(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記芳香族ポリスルホン(P1)は、繰り返し単位が実質的に下記一般式(A)で表される繰り返し単位からなり、ポリマー鎖末端にアミノ基を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の芳香族ポリスルホン組成物。
(A) −Ph1−SO2−Ph2−O−
(Ph1及びPh2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基である。)
前記芳香族ポリスルホン(P2)がポリマー鎖末端にハロゲン基、ヒドロキシ基、メトキシ基及びフェニル基からなる群から選択される1種以上を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の芳香族ポリスルホン組成物。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<芳香族ポリスルホン組成物>
本発明の芳香族ポリスルホン組成物は、芳香族ポリスルホン(P1)(以下、「(P1)成分」と記載する場合がある。)と、前記芳香族ポリスルホン(P1)とは異なる芳香族ポリスルホン(P2)(以下、「(P2)成分」と記載する場合がある)とを含む。
(P1)成分は、ポリマー鎖末端にアミノ基を有するアミノ基含有芳香族ポリスルホンを含み、重量平均絶対分子量(Mw)が20000g/mol未満である。
(P2)成分の繰り返し単位は、実質的に下記一般式(A)で表される繰り返し単位からなる。(P2)成分の重量平均絶対分子量(Mw)は22000g/mol以上であり、ガラス転移温度(Tg)は222℃以上である。
さらに、芳香族ポリスルホン組成物の重量平均絶対分子量(Mw)が前記アミノ基含有芳香族ポリスルホンの重量平均絶対分子量(Mw)よりも大きい。
(A) −Ph1−SO
2−Ph2−O−
(Ph1及びPh2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基である。)
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
≪(P1)成分≫
(P1)成分は、ポリマー鎖末端にアミノ基を有するアミノ基含有芳香族ポリスルホンを含む。本明細書において、アミノ基含有芳香族ポリスルホンを「(P1
pes)」と記載する場合がある。
(P1)成分は、実質的に(P1
pes)からなることが好ましいが、(P1
pes)の原料モノマーに含まれる不純物等(以下、「(P1)不純物成分」と記載する)を含んでいてもよい。(P1)不純物成分としては、例えば、アミノ基含有芳香族ポリスルホンを重合する際に生じる副生成物や、一般式(A)で表される繰り返し単位からなり、ポリマー鎖末端にアミノ基を有さない芳香族ポリスルホン(つまりアミノ基による末端修飾が不完全のもの)等が挙げられる。
ここで「実質的に」とは、(P1
pes)を、(P1)成分の全量に対して60モル%以上含むことを意味し、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましい。
【0010】
(P1
pes)は、下記一般式(A)で表される繰り返し単位からなり、ポリマー鎖末端にアミノ基(−NH
2)を有する。
(A) −Ph1−SO
2−Ph2−O−
(Ph1及びPh2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基である。)
【0011】
一般式(1)中、Ph1及びPh2のいずれかで表されるフェニレン基は、それぞれ独立に、p−フェニレン基であってもよく、m−フェニレン基であってもよく、o−フェニレン基であってもよい。本実施形態においては、p−フェニレン基であることが好ましい。
【0012】
前記フェニレン基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子が挙げられる。
前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基およびn−デシル基が挙げられる。
【0013】
前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいアリール基としては、炭素数6〜20のアリール基であることが好ましい。炭素数6〜20のアリール基としては、例えばフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基および2−ナフチル基が挙げられる。
