(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長尺体の少なくとも一方の面にその幅方向の両端部を除いてその長手方向に延在する1条以上の帯状の被覆膜を形成する長尺体への印刷方法であって、前記長尺体の幅方向における端から端までのうち前記被覆膜が形成される位置に対応して設けられた凹状部を外周面に全周に亘って備えたグラビアロールを用いて前記被覆膜を形成する塗布液を前記長尺体に印刷することと、前記被覆膜が形成される位置に対応して設けられた凸状部を外周面に全周に亘って備えた膜厚調整ロッドの前記凸状部を前記被覆膜に接触させることで、前記被覆膜の膜厚を調整することと含むことを特徴とする長尺体への印刷方法。
前記1条以上が複数条であり、前記長尺体の幅方向において隣接する被覆膜の間に存在する被覆されていない領域において前記長尺体をその長手方向に切断することを特徴とする、請求項1に記載の長尺体への印刷方法。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯電子文書機器、自動販売機、カーナビゲーション等の電子機器が具備するフラットパネルディスプレイ(FPD)の表面に「タッチパネル」を設置する技術が普及し始めている。「タッチパネル」は、抵抗型と静電容量型に大まかに分類することができ、「抵抗型」のタッチパネルは、樹脂フィルムからなる透明基板と、該基板上に設けられたX座標(またはY座標)検知電極シート及びY座標(またはX座標)検知電極シートと、これらシートの間に設けられた絶縁体スペーサーとで主要部が構成されている。
【0003】
これらX座標検知電極シート及びY座標検知電極シートは通常は絶縁体スペーサーによって離間しているが、ペン等で押さえられたときにその部位で両座標検知電極シートが電気的に接触する。これにより、ペンの触った位置(X座標、Y座標)が検知できるようになっており、ペンを移動させればその都度座標を認識して、最終的に文字の入力が行える仕組みとなっている。
【0004】
他方、「静電容量型」のタッチパネルは、絶縁シートを介してX座標(またはY座標)検知電極シートとY座標(またはX座標)検知電極シートとが積層されており、さらにその上にガラス等の絶縁体が配置された構造を有している。そして、このガラス等の絶縁体に指を近づけた時、その近傍のX座標検知電極とY座標検知電極の電気容量が変化するため、位置検知を行える仕組みになっている。
【0005】
上記した電極シート(電極基板フィルムとも称する)における所定の回路パターンを有する電極用の導電性材料として、従来、特許文献1に開示されているようなITO(酸化インジウム−酸化錫)等の透明導電膜が広く用いられている。また、タッチパネルの大型化に伴い、特許文献2や特許文献3等に開示されているような金属製細線からなるメッシュ構造の金属膜も使用され始めている。
【0006】
上記の透明導電膜と金属製細線(金属膜)とを較べた場合、透明導電膜は、可視波長領域における透過性に優れるため電極等の回路パターンがほとんど視認されない利点を有するが、金属製細線(金属膜)よりも電気抵抗値が高いためタッチパネルの大型化や応答速度の高速化には不向きな欠点を有する。他方、金属製細線(金属膜)は、電気抵抗値が低いためタッチパネルの大型化や応答速度の高速化に向いているが、可視波長領域における反射率が高いため、微細なメッシュ構造に加工しても高輝度照明下において回路パターンが視認されることがあり、製品価値を低下させてしまう欠点を有する。
【0007】
そこで、特許文献4及び特許文献5には電気抵抗値が低い上記金属製細線(金属膜)の特性を生かすため、樹脂フィルムからなる透明基板と金属製細線の金属膜との間に金属酸化物からなる金属吸収層(黒化膜とも称される)を介在させて透明基板側から観測される金属製細線(金属膜)の反射を低減させる方法が開示されている。
【0008】
この金属酸化物からなる金属吸収層を備えた電極シートの作製では、金属酸化物の成膜効率の高効率化を図る観点から、通常、連続的に搬送される長尺樹脂フィルムの表面に反応性ガス雰囲気下で金属ターゲット(金属材)を用いて反応性スパッタリングすることにより金属吸収層を連続成膜した後、不活性ガス雰囲気下で銅等の金属ターゲット(金属材)を用いてスパッタリングすることにより上記金属吸収層上に金属層を連続成膜することが行われており、これにより電極基板フィルムの基材となる積層体フィルムを作製している。そして、これら金属吸収層と金属層とからなる積層膜を塩化第二銅水溶液や塩化第二鉄水溶液等のエッチング液でエッチング処理することで、該積層膜(金属吸収層及び金属層)に電極等の回路パターンをパターニング加工することが行われている。
【0009】
