(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0014】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0015】
[第1の実施の形態]
図1は第1の実施の形態による電解質測定装置10の概略構成を示す模式図である。この電解質測定装置10はフローセル型のイオン選択性電極を搭載した電解質測定装置であって、計測制御装置100、希釈槽110、検体分注機構120、希釈液分注機構130、内部標準液分注機構140、送液機構150、参照電極液送液機構160、表示部170、Clイオン選択性電極210、Kイオン選択性電極220、Naイオン選択性電極230、液絡部250、参照電極260、廃液ノズル370、廃液ノズルの駆動機構(図示省略)、廃液弁380、廃液機構390を備えている。
【0016】
計測制御装置100は、電解質測定装置10における計測を司る測定部、及び計測の結果に基づく各種制御を司る制御部として機能する。また、計測制御装置100は、表示部170における計測の結果等の表示を制御する表示制御部としても機能する。表示部170は、受信したデータに従った表示(測定結果、警告、その他)を行う。
【0017】
希釈層110は、検体と希釈液を混合した希釈検体液、又は、内部標準液を供給される容器である。希釈層110は、希釈検体液と内部標準液とを交互に供給され、これにより希釈検体液の測定と内部標準液の測定とが交互に実行される。なお、本明細書において、希釈検体液、及び内部標準液を総称して「イオン溶液」と呼ぶことがある。
【0018】
検体分注機構120は、検体容器121から検体を吸引し、希釈層110に吐出する機能を有する。希釈液分注機構130は、希釈層110に対し希釈液を、希釈液用タンク131から希釈液分注配管330を介して分注するための装置である。内部標準液分注機構140は、希釈層110に対し内部標準液を、内部標準液用タンク141から内部標準液分注配管340を介して分注する機能を有する。
【0019】
送液機構150は、希釈層110から希釈検体液又は内部標準液をイオン選択性電極210〜230側に吸引するポンプ動作を実行するとともに、希釈検体液又は参照電極液を液絡部250等から吸引して送液配管350を介して廃液タンク151に廃棄する機能を有する。参照電極液送液機構160は、参照電極液用タンク161から参照電極液を吸引して参照電極液送液配管360を介して参照電極260に送り込むよう構成されている。
【0020】
Clイオン選択性電極210、Kイオン選択性電極220、及びNaイオン選択性電極230は、希釈検体液、又は内部標準液を希釈層110から供給される。一方、参照電極260は、参照電極液送液機構160から参照電極液を供給される。Clイオン選択性電極210、Kイオン選択性電極220、又はNaイオン選択性電極230と参照電極260との間の位置には、フローセル方式において希釈検体液及び試薬の通路となる液絡部250が設けられている。廃液機構390は、希釈層110内の液体を廃棄する場合に、廃液弁380を開弁して、廃液ノズル370を介して廃液する機能を有する。
【0021】
図2は、計測制御装置100の構成の詳細を、周囲の構成要素と共に示す模式図である。
図2に図示の例は、好適な構成例の一例であって、この構成に対する更なる追加や置換が可能であることはいうまでもない。
図2の計測制御装置100は、一例として、電流計測部500、電圧アンプ600、電圧印加部700、及び計測制御部800を備える。
【0022】
電流計測部500は、シールド電線460を介して参照電極260と接続され、参照電極260に流れる電流を計測するよう構成されている。この電流計測部500による電流の計測結果は、後述するように希釈検体液又は内部標準液の流路における気泡の有無の検出に用いられる。
【0023】
電圧アンプ600は、電流計測部500の出力信号を増幅するよう構成されている。また、電圧アンプ600は、シールド電線410、420、430を介してClイオン選択性電極210、Kイオン選択性電極220、及びNaイオン選択性電極230と接続され、これら電極210〜230の電圧を増幅する機能を有する。
【0024】
