(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
[1]第1実施形態
図1には、本発明の第1実施形態に係るグリース製造装置1が示されている。グリース製造装置1は、グリース原料を内部に導入する容器本体2と、容器本体2の内周面内に回転軸12を有し、内周面の中心を回転軸12とする回転子3とを備える。
容器本体2は、内部でグリース原料に回転子3によって高いせん断力を与え、グリースを製造する。回転子3は、容器本体2の内周面内に回転軸12を有し、容器本体2の内周面の中心に設置されることより、回転軸12が固定され、高速回転する。容器本体2は、
図1に示されるように、上部から、導入部4、滞留部5、容器本体2の内周面の第一凹凸部6、容器本体2の内周面の第二凹凸部7、及び吐出部8に区画される。容器本体2は、導入部4から吐出部8に向かうにしたがって、次第に内径が拡径する円錐台状の内周面を有している。
容器本体2の一端となる導入部4は、容器本体2の外部からグリース原料を導入する複数の溶液導入管4A、4Bを備える。
【0011】
滞留部5は、導入部4の下部に配置され、導入部4から導入されたグリース原料を一時的に滞留させる部分である。この滞留部5にグリース原料が長時間滞留すると、滞留部5の内周面に付着したグリースが、大きなダマを形成してしまうので、なるべく短時間で下流側の第一凹凸部6に搬送するのが好ましい。さらに好ましくは、滞留部5を経ず、直接第一凹凸部6に搬送することが好ましい。
第一凹凸部6は、滞留部5の下部に配置され、第二凹凸部7は、第一凹凸部6の隣接した下部に配置され、詳しくは後述するが、第一凹凸部6および第二凹凸部7によって、グリース原料またはグリースに高いせん断力を付与する高せん断部として機能する。
容器本体2の他端となる吐出部8は、第一凹凸部6と第二凹凸部7で撹拌されたグリースを吐出する部分であり、グリースを吐出する吐出口11を備える。吐出口11は、グリースを水平方向にするために、回転軸12の方向に直交する水平方向に形成されている。
【0012】
回転子3は、容器本体2の円錐台状の内周面の中心を回転軸12として回転可能に設けられ、
図1に示されるように導入部4側から見て、反時計回りに回転する。
回転子3は、容器本体2の円錐台の内径の拡大に応じて拡大する外周面を有し、回転子3の外周面と、容器本体2の円錐台の内周面とは、一定の間隔が維持されている。
回転子3の外周面には、回転子3の表面に沿って凹凸が交互に設けられた回転子の第一凹凸部13が設けられている。
【0013】
第一凹凸部6は、導入部4から吐出部8方向に、回転子3の回転軸12に対して傾斜し、導入部4から吐出部8方向への送り能力を有する。すなわち、第一凹凸部6は、回転子3が
図1に示された方向に回転する時に、溶液を下流側に押し出す方向に傾斜している。
回転子の第一凹凸部13の凹部13Aと凸部13Bの段差は、回転子3の外周面の凹部13Aにおける直径の0.3%以上、30%以下とするのが好ましく、さらに好ましくは、0.5%以上、15%以下であり、特に好ましくは、2%以上、7%以下である。0.3%以下では、撹拌機能、及び、グリース原料の送り能力が十分ではなく、30%以上では、後述する最低せん断速度を十分に高くすることができず、グリース原料に高いせん断力を付与することができない。
【0014】
円周方向における回転子の第一凹凸部13の凸部13Bの数は、2個以上、1000個以下とするのが好ましく、さらに好ましくは、6個以上、500個以下、特に好ましくは12個以上、200個以下である。2本以下では、撹拌機能、及び、グリース原料の送り能力が十分でなく、1000個以上では、加工が困難なうえに、凹部13Aが小さくなりすぎて適切な送り能力が得にくくなる。
回転子3の回転軸12に直交する断面における回転子の第一凹凸部13の凸部13Bの幅と、凹部13Aの幅との関係(凸部の幅/凹部の幅)は、0.01以上、100以下、好ましくは0.1以上、10以下、特に好ましくは0.5以上、2以下である。0.01以下では、グリース原料に十分に高せん断が与えられず、100以上では、グリース原料の送り能力が得にくくなる。
回転子の第一凹凸部13の回転子3の回転軸12に対する傾斜角度は、2°から85°、好ましくは、3°から45°、特に好ましくは5°から20°である。2°以下または85°以上では、グリース原料またはグリースの送り能力が得にくくなる。特に、0°と90°では、グリースの送り能力がなくなってしまう。
【0015】
