(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
湿式塗装ブースからピットに向かって循環水を流すための排出路、ピット、マイクロナノバブル発生装置、フェノール樹脂含有液、塩基性塩化アルミニウムまたは低分子カチオン性ポリマー含有液を循環水に添加するための流路、ピットから湿式塗装ブースに向かって循環水を流すための供給路、およびピット内で且つ供給路の入口に近い側に取水装置を有し、
排出路の出口が、ピットの一方の端若しくはその近辺に設けられており、
供給路の入口が、ピットの他方の端若しくはその近辺に設けられており、
マイクロナノバブル発生装置のマイクロナノバブル吐出口が、排出路内で循環水が流れる場所、排出路の出口とピット内に溜まった循環水との間で循環水が流れる場所、およびピット内で且つ排出路の出口から出た循環水がピット内に溜まった循環水と混ざり合う場所からなる群から選ばれる少なくともひとつに、設置されており、
取水装置は、高分子カチオン性ポリマー含有液の添加された塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水を取水する、
湿式塗装ブース循環水の処理装置。
【背景技術】
【0002】
湿式塗装ブースにおいて塗着しなかった余剰塗料を循環水で捕集する。次いで循環水に捕集された余剰塗料を除去し、余剰塗料の除去された循環水を湿式塗装ブースで再使用する。そのために、湿式塗装ブース循環水に捕集された余剰塗料を除去する方法が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、塗料を塗着しようとする被塗装物を上方に位置させ、その下方に捕集液を張った捕集槽を備えた塗装ブースにおいて、捕集槽内にエアレータを備え、該エアレータの噴出口を略水平方向に向けて設置したことを特徴とする塗装ブースの汚水浄化システムを開示している。
【0004】
特許文献2は、湿式塗装ブース循環水に塗料ミストが取り込まれてなる塗料滓を、アルカリイオン水性洗浄剤固有のきめ細かな気泡を湿式塗装ブースのベンチュリーの機能によって超微粒子化した気泡で溶剤と不粘着化した塗料クズとに個別に気泡分離させて液面へと浮上分離浄化する方法を開示している。
【0005】
特許文献3は、マイクロバブル発生手段で発生させたマイクロバブルを、塗装ブースの塗料スラッジ処理槽内の塗装ブース循環水中に吐出し、塗料スラッジ処理槽から導いたマイクロバブルが混入した塗装ブース循環水を、塗装ブースの排気ダクト内で噴霧して、塗装ブース排気中の塗料ミストに接触させることを特徴とするマイクロバブルを使用した塗装ブースの塗料ミスト除去方法を開示している。
【0006】
特許文献4は、鏡筒1内の上部に旋回用ファン4を配置し、鏡筒内へと塗装ミスト流を下方から吸い込み、マイクロバブルを発生するノズル2を下方に向けて配置し、ノズルからフィルム状に拡散する水微粒子群と塗装ミスト上昇流の混流により、旋回領域を形成し、この領域内を浮遊するマイクロバブルを含んだ水微粒子群に揮発性有機化合物や塗装ミストを吸着・酸化処理する、揮発性有機化合物・塗装ミスト除去装置を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水性塗料スラッジや親水性不粘着化剤で処理された塗料スラッジは強い親水性である。一方、マイクロバブルは疎水性である。そのため、マイクロバブルはスラッジに付着し難く、浮上性の向上効果が十分に発揮されず、循環水の清澄性が安定しないことがある。
本発明の目的は、マイクロナノバブルを利用した湿式塗装ブース循環水の処理装置および処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために検討した結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0010】
〔1〕 湿式塗装ブースからピットに向かって循環水を流すための排出路、ピット、マイクロナノバブル発生装置、およびピットから湿式塗装ブースに向かって循環水を流すための供給路を有し、
排出路の出口が、ピットの一方の端若しくはその近辺に設けられており、
供給路の入口が、ピットの他方の端若しくはその近辺に設けられており、
マイクロナノバブル発生装置のマイクロナノバブル吐出口が、排出路内で循環水が流れる場所、排出路の出口とピット内に溜まった循環水との間で循環水が流れる場所、およびピット内で且つ排出路の出口から出た循環水がピット内に溜まった循環水と混ざり合う場所からなる群から選ばれる少なくともひとつに、設置されている、
湿式塗装ブース循環水の処理装置。
【0011】
〔2〕 マイクロナノバブル発生装置のマイクロナノバブル吐出口の設置場所は、循環水の流れによって生じるせん断速度が0.5〜50s
-1となる場所である、〔1〕に記載の装置。
〔3〕 マイクロナノバブル発生装置が、加圧溶解式である、〔1〕または〔2〕に記載の湿式塗装ブース循環水の処理装置。