電圧印加部700は、イオン選択性電極210〜230よりもフローセル流路の上流側にある接液部材(又は接液電極)、例えば吸引ノズル300に対し電線400を介して接続され、所定の電圧を吸引ノズル300に印加する。この電圧は、通常の希釈検体液又は内部標準液のイオン濃度測定動作中は印加されず、電解質測定装置10の不具合の有無の検出を行う場合に印加される。この第1の実施の形態では、不具合の有無の一例として、希釈検体液又は内部標準液の流路における気泡の有無を検出する。
【0025】
希釈検体液又は内部標準液を希釈槽110からイオン選択性電極210〜230に送液する場合、又は参照電極液を参照電極液タンク161から参照電極液送液機構160により参照電極260に送液する場合、電位測定時において、測定に影響を及ぼす流路内に気泡が混入又は発生することがある。この気泡のサイズがフローセル流路の内径と比較して相対的に大きい場合、流路の電気的導通が阻害され、インピーダンスが上昇し、またノイズが混入しやすくなる。
【0026】
ノイズが極めて大きい場合はイオン選択性電極210〜230の出力電位が大きく変動する。イオン選択性電極210〜230の出力電位の変動幅が基準値よりも大きい場合に、その出力電位により得られた測定結果はエラー(誤測定)として除外し、オペレータに再測定を促すことができる。しかしノイズが比較的小さい場合には、イオン選択性電極210〜230の出力電位の測定結果だけから、測定値の信頼性を評価することは必ずしも容易ではない。
【0027】
そこで、この第1の実施の形態では、電圧印加部700によりイオン選択性電極210〜230の上流側にある部材(例えば吸引ノズル300)に所定の電圧を印加し、その際に参照電極260に流れる電流を電流計測部500において計測する。この電流が閾値以上であるか否かにより、流路における気泡の有無が判断される。すなわち、この第1の実施の形態では、イオン選択性電極210〜230の出力電位の変動を検出して誤測定の有無を判定しつつも、電流計測部500により参照電極260の電流を検出することで、流路における気泡の有無も判定する。すなわち、電流計測部500は、計測された電流値を閾値と比較することにより機能の有無を判定する。その結果をイオン選択性電極210〜230の測定値の信頼性の指標とし、警告や再測定の要否の判断材料とすることができる。このため、第1の実施の形態によれば、装置内の不具合をより的確に検出し、より高精度な測定が可能になる。なお、上記の電圧印加部700は、
図2及び
図3では一例としてイオン選択性電極210〜230の上流側にある吸引ノズル300に電圧を印加する構成を採用しているが、これに代えて、イオン選択性電極210〜230に電圧を印加する構成を採用することも可能である。
【0028】
計測制御部800は、イオン選択性電極210〜230の電圧の増幅信号を電圧アンプ600から入力され、この増幅信号に基づいてイオン選択性電極210〜230の電圧を計測する。また、計測制御部800は、電流計測部500からの出力信号に基づいて参照電極260を流れる電流値を計測するとともに、その計測値に従って電圧印加部700等を制御する機能を有する。また、計測制御部800は、電流計測部500からの出力信号に基づいて参照電極260に流れる電流値を計測し、その計測値に従って、フローセル流路(吸引ノズル300〜参照電極260、又はイオン選択性電極210乃至230〜参照電極)の流路抵抗を演算し、更には流路における気泡の有無を判定する。すなわち、計測制御部800は、電流計測部500で計測される電流値に基づき、希釈検体液の流路における気泡の有無を判定する判定部として機能する。
【0029】
図3の回路図を参照して、第1の実施の形態による計測制御装置100の構成例を更に詳細に説明する。
図3は、電流計測部500、電圧アンプ600、及び電圧印加部700の構成を、更に詳細に説明する回路図である。
【0030】
電流計測部500は、一例として、OPアンプ510と、フィードバック抵抗520とを備え、OPアンプ510に基づく型電流電圧変換回路として構成され得る。この例において、OPアンプ510の反転入力端子(−)は、抵抗520の一端、及びシールド電線460に接続される。この反転入力端子が、電流計測部500の入力端子とされ、参照電極260の出力端子に接続されている。
【0031】
一方、OPアンプ510の非反転入力端子(+)は、基準電圧端子としての接地端子(GND)900に接続される。OPアンプ510の出力端子は、抵抗520の他端と接続されるとともに、電流計測部500の出力端子とされている。一例として、OPアンプ510としてはAD549を、フィードバック抵抗520としては1GΩの抵抗器を採用することができるが、これに限定されるものではない。
