(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
油脂として少なくとも炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを含むテンパリングタイプのチョコレートの原料であって、該2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの前記チョコレート原料中での存在状態が混晶ないしは非安定型である該チョコレート原料と、前記テンパリングタイプのチョコレートに配合することによってブルームを抑制するためのブルーム抑制用の油脂含有組成物とを含有するチョコレートであって、
前記ブルーム抑制用の油脂含有組成物は、油脂として少なくとも炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを含み、該2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの前記ブルーム抑制用の油脂含有組成物中での存在状態が、全油脂成分に対する質量割合にして1〜70質量%が共晶かつ安定型であり、2〜70質量%が混晶ないしは非安定型であり、
前記チョコレートは40℃で耐ブルーム性を有するものであることを特徴とするチョコレート。
前記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの前記チョコレート中での存在状態が、全油脂成分に対する質量割合にして0.1〜15質量%が共晶かつ安定型であり、0.1〜35質量%が混晶ないしは非安定型である請求項1記載のチョコレート。
炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20未満の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを全油脂成分に対する質量割合にして0.1〜90質量%含む請求項3記載の油脂含有組成物。
請求項3又は4に記載の油脂含有組成物を、前記炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの共晶かつ安定型の状態が保たれる条件で、油脂として少なくとも炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを含むテンパリングタイプのチョコレートの原料であって、該2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの前記チョコレート原料中での存在状態が混晶ないしは非安定型である該チョコレート原料に添加し、混合することを特徴とするチョコレートの製造方法。
油脂として少なくとも炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを含むブルーム抑制用の油脂含有組成物であって、該2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの前記ブルーム抑制用の油脂含有組成物中での存在状態が、全油脂成分に対する質量割合にして1〜70質量%が共晶かつ安定型であり、2〜70質量%が混晶ないしは非安定型である、該ブルーム抑制用の油脂含有組成物を、前記炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの共晶かつ安定型の状態が保たれる条件で、油脂として少なくとも炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを含むテンパリングタイプのチョコレートの原料であって、該2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの前記チョコレート原料中での存在状態が混晶ないしは非安定型である該チョコレート原料に添加し、混合することを特徴とするチョコレートの製造方法。
前記ブルーム抑制用の油脂含有組成物は、炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20未満の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを全油脂成分に対する質量割合にして0.1〜90質量%含むものである請求項記6載のチョコレートの製造方法。
【背景技術】
【0002】
チョコレートにおいては、いわゆるファットブルーム現象によって、時間経過により表面に白い模様が浮き出たり、融点を上昇させて口どけが悪くなったりして、商品価値を低下させるという問題があった。その主な原因は、チョコレートに含まれるカカオ由来油脂の結晶構造のうちβ型が粗大結晶化することとされ、それに伴う相分離による組織変化が、外観及び食感を低下させると考えられている。ファットブルームを回避するためには、加温して流動化させたチョコレートの生地を固化する過程で調温する、いわゆるテンパリングにより、チョコレートに含まれる油脂の結晶構造を安定化する技術が一般的である。しかしながら、テンパリングの作業には経験や手間を要し、その作業を省略あるいは簡易化する技術が望まれていた。