従って、電極基板フィルムの基材となる積層体フィルムは、その積層膜を構成する金属吸収層と金属層とが塩化第二銅水溶液や塩化第二鉄水溶液等のエッチング液によってエッチングされ易い特性と、該エッチングによってパターニング加工された電極等の回路パターンが高輝度照明下において視認され難い特性とを有することが求められている。尚、上記の金属層は電解めっきなどの湿式めっき法を用いることで必要に応じて膜厚化することが行われている。また、長尺樹脂フィルムの表面と裏面に同様の処理を施すことで該樹脂フィルムの両面に上記積層膜を成膜することも行われている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る長尺体への印刷方法の一具体例として、長尺体としての長尺の樹脂フィルムに積層体が形成された積層体フィルムを製造する場合を例に挙げて詳細に説明する。この積層体フィルムは、本発明の一具体例の印刷方法で形成されたアンチグレアコート層を裏面に有する長尺の樹脂フィルムから成る透明基板と、該透明基板の両面に設けられた積層膜とで構成され、各々の面に形成される積層膜は、該透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層と第3層目の金属吸収層とからなる。
【0019】
上記の樹脂フィルムの材質は特に限定はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン(PO)、トリアセチルセルロース(TAC)及びノルボルネン等の樹脂材料の中から選択することができる。ノルボルネンを樹脂材料として選択する場合は、代表的なものとして、日本ゼオン社のゼオノア(商品名)やJSR社のアートン(商品名)等を挙げることができる。尚、下記の方法で作製した積層体フィルムから主に「タッチパネル」用として使用する電極基板フィルムを作製する場合は、上記樹脂材料の中でも可視波長領域での透明性に優れたものが望ましい。また、MD方向(長さ方向)の引張強度(JIS K 7127 1999準拠)が100MPa以下程度の超複屈折フィルムを用いる場合に顕著な効果が奏される。
【0020】
前述したように、積層体フィルムに用いる樹脂フィルムは、その裏面がアンチグレア層で被覆された構造の複合体になっている。これにより、この積層体フィルムに対してエッチング等のパターニング加工により得た電極基板フィルムでは、アンチグレア処理が裏面側に施された樹脂フィルムの当該裏面上に成膜された第1層目は、湿式めっき法によって形成される第2層目の上に成膜された第3層目と同様に粗面上に成膜されているため、裏面側の回路パターンを表面側から見た時、樹脂フィルム越しの入射光の散乱は表面側と同様に大きくなるので、裏面側の正反射成分を表面側と同様に小さくすることができる。
【0021】
上記のように樹脂フィルムから成る透明基板の少なくとも一方の面に形成されるアンチグレア層は、該樹脂フィルムよりも硬いハードコート層(硬化層)であるのが好ましい。その層厚みは所望の光学特性に応じて適宜設定されるが、一般的には層厚は0.5μm以上30μm以下が好ましく、使用する微粒子径と同等以上10μm以下がより好ましい。このアンチグレア層は樹脂と微粒子とから構成される。該樹脂には紫外線硬化型のウレタン系樹脂やアクリル系樹脂が好適に用いられる。アンチグレア層には粒径500nm以下のシリカゾル等の無機ゾルを添加してもよく、これによりアンチグレア層の硬度を制御することができる。
【0022】
アンチグレア層が含有する微粒子の粒径は、0.5〜20μmの範囲内であってかつ樹脂層の層厚の2倍以内であるのが好ましい。この微粒子は、樹脂100質量部に対して1〜50質量部の割合で配合されるのが好ましい。具体的な微粒子の粒径や配合の割合は、アンチグレア層の所望の表面粗さRaやヘイズ値を考慮して適宜定められる。一般的には積層膜(金属吸収層)の反射率を下げるため、アンチグレア層の表面粗さRaは0.1μm以上が好ましい。尚、後述するようにヘイズ値は低い方が望ましいが、アンチグレア層の表面粗さRaを0.1μm以上にすると、アンチグレア層に含まれる微粒子を任意に選択してもヘイズ値は2.5%以上になる。
【0023】
上記の微粒子には無機微粒子や有機微粒子を用いることができる。無機微粒子は、酸化ケイ素微粒子、酸化チタン微粒子、酸化アルミニウム微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化錫微粒子、炭酸カルシウム微粒子、硫酸バリウム微粒子、タルク微粒子、カオリン微粒子、硫酸カルシウム微粒子等の中から選択することができ、有機微粒子は、ポリメタクリル酸メチルアクリレート樹脂粉末(PMMA微粒子)、シリコーン樹脂粉末、ポリスチレン樹脂粉末、ポリカーボネート樹脂粉末、アクリルスチレン樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、ポリオレフィン樹脂粉末、ポリエステル樹脂粉末、ポリアミド樹脂粉末、ポリイミド樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂粉末等の中から選択することができる。
【0024】
上記のアンチグレア処理の評価方法としてはヘイズ測定法(JISK7136 2000)がある。この方法は測定対象物が固定された積分球の透過光を拡散板で遮って測定した全光透過率に対する透過光を拡散板で遮らないで測定した散乱光透過率の比であるヘイズ値で評価するものである。
図3に示すヘイズ測定法の概略図を参照しながら具体的に説明すると、アンチグレア処理が施されたPETフィルム(透明基板)の試験片sを積分球hの光入射側に固定すると共に積分球hの他端側開口部を拡散板iで閉止した状態にして光jを入射させ、積分球h内を多重反射した光を積分球下方に設けられた受光器kで計測して「全光透過率」T
