特許第6890798号(P6890798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6890798
(24)【登録日】2021年5月28日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20210607BHJP
   A61K 35/02 20150101ALI20210607BHJP
   A61K 31/194 20060101ALI20210607BHJP
   A61K 36/06 20060101ALI20210607BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20210607BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20210607BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210607BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20210607BHJP
   A23L 33/00 20160101ALI20210607BHJP
   A23L 31/00 20160101ALI20210607BHJP
【FI】
   A61K33/00
   A61K35/02
   A61K31/194
   A61K36/06 Z
   A61P1/04
   A61P29/00
   A61P43/00 121
   A23L33/16
   A23L33/00
   A23L31/00
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-77082(P2017-77082)
(22)【出願日】2017年4月7日
(65)【公開番号】特開2018-177667(P2018-177667A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年4月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 研究集会名:The International Society for Nutraceuticals and Functional Foods(訳:栄養補助食品・機能性食品国際学会) 開催日:平成28年10月9日〜13日
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】300081361
【氏名又は名称】吾妻化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 精吾
(72)【発明者】
【氏名】賈 慧娟
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久典
【審査官】 古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−542655(JP,A)
【文献】 特開2015−143242(JP,A)
【文献】 特開2016−169168(JP,A)
【文献】 特開2014−24825(JP,A)
【文献】 特開平11−335656(JP,A)
【文献】 特開平5−58761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 35/00−35/768
A61K 36/00−36/9068
A61P 1/00−43/00
A23L 31/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトの焼成物、貝殻の焼成物、クエン酸及び紅麹を含む炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物。
【請求項2】
組成物100重量%中、ゼオライトの焼成物及び貝殻の焼成物を合計して20重量%〜80重量%、クエン酸を20重量%〜40重量%、紅麹を10重量%〜30重量%含む請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物。
【請求項3】
ゼオライトの焼成物と貝殻の焼成物の配合比が、5:95〜20:80(重量比)である請求項1又は2に記載の炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物。
【請求項4】
医薬である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物。
【請求項5】
栄養補助食品である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物。
【請求項6】
食品である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クローン病(CD)、潰瘍性大腸炎(UC)及び不確定性大腸炎(IC)を含む炎症性腸疾患(IBD)は、胃腸管の慢性、寛解性及び炎症性の障害を特徴とする。IBDの病因は完全に解明されていないが、複数の環境因子の相互作用、腸内細菌叢の変化、遺伝的素因の多様な性質、及び免疫系応答を含むことが徐々に明らかになっている。IBDを予防し、又は完全に治癒させる有効な治療法はまだなく、患者はIBD症状に苦しみ続け、再発する傾向がある。そのため、炎症性腸疾患を有効に予防又は治療可能な医薬等の組成物の開発が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、上記従来の状況に鑑み、炎症性腸疾患を有効に予防又は治療し得る組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ゼオライトの焼成物、貝殻の焼成物、クエン酸及び紅麹を必須成分とする混合物を摂取することで、各成分の相互作用により炎症性腸疾患の症状が改善することを見い出し、発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
【0005】
(1)ゼオライトの焼成物、貝殻の焼成物、クエン酸及び紅麹を含む炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物。
(2)組成物100重量%中、ゼオライトの焼成物及び貝殻の焼成物を合計して20重量%〜80重量%、クエン酸を20重量%〜40重量%、紅麹を10重量%〜30重量%含む上記(1)に記載の炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物。
