特許第6891757号(P6891757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6891757
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】溶媒抽出設備、および溶媒抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/28 20060101AFI20210607BHJP
   C22B 3/02 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   C22B3/28
   C22B3/02
【請求項の数】16
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-200150(P2017-200150)
(22)【出願日】2017年10月16日
(65)【公開番号】特開2018-131682(P2018-131682A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2020年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-227699(P2016-227699)
(32)【優先日】2016年11月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-25526(P2017-25526)
(32)【優先日】2017年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高砂 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】新宮 正寛
【審査官】 藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/146329(WO,A1)
【文献】 特開2015−209582(JP,A)
【文献】 特開昭60−238102(JP,A)
【文献】 特開2015−157990(JP,A)
【文献】 特開昭60−121236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン系抽出剤としてTNOAを含む有機溶媒を循環使用して、抽出始液である塩化ニッケル水溶液からコバルトを溶媒抽出する溶媒抽出設備であって、
前記有機溶媒を循環させる循環流路と、
前記循環流路から分岐し、前記有機溶媒の一部を抜き取る抜取流路と、
前記抜取流路から供給された前記有機溶媒を冷却することで、前記アミン系抽出剤の劣化生成物であるDNOAを固形化する冷却装置と、
前記冷却装置から供給された前記有機溶媒から前記劣化生成物を除去する固液分離装置と、
前記固液分離装置から排出された前記有機溶媒を前記循環流路に戻し入れる戻り流路と、
前記劣化生成物の除去による不足分を補うように、新規の前記アミン系抽出剤を前記循環流路に供給する有機溶媒供給装置と、を備え
前記抽出始液は硫化物からニッケル、コバルトを回収する湿式製錬プロセスにおける脱鉄工程の処理後液である
ことを特徴とする溶媒抽出設備。
【請求項2】
前記冷却装置は、前記有機溶媒を所定時間貯留することで、前記有機溶媒を自然放熱により冷却するタンクである
ことを特徴とする請求項1記載の溶媒抽出設備。
【請求項3】
前記冷却装置は、前記有機溶媒を強制放熱により冷却する装置である
ことを特徴とする請求項1記載の溶媒抽出設備。
【請求項4】
前記固液分離装置は、前記有機溶媒と水との混合液を固液分離する
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の溶媒抽出設備。
【請求項5】
前記固液分離装置は、前記混合液を多段階で固液分離する
ことを特徴とする請求項4記載の溶媒抽出設備。
【請求項6】
前記固液分離装置は濾過装置である
ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の溶媒抽出設備。
【請求項7】
前記循環流路は、抽出段、逆抽出段および活性化工程をこの順に通っており、
前記抜取流路は、前記循環流路の前記逆抽出段と前記活性化工程との間に接続されている
ことを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の溶媒抽出設備。
【請求項8】
前記抽出始液に還元剤を添加して、前記抽出始液の酸化還元電位を500〜550mV(Ag/AgCl電極基準)に調整する還元剤添加装置を備える
ことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7記載の溶媒抽出設備。
【請求項9】
アミン系抽出剤としてTNOAを含む有機溶媒を循環使用して、抽出始液である塩化ニッケル水溶液からコバルトを溶媒抽出する溶媒抽出方法であって、
前記有機溶媒を循環させる循環流路から、前記有機溶媒の一部を抜き取り、
抜き取った前記有機溶媒を冷却することで、前記アミン系抽出剤の劣化生成物であるDNOAを固形化し、