0を測定する。次に、上記積分球hの他端側開口部を拡散板iで閉止しない状態にして再度同様に光jを入射させ、積分球h内を多重反射した光(但し、開口部を透過した光は含まれない)を受光器kで計測して「散乱光透過率」T
1を測定する。そして、下記式1からヘイズ値(%)を求める。
【0025】
[式1]
ヘイズ値=(T
1/T
0)×100
【0026】
前述したように積層体フィルムからタッチパネル用の電極基板フィルムを作製する場合は、透明基板の片面に設けるアンチグレア層のヘイズ値が10%以下であるのが望ましい。アンチグレア層のヘイズ値が10%を超えた場合、タッチパネルを通して観察されるフラットパネルディスプレイの画像を曇らせて視認性(透過率)を悪化させるおそれがあるからである。特に、積層体フィルムの積層膜をエッチング処理して電極基板フィルムにパターニング加工した場合、エッチングにより積層膜が除去された透明基板上のアンチグレア層を介してフラットパネルディスプレイの画像が観測されることになるため、透明基板に設けられたアンチグレア層のヘイズ値は10%以下が望ましい。
【0027】
アンチグレア処理を施した透明基板のヘイズ値は、
図4に示すように透明基板7上のアンチグレア層8内に含まれる微粒子9の粒径(粒子サイズ)と密度(粒子密度)によって主に決定され、微粒子9の粒径サイズが大きくて粒子密度が高い程ヘイズ値が大きくなる。尚、
図4の上側図に示すように粒径が過度に大きい微粒子9Aを採用した場合、積層体フィルムをパターニング加工してメタルメッシュを形成した時、このメタルメッシュをタッチパネル(メッシュ構造の回路パターンを有するタッチパネル)として作製する後工程において、該メタルメッシュを他のフィルム等と貼り合わせを行うときに隙間を生じさせてしまうことがあるので注意が必要である。
【0028】
また、メタルメッシュは平面状の形態で使用するばかりでなく、曲面状の形態あるいは折り曲げたり開いたりして使用することがある。アンチグレア層に使用するコート剤は硬化後(使用できる状態)で表面硬度(JIS K5600−5−4 1999に準拠する)2H以上のタイプが一般的であるが、
図5の左側図に示すように、透明基板7の上に硬質なコート剤で硬化層8を形成した場合は折り曲げの際に割れてしまうことがある。
【0029】
従って、
図5の右側図のように割れにくくするには、硬化後(使用できる状態)の鉛筆硬度がHB〜H程度の軟らかい硬化層8を透明基板7の上に形成するのが好ましい。この場合、JIS K5600−5−4 1999に準拠するアンチグレア層のひっかき硬度(鉛筆硬度)がH以下の条件を満たすなら、JIS K5600−5−1 1999に規定される「塗膜の機械的性質−耐屈曲性(円筒形マンドレル法)」において、マンドレル径2mmφ以下を実現することができる。
【0030】
この積層体フィルムの作製の際、長尺の透明基板のTD方向の両端部では透明基板の表面が露出するようにアンチグレア層を形成する。すなわち、透明基板の幅方向両端部はアンチグレア層で被覆されないようにする。これにより、積層体フィルムをロールツーロール方式での搬送等により取り扱う際にアンチグレア層が破断したり割れたりする問題が生じにくくなる。尚、ロールツーロール方式での搬送には様々な直径を有するロールが使用されているが、破断や割れの原因となる抱き角(ロールの外周面のうちフィルムが接触する角度)が90°以上の小径ロールとしては直径70mm程度のものがある。上記の透明基板のTD方向の各端部においてアンチグレア層で覆われていない露出部分は、幅が1mm以上10mm以下であるのが好ましい。この幅が1mm未満では上記した破断や割れの抑制効果が得られにくくなる。一方、この幅が10mmを超えると無駄な透明基板の量が増えるのでコスト的に不利になる。
【0031】
上記のアンチグレア層は、グラビアコート方式で印刷した塗布液を硬化処理することにより形成することができる。このグラビアコート方式の印刷には、例えば
図6に示すようなコーティング装置30を用いることができる。このコーティング装置30は、貯槽31内に貯められたスラリー状の塗布液であるアンチグレア剤Aに、水平方向に延在する回転軸を有するグラビアロール32の外周面が一部浸漬する構成になっている。このグラビアロール32の外周面には、軸方向の両端部を除いて周方向に延在する一定の深さの凹状部が全周に亘って設けられており、このグラビアロール32を所定の回転数で回転させることでこの凹状部内にアンチグレア剤Aが充填されるようになっている。尚、前述したように透明基板の幅方向の両端部に露出部分を確保するため、この凹状部のグラビアロール32の軸方向の幅は、当該グラビアロール32を用いて印刷される長尺体としての長尺樹脂フィルムF
0の幅よりも狭くなっている。
【0032】
このグラビアロール32の外周面において上記貯槽31内のアンチグレア剤Aの液面から出て90°程度回転した角度位置にブレード33が当接している。このブレード33は、刃先がグラビアロール32の回転中心軸に平行であって且つグラビアロール32の外周面の端から端まで一直線状に延在するように設けられているが、前述したようにグラビアロール32の外周面は両端部を除いて凹状に窪んでいるので、上記刃先は該外周面の両端部にのみ当接することになる。すなわち、ブレード33は、グラビアロール32の外周面のうち両端部に付着しているアンチグレア剤Aを取り除くと共に、凹状部内に充填されているアンチグレア剤Aの表面が該両端部と同じ高さになるように均す役割を有している。