【0014】
前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。
【0015】
前記フェニレン基の水素原子がこれらの官能基で置換されている場合、その数は、前記フェニレン基ごとに、それぞれに独立に、2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0016】
本実施形態において、(P1
pes)は、ポリマー鎖の少なくとも一方の末端にアミノ基を有すればよいが、より高い接着力を発揮させる観点から、ポリマー鎖の両方の末端にアミノ基を有することが好ましい。つまり、(P1
pes)には、ポリマー鎖の片末端にアミノ基を有するポリマーと、ポリマー鎖の両末端にアミノ基を有するポリマーとが含まれる。
【0017】
本実施形態において、前記一般式(A)は、下記一般式(A)−1であってもよい。
(−Ph1−SO
2−Ph2−O−)
n(−Ph3−SO
2−Ph4−O−Ph5−Y−Ph6−O−)
m ・・・(A)−1
(Ph1〜Ph6はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基である。Yは単結合又は炭素数1〜5の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキレン基である。nは1以上の整数であり、mは0以上の整数である。)
【0018】
一般式(A)−1中、Ph1〜Ph6の置換基を有していてもよいフェニレン基に関する説明は、前記一般式(A)における説明と同様である。
一般式(A)−1中、Yは単結合又は炭素数1〜5の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキレン基である。具体的には、メチレン基[−CH
2−]、エチレン基[−(CH
2)
2−]、トリメチレン基[−(CH
2)
3−]、テトラメチレン基[−(CH
2)
4−]、ペンタメチレン基[−(CH
2)
5−]等が挙げられる。分岐鎖状のアルキレン基は、具体的には、−CH(CH
3)−、−CH(CH
2CH
3)−、−C(CH
3)
2−等が挙げられる。環状のアルキレン基としては、シクロヘキサンから2つの水素原子を除去したシクロヘキシレン基等が挙げられる。本実施形態においては分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。
一般式(A)−1中、nは1以上の整数であり、mは0以上の整数である。mは0であってもよく、1以上の整数であってもよい。
【0019】
本実施形態において、上記(P1
pes)はポリマー鎖末端にアミノ基を有する。ポリマー鎖末端の構造は、フェニレン基にアミノ基(−NH
2)が結合していることが好ましく、フェニレン基と2価の連結基を介してアミノ基(−NH
2)が結合していてもよい。
【0020】
本実施形態において、(P1
pes)は、前記一般式(A)で表される繰り返し単位からなる高分子化合物、又は、前記一般式(A)−1で表される繰り返し単位からなる高分子化合物であることが好ましく、前記一般式(A)で表される繰り返し単位からなる高分子化合物であることがより好ましい。
【0021】
(絶対分子量)
本実施形態において、(P1)成分の重量平均絶対分子量(Mw)は20000g/mol未満であり、19500g/mol以下が好ましく、19000g/mol以下がより好ましく、18900g/mol以下が特に好ましい。
本実施形態においては、重量平均絶対分子量(Mw)が上記上限値以下である低分子量の(P1)成分と、(P1)成分よりも分子量が大きい(P2)成分とを混合することにより、高い接着力を発揮できる。
【0022】
本実施形態において、(P1)成分は実質的に前記(P1
pes)からなる。このため、(P1)成分の重量平均絶対分子量(Mw)と、(P1
pes)の重量平均絶対分子量(Mw)とはほぼ一致すると推察される。
【0023】
絶対分子量は、例えば示差屈折率計と多角度光散乱光度計(MALS)を用いて検出し、多角度光散乱光度計多角度から算出できる。
【0024】
(アミノ基末端量)
本実施形態においては、ポリマー鎖末端のアミノ基の数が、前記式(A)で表される繰り返し単位100個あたり0.1個以上が好ましく、0.2個以上がより好ましく、0.5個以上が特に好ましい。アミノ基の上限値は特に限定されず、一例をあげると、前記式(A)で表される繰り返し単位100個あたり10個以下、8個以下、5個以下である。