【0032】
この構成によれば、電流計測部500はシールド電線460から入力端子に流入する電流を、−10
9(V/A)倍の変換係数(感度)で電圧に変換し、出力端子から出力することができる。電流計測部500の出力信号は、計測制御部800へ入力され、計測制御部800が内部に備えるADコンバータ(図示しない)に入力される。
【0033】
電圧アンプ600は、接地端子900に接続されるとともに、OPアンプにより構成されるインピーダンス変換回路610、620、630を備えている。インピーダンス変換回路610〜630の入力端子は、前述のシールド電線410、420、430に接続され、出力端子は不図示のマルチプレクサを介して計測制御部800のADコンバータ(図示しない)に入力される。
【0034】
電圧印加部700は、電源710とアナログスイッチ720とを備えている。電源710は、接地端子とアナログスイッチ720との間に接続され、アナログスイッチ720は、吸引ノズル300と電源710との間に接続されて導通状態/非導通状態の間で切り替わり、電源710からの電源電圧の供給・遮断を切り換えるよう構成されている。スイッチ720のON/OFFは、計測制御部800からの制御信号により切り換えられる。スイッチ720は、フローセル流路における流路抵抗の測定、並びに気泡の有無の検出動作を行う場合に導通状態(ON)とされ、通常通りに希釈検体溶液や内部標準液のイオン濃度測定や、第2の実施の形態以降で説明する自然電流の計測をする場合には、非導通状態(OFF)とすることができる。
【0035】
次に第1の実施の形態の電解質測定装置10の動作を、
図4のフローチャートに沿って説明する。なお、以下における各種液体の送液、廃液等の順序はあくまでも一例であり、同様の測定が可能な範囲において適宜変更することが可能である。
検体分注機構120により検体容器121から希釈槽110へ分注された検体は、希釈液用タンク131から希釈液分注機構130により供給される希釈液と混合され、希釈検体液となる。この希釈検体液は、送液機構150の動作により、吸引ノズル300、吸引配管310、イオン選択性電極210、220、230、液絡部250、及び送液配管350を通して送液廃液される。また、参照電極液送液機構160と送液機構150との協調動作により、参照電極液が参照電極液送液配管360を通して参照電極260及び液絡部250へ送液される(ステップS11)。
【0036】
希釈検体液が参照電極液と液絡部250において接触すると液絡が形成される。液絡が形成されると、イオン選択性電極210〜230が、希釈検体液中の各イオン濃度に応じた出力電位を、参照電極260の電位を基準とした電位差として出力する。電位差が安定するまでに時間がかかるため、通常は一定の待ち時間の後に、計測制御装置100はこの電位差を計測する(ステップS13)。
【0037】
計測制御装置100は、希釈検体液を用いた測定においてイオン選択性電極210〜230と参照電極260との間の電位差を求め、この電位差の計測値から、ネルンストの式に基づいて希釈検体液中のイオン濃度を求める。この第1の実施の形態では、このイオン濃度の計測に先立ち、後述する方法により、流路の抵抗を測定することにより、装置の不具合の一例として、流路内の気泡の有無を検出する(ステップS12)。
【0038】
内部標準液を用いた測定も、希釈検体液と同様の手順により実行される。希釈検体液の測定の完了後、希釈層110の残余の希釈検体液を廃棄し、これに代えて内部標準液を希釈層110に注入し、内部標準液を用いた測定を開始する。内部標準液は、イオン選択性電極210〜230の流路へ送液される。参照電極液も、同様に参照電極260に向けて送液される。そして、内部標準液を与えられたイオン選択性電極210〜230の電位と参照電極260との間の電位差が、同様の手順により計測される(ステップS16)。内部標準液を用いた計測においても、その計測に先立ち、同様の気泡検出動作が実行される(ステップS15)。このような希釈検体液の計測と、内部標準液の計測とが交互に実行される。希釈検体液の測定値は、内部標準液の測定値に基づいて補正される(ステップS17)。
【0039】
