特許第6892045号(P6892045)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892045
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】既設管路の浮上防止構造及び工法
(51)【国際特許分類】
   F16L 1/028 20060101AFI20210607BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20210607BHJP
   E02D 29/00 20060101ALI20210607BHJP
   E03F 3/06 20060101ALI20210607BHJP
   E03F 7/00 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   F16L1/028 F
   F16L1/028 J
   E02D3/12 101
   E02D29/00
   E03F3/06
   E03F7/00
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-286(P2015-286)
(22)【出願日】2015年1月5日
(65)【公開番号】特開2016-125601(P2016-125601A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年10月11日
【審判番号】不服2020-917(P2020-917/J1)
【審判請求日】2020年1月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、農林水産省、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504024597
【氏名又は名称】独立行政法人水資源機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000219358
【氏名又は名称】東亜グラウト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】特許業務法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有吉 充
(72)【発明者】
【氏名】毛利 栄征
(72)【発明者】
【氏名】宮川 賢治
(72)【発明者】
【氏名】井出 昌之
(72)【発明者】
【氏名】谷藤 政弘
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸吉
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
【合議体】
【審判長】 山崎 勝司
【審判官】 山田 裕介
【審判官】 槙原 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−275917(JP,A)
【文献】 特開平7−300851(JP,A)
【文献】 特開平7−286356(JP,A)
【文献】 特開2013−164103(JP,A)
【文献】 特開2008−232266(JP,A)
【文献】 特許第5515190(JP,B1)
【文献】 特開昭52−146913(JP,A)
【文献】 特開昭55−155832(JP,A)
【文献】 特開2015−209638(JP,A)
【文献】 特開2016−17341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 1/024, 1/038
E02B 9/06
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削された元の地盤に埋め戻された砂質土層を介して地中に敷設された既設管路の延長方向に沿って間隔を持った複数の位置に配置されると共に該既設管路を構成する管の上部に跨って配置された浮上防止部材を有し、
前記浮上防止部材は、前記既設管路を構成する管に於ける該既設管路の延長方向に対し交差する方向の両側であって夫々の側部に該管の中心から下部までの深い位置に配置されたグラウト材と共に硬化した土壌からなる塊と、前記管の上部に跨って配置されたグラウト材と共に硬化した土壌からなる塊と、を有し、前記管の夫々の側部に配置された塊が、前記管の上部に跨って配置された塊に接続していることで、該管の上部から両側部にかけて逆U字状に跨っていることを特徴とする既設管路の浮上防止構造。
【請求項2】
掘削された元の地盤に埋め戻された砂質土層を介して地中に敷設された既設管路の延長方向に沿って間隔を持った複数の位置で、開削することなく、
該既設管路の延長方向に対し交差する方向で該既設管路を構成する管の一方側の側部に向けて注入管を地上から地中に差し込んでグラウト材を注入することで該管の中心から下部までの深い位置にグラウト材によって連結した土壌からなる塊を形成し、
その後、注入管を引き抜いて該注入管を該既設管路の延長方向に対し交差する方向に該管の他方側の側部に対応する位置まで移動させて地上から地中に差し込んでグラウト材を注入することで該管の中心から下部までの深い位置にグラウト材によって連結した土壌からなる塊を形成し、
その後、注入管を引き抜いて該注入管を該既設管路を構成する管の上部に対応する位置まで移動させ地上から地中に差し込んでグラウト材を注入することで前記一方側の側部に形成された塊と他方側の側部に形成された塊の上部に接続し該管の上部に跨って形成されたグラウト材によって連結した土壌からなる塊によって該管の上部から両側部に跨って構成された逆U字状の浮上防止部材を構築し、
該浮上防止部材によって前記既設管路に作用する浮力に対抗して浮上を防止することを特徴とする既設管路の浮上防止工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に生じる虞のある既設管路の浮上を防止するための浮上防止構造と、その工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中には農業用水管路を含む多くの管路(既設管路)が敷設されている。例えば農業用水管路を敷設する場合、地盤を開削して管を連続させて敷設する開削工法を採用するのが一般的である。また、下水道管路を敷設する場合、開削工法が採用された時期もあったが、交通事情に悪影響を与えることが多いため、最近では地中を掘削しつつ管を連続させて敷設する推進工法を採用するのが一般的である。
【0003】
開削工法の場合、地盤に対し予め設定された深さの略V字状の溝を開削した後、底面に設置した枕に管を載置して連続させることで管路を構成し、その後、管路の周囲に山砂からなる砂質土層を形成することによって埋め戻すと共に砂質土層の上部を覆土している。このようにして敷設された既設管路では、砂質土層が既設管路に作用する縦荷重や横荷重に対する緩衝機能を発揮する。
【0004】
砂質土層では間隙率や透水係数が大きいのが一般的であり、砂粒間の間隙を間隙水が占めることとなる。そして、地震時の揺れに伴って緩い砂層が繰り返しせん断を受けるとその体積が縮小し、過剰間隙水圧が増加して地盤の液状化が生じる。即ち、開削工法を採用して敷設され、周囲に砂質土層が形成された既設管路では、地震時に砂質土層が液状化する虞があり、液状化に伴って生じた過剰間隙水圧による浮力が作用する。
【0005】
同様に、地震時に地盤の液状化が生じたとき、地中に敷設されたマンホールが浮上して地面から突出する現象が生じている。この現象は、前述したように、地盤の液状化に伴って過剰間隙水圧が増加し、マンホールに大きな浮力が作用することに起因している。
【0006】
マンホールの浮上を防止するために幾つかの工法が提案されているが、その中で、マンホールフランジ工法と呼ばれる工法がある。この工法は、マンホールの外壁に鋳鉄やコンクリート塊等からなる重量の大きいフランジを固定することで、見掛け上の比重を大きくするものである。このため、過剰間隙水圧、或いは地下水圧が上昇して浮力が作用した場合、マンホールの重量がこの浮力に対抗することによって浮上を防止することができる。
【0007】
上記マンホールフランジ工法の場合、マンホールを新設する際には、予め敷設すべきマンホールの外周に重量の大きいフランジを固定することができる。しかし、既に敷設されている既設マンホールに対応するには、該マンホールの周囲を開削することが必要であり、作業が簡単とはいえない。
【0008】
一方、宅地や道路を含む地盤の液状化を防ぐために、グラウト材を注入して土壌と共に硬化させる技術も存在している。この方法は、目的の地盤面の略全面にわたって、予め設定された深さにグラウト材を注入して、地盤中に間隙水を排除した適度な容積を有する塊を構成するものである。この技術では地震時にも土壌の連結が保持され、過剰間隙水圧が生じることがない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
地中に敷設され周囲に砂質土層が形成された既設管路の場合、地震時に生じた地盤の液状化に伴う過剰間隙水圧の増加による浮力が作用して浮上する虞がある。地中に敷設されている既設管路の浮上を防ぐ場合、既設管路に沿って開削した後、該既設管路の周囲の土壌を硬化させる方法や既設管路を構成する管に先端を地山に固着したアンカーを接続する方法、管に重量物を取り付ける方法、等がある。しかし、前記各方法は何れも既設管路に沿って開削することが必須であり、地上に於ける交通事情等に対し悪影響を及ぼす虞がある。
【0010】
また、上記グラウト材を注入して宅地や道路を含む地盤の液状化を防ぐ技術は、平面を対象とし複数の硬化したグラウト材からなる塊を平面的に並べて連続させるものであり、既設管路を対象とするものではない。
【0011】
このため、開削を必要とせずに既設管路の浮上を防ぐ構造と工法の開発が要求されているのが実情である。
【0012】
本発明の目的は、地中に敷設されている既設管路に対し、開削することなく浮上を防ぐ構造と工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本件発明者は、目的の既設管路の周囲に間隙水を保有した砂質土層が存在する場合、砂質土層の間隙水を排出して固定化することによって液状化を防ぐことで、該既設管路に対し浮力が作用することを防止できる、との観点から既設管路の浮上防止技術の開発を進めた。また、既設管路の上部に荷重を作用させることで、該既設管路の浮上を防止することができる、との観点からも既設管路の浮上防止技術の開発を進めた結果、以下の浮上防止構造と、その工法を発明した。
【0014】
即ち、本発明に係る既設管路の浮上防止構造は、掘削された元の地盤に埋め戻された砂質土層を介して地中に敷設された既設管路の延長方向に沿って間隔を持った複数の位置に配置されると共に該既設管路を構成する管の上部に跨って配置された浮上防止部材を有し、前記浮上防止部材は、前記既設管路を構成する管に於ける該既設管路の延長方向に対し交差する方向の両側であって夫々の側部に該管の中心から下部までの深い位置に配置されたグラウト材と共に硬化した土壌からなる塊と、前記管の上部に跨って配置されたグラウト材と共に硬化した土壌からなる塊と、を有し、前記管の夫々の側部に配置された塊が、前記管の上部に跨って配置された塊に接続していることで、該管の上部から両側部にかけて逆U字状に跨っていることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明に係る既設管路の浮上防止工法は、掘削された元の地盤に埋め戻された砂質土層を介して地中に敷設された既設管路の延長方向に沿って間隔を持った複数の位置で、開削することなく、該既設管路の延長方向に対し交差する方向で該既設管路を構成する管の一方側の側部に向けて注入管を地上から地中に差し込んでグラウト材を注入することで該管の中心から下部までの深い位置にグラウト材によって連結した土壌からなる塊を形成し、その後、注入管を引き抜いて該注入管を該既設管路の延長方向に対し交差する方向に該管の他方側の側部に対応する位置まで移動させて地上から地中に差し込んでグラウト材を注入することで該管の中心から下部までの深い位置にグラウト材によって連結した土壌からなる塊を形成し、その後、注入管を引き抜いて該注入管を該既設管路を構成する管の上部に対応する位置まで移動させ地上から地中に差し込んでグラウト材を注入することで前記一方側の側部に形成された塊と他方側の側部に形成された塊の上部に接続し該管の上部に跨って形成されたグラウト材によって連結した土壌からなる塊によって該管の上部から両側部に跨って構成された逆U字状の浮上防止部材を構築し、該浮上防止部材によって前記既設管路に作用する浮力に対抗して浮上を防止することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る既設管路の浮上防止構造(以下単に、「浮上防止構造」という)では、既設管路の延長方向に間隔を保持して構築した複数の浮上防止部材によって、既設管路の浮上を防ぐことができる。即ち、浮上防止部材は、グラウト材によって周囲の土壌を含んで硬化して構成されている。このため、土壌を構成する土粒間に存在した間隙水は硬化したグラウト材に置換されており、浮上防止部材はグラウト材と土壌とが一体化した構造体となる。従って、地震時に揺れが作用しても浮上防止部材が液状化することがなく、該浮上防止部材の周辺の砂質層が液状化したとしても、液状化部分の体積を軽減することができ、既設管路の浮上を防ぐことができる。
【0017】
また、グラウト材と土壌が一体的に硬化することによって、重量の大きい浮上防止部材を構築することができる。このため、地震時に、浮上防止部材の周囲に生じた地盤の液状化に伴って過剰間隙水圧が増加し、既設管路に浮力が作用した場合でも、この浮力に対抗することができる。
【0018】
浮上防止部材が、既設管路を構成する管の上部に構築されるため、該浮上防止部材の重量の略全てが既設管路に対する負荷となり、確実に浮力に対抗する荷重として作用することができる。
【0019】
特に、浮上防止部材が既設管路を構成する管の上部から両側部にかけて構築されている場合には、管の上部から両側部にかけて重量を作用させることが可能となり、より平均的な負荷をかけることができる。更に、構築された浮上防止部材に於ける管の両側部分が地山に接した場合、浮上防止部材を介して地山も接続されることとなり、作用する浮力に対しより確実に対抗することができる。
【0020】
また、浮上防止部材が既設管路を構成する管の上部から両側部に跨って構築されている場合には、地震時に横揺れが作用して浮上防止部材の管に対する付着が解除され、該浮上防止部材が管の外周面に沿ってずれた場合でも、該管の上部から離脱することがない。このため、確実に浮上防止部材の重量を既設管路に対する負荷とすることができ、該既設管路に作用する浮力に対抗することができる。
【0021】
また、浮上防止部材が、地上から注入されたグラウト材が既設管路の周囲の土壌と共に硬化した塊状に形成されることで、既設管路に沿って開削することなく浮上防止部材を構築することができる。特に、注入されたグラウト材が既設管路の上部から側部にかけて存在する土壌に於ける土粒間に浸透して間隙水と置換し、浸透した範囲の土壌を巻き込んで硬化することで塊状の浮上防止部材となる。
【0022】
このため、注入したグラウト材の量よりも充分に大量の土壌を硬化させることが可能となり、硬化した土壌の液状化を抑えることができる。また、注入したグラウト材の重量に既設管路の周囲にある土壌の重量を加えた重量を持った浮上防止部材とすることが可能であり、既設管路に対し大きい荷重を負担させることができる。
【0023】
本発明に係る浮上防止工法では、既設管路の延長方向に沿って間隔を保持した位置から、既設管路に向けて地上からグラウト材を注入して該既設管路を構成する管の上部から両側部にかけて又は跨って土壌を硬化させている。このため、既設管路を構成する管の上部及び両側部にかけて又は跨ってグラウト材と土壌からなる体積、重量共に大きい浮上防止部材を構築することができ、該浮上防止部材に対応する部分の土壌の液状化を抑えると共に、該既設管路に作用する浮力に対抗することができる。
【0024】
従って、グラウト材の量や既設管路の延長方向に於ける注入箇所、或いは既設管路を横断する方向に於ける注入箇所を適宜設定することで、該既設管路の周辺に於ける液状化を抑えることができる容積や、既設管路に対する荷重の大きさを調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】延長方向に間隔を持って浮上防止部材を構築した既設管路を説明する図である。
図2】非液状化地盤に開削工法で敷設された既設管路に構築した比較例に係る浮上防止部材の形状を説明する断面図である。
図3】非液状化地盤に開削工法で敷設された既設管路に構築した比較例に係る浮上防止部材の形状を説明する断面図である。
図4】非液状化地盤に開削工法で敷設された既設管路に構築した浮上防止部材の形状を説明する断面図であり、(a)は比較例を説明ずる図、(b)は本実施例を説明する図である。
図5】非液状化地盤に開削工法で敷設された既設管路に浮上防止部材を構築する工法を説明する図である。
図6】非液状化地盤に開削工法で敷設された既設管路に浮上防止部材を構築する工法を説明する図である。
図7】非液状化地盤に開削工法で敷設された既設管路に浮上防止部材を構築する際の方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る浮上防止構造に於いて、対象となる管路は既設管路であり、目的の既設管路が供用される目的を限定するものではなく、既設管路が如何なる地盤に敷設されているかを問題にしている。特に、本発明に係る浮上防止構造は、既設管路の周囲の土壌が砂質土層であり、地震時に液状化する虞のあるような既設管路に適用することが好ましい。
【0027】
例えば、目的の管路が開削工法によって敷設された管路である場合、該管路の周囲には山砂に代表される砂質土による埋め戻しが行われるため、効果的に対応することが可能である。また、目的の管路が非開削によって敷設された管路であっても、地盤に透水係数の大きい砂質土層が存在するような場合、好ましく対応することが可能である。
【0028】
また、既設管路の断面形状や太さも限定するものではなく、断面が四角形の管を連続させた管路や、円形の管を連続させた管路に適用することが可能である。例えば、既設管路を農業用水管路としたとき、直径が約250mm〜約3000mmのコンクリート管を接続して構成されている。既設管路を構成する各管の長さは直径及び管の材質や製法に応じて変化する。例えば、プレストレスコンクリート管の場合、最大で2400mm程度であり、レジンコンクリート管の場合、最大で5000mm程度に設定されている。
【0029】
更に、既設管路を構成する管の材質も限定するものではなく、コンクリート管を連続させた管路や塩化ビニル或いはポリエチレン等を含む合成樹脂管を連続させた管路、陶管を連続させた管路、鋼管を連続させた管路、等の管路に適用することが可能である。
【0030】
従って、本発明に係る浮上防止構造は、例えば、農業用水管路、下水道管路、通信ケーブル用の管路、ガス管路等の既設管路に適用することが可能である。
【0031】
既設管路の延長方向に複数の浮上防止部材を構築するに際し、隣接する浮上防止部材の間隔は限定するものではなく、浮上を防止すべき既設管路を構成する管の断面形状や太さ、長さ等の条件に対応させて適宜設定することが好ましい。しかし、隣接する浮上防止部材の間隔があまりに小さいと作業性を劣化させる虞があるため、適度な間隔で構築することが好ましい。
【0032】
既設管路の延長方向に構築した複数の浮上防止部材が互いに連続しているような場合、地震時に生じた過剰間隙水圧が連続した複数の浮上防止部材に作用することとなり、受圧面積が大きくなって、浮上防止効果を阻害する虞が生じることがある。このため、既設管路の延長方向に複数の浮上防止部材を構築する場合、これらの浮上防止部材を連続させることなく、互いに適度な間隔を保持させることが好ましい。
【0033】
浮上防止部材は、硬化したグラウト材と、該グラウト材によって硬化させられた土壌と、によって構成される。即ち、浮上防止部材は、目的の既設管路の周囲に存在する砂質土層からなる土壌や、地山を構成する土壌をグラウト材によって硬化させたものである。特に、土壌の間に存在している間隙水をグラウト材に置換させて硬化させることで、土壌を構成する土粒間の連結を保持した浮上防止部材を構成することが可能となる。
【0034】
このため、浮上防止部材は硬化したグラウト材によって連結された土壌からなり、間隙水を保有することのない塊として挙動することが可能となる。従って、浮上防止部材に地震時の揺れが作用しても過剰間隙水圧が生じることがなく液状化を防ぐことが可能となり、且つ既設管路に対する大きな負荷荷重として作用することが可能となる。そして、浮上防止部材が構成された部分以外の部分で過剰間隙水圧が上昇し、或いは地下水圧が上昇した場合でも、これらに対抗することが可能となる。
【0035】
特に、目的の既設管路が、非液状化地盤を開削して敷設され、開削した部分を山砂によって埋め戻されているような場合、浮上防止部材は埋め戻された砂質土層を横断して隣接する地山に接続するように構成されることが好ましい。このように構成された浮上防止部材では、既設管路に対する単なる負荷荷重として作用することなく、地山と接続したより強固な浮上防止機能を発揮することが可能となる。
【0036】
個々の浮上防止部材の体積を如何なる値に設定するかは限定するものではなく、目的の既設管路の周囲の土壌条件に応じて適宜設定することが好ましい。即ち、予め目的の既設管路の周囲の土壌に於ける透水係数や間隙率、N値等を計測しておき、この計測結果と、既設管路の太さ及び長さ(体積)等の条件から個々の浮上防止部材の体積や形状及び延長方向に対する設置数等を設定することが好ましい。
【0037】
また、個々の浮上防止部材の重量は、既設管路に作用することが想定される浮力や既設管路の重量等を含む条件に応じて設定することが好ましい。即ち、目的の既設管路に必要な全浮上防止部材の総重量を設定すると共に、既設管路の総延長から構築すべき浮上防止部材の数を設定し、その後、設定された総重量と浮上防止部材の数とによって、個々の浮上防止部材の重量を設定することが好ましい。
【0038】
浮上防止部材を構成する際に利用するグラウト材の材質は特に限定するものではなく、目的の既設管路の周辺の地盤の性状に対応させて選択して採用することが好ましい。例えば、浮上防止部材を構成するためのグラウト材としては、一液型のものや二液型のものがある。一液型のグラウト材としてはセメントミルクがあり、二液型のグラウト材としては水ガラス系溶液型のグラウト材、懸濁液型グラウト材等がある。
【0039】
浮上防止部材を構成する際に、グラウト材は地上から地中に敷設されている既設管路の上部に向けて差し込まれた注入管を通して地盤に注入される。このため、グラウト材は適度な流動性を有することが必要であり、地中に注入された後は速やかに土壌間の間隙に浸透し得る浸透性を有することが必要である。このようなグラウト材を地盤に注入して速やかに土壌中の空気や水と置換し、このグラウト材が硬化することで土壌と共に硬化した塊からなる浮上防止部材を構成することが可能となる。
【0040】
即ち、グラウト材としては、目的の既設管路の周辺の地盤に於ける透水係数や間隙率、N値等の条件に対応させて、硬化に要する時間(ゲルタイム)、流動性等が最適なものを選択することが好ましく、長期耐久性を有することが好ましい。特に、二液型のグラウト材の場合、二つの液の材質や混合比を適宜選択することによって、構成されたグラウト材のゲルタイムや流動性を調節することが可能であり、このようなグラウト材を地盤の条件に応じて適宜選択して用いることが好ましい。
【0041】
例えば、既設管路の周囲が透水係数の小さい(浸透性の悪い)土壌である場合、水ガラス系溶液型のグラウト材が好ましく用いられる。水ガラス系溶液型のグラウト材としては、「耐久グラウト注入工法施工指針」(発行者;一般社団法人日本グラウト協会、発行;平成24年3月、以下同じ)に分類されている水ガラス系溶液型の無機系グラウト材に属するアルカリ性グラウト材や中性・酸性グラウト材、特殊中性・酸性グラウト材や特殊シリカ(シリカコロイド)グラウト材、有機系グラウト材に属するアルカリ性グラウト材があり、何れも用いることが可能である。特に、特殊中性・酸性グラウト材や特殊シリカ(シリカコロイド)グラウト材の場合、長期間耐久性を保持し得るグラウト材として好ましく用いることが可能である。
【0042】
また、既設管路の周囲の土壌の透水係数が大きい(浸透性が良い)場合、懸濁液型のグラウト材が好ましく用いられる。懸濁液型のグラウト材としては、非水ガラス系グラウト材に属する超微粒子系グラウト材や特殊スラグ系グラウト材、水ガラス系グラウト材に属するアルカリ性グラウト材や中性・酸性グラウト材がある。特に、透水係数の小さい土壌に対する浸透性を考慮した場合、懸濁液型の非水ガラス系に属する特殊スラグ系であっても用いることが可能である。
【0043】
グラウト材のゲルタイムは目的の既設管路の周囲の土壌に於ける間隙率や透水係数等の条件に応じた、注入速度、注入時間(注入量)、構築すべき浮上防止部材の容積等の条件に対応させて適宜設定することが好ましい。しかし、ゲルタイムがあまりに短いと、注入の準備段階で、或いは予め設定された量の注入が終了する以前に硬化し始めることとなるため、必要な注入時間よりも充分大きいゲルタイム(例えば、注入時間が5分に設定されている場合、約10分以上のゲルタイム)を設定することが好ましい。
【0044】
グラウト材の吐出速度は特に限定するものではなく、注入すべき地盤の性状との関係で最適な吐出速度に設定することが好ましい。例えば、溶液型のグラウト材を砂質土層に注入する場合、吐出速度は毎分約2リットル〜約10リットル(l/min)程度であることが好ましく、約4l/min〜約6l/min程度であることがより好ましい。このとき吐出圧力は約0.1MPa程度であることが好ましい。
【0045】
グラウト材を注入する際に、吐出速度を略一定に保持した状態とすることが好ましい。しかし、グラウト材を注入すべき地盤の性状によっては脈注(変動吐出)することも効果的である。この脈注はグラウト材の吐出装置に於ける吐出速度の調整手段を意識的に操作して、吐出速度を変動させることで実施することが可能である。
【0046】
前述したように、浮上防止部材を既設管路の延長方向に構築するに際し、その位置は特に限定するものではないが、該既設管路を構成する管どうしの接続部位であることが好ましい。特に、目的の既設管路が農業用水管路である場合、該既設管路を構成する管どうしはボルト等を用いて剛的に接続されるものではなく、一方の管の端部を他方の管の端部に形成されたフランジ部分に止水パッキンを介して挿通することで接続されている。このため、接続された管どうしに異なる方向の力が作用すると、接続部分が抜けたり、折れ曲がるようなずれが生じることがある。しかし、管どうしの接続部位の上部に浮上防止部材を構築することで、抜けやずれが生じる虞を軽減することが可能である。
【0047】