【0003】
このような問題に関連して、例えば、下記特許文献1には、炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの安定結晶型粒子を融解することなくチョコレート配合物に添加混合することにより、チョコレートのブルームの発生を抑制することが記載されている。
【0004】
また、例えば、下記特許文献2には、炭素原子数20〜24の構成飽和脂肪酸を含むSUS型グリセリドと、炭素原子数20以上の構成飽和脂肪酸を含まないSSU型および/またはSUS型のグリセリドとが共晶で存在し、前者の結晶が安定型であるショートニングを、その炭素原子数20〜24の構成飽和脂肪酸を含むSUSグリセリドの安定型結晶を実質的に保持した状態でチョコレート配合物に添加混合することにより、チョコレートのブルームの発生を抑制することが記載されている。
【0005】
また、例えば、下記特許文献3には、炭素数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素数20−24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを予め含有する溶融したチョコレート類生地に、炭素数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素数20−24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの安定化結晶を油脂の主成分とする粉末状のチョコレート添加剤を添加することにより、チョコレートのブルームの発生を抑制することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の方法では、ブルーム抑制の効果が十分とはいえない場合があった。そこで本発明の目的は、耐ブルーム性に優れたチョコレートを得るための新たな手法を提供することにある。また、そのための油脂含有組成物及びチョコレートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1は、テンパリングタイプのチョコレートの原料とブルームを抑制する効果のある油脂とを含有し、37℃を超えた温度で耐ブルーム性を有することを特徴とするチョコレートを提供するものである。
【0009】
本発明のチョコレートによれば、カカオ脂等を配合することができて風味がよく、なお且つ、従来実現できなかった高温域での耐ブルーム性を備えたチョコレートを提供することができる。
【0010】
本発明のチョコレートにおいては、前記ブルームを抑制する効果のある油脂が炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドであり、該油脂の前記チョコレート中での存在状態が、全油脂成分に対する質量割合にして0.1〜15質量%が共晶かつ安定型であり、0.1〜35質量%が混晶ないしは非安定型であることが好ましい。
【0011】
一方、本発明の第2は、テンパリングタイプのチョコレートの生地に配合することによってブルームを抑制するためのブルーム抑制用の油脂含有組成物であって、油脂として少なくとも炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを含み、該油脂の前記組成物中での存在状態が、全油脂成分に対する質量割合にして1〜70質量%が共晶かつ安定型であり、1〜70質量%が混晶ないしは非安定型であることを特徴とする油脂含有組成物を提供するものである。
【0012】
本発明の油脂含有組成物によれば、これをテンパリングタイプのチョコレートの生地に配合することによって、カカオ脂等を配合することができて風味がよく、なお且つ、高温域での耐ブルーム性に優れたチョコレートを提供することができる。
【0013】
本発明の油脂含有組成物においては、炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20未満の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを全油脂成分に対する質量割合にして0.1〜90質量%含むことが好ましい。これによれば、高温域での耐ブルーム性に更に優れたチョコレートを提供することができる。
【0014】
また、賦形剤を0.1〜70質量%含み、微細化処理されたものであることが好ましい。これによれば、その賦形剤により油脂含有組成物を微細化しやすいと共に、その微細化処理により、高温域での耐ブルーム性をより効果的に付与することができる。また、口どけがより良好なチョコレートを提供することができる。
【0015】