前記式(A)で表される繰り返し単位100個あたりのアミノ基末端量が上記下限値以上であると、被接着物への結合サイトが増加するため、高い接着力を発揮できる。
【0025】
(P1)成分(実質的に(P1
pes))のポリマー鎖末端のアミノ基の数は、NMR法の測定結果に基づいて算出できる。
具体的には、まず、重水素化ジメチルスルホキシド等の溶媒中に(P1)成分を溶解する。次に、
1H−NMR測定において、アミノ基で置換された芳香族炭素に隣接する炭素に結合する2つのプロトンのピーク面積(
1H
NH2)と、芳香族ポリスルホンの繰り返し構造に由来する芳香族炭素に隣接する4つのプロトンのピーク面積(
1H
PES)を観測する。
これらのピーク面積に基づいて、下記式により前記式(A)で表される繰り返し単位100個当たりのアミノ基を有する末端量を算出する。
[アミノ基を有する末端量(個/100単位)]=
[
1H
PESのピーク面積を100とした時の
1H
NH2のピーク面積]×2
【0026】
本実施形態に用いる(P1)成分の具体例を以下に記載する。下記に示す具体例中、nは自然数であり、mは1以上の整数である。
【0028】
(P1)成分としては、上記の具体例に示した通り直鎖状のポリマー構造であってもよく、ポリマー末端にアミノ基を有する分岐鎖状のポリマー構造であってもよい。
【0029】
≪(P2)成分≫
(P2)成分は、前記(P1)成分とは異なる芳香族ポリスルホンであって、実質的に下記一般式(A)で表される繰り返し単位からなる。ただし、(P2)成分は下記一般式(A)で表される繰り返し単位からなる成分のうち、ポリマー鎖末端にアミノ基(−NH
2)を有する成分を含まないものとする。
(A) −Ph1−SO
2−Ph2−O−
(Ph1及びPh2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基である。)
【0030】
(P2)成分における一般式(A)のうち、Ph1及びPh2に関する説明は、前記(P1)成分における一般式(A)における、Ph1及びPh2に関する説明と同様である。
【0031】
本実施形態において、(P2)成分は、ポリマー鎖末端にハロゲン基、ヒドロキシ基、メトキシ基及びフェニル基からなる群から選択される1種以上を有することが好ましい。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、中でも塩素原子であることが好ましい。
【0032】
本実施形態において、(P2)成分としては市販品も使用できる。市販品としては、例えば、住友化学株式会社製のポリエーテルスルホン樹脂である、スミカエクセル3600P、4100P、4800P及び5200P等が挙げられる。
【0033】
(重量平均絶対分子量)
本実施形態において、(P2)成分の重量平均絶対分子量(Mw)が22000g/mol以上であり、24000g/mol以上が好ましく、26000g/mol以上がより好ましい。
本実施形態の芳香族ポリスルホン組成物においては、前記(P1)成分と、(P1)成分よりも分子量が高い(P2)成分とを混合することにより、接着強度を向上させることができる。
【0034】
(ガラス転移温度)
本実施形態において、(P2)成分のガラス転移温度(Tg)は、222℃以上が好ましく、223℃以上がより好ましく、224℃以上が特に好ましい。
ガラス転移温度の上限値は特に限定されず、一例を挙げると、250℃以下、240℃以下、230℃以下である。
上記ガラス転移温度の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
ガラス転移温度は、例えばJIS−K7121に準じた方法で測定できる。
本実施形態においては、ガラス転移温度が上記下限値以上であると、高い接着力を発揮できる。
【0035】
(還元粘度)
本実施形態において、(P2)成分の還元粘度(単位:dL/g)は0.32以上であることが好ましく、0.35以上がより好ましい。(P2)成分の還元粘度が高いほど、高い接着力を発揮できる。
還元粘度の上限値は特に限定されず、一例を挙げると、0.80以下、0.75以下、0.7以下である。
本実施形態において、還元粘度は例えばオストワルド型粘度管を用いて測定できる。
還元粘度の上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0036】
