【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
なお、実施例で用いた細胞は、以下のようにして培養した。
【0049】
<細胞培養>
HEK293T細胞は、10%FBS(Difco)、1%ストレプトマイシン−ペニシンリン(和光純薬工業)、1%NEAA(Difco)を含むD−MEM培地(和光純薬工業)で維持した。CHO−K1細胞は、10%FBS、1%ストレプトマイシン−ペニシリン、5%カナマイシン(和光純薬工業)を含むHam’s−F12(Difco)で維持した。以下、培養温度について特に記載がない場合、培養細胞は、37℃、二酸化炭素濃度5%で維持し、記載がある場合にはその温度に従った。また、培養液についても、記載がない場合は上記のそれぞれの培地を使用した。
【0050】
実施例1:新規ヌクレアーゼドメインの探索
FokIのC末端側のアミノ酸配列を元にして、Protein−protein BLASTにより相同性のある天然素材の検索を行った。得られた検索結果において、FokI−NDとの相同性が35%〜70%のものの中から任意に4種類の候補を選んだ。それらを相同性の高い配列からND1(アミノ酸配列同一性70%;全長アミノ酸配列:配列番号1;対応塩基配列:配列番号2)、ND2(アミノ酸配列同一性57%;全長アミノ酸配列:配列番号3;対応塩基配列:配列番号4)、ND3(アミノ酸配列同一性49%;全長アミノ酸配列:配列番号5;対応塩基配列:配列番号6)、ND4(アミノ酸配列同一性45%;全長アミノ酸配列:配列番号7;対応塩基配列:配列番号8)と称する。
【0051】
ND1〜ND4のアミノ酸配列をFokI−NDのアミノ酸配列と比較したところ、アミノ酸の欠失や置換が生じているものの、FokI−NDとヌクレアーゼドメインの長さは、ほぼ同じであることが明らかになった。また、ND1〜ND4は、FokI−NDが切断活性を持つ二量体を形成する際に必須となると考えられているアミノ酸(D483、R487)、およびDNAのリン酸ジエステル結合の加水分解による切断に関与すると推定されているアミノ酸(D450、D467およびK469)を保持していた(
図1B)。したがって、ND1〜ND4はヌクレアーゼ活性を有していると考えられた。
【0052】
実施例2:新規ヌクレアーゼドメインの切断活性(SSA法)
ND1〜ND4のヌクレアーゼ活性を評価するため、ND1〜ND4の各々を含むZFNプラスミド(pSTL−ZFA36−ND)を作製し、SSAレポーターアッセイにより各新規ヌクレアーゼドメインの切断活性を測定した。
【0053】
(1)ZFNプラスミド構築
ND1〜ND4の塩基配列はコドン最適化を行い、IDT社により人工合成を行った。ZFNプラスミド(pSTL−ZFA36)は、落合らが作製したコンストラクトを使用した(Ochiai et al.(2010) Targeted mutagenesis in the sea urchin embryo using zinc-finger nucleases. Genes to Cells 15:875-885)。pSTL−ZFA36のFokI−NDを新たに同定したND1〜ND4と置換するため、各ヌクレアーゼドメイン置換用プライマーペアーでPrimeSTAR Max(Takara)によりPCRを行った。PCRは98℃で2分処理後、98℃で10秒、60℃で5秒、68℃で40秒という反応を40サイクル行った。得られたPCR産物および、人工合成したND1〜ND4をIn−Fusion(Clontech)を用いて反応させ、大腸菌に形質転換した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、塩基配列を確認することで、目的とする各pSTL−ZFA36−NDプラスミドを得た。得られたZFA(ジンクフィンガーアレイ)36−NDの模式図を
図1Aに示す。該ZFA36−NDは、TGAAARAリンカーを有する。
【0054】
(2)SSAレポーターアッセイ
SSAレポータープラスミド120ng、上記の各pSTL−ZFA36−NDプラスミド240ng、参照プラスミドpRL−CMV(Promega)(形質導入効率を標準化するためのプラスミド)24ngを含む7.2μLのプラスミド溶液を調製した。該SSAレポータープラスミドは、Luc配列のオーバーラップ領域に挟まれるように、6bpのスペーサー配列を含むZFアレイ(ZFA36)の標的配列が挿入されるように、既知の方法にしたがって調製した(Ochiai et al.(2010) Targeted mutagenesis in the sea urchin embryo using zinc-finger nucleases. Genes to Cells 15:875-885)。ポリリジンコート処理済みの96穴マルチウェルプレート(Iwaki)に、25μLの無血清D−MEM培養液を加え、6μLのプラスミド溶液を混合した。ここに無血清のD−MEM培養液25μL当たり0.7μLのLipofectamine LTX(Life Technologies)を加えた溶液を25.7μL加え、30分室温で放置した。この間に、HEK293T細胞を100mmの組織培養皿(Iwaki)からトリプシン処理により解離させ、1000rpmで3分遠心後、上清を取り除き、再度5mLの培養液で懸濁した。10μLの細胞懸濁液を分取し、細胞数を計測した。得られた細胞数から、細胞懸濁液中の細胞数が6×10
5細胞/mLとなるように、培養液を加えて調整した。該細胞懸濁液100μLを、上記の30分間室温で放置した96穴プレートに加えた。その後、該96穴プレートを37℃、二酸化炭素濃度5%に移して培養することにより、形質導入を行った。
【0055】
形質導入を行い24時間培養したHEK293T細胞の培養液を75μL取り除き、Dual Gloルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)に付属するDual Gloルシフェラーゼ基質を各ウェルに75μL加え、暗所、室温で10分処理した。その後、マルチウェルプレートリーダーのTriStar LB941により、ルシフェラーゼ活性を測定した。測定後、各サンプルに100倍希釈したDual Glo Stop & Glo Substrateを含むDual Glo Stop & Glo Bufferを75μL加え、暗所、室温で10分処理をし、先程と同様にプレートリーダーで、参照プラスミドのルシフェラーゼ活性を測定した。対照として、FokI−NDを含むZFA36−FokIを用いて同様に測定した。測定結果は、SSAレポーターのルシフェラーゼ活性を参照プラスミドのルシフェラーゼ活性で割った値の変化を算出し、ZFA36−FokIの値を1とした時の各サンプルでの相対値を求めた。
【0056】
(3)結果
結果を
図1Cに示す。
図1Cから明らかなように、ND1およびND2は、従来使用されてきたFokI−NDに比べ、切断活性が20%以上も高かった。一方、ND3およびND4では切断活性が低く、FokI−NDの約2割程度しか持っていないことが明らかとなった。
【0057】
さらに、ヌクレアーゼドメインを細胞内で発現させず、該細胞内に元々存在するヌクレアーゼがルシフェラーゼレポーターを標的とするかを確認した。その結果、FokI−NDに対する相対活性が著しく低かったことから、ルシフェラーゼレポーターはHEK293T細胞内に存在する様々なヌクレアーゼの標的になり得ないことがわかった。この解析により、ND1およびND2が、ZFNで従来使用されてきたFokI−NDの切断活性をしのぐ、天然素材に由来する新規ヌクレアーゼドメインであることが明らかとなった。