(3)ゼオライトの焼成物と貝殻の焼成物の配合比が、5:95〜20:80(重量比)である上記(1)又は(2)に記載の炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物。
(4)医薬である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物。
(5)栄養補助食品である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物。
(6)食品である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の組成物は、医薬として対象に投与し、あるいは栄養補助食品又は食品として摂取することにより、クローン病(CD)、潰瘍性大腸炎(UC)、不確定性大腸炎(IC)等の炎症性腸疾患(IBD)を有効に予防又は治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】各群の体重減少率の変化を示すグラフである。
図1B】各群の血便の変化を示すグラフである。
図1C】各群の下痢程度の変化を示すグラフである。
図1D】各群の疾患活性指数(DAI)値の変化を示すグラフである。
図1E】各群の大腸の長さを示すグラフである。
図1F】各群の相対的な腸間膜脂肪重量を示すグラフである。
図1G】各群の相対的な後腹膜脂肪重量を示すグラフである。
図1H】各群の大腸MPO活性を示すグラフである。
図1I】各群の大腸のヘマトキシリン及びエオシン染色切片の顕微鏡写真である。
図2A】各群のインターロイキン12b遺伝子(Il12b)の発現量を示すグラフである。
図2B】各群のインターロイキン12受容体サブユニットベータ1遺伝子(Il12rβ1)の発現量を示すグラフである。
図2C】各群のシグナルトランスデューサー及び転写活性化因子4遺伝子(Stat4)の発現量を示すグラフである。
図2D】各群のインターフェロンガンマ遺伝子(Ifnγ)の発現量を示すグラフである。
図2E】各群のトール様受容体5遺伝子(Tlr5)の発現量を示すグラフである。
図2F】各群のインターロイキン1ベータ遺伝子(IL1β)の発現量を示すグラフである。
図2G】各群の腫瘍壊死因子-α遺伝子(Tnfα)の発現量を示すグラフである。
図2H】各群のインターロイキン6遺伝子(Il6)の発現量を示すグラフである。
図2I】各群のアポトーシス関連腫瘍抑制因子p53遺伝子(P53)の発現量を示すグラフである。
図2J】各群のインスリン様増殖因子結合タンパク質3遺伝子(Igfbp3)の発現量を示すグラフである。
図2K】各群のインスリン様成長因子1遺伝子(Igf1)の発現量を示すグラフである。
図3】DSS誘発性大腸炎におけるHYの摂取により変動した炎症性腸疾患経路の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物は、ゼオライトの焼成物、貝殻の焼成物、クエン酸及び紅麹を含むことを特徴とする。この組成物は、腸内の炎症状態を改善し、アポトーシスを抑制し、さらに大腸粘膜の上皮防御機能及びバリア機能を維持する機能を有するため、炎症性腸疾患の予防又は治療に用いることができる。
【0009】
上記ゼオライトとしては、天然物あるいは合成物のいずれでも良い。ゼオライトの構造は多様であるが公知のものはいずれも適用可能である。この構造としては、例えば、A型、X型、Y型、β型、ZSM-5等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0010】
ゼオライトの焼成物は、上記ゼオライトを公知の手法を適宜採用し焼成することで得ることができる。焼成条件は、例えば200℃〜900℃で10時間〜20時間とすることができる。好ましくは230℃〜880℃で15±2時間である。また、焼成は、セラミック炉を用いて行うことが好ましい。
【0011】
ゼオライトは、必要に応じて、焼成前に粉砕することができる。あるいは、焼成後に粉砕しても良い。粉砕後の粒径は、得られる炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物の十分な均一性が確保されるように、5μm〜15mm、特に5μm〜10μmとすることが好ましい。
【0012】
本発明の組成物に用いられる貝殻としては、牡蠣、ホタテ貝、ホッキ貝、アサリ、ハマグリ、アワビ、サザエ、ムール貝、アコヤ貝、シジミ等が挙げられる。これらはいずれか一種を単独で、もしくは複数種を組み合わせて用いることができる。その中でも、環境負荷を下げ、生物多様性を保全し、資源を有効利用する観点から、食用残渣として多量に発生するために入手が容易であり、かつ貝殻自体が比較的柔らかく粉砕が容易である牡蠣殻が好ましく用いられる。
【0013】
上記貝殻は、必要に応じて、付着物を除去するための前処理を施すことができる。この前処理工程は特に限定されるものではないが、例えば海中に1年間暴露し、付着物質を遊離、分解する工程等が挙げられる。
【0014】
貝殻の焼成物は、上記貝殻を公知の手法を適宜採用し焼成することによって得ることができる。焼成条件は、例えば200℃〜900℃で10時間〜20時間である。好ましくは230℃〜880℃で15±5時間であるがこれに限定されるものではない。また、焼成は、セラミック炉で行うことが好ましい。
【0015】
貝殻は、必要に応じて、焼成前に粉砕処理に付すことができる。あるいは、焼成した後に粉砕しても良い。粉砕工程は特に限定されるものではないが、環境負荷を低減し、製造コストを低減するために、乾式粉砕方式により行うことが好ましい。粉砕後の粒径は、得られる炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物の十分な均一性が確保されるように、5μm〜15mm、特に5μm〜10μmとすることが好ましい。
【0016】
クエン酸としては、示性式がH3(C6H5O7)で表される一般的なクエン酸の他、クエン酸塩も適用可能である。クエン酸塩としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム等が挙げられる。クエン酸ナトリウムとしては、例えば、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸水素ナトリウム等が挙げられ、クエン酸カリウムとしては、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸水素カリウム等が挙げられ、クエン酸カルシウムとしては、クエン酸一カルシウム、クエン酸二カルシウム、クエン酸三カルシウム、クエン酸水素カルシウム等が挙げられるが、いずれも用いることができる。また、上記各種のクエン酸は、いずれか一種を単独で、あるいは複数種を組み合わせて配合することができる。
