(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
波長軸上で略周期的に反射ピークが配置された反射コムスペクトルを有し、前記周期が互いに異なる第1、第2の反射要素で構成される光共振器を備えるバーニア型かつ波長可変型の半導体レーザ素子であって、
前記第1、第2の反射要素の少なくとも一つは、各反射ピークにおける反射位相が揃っており、かつ設定されたレーザ発振波長帯域外の反射ピークの強度が、前記レーザ発振波長帯域内の反射ピークの強度よりも小さい反射コムスペクトルを有するサンプルドグレーティング構造を備え、
前記サンプルドグレーティング構造は、受動導波路コア層を有する受動部分に設けられており、かつ、分布ブラッグ反射領域である回折格子構造と、光導波方向において前記回折格子構造と接続し、連続的に存在する導波路領域と、からなるセグメントが、前記光導波方向に複数配列されており、位相調整領域を備えない
ことを特徴とする半導体レーザ素子。
波長軸上で略周期的に反射ピークが配置された反射コムスペクトルを有し、前記周期が互いに異なる第1、第2の反射要素で構成される光共振器を備えるバーニア型かつ波長可変型の半導体レーザ素子であって、
前記第1、第2の反射要素の少なくとも一つは、受動導波路コア層を有する受動部分に設けられた、回折格子構造を複数含むサンプルドグレーティング構造の回折格子であって、前記各回折格子構造は、光の進行方向において、各反射ピークにおける反射位相が揃う構造を有しており、かつ設定されたレーザ発振波長帯域外の反射ピークの強度が、前記レーザ発振波長帯域内の反射ピークの強度よりも小さい反射コムスペクトルを有するサンプルドグレーティング構造を備え、
前記回折格子は、前記回折格子構造と、光導波方向において前記回折格子構造のそれぞれと接続し、連続的に存在する導波路領域と、からなるセグメントが、前記光導波方向に複数配列されており、位相調整領域を備えない
ことを特徴とする半導体レーザ素子。
波長軸上で略周期的に反射ピークが配置された反射コムスペクトルを有し、前記周期が互いに異なる第1、第2の反射要素で構成される光共振器を備えるバーニア型かつ波長可変型の半導体レーザ素子であって、
前記第1、第2の反射要素の少なくとも一つは、受動導波路コア層を有する受動部分に設けられた、回折格子構造を複数含むサンプルドグレーティング構造の回折格子であって、前記回折格子は、回折格子構造と、光導波方向において前記回折格子構造のそれぞれと接続し、連続的に存在する導波路領域と、からなるセグメントが、前記光導波方向に複数配列されており、位相調整領域を備えず、
前記回折格子構造は、
高屈折率部と、前記高屈折率部よりも屈折率が低い低屈折率部とが所定の方向において交互に複数組配置されてなり、
前記セグメントにおいて、前記回折格子構造の部分においてのみ、前記高屈折率部と前記低屈折率部とが交互に周期的に複数組配置されてなる構造を基本構造とすると、前記基本構造から前記高屈折率部の少なくとも一つを間引きする、前記低屈折率部の少なくとも一つを間引きする、前記高屈折率部と前記低屈折率部との境界の少なくとも一つを間引きする、またはこれらの組み合わせを行うことで形成されている構造を有しており、かつ、
前記基本構造から、前記高屈折率部と前記低屈折率部との交互配置が1/2周期だけ位相シフトした複数の部分を含む構造を有しており、
局所的な前記間引きによって回折格子の反射強度が局所的に制御されている
ことを特徴とする半導体レーザ素子。
前記回折格子構造は、所望の反射率スペクトルをフーリエ変換することによって得られる形状を近似的に得る構造を有することを特徴とする請求項3または5に記載の半導体レーザ素子。
前記回折格子構造は、矩形窓関数をフーリエ変換することによって得られるsinc関数形状を近似的に得る構造を有することを特徴とする請求項3または5に記載の半導体レーザ素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
CSG−DRレーザでは、上記説明したように、パッシブ領域のSG内部にサンプリング周期の異なる複数のSGを含むCSG−DBR構造としている。このサンプリング周期の異なるSGは、典型的には特許文献1に記載のように3種類を用いる。すなわち、CSG−DRレーザはアクティブ領域のSGと、パッシブ領域のCSG−DBRに含まれる3種類のSGで構成される4つの反射コムスペクトルからなるバーニアを利用するものである。したがって、この4種類のSGによる反射ピークが全て一致するように制御された波長で、レーザ発振が起こる。
