【実施例】
【0056】
実施例1:GCM1ノックインヒトES細胞の樹立
合胞体栄養膜細胞のマーカー遺伝子の1つであるGCM1遺伝子座にGFPをコードする塩基配列がノックインされたヒトES細胞株を以下のように作製した。
ヒトES細胞株 KhES−1(京都大学より入手)のゲノムDNA上のGCM1遺伝子における翻訳開始点の15塩基上流から、翻訳開始点の20塩基下流までの塩基配列(配列番号1に示される塩基配列;TGGCCTGACCTTATCatggaaCCTGACGACTTTGAT)を標的とするZinc Finger Nuclease(ZFN)をコードするmRNAをSigma-Aldrich社から購入した。AcGFP遺伝子(タカラバイオ)及びネオマイシン耐性遺伝子を含むノックインベクターを作製した。単一に分散したヒトES細胞株 KhES−1に、エレクトロポレーション法により、上記ZFNをコードするmRNAと作製したノックインベクターとを共導入し、前記導入処理後の細胞をマイトマイシンC(Sigma-Aldrich)処理したネオマイシン耐性マウス線維芽細胞(オリエンタル酵母)上へ播種した。播種翌日から培地中にG418(ナカライテスク)を添加し、薬剤選択を行った。得られた耐性クローンのコロニーをピックアップして培養を続け、PCR法により、GCM1コード領域における開始コドン直後にAcGFPをコードする塩基配列が対立遺伝子座の一方にのみノックインされた細胞を選別した。選別された細胞を、以下、GCM1−GFPノックインヒトES細胞と記す。
【0057】
実施例2:ヒトES細胞から分化した合胞体栄養膜細胞の製造
(1)GCM1−GFPノックインヒトES細胞の調製
実施例1にて作製されたGCM1−GFPノックインヒトES細胞を「Ueno, M. et al. PNAS 2006, 103(25), 9554-9559」、「Watanabe, K. et al. Nat Biotech 2007, 25, 681-686」に記載の方法に倣い、マイトマイシンC処理したマウス線維芽細胞(リプロセル)上に播種し、37℃、2% CO
2条件下で維持培養した。その際の培地には、DMEM/F12培地(Sigma-Aldrich)に、20% KnockOut
TM Serum Replacement(KSR、Invitrogen)、0.1mM nonessential amino acids(NEAA、Invitrogen)、2mM L-glutamine(Sigma-Aldrich)、及び0.1mM 2−メルカプトエタノール(Wako)が添加された培地(以下、hES培地と記す。)に、bFGF(Wako)を10ng/ml添加して用いた。
維持培養されたGCM1−GFPノックインヒトES細胞を、セルカルチャーディッシュに接着したままで、リン酸緩衝食塩水(PBS、Invitrogen)で2回洗浄した後、0.25% トリプシン(Invitrogen)、1mg/ml collagenaseIV(Invitrogen)、20% KSR、及び1mM CaCl
2(ナカライテスク)が添加されたPBSを当該ディッシュに添加し、37℃、2% CO
2条件下で5分間インキュベートした。前記ディッシュにhES培地を添加した後、ピペッティングにより細胞を剥離して、細胞を含む培地を回収し、遠心分離(1000rpm、3分間)を行った。遠心分離された前記培養物から上清を除去した後、沈殿に、Y-27632(Wako)を20μM添加したhES培地を添加して細胞塊を懸濁した後、得られた細胞塊懸濁液を0.1%ゼラチン(Sigma-Aldrich)でコートしたセルカルチャーディッシュ(BD Falcon)上に播種し、37℃、2% CO
2条件下で1.5時間乃至2時間インキュベートした。ディッシュに接着していないGCM1−GFPノックインヒトES細胞塊を培地とともに回収することにより、MEFが含まれないGCM1−GFPノックインヒトES細胞塊の懸濁液を得た(当該操作を、以下、MEF除去操作と記すことがある。)。
(2)GCM1−GFPノックインヒトES細胞の合胞体栄養膜細胞への分化誘導
上記のようにして調製されたGCM1−GFPノックインヒトES細胞塊をTrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を96穴培養プレート1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2% CO
2条件下で維持培養した。その際の培地には、MEFをhES培地で一晩培養した上清(以下、MEF−CMと記す。)に、10ng/ml bFGF及び20μM Y-27632を添加した培地を用いた。維持培養開始から2日後に、上記培地を、10% FBS(コーニング)、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin(Penicillin‐Streptomycin Mixed Solution、ナカライテスク)、及び3ng/ml BMP4(R&D) が添加されたDMEM/F−12培地(以下、基礎分化培地Aと記す。)、または、基礎分化培地Aに、0.1% DMSO(Sigma-Aldrich)、1μM S26948(PPARγ agonist、Tocris Bioscience) 、1μM GW 1929(PPARγ agonist、Tocris Bioscience)、1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator、Tocris Bioscience)、1μM SR 11237(RXR agonist、Tocris Bioscience)、もしくは1nM レチノイン酸(RAR agonist、Sigma-Aldrich)のいずれかが添加された分化培地に置換し、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日後に、それぞれ同じ組成の分化培地への培地交換を行った。各分化培地の組成を表1に記す。S26948、GW 1929、CGP 7930及びSR 11237は各々1mMとなるように、レチノイン酸は10mMとなるように、各々DMSOに溶解させ、各DMSO溶液を基礎分化培地Aへ添加した。
【0058】
【表1】
基礎分化培地A:10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin及び3ng/ml BMP4が添加されたDMEM/F−12培地
【0059】
分化培地を用いた培養の6日目に、細胞をPBS(Invitrogen)にて2回洗浄した後、4% パラホルムアルデヒド(Wako)を用いて15分間固定した。前記細胞を0.3% トライトンX−100(Wako)を添加したPBSを用いて5分間膜透過処理したのち、細胞をPBSにて3回洗浄した。次いで、前記細胞を3% Bovine Serum Albumin(BSA、Sigma-Aldrich)を用いて1時間乃至2時間ブロッキングしたのち、5μg/ml chicken anti-GFP antibody(Abcam)、2μg/ml goat anti-chicken IgG antibody Alexa 488(Life technologies)および1μg/ml Hoechst 33342(同仁化学)を用いて免疫染色した。得られた染色試料について、全自動イメージアナライザーArrayscan(Thermo Scientific)を用いて、GCM1遺伝子が発現したことを示すGFP陽性細胞の割合を定量した。結果を
図1に示す。溶媒であるDMSOのみを添加した対照(Control A)と比べ、PPARγ agonistであるS26948(1−1)もしくはGW 1929(1−2)、GABABR positive allosteric modulatorであるCGP 7930(1−3)、または、RXR agonistであるSR 11237(1−4)の添加により、GFP陽性細胞の割合が20%程度増加した。RAR agonistであるレチノイン酸(1−5)の添加により、レチノイン酸非添加の対照(Control B)と比べて、GFP陽性細胞の割合が6%程度増加した。
【0060】
実施例3:ヒトES細胞から分化した合胞体栄養膜細胞の製造
実施例2の(1)に記載の方法に倣って、KhES−1細胞を維持培養した後、MEF除去操作に付した。MEF除去操作を行ったKhES−1細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を96穴培養プレート1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2% CO
2条件下で維持培養した。その際の培地には、MEF−CMに、10ng/ml bFGF及び20μM Y-27632を添加した培地を用いた。維持培養開始から2日後に、上記培地を、10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin 、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4、および300nM PD 173074(FGFシグナル伝達阻害物質、Sigma-Aldrich)が添加されたDMEM/F12培地(以下、基礎分化培地Bと記す。);基礎分化培地Bに、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、10μM GW 1929(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist)もしくは1nM レチノイン酸(RAR agonist)のいずれかが添加された分化培地;基礎分化培地Bに、0.1μM S26948、0.1μM CGP 7930および10nM SR 11237が添加された分化培地;基礎分化培地Bに、0.1μM S26948、0.1μM CGP 7930および1nM レチノイン酸が添加された分化培地;基礎分化培地Bに、0.1μM S26948、0.1μM CGP 7930、10nM SR 11237および1nM レチノイン酸が添加された分化培地;または、基礎分化培地Bに、10μM GW 1929、0.1μM CGP 7930、10nM SR 11237および1nM レチノイン酸が添加された分化培地に置換し、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日後に、PD 173074を含まないこと以外は同じ組成の分化培地への培地交換を行った。各分化培地の組成を、表2に記す。S26948、GW 1929、CGP 7930及びSR 11237は、各々100mMとなるように、レチノイン酸は10mMとなるように、各々DMSOに溶解させ、各DMSO溶液を基礎分化培地Bへ添加した。