【0017】
紅麹は、一般的に赤色色素を産生するモナスカス(Monascus)属菌を蒸米に生育させた米麹であり、古くから紅酒、紅腐乳、漬物等の原料として使用されているものを適宜選択して用いることができる。
【0018】
さらに、本発明の炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物には、必要に応じて、固結防止剤が添加されていても良い。固結防止剤の例としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。また、組成物中のステアリン酸カルシウム等の固結防止剤の配合量は、多過ぎると組成物中のゼオライト等の必須成分の相対量が低下し、炎症性腸疾患の予防又は治療効果が得られないため、この点を考慮して適宜設定される。
【0019】
以上の各成分を公知の手段を採用して混合することにより、炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物を得ることができる。各成分の配合比は、特に限定されるものではないが、炎症性腸疾患に対する予防・治療効果は、各成分の相乗作用によるため、各成分の機能が十分に発揮されるようバランスを考慮して適宜設定される。具体的には、組成物100重量%中、ゼオライトの焼成物及び貝殻の焼成物を合計して20重量%〜80重量%、クエン酸を20重量%〜40重量%、紅麹を10重量%〜30重量%含むことが好ましい。
【0020】
また、ゼオライトの焼成物及び貝殻の焼成物は、別々に組成物に添加しても良いし、ゼオライトの焼成物及び貝殻の焼成物を一緒にした混合物の状態で、それ以外の成分と混合しても良い。ゼオライトの焼成物と貝殻の焼成物の配合比は、ゼオライトの焼成物が少な過ぎると、還元率が低くなるため不適であり、また貝殻の焼成物の焼成物が少な過ぎてもやはり還元率が低くなるため、これらのバランスを考慮して適宜設定される。例えば、ゼオライトの焼成物と貝殻の焼成物の配合比を、5:95〜20:80(重量比)とすることが好ましい。
【0021】
炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物には、ゼオライトの焼成物等の前記必須成分以外に、種々の任意成分を含有することができる。このような成分としては、組成物の態様によっても異なるが、例えば、賦形剤、矯味剤、矯臭剤、結合剤、甘味剤、酸味剤、分散剤、乳化剤、着色剤、保存料、抗酸化剤、安定剤等を挙げることができる。これら任意成分の配合量は、組成物100重量%中、合計して3重量%以下とすることが好ましい。
【0022】
以上のようにして得られた組成物は、炎症性腸疾患を予防し、治療する効果を有しており、医薬として利用することができる。炎症性腸疾患の予防又は治療用の医薬として用いる場合、その形態は特に制限されるものではなく、投与方法や適用される炎症性腸疾患の状態等の条件に応じて、錠剤、カプセル、散剤、顆粒剤、ドリンク剤等の種々の形態の中から適宜選択することができる。本発明の組成物は、そのまま医薬として用いることができ、あるいは、必要に応じて担体、希釈剤もしくは賦形剤等の通常の添加物と組み合わせて医薬としても良い。
【0023】
炎症性腸疾患の予防又は治療用医薬組成物としての摂取もしくは投与量は、治療上有効量であり、炎症性腸疾患の症状等によって異なり一概にはいえないが、体重60kgの成人の場合、1日当たり上記組成物の量として通常1440mg以上、好ましくは2880mg以上である。投与量の上限は特に限定されるものではないが、4000mg未満とすることが好ましい。また、本発明の医薬は、公知の他の治療剤と併用することもできる。
【0024】
医薬を投与する対象は、ヒト以外にも、非ヒト動物、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類等に対して適用可能である。
【0025】
また、本発明の組成物は、炎症性腸疾患の予防又は治療効果を有する食品や栄養補助食品として用いることができる。食品としては、特に制限はなく、例えば、各種の清涼飲料水、果汁飲料、和洋菓子、乳製品その他の畜産加工品、果実加工品、野菜加工品、穀物の加工品、水産加工品、調味料等、数多くの食品が挙げられる。また、栄養補助食品としては、例えば、液剤の形態のもの又は錠剤等の形態のものとして提供することができる。この場合、食品又は栄養補助食品中の組成物の添加量は、特に限定されるものではないが、概ね通常成人1日当たりの炎症性腸疾患の予防又は治療用組成物の摂取量として約1440mg〜2880mgとなるように添加することが好ましい。
【0026】
さらに、本発明の組成物は、炎症性腸疾患の予防又は治療効果を有し、安全性に優れたものであるため、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、イヌ、ネコ、小鳥、リス等に用いるペットフード等に配合しても良い。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
以下に示すように、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発大腸炎のマウスモデルの大腸粘膜組織を用いて、トランスクリプトーム及びプロテオーム等のニュートリジェノミックス法及び生化学的解析により、本発明に係る組成物の炎症性腸疾患の改善効果を調べた。
【0029】
1.実験
(1)組成物の調製
天然ゼオライトを650℃で15時間焼成し、15μm以下に粉砕した。同様に、牡蠣殻を700℃で17時間焼成し、15μm以下に粉砕した。続いて、ゼオライトの焼成物と牡蠣殻の焼成物を混合し、得られた混合物を温水にて十分にイオン交換させ、高温で水分を除去した。ゼオライトの焼成物と牡蠣殻の焼成物の配合比は、1:9(重量比)とした。次に、ゼオライトの焼成物及び牡蠣殻の焼成物の上記混合物を47.6重量%、クエン酸(33.3重量%)、紅麹(Monascus)(16.7重量%)及び固結防止剤としてステアリン酸カルシウム(2.4重量%)を混合し、目的の組成物(以下「ゼオライト含有組成物」又は「HY」と呼ぶ)を調製した。
【0030】
(2)動物及び餌食処理