本実施形態において、芳香族ポリスルホン組成物中の、(P1)成分の割合は5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましい。(P1)成分の割合が上記下限値以上であると、芳香族ポリスルホン組成物の接着力がより向上する。
【0037】
本実施形態において、芳香族ポリスルホン組成物中の(P1)成分の含有量は、下記の測定方法により測定することができる。下記測定方法により、(P1)成分及び(P2)成分を分析することができる。
[測定方法]
まずGPCにて芳香族ポリスルホン組成物を分子量ごとに分離分画する。分画後のポリマー重量とアミノ基末端量の分析結果から(P1)成分および(P2)成分の含有量および分子量を算出する。
【0038】
・(P1)成分及び(P2)成分以外の樹脂
本実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、上記(P1)成分及び(P2)成分以外の樹脂を含有していてもよい。
芳香族ポリスルホン以外の樹脂としては、例えばポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリケトン、ポリエーテルイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂及びその変性物などが挙げられる。本実施形態においては、上記の中でもエポキシ樹脂が好ましい。
【0039】
・有機溶媒
本実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、さらに有機溶媒を含んでいてもよい。なお、有機溶媒は芳香族ポリスルホン組成物を調製するときに後から添加してもよいし、芳香族ポリスルホンに予め含まれていてもよい。このような有機溶媒として、後述の本実施形態の製造方法で例示した有機溶媒と同様のものを使用することができる。
【0040】
・その他の成分
本実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、種々の材料を含むことができる。このような材料としては、例えば着色成分、潤滑剤、各種界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、その他各種安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0041】
本実施形態において、芳香族ポリスルホン組成物の分子量分布が1.95以上であることが好ましく、1.98以上がより好ましく、2.00以上が特に好ましい。
芳香族ポリスルホン組成物の分子量分布の上限値は特に限定されず、一例を挙げると、5.0以下、4.5以下、4.0以下である。
上記上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0042】
本実施形態において、芳香族ポリスルホン組成物のガラス転移温度(Tg)が217℃以上であることが好ましく、218℃以上がより好ましく、219℃以上が特に好ましい。
芳香族ポリスルホン組成物のガラス転移温度の上限値は特に限定されず、一例を挙げると、250℃以下、240℃以下、230℃以下である。
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0043】
(重量平均絶対分子量)
本実施形態において、芳香族ポリスルホン組成物の重量平均絶対分子量(Mw)は、前記(P1
pes)の重量平均絶対分子量(Mw)よりも大きい。芳香族ポリスルホン組成物の重量平均絶対分子量(Mw)は、一例を挙げると、前記(P1
pes)の重量平均絶対分子量(Mw)よりも1000g/mol以上、2000g/mol以上、3000g/mol以上が挙げられる。
【0044】
<芳香族ポリスルホン(P1)の製造方法>
前記芳香族ポリスルホン(P1)は下記の方法により製造できる。
芳香族ポリスルホン(P1)の製造方法(実質的には、アミノ基含有芳香族ポリスルホンの製造方法)を、本発明の一実施形態として説明する。
芳香族ポリスルホン(P1)の製造方法は、芳香族ハロゲノスルホン化合物と、アミノ化合物とを縮合し、副生するフェノキシ末端またはフェノレート末端とハロゲン末端とを重縮合する工程を有することが好ましい。この工程において、芳香族ハロゲノスルホン化合物の末端のハロゲン原子に対する、前記アミノ基のモル比を1.0未満となるように混合し、180℃よりも高い温度で加熱しつつ反応させることにより製造することが好ましい。