希釈検体液又は内部標準液の測定に先立ち実行される気泡検出動作において気泡が検出された場合は(ステップS18のYes)、表示部170にイオン濃度の測定結果を表示するとともに、気泡が検出された旨を示す警告情報を表示し(ステップS19)、これによりオペレータに各種対策(再測定、メンテナンス、部品交換、修理、その他)の検討を促す。気泡が検出されなかった場合には(ステップS18のNo)、通常通りに測定値のみが表示部170に表示される(ステップS20)。測定値としては、ステップS17における補正後の測定値が表示される。なお、流路抵抗の測定結果が測定レンジを超えるなど、明らかな異常が発生したと判断される場合は、計測制御装置100が(オペレータの入力によらず)自動的に再測定を行うこともできる。
【0040】
次に、第1の実施の形態による流路抵抗測定と、それに基づく気泡検出の動作を説明する。前述したように、この第1の実施の形態においては、希釈検体液及び参照電極液を液絡部250に送出して液絡を形成した後、且つ、イオン選択性電極210〜230による電位差計測の前に、以下の流路抵抗の測定と、気泡検出を行う。具体的には、計測制御部800からの制御信号に従い、電圧印加部700のアナログスイッチ720をONにする。すると、電源710から接地端子900を基準とした電圧(例えば0.1V)が電線400を介して吸引ノズル300に印加される。
【0041】
吸引ノズル300から、吸引配管310、イオン選択性電極210、220、230、液絡部250、及び参照電極260までの流路が完全に希釈検体液又は内部標準液で満たされていて、気泡が流路中に存在しない場合、電流計測部500の出力電圧は、一例として約5V前後となる。一方、約1uLの体積の気泡が当該流路のいずれかの位置に混入した場合、電流計測部500の出力は、通常よりも非常に低い値(例えば5mV程度か、それ以下)となる。
【0042】
電流計測部500の感度(10
9V/A)から換算すると、この電流計測部500に流れる電流値は、気泡が無い場合とある場合について、それぞれ約5nA、約5pA以下である。電圧印加部700が印加した電圧(例えば0.1V)から、吸引ノズル300と参照電極260の間の流路抵抗は、気泡が無い場合とある場合について、それぞれ約20MΩ、約20GΩ以上と算定される。
【0043】
このように、電圧印加部700からの印加電圧を、電流計測部500での測定電流値で除算することにより求められる流路抵抗は、気泡が無い場合と有る場合とで、約3桁以上も異なる。換言すれば、この3桁以上異なる抵抗値の間に適切な閾値Rthを設定することにより、気泡の有無を判別することができる。標準的な閾値Rthとしては、両者の対数スケールにおける平均値、即ち約630MΩを採用可能である。
【0044】
流路抵抗が約20MΩの場合は、流路抵抗が閾値Rth未満であり、気泡は無いと判断され得る。逆に流路抵抗が20GΩの場合は、流路抵抗が閾値Rth以上であるため、気泡が存在すると判断され得る。或いは、この3桁の間に複数の閾値を設定することにより、高感度に、又は高い信頼性を持って気泡の有無を判定することができる。感度を優先する場合は閾値を低めの値Rthl(例えば200MΩ)に設定し、流路抵抗が、この低めの閾値Rthlを僅かに超えると判定された場合、流路に比較的小さい気泡があると判定することができる。信頼性を優先する場合は高めの閾値Rthh(例えば2GΩ)を設定することができる。高めの閾値Rthhを設定することにより、ノイズなどの外乱によって陽性でないのに陽性と判断されてしまうリスク(誤陽性)を効果的に排除することができる。
【0045】
なお、上記の例においては、流路抵抗の測定結果に基づく気泡検出動作は、希釈検体液の測定時、及び内部標準液の測定時の両方において実行するとして説明を行ったが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、希釈検体液の測定時、又は内部標準液の測定時のいずれか一方においてのみ気泡検出動作を実行するようにしてもよい。
【0046】
以上説明したように、第1の実施の形態の電解質測定装置10によれば、参照電極260を流れる電流に基づいてフローセルの流路の流路抵抗が計算され、その計算結果によって流路における気泡の有無が判定される。気泡が検出された場合には、その旨がオペレータに報知され得る。オペレータは、これにより気泡の発生に対する各種対策を取ることができるので、結果として、希釈検体液のイオン濃度の計測を高精度に実行することが可能になる。
【0047】
なお、従来の電解質測定装置は、