【0061】
【表2】
基礎分化培地B:10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin 、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4 、および300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地
【0062】
分化培地を用いた培養の5日目に、RNeasy Micro Kit(QIAGEN)を用いて、細胞からtotal RNAを抽出した。得られたtotal RNAをSuperScript III(Invitrogen)を用いて逆転写し、得られたDNAを鋳型としてTaqMan probe(Applied biosystems)およびTaqMan Fast advanced master mix(Applied biosystems)を用いたリアルタイムPCRにより、合胞体栄養膜細胞のマーカー遺伝子であるSyncytin遺伝子の発現量を調べた。上記各培養で得られた細胞について、Syncytin遺伝子のmRNA量およびハウスキーピング遺伝子であるGAPDH遺伝子のmRNA量をリアルタイムPCRにより測定した。Syncytin遺伝子のmRNA量をGAPDH遺伝子のmRNA量で除して得られる値をSyncytin遺伝子mRNA量の補正値とし、基礎分化培地Bで培養した細胞(Control)におけるSyncytin遺伝子mRNA量補正値を1として、他の各培地で培養した細胞におけるSyncytin遺伝子mRNA量補正値を相対発現量として示した。上記の細胞培養からmRNA量の測定までを3回反復して実施した。結果を
図2に示す。
図2において、相対発現量の標準誤差をエラーバーで示す。Controlの相対発現量に対して統計的に有意に差がある相対発現量にアスタリスクを付す(**はP値0.001以上0.01未満を、***はP値0.001未満を意味する)。基礎分化培地Bで培養した細胞(Control)に比べて、PPARγ agonistであるS26948(2−1)もしくはGW 1929(2−2)、GABABR positive allosteric modulatorであるCGP 7930(2−3)、RXR agonistであるSR 11237(2−4)またはRAR agonistであるレチノイン酸(2−5)のいずれか添加された分化培地で培養した細胞において、Syncytin遺伝子の相対発現量が増加した。PPARγ agonistであるS26948もしくはGW 1929と、GABABR positive allosteric modulatorであるCGP 7930、RXR agonistであるSR 11237およびRAR agonistであるレチノイン酸からなる群より選ばれる2つ以上とが添加された分化培地で培養した細胞(2−6及び2−7)においては、Syncytin遺伝子の相対発現量がより増加した。PPARγ agonistであるS26948もしくはGW 1929と、GABABR positive allosteric modulatorであるCGP 7930、RXR agonistであるSR 11237およびRAR agonistであるレチノイン酸とが添加された分化培地で培養した細胞(2−8及び2−9)においては、Syncytin遺伝子の相対発現量がさらに増加した。
【0063】
実施例4:ヒトES細胞から分化した合胞体栄養膜細胞の製造
KhES−1細胞を実施例2の(1)に記載の方法に倣って、維持培養した後、MEF除去操作に付した。
MEF除去操作を行ったKhES−1細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2% CO
2条件下で維持培養した。
一方、MEF除去操作を行ったKhES−1細胞塊を、1000μlフィルターチップ(日本ジェネティクス)を用いて10回乃至20回ピペッティングを行うことにより数十個の細胞からなる細胞塊とし、得られた細胞塊を1ウェルあたり約1.5×10
3細胞乃至約4×10
3細胞相当となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2%CO
2条件下で維持培養した。
上記いずれの細胞播種条件においても、維持培養には、MEF−CMに10ng/ml bFGF及び20μM Y-27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、上記培地を、基礎分化培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4、および300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist)、および1nM レチノイン酸(RAR agonist)を添加した分化培地に置換し(この時をday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日後に、PD 173074を含まないこと以外は同じ組成の分化培地への交換を行い、更に2日間培養した。
比較例として、上記の2種の条件で播種したKhES−1細胞をそれぞれ、上記と同様に維持培養し、維持培養開始から2日後に、MEF−CMに、10ng/ml BMP4、1μM A83-01(アクチビンシグナル伝達阻害物質Wako)および0.1μM PD 173074(FGFシグナル伝達阻害物質)を添加した分化培地(非特許文献2に記載)への培地交換を行って(この時をday 0とする。)、その後3日間培養し、同じ組成の分化培地への培地交換を行って更に2日間培養した。培養は37℃、5% CO
2条件下で行った。
分化を誘導しない対照として、上記の2種の条件で播種したKhES−1細胞をそれぞれ、上記と同様に維持培養し、維持培養開始から2日後に、MEF−CMに4ng/ml bFGFを添加した培地への培地交換を行って(この時をday 0とする。)、その後3日間培養し、同じ組成の培地への培地交換を行って更に2日間培養した。培養は37℃、2% CO
2条件下で行った。
播種条件とday 0以後に用いた培地の組成を、表3に記す。
【0064】
【表3】
基礎分化培地B:10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin 、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4 、および300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地
【0065】
day 0から5日目に、RNeasy Micro Kit(QIAGEN)を用いて、細胞からtotal RNAを抽出した。得られたtotal RNAを、SuperScript III(Invitrogen)を用いて逆転写し、得られたDNAを鋳型としてTaqMan probe(Applied biosystems)およびTaqMan Fast advanced master mix(Applied biosystems)を用いたリアルタイムPCRにより、合胞体栄養膜細胞のマーカー遺伝子であるSyncytin遺伝子の発現量を調べた。上記各培養で得られた細胞について、Syncytin遺伝子のmRNA量およびハウスキーピング遺伝子であるGAPDH遺伝子のmRNA発現量をリアルタイムPCRにより測定した。Syncytin遺伝子のmRNA量をGAPDH遺伝子のmRNA量で除して得られる値をSyncytin遺伝子mRNA量の補正値とし、3−2の条件で播種し培養した細胞におけるSyncytin遺伝子mRNA量補正値を1として、他の各条件で培養した細胞におけるSyncytin遺伝子mRNA量補正値を相対発現量として示した。上記の細胞培養からmRNA量の測定までを3回反復して実施した。結果を
図3に示す。
図3において、相対発現量の標準誤差をエラーバーで示す。比較例3−2の相対発現量に対して統計的に有意に差がある相対発現量にアスタリスクを付す(*はP値0.01以上0.05未満を、***はP値0.001未満を意味する)。PPARγ agonistであるS26948、GABABR positive allosteric modulatorであるCGP 7930、RXR agonistであるSR 11237およびRAR agonistであるレチノイン酸を含む分化培地で培養した細胞(3−3、3−6)において、細胞塊を播種した場合と単一に分散した細胞を播種した場合のいずれでも、比較例(3−2、3−5)と比べて、Syncytin遺伝子の相対発現量が増加することが示された。細胞塊を播種する(3−3)よりも、単一に分散した細胞を播種した(3−6)方が、Syncytin相対遺伝子の発現量が増加することが示された。
【0066】
実施例5:ヒトES細胞から分化した合胞体栄養膜細胞の製造
実施例1で作製されたGCM1−GFPノックインヒトES細胞を実施例2の(1)に記載の方法に倣って、維持培養した後、MEF除去操作に付した。
(1)本発明製造例
本発明の製造例として、MEF除去操作を行ったGCM1−GFPノックインヒトES細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2%CO