冷却後の前記有機溶媒を固液分離することで、前記有機溶媒から前記劣化生成物を除去し、
固液分離後の前記有機溶媒を前記循環流路に戻し入れ、
前記劣化生成物の除去による不足分を補うように、新規の前記アミン系抽出剤を前記循環流路に供給し、
前記抽出始液は硫化物からニッケル、コバルトを回収する湿式製錬プロセスにおける脱鉄工程の処理後液である
ことを特徴とする溶媒抽出方法。
【請求項10】
前記有機溶媒の冷却は、前記有機溶媒をタンクに所定時間貯留することで、前記有機溶媒を自然放熱することにより行われる
ことを特徴とする請求項9記載の溶媒抽出方法。
【請求項11】
前記有機溶媒の冷却は、前記有機溶媒を強制放熱することにより行われる
ことを特徴とする請求項9記載の溶媒抽出方法。
【請求項12】
前記有機溶媒の固液分離は、濾過装置により行われる
ことを特徴とする請求項9、10または11記載の溶媒抽出方法。
【請求項13】
前記有機溶媒と水との混合液を固液分離することで、前記混合液から前記劣化生成物を除去する
ことを特徴とする請求項9、10または11記載の溶媒抽出方法。
【請求項14】
前記混合液を多段階で固液分離する
ことを特徴とする請求項13記載の溶媒抽出方法。
【請求項15】
前記循環流路は、抽出段、逆抽出段および活性化工程をこの順に通っており、
前記循環流路の前記逆抽出段と前記活性化工程との間から、前記有機溶媒の一部を抜き取る
ことを特徴とする請求項9、10、11、12、13または14記載の溶媒抽出方法。
【請求項16】
前記抽出始液に還元剤を添加して、前記抽出始液の酸化還元電位を500〜550mV(Ag/AgCl電極基準)に調整する
ことを特徴とする請求項9、10、11、12、13、14または15記載の溶媒抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒抽出設備、および溶媒抽出方法に関する。さらに詳しくは、有機溶媒に含まれるアミン系抽出剤の劣化生成物の増加を抑制できる溶媒抽出設備、および溶媒抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化物からニッケル、コバルトを回収する湿式製錬プロセスでは、原料であるニッケルマットやニッケル・コバルト混合硫化物を塩素浸出し、得られた浸出液から不純物を除去する浄液工程などを経て、電解工程で電気ニッケルや電気コバルトを回収する。この湿式製錬プロセスには、浸出液に含まれるニッケルとコバルトとを溶媒抽出により分離し、塩化ニッケル水溶液と塩化コバルト水溶液とを得る溶媒抽出工程が含まれる。
【0003】
ニッケルとコバルトとを分離する溶媒抽出には、有機抽出剤としてTNOA(トリノルマルオクチルアミン)などのアミン系抽出剤が好適に用いられる。しかし、アミン系化合物は酸性条件下で加水分解すること、酸化されてヒドロキシルアミンなどに分解することが知られている。そのため、有機溶媒を繰り返し使用すると、有機抽出剤として機能しない劣化生成物が発生し、抽出効率が低下するという問題がある。
【0004】
特許文献1には、3級アミン化合物を含む有機溶媒を用いて塩化ニッケル水溶液から金属イオンを抽出する際に、塩化ニッケル水溶液にチオ硫酸ナトリウムを添加して酸化還元電位を500mV(Ag/AgCl電極基準)以下に調整することが開示されている。これにより、3級アミン化合物の劣化を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−209582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塩化ニッケル水溶液にチオ硫酸ナトリウムを添加すると、下記化学式1に示されるように、硫酸根(SO42-イオン)が生成される。
(化学式1)
Na223+4Cl2+5H2O→2NaCl+2H2SO4+6HCl
【0007】
硫酸根が増加すると、電解工程における電解電圧が高くなるため、電力コストが増加する。また、陽極からの酸素発生量が増加して塩素回収率が低下する。そのため、硫酸根の増加はできるだけ抑えることが好ましい。また、電解工程において、不純物の増加や接触抵抗の増加などにより既に電解電圧が高くなっている場合、硫酸根をさらに増加させる操業は困難である。このような場合、塩化ニッケル水溶液にチオ硫酸ナトリウムを必要量添加できず、塩化ニッケル水溶液の酸化還元電位を500mV(Ag/AgCl電極基準)以下に調整することができない。その結果、アミン系抽出剤の劣化生成物が増加してしまう。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、有機溶媒に含まれるアミン系抽出剤の劣化生成物の増加を抑制できる溶媒抽出設備、および溶媒抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の溶媒抽出設備は、アミン系抽出剤としてTNOAを含む有機溶媒を循環使用して、抽出始液である塩化ニッケル水溶液からコバルトを溶媒抽出する溶媒抽出設備であって、前記有機溶媒を循環させる循環流路と、前記循環流路から分岐し、前記有機溶媒の一部を抜き取る抜取流路と、前記抜取流路から供給された前記有機溶媒を冷却することで、前記アミン系抽出剤の劣化生成物であるDNOAを固形化する冷却装置と、前記冷却装置から供給された前記有機溶媒から前記劣化生成物を除去する固液分離装置と、前記固液分離装置から排出された前記有機溶媒を前記循環流路に戻し入れる戻り流路と、前記劣化生成物の除去による不足分を補うように、新規の前記アミン系抽出剤を前記循環流路に供給する有機溶媒供給装置と、を備え、前記抽出始液は硫化物からニッケル、コバルトを回収する湿式製錬プロセスにおける脱鉄工程の処理後液であることを特徴とする。