〔4〕 ピット内で且つ供給路の入口に近い側に取水装置をさらに有する、〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載の処理装置。
【0012】
〔5〕 湿式塗装ブースからピットの一方の端若しくはその近辺に向かって流れている循環水、およびピットの一方の端若しくはその近辺に流れ込んでピット内に溜まった循環水と混ざり合っている循環水からなる群から選ばれる少なくともひとつに、マイクロナノバブルを添加して、塗料浮上スラッジを形成させ、
循環水から塗料浮上スラッジの全部若しくは一部を除去し、次いで
循環水をピットの他方の端若しくはその近辺から湿式塗装ブースに戻す
ことを含む、湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0013】
〔6〕 マイクロナノバブルの添加される循環水は、せん断速度が0.5〜50s
-1で流れている、〔5〕に記載の処理方法。
〔7〕 循環水に添加されたときのマイクロナノバブルの平均直径が100μm以下である、〔5〕または〔6〕に記載の処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理装置および処理方法によれば、湿式塗装ブースで回収した余剰塗料が親水性であるか疎水性であるかに関わらず、該余剰塗料を不粘着性で且つ除去しやすい塗料浮上スラッジ(フロック、スラグ)に高効率で変換して、ピットなどに堆積する塗料汚泥(スラッジ)の量を減らすことができる。そして、湿式塗装ブースに返送する循環水の清澄性を安定させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理装置は、湿式塗装ブースからピットに向かって循環水を流すための排出路(以下、排出管ということもある。)、ピット、マイクロナノバブル発生装置、およびピットから湿式塗装ブースに向かって循環水を流すための供給路(以下、供給管ということもある。)を有する。排出路の出口が、ピットの一方の端若しくはその近辺に設けられており、供給路の入口が、ピットの他方の端若しくはその近辺に設けられている。なお、ピットの端とは、長方形ピットにおいては長方形の対向する二つの辺の少なくとも一カ所を意味し、円形ピットにおいてはセンターウエル(内周)の縁の少なくとも一カ所と外周の縁の少なくとも一カ所を意味する。端の近辺とは、実際の運用上必要な設備などの大きさなどを考慮し、当業者がピットの端と認識する範囲の箇所である。本発明においては長方形ピットが好ましく用いられる。
【0017】
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理装置および処理方法を適用可能な湿式塗装ブースとしては、例えば、水膜状の循環水により余剰塗料を捕集する水流板式(水膜式)塗装ブース、シャワー状の循環水により余剰塗料を捕集するシャワー式塗装ブース、水膜式とシャワー式とを組み合わせた水膜・シャワー式塗装ブース、渦巻室における遠心力により分離された余剰塗料を水膜状の循環水に捕集するベンチュリー式塗装ブース等が挙げられる。
【0018】
湿式塗装ブースにおける余剰塗料の捕集によって得られる、余剰塗料と水とを含んでなる循環水(未処理循環水)は、湿式塗装ブースからピットに向かって排出路内を流れ、排出路出口とピット内に溜まった循環水との間に距離がある場合は排出路の出口からピット内に溜まった循環水に向かって移動し、ピット内で且つ排出路の出口から流れ出た循環水がピット内に溜まった循環水と混ざり合い、次いでピットに一時的に滞留する。循環水がピットに滞留している間に循環水から余剰塗料を取り除き、循環水を清澄化処理する。次いで処理済循環水は、ピットから湿式塗装ブースに向かって供給路内を流れ、湿式塗装ブースにおける余剰塗料の捕集に再使用される。ピットにおける循環水の滞留時間は、特に制限されないが、例えば、2〜5分間である。
ピットは、その形状によって特に限定されないが、好ましくは直方体形状の貯留スペースを有するものが用いられる。そして、未処理循環水が処理済循環水と混ざり難くするために、ピットへの未処理循環水の供給口、すなわち、排出路の出口は、ピットからの処理済循環水の抜出口、すなわち供給路の入口とできるだけ離れた位置になるように、設置することが好ましい。例えば、
図1に示すように、ピットへの未処理循環水の供給口とピットからの処理済循環水の抜出口とを直方体形状の貯留スペースの対角線のほぼ両端に設けることができる。
【0019】
マイクロナノバブル発生装置としては、超音波、衝撃波等により発生する急激な圧力変化を利用する方式(圧壊方式)の発生装置、気体と液体が混合した状態でベンチュリー管、高速旋回ロータなどにより発生する乱流によって気体を千切る様にして気泡化する方式(せん断方式)の発生装置、圧壊方式とせん断方式とを組み合わせた方式の発生装置、筒に供給される気体と液体とを混合圧縮して気泡を含む液を得、これを気泡拡散孔に通して外に放出する方式(特開2001−104764号公報など参照)の発生装置、コンプレッサー等による加圧によって液中へ強制的に気体を溶解させ、その液体を急激に減圧して気体を放出させる方式(加圧溶解式)の発生装置などを挙げることができる。これらのうち、加圧溶解式の発生装置が好ましい。
