特許第6893355号(P6893355)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6893355カーボンナノチューブを含む糸及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893355
(24)【登録日】2021年6月3日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブを含む糸及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/16 20060101AFI20210614BHJP
   C01B 32/159 20170101ALI20210614BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20210614BHJP
【FI】
   D02G3/16
   C01B32/159
   C01B32/168
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-150884(P2017-150884)
(22)【出願日】2017年8月3日
(65)【公開番号】特開2018-24968(P2018-24968A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2020年6月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-154583(P2016-154583)
(32)【優先日】2016年8月5日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト/(2)ナノ炭素材料の応用基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向 健
(72)【発明者】
【氏名】安積 欣志
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 毅
(72)【発明者】
【氏名】畠 賢治
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−203168(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/115670(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/185497(WO,A1)
【文献】 特開2013−067938(JP,A)
【文献】 特表2004−532937(JP,A)
【文献】 特表2010−502548(JP,A)
【文献】 特表2009−519621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 − 32/39
D01F 9/08 − 9/32
D02G 1/00 − 3/48
D02J 1/00 − 13/00
D06M 13/00 − 15/715
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブを含む糸であって、少なくとも表面にタウロデオキシコール酸塩が付着してなるカーボンナノチューブを含む糸。
【請求項2】
タウロデオキシコール酸塩がタウロデオキシコール酸ナトリウムである、請求項1に記載の糸。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブ(SWNT)である、請求項1又は2に記載の糸。
【請求項4】
532nmの波長によるラマン分光測定において1350cm-1付近に出現するDバンドの強度と1590cm-1付近に出現するGバンドの強度の比率(G/D比)が0.1から1000の範囲にある請求項1〜3のいずれか1項に記載の糸。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の糸の製造方法であって、カーボンナノチューブ(CNT)とタウロデオキシコール酸塩を含む分散液を凝固浴中に吐出する工程、吐出されたCNT糸を水に浸漬する工程、湿潤状態のCNT糸を延伸する工程を含む糸の製造方法。
【請求項6】
前記凝固浴が有機溶媒を含む溶媒である請求項5記載の糸の製造方法。
【請求項7】
前記分散液及び凝固浴の溶媒はいずれも水であり、前記分散液と凝固浴のいずれかに塩類を含むことを特徴とする請求項5記載の糸の製造方法。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブは、改良直噴熱分解合成法により製造されたカーボンナノチューブである、請求項5〜7のいずれか1項に記載の糸の製造方法。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載の糸から構成される電線。