2条件下で維持培養した。維持培養には、MEF−CMに10ng/ml bFGF及び20μM Y-27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、上記培地を、基礎分化培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4 、および300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist) および1nM レチノイン酸(RAR agonist)を添加した分化培地に置換し、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日後に、PD 173074を含まないこと以外は同じ組成の分化培地への交換を行った。
(2)比較製造例
比較製造例として、MEF除去操作を行ったGCM1−GFPノックインヒトES細胞の塊を、1000μlフィルターチップ(日本ジェネティクス)を用いて10回乃至20回ピペッティングを行うことにより数十個の細胞からなる細胞塊とし、得られた細胞塊を1ウェルあたり約1.5×10
3細胞乃至約4×10
3細胞相当となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2%CO
2条件下で維持培養した。維持培養には、MEF−CMに10ng/ml bFGF及び20μM Y-27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、MEF−CMに、10ng/ml BMP4、 1μM A83-01および0.1μM PD 173074を添加した分化培地(非特許文献2に記載)への培地交換を行って、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日後に、同じ組成の分化培地への培地交換を行った。
(3)細胞観察
分化培地を用いた培養の5日目に、細胞をPBSにて2回洗浄した後、4% パラホルムアルデヒドを用いて15分間固定した。前記細胞を0.3% トライトンX−100(Wako)を添加したPBSを用いて5分間膜透過処理したのち、細胞をPBSにて3回洗浄した。次いで、前記細胞を3% BSAにより1時間乃至2時間ブロッキングした後、5μg/ml chicken anti-GFP antibody(Abcam), 2μg/ml goat anti-chicken IgG antibody Alexa 488(Life technologies)および1μg/ml Hoechst 33342 (同仁化学)を用いて免疫染色した。得られた染色試料の免疫染色像を蛍光顕微鏡で観察した。結果を
図4に示す。
比較製造例では、GCM1遺伝子が発現したことを示すGFP陽性細胞が5割程度しか認められなかった(
図4A)のに対し、本発明の製造例では、9割程度がGFP陽性細胞であった(
図4B)。さらに、本発明の製造例では、合胞体性栄養膜細胞の特徴である融合した細胞様の形態が観察された(
図4B)。
【0067】
実施例6:ヒトES細胞から分化した合胞体栄養膜細胞の製造
KhES−1細胞を実施例2の(1)に記載の方法に倣って、維持培養した後、MEF除去操作に付した。
(1)本発明製造例
本発明の製造例として、MEF除去操作を行ったKhES−1細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2%CO
2条件下で維持培養した。維持培養には、MEF−CMに10ng/ml bFGF及び20μM Y-27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、上記培地を、基礎分化培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4 、および300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist) および1nM レチノイン酸(RAR agonist)を添加した分化培地に置換し(この時をday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日後に、PD 173074を含まないこと以外は同じ組成の分化培地への交換を行った。
(2)比較製造例
比較例として、MEF除去操作を行ったKhES−1細胞の塊を、1000μlフィルターチップ(日本ジェネティクス)を用いて10回乃至20回ピペッティングを行うことにより数十個の細胞からなる細胞塊とし、得られた細胞塊を1ウェルあたり約1.5×10
3細胞乃至約4×10
3細胞相当となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2%CO
2条件下で維持培養した。維持培養には、MEF−CMに10ng/ml bFGF及び20μM Y-27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、MEF−CMに、10ng/ml BMP4、 1μM A83-01および0.1μM PD 173074を添加した分化培地(非特許文献2に記載)への培地交換を行って(この時をday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日後に、同じ組成の分化培地への培地交換を行った。
(3)対照(未分化維持培養)
分化を誘導しない対照として、MEF除去操作を行ったKhES−1細胞の塊を、1000μlフィルターチップ(日本ジェネティクス)を用いて10回乃至20回ピペッティングを行うことにより数十個の細胞からなる細胞塊とし、得られた細胞塊を1ウェルあたり約1.5×10
3細胞乃至約4×10
3細胞相当となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2%CO
2条件下で維持培養した。維持培養には、MEF−CMに10ng/ml bFGF及び20μM Y-27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、MEF−CMに4ng/ml bFGFを添加した培地への培地交換を行って(この時をday 0とする。)、その後3日間培養し、同じ組成の培地への培地交換を行って更に2日間培養した。培養は37℃、2% CO
2条件下で行った。
(4)遺伝子発現解析
day 0から5日目に、RNeasy Micro Kit(QIAGEN)を用いて、細胞からtotal RNAを抽出した。得られたtotal RNAを、SuperScript III(Invitrogen)を用いて逆転写し、得られたDNAを鋳型としてTaqMan probe(Applied biosystems)およびTaqMan Fast advanced master mix(Applied biosystems)を用いたリアルタイムPCRにより、合胞体栄養膜細胞のマーカー遺伝子として知られるGCM1遺伝子、Syncytin遺伝子、HOPX遺伝子、TFAP2A遺伝子およびCGA遺伝子、ならびに、合胞体栄養膜細胞とは異なる系列の胎盤系細胞である絨毛外栄養膜細胞のマーカー遺伝子として知られるHLA−G遺伝子の発現量を調べた。上記各培養で得られた細胞について、上記各合胞体栄養膜細胞マーカー遺伝子のmRNA発現量、HLA−G遺伝子のmRNA発現量およびハウスキーピング遺伝子であるGAPDH遺伝子のmRNA発現量をリアルタイムPCRにより測定した。上記各合胞体栄養膜細胞マーカー遺伝子のmRNA量をGAPDH遺伝子のmRNA量で除して得られる値を当該合胞体栄養膜細胞マーカー遺伝子mRNA量の補正値とし、比較製造例((2)に記載)で得られた細胞における合胞体栄養膜細胞マーカー遺伝子mRNA量補正値を1として、本発明製造例((1)に記載)または対照((3)に記載)で得られた細胞における合胞体栄養膜細胞マーカー遺伝子mRNA量補正値を相対発現量として示した。HLA−G遺伝子のmRNA量についても、同様のデータ処理を行い、相対発現量として示した。上記の細胞培養からmRNA量の測定までを3回反復して実施した。結果を
図5に示す。
図5において、対照(未分化維持培養)の細胞における相対発現量を白棒グラフで、比較例の細胞における相対発現量を灰色棒グラフで、本発明製造例の細胞における相対発現量を黒棒グラフで示す。相対発現量の標準誤差をエラーバーで示す。比較製造例の相対発現量に対して統計的に有意に差がある相対発現量にアスタリスクを付す(**はP値0.001以上0.01未満を、***はP値0.001未満を意味する)。本発明製造例で得られた細胞では、比較製造例で得られた細胞と比べて、各合胞体栄養膜細胞マーカー遺伝子の相対発現量が5倍から20倍有意に増加し(
図5A)、絨毛外栄養膜細胞マーカー遺伝子の相対発現量が約4割に減少していた(
図5B)。
この結果から、本発明製造方法により、ヒトES細胞から、合胞体栄養膜細胞を高効率に製造可能であることが示された。
【0068】
実施例7:ヒトES細胞から分化した合胞体栄養膜細胞の製造
KhES−1細胞を実施例2の(1)に記載の方法に倣って維持培養した後、MEF除去操作に付した。MEF除去操作を行ったKhES−1細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2% CO
2条件下で維持培養した。その際の培地には、MEF−CMに、10g/ml bFGF及び20μM Y−27632を添加した培地を用いた。
(1)対照
維持培養開始から2日後に、上記培地を、基礎分化培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4、及び300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に置換し(この時を分化培養のday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で5日間培養した(Control)。前記培地置換の3日後に、PD 173074を含まないこと以外は同じ組成の分化培地への交換を行った。
(2)本発明製造例