Charles River Japan(Tokyo、Japan)から入手した7週齢雄性C57BL6マウスを、制御された温度(23±2℃)、相対湿度(50%〜60%)、実験全体を通じて12時間ダーク/ライトサイクルの照明条件で個々のケージに収容した。3日間の馴化後、各群が6〜8匹のマウスからなる、等しい平均体重を有する4つの群に割り当てた。(1)HY8群は、0.8重量%のゼオライト含有組成物(HY)の粉末を添加したAIN-93G基本飼料と滅菌水道水を実験全体を通じて摂取させた。(2)CON群は、AIN-93G基本飼料と滅菌水道水を実験全体を通じて摂取させた。(3)DSS群は、AIN-93G基本飼料及び滅菌水道水を11日間与えた後、1.5重量%のDSS(DSS分子量:40kDa;MP Biomedicals、Irvine、CA、USA)含有滅菌水道水を9日間与えた。(4)DHY8群は、0.8重量%のHY粉末を添加したAIN-93G基本飼料と滅菌水道水を11日間与えた後、1.5重量%DSS含有滅菌水道水を9日間与えた。餌の組成を表1に示す。この実験における0.8重量%のHYの配合量は、予備実験に基づいて決定した。なお、この実験は、東京大学の動物用ケア及び使用委員会によって承認された(承認番号P13-739)。
【0031】
【表1】
【0032】
(3)疾患活性指数の評価
疾患活性指数(DAI)は、DSSをマウスに与えた後の3つのスコア(体重減少、血便、及び下痢)の平均値である。スコアの基準は次の通りである:体重減少率(0:<1%、1:1〜5%、2:5〜10%、3:10〜15%、4:>15%)、血便(0:血便なし、2:++、4:+++)及び下痢程度(0:正常、2:軟質、4:下痢)。
【0033】
(4)採血と組織採取
実験の終了時に、ペントバルビタールナトリウムで全てのマウスを深く麻酔した後、頸動脈から出血させた。得られた血液を1000g、15分間4℃で遠心分離して血漿を得た。大腸長は、回腸と盲腸接合部と近位直腸との間で測定され、また、この測定値は大腸炎の程度の基準の1つとして使用した。肝臓、切除された大腸、腸間膜脂肪及び後腹膜脂肪組織を液体窒素中で急速凍結し、分析時まで-80℃で保存した。
【0034】
(5)生化学検査
大腸ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性は、MPO Activity Colorimetric Assayキット(BioVision、Palo Alto、CA、USA)を製造元のマニュアルに従って使用し、比色法により測定した。
【0035】
(6)大腸組織学
各大腸スライスをOCT(Optimal Cutting Temperature)化合物(Sakura Finetek、Torrance、CA、USA)に包埋し、次いで液体窒素中で急速冷凍した。各5μm厚の組織切片を作り、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色し、次いで光学顕微鏡(オリンパスBX51顕微鏡、Olympus Optical、Tokyo、Japan)でスキャンした。
【0036】
(7)全RNA抽出と品質評価
全RNA分離キットNucleoSpin(登録商標)RNA plus(Macherey-Nagel、Duren、Germany)を使用して、製造元の指示に従って大腸粘膜から全RNAを抽出した。RNAの濃度及び純度は、NanoDrop ND-1000分光光度計(NanoDrop Technologies、Wilmington、DE、USA)を用いて測定した。
【0037】
(8)トランスクリプトーム解析
(i)DNAマイクロアレイ調製
各群の個々のマウスからの大腸RNAサンプルをプールし(n=6〜8)、その後、ゲノム全体発現のプロファイリングのために、プローブが40,000を超えるAffymetrix Mouse Genome 430 2.0 Array Genechips(Affymetrix、Santa Clara、CA、USA)を用いてマイクロアレイ分析を行った。
(ii)マッピングと機能解析
Microarray Suite ver.5.0ソフトウェア(Affymetrix)を利用し画像をスキャンした後、DSS群とCON群及びDHY8群とDSS群の遺伝子発現を比較した。1.5倍を超える発現比を有意な発現とみなした。
【0038】
(9)逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
遺伝子の発現を確認するために、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を実施した。そのプライマー配列を表2に示す。それぞれの遺伝子の発現レベルを、大腸粘膜における60S酸性リボソームタンパク質p1(Rplp1)の発現に対して正規化した。
【0039】
【表2】
【0040】
(10)プロテオーム分析のためのタンパク質準備、iTRAQラベリング及びNanoLC-MS/MS分析
溶解緩衝液を用いて大腸粘膜からタンパク質を抽出し、次いでそれを12,000g、4℃、30分間で遠心分離した。タンパク質濃度はBradfordアッセイにより測定した。4-plex iTRAQラベリングキット(AB Sciex、Framingham、MA、USA)のマニュアルに従って、システインブロッキング及び消化のためにタンパク質(100μg)をプールし、次に質量分析計(NanoLC-MS/MS;AB Sciex)に連結されたナノスケール液体クロマトグラフィーによるさらなる分析のために、以下のようにアイソバリックタグで標識した。CON:115タグ、DSS:114タグ、DHY8:116タグ。
【0041】
(11)統計分析
データは、平均値±標準誤差(SE)として示し、二元配置分散分析(ANOVA)により分析した。有意差が、p<0.05のレベルをTukey法で評価した。グラフ中、a、b、cの符号は、異符号間に統計的に有意差があることを示しており、p≦0.05:有意差あり、0.05<p<0.1:傾向あり、としている。
【0042】
2.結果
(1)一般的な特性
DHY8群とDSS群の摂食量に有意差は認められなかったが、CON群とDSS群で摂食量に有意な差が認められた(DHY8:76.4±3.3g、DSS:73.1±1.7g、CON:82.8±3.5g、HY8:76.7±2.6g)。HY8群とDSS群(HY8:84.8±2.3ml、DSS:70.3±2.1ml、CON:73.7±1.9ml、DHY8:72.2±1.4ml)の間で水分摂取に有意差があった。DSS投与後に体重減少、血便及び下痢程度が変化し、CON群と比較してDAI値が有意に増加した。HYの摂取により、体重減少は改善され、IBDの病態が抑制された。これは第6〜9日のDAI値によっても示された(図1A図1D)。DSSにより誘発された大腸長の短縮及び腸間膜脂肪重量の減少、大腸MPO活性の増加は、HY摂取により改善される傾向があったが、後腹膜脂肪組織の重量には変化がなかった(図1E図1H)。
【0043】
(2)大腸組織学
DSSは粘膜上皮細胞の構造的な障害を誘発し、粘膜及び粘膜下組織への炎症細胞の浸潤が増加する可能性がある。HY摂取により、炎症細胞の浸潤は減少し、粘膜上皮細胞の構造的な障害が改善された(図1I)。