図3における電流計測部500と電圧印加部700が無く、シールド電線460は接地端子900に接続される。一方、この第1の実施の形態は、電流計測部500を備え、OPアンプ510の非反転入力端子(+)は接地端子900に接続されている。OPアンプ510の仮想ショート機能により、反転入力端子(−)と非反転入力端子(+)の電位は同一に維持される。従って、
図3の電流計測部500の入力端子(反転入力端子)の電圧は接地端子900と同じである。即ち、本実施の形態による電流計測部500では、参照電極260の出力端子が実質的に接地電位に維持されており、通常の計測も従来の装置と同様に実行することができる。換言すれば、本実施の形態の電流計測部500は、従来の装置に簡単に付加することができ、従来の装置との間で上位互換性が高いということができる。
【0048】
<変形例>
第1の実施の形態の変形例を
図5に示す。この変形例では、電圧印加部700において電源710が省略され、アナログスイッチ720は接地端子900に直接接続されている。一般に金属と溶液、電極と溶液の間には界面電位が存在する。この界面電位が十分に大きい場合、それを用いて電源710の代用とすることができる。この変形例は、第1の実施の形態に比べ、構成が簡単であるため、コストが低く、メンテナンスが簡単となり、故障のリスクも低くすることができる。
【0049】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態に係る電解質測定装置を、
図6〜
図7を参照して説明する。第2の実施の形態は、全体構成(
図1)については第1の実施の形態と同一である。この第2の実施の形態は、計測制御装置100の構成が第1の実施の形態とは異なっている。
【0050】
図6及び
図7を参照して、この第2の実施の形態の計測制御装置100の構成の詳細を説明する。第1の実施の形態の計測制御装置100と同一の要素に関しては、
図6及び
図7において
図2及び
図3と同一の参照符号を付し、以下では重複する説明は省略する。
【0051】
第2の実施の形態の電解質測定装置は、フローセルの流路の気泡の有無の検出に代えて、希釈検体液の計測時において参照電極260に定常的に流れる電流(以下、「自然電流」という)を、装置の不具合の指標として計測する。このため、第2の実施の形態の計測制御装置100は、第1の実施の形態とは異なり、電圧印加部700と電線400が省略されており、電流計測部500と電圧アンプ600のみを有している。希釈検体液の計測においては、通常は参照電極260には電流は流れていないと想定されるところ、電流計測部500により参照電極260に流れる電流を計測することで、自然電流の大きさを判定することができる。この第2の実施の形態の電流計測部500は、計測された電流値を閾値と比較することによりノイズの程度を判定する。その結果をイオン選択性電極210〜230の測定値の信頼性の指標とし、警告や再測定の要否の判断材料とする。
【0052】
図7に示す構成の試作機において自然電流を計測したところ、平均が約0μA、RMS(二乗平均平方根)が約0.01μAのランダムなベースラインノイズが観測された。装置10を停止した場合にはこのノイズレベルは略半減した。逆に、装置10を稼動させた場合にはノイズレベルが略倍増した。また上記ベースラインノイズ以外に、スパイク状の信号も頻繁に観測された。ピーク高さの絶対値が0.1μA以上のスパイク状の信号は40分間の測定期間中に86回観測され、この期間における最大値と最小値の差は約2μAppであった。また、装置10の運転周期と同期する、ピーク高さ約0.1μAのスパイク状の信号(自然電流)も観測された。
【0053】
このような自然電流は、吸引ノズル300、吸引配管310、イオン選択性電極210、220、230、液絡部250、送液配管350、送液機構150、参照電極液送液配管360、参照電極液送液機構160などから配管内部へ混入した電流あるいは電荷が、参照電極260、シールド電線460を通して電流計測部500に流入するものと考えられる。
【0054】