【0058】
実施例3:新規ヌクレアーゼドメインの標的ゲノムに対する切断活性(Cel−I法)
実施例2でヌクレアーゼ活性を有することを確認した新規ヌクレアーゼドメインND1およびND2が生体において、ゲノムDNAにどの程度変異導入をもたらすのか確認するため、Cel−Iアッセイにより、新規ヌクレアーゼドメインの培養細胞におけるゲノムDNAへの変異導入率の解析を行った。比較対照として、FokI−ND、ND3およびND4も同様に解析した。
【0059】
(1)Cel−Iアッセイ
TALENやZFNなどのゲノム編集ツールを形質導入した細胞では、それらが持つヌクレアーゼドメインによる標的DNAの切断と細胞内に存在する修復機構による切断部位の修復が行われるが、この過程で修復エラーが生じる。このゲノムDNAの標的配列を含む領域をPCRで増幅すると、野生型アレルのPCR断片と変異を含むPCR断片の混合産物が得られる。これら産物を乖離後再会合させると野生型アレルと変異を含むアレルのPCR断片からなるミスマッチを含む二本鎖DNAが生じ、これがミスマッチ特異的エンドヌクレアーゼ(Cel−Iヌクレアーゼ)で切断される。該切断パターンを検出することで、変異導入を評価できる。
【0060】
CHO−K1細胞をトリプシン処理により解離させ、1000rpm、3分遠心後、上清を取り除いた後、10mLの培養液で懸濁した。10μLの細胞懸濁液を用いて細胞数を測定し、細胞数が1×10
5cells/mLとなるように培養液を加え、37℃、二酸化炭素濃度5%で一晩培養した。
【0061】
500μLのOpti−MEM(Difco)に800ngとなるよう、実施例2で作製した各ZFNプラスミドを加え、室温で5分放置した。500μLのOpti−MEMに32μLのLipofectamine LTXを加え、その全量を、上記のプラスミドを含むOpti−MEM培地と混合し、室温で30分放置した。この間に、一晩生育させたCHO−K1細胞の培養液を4mLのOpti−MEMに交換した。該細胞培養液に、上記の室温で30分放置したプラスミド溶液全量を加え、37℃、二酸化炭素濃度5%で一晩培養した。翌日の午前中に、培養液をOpti−MEMから10mLの培養液に交換し、さらに、37℃、二酸化炭素濃度5%で培養を続けた。また、24時間後から終濃度500μg/mLとなるように、ピューロマイシン(和光純薬工業)を添加した。以降毎日、培養液交換およびピューロマイシン添加を行いながら、3日間培養を行った。
【0062】
上記のようにしてZFNプラスミドを形質導入したCHO−K1細胞は、トリプシン処理によって培養皿から回収した。回収した細胞は、PBS(−)で一度洗浄を行った。得られた細胞は、DNA精製キット(Qiagen)またはGeneArt Genomic Cleavage Detection Kit(Life Technologies)に含まれる細胞溶解バッファーおよびタンパク質分解剤(Protein degrader)による処理のいずれかにより、ゲノムDNAを調製した。調製したゲノムDNAを鋳型に、KOD Fx Neo(ToYoBo)もしくは、AmpliTaq Gold(Life Technologies)を用いてPCRを行った。PCRは、KOD Fx Neoの場合は、95℃で2分加熱後、95℃を30秒、60℃を30秒、68℃を30秒というサイクルを40サイクル行い、ターゲットを増幅した。AmpliTaq Goldの場合は、95℃で10分処理した後、95℃を10秒、60℃を30秒、72℃を40秒というサイクルを40サイクル行った後、最後に72℃で7分処理しターゲットを増幅した。得られた各PCR産物は等量を、GeneArtGenomic Cleavage Detection Kitを用いて、マニュアルに従い、検出酵素による切断反応を行った。反応後の溶液は、アガロース電気泳動または、MultiNA(島津製作所)により切断断片を検出した。非切断バンドおよびより大きい切断断片のモル濃度から、切断効率を計算した。
【0063】
(2)結果
MultiNAによる泳動の結果を
図2に示す。解析に用いたCHO−K1細胞におけるZFNのゲノム標的(ZFA36−ZFA36)候補配列を表1に示す。また、後記する実施例7で使用するZFNのゲノム標的(ZFL1−ZFA36)候補配列も表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
解析した標的配列すべてにおいて、ターゲットハーフサイト(L)は、ZFアレイの標的配列と完全に一致していた。一方、ターゲットハーフサイト(R)は、ZFアレイの標的配列と完全に一致はせず、3’側にミスマッチが存在していた。これらの標的候補配列をCel−Iにより切断すると、ルシフェラーゼレポーター解析の結果と同様に、新規ヌクレアーゼドメインであるND1およびND2の切断効率はFokI−NDよりも約1.5倍以上高いことが明らかになった(
図2AおよびB)。特に、ND1の変異導入活性は、解析したすべての標的候補配列において、ND2よりも安定した高い切断活性を有していた。これらの結果から、ND1およびND2は、実施例2のルシフェラーゼの発光を利用したレポーター解析での結果と同様に、生体内における標的ゲノム配列に対しても、従来型のFokI−NDよりも高活性である天然素材由来の新規ヌクレアーゼドメインであることが明らかとなった。
【0066】
一方、ND3においては、標的候補配列により変異導入活性が変化するものの、FokI−NDの活性の25〜45%程度であった。また、ND4においては、解析した標的候補配列すべてにおいて、検出可能な標的候補配列への変異導入が認められなかった。
【0067】
実施例4:新規ヌクレアーゼドメインの細胞内蓄積量解析
新規ヌクレアーゼドメインの変異導入率がFokI−NDよりも高いのは、細胞内に蓄積されている量がFokI−NDよりも多いことにより、見かけの変異導入率が高くなっているのかを明らかにするため、ZFNにタグを付加し、それを認識する抗体を用いることで、各ヌクレアーゼドメインの蓄積量を解析した。この解析を行うため、ZFNのN末端に新たにAcV5タグを付加したコンストラクトを作製し、解析に用いた。
【0068】
(1)細胞内蓄積量の解析(ウェスタンブロット解析)
細胞内におけるZFNの蓄積量を解析するため、実施例2で作製した各pSTL−ZFA36−NDを鋳型にPCRを行い、In−Fusion反応後、大腸菌へ形質転換し、ZFアレイのN末端側にAcV5タグが付加された各ZFNプラスミドを得た。該ZFNプラスミド240ngを含有する7.2μLのプラスミド溶液を調製した。該プラスミド溶液は、実施例2に記載のSSAアッセイと同様にしてHEK293T細胞へ形質導入し、37℃、二酸化炭素濃度5%で3日間培養した。培養液は、毎日交換した。
【0069】
培養したHEK293T細胞をトリプシン処理し、遠心後、上清を除いた。得られた沈殿をPBSで懸濁し、2%SDS、10%グリセロール、10mM DTT、0.005%BPBおよび62.5mMトリスーHCl(pH6.8)からなるサンプル処理液を加え、95℃で5分煮沸した。その後、超音波処理によって核酸などを裁断した。得られたタンパク質サンプルは、BSAを外部標準とし、タンパク質アッセイキット(Bio-Rad)によりタンパク質定量を行った。10μgとなるように調製した各サンプルをSDS−PAGEにより分離し、セミドライトランスファーによりPVDF膜へ転写した。転写後のPVDF膜は、5%スキムミルクを含むPBSでブロッキングを行い、2000倍に希釈したα−チューブリン抗体(Abcam)、およびAcV5−tag抗体(Sigma)と共にインキュベートした。PBSTで洗浄後、2000倍に希釈したヤギ抗−マウスIgG抗体コンジュゲートHRP(Bio-Rad)と共にインキュベートした。PBSTで洗浄後、Supersignal West Dura Extended Duration Substrate(Thermo Fisher)を用いて発光させ、X線フィルムに感光した。
