(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一般式:Ni x Mn y Co z M t (OH) 2+α (x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦α≦0.5、Mは添加元素であり、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体となるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法であって、
少なくともニッケルを含有する金属化合物およびマンガンを含有する金属化合物とアンモニウムイオン供給体とを含む核生成用水溶液を、液温25℃基準でpH値が12.0〜14.0となるように制御して、酸素濃度が1容量%を超える酸化性雰囲気中で核生成を行う核生成工程と、
該核生成工程において形成された核を含有する粒子成長用水溶液に、少なくともニッケルを含有する金属化合物およびマンガンを含有する金属化合物とアンモニウムイオン供給体を供給し、液温25℃基準におけるpH値が10.5〜12.0、かつ、核生成工程におけるpH値よりも低いpH値となるように制御して種粒子生成を行う種粒子生成工程と、
該種粒子生成工程において形成された種粒子を含有する粒子成長用スラリーに、少なくともニッケルを含有する金属化合物およびマンガンを含有する金属化合物とアンモニウムイオン供給体を供給するとともに、前記酸化性雰囲気から酸素濃度1容量%以下の非酸化性雰囲気に切り替え、前記種粒子を成長させる粒子成長工程とを備え、
前記スラリーの固形分密度(g/L)を該スラリーの遠沈沈降体積(cm 3 /L)で除することによって得られる前記種粒子の遠心沈降密度を0.39g/cm 3 以下に制御することを特徴とするニッケルマンガン複合水酸化物の製造方法。
前記種粒子生成工程の時間は、種粒子生成工程と粒子成長工程の合計の時間の40%以下であることを特徴とする請求項1に記載のニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法、および非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法に関するものである。非水系電解質二次電池(以下、「二次電池」、あるいは「電池」ということがある。)の性能を向上させるためには、正極に採用される非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」ということがある。)の影響が大きい。優れた出力特性が得られる二次電池を得るためには、高い吸油量を有する正極活物質が必要である。以下、本発明のそれぞれについて詳細に説明するが、最初に、本発明の最大の特徴である、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法について説明する。
【0025】
(1)ニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法
本発明のニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法は、一般式:Ni
xMn
yCo
zM
t(OH)
2+α(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦α≦0.5、Mは添加元素であり、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体となるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法であって、
少なくともニッケルを含有する金属化合物およびマンガンを含有する金属化合物とアンモニウムイオン供給体とを含む核生成用水溶液を、液温25℃基準でpH値が12.0〜14.0となるように制御して、酸素濃度が1容量%を超える酸化性雰囲気中で核生成を行う核生成工程と、
該核生成工程において形成された核を含有する粒子成長用水溶液に、少なくともニッケルを含有する金属化合物およびマンガンを含有する金属化合物とアンモニウムイオン供給体を供給し、液温25℃基準におけるpH値が10.5〜12.0、かつ、核生成工程におけるpH値よりも低いpH値となるように制御して種粒子生成を行う種粒子生成工程と、
該種粒子生成工程において形成された種粒子を含有する粒子成長用スラリーに、少なくともニッケルを含有する金属化合物およびマンガンを含有する金属化合物とアンモニウムイオン供給体を供給するとともに、前記酸化性雰囲気から酸素濃度1容量%以下の非酸化性雰囲気に切り替え、前記種粒子を成長させる粒子成長工程とを備え、
前記スラリーの固形分密度(g/L)を該スラリーの遠沈沈降体積(cm
3/L)で除することによって得られる前記種粒子の遠心沈降密度を0.39g/cm
3以下に制御することを特徴とするものである。
【0026】
本発明では、前記種粒子の遠心沈降密度を0.39g/cm
3以下に制御することが重要である。上記製造方法によって得られるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」ということがある。)は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなり、二次粒子の中心部に存在する微細で粗な一次粒子の集合体(以下、「中心部」ということがある。)と、それを包み込む外周の緻密な一次粒子の集合体(以下、「外殻部」ということがある。)を備える。この複合水酸化物は、正極活物質の製造過程の焼結工程において、外殻部よりも中心部においてより低温から進行し、中心部の一次粒子が二次粒子の中心から焼結の進行が遅い外殻部側へ収縮する。また、中心部は低密度であるため、その収縮率も大きくなり、中心部は十分な大きさを有する空間となり、正極活物質の内部において中空部を形成する。
【0027】
すなわち、上記種粒子生成工程にて生成される種粒子は、前記中心部をなすものであり、種粒子の遠心沈降密度を0.39g/cm
3以下に制御することにより、中心部は、十分に微細な一次粒子が連なった隙間がより多い構造となり、前記焼結工程において大きな収縮量を示し、得られる正極活物質は十分な大きさの中空部を有することになる。また、中心部は微細な一次粒子が多くなるため、外殻部の一次粒子の大きさも小さくなり、正極活物質の外郭部が薄くなる。これにより、正極活物質の吸油量は大きなものとなり、電池に用いられた際に優れた出力特性を示す。
【0028】
本発明の明細書において「吸油量」は、JIS K6217−4:2008に準拠して測定されるDBP吸収量を意味する。
【0029】
前記遠心沈降密度は、前記種粒子生成工程において形成された種粒子を含有する粒子成長用スラリーの固形分密度(g/L)を該スラリーの遠沈沈降体積(cm
3/L)で除することによって得られるものである。前記固形分密度は、粒子成長用スラリーを固液分離して固形分の質量を測定する、あるいは、種粒子生成工程終了までに供給した金属塩の総量から水酸化物の量を算出する、などの方法により求めた該スラリー中の固形分の質量を、該スラリーの体積で除することで求めることができる。また、遠沈沈降体積は、スラリー中の固形分を遠心機により沈降させて固形分の体積を求め、遠心機で沈降させたスラリーの体積で除することで求めることができる。
【0030】
遠心沈降密度が0.39g/cm
3を超えると、複合水酸化物の中心部を形成する一次粒子が十分に微細でなく、また、隙間も減少していることを示し、正極活物質において十分な大きさの中空部が得られない。
【0031】
遠心沈降密度は、核生成工程および種粒子生成工程の晶析条件、特にpH値、アンモニア濃度、スラリー濃度によって制御できる。具体的には、各工程の範囲内でpH値を高くする、アンモニア濃度を低下させる、スラリー濃度を下げることにより遠心沈降密度を0.39g/cm
3以下に制御することが可能である。ここで、スラリー密度は、前記固形分密度と同等である。以下、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法について説明する。