【0020】
本発明の処理装置においては、マイクロナノバブル発生装置のマイクロナノバブル吐出口が、排出路内で循環水が流れる場所、排出路の出口とピット内に溜まった循環水との間の空間で循環水が流れる場所、およびピット内で且つ排出路の出口から出た循環水がピット内に溜まった循環水と混ざり合う場所からなる群から選ばれる少なくともひとつに、設置される。マイクロナノバブル発生装置のマイクロナノバブル吐出口の設置場所は、循環水の流れによって生じるせん断速度が0.5〜50s
-1となる場所であることが好ましく、2〜50s
-1となる場所であることがより好ましい。このような場所にマイクロナノバブル吐出口を設置して、湿式塗装ブースからピットに向かって流れている循環水、およびピットに流れ込んでピット内に溜まった循環水と混ざり合っている循環水からなる群から選ばれる少なくともひとつに、好ましくはせん断速度が0.5〜50s
-1で流れている循環水に、より好ましくはせん断速度が2〜50s
-1で流れている循環水に、マイクロナノバブルを添加して、塗料浮上スラッジを形成させる。このような循環水へのマイクロナノバブルの添加量は、添加した全マイクロナノバブルの量100%に対して、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。このような循環水へのマイクロナノバブルの添加は、ピット内に溜まっている循環水へのマイクロナノバブルの添加に比べて、マイクロナノバブルと余剰塗料との接触機会が増え、余剰塗料へのマイクロナノバブルの付着効率が高まる。
ピット内に溜まっている循環水、ピット内にせん断速度好ましくは2s
-1未満、より好ましくは0.5s
-1未満で流れている循環水に、マイクロナノバブルの一部が添加されてもよい。このようなピット内に溜まっているまたは低せん断速度で流れている循環水へのマイクロナノバブルの添加量は、添加した全マイクロナノバブルの量100%に対して、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下である。
【0021】
循環水に添加されたときのマイクロナノバブルの平均直径は、好ましくは100μm以下、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。循環水に添加されたときのマイクロナノバブルの平均直径の下限は、特に制限されないが、好ましくは0.1μm、より好ましくは0.5μm、さらに好ましくは1μmである。加圧溶解式の発生装置においては、加圧によって強制的に気体を溶解させてなる水(マイクロナノバブル水)が調製される。このマイクロナノバブル水は循環水に添加されたときの急激な減圧によって循環水中でマイクロナノバブルを発生する。
【0022】
マイクロナノバブルの総添加量(空気供給量)は、余剰塗料(固形分)1gに対して、好ましくは0.005〜0.30g、より好ましくは0.05〜0.15gである。マイクロナノバブルの添加によって、余剰塗料フロックを浮上させることができる。
【0023】
本発明においては、マイクロナノバブル以外に、フェノール樹脂溶液または分散液(以下 これらを併せて「フェノール樹脂含有液」と記すことがある。)、低分子カチオン性ポリマー溶液または分散液(以下 これらを併せて「低分子カチオン性ポリマー含有液」と記すことがある。)、不粘着化剤、有機凝結剤、無機凝結剤、pH調整剤などの水処理剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で、循環水に添加することができる。これら水処理剤は、湿式塗装ブースからピットに向かって流れている循環水、ピットに流れ込んでピット内に溜まった循環水と混ざり合っている循環水、ピット内に溜まった循環水、およびピットから湿式塗装ブースに向かって流れている循環水からなる群から選ばれる少なくともひとつに添加することができる。
【0024】
フェノール樹脂溶液又は分散液は、水との親和性の高い溶媒若しくは分散媒にフェノール樹脂を溶解若しくは分散させてなるものである。