【0070】
(2)結果
結果を
図3に示す。内部標準としてα−チューブリンに対するモノクローナル抗体を用いて、細胞破砕液中のタンパク質量の比較を行ったところ、ZFNを形質導入していないコントロール細胞において、チューブリンの蓄積量が多くなっていた。各ヌクレアーゼドメインを含むZFNを発現させた場合には、FokI−NDとND1がやや少なく見えるが、ほぼ等量のチューブリン蓄積量が示され、ほぼ等量のタンパク質のSDS−PAGEによる分離およびPVDF膜への転写が示された。
【0071】
一方、チューブリンの蓄積量から分かるように、コントロールでは、各ヌクレアーゼドメインを発現させた細胞破砕液よりも多いタンパク質量で解析をしているにも拘わらず、AcV5タグ抗体に由来する非特異的なシグナルは見られず、AcV5抗体は特異的にタグを認識していることがわかった。このAcV5抗体により、タンパク質蓄積量の解析を行うと、各ヌクレアーゼドメインを形質導入した細胞破砕液では、FokI−ND、ND1〜ND3において、期待される大きさである約35kDa付近にAcV5タグに由来するシグナルが得られた。また、FokI−ND、ND1およびND2のシグナルは、ほぼ同程度であった。内部標準として用いたチューブリンの量と併せて考えると、FokI−ND、ND1およびND2の各ヌクレアーゼドメインの細胞内における蓄積量は、FokI−NDが最も多く細胞内に蓄積し、ついでND1、ND2の順に蓄積していることが示唆された。一方、ND3については、AcV5タグに由来するシグナルがFokI−ND等などと比べ、著しく強く得られたことから、細胞内におけるND3の蓄積量は、FokI−ND等よりも多いことが明らかとなった。
【0072】
(3)細胞内蓄積量および局在の解析(ZFN−EGFPの発現解析)
さらに、切断活性は失ってしまうが、各ZFNの細胞内での蓄積量と局在について明らかにするために、C末端にEGFPを融合したコンストラクトを作製した。作製したコンストラクトを用いて、HEK293T細胞へ形質導入し、共焦点レーザー顕微鏡でGFP由来の蛍光を観察することでZFNの発現量を、同時に細胞内局在を明らかにするため、核をDAPI染色し解析した。
【0073】
実施例2で作製した各pSTL−ZFA36−NDを鋳型にPCRを行い、In−Fusion反応後、大腸菌へ形質転換し、ZFアレイのC末端側にEGFPが付加された各ZFNプラスミドを得た。該ZFNプラスミド240ngを含有する7.2μLのプラスミド溶液を調製した。該プラスミド溶液は、実施例2に記載のSSAアッセイと同様にしてHEK293T細胞へ形質導入し、37℃、二酸化炭素濃度5%で3日間培養した。HEK293T細胞は、コラーゲン処理を行った24ウェルガラスボドムプレートへ塗布した。
【0074】
生育させたHEK293T細胞は、パラホルムアルデヒドで固定をした。PBS(−)で洗浄後、DAPIによる核酸の染色を行った。再度PBS(−)で洗浄をした後、共焦点レーザー顕微鏡(FD−1000D、Olympus)で観察を行った。EGFPはEx:473nm/Em:510nmで、DAPIはEx:405nm/Em:473nmでそれぞれ蛍光像を取得した。
【0075】
(4)結果
結果を
図4に示す。ZFNを発現させていないネガティブコントロールでは、GFP由来の蛍光は見られず、DAPIによる核酸由来の蛍光のみが観察された。各ヌクレアーゼドメインにEGFPを融合したZFNを導入した細胞では、GFP由来の蛍光強度に違いが見られるものの、GFP由来の蛍光が細胞質および核で観察できた。
【0076】
FokI−ND−EGFPを発現させると、GFPの蛍光が細胞質に多く観察される細胞と、さらに核にも観察される細胞が見られた。ND1−EGFPを発現させると、FokI−NDの時よりも多くの細胞でGFP由来の蛍光が見られたが、それぞれの蛍光の強さはFokI−NDの時よりも弱かった。ND2−EGFPを発現させると、観察した細胞では、GFP由来の蛍光を有する細胞の数はFokI−NDと比べて少なかったが、細胞質と核に局在することがわかった。ND3−EGFPを発現させると、FokI−NDなどと同様に、核と細胞質で、GFP由来の蛍光が観察された。また、ND3ではGFP由来の蛍光が他のヌクレアーゼドメインよりも強く見られたことから、その分細胞内において発現量が多いと考えられた。ND3はウェスタンブロットによる解析でも、細胞内における蓄積量はFokI−NDよりも多い結果となっていたが、核に局在できても見かけの変異導入率は低く、また至適温度がFokI−NDとは異なるなど、酵素の生化学特性も異なると考えられた。
【0077】
(5)まとめ
抗体による解析およびGFPの蛍光による解析結果から、FokI−NDとND1およびND2は同程度細胞内に蓄積していることが明らかとなった。このことは、新規ヌクレアーゼドメインであるND1とND2の切断活性が高いのは、細胞内における蓄積量が多いためではなく、切断活性がFokI−NDよりも高いためであることが明らかになり、ND1およびND2が、従来ZFNなどで使用されていたFokI−NDをしのぐ切断活性を有する天然素材由来のヌクレアーゼドメインであることを意味している。
【0078】
実施例5:新規ヌクレアーゼドメインの標的配列の選択性解析
ND1およびND2のさらなる有用性を検証するため、ZFアレイとヌクレアーゼドメイン間のリンカー配列の改変を試みた。従来のZFNでは、リンカー配列の改変を行うと、切断活性を示すスペーサー配列の長さや細胞に与える毒性が異なることが報告されている。そこで、これまでの解析に使用してきた従来型リンカー配列であるTGAAARAリンカーの他、GSリンカー、RPGEKPリンカーおよびTGPGAAARAリンカーに改変したZFNベクターを構築し解析に用いた。
【0079】
(1)実験方法
TGAAARAリンカーを有するZFNベクターとして、実施例2で作製した各pSTL−ZFA36−NDを用いた。GSリンカー、RPGEKPリンカーおよびTGPGAAARAリンカーの選択はHandelら(2009)(非特許文献1)、Wilsonら(2013)(Wilson et al. (2013) Expanding the Repertoire of Target Sites for Zinc Nuclease-mediated Genome modification. Mol. Ther-Nucleic Acids 2:e88)、およびNomuraら(2012)(Nomura et al. (2012) Effects of DNA Binding of the Zinc Finger and Linkers for Domain Fusion on the Catalytic Activity of Sequence-Specific Chimeric Recombinase Determined by a Facile Fluorescent System. Biochemistry. 51:1510-1517)の報告を参考にした。各リンカーを改変したZFNベクターは、pSTL−ZFA36−NDを鋳型に各リンカー改変用プライマーペアーでPrimeSTAR Max(Takara)によりPCRを行った。得られたPCR産物をIn−Fusion(Clontech)を用いて反応させ、大腸菌に形質転換した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、塩基配列を確認することで、目的とするプラスミドを得た。さらに、スペーサーの長さを5bpまたは7bpに改変したSSAレポータープラスミドを用いて、実施例2に記載したようにSSAレポーターアッセイを行い、各ZFNのヌクレアーゼ活性を測定した。