維持培養開始から2日後に、基礎分化培地B、又は、基礎分化培地Bに0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist) および1nM レチノイン酸(RAR agonist)を添加した分化培地(以下、分化培地Bと記すことがある。)への置換を行い(この時を分化培養のday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で5日間培養した。
維持培養開始から2日後に基礎分化培地Bへの培地置換を行ったウェルの一部については、基礎分化培地Bを用いた培養開始から1、2、3または4日目に、分化培地Bへの置換を行い、5日目まで培養を継続した。
維持培養開始から2日後に分化培地Bへの培地置換を行ったウェルの一部については、分化培地Bを用いた培養開始から1、2、3または4日目に、基礎分化培地Bへの置換を行い、5日目まで培養を継続した。
すなわち、分化培養0日から5日、分化培養2日から5日、分化培養3日から5日、もしくは分化培養4日から5日(
図6A)、分化培養0日から2日、分化培養0日から3日、分化培養0日から4日、もしくは分化培養0日から5日(
図6B)、または、分化培養0日から1日、分化培養1日から5日、もしくは分化培養0日から5日(
図6C)の期間は、分化培地Bを用いて培養し、その他の期間は基礎分化培地Bを用いて培養した。
いずれの場合も、分化培養3日目からは、PD 173074を含まないこと以外は上記と同じ組成の培地を用いた。
(3)遺伝子発現解析
分化培養5日目に、RNeasy Micro Kit(QIAGEN)を用いて、細胞からtotal RNAを抽出した。得られたtotal RNAを、SuperScript III(Invitrogen)を用いて逆転写し、得られたDNAを鋳型としてTaqMan probe(Applied biosystems)およびTaqMan Fast advanced master mix(Applied biosystems)を用いたリアルタイムPCRにより、合胞体栄養膜細胞のマーカー遺伝子であるGCM1遺伝子及びSyncytin遺伝子の発現量を調べた。GCM1遺伝子、Syncytin遺伝子およびハウスキーピング遺伝子であるGAPDH遺伝子のmRNA発現量をリアルタイムPCRにより測定した。Syncytin遺伝子のmRNA量をGAPDH遺伝子のmRNA量で除して得られる値をSyncytin遺伝子mRNA量の補正値とし、対照((1)に記載)で得られた細胞におけるSyncytin遺伝子mRNA量補正値を1として、本発明製造例((2)に記載)で得られた細胞におけるSyncytin遺伝子mRNA量補正値を相対発現量として示した。GCM1遺伝子のmRNA量についても、同様のデータ処理を行い、相対発現量として示した。結果を
図6に示す。
図6において、本発明製造例を、分化培地Bでの培養期間(日)で特定して示し、GCM1遺伝子の相対発現量を灰色棒グラフで、Syncytin遺伝子の相対発現量を黒棒グラフで示す。
分化培養開始から2日目以降に、分化培地Bでの培養を開始した場合、基礎分化培地Bのみで5日間培養した場合(Control)と比べて、合胞体栄養膜細胞マーカー遺伝子であるGCM1遺伝子およびSyncytin遺伝子の発現量の大きな増加は認められなかった(
図6A:2−5、3−5及び4−5)。分化培養2日目より前に分化培地Bでの培養を開始した場合、Controlと比べて、GCM1遺伝子およびSyncytin遺伝子の発現量が2倍以上増加し、分化培養5日目より前に基礎分化培地Bへ置換しても、GCM1遺伝子およびSyncytin遺伝子の発現量がControlよりも高かった(
図6B及びC)。5日間の分化培養の全期間において、基礎分化培地BにPPARγ agonistであるS26948、GABABR positive allosteric modulatorであるCGP 7930、RXR agonistであるSR 11237およびRAR agonistであるレチノイン酸を含む分化培地(分化培地B)で培養した場合、Controlと比べ、GCM1遺伝子およびSyncytin遺伝子の発現量が2倍乃至4倍程度増加した(
図6A、B及びC)。
【0069】
実施例8:ヒトES細胞から分化した栄養膜細胞及び合胞体栄養膜細胞の製造
KhES−1細胞を、実施例2の(1)に記載の方法に倣って、維持培養した後、MEF除去操作に付した。MEF除去操作を行ったKhES−1細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2% CO
2条件下で維持培養した。その際の培地には、MEF−CMに、10ng/ml bFGF、20μM Y−27632を添加した培地を用いた。維持培養開始から2日後に、上記培地を、基礎分化培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、 100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4、300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist)および1nM レチノイン酸(RAR agonist)を添加した分化培地に置換し(この時を分化培養のday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で5日間培養した。分化培養3日目に、PD 173074を含まないこと以外は同じ組成の培地への交換を行った。
分化培養0、1、2、3、4および5日目に、RNeasy Micro Kit(QIAGEN)を用いて、細胞からtotal RNAを抽出した。得られたtotal RNAを、SuperScript III(Invitrogen)を用いて逆転写し、得られたDNAを鋳型としてTaqMan probe(Applied biosystems)およびTaqMan Fast advanced master mix(Applied biosystems)を用いたリアルタイムPCRにより、栄養膜細胞マーカーKRT7遺伝子、ならびに、合胞体栄養膜細胞のマーカー遺伝子であるGCM1遺伝子及びSyncytin遺伝子の発現量を調べた。KRT7遺伝子、GCM1遺伝子、Syncytin遺伝子およびハウスキーピング遺伝子であるGAPDH遺伝子のmRNA発現量をリアルタイムPCRにより測定した。Syncytin遺伝子のmRNA量をGAPDH遺伝子のmRNA量で除して得られる値をSyncytin遺伝子mRNA量の補正値とし、分化培養5日目で得られた細胞におけるSyncytin遺伝子mRNA量補正値を1として、分化培養0、1、2、3又は4日目で得られた細胞におけるSyncytin遺伝子mRNA量補正値を相対発現量として示した。KRT7遺伝子及びGCM1遺伝子のmRNA量についても、同様のデータ処理を行い、相対発現量として示した。結果を
図7に示す。
図7において、KRT7遺伝子の相対発現量を白色棒グラフで、GCM1遺伝子の相対発現量を灰色棒グラフで、Syncytin遺伝子の相対発現量を黒棒グラフで示す。
分化培養0日目では、KRT7遺伝子、GCM1遺伝子及びSyncytin遺伝子のすべての発現が検出されなかった。KRT7遺伝子の発現量は、分化培養1日目から検出され、分化培養5日目に最も高くなった。GCM1遺伝子の発現量は、分化培養2日目から増加し、分化培養4日目に最も高くなった。Syncytin遺伝子の発現量は、分化培養3日目から増加し、分化培養5日目に最も高くなった。
実施例7において、GCM1遺伝子およびSyncytin遺伝子の発現量がControlよりも増加した「分化培養2日目より前に分化培地Bでの培養を開始した場合」の「分化培養2日目より前」の時期は、「培養物中にGCM1 mRNAを発現する細胞が出現する前」の時期に相当することが示唆された。
【0070】
実施例9:ヒトES細胞から分化した合胞体栄養膜細胞の製造
実施例1で作製されたGCM1−GFPノックインヒトES細胞を、実施例2の(1)に記載の方法に倣って、維持培養した後、MEF除去操作に付した。
MEF除去操作を行ったGCM1−GFPノックインヒトES細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2% CO
2条件下で維持培養した。その際の培地には、MEF−CMに、10ng/ml bFGF及び20μM Y−27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、上記培地を、基礎分化培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4、及び300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、レチノイン酸(RAR agonist) を1nM、10nM、100nM、もしくは1000nMとなるように添加した分化培地;または、基礎分化培地BにDMSOを0.01%の濃度になるように添加した分化培地に交換し、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日後に、PD 173074を含まないこと以外は同じ組成の培地への交換を行った。
分化培地を用いた培養の5日目に、細胞をPBS(Invitrogen)にて2回洗浄した後、4% パラホルムアルデヒド(Wako)を用いて15分間固定を実施した。前記細胞を0.3% トライトンX−100(Wako)を添加したPBSを用いて5分間膜透過処理したのち、細胞をPBSにて3回洗浄した。次いで、前記細胞を3% BSAにより1時間乃至2時間ブロッキングした後、5μg/ml chicken anti-GFP antibody(Abcam)、2μg/ml goat anti-chicken IgG antibody Alexa 488(Life technologies)および1μg/ml Hoechst 33342 (同仁化学)を用いて免疫染色した。得られた染色試料について、全自動イメージアナライザーArrayscan(Thermo Scientific)を用いてGFP陽性細胞の割合を定量した。上記の細胞培養からGFP陽性細胞の測定までを3回反復して実施した。結果を
