【実施例】
【0049】
以下に、本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0050】
(試験試料)
本実施例では、大豆胚軸油及び大豆胚軸油混合油を作製して、試験試料とした。作製方法を以下に示す。
【0051】
(大豆胚軸油の作製方法)
大豆種子を80℃、45分間加熱し、粗砕機で1/2未満の大きさに粉砕することにより、子葉、種皮及び胚軸の混合物を得た。得られた混合物を、風力分級機にかけて種皮を除き、子葉及び胚軸混合物を得た。得られた子葉及び胚軸混合物を、篩分機を用いて、7メッシュ篩上画分を取り除き、さらに10〜14メッシュの篩に挟まれる画分を分取することで、胚軸画分(大豆胚軸40重量%)を得た。
【0052】
上記胚軸画分を60℃に加温して、圧扁機でフレークにし、n−ヘキサンで油分を抽出してミセラを得た。得られたミセラから減圧下、60〜80℃で残留するn−ヘキサンを除去して粗原油を得た。粗原油にリン酸0.1%を添加後、70℃で15分撹拌し、蒸留水を添加して70℃で30分撹拌後遠心分離し、ガム分を除いた(脱ガム)。次にリン酸0.1%添加後、75℃で15分撹拌し、水酸化ナトリウム水溶液を添加して20分撹拌後、遠心分離した。次に5%相当量の蒸留水を加え、80℃で1分間洗浄し、遠心分離をした(脱酸)。次に、活性白土を2%添加し、減圧下、80℃で30分間撹拌後、濾過した(脱色)。次いで、180℃で30分間水蒸気蒸留(蒸気量2%)する(脱臭)ことにより大豆胚軸油を得た。
【0053】
(大豆胚軸油混合油の作製方法)
前記大豆胚軸油50重量部と、大豆油(製品名:大豆白絞油NS、株式会社J−オイルミルズ社製)50重量部とを混合して、大豆胚軸油混合油を得た。
【0054】
〔実施例1〕動物試験及び細胞試験によるメタボリックシンドローム抑制剤の有効性評価
本発明のメタボリックシンドローム抑制剤の有効成分である大豆胚軸油の体脂肪蓄積抑制作用、内臓脂肪抑制作用及び血中中性脂肪上昇抑制作用を動物試験で調べた。さらに、大豆胚軸油の体脂肪蓄積抑制及び内臓脂肪抑制作用に及ぼす成分を細胞試験により調べた。
【0055】
A.動物試験
(1)飼料の準備
飼料に配合するメタボリックシンドローム抑制剤として、大豆胚軸油混合油を使用した。また、比較のため、大豆油(不鹸化物含有量430mg/100g)を用意した。上記二種類の油脂の植物ステロール分析を実施した。油中の植物ステロール濃度とステロール組成の結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表3の組成に従って、キッチンエイドミキサー(KSM5、株式会社エフエムアイ社製)にて15分間混合することにより、予備飼育用飼料、大豆油配合飼料(比較例1)、及び大豆胚軸油混合油配合飼料(実施例1)を調製した。
【0058】
【表3】
【0059】
(2)動物投与試験
7週齢の雄性C57BL/6Jマウスを日本チャールズリバー株式会社より購入し、予備飼育用飼料を用いて6日間予備飼育した。予備飼育後、群ごとの平均体重に差が生じないように1群6匹に群分けした。群分け後、大豆胚軸油混合油配合飼料又は大豆油配合飼料からなる試験食を12週間、摂餌した。予備飼育期間及び試験食摂取飼育期間中、温度23℃±2℃、湿度40〜60%、明期7:30〜19:30、暗期19:30〜7:30の環境下で飼育した。また、飼料は自由摂食とし、そして水は自由飲水とした。飼育期間中、体重を週1回、測定した。また、飼育期間中、2週毎に血中中性脂肪を測定した。
【0060】
試験食摂取最終前日の17時に絶食を開始した。最終日にペントバルビタールナトリウムによる深麻酔下で開腹し、精巣上体脂肪、腸間膜脂肪、腎周囲脂肪、後腹壁脂肪、肝臓、及び大腿筋を摘出し、それらの重量測定を行った。体重、血中中性脂肪値、精巣上体脂肪、腸間膜脂肪、腎周囲脂肪、後腹壁脂肪、内臓脂肪重量(前記4脂肪の合算値)、内臓脂肪率(=内臓脂肪重量/体重)、肝臓、肝臓比率(=肝臓重量/体重)、大腿筋、筋肉率(=大腿筋重量/体重)について統計処理をした(対応のないt検定)。
図1〜
図13のうち、有意差が確認されたものは、*もしくは**で示した。なお、*は危険率(p値)が0.05未満であることを、**は危険率(p値)が0.01未満であることを示す。
【0061】
試験中の摂餌量を比較した結果を
図1に示す。黒色の棒グラフは、大豆油配合飼料摂取群、そして白色の棒グラフは、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群を示す。
図1に示すとおり、試験期間中の飼料摂餌量は、実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の方が比較例1の大豆油配合飼料摂取群よりも多かった。
【0062】
図2に、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群(−×−)及び大豆油配合飼料摂取群(−▲−)の体重上昇抑制効果を示す。
図2に示すとおり、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群では、体重上昇が有意に抑制された。