【0080】
(2)結果
結果を
図5に示す。なお、切断活性はいずれも、従来型リンカーを含み、スペーサー配列6bpのZFA−FokI−NDの切断活性を100%とした場合の相対活性で示す。
【0081】
スペーサー配列の長さを6bpとした場合、FokI−NDでは、従来型リンカー(TGAAARA)でZFアレイとヌクレアーゼドメインをつないだ時の切断活性に比べ、GSリンカーまたはRPGEKPリンカーに改変すると20%以下の活性に低下した。一方、TGPGAAARAリンカーに改変すると、FokI−NDの切断活性はリンカー改変前の約90%程度であった(
図5A)。
【0082】
ND1では、スペーサー配列が6bpの場合、リンカー配列を改変しても切断活性は影響を受けず、リンカー配列改変前のFokI−NDの約90%程度の切断活性があった。ND2では、スペーサー配列が6bpの場合、リンカー配列改変前のFokI−NDの切断活性に比べ、GSリンカー配列に改変すると約60%、RPGEKPリンカー配列に改変すると約35%程度まで切断活性が低下した。これらの結果から、これまで報告がなされてきているように、スペーサー配列の長さが同じでも、解析に用いたリンカー配列によりヌクレアーゼドメインの切断活性に影響が及ぼされることが明らかとなった。
【0083】
スペーサー配列の長さを5bpにすると、6bpの時に比べ、FokI−NDの切断活性は、従来型リンカー配列(TGAAARAリンカー)で約40%程度に低下したが、GSリンカーに改変すると約50%程度の切断活性は残っていた。しかしながら、RPGEKPリンカーやTGPGAAARAリンカーに改変すると、FokI−NDの切断活性は従来型リンカー配列の場合の約20%となり、ほとんど切断できなかった。ND1においては、スペーサー配列が5bpの場合、GSリンカーに改変すると切断活性は高いままであったが、従来型リンカー配列では、約30%程度まで切断活性が低下し、またその他のリンカー配列に変換すると、ほとんど切断できなくなることが明らかとなった。
【0084】
ND2においては、スペーサー配列の長さを5bpにすると、リンカー配列を改変しても、ほとんど切断活性を示さなかった。スペーサー配列の長さが短い時、リンカー配列の影響が大きく、リンカー配列は、より短い方が切断活性が維持されやすいと考えられた。
【0085】
スペーサー配列の長さを7bpにした場合、FokI−NDでは、TGPGAAARAリンカーに改変した時のみ、切断活性が見られたが、この活性は従来型のリンカー配列でスペーサー配列の長さが6bpの切断活性の50%程度であった。他のリンカー配列に変換した時は、ほとんど切断活性を示さなかった。
【0086】
ND1では、スペーサー配列の長さを7bpにするとGSリンカー配列に改変すると切断活性を示さなくなったが、その他のリンカー配列に改変すると約50%以上の切断活性を示すことがわかった。特に、TGPGAAATAリンカー配列では、対象となるFokI−NDの切断活性よりも高くなると考えられた。一方、ND2については、従来型のリンカー配列で、約40%程度の切断活性を示したが、その他のリンカー配列に改変するとほとんど切断活性を示さなかった。スペーサー配列の長さが長い場合、リンカー配列は、長い方が切断活性が高くなる傾向となった。
【0087】
以上の結果から、FokI−NDに比べて、ND1は、リンカー配列の改変による影響を受け難く、且つスペーサー配列に対する制限も低く、FokI−NDよりも高い切断活性を示すことが明らかとなった。このことは、ND1が、標的配列の選択性等においても、FokI−NDより汎用性が高いヌクレアーゼドメインであることを示す。
【0088】
これまでZFNにおいて、FokI−NDの改変について報告がなされている。また、ヌクレアーゼドメインそのものをFokI−NDからPvuIIやI−TevIといったエンドヌクレアーゼに改変する報告もされている。このI−TevIを用いた改変ZFNでは、FokI−NDよりも切断活性は高いものの、ZFアレイの他、I−TevI内に存在する分子内リンカーやDNA結合モチーフのため、スペーサー配列が約30bp程度と、FokIの時に比べ長くなる。PvuIIに改変した時も同様に、スペーサー配列が長くなっている。その結果、ZFNにおいて作用するDNA配列も長く塩基配列による制限を受けやすくなると考えられる。一方、本発明のヌクレアーゼドメインは、ZFNにおいて利用した場合、従来型のFokI−NDと同じタンパク質の構造でありながら高い変異導入率を持ち、ZFNにおいて作用する標的DNA配列も全体で24bpと短くなる。このことから、本発明のヌクレアーゼドメインは、I−TevIなどに比べて塩基配列による制限も緩くなり、より簡便なゲノム編集ツールとして扱いやすい。
【0089】
実施例6:Sharkey変異を導入した新規ヌクレアーゼドメインの切断活性
FokI−NDに導入すると切断活性が高くなるアミノ酸置換(Sharkey変異)が知られている(Guo, J., Gaj, T. and Barbas, C.F., 3rd. (2010) Directed evolution of an enhanced and highly efficient FokI cleavage domain for zinc finger nucleases. J Mol Biol, 400, 96-107)。そこで、新規ヌクレアーゼドメインのND1とND2において、より切断活性を高めることを目的として、Sharkey変異と同じアミノ酸置換をそれぞれ導入することを試みた。
【0090】
(1)実験方法
Sharkey変異(FokI−NDにおけるS418PおよびK441Eアミノ酸置換、および他のヌクレアーゼドメインにおける対応するアミノ酸置換)を導入した各ヌクレアーゼドメインを含むZFNベクターは、Guoらの報告を参考に各pSTL−ZFA36−NDを鋳型にして、Sharkey変異導入用プライマーペアーでPrimeSTAR Max(Takara)によりPCRを行った。得られたPCR産物をIn−Fusion(Clontech)を用いて反応させ、大腸菌に形質転換した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、塩基配列を確認することで、目的とするプラスミドを得た。実施例2に記載したようにSSAレポーターアッセイを行い、各ZFNのヌクレアーゼ活性を測定した。Sharkey変異を有しないコントロールとして、実施例2で作製した各pSTL−ZFA36−NDを用いた。
【0091】
(2)結果
FokI−ND、Sharkey変異、ND1およびND2のアミノ酸配列を比較することで、Sharkey変異でもたらされたアミノ酸置換部位を特定した(
図6)。結果を
図6に示す。なお、切断活性はいずれも、Sharkey変異を有しないZFA−FokI−NDの切断活性を1とした場合の相対活性で示す。
【0092】
ND1では、Sharkey変異の導入に必要なアミノ酸の部位であるFokI−NDのS418およびK441の位置に相当するアミノ酸は、FokI−NDと同一でそれぞれS424およびK447であった。一方、ND2では、FokI−NDのS418の位置に相当するアミノ酸はSharkey変異と同じ(P422)となっていたが、FokI−NDのK441の位置に相当するアミノ酸については、S445となっていた。そのため、上記アミノ酸部位にSharkey変異と同じアミノ酸置換を導入したND1およびND2を、それぞれND1−Sharkey、ND2−Sharkeyとした。これらを用いてルシフェラーゼレポーターを利用した切断活性を測定したところ、FokI−NDのSharkey変異では、切断活性が約1.5倍程度上昇した(