【0044】
(3)大腸マイクロアレイ分析
合計5,238個の遺伝子が有意に発現し、そのうち2,300個がDSSマウスと比較してDHY8マウスで有意にアップレギュレートされ、CONマウスと比較してDSSマウスでダウンレギュレートされた。一方、2,938個の遺伝子がDSS群と比較してDHY8群で顕著にダウンレギュレーションされ、DSS群ではCON群と比較してアップレギュレートされた。
【0045】
HYの摂取は、炎症性腸疾患経路に関連する遺伝子の発現を抑制し、その中にはインターロイキン12b(Il12b)(図2A)、シグナルトランスデューサー及び転写活性化因子4(Stat4)(図2C)、インターフェロンガンマ(Ifnγ)(図2D)、インターロイキン1ベータ(IL1β)(図2F)、腫瘍壊死因子-α(Tnfα)(図2G)、インターロイキン6(Il6)(図2H)、アポトーシス関連腫瘍抑制因子p53(P53)(図2I)、ケモカインリガンドファミリー(Cxcl)のメンバー:Cxcl1、Cxcl2、Cxcl3、Cxcl10、Cxcl12、及びCxcl17、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド(Ccl):Ccl4及びCcl24、並びに上皮維持関連遺伝子である表皮成長因子受容体(Egfr)が含まれる。DSS群と比較して、Trefoilファミリー因子2(Tff2)及びインスリン様成長因子1(Igf1)(図2K)はDHY8群においてアップレギュレートされていた。なお、参考までに、各群のインターロイキン12受容体サブユニットベータ1遺伝子(Il12rβ1)、トール様受容体5(Tlr5)及びインスリン様増殖因子結合タンパク質3(Igfbp3)の発現量をそれぞれ図2B図2E及び図2Jに示す。
【0046】
(4)iTRAQによるプロテオーム解析
iTRAQを用いたプロテオーム解析により5,000を超えるタンパク質が確認された。発現比が1.5倍を超えるタンパク質を変動があったタンパク質とみなし、この基準により、668のタンパク質が変動しており、そのうち332はDSS群と比較してDHY8群でアップレギュレーションされ、CONと比較してDSS群でダウンレギュレーションされていた。DSS群と比較してDHY8群でダウンレギュレーションされたが、CONと比較してDSSマウスではアップレギュレートされたタンパク質は336あった。
【0047】
HYの摂取は、以下のタンパク質をアップレギュレートした:癌に関与するタンパク質としてペリオスチン(Postn);血漿細胞誘導小胞体タンパク質(Perp1)及びガレクチン2(Leg2);抗アポトーシス関連タンパク質としてBCL2関連アタノゲン3(Bag3)、RNA結合モチーフタンパク質3(Rbm3)及びフェリチン重鎖(Fhc);腸運動性関連タンパク質としてホスファターゼ1調節阻害剤サブユニット14A(Pp14a);腸粘膜保護及び上皮ホメオスタシス関連タンパク質として上皮細胞接着分子(Epcam)、テネイシンC(Tena)及びタンパク質ノーム相同体のイソ型71kDa(Numb)。
【0048】
一方、HYの摂取は、以下のタンパク質をダウンレギュレートした:炎症度関連のタンパク質ハプトグロビン(Hpt)、補体成分3(Co3)、ミエロペルオキシダーゼ(Perm)、アネキシンA2(Anxa2)及び熱ショックタンパク質ファミリーAメンバー4(Hsp74);アポトーシスに関与するタンパク質ケラチン20(K1c20)、ピリミジン性エンドデオキシリボヌクレアーゼ1(Apex1)、カスパーゼ-7(Casp7)、及びカスパーゼ-3(Casp3);大腸直腸癌のバイオマーカータンパク質である異種核リボ核タンパク質U(Hnrpu)。これらの結果を表3にまとめて示す。
【0049】
【表3】
【0050】
3.考察
マイクロアレイ分析では、HYの摂取が以下の炎症性腸疾患経路:Il12posIl12rβ1posStat4posIfngposTlr5posTnfα/Il6/Il1βに関与する遺伝子の発現を抑制することによりマウスの炎症状態を改善したことが明らかになった。図3は、DSS誘発性大腸炎におけるHYの摂取により変動した炎症性腸疾患経路の模式図である。この経路では、Stat4チロシンリン酸化はIL12により誘導される。これはサイトカインIFNγのT細胞非依存性誘導に必要であり、次いでTLR刺激に応答して、リンパ系細胞及び非リンパ系細胞の両方が前炎症性サイトカインIL6を産生することができる。これは、TNFα及びIL1βとともに、主要な前炎症性サイトカインであると考えられている。炎症性腸疾患経路のダウンレギュレーションは、主に、DSSにより誘発される前炎症性サイトカインのレベルの低下をもたらし、HY摂取による炎症度の軽減をもたらす。
【0051】
上記の炎症誘発性サイトカインレベルの低下は、以下の3つのマーカータンパク質の発現により反映され得る。(1)Pp14a(Cpi-17)のアップレギュレーション:Pp14a(Cpi-17)は平滑筋ミオシンホスファターゼの阻害剤であり、慢性炎症性腸疾患により誘導されるIL1β又はTNFαのアップレギュレーションによって抑制され、その後に機能不全が誘導される(Ohama, T.; Hori, M.; Momotani, E.; Iwakura, Y.; Guo, F.; Kishi, H.; Kobayashi, S.; Ozaki, H. Intestinal inflammation downregulates smooth muscle cpi-17 through induction of tnf-alpha and causes motility disorders. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2007, 292, G1429-1438.及びOhama, T.; Hori, M.; Sato, K.; Ozaki, H.; Karaki, H. Chronic treatment with interleukin-1beta attenuates contractions by decreasing the activities of cpi-17 and mypt-1 in intestinal smooth muscle. J Biol Chem 2003, 278, 48794-48804.)。(2)Hptのダウンレギュレーション:HptはIL6、IL1β及びTNFαのような前炎症性サイトカインによって誘導され得るヘモグロビン結合能を有する急性期α-シアロ糖タンパク質である(Vanuytsel, T.; Vermeire, S.; Cleynen, I. The role of haptoglobin and its related protein, zonulin, in inflammatory bowel disease. Tissue Barriers 2013, 1, e27321.)。(3)Hsp74のダウンレギュレーション:Hsp74は炎症によって誘導され、炎症細胞のアポトーシスの阻害をもたらし、Bcl-2及びIl-12発現を増加させることによって免疫応答を増強する(Adachi, T.; Sakurai, T.; Kashida, H.; Mine, H.; Hagiwara, S.; Matsui, S.; Yoshida, K.; Nishida, N.; Watanabe, T.; Itoh, K., et al. Involvement of heat shock protein a4/apg-2 in refractory inflammatory bowel disease. Inflamm Bowel Dis 2015, 21, 31-39.)。