図8に示す。GFP陽性細胞の割合の標準誤差をエラーバーで示す。
1nMまたは10nMのレチノイン酸が添加された分化培地を用いた場合は、レチノイン酸が添加されていない分化培地を用いた場合(Control)と比べて、GFP陽性細胞の割合が10%前後増加した。一方、100nM以上のレチノイン酸が添加された分化培地を用いた場合は、Controlと比べてGFP陽性細胞の割合が10%以上減少した。
【0071】
実施例10:ヒトES細胞から分化した合胞体栄養膜細胞の製造
KhES−1細胞を、実施例2の(1)に記載の方法に倣って、維持培養した後、MEF除去操作に付した。
MEF除去操作を行ったKhES−1細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2% CO
2条件下で維持培養した。その際の培地には、MEF−CMに、10ng/ml bFGF及び20μM Y−27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin及び100μg/ml streptomycinが添加されたDMEM/F12培地(以下、基礎培地Cと記す。);基礎培地Cに1nMもしくは1000nM レチノイン酸が添加された培地;基礎培地Cに100ng/ml BMP4が添加された分化培地;基礎培地Cに100ng/ml BMP4及び1nMレチノイン酸が添加された分化培地;または、基礎培地Cに100ng/ml BMP4及び1000nMレチノイン酸が添加された分化培地に置換し(この時をday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日後に、同じ組成の培地への交換を行い、更に2日間培養した。
day 0から5日目に、RNeasy Micro Kit(QIAGEN)を用いて、細胞からtotal RNAを抽出した。得られたtotal RNAを、SuperScript III(Invitrogen)を用いて逆転写し、得られたDNAを鋳型としてTaqMan probe(Applied biosystems)およびTaqMan Fast advanced master mix(Applied biosystems)を用いたリアルタイムPCRにより、合胞体栄養膜細胞のマーカー遺伝子であるSyncytin遺伝子の発現量を調べた。上記各培養で得られた細胞について、Syncytin遺伝子およびハウスキーピング遺伝子であるGAPDH遺伝子のmRNA発現量をリアルタイムPCRにより測定した。Syncytin遺伝子のmRNA量をGAPDH遺伝子のmRNA量で除して得られる値を、Syncytin遺伝子の相対発現量として示した。結果を
図9に示す。
図9のAには、BMP4が添加されていない培地を用いた場合の結果を示し、
図9のBには、100ng/ml BMP4が添加された分化培地を用いた場合の結果を示す。
BMP4非存在下では、1000nMのレチノイン酸が添加された培地を用いた場合に、レチノイン酸が添加されていない培地を用いた場合と比べて、Syncytin遺伝子の相対発現量がわずかに増加した(
図9A)。一方、100ng/ml BMP4 存在下では、レチノイン酸が添加されていない培地を用いた場合と比べて、1nMのレチノイン酸が添加された分化培地を用いた場合にはSyncytin遺伝子の相対発現量が増加し、1000nMのレチノイン酸が添加された分化培地を用いた場合にはSyncytin遺伝子の相対発現量が減少した(
図9B)。
【0072】
実施例11: ヒトES細胞から分化した栄養膜細胞及び合胞体栄養膜細胞の製造とこれらを用いる細胞層透過性試験
ヒトES細胞を実施例2の(1)に記載の方法に倣って、維持培養した後、MEF除去操作に付す。
MEF除去操作を行ったヒトES細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレートに播種し、37℃、2%CO
2条件下で維持培養する。維持培養には、MEF−CMに10ng/ml bFGF及び20μM Y-27632を添加した培地を用いる。
維持培養開始から2日後に、上記培地を、基礎分化培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4 、および300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist) および1nM レチノイン酸(RAR agonist)を添加した分化培地に置換して(この時をday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で1日間乃至2日間培養し、上記ヒトES細胞から分化した栄養膜細胞を含む培養物を得る。得られる培養物について、必要に応じて、Cytokeratin7をコードするmRNAを発現し、SyncytinをコードするmRNAを発現していない細胞の存在を確認する。
上記培養で得られた細胞をセルカルチャーインサート(Corning、Cat.3470、メンブレン孔サイズ0.4μm)上で、37℃、5% CO
2条件下に1日間乃至4日間培養する。培地には、基礎分化培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4 、および300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist) および1nM レチノイン酸(RAR agonist)を添加した分化培地を用いる。day 0から3日目以降は、PD 173074を含まないこと以外は上記と同じ組成の分化培地を用いる。必要に応じて、上記ヒトES細胞から分化した合胞体栄養膜細胞の出現を確認する。
「Poulsen, M. et al. Toxicology in Vitro 2009, 23, 1380-1386」等に記載の胎盤透過性試験方法を参考に被験物質の透過性試験を行う。
上記セルカルチャーインサート上に形成された細胞層の電気抵抗値(Ω)をMillicell ERS-2(Millipore)を用いて測定し、得られた測定値から細胞を播種していないブランクの電気抵抗値を引きメンブレンフィルターの面積(cm
2)を掛けた値である経上皮電気抵抗(TEER、Ω・cm
2)を求める。TEER値が35以上となるタイトジャンクションを形成した細胞層を透過性試験に用いる。
インサート内およびマルチプルウェルプレート内の培地をHanks’ Balanced Salt Solution(HBSS)(no phenol red、ライフテクノロジーズ)に置換し、37℃ 5% CO
2条件下で30分間乃至45分間インキュベートする。インサート内(アピカル側)の培地を被験物質を含んだHBSSに置換し、70rpmで攪拌しながら37℃、0%乃至5% CO
2条件下で培養する。30分、60分、90分および120分後にマルチプルウェルプレート内から培地100μlを採取し、同量のHBSSを添加する。マルチプルウェルプレート内の培地中の被験物質を蛍光プレートリーダー(PerkinElmer)やLC−MS等を用いて定量することによって、上記細胞層における被験物質の透過性を評価する。
【0073】
実施例12: ヒトiPS細胞から分化した栄養膜細胞及び合胞体栄養膜細胞の製造
ヒトiPS細胞201B7株(京都大学iPS研究所より入手)を、実施例2の(1)に記載の方法に倣って、維持培養した後、MEF除去操作に付す。
MEF除去操作を行ったヒトiPS細胞の塊を。TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2% CO
2条件下で維持培養する。その際の培地には、MEF−CMに、10ng/ml bFGF及び20μM Y−27632を添加した培地を用いる。
維持培養開始から2日後に、上記培地を、基礎培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4、300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist)もしくは1nM レチノイン酸(RAR agonist)のいずれかが添加された分化培地;または、0.1μM S26948、0.1μM CGP 7930、10nM SR 11237および1nM レチノイン酸(RAR agonist)からなる群より選ばれる2種以上が添加された分化培地に置換して(この時をday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で1日間乃至2日間培養し、上記ヒトiPS細胞から分化した栄養膜細胞を含む培養物を得る。得られる培養物について、必要に応じて、Cytokeratin7をコードするmRNAを発現し、SyncytinをコードするmRNAを発現していない細胞の存在を確認する。
上記分化培地を用いたday 0からの培養を継続し、上記ヒトiPS細胞から分化した合胞体栄養膜細胞を含む培養物を得る。day 0から3日目以降は、PD 173074を含まないこと以外は上記と同じ組成の分化培地を用いる。
【0074】
実施例13: ヒトES細胞から分化した栄養膜細胞及び合胞体栄養膜細胞の製造とこれらを用いた細胞層透過性試験
KhES−1細胞を実施例2の(1)に記載の方法に倣って、維持培養した後、MEF除去操作に付した。
MEF除去操作を行ったKhES−1細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1枚あたり1.5×10
5細胞となるように10mlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした100mmセルカルチャーディッシュ(BD Falcon)に播種し、37℃、2%CO