図6B)。既に報告がなされているように、Sharkey変異は、FokI−NDの切断活性を高めることが明らかとなった。しかしながら、ND1−SharkeyおよびND2−Sharkeyのどちらにおいても、アミノ酸置換導入前と比べその切断活性は低下し、期待した高切断活性は得られなかった。この結果は、ND1やND2のヌクレアーゼの切断メカニズムが、FokI−NDとは異なっていることを意味している。したがって、新規ヌクレアーゼドメインND1およびND2は、FokI−NDとは異なるヌクレアーゼドメインである。
【0093】
実施例7:ヘテロ二量体型ヌクレアーゼドメインを利用した切断活性
ZFNにより標的配列を切断する時、FokI−NDは二量体を形成している。さらに、FokI−NDは、特定のアミノ酸を置換することでヘテロ二量体形成時のみ切断活性を示すDDD型/RRR型等の変異体へ機能変換が可能であることが知られている。そこで、新規ヌクレアーゼドメインのND1とND2において、切断活性を維持するような機能改変が可能となるかを明らかにするため、さらに解析を行った。
【0094】
FokI−NDとのアライメントを作製することでヘテロ二量体形成に関わるアミノ酸がND1およびND2においても保存性があるのか検証した(
図1B)。その結果、FokI−NDで明らかにされているヘテロ二量体型ヌクレアーゼへのアミノ酸置換部位で、最もC末端側に存在するヒスチジン残基以外のアミノ酸がND1およびND2でも保存されていた。このことからND1およびND2はFokI−NDと同様に、ヘテロ二量体型への機能変換が可能であると推測できた。そこで、ND1およびND2において、ヘテロ二量体形成時の切断活性を測定した。
【0095】
(1)実験方法
ND1およびND2にヘテロ二量体型への機能変換を行うため、表2に示すように、該当するアミノ酸部位に置換を導入した。なお、表中、「FokI」はFokI−NDを意味する。表中、アミノ酸ナンバーは、各ヌクレアーゼドメインの全長アミノ酸に基づく。
【0096】
【表2】
【0097】
ヘテロ二量体形成の解析を行うためには、ZFアレイの標的配列であるターゲットハーフサイト−Lとターゲットハーフサイト−Rが異なる配列である必要がある。これまでの実施例で用いていたZFアレイとは異なる配列を標的配列とするZFアレイを用いてコンストラクトを構築した。該ZFアレイとして、hPGRN_ZFL1をIDT社で人工合成した(以下、「ZFL1」ともいう)。実施例2で作製した各pSTL−ZFA36−NDのZFアレイをhPGRN_ZFL1と置換するため、ZFアレイ置換用プライマーペアーで、各pSTL−ZFA36−NDを鋳型にし、PrimeSTAR MaxによりPCRを行った。得られたPCR産物およびhPGRN_ZFL1をIn−Fusionを用いて反応させ、大腸菌に形質転換した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、塩基配列を確認することで、目的とする各pSTL−hPGRN_ZFL1−NDプラスミドを得た。
【0098】
さらに、FokI−NDのヘテロ二量体化に関わるアミノ酸(D483、R487、N496)に相当する各新規ヌクレアーゼドメインのアミノ酸をDDD型へ機能変換するため、各pSTL−hPGRN_ZFL1−NDを鋳型として、プライマーペアーを用いて、PrimeSTAR MaxによりPCRを行った。また、RRR型へ機能変換するため、各pSTL−ZFA36−NDを鋳型として、同様にPCRを行った。得られた各PCR産物はIn−Fusion反応後、大腸菌へ形質転換を行った。得られた各形質転換体からプラスミドを抽出し、シークエンス確認後、目的とするコンストラクト(以下、それぞれ、「DDD型変異ZFL1−ND」および「RRR型変異ZFA36−ND」ともいう)を調製した。得られた各DDD型ZFL1−NDおよび各RRR型ZFA36−NDを用いて、実施例2に記載したようにSSAレポーターアッセイを行い、各ZFNのヌクレアーゼ活性を測定した。但し、SSAレポーターアッセイに用いるプラスミド溶液7.2μL中の各ZFNプラスミドの量を、ターゲットハーフサイトLについて120ngおよびターゲットハーフサイトRについて120ngに変更した。さらに、実施例3の記載と同様にして、Cel−Iアッセイによりヌクレアーゼ活性を測定した。
【0099】
(2)結果
SSAレポーターアッセイの結果を
図7および
図8Aに示す。切断活性は、これまでのレポーター解析と同様、6bpスペーサー配列とし、ZFA36が左右二つの標的配列を認識するZFA36−FokIの切断活性に対する相対活性で算出した。Cel−Iアッセイの結果を
図8Bに示す。
【0100】
ホモ二量体となるように、ZFL1に各ヌクレアーゼドメインつないだコンストラクトで、レポーター上の標的配列(ZFL1−ZFL1)の切断活性を測定したところ、
図1Cに示した結果と同様、ND1やND2の活性はFokI−NDよりも高かった(
図7A)。この結果から、異なるZFアレイを用いても、新規ヌクレアーゼドメインND1およびND2の高切断活性は普遍性があることが明らかとなった。
【0101】
ZFL1とヌクレアーゼドメインをつないだコンストラクトを用いてホモニ量体を形成させ、レポーター上の標的配列(ZFL1−ZFA36)の切断活性を測定したところ、ND1では、約40%の切断活性を有していたが、FokI−NDおよびND2では、切断活性はほとんど見られなかった(
図8A)。一方、実施例2〜6で使用してきたZFアレイ(ZFA36)とヌクレアーゼドメインをつないだコンストラクトでホモニ量体を形成させ、同様に解析を行うと、FokI−NDやND2でも切断活性が見られ、それぞれ約35%と約50%であった。さらに、ND1では切断活性がより高く、約90%程度となっていた(
図8A)。
【0102】
上記ホモ二量体型の各ヌクレアーゼドメインのZFアレイをZFA36とZFL1としたZFNコンストラクトを用いてヘテロ二量体を形成させ、切断活性を解析したところ、ZFA36のみで解析した時と同様にND1とND2の活性がFokI−NDよりも高くなった(
図8A)。このことからもND1とND2はZFアレイに関わらず、高い切断活性を有し、普遍性があることがわかった。
【0103】
次に、ヘテロ二量体型の各ヌクレアーゼドメインのみを発現させた場合に二量体を形成し、切断活性を示すかを検証するため、レポーター上の標的配列(ZFL1−ZFL1またはZFA36−ZFA36)の切断活性を測定した。ZFL1につないだ各ヌクレアーゼドメインにはDDD型変異を、ZFA36につないだ各ヌクレアーゼドメインにはRRR型変異を導入したが、レポーター解析の結果、DDD型変異ZFL1−NDおよびRRR型変異ZFA36−NDのそれぞれは、単独ではほとんど切断活性が見られなかった(
図7Aおよび
図7B)。このことから、新規ヌクレアーゼドメインのND1とND2においても、FokI−NDと同様にDDD型/RRR型へのアミノ酸置換を導入することによりホモ二量体は形成できないことが明らかになった。
【0104】
各ヌクレアーゼドメインをヘテロ二量体型を形成するよう形質導入を行い、レポーター上の標的配列(ZFL1−ZFA36)の切断活性を測定した。結果を