【0045】
・芳香族ハロゲノスルホン化合物
本実施形態に用いる芳香族ハロゲノスルホン化合物としては、下記化合物(4)又は(5)を用いることができる。
【0046】
X
1−Ph1−SO
2−Ph2−(O−Ph3−SO
2−Ph4)
n−X
2 (4)
[式(4)中、X
1およびX
2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。Ph1およびPh2は、前記と同義である。Ph3及びPh4は、置換基を有していてもよいフェニレン基である。nは0以上の整数である。]
【0047】
X
1−Ph1−SO
2−Ph2−(O−Ph3−SO
2−Ph2−)
n−1(O−Ph5−SO
2−Ph6−O−Ph7−Y−Ph8−)
mX
2 (5)
[Ph1〜Ph8はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基である。Yは単結合又は炭素数1〜5の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキレン基である。nは1以上の整数であり、mは0以上の整数である。]
【0048】
化合物(4)又は(5)中、Ph3〜Ph8で表される置換基を有していてもよいフェニレン基の説明は、前記Ph1およびPh2における置換基を有していてもよいフェニレン基に関する説明と同様である。
【0049】
化合物(4)の例としては、ビス(4−クロロフェニル)スルホンおよび4−クロロフェニル−3’,4’−ジクロロフェニルスルホンが挙げられる。
また、芳香族ハロゲノスルホン化合物としては、例えば、住友化学社製の「スミカエクセルPES3600P」及び「スミカエクセルPES4100P」等の市販品も使用できる。
【0050】
・アミノ化合物
本実施形態に用いることができるアミノ化合物としては、例えば4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、2,4−ジアミノフェノール、2,5−ジアミノフェノール、3−アミノプロパノール、4−(2−アミノエチル)フェノール等が挙げられ、中でも4−アミノフェノール、3−アミノフェノールが好ましい。
【0051】
本実施形態により製造される芳香族ポリスルホン(P1)は、実質的に前記一般式(A)で表される繰り返し単位からなり、ポリマー鎖末端にアミノ基を有するアミノ基含有芳香族ポリスルホン(P1
pes)を含む。本実施形態により製造される芳香族ポリスルホン(P1)は、上述のとおり(P1
pes)を60質量%以上含むことが好ましく、(P1
pes)のみからなることが好ましい。
【0052】
(P1
pes)以外の成分としては、(P1
pes)を重合する際に生じる副生成物や、上記一般式(A)で表される繰り返し単位からなり、ポリマー鎖末端にアミノ基を有さない芳香族ポリスルホン(つまりアミノ基による末端修飾が不完全のもの)等である。このため、本実施形態の芳香族ポリスルホン(P1)の製造方法とは、実質的にはアミノ基含有芳香族ポリスルホンの製造方法である。
【0053】
芳香族ハロゲノスルホン化合物とアミノ化合物とを縮合し、副生するフェノキシ末端またはフェノレート末端とハロゲン末端とを重縮合する工程(以下、「重縮合工程」と記載する)について説明する。
芳香族ハロゲノスルホン化合物とアミノ化合物とを縮合し、副生するフェノキシ末端またはフェノレート末端とハロゲン末端とを重縮合する工程(重縮合)は、塩基として炭酸アルカリ金属塩を用いて行われることが好ましく、重合溶媒である有機溶媒中で行われることがより好ましく、塩基として炭酸のアルカリ金属塩を用い、且つ有機溶媒中で行われることが特に好ましい。
【0054】
炭酸のアルカリ金属塩は、正塩である炭酸アルカリ、すなわちアルカリ金属の炭酸塩であってもよく、酸性塩である重炭酸アルカリ、すなわち炭酸水素アルカリやアルカリ金属の炭酸水素塩であってもよい。また、上記炭酸アルカリ及び重炭酸アルカリの混合物であってもよい。
炭酸アルカリとしては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が好ましい。
重炭酸アルカリとしては、重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウム)、重炭酸カリウム(炭酸水素カリウム)等が好ましい。
【0055】
前記有機溶媒は有機極性溶媒であることが好ましい。