【0052】
以下の3つのタンパク質の変動はHY摂取による炎症の改善を示した。(1)Perp1のアップレギュレーション:Perp1はTh1/Th2のバランスを制御し、IL6、IL1β及びTNFα等の前炎症性サイトカインの分泌を減少させることによって、抗炎症において重要な役割を果たす。Perp1は腸上皮の防御機構の維持にも関与しているため、Perp1の欠損は腸の上皮細胞を損傷させる(Azuma, Y.T.; Hagi, K.; Shintani, N.; Kuwamura, M.; Nakajima, H.; Hashimoto, H.; Baba, A.; Takeuchi, T. Pacap provides colonic protection against dextran sodium sulfate induced colitis. J Cell Physiol 2008, 216, 111-119.)。(2)Co3のダウンレギュレーション:補体系の活性化に重要な役割を果たす。Co3発現の減少は、浸潤性好中球(IL1βの主要産生者である)を減少させ、したがって腫瘍抑制として機能する(Ning, C.; Li, Y.Y.; Wang, Y.; Han, G.C.; Wang, R.X.; Xiao, H.; Li, X.Y.; Hou, C.M.; Ma, Y.F.; Sheng, D.S., et al. Complement activation promotes colitis-associated carcinogenesis through activating intestinal il-1beta/il-17a axis. Mucosal Immunol 2015, 8, 1275-1284.)。(3)Anxa2の発現の減少:Anxa2発現の減少はIBDにおけるTNFα排出を予防することによって、前炎症性サイトカインであるTNFαをダウンレギュレートすることができる(Tanida, S.; Mizoshita, T.; Ozeki, K.; Katano, T.; Kataoka, H.; Kamiya, T.; Joh, T. Advances in refractory ulcerative colitis treatment: A new therapeutic target, annexin a2. World J Gastroenterol 2015, 21, 8776-8786.)。HY摂取によって著しく変化した遺伝子及び誘導された相関的なタンパク質に関する知見を踏まえて、HYの摂取は、主に炎症性腸疾患経路並びに相関的な遺伝子及びタンパク質を抑制することによりDSS誘発性炎症を改善し、次いで前炎症性サイトカイン遺伝子Il6、Il1β及びTnfαの発現を抑制することが明らかとなった。
【0053】
HYの抗炎症効果に加えて、HYの摂取は、アポトーシスを改善し、細胞周期を調節し、上皮細胞の防御機能を維持し、大腸粘膜のバリア機能を維持することによってDSS誘発性大腸炎を緩和し得る。マイクロアレイ分析は、アポトーシス関連遺伝子P53が、HY摂取によって有意にダウンレギュレーションされることを示した。P53遺伝子に関して、陽性発現がアポトーシスにつながるP53posIgfbp3negIgf1経路を調べた。しかし、遺伝子Igfbp3の発現は、DSS群とDHY8群との間で有意差がなかった。プロテオーム分析によって明らかにされたマトリクス細胞のタンパク質Postnのアップレギュレーションは、その過剰発現がP53のダウンレギュレーションを引き起こす可能性があるという我々の仮説を確認した(Li, B.; Wang, L.; Chi, B. Upregulation of periostin prevents p53-mediated apoptosis in sgc-7901 gastric cancer cells. Mol Biol Rep 2013, 40, 1677-1683.)。HYの摂取がPostnをアップレギュレーションし、次いでP53の発現を阻害し、アポトーシスが抑制され、細胞増殖及び細胞周期が改善されたものと考えられる。さらに、P53のダウンレギュレーションは、DNA損傷分子の産生を減少させ、炎症、アポトーシスによる細胞喪失を改善する(Spehlmann, M.E.; Manthey, C.F.; Dann, S.M.; Hanson, E.; Sandhu, S.S.; Liu, L.Y.; Abdelmalak, F.K.; Diamanti, M.A.; Retzlaff, K.; Scheller, J., et al. Trp53 deficiency protects against acute intestinal inflammation. J Immunol 2013, 191, 837-847.)。P53の発現の減少は、HYの抗アポトーシス機能を示すだけでなく、DSSによって誘発される炎症状態を改善し得ることが分かった。
【0054】
