(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対面角の圧子角度が60°である四角錐ダイヤモンド圧子にて5kgf〜10kgfの範囲での荷重を15秒間保持する条件での圧子圧入試験による破壊試験において、25mm×25mmのサイズ内に発生する破片の数が20個以下である請求項1に記載の化学強化ガラス。
ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:110°)を荷重0.5Kgfとして15秒間押し当てることにより、ガラス表面を加傷した後に、下スパン30mm、上スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で4点曲げ試験を行うことにより得られる破壊応力値σa(曲げ強度、単位:MPa)が150MPa以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討を進めたところ、路上等の実用的な場面でスマートフォン等のモバイル機器を誤って落下させた際に、砂等の鋭角物との衝突によってカバーガラスに生じる傷の深さは、#180サンドペーパーを用いた落下試験において生じる傷の深さよりも深いことが判明した。したがって、化学強化ガラスからなるカバーガラスにおいては、実用的な場面では、特許文献1に記載のような#180サンドペーパーを用いた落下試験において生じる傷に起因する破壊に対する耐性では、必ずしも十分ではない。また、特許文献1に記載のようなNa−K交換を利用する化学強化ガラスでは、100μm超など大きな圧縮応力層深さを得るためには十時間以上などの長いイオン交換処理時間を要する。
【0009】
また、特許文献2には、イオン交換速度の速いリチウムアルミノケイ酸ガラスが開示されているが、鋭角物加傷強度に対する高強度化のための指針が不明である。
【0010】
以上のように、従来は、鋭角物加傷強度を高めるための具体的手法は明らかではなかった。高い鋭角物加傷強度を満足するには、圧縮応力層の深さがより深く、圧縮応力層の圧縮応力値がより大きなガラスが必要である。また、万が一破壊してもガラスの破砕数が少なく、安全性の高いことが、同時に求められる。そのようなガラスを得るためには、化学強化に必要なイオン交換速度の大きなガラスが望まれる。
【0011】
したがって、本発明は、鋭角物加傷強度に優れるとともに、破砕時の安全性が高く、イオン交換速度が速い化学強化ガラスを提供することを一つの目的とする。
【0012】
また、カバーガラスは、落下時や物との衝突により発生する表面引張応力が原因で破壊に至ること、また、表面と鋭角物の衝突などによるキズが原因で破壊に至ることが知られており、強度向上のためには、曲げ強度と、鋭角物で加傷された後の曲げ強度(以下、加傷後曲げ強度ともいう)の両方を高める必要がある。ここで、曲げ強度と加傷後曲げ強度の両方を高めるためには、(1)ガラスの最表面にできるだけ大きな圧縮応力を導入すること、また、(2)ガラスにできるだけ深い圧縮応力層を導入すること、(3)ガラスのできるだけ内部にできるだけ大きな圧縮応力を導入すること、及び、(2)及び(3)を達成するために(4)イオン交換速度が大きいこと、の4つが必要である。
【0013】
ここで、特許文献1では、Na―K交換およびLi−Na交換の両方を利用して、上記(1)、(2)及び(4)を達成しているが、上記(3)の面で不十分であった。
【0014】
上記従来の問題点を鑑みて、本発明は、高い曲げ強度と高い加傷後曲げ強度を併せ持つ化学強化ガラス、及びその化学強化ガラスの製造方法を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、厚みtが2mm以下の化学強化ガラスであって、
ガラス表面から90μmの深さの部分の圧縮応力値(CS
90)が25MPa以上であり、
対面角の圧子角度が60°である四角錐ダイヤモンド圧子にて5kgf〜10kgfの範囲での荷重を15秒間保持する条件での圧子圧入試験による破壊試験において、25mm×25mmのサイズ内に発生する破片の数が20個以下であり、
前記化学強化ガラスの母組成を有するガラス板であって、ガラス転移点より30℃〜50℃高い温度T℃から、(T−300)℃まで0.5℃/分で徐冷した厚さ1mmのガラス板に対して、KNO
3、NaNO
3、又はKNO
3とNaNO
3との混合塩からなる400℃の溶融塩により、1時間のイオン交換処理を行ったときの圧縮応力層深さ(DOL)が50μm以上となる化学強化ガラスに関する。
【0016】
また、厚みtが2mm以下の化学強化ガラスであって、
ガラス表面から90μmの深さの部分の圧縮応力値(CS
90)が25MPa以上であり、
対面角の圧子角度が60°である四角錐ダイヤモンド圧子にて5kgf〜10kgfの範囲での荷重を15秒間保持する条件での圧子圧入試験による破壊試験において、25mm×25mmのサイズ内に発生する破片の数が20個以下であり、
前記化学強化ガラスの母組成を有するガラスであって、ガラス転移点より30℃〜50℃高い温度T℃から、(T−300)℃まで0.5℃/分で徐冷した厚さ1mmのガラス板に対して、KNO
3、NaNO
3、又はKNO
3とNaNO
3との混合塩からなる425℃の溶融塩により、1時間のイオン交換処理を行ったときの圧縮応力層深さ(DOL)が70μm以上である化学強化ガラスにも関する。
【0017】
上記の化学強化ガラスにおいては、加傷後の曲げ強度σa、σb、σcのいずれかがが150MPa以上であることが好ましい。加傷後の曲げ強度σa、σb、σcは、ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:110°)をそれぞれ荷重0.5Kgf、1Kgf、2Kgfとして15秒間押し当てたのち、ガラス表面を加傷した後に、下スパン30mm、上スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で4点曲げ試験を行うことにより得られる破壊応力値(曲げ強度、単位:MPa)である。スマートフォン落下時にカバーガラス表面に生じる引張応力の大きさは150MPa程度であり、σa、σb、σcのいずれかが150MPa以上であれば、鋭角物による加傷が起きた後でも落下による発生応力による破壊を防ぐことができる。
【0018】
上記の化学強化ガラスにおいては、CS
90と、ガラス表面から100μmの深さの部分の圧縮応力値(CS
100)とを用いて下記式により算出されるΔCS
100−90(単位:MPa/μm)が0.4以上であることが好ましい。
ΔCS
100−90=(CS
90−CS
100)/(100−90)
ΔCS
100−90(単位:MPa/μm)はまた、4.0以下であることが好ましい。
【0019】
また、上記の化学強化ガラスにおいては、DOLから20μmガラス表面側の深さにおける圧縮応力値CS
DOL−20を用いて下記式により算出されるΔCS
DOL−20(単位:MPa/μm)が0.4以上であることが好ましい。
ΔCS
DOL−20=CS
DOL−20/20
ΔCS
DOL−20は、4.0以下が好ましい。
【0020】
上記の化学強化ガラスにおいては、表面圧縮応力値(CS)が300MPa以上であることが好ましい。
【0021】
上記の化学強化ガラスにおいては、圧縮応力層深さ(DOL)が100μm以上であることが好ましい。
【0022】
上記の化学強化ガラスにおいては、厚みtが0.9mm以下であることが好ましい。
【0023】
上記の化学強化ガラスにおいては、圧縮応力層の面積Sc(MPa・μm)が20000MPa・μm以上であることが好ましい。
【0024】
上記の化学強化ガラスにおいては、圧縮応力層の面積Sc(MPa・μm)を厚みt(μm)で除した値Sc/t(MPa)が28MPa以上であることが好ましい。
【0025】
上記の化学強化ガラスにおいては、化学強化ガラスの母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO
2を50〜80%、Al
2O
3を1〜30%、B
2O
3を0〜6%、P
2O
5を0〜6%、Li
2Oを0〜20%、Na
2Oを0〜20%、K
2Oを0〜10%、MgOを0〜20%、CaOを0〜20%、SrOを0〜20%、BaOを0〜15%、ZnOを0〜10%、TiO
2を0〜5%、ZrO
2を0〜8%を含有することが好ましい。
【0026】
前記化学強化ガラスの母組成においては、酸化物基準のモル百分率表示によるZrO
2の含有量が1.2%以下であることが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示によるNa
2Oの含有量が3%以上であることが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示によるK
2Oの含有量が0.5%以上であることが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示によるB
2O
3の含有量が1%以下であることが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示によるAl
2O
3の含有量が11%以下であることが好ましい。
【0027】
また、本発明の別の一態様は、下記式(1)及び(2)を満たす化学強化ガラスに関する。
NM/Nh ≧ 1.8 (1)
KM/Kh ≧ 3 (2)
(ここで、NM、Nh、KM及びKhは、それぞれ以下を表す。
NM:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける最大値をNa
2O(重量%)に換算した値
Nh:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける板厚の中心値をNa
2O(重量%)に換算した値
KM:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のKイオン濃度プロファイルにおける最大値をK
2O(重量%)に換算した値
Kh:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のKイオン濃度プロファイルにおける板厚の中心値をK
2O(重量%)に換算した値)
【0028】
上記化学強化ガラスは、さらに下記式(3)を満たすことが好ましい。
N0/Nh ≧ 0.8 (3)
(ここで、N0は、以下を表す。
N0:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける最表面での値をNa
2O(重量%)に換算した値)
【0029】
上記化学強化ガラスは、さらに下記式(4)を満たすことが好ましい。
N0/NM ≧ 0.4 (4)
(ここで、N0は、以下を表す。
N0:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける最表面での値をNa
2O(重量%)に換算した値)
【0030】
また、本発明の別の一態様は、下記式(5)及び(6)を満たす化学強化ガラスに関する。
NM−Nh ≧ 2.2(wt%) (5)
KM−Kh ≧ 3(wt%) (6)
(ここで、NM、Nh、KM及びKhは、それぞれ以下を表す。
NM:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける最大値をNa
2O(重量%)に換算した値
Nh:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける板厚の中心値をNa