これらの電流又は電荷成分は、配管抵抗などによって電圧成分に変換され、イオン選択性電極の電位差計測に影響を及ぼすものもあるが、他方、イオン選択性電極の電位差には現れないか、現れにくいものもある。前者については従来のイオン選択性電極の電位差計測におけるノイズや電位変動などとして過去に多々議論されている。しかし後者については従来知見が無く、従来において十分検討されていない。本実施形態のように、参照電極260に流れる電流を計測する電流計測部500を、イオン選択性電極の計測装置とは別途設けることで、このような電流及び電荷成分が、初めて観測可能となったものである。上記のような電流又は電荷成分は、イオン選択性電極の電位差を観測する装置のみを有する従来のフローセル型の電解質測定装置においては計測し得なかったものである。
【0055】
このような電流のランダムなベースラインノイズ成分や、スパイク状のピークを手がかりとして、振動、漏電、接続不良、温度変動、試料液の流動、静電気、電磁波、誘導ノイズ、誘導電流、などの各種の外乱、装置内部の状態変化など、さまざまな誤差要因を追跡することが可能となる。
【0056】
またこの電流を指標として条件を最適化することにより、誤差要因を切り分けて特定し、対策を施すことも可能になる。さらに、第1の実施の形態における気泡検出動作と同様、この自然電流の測定は、希釈検体液又は内部標準液の測定の直前に実行することができる。
【0057】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態に係る電解質測定装置を、
図8及び
図9を参照して説明する。第3の実施の形態は、全体構成(
図1)については第1の実施の形態と同一である。また、この第3の実施の形態も、第1の実施の形態と同様に、フローセル流路の流路抵抗及び気泡の有無の検出のため、電圧印加部700を備えている。
【0058】
ただし、この第3の実施の形態では、
図8に示すように、電流計測部500の入力端子が、シールド電線470を介して電極270に接続されている。電極270は、参照電極260とは別の電極であり、イオン選択性電極210〜230及び液絡部250とは反対側の電極270の裏面に電気的に接続されている。電極270の材料としては、腐食に強い白金(Pt)が好適に用いられ得る。
【0059】
より具体的には、
図9に示すように、OPアンプ510の反転入力端子に、電線470が接続される。この点、第1の実施の形態では、電流計測部500の入力端子に、参照電極260から延びるシールド電線460が接続されているのと異なっている。なお、第3の実施の形態のシールド電線460は、
図9に示すように、接地端子900及びOPアンプ510の非反転入力端子へ接続されている。
【0060】
電極270の内部にはフローセルの流路が形成され、材料である白金(Pt)が当該流路に面して設けられる。また、この白金(Pt)と電線470との間に電気的な接続が確保されている。
【0061】
第3の実施の形態の電解質測定装置の動作は第1の実施の形態と略同様であるが、電流検出の対象とされる電極が、参照電極260ではなく、参照電極260の裏面に接する電極270である点が第1の実施の形態とは異なる。また流路抵抗を測定する区間が、吸引ノズル300から参照電極260までではなく、吸引ノズル300から、参照電極260よりも下流側の電極270までである点も、第1の実施の形態と異なる。
【0062】
第3の実施の形態の効果は第1の実施の形態と略同様である。ただし、参照電極260に電流を通じないため、分極や、内部電極の損傷のおそれがない。従って、比較的高い電圧で時間をかけてフローセルの流路抵抗を測定することができる。また、流路抵抗を計測するフローセルの流路が、第1の実施の形態に比べ、電極270の分だけ長い。このため、参照電極260の入り口付近の気泡も検出することが可能である。なお、電極270の材料は白金が好適であるが、白金であることは必須ではなく、その他の耐腐食性の高い金属や、各種の導電性材料、イオン交換樹脂膜などを用いることができる。
【0063】
電極270が設置される位置も、参照電極260の流路下流側の面に限定されず、例えば、参照電極液送液配管360のいずれかの位置、送液配管350のいずれかの位置などであってもよい。
【0064】
なお、電線400を接続する対象も吸引ノズル300に限定されない。例えば、吸引配管310の任意の位置に電極270と同様の電極を設け、この電極に電線400を接続することも可能である。
【0065】
また、希釈液分注配管330に2つの電極を設け、一方の電極には電線を介して電圧印加部700を接続し、他方の電極には他の電線を介して電流計測部500を接続することで、希釈液分注配管330内の気泡の有無を検出することもできる。内部標準液分注配管340でも、略同様の構成を採用することができる。