容器側の第一凹凸部9の内周面には、内周面に沿って凹凸が複数形成されており、容器側の第一凹凸部9の凹凸は、回転子の第一凹凸部13とは逆向きに傾斜している。すなわち、複数の凹凸は、回転子3の回転軸12が
図1に示される方向に回転する時に、溶液を下流側に押し出す方向に傾斜している。容器本体2の内周面の複数の凹凸によって、撹拌能力と吐出能力が更に増強される。
容器側の第一凹凸部9の凹凸の深さは、容器内径(直径)の0.2%以上、30%以下とするのが好ましく、さらに好ましくは、0.5%以上、15%以下であり、特に好ましくは、1%以上、5%以下である。0.2%以下では、溝としての撹拌機能、及び、グリース原料の送り能力の向上が十分でなく、30%以上では、後述する最低せん断速度を十分に高くすることがでず、グリース原料に高いせん断力を付与することができない。
【0016】
容器側の第一凹凸部9の凹凸の本数は、2本以上、1000本以下とするのが好ましく、さらに好ましくは、6本以上、500本以下、特に好ましくは12本以上、200本以下である。2本以下では、溝としての撹拌機能、及び、グリース原料の送り能力が十分でなく、1000本以上では、加工が困難なうえに、適切な溝幅が確保されず適切な送り能力が得にくくなる。
容器側の第一凹凸部9の凹凸の溝幅と溝間の凸部の幅の関係(溝幅/凸部の幅)は、0.01以上、100以下、好ましくは0.1以上、10以下、特に好ましくは0.5以上、2以下である。0.01以下では、十分な送り能力が得られず、100以上では、グリース原料に高いせん断力を付与することができない。
容器側の第一凹凸部9の凹凸の回転子3の回転軸12に対する傾斜角度は、2°から85°、好ましくは、3°から45°、特に好ましくは5°から20°である。2°以下または85°以上では、溶液、又は、グリースの送り能力が十分でない。特に、0°と90°では、グリースの送り能力がなくなってしまう。
なお、容器側の第一凹凸部9の凹凸は、第一凹凸部6の搬送能力を補助するために形成されており、必ずしも形成する必要はなく、回転子の第一凹凸部13の送り能力のみによって容器側の第一凹凸部9の搬送性を向上させてもよい。
【0017】
回転子の第一凹凸部13の下部の外周面には、回転子3の表面に沿って、凹凸が交互に設けられた回転子の第二凹凸部14が設けられている。
回転子の第二凹凸部14は、回転子3の回転軸12に対して傾斜し、導入部4から吐出部8に向けて、溶液を上流側に押し戻す送り抑制能力を有する。
【0018】
回転子の第二凹凸部14の段差は、回転子3の外周面の凹部における直径の0.3%以上、30%以下とするのが好ましく、さらに好ましくは、0.5%以上、15%以下であり、特に好ましくは、2%以上、7%以下である。0.3%以下では、適切な吐出抑制能力が得られず、30%以上では吐出抑制能力が過度となりグリースの吐出が困難になるか、後述する最低せん断速度が小さくなり、グリース原料に十分なせん断力を付与することができない。
円周方向における回転子の第二凹凸部14の凸部の数は、2個以上、1000個以下とするのが好ましく、さらに好ましくは、6個以上、500個以下、特に好ましくは12個以上、200個以下である。2個以下では、十分な吐出抑制能力が得られず、1000個以上では、加工が困難なうえに、溝幅が小さくなりすぎて適切な吐出が困難になる。
【0019】
回転子3の回転軸に直交する断面における回転子の第二凹凸部14の凸部の幅と、凹部の幅との関係は、0.01以上、100以下、好ましくは0.1以上、10以下、特に好ましくは0.5以上、2以下である。0.01以下では十分な吐出抑制能力が得られず、100以上では適切吐出が困難になる。
回転子の第二凹凸部14の回転子3の回転軸12に対する傾斜角度は、2°から85°、好ましくは、3°から45°、特に好ましくは5°から20°である。2°以下または85°以上では吐出抑制能力が得にくくなる。特に0°と90°では、吐出抑制能力がなくなってしまう。
【0020】
容器本体2の容器側の第二凹凸部10の内周面には、容器側の第一凹凸部9における凹凸の下部に隣接して、複数の凹凸が形成されている。凹凸は、容器本体2の内周面に複数形成され、それぞれの凹凸は、回転子の第二凹凸部14の傾斜方向とは逆向きに傾斜している。すなわち、複数の凹凸は、回転子3の回転軸12が
図1に示される方向に回転する時に、溶液を上流側に押し戻す方向に傾斜している。容器本体2の内周面の凹凸によって、撹拌能力が更に増強される。
【0021】
容器側の第二凹凸部10の凹部の深さは、容器内径(直径)の0.2%以上、30%以下とするのが好ましく、さらに好ましくは、0.5%以上、15%以下であり、特に好ましくは、1%以上、5%以下である。0.2%以下では、適切な吐出抑制能力が得られず、30%以上では吐出抑制能力が過度となりグリースの吐出が困難になるか、後述する最低せん断速度が小さくなり、グリース原料に十分なせん断力を付与することができない。