2O(重量%)に換算した値
KM:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のKイオン濃度プロファイルにおける最大値をK
2O(重量%)に換算した値
Kh:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のKイオン濃度プロファイルにおける板厚の中心値をK
2O(重量%)に換算した値)
【0031】
上記化学強化ガラスは、さらに下記式(7)を満たすことが好ましい。
N0−Nh ≧ −0.4(wt%) (7)
(ここで、N0は、以下を表す。
N0:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける最表面での値をNa
2O(重量%)に換算した値)
【0032】
上記化学強化ガラスは、さらに下記式(8)を満たすことが好ましい。
N0−NM ≧ −3.5(wt%) (8)
(ここで、N0は、以下を表す。
N0:EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける最表面での値をNa
2O(重量%)に換算した値)
【0033】
上記化学強化ガラスは、ガラス表面から20μmの深さの部分の圧縮応力値(CS
20)が60MPa以上であることが好ましい。
【0034】
上記化学強化ガラスは、ガラス表面から40μmの深さの部分の圧縮応力値(CS
40)が60MPa以上であることが好ましい。
【0035】
上記化学強化ガラスは、曲げ強度が400MPa以上であることが好ましい。
【0036】
上記化学強化ガラスは、表面圧縮応力(CS)が400MPa以上であることが好ましい。
【0037】
上記化学強化ガラスは、圧縮応力層深さ(DOL)が100μm以上であることが好ましい。
【0038】
上記化学強化ガラスは、板厚tが2mm以下の板状であることが好ましい。
【0039】
上記化学強化ガラスは、対面角60°の四角錐ダイヤモンド圧子にて5kgf〜10kgfの範囲での荷重を15秒間保持する条件での圧子圧入試験による破壊試験において、25mm×25mmのサイズ内に発生する破片の数が20個以下であることが好ましい。
【0040】
上記化学強化ガラスにおいては、化学強化ガラスの母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO
2を50〜80%、Al
2O
3を1〜30%、B
2O
3を0〜5%、P
2O
5を0〜4%、Li
2Oを3〜20%、Na
2Oを0〜8%、K
2Oを0〜10%、MgOを3〜20%、CaOを0〜20%、SrOを0〜20%、BaOを0〜15%、ZnOを0〜10%、TiO
2を0〜1%、ZrO
2を0〜8%を含有することが好ましい。
【0041】
上記化学強化ガラスの母組成においては、酸化物基準のモル百分率表示によるZrO
2の含有量が1.2%以下であることが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示によるNa
2Oの含有量が3%以上であることが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示によるK
2Oの含有量が0.5%以上であることが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示によるB
2O
3の含有量が1%以下であることが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示によるAl
2O
3の含有量が11%以下であることが好ましい。
【0042】
また、本発明は、ガラスに少なくとも2段階のイオン交換処理を行うことを含む、上記化学強化ガラスの製造方法であって、1段目のイオン交換処理に用いられる溶融塩中のKNO
3濃度が60重量%以上であり、かつ、2段目のイオン交換処理に用いられる溶融塩中のNaNO
3濃度が5重量%以上である、化学強化ガラスの製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0043】
本発明の化学強化ガラスの一態様は、鋭角物加傷強度に優れるとともに、破砕時の安全性が高く、イオン交換時間が短い。
本発明の化学強化ガラスの一態様は、高い曲げ強度と高い加傷後曲げ強度を併せ持つ。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下において、本発明の化学強化ガラスについて詳細に説明する。
本発明の化学強化ガラスは、以下に説明する化学強化ガラスIまたは後述の化学強化ガラスIIである。
本発明の化学強化ガラスIは、ガラス表面から90μmの深さの部分の圧縮応力値(CS
90)が25MPa以上であり、対面角の圧子角度が60°である四角錐ダイヤモンド圧子にて5kgf〜10kgfの範囲での荷重を15秒間保持する条件での圧子圧入試験による破壊試験において、25mm×25mmのサイズ内に発生する破片の数が20個以下である。
【0046】
本発明の化学強化ガラスIは、表面に化学強化処理(イオン交換処理)によって形成された圧縮応力層を有する。化学強化処理では、ガラスの表面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層を形成させる。具体的には、ガラス転移点以下の温度でのイオン交換により、ガラス板表面付近に存在するイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、LiイオンまたはNaイオン)を、イオン半径のより大きいアルカリイオン(典型的には、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。これにより、ガラスの表面に圧縮応力が残留し、ガラスの強度が向上する。
【0047】
本発明の化学強化ガラスIは、表面圧縮応力値(CS)が300MPa以上であることが好ましい。化学強化ガラスのCSが300MPa以上であれば、スマートフォンやタブレットPCのカバーガラスとして、良好な強度を有するので好ましい。そのようなガラスの曲げ強度は350MPa以上である。
スマートフォンやタブレットPCを落下させたときには、鈍角物や丸みを帯びた突起物との衝突により、カバーガラス裏面には大きな引張応力が発生し、その大きさは350MPa程度に達する。このとき、CSが300MPa以上であると、350MPa程度の引張応力に耐えられるので好ましい。化学強化ガラスのCSは、より好ましくは350MPa以上であり、さらに好ましくは400MPa以上であり、よりさらに好ましくは450MPa以上である。
【0048】
一方、化学強化ガラスIのCSの上限は特に限定されるものではないが、破壊時の安全上の観点からは、例えば2000MPa以下であり、好ましくは1500MPa以下であり、より好ましくは1000MPa以下であり、さらに好ましくは800MPa以下である。
【0049】
なお、化学強化ガラスのCSは、化学強化条件やガラスの組成等を調整することにより、適宜調整することができる。
【0050】
また、本発明の化学強化ガラスIのCSは、下記二種類の測定方法による値CS
FおよびCS
Aにより、次のように定義される。ガラス表面からxμmの深さの部分の圧縮応力値(CS
x)についても同様である。
CS=CS
F=1.28×CS
A
【0051】
ここで、CS
Fは折原製作所社製の表面応力計FSM−6000により測定され、表面応力計の付属プログラムFsmVにより求められる値である。
【0052】
また、CS
Aは株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio−IMを用いて以下の手順で測定される値である。
図1に示すように10mm×10mmサイズ以上、厚さ0.2〜2mm程度の化学強化ガラスの断面を150〜250μmの範囲に研磨し薄片化を行う。研磨手順としては#1000ダイヤ電着砥石により目的厚みのプラス50μm程度まで研削し、その後#2000ダイヤ電着砥石を用いて目的厚みのプラス10μm程度まで研削し、最後に酸化セリウムによる鏡面出しを行い目的厚みとする。以上のように作成した200μm程度に薄片化されたサンプルに対し、光源にλ=546nmの単色光を用い、透過光での測定を行い、複屈折イメージングシステムにより、化学強化ガラスが有する位相差(リタデーション)の測定を行い、得られた値と下記式(9)を用いることで応力を算出する。
F=δ/(C×t’)・・・式(9)
式(9)中、Fは応力(MPa)、δは位相差(リタデーション)(nm)、Cは光弾性定数(nm cm
−1MPa)、t’はサンプルの厚さ(cm)を示す。
【0053】
本発明の化学強化ガラスIは、ガラス表面から90μmの深さの部分の圧縮応力値(CS
90)が25MPa以上である。CS
90を25MPa以上とすることにより、鋭角物加傷強度を高くすることができる。CS
90は、好ましくは30MPa以上であり、より好ましくは35MPa以上であり、さらに好ましくは40MPa以上であり、特に好ましくは45MPa以上であり、最も好ましくは50MPa以上である。
【0054】
一方、CS
90の上限は特に限定されるものではないが、破壊時の安全性の観点からは、例えば250MPa以下であり、好ましくは200MPa以下であり、さらに好ましくは150MPa以下であり、特に好ましくは100MPa以下であり、最も好ましくは75MPa以下である。
【0055】
また、本発明の化学強化ガラスIは、鋭角物加傷強度向上の観点から、ガラス表面から100μmの深さの部分の圧縮応力値(CS
100)が15MPa以上であることが好ましい。CS
100は、好ましくは20MPa以上であり、より好ましくは23MPa以上であり、さらに好ましくは26MPa以上であり、特に好ましくは30MPa以上であり、最も好ましくは33MPa以上である。
【0056】
一方、CS
100の上限は特に限定されるものではないが、破壊時の安全性の観点からは、例えば200MPa以下であり、好ましくは150MPa以下であり、さらに好ましくは100MPa以下であり、特に好ましくは75MPa以下であり、最も好ましくは50MPa以下である。
【0057】
なお、化学強化ガラスのCS
90やCS
100は、CS同様に、化学強化条件やガラスの組成等を調整することにより、適宜調整することができる。
【0058】
また、本発明の化学強化ガラスIにおいては、CS
90とCS
100とを用いて下記式により算出されるΔCS
100−90(単位:MPa/μm)が0.4以上であることが好ましい。
ΔCS
100−90=(CS
90−CS
100)/(100−90)
【0059】
ΔCS
100−90を0.4以上とすることにより、鋭角物で加傷された後の曲げ強度(加傷後曲げ強度)を高くすることができる。ΔCS
100−90は、より好ましくは、以下、段階的に、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.2以上、1.4以上、1.6以上、1.8以上、2.0以上である。一方、ΔCS
100−90の上限は特に限定されるものではないが、破砕の安全性の観点からは、例えば4.0以下であり、以下、段階的に、3.0以下、2.0以下、1.8以下、1.6以下、1.4以下であることが好ましい。
【0060】
また、本発明の化学強化ガラスにおいては、DOLから20μmガラス表面側の深さにおける圧縮応力値CS
DOL−20を用いて下記式により算出されるΔCS
DOL−20(単位:MPa/μm)が0.4以上であることが好ましい。