【0063】
図1及び2から飼料効率(=体重増加量/摂餌量)を求めた結果を、
図3に示す。
図3に示すとおり、飼料効率は、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の方が大豆油配合飼料摂取群よりも低かった。大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の方が、摂餌量が多いことから、大豆胚軸油混合油配合飼料は、同じ量摂餌しても、体重が増加し難いといえる。
【0064】
図4〜7に解剖時の各種脂肪重量、そして、
図8に解剖時の上記脂肪4部位の内臓脂肪重量の合計を示す。
図9には、解剖時の内臓脂肪重量/体重で示す内臓脂肪率を示す。
図4〜9に示すとおり、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の内臓脂肪重量及び内臓脂肪率は、大豆油配合飼料摂取群に比べて有意に減少することが判明した。
【0065】
大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群及び大豆油配合飼料摂取群の解剖時の肝臓重量及び肝臓比率(=肝臓重量/体重)を、それぞれ
図10及び
図11に示す。肝臓重量と肝臓比率は、両群の間に有意な差がなかった。
【0066】
大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群及び大豆油配合飼料摂取群の解剖時の大腿筋重量及び筋肉率(=大腿筋重量/体重)を、それぞれ
図12及び
図13に示す。大腿筋重量と筋肉率は、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の方が大豆油配合飼料摂取群より有意に高かった。
【0067】
大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群は、摂餌量が多いにもかかわらず、大豆油配合飼料摂取群よりも体重の増加が抑えられている(
図1〜3)。大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群は、体脂肪や内臓脂肪の蓄積を有意に抑制する(
図4〜9)。一方で、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群は、臓器や筋肉を減少させない(
図10〜13)。したがって、
図2に示した本発明の抑制剤による体重増加抑制の効果は、体脂肪及び内臓脂肪の蓄積の抑制に基づくといえる。
【0068】
図14に、飼育期間中の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群(−×−)及び大豆油配合飼料摂取群(−▲−)の血中中性脂肪の測定値を示す。大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群(−×−)の血中中性脂肪値は、大豆油配合飼料摂取群(−▲−)に比べて低く推移した。従来、大豆胚軸油の成分には、血中コレステロール低下作用があることが判明している。今回、大豆胚軸油には、血中中性脂肪上昇抑制作用があることも判明した。したがって、本発明のメタボリックシンドローム抑制剤は、内臓脂肪型肥満と、血中コレステロール及び/又は血中中性脂肪の異常と関連する脂質異常症とを同時に改善又は防止することが判明した。
【0069】
B.細胞試験
(1)試験物質の準備
大豆胚軸油中の植物ステロール成分が内臓脂肪蓄積抑制作用をもたらしているか否かを試験した。動物試験に使用した大豆胚軸油と同様の操作にて大豆胚軸油(不鹸化物含有量4710mg/100g)を得た。大豆胚軸油の植物ステロール分析結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
以下の手順で、上記大豆胚軸油から不鹸化物を取得した。まず、上記大豆胚軸油3gを300mL共栓付三角フラスコに精秤し、2mol/L水酸化カリウム/エタノール溶液25mL、及び0.05g/mL没食子酸/エタノール溶液25mLを加えた。前記三角フラスコに沸騰石を2個加え、冷却水を循環したソックスレー抽出器冷却管を接続し、ウォーターバスで発生させた水蒸気上で1時間加熱して鹸化反応を行った。
【0072】
鹸化反応液を500mL容分液ロートに移し、前記三角フラスコ内に残った鹸化反応液を熱水100mLで共洗いし、分液ロートに移した。常温の純水50mLを加え、室温になるまで静置、冷却した。ジエチルエーテル100mLで前記三角フラスコを洗いながら分液ロートに入れた。分液ロートに栓をして1分間激しく振り混ぜ、水層とジエチルエーテルの2層に分離するまで静置した。下層(水層)を抜き取り、純水30mLを加え、栓をし、水層部で分液ロートの内壁全面を洗うように緩やかに2〜3回転させ静置し、2層に分離した後、下層(水層)を抜き取った。再度、分液ロートに純水30mLを加え、栓をし、水層部によって分液ロートの内壁全面が洗われるように緩やかに2〜3回転させ静置し、2層に分離した後、下層(水層)を抜き取った。純水30mLを加え、十分に振り混ぜた後、2層になるまで静置し、下層(水層)を抜き取った。この操作を、抜き取った下層の水層液がフェノールフタレイン溶液で着色しなくなるまで繰り返した。下層が着色しなくなったら、上層(ジエチルエーテル層)をビーカーに取り、無水硫酸ナトリウムで脱水処理後、ジエチルエーテル溶液を300mLナスフラスコに移し、ロータリーエバポレーターでジエチルエーテルを除去した。25〜30KPaの減圧下で、60℃で30分間乾燥処理を行った。デシケーター内で放冷後、得られた抽出物を不鹸化物とした。上記取得手順を繰り返し、大豆胚軸油から細胞試験用の不鹸化物を得た。