【0033】
また、このグラビアロール32の外周面のほぼ最上部に接する位置に、グラビアロール32の回転中心軸と平行な回転中心軸を有する副ロール34が設けられており、ロールツーロールで搬送される被覆前の長尺樹脂フィルムF
0をこれら副ロール34とグラビアロール32とで挟み込むようになっている。これにより、上記のブレード33で均された後の凹状部内に充填されているアンチグレア剤Aは、長尺樹脂フィルムF
0の表面に転写される。この転写による印刷では、前述したように、アンチグレア剤Aが充填されるグラビアロール32の外周面の凹状部の幅よりも長尺樹脂フィルムF
0の幅が広いので、長尺樹脂フィルムF
0にはその幅方向の両端部を除いた領域に全面に亘ってアンチグレア剤Aが塗布される。この被覆膜を必要に応じて乾燥等により硬化処理することで、長尺樹脂フィルムF
0の表面の幅方向両端部を除く全面に、長手方向に延在する1条の帯形状のアンチグレア層を形成することができる。
【0034】
ところで、上記したようなグラビアロールを用いたウェットプロセスによるアンチグレア剤の印刷では、効率的に印刷を行うため、後段のロールツーロール方式の真空成膜装置におけるスパッタリング成膜時の成膜対象となる樹脂フィルムをその幅方向に2条並べた幅を有する幅広の樹脂フィルムを先ず用意し、これを全面的に印刷してからその幅方向中央部において長手方向に延在するスリットラインで分断するいわゆる2条取りを行うのが一般的である。また、より効率的に印刷するため、幅方向に3条以上並べたより幅広の樹脂フィルムを用いる場合もある。
【0035】
しかし、このように幅方向に2条以上並べた幅広の樹脂フィルムに、上記した外周面に両端部を除いて凹状部を有するグラビアロールを用いて印刷すると、例えば
図7に示す2条取り用樹脂フィルム40の場合は、幅方向の両端部40aを除いた全面がアンチグレア層41で被覆されることになるので、点線で示すスリットライン42でスリットすると、各長尺樹脂フィルムは幅方向の一方の端部はアンチグレア層が被覆されていないもののもう一方の端部はアンチグレア層が被覆された形態になる。
【0036】
そこで、例えば2条取り又は3条取り以上を行う場合のコーティング装置30には、周方向に全周に亘って延在する複数の凹状部が軸方向に隣接して並ぶように設けられたグラビアロールを用いるのが好ましい。例えば
図8には、外周面において軸方向の両端部及び中央部を除いて一定の深さの2つの凹状部132aが全周に亘って設けられたグラビアロール132の例が示されている。このグラビアロール132を用いて例えば2条取り用の幅広の樹脂フィルムに印刷した後、必要に応じて乾燥等の硬化処理を施すことによって、
図9に示すように、2条取り用樹脂フィルム45の幅方向の両端部45aと中央部45bとを除いてアンチグレア層46を形成することができる。この2条のアンチグレア層を有する2条取り用樹脂フィルム45に対して、両端部45a及び中央部45bにおいて長手方向に延在する4本のスリットライン47でスリットすることにより、幅方向の両端部に露出部を有する2本の超複屈折フィルムを得ることができる。
【0037】
アンチグレア剤のコーティングは
図6に示すコーティング装置30を用いる場合に限定されるものではなく、
図10に示すような膜厚調整用ロッド36を備えたグラビアコート方式のコーティング装置35を用いてもよい。このコーティング装置35は、外周面に1つの凹状部が形成されたグラビアロール32や外周面に複数の凹状部が形成されたグラビアロール132を用いて印刷することで形成された被覆膜を有する樹脂フィルムF
0の当該被覆膜に全面に亘って膜厚調整ロッド36の外周面を押し当てることができるようになっている。これにより、アンチグレア剤Aからなる被覆膜が1条形成されているか又は複数条形成されているかにかかわらず、当該被覆膜の膜厚を調整することができる。
【0038】
この膜厚調整ロッド36の外周面には、樹脂フィルムF
0の表面のうちグラビアロールでアンチグレア剤Aの被覆膜が形成される位置に対応する位置に全周に亘って凸状部が形成されていることが望ましい。例えば
図11には
図8のグラビアロール132を用いて2条の被覆膜を塗布する場合に好適に用いることができる、周方向に全周に亘って延在する2個の凸状部36aを有する膜厚調整ロッド36の斜視図が示されており、上記のグラビアロール132において凹状部132が形成されている軸方向の位置に膜厚調整ロッド36では凸状部36aが形成されている。
【0039】
かかる構成により、グラビアロール132での印刷で形成されたアンチグレア剤Aからなる被覆膜を膜厚調整ロッド36で押さえ付けても、当該被覆膜が樹脂フィルムF
0の幅方向に過度に拡がるのを抑えることができる。その結果、前述した
図9に示すスリットライン37で切断した後の各長尺樹脂フィルムの幅方向の両端部に、アンチグレア層で被覆されていない露出部を確保することができる。このように、外周面に凸部を有する膜厚調整ロッド36を用いることで、アンチグレア剤等の塗布液が実質的に浸透しない樹脂フィルムを用いる場合であっても、グラビアロールでの印刷により形成した被覆膜の幅をほぼ維持したまま膜厚が調整されたアンチグレア層を形成することが可能となる。
【0040】