【請求項10】
請求項1から4のいずれかに記載の糸を備えるモータ。
【請求項11】
請求項1から4のいずれかに記載の糸から成るアンテナを含む移動通信体。
【請求項12】
請求項1から4のいずれかに記載の糸を備えるトランス。
【請求項13】
請求項1から4のいずれかに記載の糸を備える電磁波遮蔽シールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを含む糸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube;CNT)を含む導電性糸は、優れた導電性と機械強度を得ることが期待されるため、様々な製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、非特許文献1は、CNTフォレストからCNTを引出し、撚りながら導電性CNT糸を製造しているが、この方法は多層カーボンナノチューブ(MWCNT)及びCNTフォレストを使用する必要がある。
【0004】
非特許文献2は、CNT分散液をポリビニルアルコールを含む凝集液に注入してCNT糸を製造しているが、得られたCNT糸の導電性が低い欠点がある。
【0005】
特許文献1は、CNTと増粘剤を含む分散液を用いてCNT糸を製造しているが、増粘剤の完全な除去が困難である。
【0006】
特許文献2〜3は、他のポリマーを含まないことによりCNT糸の導電率が改善されているが、さらに高い導電率を有するCNT糸が求められていた。
【0007】
特許文献4は、CNT糸を開示しているが、その導電率の改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−168679
【特許文献2】特開2012−126635
【特許文献3】特開2012−127043
【特許文献4】WO2014/185497
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Inoue et al. Carbon 49 (2011) 2437-2443
【非特許文献2】Vigolo et al. Science 290 (2000) 1331-1334
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、導電率に優れたCNTを含む糸及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下のCNTを含む糸及びその製造方法を提供するものである。
項1. カーボンナノチューブを含む糸であって、少なくとも表面にタウロデオキシコール酸塩が付着してなるカーボンナノチューブを含む糸。
項2. タウロデオキシコール酸塩がタウロデオキシコール酸ナトリウムである、項1に記載の糸。
項3. 前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブ(SWNT)である、項1又は2に記載の糸。
項4. 532nmの波長によるラマン分光測定において1350cm-1付近に出現するDバンドの強度と1590cm-1付近に出現するGバンドの強度の比率(G/D比)が0.1から1000の範囲にある、項1〜3のいずれか1項に記載の糸。
項5. 項1〜4のいずれか1項に記載の糸の製造方法であって、カーボンナノチューブ(CNT)とタウロデオキシコール酸塩を含む分散液を凝固浴中に吐出する工程、吐出されたCNT糸を水に浸漬する工程、湿潤状態のCNT糸を延伸する工程を含む糸の製造方法。
項6. 前記凝固浴が有機溶媒を含む溶媒である項5記載の糸の製造方法。
項7. 前記分散液及び凝固浴の溶媒はいずれも水であり、前記分散液と凝固浴のいずれかに塩類を含むことを特徴とする項5記載の糸の製造方法。
項8.前記カーボンナノチューブは、改良直噴熱分解合成法により製造されたカーボンナノチューブである、項5〜7のいずれか1項に記載の糸の製造方法。
項9. 項1から4のいずれかに記載の糸から構成される電線。
項10.項1から4のいずれかに記載の糸を備えるモータ。
項11.項1から4のいずれかに記載の糸から成るアンテナを含む移動通信体。
項12.項1から4のいずれかに記載の糸を備えるトランス。
