特許第6894494号(P6894494)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6894494
(24)【登録日】2021年6月7日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】両面保護フィルム付偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20210621BHJP
【FI】
   G02B5/30
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-234935(P2019-234935)
(22)【出願日】2019年12月25日
(62)【分割の表示】特願2016-183039(P2016-183039)の分割
【原出願日】2015年6月16日
(65)【公開番号】特開2020-46690(P2020-46690A)
(43)【公開日】2020年3月26日
【審査請求日】2020年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-138528(P2014-138528)
(32)【優先日】2014年7月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】九内 雄一朗
【審査官】 池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−012819(JP,A)
【文献】 特開2001−343521(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第111801222(CN,A)
【文献】 特開2016−024364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム、ヨウ素系偏光子及び第1保護フィルムをこの順で含む多層フィルムから基材フィルムを剥離除去して、片面保護フィルム付偏光板を得る工程と、
前記片面保護フィルム付偏光板におけるヨウ素系偏光子の外面に第2保護フィルムを貼合して、両面保護フィルム付偏光板を得る工程と、
を含み、
前記第1保護フィルム及び前記第2保護フィルムは、透湿度150g/m2/24hr以下の熱可塑性樹脂フィルムであり、
前記第2保護フィルムを貼合するときの前記ヨウ素系偏光子の水分率が4.8重量%以下であり、
前記片面保護フィルム付き偏光板を得る工程ののち、前記両面保護フィルム付偏光板を得る工程までの間に、前記水分率が4.8重量%超となることがないように、前記片面保護フィルム付偏光板におけるヨウ素系偏光子の露出面に剥離可能な防湿性フィルムを仮貼合するか、または前記片面保護フィルム付偏光板をロール状に巻回する、両面保護フィルム付偏光板の製造方法。
【請求項2】
前記第2保護フィルムを貼合するときの前記ヨウ素系偏光子の水分率が4.2重量%以下であり、
前記片面保護フィルム付き偏光板を得る工程ののち、前記両面保護フィルム付偏光板を得る工程までの間に、前記水分率が4.2重量%超となることがないように、前記片面保護フィルム付偏光板におけるヨウ素系偏光子の露出面に剥離可能な防湿性フィルムを仮貼合するか、または前記片面保護フィルム付偏光板をロール状に巻回する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて前記第2保護フィルムを前記ヨウ素系偏光子の外面に貼合する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ヨウ素系偏光子は、その厚みが10μm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
ヨウ素系偏光子及びその片面に積層される第1保護フィルムを含む片面保護フィルム付偏光板におけるヨウ素系偏光子外面に第2保護フィルムを貼合して、両面保護フィルム付偏光板を得る工程を含み、
前記第1保護フィルム及び前記第2保護フィルムは、透湿度150g/m2/24hr以下の熱可塑性樹脂フィルムであり、
前記第2保護フィルムを貼合するときの前記ヨウ素系偏光子の水分率が4.8重量%以下であり、
前記片面保護フィルム付き偏光板を得た後、前記両面保護フィルム付偏光板を得る工程までの間に、前記水分率が4.8重量%超となることがないように、前記片面保護フィルム付偏光板におけるヨウ素系偏光子の露出面に剥離可能な防湿性フィルムを仮貼合するか、または前記片面保護フィルム付偏光板をロール状に巻回する、両面保護フィルム付偏光板の製造方法。
【請求項6】
活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて前記第2保護フィルムを前記ヨウ素系偏光子の外面に貼合する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ヨウ素系偏光子は、その厚みが10μm以下である、請求項5又は6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素系偏光子の両面に保護フィルムを貼合した両面保護フィルム付偏光板の製造方法に関し、より詳しくは、ヨウ素系偏光子の両面に透湿度の低い保護フィルムを逐次的に貼合して両面保護フィルム付偏光板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、液晶表示装置等の表示装置、とりわけ近年ではスマートフォンのような各種モバイル機器に広く用いられている。偏光板としては、偏光子の片面又は両面に、接着剤を用いて保護フィルムを貼合した構成のものが一般的である。
【0003】
偏光子それ自体は、耐湿熱性が低く、湿熱環境下で偏光特性が劣化しやすい。従来、偏光子を保護する保護フィルムにはトリアセチルセルロースフィルムが用いられてきたが、トリアセチルセルロースフィルムは透湿度が高いため、これを保護フィルムに用いた偏光板は、特に偏光子としてヨウ素系偏光子を使用する場合において耐湿熱性がなお十分でないという問題があった。
【0004】
そこで、偏光板の耐湿熱性を改善するために、トリアセチルセルロースフィルムに代えて、例えばノルボルネン系樹脂フィルムのような透湿度の低い保護フィルムをヨウ素系偏光子に貼合することが提案されている〔例えば、特開2004−245925号公報(特許文献1)の段落[0005]〕。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−245925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
透湿度の低い保護フィルムをヨウ素系偏光子の両面に貼合すれば、外部からの水分の侵入が低減されるため、偏光板の耐湿熱性を高めることができる。しかしながらその一方で、このような透湿度の低い保護フィルムを両面に用いた従来の両面保護フィルム付偏光板は、一般の耐湿熱性試験よりも高い温度環境下に晒す耐熱性試験を実施すると、クロスニコル下での光漏れ(退色して偏光板から赤色領域の光が漏れて偏光板が赤く見える現象。赤変ともいう。)が生じたり、偏光特性が低下したりすることが本発明者の検討により明らかとなった。この耐熱性不良の問題は、ヨウ素系偏光子の厚みが小さいほど顕著である。
【0007】
そこで本発明は、ヨウ素系偏光子の両面に透湿性の低い保護フィルムを貼合した偏光板であって、耐湿熱性と耐熱性とを兼備する両面保護フィルム付偏光板を製造するための方法、及び耐湿熱性と耐熱性とを兼備する両面保護フィルム付偏光板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示す両面保護フィルム付偏光板の製造方法、及び両面保護フィルム付偏光板を提供する。
【0009】
[1]基材フィルム、ヨウ素系偏光子及び第1保護フィルムをこの順で含む多層フィルムから基材フィルムを剥離除去して、片面保護フィルム付偏光板を得る工程と、
前記片面保護フィルム付偏光板におけるヨウ素系偏光子の外面に第2保護フィルムを貼合して、両面保護フィルム付偏光板を得る工程と、
を含み、
前記第1保護フィルム及び前記第2保護フィルムは、透湿度150g/m2/24hr以下の熱可塑性樹脂フィルムであり、
前記第2保護フィルムを貼合するときの前記ヨウ素系偏光子の水分率が8重量%未満である、両面保護フィルム付偏光板の製造方法。
【0010】
[2]活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて前記第2保護フィルムを前記ヨウ素系偏光子の外面に貼合する、[1]に記載の製造方法。
【0011】
[3]前記ヨウ素系偏光子は、その厚みが10μm以下である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