他方、本発明の第3は、上記の油脂含有組成物を、その炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの共晶かつ安定型の状態が保たれる条件で、テンパリングタイプのチョコレートの生地に添加し、混合することを特徴とするチョコレートの製造方法を提供するものである。
【0016】
本発明のチョコレートの製造方法によれば、カカオ脂等を配合することができて風味がよく、なお且つ、高温域での耐ブルーム性に優れたチョコレートを提供することができる。
【0017】
本発明のチョコレートの製造方法においては、前記生地には、予め更に炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドが含まれていることが好ましい。これによれば、高温域での耐ブルーム性に更に優れたチョコレートを提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
カカオ脂等を配合することができて風味がよく、なお且つ、従来実現できなかった高温域での耐ブルーム性を備えたチョコレートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において「チョコレート」は、規約や法規上の規定によって限定されるものではなく、カカオマス、ココア、ココアバター、ココアバター代用脂等を使用した油脂加工食品全般を意味するものとする。
【0020】
本明細書において「ブルーム」は、チョコレートが部分的又は全体的に淡色化することであり、視覚で認識できる程度のものをいう。
【0021】
本明細書において「テンパリングタイプ」は、加温してシードとなる結晶が実質的に存在しない状態からテンパリング(調温)の処理を行なわないで固化させたときにブルームが生じるタイプのチョコレートの原料・生地をいう。
【0022】
本発明は、テンパリングの処理を施さなければならないテンパリングタイプのチョコレートの原料・生地に、ブルームを抑制する効果のある油脂を配合することにより、耐ブルーム性が奏されるようにした、チョコレートを提供するものである。そして、そのチョコレートが特に37℃を超えた温度で耐ブルーム性を有する点に特徴がある。また、後述するブルーム抑制用の油脂含有組成物を使用している点に特徴がある。
【0023】
本明細書における「耐ブルーム性」は、例えば次のようにして評価することができる。すなわち、チョコレートを、その油脂が形成している安定結晶が溶解する温度前後の所定温度、あるいはそれ以上の所定温度、例えば30〜45℃に、所定時間、例えば0.5〜10時間静置後、チョコレートの油脂が結晶を形成し得る温度前後の所定温度、例えば15〜25℃に保存し、所定期間、例えば1〜4週間後にブルームの発生の有無を目視、あるいは顕微鏡により観察することで、評価することができる。特に、本明細書における「37℃を超えた温度で耐ブルーム性を有する」とは、上記評価方法における所定温度を、例えば40℃に設定し(あるいは場合によっては37℃超40度未満の所定温度、もしくは40℃超の所定温度に設定し)、その所定温度に2時間静置後20℃に保存し、2週間後にブルームの発生の有無を目視、あるいは顕微鏡により観察した結果、ブルームが発生しないことを意味する。
【0024】
(油脂含有組成物)
以下には、本発明に用いられるブルーム抑制用の油脂含有組成物について説明する。
【0025】
本発明に用いられるブルーム抑制用の油脂含有組成物は、油脂として少なくとも炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを含む。この2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドは、例えば、特開平7−123922号公報、特開平9−103244号公報、特開2007−259737号公報等に開示されている、酵素活性を利用した位置選択的エステル交換法によって調製することができる。より具体的には、高オレイン酸ヒマワリ油等、グリセリドの2位に不飽和脂肪酸(主としてオレイン酸)を有する油脂に対して、炭素原子数20〜24の飽和脂肪酸をエステル交換して、その飽和脂肪酸を1,3位に選択的に結合すること等によって得ることができる。炭素原子数20〜24の飽和脂肪酸は、例えば、菜種油等を硬化、分解、精留して得られるアラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、そのエステル類等であってよい。あるいは、上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドとして1,3−ジベヘノイル−2−オレイルグリセリド(以下、「BOB」という。)は、従来、チョコレート用のシード剤として知られ、市販されており、これを使用してもよい。
【0026】