ΔCS
DOL−20=CS
DOL−20/20
【0061】
ΔCS
DOL−20を0.4以上とすることにより、鋭角物で加傷された後の曲げ強度(加傷後曲げ強度)を高くすることができる。ΔCS
DOL−20は、より好ましくは、以下、段階的に、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.2以上、1.4以上、1.5以上である。一方、ΔCS
DOL−20の上限は特に限定されるものではないが、破砕の安全性の観点からは、例えば4.0以下であり、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.7以下、典型的には1.6以下である。
【0062】
また、本発明の化学強化ガラスIにおいては、圧縮応力層深さ(DOL)が100μm以上であることが好ましい。DOLが100μm以上であると、砂上に落下させた際など、鋭角物加傷による割れ耐性が向上する。DOLは、化学強化ガラスの強度を高くするために好ましくは100μm以上であり、より好ましくは、以下、段階的に、110μm以上、120μm以上、130μm以上、140μm以上、150μm以上、160μm以上である。
【0063】
一方、DOLの上限は特に限定されるものではないが、破壊時の安全性の観点からは、例えば200μm以下であり、好ましくは190μm以下であり、さらに好ましくは180μm以下であり、特に好ましくは150μm以下である。
【0064】
なお、DOLは、化学強化条件やガラスの組成等を調整することにより、適宜調整することができる。
【0065】
本明細書において、DOLは応力プロファイル中で応力がゼロになる部分のガラス表面からの深さであり、折原製作所社製の表面応力計FSM−6000により測定され付属プログラムFsmVにより解析される値である。また、株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio−IMを用いて
図1(b)に示されるような薄片化サンプルを用いて測定することもできる。
【0066】
本発明の化学強化ガラスIにおいては、圧縮応力層の面積Sc(MPa・μm)の値は20000MPa・μm以上であることが好ましい。Scが20000MPa・μm以上であると、鋭角物により傷がついた状態でも高い曲げ強度を維持することができる。Scは20000MPa・μm以上であることが好ましく、以下、段階的に、22000MPa・μm以上、24000MPa・μm以上、26000MPa・μm以上、28000MPa・μm以上、30000MPa・μm以上、32000MPa・μm以上、34000MPa・μm以上、36000MPa・μm以上、38000MPa・μm以上であることがより好ましい。一方、Scの上限は、特に限定されるものではないが、破砕の安全性の観点からは、例えば50000MPa・μm以下であり、好ましくは45000MPa・μm以下である。
【0067】
なお、本発明の化学強化ガラスIのSc(MPa・μm)は、下記二種類の測定方法による値Sc
FおよびSc
Aにより、次のように定義される。
Sc=Sc
F=1.515×Sc
A
ここで、Sc
Fは折原製作所社製の表面応力計FSM−6000により測定され付属プログラムFsmVにより解析される値を用いて算出した値であり、Sc
Aは前述のCS
A測定と同様の手法である、複屈折イメージングシステムAbrio−IMおよび薄片化サンプルを用いた測定により得られる値である。
【0068】
また、本発明の化学強化ガラスIの内部引張層の面積St(MPa・μm)は、下記二種類の測定方法による値St
FおよびSt
Aにより、次のように定義される。
St=St
F=1.515×St
A
ここで、St
Fは折原製作所社製の表面応力計FSM−6000により測定され付属プログラムFsmVにより解析される値を用いて算出した値であり、St
Aは前述のCS
A測定と同様の手法である、複屈折イメージングシステムAbrio−IMおよび薄片化サンプルを用いた測定により得られる値である。上記と同様に二手法により応力プロファイルを作成し、St
FもしくはSt
Aを算出し、Stを得ることができる。
【0069】
図2にScとStの概念図を示す。ScとStは原理的に等しい値であり、0.95<Sc/St<1.05となるように算出することが好ましい。
【0070】
また、本発明の化学強化ガラスIにおいては、圧縮応力層の面積Sc(MPa・μm)を板厚t(μm)で除した値Sc/t(MPa)が28MPa以上であることが好ましい。Sc/tが28MPa以上であると、砂上に落下させた際など、鋭角物加傷による割れ耐性が向上する。Sc/tは、より好ましくは30MPa以上であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、32MPa以上、34MPa以上、36MPa以上、38MPa以上、40MPa以上、42MPa以上、44MPa以上、46MPa以上、48MPa以上、50MPa以上である。一方、Sc/tの上限は、特に限定されるものではないが、破砕の安全性の観点からは、例えば60MPa以下であり、好ましくは55MPa以下である。
【0071】
また、本発明の化学強化ガラスIは、対面角の圧子角度が60°である四角錐ダイヤモンド圧子にて5kgf〜10kgfの範囲での荷重を15秒間保持する条件での圧子圧入試験による破壊試験において、25mm×25mmのサイズ内に発生する破片の数が20個以下である。当該圧子圧入試験による破壊試験における破片の数(破砕数)が20個以下であれば、万が一破壊したとしても、高い安全性を確保することができる。当該破砕数は、好ましくは10個以下であり、より好ましくは5個以下である。
【0072】
また、本発明の化学強化ガラスIは、加傷後の曲げ強度が150MPa以上であることが好ましい。スマートフォン落下時にカバーガラス表面に生じる引張応力の大きさは150MPa程度であり、当該曲げ強度が150MPa以上であれば、鋭角物による加傷が起きた後でも落下による発生応力による破壊を防ぐことができる。加傷後の曲げ強度は、好ましくは200MPa以上であり、より好ましくは250MPa以上である。加傷の方法としては、ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:110°)を押し当てる圧子圧入試験などを用いることができる。
【0073】
本発明の化学強化ガラスIは、ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:110°)を荷重0.5Kgfとして15秒間押し当てることにより、ガラス表面を加傷した後に、下スパン30mm、上スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で4点曲げ試験を行うことにより得られる破壊応力値σa(曲げ強度、単位:MPa)が150MPa以上であることが好ましい。σaは、好ましくは200MPa以上であり、より好ましくは250MPa以上、さらに好ましくは300MPa以上である。
【0074】
本発明の化学強化ガラスIは、ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:110°)を荷重1Kgfとして15秒間押し当てることにより、ガラス表面を加傷した後に、下スパン30mm、上スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で4点曲げ試験を行うことにより得られる破壊応力値σb(曲げ強度、単位:MPa)が150MPa以上であることが好ましい。σbは、好ましくは200MPa以上であり、より好ましくは250MPa以上、さらに好ましくは300MPa以上である。
【0075】
本発明の化学強化ガラスIは、ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:110°)を荷重2Kgfとして15秒間押し当てることにより、ガラス表面を加傷した後に、下スパン30mm、上スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で4点曲げ試験を行うことにより得られる破壊応力値σc(曲げ強度、単位:MPa)が150MPa以上であることが好ましい。σcは、好ましくは200MPa以上であり、より好ましくは250MPa以上、さらに好ましくは300MPa以上である。
【0076】
次に、本発明の化学強化ガラスIIについて詳細に説明する。
一実施形態の化学強化ガラスIIは、下記式(1)及び(2)を満たす化学強化ガラスである。
NM/Nh ≧ 1.8 (1)
KM/Kh ≧ 3 (2)
【0077】
ここで、NM、Nh、KM及びKhは、それぞれ以下を表すものとする。
NM:EPMAにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける最大値をNa
2O(重量%)に換算した値
Nh:EPMAにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける板厚の中心値をNa
2O(重量%)に換算した値
KM:EPMAにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のKイオン濃度プロファイルにおける最大値をK
2O(重量%)に換算した値
Kh:EPMAにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のKイオン濃度プロファイルにおける板厚の中心値をK
2O(重量%)に換算した値
【0078】
なお、EPMAとは、Electron Probe Micro Analyzer(電子線マイクロアナライザー)を意味する。
また、EPMAにより測定される前記化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける板厚の中心値をNa
2O(重量%)に換算した値(Nh)とは、板厚の中心におけるNaイオン濃度をNa
2O(重量%)に換算した値であり、たとえば板厚が0.8mmの化学強化ガラスであれば、表面から0.4mmの位置におけるNaイオン濃度をNa
2O(重量%)に換算した値である。Khについても、同様に定義されるものとする。
【0079】
(NM/Nh ≧ 1.8 (1))
後述する実施例においても示されるように、本発明者らの知見によれば、ガラス表面から20〜40μmの深さの部分の圧縮応力値と加傷後曲げ強度の間には強い相関があり、ガラス表面から20〜40μmの深さの部分の圧縮応力値が高いほど、高い加傷後曲げ強度が得られる傾向にある。
【0080】
また、NM/Nhが大きくなるほど、ガラス表面から20〜40μmの深さの部分の圧縮応力値が高くなる傾向にある。本発明において、カバーガラスの故障率を改善するために十分な加傷後曲げ強度とするためには、NM/Nhが1.8以上であることが必要であり、以下、段階的に、2以上、2.2以上、2.4以上、2.6以上、2.8以上、3以上、3.2以上、3.4以上であることが好ましい。一方、NM/Nhの上限値は特に限定されないが、破砕時の安全性の観点からは、例えば5以下であることが好ましく、より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは4以下である。
【0081】
(N0/Nh ≧ 0.8 (3))
また、本実施形態の化学強化ガラスにおいては、EPMAにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける最表面での値をNa