前記有機極性溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、スルホラン(1,1−ジオキソチラン)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0056】
本実施形態においては、芳香族ハロゲノスルホン化合物の末端のハロゲン原子に対する、前記アミノ基のモル比を1.0未満となるように、芳香族ハロゲノスルホン化合物と、アミノ化合物とを混合することが好ましい。該モル比は0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。アミノ化合物の混合量が上記の範囲であると、副生するフェノキシ末端またはフェノレート末端およびハロゲン末端の残存量が少なく、重量平均絶対分子量、還元粘度を上記本発明の範囲内に制御できる。
【0057】
炭酸のアルカリ金属塩の使用量は、芳香族ハロゲノスルホン化合物の末端のハロゲン原子に対して、アルカリ金属のモル比が、0.9以上1.2以下であることが好ましく、0.95以上1.15以下であることがより好ましい。
炭酸のアルカリ金属塩の使用量が多いほど、目的とする重縮合が速やかに進行するが、炭酸のアルカリ金属塩の使用量が過剰となると副生するフェノキシ末端またはフェノレート末端が多くなる。このため、炭酸のアルカリ金属塩の使用量が上記の範囲であると、得られるアミノ基含有芳香族ポリスルホンの重合度が高くなる。その結果、芳香族ポリスルホンは還元粘度が高くなり、重量平均絶対分子量が大きくなる傾向にある。
【0058】
本実施形態の芳香族ポリスルホン(P1)の製造方法では、重縮合工程として、芳香族ハロゲノスルホン化合物とアミノ化合物とを、有機極性溶媒に溶解させ、得られた溶液に、炭酸のアルカリ金属塩を添加して、芳香族ハロゲノスルホン化合物とアミノ化合物とを重縮合させることが好ましい。その後、重縮合工程で得られた反応混合物から、未反応の炭酸のアルカリ金属塩、副生したハロゲン化アルカリ、及び有機極性溶媒を除去して、芳香族ポリスルホンを得ることができる。
【0059】
本実施形態において、重縮合時の加熱温度は180℃よりも高い温度とし、200℃以上が好ましく、210℃以上400℃以下がより好ましい。重縮合時の加熱温度が180℃よりも高い温度であると、目的とする重縮合が速やかに進行する。このため、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が高くなり、その結果、アミノ基含有芳香族ポリスルホンは還元粘度が高くなり、重量平均絶対分子量が大きくなる。
【0060】
本実施形態において、例えば前記一般式(A)−1で表される繰り返し単位からなるアミノ基含有芳香族ポリスルホンを製造する場合には、上記芳香族ハロゲノスルホン化合物とアミノ化合物以外に、フェノール性水酸基を2つもつ化合物が使用できる。フェノール性水酸基を2つもつ化合物としては、例えば、ビスフェノールA(C
15H
16O
2)、ビスフェノールS(C
12H
10O
4S)、ビフェノール等が挙げられる。
本実施形態においては、前記一般式(A)−1で表される繰り返し単位からなるアミノ基含有芳香族ポリスルホンを製造する場合には、上記芳香族ハロゲノスルホン化合物とアミノ化合物以外に、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビフェノールからなる群より選択される1種以上を反応させることが好ましく、ビスフェノールA、および、ビスフェノールSを反応させることがより好ましい。
【0061】
また、重縮合工程は、副生する水を除去しながら徐々に昇温し、有機極性溶媒の還流温度に達した後、さらに、1時間以上50時間以下保温することが好ましく、2時間以上30時間以下保温することがより好ましい。重縮合時間が長いほど、目的とする重縮合が進むので、得られる芳香族ポリスルホンの重合度アミノ基含有芳香族ポリスルホンは還元粘度が高くなり、絶対分子量が大きくなる傾向にある。
【0062】