【0073】
上記不鹸化物14.65mg中の植物ステロール分析結果を、表5に示す。
【表5】
【0074】
以下の手順で、上記不鹸化物からアベナステロール画分を取得した。まず、上記不鹸化物約40mgをテトラヒドロフラン4mLに溶解し、1分間超音波処理を行った。5C18ARカラム(20mm(I.D.)×250mm、粒径5μm、Waters社製)に不鹸化物溶液140μLを注入し、メタノール:アセトニトリル:テトラヒドロフラン=1:2:0.1の溶液により、流速20mL/minで流して、アベナステロールを210nmの吸光度によって確認しながら分離することにより、アベナステロール溶液を得た。得られたアベナステロール溶液を再度カラムに通過させ、高濃度アベナステロール溶液を得た。得られた高濃度アベナステロール溶液からロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。真空乾燥機で60℃、30分間乾燥させて、アベナステロール画分を得た。アベナステロール画分のアベナステロール純度は、87.2重量%であった。アベナステロール画分からシトロスタジエノールは未検出であった。
【0075】
(2)被験溶液調製法
4.147mgの不鹸化物にジメチルスルホキシド(DMSO)100μLを加え、又は1.0716mgのアベナステロール画分に、ジメチルスルホキシド(DMSO)259.65μLを加え、1分間超音波処理を行い、被験溶液を得た。不鹸化物の被験溶液(アベナステロール濃度 1.41mg/ml)を不鹸化物群、そして、アベナステロールの被験溶液(アベナステロール濃度 3.60mg/ml)をアベナステロール画分群という。さらに不鹸化物及びアベナステロール画分無添加のDMSO(対照群)を用意した。各群の被験溶液をそれぞれ、下記の細胞試験に記載の培地で1000倍希釈し、1分間超音波処理して、被験溶液添加培地を得た。
【0076】
(3)細胞試験
内臓脂肪細胞培養キット(コスモバイオ株式会社製、VAC21)を用いて、添付のプロトコールに準じて細胞試験を実施した。具体的には、37℃の湯浴中で溶解したラット初代内臓脂肪細胞3.0×10
6cellsを24穴プレートに播種し、キットに添付の培地で4日間予備培養を行った。予備培養後、培地を除去し、被験溶液添加培地1mLで2日間培養し、2日後に培地を除去し、被験溶液添加培地1mLでさらに2日間培養した。
【0077】
(4)オイルレッドO染色
上記培地を除去して、ウェル内をリン酸緩衝液生理食塩水(PBS)0.5mLで洗浄した。10%ホルマリン溶液0.5mLを各ウェルに添加して室温10分間固定した。ホルマリンを除去し、PBS 0.5mLでウェル内を洗浄した。60%イソプロパノール0.5mLを各ウェルに添加して室温1分間静置した。60%イソプロパノールを除去した。オイルレッドO染色液(0.3g Oil Red/100mLイソプロパノール)0.5mLで室温20分間静置した。オイルレッドO染色液を除去し、60%イソプロパノール0.5mLを各ウェルに添加し、1分間静置した。60%イソプロパノールを除去し、PBS 0.5mLでウェル内を洗浄した。倍率200倍で顕微鏡観察し、脂肪滴が染色された内臓脂肪細胞をコンピュータの記録装置に画像として記録した。
【0078】
(5)脂肪滴面積値の解析
画像処理ソフトウエアImageJ (1.48v) (https://imagej.nih.gov/ij/より入手)を用いて、上記画像のオイルレッドOによって染色された脂肪滴面積値を測定した。細胞試験は3回行い、細胞試験ごとに各群4枚の画像を記録した。細胞試験ごとに、対象群の脂肪滴面積値の平均値を算出し、対照群の脂肪滴面積値の平均値を1としたときの各画像の脂肪滴面積値の相対値(以後、相対値と記載)を算出した。このようにして得た各群12個の相対値を統計処理した(Tukey−Kramer test)。
図15に、対照群に対する不鹸化物群及びアベナステロール群の相対値の結果を示す。また**は危険率(p値)が、0.01以下であることを示す。
【0079】
図15に示すように、不鹸化物群及びアベナステロール群は、対照群と比較して、脂肪細胞への脂肪蓄積を有意に抑制した。したがって、不鹸化物中の有効成分の一つは、アベナステロールである可能性が高い。
【0080】
以上の細胞試験の結果から、大豆胚軸油を有効成分とするメタボリックシンドローム抑制剤は、体脂肪蓄積抑制及び内臓脂肪蓄積抑制効果を発揮するために、Δ7ステロール、特にアベナステロールを含むことが好ましいことが確認された。