【0032】
本発明の複合水酸化物粒子の製造方法は、晶析反応によってニッケルマンガン複合水酸化物粒子を製造する方法であって、a)核生成を行う核生成工程と、b)種粒子を生成させる種粒子生成工程と、c)種粒子生成工程において生成された種粒子を成長させる粒子成長工程とから構成されている。
【0033】
すなわち、従来の連続晶析法では、核生成反応と粒子成長反応とが同じ槽内において同時に進行するため、得られる複合水酸化物粒子の粒度分布が広範囲となってしまう。これに対して、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、主として核生成反応が生じる時間(核生成工程)と、主として粒子成長反応が生じる時間(粒子成長工程)とを明確に分離することにより、得られる複合水酸化物粒子において狭い粒度分布を達成している点に特徴がある。さらに、晶析反応時の雰囲気を制御することにより、得られる複合水酸化物粒子の粒子構造を、微粒一次粒子からなる中心部と、中心部より大きな一次粒子からなる外殻部で構成されたものとする点に特徴がある。
【0034】
最初に、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法の概略を、
図1に基づいて説明する。なお、
図1および
図2では、(A)が核生成工程に相当し、(B)が種粒子生成工程に相当し、(C)が粒子成長工程に相当する。
【0035】
(核生成工程)
図1に示すように、まず、ニッケルおよびマンガンを含有する複数の金属化合物を所定の割合で水に溶解させ、混合水溶液を作製する。本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、得られる複合水酸化物粒子における上記各金属の組成比は、混合水溶液における各金属の組成比と同様となる。
【0036】
よって、混合水溶液中における各金属の組成比が、本発明の複合水酸化物粒子中における各金属の組成比と同じ組成比となるように、水に溶解させる金属化合物の割合を調節して、混合水溶液を作製する。
【0037】
一方、反応槽には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液、アンモニウムイオン供給体を含むアンモニア水溶液、および水を供給して混合して水溶液を形成する。この水溶液(以下、「反応水溶液」という)について、そのpH値を、アルカリ水溶液の供給量を調整することにより、液温25℃基準で12.0〜14.0、好ましくは12.3〜13.5、より好ましくは12.5〜13.0の範囲となるように調節する。また、反応前水溶液中のアンモニウムイオンの濃度を、アンモニア水溶液の供給量を調整することにより、3〜25g/L、好ましくは5〜20g/Lとなるように調節する。なお、反応水溶液の温度についても、好ましくは20℃以上、より好ましくは20〜60℃となるように調節する。この際、反応槽内の雰囲気は、酸化性雰囲気に調整する。反応槽内の水溶液のpH値、アンモニウムイオンの濃度については、それぞれ一般的なpH計、イオンメータによって測定可能である。
【0038】
反応槽内において反応水溶液の温度およびpHが調整されると、反応水溶液を攪拌しながら混合水溶液を反応槽内に供給する。これにより、反応槽内には、混合水溶液とが混合した反応水溶液、すなわち、核生成工程における反応水溶液である核生成用水溶液が形成され、核生成用水溶液中において複合水酸化物の微細な核が生成されることになる。このとき、核生成用水溶液のpH値は上記範囲にあるので、生成した核はほとんど成長することなく、核の生成が優先的に生じる。
【0039】
なお、混合水溶液の供給による核生成に伴って、核生成用水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度が変化するので、核生成用水溶液には、混合水溶液とともに、アルカリ水溶液、アンモニア水溶液を供給して、核生成用水溶液のpH値が液温25℃基準で12.0〜14.0の範囲、アンモニウムイオンの濃度が3〜25g/Lの範囲をそれぞれ維持するように制御する。
【0040】
上記核生成用水溶液に対する混合水溶液、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液の供給により、核生成用水溶液中には、連続して新しい核の生成が継続される。そして、核生成用水溶液中に、所定の量の核が生成されると、核生成工程を終了する。所定量の核が生成したか否かは、核生成用水溶液に添加した金属塩の量によって判断する。
【0041】
(種粒子生成工程)
核生成工程の終了後、酸化性雰囲気を維持しながら前記核生成用水溶液のpH値を、液温25℃基準で、10.5〜12.0、好ましくは11.0〜12.0となるように調整して、粒子成長工程における反応水溶液である粒子成長用水溶液を得る。具体的には、この調整時のpHの制御は、アルカリ水溶液の供給量を調節することにより行う。
【0042】
粒子成長用水溶液のpH値を上記範囲とすることにより、核の生成反応よりも核の成長反応の方が優先して生じるから、種粒子生成工程において、粒子成長用水溶液には、新たな核はほとんど生成することなく、核が成長して、種粒子が形成される。
【0043】
同様に、混合水溶液の供給による種粒子形成に伴って、粒子成長用水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度が変化するので、粒子成長用水溶液にも、混合水溶液とともに、アルカリ水溶液、アンモニア水溶液を供給して、粒子成長用水溶液のpH値が液温25℃基準で10.5〜12.0の範囲、アンモニウムイオンの濃度が3〜25g/L、の範囲を維持するように制御する。その後、種粒子が所定の粒径まで成長した時点で、種粒子生成工程を終了する。
【0044】
(粒子成長工程)
種粒子生成工程の終了後、粒子成長用水溶液のpH値を、液温25℃基準で、10.5〜12.0、好ましくは11.0〜12.0となるように維持しながら、反応槽内の雰囲気を酸化性雰囲気からから切り替えて弱酸化性から非酸化性の範囲の雰囲気とする。雰囲気を切り替えることにより、種粒子、すなわち微細一次粒子により形成された複合水酸化物粒子の中心部の外側に該微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外殻部を有する上記粒子構造を形成することができる。
【0045】
粒子成長工程においても、粒子成長用水溶液には、新たな核はほとんど生成することなく、種粒子が成長(粒子成長)して、所定の粒子径を有する複合水酸化物粒子が形成される。同様に、混合水溶液の供給による粒子成長に伴って、粒子成長用水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度が変化するので、粒子成長用水溶液にも、混合水溶液とともに、アルカリ水溶液、アンモニア水溶液を供給して、粒子成長用水溶液のpH値が液温25℃基準で10.5〜12.0の範囲、アンモニウムイオンの濃度が3〜25g/L、の範囲を維持するように制御する。
【0046】
その後、上記複合水酸化物粒子が所定の粒径まで成長した時点で、粒子成長工程を終了する。複合水酸化物粒子の粒径は、予備試験により核生成工程と種粒子生成工程、および粒子成長工程の各工程におけるそれぞれの反応水溶液への金属塩の添加量と得られる粒子の関係を求めておけば、各工程での金属塩の添加量から容易に判断できる。
【0047】
以上のように、上記複合水酸化物粒子の製造方法の場合、核生成工程では核生成が優先して起こり、核の成長はほとんど生じず、逆に、種粒子生成工程および粒子成長工程では粒子成長のみが生じ、ほとんど新しい核は生成されない。このため、核生成工程では、粒度分布の範囲が狭く均質な核を形成させることができ、また、粒子成長工程では、均質に核を成長させることができる。したがって、上記複合水酸化物粒子の製造方法では、粒度分布の範囲が狭く、均質なニッケルマンガン複合水酸化物粒子を得ることができる。さらに、上述のように雰囲気を切り替えることにより、微細な一次粒子から形成された中心部と、該微細な一次粒子より大きな一次粒子から形成された外郭部とからなる粒子構造とすることができる。
