【文献】
Y.Zorenko.et.al,Bi3+-Ce3+ energy transfer and luminescent properties ofLuAG:Bi,Ce and YAG:Bi,Ce single cryatalline films,Journal of Luminescence,2013年,Vol 134,P539-543
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
レーザ光を用いた光加工技術や光計測技術では、レーザ光が伝送路途中に設けられた部材表面で反射して、その反射光がレーザ光源に戻ってくると、レーザ発振が不安定になってしまう。このような反射戻り光を遮断するために、偏光面を非相反で回転させるファラデー回転子を用いた光アイソレータが用いられる。
【0003】
近年、Ybドープファイバレーザを用いた光加工機が増えている。Ybドープファイバレーザでは、レーザ光の出力がファイバ増幅器によって増幅される。そのため、光アイソレータ等の部品やその材料には、増幅された1W以上の高出力の光に対する耐性が求められる。
【0004】
高出力の光に対して比較的高い耐性を有するファラデー回転子の材料として、Tb
3Ga
5O
12(テルビウム・ガリウム・ガーネット:TGG)単結晶が開発され、実用化されている(例えば非特許文献1を参照)。
【0005】
また、TGGよりも大きなベルデ定数を有するTb
3Sc
2Al
5O
12(テルビウム・スカンジウム・アルミニウム・ガーネット:TSAG)単結晶も検討されているが(例えば特許文献1を参照)、原料のSc
2O
3が高価であり、コスト高になるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Tb
3Al
5O
12(テルビウム・アルミニウム・ガーネット:TAG)単結晶は、TGGよりも大きなベルデ定数を有し、Sc
2O
3等の高価な原料も用いないが、分解溶融型化合物であり、チョクラルスキー法等の単結晶育成方法では製造できないため、実用的な結晶育成に成功した報告はない。
【0009】
また、TAGは、TGGやTSAGに比べて、熱伝導率が高く、熱レンズ効果が小さいというファラデー回転子としての利点も有する。
【0010】
ところで、ファラデー回転子にはベルデ定数や光透過率等の諸特性に優れていることが求められるが、特に高出力の光に対応するファラデー回転子には光透過率が高いことが要求される。これは、高出力の光の場合、光透過率が低いと、ファラデー回転子内で吸収された光エネルギーが熱エネルギーに変化して発熱し、その結果、ファラデー回転角度が変化してアイソレーションの劣化につながる他、散乱光がファラデー回転子の保持材や磁石等の周辺部品にあたることによるアイソレーションの劣化、周辺部品の発熱などの問題が特に懸念されるためである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、実用的なTAG系単結晶の製造方法を提供することと、高い光透過率と高いベルデ定数を有するファラデー回転子及びそれを用いた光アイソレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決すべく、本発明のガーネット型結晶の製造方法は、Y
3Al
5O
12結晶又はDy
3Al
5O
12結晶から成る基板に、原料溶液を接触させて液相エピタキシャル成長させる。ただし、ガーネット型結晶は、(Tb
3−x−yR
xBi
y)Al
5O
12(Rは、Y,ランタノイド(La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)から選ばれた1種以上の元素であり、0≦x、0≦yである)で表される。
【0013】
本発明では、原料溶液は、Tb
4O
7を1.0〜5.0mol%、Al
2O
3を30.0〜40.0mol%の比率で溶解させたものとするとよい。
【0014】
本発明では、原料溶液中に、Tb元素に対して3.0〜20.0倍のAl元素が存在するとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、(Tb
3−x−yR
xBi
y)Al
5O
12(Rは、Y,ランタノイド(La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)から選ばれた1種以上の元素であり、0≦x、0≦yである)で表されるガーネット型結晶を容易に製造することができる。
【0016】