第2発明の溶媒抽出設備は、第1発明において、前記冷却装置は、前記有機溶媒を所定時間貯留することで、前記有機溶媒を自然放熱により冷却するタンクであることを特徴とする。
第3発明の溶媒抽出設備は、第1発明において、前記冷却装置は、前記有機溶媒を強制放熱により冷却する装置であることを特徴とする。
第4発明の溶媒抽出設備は、第1、第2または第3発明において、前記固液分離装置は、前記有機溶媒と水との混合液を固液分離することを特徴とする。
第5発明の溶媒抽出設備は、第4発明において、前記固液分離装置は、前記混合液を多段階で固液分離することを特徴とする。
第6発明の溶媒抽出設備は、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記固液分離装置は濾過装置であることを特徴とする。
第7発明の溶媒抽出設備は、第1、第2、第3、第4、第5または第6発明において、前記循環流路は、抽出段、逆抽出段および活性化工程をこの順に通っており、前記抜取流路は、前記循環流路の前記逆抽出段と前記活性化工程との間に接続されていることを特徴とする。
第8発明の溶媒抽出設備は、第1、第2、第3、第4、第5、第6または第7発明において、前記抽出始液に還元剤を添加して、前記抽出始液の酸化還元電位を500〜550mV(Ag/AgCl電極基準)に調整する還元剤添加装置を備えることを特徴とする。
第9発明の溶媒抽出方法は、アミン系抽出剤としてTNOAを含む有機溶媒を循環使用して、抽出始液である塩化ニッケル水溶液からコバルトを溶媒抽出する溶媒抽出方法であって、前記有機溶媒を循環させる循環流路から、前記有機溶媒の一部を抜き取り、抜き取った前記有機溶媒を冷却することで、前記アミン系抽出剤の劣化生成物であるDNOAを固形化し、冷却後の前記有機溶媒を固液分離することで、前記有機溶媒から前記劣化生成物を除去し、固液分離後の前記有機溶媒を前記循環流路に戻し入れ、前記劣化生成物の除去による不足分を補うように、新規の前記アミン系抽出剤を前記循環流路に供給し、前記抽出始液は硫化物からニッケル、コバルトを回収する湿式製錬プロセスにおける脱鉄工程の処理後液であることを特徴とする。
第10発明の溶媒抽出方法は、第9発明において、前記有機溶媒の冷却は、前記有機溶媒をタンクに所定時間貯留することで、前記有機溶媒を自然放熱することにより行われることを特徴とする。
第11発明の溶媒抽出方法は、第9発明において、前記有機溶媒の冷却は、前記有機溶媒を強制放熱することにより行われることを特徴とする。
第12発明の溶媒抽出方法は、第9、第10または第11発明において、前記有機溶媒の固液分離は、濾過装置により行われることを特徴とする。
第13発明の溶媒抽出方法は、第9、第10または第11発明において、前記有機溶媒と水との混合液を固液分離することで、前記混合液から前記劣化生成物を除去することを特徴とする。
第14発明の溶媒抽出方法は、第13発明において、前記混合液を多段階で固液分離することを特徴とする。
第15発明の溶媒抽出方法は、第9、第10、第11、第12、第13または第14発明において、前記循環流路は、抽出段、逆抽出段および活性化工程をこの順に通っており、前記循環流路の前記逆抽出段と前記活性化工程との間から、前記有機溶媒の一部を抜き取ることを特徴とする。
第16発明の溶媒抽出方法は、第9、第10、第11、第12、第13、第14または第15発明において、前記抽出始液に還元剤を添加して、前記抽出始液の酸化還元電位を500〜550mV(Ag/AgCl電極基準)に調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、冷却により固形化した劣化生成物を固液分離により除去できるので、溶媒抽出設備内を循環する有機溶媒に含まれる劣化生成物の増加を抑制できる。
第2発明によれば、簡易な装置で有機溶媒を冷却するので、設備コスト、操業コストを抑えることができる。
第3発明によれば、有機溶媒を強制放熱により冷却するので、外気温に影響されず有機溶媒を所望の温度まで冷却でき、劣化生成物を確実に固形化できる。
第4発明によれば、有機溶媒に水を添加することで、有機溶媒に含まれる不純物からなる固形物が水に溶解する。除去される固形物の量を低減できるので固液分離に要する時間を短縮できる。
第5発明によれば、混合液を多段階で固液分離することで、劣化生成物の除去率を向上できる。
第6発明によれば、簡易な装置で有機溶媒を固液分離するので、設備コストを抑えることができる。
第7発明によれば、逆抽出段を経た後の有機溶媒は目的物質の含有量が少ないので、目的物質が固形化された劣化性物質に取り込まれることによる、目的物質のロスを低減できる。