【0048】
なお、上記製造方法の場合、両工程において、金属イオンは、複合水酸化物となって晶出するので、それぞれの反応水溶液中の金属成分に対する液体成分の割合が増加する。この場合、見かけ上、供給する混合水溶液の濃度が低下したようになり、特に粒子成長工程において、複合水酸化物粒子が十分に成長しない可能性がある。
【0049】
したがって、上記液体成分の増加を抑制するため、核生成工程終了後から粒子成長工程の途中で、粒子成長用水溶液中の液体成分の一部を反応槽外に排出することが好ましい。具体的には、粒子成長用水溶液に対する混合水溶液、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液の供給および攪拌を停止して、核や複合水酸化物粒子を沈降させて、粒子成長用水溶液の上澄み液を排出する。これにより、粒子成長用水溶液における混合水溶液の相対的な濃度を高めることができる。そして、混合水溶液の相対的な濃度が高い状態で、複合水酸化物粒子を成長させることができるので、複合水酸化物粒子の粒度分布をより狭めることができ、複合水酸化物粒子の二次粒子全体としての密度も高めることができる。
【0050】
また、
図1に示す実施形態では、核生成工程が終了した核生成用水溶液のpHを調整して粒子成長用水溶液を形成して、核生成工程から引き続いて粒子成長工程を行っているので、粒子成長工程への移行を迅速に行うことができるという利点がある。さらに、核生成工程から粒子成長工程への移行は、反応水溶液のpHを調整するだけで移行でき、pHの調整も一時的にアルカリ水溶液の供給を停止することで容易に行うことができるという利点がある。なお、反応水溶液のpHは、金属化合物を構成する酸と同種の無機酸、たとえば、硫酸塩の場合、硫酸を反応水溶液に添加することでも調整することができる。
【0051】
しかしながら、核生成用水溶液とは別に、粒子成長工程に適したpH、アンモニウムイオン濃度に調整された成分調整水溶液を形成しておき、この成分調整水溶液に、別の反応槽で核生成工程を行って生成した核を含有する水溶液(核生成用水溶液、好ましくは核生成用水溶液から液体成分の一部を除去したもの)を添加して反応水溶液とし、この反応水溶液を粒子成長用水溶液として粒子成長工程を行ってもよい。また、種粒子生成工程までを別の反応槽で行うことも可能である。
【0052】
粒子成長工程を別の反応槽で行った場合、核生成工程と粒子成長工程の分離を、より確実に行うことができるので、各工程における反応水溶液の状態を、各工程に最適な条件とすることができる。特に、粒子成長工程の開始時点から、粒子成長用水溶液のpHを最適な条件とすることができる。粒子成長工程で形成されるニッケルマンガン複合水酸化物粒子を、より粒度分布の範囲が狭く、かつ、均質なものとすることができる。次に、各工程における反応雰囲気の制御、各工程において使用する物質や溶液、反応条件について、詳細に説明する。
【0053】
(反応雰囲気)
本発明のニッケルマンガン複合水酸化物粒子が有する粒子構造は、核生成工程と種粒子生成工程、および粒子成長工程における反応槽内の雰囲気制御により形成される。したがって、上記製造方法の各工程における上記雰囲気制御が、重要な意義を有する。晶析反応中の反応槽内が酸化性雰囲気では、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を形成する一次粒子の成長が制御され、微細な一次粒子により形成され空隙が多い低密度の粒子が形成され、弱酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気では、一次粒子が大きく緻密で高密度の粒子が形成される。
【0054】
すなわち、核生成工程と種粒子生成工程を酸化性雰囲気とすることで、微細一次粒子からなる中心部が形成され、その後の粒子成長工程において酸化性雰囲気から切り替えて弱酸化性から非酸化性の範囲の雰囲気とすることで、該中心部の外側に該微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外殻部を有する上記粒子構造を形成することができる。
【0055】
上記雰囲気制御された晶析反応においては、通常、上記中心部の一次粒子は微細な板状および/または針状となり、外殻部の一次粒子は板状となる。しかしながら、上記ニッケルマンガン複合水酸化物の一次粒子は、その組成により、直方体、楕円、稜面体などの形状となることもある。
【0056】
本発明における上記中心部を形成するための酸化性雰囲気は、反応槽内空間の酸素濃度が1容量%を超える雰囲気と定義される。酸素濃度が2容量%を超える酸化性雰囲気が好ましく、酸素濃度が10容量%を超える酸化性雰囲気がさらに好ましく、制御が容易な大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)とすることが特に好ましい。酸素濃度が1容量%を超える雰囲気とすることで、一次粒子の平均粒径を0.01〜0.3μmとすることができる。酸素濃度が1容量%以下では、中心部の一次粒子の平均粒径が0.3μmを超えることがある。酸素濃度の上限は、特に限定されるものではないが、30容量%を超えると、上記一次粒子の平均粒径が0.01μm未満となる場合があり、好ましくない。
【0057】
一方、本発明における上記外殻部を形成するための弱酸化性から非酸化性の範囲の雰囲気は、反応槽内空間の酸素濃度が1容量%以下である雰囲気と定義される。好ましくは酸素濃度が0.5容量%以下、より好ましくは0.2容量%以下となるように、酸素と不活性ガスの混合雰囲気に制御する。反応槽内空間の酸素濃度を1容量%以下にして粒子成長させることで、粒子の不要な酸化を抑制し、一次粒子の成長を促して、平均粒径0.3〜3μmの中心部より大きい一次粒子径で粒度が揃った、緻密で高密度の外殻部を有する二次粒子を得ることができる。このような雰囲気に反応槽内空間を保つための手段としては、窒素などの不活性ガスを反応槽内空間部へ流通させること、さらには反応液中に不活性ガスをバブリングさせることがあげられる。
【0058】
上記粒子成長工程における雰囲気の切り替えは、最終的に得られる正極活物質において、微粒子が発生してサイクル特性が悪化しない程度の中空部が得られるように、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子の中心部の大きさを考慮して、そのタイミングが決定される。たとえば、粒子成長工程時間の全体に対して、粒子成長工程の開始時から0〜40%、好ましくは0〜30%、さら好ましくは0〜25%の時間の範囲で行う。粒子成長工程時間の全体に対して30%を超える時点で上記切り替えを行うと、形成される中心部が大きくなり、上記二次粒子の粒径に対する外殻部の厚さが薄くなり過ぎることがある。一方、粒子成長工程の開始前、すなわち、核生成工程中に上記切り替えを行うと、中心部が小さくなりすぎるか、上記構造を有する二次粒子が形成されない。
【0059】
(pH制御)
上述のように、核生成工程においては、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で12.0〜14.0、好ましくは12.3〜13.5の範囲となるように制御する必要がある。pH値が14.0を超える場合、生成する核が微細になり過ぎ、反応水溶液がゲル化する問題がある。また、pH値が12.0未満では、核形成とともに核の成長反応が生じるので、形成される核の粒度分布の範囲が広くなり不均質なものとなってしまう。すなわち、核生成工程において、上述の範囲に反応水溶液のpH値を制御することで、核の成長を抑制してほぼ核生成のみを起こすことができ、形成される核も均質かつ粒度分布の範囲が狭いものとすることができる。
【0060】
一方、種粒子生成工程と粒子成長工程においては、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で10.5〜12.0、好ましくは11.0〜12.0の範囲となるように制御する必要がある。pH値が12.0を超える場合、あらたに生成される核が多くなり、微細2次粒子が生成するため、粒径分布が良好な水酸化物粒子が得られない。また、pH値が10.5未満では、アンモニアイオンによる溶解度が高く、析出せずに液中に残る金属イオンが増えるため、生産効率が悪化する。すなわち、粒子成長工程において、上述の範囲に反応水溶液のpHを制御することで、核生成工程で生成した核の成長のみを優先的に起こさせ、新たな核形成を抑制することができ、得られるニッケルマンガン複合水酸化物粒子を均質かつ粒度分布の範囲が狭いものとすることができる。