既設管路に構築された浮上防止部材の形状は特に限定するものではなく、該既設管路を構成する管の断面形状や寸法に対応させて適宜設定することが好ましい。例えば、浮上防止部材の形状としては、管の上部に形成した球状の塊によって構成されていて良く、また、管の延長方向に対し交差する方向(以下「直径方向」という)或いは軸方向に形成した複数の球状の塊によって構成されていても良い。
【0048】
本発明に於いて、既設管路を構成する管の上部から両側部に跨って構築されている浮上防止部材とは、硬化したグラウト材によって連結された土壌からなる複数の塊が管の上部から直径方向の両側部に互いに接続した連続体として形成され、この1個の連続体からなる浮上防止部材をいうものとする(例えば図4(a)、(b)参照)。
【0049】
本件発明者等は、既設管路を構成する管として塩ビ管を土砂層に埋設し、この塩ビ管の上部に浮上防止部材を構築して加振実験を行った。
【0050】
塩ビ管の上部に構築した浮上防止部材は、1個の球状の塊(比較例図3(a)参照)からなるもの、塩ビ管の直径方向に複数の塊(図4(a)、(b)参照)を形成して接続させることで該塩ビ管の上部から両側部にかけて又は跨って構築されたものとした。各浮上防止部材は、管の軸方向に互いに離隔させて複数構築した場合(比較例図3(b)参照)と、塩ビ管の軸方向に連続させて複数構築した場合とした。また、夫々の浮上防止部材は、グラウト材と山砂とが一体的に硬化したものとし、塩ビ管の径と略同じ大きさとした。
【0051】
この実験の結果、加速度を増加させるのに伴って塩ビ管の浮上が生じるが、該塩ビ管の体積と浮上防止部材の体積、土砂層の飽和状態、の関係で浮上状態に差が生じることが判明した。例えば、土砂層が完全飽和の場合、塩ビ管の体積に対し浮上防止部材の体積が約2.5倍よりも大きいと浮上量に減少傾向が見える。また、土砂層が一部不飽和の場合、塩ビ管の体積に対し浮上防止部材の体積が約1.0倍よりも大きいと浮上量に減少傾向が見える。
【0052】
特に、浮上防止部材が塩ビ管の直径方向及び軸方向に連続して構築されているケースでは、加振に伴って浮上してしまうことが判明した。これは、浮上防止部材が塩ビ管の上部を覆って大きな受圧面を形成することになり、土砂層の液状化に伴って生じた過剰間隙水圧の作用によって浮上してしまうものと思われる。このため、浮上防止部材は既設管路の延長方向に間隔を保持して構築することが必要である。
【0053】
また、グラウト材の付着性が良好とはいえない塩ビ管やFRP管或いはレジンコンクリート管等の管の上部に形成された1個の塊からなる浮上防止部材を構築した場合でも、該管に対する負荷として充分に機能する。しかし、加振に伴って上部に構築されている浮上防止部材が脱落する虞があることが判明した。この実験の結果、既設管路を構成する管の直径が小さい場合(例えば1000mm程度よりも小さい場合)には、管の上部に1個の塊からなる浮上防止部材を構築することで良いが、直径が大きくなるのに伴って複数の塊からなる浮上防止部材を構築することが必要であることが判明した。
【0054】
浮上防止部材を形成する塊の数は限定するものではなく、2個〜5個程度で管の径や体積等の条件に応じて適宜設定することが好ましい。また、複数の塊を互いに連続させて管の上部から両側部に跨らせて構築して浮上防止部材としても良い。
【0055】
特に、管の上部に構築した浮上防止部材の該管上部からの脱落を防ぐためには、複数の塊を互いに接続させて管の上部から両側部に跨ってU字状又は馬蹄形状に付着した浮上防止部材を構築することが好ましい。このように、管の上部から両側部に跨って、複数の塊を互いに接続した1個の連続体からなる浮上防止部材を構築することで、浮上防止部材の重心の位置を下げることが可能となる。この結果、浮上防止部材の安定性が向上し、地震時に浮上防止部材が管の上部から脱落することを防ぐことが可能となる。
【0056】
しかし、グラウト材を注入する装置の構成によっては注入作業を複数回に分けて行わざるを得ないことがある。このような場合、注入されたグラウト材が完全に硬化するまでの間に新たな注入作業を行うことで、連続性を保持した複数の塊からなる浮上防止部材を構築することが好ましい。
【0057】
次に、図1図4を用いて本実施例に係る浮上防止構造、及び比較例に係る浮上防止構造について説明する。本実施例に係る既設管路Aは農業用水管路として利用されており、上流側に設けたダム或いは給水ポンプ等から供給された農業用水が加圧された状態で流通している。
【0058】
既設管路Aは、予め設定された深さと形状を持って掘削した溝に於ける元の地盤Bから上方に離隔した位置に敷設されている。敷設された既設管路Aの周囲には砂質土層Cが形成されており、更に砂質土層Cの上部には覆土層Dが形成されている。
【0059】
既設管路Aの敷設深さは限定されるものではないが、農業用水管路の場合、該管路の頂点が地表面(G.L.)から約1m〜約2m程度の深さになるように敷設されるのが一般的である。また、砂質土層Cの土質は特に限定されないが、本実施例では、細粒分含有率が約15%以下で、締固め度(D値)が85%〜95%程度、間隙率が約45%〜約55%程度、透水係数が1×10−2cm/sec〜1×10−4cm/sec程度である。
【0060】
既設管路Aは、コンクリート管からなる複数の管1を長手方向に接続して構成されており、各管1どうしの接続部1aの上部に浮上防止部材2が構築されている。尚、浮上防止部材2は必ずしも管1どうしの接続部1aの上部に構築される必要はなく、管1の長手方向の上部に間隔を持って構築されていれば良い。