また、高い光透過率と高いベルデ定数を有するファラデー回転子が得られ、高出力の光に対応した光アイソレータを作製することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のファラデー回転子は、(Tb
3−x−yR
xBi
y)Al
5O
12(Rは、Y,Er,Yb,Luから選ばれた1種以上の元素であり、0<x、0≦yである)で表されるガーネット型結晶から成ることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のファラデー回転子は、(Tb
3−x−yR
xBi
y)Al
5O
12(Rは、Y,ランタノイド(La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)から選ばれた1種以上の元素であり、0≦x、0<yである)で表されるガーネット型結晶から成ることを特徴とする。
【0020】
Tb
3Al
5O
12のTbの一部を、Er,Yb,Lu,Yから選ばれた1種以上の元素で置換することにより、光透過率を向上させることができる。
【0021】
また、Tb
3Al
5O
12のTbの一部を、Biで置換することにより、ベルデ定数を向上させることができる。
【0022】
このとき、xは2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.0以下であることがさらに好ましい。xを増加させると、光透過率は向上する一方で、ベルデ定数は低下する。xを1.5以上にすると、ベルデ定数がx=0の場合の1/2程度まで低下してしまう。また、xを1.0以上にすると、ベルデ定数の低下に対して光透過率の向上がごくわずかになる。
【0023】
また、Tb
3Al
5O
12のTbの一部を、Er,Yb,Lu,Yから選ばれた1種以上の元素で置換し、さらにTb
3Al
5O
12のTbの一部を、Biで置換することが好ましい(0<x、0<y)。このようにすれば、ベルデ定数をあまり低下させずに、光透過率を向上させることが可能となる。
【0024】
このとき、yは1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.3未満であることがさらに好ましい。yが0.3以上のとき、Rの種類や置換量によっては光透過率がx=0の場合よりも低くなってしまうこともあり得るが、yが0.3未満であれば、Rの種類や置換量によらず、x=0の場合よりも光透過率を高くすることができる。
【0025】
このような構成によって、(Tb
3−x−yR
xBi
y)Al
5O
12(Rは、Y,Er,Yb,Luから選ばれた1種以上の元素であり、0<x、0<yである)で表されるガーネット型結晶の光透過率を、同様の方法で作製されたTb
3Al
5O
12で表されるガーネット型結晶の光透過率よりも大きくすることが好ましい。
【0026】
また、ガーネット型結晶のベルデ定数はできるだけ大きい方が望ましく、同様の方法で作製されたTb
3Al
5O
12で表されるガーネット型結晶のベルデ定数の少なくとも60%以上の値であることが好ましい。より好ましくは70%以上の値であり、さらに好ましくは80%以上の値である。
【0027】
ここで、光透過率は、ファラデー回転子として使用する際に適用される光の透過率である。上述のように、TAGは希土類元素ドープファイバレーザへの適用が想定されており、その波長域(450nm〜2150nm)の光に対する透過率であることが好ましく、一般的なYbドープファイバレーザのその波長域(1030nm〜1100nm)の光に対する透過率であることがより好ましい。
【0028】
ベルデ定数も同様に、ファラデー回転子として使用する際に適用される光に対するベルデ定数であり、希土類元素ドープファイバレーザの波長域(450nm〜2150nm)の光に対するベルデ定数であることが好ましく、一般的なYbドープファイバレーザのその波長域(1030nm〜1100nm)の光に対するベルデ定数であることがより好ましい。
【0029】
本発明のファラデー回転子は、上記ガーネット型結晶を所望の形状に加工することによって得られる。その際の形状について特に制限はなく、円柱形状、角柱形状、直方体形状、平板形状等、にすることができる。
【0030】
このファラデー回転子を用いれば、高出力の光に対応した光アイソレータを構成することができる。
【0031】
光アイソレータは、例えば
図1の示すような構造とすることができる。
【0032】