【0061】
核生成工程と種粒子生成工程、および粒子成長工程のいずれにおいても、pHの変動幅は、設定値の上下0.2以内とすることが好ましい。pHの変動幅が大きい場合、核生成と粒子成長が一定とならず、粒度分布の範囲の狭い均一なマンガン複合水酸化物粒子が得られない場合がある。
【0062】
なお、pH値が12の場合は、核生成と核成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、核生成工程もしくは種粒子生成工程のいずれかの条件とすることができる。
【0063】
すなわち、核生成工程のpH値を12より高くして多量に核生成させた後、種粒子生成工程でpH値を12とすると、反応水溶液中に多量の核が存在するため、核の成長が優先して起こり、粒径分布が狭く比較的大きな粒径の前記水酸化物粒子が得られる。
【0064】
一方、反応水溶液中に核が存在しない状態、すなわち、核生成工程においてpH値を12とした場合、成長する核が存在しないため、核生成が優先して起こり、粒子成長工程のpH値を12より小さくすることで、生成した核が成長して良好な前記水酸化物粒子が得られる。
【0065】
いずれの場合においても、種粒子生成工程および粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より低い値で制御すればよく、核生成と粒子成長を明確に分離するためには、種粒子生成工程と粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より0.5以上低くすることが好ましく、1.0以上低くすることがより好ましい。
【0066】
(核生成量)
核生成工程において生成する核の量は、特に限定されるものではないが、粒度分布の良好な複合水酸化物粒子を得るためには、全体量、つまり、複合水酸化物粒子を得るために供給する全金属塩の0.1%から2%とすることが好ましく、1.5%以下とすることがより好ましい。
【0067】
(複合水酸化物粒子の粒径制御)
上記複合水酸化物粒子の粒径は、種粒子生成工程および粒子成長工程の合計の時間により制御できるので、所望の粒径に成長するまで粒子成長工程を継続すれば、所望の粒径を有する複合水酸化物粒子を得ることができる。
【0068】
また、複合水酸化物粒子の粒径は、種粒子生成工程および粒子成長工程のみならず、核生成工程のpH値と核生成のために投入した原料量でも制御することができる。
【0069】
すなわち、核生成時のpHを高pH値側とすることにより、あるいは核生成時間を長くすることにより投入する原料量を増やし、生成する核の数を多くする。これにより、粒子成長工程を同条件とした場合でも、複合水酸化物粒子の粒径を小さくできる。
【0070】
一方、核生成数が少なくするように制御すれば、得られる前記複合水酸化物粒子の粒径を大きくすることができる。
【0071】
以下、金属化合物、反応水溶液中アンモニア濃度、反応温度などの条件を説明するが、核生成工程と粒子成長工程との相違点は、反応水溶液のpHおよび反応槽内の雰囲気を制御する範囲のみであり、金属化合物、反応液中アンモニア濃度、反応温度などの条件は、両工程において実質的に同様である。
【0072】
(金属化合物)
金属化合物としては、目的とする金属を含有する化合物を用いる。使用する化合物は、水溶性の化合物を用いることが好ましく、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などがあげられる。たとえば、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトが好ましく用いられる。
【0073】
(添加元素)
添加元素(Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)は、水溶性の化合物を用いることが好ましく、たとえば、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを用いることができる。
【0074】
かかる添加元素を複合水酸化物粒子の内部に均一に分散させる場合には、混合水溶液に、添加元素を含有する添加物を添加すればよく、複合水酸化物粒子の内部に添加元素を均一に分散させた状態で共沈させることできる。
【0075】
また、上記複合水酸化物粒子の表面を添加元素で被覆する場合には、たとえば、添加元素を含んだ水溶液で該複合水酸化物粒子をスラリー化し、所定のpHとなるように制御しつつ、前記1種以上の添加元素を含む水溶液を添加して、晶析反応により添加元素を複合水酸化物粒子表面に析出させれば、その表面を添加元素で均一に被覆することができる。この場合、添加元素を含んだ水溶液に替えて、添加元素のアルコキシド溶液を用いてもよい。さらに、上記複合水酸化物粒子に対して、添加元素を含んだ水溶液あるいはスラリーを吹き付けて乾燥させることによっても、複合水酸化物粒子の表面を添加元素で被覆することができる。また、複合水酸化物粒子と前記1種以上の添加元素を含む塩が懸濁したスラリーを噴霧乾燥させる、あるいは複合水酸化物と前記1種以上の添加元素を含む塩を固相法で混合するなどの方法により被覆することができる。
【0076】
なお、表面を添加元素で被覆する場合、混合水溶液中に存在する添加元素イオンの原子数比を被覆する量だけ少なくしておくことで、得られる複合水酸化物粒子の金属イオンの原子数比と一致させることができる。また、粒子の表面を添加元素で被覆する工程は、複合水酸化物粒子を加熱した後の粒子に対して行ってもよい。
【0077】
(混合水溶液の濃度)
混合水溶液の濃度は、金属化合物の合計で1〜2.6mol/L、好ましくは1.5〜2.2mol/Lとすることが好ましい。混合水溶液の濃度が1mol/L未満では、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるために生産性が低下して好ましくない。
【0078】
一方、混合水溶液の塩濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、結晶が再析出して設備の配管を詰まらせるなどの危険がある。
【0079】
また、金属化合物は、必ずしも混合水溶液として反応槽に供給しなくてもよく、たとえば、混合すると反応して化合物が生成される金属化合物を用いる場合、全金属化合物水溶液の合計の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、個々の金属化合物の水溶液として所定の割合で同時に反応槽内に供給してもよい。
【0080】
さらに、混合水溶液などや個々の金属化合物の水溶液を反応槽に供給する量は、晶析反応を終えた時点での晶析物濃度が、概ね30〜200g/L、好ましくは80〜150g/Lになるようにすることが望ましい。晶析物濃度が30g/L未満の場合には、一次粒子の凝集が不十分になることがあり、200g/Lを超える場合には、添加する混合水溶液の反応槽内での拡散が十分でなく、粒子成長に偏りが生じることがあるからである。
【0081】
(アンモニア濃度)
反応水溶液中のアンモニア濃度は、以下の問題を生じさせないために、好ましくは3〜25g/L、好ましくは5〜20g/Lの範囲内で一定値に保持する。
【0082】
アンモニアは錯化剤として作用するため、アンモニア濃度が3g/L未満であると、金属イオンの溶解度を一定に保持することができず、形状および粒径が整った板状の水酸化物一次粒子が形成されず、ゲル状の核が生成しやすいため粒度分布も広がりやすい。
【0083】
一方、上記アンモニア濃度が25g/Lを超える濃度では、金属イオンの溶解度が大きくなり過ぎ、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増えて、組成のずれなどが起きる。
【0084】