重縮合工程で得られた反応混合物から、未反応の炭酸のアルカリ金属塩、及び副生したハロゲン化アルカリおよび有機極性溶媒を除去することにより、アミノ基含有芳香族ポリスルホンが得られる。未反応の炭酸のアルカリ金属塩、及び副生したハロゲン化アルカリは、有機極性溶媒の除去の前に、濾過、抽出、遠心分離等で除去してもよい。有機極性溶媒の除去は、有機極性溶媒を留去することにより行ってもよいし、アミノ基含有芳香族ポリスルホンの貧溶媒と混合して、アミノ基含有芳香族ポリスルホンを析出させ、濾過や遠心分離等で分離することにより行ってもよい。未反応の炭酸のアルカリ金属塩、及び副生したハロゲン化アルカリおよび有機極性溶媒を同時に除去できることから、未反応の炭酸のアルカリ金属塩、及び副生したハロゲン化アルカリを溶解できる芳香族ポリスルホンの貧溶媒と混合して、アミノ基含有芳香族ポリスルホンを析出させ、濾過や遠心分離等で分離することが好ましい。
【0063】
アミノ基含有芳香族ポリスルホンの貧溶媒の例としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ヘキサン、ヘプタン、水が挙げられ、除去が容易であることから、水が好ましい。
【0064】
本発明の芳香族ポリスルホン組成物は、特定の芳香族ポリスルホンである(P1)成分と(P2)成分とを含むことにより、高い接着力を発揮できる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
<アミノ末端の定量方法>
芳香族ポリスルホンのアミノ基を有する末端量は、重水素化DMSO溶媒中、400MHz 1H−NMRを用いて測定した。
測定温度50度、積算回数64回により、6.6ppmから6.7ppmにアミノ基で置換された芳香族炭素に隣接する炭素に結合する2つのプロトン(
1H
NH2)と、7.9ppmから8.1ppmに芳香族ポリスルホンの繰り返し構造に由来する芳香族炭素に隣接する4つのプロトン(
1H
PES)を観測した。その後、前記式(A)で表される繰り返し単位100個あたりのアミノ基を有する末端量を下記式により算出した。
【0067】
[アミノ基を有する末端量(個/100単位)]=
[
1H
PESのピーク面積を100とした時の
1H
NH2のピーク面積]×2
【0068】
[測定装置]
NMR装置:Varian NMR System PS400WB
磁場強度:9.4T (400MHz)
プローブ:Varian 400 DB AutoX WB Probe (5mm)
(測定条件)
測定核:
1H
測定法:シングルパルス法
測定温度:50℃
重溶媒:DMSO−d
6(TMS含有)
待ち時間:10sec
パルス照射時間:11.9μsec(90℃パルス)
積算回数:64回
外部標準:TMS(0ppm)
【0069】
<芳香族ポリスルホンのガラス転移温度の測定>
示差走査熱量測定装置(島津製作所製DSC−50)を用い、JIS−K7121に準じた方法でガラス転移温度を算出した。サンプル約10mgを秤量し、昇温速度10℃/minで400℃まで上昇させた後、50℃まで冷却し、再び昇温速度10℃/minで400℃まで上昇させた。2回目の昇温で得られたDSCチャートより、JIS−K7121に準じた方法でガラス転移温度を算出した。
【0070】
<芳香族ポリスルホンのMnおよびMwの測定、Mw/Mnの算出>
芳香族ポリスルホンの重量平均絶対分子量(Mw)(単位;g/mol)、数平均絶対分子量(Mn)および多分散度(Mw/Mn)は、GPC測定により求めた。なお、MnおよびMwはいずれも2回測定し、その平均値を求めて、それぞれMnおよびMwとし、Mw/Mnの平均値を求めた。
【0071】
[測定条件]
試料:10mM臭化リチウム含有N,N−ジメチルホルムアミド溶液1mLに対し、芳香族ポリスルホン0.002gを配合した。
試料注入量:100μL。
カラム(固定相):東ソー株式会社製「TSKgel GMHHR−H」(7.8mmφ×300mm)を2本直列に連結。
カラム温度:40℃。
溶離液(移動相):10mM臭化リチウム含有N,N−ジメチルホルムアミド。
溶離液流量:0.8mL/分。
検出器:示差屈折率計(RI)+多角度光散乱光度計(MALS)。
標準試薬:ポリスチレン。
分子量算出法:多角度光散乱光度計(MALS)から絶対分子量を算出した。
【0072】
<芳香族ポリスルホンの還元粘度の測定>
芳香族ポリスルホン約1gをN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させて、その容量を1dLとし、この溶液の粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。また、溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミドの粘度(η
0)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。前記溶液の粘度(η)と前記溶媒の粘度(η