図8Aに示す。FokI−NDでの切断活性は対象の約60%程度にまで減少した。しかし、ND1では、ヘテロ二量体型としても、切断活性の低下は認められず、対象に比べ約1.6倍程度と高い活性が見られた。一方、ND2では、ヘテロ二量体型にすると切断活性がほとんど消失した。これらの結果から、ND1はFokI−NDよりも、高切断活性を有するヘテロ二量体型への機能変換が可能であることが明らかとなった。
【0105】
さらに、各ヘテロ二量体型ヌクレアーゼのゲノム標的配列に対する変異導入効率を明らかにするため、Cel−Iによる解析を行った(
図8B)。表1に示すように、ゲノム上の標的塩基配列は、1st siteで、完全一致していた。ホモ二量体型およびヘテロ二量体型ヌクレアーゼを発現させたCHO−K1細胞からゲノムを調製し、これらの標的配列を含むPCR断片をCel−Iで処理したところ、ホモニ量体型では、これまで得られている結果と同様に、各ヌクレアーゼドメインは標的ゲノムDNAを切断した。一方、ヘテロ二量体型では、SSAレポーター解析の結果と同様に、FokI−NDでも変異導入は認められたが、ND1の方が変異導入率はより高くなっていた。ND2においては、標的ゲノム配列でも、検出可能な変異導入は見られず、切断活性を消失していると考えられた。
【0106】
これらの結果は、FokI−NDとは異なり、ND1は高活性を維持するヘテロ二量体型への機能変換が可能であること、またヘテロ二量体型への変換はND2に構造変化を大きくもたらす可能性が示唆され、これはそれぞれの構造特性がFokI−NDと異なっていることを意味している。
【0107】
実施例8:ヘテロ二量体型ヌクレアーゼドメインの組合せを利用した切断活性への効果
ヘテロ二量体形成時のヌクレアーゼドメインの組合せを変えることにより、従来型のFokI−NDよりも高切断活性を示すことが可能となるかについて、さらに解析を行った。
【0108】
実施例7で作製した各DDD型変異ZFL1−NDおよび各RRR型変異ZFA36−NDを用いて様々に組み合わせ、実施例2の記載と同様にしてSSAレポーターアッセイによりヌクレアーゼ活性を測定した。結果を
図9に示す。
【0109】
DDD型変異FokI−NDと、RRR型変異を導入した各ヌクレアーゼドメインで解析したところ、これまで切断活性が高かったND1と組合せても、レポーターの切断活性の上昇は見られず、FokI−NDホモ二量体型の切断活性の約60%となった。また、ND2との組合せではほぼ切断活性は見られなくなった(
図9A)。
【0110】
DDD型変異ND1では、RRR型変異FokI−NDとの組合せでは約80%程度の切断活性となったが、RRR型変異ND2との組合せでは、DDD型変異FokI−NDの時と同様、ほぼ切断活性を失っていた(
図9B)。
【0111】
DDD型変異FokI−NDやDDD型変異ND1の結果と異なり、DDD型変異ND2では、RRR型変異ND1との組合せでのみ、高い切断活性が認められ、RRR型変異FokI−NDまたはRRR型変異ND2との組合せでは、切断活性はほぼ失っていた(
図9C)。この結果、RRR型変異ND2のへテロ二量体型にすると、ヌクレアーゼドメインの組合せによらず、切断活性を喪失してしまうことが明らかとなった。
【0112】
切断活性を示すヘテロ二量体型ヌクレアーゼドメインの組合せが可能であることがわかったが、今回解析したアミノ酸置換では、DDD型変異ND1とRRR型変異ND1の組合せにおいてのみ切断活性を高めることが可能であった。また、DDD型変異ND2とRRR型変異ND1との組合せでも、FokI−NDのホモ二量体と同等の切断活性を有することが明らかとなった。これらの結果、ND1およびND2が二量体を形成する際、FokI−NDとは異なる構造的特性が影響していることが分かった。
【0113】
実施例9:ZFNによる変異導入の塩基配列レベルでの解析
ZFNによる標的配列への変異導入により塩基配列にどのような変化が生じるのかを調べた。
【0114】
(1)シークエンス解析
CHO−K1細胞のゲノム配列上に存在するZFA36の標的配列(1stサイトおよび2ndサイト)に対し、ZFNによる変異導入がどのような塩基配列の変化をもたらすのか明らかにするため、標的配列を含むゲノム領域のシークエンス解析を以下のようにして行った。実施例3に記載のCel−Iアッセイと同様にして、各ZFNを形質導入したCHO−K1ゲノムDNAを鋳型にして、KOD Fx Neoを用いてPCRを行った。得られたPCR産物はTArget clone plus(Toyobo)により、PCR産物へのA付加後、TAクローニングを行った。該PCR産物を大腸菌でクローニングし、独立した大腸菌形質転換体を無作為に、少なくとも16個以上選び、それぞれのプラスミドを抽出した。得られたプラスミドを400ngと終農度6.4pmolとなるように、M13−fプライマーを加え、Fasmac社にPCRとシークエンス解析を依頼した。得られたシークエンス配列から、各ZFNにおける標的配列の変異型シークエンスの配列とその割合を算出した。
【0115】
(2)結果
結果を
図10に示す。ZFA36−ZFA36の1stサイトでは、FokI−NDでは、解析した17クローンのうち、1塩基挿入が1クローン、4塩基挿入が3クローン得られた。ND1では解析できた14クローンのうち、1塩基挿入、2塩基欠失および8塩基欠失がそれぞれ1クローン存在した。さらに、2塩基挿入かつ1塩基欠失となる変異が2クローン得られ、4塩基挿入となる変異が6クローンと今回の解析では最も多く得られた。ND2では解析できた13クローンのうち、1塩基挿入、2塩基挿入、2塩基欠失および4塩基欠失がそれぞれ1クローンずつ得られた。解析できたND3の15クローンおよびND4の16クローンでは、今回のZFA36−ZFA36 1stサイトの解析では、塩基の挿入や欠失は認められなかった。また、ZFA36標的配列の2ndサイトにおける各ヌクレアーゼドメインの変異導入を解析したところ、FokIでは解析した20クローンのうち、2塩基挿入、5塩基挿入および2塩基欠失がそれぞれ1クローンずつ得られ、230塩基を越す挿入も1クローン得られた。またZFA36 1stサイトと同様、4塩基挿入の変異が最も多く、3クローン得られた。ND1では解析した17クローンのうち、2塩基欠失および4塩基欠失がそれぞれ2クローンずつ得られた。この他、4塩基挿入が3クローン得られ、2塩基挿入が本解析では最も多く6クローン得られた。ND2では解析した16クローンのうち、1塩基挿入が1クローン得られた他、2塩基挿入が2クローン、4塩基挿入が解析した中で最も多い5クローン得られた。また、71塩基という大きな塩基の挿入が1クローン得られた。ND3では、1stサイトと異なり2ndサイトでは標的配列への変異導入が存在しており、解析した16クローンに、2塩基挿入、2塩基欠失および8塩基欠失がそれぞれ1クローンずつ得られた。ND4においては、解析できた14クローンは、全て1stサイトと同様2ndサイトでも標的配列への変異導入は見られなかった。
【0116】
シークエンス解析の結果、ND1やND2による標的並列への変異導入は、FokI−NDと似て4塩基挿入されたクローンが多く見られたが、FokI−NDでは見られないような様々なパターンがゲノムへの変異として見られた。新規ヌクレアーゼドメインにより生じる塩基の突出端がFokIヌクレアーゼドメインと異なる可能性がある。シークエンス解析により得られたZFA36の各標的サイトでの変異率を表3に示す。本解析条件では、シークエンス解析においても、標的ゲノム配列における各ヌクレアーゼドメインの変異導入率はCel−Iアッセイと同様となることが明らかとなった。
【0117】
【表3】
【0118】
実施例10:ZFA以外の核酸結合ドメインと組み合わせた新規ヌクレアーゼドメインの切断活性