容器側の第二凹凸部10の凹部の本数は、2本以上、1000本以下とするのが好ましく、さらに好ましくは、6本以上、500本以下、特に好ましくは12本以上、200本以下である。2本以下では十分な吐出抑制能力が得られず、1000本以上では、加工が困難なうえに、溝幅が小さくなりすぎて適切な吐出が困難になる。
【0022】
回転子3の回転軸12に直交する断面における容器側の第二凹凸部10の凹凸の凸部の幅と、凹部の幅との関係(凸部の幅/凹部の幅)は、0.01以上、100以下、好ましくは0.1以上、10以下、特に好ましくは0.5以上、2以下である。0.01以下では十分な吐出抑制能力が得られず、100以上では適切な吐出が困難になる。
容器側の第二凹凸部10の回転子3の回転軸12に対する傾斜角度は、2°から85°、好ましくは、3°から45°、特に好ましくは5°から20°である。2°以下または85°以上では吐出抑制能力が得にくくなる。特に0°と90°では、吐出抑制能力がなくなってしまう。
容器側の第一凹凸部9と容器側の第二凹凸部10の長さの比率については、2:1から20:1程度が好ましい。ただし、各部の溝の深さや本数、突出部の突出量や本数などに依存するため、上記の限りではない。
【0023】
図2には、グリース製造装置1の容器側の第一凹凸部9における水平方向断面図が示されている。第一凹凸部6、及び、第二凹凸部7には、第一凹凸部6の凸部13Bの突出方向先端よりも、先端が容器本体2の内周面側に突出したスクレーパー15が複数設けられている。
スクレーパー15は、容器側の第一凹凸部9、及び、容器側の第二凹凸部10の内周面に付着したグリースを掻き取るものである。回転子の第一凹凸部13の凸部13Bの突出量に対するスクレーパー15の先端の突出量は、スクレーパー15の先端の半径(R2)/凸部13Bの先端の半径(R1)が、1.005を超え、2.0未満となるのが好ましい。
【0024】
上記R2/R1が、2.0以上であると、回転子の第一凹凸部13による撹拌が不十分となり、優れた音響特性を有するグリースを製造できず、また、グリースの均質性が得られない。
一方、上記R2/R1が1.005以下であると、回転子の第一凹凸部13との差異がなくなるので、スクレーパー15として機能させるのが困難となる。
スクレーパー15の数は、2箇所以上、500箇所以下とするのが好ましく、さらに好ましくは、2箇所以上、50箇所以下、特に好ましくは、2箇所以上、10箇所以下である。2箇所以上であれば、容器本体2の内周面に付着したグリースを十分に掻き取ることができる。500箇所以上では加工が困難であるうえ、狭いギャップ部分が増えるために製造中のトルクが増加する。
なお、本実施形態では、スクレーパー15を設けているが、設けないものであってもよく、間欠的に設けたものであってもよい。
【0025】
このようなグリース製造装置1に用いられるグリース原料としては、基油、増ちょう剤、及びその他の添加剤等がある。
基油としては、特に制限はなく、通常のグリース製造に使用される鉱油系基油や合成系基油が挙げられる。これらは、単独で、または混合物として使用することができる。なお、必要に応じて水や有機酸を加えてもよい。
鉱油系基油としては、減圧蒸留、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、および水素化精製等を適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。
また、合成系基油としては、ポリアルファオレフィン(PAO)系基油、その他の炭化水素系基油、エステル系基油、アルキルジフェニルエーテル系基油、ポリアルキレングリコール系基油(PAG)、アルキルベンゼン系基油などが挙げられる。
基油の40℃動粘度は、10mm
2/s以上600mm
2/s以下であることが好ましく、20mm
2/s以上300mm
2/s以下であることがより好ましく、30mm
2/s以上100mm
2/s以下であることがさらに好ましい。
【0026】
増ちょう剤としては、ウレア、単一セッケングリース用の増ちょう剤、およびコンプレックスグリース用の増ちょう剤のいずれでもよい。
単一セッケングリース用の増ちょう剤、あるいはコンプレックスグリース用の増ちょう剤としては、例えば、カルシウムセッケン、リチウムセッケン、ナトリウムセッケン、カルシウムコンプレックスセッケン、リチウムコンプレックスセッケン、およびカルシウムスルホネートコンプレックスセッケンなどが挙げられる。