2O(重量%)に換算した値であるN0と、上記Nhとの比であるN0/Nhが0.8以上であることが好ましい。
【0082】
本発明者らの知見によれば、N0/Nhが大きくなるほど、ガラス表面から20〜40μmの深さの部分の圧縮応力値が高くなる傾向にある。本実施形態において、カバーガラスの故障率を改善するために十分な加傷後曲げ強度とするためには、N0/Nhが0.8以上であることが好ましく、以下、段階的に、1以上、1.2以上、1.4以上、1.6以上、1.8以上、2以上、2.2以上、2.4以上、2.6以上、2.8以上、3以上であることがより好ましい。一方、N0/Nhの上限値は特に限定されないが、破砕の安全性の観点からは、例えば5以下であることが好ましく、より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは4以下である。
【0083】
(N0/NM ≧ 0.4 (4))
また、本実施形態の化学強化ガラスにおいては、上述したN0と、上述したNMとの比であるN0/NMが0.4以上であることが好ましい。
【0084】
本発明者らの知見によれば、N0/NMが大きくなるほど、ガラス表面から20〜40μmの深さの部分の圧縮応力値が高くなる傾向にある。本実施形態において、カバーガラスの故障率を改善するために十分な加傷後曲げ強度とするためには、N0/NMが0.4以上であることが好ましく、以下、段階的に、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、0.95以上であることがより好ましい。
【0085】
(KM/Kh ≧ 3 (2))
本実施形態の化学強化ガラスIIにおいては、ガラス中のNaイオンをKイオンと交換するNa−K交換によってガラス表層に大きな圧縮応力を導入し、曲げ強度を高めている。ここで、カバーガラスの強度信頼性向上の観点からは、曲げ強度としては400MPa以上であることが好ましく、これを達成するためには、KM/Khは3以上であることが必要であり、以下、段階的に、3.5以上、4以上、4.5以上、5以上、5.5以上、6以上、6.5以上、7以上であることがより好ましい。
【0086】
また、別の一実施形態の化学強化ガラスIIは、下記式(5)及び(6)を満たす化学強化ガラスである。
NM−Nh ≧ 2.2(wt%) (5)
KM−Kh ≧ 3(wt%) (6)
【0087】
(NM−Nh ≧ 2.2(wt%) (5))
NM−Nhが大きくなるほど、ガラス表面から20〜40μmの深さの部分の圧縮応力値が高くなる傾向にある。本実施形態において、カバーガラスの故障率を改善するために十分な加傷後曲げ強度とするためには、NM−Nhが2.2wt%以上であることが必要であり、以下、段階的に、2.4wt%以上、2.6wt%以上、2.8wt%以上、3wt%以上、3.2wt%以上、3.4wt%以上、3.6wt%以上、3.8wt%以上、4wt%以上、4.2wt%以上、4.4wt%以上、4.6wt%以上、4.8wt%以上、5wt%以上であることが好ましい。一方、NM−Nhの上限値は特に限定されないが、破砕時の安全性の観点からは、例えば7wt%以下であることが好ましく、より好ましくは6.5wt%以下、さらに好ましくは6wt%以下である。
【0088】
(N0−Nh ≧ −0.4(wt%) (7))
また、本実施形態の化学強化ガラスIIにおいては、EPMAにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける最表面での値をNa
2O(重量%)に換算した値であるN0と、上記Nhとの差であるN0−Nhが−0.4wt%以上であることが好ましい。
【0089】
本発明者らの知見によれば、N0−Nhが大きくなるほど、ガラス表面から20〜40μmの深さの部分の圧縮応力値が高くなる傾向にある。本実施形態において、カバーガラスの故障率を改善するために十分な加傷後曲げ強度とするためには、N0−Nhが−0.4wt%以上であることが好ましく、以下、段階的に、0wt%以上、0.5wt%以上、1wt%以上、1.5wt%以上、2wt%以上、2.5wt%以上、3wt%以上、3.5wt%以上、4wt%以上、4.5wt%以上、5wt%以上であることがより好ましい。一方、N0−Nhの上限値は特に限定されないが、破砕の安全性の観点からは、例えば7wt%以下であることが好ましく、より好ましくは6.5wt%以下、さらに好ましくは6wt%以下である。
【0090】
(N0−NM ≧ −3.5(wt%) (8))
また、本実施形態の化学強化ガラスIIにおいては、上述したN0と、上述したNMとの差であるN0−NMが−3.5wt%以上であることが好ましい。
【0091】
本発明者らの知見によれば、N0−NMが大きくなるほど、ガラス表面から20〜40μmの深さの部分の圧縮応力値が高くなる傾向にある。本実施形態において、カバーガラスの故障率を改善するために十分な加傷後曲げ強度とするためには、N0−NMが−3.5wt%以上であることが好ましく、以下、段階的に、−3wt%以上、−2.5wt%以上、−2wt%以上、−1.5wt%以上、−1wt%以上、−0.5wt%以上、−0.25wt%以上、−0.1wt%以上であることがより好ましい。
【0092】
(KM−Kh ≧ 3(wt%) (6))
本実施形態の化学強化ガラスIIにおいては、ガラス中のNaイオンをKイオンと交換するNa−K交換によってガラス表層に大きな圧縮応力を導入し、曲げ強度を高めている。ここで、カバーガラスの強度信頼性向上の観点からは、曲げ強度としては400MPa以上であることが好ましく、これを達成するためには、KM−Khは3wt%以上であることが必要であり、以下、段階的に、3.5wt%以上、4wt%以上、4.5wt%以上、5wt%以上、5.5wt%以上、6wt%以上、6.5wt%以上、7wt%以上、7.5wt%以上、8wt%以上、8.5t%以上、9wt%以上、9.5wt%以上、10wt%以上であることが好ましい。
【0093】
本発明の化学強化ガラスIIは、表面圧縮応力(CS)が400MPa以上であることが好ましい。ここで、カバーガラスの強度信頼性向上のためにはガラスの曲げ強度が400MPa以上であることが好ましい。化学強化ガラスのCSが400MPa以上であれば、ガラスの曲げ強度が400MPa以上となる。化学強化ガラスのCSは、より好ましくは500MPa以上であり、さらに好ましくは600MPa以上である。
【0094】
一方、化学強化ガラスIIのCSの上限は特に限定されるものではないが、破壊時の安全上の観点からは、例えば2000MPa以下であり、好ましくは1500MPa以下であり、より好ましくは1000MPa以下であり、さらに好ましくは800MPa以下である。
【0095】
なお、化学強化ガラスのCSは、化学強化条件やガラスの組成等を調整することにより、適宜調整することができる。
【0096】
また、本発明の化学強化ガラスIIのCSは、下記二種類の測定方法による値CS
FおよびCS
Aにより、次のように定義される。ガラス表面からxμmの深さの部分の圧縮応力値(CS
x)についても同様である。
CS=CS
F=1.28×CS
A
【0097】
ここで、CS
Fは折原製作所社製の表面応力計FSM−6000により測定され表面応力計の付属プログラムFsmVにより求められる値である。
【0098】
また、CS
Aは株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio−IMを用いて前述の手順で測定される値である。
【0099】
本発明の化学強化ガラスIIは、加傷後の曲げ強度が200MPa以上となることが好ましい。スマートフォンやタブレットPCを落下させたときには、カバーガラス表面には引張応力が発生し、その大きさは200MPa程度に達する。カバーガラス表面には鋭角物との衝突などによりキズが発生するため、キズがある状態においても曲げ強度が200MPa以上あればカバーガラスの故障率を改善することができる。
【0100】
ここで、当該加傷後曲げ強度とは、ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:110°)を荷重0.5、もしくは1kgfとして15秒間押し当てることにより、ガラス表面を加傷した後に、下スパン30mm、上スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で4点曲げ試験を行うことにより得られる破壊応力値(曲げ強度、単位:MPa)を表す。
【0101】
本発明の化学強化ガラスIIは、ガラス表面から20μmの深さの部分の圧縮応力値(CS
20)が60MPa以上であることが好ましい。CS
20が60MPa以上であると、加傷後曲げ試験強度を200MPa以上とすることができ、カバーガラスの故障率が改善される。CS
20は、より好ましくは80MPa以上であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、100MPa以上、120MPa以上、140MPa以上、160MPa以上、180MPa以上、200MPa以上、220MPa以上、240MPa以上、260MPa以上、280MPa以上、300MPa以上である。
【0102】
一方、CS
20の上限は特に限定されるものではないが、破砕の安全性の観点からは、例えば500MPa以下であり、好ましくは400MPa以下であり、さらに好ましくは350MPa以下であり、特に好ましくは320MPa以下である。
【0103】
本発明の化学強化ガラスIIは、ガラス表面から40μmの深さの部分の圧縮応力値(CS
40)が60MPa以上であることが好ましい。CS
40が60MPa以上であると、加傷後曲げ試験強度を200MPa以上とすることができ、カバーガラスの故障率が改善される。CS
40は、より好ましくは、以下、段階的に、70MPa以上、80MPa以上、90MPa以上、100MPa以上、110MPa以上、120MPa以上、130MPa以上、150MPa以上、160MPa以上、170MPa以上、180MPa以上である。
【0104】
一方、CS
40の上限は特に限定されるものではないが、破砕の安全性の観点からは、例えば300MPa以下であり、好ましくは250MPa以下であり、さらに好ましくは200MPa以下である。
【0105】
なお、化学強化ガラスのCS
20やCS
40は、CS同様に、化学強化条件やガラスの組成等を調整することにより、適宜調整することができる。
【0106】
また、本発明の化学強化ガラスIIにおいては、圧縮応力層深さ(DOL)が100μm以上であることが好ましい。DOLが100μm以上であると、砂上に落下させた場合など鋭角物による加傷原因での破壊に対して、顕著な強度向上が可能となる。DOLは、より好ましくは110μm以上であり、さらに好ましくは130μm以上であり、特に好ましくは150μm以上である。
【0107】
一方、DOLの上限は特に限定されるものではないが、破壊時の安全性の観点からは、例えば200μm以下であり、好ましくは180μm以下であり、さらに好ましくは160μm以下である。
【0108】
なお、DOLは、化学強化条件やガラスの組成等を調整することにより、適宜調整することができる。
【0109】
また、本発明の化学強化ガラスIIのDOLは応力プロファイル中で応力がゼロになる部分のガラス表面からの深さであり、折原製作所社製の表面応力計FSM−6000により測定され付属プログラムFsmVにより解析される値である。また、株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio−IMを用いて