さらに、以下の3つのタンパク質のアップレギュレーションは、アポトーシスの改善をもたらす:Bag3はインビトロでのBcl-2によるアポトーシスを抑制し、細胞死を抑制し、胃腸機能を調節することによって細胞の生存を維持することができる(Lee, Y.D.; Yoon, J.S.; Yoon, H.H.; Youn, H.J.; Kim, J.; Lee, J.H. Expression of bis in the mouse gastrointestinal system. Anat Cell Biol 2012, 45, 160-169.)。Rbm3の欠損は、細胞増殖に必要な重要なタンパク質が欠乏するため、有糸分裂障害を引き起こす可能性がある(Hjelm, B.; Brennan, D.J.; Zendehrokh, N.; Eberhard, J.; Nodin, B.; Gaber, A.; Ponten, F.; Johannesson, H.; Smaragdi, K.; Frantz, C., et al. High nuclear rbm3 expression is associated with an improved prognosis in colorectal cancer. Proteomics Clin Appl 2011, 5, 624-635.及びSureban, S.M.; Ramalingam, S.; Natarajan, G.; May, R.; Subramaniam, D.; Bishnupuri, K.S.; Morrison, A.R.; Dieckgraefe, B.K.; Brackett, D.J.; Postier, R.G., et al. Translation regulatory factor rbm3 is a proto-oncogene that prevents mitotic catastrophe. Oncogene 2008, 27, 4544-4556.)。Fhcは鉄分封鎖(活性酸素種の蓄積に関連する)によるマイトジェン活性化プロテインキナーゼ8(Mapk8)の活性化を阻害することによってアポトーシスに拮抗する必須のメディエーターとして機能し、TNFαによって誘導されるアポトーシスを抑制する(Pham, C.G.; Bubici, C.; Zazzeroni, F.; Papa, S.; Jones, J.; Alvarez, K.; Jayawardena, S.; De Smaele, E.; Cong, R.; Beaumont, C., et al. Ferritin heavy chain upregulation by nf-kappab inhibits tnfalpha-induced apoptosis by suppressing reactive oxygen species. Cell 2004, 119, 529-542.)。
【0055】
マイクロアレイ分析によるMapk8(DSS対CON:1.49、DHY8対DSS:0.07)のダウンレギュレーションの結果と、TnfαのPCRの結果より、HYの摂取は経路FhcnegMapk8posTnfαを促進することによってアポトーシスを抑制することが推測された。3つのアップレギュレートされたタンパク質に加えて、以下の別の3つのアポトーシス関連タンパク質のダウンレギュレーションは、上記推測をさらに裏付けるものと思われる。すなわち、Apex1は酸化的損傷を修復する能力の低下を介して、DNA修復プロセスに影響を及ぼすことにより、アポトーシスの速度を促進し、UCのリスクを増加させ損傷したDNAの収集につながる可能性がある(Bardia, A.; Tiwari, S.K.; Gunisetty, S.; Anjum, F.; Nallari, P.; Habeeb, M.A.; Khan, A.A. Functional polymorphisms in xrcc-1 and ape-1 contribute to increased apoptosis and risk of ulcerative colitis. Inflamm Res 2012, 61, 359-365.及びMort, R.; Mo, L.; McEwan, C.; Melton, D.W. Lack of involvement of nucleotide excision repair gene polymorphisms in colorectal cancer. Br J Cancer 2003, 89, 333-337.)。Casp3の過剰発現は、アポトーシスの増加及び増殖能の低下をもたらすことも報告されている(Deng, Q.J.; Deng, D.J.; Che, J.; Zhao, H.R.; Yu, J.J.; Lu, Y.Y. Hypothalamic paraventricular nucleus stimulation reduces intestinal injury in rats with ulcerative colitis. World J Gastroenterol 2016, 22, 3769-3776.)。K1c20は小腸杯細胞のマーカーであり、アポトーシス及び組織損傷によって誘導され得る(Zhou, Q.; Cadrin, M.; Herrmann, H.; Chen, C.H.; Chalkley, R.J.; Burlingame, A.L.; Omary, M.B. Keratin 20 serine 13 phosphorylation is a stress and intestinal goblet cell marker. J Biol Chem 2006, 281, 16453-16461.)。
【0056】
以下2つの別の遺伝子の発現は、直接及び間接的に上皮細胞及びバリア機能の維持に非常に重要である可能性がある。AOM/DSS誘発大腸炎でアップレギュレートされるEgfrの活性化は、損傷した上皮細胞の改善及びUCにおける上皮バリア機能の維持に役割を果たす(Shimoda, M.; Horiuchi, K.; Sasaki, A.; Tsukamoto, T.; Okabayashi, K.; Hasegawa, H.; Kitagawa, Y.; Okada, Y. Epithelial cell-derived a disintegrin and metalloproteinase-17 confers resistance to colonic inflammation through egfr activation. EBioMedicine 2016, 5, 114-124.)。本実施例では、HYの摂取によってEgfrの発現が大きくダウンレギュレーションされた。Tff2は胃腸上皮によって発現及び分泌され、上皮の完全性及び粘膜表面の維持に重要な役割を果たすが、HY摂取によってアップレギュレートされた。さらに、Tff2は、IL6及びIL1β等の前炎症性サイトカインの発現を制御することによって、炎症状態での免疫応答において必須である(Kurt-Jones, E.A.; Cao, L.; Sandor, F.; Rogers, A.B.; Whary, M.T.; Nambiar, P.R.; Cerny, A.; Bowen, G.; Yan, J.; Takaishi, S., et al. Trefoil family factor 2 is expressed in murine gastric and immune cells and controls both gastrointestinal inflammation and systemic immune responses. Infect Immun 2007, 75, 471-480.)。