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類との縮合物またはこれの変性物であって、架橋硬化させる前の物である。フェノール樹脂の具体例としては、フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物、クレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物、キシレノールとホルムアルデヒドとの縮合物などを挙げることができる。変性物としては、アルキル変性フェノール樹脂、ポリビニルフェノールなどを挙げることができる。これらのフェノール樹脂はノボラック型であっても、レゾール型であってもよい。また、該フェノール樹脂は、分子量その他物性によって特に制限はなく、湿式塗装ブース循環水処理用として一般に使用されているものの中から適宜選択して使用することができる。フェノール樹脂は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明に用いられるフェノール樹脂は、重量平均分子量が、好ましくは10000以下、より好ましくは7000以下である。
【0025】
フェノール樹脂含有液に使用され得る溶媒若しくは分散媒としては、アセトン等のケトン、酢酸メチル等のエステル、メタノール等のアルコール、アルカリ水溶液、アミン等を挙げることができる。これら溶媒のうち、アルカリ水溶液が好ましい。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などを挙げることができる。フェノール樹脂をアルカリ水溶液に溶解ないし分散させてなる物は、アルカリ成分の濃度が好ましくは1〜25質量%であり、フェノール樹脂の濃度が好ましくは1〜50質量%である。
【0026】
フェノール樹脂含有液の添加は、湿式塗装ブースからピットに向かって流れている循環水、ピットに流れ込んでピット内に溜まった循環水と混ざり合っている循環水、またはピットから湿式塗装ブースに向かって流れている循環水に対して行うことが好ましい。
フェノール樹脂(固形分)の添加量は、余剰塗料の不粘着化の観点から、循環水1Lに対して、好ましくは1mg以上、より好ましくは5mg以上である。過度の発泡および運転コストの上昇を抑えるという観点から、フェノール樹脂(固形分)の添加量の上限は、循環水1Lに対して、好ましくは1000mg、より好ましくは200mgである。また、フェノール樹脂(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。また、フェノール樹脂(固形分)の添加量の上限は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは100質量%、より好ましくは10質量%である。フェノール樹脂は、水性塗料を捕捉した表面泡末の多い循環水、または表面電位がほとんどゼロの有機溶剤塗料を捕捉した循環水における、水処理に好適である。フェノール樹脂含有液の添加によって、循環水中の余剰塗料の粘着性を下げる(不粘着化する)こともできる。
【0027】
低分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液は、水との親和性の高い溶媒若しくは分散媒に低分子カチオン性ポリマーを溶解ないし分散させてなるものである。本発明に用いられる低分子カチオン性ポリマーは、例えば、重量平均分子量が、好ましくは1千以上100万以下、より好ましくは5千以上30万以下である。
【0028】
低分子カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、カチオン変性ポリアクリルアミド、ポリアミン、ポリアミンスルホン、ポリアミド、ポリアルキレンポリアミン、アミン架橋重縮合体、ポリアクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド(DADMAC)重合物、アルキルアミンとエピクロルヒドリンとの重縮合物、アルキレンジクロライドとポリアルキレンポリアミンとの重縮合物、ジシアンジアミドとホルマリンとの重縮合物、DAM(ジメチルアミノエチルメタアクリレート)の酸塩又は四級アンモニウム塩のホモポリマー又はコポリマー、DAA(ジメチルアミノエチルアクリレート)の酸塩又は四級アンモニウム塩のホモポリマー又はコポリマー、ポリビニルアミジン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドとの共重合物、メラミンとアルデヒドとの重縮合物、ジシアンジアミドとアルデヒドとの重縮合物、ジシアンジアミドとジエチレントリアミンとの重縮合物などを挙げることができる。なお、アルキルアミンとエピクロロヒドリンの重縮合物におけるアルキルアミンとしては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどを挙げることができる。メラミン・アルデヒド縮合物およびジシアンジアミド・アルデヒド重縮合物におけるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ホルムアルデヒドの3量体であるパラホルムアルデヒドなどを挙げることができる。低分子カチオン性ポリマーは1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
低分子カチオン性ポリマー含有液に使用され得る溶媒若しくは分散媒としては、水、アセトン、メタノールなどを挙げることができる。