【0012】
[4]ヨウ素系偏光子及びその片面に積層される第1保護フィルムを含む片面保護フィルム付偏光板におけるヨウ素系偏光子外面に第2保護フィルムを貼合して、両面保護フィルム付偏光板を得る工程を含み、
前記第1保護フィルム及び前記第2保護フィルムは、透湿度150g/m2/24hr以下の熱可塑性樹脂フィルムであり、
前記第2保護フィルムを貼合するときの前記ヨウ素系偏光子の水分率が8重量%未満である、両面保護フィルム付偏光板の製造方法。
【0013】
[5]活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて前記第2保護フィルムを前記ヨウ素系偏光子の外面に貼合する、[4]に記載の製造方法。
【0014】
[6]前記ヨウ素系偏光子は、その厚みが10μm以下である、[4]又は[5]に記載の製造方法。
【0015】
[7]ヨウ素系偏光子とその両面に積層される保護フィルムとを含み、
両面に積層される保護フィルムはいずれも、透湿度150g/m2/24hr以下の熱可塑性樹脂フィルムであり、
前記ヨウ素系偏光子の水分率が8重量%未満である、両面保護フィルム付偏光板。
【0016】
[8]前記ヨウ素系偏光子は、その厚みが10μm以下である、[7]に記載の両面保護フィルム付偏光板。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ヨウ素系偏光子の両面に透湿性の低い保護フィルムを貼合した偏光板であって、耐湿熱性と耐熱性とを兼備する両面保護フィルム付偏光板を製造するための方法、及び、ヨウ素系偏光子の両面に透湿性の低い保護フィルムを貼合した偏光板であって、耐湿熱性と耐熱性とを兼備する両面保護フィルム付偏光板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る両面保護フィルム付偏光板の製造方法の好ましい一例を示すフローチャートである。
図2】片面保護フィルム付偏光板の層構成の一例を示す概略断面図である。
図3】片面保護フィルム付偏光板準備工程の好ましい一例を示すフローチャートである。
図4】樹脂層形成工程で得られる積層フィルムの層構成の一例を示す概略断面図である。
図5】延伸工程で得られる延伸フィルムの層構成の一例を示す概略断面図である。
図6】染色工程で得られる偏光性積層フィルムの層構成の一例を示す概略断面図である。
図7】貼合工程で得られる多層フィルムの層構成の一例を示す概略断面図である。
図8】本発明に係る両面保護フィルム付偏光板の層構成の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<両面保護フィルム付偏光板の製造方法>
本発明に係る両面保護フィルム付偏光板の製造方法は、図1に示されるとおり、下記の工程を含むものであることができる。
【0020】
(1)ヨウ素系偏光子及びその片面に積層される第1保護フィルムを含む片面保護フィルム付偏光板を準備する工程S10(以下、「片面保護フィルム付偏光板準備工程S10」ともいう)、及び
(2)片面保護フィルム付偏光板におけるヨウ素系偏光子外面に第2保護フィルムを貼合して、両面保護フィルム付偏光板を得る工程S20(以下、「両面保護フィルム付偏光板作製工程S20」ともいう)。
【0021】
上記のとおり本発明においては、第1保護フィルムと第2保護フィルムは、ヨウ素系偏光子に対して逐次的に貼合される。その際、得られる両面保護フィルム付偏光板の耐湿熱性を向上させるために、ヨウ素系偏光子の一方の面に貼合される第1保護フィルム及び他方の面に貼合される第2保護フィルムとして、透湿度が150g/m2/24hr以下である低透湿度の熱可塑性樹脂フィルムを用いる。
【0022】
また、得られる両面保護フィルム付偏光板の耐熱性を向上させるために、ヨウ素系偏光子に第2保護フィルムを貼合するときのヨウ素系偏光子の水分率を8重量%未満とする。本発明では、耐湿熱性を向上させるために、ヨウ素系偏光子の両面に透湿度の低い保護フィルムを貼合して偏光板とするのであるが、
a)透湿度の低い保護フィルムを両面に適用すると、ヨウ素系偏光子中の水分が外部に放散されにくく、水分がヨウ素系偏光子の中にたまってしまうこと、
b)耐熱性試験における赤変や偏光特性の低下は、このヨウ素系偏光子中に残留する水分によって引き起こされること
などの状況から、上記のとおり第2保護フィルムを貼合するときのヨウ素系偏光子の水分率を管理することが有効である。ヨウ素系偏光子の水分率は、実施例の項に記載の方法に従って測定される。
【0023】
ヨウ素系偏光子の水分率は、両面保護フィルム付偏光板を製造する工程中であって、ヨウ素系偏光子に第2保護フィルムを貼合する前のいずれかの段階に、(3)ヨウ素系偏光子を含むフィルムに対して水分率低減処理を施す工程S30(以下、「水分率低減工程S30」ともいう)を設けることによって達成することができる(図1参照)。
【0024】
以下、図2図8を参照しながら各工程について説明する。
【0025】
(1)片面保護フィルム付偏光板準備工程S10
本工程は、ヨウ素系偏光子5及びその片面に積層される第1保護フィルム10を含む、例えば図2に示されるような片面保護フィルム付偏光板100を準備(用意)する工程である。図2に示されるように、第1保護フィルム10は通常、第1接着剤層15を介してヨウ素系偏光子5の片面に貼合(接着固定)される。
【0026】
〔ヨウ素系偏光子〕
ヨウ素系偏光子5は、二色性色素としてヨウ素を吸着配向させた偏光子であり、具体的には、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層(又はフィルム)にヨウ素を吸着配向させたものであることができる。ヨウ素系偏光子5の厚みは例えば30μm以下、さらには20μm以下であることができるが、とりわけモバイル機器用においては、両面保護フィルム付偏光板の薄型化の観点から10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。ヨウ素系偏光子5の厚みは通常、2μm以上である。
【0027】
ヨウ素系偏光子5の厚みが小さくなると、ヨウ素の濃度がより高くなり、両面に積層される保護フィルムとの界面近傍に存在するヨウ素錯体の濃度も高くなるために、外部から侵入する水分の影響を受けやすい。従って、ヨウ素系偏光子5の厚みが小さいほど耐湿熱性は低くなりやすい。また、ヨウ素系偏光子5の厚みが小さくなってヨウ素の濃度がより高くなると、ヨウ素系偏光子中に残存する水分の影響を受けやすくなり、耐熱性も低くなりやすい。このように、ヨウ素系偏光子5の厚みが小さいほど耐湿熱性及び耐熱性が低くなりやすいところ、本発明は、ヨウ素系偏光子5の厚みが小さい場合にとりわけ有利である。
【0028】
ポリビニルアルコール系樹脂層を構成するポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体が例示される。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド類等が挙げられる。
【0029】
本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルから選択される少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリロイル」などというときについても同様である。
【0030】
上記ポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものがヨウ素系偏光子5を構成する。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法で製膜することができるが、厚みの小さいヨウ素系偏光子5を得やすく、工程中における薄膜のヨウ素系偏光子5の取扱性にも優れることから、後述するようなポリビニルアルコール系樹脂の溶液を基材フィルム上に塗工して製膜する方法が好ましい。
【0031】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、80.0〜100.0モル%の範囲であることができるが、好ましくは90.0〜99.5モル%の範囲であり、より好ましくは94.0〜99.0モル%の範囲である。ケン化度が80.0モル%未満であると、得られる両面保護フィルム付偏光板の耐水性及び耐湿熱性が低下する。ケン化度が99.5モル%を超えるポリビニルアルコール系樹脂を使用した場合、ヨウ素の染色速度が遅くなり、生産性が低下するとともに十分な偏光性能を有するヨウ素系偏光子5が得られない場合がある。
【0032】
ケン化度とは、ポリビニルアルコール系樹脂の原料であるポリ酢酸ビニル系樹脂に含まれる酢酸基(アセトキシ基:−OCOCH3)がケン化工程により水酸基に変化した割合をユニット比(モル%)で表したものであり、下記式:
ケン化度(モル%)=100×(水酸基の数)÷(水酸基の数+酢酸基の数)
で定義される。ケン化度は、JIS K 6726−1994に準拠して求めることができる。ケン化度が高いほど、水酸基の割合が高いことを示しており、従って結晶化を阻害する酢酸基の割合が低いことを示している。
【0033】
ポリビニルアルコール系樹脂は、一部が変性されている変性ポリビニルアルコールであってもよい。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂をエチレン、プロピレン等のオレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸;不飽和カルボン酸のアルキルエステル、(メタ)アクリルアミド等で変性したものが挙げられる。変性の割合は30モル%未満であることが好ましく、10%未満であることがより好ましい。30モル%を超える変性を行った場合には、ヨウ素を吸着しにくくなり、十分な偏光性能を有するヨウ素系偏光子5が得られにくい傾向がある。
【0034】
ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、好ましくは100〜10000であり、より好ましくは1500〜8000であり、さらに好ましくは2000〜5000である。ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度もJIS K 6726−1994に準拠して求めることができる。
【0035】
〔第1保護フィルム〕
第1保護フィルム10は、透光性を有する(好ましくは光学的に透明な)熱可塑性樹脂からなり、かつ透湿度が150g/m2/24hr以下のフィルムである。透湿度は、後述する第2保護フィルムの透湿度も含めて、JIS Z 0208−1976「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」に準拠して測定される温度40℃、相対湿度90%での透湿度である。透湿度は、好ましくは100g/m2/24hr以下である。
【0036】
第1保護フィルム10の透湿度を150g/m2/24hr以下にする手段としては、フィルムを構成する熱可塑性樹脂に透湿性が低いものを用いたり、フィルムの厚みを大きくしたり、フィルム上に透湿性の低いバリア層を設けたりすることが挙げられる。
【0037】
第1保護フィルム10を構成する熱可塑性樹脂は、上記透湿度を達成できる限り特に制限されないが、透湿性が低く、第1保護フィルム10の厚みを小さくできることから、鎖状ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂等)、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂等)のようなポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート系樹脂のようなポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン系樹脂;又はこれらの混合物、共重合物等が好ましく用いられる。
【0038】
第1保護フィルム10は、位相差フィルム、輝度向上フィルムのような光学機能を併せ持つ保護フィルムであることもできる。例えば、上記熱可塑性樹脂からなるフィルムを延伸(一軸延伸又は二軸延伸等)したり、該フィルム上に液晶層等を形成したりすることにより、任意の位相差値が付与された位相差フィルムとすることができる。
【0039】
鎖状ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂のような鎖状オレフィンの単独重合体のほか、2種以上の鎖状オレフィンからなる共重合体を挙げることができる。
【0040】
環状ポリオレフィン系樹脂は、環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称である。環状ポリオレフィン系樹脂の具体例を挙げれば、環状オレフィンの開環(共)重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレンのような鎖状オレフィンとの共重合体(代表的にはランダム共重合体)、及びこれらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体、並びにそれらの水素化物等である。中でも、環状オレフィンとしてノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマー等のノルボルネン系モノマーを用いたノルボルネン系樹脂が好ましく用いられる。
【0041】
ポリエステル系樹脂はエステル結合を有する樹脂であり、多価カルボン酸又はその誘導体と多価アルコールとの重縮合体からなるものが一般的である。多価カルボン酸又はその誘導体としてはジカルボン酸又はその誘導体を用いることができ、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ジメチルテレフタレート、ナフタレンジカルボン酸ジメチル等が挙げられる。多価アルコールとしてはジオールを用いることができ、例えばエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0042】
ポリエステル系樹脂の具体例は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリシクロへキサンジメチルテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルナフタレートを含む。
【0043】
ポリカーボネート系樹脂は、カルボナート基を介してモノマー単位が結合された重合体からなる。ポリカーボネート系樹脂は、ポリマー骨格を修飾したような変性ポリカーボネートと呼ばれる樹脂や、共重合ポリカーボネート等であってもよい。
【0044】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を主な構成モノマーとする樹脂である。(メタ)アクリル系樹脂の具体例は、例えば、ポリメタクリル酸メチルのようなポリ(メタ)アクリル酸エステル;メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体;メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体;メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体;(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂等);メタクリル酸メチルと脂環族炭化水素基を有する化合物との共重合体(例えば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体等)を含む。好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸メチルのようなポリ(メタ)アクリル酸C1-6アルキルエステルを主成分とする重合体が用いられ、より好ましくは、メタクリル酸メチルを主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%)とするメタクリル酸メチル系樹脂が用いられる。
【0045】
第1保護フィルム10におけるヨウ素系偏光子5とは反対側の表面には、ハードコート層、防眩層、反射防止層、帯電防止層、防汚層のような表面処理層(コーティング層)を形成することもできる。表面処理層を形成する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0046】
第1保護フィルム10は、滑剤、可塑剤、分散剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤のような添加剤を1種又は2種以上含有することができる。
【0047】
第1保護フィルム10の厚みは、両面保護フィルム付偏光板の薄型化の観点から、好ましくは90μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。第1保護フィルム10の厚みは、強度及び取扱性の観点から、通常5μm以上である。
【0048】
〔第1接着剤層〕
第1接着剤層15は、ヨウ素系偏光子5の一方の面に第1保護フィルム10を接着固定するための層である。第1接着剤層15を形成する接着剤としては、紫外線、可視光、電子線、X線のような活性エネルギー線の照射によって硬化する硬化性化合物を含有する活性エネルギー線硬化性接着剤(好ましくは紫外線硬化性接着剤)や、ポリビニルアルコール系樹脂のような接着剤成分を水に溶解又分散させた水系接着剤であることができる。