本発明に用いられるブルーム抑制用の油脂含有組成物は、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの該油脂組成物中での存在状態が、全油脂成分に対する質量割合にして1〜70質量%が共晶かつ安定型であり、1〜70質量%が混晶ないしは非安定型であることを要する。より好ましくは、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの該油脂組成物中での存在状態が、全油脂成分に対する質量割合にして10〜70質量%が共晶かつ安定型であるようにする。このような存在状態とすることにより、チョコレートに配合した際、機構は定かではないがおそらくはチョコレート中の他の油脂への溶解が妨げられることによって、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドが共晶かつ安定型の状態でチョコレート中に残存しやすくなるものと考えられる。これにより、高温域での耐ブルーム性を効果的に付与することができる。
【0027】
上記のような油脂の存在状態は、安定型に調製されたBOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを、その油脂の結晶の状態が保たれる条件下に、より具体的には、例えばBOBであればその安定結晶型の溶解温度が50℃前後であるので、その溶解温度より低い温度、より好ましくはその溶解温度より2℃以上低く、作業上問題のない温度以上の条件下に、別途融解温度以上で融解した状態のBOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドと混合すること等によって実現することができる。また、後述するように、カカオ脂等の他の油脂を含ませて調製する場合には、例えばBOBであれば、それら他の油脂の存在により、その安定結晶型の溶解温度が降下し40℃前後であるので、その溶解温度より低い温度、より好ましくはその溶解温度より2℃以上低く、作業上問題のない温度以上の条件下に、別途融解温度以上で融解した状態のカカオ脂等と混合すること等によって実現することができる。このようにすることで、油脂が混合前のそれぞれの結晶あるいは非結晶の状態をほぼ保つので、混合割合にほぼ相応して、全油脂成分に対する質量割合にして1〜70質量%が共晶かつ安定型であり、1〜70質量%が混晶ないしは非安定型である該油脂含有組成物を得ることができる。なお、上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドは、例えばBOBであればその安定結晶型の融解温度が53℃前後であるので、その温度前後、より好ましくはその融解温度より2〜3℃程度低い温度で一定時間以上熟成すること等によって、安定型に調製することができる。また、後述するように、カカオ脂等の他の油脂を含ませて調製する場合には、その熟成の温度や時間等の条件を適宜調整することによって、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの存在状態が、一部は共晶かつ安定型であり、他の一部は混晶あるいは非安定型である状態を実現し得る。例えば、油脂すべてを完全融解混合後、一定温度まで冷却撹拌することで油脂の一部成分(例えば、上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリド)のみを結晶化させ、この結晶を調温により熟成して安定結晶化することができる。また、安定型に調製されたBOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを含むシード剤が市販されており、これを使用してもよい。
【0028】
上記油脂含有組成物において、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの含有量は、その油脂の総量として全体中に0.6〜100質量%含有することが好ましく、10〜70質量%含有することがより好ましい。また、全油脂成分に対する質量割合にして、その油脂の総量として2〜100質量%含有することが好ましく、20〜100質量%含有することがより好ましい。
【0029】
上記油脂含有組成物には、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの存在状態の条件を満たす限り、その油脂以外の他の油脂が含まれていてもよい。例えば、カカオ脂やその他植物に由来する油脂などが挙げられ、カカオ脂やその他植物に由来する油脂に含まれる炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20未満の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの全油脂成分に対する質量割合が、0.1〜90質量%程度であることが好ましく、0.1〜60質量%程度であることがより好ましい。上記油脂含有組成物にカカオ脂やその他植物に由来する油脂を含むことにより、チョコレートに配合した際、機構は定かではないがおそらくはチョコレート中の他の油脂への溶解が妨げられることによって、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドが共晶かつ安定型の状態でチョコレート中に残存しやすくなるものと考えられる。これにより、高温域での耐ブルーム性をより効果的に付与することができる。