【0030】
低分子カチオン性ポリマー含有液の添加は、湿式塗装ブースからピットに向かって流れている循環水、ピットに流れ込んでピット内に溜まった循環水と混ざり合っている循環水、またはピットから湿式塗装ブースに向かって流れている循環水に対して行うことが好ましい。
低分子カチオン性ポリマー(固形分)の添加量は、循環水1Lに対して、好ましくは0.1〜100mg、好ましくは0.3〜30mgである。また、低分子カチオン性ポリマー(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。低分子カチオン性ポリマー(固形分)の添加量の下限は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは1質量%、より好ましくは5質量%である。
低分子カチオン性ポリマー含有液の添加によって、循環水中の余剰塗料の荷電を中和して微細なフロックを形成しやすくすることができる。
【0031】
不粘着化剤としては、カルボン酸系重合体、タンニン系化合物、タンニン基剤重合体、メラミンホルムアルデヒド縮合物、メラミンジシアンジアミド縮合物、直鎖型カチオン性ポリアミン、亜鉛酸ナトリウム、アルミナゾルなどを挙げることができる。
【0032】
有機凝結剤としては、アルギン酸ソーダ;キチン・キトサン系凝結剤;TKF04株、BF04などのバイオ凝結剤などを挙げることができる。
【0033】
無機凝結剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、擬ベーマイトアルミナゾル(AlO(OH))などのアルミニウム系凝結剤;水酸化第一鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、鉄−シリカ無機高分子凝結剤などの鉄塩系凝結剤;塩化亜鉛などの亜鉛系凝結剤;活性ケイ酸、ポリシリカ鉄凝結剤などを挙げることができる。
【0034】
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの水溶性アルカリ金属化合物;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの鉱酸;などを挙げることができる。
【0035】
上記のようにして形成された塗料浮上スラッジの全部若しくは一部を循環水から除去する。
塗料浮上スラッジの全部若しくは一部の除去は、好ましくは、塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水を取水装置にて取水することによって、行われる。取水装置としては、フロート堰、フロートポンプなどの表層液排出装置を挙げることができる。
【0036】
一方、塗料浮上スラッジの全部若しくは一部の除去された循環水(処理済循環水)を供給路を介して湿式塗装ブースに供給して、余剰塗料の捕集に再使用する。スラグ、スラッジ、フロックなどが循環水に同伴して抜き出され難くするために、ピットからの処理済循環水の抜出口またはその近傍には、堰、フィルタ、網などを設けることが好ましい。添加した全マイクロナノバブルは、マイクロナノバブル吐出口から供給路の入口までの間に、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上が浮上スラッジ形成のために消費されるかまたは循環水に溶け込み若しくは水面で破裂して消失する。供給路入口における処理済循環水に含まれるマイクロナノバブルの量は、添加した全マイクロナノバブル100%に対して、好ましくは50%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは9%以下、よりさらに好ましくは5%以下、特に好ましくは1%以下である。
【0037】
本発明においては、塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水に高分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液(以下 これらを併せて「高分子量カチオン性ポリマー含有液」と記すことがある。)を添加することが好ましい。高分子カチオン性ポリマー含有液の添加によって、塗料浮上スラッジを凝集させ、固液分離を容易にすることができる。
【0038】
高分子カチオン性ポリマー含有液は、水との親和性の高い溶媒に高分子カチオン性ポリマーを溶解ないしは当該高濃度の溶解液を疎水性液体に分散させてなるもの(W/O型エマルション)等である。高分子カチオン性ポリマーは、例えば、重量平均分子量が、好ましくは100万超、より好ましくは500万以上、さらに好ましくは600万〜1,100万である。
高分子カチオン性ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構造単位を有するポリマー(例えば、アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリドの共重合体、アクリルアミド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリドの共重合体、アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリドの共重合体、アクリルアミド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリドの共重合体など)、ポリアミノアルキルアクリレート、ポリアミノアルキルメタクリレート、ポリエチレンイミン、ハロゲン化ポリジアリルアンモニウム、キトサン、尿素−ホルマリン樹脂などを挙げることができる。高分子カチオン性ポリマーは、1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。高分子カチオン性ポリマー(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.2〜3質量%である。高分子カチオン性ポリマーの添加量は、例えば、循環水に対するコロイド当量値として、好ましくは0.001〜1meq/L、より好ましくは0.002〜0.5meq/Lである。高分子カチオン性ポリマーの添加によって、フロック(塗料浮上スラッジ)の再分散を防止することができ、また、加圧浮上処理後に行うことがある濾過処理および/または脱水処理(沈降分離や遠心分離など)の効率を高めることができる。
【0039】
高分子カチオン性ポリマー含有液の添加された塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水は、取水装置によって取水され、取水装置で取水された取水液に、浮上処理、好ましくは加圧浮上処理を施すことが好ましい。
浮上処理を施すことによって、高分子カチオン性ポリマー含有液で凝集された塗料浮上スラッジを液面に浮上させることができる。なお、加圧浮上処理は、浮遊物を含む液(常圧)に、空気の過飽和溶液(加圧)を注入することによって、空気の気泡を発生させ、浮遊物を浮上させるための処理方法である。加圧浮上処理において発生する気泡の平均直径は、好ましくは120μm以下、より好ましくは30μm以上120μm以下である。加圧浮上処理において発生する気泡の平均直径は、前述のマイクロナノバブルの平均直径よりも大きいことが好ましい。
【0040】
浮上処理を施す際に、アニオン性ポリマー溶液又は分散液(以下 これらを併せて「アニオン性ポリマー含有液」と記すことがある。)を取水液に添加することがさらに好ましい。アニオン性ポリマー含有液は、水との親和性の高い溶媒にアニオン性ポリマーを溶解ないしは当該高濃度の溶解液を疎水性溶媒に分散させてなるもの(W/O型エマルション)等である。
アニオン性ポリマーとしては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸ソーダ・アミド誘導体、ポリアクリルアミド部分加水分解物、部分スルホメチル化ポリアクリルアミド、ポリ(2−アクリルアミド)−2−メチルプロパン硫酸塩などを挙げることができる。アニオン性ポリマーは、1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。アニオン性ポリマーはアニオン化度が10〜30モル%であるものが好適である。アニオン性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは100万超、より好ましくは500万以上、さらに好ましくは800万〜1500万である。アニオン性ポリマー(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.2〜3質量%である。
【0041】
本発明においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、両性ポリマー溶液又は分散液(以下 これらを併せて「両性ポリマー含有液」と記すことがある。)を取水液に添加することができる。両性ポリマー含有液は、水との親和性の高い溶媒に両性ポリマーを溶解ないし高濃度の溶解液を疎水性溶媒に分散させてなるもの(W/O型エマルション)等である。
両性ポリマーとしては(メタ)アクリルアミドと4級アンモニウムアルキル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸ナトリウムとの共重合体などを挙げることができる。両性ポリマーのアニオン/カチオンのモル比は0.2〜2.0が好適である。両性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは100万超、より好ましくは500万以上、さらに好ましくは800万〜1000万である。両性ポリマー(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.2〜3質量%である。