図1では、筐体101の内部において、偏光子(ポラライザ)104と検光子(アナライザ)105が、ファラデー回転子102の両端に配置されている。このとき、偏光子104の偏光振動面と検光子105の偏光振動面は、相対角度が45°になるようにする。また、ファラデー回転子102の周囲には、ファラデー回転子102に磁界を印加するための磁石103が配置されている。
【0033】
順方向に入射した光は偏光子104で偏光になり、ファラデー回転子102に入射する。続いて、ファラデー回転子102で光の偏光面が45°回転して、検光子105に入射する。偏光子104の偏光振動面と検光子105の偏光振動面は、相対角度が45°になっているため、光はそのまま出射される。
【0034】
一方、逆方向から入射した光は、検光子105を透過できる偏光がファラデー回転子102に入射する。ファラデー回転子102で光の偏光面は、進行方向に対して順方向のときと逆方向に45°回転する。ここで、偏光子104に達した光の偏光面は、偏光子104の偏光振動面に対して90°の角度になるため、逆方向から入射した光は、光アイソレータを通過することができない。
【0035】
なお、本発明の光アイソレータは、用いるファラデー回転子以外は特に制限されず、光アイソレータとしての機能を発揮する限り、その構造や部品、材料を任意で選択することができる。
【0036】
(Tb
3−x−yR
xBi
y)Al
5O
12(Rは、Y,ランタノイド(La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)から選ばれた1種以上の元素であり、0≦x、0≦yである)で表されるガーネット型結晶は、Y
3Al
5O
12(YAG)結晶又はDy
3Al
5O
12(DAG)結晶から成る基板に、原料溶液を接触させて液相エピタキシャル成長させることで製造することができる。
【0037】
液相エピタキシャル成長(LPE)は、原料溶液を基板に接触させ、溶液の温度を徐々に下げ、過飽和状態にすることによって、結晶を基板上に析出、成長させる方法であり、大面積かつ高品質な単結晶膜を育成するのに有利な方法である。液相エピタキシャル成長には、傾斜法、ディップ法、スライドボート法等の方法があり、具体的な方法は特に限定されないが、ディップ法が数百μm以上の厚い膜を育成しやすいため好ましい。
【0038】
本発明は膜厚が数百μm以上、好ましくは300μm以上、より好ましくは500μm以上、さらに好ましくは800μm以上の結晶の育成に適する。
【0039】
この製造方法の具体例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
まず原料を、所望の比率でルツボに入れて加熱して溶解させる。このとき、原料として、Tb
4O
7、R
2O
3(Rは、Y,ランタノイド(La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)から選ばれた1種以上の元素)、Al
2O
3、Bi
2O
3等を用いることができる。
【0041】
また、フラックス(融剤)として、BaCo
3、B
2O
3、Bi
2O
3等を用いることができる。フラックスとしてBi
2O
3を用いた場合、結果的に育成結晶にBiが取り込まれることになる。Bi
2O
3を用いる際は、他のフラックスと併せて用いることによって、育成結晶のBi含有量を調整することができる。また、B
2O
3を用いると、フラックスの粘性が増大し、雑晶が発生し難くなるため好ましい。
【0042】
原料溶液は、Tb
4O
7を1.0〜5.0mol%、Al
2O
3を30.0〜40.0mol%の比率で溶解させたものであることが好ましく、原料溶液中に、Tb元素に対して3.0〜20.0倍のAl元素が存在することが好ましい。このようにすることによって、LPE法により(Tb
3−x−yR
xBi
y)Al
5O
12で表されるガーネット型結晶を成長させることが可能となる。
【0043】
好ましくは、Tb
4O
7を1.5〜4.6mol%、Al
2O
3を34.0〜38.0mol%用いて、原料溶液中に、Tb元素に対して3.6〜12.7倍のAl元素が存在することである。
【0044】
原料溶液には、さらに、3.0mol%以下のR
2O
3と、70.0mol%以下のBi
2O
3を用いることが好ましく、原料溶液中に、Tb元素に対して1.5倍以下のR元素と、35.0倍以下のBi元素が存在することが好ましい。
【0045】
好ましくは、R
2O
3を0.05〜2.5mol%、Bi
2O
3を20.0〜60.0mol%用いて、原料溶液中に、Tb元素に対して0.005〜0.84倍のR元素と、2.1〜20.0倍のBi元素が存在することである。
【0046】