このようにして得た、幅方向の両端部を除いて硬化層からなるアンチグレア層が被覆された超複屈折フィルム等の透明基板に対して、次にスパッタリング成膜処理、湿式めっき処理、及びエッチングによるパターニング処理を施す。これにより、
図12に示すようなアンチグレア処理された透明基板101の両面に各々パターン加工された積層膜102が設けられた積層構造体を得ることができる。
【0041】
この積層構造体の積層膜102は、透明基板101側から数えて第1層目のスパッタリング法による金属吸収層103と、第2層目のスパッタリング法及び湿式めっき法による金属層104と、第3層目のスパッタリング法による第2金属吸収層105からなり、透明基板101越しの裏面側の第1層目の金属吸収層103の正反射R1を、表面側の第3層目の第2金属吸収層105の正反射R2とほぼ同等にすることができる。よって透明基板101越しに観察する裏面側の第1層目の金属吸収層の反射を目立たなくさせることが可能になる。
【0042】
上記のアンチグレア層で被覆された長尺樹脂フィルム上の積層膜は、例えば
図13に示すようなロールツーロールの成膜装置10で好適で成膜することができる。この
図13に示す成膜装置10はスパッタリングウェブコータとも称され、巻出ロール12からキャンロール16を経て巻取ロール24に至るロールツーロールの搬送経路に沿って、硬化剤で被覆された長尺樹脂フィルムFを搬送する搬送手段と、該長尺樹脂フィルムFがキャンロール16の外周面に巻き付いている時にその表面に連続的に効率よくスパッタリング成膜を施す成膜手段と、これら手段を収容する真空チャンバー11とから主に構成されている。
【0043】
具体的に説明すると、真空チャンバー11にはドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置(図示せず)が組み込まれており、スパッタリング成膜の際に真空チャンバー11内を到達圧力10
−4Pa程度まで減圧した後、スパッタリングガスの導入により0.1〜10Pa程度に圧力調整できるようになっている。スパッタリングガスにはアルゴン等公知のガスが使用され、目的に応じてさらに酸素等のガスが添加される。真空チャンバー11の形状や材質はこのような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。この真空チャンバー11内には、スパッタリング成膜が行われる空間を搬送用ロール群が設けられている空間から隔離するため、仕切板11aが設けられている。
【0044】
上記のロールツーロールの搬送経路のうち巻出ロール12からキャンロール16までの搬送経路には、長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール13、キャンロール16よりも上流側の長尺樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール14、及びキャンロール16の外周面に導かれる長尺樹脂フィルムFを当該外周面に密着させるべくキャンロール16の周速度に対する調整が行われるモータ駆動の前フィードロール15がこの順に配置されている。キャンロール16から巻取ロール24までの搬送経路も、上記と同様に、キャンロール16の周速度に対する調整を行うモータ駆動の後フィードロール21、キャンロール16よりも下流側の長尺樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール22、及び長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール23がこの順に配置されている。
【0045】
上記巻出ロール12及び巻取ロール24では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺樹脂フィルムFの張力バランスが保たれている。また、モータ駆動のキャンロール16の回転とこれに連動して回転するモータ駆動の前フィードロール15及び後フィードロール21により、巻出ロール12から巻き出された長尺樹脂フィルムFは、上記キャンロール16等のロール群で画定される搬送経路に沿って搬送された後、巻取ロール24で巻き取られる。
【0046】
キャンロール16はその内部に真空チャンバー11の外部で温調された冷媒が循環しており、キャンロール16の外周面に巻き付けられた状態で成膜手段によって表面から熱負荷のかかる処理が施される長尺樹脂フィルムFを裏面から冷却できるようになっている。このキャンロール16の外周面のうち長尺樹脂フィルムFが巻き付けられる領域に対向する位置に、キャンロール16の搬送経路に沿って成膜手段として4つのマグネトロンスパッタリングカソード17、18、19及び20がこの順に設けられている。これらマグネトロンスパッタリングカソード17〜20の各々には、反応性ガスを放出可能な1対のガス放出パイプ25a・25b、26a・26b、27a・27b、及び28a・28bが近傍に設置されている。
【0047】
これら4つのマグネトロンスパッタリングカソード17〜20のうち、例えば最初の2つのカソード17〜18のターゲットに金属吸収層形成用のターゲットを設け、残る2つのカソード19〜20のターゲットに金属層形成用のターゲットを設けることで、長尺樹脂フィルムFの一方の面に金属酸化物からなる金属吸収層と金属層とを連続的に成膜することができる。尚、板状のターゲットを用いて金属吸収層や金属層のスパッタリング成膜を行うと該ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがあるので、ノジュールの発生がなくかつターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを用いてもよい。