【0042】
加圧浮上処理の施された取水液に、濾過処理および/または脱水処理を施すことができる。濾過処理においては、ウェッジワイヤスクリーン、ロータリースクリーン、バースクリーン、フレキシブルコンテナバッグなどを用いることができる。
脱水処理においては、サイクロン、遠心分離機、加圧ろ過装置などを用いることができる。取り出されたスラッジは、焼却したり、埋め立て処分したり、コンポスト化したりすることができる。
【0043】
次に、実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。但し、以下の実施例は本発明の一実施形態を示すに過ぎず、本発明を以下の実施例に限定するものでない。
【0044】
比較例1
湿式塗装ブースにおいて、自動車部品を有機溶剤塗料でスプレー塗装を行った。その間、余剰塗料77kg-dry/日を循環水(総量約200m
3、循環速度約30m
3/分)で捕集した。余剰塗料を捕集した循環水をピットに滞留させた。ピットの中央部からフロートポンプ設置位置までの範囲(せん断速度0.1s
-1の流れ)にせん断方式マイクロナノバブル発生装置4基をピットの底に設置し、1基当たり空気量7l/分で、ピットに滞留している循環水に、マイクロナノバブルを供給した。同時に、ピットに滞留している循環水に、フェノール樹脂28%アルカリ水溶液を余剰塗料(固形分)に対して5重量%(固形分)の割合で、且つ重量平均分子量10万のカチオン性4級塩ポリアミン50%溶液を余剰塗料(固形分)に対して0.45重量%(固形分)の割合で添加した。
フロートポンプにて、塗料浮上スラッジを含む表層水をピットから抜き出した。抜き出した表層水に、重量平均分子量700万のアクリル酸系カチオン性ポリマー40%溶液を余剰塗料(固形分)に対して0.1重量%(固形分)の割合で添加し、それを浮上分離装置に移送した。浮上分離装置で分離した塗料浮上スラッジ(スラグ)を含む液をフレキシブルコンテナバックに移し重力濾過を行った。スラッジ回収率は65%(スラッジ含水率74%、比重0.87)であった。処理後の循環水の濁度は52であった。
【0045】
実施例1
せん断方式マイクロナノバブル発生装置4基の設置場所を、ピット内で且つ排出管の出口から流れ出た循環水がピット内に溜まった循環水と混ざり合っている場所の近辺(せん断速度20s
-1の流れ)に変えた以外は、比較例1と同じ方法で、循環水を処理した。スラッジ回収率は100%(スラッジ含水率68%、比重0.83)であった。処理後の循環水の濁度は10であった。
【0046】
実施例2
マイクロナノバブル発生装置4基の代わりに、マイクロナノバブル吐出口を排出管内で循環水が流れる場所(せん断速度15s
-1の流れ)に設置し、加圧溶解式マイクロナノバブル発生装置を用いてマイクロナノバブル水を調製し、マイクロナノバブル吐出口からマイクロナノバブル水を42l/分にて循環水に供給した以外は、比較例1と同じ方法で、循環水を処理した。スラッジ回収率は100%(スラッジ含水率67%、比重0.83)であった。処理後の循環水の濁度は8であった。
【0047】
比較例2
フェノール樹脂28%アルカリ水溶液およびカチオン性4級塩ポリアミン50%溶液の添加の代わりに、塩基性塩化アルミニウム溶液(Alとして12.2%含有)を余剰塗料(固形分)に対して3重量%(固形分)の割合で、且つpH調整剤水溶液(炭酸カリウムと水酸化カリウムとを22.8%含有)を余剰塗料(固形分)に対して6重量%(固形分)の割合で添加した以外は、比較例1と同じ方法で、循環水を処理した。スラッジ回収率は59%(スラッジ含水率79%、比重0.87)であった。処理後の循環水の濁度は48であった。
【0048】
実施例3
せん断方式マイクロナノバブル発生装置4基の設置場所を、ピット内で且つ排出管の出口から循環水が流れ落ちピット内に溜まった循環水と混じり合う場所の近辺に変えた以外は、比較例2と同じ方法で、循環水を処理した。スラッジ回収率は85%(スラッジ含水率77%、比重0.87)であった。処理後の循環水の濁度は40であった。
【0049】
実施例4
せん断方式マイクロナノバブル発生装置4基の代わりに、マイクロナノバブル吐出口を排出管内で循環水が流れる場所に設置し、加圧溶解式マイクロナノバブル発生装置を用いてマイクロナノバブル水を調製し、マイクロナノバブル吐出口からマイクロナノバブル水を42l/分にて循環水に供給した以外は、比較例2と同じ方法で、循環水を処理した。スラッジ回収率は88%(スラッジ含水率76%、比重0.85)であった。処理後の循環水の濁度は18であった。
【0050】
以上の結果が示すとおり、本発明の処理方法(実施例)によれば、湿式塗装ブースで回収した余剰塗料を、不粘着性で且つ除去しやすい塗料浮上スラッジ(フロック、スラグ)に高効率で変換して、ピットなどに堆積する塗料汚泥(スラッジ)の量を減らすことができる。そして、湿式塗装ブースに返送する循環水の清澄性を安定させることができる。