【0066】
電極の接続形態も
図6に示す形態に限定されない。2つの電極のうち、一方の電極が電圧印加部700に接続され、もう片方の電極が電流計測部500に接続されればよく、接続先を交換する接続方法も、当然、本発明の範疇に含まれる。
【0067】
[第4の実施の形態]
本発明の第4の実施の形態について
図10及び
図11を参照して説明する。第4の実施の形態は、全体構成(
図1)については第1の実施の形態と同一である。この第4の実施の形態は、計測制御装置100の構成が第1の実施の形態とは異なっている。
【0068】
第4の実施の形態の電解質測定装置は、第2の実施の形態と同様に、フローセルの流路の気泡の有無の検出に代えて、希釈検体液の計測時において参照電極260に定常的に流れる電流(以下、「自然電流」という)を、装置の不具合の指標として計測する。このため、第2の実施の形態の計測制御装置100は、第1の実施の形態とは異なり、電圧印加部700と電線400が省略されており、電流計測部500と電圧アンプ600のみを有している。
【0069】
この第4の実施の形態の装置は、第3の実施の形態と同様に、電流計測部500の入力端子が、シールド電線470を介して、参照電極260の裏面に接続された電極270に接続されている。これにより、第4の実施の形態は、第2の実施の形態を得るとともに、自然電流の計測において、第2の実施の形態に比べフローセルの流路を長くすることができる。
【0070】
[第5の実施の形態]
第5の実施の形態に係る電解質測定装置を、
図12を参照して説明する。この第5の実施の形態は、全体構成(
図1)については第1の実施の形態と同一である。この第5の実施の形態は、計測制御装置100の構成が第1の実施の形態とは異なっている。
【0071】
図12は第5の実施の形態による電解質測定装置10の計測制御装置100の構成を示す模式図である。この計測制御装置100では、電流計測部500Aが、電源710と接地端子900’との間に接続されている。この点、第1の実施の形態では、電流計測部500が、参照電極260と接地端子900との間に接続されているのと異なる。ただし、フローセルに通じる電流は、電圧印加部700からイオン選択性電極210〜230、液絡部250、参照電極260、計測制御部800を通って電圧印加部700に戻るループに沿って流れる。従って、電流計測部500Aは、第1の実施の形態の電流計測部500と同様に、参照電極260に流れる電流を計測することができる。
【0072】
電流計測部500Aは、第1の実施の形態の電流計測部500と同様に、OPアンプ510’とフィードバック抵抗520’とを備えており、両者の接続関係は第1の実施の形態と同様である。このOPアンプ510’の反転入力端子に、電源710が接続され、非反転入力端子には接地端子900’が接続されている。一方、シールド電線460は、電流計測部500Aには接続されず、従来と同様に接地端子900に接続される。
【0073】
このように、この第5の実施の形態によれば、参照電極260に流れる電流は電流計測部500を用いて計測される。一方で、参照電極260は、接地端子900に直接接続される(従来の装置と同様の構成)。この点、フローセル型ISEの構成が、従来の構成と略同一となるので、従来の装置と高いレベルで互換性を維持することができる。
【0074】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることもできる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることもできる。また、各実施例の構成の一部について、他の構成を追加・削除・置換することもできる。
【0075】
上記の制御装置及び計測制御装置などの機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、ファイルなどの情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVDなどの記録媒体に置くことができる。また、上記の各構成などは、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。
【0076】
上述の実施の形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていてもよい。