特許第6892721号(P6892721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6892721新規ヌクレアーゼドメインおよびその利用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892721
(24)【登録日】2021年6月1日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】新規ヌクレアーゼドメインおよびその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20210614BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20210614BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20210614BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20210614BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20210614BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20210614BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   C12N15/09 100
   C12N15/09 110
   C12N15/62 Z
   C12N15/55ZNA
   C12N15/31
   C12N15/63 Z
   C07K19/00
   C12N9/16 Z
【請求項の数】8
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2020-539416(P2020-539416)
(86)(22)【出願日】2019年8月23日
(86)【国際出願番号】JP2019033045
(87)【国際公開番号】WO2020045281
(87)【国際公開日】20200305
【審査請求日】2020年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2018-158710(P2018-158710)
(32)【優先日】2018年8月27日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度〜平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/植物の生産性制御に係る共通基盤技術開発ゲノム編集の国産技術基盤プラットフォームの確立」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 哲史
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勝和
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/175284(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/168304(WO,A1)
【文献】 Database GenBank [online], Accession No.KSU87972.1,04-Dec-2015,[retrieved on 30.09.2019],URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/KSU87972
【文献】 Database GenBank [online], Accession No.LNQP01000031.1,04-DEC-2015, [retrieved on 30.09.2019],URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/LNQP01000031.1
【文献】 Database GenBank [online], Accession No.MZGW01000003.1,15-MAR-2017, [retrieved on 30.09.2019],URL,http://ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/MZGW01000003.1
【文献】 Molecular Therapy (2009) Vol.17, No.1, pp.104-111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその変異体ポリペプチドであるヌクレアーゼドメインおよび核酸結合ドメインを含む人工核酸切断酵素であって、
前記変異体ポリペプチドが、配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、ヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドであり、
前記核酸結合ドメインが、ジンクフィンガー、TALE、CRISPR/Cas、またはPPRを含む、人工核酸切断酵素。
【請求項2】
前記ヌクレアーゼドメインと前記核酸結合ドメインとの間に位置するリンカーをさらに含む、請求項1記載の人工核酸切断酵素。
【請求項3】
請求項1または2に記載の人工核酸切断酵素をコードする核酸配列を含む単離された核酸。
【請求項4】
請求項3に記載の核酸またはその転写産物もしくは翻訳産物を含むベクター。
【請求項5】
請求項1または2に記載の人工核酸切断酵素、請求項3に記載の核酸、または請求項4に記載のベクターを細胞(ただし、ヒト体内に存在する状態の細胞、ヒト生殖細胞、およびヒト胚細胞を除く)に導入することを含む、標的核酸を改変する方法。
【請求項6】
前記人工核酸切断酵素、核酸、またはベクターが、2種以上の人工核酸切断酵素、該2種以上の人工核酸切断酵素をコードする核酸、または該核酸、その転写産物、もしくはその翻訳産物を含むベクターである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の人工核酸切断酵素、請求項3に記載の核酸、または請求項4に記載のベクターを含む、標的核酸の改変のためのキット。
【請求項8】
前記人工核酸切断酵素、核酸、またはベクターが、2種以上の人工核酸切断酵素、該2種以上の人工核酸切断酵素をコードする核酸、または該核酸、その転写産物、もしくはその翻訳産物を含むベクターである、請求項7に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ヌクレアーゼドメイン、および当該ヌクレアーゼドメインを含む人工核酸切断酵素に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゲノム編集ツールとして、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(Zinc-finger nuclease;ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(Transcription activator-like effector nuclease;TALEN)やCRISPR/Cas(Clustered regularly interspaced short palindromic repeat/CRISPR-associated)システムといった、標的配列を特異的に認識し、その近傍で切断可能なヌクレアーゼが利用できるようになった。これらのヌクレアーゼは、核酸結合ドメインと核酸切断ドメインを含み、ゲノムDNAの特定の塩基配列でDNA二本鎖の切断(DNA double-strand break;DSB)をもたらすことができる。これらのヌクレアーゼによりもたらされたDSBの修復としては、修復エラーを生じやすい非相同末端連結修復(nonhomologous end joining;NHEJ)と相同組換え修復(homologous recombination;HR)等が知られている。細胞がDSBを修復する際にはNHEJ経路を主に用いて修復を行うため、修復エラーが生じやすく、フレームシフトが起き、その結果、遺伝子機能を喪失することとなる。このように、細胞が持っている機構を利用して遺伝子破壊等を行うことができるゲノム編集技術は、疾病研究や農作物への応用等、生命科学において幅広く利用されつつある。
【0003】
ZFNやTALENでは、通常、核酸切断ドメインとしてFokIヌクレアーゼドメイン(以下、「FokI−ND」ともいう)が用いられている。FokI−NDは、核酸への結合能を有するが、塩基配列を認識せず、また二量体を形成することで標的とする核酸を切断することが明らかにされている。そのため、ZFNやTALENでは、核酸結合ドメインの標的配列が2つ必要となり、この2つの標的配列に挟まれたスペーサー配列内でFokI−NDが作用し、DSBをもたらす。ZFNでは、2つの標的配列をそれぞれ、ターゲットハーフサイトL(Target half-site L)およびターゲットハーフサイトR(Target half-site R)と呼ぶ。
【0004】
ZFNは、FokI−ND、ジンクフィンガータンパク質(Zinc-finger protein;ZFP)からなる核酸結合ドメイン、およびそれらをつなぐリンカー(intermolecular linker)からなる。ZFNでは、スペーサー配列の長さやリンカーの性質からの制約が強く、その設計において工夫が必要である。そこで、ZFNに関する技術として、スペーサー配列の長さやリンカーの改変が報告されている(非特許文献1)。
【0005】
また、TALE等の核酸結合ドメインと、Clostridium spec. 7_2_43 FAA株由来のヌクレアーゼドメインとの融合タンパク質が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第9410134号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Handel, E.M., Alwin, S. and Cathomen, T. (2009) Expanding or restricting the target site repertoire of zinc-finger nucleases: the inter-domain linker as a major determinant of target site selectivity. Mol Ther, 17, 104-111
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
切断活性、切断効率が高く、かつ、標的配列、スペーサー配列、またはリンカー配列等による制約の少ない、新規ヌクレアーゼドメイン、および当該ヌクレアーゼドメインを含む人工核酸切断酵素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ゲノム編集酵素の核酸切断ドメインとして現在標準的に用いられているFokI−NDとは異なるヌクレアーゼドメインを探索した結果、切断活性や特異性、細胞毒性、標的配列の選択性等の機能性において既存のFokI−NDをしのぐ新規ヌクレアーゼドメインを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様を提供する。
(1)配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその変異体ポリペプチドである、ヌクレアーゼドメイン、および
核酸結合ドメイン
を含む人工核酸切断酵素。
(2)前記ヌクレアーゼドメインと前記核酸結合ドメインとの間に位置するリンカーをさらに含む、前記(1)記載の人工核酸切断酵素。
(3)前記核酸結合ドメインが、ジンクフィンガー、TALE、CRISPR/Cas、またはPPRを含む、前記(1)または(2)に記載の人工核酸切断酵素。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の人工核酸切断酵素をコードする核酸配列を含む単離された核酸。
(5)前記(4)に記載の核酸またはその転写産物もしくは翻訳産物を含むベクター。
(6)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の人工核酸切断酵素、前記(4)に記載の核酸、または前記(5)に記載のベクターを細胞に導入することを含む、標的核酸を改変する方法。
(7)前記人工核酸切断酵素、核酸、またはベクターが、2種以上の人工核酸切断酵素、該2種以上の人工核酸切断酵素をコードする核酸、または該核酸、その転写産物、もしくはその翻訳産物を含むベクターである、前記(6)に記載の方法。
(8)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の人工核酸切断酵素、前記(4)に記載の核酸、または前記(5)に記載のベクターを含む、標的核酸の改変のためのキット。
(9)前記人工核酸切断酵素、核酸、またはベクターが、2種以上の人工核酸切断酵素、該2種以上の人工核酸切断酵素をコードする核酸、または該核酸、その転写産物、もしくはその翻訳産物を含むベクターである、前記(8)に記載のキット。
(10)配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその変異体ポリペプチド。
(11)
前記(10)に記載のポリペプチドまたはその変異体ポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離された核酸。
(12)
前記(11)に記載の核酸またはその転写産物もしくは翻訳産物を含むベクター。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるヌクレアーゼドメインは、従来のFokI−NDよりも、切断活性や特異性、標的配列の選択性等の機能性において優れた核酸切断作用を提供する。本発明のヌクレアーゼドメインを核酸結合ドメインと結合させることにより、活性が高く、標的配列柔軟性のある、標的配列を特異的に切断する核酸切断酵素が提供される。かかる核酸切断酵素は、ゲノム編集ツールとして非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】ZFA36−NDの模式図である。上段は、2つのZFN標的部位がスペーサー配列で分けられていることを示す。下段は、ZFNが3つのジンクフィンガー分子、短い7アミノ酸のTGAAARAリンカーおよびFokIのヌクレアーゼドメインを含むことを示す。所定の長さのスペーサー配列によって隔てられたターゲットハーフサイトに一対のZFNが結合すると、ヌクレアーゼドメインが二量体化し、核酸を切断することができる。
図1B】FokIヌクレアーゼドメインホモログのアミノ酸配列アラインメントを示す。MAFFTを用いてアミノ酸配列をアラインメントした。へテロ二量体ヌクレアーゼドメインを定めるアミノ酸および対応する点変異を矢印、星印およびコロンで示す。図中、「Fok1」はFokI−NDを意味する。
図1C】実施例2で実施した、HEK293T細胞ベースのSSAアッセイによる細胞活性の結果を示す。データを平均±SEM(n=3)で示す。+および−は、ジンクフィンガー標的配列レポータープラスミドの有無を示す。
図2A】ヌクレアーゼドメインの標的ゲノムに対する切断活性を示す。ZFA36−NDをトランスフェクトしたCHO−K1細胞を37℃でインキュベートし、72時間後に回収し、ついでゲノムDNA鋳型を調製した。ZFA36標的部位を含むPCR産物をGeneArt Genomic Cleavage Detection Kitにより切断した。切断断片を電気泳動(MultiNAシステム)により解析した。切断効率を、非切断バンドおよびより大きい切断断片のモル濃度から計算した。図中、「FokI」はFokI−NDを意味する。
図2B】実施例3で実施した、ヌクレアーゼドメインの標的ゲノムに対する切断活性試験の結果を切断効率で示す。
図3】ZFA36−NDの発現レベルを示すウェスタンブロット解析結果を示す。AcV5タグ−ZFA36−NDをHEK293T細胞により発現させた。トランスフェクションした細胞を72時間後に回収し、細胞溶解物をAcV5タグおよびα−チューブリンの両者に対する抗体でプローブした。図中、「FokI」はFokI−NDを意味する。
図4】HEK293T細胞におけるZFA36−ND−EGFPのLSM画像を示す。ZFA36−ND−EGFP過剰発現細胞の顕微鏡写真である。DAPI染色により、DNAを可視化した。スケールバー:40μm。図中、「FokI」はFokI−NDを意味する。
図5】異なるスペーサー長でのZFA36−NDリンカー変異体のレポーター活性プロファイルを示す。実施例5で実施したSSAレポーターアッセイの結果を示す。ZFNリンカー変異体およびスペーサー長を6bp(A)、5bp(B)および7bp(C)として示す。データは、6bpスペーサー長のFokIのTGAAARA−リンカーのルシフェラーゼ活性に対して正規化したものである。データを平均±SEM(n=3)で示す。図中、「FokI」はFokI−NDを意味する。
図6】ZFA36−ND−Sharkey変異体のレポーター活性プロファイルを示す。図中、「FokI」はFokI−NDを意味する。(A)ZFNの模式図。FokI−NDの414−445位のアミノ酸配列に相当するND1、ND2および各sharkey変異体の配列について示す。図中、アミノ酸ナンバーは、各ヌクレアーゼドメインの全長アミノ酸に基づく。(B)実施例6で実施したSSAレポーターアッセイの結果を示す。−は、ZFNプラスミドが存在しないことを示す。データを平均±SEM(n=3)で示す。
図7】細胞ベースのSSAアッセイにより測定したヘテロ二量体型変異を有するZFNの単独使用におけるヌクレアーゼ活性を示す。HEK293T細胞を各ZFN発現プラスミド、レポータープラスミドおよび参照プラスミドで同時トランスフェクションしてデュアルルシフェラーゼアッセイを行った。トランスフェクション後、細胞を24時間インキュベートし、溶解し、ルシフェラーゼ活性を分析した。(A)hPGRN_ZFL1−6bp−hPGRN_ZFL1レポーター。(B)ZFA36−6bp−ZFA36レポーター。図中、「FokI」はFokI−NDを意味する。
図8A】SSAレポーターアッセイによる、ホモ二量体およびヘテロ二量体の切断反応の分析を示す。HEK293T細胞を各対のZFN発現プラスミド、レポータープラスミドおよび参照プラスミドで同時トランスフェクションしてデュアルルシフェラーゼアッセイを行った。トランスフェクション後、細胞を24時間インキュベートし、溶解し、ルシフェラーゼ活性を分析した。データを平均±SEM(n=3)で示す。図中、「FokI」はFokI−NDを意味する。
図8B】Cel−Iアッセイによる、ホモ二量体およびヘテロ二量体の切断反応の分析を示す。各ZFNプラスミドをトランスフェクションしたCHO−K1細胞を37℃で72時間インキュベートした。ついで、トランスフェクションした細胞からゲノムDNAを調製し、ZFA36−ZFL1標的部位を含むフラグメントを増幅した。PCR産物をGeneArt Genomic Cleavage Detection Kitにより切断した。切断したフラグメントをアガロースゲル電気泳動により解析した。図中、「FokI」はFokI−NDを意味する。
図9】細胞ベースのSSAアッセイにより測定したハイブリッドZFNのヌクレアーゼ活性を示す。HEK293T細胞ベースのSSAアッセイ。HEK293T細胞を各対のZFN発現プラスミド、レポータープラスミドおよび参照プラスミドで同時トランスフェクションしてデュアルルシフェラーゼアッセイを行った。トランスフェクション後、細胞を24時間インキュベートし、溶解し、ルシフェラーゼ活性を分析した。白色および灰色のバーは、それぞれZFA36−FokIおよびZFNが存在しないことを示す。(A)ZFL1−FokI−DDDおよび適当なヌクレアーゼドメイン。(B)ZFL1−ND1−DDDおよび適当なヌクレアーゼドメイン。(C)ZFL1−ND2−DDDおよび適当なヌクレアーゼドメイン。データを平均±SEM(n=3)で示す。図中、「FokI」はFokI−NDを意味する。
図10】実施例9で実施した標的部位の配列分析結果を示す。図中、「FokI」はFokI−NDを意味する。
図11A】実施例10で実施した、本発明の新規ヌクレアーゼドメインとTALEを含む人工核酸切断酵素の切断試験の結果を示す。図中、「FokI」はFokI−NDを意味する。
図11B】実施例10で実施した、本発明の新規ヌクレアーゼドメインとTALEを含む人工核酸切断酵素の切断試験の結果を示す。図中、「FokI」はFokI−NDを意味する。
図12A】エレクトロポレーション法により植物細胞に導入したZF−ND1およびZF−FokIのヌクレアーゼ活性をSSAレポーターアッセイにより検出した結果を示す。
図12B図12Aの結果をグラフ化したものである。
図13】プロテイントランスダクション法により植物細胞に導入したZF−ND1およびZF−FokIのヌクレアーゼ活性をSSAレポーターアッセイにより検出した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.新規ヌクレアーゼドメイン
FokI−NDよりも高性能の新規ヌクレアーゼドメインを開発するため、FokI−NDのアミノ酸配列を元にして、Protein−protein BLASTにより相同性のある天然素材の検索を行った。FokI−NDとの相同性が35%〜70%の範囲に存在する相同配列から数種類を選択し、さらに解析を進め、FokI−NDより優れたヌクレアーゼ活性を有するヌクレアーゼドメイン1(以下、「ND1」という)およびヌクレアーゼドメイン2(以下、「ND2」という)を見出した。
【0014】
ND1を含む全長タンパク質(バチルス属SGD−V−76由来)のアミノ酸配列を配列番号1に、その塩基配列を配列番号2に示す。ND2を含む全長タンパク質(ボツリヌス菌由来)のアミノ酸配列を配列番号3に、その塩基配列を配列番号4に示す。ND1は、典型的には、配列番号1の391〜585位に相当する部分ペプチドであり、ND2は、典型的には、配列番号3の389〜579位に相当する部分ペプチドである。
【0015】
ND1は、FokI−NDとのアミノ酸配列同一性70%を有し、ND2は、FokI−NDとのアミノ酸配列同一性57%を有するが、本発明において初めて単離された、新規ポリペプチドである。
【0016】
したがって、本発明は、配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその変異体ポリペプチドであるヌクレアーゼドメイン(以下、「本発明のヌクレアーゼドメイン」ともいう)を提供する。本発明のヌクレアーゼドメインは、配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはその変異体ポリペプチドであるヌクレアーゼドメインを包含する。言い換えれば、本発明は、配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはその変異体ポリペプチド、例えば、配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはその変異体ポリペプチドのヌクレアーゼドメインとしての使用を提供する。
【0017】
本明細書において、配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドの変異体ポリペプチドとは、配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列に類似するアミノ酸配列を有し、かつ、ヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドである。該変異体ポリペプチドの例として、配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列において1ないし数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入または付加されているアミノ酸配列を含み、かつ、ヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、および配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列において1ないし数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されているアミノ酸配列からなり、かつヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで、「1ないし数個」とは、例えば1〜10個、好ましくは1〜6個であり、例えば、1個、2個、3個、4個または5個である。
【0018】
また別の例として、該変異体ポリペプチドは、配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列に対し、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、ヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドであってもよく、例えば、配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列に対し、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、ヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドであってもよい。また、該変異体ポリペプチドのさらなる例として、配列番号2の1171〜1755位または配列番号4の1165〜1737位に示される塩基配列に対し、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%の配列同一性を有する塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を含み、かつ、ヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、および配列番号2の1171〜1755位または配列番号4の1165〜1737位に示される塩基配列に対し、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%の配列同一性を有する塩基配列によってコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、ヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0019】
本発明において、アミノ酸配列の「配列同一性」とは、配列の一致が最大となる状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。配列同一性の数値(%)を求める方法は、当業者に公知である。最適なアラインメントおよび配列同一性を得るためのアルゴリズムとしては、当業者に既知のいずれかのアルゴリズム(例えば、BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズム等)を利用すればよい。アミノ酸配列の配列同一性は、例えば、BLASTP、FASTA等の配列解析ソフトウェアを用いて決定される。
【0020】
さらに、上記の変異体ポリペプチドは、好ましくは、FokIのアミノ酸配列における483位に相当する位置にアスパラギン酸(以下、「D483」という)、および/またはFokIのアミノ酸配列における487位に相当する位置にアルギニン(以下、「R487」という)を有するアミノ酸配列を含んでいてもよい。また、上記の変異体ポリペプチドは、好ましくは、FokIのアミノ酸配列における450位、467位および469位に相当する位置にそれぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸およびリジン(以下、それぞれ、「D450」、「D467」および「K469」という)を有するアミノ酸配列を含んでいてもよい。さらに好ましくは、上記変異体ポリペプチドは、D483および/またはR487を有し、かつ、D450、D467およびK469を有するアミノ酸配列を含む。D483およびR487は、FokI−NDが切断活性を持つ二量体を形成する際に必須となると考えられているアミノ酸残基であり、ND1およびND2のアミノ酸配列において保持されている。さらにFokI−NDの触媒部位については、アミノ酸置換を用いた解析により、D450とD467が核酸の切断に関わることが明らかにされている。さらにこれらのアミノ酸近傍のK469も含めた配列が、EcoRIやEcoRVで見られるモチーフであり、これらのアミノ酸がリン酸ジエステル結合の切断活性に係ることが明らかにされている。D450、D467およびK469は、ND1およびND2のアミノ酸配列において保持されている。
【0021】
また、上記の変異体ポリペプチドは、本発明のヌクレアーゼドメインが核酸切断時にヘテロ二量体を形成するように、FokIのアミノ酸配列における483位、487位および496位に相当する位置にアスパラギン酸(以下、「D483、D487およびD496」という)を含んでいてもよく(以下、「DDD型変異体」ともいう)、またはFokIのアミノ酸配列における483位、487位および537位に相当する位置にアルギニン(以下、「R483、R487およびR537」という)を含んでいてもよい(以下、「RRR型変異体」ともいう)。
【0022】
本発明の配列番号1の391〜585位または配列番号3の389〜579位に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドやその変異体ポリペプチドの鎖長は、通常、500アミノ酸以下であり、例えば、400アミノ酸以下、300アミノ酸以下、または200アミノ酸以下である。
【0023】
さらに、本明細書において、上記の変異体ポリペプチドには、修飾アミノ酸および/または非天然アミノ酸を含むポリペプチドも包含される。修飾アミノ酸としては、限定するものではないが、例えば、メチル化、エステル化、アミド化、アセチル化、アルキル化、ハロゲン化等が挙げられる。該修飾アミノ酸および非天然アミノ酸は、公知の方法によって導入することができる。
【0024】
本発明のヌクレアーゼドメインは、FokI−NDと同等以上のヌクレアーゼ活性を有する。例えば、本発明のヌクレアーゼドメインは、FokI−NDと比べて、少なくとも0.8倍、少なくとも0.9倍、少なくとも1倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.8倍、少なくとも2倍、少なくとも2.3倍、少なくとも2.5倍、少なくとも2.8倍、少なくとも3倍、少なくとも3.3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも3.8倍、または少なくとも4倍のヌクレアーゼ活性を有する。ヌクレアーゼ活性は、当該分野で既知の方法で確認することができる。例えば、ヌクレアーゼドメインをZFNシステムに組み入れて、SSA(single-strand annealing)法およびCel−I法により核酸切断活性、例えばDNA切断活性を測定することによって確認してもよい。
【0025】
本発明のヌクレアーゼドメインは、後記するように、人工核酸切断酵素におけるリンカーの選択における柔軟性および標的切断部位となるスペーサーの選択における柔軟性において、FokI−NDとは異なる性質を有する(実施例5)。また、本発明のヌクレアーゼドメインに、FokI−NDにおいて活性上昇をもたらすことが知られたSharkey変異を導入しても、活性の上昇は見られなかった(実施例6)。また、本発明のND1は、FokI−NDとは異なり、ヘテロ二量体を形成してもヌクレアーゼ活性が低下しなかった(実施例7)。かくして、本発明のヌクレアーゼドメインは、従来のFokI−NDよりも優れた性質および/または異なる性質を有するヌクレアーゼドメインである。
【0026】
本発明のヌクレアーゼドメインは、単離ヌクレアーゼドメインであってもよい。本発明はまた、本発明のヌクレアーゼドメインをコードする単離核酸も提供する。本明細書において、「単離」とは、自然界または生体から分離した状態をいう。
【0027】
2.人工核酸切断酵素
本発明の人工核酸切断酵素は、本発明のヌクレアーゼドメインおよび核酸結合ドメインを含む。該人工核酸切断酵素は、核酸結合ドメインを介して核酸上の標的配列に結合し、ヌクレアーゼドメインによって標的切断部位で核酸を切断する。したがって、該人工核酸切断酵素は、核酸中の標的部位を特異的に切断することができる、配列特異的核酸切断酵素である。
【0028】
本明細書において、「核酸」には、DNAおよびRNAのいずれもが包含される。本発明の人工核酸切断酵素が切断する核酸としては、例えば、二本鎖DNA、一本鎖DNA、または一本鎖RNAが挙げられる。該DNAとしては、例えば、限定するものではないが、真核生物核ゲノムDNA、ミトコンドリアDNA、プラスチドDNA、原核生物ゲノムDNA、ファージDNA、あるいはプラスミドDNA等が挙げられる。好ましくは、本発明の人工核酸切断酵素は、ゲノム上の二本鎖DNAを切断する。該RNAとしては、例えば、限定するものではないが、一本鎖RNA、二本鎖RNA、または一本鎖DNAと一本鎖RNAからなるDNA−RNAハイブリッド二本鎖等が挙げられる。
【0029】
核酸結合ドメインは、任意の核酸配列(標的配列)へ特異的に結合するタンパク質ドメインであればよく、例えば、限定するものではないが、ジンクフィンガー、TALE、CRISPR/Cas(Casタンパク質とガイドRNAの複合体)、Pentatricopeptide repeat(PPR)等またはこれらの組み合わせを含むDNA結合ドメインが挙げられる。CRISPR/Casとしては、例えば、CRISPR−Cas9、CRISPR−Cpf1(Cas12a)、CRISPR−Cas12b、CRISPR−CasX(Cas12e)、CRISPR−Cas14、CRISPR−Cas3などが挙げられる。ジンクフィンガーを含む核酸結合ドメインは、好ましくは2個以上のジンクフィンガーを含んでいてもよく、限定するものではないが、例えば、3〜9個のジンクフィンガーからなるジンクフィンガーアレイ(以下、「ZFA」ともいう)を含んでいてもよい。1つのジンクフィンガーは、3塩基配列を認識することが知られており、例えば、GNN、ANN、またはCNN等を認識するジンクフィンガーが知られている。CRISPR/Casとしては、好ましくは、ヌクレアーゼ活性を不活性化したCas、例えば、dCas(ヌクレアーゼ活性を不活化させたCas、例えば、dCas9)等が挙げられる。核酸結合ドメインは、所望の標的配列に結合するよう当業者によって適宜設計される。なお、本明細書において、「CRISPR/Cas」とは、ガイドRNAとCasタンパク質の複合体を意味し、該ガイドRNAは、標的配列を認識し、結合する。
【0030】
本発明の人工核酸切断酵素において、ヌクレアーゼドメインと核酸結合ドメインは、直接連結されていてもよく、またはリンカーを介して連結されていてもよい。リンカーは、例えば、2以上のアミノ酸残基からなり、長さは特に限定されないが、例えば、2〜20アミノ酸長、例えば、2個、4個、6個、8個、9個、12個、16個、または20個のアミノ酸長であってよい。リンカーの種類もまた特に限定されないが、例えば、TGAAARA、GS、RPGEKP、TGPGAAARA等が挙げられる。リンカーの有無およびリンカーの長さおよび種類は、核酸結合ドメインの種類等を考慮して当業者によって適宜選択される。従来のFokI−NDを含むZFNのヌクレアーゼ活性は、ZFとFokI−NDをつなぐリンカー配列により大きく影響を受けることが知られているが、本発明の人工核酸切断酵素の場合、従来のZFNと比べて、そのヌクレアーゼ活性のリンカー配列への依存性が低い。特にND1では、リンカー配列を変化させることによるヌクレアーゼ活性の低下がほとんどみられなかった(実施例5)。したがって、本発明の人工核酸切断酵素は、リンカー配列の柔軟性が高い。
【0031】
本発明の人工核酸切断酵素の標的配列は、核酸上の任意の配列である。該標的配列は、好ましくは、スペーサー配列を挟んだ2つの配列である。スペーサー配列の長さや標的配列の長さおよび塩基配列は特に限定されない。当業者は、所望の長さおよび塩基配列からなる標的配列を適宜設定することができる。該2つの標的配列は、互いに回文配列であってもよく、または非回文配列であってもよい。該2つの標的配列が非回文配列である場合、各配列を標的とする2種の人工核酸切断酵素を調製する。さらに、CRISPR/Casを含む核酸結合ドメインを用いる場合は、プロトスペーサー近接モチーフ(PAM)配列の近傍に位置する配列を標的配列として選択する。すなわち、PAMが両標的配列の外側またはスペーサー配列中に存在するように、標的配列を設定する。標的配列は、二本鎖配列、または一本鎖配列のいずれであってもよい。なお、本明細書において、「近傍」とは、隣接する位置または近くの位置の両方を包含する。
【0032】
本発明の人工核酸切断酵素において、核酸結合ドメインが核酸上の標的配列に結合すると、ヌクレアーゼドメインが標的切断部位で該核酸を切断する。標的切断部位は、標的配列に隣接するスペーサー配列中またはその近傍に存在する。スペーサー配列の長さは特に限定されないが、例えば、1〜20bp、好ましくは3〜8bp、さらに好ましくは5〜7bpが挙げられる。従来のFokI−NDを含むZFNの場合、至適なスペーサー長が6bpであり、そのヌクレアーゼ活性はスペーサー長により大きな影響を受けることが知られているが、本発明の人工核酸切断酵素の場合、従来のZFNと比べて、スペーサー長の柔軟性が高い。本発明の人工核酸切断酵素は、例えば、リンカー長を変えることにより、短いスペーサーや長いスペーサーに対しても高い切断活性を示す(実施例5)。一方、従来のFokI−NDを含むZFNでは、リンカー長を変えても、至適スペーサー長より短いスペーサーや長いスペーサーに対して、切断活性が著しく低下する。スペーサー長は認識配列間の距離を規定することから、本発明の人工核酸切断酵素は、スペーサー長の柔軟性の高さにより、標的切断部位および認識配列の選択肢が広がる。
【0033】
本発明の人工核酸切断酵素は、当該分野で既知の方法によってイン・ビトロまたはイン・ビボで製造することができる。例えば、アミノ酸配列情報を基に人工合成する方法や、本発明の人工核酸切断酵素をコードする核酸、または本発明のヌクレアーゼドメインおよび核酸結合ドメインをコードする各核酸を人工合成し、適当な発現ベクター中に挿入し、次いで適当な宿主細胞中に導入して、該細胞内で該人工核酸切断酵素を発現させる方法が挙げられる。もしくは、本発明の人工核酸切断酵素をコードする核酸をイン・ビトロまたはイン・ビボ翻訳によりタンパク質を合成し、これを適当な細胞に導入し、該細胞内で該人工核酸切断酵素を作用させる、もしくは本発明の人工核酸切断酵素をコードするRNAをイン・ビトロ転写により合成し、適当な宿主細胞中に導入して、該細胞内で該人工核酸切断酵素を作用させる方法があげられる。発現ベクターとしては、特に限定されず、当該分野で使用されるベクターから選択すればよい。例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター、ファージベクター、ファージミドベクター、BACベクター、YACベクター、MACベクター、HACベクター等が挙げられる。
【0034】
宿主細胞としては特に限定されず、大腸菌、放線菌、古細菌等の原核生物や、酵母、ウニ、カイコ、ゼブラフィッシュ、マウス、ラット、カエル、タバコ、シロイヌナズナ、イネ等の真核生物、および培養細胞等が挙げられる。
【0035】
本発明のさらなる態様において、本発明の人工核酸切断酵素をコードする核酸配列を含む単離された核酸、ならびに該核酸の転写産物および翻訳産物も提供される。上記核酸は、本発明の人工核酸切断酵素をコードする核酸配列からなる単離核酸であってもよい。また、コドン最適化を行っていてもよい。本明細書において、「核酸」とは、DNAおよびRNAのいずれも包含する。
【0036】
3.標的核酸を改変する方法
本発明の人工核酸切断酵素を細胞に導入すると、該酵素により該細胞内の核酸上の標的部位が切断され、該切断は次いで、非相同末端連結修復(NHEJ)または相同組換え修復(HR)等によって修復される。この際、主な修復経路となるNHEJによる修復において、該切断部位に1以上の変異が挿入され、該核酸が改変される。したがって、本発明のさらなる態様において、本発明の人工核酸切断酵素、または該人工核酸切断酵素をコードする核酸を細胞に導入することを含む、標的核酸を改変する方法が提供される。上記の酵素または核酸は、該核酸の転写産物またはその翻訳産物であってもよい。上記核酸はまた、上記細胞中で高発現するように、コドン最適化を行っていてもよい。なお、本明細書において、「改変」には、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、挿入、または置換、あるいはそれらの組み合わせが含まれる。また、本明細書において、核酸に関して「変異」なる用語を用いる場合、ヌクレオチドの欠失、挿入、または置換を意味する。
【0037】
上記の酵素または核酸の細胞への導入は、物理的な導入、またはウイルスまたは生物の感染等を介する導入であってもよく、当該分野で既知の様々な方法を用いることができる。物理的な導入方法としては、限定するものではないが、例えば、エレクトロポレーション法、パーティンクルガン法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法、プロテイントランスダクション法等が挙げられる。ウイルスまたは生物の感染等を介する導入方法としては、限定するものではないが、例えば、ウイルス形質導入、アグロバクテリウム法、ファージ感染、接合等が挙げられる。上記導入には、適宜、ベクターが用いられる。ベクターとしては、導入する細胞の種類に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター、ファージベクター、ファージミドベクター、BACベクター、YACベクター、MACベクター、HACベクター等が挙げられる。また、翻訳産物(タンパク質)や転写産物(mRNA)を運搬することのできるリポソームやレンチウイルスなどのベクター、および融合または結合させた分子を細胞内に導入することのできる細胞透過性ペプチドなどのペプチドベクターが挙げられる。
【0038】
したがって、本発明のさらなる態様において、本発明の人工核酸切断酵素をコードする核酸を含むベクター、あるいは該核酸の転写産物またはその翻訳産物を含むベクターが提供される。該核酸の転写産物またはその翻訳産物を含むベクターには、該核酸を含むベクター内で該核酸が転写したもの、さらに翻訳産物が生じたものも包含される。
【0039】
上記の細胞は、原核細胞または真核細胞のいずれの細胞であってもよく、特に限定されない。例えば、細菌、古細菌、酵母、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、ヒト細胞、非ヒト細胞、非哺乳動物脊椎動物細胞、無脊椎動物細胞等)が挙げられる。該細胞はまた、生体内の細胞であってもよく、または単離された細胞であってもよく、また、初代細胞であっても、培養細胞であってもよい。該細胞はまた、体細胞、生殖細胞、または幹細胞であってもよい。
【0040】
具体的には、上記細胞の由来する原核生物としては、例えば、大腸菌、放線菌、古細菌等が挙げられる。また、上記細胞の由来する真核生物としては、例えば、酵母、キノコ、カビ等の真菌類、ウニ、ヒトで、ナマコなどの棘皮動物、カイコ、ハエなどの昆虫類、マグロ、タイ、フグ、ゼブラフィッシュなどの魚類、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、リスなどの齧歯類、ウシ、イノシシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどの偶蹄類、ウマなどの奇蹄類、トカゲ等の爬虫類、カエル等の両生類、ウサギなどのウサギ目、イヌ、ネコ、フェレットなどのネコ目、ニワトリ、ダチョウ、ウズラ等の鳥類、タバコ、シロイヌナズナ、イネ、トウモロコシ、バナナ、ピーナツ、ヒマワリ、トマト、アブラナ、コムギ、オオムギ、ジャガイモ、ダイズ、ワタ、カーネーション等の植物が挙げられる。「動物細胞」としては、例えば、各段階の胚の胚細胞(例えば、1細胞期胚、2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、16細胞期胚、桑実期胚など);誘導多能性幹(iPS)細胞、胚性幹(ES)細胞、造血幹細胞などの幹細胞;線維芽細胞、造血細胞、ニューロン、筋細胞、骨細胞、肝細胞、膵臓細胞、脳細胞、腎細胞などの体細胞;受精卵などが挙げられる。
【0041】
標的核酸は、上記細胞中のゲノムDNA中の任意の遺伝子または遺伝子外領域のDNAであってもよい。標的核酸中の目的配列を切断するためには、本発明の人工核酸切断酵素に含まれる核酸結合ドメインが該目的配列の近傍の配列(該核酸結合ドメインの標的配列として選択される)に結合するように、本発明の人工核酸切断酵素を設計する。その結果、該標的核酸中の所望の配列が切断され、例えば、該遺伝子の発現が低下または消失し、あるいは該遺伝子の機能が低下または機能が発現しなくなる。
【0042】
本発明の標的核酸改変方法においては、上記の人工核酸切断酵素に加えて、ドナーポリヌクレオチドを細胞中に導入してもよい。ドナーポリヌクレオチドは、標的切断部位に導入したい改変を含む少なくとも1つのドナー配列を含む。ドナーポリヌクレオチドは、当該分野で既知の技術に基づいて当業者が適宜設計することができる。本発明の標的核酸改変方法においてドナーポリヌクレオチドが存在する場合、標的切断部位で相同組換え修復が起こり、ドナーポリヌクレオチドが該部位に挿入されるか、または該部位がドナー配列に置換される。その結果、標的切断部位に所望の改変が導入される。
【0043】
本発明の標的核酸改変方法においてドナーポリヌクレオチドが存在しない場合、標的切断部位は、主に非相同末端結合(NHEJ)により修復される。NHEJはエラーが発生しやすいため、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、挿入、または置換、あるいはそれらの組み合わせが該切断の修復中に起こりうる。かくして、該核酸は、標的切断部位において改変される。
【0044】
本発明の標的核酸改変方法においては、2種以上の上記人工核酸切断酵素を細胞に導入してもよい。該2種以上の人工核酸切断酵素としては、例えば、核酸結合ドメインが異なる2種以上の人工核酸切断酵素、ヌクレアーゼドメインが異なる2種以上の人工核酸切断酵素、ヌクレアーゼドメインおよび核酸結合ドメインの両方が異なる2種以上の人工核酸切断酵素、またはリンカー配列が異なる2種以上の人工核酸切断酵素等が挙げられる。核酸結合ドメインが異なる2種以上の人工核酸切断酵素には、核酸結合ドメインが結合する標的配列が異なる2種以上の人工核酸切断酵素、および核酸結合ドメインの種類が異なる2種以上の人工核酸切断酵素が包含され、一例として、ヌクレアーゼドメインが異なり、かつ、核酸結合ドメインが結合する標的配列が異なる2種以上の人工核酸切断酵素が挙げられる。例えば、核酸上の改変したい領域に回文配列が存在しない場合は、それぞれ異なる配列を標的とする2種の人工核酸切断酵素を用いてもよい。この場合、さらに、該2種の人工核酸切断酵素のヌクレアーゼドメインに、該ヌクレアーゼドメインのヘテロ二量体形成を促進するような変異を導入してもよい。これにより、該人工核酸切断酵素の認識配列を増やすとともに、オフターゲットの確率を低くすることができる。このような変異は、例えば、D483、D487およびD496への置換(以下、「DDD型変異」ともいう)、およびR483、R487およびR537への置換(以下、「RRR型変異」ともいう)であり、一方の人工核酸切断酵素のヌクレアーゼドメインにDDD型変異を導入し、もう一方の人工核酸切断酵素のヌクレアーゼドメインにRRR型変異を導入する。なお、変異導入前のヌクレアーゼドメイン配列がすでに上記に示すDDD型変異およびRRR型変異のいずれかのアミノ酸残基を有する場合は、それ以外のアミノ酸置換のみを施せばよい。このようなヘテロ二量体の形成を促進する一対の変異(例えば、DDD型変異およびRRR型変異)がそれぞれ導入された2種のヌクレアーゼドメインは、上記変異以外は同一のヌクレアーゼドメインであってもよいし、または上記変異導入前から元々異なるヌクレアーゼドメインであってもよい。例えば、ND1のDDD型変異体を含む人工核酸切断酵素とND1のRRR型変異体を含む人工核酸切断酵素を本発明の方法に用いてもよい。また、例えば、ND2のDDD型変異体を含む人工核酸切断酵素とND1のRRR型変異体を含む人工核酸切断酵素を本発明の方法に用いてもよい。本発明によれば、ND1のDDD型変異体およびND1のRRR型変異体の組み合わせ、またはND2のDDD型変異体およびND1のRRR型変異体の組み合わせが、特に高い特異性およびヌクレアーゼ活性を示した(実施例8)。
【0045】
4.キット
本発明のさらなる態様において、本発明の人工核酸切断酵素、該人工核酸切断酵素をコードする核酸、あるいは該核酸、該核酸の転写産物またはその翻訳産物を含むベクターを含む、標的核酸改変のためのキットが提供される。さらに、該キットは、上記したような2種以上の人工核酸切断酵素を含んでいてもよい。さらに、該キットは、該2種以上の人工核酸切断酵素をコードする核酸、あるいは該核酸、該核酸の転写産物またはその翻訳産物を含むベクターを含んでいてもよい。好ましくは、本発明のキットは、1種または2種の人工核酸切断酵素、該1種または2種の人工核酸切断酵素をコードする核酸、あるいは該核酸、該核酸の転写産物またはその翻訳産物を含むベクターを含む。上記2種以上の人工核酸切断酵素は、例えば、ND1のDDD型変異体を含む人工核酸切断酵素とND1のRRR型変異体を含む人工核酸切断酵素であってもよい。さらに、上記2種以上の人工核酸切断酵素は、例えば、ND2のDDD型変異体を含む人工核酸切断酵素とND1のRRR型変異体を含む人工核酸切断酵素であってもよい。該キットは、一つまたは複数の追加の試薬をさらに含む場合があり、追加の試薬としては、例えば、希釈緩衝液、再構成溶液、洗浄緩衝液、核酸導入試薬、タンパク質導入試薬、対照試薬が挙げられるが、これらに制限されない。通常、キットには取扱説明書が添付される。
【0046】
本明細書中の用語の意味は、特に断らない限り、生物学、分子生物学、生化学、遺伝学等の分野において通常認識されている意味に解される。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
なお、実施例で用いた細胞は、以下のようにして培養した。
【0049】
<細胞培養>
HEK293T細胞は、10%FBS(Difco)、1%ストレプトマイシン−ペニシンリン(和光純薬工業)、1%NEAA(Difco)を含むD−MEM培地(和光純薬工業)で維持した。CHO−K1細胞は、10%FBS、1%ストレプトマイシン−ペニシリン、5%カナマイシン(和光純薬工業)を含むHam’s−F12(Difco)で維持した。以下、培養温度について特に記載がない場合、培養細胞は、37℃、二酸化炭素濃度5%で維持し、記載がある場合にはその温度に従った。また、培養液についても、記載がない場合は上記のそれぞれの培地を使用した。
【0050】
実施例1:新規ヌクレアーゼドメインの探索
FokIのC末端側のアミノ酸配列を元にして、Protein−protein BLASTにより相同性のある天然素材の検索を行った。得られた検索結果において、FokI−NDとの相同性が35%〜70%のものの中から任意に4種類の候補を選んだ。それらを相同性の高い配列からND1(アミノ酸配列同一性70%;全長アミノ酸配列:配列番号1;対応塩基配列:配列番号2)、ND2(アミノ酸配列同一性57%;全長アミノ酸配列:配列番号3;対応塩基配列:配列番号4)、ND3(アミノ酸配列同一性49%;全長アミノ酸配列:配列番号5;対応塩基配列:配列番号6)、ND4(アミノ酸配列同一性45%;全長アミノ酸配列:配列番号7;対応塩基配列:配列番号8)と称する。
【0051】
ND1〜ND4のアミノ酸配列をFokI−NDのアミノ酸配列と比較したところ、アミノ酸の欠失や置換が生じているものの、FokI−NDとヌクレアーゼドメインの長さは、ほぼ同じであることが明らかになった。また、ND1〜ND4は、FokI−NDが切断活性を持つ二量体を形成する際に必須となると考えられているアミノ酸(D483、R487)、およびDNAのリン酸ジエステル結合の加水分解による切断に関与すると推定されているアミノ酸(D450、D467およびK469)を保持していた(図1B)。したがって、ND1〜ND4はヌクレアーゼ活性を有していると考えられた。
【0052】
実施例2:新規ヌクレアーゼドメインの切断活性(SSA法)
ND1〜ND4のヌクレアーゼ活性を評価するため、ND1〜ND4の各々を含むZFNプラスミド(pSTL−ZFA36−ND)を作製し、SSAレポーターアッセイにより各新規ヌクレアーゼドメインの切断活性を測定した。
【0053】
(1)ZFNプラスミド構築
ND1〜ND4の塩基配列はコドン最適化を行い、IDT社により人工合成を行った。ZFNプラスミド(pSTL−ZFA36)は、落合らが作製したコンストラクトを使用した(Ochiai et al.(2010) Targeted mutagenesis in the sea urchin embryo using zinc-finger nucleases. Genes to Cells 15:875-885)。pSTL−ZFA36のFokI−NDを新たに同定したND1〜ND4と置換するため、各ヌクレアーゼドメイン置換用プライマーペアーでPrimeSTAR Max(Takara)によりPCRを行った。PCRは98℃で2分処理後、98℃で10秒、60℃で5秒、68℃で40秒という反応を40サイクル行った。得られたPCR産物および、人工合成したND1〜ND4をIn−Fusion(Clontech)を用いて反応させ、大腸菌に形質転換した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、塩基配列を確認することで、目的とする各pSTL−ZFA36−NDプラスミドを得た。得られたZFA(ジンクフィンガーアレイ)36−NDの模式図を図1Aに示す。該ZFA36−NDは、TGAAARAリンカーを有する。
【0054】
(2)SSAレポーターアッセイ
SSAレポータープラスミド120ng、上記の各pSTL−ZFA36−NDプラスミド240ng、参照プラスミドpRL−CMV(Promega)(形質導入効率を標準化するためのプラスミド)24ngを含む7.2μLのプラスミド溶液を調製した。該SSAレポータープラスミドは、Luc配列のオーバーラップ領域に挟まれるように、6bpのスペーサー配列を含むZFアレイ(ZFA36)の標的配列が挿入されるように、既知の方法にしたがって調製した(Ochiai et al.(2010) Targeted mutagenesis in the sea urchin embryo using zinc-finger nucleases. Genes to Cells 15:875-885)。ポリリジンコート処理済みの96穴マルチウェルプレート(Iwaki)に、25μLの無血清D−MEM培養液を加え、6μLのプラスミド溶液を混合した。ここに無血清のD−MEM培養液25μL当たり0.7μLのLipofectamine LTX(Life Technologies)を加えた溶液を25.7μL加え、30分室温で放置した。この間に、HEK293T細胞を100mmの組織培養皿(Iwaki)からトリプシン処理により解離させ、1000rpmで3分遠心後、上清を取り除き、再度5mLの培養液で懸濁した。10μLの細胞懸濁液を分取し、細胞数を計測した。得られた細胞数から、細胞懸濁液中の細胞数が6×10細胞/mLとなるように、培養液を加えて調整した。該細胞懸濁液100μLを、上記の30分間室温で放置した96穴プレートに加えた。その後、該96穴プレートを37℃、二酸化炭素濃度5%に移して培養することにより、形質導入を行った。
【0055】
形質導入を行い24時間培養したHEK293T細胞の培養液を75μL取り除き、Dual Gloルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)に付属するDual Gloルシフェラーゼ基質を各ウェルに75μL加え、暗所、室温で10分処理した。その後、マルチウェルプレートリーダーのTriStar LB941により、ルシフェラーゼ活性を測定した。測定後、各サンプルに100倍希釈したDual Glo Stop & Glo Substrateを含むDual Glo Stop & Glo Bufferを75μL加え、暗所、室温で10分処理をし、先程と同様にプレートリーダーで、参照プラスミドのルシフェラーゼ活性を測定した。対照として、FokI−NDを含むZFA36−FokIを用いて同様に測定した。測定結果は、SSAレポーターのルシフェラーゼ活性を参照プラスミドのルシフェラーゼ活性で割った値の変化を算出し、ZFA36−FokIの値を1とした時の各サンプルでの相対値を求めた。
【0056】
(3)結果
結果を図1Cに示す。図1Cから明らかなように、ND1およびND2は、従来使用されてきたFokI−NDに比べ、切断活性が20%以上も高かった。一方、ND3およびND4では切断活性が低く、FokI−NDの約2割程度しか持っていないことが明らかとなった。
【0057】
さらに、ヌクレアーゼドメインを細胞内で発現させず、該細胞内に元々存在するヌクレアーゼがルシフェラーゼレポーターを標的とするかを確認した。その結果、FokI−NDに対する相対活性が著しく低かったことから、ルシフェラーゼレポーターはHEK293T細胞内に存在する様々なヌクレアーゼの標的になり得ないことがわかった。この解析により、ND1およびND2が、ZFNで従来使用されてきたFokI−NDの切断活性をしのぐ、天然素材に由来する新規ヌクレアーゼドメインであることが明らかとなった。
【0058】
実施例3:新規ヌクレアーゼドメインの標的ゲノムに対する切断活性(Cel−I法)
実施例2でヌクレアーゼ活性を有することを確認した新規ヌクレアーゼドメインND1およびND2が生体において、ゲノムDNAにどの程度変異導入をもたらすのか確認するため、Cel−Iアッセイにより、新規ヌクレアーゼドメインの培養細胞におけるゲノムDNAへの変異導入率の解析を行った。比較対照として、FokI−ND、ND3およびND4も同様に解析した。
【0059】
(1)Cel−Iアッセイ
TALENやZFNなどのゲノム編集ツールを形質導入した細胞では、それらが持つヌクレアーゼドメインによる標的DNAの切断と細胞内に存在する修復機構による切断部位の修復が行われるが、この過程で修復エラーが生じる。このゲノムDNAの標的配列を含む領域をPCRで増幅すると、野生型アレルのPCR断片と変異を含むPCR断片の混合産物が得られる。これら産物を乖離後再会合させると野生型アレルと変異を含むアレルのPCR断片からなるミスマッチを含む二本鎖DNAが生じ、これがミスマッチ特異的エンドヌクレアーゼ(Cel−Iヌクレアーゼ)で切断される。該切断パターンを検出することで、変異導入を評価できる。
【0060】
CHO−K1細胞をトリプシン処理により解離させ、1000rpm、3分遠心後、上清を取り除いた後、10mLの培養液で懸濁した。10μLの細胞懸濁液を用いて細胞数を測定し、細胞数が1×10cells/mLとなるように培養液を加え、37℃、二酸化炭素濃度5%で一晩培養した。
【0061】
500μLのOpti−MEM(Difco)に800ngとなるよう、実施例2で作製した各ZFNプラスミドを加え、室温で5分放置した。500μLのOpti−MEMに32μLのLipofectamine LTXを加え、その全量を、上記のプラスミドを含むOpti−MEM培地と混合し、室温で30分放置した。この間に、一晩生育させたCHO−K1細胞の培養液を4mLのOpti−MEMに交換した。該細胞培養液に、上記の室温で30分放置したプラスミド溶液全量を加え、37℃、二酸化炭素濃度5%で一晩培養した。翌日の午前中に、培養液をOpti−MEMから10mLの培養液に交換し、さらに、37℃、二酸化炭素濃度5%で培養を続けた。また、24時間後から終濃度500μg/mLとなるように、ピューロマイシン(和光純薬工業)を添加した。以降毎日、培養液交換およびピューロマイシン添加を行いながら、3日間培養を行った。
【0062】
上記のようにしてZFNプラスミドを形質導入したCHO−K1細胞は、トリプシン処理によって培養皿から回収した。回収した細胞は、PBS(−)で一度洗浄を行った。得られた細胞は、DNA精製キット(Qiagen)またはGeneArt Genomic Cleavage Detection Kit(Life Technologies)に含まれる細胞溶解バッファーおよびタンパク質分解剤(Protein degrader)による処理のいずれかにより、ゲノムDNAを調製した。調製したゲノムDNAを鋳型に、KOD Fx Neo(ToYoBo)もしくは、AmpliTaq Gold(Life Technologies)を用いてPCRを行った。PCRは、KOD Fx Neoの場合は、95℃で2分加熱後、95℃を30秒、60℃を30秒、68℃を30秒というサイクルを40サイクル行い、ターゲットを増幅した。AmpliTaq Goldの場合は、95℃で10分処理した後、95℃を10秒、60℃を30秒、72℃を40秒というサイクルを40サイクル行った後、最後に72℃で7分処理しターゲットを増幅した。得られた各PCR産物は等量を、GeneArtGenomic Cleavage Detection Kitを用いて、マニュアルに従い、検出酵素による切断反応を行った。反応後の溶液は、アガロース電気泳動または、MultiNA(島津製作所)により切断断片を検出した。非切断バンドおよびより大きい切断断片のモル濃度から、切断効率を計算した。
【0063】
(2)結果
MultiNAによる泳動の結果を図2に示す。解析に用いたCHO−K1細胞におけるZFNのゲノム標的(ZFA36−ZFA36)候補配列を表1に示す。また、後記する実施例7で使用するZFNのゲノム標的(ZFL1−ZFA36)候補配列も表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
解析した標的配列すべてにおいて、ターゲットハーフサイト(L)は、ZFアレイの標的配列と完全に一致していた。一方、ターゲットハーフサイト(R)は、ZFアレイの標的配列と完全に一致はせず、3’側にミスマッチが存在していた。これらの標的候補配列をCel−Iにより切断すると、ルシフェラーゼレポーター解析の結果と同様に、新規ヌクレアーゼドメインであるND1およびND2の切断効率はFokI−NDよりも約1.5倍以上高いことが明らかになった(図2AおよびB)。特に、ND1の変異導入活性は、解析したすべての標的候補配列において、ND2よりも安定した高い切断活性を有していた。これらの結果から、ND1およびND2は、実施例2のルシフェラーゼの発光を利用したレポーター解析での結果と同様に、生体内における標的ゲノム配列に対しても、従来型のFokI−NDよりも高活性である天然素材由来の新規ヌクレアーゼドメインであることが明らかとなった。
【0066】
一方、ND3においては、標的候補配列により変異導入活性が変化するものの、FokI−NDの活性の25〜45%程度であった。また、ND4においては、解析した標的候補配列すべてにおいて、検出可能な標的候補配列への変異導入が認められなかった。
【0067】
実施例4:新規ヌクレアーゼドメインの細胞内蓄積量解析
新規ヌクレアーゼドメインの変異導入率がFokI−NDよりも高いのは、細胞内に蓄積されている量がFokI−NDよりも多いことにより、見かけの変異導入率が高くなっているのかを明らかにするため、ZFNにタグを付加し、それを認識する抗体を用いることで、各ヌクレアーゼドメインの蓄積量を解析した。この解析を行うため、ZFNのN末端に新たにAcV5タグを付加したコンストラクトを作製し、解析に用いた。
【0068】
(1)細胞内蓄積量の解析(ウェスタンブロット解析)
細胞内におけるZFNの蓄積量を解析するため、実施例2で作製した各pSTL−ZFA36−NDを鋳型にPCRを行い、In−Fusion反応後、大腸菌へ形質転換し、ZFアレイのN末端側にAcV5タグが付加された各ZFNプラスミドを得た。該ZFNプラスミド240ngを含有する7.2μLのプラスミド溶液を調製した。該プラスミド溶液は、実施例2に記載のSSAアッセイと同様にしてHEK293T細胞へ形質導入し、37℃、二酸化炭素濃度5%で3日間培養した。培養液は、毎日交換した。
【0069】
培養したHEK293T細胞をトリプシン処理し、遠心後、上清を除いた。得られた沈殿をPBSで懸濁し、2%SDS、10%グリセロール、10mM DTT、0.005%BPBおよび62.5mMトリスーHCl(pH6.8)からなるサンプル処理液を加え、95℃で5分煮沸した。その後、超音波処理によって核酸などを裁断した。得られたタンパク質サンプルは、BSAを外部標準とし、タンパク質アッセイキット(Bio-Rad)によりタンパク質定量を行った。10μgとなるように調製した各サンプルをSDS−PAGEにより分離し、セミドライトランスファーによりPVDF膜へ転写した。転写後のPVDF膜は、5%スキムミルクを含むPBSでブロッキングを行い、2000倍に希釈したα−チューブリン抗体(Abcam)、およびAcV5−tag抗体(Sigma)と共にインキュベートした。PBSTで洗浄後、2000倍に希釈したヤギ抗−マウスIgG抗体コンジュゲートHRP(Bio-Rad)と共にインキュベートした。PBSTで洗浄後、Supersignal West Dura Extended Duration Substrate(Thermo Fisher)を用いて発光させ、X線フィルムに感光した。
【0070】
(2)結果
結果を図3に示す。内部標準としてα−チューブリンに対するモノクローナル抗体を用いて、細胞破砕液中のタンパク質量の比較を行ったところ、ZFNを形質導入していないコントロール細胞において、チューブリンの蓄積量が多くなっていた。各ヌクレアーゼドメインを含むZFNを発現させた場合には、FokI−NDとND1がやや少なく見えるが、ほぼ等量のチューブリン蓄積量が示され、ほぼ等量のタンパク質のSDS−PAGEによる分離およびPVDF膜への転写が示された。
【0071】
一方、チューブリンの蓄積量から分かるように、コントロールでは、各ヌクレアーゼドメインを発現させた細胞破砕液よりも多いタンパク質量で解析をしているにも拘わらず、AcV5タグ抗体に由来する非特異的なシグナルは見られず、AcV5抗体は特異的にタグを認識していることがわかった。このAcV5抗体により、タンパク質蓄積量の解析を行うと、各ヌクレアーゼドメインを形質導入した細胞破砕液では、FokI−ND、ND1〜ND3において、期待される大きさである約35kDa付近にAcV5タグに由来するシグナルが得られた。また、FokI−ND、ND1およびND2のシグナルは、ほぼ同程度であった。内部標準として用いたチューブリンの量と併せて考えると、FokI−ND、ND1およびND2の各ヌクレアーゼドメインの細胞内における蓄積量は、FokI−NDが最も多く細胞内に蓄積し、ついでND1、ND2の順に蓄積していることが示唆された。一方、ND3については、AcV5タグに由来するシグナルがFokI−ND等などと比べ、著しく強く得られたことから、細胞内におけるND3の蓄積量は、FokI−ND等よりも多いことが明らかとなった。
【0072】
(3)細胞内蓄積量および局在の解析(ZFN−EGFPの発現解析)
さらに、切断活性は失ってしまうが、各ZFNの細胞内での蓄積量と局在について明らかにするために、C末端にEGFPを融合したコンストラクトを作製した。作製したコンストラクトを用いて、HEK293T細胞へ形質導入し、共焦点レーザー顕微鏡でGFP由来の蛍光を観察することでZFNの発現量を、同時に細胞内局在を明らかにするため、核をDAPI染色し解析した。
【0073】
実施例2で作製した各pSTL−ZFA36−NDを鋳型にPCRを行い、In−Fusion反応後、大腸菌へ形質転換し、ZFアレイのC末端側にEGFPが付加された各ZFNプラスミドを得た。該ZFNプラスミド240ngを含有する7.2μLのプラスミド溶液を調製した。該プラスミド溶液は、実施例2に記載のSSAアッセイと同様にしてHEK293T細胞へ形質導入し、37℃、二酸化炭素濃度5%で3日間培養した。HEK293T細胞は、コラーゲン処理を行った24ウェルガラスボドムプレートへ塗布した。
【0074】
生育させたHEK293T細胞は、パラホルムアルデヒドで固定をした。PBS(−)で洗浄後、DAPIによる核酸の染色を行った。再度PBS(−)で洗浄をした後、共焦点レーザー顕微鏡(FD−1000D、Olympus)で観察を行った。EGFPはEx:473nm/Em:510nmで、DAPIはEx:405nm/Em:473nmでそれぞれ蛍光像を取得した。
【0075】
(4)結果
結果を図4に示す。ZFNを発現させていないネガティブコントロールでは、GFP由来の蛍光は見られず、DAPIによる核酸由来の蛍光のみが観察された。各ヌクレアーゼドメインにEGFPを融合したZFNを導入した細胞では、GFP由来の蛍光強度に違いが見られるものの、GFP由来の蛍光が細胞質および核で観察できた。
【0076】
FokI−ND−EGFPを発現させると、GFPの蛍光が細胞質に多く観察される細胞と、さらに核にも観察される細胞が見られた。ND1−EGFPを発現させると、FokI−NDの時よりも多くの細胞でGFP由来の蛍光が見られたが、それぞれの蛍光の強さはFokI−NDの時よりも弱かった。ND2−EGFPを発現させると、観察した細胞では、GFP由来の蛍光を有する細胞の数はFokI−NDと比べて少なかったが、細胞質と核に局在することがわかった。ND3−EGFPを発現させると、FokI−NDなどと同様に、核と細胞質で、GFP由来の蛍光が観察された。また、ND3ではGFP由来の蛍光が他のヌクレアーゼドメインよりも強く見られたことから、その分細胞内において発現量が多いと考えられた。ND3はウェスタンブロットによる解析でも、細胞内における蓄積量はFokI−NDよりも多い結果となっていたが、核に局在できても見かけの変異導入率は低く、また至適温度がFokI−NDとは異なるなど、酵素の生化学特性も異なると考えられた。
【0077】
(5)まとめ
抗体による解析およびGFPの蛍光による解析結果から、FokI−NDとND1およびND2は同程度細胞内に蓄積していることが明らかとなった。このことは、新規ヌクレアーゼドメインであるND1とND2の切断活性が高いのは、細胞内における蓄積量が多いためではなく、切断活性がFokI−NDよりも高いためであることが明らかになり、ND1およびND2が、従来ZFNなどで使用されていたFokI−NDをしのぐ切断活性を有する天然素材由来のヌクレアーゼドメインであることを意味している。
【0078】
実施例5:新規ヌクレアーゼドメインの標的配列の選択性解析
ND1およびND2のさらなる有用性を検証するため、ZFアレイとヌクレアーゼドメイン間のリンカー配列の改変を試みた。従来のZFNでは、リンカー配列の改変を行うと、切断活性を示すスペーサー配列の長さや細胞に与える毒性が異なることが報告されている。そこで、これまでの解析に使用してきた従来型リンカー配列であるTGAAARAリンカーの他、GSリンカー、RPGEKPリンカーおよびTGPGAAARAリンカーに改変したZFNベクターを構築し解析に用いた。
【0079】
(1)実験方法
TGAAARAリンカーを有するZFNベクターとして、実施例2で作製した各pSTL−ZFA36−NDを用いた。GSリンカー、RPGEKPリンカーおよびTGPGAAARAリンカーの選択はHandelら(2009)(非特許文献1)、Wilsonら(2013)(Wilson et al. (2013) Expanding the Repertoire of Target Sites for Zinc Nuclease-mediated Genome modification. Mol. Ther-Nucleic Acids 2:e88)、およびNomuraら(2012)(Nomura et al. (2012) Effects of DNA Binding of the Zinc Finger and Linkers for Domain Fusion on the Catalytic Activity of Sequence-Specific Chimeric Recombinase Determined by a Facile Fluorescent System. Biochemistry. 51:1510-1517)の報告を参考にした。各リンカーを改変したZFNベクターは、pSTL−ZFA36−NDを鋳型に各リンカー改変用プライマーペアーでPrimeSTAR Max(Takara)によりPCRを行った。得られたPCR産物をIn−Fusion(Clontech)を用いて反応させ、大腸菌に形質転換した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、塩基配列を確認することで、目的とするプラスミドを得た。さらに、スペーサーの長さを5bpまたは7bpに改変したSSAレポータープラスミドを用いて、実施例2に記載したようにSSAレポーターアッセイを行い、各ZFNのヌクレアーゼ活性を測定した。
【0080】
(2)結果
結果を図5に示す。なお、切断活性はいずれも、従来型リンカーを含み、スペーサー配列6bpのZFA−FokI−NDの切断活性を100%とした場合の相対活性で示す。
【0081】
スペーサー配列の長さを6bpとした場合、FokI−NDでは、従来型リンカー(TGAAARA)でZFアレイとヌクレアーゼドメインをつないだ時の切断活性に比べ、GSリンカーまたはRPGEKPリンカーに改変すると20%以下の活性に低下した。一方、TGPGAAARAリンカーに改変すると、FokI−NDの切断活性はリンカー改変前の約90%程度であった(図5A)。
【0082】
ND1では、スペーサー配列が6bpの場合、リンカー配列を改変しても切断活性は影響を受けず、リンカー配列改変前のFokI−NDの約90%程度の切断活性があった。ND2では、スペーサー配列が6bpの場合、リンカー配列改変前のFokI−NDの切断活性に比べ、GSリンカー配列に改変すると約60%、RPGEKPリンカー配列に改変すると約35%程度まで切断活性が低下した。これらの結果から、これまで報告がなされてきているように、スペーサー配列の長さが同じでも、解析に用いたリンカー配列によりヌクレアーゼドメインの切断活性に影響が及ぼされることが明らかとなった。
【0083】
スペーサー配列の長さを5bpにすると、6bpの時に比べ、FokI−NDの切断活性は、従来型リンカー配列(TGAAARAリンカー)で約40%程度に低下したが、GSリンカーに改変すると約50%程度の切断活性は残っていた。しかしながら、RPGEKPリンカーやTGPGAAARAリンカーに改変すると、FokI−NDの切断活性は従来型リンカー配列の場合の約20%となり、ほとんど切断できなかった。ND1においては、スペーサー配列が5bpの場合、GSリンカーに改変すると切断活性は高いままであったが、従来型リンカー配列では、約30%程度まで切断活性が低下し、またその他のリンカー配列に変換すると、ほとんど切断できなくなることが明らかとなった。
【0084】
ND2においては、スペーサー配列の長さを5bpにすると、リンカー配列を改変しても、ほとんど切断活性を示さなかった。スペーサー配列の長さが短い時、リンカー配列の影響が大きく、リンカー配列は、より短い方が切断活性が維持されやすいと考えられた。
【0085】
スペーサー配列の長さを7bpにした場合、FokI−NDでは、TGPGAAARAリンカーに改変した時のみ、切断活性が見られたが、この活性は従来型のリンカー配列でスペーサー配列の長さが6bpの切断活性の50%程度であった。他のリンカー配列に変換した時は、ほとんど切断活性を示さなかった。
【0086】
ND1では、スペーサー配列の長さを7bpにするとGSリンカー配列に改変すると切断活性を示さなくなったが、その他のリンカー配列に改変すると約50%以上の切断活性を示すことがわかった。特に、TGPGAAATAリンカー配列では、対象となるFokI−NDの切断活性よりも高くなると考えられた。一方、ND2については、従来型のリンカー配列で、約40%程度の切断活性を示したが、その他のリンカー配列に改変するとほとんど切断活性を示さなかった。スペーサー配列の長さが長い場合、リンカー配列は、長い方が切断活性が高くなる傾向となった。
【0087】
以上の結果から、FokI−NDに比べて、ND1は、リンカー配列の改変による影響を受け難く、且つスペーサー配列に対する制限も低く、FokI−NDよりも高い切断活性を示すことが明らかとなった。このことは、ND1が、標的配列の選択性等においても、FokI−NDより汎用性が高いヌクレアーゼドメインであることを示す。
【0088】
これまでZFNにおいて、FokI−NDの改変について報告がなされている。また、ヌクレアーゼドメインそのものをFokI−NDからPvuIIやI−TevIといったエンドヌクレアーゼに改変する報告もされている。このI−TevIを用いた改変ZFNでは、FokI−NDよりも切断活性は高いものの、ZFアレイの他、I−TevI内に存在する分子内リンカーやDNA結合モチーフのため、スペーサー配列が約30bp程度と、FokIの時に比べ長くなる。PvuIIに改変した時も同様に、スペーサー配列が長くなっている。その結果、ZFNにおいて作用するDNA配列も長く塩基配列による制限を受けやすくなると考えられる。一方、本発明のヌクレアーゼドメインは、ZFNにおいて利用した場合、従来型のFokI−NDと同じタンパク質の構造でありながら高い変異導入率を持ち、ZFNにおいて作用する標的DNA配列も全体で24bpと短くなる。このことから、本発明のヌクレアーゼドメインは、I−TevIなどに比べて塩基配列による制限も緩くなり、より簡便なゲノム編集ツールとして扱いやすい。
【0089】
実施例6:Sharkey変異を導入した新規ヌクレアーゼドメインの切断活性
FokI−NDに導入すると切断活性が高くなるアミノ酸置換(Sharkey変異)が知られている(Guo, J., Gaj, T. and Barbas, C.F., 3rd. (2010) Directed evolution of an enhanced and highly efficient FokI cleavage domain for zinc finger nucleases. J Mol Biol, 400, 96-107)。そこで、新規ヌクレアーゼドメインのND1とND2において、より切断活性を高めることを目的として、Sharkey変異と同じアミノ酸置換をそれぞれ導入することを試みた。
【0090】
(1)実験方法
Sharkey変異(FokI−NDにおけるS418PおよびK441Eアミノ酸置換、および他のヌクレアーゼドメインにおける対応するアミノ酸置換)を導入した各ヌクレアーゼドメインを含むZFNベクターは、Guoらの報告を参考に各pSTL−ZFA36−NDを鋳型にして、Sharkey変異導入用プライマーペアーでPrimeSTAR Max(Takara)によりPCRを行った。得られたPCR産物をIn−Fusion(Clontech)を用いて反応させ、大腸菌に形質転換した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、塩基配列を確認することで、目的とするプラスミドを得た。実施例2に記載したようにSSAレポーターアッセイを行い、各ZFNのヌクレアーゼ活性を測定した。Sharkey変異を有しないコントロールとして、実施例2で作製した各pSTL−ZFA36−NDを用いた。
【0091】
(2)結果
FokI−ND、Sharkey変異、ND1およびND2のアミノ酸配列を比較することで、Sharkey変異でもたらされたアミノ酸置換部位を特定した(図6)。結果を図6に示す。なお、切断活性はいずれも、Sharkey変異を有しないZFA−FokI−NDの切断活性を1とした場合の相対活性で示す。
【0092】
ND1では、Sharkey変異の導入に必要なアミノ酸の部位であるFokI−NDのS418およびK441の位置に相当するアミノ酸は、FokI−NDと同一でそれぞれS424およびK447であった。一方、ND2では、FokI−NDのS418の位置に相当するアミノ酸はSharkey変異と同じ(P422)となっていたが、FokI−NDのK441の位置に相当するアミノ酸については、S445となっていた。そのため、上記アミノ酸部位にSharkey変異と同じアミノ酸置換を導入したND1およびND2を、それぞれND1−Sharkey、ND2−Sharkeyとした。これらを用いてルシフェラーゼレポーターを利用した切断活性を測定したところ、FokI−NDのSharkey変異では、切断活性が約1.5倍程度上昇した(図6B)。既に報告がなされているように、Sharkey変異は、FokI−NDの切断活性を高めることが明らかとなった。しかしながら、ND1−SharkeyおよびND2−Sharkeyのどちらにおいても、アミノ酸置換導入前と比べその切断活性は低下し、期待した高切断活性は得られなかった。この結果は、ND1やND2のヌクレアーゼの切断メカニズムが、FokI−NDとは異なっていることを意味している。したがって、新規ヌクレアーゼドメインND1およびND2は、FokI−NDとは異なるヌクレアーゼドメインである。
【0093】
実施例7:ヘテロ二量体型ヌクレアーゼドメインを利用した切断活性
ZFNにより標的配列を切断する時、FokI−NDは二量体を形成している。さらに、FokI−NDは、特定のアミノ酸を置換することでヘテロ二量体形成時のみ切断活性を示すDDD型/RRR型等の変異体へ機能変換が可能であることが知られている。そこで、新規ヌクレアーゼドメインのND1とND2において、切断活性を維持するような機能改変が可能となるかを明らかにするため、さらに解析を行った。
【0094】
FokI−NDとのアライメントを作製することでヘテロ二量体形成に関わるアミノ酸がND1およびND2においても保存性があるのか検証した(図1B)。その結果、FokI−NDで明らかにされているヘテロ二量体型ヌクレアーゼへのアミノ酸置換部位で、最もC末端側に存在するヒスチジン残基以外のアミノ酸がND1およびND2でも保存されていた。このことからND1およびND2はFokI−NDと同様に、ヘテロ二量体型への機能変換が可能であると推測できた。そこで、ND1およびND2において、ヘテロ二量体形成時の切断活性を測定した。
【0095】
(1)実験方法
ND1およびND2にヘテロ二量体型への機能変換を行うため、表2に示すように、該当するアミノ酸部位に置換を導入した。なお、表中、「FokI」はFokI−NDを意味する。表中、アミノ酸ナンバーは、各ヌクレアーゼドメインの全長アミノ酸に基づく。
【0096】
【表2】
【0097】
ヘテロ二量体形成の解析を行うためには、ZFアレイの標的配列であるターゲットハーフサイト−Lとターゲットハーフサイト−Rが異なる配列である必要がある。これまでの実施例で用いていたZFアレイとは異なる配列を標的配列とするZFアレイを用いてコンストラクトを構築した。該ZFアレイとして、hPGRN_ZFL1をIDT社で人工合成した(以下、「ZFL1」ともいう)。実施例2で作製した各pSTL−ZFA36−NDのZFアレイをhPGRN_ZFL1と置換するため、ZFアレイ置換用プライマーペアーで、各pSTL−ZFA36−NDを鋳型にし、PrimeSTAR MaxによりPCRを行った。得られたPCR産物およびhPGRN_ZFL1をIn−Fusionを用いて反応させ、大腸菌に形質転換した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、塩基配列を確認することで、目的とする各pSTL−hPGRN_ZFL1−NDプラスミドを得た。
【0098】
さらに、FokI−NDのヘテロ二量体化に関わるアミノ酸(D483、R487、N496)に相当する各新規ヌクレアーゼドメインのアミノ酸をDDD型へ機能変換するため、各pSTL−hPGRN_ZFL1−NDを鋳型として、プライマーペアーを用いて、PrimeSTAR MaxによりPCRを行った。また、RRR型へ機能変換するため、各pSTL−ZFA36−NDを鋳型として、同様にPCRを行った。得られた各PCR産物はIn−Fusion反応後、大腸菌へ形質転換を行った。得られた各形質転換体からプラスミドを抽出し、シークエンス確認後、目的とするコンストラクト(以下、それぞれ、「DDD型変異ZFL1−ND」および「RRR型変異ZFA36−ND」ともいう)を調製した。得られた各DDD型ZFL1−NDおよび各RRR型ZFA36−NDを用いて、実施例2に記載したようにSSAレポーターアッセイを行い、各ZFNのヌクレアーゼ活性を測定した。但し、SSAレポーターアッセイに用いるプラスミド溶液7.2μL中の各ZFNプラスミドの量を、ターゲットハーフサイトLについて120ngおよびターゲットハーフサイトRについて120ngに変更した。さらに、実施例3の記載と同様にして、Cel−Iアッセイによりヌクレアーゼ活性を測定した。
【0099】
(2)結果
SSAレポーターアッセイの結果を図7および図8Aに示す。切断活性は、これまでのレポーター解析と同様、6bpスペーサー配列とし、ZFA36が左右二つの標的配列を認識するZFA36−FokIの切断活性に対する相対活性で算出した。Cel−Iアッセイの結果を図8Bに示す。
【0100】
ホモ二量体となるように、ZFL1に各ヌクレアーゼドメインつないだコンストラクトで、レポーター上の標的配列(ZFL1−ZFL1)の切断活性を測定したところ、図1Cに示した結果と同様、ND1やND2の活性はFokI−NDよりも高かった(図7A)。この結果から、異なるZFアレイを用いても、新規ヌクレアーゼドメインND1およびND2の高切断活性は普遍性があることが明らかとなった。
【0101】
ZFL1とヌクレアーゼドメインをつないだコンストラクトを用いてホモニ量体を形成させ、レポーター上の標的配列(ZFL1−ZFA36)の切断活性を測定したところ、ND1では、約40%の切断活性を有していたが、FokI−NDおよびND2では、切断活性はほとんど見られなかった(図8A)。一方、実施例2〜6で使用してきたZFアレイ(ZFA36)とヌクレアーゼドメインをつないだコンストラクトでホモニ量体を形成させ、同様に解析を行うと、FokI−NDやND2でも切断活性が見られ、それぞれ約35%と約50%であった。さらに、ND1では切断活性がより高く、約90%程度となっていた(図8A)。
【0102】
上記ホモ二量体型の各ヌクレアーゼドメインのZFアレイをZFA36とZFL1としたZFNコンストラクトを用いてヘテロ二量体を形成させ、切断活性を解析したところ、ZFA36のみで解析した時と同様にND1とND2の活性がFokI−NDよりも高くなった(図8A)。このことからもND1とND2はZFアレイに関わらず、高い切断活性を有し、普遍性があることがわかった。
【0103】
次に、ヘテロ二量体型の各ヌクレアーゼドメインのみを発現させた場合に二量体を形成し、切断活性を示すかを検証するため、レポーター上の標的配列(ZFL1−ZFL1またはZFA36−ZFA36)の切断活性を測定した。ZFL1につないだ各ヌクレアーゼドメインにはDDD型変異を、ZFA36につないだ各ヌクレアーゼドメインにはRRR型変異を導入したが、レポーター解析の結果、DDD型変異ZFL1−NDおよびRRR型変異ZFA36−NDのそれぞれは、単独ではほとんど切断活性が見られなかった(図7Aおよび図7B)。このことから、新規ヌクレアーゼドメインのND1とND2においても、FokI−NDと同様にDDD型/RRR型へのアミノ酸置換を導入することによりホモ二量体は形成できないことが明らかになった。
【0104】
各ヌクレアーゼドメインをヘテロ二量体型を形成するよう形質導入を行い、レポーター上の標的配列(ZFL1−ZFA36)の切断活性を測定した。結果を図8Aに示す。FokI−NDでの切断活性は対象の約60%程度にまで減少した。しかし、ND1では、ヘテロ二量体型としても、切断活性の低下は認められず、対象に比べ約1.6倍程度と高い活性が見られた。一方、ND2では、ヘテロ二量体型にすると切断活性がほとんど消失した。これらの結果から、ND1はFokI−NDよりも、高切断活性を有するヘテロ二量体型への機能変換が可能であることが明らかとなった。
【0105】
さらに、各ヘテロ二量体型ヌクレアーゼのゲノム標的配列に対する変異導入効率を明らかにするため、Cel−Iによる解析を行った(図8B)。表1に示すように、ゲノム上の標的塩基配列は、1st siteで、完全一致していた。ホモ二量体型およびヘテロ二量体型ヌクレアーゼを発現させたCHO−K1細胞からゲノムを調製し、これらの標的配列を含むPCR断片をCel−Iで処理したところ、ホモニ量体型では、これまで得られている結果と同様に、各ヌクレアーゼドメインは標的ゲノムDNAを切断した。一方、ヘテロ二量体型では、SSAレポーター解析の結果と同様に、FokI−NDでも変異導入は認められたが、ND1の方が変異導入率はより高くなっていた。ND2においては、標的ゲノム配列でも、検出可能な変異導入は見られず、切断活性を消失していると考えられた。
【0106】
これらの結果は、FokI−NDとは異なり、ND1は高活性を維持するヘテロ二量体型への機能変換が可能であること、またヘテロ二量体型への変換はND2に構造変化を大きくもたらす可能性が示唆され、これはそれぞれの構造特性がFokI−NDと異なっていることを意味している。
【0107】
実施例8:ヘテロ二量体型ヌクレアーゼドメインの組合せを利用した切断活性への効果
ヘテロ二量体形成時のヌクレアーゼドメインの組合せを変えることにより、従来型のFokI−NDよりも高切断活性を示すことが可能となるかについて、さらに解析を行った。
【0108】
実施例7で作製した各DDD型変異ZFL1−NDおよび各RRR型変異ZFA36−NDを用いて様々に組み合わせ、実施例2の記載と同様にしてSSAレポーターアッセイによりヌクレアーゼ活性を測定した。結果を図9に示す。
【0109】
DDD型変異FokI−NDと、RRR型変異を導入した各ヌクレアーゼドメインで解析したところ、これまで切断活性が高かったND1と組合せても、レポーターの切断活性の上昇は見られず、FokI−NDホモ二量体型の切断活性の約60%となった。また、ND2との組合せではほぼ切断活性は見られなくなった(図9A)。
【0110】
DDD型変異ND1では、RRR型変異FokI−NDとの組合せでは約80%程度の切断活性となったが、RRR型変異ND2との組合せでは、DDD型変異FokI−NDの時と同様、ほぼ切断活性を失っていた(図9B)。
【0111】
DDD型変異FokI−NDやDDD型変異ND1の結果と異なり、DDD型変異ND2では、RRR型変異ND1との組合せでのみ、高い切断活性が認められ、RRR型変異FokI−NDまたはRRR型変異ND2との組合せでは、切断活性はほぼ失っていた(図9C)。この結果、RRR型変異ND2のへテロ二量体型にすると、ヌクレアーゼドメインの組合せによらず、切断活性を喪失してしまうことが明らかとなった。
【0112】
切断活性を示すヘテロ二量体型ヌクレアーゼドメインの組合せが可能であることがわかったが、今回解析したアミノ酸置換では、DDD型変異ND1とRRR型変異ND1の組合せにおいてのみ切断活性を高めることが可能であった。また、DDD型変異ND2とRRR型変異ND1との組合せでも、FokI−NDのホモ二量体と同等の切断活性を有することが明らかとなった。これらの結果、ND1およびND2が二量体を形成する際、FokI−NDとは異なる構造的特性が影響していることが分かった。
【0113】
実施例9:ZFNによる変異導入の塩基配列レベルでの解析
ZFNによる標的配列への変異導入により塩基配列にどのような変化が生じるのかを調べた。
【0114】
(1)シークエンス解析
CHO−K1細胞のゲノム配列上に存在するZFA36の標的配列(1stサイトおよび2ndサイト)に対し、ZFNによる変異導入がどのような塩基配列の変化をもたらすのか明らかにするため、標的配列を含むゲノム領域のシークエンス解析を以下のようにして行った。実施例3に記載のCel−Iアッセイと同様にして、各ZFNを形質導入したCHO−K1ゲノムDNAを鋳型にして、KOD Fx Neoを用いてPCRを行った。得られたPCR産物はTArget clone plus(Toyobo)により、PCR産物へのA付加後、TAクローニングを行った。該PCR産物を大腸菌でクローニングし、独立した大腸菌形質転換体を無作為に、少なくとも16個以上選び、それぞれのプラスミドを抽出した。得られたプラスミドを400ngと終農度6.4pmolとなるように、M13−fプライマーを加え、Fasmac社にPCRとシークエンス解析を依頼した。得られたシークエンス配列から、各ZFNにおける標的配列の変異型シークエンスの配列とその割合を算出した。
【0115】
(2)結果
結果を図10に示す。ZFA36−ZFA36の1stサイトでは、FokI−NDでは、解析した17クローンのうち、1塩基挿入が1クローン、4塩基挿入が3クローン得られた。ND1では解析できた14クローンのうち、1塩基挿入、2塩基欠失および8塩基欠失がそれぞれ1クローン存在した。さらに、2塩基挿入かつ1塩基欠失となる変異が2クローン得られ、4塩基挿入となる変異が6クローンと今回の解析では最も多く得られた。ND2では解析できた13クローンのうち、1塩基挿入、2塩基挿入、2塩基欠失および4塩基欠失がそれぞれ1クローンずつ得られた。解析できたND3の15クローンおよびND4の16クローンでは、今回のZFA36−ZFA36 1stサイトの解析では、塩基の挿入や欠失は認められなかった。また、ZFA36標的配列の2ndサイトにおける各ヌクレアーゼドメインの変異導入を解析したところ、FokIでは解析した20クローンのうち、2塩基挿入、5塩基挿入および2塩基欠失がそれぞれ1クローンずつ得られ、230塩基を越す挿入も1クローン得られた。またZFA36 1stサイトと同様、4塩基挿入の変異が最も多く、3クローン得られた。ND1では解析した17クローンのうち、2塩基欠失および4塩基欠失がそれぞれ2クローンずつ得られた。この他、4塩基挿入が3クローン得られ、2塩基挿入が本解析では最も多く6クローン得られた。ND2では解析した16クローンのうち、1塩基挿入が1クローン得られた他、2塩基挿入が2クローン、4塩基挿入が解析した中で最も多い5クローン得られた。また、71塩基という大きな塩基の挿入が1クローン得られた。ND3では、1stサイトと異なり2ndサイトでは標的配列への変異導入が存在しており、解析した16クローンに、2塩基挿入、2塩基欠失および8塩基欠失がそれぞれ1クローンずつ得られた。ND4においては、解析できた14クローンは、全て1stサイトと同様2ndサイトでも標的配列への変異導入は見られなかった。
【0116】
シークエンス解析の結果、ND1やND2による標的並列への変異導入は、FokI−NDと似て4塩基挿入されたクローンが多く見られたが、FokI−NDでは見られないような様々なパターンがゲノムへの変異として見られた。新規ヌクレアーゼドメインにより生じる塩基の突出端がFokIヌクレアーゼドメインと異なる可能性がある。シークエンス解析により得られたZFA36の各標的サイトでの変異率を表3に示す。本解析条件では、シークエンス解析においても、標的ゲノム配列における各ヌクレアーゼドメインの変異導入率はCel−Iアッセイと同様となることが明らかとなった。
【0117】
【表3】
【0118】
実施例10:ZFA以外の核酸結合ドメインと組み合わせた新規ヌクレアーゼドメインの切断活性
本発明の新規ヌクレアーゼドメインがZFA以外の核酸結合ドメインを用いてもFokI−NDより高い切断活性を有するのかを明らかにするために、ND1とTALEとを含む人工核酸切断酵素を作製し、その切断活性を測定した。具体的には、発明者の研究室で開発したPlatinum TALEN(doi:10.1038/srep03379)技術を用いてTALE−FokI−NDおよびTALE−ND1を作製し、これらの切断活性をSSAレポーターアッセイ法により評価した。
【0119】
(1)TALE−ND1のデスティネーションベクターの構築
核酸結合モジュール未挿入のPlatinum TALEN用デスティネーションベクターであるptCMV−153/47−VR−NG(https://www.addgene.org/50704/)を鋳型とし、ptTALE−ヌクレアーゼドメイン置換用プライマーペア(ベクター増幅用)を用いてPrimeStar Maxにより増幅し、ベクターフラグメントを得た。また、ptTALE−ヌクレアーゼドメイン置換用プライマーペア(インサート増幅用)を用いてND1のインサートフラグメントを得た。これらのベクターフラグメントとインサートフラグメントを混合し、In−Fusion反応を行った。大腸菌を形質転換した後、得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、目的とするTALE−ND1のデスティネーションベクター(ptCMV−153/47−VR−NG中のFokI−NDをND1に置換したベクター)を得た。
【0120】
(2)核酸結合モジュールの組み込みとSSAレポータープラスミドの構築
上記(1)で得られたデスティネーションベクターに、CHO−K1細胞のROSA26遺伝子座およびHPRT1遺伝子座の配列を認識させるための核酸結合モジュールを、Golden Gate法により組み込んだ(doi:10.1038/srep03379に記載された手法に準拠)。これを用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体から目的とするプラスミド(TALE−ROSA26−ND1およびTALE−HPRT1−ND1)を得た。また、従来型のFokI−NDを保持するTALEN(TALE−FokI)についても同様にして核酸結合モジュールを組み込んだコンストラクト(TALE−ROSA26−FokIおよびTALE−HPRT1−FokI)を調製した。SSAレポータープラスミドについては、それぞれの標的配列を含むもの(SSA−CHO−ROSA26レポーターおよびSSA−CHO−HPRT1レポーター)を常法により調製した。ROSA26遺伝子座およびHPRT1遺伝子座の標的配列を下記の表4に示す。
【0121】
【表4】
【0122】
(3)細胞への導入とレポーターアッセイ
上記(2)で作製した、標的配列を認識させるための核酸結合モジュールを組み込んだTALENプラスミド(TALE−FokI−ND、およびTALE−ND1)、および標的配列を組み込んだSSAレポータープラスミドを用いて、HEK293T細胞にLipofectamine LTXを用いて形質導入を行い、形質導入後24時間の細胞を用いて、実施例2と同様にSSAレポーターアッセイを行った。対照として、FokI−NDを含むZFNプラスミド(pSTL−ZFA36)およびFokI−NDのみを発現するプラスミドpSTLを用いて同様に測定した。各TALE−NDの切断活性を、ZFA36の標的配列を含むレポーターに対するZFA36−FokIの切断活性の値を1とした時の相対活性として算出した。
【0123】
(4)結果
結果を図11Aおよび図11Bに示す。図11Aには、ROSA26遺伝子座由来の配列を標的とした時の結果、図11Bには、HPRT1遺伝子座由来の配列を標的とした時の結果が示される。
【0124】
図11Aから明らかなように、Platinum TALENのヌクレアーゼドメインが従来型FokI−NDであるTALE−ROSA26−FokIは、ROSA26遺伝子座由来配列を標的としたレポーターの切断活性が、ZFA36レポーターを標的としたZFA36−FokIの切断活性に近い活性を有することが明らかとなった。一方で、Platinum TALENのヌクレアーゼドメインをND1に置換したTALE−ROSA26−ND1では、ROSA26遺伝子座由来配列を標的とするレポーターの切断活性が、TALE−ROSA26−FokIに対して約2倍程度高値となることが明らかとなった。以上より、CHO−K1細胞の内在性ゲノムのROSA26遺伝子座由来配列を標的としたとき、TALE−ND1はヌクレアーゼドメインが従来型のFokI−NDであるTALE−FokIよりも高い切断活性を有することが示された。
【0125】
また、ROSA26遺伝子座とは異なる座位であるHPRT1遺伝子座に由来する配列を標的として、同様に解析を行った。その結果、図11Bから明らかなように、Platinum TALENのヌクレアーゼドメインが従来型FokI−NDであるTALE−HPRT1−FokIでは、HPRT1遺伝子座由来配列を標的とするレポーターの切断活性が、ZFA36レポーターを標的としたZFA36−FokIの切断活性の半分程度であることが明らかとなった。一方で、Platinum TALENのヌクレアーゼドメインをND1に置換したTALE−HPRT1−ND1では、HPRT遺伝子座由来配列を標的とするレポーターの切断活性が、TALE−FokIに比べ約2倍程度高い活性を示し、ROSA26遺伝子座由来配列と同様の結果が得られた。
【0126】
これらの結果から、ND1をPlatinum TALENのヌクレアーゼドメインとしたTALE−ND1が、従来型のFokI−NDを有するTALE−FokIよりも高い切断活性を示すことが明らかとなった。以上より、ZFNだけでなく、他の核酸結合ドメインを用いた場合でも、本発明の新規ヌクレアーゼドメインがFokI−NDよりも優れた切断活性を有するヌクレアーゼドメインであることが示唆された。
【0127】
以上から、本発明の新規ヌクレアーゼドメインは以下の主な特徴を有することが実証された。
【0128】
(i)本発明のND1およびND2、とりわけND1は、FokI−NDよりも顕著に高い切断活性を有する。また、ND1では別配列を認識するZFアレイや、TALEにおいてもFokI−NDを上回る切断活性を示すことから、ND1による切断活性の上昇効果は普遍性を有する。
【0129】
(ii)ZFアレイとNDとの間のリンカーを改変することで、ND1では5bpや7bpのスペーサーでも6bpスペーサーと同程度の切断活性を示すことから、ND1は二量体化する際にFokI−NDよりも高い柔軟性を有し、標的配列の制限を緩めることができる。
【0130】
(iii)ND1およびND2にDDD型変異とRRR型変異を導入することで、FokI−NDと同様にホモ二量体化を抑制できる。さらに、ZFL1−DDDとZFA36−RRRを組み合わせることで、ND1においてはヘテロ二量体での切断が可能である。またその際の切断活性は、野生型ND1と同程度であることから、ND1−DDD/RRRを用いることで、高い特異性と高い切断活性とを両立したヌクレアーゼドメインを得ることができる。
【0131】
(iv)DDD/RRR型のFokI−ND、ND1、ND2を相互に組み合わせて活性を検証したところ、全ての組み合わせの中でND1−DDDとND1−RRRのペアーが最も高い活性を示すことが明らかとなり、ND1−DDD/ND1−RRRヘテロダイマーシステムの優位性が証明された。
【0132】
実施例11:大腸菌におけるタンパク質の調製
(1)ZF−ND1およびZF−FokIの発現ベクターの構築
N末端にHisタグを含むpET−MCSプラスミドのXhoIサイトおよびSalIサイトを切断し、ZF−ND1断片を挿入した。ZF−ND1断片には、核局在シグナルNLS、Zinc−Finger(以下ZFと省略)、およびヌクレアーゼドメインND1を含む。ZFとしては、2種類の配列を認識するドメインを用いた。一つはZFA36であり、12塩基対のDNA配列GAAGATGGTを認識する。もう一つはZFL1であり、12塩基対のDNA配列GAAGGTGACを認識する。したがって、ZF(ZFA36A)−ND1、およびZF(ZFL1)−ND1を発現するプラスミドとして、pET−ZF(ZFA36A)ND1、およびpET−ZF(ZFL1)ND1をそれぞれ作成した。
【0133】
上記プラスミドを基にして、制限酵素FokIのヌクレアーゼドメイン(以下FokIと省略)をND1の代わりに挿入したプラスミド、pET−ZF(ZFA36A)−FokI、およびpET−ZF(ZFL1)−FokIをそれぞれ作成した。ZF(ZFA36A)−ND1、ZF(ZFL1)−ND1、ZF(ZFA36A)−FokI、およびZF(ZFL1)−FokIのアミノ酸配列を配列番号119〜122に示す。
【0134】
(2)大腸菌におけるZF−ND1タンパク質の発現および精製
ZF−ND1またはZF−FokIを発現するpETプラスミド、並びにpRARE2(ストラタジーン社)を大腸菌株BL21(DE3)へ形質転換し、カナマイシンおよびクロラムフェニコールを含むLB培地にて培養した。形質転換した大腸菌を37℃でOD(600nmにおける吸光度)が0.6になるまで培養した後、18°Cにて1時間培養した。イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を終濃度0.1mMになるように添加し、タンパク質の発現を誘導した。さらに18°Cにて17時間振盪培養した後、大腸菌を溶解緩衝液(20mM Tris−HCl、500mM NaCl、10% グリセロール、10mM イミダゾール、1mM フッ化ベンジルスルホニル、1mM ジチオスレイトール、pH8.0)を用いて溶解した。続いてニッケルNTAカラムにタンパク質を吸着させ、洗浄緩衝液(20mM Tris−HCl、500mM NaCl、10% グリセロール、20mM イミダゾール、pH8.0)を用いて夾雑物を除いた。タンパク質の溶出は溶出緩衝液(20mM Tris−HCl、500mM NaCl、10% グリセロール、500mM イミダゾール、pH8.0)を用いて行った。溶出したタンパク質の一部は、タンパク質収量の解析のために、SDSサンプルバッファーに溶解させた。溶出したタンパク質はゲルろ過クロマトグラフィーHiPrep 16/60 Sephacryl S−200 HR(GE healthcare、アメリカ合衆国、イリノイ)および緩衝液A(20mM HEPES、150mM NaCl、10% グリセロール、pH7.4)を用いて精製し、液体窒素を用いて瞬時に凍結した後、−80℃で保存した。タンパク質収量の解析のため、イミダゾール溶出したタンパク質画分および、最終精製されたタンパク質をSDSサンプルバッファーに溶解させてSDS−PAGEにより電気泳動を行なった。電気泳動の際には、既知濃度のBSAタンパク質を別レーンに泳動し、PAGE後のゲルをクマシー染色して目的のタンパク質分子量のバンドをChemiDoc XRS+により定量化し、タンパク質の分子量からタンパク質の収量を解析した。
【0135】
(3)結果
ZFNタンパク質を大腸菌で発現精製する際に、タンパク質収量が低いことが問題であった。ZFNタンパク質の根本的な性質として、可溶性が低く、凝集してしまうことが原因として考えられる。従来技術であるFokIと比較して、新規ND1のタンパク質の可溶性がどの程度か、検証した。
【0136】
【表5】
【0137】
表5に示した通り、ZF−ND1を大腸菌で発現させたところ、総じてZF−FokIよりも可溶性が高く、大腸菌培養1Lあたりの収量が向上していた。可溶性が高いほど高濃度にタンパク質を導入できるため、特にタンパク質を用いたゲノム編集において利便性が高い。
【0138】
実施例12: ZF−ND1とZF−Fok1の植物細胞における活性
(1)レポーター細胞の構築
ZF−ND1またはZF−FokIの活性を評価するため、DNA切断後のSSA(single−strand annealing: 一本鎖アニーリング)が誘導された場合に、完全長2.1kbのGUS(β−glucuronidase: グルクロニダーゼ)遺伝子が発現するレポーター細胞を構築した。具体的には、GUS遺伝子の上流から1.8kb、ZFA36の認識配列(GAAGCTGGT)、およびGUS遺伝子の下流から0.8kbをpCAMBIA1305.2(Marker Gene社)へ導入した。上記GUS遺伝子の上流から1.8kb、およびGUS遺伝子の下流から0.8kbは、500bpを共通配列(オーバーラップ領域)として有する。このベクターをアグロバクテリウムを介して、シロイヌナズナT87培養細胞株(理化学研究所)へ形質転換し、樹立した細胞株をT87−GUUS(ZFA36)とした。GUSの発現は青色の染色試薬であるX−Glucを用いて容易に可視化・検出することが可能であるため、GUSタンパク質の検出によりZF−ND1またはZF−FokIの核内への導入およびSSA誘導活性を評価することができる。
【0139】
(2)エレクトロポレーション法による導入
実施例11において作成したタンパク質をエレクトロポレーション法により導入した。樹立したT87−GUUS(ZFA36)細胞を用いて、細胞壁を有する状態のT87細胞に対してエレクトロポレーション法によるZF−ND1およびZF−FokIの導入を試みた。エレクトロポレーションにはネッパジーン社より販売されているNEPA21 Type IIを使用した。Opti−MEMIバッファーを用いてエレクトロポレーションを行い、2日後にGUS活性の評価を行った。その結果、図12に示すように、Opti−MEMIを用いてエレクトロポレーションした場合、非常に多くの細胞がGUSを発現していた。ZF−ND1タンパク質を用いた実験では、ZF−FokIタンパク質を用いた場合と比較してSSA誘導活性が2倍程度高いことがわかった。本実験では、ZF−ND1が遺伝子発現ベクターとしてだけではなくタンパク質として導入した場合にも、ZF−FokIと比較して高い活性を有すること、および、ZF−ND1が動物細胞だけでなく植物細胞においてもZF−FokIと比較して高い活性を有することが明らかとなった。
【0140】
(3)プロテイントランスダクション法による導入
実施例11で作成したタンパク質を用いて、プロテイントランスダクション法による導入を試みた。すなわち細胞壁を有するT87−GUUS(ZFA36)に対して、最終濃度0.1−2μMのZF(ZFA36A)−ND1タンパク質もしくはZF(ZFA36A)−FokIタンパク質を添加した後、1時間後に培養培地で洗浄し、3日間の培養を行なった。タンパク質を添加時には、プロテアーゼ処理等の生化学的な処理や、エレクトロポレーション等の物理化学的な処理は、まったく行っていない。したがって、タンパク質の自発的な取り込みを期待したものである。その結果、図13に示す通り、エレクトロポレーション法と比較して少ない割合ではあるが、プロテイントランスダクション法によりZF(ZFA36A)−ND1タンパク質およびZF(ZFA36A)−FokIタンパク質が取り込まれてゲノム編集可能であることが明らかとなった。プロテイントランスダクション法を用いた場合、ZF(ZFA36A)−ND1の活性はZF(ZFA36A)−FokIを比較して、同等もしくはそれ以上の活性であった。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の新規ヌクレアーゼドメインは、FokIのヌクレアーゼドメインとは異なる優れた特性を有し、本発明のヌクレアーゼドメインを含む人工核酸切断酵素は、ゲノム編集ツールとして非常に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0142】
SEQ ID NO:9; ND1 substitution forward primer
SEQ ID NO:10; ND1 substitution reverse primer
SEQ ID NO:11; ND2 substitution forward primer
SEQ ID NO:12; ND2 substitution reverse primer
SEQ ID NO:13; ND3 substitution forward primer
SEQ ID NO:14; ND3 substitution reverse primer
SEQ ID NO:15; ND4 substitution forward primer
SEQ ID NO:16; ND4 substitution reverse primer
SEQ ID NO:17; forward primer for linker alteration, ZFN-FokI-GS-F
SEQ ID NO:18; reverse primer for linker alteration, ZFN-GS-inverse-R
SEQ ID NO:19; forward primer for linker alteration, ZFN-ND1-GS-F
SEQ ID NO:20; reverse primer for linker alteration, ZFN-GS-inverse-R
SEQ ID NO:21; forward primer for linker alteration, ZFN-ND2-GS-F
SEQ ID NO:22; reverse primer for linker alteration, ZFN-GS-inverse-R
SEQ ID NO:23; forward primer for linker alteration, ZFN-FokI-RPGEKP-F
SEQ ID NO:24; reverse primer for linker alteration, ZFN-RPGEKP-R
SEQ ID NO:25; forward primer for linker alteration, ZFN-ND1-RPGEKP-F
SEQ ID NO:26; reverse primer for linker alteration, ZFN-RPGEKP-R
SEQ ID NO:27; forward primer for linker alteration, ZFN-ND2-RPGEKP-F
SEQ ID NO:28; reverse primer for linker alteration, ZFN-RPGEKP-R
SEQ ID NO:29; forward primer for linker alteration, ZFN-FokI-TGPGAAARA-F
SEQ ID NO:30; reverse primer for linker alteration, ZFN-FokI-TGPGAAARA-R
SEQ ID NO:31; forward primer for linker alteration, ZFN-ND1-TGPGAAARA-F
SEQ ID NO:32; reverse primer for linker alteration, ZFN-FokI-TGPGAAARA-R
SEQ ID NO:33; forward primer for linker alteration, ZFN-ND2-TGPGAAARA-F
SEQ ID NO:34; reverse primer for linker alteration, ZFN-FokI-TGPGAAARA-R
SEQ ID NO:35; forward primer for Sharkey mutation introduction in FokI-ND
SEQ ID NO:36; reverse primer for Sharkey mutation introduction in FokI-ND
SEQ ID NO:37; forward primer for Sharkey mutation introduction in ND1
SEQ ID NO:38; reverse primer for Sharkey mutation introduction in ND1
SEQ ID NO:39; forward primer for Sharkey mutation introduction in ND2
SEQ ID NO:40; reverse primer for Sharkey mutation introduction in ND2
SEQ ID NO:41; ZFA substitution forward primer
SEQ ID NO:42; ZFA substitution reverse primer
SEQ ID NO:43; forward primer for FokI-DDD mutation introduction
SEQ ID NO:44; reverse primer for FokI-DDD mutation introduction
SEQ ID NO:45; forward primer for ND1-DDD mutation introduction
SEQ ID NO:46; reverse primer for ND1-DDD mutation introduction
SEQ ID NO:47; forward primer for ND2-DDD mutation introduction
SEQ ID NO:48; reverse primer for ND2-DDD mutation introduction
SEQ ID NO:49; forward primer for FokI-RRR vector mutation introduction
SEQ ID NO:50; reverse primer for FokI-RRR vector mutation introduction
SEQ ID NO:51; forward primer for FokI-RRR insert mutation introduction
SEQ ID NO:52; reverse primer for FokI-RRR insert mutation introduction
SEQ ID NO:53; forward primer for ND1-RRR vector mutation introduction
SEQ ID NO:54; reverse primer for ND1-RRR vector mutation introduction
SEQ ID NO:55; forward primer for ND1-RRR insert mutation introduction
SEQ ID NO:56; reverse primer for ND1-RRR insert mutation introduction
SEQ ID NO:57; forward primer for ND2-RRR vector mutation introduction
SEQ ID NO:58; reverse primer for ND2-RRR vector mutation introduction
SEQ ID NO:59; forward primer for ND2-RRR insert mutation introduction
SEQ ID NO:60; reverse primer for ND2-RRR insert mutation introduction
SEQ ID NO:61; M13-F primer
SEQ ID NO:62; CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:63; CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:64; CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 3rd site
SEQ ID NO:65; CHO-K1 ZFL1-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:66; CHO-K1 ZFL1-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:67; FokI-DDD amino acid sequence
SEQ ID NO:68; FokI-RRR amino acid sequence
SEQ ID NO:69; ND1-DDD amino acid sequence
SEQ ID NO:70; ND1-RRR amino acid sequence
SEQ ID NO:71; ND2-DDD amino acid sequence
SEQ ID NO:72; ND2-RRR amino acid sequence
SEQ ID NO:73; FokI-S418P/K441E amino acid sequence
SEQ ID NO:74; ND1-S418P/K441E amino acid sequence
SEQ ID NO:75; ND2-S441E amino acid sequence
SEQ ID NO:76; FokI-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:77; FokI-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:78; FokI-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:79; ND1-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:80; ND1-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:81; ND1-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:82; ND1-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:83; ND1-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:84; ND1-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:85; ND2-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:86; ND2-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:87; ND2-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:88; ND2-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:89; ND2-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:90; ND3-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:91; ND4-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 1st site
SEQ ID NO:92; FokI-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:93; FokI-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:94; FokI-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:95; FokI-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:96; FokI-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:97; FokI-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:98; ND1-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:99; ND1-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:100; ND1-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:101 ND1-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:102 ND1-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:103; ND2-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:104; ND2-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:105; ND2-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:106; ND2-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:107; ND2-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:108; ND3-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:109; ND3-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:110; ND3-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:111; ND3-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:112; ND4-cleaved CHO-K1 ZFA36-ZFA36 target 2nd site
SEQ ID NO:113; forward primer for vector amplification for ptTALE-ND substitution, ptTALEN-inverse-F
SEQ ID NO:114; reverse primer for vector amplification for ptTALE-ND substitution, NC-inverse-R_2
SEQ ID NO:115; forward primer for insert amplification for ptTALE-ND substitution, ND1-NC-F_v2
SEQ ID NO:116; reverse primer for insert amplification for ptTALE-ND substitution, ND1-ptTALEN-R
SEQ ID NO:117; target sequence on ROSA26 locus in CHO-K1 cell
SEQ ID NO:118; target sequence on HPRT1 locus in CHO-K1 cell
SEQ ID NO:119; ZF(ZFA36A)-ND1 amino acid sequence
SEQ ID NO:120; ZF(ZFL1)-ND1 amino acid sequence
SEQ ID NO:121; ZF(ZFA36A)-FokI amino acid sequence
SEQ ID NO:122; ZF(ZFL1)-FokI amino acid sequence
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]