【0049】
上記硬化性化合物は、カチオン重合性の硬化性化合物やラジカル重合性の硬化性化合物であることができる。カチオン重合性の硬化性化合物としては、例えば、エポキシ系化合物(分子内に1個又は2個以上のエポキシ基を有する化合物)や、オキセタン系化合物(分子内に1個又は2個以上のオキセタン環を有する化合物)、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。ラジカル重合性の硬化性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル系化合物(分子内に1個又は2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物)や、ラジカル重合性の二重結合を有するその他のビニル系化合物、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。カチオン重合性の硬化性化合物とラジカル重合性の硬化性化合物とを併用してもよい。活性エネルギー線硬化性接着剤は通常、上記硬化性化合物の硬化反応を開始させるためのカチオン重合開始剤及び/又はラジカル重合開始剤をさらに含む。
【0050】
片面保護フィルム付偏光板100は、あらかじめ用意されたものであってもよいし、任意の方法によって製造されたものであってもよい。製造方法としては、次のものを挙げることができる。
【0051】
i)公知の方法によって製造された単体(単独)フィルムからなるヨウ素系偏光子5の片面に第1保護フィルム10を貼合する方法、及び
ii)図3に示されるような、下記の工程を含む製造方法。
【0052】
基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を塗工した後、乾燥させることによりポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程S10−1、
積層フィルムを延伸して延伸フィルムを得る延伸工程S10−2、
延伸フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層をヨウ素で染色してヨウ素系偏光子を形成し、偏光性積層フィルムを得る染色工程S10−3、
偏光性積層フィルムのヨウ素系偏光子上に第1保護フィルム10を貼合して多層フィルムを得る貼合工程S10−4、及び
多層フィルムから基材フィルムを剥離除去して片面保護フィルム付偏光板100を得る剥離工程S10−5。
【0053】
〔樹脂層形成工程S10−1〕
図4を参照して本工程は、基材フィルム30の少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層6を形成して積層フィルム200を得る工程である。このポリビニルアルコール系樹脂層6は、延伸工程S10−2及び染色工程S10−3を経てヨウ素系偏光子5となる層である。ポリビニルアルコール系樹脂層6は、ポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を基材フィルム30の片面又は両面に塗工し、乾燥させることにより形成することができる。このような塗工によりポリビニルアルコール系樹脂層を形成する方法は、薄膜のヨウ素系偏光子5を得やすい点で有利である。
【0054】
基材フィルム30は熱可塑性樹脂から構成することができ、中でも透明性、機械的強度、熱安定性、延伸性等に優れる熱可塑性樹脂から構成することが好ましい。このような熱可塑性樹脂の具体例は、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂等)のようなポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;セルローストリアセテート、セルロースジアセテートのようなセルロースエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリビニルアルコール系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;及びこれらの混合物、共重合物を含む。
【0055】
基材フィルム30は、1種又は2種以上の熱可塑性樹脂からなる1つの樹脂層からなる単層構造であってもよいし、1種又は2種以上の熱可塑性樹脂からなる樹脂層を複数積層した多層構造であってもよい。基材フィルム30は、後述する延伸工程S10−2において、ポリビニルアルコール系樹脂層6を延伸するのに好適な延伸温度で延伸できるような樹脂で構成されることが好ましい。
【0056】
基材フィルム30は、添加剤を含有することができる。添加剤の具体例は、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、及び着色剤を含む。
【0057】
基材フィルム30の厚みは通常、強度や取扱性等の点から1〜500μmであり、好ましくは1〜300μm、より好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは5〜150μmである。
【0058】
基材フィルム30に塗工する塗工液は、好ましくはポリビニルアルコール系樹脂の粉末を良溶媒(例えば水)に溶解させて得られるポリビニルアルコール系樹脂溶液である。ポリビニルアルコール系樹脂の詳細は、上述のとおりである。塗工液は必要に応じて、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0059】
上記塗工液を基材フィルム30に塗工する方法は、ワイヤーバーコーティング法;リバースコーティング、グラビアコーティングのようなロールコーティング法;ダイコート法;カンマコート法;リップコート法;スピンコーティング法;スクリーンコーティング法;ファウンテンコーティング法;ディッピング法;スプレー法等の方法から適宜選択することができる。
【0060】
塗工層(乾燥前のポリビニルアルコール系樹脂層)の乾燥温度及び乾燥時間は塗工液に含まれる溶媒の種類に応じて設定される。乾燥温度は、例えば50〜200℃であり、好ましくは60〜150℃である。溶媒が水を含む場合、乾燥温度は80℃以上であることが好ましい。
【0061】
ポリビニルアルコール系樹脂層6は、基材フィルム30の一方の面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。両面に形成すると偏光性積層フィルム400(図6参照)の製造時に発生し得るフィルムのカールを抑制できるとともに、1枚の偏光性積層フィルム400から2枚の偏光板を得ることができるので、生産効率の面でも有利である。
【0062】
積層フィルム200におけるポリビニルアルコール系樹脂層6の厚みは、好ましくは3〜30μmであり、より好ましくは5〜20μmである。この範囲内の厚みを有するポリビニルアルコール系樹脂層6であれば、後述する延伸工程S10−2及び染色工程S10−3を経て、ヨウ素の染色性が良好で偏光性能に優れ、かつ十分に薄い(例えば厚み10μm以下の)ヨウ素系偏光子5を得ることができる。
【0063】
塗工液の塗工に先立ち、基材フィルム30とポリビニルアルコール系樹脂層6との密着性を向上させるために、少なくともポリビニルアルコール系樹脂層6が形成される側の基材フィルム30の表面に、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム(火炎)処理等を施してもよい。また同様の理由で、基材フィルム30上にプライマー層等を介してポリビニルアルコール系樹脂層6を形成してもよい。
【0064】
プライマー層は、プライマー層形成用塗工液を基材フィルム30の表面に塗工した後、乾燥させることにより形成することができる。この塗工液は、基材フィルム30とポリビニルアルコール系樹脂層6との両方にある程度強い密着力を発揮する成分を含み、通常は、このような密着力を付与する樹脂成分と溶媒とを含む。樹脂成分としては、好ましくは透明性、熱安定性、延伸性等に優れる熱可塑樹脂が用いられ、例えば(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。中でも、良好な密着力を与えるポリビニルアルコール系樹脂が好ましく用いられる。より好ましくは、ポリビニルアルコール樹脂である。溶媒としては通常、上記樹脂成分を溶解できる一般的な有機溶媒や水系溶媒が用いられるが、水を溶媒とする塗工液からプライマー層を形成することが好ましい。
【0065】