2条件下で維持培養した。維持培養には、MEF−CMに10ng/ml bFGF及び20μM Y-27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、上記培地を、20μM Y-27632を添加した基礎分化培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4 、および300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist) および1nM レチノイン酸(RAR agonist)を添加した分化培地に置換して(この時をday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で2日間培養し、KhES−1細胞から分化した栄養膜細胞を含む培養物を得た。
上記培養で得られた細胞を、セルカルチャーディッシュに接着したままで、PBSで2回洗浄した後、2mg/ml collagenaseIV(Invitrogen)及び20μg/ml DNaseI(Roche)が添加されたPBSを当該ディッシュに添加し、37℃、5% CO
2条件下で5分間インキュベートした。前記ディッシュにTrypLE Express(Life Technologies)をさらに添加し、37℃、5% CO
2条件下で5分間インキュベートした。前記ディッシュに、10% FBS(コーニング)、2mM L-glutamine、及び100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin(Penicillin‐Streptomycin Mixed Solution、ナカライテスク)が添加されたDMEM/F−12培地を添加した後、ピペッティングにより細胞を剥離して、細胞を含む培地を回収し、遠心分離(1000rpm、5分間)を行った。遠心分離された前記培養物から上清を除去した後、沈殿に基礎分化培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4 、および300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist) 、1nM レチノイン酸(RAR agonist)、2μM Caspase Inhibitor Z-VAD-FMK(Promega)、10ng/ml HGF(R&D)および、10μM SB203580(p38 MAPK inhibitor、Abcam)を添加した分化培地(以下、基礎分化培地Cと記す。)を添加して細胞を懸濁した後、得られた細胞懸濁液を0.1%ゼラチン(Sigma-Aldrich)でコートしたセルカルチャーインサート(Corning、Cat.3470、メンブレン孔サイズ0.4μm)上に播種し、37℃、5% CO
2条件下で培養した。培地には、基礎分化培地C培地を用いた。前記セルカルチャーインサートへの播種の1日後に、SB203580を含まないこと以外は上記と同じ組成の分化培地に置換し、37℃、5% CO
2条件下で培養した。
セルカルチャーインサートへの播種の2日後に、上記セルカルチャーインサート上に形成された細胞層の電気抵抗値(Ω)をMillicell ERS-2(Millipore)を用いて測定し、得られた測定値から細胞を播種していないブランクの電気抵抗値を引きメンブレンフィルターの面積(cm
2)を掛けた値である経上皮電気抵抗(TEER、Ω・cm
2)を求めた。TEER値が250以上となるタイトジャンクションを形成した細胞層を透過性試験に用いた。
インサート内およびマルチプルウェルプレート内の培地をHanks’ Balanced Salt Solution(HBSS)(no phenol red、ライフテクノロジーズ)に置換し、37℃ 5% CO
2条件下で30分間乃至45分間インキュベートした。インサート内(アピカル側)の培地を被験物質を含んだHBSSに置換し、300rpmで攪拌しながら37℃条件下で培養した。
被験物質の添加120分後に、マルチプルウェルプレート内から透過した被験物質を含むHBSS100μlを採取し、同量のHBSSを添加した。マルチプルウェルプレート内の培地中の被験物質をLC−MSを用いて定量することによって、上記細胞層における被験物質の透過性を評価した。各被験物質の透過量を、アンチピリンの透過量で除して得られる値をin vitro相対的透過量として表4に示した。満期胎盤を用いた胎盤潅流法による透過性試験から得られた各被験物質の相対的透過量を、「Li, H. et al. Arch. Toxicol. 2013, 87, 1661-1669」より抜粋し、ex vivo相対的透過量(文献値)として表4に示した。
【0075】
【表4】
各被験物質のin vitro相対的透過量とex vivo相対的透過量との相関性を調べた。結果を
図10に示す。各被験物質の、in vitro相対的透過量とex vivo相対的透過量との相関係数の2乗が0.948と高い相関を示した(
図10)。
この結果から、本発明製造方法により製造した細胞を用いることによって、胎盤細胞における被験物質の細胞層透過性を検定可能であることが示された。
【0076】
実施例14: ヒトiPS細胞から分化した合胞体栄養膜細胞の製造
ヒトiPS細胞201B7株(京都大学iPS研究所より入手)を、実施例2の(1)に記載の方法に倣って、維持培養した後、MEF除去操作に付した。
(1)本発明製造例
本発明の製造例として、MEF除去操作を行ったヒトiPS細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2% CO
2条件下で維持培養した。維持培養には、MEF−CMに、10ng/ml bFGF及び20μM Y−27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、上記培地を、20μM Y−27632を添加した基礎培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4、300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist)および1nM レチノイン酸(RAR agonist)を添加した分化培地に置換し(この時をday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日目後に、PD 173074を含まないこと以外は同じ組成の分化培地への交換を行った。
(2)比較製造例
比較例として、MEF除去操作を行った201B7細胞の塊を、1000μlフィルターチップ(日本ジェネティクス)を用いて10回乃至20回ピペッティングを行うことにより数十個の細胞からなる細胞塊とし、得られた細胞塊を1ウェルあたり約1.5×10
3細胞乃至約4×10
3細胞相当となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2%CO
2条件下で維持培養した。維持培養には、MEF−CMに10ng/ml bFGF及び20μM Y-27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、MEF−CMに、10ng/ml BMP4、 1μM A83-01および0.1μM PD 173074を添加した分化培地(非特許文献2に記載)への培地交換を行って(この時をday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日後に、同じ組成の分化培地への培地交換を行った。
(3)対照(未分化維持培養)
分化を誘導しない対照として、MEF除去操作を行った201B7細胞の塊を、1000μlフィルターチップ(日本ジェネティクス)を用いて10回乃至20回ピペッティングを行うことにより数十個の細胞からなる細胞塊とし、得られた細胞塊を1ウェルあたり約1.5×10
3細胞乃至約4×10
3細胞相当となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2%CO
2条件下で維持培養した。維持培養には、MEF−CMに10ng/ml bFGF及び20μM Y-27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、MEF−CMに4ng/ml bFGFを添加した培地への培地交換を行って(この時をday 0とする。)、その後3日間培養し、同じ組成の培地への培地交換を行って更に2日間培養した。培養は37℃、2% CO
2条件下で行った。
(4)遺伝子発現解析
day 0から6日目(day 6)に、RNeasy Micro Kit(QIAGEN)を用いて、細胞からtotal RNAを抽出した。得られたtotal RNAを、SuperScript III(Invitrogen)を用いて逆転写し、得られたDNAを鋳型としてTaqMan probe(Applied biosystems)およびTaqMan Fast advanced master mix(Applied biosystems)を用いたリアルタイムPCRにより、合胞体栄養膜細胞のマーカー遺伝子として知られるSyncytin遺伝子の発現量を調べた。上記各培養で得られた細胞について、Syncytin遺伝子のmRNA発現量およびハウスキーピング遺伝子であるGAPDH遺伝子のmRNA発現量をリアルタイムPCRにより測定した。Syncytin遺伝子のmRNA量をGAPDH遺伝子のmRNA量で除して得られる値をSyncytin遺伝子mRNA量の補正値とし、比較製造例((2)に記載)で得られた細胞におけるSyncytin遺伝子mRNA量補正値を1として、本発明製造例((1)に記載)または対照((3)に記載)で得られた細胞におけるSyncytin遺伝子mRNA量補正値を相対発現量として示した。結果を
図11に示す。
図11において、対照(未分化維持培養)の細胞における相対発現量を白棒グラフで、比較例の細胞における相対発現量を灰色棒グラフで、本発明製造例の細胞における相対発現量を黒棒グラフで示す。本発明製造例で得られた細胞では、比較製造例で得られた細胞と比べて、Syncytin遺伝子の相対発現量が約3.7倍増加していた(
図11)。
この結果から、本発明製造方法により、ヒトiPS細胞から、合胞体栄養膜細胞を高効率に製造可能であることが示された。
【0077】
実施例15: ヒトiPS細胞から分化した栄養膜細胞及び合胞体栄養膜細胞の製造とこれらを用いた細胞層透過性試験