第8発明によれば、抽出始液の酸化還元電位を500〜550mV(Ag/AgCl電極基準)に調整することで、還元剤の添加量を抑えつつ、劣化生成物の発生量を低減できる。
第9発明によれば、冷却により固形化した劣化生成物を固液分離により除去できるので、溶媒抽出設備内を循環する有機溶媒に含まれる劣化生成物の増加を抑制できる。
第10発明によれば、簡易な装置で有機溶媒を冷却するので、設備コスト、操業コストを抑えることができる。
第11発明によれば、有機溶媒を強制放熱により冷却するので、外気温に影響されず有機溶媒を所望の温度まで冷却でき、劣化生成物を確実に固形化できる。
第12発明によれば、簡易な装置で有機溶媒を固液分離するので、設備コストを抑えることができる。
第13発明によれば、有機溶媒に水を添加することで、有機溶媒に含まれる不純物からなる固形物が水に溶解する。除去される固形物の量を低減できるので固液分離に要する時間を短縮できる。
第14発明によれば、混合液を多段階で固液分離することで、劣化生成物の除去率を向上できる。
第15発明によれば、逆抽出段を経た後の有機溶媒は目的物質の含有量が少ないので、目的物質が固形化された劣化性物質に取り込まれることによる、目的物質のロスを低減できる。
第16発明によれば、抽出始液の酸化還元電位を500〜550mV(Ag/AgCl電極基準)に調整することで、還元剤の添加量を抑えつつ、劣化生成物の発生量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】溶媒抽出工程の詳細工程図である。
図2】溶媒抽出設備のうち、劣化生成物除去工程に相当する部分の説明図である。
図3】湿式製錬プロセスの全体工程図である。
図4】実施例におけるDNOA濃度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る溶媒抽出設備および溶媒抽出方法は、ニッケルおよびコバルトを回収する湿式製錬プロセスの溶媒抽出工程に好適に適用される。なお、本実施形態の溶媒抽出設備および溶媒抽出方法は、アミン系抽出剤を含む有機溶媒を循環使用して、強酸化性雰囲気の抽出始液から目的物質を溶媒抽出する工程であれば、いかなるプロセスの工程にも適用し得る。以下、前記湿式製錬プロセスの溶媒抽出工程に適用する場合を例に説明する。
【0013】
(湿式製錬プロセス)
まず、図3に基づき、前記湿式製錬プロセスを説明する。
湿式製錬プロセスでは、原料であるニッケル硫化物として、ニッケルマットとニッケル・コバルト混合硫化物(MS:ミックスドサルファイド)との2種類が用いられる。
【0014】
ニッケルマットは乾式製錬により得られる。具体的には、ニッケルマットは硫鉄ニッケル鉱を熔錬することで得られる。
【0015】
ニッケル・コバルト混合硫化物は湿式製錬により得られる。具体的には、低品位ラテライト鉱などのニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)し、浸出液から鉄などの不純物を除去した後、浸出液に硫化水素ガスを吹き込んで硫化反応を生じさせることによりニッケル・コバルト混合硫化物を得る。
【0016】
まず、ニッケル・コバルト混合硫化物と後述のセメンテーション残渣とからなるスラリーを塩素浸出工程に供給する。塩素浸出工程では、浸出槽に吹き込まれる塩素ガスの酸化力によって、スラリー中の固形物に含まれる金属が実質的に全て液中に浸出される。塩素浸出工程から排出されたスラリーは浸出液と浸出残渣とに固液分離される。
【0017】
ニッケルマットを、粉砕工程において粉砕した後、レパルプしてマットスラリーとし、セメンテーション工程に供給する。セメンテーション工程には塩素浸出工程で得られた浸出液も供給されている。浸出液には目的金属であるニッケルやコバルトのほか、不純物として銅、鉄、鉛、マンガンなどが含まれている。
【0018】
浸出液には2価の銅クロロ錯イオンが含まれている。ニッケルマットの主成分は二硫化三ニッケル(Ni32)と金属ニッケル(Ni0)である。セメンテーション工程では、浸出液とニッケルマットとを接触させて、銅とニッケルとの置換反応を行う。これにより、ニッケルマット中のニッケルが液に置換浸出され、浸出液中の銅イオンが硫化銅(Cu2S)または金属銅(Cu0)の形態で析出する。固液分離により得られたセメンテーション残渣は塩素浸出工程に供給される。
【0019】
セメンテーション工程から得られたセメンテーション終液は脱鉄工程に供給される。脱鉄工程においてセメンテーション終液に含まれる不純物である鉄および砒素が除去される。脱鉄工程から得られた液を抽出始液として溶媒抽出工程に供給する。溶媒抽出工程では、抽出始液に含まれるコバルトを溶媒抽出により分離し、塩化ニッケル水溶液と塩化コバルト水溶液とを得る。溶媒抽出工程の詳細は後に説明する。
【0020】
塩化ニッケル水溶液は浄液工程を経てさらに不純物が除去されて高純度塩化ニッケル水溶液となる。高純度塩化ニッケル水溶液は電解給液としてニッケル電解工程に供給される。ニッケル電解工程では電解採取により電気ニッケルが製造される。
【0021】