0)から、比粘性率((η−η
0)/η
0)を求め、この比粘性率を、前記溶液の濃度(約1g/dL)で割ることにより、芳香族ポリスルホンの還元粘度(dL/g)を求めた。
【0073】
<剥離強度試験>
剥離強度試験方法は、
図1を参照して説明する。
加熱容器に15質量部の芳香族ポリスルホンと、85質量部のNMPとを入れ、60℃で2時間撹拌して、淡黄色の芳香族ポリスルホン溶液を得た。厚さ18μmの電解銅箔にフィルムアプリケーターを用いて塗布し、高温熱風乾燥器を用いて60℃で乾燥して、塗膜を形成した。
この塗膜を、窒素を流しながら250℃で熱処理して、銅箔上に樹脂層3を形成した。この樹脂層3を有する銅箔2に厚さ18μmの電解銅箔を重ね合わせ、銅箔2/樹脂層3/銅箔4の三層とし、3MPa、250℃で30分間圧着し、積層体を得た。得られた積層体を支持体1に接着し測定に用いた。
オートグラフにて引張速度5mm/分、符号5に示す90°の角度で引張り、23℃、湿度50%の雰囲気下における剥離強度を得た。
【0074】
≪芳香族ポリスルホン(P1)の製造≫
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、アミノフェノール1.75g、炭酸カリウム1.33g及びN−メチル−2−ピロリドン180gを混合し、100℃に昇温後、ポリエーテルスルホン(住友化学株式会社製、スミカエクセルPES3600P)120gを加えた。前記ポリエーテルスルホンのクロル末端量に対する、前記アミノフェノールの量は、1(モル比)であり、前記ポリエーテルスルホンのクロル末端に対する、アルカリ金属原子のモル比は1.20あった。ポリエーテルスルホンが溶解した後、200℃(内温約180℃)で加熱し8時間反応させた。
【0075】
次いで、得られた反応混合溶液を、NMPで希釈し、室温まで冷却して、未反応の炭酸カリウム及び副生した塩化カリウムを析出させた。上述の溶液を水中に滴下し、芳香族ポリスルホンを析出させ、ろ過で不要なNMPを除去することにより、析出物を得た。
得られた析出物を、入念に水で繰返し洗浄し、150℃で加熱乾燥させることにより、アミノ基を末端に有するアミノ基含有芳香族ポリスルホンを得た。
【0076】
アミノ基末端量、Tg、重量平均絶対分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn)、還元粘度、剥離強度を表1に示す。下記表1中、式(A)で表される繰り返し単位100個あたりのポリマー鎖末端のアミノ基の個数を「アミノ基末端量」として記載する。
【0077】
下記表1に記載の比較例1は、芳香族ポリスルホン(P1)からなる芳香族ポリスルホン組成物である。このため、比較例1に記載の分子量は、芳香族ポリスルホン(P1)の分子量を意味する。(P1)成分は実質的に(P1
pes)からなると推察される。このため、比較例1の重量平均絶対分子量(Mw)は、実質的に(P1
pes)の重量平均絶対分子量(Mw)を意味する。つまり、(P1
pes)の重量平均絶対分子量(Mw)が16100g/molであったことを意味する。
【0078】
≪芳香族ポリスルホン(P2)≫
塩素原子を末端に有する芳香族ポリスルホンとしてポリエーテルスルホン、住友化学株式会社製、スミカエクセルPES3600Pを用いた。アミノ基末端量、Tg、重量平均絶対分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn)、還元粘度、剥離強度を表1に示す。
【0079】
<芳香族ポリスルホン組成物の製造>
芳香族ポリスルホン(P1)と芳香族ポリスルホン(P2)を75:25(質量比)、50:50(質量比)、25:75(質量比)、12.5:87.5(質量比)、10:90(質量比)で混合し実施例1〜5の芳香族ポリスルホン組成物を製造した。これを用いて剥離強度試験を行ったときの結果およびP1とP2の混合比からアミノ基末端量を算出した値を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
上記結果に記載のとおり、(P1)成分のみを含有する比較例1の芳香族ポリスルホン組成物に比べて、実施例1〜5の芳香族ポリスルホン組成物は平均して約2.0もピール強度が増加し、接着力が向上していた。
また、(P2)成分のみを含有する比較例2の芳香族ポリスルホン組成物に比べて、実施例1〜5は約2倍から3倍もピール強度が増加し、接着力が向上していた。