【0030】
上記油脂含有組成物には、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの存在状態の条件を満たす限り、その油脂以外の他の素材が含まれていてもよい。例えば、砂糖、乳糖、デキストリン等の賦形剤などが挙げられる。他の素材を含んだ上記油脂含有組成物は、適当なリファイナーを用いて微細化処理を施してもよい。賦形剤を含有することにより、付着を抑制したり、流動性を向上させたりして、取り扱いやすい形態の組成物とすることができる。また、油脂含有組成物を微細化しやすくなり、その微細化処理により、チョコレートに配合した際、機構は定かではないがおそらくはシードの機能を果し得る粒子ないし結晶が微細化し数が多くなることでシードの機能がより高められるものと考えられる。これにより、高温域での耐ブルーム性をより効果的に付与することができる。また、口どけがより良好なチョコレートが得られる。賦形剤の含有量は、0.1〜70質量%程度であることが好ましく、0.1〜50質量%程度であることがより好ましい。
【0031】
(チョコレート)
以下には、本発明のチョコレートの製造方法について説明する。
【0032】
本発明のチョコレートは、上記油脂含有組成物をテンパリングタイプのチョコレートの生地に添加し、混合することにより得られる。チョコレート生地は、通常の方法で得られたものであればよく、特に制限はない。例えば、カカオマス及び/又はココア、糖類、粉乳、乳化剤、ココアバター及び/又はココアバター代用脂、香料等のチョコレート原料を用いて、原料をミキシングし、リファイニングを行った後、コンチングを行うこと等により得ることができる。その糖類としては、例えば、砂糖に、必要に応じてトレハロース、乳糖等の他の糖類や、糖アルコールなどを配合したものが好ましく用いられる。また、その粉乳としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳などを用いることができる。また、その乳化剤としては、レシチンなどが好ましく用いられる。
【0033】
添加する上記油脂含有組成物の量は、用いられるチョコレート組成に応じ、それに耐ブルーム性が付与される効率や、必要とされる耐ブルーム性の程度等によって、適宜決定すればよいが、典型的にはチョコレート生地の全油脂成分中に、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドをその総量として0.2〜50質量%程度含有することが好ましく、0.2〜30質量%程度含有することがより好ましい。
【0034】
ただし、このとき、上記油脂含有組成物中の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの共晶かつ安定型の存在状態が、できるだけ損なわれることがないようにする必要がある。より具体的には、例えばBOBであれば、チョコレート生地中のカカオ脂等の他の油脂の存在により、その安定結晶型の溶解温度が40℃前後であるので、上記油脂含有組成物を、その溶解温度より低い温度、より好ましくはその溶解温度より2℃以上低く、作業上問題のない温度以上の条件下に、別途流動化させたチョコレートの生地と混合すること等によって、該油脂は混合前のそれぞれの結晶あるいは非結晶の状態をほぼ保つので、チョコレート中での存在状態も、上記油脂含有組成物中での存在状態にほぼ相応したものとなる。そして、テンパリングタイプのチョコレートの原料・生地を使用した場合であってもチョコレートに耐ブルーム性が付与される。
【0035】
本発明のチョコレートの製造方法において、上記油脂含有組成物と混合する前のチョコレートの生地には、予め更にBOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドが含まれていてもよい。チョコレートの生地に予め更にBOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを含むことにより、上記油脂含有組成物をチョコレートの生地に添加、混合した際、機構は定かではないがおそらくはチョコレート中の他の油脂への溶解が妨げられることによって、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドが共晶かつ安定型の状態でチョコレート中に残存しやすくなるものと考えられる。これにより、高温域での耐ブルーム性をより効果的に付与することができる。その場合の含有量は、チョコレートの生地の全油脂成分中に0.1〜35質量%程度含有することが好ましく、0.1〜15質量%程度含有することがより好ましい。