特許第6892152号(P6892152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6892152コーティング液、コーティング液の製造方法、および水素ガス感応性膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892152
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】コーティング液、コーティング液の製造方法、および水素ガス感応性膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/652 20060101AFI20210614BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20210614BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20210614BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20210614BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20210614BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   B01J23/652 M
   B01J37/16
   B01J37/04 102
   C09D7/20
   C09D7/61
   C09D1/00
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-550955(P2019-550955)
(86)(22)【出願日】2018年10月9日
(86)【国際出願番号】JP2018037594
(87)【国際公開番号】WO2019087704
(87)【国際公開日】20190509
【審査請求日】2020年5月28日
(31)【優先権主張番号】特願2017-214051(P2017-214051)
(32)【優先日】2017年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西澤 かおり
(72)【発明者】
【氏名】山田 保誠
(72)【発明者】
【氏名】吉村 和記
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−161507(JP,A)
【文献】 特開2007−170946(JP,A)
【文献】 特開2017−161272(JP,A)
【文献】 特開2003−329592(JP,A)
【文献】 特開2010−018503(JP,A)
【文献】 久保慧輔 他,光照射を用いたゾルゲル法によるPd添加WO3膜の低温成膜と水素感応性,日本セラミックス協会2016年年会講演予稿集,Vol. 2016th,日本,公益社団法人日本セラミックス協会,2016年03月01日,1P153
【文献】 NISHIZAWA, K. et al. ,Low-temperature chemical fabrication of Pt-WO3 gaschromic switchable films using UV irradiation,Sol. Energy Mater Sol. Cells,NL,Elsevier B.V.,2017年05月29日,Vol. 170,pp. 21-26,DOI: 10.1016/j.solmat.2017.05.058
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
G01N 31/00
G01N 27/12
C09D 1/00
C09D 7/20
C09D 7/61
Scopus
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス感応性膜作製用のコーティング液であり、
塩化タングステンと、
前記塩化タングステンを溶解する炭素数1〜4の一価のアルコールと、
還元されることによって水素ガスに対する感応性を有する金属触媒となる二価の白金族金属の化合物とを含み、
前記白金族金属の化合物が、二塩化パラジウム(PdCl)、及び二塩化白金(PtCl)からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とするコーティング液。
【請求項2】
塩化タングステンと、
前記塩化タングステンを溶解する炭素数1〜4の一価のアルコールと、
還元されることによって水素ガスに対する感応性を有する金属触媒となる二価の白金族金属の化合物とのみを含むことを特徴とするコーティング液。
【請求項3】
前記白金族金属の化合物が、パラジウム化合物、白金化合物、及びパラジウム白金合金化合物からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項2に記載のコーティング液。
【請求項4】
前記白金族金属の化合物が、二塩化パラジウム(PdCl)、及び二塩化白金(PtCl)からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項2に記載のコーティング液。
【請求項5】
前記金属触媒を担持した酸化タングステン膜の成膜に用いることを特徴とする請求項1に記載のコーティング液。
【請求項6】
塩化タングステンと、前記塩化タングステンを溶解する炭素数1〜4の一価のアルコールとを混ぜて、酸化タングステンの前駆体溶液を調製し、
還元されることによって水素ガスに対する感応性を有する金属触媒となる二価の白金族金属の化合物を前記前駆体溶液に溶解して、水素ガス感応性膜作製用のコーティング液を調製するコーティング液の製造方法であって、
前記白金族金属の化合物が、二塩化パラジウム(PdCl)、及び二塩化白金(PtCl)からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とするコーティング液の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のコーティング液を基材に塗布して塗布膜を形成し、前記塗布膜を大気中、室温以上150℃以下で乾燥することによって、前記二価の白金族金属イオンを還元してなる前記金属触媒を担持した酸化タングステン膜を成膜する水素ガス感応性膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス感応性膜を製造するためのコーティング液、コーティング液の製造方法、および水素ガス感応性膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属触媒を担持させた酸化タングステンからなる水素ガス感応性膜が開発されている。水素ガス感応性膜は、水素ガスに晒されることにより透過率が低くなり、大気に晒されることにより透過率が高くなる。水素ガス感応性膜の用途は、例えば、水素ガス可視化シート、水素ガスセンサー、水素ガス感応性スマートウインドウ等である。
【0003】
水素ガス感応性膜の製造方法としては、物理蒸着法の1つであるスパッタリング法等が多く提案されているが、より安価な湿式法も提案されている。
【0004】
しかし、湿式法では多くの場合、水素ガス感応性膜の前駆体溶液を基板に塗布した後、これを高温で焼成処理する工程を必要とする為、耐熱性の低い基板を用いることが困難であるという問題点も指摘される(特許文献1〜5参照)。
【0005】
そこで、焼成処理の代わりに紫外線を照射するプロセスも報告されているが、その際には、ホルムアルデヒド、水素等の還元性のある有害ガス、可燃性ガスに晒しながら紫外線照射しなければならなかった(特許文献6〜8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2003-329592号公報
【特許文献2】日本国特開2003-166938号公報
【特許文献3】日本国特開2005−345338号公報
【特許文献4】日本国特開2005−331364号公報
【特許文献5】日本国特開2007−71866号公報
【特許文献6】日本国特開2010−2346号公報
【特許文献7】国際公開第2009/154216号
【特許文献8】日本国特開2016−161507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、基材にコーティング液を塗布し、その塗布膜を乾燥させて、水素ガスに対する感応性を有する金属触媒を含む膜を作製する過程において、有害ガスや可燃性ガスを使うことなく、コーティング液中の金属イオンを大気中、室温以上150℃以下の温度で還元させて金属触媒とすることができる、コーティング液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔1〕本発明の一態様によるコーティング液は、
水素ガス感応性膜作製用のコーティング液であり、
塩化タングステンと、
前記塩化タングステンを溶解する炭素数1〜4の一価のアルコールと、
還元されることによって水素ガスに対する感応性を有する金属触媒となる二価の白金族金属の化合物とを含み、
前記白金族金属の化合物が、二塩化パラジウム(PdCl)、及び二塩化白金(PtCl)からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする。
【0009】
〔2〕本発明の別の一態様によるコーティング液は、
塩化タングステンと、
前記塩化タングステンを溶解する炭素数1〜4の一価のアルコールと、
還元されることによって水素ガスに対する感応性を有する金属触媒となる二価の白金族金属の化合物とのみを含むことを特徴とする。
【0010】
〔3〕前記白金族金属の化合物が、パラジウム化合物、白金化合物、及びパラジウム白金合金化合物からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする。
【0011】
〔4〕前記白金族金属の化合物が、二塩化パラジウム(PdCl)、及び二塩化白金(PtCl)からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする。
【0012】
〔5〕前記金属触媒を担持した酸化タングステン膜の成膜に用いることを特徴とする。
【0013】
〔6〕本発明の一態様によるコーティング液の製造方法は、
塩化タングステンと、前記塩化タングステンを溶解する炭素数1〜4の一価のアルコールとを混ぜて、酸化タングステンの前駆体溶液を調製し、
還元されることによって水素ガスに対する感応性を有する金属触媒となる二価の白金族金属の化合物を前記前駆体溶液に溶解して、水素ガス感応性膜作製用のコーティング液を調製するコーティング液の製造方法であって、
前記白金族金属の化合物が、二塩化パラジウム(PdCl)、及び二塩化白金(PtCl)からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする。
【0014】
〔7〕本発明の一態様による水素ガス感応性膜の製造方法は、
上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1つに記載のコーティング液を基材に塗布して塗布膜を形成し、前記塗布膜を大気中、室温以上150℃以下で乾燥することによって、前記二価の白金族金属イオンを還元してなる前記金属触媒を担持した酸化タングステン膜を成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、基材にコーティング液を塗布し、その塗布膜を乾燥させて、水素ガスに対する感応性を有する金属触媒を含む膜を作製する過程において、有害ガスや可燃性ガスを使うことなく、コーティング液中の金属イオンを大気中、室温以上150℃以下の温度で還元させて金属触媒とすることができる、コーティング液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施形態によるコーティング液の製造方法を示すフローチャートである。
図2図2は、水素ガス感応性膜の応答性を測定する測定装置を示す図である。
図3図3は、実施例1−1による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。
図4図4は、図3に破線で囲む領域Aの拡大図である。
図5図5は、実施例1−2による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。
図6図6は、図5に破線で囲む領域Aの拡大図である。
図7図7は、実施例1−3による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。
図8図8は、図7に破線で囲む領域Aの拡大図である。
図9図9は、実施例1−4による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。
図10図10は、図9に破線で囲む領域Aの拡大図である。
図11図11は、実施例2−1による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。
図12図12は、図11に破線で囲む領域Aの拡大図である。
図13図13は、実施例2−2による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。
図14図14は、図13に破線で囲む領域Aの拡大図である。
図15図15は、実施例2−3による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。
図16図16は、図15に破線で囲む領域Aの拡大図である。
図17図17は、実施例3による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。
図18図18は、図17に破線で囲む領域Aの拡大図である。
図19図19は、比較例1−1によるコーティング膜の応答性を示すグラフである。
図20図20は、比較例1−2によるコーティング膜の応答性を示すグラフである。
図21図21は、比較例1−3によるコーティング膜の応答性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
本実施形態によるコーティング液は、(1)塩化タングステンと、(2)塩化タングステンを溶解する炭素数1〜4の一価のアルコールと、(3)還元されることによって水素ガスに対する感応性を有する金属触媒となる二価の白金族金属の化合物とを含む。尚、コーティング液は、上記(1)〜(3)以外の成分をさらに含んでもよく、例えば還元性を有するカルボン酸をさらに含んでもよい。カルボン酸は、上記(2)のアルコールに溶解されるものである。
【0019】
本実施形態のコーティング液を基材へ塗布して塗布膜を形成し、塗布膜を大気中、室温以上150℃以下で乾燥することにより、二価の白金族金属イオンをゼロ価の白金族金属に還元してなる金属触媒を担持した酸化タングステン膜が成膜される。本実施形態の塗布膜の乾燥は、有害ガスや可燃性ガスに晒しながら行うことは不要であり、大気中で行うことができる。これは、六塩化タングステンとアルコールとの反応によって六価のタングステンイオンの他に五価のタングステンイオンが生じ、その後、二価の白金族金属の化合物が添加されると、五価のタングステンイオンが酸化され六価のタングステンイオンに戻り安定化すると共に二価の白金族金属イオンが還元されてゼロ価の白金族金属になるためと推定される。また、二価の白金族金属イオンは三価以上の白金族金属イオンに比べて還元されやすいため、二価の白金族金属イオンの還元にアルコールが関与している可能性もある。尚、コーティング液がカルボン酸を含む場合、塗布膜の乾燥中にカルボン酸が二価の白金族金属イオンの還元を促進することができる。
【0020】
金属触媒を担持した酸化タングステン膜は、水素ガス感応性膜として用いられる。水素ガス感応性膜は、水素ガスに晒されることにより透過率が低くなり、大気に晒されることにより透過率が高くなる。水素ガス感応性膜の用途は、例えば、水素ガス可視化シート、水素ガスセンサー、水素ガス感応性スマートウインドウ等である。
【0021】
水素ガス感応性膜は、二価の白金族金属イオンの還元反応の際に塗布膜の内部で発生する炭酸ガスによって多孔質化されてもよい。炭酸ガスは、コーティング液がカルボン酸を含む場合に、カルボン酸が塗布膜の乾燥中に酸化されることにより発生する。多孔質化された水素ガス感応性膜は、良好な通気性を有し、周辺雰囲気に対し良好な感応性を有する。
【0022】
図1は、一実施形態によるコーティング液の製造方法を示すフローチャートである。尚、コーティング液の製造方法は、図1の順序に限定されない。例えば、塩化タングステン、二価の白金族金属の化合物、およびカルボン酸を混ぜた混合粉末に対して、アルコールを加えてもよい。また、図1のステップS12は無くてもよく、図1のステップS11のみによって酸化タングステンの前駆体溶液を調製してもよい。つまり、酸化タングステンの前駆体溶液は、塩化タングステンおよびアルコールのみを混ぜて調製されてもよい。
【0023】
先ず、図1のステップS11において、塩化タングステンと、塩化タングステンを溶解する炭素数1〜4の一価のアルコールとを混ぜて、タングステン溶液を調製する。その調製方法としては、例えば特許文献8に記載の方法が用いられる。塩化タングステンは、特に限定されないが、例えば六塩化タングステン(WCl)である。炭素数1〜4の一価のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコールなどが挙げられる。複数種類のアルコールを組合わせて用いてもよい。六塩化タングステン(WCl)とアルコール(ROH)とが反応すると、W(OR)Cl6-xが形成される。
【0024】
次いで、図1のステップS12において、タングステン溶液にカルボン酸を添加して、酸化タングステンの前駆体溶液(以下、単に「前駆体溶液」とも呼ぶ。)を調製する。酸化タングステンは、特に限定されないが、例えば三酸化タングステン(WO)である。
【0025】
カルボン酸は、前駆体溶液に対し後で添加する金属触媒の原料に含まれる二価の白金族金属イオンに対する還元性を有し、後に行われる成膜の際に、二価の白金族金属イオンをゼロ価の白金族金属に還元する。また、この還元反応に伴いカルボン酸が酸化されて炭酸ガスが発生し、多孔質な水素ガス感応性膜が得られる。カルボン酸は、前駆体溶液中においてタングステンとキレート構造を作るため、酸化タングステンの前駆体を安定化させる役割も期待できる。
【0026】
還元性を有するカルボン酸としては、シュウ酸、ギ酸、クエン酸、アスコルビン酸等が使用可能である。カルボン酸の分子量が大きいほど、成膜後の水素ガス感応性膜の膜中に炭素分が残存しやすくなるため、分子量が小さいシュウ酸、ギ酸が好適である。その中でも、取扱の容易さからシュウ酸がより好適である。
【0027】
シュウ酸はシュウ酸・無水物とシュウ酸・二水和物が市販品として入手可能であり、どちらを使用することも可能であるが、シュウ酸・無水物を利用する方が、前駆体溶液の安定性が向上する点で好ましい。
【0028】
カルボン酸の添加量は、多すぎても少なすぎても前駆体溶液の安定性や成膜後の水素ガス感応性膜の水素感応特性に悪影響を与える。タングステン溶液中のタングステン量に対するカルボン酸の添加量は、モル比(カルボン酸/タングステン)で1/5〜2/5が好適であり、1/5がより好適である。
【0029】
カルボン酸のタングステン溶液への添加は、室温下で行うことができ、また、特別な雰囲気制御も必要なく大気中で行うことができる。大気中室温下で、カルボン酸をタングステン溶液に溶解させることができる。
【0030】
次いで、図1のステップS13において、前駆体溶液に金属触媒の原料である二価の白金族金属の化合物を添加して、コーティング液を調製する。白金族金属の化合物は、前駆体溶液に溶解するものであればよく、例えばパラジウム化合物、白金化合物、及びパラジウム白金合金化合物からなる群より選ばれた1種以上である。パラジウム化合物、白金化合物、及びパラジウム白金合金化合物からなる群より選ばれた2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
パラジウム化合物としては、タングステン溶液、または酸化タングステンの前駆体溶液に容易に溶解できるものであれば良いが、入手しやすく、かつ、大気中、室温以上150℃以下でパラジウムイオンを効果的に還元するために、分子量が小さいものが好ましく、また、価数が小さいものが好ましい。特に好適なものとして、二塩化パラジウム(PdCl)が例示される。
【0032】
白金化合物としては、タングステン溶液、または酸化タングステンの前駆体溶液に容易に溶解できるものであれば良いが、入手しやすく、かつ、大気中、室温以上150℃以下で白金イオンを効果的に還元するために、分子量が小さいものが好ましく、また、価数が小さいものが好ましい。特に好適なものとして、二塩化白金(PtCl)が例示される。
【0033】
金属触媒の原料の添加量が多すぎると、金属触媒の原料が前駆体溶液に完全に溶解することができないだけでなく、還元により析出する金属量が多くなるため水素ガス感応性膜の透明度が低下する。一方、金属触媒の原料の添加量が少なすぎると、成膜後の水素ガス感応性膜の水素感応特性が低下する。前駆体溶液中のタングステン量に対する金属触媒の原料の添加量は、モル比(白金族金属/タングステン)で1/10〜1/50が好適であり、1/50がより好適である。
【0034】
金属触媒の原料の前駆体溶液への添加は、室温下で行うことができ、また、特別な雰囲気制御も必要なく大気中で行うことができる。大気中室温下で、金属触媒の原料を前駆体溶液に溶解させることができる。
【0035】
図1のステップS13により調製されたコーティング液は、より長く安定な状態を保つために、乾燥雰囲気下、遮光された空間で保管することが望ましい。
【0036】
調製されたコーティング液を基材へ塗布して塗布膜を形成する。塗布の方法としては、粘性の低い溶液を均一に塗布できる方法、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法などを適用することができ、用いる基材の材質、大きさ、厚み等に応じて適宜選択することができる。
【0037】
調製されたコーティング液を基材へ塗布して塗布膜を形成し、塗布膜を大気中、室温以上150℃以下で乾燥することにより、二価の白金族金属イオンをゼロ価の白金族金属に還元してなる金属触媒を担持した酸化タングステン膜が成膜される。本実施形態の塗布膜の乾燥は、有害ガスや可燃性ガスに晒しながら行うことは不要であり、大気中で行うことができる。また、本実施形態の塗布膜の乾燥は、室温(例えば10℃以上35°以下)で行うことができる。
【0038】
二価の白金族金属イオンの還元反応を促進するため、塗布膜の乾燥温度は好ましくは50℃以上100℃以下である。塗布膜の乾燥温度が100℃以下であれば、コーティング液を塗布する基材として、ガラス基板の他に、樹脂基板等も使用できる。樹脂基板は、耐アルコール性および耐酸性を有する樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等で形成される。基材は、透明なものであることが好ましい。コーティング液を塗布する基材の厚みや大きさは、水素ガス感応性膜の用途やコーティング液の塗布法などに応じて適宜選択され、特に限定されない。
【0039】
二価の白金族金属イオンの還元反応を促進するため、塗布膜の乾燥時に紫外線照射が行われてもよい。紫外線の波長は、例えば200nm〜380nmである。紫外線照射が行われる場合、塗布膜の乾燥温度は室温でもよい。
【0040】
金属触媒を担持した酸化タングステン膜は、水素ガス感応性膜として用いられる。水素ガス感応性膜は、水素ガスに晒されることにより透過率が低くなり、大気に晒されることにより透過率が高くなる。
【0041】
水素ガス感応性膜は、コーティング液の塗布および塗布膜の乾燥を1回のみ行って形成されてもよいし、コーティング液の塗布および塗布膜の乾燥を複数回繰り返して形成されてもよい。後者の場合、複数の酸化タングステン膜で水素ガス感応性膜が構成される。水素ガス感応性膜の膜厚は、用途などに応じて適宜選択される。
【0042】
水素ガス感応性膜は、二価の白金族金属イオンの還元反応の際に塗布膜の内部で発生する炭酸ガスによって多孔質化されてもよい。炭酸ガスは、コーティング液がカルボン酸を含む場合に、カルボン酸が塗布膜の乾燥中に酸化されることにより発生する。多孔質化された水素ガス感応性膜は、良好な通気性を有し、周辺雰囲気に対し良好な感応性を有する。
【実施例】
【0043】
以下、コーティング液、コーティング液の製造方法、および水素ガス感応性膜の製造方法の具体例について説明する。また、得られた水素ガス感応性膜の応答性の評価結果について説明する。
【0044】
〔実施例1−1〕
先ず、特許文献8記載の方法に従い、氷冷、乾燥窒素雰囲気下で、六塩化タングステン(WCl)に超脱水エタノールと超脱水イソプロピルアルコールを加え、その後、室温下で撹拌を続け、酸化タングステンの前駆体溶液を得た。前駆体溶液中のタングステン濃度は、0.25モル/Lとした。
【0045】
次いで、20mlの前駆体溶液(W:5.0×10−3モル)に1.0×10−4モルのPtClを添加し、遮光してそのまま室温下で撹拌し、透明で黄色のコーティング液を調製した。前駆体溶液中のタングステン量に対するPtClの添加量は、モル比(Pt/タングステン)で1/50とした。
【0046】
次いで、コーティング液を、洗浄済みのガラス基板上に3000rpm、30sの条件でスピンコートして塗布膜を形成し、形成した塗布膜を大気中室温(28℃)で5分間風乾させた。この塗布及び乾燥操作を5回繰り返し水素ガス感応性膜を得た。
【0047】
得られた水素ガス感応性膜の応答性を、図2に示す測定装置Aで測定した。測定装置Aは、測定対象物である水素ガス感応性膜2、および水素ガス感応性膜2が形成されるガラス基板1を含まない。図2は、水素ガス感応性膜の応答性を測定する測定装置を示す図である。図2において、矢印は水素含有ガスの流れを表す。水素含有ガスは、マスフローコントローラ13によって導入され、ガラスセル11と水素ガス感応性膜2との隙間16を通り、外部に放出される。水素含有ガスとしては、水素ガスを4体積%、アルゴンガスを96体積%含むものを用いた。
【0048】
図2に示すように、測定装置Aは、ガラスセル11と、スペーサ12と、マスフローコントローラ13と、光源14と、受光器15とを備える。ガラスセル11は、ガラス基板1に成膜した水素ガス感応性膜2と対向配置される。スペーサ12は、ガラスセル11と水素ガス感応性膜2との間に、水素含有ガスの流路となる隙間16を形成する。マスフローコントローラ13は、隙間16を流れる水素含有ガスの流量を制御する。光源14としての半導体レーザ装置は、波長670nmのレーザー光を照射する。受光器15としてのフォトダイオードは、光源14から照射されたレーザー光を受光し、受光したレーザー光の強度に応じた信号を出力する。光源14から照射されたレーザー光は、ガラス基板1、水素ガス感応性膜2およびガラスセル11をこの順で通過し、受光器15で受光される。光源14から照射されるレーザー光の強度に対する、受光器15で受光されるレーザー光の強度の割合が透過率である。
【0049】
水素ガス感応性膜の応答性は、図2の隙間16に水素含有ガスを60秒間供給すること、およびその供給を60秒間停止することを交互に繰り返しながら、波長670nmのレーザー光の透過率を測定することにより測定した。測定結果を図3および図4に示す。図3は、実施例1−1による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。図4は、図3に破線で囲む領域Aの拡大図である。図4において、「ON」とは水素含有ガスの停止から供給への切換を意味し、「OFF」とは水素含有ガスの供給から停止への切換を意味する。水素含有ガスの供給が停止されると、水素含有ガスの出口から隙間16に向けて大気が入り込む。尚、その他の図面において同様である。
【0050】
図3に示すように、水素含有ガスの供給および停止を約80回(約9600秒)繰り返した後から、徐々に無色透明(透明状態)と青色(着色状態)の間で水素ガス感応性膜の色(状態)の変化が起こり始めた。その後、図4に示すように、水素含有ガスの供給および停止を切り替える度に、レーザー光の透過率が約25%〜80%の範囲で変化した。この結果から、実施例1−1のコーティング液によれば、大気中において室温で乾燥するだけで、水素ガス感応性膜を得られることが確認された。
【0051】
〔実施例1−2〕
実施例1−2では、塗布膜を大気中室温で風乾させる5分間の間に波長365nmの紫外線照射を同時に行った以外、実施例1−1と同じ条件で水素ガス感応性膜を成膜した。得られた水素ガス感応性膜の応答性を図5および図6に示す。図5は、実施例1−2による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。図6は、図5に破線で囲む領域Aの拡大図である。
【0052】
図5に示すように水素含有ガスの供給および停止の繰り返し開始直後から膜内全面で無色透明と青色の間で水素ガス感応性膜の色が変化するとともに、図6に示すようにレーザー光の透過率が約22%〜84%の範囲で変化した。この結果から、塗布膜の乾燥時に紫外線照射を用いることにより、応答開始(透過率の変化の開始)までの時間を短縮できることが確認された。
【0053】
〔実施例1−3〕
実施例1−3では、塗布膜を大気中室温で5分間風乾させる代わりに塗布膜を大気中100℃のホットプレート上で5分間加熱して乾燥させた以外、実施例1−1と同じ条件で水素ガス感応性膜を成膜した。実施例1−1と同様に、乾燥中の紫外線照射は、行わなかった。得られた水素ガス感応性膜の応答性を図7および図8に示す。図7は、実施例1−3による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。図8は、図7に破線で囲む領域Aの拡大図である。
【0054】
図7に示すように水素含有ガスの供給および停止の繰り返し開始直後から膜内全面で無色透明と青色の間で水素ガス感応性膜の色が変化するとともに、図8に示すようにレーザー光の透過率が約25%〜78%の範囲で変化した。この結果から、塗布膜の乾燥時に加熱乾燥を行うことにより、応答開始(透過率の変化の開始)までの時間を短縮できることが確認された。
【0055】
〔実施例1−4〕
実施例1−4では、塗布膜を大気中室温で5分間風乾させる代わりに塗布膜を大気中100℃のホットプレート上で5分間加熱して乾燥させると共に、その加熱乾燥を行う5分間の間に波長365nmの紫外線照射を同時に行った以外、実施例1−1と同じ条件で水素ガス感応性膜を成膜した。得られた水素ガス感応性膜の応答性を図9および図10に示す。図9は、実施例1−4による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。図10は、図9に破線で囲む領域Aの拡大図である。
【0056】
図9に示すように水素含有ガスの供給および停止の繰り返し開始直後から膜内全面で無色透明と青色の間で水素ガス感応性膜の色が変化するとともに、図10に示すようにレーザー光の透過率が約20%〜60%の範囲で変化した。この結果から、塗布膜の乾燥時に紫外線照射と加熱乾燥を併用した場合も、応答開始(透過率の変化の開始)までの時間を短縮できることが確認された。
【0057】
〔実施例2−1〕
実施例2−1では、前駆体溶液に対し添加する金属触媒の原料としてPtClの代わりにPdClを使用してコーティング液を調製した以外、実施例1−1と同じ条件で水素ガス感応性膜を成膜した。実施例1−1と同様に、乾燥中の紫外線照射は、行わなかった。また、実施例1−1と同様に、前駆体溶液中のタングステン量に対するPdClの添加量は、モル比(Pd/タングステン)で1/50とした。得られた水素ガス感応性膜の応答性を図11および図12に示す。図11は、実施例2−1による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。図12は、図11に破線で囲む領域Aの拡大図である。
【0058】
図11に示すように水素含有ガスの供給および停止を約20回(約2400秒)繰り返した後から、徐々に無色透明(透明状態)と青色(着色状態)の間で水素ガス感応性膜の色(状態)の変化が起こり始めた。その後、図12に示すように、水素含有ガスの供給および停止を切り替える度に、レーザー光の透過率が約48%〜71%の範囲で変化した。この結果から、実施例2−1のコーティング液によれば、大気中において室温で乾燥するだけで、水素ガス感応性膜を得られることが確認された。
【0059】
〔実施例2−2〕
実施例2−2では、塗布膜を大気中室温で風乾させる5分間の間に波長365nmの紫外線照射を同時に行った以外、実施例2−1と同じ条件で水素ガス感応性膜を成膜した。得られた水素ガス感応性膜の応答性を図13および図14に示す。図13は、実施例2−2による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。図14は、図13に破線で囲む領域Aの拡大図である。
【0060】
図13に示すように水素含有ガスの供給および停止の繰り返し開始直後から膜内全面で無色透明と青色の間で水素ガス感応性膜の色が変化するとともに、図14に示すようにレーザー光の透過率が約50%〜80%の範囲で変化した。この結果から、塗布膜の乾燥時に紫外線照射を用いることにより、応答開始(透過率の変化の開始)までの時間を短縮できることが確認された。
【0061】
〔実施例2−3〕
実施例2−3では、塗布膜を大気中室温で5分間風乾させる代わりに塗布膜を大気中100℃のホットプレート上で5分間加熱して乾燥させると共に、その加熱乾燥を行う5分間の間に波長365nmの紫外線照射を同時に行った以外、実施例2−1と同じ条件で水素ガス感応性膜を成膜した。得られた水素ガス感応性膜の応答性を図15および図16に示す。図15は、実施例2−3による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。図16は、図15に破線で囲む領域Aの拡大図である。
【0062】
図15に示すように水素含有ガスの供給および停止の繰り返し開始直後から膜内全面で無色透明と青色の間で水素ガス感応性膜の色が変化するとともに、図16に示すようにレーザー光の透過率が約35%〜62%の範囲で変化した。この結果から、塗布膜の乾燥時に紫外線照射と加熱乾燥を併用した場合も、応答開始(透過率の変化の開始)までの時間を短縮できることが確認された。
【0063】
〔実施例3〕
実施例3では、前駆体溶液としてカルボン酸を含むものを用い、且つタングステン量に対するPdClの添加量をモル比(Pd/タングステン)で1/50から1/10に増やしてコーティング液を調製した以外、実施例2−2と同じ条件で水素ガス感応性膜を成膜した。
【0064】
具体的には、先ず、実施例1−1と同様に、特許文献8記載の方法に従い、氷冷、乾燥窒素雰囲気下で、六塩化タングステン(WCl)に超脱水エタノールと超脱水イソプロピルアルコールを加え、その後、室温下で撹拌を続け、タングステン溶液を得た。タングステン溶液中のタングステン濃度は、0.25モル/Lとした。
【0065】
次いで、シュウ酸・無水物1.0×10−3モルをナスフラスコに測り取り、これに20mlのタングステン溶液(W:5.0×10−3モル)を加えて撹拌して、酸化タングステンの前駆体溶液を調製した。タングステン溶液中のタングステン量に対するシュウ酸・無水物の添加量は、モル比(シュウ酸・無水物/タングステン)で1/5とした。
【0066】
1時間後、前駆体溶液に5.0×10−4モルのPdClを添加し、遮光してそのまま室温下で撹拌し、透明で褐色のコーティング液を調製した。前駆体溶液中のタングステン量に対するPdClの添加量は、モル比(Pd/タングステン)で1/10とした。
【0067】
次いで、コーティング液を、洗浄済みのガラス基板上に3000rpm、30sの条件でスピンコートして塗布膜を形成し、形成した塗布膜を大気中室温(28℃)で5分間風乾させた。その風乾乾燥を行う5分間の間に波長365nmの紫外線照射を同時に行った。この塗布及び乾燥操作を5回繰り返し水素ガス感応性膜を得た。得られた水素ガス感応性膜の応答性を図17および図18に示す。図17は、実施例3による水素ガス感応性膜の応答性を示すグラフである。図18は、図17に破線で囲む領域Aの拡大図である。
【0068】
図17に示すように水素含有ガスの供給および停止の繰り返し開始からしばらくすると徐々に膜内全面で無色透明と青色の間で水素ガス感応性膜の色が変化するとともに、図18に示すようにレーザー光の透過率が約34%〜70%の範囲で変化し、水素ガスに対して良好な感応性を示すことが確認された。図18と、実施例2−2の図14とを比較すれば明らかなように、カルボン酸を添加することによって、水素含有ガスの停止から供給への切換に対する応答速度(以下、「着色時の応答速度」とも呼ぶ。)および水素含有ガスの供給から停止への切換に対する応答速度(以下、「消色時の応答速度」とも呼ぶ)が向上した。カルボン酸の添加によって、白金イオンの還元が促進されると共に、炭酸ガスの発生によって水素ガス感応性膜が多孔質化されたためと推定される。
【0069】
〔比較例1−1〕
比較例1−1では、前駆体溶液に添加する金属触媒の原料としてPtClの代わりにHPtCl・6HOを添加し、前駆体溶液中のタングステン量に対するHPtCl・6HOの添加量をモル比(Pt/タングステン)で1/50から29/500に増やしてコーティング液を調製した以外、実施例1−3と同じ条件でコーティング膜を成膜した。実施例1−3と同様に、塗布膜の乾燥は、大気中100℃のホットプレート上で5分間行った。また、実施例1−3と同様に、塗布膜の乾燥中の紫外線照射は、行わなかった。得られたコーティング膜の応答性を図19に示す。図19は、比較例1−1によるコーティング膜の応答性を示すグラフである。
【0070】
図19から明らかなように、実施例1−3の場合に比べてモル比(Pt/タングステン)が多かったにもかかわらず、二価のPtイオンではなく四価のPtイオンを用いたため、ゼロ価のPtへの還元が十分になされず、水素含有ガスの供給および停止の繰り返しを8時間に亘って行っても全く応答は見られなかった。
【0071】
〔比較例1−2〕
比較例1−2では、比較例1−1と同じコーティング液を用いて形成した塗布膜の乾燥を、大気中100℃で5分間乾燥させる代わりに、大気中室温(23℃)で5分間風乾させると共に5分間の風乾乾燥の間に波長365nmの紫外線照射を同時に行った以外、比較例1−1と同じ条件でコーティング膜を成膜した。得られたコーティング膜の応答性を図20に示す。図20は、比較例1−2によるコーティング膜の応答性を示すグラフである。
【0072】
図20に示すように、水素含有ガスの供給および停止の繰り返し開始から約3時間経過後から、徐々に無色透明(透明状態)と青色(着色状態)の間で色の変化が起こり始めたが、色が変化するエリアは水素含有ガスの出口(つまり大気の入口)付近に限定され、膜全面での応答は見られなかった。
【0073】
〔比較例1−3〕
比較例1−3では、比較例1−1と同じコーティング液を用いて形成した塗布膜の乾燥を、大気中100℃で5分間乾燥させると共に、5分間の加熱乾燥の間に波長365nmの紫外線照射を同時に行った以外、比較例1−1と同じ条件でコーティング膜を成膜した。得られたコーティング膜の応答性を図21に示す。図21は、比較例1−3によるコーティング膜の応答性を示すグラフである。
【0074】
図21に示すように、水素含有ガスの供給および停止の繰り返し開始から約3時間経過後から、徐々に無色透明(透明状態)と青色(着色状態)の間で色の変化が起こり始めたが、色が変化するエリアは水素含有ガスの出口(つまり大気の入口)付近に限定され、膜全面での応答は見られなかった。
【0075】
〔まとめ〕
上記実施例および上記比較例の実験条件等を表1にまとめる。
【0076】
【表1】
表1に示すように、上記実施例では、上記比較例とは異なり、白金族の化合物として、二価の白金族の化合物を含むコーティング液を用いた。その結果、上記実施例では、上記比較例とは異なり、基材にコーティング液を塗布し、その塗布膜を乾燥させて、水素ガスに対する感応性を有する金属触媒を含む膜を作製する過程において、有害ガスや可燃性ガスを使うことなく、コーティング液中の金属イオンを大気中、室温以上150℃以下の温度で還元させて金属触媒とすることができた。
【0077】
以上、コーティング液、コーティング液の製造方法、および水素ガス感応性膜の製造方法の実施形態などについて説明したが、本発明は上記実施形態などに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、改良が可能である。
【0078】
本出願は、2017年11月6日に日本国特許庁に出願された特願2017−214051号に基づく優先権を主張するものであり、特願2017−214051号の全内容を本出願に援用する。
【符号の説明】
【0079】
S11 タングステン溶液を調製するステップ
S12 酸化タングステンの前駆体溶液を調製するステップ
S13 コーティング液を調製するステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21