項13.項1から4のいずれかに記載の糸を備える電磁波遮蔽シールド。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、導電率と強度がいずれも優れたCNT糸を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に用いられるCNTは、グラフェンシートが筒形に巻いた形状から成る炭素系材料である。CNTとしては、各種のものが知られている。例えば、その周壁の構成数から単層CNT(Single Wall Carbon Nanotube;SWNT)と多層CNT(Multi Wall Carbon Nanotube;MWNT)とに大別される。また、グラフェンシートの構造の違いからカイラル(らせん)型、ジグザグ型、およびアームチェア型に分けられる。本発明には、このような所謂CNTと称されるものであれば、いずれのタイプのCNTも用いることができる。一般的には、アスペクト比が大きく分子間力の大きな単層カーボンナノチューブがCNT糸を形成し易い。例えば、アスペクト比が102以上、好ましくは5×102以上のCNTが挙げられる。CNTの長さの上限は、特に限定されないが、例えば10μmから数mm程度である。好ましいCNTは、単層ナノチューブ(SWNT)であり、例えばスーパーグロース(SG)法により製造されたCNTや、直噴熱分解合成法(Dips法;Direct Injective Pyrolytic Synthesis)、改良直噴熱分解合成法(eDips法;enhanced Direct Injective Pyrolytic Synthesis)により製造されたCNTがより好ましく、eDips法により製造されたCNTが特に好ましい。またこれらを混ぜて使ってもよい。
【0014】
SG法については、例えば、下記文献に記載されている:
Hata et al., Science, 306 (2004) 1362-1364
【0015】
Dips法については、例えば、下記文献に記載されている:
Saito et at., J. Phys. Chem. B 110, (2006) 5849-5853。
【0016】
また、eDips法については、例えば、下記文献に記載されている:
Saito et al., J. Nanosci. Nanotechnol., 8 (2008) 6153-6157。
【0017】
本発明による糸は、導電性を高めることにより強度が高く、低い抵抗を有し、軽量で錆びない特徴を有することより、モータのコイル部位、電線、移動通信体のアンテナ、電圧を変換するトランスや電磁波遮蔽シールド材として利用が考えられる。
【0018】
分散液中のCNTの量は、溶媒100mlあたり5〜1500mg程度、好ましくは10〜1200mg程度である。
【0019】
分散液中のタウロデオキシコール酸塩の量は、0.05〜30質量%程度、好ましくは0.1〜20質量%程度である。
【0020】
タウロデオキシコール酸塩としては、タウロデオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸カリウム、タウロデオキシコール酸リチウムなどのタウロデオキシコール酸アルカリ金属塩、タウロデオキシコール酸カルシウム、タウロデオキシコール酸マグネシウムなどのタウロデオキシコール酸アルカリ土類金属塩、タウロデオキシコール酸アンモニウムなどが挙げられ、タウロデオキシコール酸アルカリ金属塩が好ましく、タウロデオキシコール酸ナトリウムがより好ましい。
【0021】
本発明において、CNT紡糸原糸(CNTを含む紡糸原糸)又はCNT糸(CNTを含む糸)の少なくとも表面にタウロデオキシコール酸塩を含む。CNT表面に付着していないタウロデオキシコール酸塩は紡糸の際に除去されるが、CNT表面に付着したタウロデオキシコール酸塩は、紡糸及び延伸乾燥後もCNT表面に付着したままであり、CNT紡糸原糸又はCNT糸に含まれる。CNT紡糸原糸又はCNT糸は、水を除く固形分としてCNTを50〜99.9999質量%程度、好ましくは70〜99.999質量%程度含み、タウロデオキシコール酸塩を0.0001〜50質量%程度、好ましくは0.001〜30質量%程度含む。本発明のカーボンナノチューブを含む糸は、CNT紡糸原糸とCNT糸の両方を含む。カーボンナノチューブを含む糸は、水、有機溶媒などの溶媒、塩類などを含んでいてもよい。タウロデオキシコール酸塩は、カーボンナノチューブを含む糸の表面に付着していればよく、さらにCNT糸の内部に存在していてもよい。タウロデオキシコール酸塩の含有割合は、表面と内部の合計量に基づく。
【0022】
本発明の分散液は、紡糸工程によりシリンジ、紡糸口金などから凝固浴中に吐出され、CNT紡糸原糸を形成し、この紡糸原糸を水に浸漬した後、延伸工程に供することにより、CNT糸とすることができる。なお、凝固浴は、溶媒を含む。
CNT紡糸原糸とはCNT分散液を紡糸口金などから凝固浴中に吐出された状態のもので、CNT間に隙間が存在し、その隙間に溶媒が存在している状態である。
CNT糸とは複数のCNTが配列した状態のものである。