【0057】
本実施例において、HYによってもたらされるEgfr及びTff2発現の変化は、DSSによって誘導された上皮細胞の損傷と、それによって誘導される腸管での病変及びバリア細胞の透過性の改善を示した。DSSによって損傷された杯細胞の状態がDSSマウスと比較してDHY8マウスにおいて緩和されたことを示す大腸組織学的な結果により、上記の知見は裏付けられた。さらに、Tff2欠損は体重減少をもたらすことが報告されており(Judd, L.M.; Chalinor, H.V.; Walduck, A.; Pavlic, D.I.; Dabritz, J.; Dubeykovskaya, Z.; Wang, T.C.; Menheniott, T.R.; Giraud, A.S. Tff2 deficiency exacerbates weight loss and alters immune cell and cytokine profiles in dss colitis, and this cannot be rescued by wild-type bone marrow. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2015, 308, G12-24.)、HY摂食によって誘導されるTff2のアップレギュレーションは体重減少の改善と一致しているようである。
【0058】
上記プロテオーム分析の結果に基づいて、HYが、以下のタンパク質をアップレギュレートすることによって上皮保護に寄与した可能性があることが推測された。Epcamは腸の正常な構造の形成及びCa2+非依存性の同型細胞間接着の制御に役割を果たし、IBD患者ではEpcamの発現がダウンレギュレートされることにより下皮細胞との接触を失い、浸透性が増し、浸透する細菌産物が増える(Furth, E.E.; Li, J.; Purev, E.; Solomon, A.C.; Rogler, G.; Mick, R.; Putt, M.; Zhang, T.; Somasundaram, R.; Swoboda, R., et al. Serum antibodies to epcam in healthy donors but not ulcerative colitis patients. Cancer Immunol Immunother 2006, 55, 528-537.及びBalzar, M.; Prins, F.A.; Bakker, H.A.; Fleuren, G.J.; Warnaar, S.O.; Litvinov, S.V. The structural analysis of adhesions mediated by ep-cam. Exp Cell Res 1999, 246, 108-121.)。細胞外マトリックスタンパク質であるTenaは、細胞移動及びリモデリングを促進、また損傷領域における回復プロセスを加速することにより腸粘膜保護に寄与し得る、さらに、TenaのアップレギュレーションがT細胞活性化を阻害することが示された研究においては、Tenaの抗炎症効果が報告されている(Ruegg, C.R.; Chiquet-Ehrismann, R.; Alkan, S.S. Tenascin, an extracellular matrix protein, exerts immunomodulatory activities. Proc Natl Acad Sci U S A 1989, 86, 7437-7441.)。腸粘膜において主に発現され、細胞運命を決定し得る膜結合タンパク質であるNumbは、頂端接合複合体アセンブリ及びミオシン軽鎖リン酸化に影響することによって傍細胞透過性の調節を介して腸上皮バリア機能の改善をもたらし得る。Numbの欠乏は障壁機能障害を引き起こす可能性がある(Yang, Y.; Chen, L.; Tian, Y.; Ye, J.; Liu, Y.; Song, L.; Pan, Q.; He, Y.; Chen, W.; Peng, Z., et al. Numb modulates the paracellular permeability of intestinal epithelial cells through regulating apical junctional complex assembly and myosin light chain phosphorylation. Exp Cell Res 2013, 319, 3214-3225.)。
【0059】
本実施例では、Epcam、Tena及びNumbのアップレギュレーションにより、粘膜障壁の修復又は保護が増強され、DSSによって誘導される上皮接着及びタイトジャンクションの機能障害が改善されることが示された。上記の結果は、(1)大腸組織分析により上皮細胞が修復され、また、(2)DHY8マウスではDSSマウスと比較して血便及び下痢等の臨床症状が改善した、という観察結果と一致する。
【0060】
HYの成分に関して、RT-PCR結果によれば、ゼオライトはP53の発現を減少させ、Igf1の発現をアップレギュレーションすることによってアポトーシスを改善する役割を果たし、一方、クエン酸は炎症性腸疾患経路を阻害することによって炎症を有意に抑制したことを示している。この観点から、HYの機能は、様々な成分の相互作用の結果であると考えられる。
【0061】
4.結論
前炎症性サイトカインのダウンレギュレーション、トランスクリプトーム及びプロテオーム解析による抗炎症因子の発現の増加により、HYが炎症性腸疾患経路の発現を抑制し、したがってDSS誘発大腸炎における炎症の程度を減少させるものと考えられた。HYは、P53のような相関的な遺伝子を阻害し、他の上皮維持関連遺伝子やタンパク質も大きく変化させることで、DSSに起因する細胞周期障害をある程度改善してアポトーシスを抑制し、粘膜免疫ホメオスタシスを維持するものと考えられる。したがって、統合オミックス分析の結果は、DSS誘発大腸炎に対するHYの効果が、主に炎症状態の改善、アポトーシスの程度の改善、並びに大腸粘膜の上皮防御機能及びバリア機能の維持に基づくことを示しており、HYが、炎症性腸疾患の予防又は治療に有効であることが示唆された。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図2J
図2K
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]