プライマー層の強度を上げるために、プライマー層形成用塗工液に架橋剤を添加してもよい。架橋剤の具体例は、エポキシ系、イソシアネート系、ジアルデヒド系、金属系(例えば、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物)、高分子系の架橋剤を含む。プライマー層を形成する樹脂成分としてポリビニルアルコール系樹脂を使用する場合は、ポリアミドエポキシ樹脂、メチロール化メラミン樹脂、ジアルデヒド系架橋剤、金属キレート化合物系架橋剤等が好適に用いられる。
【0066】
プライマー層の厚みは、0.05〜1μm程度であることが好ましく、0.1〜0.4μmであることがより好ましい。0.05μmより薄くなると、基材フィルム30とポリビニルアルコール系樹脂層6との密着力向上の効果が小さく、1μmより厚くなると、両面保護フィルム付偏光板の薄型化に不利である。
【0067】
プライマー層形成用塗工液を基材フィルム30に塗工する方法は、ポリビニルアルコール系樹脂層形成用の塗工液と同様であることができる。プライマー層形成用塗工液からなる塗工層の乾燥温度は、例えば50〜200℃であり、好ましくは60〜150℃である。溶媒が水を含む場合、乾燥温度は80℃以上であることが好ましい。
【0068】
〔延伸工程S10−2〕
図5を参照して本工程は、積層フィルム200を延伸して、延伸された基材フィルム30’及びポリビニルアルコール系樹脂層6’からなる延伸フィルム300を得る工程である。延伸処理は通常、一軸延伸である。
【0069】
積層フィルム200の延伸倍率は、所望する偏光特性に応じて適宜選択することができるが、好ましくは、積層フィルム200の元長に対して5倍超17倍以下であり、より好ましくは5倍超8倍以下である。延伸倍率が5倍以下であると、ポリビニルアルコール系樹脂層6’が十分に配向しないため、ヨウ素系偏光子5の偏光度が十分に高くならないことがある。一方、延伸倍率が17倍を超えると、延伸時にフィルムの破断が生じ易くなるとともに、延伸フィルム300の厚みが必要以上に薄くなり、後工程での加工性及び取扱性が低下するおそれがある。
【0070】
延伸処理は、一段での延伸に限定されることはなく多段で行うこともできる。この場合、多段階の延伸処理のすべてを染色工程S10−3の前に連続的に行ってもよいし、二段階目以降の延伸処理を染色工程S10−3における染色処理及び/又は架橋処理と同時に行ってもよい。このように多段で延伸処理を行う場合は、延伸処理の全段を合わせて5倍超の延伸倍率となるように延伸処理を行うことが好ましい。
【0071】
延伸処理は、フィルム長手方向(フィルム搬送方向)に延伸する縦延伸であることができるほか、フィルム幅方向に延伸する横延伸又は斜め延伸等であってもよい。縦延伸方式としては、ロールを用いて延伸するロール間延伸、圧縮延伸、チャック(クリップ)を用いた延伸等が挙げられ、横延伸方式としては、テンター法等が挙げられる。延伸処理は、湿潤式延伸方法、乾式延伸方法のいずれも採用できる。
【0072】
延伸温度は、ポリビニルアルコール系樹脂層6及び基材フィルム30全体が延伸可能な程度に流動性を示す温度以上に設定され、好ましくは基材フィルム30の相転移温度(融点又はガラス転移温度)の−30℃から+30℃の範囲であり、より好ましくは−30℃から+5℃の範囲であり、さらに好ましくは−25℃から+0℃の範囲である。基材フィルム30が複数の樹脂層からなる場合、上記相転移温度は該複数の樹脂層が示す相転移温度のうち、最も高い相転移温度を意味する。
【0073】
延伸温度を相転移温度の−30℃より低くすると、5倍超の高倍率延伸が達成されにくいか、又は、基材フィルム30の流動性が低すぎて延伸処理が困難になる傾向にある。延伸温度が相転移温度の+30℃を超えると、基材フィルム30の流動性が大きすぎて延伸が困難になる傾向にある。5倍超の高延伸倍率をより達成しやすいことから、延伸温度は上記範囲内であって、さらに好ましくは120℃以上である。
【0074】
延伸処理における積層フィルム200の加熱方法としては、ゾーン加熱法(例えば、熱風を吹き込み所定の温度に調整した加熱炉のような延伸ゾーン内で加熱する方法。);ロールを用いて延伸する場合において、ロール自体を加熱する方法;ヒーター加熱法(赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、パネルヒーター等を積層フィルム200の上下に設置し輻射熱で加熱する方法)等がある。ロール間延伸方式においては、延伸温度の均一性の観点からゾーン加熱法が好ましい。
【0075】
延伸工程S10−2に先立ち、積層フィルム200を予熱する予熱処理工程を設けてもよい。予熱方法としては、延伸処理における加熱方法と同様の方法を用いることができる。予熱温度は、延伸温度の−50℃から±0℃の範囲であることが好ましく、延伸温度の−40℃から−10℃の範囲であることがより好ましい。
【0076】
また、延伸工程S10−2における延伸処理の後に、熱固定処理工程を設けてもよい。熱固定処理は、延伸フィルム300の端部をクリップにより把持した状態で緊張状態に維持しながら、結晶化温度以上で熱処理を行う処理である。この熱固定処理によってポリビニルアルコール系樹脂層6’の結晶化が促進される。熱固定処理の温度は、延伸温度の−0℃〜−80℃の範囲であることが好ましく、延伸温度の−0℃〜−50℃の範囲であることがより好ましい。
【0077】
〔染色工程S10−3〕
図6を参照して本工程は、延伸フィルム300のポリビニルアルコール系樹脂層6’をヨウ素で染色してこれを吸着配向させ、ヨウ素系偏光子5とする工程である。本工程を経て基材フィルム30’の片面又は両面にヨウ素系偏光子5が積層された偏光性積層フィルム400が得られる。
【0078】
染色工程は、ヨウ素を含有する溶液(染色溶液)に延伸フィルム300を浸漬することにより行うことができる。染色溶液としては、ヨウ素を溶媒に溶解した溶液を使用できる。溶媒としては、一般的には水が使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒がさらに添加されてもよい。染色溶液におけるヨウ素の濃度は、好ましくは0.01〜10重量%であり、より好ましくは0.02〜7重量%である。
【0079】
染色効率を向上できることから、染色溶液にヨウ化物をさらに添加することが好ましい。ヨウ化物としては、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。染色溶液におけるヨウ化物の濃度は、好ましくは0.01〜20重量%である。ヨウ化物の中でも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましい。ヨウ化カリウムを添加する場合、ヨウ素とヨウ化カリウムとの割合は重量比で、好ましくは1:5〜1:100であり、より好ましくは1:6〜1:80である。染色溶液の温度は、好ましくは10〜60℃であり、より好ましくは20〜40℃である。
【0080】
なお、染色工程S10−3を延伸工程S10−2の前に行ったり、これらの工程を同時に行ったりすることも可能であるが、ポリビニルアルコール系樹脂層に吸着させるヨウ素を良好に配向させることができるよう、積層フィルム200に対して少なくともある程度の延伸処理を施した後に染色工程S10−3を実施することが好ましい。
【0081】
染色工程S10−3は、染色処理に引き続いて実施される架橋処理工程を含むことができる。架橋処理は、架橋剤を溶媒に溶解した溶液(架橋溶液)中に染色されたフィルムを浸漬することにより行うことができる。架橋剤としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂のようなホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等が挙げられる。架橋剤は1種のみを使用してもよいし2種以上を併用してもよい。架橋溶液の溶媒としては、水が使用できるが、水と相溶性のある有機溶媒をさらに含んでもよい。架橋溶液における架橋剤の濃度は、好ましくは1〜20重量%であり、より好ましくは6〜15重量%である。
【0082】
架橋溶液はヨウ化物をさらに含むことができる。ヨウ化物の添加により、ヨウ素系偏光子5の面内における偏光性能をより均一化させることができる。ヨウ化物の具体例は上記と同様である。架橋溶液におけるヨウ化物の濃度は、好ましくは0.05〜15重量%であり、より好ましくは0.5〜8重量%である。架橋溶液の温度は、好ましくは10〜90℃である。
【0083】
なお架橋処理は、架橋剤を染色溶液中に配合することにより、染色処理と同時に行うこともできる。また、組成の異なる2種以上の架橋溶液を用いて、架橋溶液に浸漬する処理を2回以上行ってもよい。
【0084】
