特許第6893210号(P6893210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893210
(24)【登録日】2021年6月2日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】メタボリックシンドローム抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/48 20060101AFI20210614BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20210614BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20210614BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20210614BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20210614BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20210614BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   A61K36/48
   A61P3/06
   A61P3/04
   A61P3/10
   A61P9/12
   A23L33/115
   A23D9/00 516
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-527493(P2018-527493)
(86)(22)【出願日】2017年6月26日
(86)【国際出願番号】JP2017023332
(87)【国際公開番号】WO2018012262
(87)【国際公開日】20180118
【審査請求日】2020年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-138507(P2016-138507)
(32)【優先日】2016年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J−オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】松本 尚二
(72)【発明者】
【氏名】西村 紗希
(72)【発明者】
【氏名】境野 眞善
(72)【発明者】
【氏名】山下 貴稔
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 J.Am.Oil Chem.Soc.,2013年,Vol.90,No.10,pp.1551-1558
【文献】 Eur.J.Lipid Sci.Technol.,2005年,Vol.107,No.10,pp,701-705
【文献】 飯島記念食品科学振興財団年報,2009年,Vol.2007,pp.293-298
【文献】 Nutrition Research,2000年,Vol.20,No.9,pp.1309-1318
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A23D 9/00
A23L 33/115
A61P 3/04
A61P 3/06
A61P 3/10
A61P 9/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆胚軸油を有効成分として含む体脂肪蓄積抑制剤。
【請求項2】
前記大豆胚軸油がアベナステロールを50〜400mg/100g含むことを特徴とする、請求項1に記載の体脂肪蓄積抑制剤。
【請求項3】
前記体脂肪蓄積抑制剤が、内臓脂肪蓄積抑制剤である、請求項1又は2に記載の体脂肪蓄積抑制剤。
【請求項4】
前記大豆胚軸油を1〜100重量%含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の体脂肪蓄積抑制剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の体脂肪蓄積抑制剤を含有する体脂肪蓄積抑制用油脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の体脂肪蓄積抑制剤を含有する、又は該抑制剤を用いて調理された、体脂肪蓄積抑制用食品。
【請求項7】
体脂肪蓄積抑制剤の製造方法であって、大豆胚軸油を有効成分として添加することを含む、前記体脂肪蓄積抑制剤の製造方法。
【請求項8】
大豆胚軸油を有効成分として含む体脂肪蓄積抑制剤を食材に添加して調理することからなる、体脂肪蓄積抑制用食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリックシンドローム抑制剤に関し、より詳細には大豆胚軸油を有効成分とするメタボリックシンドローム抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食材の変化やその摂取過多による脂質エネルギー摂取比率の増大と運動不足になりがちな生活による摂取エネルギーの消費減少とがあいまって、体脂肪が必要以上に蓄積したいわゆる肥満の人数が増大している。体脂肪には、皮膚の下に蓄積される皮下脂肪、及び腸や腹腔内の内臓の周囲に蓄積される内臓脂肪がある。内臓脂肪が過度に蓄積し、高血圧、糖尿病、脂質異常症等の生活習慣病が複合的に発症すると、メタボリックシンドロームと診断される。