本発明の新規ヌクレアーゼドメインがZFA以外の核酸結合ドメインを用いてもFokI−NDより高い切断活性を有するのかを明らかにするために、ND1とTALEとを含む人工核酸切断酵素を作製し、その切断活性を測定した。具体的には、発明者の研究室で開発したPlatinum TALEN(doi:10.1038/srep03379)技術を用いてTALE−FokI−NDおよびTALE−ND1を作製し、これらの切断活性をSSAレポーターアッセイ法により評価した。
【0119】
(1)TALE−ND1のデスティネーションベクターの構築
核酸結合モジュール未挿入のPlatinum TALEN用デスティネーションベクターであるptCMV−153/47−VR−NG(https://www.addgene.org/50704/)を鋳型とし、ptTALE−ヌクレアーゼドメイン置換用プライマーペア(ベクター増幅用)を用いてPrimeStar Maxにより増幅し、ベクターフラグメントを得た。また、ptTALE−ヌクレアーゼドメイン置換用プライマーペア(インサート増幅用)を用いてND1のインサートフラグメントを得た。これらのベクターフラグメントとインサートフラグメントを混合し、In−Fusion反応を行った。大腸菌を形質転換した後、得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、目的とするTALE−ND1のデスティネーションベクター(ptCMV−153/47−VR−NG中のFokI−NDをND1に置換したベクター)を得た。
【0120】
(2)核酸結合モジュールの組み込みとSSAレポータープラスミドの構築
上記(1)で得られたデスティネーションベクターに、CHO−K1細胞のROSA26遺伝子座およびHPRT1遺伝子座の配列を認識させるための核酸結合モジュールを、Golden Gate法により組み込んだ(doi:10.1038/srep03379に記載された手法に準拠)。これを用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体から目的とするプラスミド(TALE−ROSA26−ND1およびTALE−HPRT1−ND1)を得た。また、従来型のFokI−NDを保持するTALEN(TALE−FokI)についても同様にして核酸結合モジュールを組み込んだコンストラクト(TALE−ROSA26−FokIおよびTALE−HPRT1−FokI)を調製した。SSAレポータープラスミドについては、それぞれの標的配列を含むもの(SSA−CHO−ROSA26レポーターおよびSSA−CHO−HPRT1レポーター)を常法により調製した。ROSA26遺伝子座およびHPRT1遺伝子座の標的配列を下記の表4に示す。
【0121】
【表4】
【0122】
(3)細胞への導入とレポーターアッセイ
上記(2)で作製した、標的配列を認識させるための核酸結合モジュールを組み込んだTALENプラスミド(TALE−FokI−ND、およびTALE−ND1)、および標的配列を組み込んだSSAレポータープラスミドを用いて、HEK293T細胞にLipofectamine LTXを用いて形質導入を行い、形質導入後24時間の細胞を用いて、実施例2と同様にSSAレポーターアッセイを行った。対照として、FokI−NDを含むZFNプラスミド(pSTL−ZFA36)およびFokI−NDのみを発現するプラスミドpSTLを用いて同様に測定した。各TALE−NDの切断活性を、ZFA36の標的配列を含むレポーターに対するZFA36−FokIの切断活性の値を1とした時の相対活性として算出した。
【0123】
(4)結果
結果を
図11Aおよび
図11Bに示す。
図11Aには、ROSA26遺伝子座由来の配列を標的とした時の結果、
図11Bには、HPRT1遺伝子座由来の配列を標的とした時の結果が示される。
【0124】
図11Aから明らかなように、Platinum TALENのヌクレアーゼドメインが従来型FokI−NDであるTALE−ROSA26−FokIは、ROSA26遺伝子座由来配列を標的としたレポーターの切断活性が、ZFA36レポーターを標的としたZFA36−FokIの切断活性に近い活性を有することが明らかとなった。一方で、Platinum TALENのヌクレアーゼドメインをND1に置換したTALE−ROSA26−ND1では、ROSA26遺伝子座由来配列を標的とするレポーターの切断活性が、TALE−ROSA26−FokIに対して約2倍程度高値となることが明らかとなった。以上より、CHO−K1細胞の内在性ゲノムのROSA26遺伝子座由来配列を標的としたとき、TALE−ND1はヌクレアーゼドメインが従来型のFokI−NDであるTALE−FokIよりも高い切断活性を有することが示された。
【0125】
また、ROSA26遺伝子座とは異なる座位であるHPRT1遺伝子座に由来する配列を標的として、同様に解析を行った。その結果、
図11Bから明らかなように、Platinum TALENのヌクレアーゼドメインが従来型FokI−NDであるTALE−HPRT1−FokIでは、HPRT1遺伝子座由来配列を標的とするレポーターの切断活性が、ZFA36レポーターを標的としたZFA36−FokIの切断活性の半分程度であることが明らかとなった。一方で、Platinum TALENのヌクレアーゼドメインをND1に置換したTALE−HPRT1−ND1では、HPRT遺伝子座由来配列を標的とするレポーターの切断活性が、TALE−FokIに比べ約2倍程度高い活性を示し、ROSA26遺伝子座由来配列と同様の結果が得られた。
【0126】
これらの結果から、ND1をPlatinum TALENのヌクレアーゼドメインとしたTALE−ND1が、従来型のFokI−NDを有するTALE−FokIよりも高い切断活性を示すことが明らかとなった。以上より、ZFNだけでなく、他の核酸結合ドメインを用いた場合でも、本発明の新規ヌクレアーゼドメインがFokI−NDよりも優れた切断活性を有するヌクレアーゼドメインであることが示唆された。
【0127】
以上から、本発明の新規ヌクレアーゼドメインは以下の主な特徴を有することが実証された。
【0128】
(i)本発明のND1およびND2、とりわけND1は、FokI−NDよりも顕著に高い切断活性を有する。また、ND1では別配列を認識するZFアレイや、TALEにおいてもFokI−NDを上回る切断活性を示すことから、ND1による切断活性の上昇効果は普遍性を有する。
【0129】
(ii)ZFアレイとNDとの間のリンカーを改変することで、ND1では5bpや7bpのスペーサーでも6bpスペーサーと同程度の切断活性を示すことから、ND1は二量体化する際にFokI−NDよりも高い柔軟性を有し、標的配列の制限を緩めることができる。
【0130】
(iii)ND1およびND2にDDD型変異とRRR型変異を導入することで、FokI−NDと同様にホモ二量体化を抑制できる。さらに、ZFL1−DDDとZFA36−RRRを組み合わせることで、ND1においてはヘテロ二量体での切断が可能である。またその際の切断活性は、野生型ND1と同程度であることから、ND1−DDD/RRRを用いることで、高い特異性と高い切断活性とを両立したヌクレアーゼドメインを得ることができる。
【0131】
(iv)DDD/RRR型のFokI−ND、ND1、ND2を相互に組み合わせて活性を検証したところ、全ての組み合わせの中でND1−DDDとND1−RRRのペアーが最も高い活性を示すことが明らかとなり、ND1−DDD/ND1−RRRヘテロダイマーシステムの優位性が証明された。
【0132】
実施例11:大腸菌におけるタンパク質の調製
(1)ZF−ND1およびZF−FokIの発現ベクターの構築