染色工程S10−3の後、後述する貼合工程S10−4の前に洗浄工程及び乾燥工程を行うことが好ましい。洗浄工程は通常、水洗浄工程を含む。水洗浄処理は、イオン交換水、蒸留水のような純水に染色処理後の又は架橋処理後のフィルムを浸漬することにより行うことができる。水洗浄温度は、通常3〜50℃、好ましくは4〜20℃である。洗浄工程は、水洗浄工程とヨウ化物溶液による洗浄工程との組み合わせであってもよい。洗浄工程の後に行われる乾燥工程としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥等の任意の適切な方法を採用し得る。例えば加熱乾燥の場合、乾燥温度は通常20〜95℃である。
【0085】
〔貼合工程S10−4〕
図7を参照して本工程は、偏光性積層フィルム400のヨウ素系偏光子5上、すなわち、ヨウ素系偏光子5の基材フィルム30’とは反対側の面に第1接着剤層15を介して第1保護フィルム10を貼合することで多層フィルム500を得る工程である。第1接着剤層15を形成する接着剤については上述のとおりである。
【0086】
なお、偏光性積層フィルム400が基材フィルム30’の両面にヨウ素系偏光子5を有する場合は通常、両面のヨウ素系偏光子5上にそれぞれ第1保護フィルム10が貼合される。この場合、これらの第1保護フィルム10は同種の保護フィルムであってもよいし、異種の保護フィルムであってもよい。
【0087】
活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて第1保護フィルム10を貼合する場合、第1接着剤層15となる活性エネルギー線硬化性接着剤を介して第1保護フィルム10をヨウ素系偏光子5上に積層した後、紫外線、可視光、電子線、X線のような活性エネルギー線を照射して接着剤層を硬化させる。中でも紫外線が好適であり、この場合の光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等を用いることができる。水系接着剤を用いる場合は、水系接着剤を介して第1保護フィルム10をヨウ素系偏光子5上に積層した後、加熱乾燥させればよい。
【0088】
ヨウ素系偏光子5に第1保護フィルム10を貼合するにあたり、第1保護フィルム10及び/又はヨウ素系偏光子5の貼合面には、ヨウ素系偏光子5との接着性を向上させるために、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理のような表面処理(易接着処理)を行うことができ、中でも、プラズマ処理、コロナ処理又はケン化処理を行うことが好ましい。
【0089】
〔剥離工程S10−5〕
本工程は、多層フィルム500から基材フィルム30’を剥離除去する工程である。この工程を経て、図2と同様の片面保護フィルム付偏光板100が得られる。偏光性積層フィルム400が基材フィルム30’の両面にヨウ素系偏光子5を有し、これら両方のヨウ素系偏光子5に第1保護フィルム10を貼合した場合には、この剥離工程S50により、1枚の偏光性積層フィルム400から2枚の片面保護フィルム付偏光板100が得られる。
【0090】
基材フィルム30’を剥離除去する方法は特に限定されるものでなく、通常の粘着剤付偏光板で行われるセパレータ(剥離フィルム)の剥離工程と同様の方法で剥離できる。基材フィルム30’は、貼合工程S10−4の後、そのまますぐ剥離してもよいし、貼合工程S10−4の後、一度ロール状に巻き取り、その後の工程で巻き出しながら剥離してもよい。
【0091】
(2)両面保護フィルム付偏光板作製工程S20
本工程にて、片面保護フィルム付偏光板100におけるヨウ素系偏光子5の外面に第2保護フィルム20を貼合することにより、両面保護フィルム付偏光板が得られる。両面保護フィルム付偏光板の層構成の一例を図8に示す。図8に示される両面保護フィルム付偏光板600のように、第2保護フィルム20は通常、第2接着剤層25を介してヨウ素系偏光子5に貼合(接着固定)される。ヨウ素系偏光子5の外面とは、ヨウ素系偏光子5における第1保護フィルム10とは反対側の面を意味し、基材フィルム30’を剥離除去する工程を経て片面保護フィルム付偏光板100を作製する場合には、基材フィルム30’の剥離除去によって露出したヨウ素系偏光子5の表面を意味する。
【0092】
第2保護フィルム20もまた、第1保護フィルム10と同様、透光性を有する(好ましくは光学的に透明な)熱可塑性樹脂からなり、かつ透湿度が150g/m2/24hr以下
のフィルムである。位相差フィルム、輝度向上フィルムのような光学機能を併せ持つ保護フィルムであってもよい。第2保護フィルム20が有し得る表面処理層及びフィルムの厚み、材質等については、第1保護フィルム10について述べた上の記載が引用される。第1保護フィルム10と第2保護フィルム20とは、互いに同種の樹脂からなる保護フィルムであってもよいし、異種の樹脂からなる保護フィルムであってもよい。
【0093】
第2接着剤層25を形成する接着剤は、第1接着剤層15と同様、活性エネルギー線硬化性接着剤又は水系接着剤であることができるが、好ましくは紫外線硬化性接着剤のような活性エネルギー線硬化性接着剤である。水系接着剤を用いると、ヨウ素系偏光子5に水分を供給することになるため、第2保護フィルム20を貼合するときのヨウ素系偏光子5の水分率が8重量%未満とならないことがある。第2接着剤層25を形成する接着剤は、第1接着剤層15を形成する接着剤と同じ組成を有していてもよいし、異なる組成を有していてもよい。
【0094】
(3)水分率低減工程S30
本発明に係る両面保護フィルム付偏光板の製造方法は、第2保護フィルム20を貼合するときのヨウ素系偏光子5の水分率を8重量%未満とするために、上で説明したような両面保護フィルム付偏光板を製造する工程中、両面保護フィルム付偏光板作製工程S20の前のいずれか1以上の段階で実施される水分率低減工程S30を含む。水分率低減工程S30は、ヨウ素系偏光子5を含むフィルムに対してヨウ素系偏光子5の水分率を低減させる処理を施す工程である。
【0095】
水分率低減工程S30を実施するタイミングの例を挙げれば、次のとおりである。
【0096】
1)単体(単独)フィルムからなるヨウ素系偏光子5の片面に第1保護フィルム10を貼合して片面保護フィルム付偏光板100を得た後、第2保護フィルム20を貼合する方法にあっては、第1保護フィルム10の貼合前、貼合後(両面保護フィルム付偏光板作製工程S20の直前を含む)又はこれらの双方。ただし、単体(単独)フィルムの状態で水分率を下げるとヨウ素系偏光子5が裂けたり、破断したりしやすくなるため、好ましくは第1保護フィルム10の貼合後である。
【0097】
2)図3に示される方法に従って片面保護フィルム付偏光板100を得た後、第2保護フィルム20を貼合する方法にあっては、染色工程S10−3後、貼合工程S10−4後、剥離工程S10−5後(両面保護フィルム付偏光板作製工程S20の直前を含む)、又はこれらの2以上の段階。水分率を低減させやすいことから、水分率低減工程S30は、ヨウ素系偏光子5の表面が露出している段階、例えば貼合工程S10−4前や、剥離工程S10−5後に行うことが好ましい。
【0098】
例えば上記2)において貼合工程S10−4の前に水分率低減工程S30を実施する場合のように、上記1)又は2)にかかわらず、水分率低減工程S30と両面保護フィルム付偏光板作製工程S20との間に比較的長いインターバルがあるときには、このインターバル中の吸湿によって第2保護フィルム20の貼合時に水分率が8重量%以上になることがないよう、吸湿抑制手段を講じるか、又はこのインターバル中に再度の水分率低減工程S30を実施してもよい。
【0099】
吸湿抑制手段としては、ヨウ素系偏光子5の露出面に剥離可能な防湿性フィルムを仮貼合する方法や、露出表面を有するヨウ素系偏光子5を含むフィルムの形成を伴う工程を終えた後のできるだけ早いうちにフィルムをロール状に巻回して外部からの水分の侵入を抑制する方法、ロール状のフィルムをアルミラミネートのような防湿性フィルムでさらに梱包する方法等が挙げられる。ロール状に巻回する方法は、巻回されるフィルムが基材フィルムを有しており、この基材フィルムが透湿性の低いものである場合に特に有利である。あるいは、以上のような吸湿抑制手段を特段講じることなく、ヨウ素系偏光子5の吸湿速度を考慮して、吸湿によって水分率が8重量%以上となる前に両面保護フィルム付偏光板作製工程S20を実施できるよう工程を設計してもよい。
【0100】
また、例えば水分率低減工程S30と両面保護フィルム付偏光板作製工程S20との間に比較的長いインターバルがあるときには、ヨウ素系偏光子5の吸湿速度を考慮して、水分率低減工程S30において8重量%よりも十分低めに水分率を下げておいてもよい。この方法によっても、水分率低減工程S30と両面保護フィルム付偏光板作製工程S20との間で特段の手段を講じることなく、第2保護フィルム20を貼合するときの水分率を8重量%未満にすることが可能である。
【0101】