また、その存在状態が混晶ないしは非安定型であることが好ましい。すなわち、例えばBOBであればその安定結晶型の融解温度が53℃前後であるので、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドを、その融解温度より高い温度、より好ましくはその融解温度より2〜3℃以上高い温度の条件下に、別途流動化させたチョコレートの生地と混合すること等によって、該油脂の存在状態が混晶ないしは非安定型であるチョコレートの生地を得ることができる。よって、また、通常のチョコレートの製造工程におけるコンチング工程において、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドをチョコレートの原料中に配合し、それをコンチング処理すること等によっても、上記油脂の存在状態が混晶ないしは非安定型であるチョコレート生地を得ることができる。
【0036】
本発明のチョコレートは、上記のような調製法により、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドのチョコレート中での存在状態が、全油脂成分に対する質量割合にして0.1〜15質量%が共晶かつ安定型であり、0.1〜35質量%が混晶ないしは非安定型であるようにすることが好ましい。
【0037】
本発明のチョコレートは、風味や口どけの観点から、特に、カカオ脂を含むものであることが好ましい。より具体的には、カカオ脂としては、チョコレートに3〜50質量%程度含有せしめることが好ましく、18〜50質量%程度含有せしめることがより好ましい。
【0038】
(共晶状態の評価)
上記のような調製法により耐ブルーム性が付されたチョコレート中、あるいは、そのための上記油脂含有組成物中での、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの存在状態は、周知の分析方法によって、検定することができる。すなわち、共晶は、例えば示差走査熱量測定により、その油脂が共晶の状態のときに呈する固有の昇温融解吸熱ピークの面積から定量することができる。また、その共晶が安定型であることは、上記昇温融解吸熱ピーク温度や、あるいはX線回折測定において面間隔4.58−4.59Åに相当するピークが安定型を示し、面間隔4.15−4.35Åに相当するピークが不安定型を示すことを考慮することで確認できる。そして、そのようにして求められた共晶かつ安定型の量を、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドの全体量から差し引くことで、混晶ないしは非安定型の量を算出することができる。なお、BOB等の上記2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドは、周知のトリグリセリド組成の測定方法、例えばガスクロマトグラフィーや銀イオンカラムクロマトグラフィー等の手段によって分析可能である。
【0039】
(加工)
本発明のチョコレートは、上記のような調製法により耐ブルーム性が付された後、その効果を損なわない範囲で、更に加工されていてもよい。例えば、公知の方法で所望の形状に成形することができる。成形の方法に特に制限はなく、例えば、モールド(型)に入れて成形する方法、押出機のダイから所定形状に押出して切断する方法、コンベア等の上にチョコレート生地を直接落として固化させるドロップ成形方法、エンローバーで他の具材やセンターを被覆する方法などが好ましく採用される。
【0040】
また、含気の処理を施してもよい。含気の方法に特に制限はなく、空気を巻き込ませるように高速で攪拌する方法や、ポンプ等で空気を強制的に吹き込みながら攪拌する方法、更にその攪拌を、加熱、冷却、加圧、又は減圧しつつ行う方法など、各種の方法で行うことができる。装置としては、例えばエアレーションミキサー、モンドミキサー、オーバーミキサーなどが使用される。
【0041】
更に、副原料を添加、混合したりしてもよい。例えば、ナッツ類破砕物、膨化型スナック食品、ビスケットチップ、キャンディーチップ、チョコレートチップなどを含有させてもよい。ナッツ類の破砕物としては、アーモンド、ピーナッツ、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、クルミ等を所望の大きさに破砕したものが好ましく用いられる。また、膨化型スナック食品としては、例えば、とうもろこし、小麦、米等の原料をエクストルーダで加圧、加熱して押出して膨化させたものや、小麦粉、米粉、各種澱粉等の澱粉質原料に、副原料、調味料、水等を加えて加熱糊化し、膨化させたものなどが好ましく用いられる。
【0042】
本発明のチョコレートは、高温域での耐ブルーム性が付されているので、上記のような加工の際、ブルーム発生の防止のための温度管理も、それほど厳密にしなくてもよい。
【実施例】
【0043】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0044】