また、アンモニア濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な水酸化物粒子が形成されないため、一定値に保持することが好ましい。たとえば、アンモニア濃度は、上限と下限の幅を5g/L程度として所望の濃度に保持することが好ましい。
【0085】
なお、アンモニウムイオン供給体については、特に限定されないが、たとえば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどを使用することができる。
【0086】
(反応液温度)
反応槽内において、反応液の温度は、好ましくは20℃以上、特に好ましくは20〜60℃に設定する。反応液の温度が20℃未満の場合、溶解度が低いため核発生が起こりやすく制御が難しくなる。一方、60℃を超えると、アンモニアの揮発が促進されるため、所定のアンモニア濃度を保つために、過剰のアンモニウムイオン供給体を添加しなければならならず、コスト高となる。
【0087】
(アルカリ水溶液)
反応水溶液中のpHを調整するアルカリ水溶液については、特に限定されるものではなく、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。かかるアルカリ金属水酸化物の場合、直接、反応水溶液中に供給してもよいが、反応槽内における反応水溶液のpH制御の容易さから、水溶液として反応槽内の反応水溶液に添加することが好ましい。
【0088】
また、アルカリ水溶液を反応槽に添加する方法についても、特に限定されるものではなく、反応水溶液を十分に攪拌しながら、定量ポンプなど、流量制御が可能なポンプで、反応水溶液のpH値が所定の範囲に保持されるように、添加すればよい。
【0089】
(製造設備)
本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、反応が完了するまで生成物を回収しない方式の装置を用いる。たとえば、撹拌機が設置された通常に用いられるバッチ反応槽などである。かかる装置を採用すると、一般的なオーバーフローによって生成物を回収する連続晶析装置のように、成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されるという問題が生じないため、粒度分布が狭く粒径の揃った粒子を得ることができる。
【0090】
また、反応雰囲気を制御する必要があるため、密閉式の装置などの雰囲気制御可能な装置を用いる。このような装置を用いることで、得られる複合水酸化物粒子を上記構造のものとすることができるとともに、核生成反応や粒子成長反応をほぼ均一に進めることができるので、粒径分布の優れた粒子、すなわち粒度分布の範囲の狭い粒子を得ることができる。
【0091】
上記製造方法によって得られるニッケルマンガン複合水酸化物粒子は、その組成が、以下の一般式で表されるように調整される。このような組成を有するニッケルマンガン複合水酸化物粒子を前駆体として、リチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造すれば、このリチウムニッケルマンガン複合酸化物を正極活物質とする電極を電池に用いた場合に、測定される正極抵抗の値を低くでき、優れた出力特性を発揮するとともに、電池性能を良好なものとすることができる。
【0092】
一般式:Ni
xMn
yCo
zM
t(OH)
2+α
(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦α≦0.5、Mは添加元素であり、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)
なお、本発明において、中空構造の正極活物質を得ようとする場合、その前駆体である前記ニッケルマンガン複合水酸化物粒子のニッケルの含有量とマンガンの含有量を、それぞれ前記一般式において、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55となるように調整して、マンガンの含有量を高めに設定することで、当該中空構造が得られやすい二次粒子からなるニッケル複合水酸化物とすることができる。
【0093】
なお、複合水酸化物粒子を原料として正極活物質を得た場合、この複合水酸化物粒子の組成比(Ni:Mn:Co:M)は、得られる正極活物質においても維持される。したがって、本発明の複合水酸化物の組成比は、得ようとする正極活物質に要求される組成比と同様となるように調整される。
【0094】
(平均粒径)
本発明のニッケルマンガン複合水酸化物粒子の平均粒径は、1μmを超え、15μm以下、好ましくは平均粒径が3μmを超え、10μm以下の範囲に調整されている。ニッケル複合水酸化物の平均粒径をこのような範囲に制御することにより、該複合水酸化物粒子を原料として得られる正極活物質を所定の平均粒径(1μmを超え、15μm以下)に調整することができる。このように、複合水酸化物粒子の粒径は、得られる正極活物質の粒径と相関するため、この正極活物質を正極材料に用いた電池の特性に影響するものである。
【0095】
この複合水酸化物の平均粒径が1μm以下であると、得られる正極活物質の平均粒径も小さくなり、表面積が増加することで高い出力は得られるが、正極の充填密度が低下して容積あたりの電池容量が低下するとともに、電極ペーストを混同する際に導電助剤との分散性が悪化し、電極内で粒子に掛かる電圧が不均一となることで、充放電を繰り返すと劣化し、容量が低下する。逆に、該複合水酸化物の平均粒径が15μmを超えると、得られる正極活物質の比表面積が低下して、電解液との界面が減少することにより、正極の抵抗が上昇して電池の出力特性が低下する。
【0096】
(粒度分布)
本発明の複合水酸化物粒子は、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が、1.0以下、好ましくは0.70以下となるように調整されている。正極活物質の粒度分布は、原料である複合水酸化物の影響を強く受け、たとえば、複合水酸化物粒子に微粒子あるいは粗大粒子が混入していると、正極活物質にも、同様に、微粒子あるいは粗大粒子が存在するようになる。すなわち、〔(d90−d10)/平均粒径〕が1.0を超え、粒度分布が広い状態であると、正極活物質にも微粒子あるいは粗大粒子が存在するようになる。
【0097】
微粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合、微粒子の局所的な反応に起因して発熱する可能性があり、電池の安全性が低下するとともに、微粒子が選択的に劣化するため、電池のサイクル特性が悪化してしまう。一方、大径粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合、電解液と正極活物質との反応面積が十分に取れず、反応抵抗の増加により電池出力が低下する。
【0098】
平均粒径およびd90、d10は、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。粒度分布の広がりを示す指標〔(d90−d10)/平均粒径〕において、d10は、各粒径における粒子数を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味している。また、d90は、同様に粒子数を累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味している。平均粒径は体積平均粒径MVを用い、を用いればよい。
【0099】
(粒子構造)
本発明の遷移金属複合水酸化物粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成される。二次粒子を構成する一次粒子の形状としては、板状、針状、直方体状、楕円状、稜面体状などのさまざまな形態を採りうる。また、その凝集状態も、ランダムな方向に凝集する場合のほか、中心から放射状に粒子の長径方向が凝集する場合も本発明に適用することは可能である。
【0100】