上述のように、ヨウ素系偏光子5と第1保護フィルム10との貼合に水系接着剤を用いることができるが、水系接着剤を用いると、ヨウ素系偏光子5に水分を供給することになるため、第1保護フィルム10を貼合してから第2保護フィルム20を貼合までの間に水分率低減工程S30を行うことが好ましい。なお、この水分率低減工程S30は最初の水分率低減工程S30である必要はない。
【0102】
耐熱性の観点から、第2保護フィルム20を貼合するときのヨウ素系偏光子5の水分率は、6重量%未満であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。水分率を低減させるための具体的方法は特に制限されず、例えば、乾燥エアーを吹き付ける方法、低湿度に調整された調湿ゾーンを通過させる方法、熱風乾燥炉を通過させる方法、赤外線ヒーターのような加熱装置を用いて加熱する方法、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0103】
<両面保護フィルム付偏光板>
本発明に係る両面保護フィルム付偏光板は、図8に示されるように、ヨウ素系偏光子5と、その一方の面に積層される第1保護フィルム10と、他方の面に積層される第2保護フィルム20とを含むものである。通常、第1保護フィルム10、第2保護フィルム20はそれぞれ、第1接着剤層15、第2接着剤層25を介してヨウ素系偏光子5に貼合(接着固定)される。
【0104】
本発明に係る両面保護フィルム付偏光板において、ヨウ素系偏光子5の水分率は8重量%未満であり、好ましくは6重量%未満、より好ましくは5重量%以下である。また、第1保護フィルム10及び第2保護フィルム20にはともに、透湿度150g/m2/24hr以下、好ましくは100g/m2/24hr以下の熱可塑性樹脂フィルムが用いられる。ヨウ素系偏光子5、第1保護フィルム10及び第2保護フィルム20の具体的構成については、上の記載が引用される。
【0105】
本発明に係る両面保護フィルム付偏光板は、上で説明した方法によって好適に製造することができる。本発明に係る両面保護フィルム付偏光板は、ヨウ素系偏光子5の水分率が8重量%未満であり、かつ低透湿度の保護フィルムを両面に積層したものであるので、ヨウ素系偏光子5の厚みが小さい(例えば厚み10μm以下の)場合であっても、耐湿熱性及び耐熱性を兼備したものとなる。両面保護フィルム付偏光板は、液晶表示装置や有機EL装置のような画像表示装置に好適に適用することができる。液晶表示装置に適用する場合において、本発明に係る両面保護フィルム付偏光板は、液晶セルの前面(視認)側に配置される偏光板であってもよいし、背面(バックライト)側に配置される偏光板であってもよい。
【0106】
両面保護フィルム付偏光板は、第1保護フィルム10又は第2保護フィルム20上に積層される、他の部材(例えば液晶表示装置に適用する場合における液晶セル)に貼合するための粘着剤層を備えていてもよい。粘着剤層を形成する粘着剤は通常、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂等をベースポリマーとし、そこに、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物のような架橋剤を加えた粘着剤組成物からなる。さらに微粒子を含有して光散乱性を示す粘着剤層とすることもできる。粘着剤層の厚みは通常、1〜40μmであり、好ましくは3〜25μmである。
【0107】
また両面保護フィルム付偏光板は、第1保護フィルム10又は第2保護フィルム20上に積層される他の光学層をさらに備えることができる。他の光学層としては、ある種の偏光光を透過し、それと逆の性質を示す偏光光を反射する反射型偏光フィルム;表面に凹凸形状を有する防眩機能付フィルム;表面反射防止機能付フィルム;表面に反射機能を有する反射フィルム;反射機能と透過機能とを併せ持つ半透過反射フィルム;視野角補償フィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0109】
<実施例1>
(1)プライマー層形成工程
ポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業(株)製の「Z−200」、平均重合度1100、ケン化度99.5モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液に架橋剤(田岡化学工業(株)製の「スミレーズレジン650」)をポリビニルアルコール粉末6重量部に対して5重量部の割合で混合して、プライマー層形成用塗工液を得た。
【0110】
次に、ポリプロピレンからなる厚み90μmの基材フィルム(融点:163℃、透湿度:15g/m2/24hr)の片面にコロナ処理を施した後、そのコロナ処理面に小径グラビアコーターを用いて上記プライマー層形成用塗工液を塗工し、80℃で10分間乾燥させることにより、厚み0.2μmのプライマー層を形成した。
【0111】
(2)積層フィルムの作製(樹脂層形成工程)
ポリビニルアルコール粉末((株)クラレ製の「PVA124」、平均重合度2400、ケン化度98.0〜99.0モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製し、これをポリビニルアルコール系樹脂層形成用塗工液とした。
【0112】
上記(1)で作製したプライマー層を有する基材フィルムのプライマー層表面にダイコーターを用いて上記ポリビニルアルコール系樹脂層形成用塗工液を塗工した後、80℃で20分間乾燥させることにより、プライマー層上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して、基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層からなる積層フィルムを得た。
【0113】
(3)延伸フィルムの作製(延伸工程)
上記(2)で作製した積層フィルムに対し、フローティングの縦一軸延伸装置を用いて160℃で5.3倍の自由端一軸延伸を実施し、延伸フィルムを得た。延伸後のポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは5.1μmであった。
【0114】
(4)偏光性積層フィルムの作製(染色工程)
上記(3)で作製した延伸フィルムを、ヨウ素とヨウ化カリウムとを含む30℃の染色水溶液(水100重量部あたりヨウ素を0.6重量部、ヨウ化カリウムを10重量部含む)に約180秒間浸漬してポリビニルアルコール系樹脂層の染色処理を行った後、10℃の純水で余分な染色水溶液を洗い流した。
【0115】
次に、ホウ酸を含む78℃の第1架橋水溶液(水100重量部あたりホウ酸を10.4重量部含む)に120秒間浸漬し、次いで、ホウ酸及びヨウ化カリウムを含む70℃の第2架橋水溶液(水100重量部あたりホウ酸を5.7重量部、ヨウ化カリウムを12重量部含む)に60秒間浸漬して架橋処理を行った。その後、10℃の純水で10秒間洗浄した。最後に50℃で60秒間、次いで80℃で60秒間乾燥させることにより(水分率低減工程)、基材フィルム/ヨウ素系偏光子からなる偏光性積層フィルムを得た。乾燥終了時点での偏光性積層フィルムが有するヨウ素系偏光子の水分率は、0.4重量%であった。また、ヨウ素系偏光子の厚みは5.6μmであった。
【0116】
空気中の水分を吸湿してヨウ素系偏光子の水分率が上昇することを抑制できるよう、ヨウ素系偏光子における基材フィルムとは反対側の面に、再剥離性を有し、透湿度の低い防湿性フィルム(透湿度30g/m2/24hrのポリオレフィン系樹脂フィルム)を、乾燥後すぐに貼合した。これによりヨウ素系偏光子は、低透湿度の基材フィルム及び防湿性フィルムで挟まれるため、低水分率を維持できる。
【0117】
(5)多層フィルムの作製(貼合工程)
上記(4)で作製した防湿性フィルム付の偏光性積層フィルムから防湿性フィルムを剥離しながらすぐに(1分以内に)、その剥離面に第1保護フィルムを貼合した。第1保護フィルムには、透湿度が16g/m2/24hrであり、環状ポリオレフィン系樹脂からなる厚み23μmの熱可塑性樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製の「ZF−14」)を用いた。第1保護フィルムの貼合は、その片面に紫外線硬化性接着剤((株)ADEKA製の「KR−75T」)を硬化後の厚みが1.0μm程度となるように小径グラビアコーターを用いて塗工した後、これを、貼合ロールを用いて上記剥離面に貼合し、その後、高圧水銀ランプを用いて、基材フィルム側から200mJ/cm2の積算光量で紫外線を照射して接着剤層を硬化させることにより行った。
【0118】
(6)両面保護フィルム付偏光板の作製(剥離工程及び両面保護フィルム付偏光板作製工程)