【0061】
浮上防止部材2は、前述したように注入されたグラウト材によって、注入部分に於ける砂質土層Cに存在する間隙水を排除して置換され、注入されたグラウト材に設定されたゲルタイムの経過に伴って硬化して土壌の連結を保持している。このため、浮上防止部材2には間隙水が存在せず、或いは存在したとしても僅かな量であり、一つの塊として挙動することが可能である。
【0062】
浮上防止部材2の数、個々の浮上防止部材2の容積、重量は、予め計測した砂質土層Cの土質や管1の直径等の条件に対応させて適宜設定される。例えば比較例では、図2に示すように、浮上防止部材2は、管1の上部から直径方向の両側部にかけて、互いに独立して形成された2個の塊によって構築されている。
【0063】
浮上防止部材2が注入されたグラウト材によって砂質土層Cを構成する土壌を砂粒の間隔を保持して硬化することで、砂質土層Cに生じる液状化を部分的に防ぐことが可能である。このため、浮上防止部材2が既設管路Aを構成する管1に対して付着することは必ずしも必要ではない。しかし、浮上防止部材2が管1の外周面に付着することで、確実に負荷荷重として機能することが可能であり、砂質土層Cの液状化に伴って過剰間隙水圧が上昇して浮力が作用したとき、この浮力に対抗することが可能である。
【0064】
尚、比較例のように、管1の上部に構築する浮上防止部材2は、図2に示すように、既設管路Aを構成する管1の上部から両側部にかけて間隔を設けて互いに独立した2個の塊によって構築か、図3(a)に示すように、管1の直径に対応させて管1の上部に1個の塊からなる浮上防止部材2を構築している。
【0065】
また、同図(b)に示すように、管1の上部から両側部にかけて僅かな間隔を設けて互いに独立した2個の塊からなる浮上防止部材2を構築する場合もある。
【0066】
また、図4(a)に示す比較例のように、管1の上部から両側部に跨って互いに連続した2個の塊からなる浮上防止部材2を構築しても良い。この場合、構築された浮上防止部材2は、管1の上部から両側部に跨って該管1の外周面に対し略半円状又はU字状に付着することになる。
【0067】
本実施例では、管1の上部から両側部に跨って、互いに連続させた3個の塊からなる浮上防止部材2を構築している。図4(b)に示すように、管1の両側部の深い位置に夫々塊を構築すると共に、これらの塊の上部に連続させ且つ互いに連続した合計4個の塊からなる管1の上部から両側部に跨った浮上防止部材2を構築している。この場合、構築された浮上防止部材2は、管1の上部から両側部に跨って外周面に対しU字状に或いは馬蹄形状に付着することになる。
【0068】
前述したように、管1の上部から両側部にかけて又は上部から両側部に跨って幾つの塊からなる浮上防止部材2を構築するかは、管1の直径に対応させて適宜設定することが好ましい。
【0069】
上記したように構築された浮上防止部材2では、何れも砂質土層Cに生じる液状化を部分的に防ぐことが可能であり、且つ既設管路Aに浮力が作用したとき、この浮力に対抗することが可能である。
【0070】
特に、管1の上部に複数の塊からなる浮上防止部材2を構築したとき、構築された浮上防止部材2の既設管路Aを横断する方向の端部を元の地盤Bに接続させることが好ましい。浮上防止部材2をこのように構築することで、既設管路A、砂質土層Cを挟んで元の地盤Bどうしを架橋することが可能となり、砂土層Cに生じる虞のある液状化を防ぐと共に作用する浮力に対抗することが可能である。
【0071】
次に、本実施例に係る既設管路の浮上防止工法について図5図7を用いて説明する。本実施例に係る浮上防止工法は、地中に敷設された既設管路Aの延長方向に間隔を持った複数の位置から管1の上部に向けてグラウト材を注入し、該グラウト材が砂質土層Cを構成する土壌と共に硬化することで浮上防止部材2を構築するものである。
【0072】
浮上防止を目的とする既設管路Aの敷設後の経過年数を問うものではないため、既設管路Aを敷設した時の敷設図と現状とが一致している保証はない。従って、浮上防止工法を実施するに際し、予め目的の既設管路Aの現在位置を認識することが必要となる。
【0073】
既設管路の現在の敷設位置を認識する方法は限定するものではなく、既設管路の内部に発振器を搭載した台車を走行させつつ該発振器から電波を発射し、発射された電波を地上で受信することで敷設位置を認識することが可能である。この方法では、既設管路の敷設経路を認識することが可能である。また、地上から地中に向けて電波を発射し、既設管路から反射された電波を受信して該既設管路が敷設されている経路と深さを認識することも可能である。
【0074】
上記の如くして目的の既設管路Aの位置を認識した後、該既設管路Aを構成する管1どうしの接続部1aの位置にグラウト材の注入装置Eを設置してグラウト材を注入することで、浮上防止部材2を構築する。本実施例では、溶液型のグラウト材であるパーマロック(登録商標)を用いており、このグラウト材を毎分約4リットル(l)〜約6lの吐出速度で注入している。
【0075】
注入装置Eは、ロッド11を回転させ、該ロッド11から水を吐出しつつ地盤中を削孔し、所定の深さまで削孔した後、グラウト材を注入し得るように構成されている。特に、グラウト材を注入する際に、吐出圧を所望の大きさに設定し、且つ経時的に変動させることが可能なように構成されている。このため、注入装置Eは、フレーム12と、フレーム12に起立して設けられロッド11を把持して回転させると共に推進する回転推進機構13と、フレーム12に設けられ回転推進機構13を介してロッド11を回転推進する駆動モータ14と、を有して構成されている。