N末端にHisタグを含むpET−MCSプラスミドのXhoIサイトおよびSalIサイトを切断し、ZF−ND1断片を挿入した。ZF−ND1断片には、核局在シグナルNLS、Zinc−Finger(以下ZFと省略)、およびヌクレアーゼドメインND1を含む。ZFとしては、2種類の配列を認識するドメインを用いた。一つはZFA36であり、12塩基対のDNA配列GAAGATGGTを認識する。もう一つはZFL1であり、12塩基対のDNA配列GAAGGTGACを認識する。したがって、ZF(ZFA36A)−ND1、およびZF(ZFL1)−ND1を発現するプラスミドとして、pET−ZF(ZFA36A)ND1、およびpET−ZF(ZFL1)ND1をそれぞれ作成した。
【0133】
上記プラスミドを基にして、制限酵素FokIのヌクレアーゼドメイン(以下FokIと省略)をND1の代わりに挿入したプラスミド、pET−ZF(ZFA36A)−FokI、およびpET−ZF(ZFL1)−FokIをそれぞれ作成した。ZF(ZFA36A)−ND1、ZF(ZFL1)−ND1、ZF(ZFA36A)−FokI、およびZF(ZFL1)−FokIのアミノ酸配列を配列番号119〜122に示す。
【0134】
(2)大腸菌におけるZF−ND1タンパク質の発現および精製
ZF−ND1またはZF−FokIを発現するpETプラスミド、並びにpRARE2(ストラタジーン社)を大腸菌株BL21(DE3)へ形質転換し、カナマイシンおよびクロラムフェニコールを含むLB培地にて培養した。形質転換した大腸菌を37℃でOD(600nmにおける吸光度)が0.6になるまで培養した後、18°Cにて1時間培養した。イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を終濃度0.1mMになるように添加し、タンパク質の発現を誘導した。さらに18°Cにて17時間振盪培養した後、大腸菌を溶解緩衝液(20mM Tris−HCl、500mM NaCl、10% グリセロール、10mM イミダゾール、1mM フッ化ベンジルスルホニル、1mM ジチオスレイトール、pH8.0)を用いて溶解した。続いてニッケルNTAカラムにタンパク質を吸着させ、洗浄緩衝液(20mM Tris−HCl、500mM NaCl、10% グリセロール、20mM イミダゾール、pH8.0)を用いて夾雑物を除いた。タンパク質の溶出は溶出緩衝液(20mM Tris−HCl、500mM NaCl、10% グリセロール、500mM イミダゾール、pH8.0)を用いて行った。溶出したタンパク質の一部は、タンパク質収量の解析のために、SDSサンプルバッファーに溶解させた。溶出したタンパク質はゲルろ過クロマトグラフィーHiPrep 16/60 Sephacryl S−200 HR(GE healthcare、アメリカ合衆国、イリノイ)および緩衝液A(20mM HEPES、150mM NaCl、10% グリセロール、pH7.4)を用いて精製し、液体窒素を用いて瞬時に凍結した後、−80℃で保存した。タンパク質収量の解析のため、イミダゾール溶出したタンパク質画分および、最終精製されたタンパク質をSDSサンプルバッファーに溶解させてSDS−PAGEにより電気泳動を行なった。電気泳動の際には、既知濃度のBSAタンパク質を別レーンに泳動し、PAGE後のゲルをクマシー染色して目的のタンパク質分子量のバンドをChemiDoc XRS+により定量化し、タンパク質の分子量からタンパク質の収量を解析した。
【0135】
(3)結果
ZFNタンパク質を大腸菌で発現精製する際に、タンパク質収量が低いことが問題であった。ZFNタンパク質の根本的な性質として、可溶性が低く、凝集してしまうことが原因として考えられる。従来技術であるFokIと比較して、新規ND1のタンパク質の可溶性がどの程度か、検証した。
【0136】
【表5】
【0137】
表5に示した通り、ZF−ND1を大腸菌で発現させたところ、総じてZF−FokIよりも可溶性が高く、大腸菌培養1Lあたりの収量が向上していた。可溶性が高いほど高濃度にタンパク質を導入できるため、特にタンパク質を用いたゲノム編集において利便性が高い。
【0138】
実施例12: ZF−ND1とZF−Fok1の植物細胞における活性
(1)レポーター細胞の構築
ZF−ND1またはZF−FokIの活性を評価するため、DNA切断後のSSA(single−strand annealing: 一本鎖アニーリング)が誘導された場合に、完全長2.1kbのGUS(β−glucuronidase: グルクロニダーゼ)遺伝子が発現するレポーター細胞を構築した。具体的には、GUS遺伝子の上流から1.8kb、ZFA36の認識配列(GAAGCTGGT)、およびGUS遺伝子の下流から0.8kbをpCAMBIA1305.2(Marker Gene社)へ導入した。上記GUS遺伝子の上流から1.8kb、およびGUS遺伝子の下流から0.8kbは、500bpを共通配列(オーバーラップ領域)として有する。このベクターをアグロバクテリウムを介して、シロイヌナズナT87培養細胞株(理化学研究所)へ形質転換し、樹立した細胞株をT87−GUUS(ZFA36)とした。GUSの発現は青色の染色試薬であるX−Glucを用いて容易に可視化・検出することが可能であるため、GUSタンパク質の検出によりZF−ND1またはZF−FokIの核内への導入およびSSA誘導活性を評価することができる。
【0139】
(2)エレクトロポレーション法による導入
実施例11において作成したタンパク質をエレクトロポレーション法により導入した。樹立したT87−GUUS(ZFA36)細胞を用いて、細胞壁を有する状態のT87細胞に対してエレクトロポレーション法によるZF−ND1およびZF−FokIの導入を試みた。エレクトロポレーションにはネッパジーン社より販売されているNEPA21 Type IIを使用した。Opti−MEMIバッファーを用いてエレクトロポレーションを行い、2日後にGUS活性の評価を行った。その結果、
図12に示すように、Opti−MEMIを用いてエレクトロポレーションした場合、非常に多くの細胞がGUSを発現していた。ZF−ND1タンパク質を用いた実験では、ZF−FokIタンパク質を用いた場合と比較してSSA誘導活性が2倍程度高いことがわかった。本実験では、ZF−ND1が遺伝子発現ベクターとしてだけではなくタンパク質として導入した場合にも、ZF−FokIと比較して高い活性を有すること、および、ZF−ND1が動物細胞だけでなく植物細胞においてもZF−FokIと比較して高い活性を有することが明らかとなった。
【0140】
(3)プロテイントランスダクション法による導入
実施例11で作成したタンパク質を用いて、プロテイントランスダクション法による導入を試みた。すなわち細胞壁を有するT87−GUUS(ZFA36)に対して、最終濃度0.1−2μMのZF(ZFA36A)−ND1タンパク質もしくはZF(ZFA36A)−FokIタンパク質を添加した後、1時間後に培養培地で洗浄し、3日間の培養を行なった。タンパク質を添加時には、プロテアーゼ処理等の生化学的な処理や、エレクトロポレーション等の物理化学的な処理は、まったく行っていない。したがって、タンパク質の自発的な取り込みを期待したものである。その結果、
図13に示す通り、エレクトロポレーション法と比較して少ない割合ではあるが、プロテイントランスダクション法によりZF(ZFA36A)−ND1タンパク質およびZF(ZFA36A)−FokIタンパク質が取り込まれてゲノム編集可能であることが明らかとなった。プロテイントランスダクション法を用いた場合、ZF(ZFA36A)−ND1の活性はZF(ZFA36A)−FokIを比較して、同等もしくはそれ以上の活性であった。