上記(5)で作製した多層フィルムから基材フィルムを剥離しながらすぐに、その剥離面に第2保護フィルムを貼合して、第1保護フィルム/接着剤層/ヨウ素系偏光子/接着剤層/第2保護フィルムからなる両面保護フィルム付偏光板を得た。第2保護フィルムには、透湿度が16g/m2/24hrであり、環状ポリオレフィン系樹脂からなる厚み23μmの熱可塑性樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製の「ZF−14」)を用いた。第2保護フィルムの貼合は、その片面に紫外線硬化性接着剤((株)ADEKA製の「KR−75T」)を硬化後の厚みが1.0μm程度となるように小径グラビアコーターを用いて塗工した後、これを、貼合ロールを用いて上記剥離面に貼合し、その後、高圧水銀ランプを用いて、第2保護フィルム側から200mJ/cm2の積算光量で紫外線を照射して接着剤層を硬化させることにより行った。第2保護フィルムを貼合するときのヨウ素系偏光子の水分率は、0.5重量%であった。
【0119】
<実施例2>
染色工程最後の乾燥処理(水分率低減工程)の条件を、50℃で60秒間、次いで65℃で60秒間としたこと以外は実施例1と同様にして、両面保護フィルム付偏光板を作製した。第2保護フィルムを貼合するときのヨウ素系偏光子の水分率は、4.6重量%であった。
【0120】
<実施例3>
実施例2と同様にして、両面保護フィルム付偏光板を作製した。第2保護フィルムを貼合するときのヨウ素系偏光子の水分率は4.4重量%であり、両面保護フィルム付偏光板の視感度補正偏光度Pyは99.995%、視感度補正単体透過率Tyは40.9%であった。
【0121】
<実施例4>
第1保護フィルム及び第2保護フィルムとして、透湿度が63g/m2/24hrであり、アクリル系樹脂からなる厚み80μmの熱可塑性樹脂フィルムを用い、紫外線硬化性接着剤((株)ADEKA製の「KR−15P」)を用いた以外は、実施例2と同様にして、両面保護フィルム付偏光板を作製した。第2保護フィルムを貼合するときのヨウ素系偏光子の水分率は4.2重量%であり、両面保護フィルム付偏光板の視感度補正偏光度Pyは99.994%、視感度補正単体透過率Tyは41.4%であった。
【0122】
<実施例5>
第1保護フィルムとして、透湿度が63g/m2/24hrであり、アクリル系樹脂からなる厚み80μmの熱可塑性樹脂フィルムを、第2保護フィルムとして、透湿度が16g/m2/24hrであり、環状ポリオレフィン系樹脂からなる厚み23μmの熱可塑性樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製の「ZF−14」)を用いた。第1保護フィルムは、紫外線硬化性接着剤((株)ADEKA製の「KR−15P」)を用い、第2保護フィルムは、紫外線硬化性接着剤(株)ADEKA製の「KR−75T」を用いた以外は、実施例2と同様にして、両面保護フィルム付偏光板を作製した。第2保護フィルムを貼合するときのヨウ素系偏光子の水分率は4.8重量%であり、両面保護フィルム付偏光板の視感度補正偏光度Pyは99.994%、視感度補正単体透過率Tyは41.4%であった。
【0123】
<比較例1>
染色工程最後の乾燥処理(水分率低減工程)の条件を、40℃で60秒間、次いで50℃で60秒間としたこと以外は実施例1と同様にして、両面保護フィルム付偏光板を作製した。第2保護フィルムを貼合するときのヨウ素系偏光子の水分率は、10.7重量%であった。
【0124】
<比較例2>
染色工程最後の乾燥処理(水分率低減工程)の条件を、40℃で120秒間としたこと以外は実施例1と同様にして、両面保護フィルム付偏光板を作製した。第2保護フィルムを貼合するときのヨウ素系偏光子の水分率は、12.5重量%であった。
【0125】
<比較例3>
染色工程最後の乾燥処理(水分率低減工程)後に防湿性フィルムを貼合することなく、25℃55%RHの環境下で約2日間保管してヨウ素系偏光子の水分率を平衡含水率付近まで上昇させ、その後、第1及び第2保護フィルムを貼合したこと以外は実施例2と同様にして、両面保護フィルム付偏光板を作製した。第2保護フィルムを貼合するときのヨウ素系偏光子の水分率は、15.3重量%であった。
【0126】
各実施例及び比較例におけるフィルムの透湿度及びヨウ素系偏光子の水分率は次の方法で測定した。
【0127】
(1)透湿度
JIS Z 0208−1976「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」に準拠して温度40℃、相対湿度90%での透湿度を測定した。
【0128】
(2)ヨウ素系偏光子の水分率
近赤外水分率計((株)チノー製の「IRMA1100S」)により測定される水分率と乾燥重量法によって得られる水分率との関係を1次式で表す検量線を、水分率が異なる複数のヨウ素系偏光子サンプルについて得られる両水分率からあらかじめ求めておき、近赤外水分率計により測定される水分率を上記検量線を用いて乾燥重量法による水分率に換算して、これをヨウ素系偏光子の水分率とした。なお、乾燥重量法による水分率は、乾燥前の試料の重量をW0、同試料を105℃、1時間の条件で乾燥させたときの重量をW1とするとき、下記式:
水分率(重量%)=100×(W0−W1)/W0
で定義される。
【0129】
〔両面保護フィルム付偏光板の耐湿熱性及び耐熱性の評価〕
(1)耐湿熱性の評価
実施例1及び2、比較例1〜3で作製した両面保護フィルム付偏光板について、65℃90%RHの環境下に500時間静置する耐湿熱性試験後の視感度補正偏光度Pyと試験前のPyとを、吸光光度計(日本分光(株)製の「V7100」)を用いて測定し、両者の差ΔPy(試験前のPy−試験後のPy)から耐湿熱性を評価した。ΔPyの絶対値が小さいほど耐湿熱性が高い。結果を表1に示す。Pyの測定にあたっては、第2保護フィルム側に入射光が照射されるように両面保護フィルム付偏光板サンプルをセットした。なお、耐湿熱性試験後の視感度補正偏光度Pyは、耐湿熱性試験後、23℃55%RHの環境下に約12時間静置してから測定した。
【0130】
耐湿熱性試験(及び下記の耐熱性試験)前のPyは、各実施例及び比較例についていずれも99.995%であった。また、同吸光光度計を用いて測定される視感度補正単体透過率Tyは、各実施例及び比較例についていずれも41.6%であった。
【0131】
(2)耐熱性の評価
実施例1及び2、比較例1〜3で作製した両面保護フィルム付偏光板について、85℃dryの環境下に500時間静置する耐熱性試験を行うことにより、上記耐湿熱性の評価と同様にして、ΔPy(試験前のPy−試験後のPy)から耐熱性を評価した。ΔPyの絶対値が小さいほど耐熱性が高い。結果を表1に示す。
【0132】
(3)促進条件下における耐湿熱性の評価
実施例3〜5で作製した両面保護フィルム付偏光板について、80℃、90%RHの環境下に48時間静置する耐湿熱性試験を、前記(1)耐湿熱性の評価と同様の方法で行った。結果を表2に示す。
【0133】
(4)促進条件下における耐熱性の評価
実施例3〜5で作製した両面保護フィルム付偏光板について、105℃、dryの環境下に48時間静置する耐熱性試験を、前記(2)耐熱性の評価と同様の方法で行った。結果を表2に示す。
【0134】
また、耐熱性試験後の両面保護フィルム付偏光板について、光漏れ(赤変)の程度を目視で確認した。具体的には、耐熱性試験後の両面保護フィルム付偏光板から10cm×20cmの試料片を2つ切り出し、これらの試料をガラス板の両面に粘着剤を用いて貼合した。この際、第2保護フィルム側がガラス板側になるようにし、かつ、両面に配置した試料片はクロスニコルの位置関係になるようにした。そして、暗室にて一方の偏光板側からバックライトを当て、下記の評価基準に従って赤変の目視評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0135】
A:真っ黒の状態を保ち、目視で赤変が認識できない、
B:明らかな赤変が認められる。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【符号の説明】
【0138】
5 ヨウ素系偏光子、6 ポリビニルアルコール系樹脂層、6’ 延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層、10 第1保護フィルム、15 第1接着剤層、20 第2保護フィルム、25 第2接着剤層、30 基材フィルム、30’ 延伸された基材フィルム、100 片面保護フィルム付偏光板、200 積層フィルム、300 延伸フィルム、400 偏光性積層フィルム、500 多層フィルム、600 両面保護フィルム付偏光板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8