【0027】
ウレアグリース用として用いられる増ちょう剤では、増ちょう剤前駆体としてモノアミンおよびイソシアネート(ジイソシアネート)が挙げられる。モノアミンとしては、単独のアミン化合物、あるいは複数種のアミン化合物を含んだ混合物のいずれでもよい。
モノアミンの例として、芳香族モノアミンではアニリン、p−トルイジン、およびナフチルアミン等が挙げられ、脂肪族モノアミンではヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、およびエイコシルアミン等が挙げられる。
イソシアネートの例としては、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート、およびナフチレン−1,5−ジイソシアネート等が挙げられる。
【0028】
ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンでは、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、およびジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
上記した各アミンは単独で用いてもよく、複数のアミンを混合して用いてもよい。また、上記した各イソシアネートも同様に単独で用いてもよく、複数のイソシアネートを混合し用いてもよい。
【0029】
添加剤としては、酸化防止剤、極圧剤、および防錆剤などが挙げられる。
酸化防止剤としては、例えばアルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、およびアルキル化−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、および4,4−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。これらの酸化防止剤の好ましい配合量は、グリース全量基準で0.05質量%以上5質量%以下程度である。
【0030】
極圧剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛,ジアルキルジチオリン酸モリブデン,無灰系ジチオカーバメートや亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメートなどのチオカルバミン酸類、硫黄化合物(硫化油脂、硫化オレフィン、ポリサルファイド、硫化鉱油、チオリン酸類、チオテルペン類、ジアルキルチオジピロピオネート類等)、リン酸エステル、亜リン酸エステル(トリクレジルホスフェート、トリフェニルフォスファイト等)などが挙げられる。極圧剤の好ましい配合量はグリース全量基準で0.1質量%以上、5質量%以下程度である。
【0031】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、ステアリン酸亜鉛、コハク酸エステル、コハク酸誘導体、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体、亜硝酸ナトリウム、石油スルホネート、ソルビタンモノオレエート、脂肪酸石けん、およびアミン化合物などが挙げられる。防錆剤の好ましい配合量は、グリース全量基準で0.01質量%以上10質量%以下程度である。
【0032】
グリース製造装置1により、グリースを製造するには、前述したグリース原料を、容器本体2の導入部4から導入し、回転子3を高速回転させることにより、高品質のグリースを製造することができる。具体的な回転子3の高速回転条件としては、グリース原料に、10
2s
−1以上のせん断速度を与えることが好ましく、より好ましいせん断速度は10
3s
−1以上であり、さらに好ましくは10
4s
−1以上である。
せん断速度が高い方が増ちょう剤やその前駆体の分散状態が向上し、より均一なグリース構造とすることができる。
ただし、装置の安全性、せん断等による発熱とその除熱の観点より、上述の混合液に付与するせん断速度は10
7s
−1以下であることが好ましい。
【0033】
また、せん断における最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)の比(Max/Min)は100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。