吐出する際のシリンジ、紡糸口金などの口径は、10〜5000μm程度、好ましくは20〜2000μm程度である。この口径を調節することにより紡糸原糸、更には糸の径を調節することができる。
【0023】
本発明の分散液は、CNTとタウロデオキシコール酸塩を水又は有機溶媒に添加し、撹拌して得ることができる。撹拌は、超音波撹拌装置、超音波ホモジナイザー等を用いて行うことができる。好ましくは超音波撹拌装置で予備分散し、超音波ホモジナイザーで本分散を行う。超音波撹拌装置での処理時間は、5分〜2時間程度、好ましくは10分〜1時間程度であり、超音波ホモジナイザーでの処理時間は、1分〜3時間程度、好ましくは5分〜1時間程度である。
【0024】
本発明の態様の一つにおいては、凝固浴の溶媒は有機溶媒である。凝固浴中の有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒が好ましく、例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、4-メチル-2-ペンタノン(MIBK)などのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、DMF、アセトアミド、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテル、グリセリン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどが挙げられる。凝固浴の溶媒は含水有機溶媒が好ましい。凝固浴の温度は5〜50℃程度、好ましくは室温程度の温度であればよい。吐出されたCNT糸はすぐに次の水への浸漬工程に供してもよく、1分以上、例えば5分以上凝固浴中に維持してもよい。
【0025】
本発明の別の態様においては、分散液及び凝固浴いずれの溶媒としても、水を用いてもよい。その場合、分散液と凝固浴のいずれか一方もしくは両方に塩類を添加する。分散液と凝固浴の両方に塩類が含まれない場合、紡糸原糸を得ることができない。塩類は無機塩及び有機塩のいずれでもよいが、無機塩類が好ましい。塩類は水溶性である。塩類は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が好ましく、より好ましくはナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩が挙げられ、さらに好ましくはナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩が挙げられる。塩類のアニオンとしては、塩素イオン、フッ素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、クエン酸イオン、シュウ酸イオン、リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、マレイン酸イオン、フマル酸イオン、酢酸イオンなどが挙げられる。
【0026】
好ましい塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸カリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウムなどが挙げられる。
【0027】
塩類の濃度は、分散液中では0〜25質量%程度、好ましくは0〜20質量%程度であり、凝固浴中では0〜40質量%程度、好ましくは0〜35質量%程度である。塩類は単独で或いは2種以上の塩類を組み合わせて分散液及び/又は凝固浴に溶解される。凝固浴又は分散液中に塩類が含まれるので、分散液を吐出後の凝固浴には塩類が含まれる。分散液を吐出後の凝固浴中の塩類濃度は0.5〜40質量%程度、好ましくは1〜35質量%程度である。塩類は、分散液のみ或いは凝固液のみに含まれていてもよいので、分散液と凝固液の塩類濃度の下限は各々0質量%であるが、両者共に0質量%であることはない。塩類を含む分散液/凝固液の塩類濃度の下限は、0.5質量%程度、好ましくは1質量%程度であり、上限は、40質量%程度、好ましくは35質量%程度である。前記分散液及び凝固浴のpHは特に限定されないが、好ましくは2〜12、より好ましくは3〜11、さらに好ましくは4〜10、特に好ましくは5〜9であることが好ましい。強酸、強塩基を分散液及び凝固浴に用いることによりCNTのG/D比の低下につながる恐れがある。
本明細書において、Dバンドは532nmの波長によるラマン分光測定において1350cm-1付近に出現するバンドを意味し、Gバンドは532nmの波長によるラマン分光測定において1590cm-1付近に出現するバンドを意味する。Dバンドの強度の面積とGバンドの強度の面積の割合から算出される比率(G/D比)は、上限値は特に限定されないが、好ましくは0.1〜1000、より好ましくは1〜200、さらに好ましくは2〜100の範囲にある。G/D比が上記の範囲内にあると、CNTの格子欠陥が少なく、導電性および機械的特性の優れたCNT糸を得る事ができるので好ましい。本明細書において、トリプルラマン分光装置(T64000 株式会社堀場製作所製)を用い、532nmの波長で測定することによりG/D比を測定した。