ただし、本発明では、板状および/または針状の一次粒子がランダムな方向に凝集して二次粒子を形成していることが好ましい。このような構造の場合、一次粒子間にほぼ均一に空隙が生じて、リチウム化合物と混合して焼成する際に、溶融したリチウム化合物が二次粒子内へ行きわたり、リチウムの拡散が十分に行われるからである。
【0101】
本発明において、二次粒子を構成する一次粒子の平均粒径は、0.3〜3.0μmの範囲に調整されることが好ましい。一次粒子の大きさをこのように調整することにより、一次粒子間に適切な空隙が得られ、焼成時に二次粒子内へのリチウムの十分な拡散が容易に行われるようにある。なお、一次粒子の平均粒径は、0.4〜1.5μmであることがより好ましい。
【0102】
一次粒子の平均粒径が0.3μm未満であると、焼成時の焼結温度が低温化して、二次粒子間の焼結が多くなり、得られる正極活物質に粗大粒子が含まれるようになる。一方、3μmを超えると、得られる正極活物質の結晶性を十分なものとするために、焼成温度を高くする必要が生じ、このような高い温度での焼成により、二次粒子間での焼結が発生し、正極活物質が適切な粒度分布から外れてしまうこととなる。
【0103】
本発明では、正極活物質の二次粒子の構造として、緻密で薄い外殻と、中空の内部と有する中空構造を採る。一方、中空構造の正極活物質の前駆体としては、中空を形成する微細で粗な一次粒子の集合体である中心部と、それを包み込む外周の緻密な一次粒子の集合体である外郭部を備える。
【0104】
このような粒子構造においては、一次粒子の性状が影響する。すなわち、中心部では、微細な一次粒子がランダムな方向に凝集し、かつ、外殻部では、より大きな一次粒子がランダムな方向に凝集していることが好ましい。このようなランダムな方向の凝集により、中心部の収縮が均等に生じ、正極活物質において十分な大きさを有する空間を形成することができる。
【0105】
また、この場合、微細一次粒子の平均粒径は、0.01〜0.3μmであることが好ましく、0.1〜0.3μmであることがより好ましい。微細一次粒子の平均粒径0.01μm未満であると、複合水酸化物粒子において十分な大きさの中心部が形成されないことがあり、0.3μmを超えると、焼結開始の低温化および収縮が十分でなく、焼成後に十分な大きさの空間が得られないことがある。なお、外殻部の一次粒子の性状については、前述と同様のものとすればよい。
【0106】
このような複合水酸化物粒子を原料として得られる正極活物質を構成する二次粒子は、中空構造を有し、その粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、上記複合水酸化物二次粒子の比率が概ね維持される。したがって、二次粒子径に対する外殻部の厚さの比率を上記範囲とすることで、リチウム遷移金属複合酸化物に十分な中空部を形成することができる。
【0107】
なお、中心部の微細一次粒子および外殻部のより大きな一次粒子の粒径、ならびに、外殻部の厚さは、遷移金属複合水酸化物の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察することによって測定できる。たとえば、複数の遷移金属複合水酸化物(二次粒子)を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより該粒子の断面観察が可能な状態とする。中心部の微細一次粒子および外殻部の一次粒子の粒径は、該二次粒子中の、好ましくは10個以上の一次粒子断面の最大径を粒径として測定し、平均値を計算することで求めることができる。
【0108】
また、外殻部の厚さの二次粒子径に対する比率は、以下のように求めることができる。上記樹脂中の二次粒子から、ほぼ粒子中心の断面観察が可能な粒子を選択して、3箇所以上の任意の箇所で、外殻部の外周上と中心部側の内周上の距離が最短となる2点間の距離を測定して、粒子ごとの外殻部の平均厚みを求める。二次粒子外周上で距離が最大となる任意の2点間の距離を二次粒子径として該平均厚みを除することで、粒子ごとの外殻部の厚さの上記比率を求める。さらに、10個以上の粒子について求めた粒子ごとの該比率を平均することで、上記ニッケル複合水酸化物における、二次粒子径に対する外殻部の厚さの比率を求めることができる。
【0109】
(2)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質の製造方法は、上記製造方法によって得られるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子とリチウム化合物を混合してリチウム混合物を形成する混合工程と、該混合工程で形成された混合物を焼成する焼成工程を含むものであるが、混合工程の前に遷移金属複合水酸化物を熱処理する熱処理工程を加えてもよい。すなわち、
図2に示すように、a)正極活物質の前駆体となるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を熱処理する熱処理工程と、b)熱処理後の粒子に対してリチウム化合物を混合してリチウム混合物を形成する混合工程、c)混合工程で形成された混合物を焼成する焼成工程を含むものとすることができる。以下、各工程を説明する。
【0110】
a)熱処理工程
熱処理工程は、上記ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法で得た複合水酸化物粒子を105〜750℃、好ましくは105〜400℃の温度に加熱して熱処理する工程である。この熱処理工程を行うことにより、複合水酸化物粒子に含有されている水分を除去している。この熱処理工程を行うことによって、粒子中に焼成工程まで残留している水分を一定量まで減少させることができる。このため、得られる製造される正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことを防ぐことができる。
【0111】
なお、正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしもすべての複合水酸化物を遷移金属複合酸化物に転換する必要はなく、400℃以下の温度で熱処理すれば十分であるが、ばらつきをより少なくするためには、加熱温度を400℃以上として、すべての複合水酸化物を複合酸化物に転換すればよい。後工程である焼成工程においても、加熱中に複合酸化物に転換されるが、熱処理により上記ばらつきをより少なく抑制できる。
【0112】
熱処理工程において、加熱温度が105℃未満の場合、複合水酸化物中の余剰水分が除去できず、上記ばらつきを抑制することができないことがある。一方、加熱温度が750℃を超えると、熱処理により粒子が焼結して均一な粒径の複合酸化物が得られない。熱処理条件による複合水酸化物中に含有される金属成分を分析によって予め求めておき、リチウム化合物との比を決めておくことで、上記ばらつきを抑制することができる。
【0113】
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。
【0114】
また、熱処理時間は、特に制限されないが、1時間未満では複合水酸化物の余剰水分の除去が十分に行われない場合があるので、少なくとも1時間以上が好ましく、5〜15時間がより好ましい。
【0115】
そして、熱処理に用いられる設備は、特に限定されるものではなく、複合水酸化物を非還元性雰囲気中、好ましくは、空気気流中で加熱できるものであればよく、ガス発生がない電気炉などが好適に用いられる。
【0116】
b)混合工程
混合工程は、遷移金属複合水酸化物粒子、あるいは上記熱処理工程において熱処理された複合水酸化物粒子(以下、「熱処理粒子」ということがある)などと、リチウムを含有する物質、たとえば、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得る工程である。
【0117】
ここで、上記熱処理粒子には、熱処理工程において残留水分を除去された複合水酸化物のみならず、熱処理工程で酸化物に転換された複合酸化物、もしくはこれらの混合粒子も含まれる。
【0118】