混合液に対するせん断速度ができるだけ均一であることにより、増ちょう剤やその前駆体の分散がよくなり、均一なグリース構造となる。
【0034】
ここで、最高せん断速度(Max)とは、混合液に対して付与される最高のせん断速度であり、最低せん断速度(Min)とは、混合液に対して付与される最低のせん断速度であって、下記のように定義されるものである。
Max=(回転子の第一凹凸部13の凸部13B先端の線速度)/(回転子の第一凹凸部13の凸部13B先端と第一凹凸部6の容器側の第一凹凸部9の凸部のギャップA1)
Min=(回転子の第一凹凸部13の凹部13Aの線速度)/(回転子の第一凹凸部13の凹部13Aと第一凹凸部6の容器側の第一凹凸部9の凹部のギャップA2)
【0035】
このような本実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
グリース製造装置1がスクレーパー15を備えていることにより、容器本体2の内周面に付着したグリースを掻き取ることができるため、混練中にダマが発生することを防止することができ、高品質のグリースを連続して短時間で製造することができる。
また、付着したグリースを掻き取ることにより、滞留グリースが回転子3の回転の抵抗となるのを防止することができるため、回転子3の回転トルクを低減することができ、駆動源の消費電力を低減して、効率的にグリースの連続製造を行うことができる。
【0036】
容器本体2の内周面が、導入部4から吐出部8に向かうにしたがって、内径が拡大する円錐台状であるので、遠心力がグリースまたはグリース原料を下流方向に排出する効果を持ち、回転子3の回転トルクを低減して、グリースの連続製造を行うことができる。
回転子3の外周面に、回転子の第一凹凸部13が設けられ、回転子の第一凹凸部13が回転子3の回転軸12に対して傾斜し、導入部4から吐出部8への送り能力を有し、回転子の第二凹凸部14が回転子3の回転軸12に対して傾斜し、導入部4から吐出部8への送り抑制能力を有しているため、溶液に高いせん断力を付与することができ、音響特性のよいグリースを効率的に製造することができる。
【0037】
第一凹凸部6に容器側の第一凹凸部9が形成され、回転子の第一凹凸部13とは逆向きに傾斜しているため、回転子の第一凹凸部13の効果に加え、さらに、グリースまたはグリース原料を下流方向に押し出しながら、十分なグリース原料の撹拌を行うことができ、音響特性のよいグリースを効率的に製造することができる。
第二凹凸部7に容器側の第二凹凸部10、及び回転子3の外周面に回転子の第二凹凸部14が設けられることにより、グリース原料が必要以上に第一凹凸部6から流出することを防止できるので、溶液に高いせん断力を与えてグリース原料を高分散化して、音響特性のよいグリースを効率的に製造することができる。
【0038】
[2]第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の説明では、既に説明した部分とは同一部分については、同一符号を付して、その説明を省略し、又は簡略にする。
前述した第1実施形態では、容器本体2の内周面は、導入部4から吐出部8に向かうにしたがって、次第に拡大する円錐台状に形成され、回転子3もこれに応じて、円錐台状の外周面を有していた。
また、前記第1実施形態では、上部に導入部4を配置し、下部に吐出部8を配置し、上部からグリース原料を導入し、下部からグリースを吐出していた。
【0039】
これに対して、本実施形態に係るグリース製造装置20は、
図3に示されるように、容器本体21は、円筒状の内周面を有し、これに伴い、第一凹凸部6や第二凹凸部7も円柱形状に形成されている点が相違する。
また、グリース製造装置20は、下部に溶液導入管23A、23Bを備えた導入部23を配置し、その上部に容器側の第一凹凸部24、容器側の第二凹凸部25、および吐出部26を配置し、第1実施形態のような滞留部5を介さず、溶液を容器側の第一凹凸部24に直接導入する点が相違する。
さらに、グリース製造装置20の回転子22は、導入部23側から見たときに、時計回りに回転する点が相違する。
【0040】
回転子22は、容器本体21の円筒状中心を回転軸12として固定され、回転する。回転子22の外周面には、外周面に沿って凹凸が交互に設けられ回転子の第一凹凸部13が設けられている。回転子の第一凹凸部13は、回転子22の回転軸12に対して傾斜し、導入部23から吐出部26方向への送り能力を有する。
また、回転子の第一凹凸部13と対向する位置に、グリース製造装置20の容器側の第一凹凸部24が形成されており、容器本体21の円筒状の内周面に、回転子22の回転軸12に沿って凹凸が複数形成されている。複数の凹凸は、回転子の第一凹凸部13の傾斜方向とは逆向きに傾斜している。なお、