【0028】
凝固浴中に分散液を吐出して得たCNT糸(CNT紡糸原糸)は、さらに水に浸漬し、CNT糸を湿潤状態とする。浸漬工程における水の温度は5〜50℃程度、好ましくは室温程度の温度であればよい。浸漬時間は2時間以上、好ましくは24時間以上である。
【0029】
CNT糸(CNT紡糸原糸)は湿潤状態で次の延伸工程に供される。延伸工程は、例えば延伸機を用いてCNT糸の両端を固定し、延伸速度を制御して行うことができる。
【0030】
延伸率は、5〜70%程度、好ましくは10〜50%程度である。
【0031】
本明細書において、延伸率は下記式により定義される。
延伸率(%)=[{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)]×100
延伸後は、必要に応じて乾燥することによりCNT糸を得ることができる。
【0032】
CNT糸におけるタウロデオキシコール酸塩の残存を確認する方法としては示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)、エネルギー分散型X線分析法(EDX)、ICP発光分析法、および質量分析法を用い測定することにより評価することができる。
タウロデオキコール酸塩の初期の熱分解温度は380℃付近である一方、CNTの初期の分解温度は400℃を超える。本明細書において、示差熱熱重量同時測定装置TG-DTA(STA7200 日立ハイテクサイエンス社製)を用い、380℃付近の重量減少を見ることにより、タウロデオキコール酸塩の残存を確認できる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明する。
(実施例1)
スーパーグロース法により製造された単層カーボンナノチューブ(以下、SGと記述する、G/D比=5) 50mgとタウロデオキシコール酸ナトリウム(以下、TDOCと記述する) 450mgを24.5gの水に加え、超音波攪拌装置(株式会社日本精機製作所製、USS-1)を用いて予備分散した後、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製、US-50)を用いて、本分散を行うことでSG-TDOC分散液を得た。
【0034】
TDOC450mgを水24.5gに溶かした水溶液のpHは6.4であった。
【0035】
SG-TDOC分散液を注入ノズル(内径1.25mm)からイソプロピルアルコール(以下、IPAと記述する)に注入しSG-TDOC紡糸原糸の作製を行った。
【0036】
得られたSG-TDOC紡糸原糸をIPAにて1日間放置した後、水に置換し3日以上浸漬した。
【0037】
水中から取り出したSG-TDOC紡糸原糸の両端を治具で固定し、延伸装置(株式会社SDI社製)を用い片端を駆動させることにより15%延伸し、乾燥し、SG-TDOC糸(CNT糸)を得た。
【0038】
得られたSG-TDOC糸のG/D比は2.64であった。
【0039】
得られたSG-TDOC糸を示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA、STA7200日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、大気中、30℃から1000℃の温度範囲での重量変化を観察した。結果として380℃にて重量が低下することを確認した。従ってCNT糸の表面にTDOCが付着していることを確認した。
【0040】
(比較例1)
SG 50mgとコール酸ナトリウム(以下、SCと記述する) 450mgを24.5gの水に加え、超音波攪拌装置(株式会社日本精機製作所製、USS-1)を用いて予備分散した後、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製、US-50)を用いて、本分散を行うことでSG-SC分散液を得た。
【0041】
SC450mgを水24.5gに溶かした溶液のpHは8.0であった。
【0042】
SG-SC分散液を注入ノズル(内径1.25mm)からIPAに注入しSG-SC紡糸原糸の作製を行った。
【0043】
得られたSG-SC紡糸原糸をIPAにて1日間放置した後、水に置換し3日以上浸漬した。
【0044】
水中から取り出したSG-SC紡糸原糸の両端を治具で固定し、延伸装置を用い片端を駆動させることより15%延伸し乾燥し、SG-SC糸を得た。