【0003】
現在のメタボリックシンドロームの診断基準は、
(i)腹囲が基準値(男性85cm、女性90cm)を超える内臓脂肪型肥満であって、
かつ、
(ii)以下の異常:
(1)中性脂肪値が150mg/dL以上、及び/又はHDL−コレステロール値が40mg/dL未満、
(2)収縮期血圧が130mmHg以上、及び/又は拡張期血圧が85mmHg以上、並びに
(3)空腹時血糖が110mg/dL以上
の少なくとも二つが当てはまることである。
【0004】
メタボリックシンドロームの罹患者は、動脈硬化が進行しやすく、その結果、心筋梗塞や脳梗塞のような重篤な疾患にかかり易い。これらの疾患を予防する観点から、メタボリックシンドロームの予防及び解消が重要である。
【0005】
メタボリックシンドロームの予防に際しては、一般に、運動不足を解消するとともに、脂質エネルギー摂取比率を下げるような食生活の改善、例えばダイエット、脂肪の少ない食品の摂取や脂肪をなるべく使わない調理方法に注意が向けられる。
【0006】
生活習慣を是正するのではなく、安全な体脂肪低減剤を経口摂取することにより、体脂肪を低減することも提案されている。例えば、ジオキサビシクロ〔3.3.0〕オクタン誘導体(特許文献1)、茶カテキン(特許文献2)、カテキン及びカカオポリフェノール(特許文献3)、アスパラガス抽出物(特許文献4)等を有効成分として含む体脂肪低減剤や体脂肪燃焼剤が提案されている。
【0007】
植物ステロール類は、消化管でのコレステロールの吸収を阻害し、血中コレステロール濃度低下作用を示すことが知られている。コレステロールは、胆汁酸とミセルを形成して可溶化した後、小腸上皮細胞に取り込まれる。植物ステロール類もまた、同様に胆汁酸とミセルを形成する。ステロールのミセルへの溶解には限界があるため、共存した植物ステロールがコレステロールのミセル形成を競合的に阻害する(非特許文献1及び2)。この作用機序を利用して、植物ステロール類を体内コレステロール低減化剤として使用することが提案されている。例えば、特許文献5には、ジグリセリド又はジグリセリドと植物性ステロール類を有効成分とするコレステロール合成阻害薬抵抗性高脂血症患者における脂質代謝改善剤が開示されている。特許文献6には、胚芽濃度が15重量%以上占める大豆原料から得られる油脂を有効成分として含有する体内コレステロール低減化剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−309533
【特許文献2】特開2005−095186
【特許文献3】特開2012−171916
【特許文献4】特開2007−55951
【特許文献5】特開2015−15425
【特許文献6】WO01/032032
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本食品分析センター、「植物ステロールについて」、Vol.2 No.57 Nov. 2006
【非特許文献2】石崎等、「ラットにおける大豆胚芽由来ステロールと大豆ステロールのコレステロール上昇抑制効果の比較」、日本栄養・食糧学会誌、Vol.58、(2005)No.1、p11−16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術と同様に、経口摂取によってメタボリックシンドロームを抑制することの可能なメタボリックシンドローム抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、大豆胚軸油には、体脂肪、特に内臓脂肪の蓄積を抑制する作用と血中中性脂肪上昇抑制作用があり、したがって、メタボリックシンドロームの抑制に使用できることを発見し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、大豆胚軸油を有効成分として含むメタボリックシンドローム抑制剤を提供する。本発明と特許文献6の発明とは、大豆胚軸油を有効成分とする点で共通する。しかし、特許文献6の発明の用途は、体内コレステロール濃度の低減化である。上記した体内コレステロール低減の作用機序が、自ずと体脂肪や内臓脂肪の蓄積抑制や血中中性脂肪の上昇抑制につながるわけでない。したがって、体内コレステロール低下作用を述べただけの特許文献6は、本願発明の用途であるメタボリックシンドローム抑制剤を教示していない。
【0012】
前記メタボリックシンドローム抑制剤は、特に体脂肪蓄積抑制剤及び/又は血中中性脂肪上昇抑制剤である。
【0013】
前記体脂肪蓄積抑制剤は、特に内臓脂肪蓄積抑制剤である。
【0014】
前記メタボリックシンドローム抑制剤は、前記大豆胚軸油を1〜100重量%含有することが好ましい。
【0015】
本発明は、また、前記メタボリックシンドローム抑制剤を含有するメタボリックシンドローム抑制用油脂組成物を提供する。
【0016】
本発明は、また、前記メタボリックシンドローム抑制剤を含有する、又は該抑制剤を用いて調理された、メタボリックシンドローム抑制用食品を提供する。
【0017】
本発明は、また、メタボリックシンドローム抑制剤の製造方法であって、大豆胚軸油を有効成分として添加することを含む、前記メタボリックシンドローム抑制剤の製造方法を提供する。
【0018】
本発明は、また、大豆胚軸油を有効成分として含むメタボリックシンドローム抑制剤を食材に添加して調理することからなる、メタボリックシンドローム抑制用食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
大豆胚軸油を有効成分とする本発明のメタボリックシンドローム抑制剤によれば、体脂肪蓄積抑制剤(特に、内臓脂肪蓄積抑制剤)及び/又は血中中性脂肪上昇抑制剤としての効能を発揮し、その結果として、メタボリックシンドロームの改善又は予防が可能になる。大豆胚軸油は血中コレステロール低下作用を有することが知られている。本発明のメタボリックシンドローム抑制剤は、内臓脂肪型肥満症と、血中のコレステロール及び/又は中性脂肪と関連する脂質異常症とを同時に改善又は防止する点で、従来のメタボリックシンドローム抑制剤よりも優れる。本発明のメタボリックシンドローム抑制剤は、メタボリックシンドロームの進行によって発症する疾患、例えば動脈硬化症、糖尿病性網膜症、糖尿病性壊疽、糖尿病性腎症、腎不全、腎硬化症、尿毒症、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、脳梗塞等の予防が大いに期待できる。
【0020】
本発明のメタボリックシンドローム抑制剤によれば、ヒトに食事制限を要求しなくてよい。特に、油脂は、ヒトの味覚を刺激する食材であることから、脂質エネルギーの削減のために食品中の油脂を制限すると、ヒトの食生活を味気なくさせる。一方、本発明のメタボリックシンドローム抑制剤は、油脂を有効成分とするため、ヒトの食生活を豊かに維持しながら、メタボリックシンドロームの抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に従って大豆胚軸油混合油を配合した食品(飼料)のマウスへの摂餌量を、大豆油配合飼料と比較した図である。試験期間中の飼料摂餌量は、比較例1の大豆油配合飼料摂取群よりも、実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の方が多かった。
図2図1の2群において、体重上昇抑制効果、すなわち体脂肪蓄積抑制効果を示す図である。実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料の摂取によって体重上昇が有意に抑制された。
図3図1及び2から飼料効率(=体重増加量/摂餌量)を求めた図である。飼料効率は、実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の方が低かった。摂餌量は試験油群の方が多いことから、同量の摂餌量でも体重増加し難いといえる。
図4図1の2群の解剖時の腸管膜脂肪重量を示す図である。実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の腸管膜脂肪は、比較例1の大豆油配合飼料群よりも約50%減少している。
図5図1の2群の解剖時の精巣上体脂肪重量を示す図である。実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の精巣上体脂肪重量は、比較例1の大豆油配合飼料群よりも約37%減少している。
図6図1の2群の解剖時の腎周囲脂肪重量を示す図である。実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の腎周囲脂肪重量は、比較例1の大豆油配合飼料群よりも約60%減少している。
図7図1の2群の解剖時の後腹壁脂肪重量を示す図である。実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の後腹壁脂肪重量は、比較例1の大豆油配合飼料群よりも約34%減少している。
図8図4〜7から内臓脂肪重量(上記脂肪4部位の合計)を求めた図である。実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の内臓脂肪重量は、比較例1の大豆油配合飼料群よりも約39%減少している。
図9図2及び図8から内臓脂肪率(=内臓脂肪重量/体重)を求めた図である。実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の内臓脂肪率は、大豆油配合飼料群よりも有意に減少することが判明した。
図10図1の2群の解剖時の肝臓重量を示す図である。実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群と比較例1の大豆油配合飼料摂取群とで肝臓重量に有意な差はなかった。
図11図2及び図10から肝臓比率(=肝臓重量/体重)を求めた図である。実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群と比較例1の大豆油配合飼料摂取群とで肝臓比率に差はなかった。
図12図1の2群の解剖時の大腿筋重量を示す図である。大腿筋重量は、実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の方が比較例1の大豆油配合飼料摂取群よりも有意に高かった。
図13図2及び図12から筋肉率(=大腿筋重量/体重)を求めた図である。筋肉率は、実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の方が比較例1の大豆油配合飼料摂取群よりも有意に高かった。
図14図1の2群の飼育期間中の血中中性脂肪(TG)の測定値を示す。実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群(−×−)のTGは、比較例1の大豆油配合飼料摂取群(−▲−)と比べて低く推移した。
図15】細胞試験において、対照群(DMSO)の脂肪滴面積値に対する不鹸化物群及びアベナステロール群の脂肪滴面積値の相対値の結果を示す図である。不鹸化物群及びアベナステロール群は、対照群と比較して、脂肪細胞への脂肪蓄積を有意に抑制した。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のメタボリックシンドローム抑制剤(以下、本発明の抑制剤という)は、有効成分として大豆胚軸油を含む。大豆種子(丸大豆)は、子葉(約90重量%)、種皮(約8重量%)及び胚軸(約2重量%)で構成されている。大豆胚軸油は、大豆種子中の胚軸の割合を高めた原料から抽出・精製される油脂である。胚軸の割合を高めて得られる原料は、通常、15〜80重量%の胚軸が含まれる。こうして得られる原料から抽出・精製される油脂は、通常、不鹸化物を1500〜6150mg/100g含み、総Δ7ステロールを100〜4000mg/100g含み、アベナステロールを50〜400mg/100g含む。
【0023】
原料丸大豆中から胚軸を選別し、そこから大豆胚軸油を抽出・精製する方法は、常法に基づく。その一例を以下に概説する。まず、大豆種子を例えば40〜80℃に加熱する。次に、衝撃作用、せん断作用、圧縮・圧扁作用、及び摩擦作用の少なくとも一種の機能を有する汎用の粉砕装置を用いて、乾燥物を剥離、割砕、粗砕又は粉砕することにより、子葉、種皮及び胚軸を分離する。衝撃手段には、インパクトミル、ジョークラッシャー、スタンプミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、回転ミル、遊星ミル等;せん断手段には、カッターミル、石臼等;圧縮・圧扁手段には、ローラーミル、ロールクラッシャー、圧扁ロール、リングミル等;そして摩擦手段には、ストリームミル等が用いられる。
【0024】
次に、分離された種子、子葉及び胚軸の混合物を、振動篩、回転篩、風力分級機等の分離手段にかけて、混合物から種皮及び子葉を除去することにより胚軸を濃縮する。例えば、7メッシュの篩にかけて得られる篩下画分を、さらに、10〜14メッシュの篩に挟まれる画分を分取する。こうして得られる画分には、通常、15〜80重量%の胚軸が含まれる。
【0025】
上記工程で得られる胚軸を含む画分を、例えば40〜100℃の温度で数秒間〜約60分間加熱後、圧扁してフレークとし、このフレークをn−ヘキサン等の有機溶媒と接触させて、粗原油を得る。さらに、粗原油を常法による脱ガム、脱酸、脱色及び脱臭のいずれか一つ以上、好ましくは脱ガム、脱酸、脱色、脱臭の工程にかけて大豆胚軸油を得る。上記大豆胚軸油は、市販されているものでもよい。
【0026】
大豆胚軸油及び大豆油の組成の一例を表1に示す。
【表1】
【0027】
本明細書において、「総ステロール」とは、β−シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、Δ7−スチグマステノール、アベナステロール、及びシトロスタジエノールからなる6種のステロールの合計を意味する。一方、「総Δ7ステロール」とは、Δ7−スチグマステノール、アベナステロール、及びシトロスタジエノールからなる3種のステロールの合計を意味する。上表に示すとおり、大豆胚軸油は、大豆油と比べて、リノール酸及びリノレン酸の割合が高く、総ステロール量が高く、しかも総Δ7ステロールの割合が高いことが特徴的である。
【0028】
後述の細胞試験の結果から、大豆胚軸油を有効成分とするメタボリックシンドローム抑制剤は、体脂肪蓄積抑制剤及び内臓脂肪蓄積抑制剤として顕著な効果を発揮するために、総Δ7ステロールを100〜4000mg/100g含み、特にアベナステロールを50〜400mg/100g含むことが好ましい。
【0029】
本発明の抑制剤には、本発明の効果を阻害しない限り、大豆胚軸油を希釈するためのベース油を添加してもよい。ベース油は、食用油脂であれば特に限定されない。ベース油の例として、パーム核油、パーム油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂、大豆胚軸油以外の胚軸油(例えば小麦胚軸油、米胚軸油、及び菜種胚軸油)等の植物油脂、ラード、魚油等の動物油脂等が挙げられる。また、これらの分別油(パーム油の中融点部、パーム油の分別軟質油、パーム油の分別硬質油等)、エステル交換油、水素添加油脂等の加工した油脂を使用できる。また、これらの食用油脂は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0030】
本発明の抑制剤には、各種添加剤を配合できる。添加剤の例には、レシチン、モノグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベート等の乳化剤;ミルクフレーバー、バターフレーバー、チーズフレーバー、ヨーグルトフレーバー、コーヒーフレーバー、紅茶フレーバー、シナモンフレーバー、カモミールフレーバー等のフレーバー類;スペアミント油、チョウジ油、ペパーミント油等の香味油;アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ブチルアルデヒド、シトラール、ネラール、デカナール、エチルバニリン、バニリン、ブチルアルデヒド、ヘキサナール等のアルデヒドからなる香味剤;香辛料;トコフェロール、L−アスコルビン酸類(例えばL−アスコルビン酸パルミテート)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ターシャルブチルヒドロキノン(TBHQ)、カテキン、リグナン、γ−オリザノール等の酸化防止剤;シリコーン等の消泡剤;DHA、EPA等の脂肪酸、ビタミンA、ビタミンD、コエンザイムQ等の生理活性物質等が挙げられる。
【0031】
本発明の抑制剤中の大豆胚軸油の含有量は、通常、1〜100重量%であり、好ましくは3〜100重量%であり、特に好ましくは5〜100重量%である。
【0032】
本発明の抑制剤中の油分(大豆胚軸油及びベース油の合計)は、通常、1〜100重量%であり、好ましくは、3〜100重量%である。
【0033】
本発明の抑制剤の形態は、液状、エマルジョン(油中水(W/O)型又は水中油(O/W)型)、固形(粉末、顆粒、フレーク状、ブロック状等)であり得る。本発明の抑制剤は、好ましくは液状又はエマルジョンからなる。
【0034】
本発明の抑制剤は、形態に応じて、適宜の方法により調製することができる。例えば、液状又は固形の抑制剤は、大豆胚軸油を、適宜のベース油及び添加剤とともに混合することにより得られる。ベース油の選択により、液状又は固形に調整することができる。
【0035】
エマルジョン形態の抑制剤は、例えば、大豆胚軸油、食用油脂(ベース油)、乳化剤、その他の添加剤及び水を含む混合物を乳化機等で撹拌混合することにより得られる。エマルジョンの油分は、通常、10〜90重量%である。
【0036】
粉末や顆粒の抑制剤は、例えば、大豆胚軸油を、食用油脂(ベース油)、乳化剤、粉末化基材及び水を含む混合物を撹拌混合して得られるエマルジョンをさらに乾燥粉末化することにより得られる。乾燥粉末化は、例えば、エマルジョンの噴霧乾燥等が挙げられる。
【0037】
本発明は、特に、本発明のメタボリックシンドローム抑制剤を含むメタボリックシンドローム抑制用油脂組成物を提供する。油脂組成物のベース油は、食品用に使用される油脂であれば特に制限がない。そのような油脂は、上記抑制剤のベース油に例示したものと同様である。油脂組成物のベース油は、前記抑制剤のベース油と同一でも異なっていてもよい。好ましくは、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油、米油、オリーブ油及びごま油である。
【0038】
本発明の油脂組成物には、食用油脂として汎用の前記抑制剤の添加剤として例示したものが配合できる。
【0039】
本発明の油脂組成物中の抑制剤の含有量は、大豆胚軸油として、通常、1〜100重量%であり、好ましくは3〜100重量%であり、特に好ましくは5〜100重量%である。
【0040】
本発明の油脂組成物中の油分(大豆胚軸油及びベース油の合計)は、通常、50〜100重量%、好ましくは60〜100重量%、より好ましくは80〜100重量%、さらに好ましくは90〜100重量%である。
【0041】
本発明は、また、メタボリックシンドローム抑制用食品(飼料を含む)を提供する。メタボリックシンドローム抑制用食品には、該抑制剤を含有する食品(以下、加工食品という)、又は該抑制剤を用いて調理された食品(以下、調理食品という)が挙げられる。
【0042】
上記加工食品及び調理食品の具体例としては、天ぷら、唐揚げ、お好み焼き、チヂミ、ホットケーキ、ドーナツ、調整粉乳、ルー(カレー、シチュー、ハヤシ等)、即席調理飲食品(即席麺、即席スープ、即席味噌汁、インスタントコーヒー、インスタントココア等)、レトルト食品(カレー、シチュー、パスタソース、スープ等)、冷蔵・冷凍食品(ドーナツ、フライドポテト、唐揚げ、コロッケ、メンチカツ、トンカツ、魚フライ、イカリング、オニオンリング、グラタン、ピザ、チャーハン、ピラフ、うどん、ラーメン、肉まん、餃子等)、食肉加工品(ハム、ベーコン、ソーセージ、ハンバーグ、焼き豚、味付肉、ローストビーフ、ステーキ等)、水産加工品(魚肉ソーセージ、かまぼこ、明太子、ねぎとろ、塩から、シュリンプペースト等)、調味料(味噌、ソース、トマトソース、シーズニングソース、マヨネーズ、ドレッシング、ポン酢、風味油、中華料理の素、鶏ガラスープの素、ブイヨン、鍋つゆ等)、製菓・製パン類(ポテトチップス、チョコレート、クッキー、ケーキ、パイ、ビスケット、クラッカー、グミ、チューインガム、ヌガー、タフィー、キャラメル、キャンデー、錠菓、パン、デニッシュ等)、菓子材料(チョコレートスプレッド、チョコレートコーティング剤、杏仁豆腐の素、プリンの素、ゼリーの素のようなデザートミックス等)、サプリメント(錠剤、カプセル、固形、液状、粉末等)、健康食品(清涼飲料、青汁、シリアル、バー等)、乳製品(乳飲料、発酵乳飲料、バター、クリーム、プロセスチーズ、チーズ入り加工食品等)、乳製品代替品(マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、クリーミングパウダー、コーヒークリーム、ホイップクリーム等)、冷菓(アイスクリーム、ゼリー、プリン等)等が挙げられる。
【0043】
上記加工食品は、本発明の抑制剤を添加する以外は、使用する食材やその形態に応じて常法により製造することができる。
【0044】
本発明の抑制剤は、例えば食材の内部や表面、バッター液内、ブレンダー液内、ピックル液内、タンブリング液内等に添加される。
【0045】
本発明の抑制剤の加工食品への添加量は、大豆胚軸油の含有量として、通常、1〜90重量%でよく、好ましくは1〜85重量%であり、より好ましくは1〜80重量%であり、特に好ましくは1〜75重量%である。
【0046】
上記調理食品は、本発明の抑制剤を用いて調理又は製造する以外、使用する素材や特別な条件を必要とせず、常法により調理又は製造することができる。
【0047】
食品の調理方法の具体例としては、てんぷら、フライドポテト、唐揚げ、コロッケ、メンチカツ、トンカツ、魚フライ、イカリング、オニオンリング等を揚げる、牛肉、豚肉、鶏肉、チャーハン、ピラフ、野菜、魚、焼きそば等を炒める、肉、野菜、魚、豆等を煮る、肉、野菜、魚、豆、ピザ、ラーメン、うどん等にかける、パン、菓子等にぬる、パン、菓子等につける等が挙げられる。
【0048】
上記した本発明のメタボリックシンドローム抑制剤、それを含む油脂組成物や食品、又は該抑制剤を用いて調理された食品は、メタボリックシンドロームの抑制、特に体脂肪蓄積の抑制、内臓脂肪蓄積の抑制、及び/又は血中中性脂肪上昇の抑制に有効である。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0050】
(試験試料)
本実施例では、大豆胚軸油及び大豆胚軸油混合油を作製して、試験試料とした。作製方法を以下に示す。
【0051】
(大豆胚軸油の作製方法)
大豆種子を80℃、45分間加熱し、粗砕機で1/2未満の大きさに粉砕することにより、子葉、種皮及び胚軸の混合物を得た。得られた混合物を、風力分級機にかけて種皮を除き、子葉及び胚軸混合物を得た。得られた子葉及び胚軸混合物を、篩分機を用いて、7メッシュ篩上画分を取り除き、さらに10〜14メッシュの篩に挟まれる画分を分取することで、胚軸画分(大豆胚軸40重量%)を得た。
【0052】
上記胚軸画分を60℃に加温して、圧扁機でフレークにし、n−ヘキサンで油分を抽出してミセラを得た。得られたミセラから減圧下、60〜80℃で残留するn−ヘキサンを除去して粗原油を得た。粗原油にリン酸0.1%を添加後、70℃で15分撹拌し、蒸留水を添加して70℃で30分撹拌後遠心分離し、ガム分を除いた(脱ガム)。次にリン酸0.1%添加後、75℃で15分撹拌し、水酸化ナトリウム水溶液を添加して20分撹拌後、遠心分離した。次に5%相当量の蒸留水を加え、80℃で1分間洗浄し、遠心分離をした(脱酸)。次に、活性白土を2%添加し、減圧下、80℃で30分間撹拌後、濾過した(脱色)。次いで、180℃で30分間水蒸気蒸留(蒸気量2%)する(脱臭)ことにより大豆胚軸油を得た。
【0053】
(大豆胚軸油混合油の作製方法)
前記大豆胚軸油50重量部と、大豆油(製品名:大豆白絞油NS、株式会社J−オイルミルズ社製)50重量部とを混合して、大豆胚軸油混合油を得た。
【0054】
〔実施例1〕動物試験及び細胞試験によるメタボリックシンドローム抑制剤の有効性評価
本発明のメタボリックシンドローム抑制剤の有効成分である大豆胚軸油の体脂肪蓄積抑制作用、内臓脂肪抑制作用及び血中中性脂肪上昇抑制作用を動物試験で調べた。さらに、大豆胚軸油の体脂肪蓄積抑制及び内臓脂肪抑制作用に及ぼす成分を細胞試験により調べた。
【0055】
A.動物試験
(1)飼料の準備
飼料に配合するメタボリックシンドローム抑制剤として、大豆胚軸油混合油を使用した。また、比較のため、大豆油(不鹸化物含有量430mg/100g)を用意した。上記二種類の油脂の植物ステロール分析を実施した。油中の植物ステロール濃度とステロール組成の結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表3の組成に従って、キッチンエイドミキサー(KSM5、株式会社エフエムアイ社製)にて15分間混合することにより、予備飼育用飼料、大豆油配合飼料(比較例1)、及び大豆胚軸油混合油配合飼料(実施例1)を調製した。
【0058】
【表3】
【0059】
(2)動物投与試験
7週齢の雄性C57BL/6Jマウスを日本チャールズリバー株式会社より購入し、予備飼育用飼料を用いて6日間予備飼育した。予備飼育後、群ごとの平均体重に差が生じないように1群6匹に群分けした。群分け後、大豆胚軸油混合油配合飼料又は大豆油配合飼料からなる試験食を12週間、摂餌した。予備飼育期間及び試験食摂取飼育期間中、温度23℃±2℃、湿度40〜60%、明期7:30〜19:30、暗期19:30〜7:30の環境下で飼育した。また、飼料は自由摂食とし、そして水は自由飲水とした。飼育期間中、体重を週1回、測定した。また、飼育期間中、2週毎に血中中性脂肪を測定した。
【0060】
試験食摂取最終前日の17時に絶食を開始した。最終日にペントバルビタールナトリウムによる深麻酔下で開腹し、精巣上体脂肪、腸間膜脂肪、腎周囲脂肪、後腹壁脂肪、肝臓、及び大腿筋を摘出し、それらの重量測定を行った。体重、血中中性脂肪値、精巣上体脂肪、腸間膜脂肪、腎周囲脂肪、後腹壁脂肪、内臓脂肪重量(前記4脂肪の合算値)、内臓脂肪率(=内臓脂肪重量/体重)、肝臓、肝臓比率(=肝臓重量/体重)、大腿筋、筋肉率(=大腿筋重量/体重)について統計処理をした(対応のないt検定)。図1図13のうち、有意差が確認されたものは、*もしくは**で示した。なお、*は危険率(p値)が0.05未満であることを、**は危険率(p値)が0.01未満であることを示す。
【0061】
試験中の摂餌量を比較した結果を図1に示す。黒色の棒グラフは、大豆油配合飼料摂取群、そして白色の棒グラフは、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群を示す。図1に示すとおり、試験期間中の飼料摂餌量は、実施例1の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の方が比較例1の大豆油配合飼料摂取群よりも多かった。
【0062】
図2に、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群(−×−)及び大豆油配合飼料摂取群(−▲−)の体重上昇抑制効果を示す。図2に示すとおり、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群では、体重上昇が有意に抑制された。
【0063】
図1及び2から飼料効率(=体重増加量/摂餌量)を求めた結果を、図3に示す。図3に示すとおり、飼料効率は、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の方が大豆油配合飼料摂取群よりも低かった。大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の方が、摂餌量が多いことから、大豆胚軸油混合油配合飼料は、同じ量摂餌しても、体重が増加し難いといえる。
【0064】
図4〜7に解剖時の各種脂肪重量、そして、図8に解剖時の上記脂肪4部位の内臓脂肪重量の合計を示す。図9には、解剖時の内臓脂肪重量/体重で示す内臓脂肪率を示す。図4〜9に示すとおり、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の内臓脂肪重量及び内臓脂肪率は、大豆油配合飼料摂取群に比べて有意に減少することが判明した。
【0065】
大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群及び大豆油配合飼料摂取群の解剖時の肝臓重量及び肝臓比率(=肝臓重量/体重)を、それぞれ図10及び図11に示す。肝臓重量と肝臓比率は、両群の間に有意な差がなかった。
【0066】
大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群及び大豆油配合飼料摂取群の解剖時の大腿筋重量及び筋肉率(=大腿筋重量/体重)を、それぞれ図12及び図13に示す。大腿筋重量と筋肉率は、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群の方が大豆油配合飼料摂取群より有意に高かった。
【0067】
大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群は、摂餌量が多いにもかかわらず、大豆油配合飼料摂取群よりも体重の増加が抑えられている(図1〜3)。大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群は、体脂肪や内臓脂肪の蓄積を有意に抑制する(図4〜9)。一方で、大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群は、臓器や筋肉を減少させない(図10〜13)。したがって、図2に示した本発明の抑制剤による体重増加抑制の効果は、体脂肪及び内臓脂肪の蓄積の抑制に基づくといえる。
【0068】
図14に、飼育期間中の大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群(−×−)及び大豆油配合飼料摂取群(−▲−)の血中中性脂肪の測定値を示す。大豆胚軸油混合油配合飼料摂取群(−×−)の血中中性脂肪値は、大豆油配合飼料摂取群(−▲−)に比べて低く推移した。従来、大豆胚軸油の成分には、血中コレステロール低下作用があることが判明している。今回、大豆胚軸油には、血中中性脂肪上昇抑制作用があることも判明した。したがって、本発明のメタボリックシンドローム抑制剤は、内臓脂肪型肥満と、血中コレステロール及び/又は血中中性脂肪の異常と関連する脂質異常症とを同時に改善又は防止することが判明した。
【0069】
B.細胞試験
(1)試験物質の準備
大豆胚軸油中の植物ステロール成分が内臓脂肪蓄積抑制作用をもたらしているか否かを試験した。動物試験に使用した大豆胚軸油と同様の操作にて大豆胚軸油(不鹸化物含有量4710mg/100g)を得た。大豆胚軸油の植物ステロール分析結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
以下の手順で、上記大豆胚軸油から不鹸化物を取得した。まず、上記大豆胚軸油3gを300mL共栓付三角フラスコに精秤し、2mol/L水酸化カリウム/エタノール溶液25mL、及び0.05g/mL没食子酸/エタノール溶液25mLを加えた。前記三角フラスコに沸騰石を2個加え、冷却水を循環したソックスレー抽出器冷却管を接続し、ウォーターバスで発生させた水蒸気上で1時間加熱して鹸化反応を行った。
【0072】