図3では図示を略したが、回転子の第一凹凸部13には、第1実施形態と同様に、複数のスクレーパーが設けられている。
【0041】
回転子22の表面に沿って凹凸が設けられた回転子の第二凹凸部14は、回転子22の回転軸12に沿って設けられている。回転子の第二凹凸部14は、吐出部26側の端部から導入部23側に向けて、回転子22の回転軸12に対して傾斜し、導入部23から吐出部26方向への送り抑制能力を有する。
容器側の第二凹凸部25の内周面には、回転子3の回転軸12に沿って複数の凹凸(図示略)が形成され、回転子の第二凹凸部14の傾斜方向とは逆向きに傾斜している。
導入部23から容器側の第一凹凸部24に導入されたグリース原料は、直ちに撹拌され、容器側の第二凹凸部25を経て、吐出部26の吐出口27から吐出される。吐出方向は、
図3に示すように回転子3の回転軸12に対して直角方向でも、或いは、装置を横向きに設置する場合等は回転子3の回転軸12に沿った方向でもよい。
なお、本実施形態では、スクレーパーを設けているが、設けないものであってもよい。
また、回転子の第一凹凸部13および回転子の第二凹凸部14の段差、凸部の数、凹部および凸部の幅の関係、スクレーパーの突出量や数は、第1実施形態に記載した範囲が好ましい。
【0042】
このような本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する上、以下のような効果を奏する。
グリース製造装置20に滞留部が形成されていないので、導入部23からグリース原料を導入すれば、直ちに撹拌が開始される。即ち、容器に滞留部5がなく、直接容器側の第一凹凸部24で撹拌されるために、ダマの成形が強力に抑制され、音響特性のよいグリースを効率的に製造することができる。
【0043】
[3]第3実施形態
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
前述した第2実施形態では、容器本体31の内部には、回転子22が1つ回転可能に設けられていた。
これに対して、本実施形態に係るグリース製造装置30は、
図4に示されるように、第2実施形態と同様の回転子22に加え、回転子32が回転可能に設けられており、回転軸12を2つ有する点が相違する。回転軸12は容器本体31の内周面内にあり、容器本体31の内周面の大きさと回転軸数によって決まる。
【0044】
グリース製造装置30は、容器本体31と、容器本体31内に回転可能に設けられる回転子22、32とを備える。
容器本体31は、第2実施形態と同様に、溶液導入管33A、33Bを備えた導入部33、第一凹凸部34、第二凹凸部35、及び吐出口37を備えた吐出部36を備える。
回転子22は、第2実施形態と同様の構造である。
【0045】
回転子32は、回転子22とは逆方向に回転するようになっている。
第一凹凸部34と対向する回転子32の外周面には、回転子32の表面に沿って凹凸が交互に設けられた回転子の第一凹凸部38が設けられている。回転子の第一凹凸部38は、回転子32が回転子22とは逆方向に回転するようになっているため、回転子の第一凹凸部38は、回転子の第一凹凸部13とは逆向きに傾斜している。
【0046】
また、第二凹凸部35と対向する回転子32の表面には、回転子32の表面沿って、凹凸が交互に設けられた回転子の第二凹凸部39が設けられている。回転子の第二凹凸部39についても、回転子の第二凹凸部14とは逆向きに傾斜している。
なお、図示を略したが、容器本体31の第一凹凸部34の内周面には、容器本体31の内周面に第二実施形態と同様の凹凸が複数形成され、第二凹凸部35の内周面には、第二実施形態と同様の凹凸が複数形成されている。
また、
図4では図示を略したが、回転子22と同様に、回転子32には、スクレーパーが間欠的に複数設けられている。
また、回転子の第一凹凸部13、38および回転子の第二凹凸部14、39の段差、凸部の数、凹部および凸部の幅の関係、スクレーパーの突出量や数は、第1実施形態に記載した範囲が好ましい。
また、2つの回転子22、32の回転方向は、異なる方向ではなく、同じ方向であってもよい。ただし、同じ方向に回転する場合、同じ回転子22を2つ用いればよい。
【0047】
本実施形態によれば、前述した各実施形態の基本的効果に加え、以下のような効果を奏する。
グリース製造装置30が、2つの回転子22、32を備えていることにより、グリース原料の撹拌を促進させることができるので、音響特性のよいグリースを効率的に製造することができる。