【0048】
長尺樹脂フィルムFのもう一方の面にも同様に金属吸収層と金属層とを連続的に成膜する場合は、上記の片面に成膜された長尺樹脂フィルムFのロールを巻取ロール24から取り外して巻出ロール12に取り付け、この巻出ロール12を
図13に示す白矢印の方向に回転して点線のように巻き出すこと以外は上記と同様にして成膜すればよい。これにより、タッチパネル用などの電極基板フィルムの基材に好適に用いることが可能な品質のばらつきの少ない積層構造の積層体基板を作製することができる。
【0049】
一般に、金属吸収層の形成用ターゲットに金属酸化物ターゲットを用いた場合は成膜速度が遅くなって量産に適さないので、高速成膜が可能なNi系の金属ターゲット(金属材)を用いると共に酸素を含む反応性ガスを制御しながら導入する反応性スパッタリング等の反応成膜法を採用することが行われる。尚、反応成膜法で成膜した金属吸収層を構成する金属酸化物の酸化が進み過ぎると金属吸収層が透明になってしまうため、視覚的に黒化膜になる程度の酸化レベルに抑えるのが望ましい。反応成膜法で金属吸収層を成膜すると、各金属元素は酸素原子と不定比の化合物を形成し、このような不定比の酸化物により視覚では黒色に映る。
【0050】
上記の反応性ガスを制御する方法としては、(1)一定流量の反応性ガスを放出する方法、(2)真空チャンバー内の圧力を一定圧力に保つように反応性ガスを放出する方法、(3)スパッタリングカソードのインピーダンスが一定になるように反応性ガスを放出する(インピーダンス制御)方法、及び(4)スパッタリングのプラズマ強度が一定になるように反応性ガスを放出する(プラズマエミッション制御)方法の4つの方法が知られている。尚、上記反応成膜法としては、
図13に示すようなマグネトロンスパッタリングカソード17〜20を用いたスパッタリング法のほか、イオンビームスパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティング、CVD等の乾式めっき法がある。
【0051】
上記の成膜装置10により、例えば
図14に示すようなアンチグレア処理された透明基板50の両面に金属吸収層51及び金属層52からなる積層膜を成膜することができる。この金属吸収層51は不定比の金属酸化物層からなるのが好ましく、これはCu単体、Ni単体、又はNiにTi、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金からなる金属材を用い、酸素を含む反応性ガス雰囲気において反応成膜法によって成膜することができる。Ni系合金の場合は、Ni−Cu合金が好ましい。
【0052】
一方、金属層52は一般的な不活性ガス雰囲気において成膜することができ、その構成材料としては、電気抵抗値が低い金属であれば特に限定されず、例えば、Cu単体、若しくはCuにTi、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Agより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金、又はAg単体、若しくはAgにTi、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたAg系合金が挙げられ、これらの中ではCu単体が回路パターンの加工性や抵抗値の観点から望ましい。
【0053】
金属吸収層51の膜厚は15〜30nm程度が好ましい。この金属吸収層51の膜厚は電気特性に影響を及ぼすので光学的な要件のみから決定されるものではないが、透過光が測定不能なレベルの膜厚に設定するのが好ましい。一方、金属層52の膜厚は50〜5000nmとするのが好ましく、所定の配線パターンとなるようにパターニング加工する加工性の観点からは3μm(3000nm)以下がより好ましい。尚、この金属層52を厚膜化するため、上記の乾式めっき法により成膜した金属層52の上にさらに電気めっき法などの湿式めっき法を用いて成膜してもよい。すなわち、
図15に示すように、アンチグレア処理された透明基板50の両面に乾式めっき法により金属吸収層51及び金属層52を形成した後、該金属層52の上に湿式めっき法により金属層53を形成してもよい。この乾式めっき法により形成される金属層53は、膜厚15μm以下が好ましい。
【0054】
上記の金属層53の上にさらに第2金属吸収層を形成してもよい。すなわち、
図16に示すように、アンチグレア処理された透明基板50の両面に乾式めっき法により例えば膜厚15〜30nmの金属吸収層51と例えば膜厚50〜1000nmの金属層52とを形成した後、湿式めっき法により金属層53を形成し、この金属層53の上に乾式めっき法により例えば膜厚15〜30nmの第2金属吸収層54を形成してもよい。この第2金属吸収層は、上記金属吸収層51と同様にCu単体、Ni単体、又はNiにTi、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金から成る金属材を用いて酸素を含む反応性ガス雰囲気において反応成膜法によって成膜することで得られる。