鹸化反応液を500mL容分液ロートに移し、前記三角フラスコ内に残った鹸化反応液を熱水100mLで共洗いし、分液ロートに移した。常温の純水50mLを加え、室温になるまで静置、冷却した。ジエチルエーテル100mLで前記三角フラスコを洗いながら分液ロートに入れた。分液ロートに栓をして1分間激しく振り混ぜ、水層とジエチルエーテルの2層に分離するまで静置した。下層(水層)を抜き取り、純水30mLを加え、栓をし、水層部で分液ロートの内壁全面を洗うように緩やかに2〜3回転させ静置し、2層に分離した後、下層(水層)を抜き取った。再度、分液ロートに純水30mLを加え、栓をし、水層部によって分液ロートの内壁全面が洗われるように緩やかに2〜3回転させ静置し、2層に分離した後、下層(水層)を抜き取った。純水30mLを加え、十分に振り混ぜた後、2層になるまで静置し、下層(水層)を抜き取った。この操作を、抜き取った下層の水層液がフェノールフタレイン溶液で着色しなくなるまで繰り返した。下層が着色しなくなったら、上層(ジエチルエーテル層)をビーカーに取り、無水硫酸ナトリウムで脱水処理後、ジエチルエーテル溶液を300mLナスフラスコに移し、ロータリーエバポレーターでジエチルエーテルを除去した。25〜30KPaの減圧下で、60℃で30分間乾燥処理を行った。デシケーター内で放冷後、得られた抽出物を不鹸化物とした。上記取得手順を繰り返し、大豆胚軸油から細胞試験用の不鹸化物を得た。
【0073】
上記不鹸化物14.65mg中の植物ステロール分析結果を、表5に示す。
【表5】
【0074】
以下の手順で、上記不鹸化物からアベナステロール画分を取得した。まず、上記不鹸化物約40mgをテトラヒドロフラン4mLに溶解し、1分間超音波処理を行った。5C18ARカラム(20mm(I.D.)×250mm、粒径5μm、Waters社製)に不鹸化物溶液140μLを注入し、メタノール:アセトニトリル:テトラヒドロフラン=1:2:0.1の溶液により、流速20mL/minで流して、アベナステロールを210nmの吸光度によって確認しながら分離することにより、アベナステロール溶液を得た。得られたアベナステロール溶液を再度カラムに通過させ、高濃度アベナステロール溶液を得た。得られた高濃度アベナステロール溶液からロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去した。真空乾燥機で60℃、30分間乾燥させて、アベナステロール画分を得た。アベナステロール画分のアベナステロール純度は、87.2重量%であった。アベナステロール画分からシトロスタジエノールは未検出であった。
【0075】
(2)被験溶液調製法
4.147mgの不鹸化物にジメチルスルホキシド(DMSO)100μLを加え、又は1.0716mgのアベナステロール画分に、ジメチルスルホキシド(DMSO)259.65μLを加え、1分間超音波処理を行い、被験溶液を得た。不鹸化物の被験溶液(アベナステロール濃度 1.41mg/ml)を不鹸化物群、そして、アベナステロールの被験溶液(アベナステロール濃度 3.60mg/ml)をアベナステロール画分群という。さらに不鹸化物及びアベナステロール画分無添加のDMSO(対照群)を用意した。各群の被験溶液をそれぞれ、下記の細胞試験に記載の培地で1000倍希釈し、1分間超音波処理して、被験溶液添加培地を得た。
【0076】
(3)細胞試験
内臓脂肪細胞培養キット(コスモバイオ株式会社製、VAC21)を用いて、添付のプロトコールに準じて細胞試験を実施した。具体的には、37℃の湯浴中で溶解したラット初代内臓脂肪細胞3.0×10cellsを24穴プレートに播種し、キットに添付の培地で4日間予備培養を行った。予備培養後、培地を除去し、被験溶液添加培地1mLで2日間培養し、2日後に培地を除去し、被験溶液添加培地1mLでさらに2日間培養した。
【0077】
(4)オイルレッドO染色
上記培地を除去して、ウェル内をリン酸緩衝液生理食塩水(PBS)0.5mLで洗浄した。10%ホルマリン溶液0.5mLを各ウェルに添加して室温10分間固定した。ホルマリンを除去し、PBS 0.5mLでウェル内を洗浄した。60%イソプロパノール0.5mLを各ウェルに添加して室温1分間静置した。60%イソプロパノールを除去した。オイルレッドO染色液(0.3g Oil Red/100mLイソプロパノール)0.5mLで室温20分間静置した。オイルレッドO染色液を除去し、60%イソプロパノール0.5mLを各ウェルに添加し、1分間静置した。60%イソプロパノールを除去し、PBS 0.5mLでウェル内を洗浄した。倍率200倍で顕微鏡観察し、脂肪滴が染色された内臓脂肪細胞をコンピュータの記録装置に画像として記録した。
【0078】
(5)脂肪滴面積値の解析
画像処理ソフトウエアImageJ (1.48v) (https://imagej.nih.gov/ij/より入手)を用いて、上記画像のオイルレッドOによって染色された脂肪滴面積値を測定した。細胞試験は3回行い、細胞試験ごとに各群4枚の画像を記録した。細胞試験ごとに、対象群の脂肪滴面積値の平均値を算出し、対照群の脂肪滴面積値の平均値を1としたときの各画像の脂肪滴面積値の相対値(以後、相対値と記載)を算出した。このようにして得た各群12個の相対値を統計処理した(Tukey−Kramer test)。図15に、対照群に対する不鹸化物群及びアベナステロール群の相対値の結果を示す。また**は危険率(p値)が、0.01以下であることを示す。
【0079】
図15に示すように、不鹸化物群及びアベナステロール群は、対照群と比較して、脂肪細胞への脂肪蓄積を有意に抑制した。したがって、不鹸化物中の有効成分の一つは、アベナステロールである可能性が高い。
【0080】
以上の細胞試験の結果から、大豆胚軸油を有効成分とするメタボリックシンドローム抑制剤は、体脂肪蓄積抑制及び内臓脂肪蓄積抑制効果を発揮するために、Δ7ステロール、特にアベナステロールを含むことが好ましいことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図15