ヒトiPS細胞201B7株を実施例2の(1)に記載の方法に倣って、維持培養した後、MEF除去操作に付した。
MEF除去操作を行った201B7細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1枚あたり1.5×10
5細胞となるように10mlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした100mmセルカルチャーディッシュ(BD Falcon)に播種し、37℃、2%CO
2条件下で維持培養した。維持培養には、MEF−CMに10ng/ml bFGF及び20μM Y-27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、上記培地を、20μM Y-27632を添加した基礎分化培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4 、および300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist) および1nM レチノイン酸(RAR agonist)を添加した分化培地に置換して(この時をday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で2日間培養し、201B7細胞から分化した栄養膜細胞を含む培養物を得た。
上記培養で得られた細胞を、セルカルチャーディッシュに接着したままで、PBSで2回洗浄した後、2mg/ml collagenaseIV(Invitrogen)及び20μg/ml DNaseI(Roche)が添加されたPBSを当該ディッシュに添加し、37℃、5% CO
2条件下で5分間インキュベートした。前記ディッシュにTrypLE Express(Life Technologies)をさらに添加し、37℃、5% CO
2条件下で5分間インキュベートした。前記ディッシュに10% FBS(コーニング)、2mM L-glutamine、及び100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin(Penicillin‐Streptomycin Mixed Solution、ナカライテスク)が添加されたDMEM/F−12培地を添加した後、ピペッティングにより細胞を剥離して、細胞を含む培地を回収し、遠心分離(1000rpm、5分間)を行った。遠心分離された前記培養物から上清を除去した後、沈殿に基礎分化培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4 、および300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist) 、1nM レチノイン酸(RAR agonist)、2μM Caspase Inhibitor Z-VAD-FMK(Promega)、10ng/ml HGF(R&D)および、10μM SB203580(p38 MAPK inhibitor、Abcam)を添加した分化培地(以下、基礎分化培地Cと記す。)を添加して細胞を懸濁した後、、得られた細胞懸濁液を0.1%ゼラチン(Sigma-Aldrich)でコートしたセルカルチャーインサート(Corning、Cat.3470、メンブレン孔サイズ0.4μm)上に播種し、37℃、5% CO
2条件下で培養した。培地には、基礎分化培地Cを用いた。前記セルカルチャーインサートへの播種の1日後に、培地を、SB203580を含まないこと以外は上記と同じ組成の分化培地に置換し、37℃、5% CO
2条件下で培養した。
セルカルチャーインサートへの播種の4日後に、上記セルカルチャーインサート上に形成された細胞層の電気抵抗値(Ω)をMillicell ERS-2(Millipore)を用いて測定し、得られた測定値から細胞を播種していないブランクの電気抵抗値を引きメンブレンフィルターの面積(cm
2)を掛けた値である経上皮電気抵抗(TEER、Ω・cm
2)を求めた。TEER値が250以上となるタイトジャンクションを形成した細胞層を透過性試験に用いた。
インサート内およびマルチプルウェルプレート内の培地をHanks’ Balanced Salt Solution(HBSS)(no phenol red、ライフテクノロジーズ)に置換し、37℃ 5% CO
2条件下で30分間乃至45分間インキュベートした。インサート内(アピカル側)の培地を被験物質を含んだHBSSに置換し、300rpmで攪拌しながら37℃条件下で培養した。
被験物質の添加120分後にマルチプルウェルプレート内から被験物質を含んだHBSS100μlを採取し、同量のHBSSを添加した。マルチプルウェルプレート内の培地中の被験物質をLC−MSを用いて定量することによって、上記細胞層における被験物質の透過性を評価した。各被験物質の透過量を、アンチピリンの透過量で除して得られる値をin vitro相対的透過量として表5に示した。満期胎盤を用いた胎盤潅流法による透過性試験から得られた各被験物質の相対的透過量を、「Li, H. et al. Arch. Toxicol. 2013, 87, 1661-1669」より抜粋し、ex vivo相対的透過量(文献値)として表5に示した。
【0078】
【表5】
各被験物質のin vitro相対的透過量とex vivo相対的透過量との相関性を調べた。結果を
図12に示す。各被験物質のin vitro相対的透過量とex vivo相対的透過量との相関係数の2乗が0.842と高い相関を示した(
図12)。
この結果から、本発明製造方法によりヒトiPS細胞から製造した細胞を用いることによって、胎盤細胞における被験物質の細胞層透過性を検定可能であることが示された。
【0079】
実施例16: ヒトES細胞から製造した合胞体栄養膜細胞およびヒト絨毛癌細胞株の経上皮抵抗
(1)ヒトES細胞を用いた合胞体栄養膜細胞の製造と経上皮抵抗測定
KhES−1細胞を実施例13に記載の方法に倣って、栄養膜細胞へと分化させ、セルカルチャーインサート上に再播種し、37℃、5% CO
2条件下で2日間培養した。同条件で6ウェルの培養を行った。
セルカルチャーインサートへの播種の2日後に、上記セルカルチャーインサート上に形成された細胞層の電気抵抗値(Ω)をMillicell ERS-2(Millipore)を用いて測定し、得られた測定値から細胞を播種していないブランクの電気抵抗値を引きメンブレンフィルターの面積(cm
2)を掛けた値である経上皮電気抵抗(TEER、Ω・cm
2)を求めた。結果を
図13Aに示す。
図13Aにおいて、TEER値の標準偏差をエラーバーで示す。ヒトES細胞由来合胞体栄養膜細胞は、453と高い抵抗値を示した。
(2)ヒト絨毛癌細胞株の培養と経上皮抵抗測定
ヒト絨毛癌細胞株BeWo細胞(ヒューマンサイエンス振興財団より入手)を、100mmセルカルチャーディッシュ上に播種し、37℃、5% CO
2条件下で培養した。同条件で6ウェルの培養を行った。その際の培地には、DMEM/F12培地(Sigma-Aldrich)に、10% FBS(コーニング)、2mM L-glutamine、および100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin(Penicillin‐Streptomycin Mixed Solution、ナカライテスク)が添加された培地(以下、BeWo培地と記す。)を用いた。
前記BeWo細胞を、セルカルチャーディッシュに接着したままで、リン酸緩衝食塩水(PBS、Invitrogen)で2回洗浄した後、0.25%トリプシン-EDTA溶液(ナカライテスク)を当該ディッシュに添加し、37℃、5% CO
2条件下で2分間インキュベートした。前記ディッシュにBeWo培地を添加した後、ピペッティングにより細胞を剥離して、細胞を含む培地を回収し、遠心分離(1000rpm、3分間)を行った。遠心分離された前記培養物から上清を除去した後、沈殿に、BeWo培地を添加して懸濁した。得られた細胞を、1ウェルあたり2.5×10
4細胞となるように200μlの培地に懸濁して、コラーゲンI(Cellmatrix type I-C、新田ゼラチン)でコートしたセルカルチャーインサート上に播種し、37℃、5% CO
2条件下で培養した。2日ごとにBeWo培地への培地交換を行った。
セルカルチャーインサートへの播種から14日目に、上記セルカルチャーインサート上に形成された細胞層の電気抵抗値(Ω)をMillicell ERS-2(Millipore)を用いて測定し、得られた測定値から細胞を播種していないブランクの電気抵抗値を引きメンブレンフィルターの面積(cm
2)を掛けた値である経上皮電気抵抗(TEER、Ω・cm
2)を求めた。結果を
図13Bに示す。
図13Bにおいて、TEER値の標準偏差をエラーバーで示す。BeWo細胞のTEER値は25であり、ヒトES細胞から製造した細胞と比べ低い抵抗値であった。
【0080】
実施例17: ヒトES細胞から製造した合胞体栄養膜細胞およびヒト絨毛癌細胞株でのトランスポーター発現
(1)ヒトES細胞を用いた合胞体栄養膜細胞の製造
MEF除去操作を行ったヒトES細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2% CO
2条件下で維持培養した。維持培養には、MEF−CMに、10ng/ml bFGF及び20μM Y−27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、上記培地を、基礎培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4、300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist)および1nM レチノイン酸(RAR agonist)を添加した分化培地に置換し(この時をday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日後に、PD 173074を含まないこと以外は同じ組成の分化培地への交換を行った。分化培地を用いた培養の4日目(day 4)に、細胞をPBSにて2回洗浄した後、4% パラホルムアルデヒドを用いて15分間固定した。