(試験例1)
実施例1にて作製したSG-TDOC糸と比較例1にて作製したSG-SC糸の導電率を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1の結果から界面活性剤としてTDOCを用いて作製したSG-TDOC糸は界面活性剤としてSCを用いて作製したSG-SC糸と比較し、導電率が高いことが分かった。このようにSCよりもTDOCを用いることにより導電率を2.66倍以上向上できる。
【0047】
(実施例2)
eDips法により製造された単層カーボンナノチューブ(株式会社名城ナノカーボン社製、EC、以下、eDipsと記述する,G/D比=91) 50mgとTDOC 450mgを24.5gの水に加え、超音波攪拌装置(株式会社日本精機製作所製、USS-1)を用いて予備分散した後、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製、US-50)を用いて、本分散を行うことでeDips-TDOC分散液を得た。
【0048】
eDips-TDOC分散液を注入ノズル(内径1.25mm)からIPAに注入しeDips-TDOC紡糸原糸の作製を行った。
【0049】
得られたeDips-TDOC紡糸原糸をIPAにて1日間放置した後、水に置換し3日以上浸漬した。
【0050】
水中から取り出した凝集eDips-TDOC紡糸原糸の両端を治具で固定し、延伸装置を用い片端を駆動させることより12.5%延伸し、乾燥し、eDips-TDOC糸を得た。
【0051】
得られたeDips-TDOC糸のG/D比は38.6であった。
【0052】
得られたeDips-TDOC糸を示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA、STA7200日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、大気中、30℃から1000℃の温度範囲での重量変化を観察した。結果として380℃にて重量が低下することを確認した。従ってCNT糸の表面にTDOCが付着していることを確認した。
【0053】
(比較例2)
eDips 50mgとSC 450mgを24.5gの水に加え、超音波攪拌装置(株式会社日本精機製作所製、USS-1)を用いて予備分散した後、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製、US-50)を用いて、本分散を行うことでeDips-SC分散液を得た。
【0054】
eDips-SC分散液を注入ノズル(内径1.25mm)からIPAに注入しeDips-SC紡糸原糸の作製を行った。
【0055】
得られたeDips-SC紡糸原糸をIPAにて1日間放置した後、水に置換し3日以上浸漬した。
【0056】
水中から取り出したeDips-SC紡糸原糸の両端を治具で固定し、延伸装置を用い片端を駆動させることより12.5%延伸し、乾燥し、eDips-SC糸を得た。
(試験例2)
実施例2にて作製したeDips-TDOC糸と比較例2にて作製したeDips-SC糸の導電率を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2の結果から界面活性剤としてTDOCを用いて作製したeDips-TDOC糸は界面活性剤としてSCを用いて作製したeDips-SC糸と比較し、導電率が高いことが分かった。このようにSCよりもTDOCを用いることにより導電率を1.80倍以上向上できる。
【0059】
(実施例3)
eDips 20mgとTDOC 120mgを9.86gの水に加え、超音波攪拌装置30分間35℃を用いて攪拌した後、超音波ホモジナイザーを用いて処理し、eDips-TDOC分散液を得た。
【0060】
TDOC120mgを水9.86gに溶かした水溶液のpHは6.8であった。
【0061】
得られた分散液を注入ノズル(内径0.9mm)からIPA液中に注入し、eDips-TDOC紡糸原糸の作製を行った。
【0062】
IPA液中にて30分間放置した後、IPA液中から取り出し、水に1日以上浸漬した。
【0063】
水中から取り出した凝集eDips-TDOC紡糸体を湿潤状態で一端を治具で固定し、他端に10g重の荷重をかけて延伸し、eDips-TDOC糸を得た。
【0064】
(比較例3)
eDips 20mgとSC 120mgを9.86gの水に加え、超音波攪拌装置30分間35℃を用いて攪拌した後、超音波ホモジナイザーを用いて処理し、eDips-SC分散液を得た。
【0065】
SC120mgを水9.86gに溶かした水溶液のpHは7.6であった。
【0066】
得られた分散液を注入ノズル(内径0.9mm)からIPA液中に注入し、eDips-SC紡糸原糸の作製を行った。