図1(b)に示されるような薄片化サンプルを用いて測定することもできる。
【0110】
また、本発明の化学強化ガラスIIは、対面角の圧子角度が60°である四角錐ダイヤモンド圧子にて5kgf〜10kgfの範囲での荷重を15秒間保持する条件での圧子圧入試験による破壊試験において、25mm×25mmのサイズ内に発生する破片の数が20個以下である。当該圧子圧入試験による破壊試験における破片の数(破砕数)が20個以下であれば、万が一破壊したとしても、高い安全性を確保することができる。当該破砕数は、好ましくは30個以下であり、より好ましくは40個以下である。
【0111】
つづいて、本発明における、化学強化ガラスの母組成について説明する。
本明細書において、化学強化ガラスの母組成とは、化学強化前のガラス(以下、母ガラスということがある、また化学強化用ガラスということがある)の組成をいう。ここで、化学強化ガラスの引張応力を有する部分(以下、引張応力部分ともいう)はイオン交換されていない部分であると考えられる。そこで、化学強化ガラスの引張応力部分は、母ガラスと同じ組成を有しており、引張応力部分の組成を母組成とみることができる。
【0112】
以下において、化学強化ガラスの母組成に含有されうる各成分の好適な含有量について説明する。なお、各成分の含有量は、特に断りのない限り、酸化物基準のモル百分率表示で表されたものとする。
ガラスの組成は、簡易的には蛍光エックス線法による半定量分析によって求めることも可能であるが、より正確には、ICP発光分析等の湿式分析法により測定できる。
【0113】
本発明の化学強化用ガラス用の組成(本発明の化学強化ガラスの母組成)としては、例えば、SiO
2を50〜80%、Al
2O
3を1〜30%、B
2O
3を0〜5%、P
2O
5を0〜4%、Li
2Oを3〜20%、Na
2Oを0〜8%、K
2Oを0〜10%、MgOを3〜20%、CaOを0〜20%、SrOを0〜20%、BaOを0〜15%、ZnOを0〜10%、TiO
2を0〜1%、ZrO
2を0〜8%を含有するものが挙げられる。
たとえば、SiO
2を63〜80%、Al
2O
3を7〜30%、B
2O
3を0〜5%、P
2O
5を0〜4%、Li
2Oを5〜15%、Na
2Oを4〜8%、K
2Oを0〜2%、MgOを3〜10%、CaOを0〜5%、SrOを0〜20%、BaOを0〜15%、ZnOを0〜10%、TiO
2を0〜1%、ZrO
2を0〜8%を含有し、Ta
2O
5、Gd
2O
3、As
2O
3、Sb
2O
3を含有しないガラスが挙げられる。
【0114】
SiO
2はガラスの骨格を構成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分であり、ガラス表面に傷(圧痕)がついた時のクラックの発生を低減させる成分であり、SiO
2の含有量は50%以上であることが好ましい。SiO
2の含有量は、より好ましくは、以下、段階的に、54%以上、58%以上、60%以上、63%以上、66%以上、68%以上である。一方、SiO
2の含有量が80%超であると溶融性が著しく低下する。SiO
2の含有量は80%以下であり、より好ましくは78%以下、さらに好ましくは76%以下、特に好ましくは74%以下、最も好ましくは72%以下である。
【0115】
Al
2O
3は化学強化ガラスの破砕性を向上する成分である。ここでガラスの破砕性が高いとは、ガラスが割れた際の破片数が少ないことをいう。破砕性の高いガラスは、破壊した時に破片が飛び散りにくいことから、安全性が高いといえる。また、Al
2O
3は化学強化の際のイオン交換性能を向上させ、強化後の表面圧縮応力を大きくするために有効な成分であるため、Al
2O
3の含有量は1%以上であることが好ましい。Al
2O
3の含有量は、より好ましくは、以下、段階的に、3%以上、5%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上である。一方、Al
2O
3の含有量が30%超であるとガラスの耐酸性が低下し、または失透温度が高くなる。また、ガラスの粘性が増大し溶融性が低下する。Al
2O
3の含有量は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下、特に好ましくは18%以下、最も好ましくは15%以下である。一方、Al
2O
3の含有量が大きい場合はガラス溶融時の温度が大きくなり生産性が低下する。ガラスの生産性を考慮する場合は、Al
2O
3の含有量は好ましくは11%以下であり、以下、段階的に、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下であることが好ましい。
【0116】
B
2O
3は、化学強化用ガラスまたは化学強化ガラスのチッピング耐性を向上させ、またガラスの溶融性を向上させる成分である。B
2O
3は必須ではないが、B
2O
3を含有させる場合の含有量は、溶融性を向上するために好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、B
2O
3の含有が5%を超えると溶融時に脈理が発生し化学強化用ガラスの品質が低下しやすい。B
2O
3の含有量は、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。耐酸性を高くするためには含有しないことが好ましい。
【0117】
P
2O
5は、イオン交換性能およびチッピング耐性を向上させる成分である。P
2O
5は含有させなくてもよいが、P
2O
5を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、P
2O
5の含有量が4%超では、ガラスの破砕性が著しく低下し、また耐酸性が著しく低下する。P
2O
5の含有量は、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下である。耐酸性を高くするためには含有しないことが好ましい。
【0118】
Li
2Oは、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分である。
ガラス表面のLiイオンをNaイオンに交換し、上記CS
40が60MPa以上になるような化学強化処理を行う場合、Li
2Oの含有量は、好ましくは3%以上であり、より好ましくは4%以上、さらに好ましくは5%以上、特に好ましくは6%以上、典型的には7%以上である。一方、Li
2Oの含有量が20%超ではガラスの耐酸性が著しく低下する。Li
2Oの含有量は、20%以下であることが好ましく、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下、特に好ましくは15%以下、最も好ましくは13%以下である。
一方、ガラス表面のNaイオンをKイオンに交換し、上記CS
40が60MPa以上になるような化学強化処理を行う場合、Li
2Oの含有量が3%超であると、圧縮応力の大きさが低下し、CS
40が60MPa以上を達成することが難しくなる。この場合、Li
2Oの含有量は、3%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下であり、最も好ましくはLi
2Oを実質的に含有しない。
なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不可避の不純物を除いて含有しない、すなわち、意図的に含有させたものではないことを意味する。具体的には、ガラス組成中の含有量が、0.1モル%未満であることを指す。
【0119】
Na
2Oはイオン交換により表面圧縮応力層を形成させ、またガラスの溶融性を向上させる成分である。
ガラス表面のLiイオンをNaイオンに交換し、上記CS
40が60MPa以上になるような化学強化処理を行う場合、Na
2Oは含有しなくてもよいが、ガラスの溶融性を重視する場合は含有してもよい。Na
2Oを含有させる場合の含有量は1%以上であると好ましい。Na
2Oの含有量は、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上である。一方、Na
2Oの含有量が8%超ではイオン交換により形成される表面圧縮応力が著しく低下する。Na
2Oの含有量は、好ましくは8%以下であり、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは6%以下、特に好ましくは5%以下、最も好ましくは4%以下である。
一方、ガラス表面のNaイオンをKイオンに交換し、上記CS
40が60MPa以上になるような化学強化処理を行う場合にはNaは必須であり、その含有量は5%以上である。Na
2Oの含有量は、好ましくは5%以上であり、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは9%以上、特に好ましくは11%以上、最も好ましくは12%以上である。一方、Na
2Oの含有量が20%超ではガラスの耐酸性が著しく低下する。Na
2Oの含有量は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下、特に好ましくは15%以下、最も好ましくは14%以下である。
硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合溶融塩に浸漬する等の方法により、ガラス表面のLiイオンとNaイオン、NaイオンとKイオンを同時にイオン交換する場合には、Na
2Oの含有量は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは9%以下、さらに好ましくは7%以下、特に好ましくは6%以下、最も好ましくは5%以下である。また、Na
2Oの含有量は、好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは4%以上である。
【0120】
K
2Oは、イオン交換性能を向上させる等のために含有させてもよい。K
2Oを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上、特に好ましくは3%以上である。一方、K
2Oの含有量が10%超であると、化学強化ガラスの破砕性が低下するため、K
2Oの含有量は10%以下であることが好ましい。K
2Oの含有量は、より好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは6%以下であり、特に好ましくは4%以下であり、最も好ましくは2%以下である。
【0121】
MgOは、化学強化ガラスの表面圧縮応力を増大させる成分であり、破砕性を改善する成分であり、含有させることが好ましい。MgOを含有させる場合の含有量は、好ましくは3%以上であり、より好ましくは、以下、段階的に、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上である。一方、MgOの含有量が20%超であると化学強化用ガラスが溶融時に失透しやすくなる。MgOの含有量は20%以下であることが好ましく、より好ましくは、以下、段階的に、18%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10%以下である。
【0122】
CaOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上させる成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。CaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、CaOの含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため20%以下が好ましい。CaOの含有量は、より好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下が好ましい。
【0123】
SrOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。SrOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、SrOの含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため20%以下が好ましい。SrOの含有量の含有量は、より好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下が好ましい。
【0124】
BaOは、化学強化用ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。BaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、BaOの含有量が15%超となるとイオン交換性能が著しく低下する。BaOの含有量は15%以下であることが好ましく、より好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0125】
ZnOはガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。ZnOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。一方、ZnOの含有量が10%超となるとガラスの耐候性が著しく低下する。ZnOの含有量は10%以下であることが好ましく、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは2%以下であり、最も好ましくは1%以下である。
【0126】
TiO
2は、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。TiO
2を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.15%以上、さらに好ましくは0.2%以上である。一方、TiO
2の含有量が5%超であると溶融時に失透しやすくなり、化学強化ガラスの品質が低下する恐れがある。TiO
2の含有量は1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.25%以下である。
【0127】
ZrO
2は、イオン交換による表面圧縮応力を増大させる成分であり、化学強化用ガラスの破砕性を改善する効果があり、含有させてもよい。ZrO
2を含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。一方、ZrO
2の含有量が8%超であると溶融時に失透しやすくなり、化学強化ガラスの品質が低下する恐れがある。ZrO
2の含有量は8%以下であることが好ましく、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下であり、特に好ましくは2%以下であり、最も好ましくは1.2%以下である。
【0128】
Y
2O
3、La
2O
3、Nb
2O
5は、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。これらの成分を含有させる場合のそれぞれの含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上、最も好ましくは2.5%以上である。一方、Y
2O
3、La
2O
3、Nb
2O
5の含有量はそれぞれ8%超であると溶融時にガラスが失透しやすくなり化学強化ガラスの品質が低下する恐れがある。Y
2O
3、La
2O
3、Nb
2O
5の含有量はそれぞれ、8%以下であることが好ましく、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは4%以下であり、最も好ましくは3%以下である。
Ta
2O
5、Gd
2O
3は、化学強化ガラスの破砕性を改善するために少量含有してもよいが、屈折率や反射率が高くなるので1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、含有しないことがさらに好ましい。
【0129】
さらに、ガラスに着色を行い使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co
3O
4、MnO
2、Fe
2O
3、NiO、CuO、Cr
2O
3、V
2O
5、Bi
2O
3、SeO
2、TiO
2、CeO
2、Er
2O
3、Nd
2O
3等が好適なものとして挙げられる。
【0130】
着色成分の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で、合計で7%以下の範囲が好ましい。7%を超えるとガラスが失透しやすくなり望ましくない。この含量は好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。ガラスの可視光透過率を優先させる場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0131】
ガラスの溶融の際の清澄剤として、SO
3、塩化物、フッ化物などを適宜含有してもよい。As
2O
3は含有しないことが好ましい。Sb
2O
3を含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0132】
また、本発明の化学強化ガラスは、ナトリウムイオン、銀イオン、カリウムイオン、セシウムイオンおよびルビジウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種を表面に有することが好ましい。このことにより、表面に圧縮応力が誘起されガラスが高強度化される。また、銀イオンを表面に有することで、抗菌性を付与することができる。
【0133】
また、本発明においては、化学強化ガラスの母組成を有し、下記条件で徐冷した厚さ1mmのガラス板に対して、KNO
3、NaNO
3、又はKNO
3とNaNO
3との混合塩からなる400℃の溶融塩を用いて1時間のイオン交換処理を行ったときに、DOLが50μm以上となるような化学強化ガラスの母組成を選択することが好ましい。ここで、徐冷は、ガラス転移点より30℃〜50℃高い温度T℃から、(T−300)℃まで0.5℃/分の冷却速度で行うものとする。
さらに、本発明においては、化学強化ガラスの母組成を有し、下記条件で徐冷した厚さ1mmのガラス板に対して、KNO
3、NaNO
3、又はKNO
3とNaNO
3との混合塩からなる425℃の溶融塩により、1時間のイオン交換処理を行ったときに、DOLが70μm以上となるような化学強化ガラスの母組成を選択することが好ましい。ここで、徐冷は、ガラス転移点より30℃〜50℃高い温度T℃から、(T−300)℃まで0.5℃/分の冷却速度で行うものとする。
【0134】
このような母組成であると、イオン交換速度が速く、短時間で化学強化することができる。
【0135】
本発明の化学強化ガラスは、板状(ガラス板)である場合、その板厚(t)は、特に限定されるものではないが、化学強化により顕著な強度向上を可能にするとの観点からは、例えば2mm以下であり、好ましくは1.5mm以下であり、より好ましくは1mm以下であり、さらに好ましくは0.9mm以下であり、特に好ましくは0.8mm以下であり、最も好ましくは0.7mm以下である。また、当該板厚は、化学強化処理による十分な強度向上の効果を得る観点からは、例えば0.1mm以上であり、好ましくは0.2mm以上であり、より好ましくは0.4mm以上であり、さらに好ましくは0.5mm以上である。
【0136】
なお、本発明の化学強化ガラスは、適用される製品や用途等に応じて、板状以外の形状、たとえば、外周の厚みが異なる縁取り形状などを有していてもよい。また、上記ガラス板は、2つの主面と、これらに隣接して板厚を形成する端面とを有し、2つの主面は互いに平行な平坦面を形成していてもよい。ただし、ガラス板の形態はこれに限定されず、例えば2つの主面は互いに平行でなくともよく、また、2つの主面の一方又は両方の全部又は一部が曲面であってもよい。より具体的には、ガラス板は、例えば、反りの無い平板状のガラス板であってもよく、また、湾曲した表面を有する曲面ガラス板であってもよい。
【0137】
また、本発明においては、化学強化用ガラスのヤング率が70GPa以上であるとともに、化学強化ガラスの最表面における圧縮応力値(CS
0)とガラス表面から1μmの深さの部分の圧縮応力値(CS
1)との差が50MPa以下であることが好ましい。このようにすれば、化学強化処理後にガラス表面の研磨処理を行ったときの反りが生じにくいので好ましい。
【0138】
化学強化用ガラスのヤング率は、より好ましくは74GPa以上、特に好ましくは78GPa以上、さらに好ましくは82GPa以上である。ヤング率の上限は特に限定されるものではないが、例えば90GPa以下であり、好ましくは88GPa以下である。ヤング率は、たとえば超音波パルス法により測定できる。
【0139】
また、CS
0とCS
1の差は、好ましくは50MPa以下であり、より好ましくは40MPa以下であり、さらに好ましくは30MPa以下である。
【0140】
また、CS
0は、好ましくは300MPa以上であり、より好ましくは350MPa以上であり、さらに好ましくは400MPa以上である。一方、CS
0の上限は特に限定されるものではないが、例えば1200MPa以下であり、好ましくは1000MPa以下であり、さらに好ましくは800MPa以下である。
【0141】
また、CS
1は、好ましくは250MPa以上であり、より好ましくは300MPa以上であり、さらに好ましくは350MPa以上である。一方、CS
1の上限は特に限定されるものではないが、例えば1150MPa以下であり、好ましくは1100MPa以下であり、さらに好ましくは1050MPa以下である。
【0142】
本発明の化学強化ガラスは、例えば、以下のようにして製造することができる。なお、下記の製造方法は、板状の化学強化ガラスを製造する場合の例である。
【0143】
まず、前述の化学強化処理に供するガラス(化学強化用ガラス)を用意する。例えば、ガラスの各成分の原料を調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。その後、バブリング、撹拌、清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、従来公知の成形法により所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷する。
【0144】
ガラスの成形法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法及びダウンドロー法が挙げられる。特に、大量生産に適したフロート法が好ましい。また、フロート法以外の連続成形法、すなわち、フュージョン法およびダウンドロー法も好ましい。
【0145】