[油脂含有組成物]
BOBを含む油脂含有組成物を、以下のとおり調製あるいは準備した。なお、本実施例に使用したBOBには、BOB以外にも、BOB調製時の副産物等としてBOBに類似する油脂であって「炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸と炭素原子数20〜24個の飽和脂肪酸からなる2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリド」を満たす油脂が含まれている。より具体的には、本実施例に使用したBOBを主成分として含む油脂含有組成物(商品名「チョコシード100」あるいは「チョコシードB」、いずれも不二製油社製)は、その油脂成分中にBOBをおよそ57質量%含むとともに、BOBのグリセロール基の1位ないし3位のベヘノイル基が炭素原子数20個の飽和脂肪酸であるアラキン酸のエステル残基に置換されてなるAOB(ちなみに、当該トリアシルグリセロールを構成している脂肪酸残基について、Aはアラキン酸を、Oはオレイン酸を、Bはベヘン酸を、それぞれ表す。)を少なくとも9質量%含む。よって、以下、本実施例においては、便宜上それらを総称して「BOB類」という。
【0045】
(チョコシード100)
BOB類66質量部、BOB類以外のその他油脂34質量部からなる市販品(不二製油社製)を使用した。なお、このチョコシード100にはBOB類が結晶未調整の状態で含まれている。
【0046】
(チョコシードB)
BOB類33質量部、BOB類以外のその他油脂17質量部、砂糖50質量部からなる市販品(不二製油社製)を使用した。なお、このチョコシードBにはBOB類が安定型の状態で含まれている。
【0047】
(シード剤1)
39.1質量部のココアバターと2.1質量部の上記チョコシード100を60℃にて融解、混合後、更に30℃にて58.8質量部の上記チョコシードBを混合し、ロールリファイナーを用いて微細化して、シード剤1を得た。
【0048】
(シード剤2)
41.2質量部の上記チョコシード100を60℃にて融解後、更に45℃にて58.8質量部の上記チョコシードBを混合し、ロールリファイナーを用いて微細化し、シード剤2を得た。
【0049】
(シード剤3)
27.7質量部のココアバターと1.5質量部の上記チョコシード100を60℃にて融解、混合後、更に30℃にて41.6質量部の上記チョコシードBと29.2質量部の砂糖を混合し、ロールリファイナーを用いて微細化し、シード剤3を得た。
【0050】
(シード剤4)
67質量部のハードバター(商品名「SS400」、不二製油社製)(1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセロール含量65%、BOB類を含まない)と33質量部の上記チョコシード100を60℃にて融解後、ミキサーで急冷、捏和することによりショートニングを得、そのショートニングを30℃、35℃、40℃の各温度で1日放置する段階的昇温に処し、シード剤4を得た。
【0051】
表1には、各油脂含有組成物について、その配合組成、成分組成、及び油脂成分組成をまとめて示す(なお、表1中の「共晶安定BOB類」とは、共晶かつ安定型のBOB類を指し、表1中の「混晶非安定BOB類」とは、混晶ないしは非安定型のBOB類を指し、上述した「共晶状態の評価」のとおり、全体量をクロマトグラフィーにて、共晶安定を示差走査熱量測定にて測定し、算出される値を指す。)。
【0052】
【表1】
【0053】
[チョコレートの調製]
表2の配合にて、常法に従い、テンパリングタイプのチョコレートAを調製した。
【0054】
【表2】
【0055】
(実施例1〜5、比較例1〜5)
上記表2に示す配合で調製したチョコレートAを生地とし、これにBOB類を含む油脂含有組成物を配合してチョコレートを調製した。BOB類を含む油脂含有組成物としては、上記で調製あるいは準備したシード剤1〜4、チョコシードB、又はチョコシード100を使用した。具体的には以下のとおりチョコレートを調製した。
【0056】
(実施例1)
91.1質量部のチョコレートAと3.9質量部のチョコシード100を60℃にて融解、混合後、更に35℃にて5質量部のシード剤1を添加し、よく撹拌した後、モールドに入れて冷却し、実施例1のチョコレートを得た。
【0057】
(実施例2)
95.1質量部のチョコレートAと3.9質量部のチョコシード100を60℃にて融解、混合後、更に35℃にて1質量部のシード剤1を添加し、よく撹拌した後、モールドに入れて冷却し、実施例2のチョコレートを得た。
【0058】
(実施例3)
90質量部のチョコレートAを60℃にて融解後、更に35℃にて10質量部のシード剤1を添加し、よく撹拌した後、モールドに入れて冷却し、実施例3のチョコレートを得た。
【0059】
(実施例4)
