1)回転型レオメータを用いて角速度6.3rad/sで計測した−15℃と−25℃の2点間における複素粘度の温度勾配|Δη*|が10Pa・s/℃以下である鉱油(A)と、
フェノール系化合物(B)及びアミン系化合物(C)から選ばれる1種以上の化合物とを含有し、
粘度指数が160未満である、真空ポンプ油を用いた、半導体、太陽電池、航空機、自動車、又は食品の製造用の真空ポンプ。
(2)回転型レオメータを用いて角速度6.3rad/sで計測した−15℃と−25℃の2点間における複素粘度の温度勾配|Δη*|が10Pa・s/℃以下である鉱油(A)と、
フェノール系化合物(B)及びアミン系化合物(C)から選ばれる1種以上の化合物とを含有し、
粘度指数が160未満である、真空ポンプ油を、
半導体、太陽電池、航空機、自動車、又は食品の製造用の真空ポンプに使用する、真空ポンプ油の使用方法。
【0087】
〔真空ポンプ油の製造方法〕
本発明の真空ポンプ油の製造方法としては、前記要件(I)を満たす鉱油(A)に、フェノール系化合物(B)及びアミン系化合物(C)から選ばれる1種以上の化合物を配合する工程を有する方法が挙げられる。
この際、必要に応じて、上述の汎用添加剤を配合してもよい。
なお、上記成分(A)〜(C)の好適な化合物、物性値、配合量、並びに、得られる真空ポンプ油の各種性状等は、上述の記載のとおりである。
【実施例】
【0088】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各種物性の測定法又は評価法は、下記のとおりである。
【0089】
<基油又は真空ポンプ油の性状>
(1)40℃及び100℃における動粘度
JIS K2283に準拠して測定した。
(2)粘度指数
JIS K2283に準拠して測定した。
【0090】
<基油の性状>
(3)芳香族分(%C
A)、パラフィン分(%C
P)、ナフテン分(%C
N)
ASTM D−3238環分析(n−d−M法)により測定した。
(4)−15℃及び−25℃における複素粘度η*
Anton Paar社製レオメータ「Physica MCR 301」を用いて、以下の手順で測定した。
まず、−15℃及び−25℃のいずれかの測定温度に調整したコーンプレート(直径50mm、傾斜角1°)に、測定対象の試料油を挿入し、同じ温度で10分間保持した。なお、この際、挿入した溶液に歪みを与えないように留意した。
そして、所定の測定温度にて、角速度6.3rad/s、−15℃での測定では歪み量を「1.17%」とし、−25℃での測定では歪み量を「0.36%」とし、振動モードで、各測定温度における複素粘度η*を測定した。
そして、−15℃及び−25℃における複素粘度η*の値から、前記計算式(f1)から、「複素粘度の温度勾配|Δη*|」を算出した。
【0091】
<真空ポンプ油の性状>
(5)硫黄原子の含有量
JIS K2541−6に準拠して測定した。
【0092】
<真空ポンプ油の特性>
(6)RPVOT値
JIS K 2514−3の回転ボンベ式酸化安定度試験(RPVOT)に準拠し、試験温度150℃、初期圧力620kPaで行い、圧力が最高圧力から175kPa低下するまでの時間(RPVOT値)を測定した。当該時間が長いほど、酸化安定性に優れた真空ポンプ油であるといえる。
(7)抗乳化度
JIS K2520に準拠し、温度54℃における水分離性試験を行った。表1中には、「油層の体積(ml)」、「水層の体積(ml)」、「乳化層の体積(ml)」、「経過時間(分)」の順で記載した。
(8)到達真空度
JIS B8316に準拠して測定した。具体的には、油回転式真空ポンプのコンプレッサー部分に、真空ポンプ油を充填した後、真空度ポンプを始動させ、1時間後の吸入口における真空度を「到達真空度」とした。
【0093】