その後、成形したガラスを必要に応じて研削および研磨処理して、ガラス基板を形成する。なお、ガラス基板を所定の形状及びサイズに切断したり、ガラス基板の面取り加工を行う場合、後述する化学強化処理を施す前に、ガラス基板の切断や面取り加工を行えば、その後の化学強化処理によって端面にも圧縮応力層が形成されるため、好ましい。
【0146】
そして、形成したガラス基板に化学強化処理を施した後、洗浄および乾燥することにより、本発明の化学強化ガラスを製造することができる。
【0147】
化学強化処理においては、大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはKイオン)を含む金属塩(例えば、硝酸カリウム)の融液に、浸漬などによってガラスを接触させることにより、ガラス中の小さなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはLiイオン)が大きなイオン半径の金属イオンと置換される。
【0148】
化学強化処理(イオン交換処理)は、特に限定されるものではないが、例えば、360〜600℃に加熱された溶融塩中に、ガラスを0.1〜500時間浸漬することによって行うことができる。なお、溶融塩の加熱温度としては、375〜500℃が好ましく、また、溶融塩中へのガラスの浸漬時間は、0.3〜200時間であることが好ましい。
【0149】
化学強化処理を行うための溶融塩としては、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。このうち硝酸塩としては、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸銀などが挙げられる。硫酸塩としては、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸銀などが挙げられる。炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、などが挙げられる。塩化物としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化銀などが挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0150】
本発明において、化学強化処理の処理条件は、特に限定されず、ガラスの特性・組成や溶融塩の種類、ならびに、最終的に得られる化学強化ガラスに所望される表面圧縮応力(CS)や圧縮応力層の深さ(DOL)等の化学強化特性などを考慮して、適切な条件を選択すればよい。
【0151】
また、本発明においては、化学強化処理を一回のみ行ってもよく、あるいは2以上の異なる条件で複数回の化学強化処理(多段強化)を行ってもよい。ここで、例えば、1段階目の化学強化処理として、CSが相対的に低くなる条件で化学強化処理を行った後に、2段階目の化学強化処理として、CSが相対的に高くなる条件で化学強化処理を行うと、化学強化ガラスの最表面のCSを高めつつ、圧縮応力層に生じる圧縮応力の積算値を低めに抑えることができ、結果として内部引張応力(CT)を低めに抑えることができる。
【0152】
特に、早いイオン交換速度で化学強化処理を行うためには、ガラス中のLiイオンをNaイオンと交換すること(Li−Na交換)が好ましい。
【0153】
本発明の化学強化ガラスIIの製造方法としては、加傷後曲げ強度向上の観点からは、少なくとも2段階のイオン交換処理を行う化学強化ガラスの製造方法であって、1段目のイオン交換処理に用いられる溶融塩中のKNO
3濃度が60重量%以上であり、かつ、2段目のイオン交換処理に用いられる溶融塩中のNaNO
3濃度が5重量%以上であるものが好ましい。
【0154】
加傷後曲げ強度向上の観点より、1段目のイオン交換処理に用いられる溶融塩中のKNO
3濃度は、60重量%以上であることが好ましく、以下、段階的に、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上であることがより好ましい。また、その上限は特に限定されるものではなく、例えば100重量%、すなわち、KNO
3のみからなる溶融塩であってもよい。ここで、この1段目のイオン交換処理によれば、主として、ガラス中のNaイオンをKイオンと交換するNa−K交換が行われる。
【0155】
また、加傷後曲げ強度向上の観点より、2段目のイオン交換処理に用いられる溶融塩中のNaNO
3濃度は、5重量%以上であることが好ましく、以下、段階的に、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上であることがより好ましい。また、その上限は特に限定されるものではなく、例えば100重量%、すなわち、NaNO
3のみからなる溶融塩であってもよい。ここで、この2段目のイオン交換処理によれば、少なくとも、ガラス中のLiイオンをNaイオンと交換するLi−Na交換が行われる。
【0156】
本発明の化学強化ガラスは、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末(PDA)、タブレット端末等のモバイル機器等に用いられるカバーガラスとして、特に有用である。さらに、携帯を目的としない、テレビ(TV)、パーソナルコンピュータ(PC)、タッチパネル等のディスプレイ装置のカバーガラス、エレベータ壁面、家屋やビル等の建築物の壁面(全面ディスプレイ)、窓ガラス等の建築用資材、テーブルトップ、自動車や飛行機等の内装等やそれらのカバーガラスとして、また曲げ加工や成形により板状でない曲面形状を有する筺体等の用途にも有用である。
【実施例】
【0157】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、表中の各測定結果について、空欄は未測定であることを表す。
【0158】
(化学強化ガラスの作製)
表2に示される例1〜例15のガラスを、以下のようにして作製した。
【0159】
まず、表1に酸化物基準のモル百分率表示で示される組成を有するガラス1、ガラス3、ガラス4、ガラス6、ガラス7のガラス板を白金るつぼ溶融にて作製した。酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩等一般に使用されているガラス原料を適宜選択し、ガラスとして1000gになるように秤量した。ついで、混合した原料を白金るつぼに入れ、1500〜1700℃の抵抗加熱式電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡、均質化した。得られた溶融ガラスを型材に流し込み、ガラス転移点+50℃の温度において1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。得られたガラスブロックを切断、研削し、最後に両面を鏡面に加工して、所望の形状の板状ガラスを得た。なお、板厚t(mm)は、表2に示されている。
【0160】
表1に酸化物基準のモル百分率表示で示されるガラス2、ガラス5の組成を有するガラス板を、フロート窯で作製した。酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩等一般に使用されているガラス原料を適宜選択して溶解窯にて溶解し、フロート法で板厚が1.1〜1.3mmtとなるように成形した。得られた板ガラスを切断、研削し、最後に両面を鏡面に加工して、所望の形状の板状ガラスを得た。なお、板厚t(mm)は、表2に示されている。
【0161】
【表1】
【0162】
つづいて、ガラス1〜ガラス4に対して、表2に記載された条件で化学強化処理を行うことにより、例1〜例15の化学強化ガラスを得た。
ガラス6、ガラス7に対して、表3に記載された条件で化学強化処理を行うことにより、例31〜例38の化学強化ガラスを得た。
なお、例1〜9および例31〜38は本発明の化学強化ガラスIの実施例であり、例10〜15が比較例である。
【0163】
また、ガラス1またはガラス5に対して、表4に記載された条件で化学強化処理を行うことにより、例16〜26の化学強化ガラスを得た。
【0164】
以下において、例1〜例15及び例31〜例38の化学強化ガラスについて説明する。
【0165】
化学強化ガラスについて、表面圧縮応力CS(単位:MPa)、圧縮応力層の厚みDOL(単位:μm)、内部引張応力CT(単位:MPa)、ガラス表面からxμmの深さの部分の圧縮応力値CS
x(単位:MPa)、圧縮応力層の面積Sc(単位:MPa・μm)、Sc/t(単位:MPa)、内部引張層の面積St(単位:MPa・μm)、St/t(単位:MPa)、ΔCS
100−90(単位:MPa/μm)、CS
DOL−20(単位:MPa)及びΔCS
DOL−20(単位:MPa/μm)を測定ないし算出した。
【0166】
なお、CSは、下記二種類の測定方法による値CS
FおよびCS
Aにより、次のように定義される。ガラス表面からxμmの深さの部分の圧縮応力値(CS
x)についても同様である。
CS=CS
F=1.28×CS
A
【0167】
ここで、CS
Fは折原製作所社製の表面応力計FSM−6000により測定され表面応力計の付属プログラムFsmVにより求められる値である。また、CS
Aは前述した株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio−IMおよび薄片サンプルを用いた手法で測定される値である。
【0168】
また、CTは下記二種類の測定方法による値CT
FおよびCT
Aにより、次のように定義される。
CT=CT
F=1.28×CT
A
ここで、CT
Fは折原製作所社製の表面応力計FSM−6000により測定され表面応力計の付属プログラムFsmVにより求められる値である。また、CT
Aは前述した株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio−IMおよび薄片サンプルを用いた手法で測定される値である。
【0169】
また、St値は折原製作所社製の表面応力計FSM−6000により測定され付属プログラムFsmVにより解析される値St
F、もしくは複屈折イメージングシステムAbrio−IMおよび薄片化サンプルを用いた測定により得られる値St
Aを用いて次のように定義される。
St=St
F=1.515×St
A
【0170】
(圧子圧入試験)
25mm×25mm×厚み0.8mm(800μm)のサイズを有する化学強化ガラスに対して、対面角の圧子角度60度を有するダイヤモンド圧子を用いて、5〜10kgfの荷重を15秒間保持する圧子圧入試験により、化学強化ガラスを破壊させて、破壊後のガラスの破片の数(破砕数)を計測した。これらの結果を表2に示す。
これらの結果より、例1〜例9及び例11〜例14の化学強化ガラスは、当該圧子圧入試験による破壊試験における破砕数が20個以下であり、破壊した際の安全性が高いガラスであった。一方、例10及び例15の化学強化ガラスは破砕数が20個を大きく超えており、破壊した際の安全性に乏しいガラスであった。
【0171】
(砂上落下試験)
つづいて、化学強化ガラスについて、以下の試験方法により砂上落下試験を行い、平均割れ高さ(単位:mm)を測定した。
【0172】
図3に砂上落下試験の試験方法を表す模式図を示す。