塩化コバルト水溶液は浄液工程を経てさらに不純物が除去されて高純度塩化コバルト水溶液となる。高純度塩化コバルト水溶液は電解給液としてコバルト電解工程に供給される。コバルト電解工程では電解採取により電気コバルトが製造される。
【0022】
(溶媒抽出工程)
図1に溶媒抽出工程の詳細を示す。なお、図1において破線は有機相の流れを意味し、実線は水相の流れを意味する。
溶媒抽出工程には抽出始液として脱鉄工程の処理後液(塩化ニッケル水溶液)が供給される。抽出始液は抽出段に供給される。抽出段において、水相に含まれるコバルトが有機相に抽出される。抽出後の水相は塩化ニッケル水溶液として後工程に送られる。抽出段の有機相は洗浄段に送られ、塩化コバルト水溶液で有機相に微量に含まれる塩化ニッケルを除去した後、逆抽出段に送られる。逆抽出段では、希塩酸などの酸性水溶液を用いて有機相に含まれるコバルトを水相に逆抽出し、塩化コバルト水溶液を生成する。生成された塩化コバルト水溶液は後工程に送られる。
【0023】
抽出段ではコバルトとともに不純物である亜鉛、鉄、銅なども有機相に抽出される。コバルトは逆抽出段で水相に逆抽出されるが、不純物は逆抽出されずに有機相に残る。有機溶媒の不純物濃度が上昇すると、抽出段におけるコバルトの抽出量が減少したり、塩化ニッケル水溶液や塩化コバルト水溶液に不純物が溶出したりするという問題が生じる。そこで、逆抽出後の有機溶媒は脱亜鉛工程に送られ、亜鉛、鉄、銅などの不純物が除去される。
【0024】
脱亜鉛工程では、逆抽出後の有機溶媒の一部を抜き出し、そこに中和剤を添加して中和することで、有機溶媒中の不純物を中和澱物とする。つぎに、中和工程から排出された液をデカンターにより重液(中和澱物を含む水相)と軽液(中和澱物を含まない有機相)とに分離する。軽液は、不純物が除去された有機溶媒として活性化工程に送られる。有機溶媒は、活性化工程で酸性水溶液を添加された後、抽出段に繰り返される。
【0025】
ニッケルとコバルトとを分離する溶媒抽出には、有機抽出剤としてアミン系抽出剤が好適に用いられる。中でも3級アミン抽出剤は塩酸を付加して活性化することにより金属クロロ錯イオンの抽出能力を保有し、ニッケルとコバルトとの選択性に優れる。3級アミン抽出剤としてTNOA(トリノルマルオクチルアミン)が挙げられる。
【0026】
一方、抽出始液である脱鉄工程の処理後液は、酸化還元電位が900mV(Ag/AgCl電極基準、以下同様)以上であり、強酸化性雰囲気である。したがって、有機溶媒を繰り返し使用すると、有機溶媒に含まれるアミン系抽出剤が分解して、有機抽出剤として機能しない劣化生成物が発生する。例えば、有機抽出剤としてTNOAを用いた場合には、劣化生成物であるDNOA(ジノルマルオクチルアミン)が発生する。
【0027】
(劣化生成物除去工程)
本実施形態は、有機溶媒を循環させる循環流路10から一部の有機溶媒を抜き取り、発生した劣化生成物を除去するところに特徴を有する。以下、この工程を劣化生成物除去工程と称する。
【0028】
図2に、前記溶媒抽出工程を実行する溶媒抽出設備1のうち、劣化生成物除去工程に相当する部分を示す。
循環流路10は途中で分岐している。循環流路10から分岐した流路を抜取流路11と称する。抜取流路11により循環流路10を流れる有機溶媒の一部が抜き取られ、タンク20に供給される。
【0029】
タンク20には所定量の有機溶媒が所定時間貯留される。循環流路10を流れる有機溶媒の液温は50〜60℃であるが、これをタンク20に所定時間貯留することで、有機溶媒を自然放熱により室温(20〜30℃)まで冷却する。そうすると、有機溶媒に含まれている劣化生成物がフロック状に固形化する。有機溶媒の冷却後、タンク20内の有機溶媒を固液分離装置30に供給する。なお、本明細書において「自然放熱」とは、外気温との温度差により放熱することを意味する。
【0030】
有機溶媒の貯留時間は、劣化生成物が固形化する温度まで有機溶媒を冷却できる時間に設定すればよい。例えば、貯留時間は6〜18時間である。また、タンク20はバッチ処理を行うため、抜取流路11に設けられた弁12はタンク20の処理周期に合わせて開閉される。
【0031】
なお、タンク20は特許請求の範囲に記載の「冷却装置」に相当する。タンク20のような簡易な装置で有機溶媒を冷却するので、設備コスト、操業コストを抑えることができる。
【0032】
固液分離装置30は、タンク20から供給された有機溶媒を固液分離することで、有機溶媒から劣化生成物を除去する。固液分離装置30はフロック状の劣化生成物を分離できればよく、特に限定されないが、濾紙、濾布、カートリッジフィルタなどを用いた濾過装置、スクリューデカンタなどの遠心分離機、シックナーなどの重力分離装置を用いることができる。中でも、濾過装置は簡易な装置であるにも関わらず、有機溶媒を固液分離できるので、設備コストを抑えることができる。
【0033】
固液分離装置30から排出された有機溶媒は、戻り流路13を通って、循環流路10に戻される。
【0034】
図1に示すように、循環流路10は、抽出段、洗浄段、逆抽出段、脱亜鉛工程、活性化工程をこの順に通っており、有機溶媒をこの順に循環させる。活性化工程から排出された有機溶媒は抽出段に供給される。
【0035】