遷移金属複合水酸化物または熱処理粒子と、リチウム化合物とは、リチウム混合物中のリチウム以外の金属の原子数、すなわち、ニッケル、マンガン、コバルトおよび添加元素の原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.95〜1.5、好ましくは1〜1.35、より好ましくは1〜1.20となるように、混合される。すなわち、焼成工程前後でLi/Meは通常は変化しないので、この混合工程で混合するLi/Meが正極活物質におけるLi/Meとなるため、リチウム混合物におけるLi/Meが、得ようとする正極活物質におけるLi/Meと同じになるように混合される。
【0119】
リチウム混合物を形成するために使用されるリチウム化合物は、特に限定されるものではないが、たとえば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、もしくはこれらの混合物が、入手が容易であるという点で好ましい。特に、取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムもしくはそれらの混合物を用いることがより好ましい。
【0120】
なお、リチウム混合物は、焼成前に十分混合しておくことが好ましい。混合が十分でない場合には、個々の粒子間でLi/Meがばらつき、十分な電池特性が得られないなどの問題が生じる可能性がある。
【0121】
また、混合には、一般的な混合機を使用することができ、たとえば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができ、遷移金属複合水酸化物などの形骸が破壊されない程度で、複合酸化物または熱処理粒子と、リチウムを含有する物質とが十分に混合されればよい。
【0122】
c)焼成工程
焼成工程は、上記混合工程で得られたリチウム混合物を焼成して、リチウム遷移金属複合酸化物を形成する工程である。焼成工程においてリチウム混合物を焼成すると、遷移金属複合水酸化物、あるいは熱処理粒子に、リチウムを含有する物質中のリチウムが拡散するので、リチウム遷移金属複合酸化物が形成される。
【0123】
(焼成温度)
リチウム混合物の焼成は、650〜1000℃で行われる。焼成温度が650℃未満であると、遷移金属複合酸化物中へのリチウムの拡散が十分でなく、余剰のリチウムと未反応の遷移金属複合酸化物が残ったり、あるいは結晶構造が十分整わなくなったりして、電池に用いられた場合に十分な電池特性が得られない。また、1000℃を超えるとリチウム遷移金属複合酸化物間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒成長を生じることから粒子が粗大となり、球状二次粒子の形態を保持できなくなる。いずれの場合でも、電池容量が低下するばかりかでなく、正極抵抗の値も高くなってしまう。
【0124】
なお、焼成温度は800〜980℃とすることが好ましく、850〜950℃とすることがより好ましい。
【0125】
(焼成時間)
焼成時間のうち、所定温度での保持時間は、少なくとも1時間以上とすることが好ましく、2〜10時間とすることがより好ましい。1時間未満では、リチウム遷移金属複合酸化物の生成が十分に行われないことがある。
【0126】
(仮焼)
特に、リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用した場合には、焼成工程の前に、焼成温度より低く、かつ、350〜800℃、好ましくは450〜780℃の温度に1〜10時間程度、好ましくは3〜6時間保持して仮焼することが好ましい。あるいは、焼成温度に達するまでの昇温速度を遅くすることで、実質的に仮焼した場合と同様の効果を得ることができる。すなわち、水酸化リチウムや炭酸リチウムと遷移金属複合酸化物の反応温度において仮焼することが好ましい。この場合、水酸化リチウムや炭酸リチウムの上記反応温度付近で保持すれば、熱処理粒子へのリチウムの拡散が十分に行われ、均一なリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。
【0127】
(焼成雰囲気)
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とするが好ましく、酸素濃度を10〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、大気ないしは酸素気流中で行なうことが好ましい。酸素濃度が10容量%未満であると、酸化が十分でなく、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶性が十分でない場合がある。
【0128】
なお、焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、大気〜酸素気流中で加熱できるものであればよいが、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉が用いられる。
【0129】
(解砕)
焼成によって得られたリチウム遷移金属複合酸化物は、凝集もしくは軽度の焼結が生じている場合がある。この場合には、解砕してもよく、これにより、リチウム遷移金属複合酸化物、つまり、本発明の正極活物質を得ることができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。
【0130】
上記製造方法によって得られる正極活物質は、一般式:Li
1+uNi
xMn
yCo
zM
tO
2+α(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは添加元素であり、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる。
【0131】
正極活物質においてリチウムの過剰量を示すsの値は、−0.05から0.50までの範囲である。リチウムの過剰量sが−0.05未満の場合、得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。一方、リチウムの過剰量sが0.50を超える場合、上記正極活物質を電池の正極に用いた場合の初期放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。
【0132】
なお、該反応抵抗をより低減させるためには、リチウムの過剰量sは、0以上とすることが好ましく、0以上0.35以下とすることがより好ましく、0以上0.20以下とすることがさらに好ましい。なお、上記一般式におけるニッケルの含有量を示すxが0.7以下、かつ、yが0.1以上の場合には、高容量化の観点から、リチウム過剰量sは0.10以上とすることがより好ましい。
【0133】
マンガンの含有量を示すyの値は0.1以上0.55以下とする。yの値が、このような範囲にある場合、前駆体である遷移金属複合水酸化物が、微細一次粒子からなる中心部と中心部の外側に該微細一次粒子よりも大きな一次粒子からなる外殻部を有する構造となる。マンガンの含有量が0.55を超える場合には、正極活物質として用いた電池の容量が低下し、抵抗が上昇するという問題がある。
【0134】
また、上記一般式で表されるように、本発明の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物に添加元素を含有するように調整されていることが、より好ましい。上記添加元素を含有させることで、これを正極活物質として用いた電池の耐久特性や出力特性を向上させることができる。
【0135】
特に、添加元素が粒子の表面または内部に均一に分布することで、粒子全体で上記効果を得ることができ、少量の添加で上記効果が得られるとともに容量の低下を抑制できる。
【0136】
さらに、より少ない添加量で効果を得るためには、粒子内部より粒子表面における添加元素の濃度を高めることが好ましい。
【0137】
全原子に対する添加元素Aの原子比tが0.1を超えると、Redox反応に貢献する金属元素が減少するため、電池容量が低下するため好ましくない。したがって、添加元素Mは、上記原子比tで上記範囲となるように調整する。
【0138】
(平均粒径)