【0076】
ロッド11には図示しないスイベルジョイントを介してホース15が接続され、該ホース15を水の供給装置、或いはグラウト材の供給装置に接続することで、ロッド11から水或いはグラウト材を吐出し得るように構成されている。
【0077】
先ず、図5(a)に示すように、注入装置Eを既設管路Aの上部で且つロッド11が管1の上部に形成すべき浮上防止部材2に対応するように配置する。このとき、ロッド11の延長線と管1との位置関係は、管1の上部に如何なる形状の浮上防止部材2を構築するか、に応じて設定される。
【0078】
また、図4(a)に示すように管1の上部に2個の塊からなる浮上防止部材2を構築する場合であって、図7に示すように、管1の径をDとし、浮上防止部材2の径をDに近似した値に設定する場合、ロッド11の延長線が管1の中心から約0.4D或いは0.5Dの位置にあるように設定する。
【0079】
そして、上記の如くしてロッド11の位置を設定した状態でフレーム12を地面に固定することで、注入部材Eを設置する。その後、ロッド11から水を吐出させつつ、駆動モータ14によってロッド11を回転させると共に推進して削孔する。ロッド11の先端が予め設定された削孔深さ(図7に示すように、ロッド11の先端が管1から、D/5程度離隔し得る深さ)に到達したとき、該ロッド11に対する水の供給を停止する。
【0080】
そして、ホース15をグラウト材の供給装置と接続する。グラウト材の供給装置には、予めゲルタイムが調整された溶液型のグラウト材が貯蔵されており、図5(b)に示すように、ロッド11の先端からグラウト材を吐出する。吐出されたグラウト材は砂質土層Cに存在する間隙水を排除しつつ砂粒間に浸透する。
【0081】
砂質土層Cに対しグラウト材を注入する際に、先ず、ロッド11から高い吐出圧でグラウト材を吐出することで、砂質土層Cに存在する間隙水を一気に排除し、土壌間に深くグラウト材を浸透させる。砂質土層Cに存在する間隙水が排除されることで、グラウト材の吐出圧が低下し、大量のグラウト材が砂質土層Cに注入され、排除された間隙水と置換される。このような砂質土層Cに対するグラウト材の注入(脈注)を繰り返すことで浮上防止部材2を構築することが可能である。
【0082】
図6(a)に示すように、ロッド11からのグラウト材の脈注を行いつつ、該ロッド11を徐々に引き上げることで、グラウト材の砂質土層Cに対する浸透部分及び置換部分を成長させる。次いで、図6(b)に示すように、砂質土層Cに予め設定された量をグラウト材を注入した後、ロッド11からのグラウト材の吐出を停止させて引き抜く。
【0083】
管1の上部に注入されて、砂質土層Cに存在した間隙水と置換した、及び砂質土層Cに浸透した、グラウト材は予め設定されたゲルタイムの経過に伴って硬化する。従って、砂質土層Cの間隙に浸透して硬化したグラウト材によって土壌が拘束され、硬化したグラウト材と、このグラウト材と共に硬化した土壌と、からなる浮上防止部材2が構築される。
【0084】
上記の如く、砂質土層Cに対しグラウト材を脈注することによって、各図に示すように、複数の突起を有するいがぐり状の塊からなる浮上防止部材2が構築される。
【0085】
次いで、注入装置Eを次に浮上防止部材2を構築すべき位置に移動させて上記と同様の手順で新たな浮上防止部材2を構築する。
【0086】
図7は、本実施例に係る管1の上部に2個の連続した塊からなる浮上防止部材2を構築した図である。この例では、砂質土層Cは山砂からなり、間隙率45%、透水係数1×10−3cm/secであり、管1の直径Dは約1mである。この管1の上部に径Dが管1と同じ2個の球状の浮上防止部材2を連続させて構築した。但し、浮上防止部材2の形状は球を目標とするものの、扁平な形状となっており、径Dは近似値であった。また、グラウト材を注入するためのロッド11は二重管ロッドであり、外管の直径が約40mm、内管の直径が約15mmである。
【0087】
先ず、最初にグラウト材を注入する際のロッド11の先端と管1の間隔は約D/5(約200mm)に設定し、ロッド11の延長線と管1の中心線との距離を約0.4D〜約0.5Dに設定した。但し、ロッド11の先端部分は地中にあり目視し得ないため、前記数値はおおよその目安であることは当然である。
【0088】
グラウト材は予めゲルタイムが60minに調整されており、このグラウト材を約4l/min〜約8l/minで約5min注入した。グラウト材の注入の進行に伴ってロッド11を引き抜き、注入終了時のロッド11の先端が管1から約D/2(約500mm)とした。
【0089】
その結果、ロッド11の延長線と管1の中心線との距離を約0.5Dに設定したときは、図4(a)に示すように、連続した2個の塊からなる浮上防止部材2を構築することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、地中に敷設された下水管路を含む、内部に比較的大きい空間を有する既設管路や、見掛け比重の小さい既設管路に利用して有利である。
【符号の説明】
【0091】
A 既設管路
B 元の地盤
C 砂質土層
D 覆土層
E 注入装置
1 管
1a 接続部
2 浮上防止部材
11 ロッド
12 フレーム
13 回転推進機構
14 駆動モータ
15 ホース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7