【0055】
このように乾式めっき法と湿式めっき法により厚膜化した金属層の両面に金属吸収層を形成することで、この積層体基板を用いて作製した電極基板フィルムをタッチパネルに組み込んだときに金属製の積層細線からなるメッシュ構造の回路パターンを反射により見えにくくすることができる。尚、長尺樹脂フィルムからなる透明基板の片面のみに金属吸収層及び金属層を形成して得た積層体基板を用いて電極基板フィルムを作製した場合でも、該透明基板から回路パターンを見えにくくすることができる。金属吸収層の各波長における光学定数(屈折率、消衰係数)は、反応の度合い、すなわち酸化度に大きく影響され、Ni系合金からなる金属材だけで決定されるものではない。また、Ni−Cu合金の場合はNiとCuの配合割合によっては反応成膜法を用いない方法(すなわち反応性ガスを用いない成膜法)であっても黒色膜と視認される金属吸収層が成膜されることがある。
【0056】
上記にて作製した積層体フィルムの積層膜をパターニング加工して線幅が例えば20μm以下の金属製の積層細線を形成することにより、電極基板フィルムを得ることができる。例えば、
図16に示す積層体フィルムの積層膜をエッチング処理等でパターニング加工することで
図17に示すような電極基板フィルムを得ることができる。この
図17に示す電極基板フィルムは、アンチグレア処理された透明基板50の両面に設けられた例えば線幅20μm以下の金属製の積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有し、この金属製の積層細線は透明基板50側から数えて第1層目の金属吸収層51aと、第2層目の金属層52a、53aと、第3層目の第2金属吸収層54aとで構成されている。
【0057】
このように電極基板フィルムの電極(配線)パターンをストライプ状若しくは格子状とすることでタッチパネルに用いることができ、この場合の金属製の積層細線は上記積層体フィルムの積層構造を維持していることから、高輝度照明下においても透明基板に設けられた電極等の回路パターンが極めて視認され難い特徴を有している。すなわち、アルゴンに酸素を添加して得た反応性ガス雰囲気で反応性スパッタリング成膜すると、金属吸収層として黒色膜が得られるので照射された時に光の反射率を低く抑えることが可能になり、よって金属吸収層をエッチング加工して得た電極等の回路パターンは高輝度照明下において視認されにくくなる。さらに、上述したように樹脂フィルムから成る透明基板に好適にはヘイズ値10%以下のアンチグレア層が設けられているので電極基板フィルムを介してフラットディスプレイパネルの画像を観察した際に視認性に悪影響を及ぼしにくくなる。
【0058】
上記の積層体基板をパターニング加工して電極基板フィルムを形成する方法としては、公知のサブトラクティブ法を挙げることができる。サブトラクティブ法は積層体基板の積層膜表面にフォトレジスト膜を形成し、電極パターンを形成したい箇所にフォトレジスト膜が残るように露光及び現像処理を行い、フォトレジスト膜から露出している積層膜部分を化学エッチングにより除去し、電極パターンを形成する方法である。上記記化学エッチングのエッチング液としては、塩化第二鉄水溶液や塩化第二銅水溶液を用いることができる。
【0059】
以上、本発明の長尺体への印刷方法の一具体例について、積層体フィルムを作製する場合を例に挙げて説明したが、積層体フィルムの用途はタッチパネル用の電極基板フィルムに限定されるものではなく、フレキシブル配線基板などにも用いることができる。フレキシブル配線基板に用いる場合には、積層体フィルムの両面の各々が少なくとも2層の積層構造であって、例えば第1層目はNiにTi、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金層であり、第2層目は銅層からなる金属層で構成されるのが好ましい。
【0060】
さらに、本発明の長尺体の印刷方法は、超複屈折フィルム等の樹脂フィルムにアンチグレア層を設けるための印刷方法に限定されるものではなく、印刷対象となる長尺体は、電気基板フィルム用の積層体フィルムで用いた透明な樹脂フィルムのほか、透明性が要求されない場合はポリイミドフィルム等の着色したフィルムを用いることができる。また、金属のストリップなどにも適用でき、例えば、長尺の銅箔などの表面に複合酸化物粉末のスラリーを印刷する場合にも適用することができる。
【実施例】
【0061】
2条取り用の長尺樹脂フィルムとして東洋紡製の厚さ50μm、幅1200mm、長さ1200mの超複屈折フィルム(型番:コスモシャインSRFフィルム)を用意し、その両面に各々幅方向の両端部及び中央部を除いてアンチグレア層をコーティングした。コーティングには
図6に示すようなグラビアコート方式のコーティング装置30を用いた。そのグラビアロールには、
図8に示すような、外周面のうち軸方向の中央部の幅20mmの位置及び両端部を除いて、深さ3mm、幅580mmで全周に亘って凹状に窪む2つの凹状部132aを有するグラビアロール132を用いた。貯槽31にはこのグラビアロール132が一部浸漬するように、UV硬化型アクリル系樹脂に直径1μmのシリカ系フィラーを分散させたアンチグレア処理剤Aを貯めておいた。
【0062】