【0067】
IPA液中にて30分間放置した後、IPA液中から取り出し、水に1日以上浸漬した。
【0068】
水中から取り出した凝集eDips-SC紡糸体を湿潤状態で一端を治具で固定し、他端に10g重の荷重をかけて延伸し、eDips-SC糸を得た。
(試験例3)
実施例3にて作製したeDips-TDOC糸と比較例3にて作製したeDips-SC糸の導電率を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3の結果から界面活性剤としてTDOCを用いて作製したeDips-TDOC糸は界面活性剤としてSCを用いて作製したeDips-SC糸と比較し、導電率が高いことが分かった。このようにSCよりもTDOCを用いることにより導電率を1.73倍以上向上できる。
【0071】
(実施例4)
eDips20mgとTDOC 120mgを9.86gの水に加え、超音波攪拌装置30分間35℃を用いて攪拌した後、超音波ホモジナイザーを用いて処理し、eDips-TDOC分散液を得た。
【0072】
得られた分散液を注入ノズル(内径0.51mm)からIPA液中に注入し、eDips-TDOC紡糸原糸の作製を行った。
【0073】
IPA液中にて30分間放置した後、IPA液中から取り出し、水に1日以上浸漬した。
【0074】
水中から取り出したeDips-TDOC紡糸原糸を湿潤状態で一端を治具で固定し、他端に3g重の荷重をかけて延伸し、eDips-TDOC糸を得た。
【0075】
(比較例4)
eDips20mgとSC 120mgを9.86gの水に加え、超音波攪拌装置30分間35℃を用いて攪拌した後、超音波ホモジナイザーを用いて処理し、eDips-SC分散液を得た。
【0076】
得られた分散液を注入ノズル(内径0.51mm)からIPA液中に注入し、eDips-SC紡糸原糸の作製を行った。
【0077】
IPA液中にて30分間放置した後、IPA液中から取り出し、水に1日以上浸漬した。
【0078】
水中から取り出したeDips-SC紡糸原糸を湿潤状態で一端を治具で固定し、他端に3g重の荷重をかけて延伸し、eDips-SC糸を得た。
(試験例4)
実施例4にて作製したeDips-TDOC糸と比較例4にて作製したeDips-SC糸の導電率を表3に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
表4の結果から界面活性剤としてTDOCを用いて作製したeDips-TDOC糸は界面活性剤としてSCを用いて作製したeDips-SC糸と比較し、導電率が高いことが分かった。このようにSCよりもTDOCを用いることにより導電率を1.48倍以上向上できる。
【0081】
(実施例5)
eDips20mgとTDOC 120mgを9.86gの水に加え、超音波攪拌装置30分間35℃を用いて攪拌した後、超音波ホモジナイザーを用いて処理し、eDips-TDOC分散液を得た。
【0082】
得られた分散液を注入ノズル(内径1.25mm)から25%塩化ナトリウム水溶液中(pH=6.1)に注入することによりeDips-TDOC紡糸原糸の作製を行った。
【0083】
25%塩化ナトリウム水溶液中にて1日間放置した後、IPAに置換し1日放置した後、水に置換し1日以上浸漬した。
【0084】
水中から取り出した凝集eDips-TDOC紡糸原糸を湿潤状態で一端を治具で固定し、片端に10g重の荷重をかけて延伸し、eDips-TDOC糸を得た。
【0085】
(比較例5)
eDips20mgとSC 120mgを9.86gの水に加え、超音波攪拌装置30分間35℃を用いて攪拌した後、超音波ホモジナイザーを用いて処理し、eDips-SC分散液を得た。
【0086】
得られた分散液を注入ノズル(内径1.25mm)から25%塩化ナトリウム水溶液中(pH=6.1)に注入することによりeDips-SC紡糸原糸の作製を行った。
【0087】
25%塩化ナトリウム水溶液中にて1日間放置した後、IPAに置換し1日放置した後、水に置換し1日以上浸漬した。
【0088】
水中から取り出した凝集eDips-SC紡糸原糸を湿潤状態で一端を治具で固定し、片端に10g重の荷重をかけて延伸したが、延伸途中で破断した。そこで片端に1g重以下の荷重をかけて延伸することによりeDips-SC糸を得た。
(試験例5)
実施例5にて作製したeDips-TDOC糸と比較例5にて作製したeDips-SC糸の導電率を表3に示す。
【0089】
【表5】
【0090】
表5の結果から界面活性剤としてTDOCを用いて作製したeDips-TDOC糸は界面活性剤としてSCを用いて作製したeDips-SC糸と比較し、導電率が高いことが分かった。このようにSCよりもTDOCを用いることにより導電率を1.35倍以上向上できる。