【0048】
[4]実施形態の変形
本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すような変形をも含むものである。
前記第1実施形態では、回転子3の回転軸12を垂直方向に配置していたが、本発明はこれに限られず、回転子の回転軸を水平方向としてもよい。この場合、複雑な流路形状とすることなく吐出方向を横向きにすることができる。同様に第2実施形態および第3実施形態においても、回転子22、32の回転軸を水平方向としてもよい。
前記第1実施形態では、第一凹凸部6の容器内周面には容器側の第一凹凸部9が複数形成され、第二凹凸部7の容器内周面には容器側の第二凹凸部10が複数形成されていたが、これらの容器側の第一凹凸部9、容器側の第二凹凸部10は必ずしも必要ではない。同様に第2実施形態および第3実施形態においても、容器側の第一凹凸部、容器側の第二凹凸部は必ずしも必要ではない。但し、容器側の第一凹凸部および容器側の第二凹凸部があった方が、より撹拌性の向上、吐出抑制の効果を享受することができる。
前記第1実施形態では、溶液導入管4A、4Bを、第一凹凸部6の上部に形成していたが、溶液導入管4A、4Bを第一凹凸部6と連通するように形成してもよい。このような場合、第2実施形態の効果と同様の効果を享受することができる。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0049】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
第1実施形態に係るグリース製造装置1において、スクレーパー15を設けていないグリース製造装置により、グリースを製造した。
MDI(ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート)を7.70質量%含有させ、70℃に加熱した基油A(PAO:40℃動粘度47mm
2/s)を、溶液導入管4Aに、流量4.0mL/sで連続的に導入しながら、シクロヘキシルアミンを2.42質量%、ステアリルアミンを9.89質量%含有させ、同じく70℃に加熱した基油B(PAO:40℃動粘度47mm
2/s)を、溶液導入管4Bに、流量4.1mL/sで連続的に導入した。
グリース原料は実施例1と同様である。最高せん断速度は10,500s
−1であり、最低せん断速度は3,000s
−1である。また、最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)の比(Max/Min)は3.5として、グリース原料の撹拌を行った。
【0050】
吐出口11から吐出したグリースを、90℃に予熱した容器に取り、撹拌しながら30分程度かけて160℃に昇温し、その後160℃に1時間保持した。その後、撹拌を維持したまま放冷した。製造されたグリースの増ちょう剤量は約10質量%であった。得られたグリースを、混和ちょう度(JIS K 2220)を測定した。
また、気泡の音響特性への影響を除去するために、得られたグリースを遊星式撹拌脱泡装置(倉敷紡績株式会社(クラボウ)製、マゼルスター(MAZERUSTAR)型式KK-V300SS-I)により撹拌、脱泡した後、BeQuiet法による音響測定に供した。
なお、BeQuiet法は、SKF社のグリース専用音響測定機器(Grease Test Rig Be Quiet+)を用いて測定できる。測定は装置の測定手順書に従った。具体的には、室温(約25℃)にて、所定の深溝玉軸受(type 608)を用い、軸方向の荷重30N、回転数1800rpmにて音響特性を評価した。まず、グリースを封入しない状態で新品の軸受をセットし所定の荷重をかけながら所定回転数で回転させて音響データを得る。次に同じ軸受に所定の荷重をかけ、所定の回転数で回転させながら、グリース導入とエアブローを繰り返して、グリースの封入を完了させる。その後、所定の荷重をかけ、所定の回転数で回転させながら、グリース封入時の音響データを得る。音響クラス(GN値)は装置に付随するプログラムによってこれらのデータにもとづき解析される。尚、軸受に埃などが混入しないように注意した。
せん断速度とせん断速度比の計算結果を表1に、結果を表2に示す。
【0051】
[実施例2]
第2実施形態に係るグリース製造装置20において、スクレーパーを設けていないグリース製造装置により、グリースを製造した。
MDI(ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート)を7.06質量%含有させ、70℃に加熱した基油A(PAO:40℃動粘度47mm