次に、回転数を調整しながらグラビアロール132を回転させると共に長尺樹脂フィルムF
0をロールツーロールで搬送してグラビアロール132とこれとは逆回転の副ロール34とで挟み込んだ。これによりグラビアロール132の外周面の2つの凹状部132a内に充填されたアンチグレアコート剤Aを長尺樹脂フィルムF
0の表面にそのまま転写することで印刷した。これにより、長尺樹脂フィルムF
0のうち、幅方向中央部の幅20mmの部分と幅方向両端部の各々縁から10mmの部分とを除いた領域にアンチグレアコート剤Aからなる被覆膜を形成した。尚、グラビアロール132の回転数を調整することで被覆膜の膜厚を約1μmにした。
【0063】
このアンチグレアコート剤Aからなる被覆膜を乾燥により硬化させてアンチグレア層を形成した後、同様にしてもう一方の面にもアンチグレア層を形成した。得られたアンチグレア層の鉛筆硬度をJIS K5600−5−4 1999に基づいて評価したところHBとHの中間であった。得られたアンチグレア層で被覆された超複屈折フィルムをその幅方向中央にスリットを入れて2つに分断した後、そのうちの一方に対して
図13に示すような成膜装置(スパッタリングウェブコータ)10を用いて両面に積層膜を成膜した。
【0064】
成膜装置10のキャンロール16には、外径600mm、幅750mmのステンレス製の円筒部材を用い、その外周面にはハードクロムめっきを施した。前フィードロール15と後フィードロール21は各々外径150mm、幅750mmのステンレス製の円筒部材を用い、それらの表面にもハードクロムめっきを施した。マグネトロンスパッタリングカソード17、18には金属吸収層用のNi−Cuターゲットを取り付け、マグネトロンスパッタリングカソード19、20には金属層用のCuターゲットを取り付けた。
【0065】
上記の硬化層からなるアンチグレア層で被覆された超複屈折フィルムを巻出ロール12にセットし、その先端部を各種ロール群を経て巻取ロール24に巻き付けた。キャンロール16に循環させる冷媒は0℃に温度制御した。この状態で、真空チャンバー11内を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10
−3Paまで排気した。そして、アンチグレア層で被覆された超複屈折フィルムを2m/分で搬送させてスパッタリング成膜を行った。
【0066】
スパッタリング成膜の際、金属吸収層の成膜を行うマグネトロンスパッタリングカソード17、18では、それらの近傍にそれぞれ配されているガス放出パイプ25a・b、26a・bからアルゴンガスを500sccm、酸素ガスを50sccmの流量で導入し、膜厚30nmのNi−Cu酸化層が得られるように電力制御を行った。一方、金属層(銅層)の成膜を行うマグネトロンスパッタリングカソード19、20では、それらの近傍にそれぞれ配されているガス放出パイプ27a・b、28a・bからアルゴンガスを500sccmの流量で導入し、Ni−Cu酸化層の上に膜厚80nmのCu層が得られるように電力制御を行った。
【0067】
超複屈折フィルムの片面のスパッタリング成膜が完了した後、真空チャンバー11に大気を導入し、巻取ロール24に巻き取られた超複屈折フィルムを取り外して巻出ロール12にセットした。そして、同様の方法でもう一方の面にもスパッタリング成膜を行った。両面のスパッタリング成膜が完了した後、電気めっきで銅厚みが1μmになるよう両面に成膜し、再度上記の成膜装置10を用いて上記と同様の方法で両面に各々膜厚30nmの第2金属吸収層をスパッタリング成膜した。このようにして、超複屈折フィルムの両面に各々第1層目のNi−Cu酸化膜と第2層目のCu膜と第3層目のNi−Cu酸化膜とからなる積層膜が積層された試料1の積層体フィルムを作製した。
【0068】
また、
図8に示すグラビアロール132に代えて、外周面のうち両端部を除いた領域に超複屈折フィルムF
0の幅よりも狭い幅を有する1つの凹状部が全周に亘って形成されたグラビアロールを用いて超複屈折フィルムF
0の幅方向両端部を除く領域をアンチグレア層で被覆した以外は上記の試料1の場合と同様にして試料2の積層体フィルムを作製した。そして、これら試料1及び2の積層体フィルムに対して、エッチング液として塩化第二鉄水溶液を用いてパターニング加工を行ってそれぞれ試料1及び2の電極基板フィルムを作製した。
【0069】
パターニング加工後の両電極基板フィルムを目視にて確認したところ、試料2の電極基板フィルムは、幅方向の一方の端部にはアンチグレア層を形成しなかったので亀裂が生じていなかったが、もう一方の端部にはアンチグレア層が形成されていたので張力変動等の衝撃が加わったことによると思われる亀裂が発生していた。一方、試料1の電極基板フィルムは、超複屈折フィルムの両端部にアンチグレア層を形成しなかったので亀裂が見当たらなかった。このように幅方向の端から端までアンチグレア層を被覆するのではなく、両端部を除いてアンチグレア層を被覆することによりわずかではあるが表面硬度が下がったため、亀裂の発生が抑えられたと推測される。尚、これら試料1及び2の電極基板フィルムは、いずれも高輝度照明下において透明基板越しの裏側の電極を視認することはほとんどできなかった。よって、試料1の電極基板フィルムがFPD(フラットパネルディスプレイ)の表面に設置する「タッチパネル」としてより好適であることが分かった。