(2)ヒト絨毛癌細胞株の培養
ヒト絨毛癌細胞株BeWo細胞(ヒューマンサイエンス振興財団より入手)を、96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)上に播種し、37℃、5% CO
2条件下で培養した。その際の培地には、BeWo培地を用いた。播種後1日目に、細胞をPBSにて2回洗浄した後、4% パラホルムアルデヒドを用いて15分間固定した。
(3)細胞観察
(1)および(2)で固定した細胞を3% BSAにより1時間乃至2時間ブロッキングした後、4μg/ml mouse anti-Mdr1 antibody(Santa Cruz Biotechnology), 2μg/ml donky anti-mouse IgG antibody Alexa 488(Life technologies)および1μg/ml Hoechst 33342 (同仁化学)を用いて免疫染色した。得られた染色試料の免疫染色像を蛍光顕微鏡で観察した。結果を
図14に示す。
BeWo細胞では、ヒト合胞体栄養膜細胞に発現することが知られている薬物排出トランスポーターMdr1遺伝子が発現したことを示す緑色蛍光が認められなかった(
図14A)。一方、ヒトES細胞由来合胞体栄養膜細胞では、8割程度の細胞が緑色蛍光を示した(
図14B)。
【0081】
実施例18: ヒトES細胞から製造した合胞体栄養膜細胞およびヒト絨毛癌細胞株でのトランスポーター発現
(1)ヒトES細胞を用いた合胞体栄養膜細胞の製造
MEF除去操作を行ったヒトES細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1ウェルあたり1.5×10
3細胞となるように150μlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした96穴培養プレート(エッジプレート、Nunc)に播種し、37℃、2% CO
2条件下で維持培養した。維持培養には、MEF−CMに、10ng/ml bFGF及び20μM Y−27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、上記培地を、基礎培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4、300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist)および1nM レチノイン酸(RAR agonist)を添加した分化培地に置換し(この時をday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日後に、PD 173074を含まないこと以外は同じ組成の分化培地への交換を行い、更に2日間培養した。day 5に、RNeasy Micro Kit(QIAGEN)を用いて、細胞からtotal RNAを抽出した。
(2)ヒト絨毛癌細胞株の培養
ヒト絨毛癌細胞株BeWo細胞(ヒューマンサイエンス振興財団より入手)を、100mmセルカルチャーディッシュ上に播種し、37℃、5% CO
2条件下で培養した。その際の培地には、BeWo培地を用いた。播種後3日目に、RNeasy Micro Kit(QIAGEN)を用いて、細胞からtotal RNAを抽出した。
(3)遺伝子発現解析
(1)および(2)で得られたtotal RNA、並びにHuman Placenta Total RNA(タカラバイオ)を、SuperScript III(Invitrogen)を用いて逆転写し、得られたDNAを鋳型としてTaqMan probe(Applied biosystems)およびTaqMan Fast advanced master mix(Applied biosystems)を用いたリアルタイムPCRにより、薬物排出トランスポーターであるBCRP遺伝子の発現量を調べた。上記各培養で得られた細胞について、BCRP遺伝子およびハウスキーピング遺伝子であるGAPDH遺伝子のmRNA発現量をリアルタイムPCRにより測定した。BCRP遺伝子のmRNA量をGAPDH遺伝子のmRNA量で除して得られる値を、BCRP遺伝子mRNA量の補正値とし、Human Placenta Total RNAにおけるBCRP遺伝子mRNA量補正値を1として、ヒトES細胞由来合胞体栄養膜細胞またはBeWo細胞におけるBCRP遺伝子mRNA量補正値を相対発現量として示した。結果を
図15に示す。
図15において、BeWo細胞の相対発現量を白色棒グラフで、ヒトES細胞由来合胞体栄養膜細胞の相対発現量を灰色棒グラフで、Human Placenta Total RNAの相対発現量を黒棒グラフで示す。
BeWo細胞ではBCRP遺伝子mRNA発現量が、Human Placenta Total RNAにおけるBCRP遺伝子mRNA発現量の約0.25倍であった。一方、本発明製造例で得られた細胞ではBCRP遺伝子mRNA発現量が、Human Placenta Total RNAにおけるBCRP遺伝子mRNA発現量の約1.06倍であった。
【0082】
実施例19: ヒトES細胞から製造した合胞体栄養膜細胞およびヒト絨毛癌細胞株での薬物排出トランスポーター機能解析
(1)ヒトES細胞を用いた合胞体栄養膜細胞の製造
MEF除去操作を行ったヒトES細胞の塊を、TrypLE Express(Life Technologies)を用いて単一細胞に分散し、得られた細胞を1ウェルあたり2.5×10
4細胞となるように1.5mlの培地に懸濁して、20倍希釈したマトリゲル(Growth Factor Reduced、BD Biosciences)でコートした6穴培養プレート(BD Falcon)に播種し、37℃、2% CO
2条件下で維持培養した。維持培養には、MEF−CMに、10ng/ml bFGF及び20μM Y−27632を添加した培地を用いた。
維持培養開始から2日後に、上記培地を、20μM Y−27632を添加した基礎培地B(10% FBS、2mM L-glutamine、100U/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、100ng/ml BMP4、300nM PD 173074が添加されたDMEM/F12培地)に、0.1μM S26948(PPARγ agonist)、0.1μM CGP 7930(GABABR positive allosteric modulator)、10nM SR 11237(RXR agonist)および1nM レチノイン酸(RAR agonist)を添加した分化培地に置換し(この時をday 0とする。)、37℃、5% CO
2条件下で培養した。前記培地置換の3日後に、PD 173074を含まないこと以外は同じ組成の分化培地への交換を行い、更に2日間培養した。
(2)ヒト絨毛癌細胞株の培養
ヒト絨毛癌細胞株BeWo細胞(ヒューマンサイエンス振興財団より入手)を、6穴培養プレート(BD Falcon)上に播種し、37℃、5% CO
2条件下で培養した。その際の培地には、BeWo培地を用いた。
(3)トランスポーター基質の取込み実験
(1)および(2)で得られた細胞を、PBSにて1回洗浄した後、0.1% DMSO(Sigma-Aldrich)または100μM ベラパミル(MDR1阻害剤、Sigma-Aldrich)が添加されたHBSS(ライフテクノロジーズ)を添加し、37℃、5% CO
2条件下でインキュベートした。各条件につき3ウェルずつを用いて培養した。30分後、1μM カルセインAM(MDR1基質、同仁化学)をさらに添加した以外は同じ組成のHBSSに置換し、37℃、5% CO
2条件下でインキュベートした。60分後、氷冷したPBSにて1回洗浄した後、0.2% トライトンX−100(Wako)を含む0.2N NaOH(ナカライテスク)を添加し、37℃、5% CO
2条件下で一晩インキュベートし、細胞溶解液を得た。
(4)トランスポーター機能の解析
(3)で得た細胞溶解液に含まれるカルセインの蛍光強度を、蛍光プレートリーダーにより調べた。(3)で得た細胞溶解液のタンパク濃度を、BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific)により調べた。上記細胞溶解液のカルセイン蛍光強度の値を当該細胞溶解液のタンパク濃度で除して得られる値を、カルセイン蛍光強度の補正値とし、DMSO添加条件でのカルセイン蛍光強度の補正値を1として、ヒトES細胞由来合胞体栄養膜細胞またはBeWo細胞におけるカルセイン蛍光強度の補正値を相対値として示した。結果を
図16に示す。相対値の標準偏差をエラーバーで示す。DMSO添加例の蛍光強度相対値に対して統計的に有意に差がある蛍光強度相対値にアスタリスクを付す(***はP値0.001未満を意味する)。BeWo細胞では、DMSO添加例と比べて、ベラパミル添加例で蛍光強度相対値が約1.5倍増加したが有意な変化ではなかった(
図16A)。ヒトES細胞由来合胞体栄養膜細胞では、DMSO添加例と比べて、ベラパミル添加例で蛍光強度相対値が約2.7倍有意に増加した(
図16B)。
非蛍光性のカルセインAMは細胞の膜を容易に透過し、細胞質で細胞内エステラーゼにより膜不透過で緑色蛍光を示すカルセインへと加水分解される。カルセインはMDR1基質であり、MDR1により細胞外へと排出されている。MDR1阻害剤であるベラパミルによって細胞内カルセイン濃度が増加することは、細胞膜上に機能的なMDR1が発現していることを意味することから、実施例17からヒト絨毛癌細胞株と比べて、ヒトES細胞由来合胞体栄養膜細胞が機能的なトランスポーターをより多く持つことが示唆された。
実施例14から17の結果から、本発明製造法によりヒトES細胞から製造した細胞を用いることによって、ヒト絨毛癌細胞株と比べて、被験物質の胎盤細胞層透過性をより精緻に検定可能であることが示唆された。