<真空ポンプ油に対する各種試験>
(9)せん断安定性試験
超音波B法(JPI−5S−29)に基づき、超音波照射時間30分、室温(25℃)、油量30mlの測定条件で行った。せん断安定試験の超音波の出力電圧は、標準油30mlに超音波を10分間照射した後、40℃の動粘度低下率が15%となる出力電圧とした。
せん断安定性試験前後の40℃及び100℃の動粘度、並びに粘度指数を測定し、下記式により、それぞれの温度における動粘度低下率を算出した。
式:せん断安定性(%)=([試験前の動粘度]−[試験後の動粘度]/[試験前の動粘度])×100
動粘度低下率の値が低いほど、せん断安定性に優れた真空ポンプ油であるといえる。なお、40℃及び100℃の動粘度、粘度指数は、JIS K2283に準拠して測定した。
【0094】
(10)インディアナ酸化試験(IOT)
試料容器に、真空ポンプ油である試料油を300ml、並びに、触媒である鉄触媒及び銅触媒を加え、空気吹き込み管によって空気を10L/hで吹き込みながら、150℃にて24時間加熱して、インディアナ酸化試験を行った。
試験後の試料油の40℃の動粘度、酸価上昇値、RPVOT値、及びミリポア値を下記に示す方法により測定した。
・「40℃の動粘度」:JIS K2283の準拠して測定した。
・「酸価増加量」:試験前後の試料油の酸価を、JIS K2501(指示薬法)に準拠して測定し、その差を算出した。
・「RPVOT値」:JIS K2514−3の回転ボンベ式酸化安定度試験(RPVOT)に準拠し、試験温度150℃、初期圧力620kPaで行い、圧力が最高圧力から175kPa低下するまでの時間(RPVOT値)を測定した。
・「ミリポア値」:SAE−ARP−785−63に準拠し、上記試験後の試験油300ml中の析出物をろ過採取し、その質量から、試料油100mlあたりの析出物の試料を「ミリポア値」として算出した。
【0095】
実施例1〜2、比較例1〜5
表1に示す種類及び配合量の基油と共に、表1に示す各種添加剤を配合して、真空ポンプ油をそれぞれ調製した。
なお、使用した基油、及び各種添加剤の詳細は以下のとおりである。
【0096】
<基油>
・鉱油(1):
スラックワックスと、重質燃料油を水素化分解して得られたボトム油とを含み、1860ニュートラル以上の留分油である原料油を、水素化異性化脱ろう処理を施した後に、水素化仕上げ処理を施し得られた、APIカテゴリーでグループ2に分類されるパラフィン系鉱油。なお、減圧留分のボトム留分を水素化脱硫した後に、水素化異性化脱ろう処理をした。40℃動粘度=408.8mm
2/s、粘度指数=107、%C
A=0、%C
P=70.0、%C
N=30.0。
なお、水素化異性化脱ろう処理の条件は以下のとおりである。
・水素ガスの供給割合:供給する原料油1キロリットルに対して、250Nm
3以上300Nm
3未満。
・水素分圧:3MPa以上10MPa未満。
・液時空間速度(LHSV):0.5〜1.0hr
−1。
・反応温度:300〜350℃である。
【0097】
・鉱油(2):
スラックワックスと、重質燃料油を水素化分解して得られたボトム油とを含み、340ニュートラル以上の留分油である原料油を、水素化異性化脱ろう処理を施した後に、水素化仕上げ処理を施し得られた、APIカテゴリーでグループ2に分類されるパラフィン系鉱油。40℃動粘度=75.2mm
2/s、粘度指数=98、%C
A=5.3、%C
P=66.8、%C
N=27.9。
なお、水素化異性化脱ろう処理の条件は以下のとおりである。
・水素ガスの供給割合:供給する原料油1キロリットルに対して、250Nm
3以上300Nm
3未満。
・水素分圧:3MPa以上10MPa未満。
・液時空間速度(LHSV):0.5〜1.0hr
−1。
・反応温度:300〜350℃。
【0098】