93.2質量部のチョコレートAと1.9質量部のチョコシード100を60℃にて融解、混合後、更に35℃にて4.9質量部のシード剤2を添加し、よく撹拌した後、モールドに入れて冷却し、実施例4のチョコレートを得た。
【0060】
(実施例5)
89.2質量部のチョコレートAと3.8質量部のチョコシード100を60℃にて融解、混合後、更に35℃にて7質量部のシード剤3を添加し、よく撹拌した後、モールドに入れて冷却し、実施例5のチョコレートを得た。
【0061】
(比較例1)
93.3質量部のチョコレートAと3.9質量部のチョコシード100を60℃にて融解、混合後、更に35℃にて2.8質量部のチョコシードBを添加し、よく撹拌した後、モールドに入れて冷却し、比較例1のチョコレートを得た。
【0062】
(比較例2)
97質量部のチョコレートAを60℃にて融解後、これに35℃にて3質量部のチョコシードBを添加し、よく撹拌した後、モールドに入れて冷却し、比較例2のチョコレートを得た。
【0063】
(比較例3)
94.4質量部のチョコレートAを60℃にて融解後、これに35℃にて5.6質量部のチョコシードBを添加し、よく撹拌した後、モールドに入れて冷却し、比較例3のチョコレートを得た。
【0064】
(比較例4)
96.1質量部のチョコレートAと3.9質量部のチョコシード100を60℃にて融解、混合した後、調温によるテンパリング処理を行い、モールドに入れて冷却し、比較例4のチョコレートを得た。
【0065】
(比較例5)
95質量部のチョコレートAを60℃にて融解後、これに35℃にて5質量部のシード剤4を添加し、よく撹拌した後、モールドに入れて冷却し、比較例5のチョコレートを得た。
【0066】
[試験例1]
得られたチョコレートを40℃に2時間静置後20℃に保存し、2週間後にブルームの発生を観察した。また、口どけの官能評価を行った。評価は、それぞれ以下の基準で行った。なお、耐ブルーム性の結果が良好なものについては、40℃以上の条件でも耐ブルーム性を評価し、その耐ブルーム性を維持する上限温度を調べた。
【0067】
(耐ブルーム性)
○:ブルームが未発生
△:顕微鏡観察で確認できるブルームが発生
×:肉眼で確認できるブルームが発生
(口どけ)
○:口どけが良い
△:口どけがやや悪い
×:口どけが悪い
【0068】
結果を表3にまとめて示す(なお、表3中の「共晶安定BOB類」とは、共晶かつ安定型のBOB類を指し、表3中の「混晶非安定BOB類」とは、混晶ないしは非安定型のBOB類を指し、上述した「共晶状態の評価」のとおり、全体量をクロマトグラフィーにて、共晶安定を示差走査熱量測定にて測定し、算出される値を指す。)。
【0069】
【表3】
【0070】
その結果、以下のことが明らかとなった。
【0071】
(1)共晶かつ安定型のBOB類と、混晶ないしは非安定型のBOB類とを含み、その割合が本発明の範囲に属するシード剤1、2、又は3を使用し、それをチョコレートAに、共晶かつ安定型のBOB類が溶解しない温度で添加、混合して調製した、実施例1〜5のチョコレートでは、40℃での耐ブルーム性が付され、口どけも良好であった。
【0072】
(2)BOB類として、それが安定型の状態で含まれているチョコシードBと、結晶未調整のチョコシード100とを使用し、後者のチョコシード100をBOB類が融解している温度条件下にチョコレートAに添加、混合し、更に、前者のチョコシードBをチョコレートAに、チョコシードB中のBOB類が溶解しない温度で添加、混合して調製した、比較例1のチョコレートでは、得られたチョコレート中でのBOB類の存在様態は実施例1、4、5とほぼ同等であるにもかかわらず、ブルームが発生し、口どけも悪かった。
【0073】
(3)BOB類として、それが安定型の状態で含まれているチョコシードBを使用し、これをチョコレートAに、BOB類が溶解しない温度で添加、混合して調製した、比較例2又は3のチョコレートでは、40℃での耐ブルーム性が得られず、口どけも悪かった。
【0074】
(4)BOB類として、結晶未調整のチョコシード100を使用し、これをBOB類が融解している温度条件下にチョコレートAに添加、混合し、調温によるテンパリング処理を施して調製した、比較例4のチョコレートでは、40℃での耐ブルーム性が得られなかった。
【0075】
(5)ハードバター中での調温処理(熟成)により調製された共晶かつ安定型のBOB類を含むシード剤4を使用し、それをチョコレートAに、BOB類が溶解しない温度で添加、混合して調製した、比較例5のチョコレートでは、40℃での耐ブルーム性が得られず、口どけも悪かった。
【0076】
(6)実施例3のとおり、生地として使用したチョコレートAに、予め混晶あるいは非安定型のBOB類を含まない場合であっても、高温域での耐ブルーム性の付与の効果が得られた。
【0077】
以上の結果から、チョコレートに口どけの良好さを維持しつつ高温域での耐ブルーム性を付与する効果は、共晶かつ安定型のBOB類と、混晶ないしは非安定型のBOB類とを、特定の割合で使用したことによってはじめて得られた効果であると考えられた。