有機溶媒を劣化生成物除去工程に抜き取る位置、すなわち抜取流路11の接続位置は特に限定されない。循環流路10を循環する有機溶媒には、どの位置においても劣化生成物が含まれており、どの位置の有機溶媒を抜き取っても劣化生成物を除去できるからである。
【0036】
しかし、抜取流路11は、循環流路10のうち、逆抽出段と活性化工程との間に接続することが好ましい。抽出段と逆抽出段との間の有機溶媒には目的物質であるコバルトが含まれている。一方、逆抽出段を経た後の有機溶媒はコバルトの含有量が少ない。そのため、有機溶媒を冷却して劣化生成物を固形化する際に、コバルトが固形化された劣化性物質に取り込まれにくくなる。そのため、コバルトのロスを低減できる。
【0037】
劣化生成物除去工程で劣化生成物を除去することで、溶媒抽出設備1内に保有される有機溶媒が減少する。そこで、劣化生成物の除去による不足分を補うように、新規の有機抽出剤を循環流路10に供給する。新規の有機抽出剤を供給する有機溶媒供給装置の構成は、特に限定されないが、例えば、新規の有機抽出剤を貯留するタンクと、タンク内の有機抽出剤を送液するポンプなどからなる構成が考えられる。
【0038】
新規の有機抽出剤の供給位置は、特に限定されないが、抽出段が好ましい。有機溶媒の抽出機能が発揮される位置だからである。
【0039】
以上のように、冷却により固形化した劣化生成物を固液分離により除去できるので、溶媒抽出設備1内を循環する有機溶媒に含まれる劣化生成物の増加を抑制できる。また、新規の有機抽出剤を供給することで、溶媒抽出設備1内に保有される有機溶媒の量を維持できるとともに、有機抽出剤中の劣化生成物の割合を低減できる。そのため、溶媒抽出工程の抽出効率を維持できる。
【0040】
ところで、抽出始液に還元剤を添加して、抽出始液の酸化還元電位を低下させれば、有機溶媒に含まれる劣化生成物の増加をより抑制できる。還元剤を添加する還元剤添加装置の構成は、特に限定されないが、例えば、還元剤を貯留するタンクと、タンク内の還元剤を送液するポンプなどからなる構成が考えられる。
【0041】
還元剤としては、特に限定されず、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどを用いることができる。中でも、脱ハロゲン剤として一般的に用いられており、硫酸根の生成が少ないチオ硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0042】
また、抽出始液の酸化還元電位を500〜550mVに調整することが好ましい。特許文献1に開示されているように、抽出始液の酸化還元電位を500mV以下に調整するためには、抽出始液1L当りチオ硫酸ナトリウムを60mg以上添加する必要がある。しかし、抽出始液の酸化還元電位を525mVに調整するためには、抽出始液1L当りのチオ硫酸ナトリウムの添加量は40mgでよく、抽出始液の酸化還元電位を550mVに調整するためには、抽出始液1L当りのチオ硫酸ナトリウムの添加量は20mgでよい。このように、抽出始液の酸化還元電位を500〜550mVに調整する場合、500mV以下に調整する場合に比べて、チオ硫酸ナトリウムの添加量を最大1/3まで低減できる。
【0043】
したがって、抽出始液の酸化還元電位を500〜550mVに調整することで、還元剤の添加量を抑えつつ、劣化生成物の発生量を低減できる。還元剤の添加量を抑えることにより、硫酸根の増加を抑制できる。その結果、後工程の電解工程における電力コストの増加を抑制でき、塩素回収率を維持できる。
【0044】
還元剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いる場合、濃度が50〜125g/Lの水溶液とすることが好ましい。水溶液とすることで抽出始液に効率よく混合できる。また、濃度が50g/L以上であれば、湿式製錬プロセス中の水量の増加を抑えることができ、有価金属の濃度が低下せず操業効率がよくなる。また、濃度が125g/L以下であれば、チオ硫酸ナトリウムが析出して配管を閉塞する恐れがない。
【0045】
チオ硫酸ナトリウムを溶解する溶媒は純水でもよいし、工業用水でもよい。チオ硫酸ナトリウムを抽出段から得られた塩化ニッケル水溶液で溶解することが好ましい。そうすれば、湿式製錬プロセス中の水量の増加を抑制できる。
【0046】
〔第2実施形態〕
本願発明者は、純粋なDNOAは20℃付近を境として固相状態が変化するという知見を得た。また、TNOA(有機抽出剤)が27〜28体積%、DNOAが1体積%未満、残りが芳香族炭化水素(希釈剤)である有機溶媒は、25℃付近を境として固相状態が変化するという知見を得た。すなわち、有機溶媒を25℃以下に冷却するとゲル状であったDNOAがフロック状となる。したがって、第1実施形態のように有機溶媒を自然放熱により冷却したのでは、外気温が25℃を超える場合にDNOAがゲル状となり固液分離により十分に除去できなくなる。
【0047】
そこで、本実施形態は、第1実施形態において有機溶媒を自然放熱により冷却するのに代えて、有機溶媒を強制放熱により冷却する。有機溶媒を強制放熱により冷却する装置としては特に限定されないが、ボルテックスチューブから得られた冷風をタンク20に貯留された有機溶媒に吹き込む構成でもよいし、タンク20の周囲に水冷ジャケットを設けた構成でもよい。なお、本明細書において「強制放熱」とは、冷媒と直接的または間接的に接触することにより放熱することを意味する。