本発明の正極活物質は、平均粒径が1μmを超え、15μm以下であり、好ましくは3μmを超え、10μm以下である。平均粒径が1μm以下の場合には、タップ密度が低下して、正極を形成したときに粒子の充填密度が低下して、正極の容積あたりの電池容量が低下する。一方、平均粒径が15μmを超えると、正極活物質の比表面積が低下して、電池の電解液との界面が減少することにより、正極の抵抗が上昇して電池の出力特性が低下する。
【0139】
したがって、本発明の正極活物質を、上記範囲に調整すれば、この正極活物質を正極に用いた電池では、容積あたりの電池容量を大きくすることができるとともに、高安全性、高出力などに優れた電池特性が得られる。
【0140】
(粒度分布)
本発明の正極活物質は、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が、1.0以下、好ましくは0.70以下である、均質性が高いリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子により構成される。粒度分布が広範囲になっている場合、正極活物質に、平均粒径に対して粒径が非常に小さい微粒子や、平均粒径に対して非常に粒径の大きい粗大粒子が多く存在することになる。微粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、微粒子の局所的な反応に起因して発熱する可能性があり、熱安定性が低下するとともに、微粒子が選択的に劣化するのでサイクル特性が悪化してしまう。一方、粗大粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、電解液と正極活物質との反応面積が十分に取れず、反応抵抗の増加による電池出力が低下する。
【0141】
したがって、正極活物質の粒度分布を前記指標〔(d90−d10)/平均粒径〕で1.0以下とすることで、微粒子や粗大粒子の割合を少なくすることができ、この正極活物質を正極に用いた電池は、安全性に優れ、良好なサイクル特性および電池出力を有するものとなる。上記平均粒径や、d90、d10は、上述した複合水酸化物粒子に用いられているものと同様のものであり、測定も同様にして行うことができる。
【0142】
(タップ密度)
上記正極活物質は、タッピングをしたときの充填密度の指標であるタップ密度が、1.0g/cm
3以上であることが好ましく、1.3g/cm
3以上であることがより好ましい。民生向けや電気自動車向けでは電池の使用時間、走行可能距離を延ばすために高容量化が非常に重要な課題となっており、活物質自身の高容量化だけでなく、電極として活物質量を多く充填させることが求められている。一方、二次電池の電極厚みは、電池全体のパッキングの問題から、また電子伝導性の問題から数十ミクロン程度となっている。特に、タップ密度が1.0g/cm
3未満になると、限られた電極体積内に入れられる活物質量が低下し、二次電池全体の容量を高容量とすることができない。タップ密度の上限は、特に限定されるものではないが、通常の製造条件での上限は、3.0g/cm
3程度である。
【0143】
(特性)
上記正極活物質は、たとえば、2032型コイン電池の正極に用いた場合、150mAh/g以上の高い初期放電容量と、低い正極抵抗および高いサイクル容量維持率が得られるものとなり、非水系電解質二次電池用正極活物質として優れた特性を示すものである。
【実施例】
【0144】
以下、本発明の実施例および比較例について詳述する。
(実施例1)
(核生成工程)
まず、容量60Lの反応槽内に、水を半分の量まで入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。このときの反応槽内は、酸化性雰囲気(酸素濃度:21容量%)とした。この反応槽内の水に、20質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、槽内の反応水溶液液のpH値が液温25℃基準で13.0となるように調整した。また、該反応水溶液中のアンモニア濃度を10g/Lに調節した。
【0145】
次に、硫酸ニッケルと、硫酸マンガンと、硫酸コバルトを水に溶かして2mol/Lの混合水溶液を調製した。この混合水溶液では、各金属の元素モル比が、Ni:Mn:Co=33:33:33となるように調整した。この混合水溶液を、反応槽内の反応水溶液に所定の割合で供給した。同時に、25質量%アンモニア水および20質量%水酸化ナトリウム水溶液も、この反応水溶液に一定速度で加えていき、反応水溶液(核生成用水溶液)中のアンモニア濃度を上記値に保持した状態で、pH値を13.0(核生成pH値)に制御しながら、所定の時間晶析させて核生成を行った。
【0146】
(種粒子生成工程)
核生成終了後、反応水溶液のpH値が液温25℃基準で11.6になるまで、64質量%硫酸を加えた。反応水溶液のpH値が11.6に到達した後、反応水溶液(粒子成長用水溶液)に、再度、20質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開し、pH値を液温25℃基準で11.6に制御したまま、180分間の晶析を継続し核を成長させ種粒子を生成した。種粒子を含むスラリーの遠心沈降密度は0.296g/cm
3であった。
【0147】
(粒子成長工程)
この後、給液を一旦停止し、反応槽内空間の酸素濃度が0.1容量%以下となるまで窒素ガスを100L/分で流通させた。その後、給液を再開し、210分間晶析を行った。そして、生成物を水洗、濾過、乾燥させて複合水酸化物粒子を得た。
【0148】
(熱処理、焼成工程)
得られた複合水酸化物を150℃、12時間熱処理したのち、市販の炭酸リチウムを、金属とリチウムのモル比(Li/M比)が1.2となるように加えて、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合し、混合物を得た。この混合物を空気(酸素:21容量%)気流中にて950℃で焼成し、さらに解砕して非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。
【0149】
(実施例2)
反応水溶液中のpH値とアンモニア濃度を調整し、前記種粒子を含むスラリーの遠心沈降密度が0.327g/cm
3に制御した以外は、実施例1と同じ方法で前駆体および正極活物質を得た。
【0150】
(実施例3)
反応水溶液中のpH値とアンモニア濃度を調整し、前記種粒子を含むスラリーの遠心沈降密度が0.341g/cm
3に制御した以外は、実施例1と同じ方法で前駆体および正極活物質を得た。
【0151】
(実施例4)
反応水溶液中のpH値とアンモニア濃度を調整し、前記種粒子を含むスラリーの遠心沈降密度が0.345g/cm
3に制御した以外は、実施例1と同じ方法で前駆体および正極活物質を得た。
【0152】
(実施例5)
反応水溶液中のpH値とアンモニア濃度を調整し、前記種粒子を含むスラリーの遠心沈降密度が0.369g/cm
3に制御した以外は、実施例1と同じ方法で前駆体および正極活物質を得た。
【0153】
(実施例6)
反応水溶液中のpH値とアンモニア濃度を調整し、前記種粒子を含むスラリーの遠心沈降密度が0.384g/cm
3に制御した以外は、実施例1と同じ方法で前駆体および正極活物質を得た。
【0154】
(比較例1)
反応水溶液中のpH値とアンモニア濃度を調整し、前記種粒子を含むスラリーの遠心沈降密度が0.392g/cm
3に制御した以外は、実施例1と同じ方法で前駆体および正極活物質を得た。
【0155】
(比較例2)
反応水溶液中のpH値とアンモニア濃度を調整し、前記種粒子を含むスラリーの遠心沈降密度が0.423g/cm
3に制御した以外は、実施例1と同じ方法で前駆体および正極活物質を得た。
【0156】
(実施例および比較例の評価結果)
実施例および比較例で得られ複合水酸化物粒子を前駆体として正極活物質を得た。正極活物質は、複合水酸化物粒子と炭酸リチウムを混合してリチウム混合物とした後、焼成することで製造した。実施例および比較例における種粒子の遠心沈降密度と、得られた正極活物質の吸油量を表1に示す。遠心沈降密度が低いほど、吸油量が高い値を示した。遠心沈降密度が低いほど、一次粒子数が多く、そのため粒子一個当たりの外殻成長が少ないため、外殻が薄くなり、吸油量が高い値を示したと考えられる。
【0157】
【表1】