・鉱油(3):
スラックワックスと、重質燃料油を水素化分解して得られたボトム油とを含み、160ニュートラル以上の留分油である原料油を、水素化異性化脱ろう処理を施した後に、水素化仕上げ処理を施し得られた、APIカテゴリーでグループ2に分類されるパラフィン系鉱油。40℃動粘度=34.96mm
2/s、粘度指数=119、%C
A=0、%C
P=74.5%、%C
N=25.5。
なお、水素化異性化脱ろう処理の条件は以下のとおりである。
・水素ガスの供給割合:供給する原料油1キロリットルに対して、250Nm
3以上300Nm
3未満。
・水素分圧:3MPa以上10MPa未満。
・液時空間速度(LHSV):0.5〜1.0hr
−1。
・反応温度:300〜350℃。
【0099】
・鉱油(4):
スラックワックスと、重質燃料油を水素化分解して得られたボトム油とを含み、200ニュートラル以上の留分油である原料油を、水素化異性化脱ろう処理を施した後に、水素化仕上げ処理を施し得られた、APIカテゴリーでグループ3に分類される鉱油。40℃動粘度=43.75mm
2/s、粘度指数=143、%C
A=0、%C
P=94.7、%C
N=6.3。
なお、水素化異性化脱ろう処理の条件は以下のとおりである。
・水素ガスの供給割合:供給する原料油1キロリットルに対して、300〜400Nm
3。
・水素分圧:10〜15MPa。
・液時空間速度(LHSV):0.5〜1.0hr
−1。
・反応温度:300〜350℃。
【0100】
・鉱油(5):
スラックワックスと、重質燃料油を水素化分解して得られたボトム油とを含み、85ニュートラル以上の留分油である原料油を、水素化異性化脱ろう処理を施した後に、水素化仕上げ処理を施し得られた、APIカテゴリーでグループ3に分類される鉱油。40℃動粘度=18.71mm
2/s、粘度指数=126、%C
A=0、%C
P=93.4、%C
N=6.8。
なお、水素化異性化脱ろう処理の条件は以下のとおりである。
・水素ガスの供給割合:供給する原料油1キロリットルに対して、300〜400Nm
3。
・水素分圧:10〜15MPa。
・液時空間速度(LHSV):0.5〜1.0hr
−1。
・反応温度:300〜350℃。
【0101】
<各種添加剤>
・フェノール系化合物:ベンゼンプロパン酸3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシアルキルエステル
・アミン系化合物:4,4’−ジオクチルジフェニルアミン。
・金属不活性化剤:2−(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
・重合体成分:Mn=32万のポリイソブテンを150N鉱油で希釈した、樹脂分4.9質量%の粘度指数向上剤。
【0102】
【表1】
【0103】
実施例1〜2で調製した真空ポンプ油は、VG46規格に適合するものであって、到達真空度を高く維持しつつ、水分離性、酸化安定性、及びせん断安定性に優れた結果となった。
一方、比較例1〜2の真空ポンプ油は、フェノール系化合物及びアミン系化合物の双方とも含有していないため、実施例の真空ポンプ油に比べて、RPVOT値が低く、インディアナ酸化試験後の酸価増加量が大きく劣化が確認され、酸化安定性が劣る結果となった。
また、比較例3〜4の真空ポンプ油は、−15℃と−25℃の2点間における複素粘度の温度勾配の値が高い鉱油を用いたため、実施例の真空ポンプ油に比べて、到達真空度が低く、また、フェノール系化合物等の添加剤を配合したことによる抗乳化度の低下を抑制できず、水分離性も劣る結果となった。
さらに、比較例5の真空ポンプ油は、VG46規格に適合させるために一定量の重合体成分を添加したものであるが、せん断安定性が劣ると共に、水分離性も劣る結果となった。