【0048】
有機溶媒を強制放熱により冷却すれば、外気温に影響されず有機溶媒を所望の温度(例えば、25℃以下)まで冷却できる。劣化生成物(DNOA)をフロック状にできるので、固液分離により十分に除去できる。
【0049】
〔第3実施形態〕
有機溶媒に水を添加した後に、混合液を固液分離して劣化生成物を除去してもよい。有機溶媒に添加する水は特に限定されないが、湿式製錬プロセスの水バランスの観点からは、電解工程(図3参照)から得られる電解廃液(アノライト)を用いることが好ましい。
【0050】
有機溶媒への水の添加は固液分離の前の段階であればよい。例えば、タンク20に水を供給すればよい。この場合、タンク20に有機溶媒を供給した後に水を供給してもよいし、タンク20に水を供給した後に有機溶媒を供給してもよい。また、タンク20に有機溶媒と水とを同時に供給してもよい。
【0051】
水は低温(例えば、25℃以下)であることが好ましい。低温の水をタンク20に供給するタイミングは、有機溶媒の冷却の前でもよいし、後でもよいし、途中でもよい。高温(例えば、25℃を超える)の水をタンク20に供給するタイミングは、有機溶媒の冷却の前が好ましい。
【0052】
固液分離装置30はタンク20から排出された有機溶媒と水との混合液を固液分離する。これにより、混合液から劣化生成物を除去する。有機溶媒に水を添加することで固液分離に要する時間を短縮できる。その理由は以下のとおりであると推測される。
【0053】
有機溶媒には亜鉛、鉄、銅などの不純物が含まれる。特に、逆抽出段と脱亜鉛工程との間から有機溶媒を抜き取る場合には、有機溶媒に不純物が比較的多く含まれる。この有機溶媒を冷却すると、劣化生成物がフロック状に固形化するとともに、有機溶媒に含まれる不純物の一部がゲル状の固形物となる。
【0054】
不純物からなる固形物を含む有機溶媒をそのまま固液分離すると、固形物の量が比較的多いことから、固液分離に長時間を要する。例えば、固液分離装置30として濾過装置を用いる場合、不純物からなる固形物が目詰まりの原因となり、濾過に時間を要する。
【0055】
一方、有機溶媒に水を添加すると、有機溶媒に含まれる不純物からなる固形物が水に溶解する。すなわち、除去対象である劣化生成物を残して、固液分離の邪魔となる不純物からなる固形物の量を低減できる。そのため、固液分離に要する時間を短縮できる。
【0056】
水の添加量は有機溶媒の33体積%以上が好ましい。水の添加量を有機溶媒の33体積%とすると、固液分離に要する時間を半分に短縮できる。したがって、水を添加しない場合に比べて、同一の処理時間内で2倍の回数の固液分離処理ができる。また、水の添加量は有機溶媒の67体積%以下が好ましい。そうすれば、混合液の体積が増えすぎず、固液分離装置30の負荷を低減できる。
【0057】
また、有機溶媒と水との混合液を多段階で固液分離してもよい。例えば、複数台の固液分離装置30を直列に配置し、混合液を順に処理してもよい。一台の固液分離装置30に濾液を繰り返し装入してもよい。有機溶媒に水を添加することで、固液分離に要する時間を短縮でき、固液分離を多段階で行う時間を確保しやすくなる。混合液を多段階で固液分離することで、劣化生成物の取りこぼしを少なくできる。すなわち、劣化生成物の除去率を向上できる。その結果、有機溶媒に含まれる劣化生成物の増加をより抑制できる。
【実施例】
【0058】
つぎに、実施例を説明する。
図3に示す湿式製錬プロセスの操業を行った。図1に示す溶媒抽出工程において、抽出始液としてコバルトを含む塩化ニッケル水溶液を用い、溶媒抽出により塩化ニッケル水溶液と塩化コバルト水溶液とを得た。溶媒抽出工程では、抽出段3段、洗浄段3段、逆抽出段3段からなる交流多段方式のミキサーセトラーを用いた。
【0059】
抽出段に供給される抽出始液の流量は2,000m3/日、酸化還元電位は1,050mVである。また、抽出始液のNi濃度は160〜300g/L、Co濃度は6〜13g/L、Cu濃度は0.01〜0.05g/L、Zn濃度は0.01〜0.03g/L、Fe濃度は6〜20mg/Lである。溶媒抽出工程で使用した有機溶媒は、有機抽出剤としてTNOAを28体積%、希釈剤として芳香族炭化水素(丸善石油化学製:商品名スワゾール1800)を72体積%含む。抽出段に供給される有機溶媒の流量は2,200m3/日である。溶媒抽出設備に保有される有機溶媒は200m3である。したがって、有機溶媒は1日あたり約11回、溶媒抽出設備内を循環する。
【0060】
(実施例1)
抽出始液に濃度125g/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液を定量ポンプで添加した。ここで、添加量を30kg/日とした。その結果、抽出始液の酸化還元電位を550mVに調整できた。
【0061】