この原料溶液を、YAG結晶又はDAG結晶から成る基板に接触させて、溶液温度を降温させながら、結晶をエピタキシャル成長させる。YAG結晶(格子定数:12.000Å)よりもDAG結晶(格子定数:12.038Å)の方が、格子定数がTAG結晶(格子定数:12.074Å)に近いために格子整合しやすく、特に結晶の厚みを比較的厚く育成しようとする際に、光透過率の高い良質な結晶を育成することができる。また、基板としてDAG結晶を用いた方が、育成結晶のTb含有量が高くなる傾向がある。
【0047】
基板上にエピタキシャル成長させた結晶は、基板を除去して、所望の加工を施すことによって、ファラデー回転子等として用いることができる。
【実施例】
【0048】
<実施例1>
白金ルツボの中に、Tb
4O
7:3.9mol%、Lu
2O
3:0.1mol%、Al
2O
3:37.0mol%、BaCo
3:38.0mol%、B
2O
3:21.0mol%の比率で、原料及びフラックスを入れて、1300℃で溶融させ、攪拌した。その後、1040℃まで降温して、直径3インチ、厚み1.0mmのY
3Al
5O
12(YAG)結晶から成る基板を原料溶液の液面に浸漬させて、1040℃から1020℃に降温させながら結晶をエピタキシャル成長させた。
【0049】
YAG基板上に、厚み1.2mmの結晶が得られた。この結晶について、ICP−AES(ICP発行分光分析法)を用いて組成分析を行ったところ、育成結晶の組成はTb
2.8Lu
0.2Al
5O
12であった。
【0050】
YAG基板を研削除去した後、両面に研磨加工を施して厚み1.1mmのTb
2.8Lu
0.2Al
5O
12結晶を得た。この結晶を、20mm×20mm×1.1mmの板状に切断加工して、2枚の結晶の研磨面同士を無機接合により貼り合わせた。無機接合は、常温の真空チャンバー内で、光学研磨(λ/8以上の平坦度、λ=633nm)を施した結晶の表面を、アルゴン原子ビームで活性化して、結晶同士を加圧することで行うことができる。
【0051】
これにより得られた20mm×20mm×2.2mmの結晶に、さらに加工を施して、2.2mm×2.2mm×20mmの結晶とした後、直径(φ)2.0mm×長さ(L)18mmのファラデー回転子とした。
【0052】
このファラデー回転子について、波長1064nm、出力1Wのレーザ光を用いて測定したベルデ定数は15min/Oe・m、直線光透過率(両端面反射防止膜なし)は78%であった。
【0053】
両端面に対空気の反射防止膜をコーティングしたファラデー回転子(光透過率:94%)を、円筒状のNd−Fe−B永久磁石に挿入し、両端に偏光子を配置することにより、ファラデー回転子を構成した。波長1064nm、出力1Wのレーザ光を用いた場合、このファラデー回転子の挿入損は0.6dB、アイソレーショは28dBであった。
【0054】
<実施例2〜37,参考例1〜9>
実施例1と同様に液相エピタキシャル成長によって結晶を育成し、そのベルデ定数と光透過率を測定した。結晶育成の諸条件、及び、ベルデ定数と光透過率の測定結果を表1〜5に示す。
【0055】
また、作製した結晶の一部については、実施例1と同様に光アイソレータを構成して、挿入損失とアイソレーションを評価した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1及び表2の結果から、Tb
3Al
5O
12のTbの一部を、Er,Yb,Lu,Yから選ばれた1種以上の元素で置換することにより、光透過率が向上していることがわかる。また、光アイソレータとしたときの挿入損失も向上しており、アイソレーションが向上する場合もある。
【0059】
【表3】
【0060】
表3の結果から、Tb
3Al
5O
12のTbの一部を、Biで置換することにより、ベルデ定数が向上していることがわかる。
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
表4及び表5の結果から、Tb
3Al
5O
12のTbの一部を、Er,Yb,Lu,Yから選ばれた1種以上の元素とBiで置換することにより、光透過率とベルデ定数が比較的高く、光アイソレータとしたときに、挿入損失とアイソレーションが優れていることがわかる。特に基板としてDAGを用いることが好ましいことがわかる。
【0064】
なお、上記に本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、前述の実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。