2/s)を、溶液導入管4Aに、流量5.5mL/sで連続的に導入しながら、シクロヘキシルアミンを2.67質量%、ステアリルアミンを10.9質量%含有させ、同じく70℃に加熱した基油B(PAO:40℃動粘度47mm
2/s)を、溶液導入管4Bに、流量4.7mL/sで連続的に導入した。
最高せん断速度は25,100s
−1であり、最低せん断速度は2,800s
−1で、最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)の比(Max/Min)は9.0である。それ以外は、実施例1と同様である。せん断速度とせん断速度比の計算結果を表1に、結果を表2に示す。
【0052】
[実施例3]
第1実施形態に係るグリース製造装置1において、グリース製造装置1の上下方向を逆転させ、溶液導入管4A、4Bを第一凹凸部6に直接連通させた第1実施形態相当のグリース製造装置により、グリースを製造した。
MDI(ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート)を7.06質量%含有させ、70℃に加熱した基油A(PAO:40℃動粘度47mm
2/s)を、溶液導入管4Aに、流量4.5mL/sで連続的に導入しながら、シクロヘキシルアミンを2.67質量%、ステアリルアミンを10.9質量%含有させ、同じく70℃に加熱した基油B(PAO:40℃動粘度47mm
2/s)を、溶液導入管4Bに、流量4.5mL/sで連続的に導入した。
最高せん断速度は11,200s
−1であり、最低せん断速度は3,000s
−1で、最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)の比(Max/Min)は3.7である。それ以外は、実施例1と同様である。せん断速度とせん断速度比の計算結果を表1に、結果を表2に示す。
【0053】
[実施例4]
第2実施形態に係るグリース製造装置20によりグリースを製造した。
MDI(ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート)を7.88質量%含有させ、70℃に加熱した基油A(PAO:40℃動粘度47mm
2/s)を、溶液導入管4Aに、流量5.5mL/sで連続的に導入しながら、シクロヘキシルアミンを2.37質量%、ステアリルアミンを9.7質量%含有させ、同じく70℃に加熱した基油B(PAO:40℃動粘度47mm
2/s)を、溶液導入管4Bに、流量5.9mL/sで連続的に導入した。
最高せん断速度は8,400s
−1であり、最低せん断速度は2,300s
−1で、最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)の比(Max/Min)は3.7である。それ以外は、実施例1と同様である。せん断速度とせん断速度比の計算結果を表1に、結果を表2に示す。
【0054】
[比較例1]
特許文献1の
図4に記載された従来のグリース製造装置により、グリースを製造した。
60℃に保たれた基油A(PAO:40℃動粘度47mm
2/s、MDI7.25質量%含有)に対し、60℃の基油B(PAO:40℃動粘度47mm
2/s、シクロヘキシルアミンを2.59質量%、ステアリルアミンを10.5質量%含有)を250rpmで撹拌しながら滴下した。ここで、最高せん断速度は約100s
−1であり、最低せん断速度は1.23s
−1であった。また、最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)の比(Max/Min)は約81であった。
アミン溶液を滴下した後、撹拌を継続しながら160℃に昇温し1時間保持した。その後、撹拌しながら放冷した。製造されたグリースの増ちょう剤量は約10質量%であった。得られたグリースについて実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。尚、製造されたグリースにロールミルを2回施したものの音響特性も評価したが表2の値と同じであった。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
[考察]
実施例1〜実施例4と、比較例1とを比較すると、音響特性が明らかによい。また、通常は、高いせん断速度を与えるとトルクが大きくなりモータに負荷がかかるが、製造時のトルクも十分に低いレベルである。本発明のグリース製造装置であれば、低出力の駆動源を利用でき、省エネルギーの工程で音響特性のよいグリースを製造できることが確認された。