まず、硬質ナイロン製のモック板11(50mm×50mm×厚み18mm、重量:54g)に化学強化ガラス13(50mm×50mm×厚み0.8(mm))をスポンジ両面テープ12(積水化学社製の#2310、50mm×50mm×厚み3mm)を介して貼り合わせ、測定試料1を作製した。次に、15cm×15cmのサイズのSUS板21上に、1gのけい砂22(竹折社製5号けい砂)を均一となるようにまき、作製した測定試料1を、化学強化ガラス13を下にして、けい砂22がまかれたSUS板21の表面に所定の高さ(落下高さ)から落下させた。落下試験は、落下高さ:10mmから開始して、10mmずつ高さを上げて実施し、化学強化ガラス13が割れた高さを割れ高さ(単位mm)とした。落下試験は各例について5〜10回実施し、落下試験での割れ高さの平均値を、平均割れ高さ(単位:mm)とした。これらの結果を表2に示す。
【0173】
図4に、化学強化ガラスについての、ガラス表面から90μmの深さの部分の圧縮応力値CS
90(単位:MPa)と平均割れ高さ(単位:mm)との関係をプロットしたグラフを示す。
図4より、平均割れ高さは内部の圧縮応力CS
90との相関性が高いことが分かる。CS
90が25MPa以上であると、平均割れ高さが300mm程度以上となり、大幅な強度(鋭角物加傷強度)の向上を達成できることが分かる。
【0174】
また、表2より、圧縮応力層の面積Sc(MPa・μm)を板厚t(μm)で除した値Sc/t(MPa)が28以上の場合、平均割れ高さが300mm程度以上となり、大幅な強度(鋭角物加傷強度)の向上を達成できることがわかる。
【0175】
<加傷後又は未加傷時の4点曲げ試験>
40mm×5mm×厚み0.8(mm)のサイズを有する化学強化ガラスに対して、加傷せずに、あるいは、ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:110°)を荷重0.5Kgf、1Kgf又は2Kgfとして15秒間押し当てることにより、ガラス表面を加傷した。次に、下スパン30mm、上スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で4点曲げ試験を行い、未加傷時、及び各加傷条件における破壊応力(MPa)を測定した。未加傷時、及び各加傷条件における4点曲げ試験を行った場合の破壊応力値(曲げ強度、単位:MPa)を表2に示す。
【0176】
図5に、例4、6、8〜10及び15の化学強化ガラスについての、ΔCS
100−90(単位:MPa/μm)と各加傷条件における破壊応力(MPa)との関係をプロットしたグラフを示す。
前述のように、スマートフォン落下時にはガラス表面に150MPa程度の引張応力が発生する。加傷後であっても150MPa以上の破壊応力を有すれば落下時のカバーガラス割れを防ぐことができる。
図5より、ΔCS
100−90が0.4以上の場合、荷重0.5Kgf、1Kgfでの加傷後の曲げ応力が150MPa以上となることがわかる。また、ΔCS
100−90が0.9以上の場合、2Kgfでの加傷後の曲げ応力が150MPa以上となることがわかる。
【0177】
(イオン交換速度)
ガラス1〜ガラス4に対して、表2の下段に記載の化学強化処理条件で化学強化処理を行い、それぞれの場合におけるDOL(μm)を測定した。それらの結果を表2にあわせて示す。なお、例えば、「1mmt KNO
3 400℃ 1時間強化時のDOL(μm)」とは、厚みが1mmのガラスに対して、KNO
3の溶融塩を用いて400℃、1時間の条件で化学強化処理を行った場合のDOL(μm)を表す。
【0178】
【表2】
【0179】
【表3】
【0180】
以下において、例16〜例25の化学強化ガラスについて説明する。
【0181】
(CS
xの測定)
例16〜25の各化学強化ガラスについて、ガラス表面からxμmの深さの部分の圧縮応力値CS
x(単位:MPa)を、前述した株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio−IMおよび薄片サンプルを用いた手法により測定した。これらの結果を表4に示す。なお、例26の化学強化ガラスについては、表面応力計(折原製作所製、FSM−6000)によりCS及びDOLを測定した。CSは95.7MPa、DOLは34.6μmであった。
【0182】
(EPMAによる測定)
化学強化ガラスについて、電子線マイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)を用いて取得したNaイオン濃度プロファイル、Kイオン濃度プロファイルから、下記のN0、NM、Nh、K0、KM及びKhをそれぞれ算出し、表1に示した。各化学強化ガラス断面を鏡面研磨し、Cを約30nmコートしてEPMA分析に供した。EPMAは、日本電子製JXA−8500Fを用い、加速電圧15kV、プローブ電流30nA、プローブ径 1μmφ、ステップ間隔 1μm、測定時間 1s、分光結晶TAPH(Na Kα線、ピーク位置:129.55mm)、PETH(K Kα線、ピーク位置:119.75mm)で各元素の特性X線カウント数のプロファイルを取得した。さらに試料の板厚中心の各元素のカウント数を試料組成中の重量%に換算してイオン濃度プロファイルとした。
N0:EPMAにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける最表面での値をNa
2O(重量%)に換算した値
NM:EPMAにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける最大値をNa
2O(重量%)に換算した値
Nh:EPMAにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のNaイオン濃度プロファイルにおける板厚の中心値をNa
2O(重量%)に換算した値
K0:EPMAにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のKイオン濃度プロファイルにおける最表面での値をK
2O(重量%)に換算した値
KM:EPMAにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のKイオン濃度プロファイルにおける最大値をK
2O(重量%)に換算した値
Kh:EPMAにより測定される化学強化ガラスの板厚方向のKイオン濃度プロファイルにおける板厚の中心値をK
2O(重量%)に換算した値
【0183】
また、上記結果より、N0/Nh、NM/Nh、N0/NM、N0−Nh、NM−Nh、N0−NM、K0/Kh、KM/Kh、K0/KM及びKM−Khをそれぞれ算出し、表1に示した。
【0184】
(加傷後又は未加傷時の4点曲げ試験)
化学強化ガラスに対して、ダイヤモンド圧子(対面角の圧子角度:110°)を荷重0.5Kgf、1Kgf、1.5Kgf又は2Kgfとして15秒間押し当てることにより、ガラス表面を加傷した。次に、下スパン30mm、上スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で4点曲げ試験を行い、各加傷条件における破壊応力(MPa)を測定した。未加傷時、および各圧子圧入荷重時の4点曲げ試験を行った場合の破壊応力値(曲げ強度、単位:MPa)を表1に示す。
【0185】
(砂上落下試験)
また、化学強化ガラスについて、前述の試験方法により砂上落下試験を行い、平均割れ高さ(単位:mm)を測定した。結果を表4に示す。
【0186】
例16、18、21、22、24、25について、各例ともDOLが100μm以上であり、上記の砂上落下試験における平均割れ高さがすべて300mm以上であった。例26ではDOLが100μm以下であり、平均割れ高さが129mmであった。DOLが100μm以上であると、砂上落下試験耐性で強度向上できることを示しており、カバーガラスに必要な鋭角物加傷による破壊に対する強度向上が狙えることがわかる。
【0187】
(圧子圧入試験)
25mm×25mm×板厚0.8mmのサイズを有する化学強化ガラスに対して、対面角の圧子角度60度を有するダイヤモンド圧子を用いて、3〜10kgfの荷重を15秒間保持する圧子圧入試験により、化学強化ガラスを破壊させて、破壊後の化学強化ガラスの破砕数を計測した。これらの結果を表4に示す。
【0188】
【表4】
【0189】
図6に、荷重0.5Kgf又は1Kgfの条件で加傷した後の曲げ強度とCS
20の関係をプロットしたグラフを示す。また、
図7に、荷重0.5Kgf又は1Kgfの条件で加傷した後の曲げ強度とCS
40の関係をプロットしたものを示す。前述のように、これらの加傷後曲げ強度が200MPa以上であると、スマートフォンやタブレットPCのカバーガラスとして用いた場合の故障率を改善することができる。
図6及び
図7からもわかるように、ガラス表面から20〜40μmの深さの部分の圧縮応力値(CS
20〜CS
40)と加傷後曲げ強度の間には強い相関があり、ガラス表面から20〜40μmの深さの部分の圧縮応力値が高いほど、高い加傷後曲げ強度が得られる傾向にある。そして、CS
20やCS
40が60MPa以上であれば、200MPa以上の加傷後曲げ強度を達成できることがわかる。
【0190】
また、
図8に、NM/Nhと、CS
20又はCS
40との関係をプロットしたグラフを示す。これによれば、NM/Nhが大きくなるほどCS
20やCS
40が増大する傾向にあり、NM/Nhが1.8以上であれば、CS
20やCS
40を60MPa以上とすることができ、すなわち、200MPa以上の加傷後曲げ強度を達成できることがわかる。
【0191】
また、
図9に、N0/Nhと、CS
20又はCS
40との関係をプロットしたグラフを示す。これによれば、N0/Nhが大きくなるほどCS
20やCS
40が増大する傾向にあり、N0/Nhが0.8以上であれば、CS
20やCS
40を60MPa以上とすることができ、すなわち、200MPa以上の加傷後曲げ強度を達成できることがわかる。
【0192】
また、
図10に、N0/NMと、CS
20又はCS
40との関係をプロットしたグラフを示す。これによれば、N0/NMが大きくなるほどCS
20やCS
40が増大する傾向にあり、N0/NMが0.4以上であれば、CS
20やCS
40を60MPa以上とすることができ、すなわち、200MPa以上の加傷後曲げ強度を達成できることがわかる。
【0193】
また、例16、21及び22の化学強化ガラスは、KM/Khが3以上であり、カバーガラス強度確保の観点から必要とされる400MPa以上の曲げ強度を有していた。
【0194】
また、
図11に、NM−Nh(単位:wt%)と、CS
20又はCS
40との関係をプロットしたグラフを示す。これによれば、NM−Nhが大きくなるほどCS
20やCS
40が増大する傾向にあり、NM−Nhが2.2wt%以上であれば、CS
20やCS
40を60MPa以上とすることができ、すなわち、200MPa以上の加傷後曲げ強度を達成できることがわかる。
【0195】
また、
図12に、N0−Nhと、CS
20又はCS
40との関係をプロットしたグラフを示す。これによれば、N0−Nhが大きくなるほどCS
20やCS
40が増大する傾向にあり、N0−Nhが−0.4wt%以上であれば、CS
20やCS
40を60MPa以上とすることができ、すなわち、200MPa以上の加傷後曲げ強度を達成できることがわかる。
【0196】
また、
図13に、N0−NMと、CS
20又はCS
40との関係をプロットしたグラフを示す。これによれば、N0−NMが大きくなるほどCS
20やCS
40が増大する傾向にあり、N0−NMが−3.5wt%以上であれば、CS
20やCS
40を60MPa以上とすることができ、すなわち、200MPa以上の加傷後曲げ強度を達成できることがわかる。
【0197】
また、例16、21及び22の化学強化ガラスは、KM−Khが3wt%以上であり、カバーガラス強度信頼性確保の観点から必要とされる400MPa以上の曲げ強度を有していた。