図2に示す設備を用いて、逆抽出段の直後から有機溶媒を抜き取り、劣化生成物の除去を行った。劣化生成物の除去は1回/日の頻度で行った。また、有機溶媒の抜き取り量は1m3/回とした。抜き取った有機溶媒をタンクに貯留し、16時間放置した。これにより、58℃であった有機溶媒の液温が25℃に低下し、フロック状の固形物が生成された。また、冷却後の有機溶媒を濾過し劣化生成物を除去した。濾過は、濾布を用いたポンプによる強制濾過により行った。1m3の有機溶媒を濾過するのに2時間を要した。劣化生成物の除去量をガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所製 型番:QP−2010、以下同じ)により測定した。
【0062】
劣化生成物を除去した後の有機溶媒を、脱亜鉛工程の直前に戻し入れた。また、劣化生成物の除去による不足分を補うように、新規のTNOAを定量ポンプで抽出段に供給した。なお、濾過により除去された固形分をガスクロマトグラフ質量分析計で分析したところ、その50体積%はDNOAであり、残る50体積%はTNOAであった。これは、DNOAが固形化する際に、TNOAを取り込むためと考えられる。
【0063】
操業開始から30日後、逆抽出段から排出された有機溶媒をサンプリングし、ガスクロマトグラフ質量分析計でDNOA濃度を測定した。その結果、DNOA濃度は0.065体積%であった。
【0064】
(実施例2)
実施例1の後、ボルテックスチューブから得られた冷風(20℃)をビニルチューブで導き、タンク内の有機溶媒に吹き込むよう構成した。その結果、固液分離装置に供給される有機溶媒の温度は常に25℃以下を維持できるようになった。その余の条件は実施例1と同様である。
【0065】
冷風の吹き込み開始から30日後、逆抽出段から排出された有機溶媒をサンプリングし、ガスクロマトグラフ質量分析計でDNOA濃度を測定した。その結果、DNOA濃度は0.065体積%であった。すなわち、冷風の吹き込み開始から30日間、DNOA濃度に変化が無かった。これは、30日間の操業において発生した劣化生成物を実質的に全て除去できたことを意味する。
【0066】
(実施例3)
実施例2の後、有機溶媒を貯留するタンクに水を添加するよう構成した。水として電解工程から得られる電解廃液(アノライト)を用いた。水の添加量は有機溶媒1m3に対して350Lとした(35体積%に相当)。アノライトの液温は58℃である。このアノライトを冷風による冷却の前に添加した。
【0067】
冷却後の混合液を濾過し劣化生成物を除去した。濾過は、濾布を用いたポンプによる強制濾過により行った。ここで、濾過操作を2回行った。混合液を1回濾過するのに1時間を要した。すなわち、実施例1に比べて固液分離に要する時間を半分に短縮できた。その余の条件は実施例2と同様である。
【0068】
水の添加開始から30日後、逆抽出段から排出された有機溶媒をサンプリングし、ガスクロマトグラフ質量分析計でDNOA濃度を測定した。その結果、DNOA濃度は0.058体積%であった。すなわち、実施例2に比べてDNOA濃度が若干低くなった。これは、30日間の操業において発生した劣化生成物よりも多くの劣化生成物を除去できたことを意味する。
【0069】
(比較例1)
抽出始液に濃度125g/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液を定量ポンプで添加した。ここで、添加量を30kg/日とした。その結果、抽出始液の酸化還元電位を550mVに調整できた。劣化生成物の除去は行わなかった。その余の条件は実施例1と同様である。
【0070】
操業開始から30日後、逆抽出段から排出された有機溶媒をサンプリングし、実施例1と同様の方法でDNOA濃度を測定した。その結果、DNOA濃度は0.13体積%であった。
【0071】
(比較例2)
抽出始液へのチオ硫酸ナトリウム水溶液の添加を行わなかった。劣化生成物の除去は行わなかった。その余の条件は実施例1と同様である。
【0072】
操業開始から30日後、逆抽出段から排出された有機溶媒をサンプリングし、実施例1と同様の方法でDNOA濃度を測定した。その結果、DNOA濃度は0.26体積%であった。
【0073】
実施例1〜3および比較例1、2におけるDNOA濃度の測定結果を図4のグラフにまとめる。劣化生成物に対する処理をなんら行わない場合(比較例2)、操業開始後30日におけるDNOA濃度は0.26体積%となる。抽出始液にチオ硫酸ナトリウム水溶液を添加すると(比較例1)、操業開始後30日におけるDNOA濃度は0.13体積%となり、半減する。さらに、劣化生成物の除去も行うと(実施例1)、操業開始後30日におけるDNOA濃度は0.065体積%となり、さらに半減する。このように、チオ硫酸ナトリウムの添加と、劣化生成物の除去とを組み合わせれば、何も行わない場合に比べてDNOA濃度の増加を1/4にまで低減できることが確認された。
【0074】
また、有機溶媒を強制放熱により冷却することで(実施例2)、発生量と同量の劣化生成物を除去でき、DNOA濃度の増加を止めることができた。さらに、濾過操作を2回行うことで(実施例3)、発生量よりも多くの劣化生成物を除去でき、DNOA濃度を減少させることができた。
【符号の説明】
【0075】
1 溶媒抽出設備
10 循環流路
11 抜取流路
12 弁
13 戻り流路
20 タンク
30 固液分離装置
図1
図2
図3
図4