【0011】
しかし、この構造の場合、このように複数の反射コムスペクトルを制御する必要があるので、制御が難しく、結果として波長可変レーザの波長チャネルごとに特性がばらつきやすいという課題があった。各反射コムスペクトルの反射ピークを完全に一致させることができなかった場合、反射率が所望の値よりも小さくなるので、レーザの発振しきい値が増大する。最近、通信用の波長可変レーザではコヒーレント伝送用途で発振周波数線幅が狭いことが要求されているが、このように発振しきい値が或るチャネルによって増大すると、その周波数線幅も増大し、コヒーレント伝送に適しない。
【0012】
このため、4つの反射コムスペクトルからなるバーニアに替わって、より少ない反射コムスペクトルの種類でバーニアによる波長可変を実現したいという欲求がある。もともと、パッシブ領域に3種類のSGを用いたものとしたのは、回帰モードを抑制するためであった。すなわち、回帰モードの問題を別の手段で解決できれば、より少ない反射コムスペクトルの種類でバーニアを形成でき、制御が容易となってチャネルごとの特性ばらつきを低減できると考えられる。
【0013】
従来のSGに替わって、反射コムスペクトルの、レーザ発振波長帯域外の反射ピークを抑制したものとして、特許文献3および非特許文献2に記載のBSG(Binary Superimposed Grating)がある。これは、複数の周期の回折格子を足し算で重ね合わせた形状を、位相シフトを複数含んだ回折格子として実現するものである。BSGは、設計により、所望のレーザ発振波長帯域内のみに反射コムのピークを有し、帯域外の反射ピークを抑制した特性を有することができる。
【0014】
このようなBSGの特性を用いれば、そもそもレーザ発振波長帯域外の反射ピークが無いので、回帰モードの問題を回避することができる。実際、特許文献4には、BSGと同様の構造であると考えられるPGと呼ぶ回折格子をDRレーザのパッシブ領域に用いる構成が開示されている。しかし、特許文献4に記載のDRレーザは、制御電流を注入する位相シフト部を有することを特徴としている。すなわち、BSG(またはPG)を用いたレーザ構成では、位相調整領域が必須であり、バーニア制御が簡便になったとしても位相制御の煩雑さが増えるという課題があった。
【0015】
特許文献4には、位相調整領域を設けることによって競合モード間のしきい値利得差が良好になることの説明は記載されているが、そもそもなぜBSG(またはPG)を用いると位相調整領域が必要になるかの考察は行われていない。すなわちBSG(またはPG)のようなレーザ発振波長帯域外の反射ピークを抑制した反射コムスペクトルを用いてかつ位相調整領域が不要になる構成は知られておらず、またどのような条件でそれが可能になるかも知られていなかった。
【0016】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、位相調整領域を備えなくてもよい半導体レーザ素子、およびこれを実現するための回折格子構造ならびに回折格子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、波長軸上で略周期的に反射ピークが配置された反射コムスペクトルを有し、前記周期が互いに異なる第1、第2の反射要素で構成される光共振器を備えるバーニア型かつ波長可変型の半導体レーザ素子であって、前記第1、第2の反射要素の少なくとも一つは、各反射ピークにおける反射位相が揃っており、かつ設定されたレーザ発振波長帯域外の反射ピークの強度が、前記レーザ発振波長帯域内の反射ピークの強度よりも小さい反射コムスペクトルを有するサンプルドグレーティング構造を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、波長軸上で略周期的に反射ピークが配置された反射コムスペクトルを有し、前記周期が互いに異なる第1、第2の反射要素で構成される光共振器を備えるバーニア型かつ波長可変型の半導体レーザ素子であって、前記第1、第2の反射要素の少なくとも一つは、回折格子構造を複数含むサンプルドグレーティング構造の回折格子であって、前記各回折格子構造は光の進行方向において略中心対称な構造を有しており、かつ設定されたレーザ発振波長帯域外の反射ピークの強度が、前記レーザ発振波長帯域内の反射ピークの強度よりも小さい反射コムスペクトルを有するサンプルドグレーティング構造を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、波長軸上で略周期的に反射ピークが配置された反射コムスペクトルを有し、前記周期が互いに異なる第1、第2の反射要素で構成される光共振器を備えるバーニア型かつ波長可変型の半導体レーザ素子であって、前記第1、第2の反射要素の少なくとも一つは、回折格子構造を複数含むサンプルドグレーティング構造の回折格子であって、前記回折格子構造は、高屈折率部と、前記高屈折率部よりも屈折率が低い低屈折率部とが所定の方向において交互に複数組配置されてなり、前記高屈折率部と前記低屈折率部とが交互に周期的に複数組配置されてなる構造を基本構造とすると、前記基本構造から前記高屈折率部の少なくとも一つを間引きする、前記低屈折率部の少なくとも一つを間引きする、前記高屈折率部と前記低屈折率部との境界の少なくとも一つを間引きする、またはこれらの組み合わせを行うことで形成されている構造を有しており、かつ、前記基本構造から、前記高屈折率部と前記低屈折率部との交互配置が1/2周期だけ位相シフトした複数の部分を含む構造を有していることを特徴とする。
【0020】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、前記第1、第2の反射要素の少なくとも一つは発光領域を有することを特徴とする。
【0021】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、第1反射膜と、前記第1反射膜よりも反射率が高い第2反射膜と、前記第1反射膜と前記第2反射膜との間に配置された活性層と、前記活性層の近傍に前記活性層に沿って設けられた、回折格子構造を含む回折格子と、を備え、前記回折格子構造は、高屈折率部と、前記高屈折率部よりも屈折率が低い低屈折率部とが所定の方向において交互に複数組配置されてなり、前記高屈折率部と前記低屈折率部とが交互に周期的に複数組配置されてなる構造を基本構造とすると、前記基本構造から前記高屈折率部の少なくとも一つを間引きする、前記低屈折率部の少なくとも一つを間引きする、前記高屈折率部と前記低屈折率部との境界の少なくとも一つを間引きする、またはこれらの組み合わせを行うことで形成されている構造を有しており、かつ、前記基本構造から、前記高屈折率部と前記低屈折率部との交互配置が1/2周期だけ位相シフトした複数の部分を含む構造を有しており、複数の縦モードでレーザ発振することを特徴とする。
【0022】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、前記回折格子構造は、所望の反射率スペクトルをフーリエ変換することによって得られる形状を近似的に得る構造を有することを特徴とする。
【0023】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、前記回折格子構造は、矩形窓関数をフーリエ変換することによって得られるsinc関数形状を近似的に得る構造を有することを特徴とする。
【0024】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、前記回折格子構造は、前記所定の方向において略中心対称な構造を有することを特徴とする。
【0025】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子は、前記回折格子は、前記回折格子構造を複数含むサンプルドグレーティング構造の回折格子であることを特徴とする。
【0026】
本発明の一態様に係る回折格子構造は、高屈折率部と、前記高屈折率部よりも屈折率が低い低屈折率部とが所定の方向において交互に複数組配置されてなり、前記高屈折率部と前記低屈折率部とが交互に周期的に複数組配置されてなる構造を基本構造とすると、前記基本構造から前記高屈折率部の少なくとも一つを間引きする、前記低屈折率部の少なくとも一つを間引きする、前記高屈折率部と前記低屈折率部との境界の少なくとも一つを間引きする、またはこれらの組み合わせを行うことで形成されている構造を有しており、かつ、前記基本構造から、前記高屈折率部と前記低屈折率部との交互配置が1/2周期だけ位相シフトした複数の部分を含む構造を有していることを特徴とする。
【0027】
本発明の一態様に係る回折格子構造は、所望の反射率スペクトルをフーリエ変換することによって得られる形状を近似的に得る構造を有することを特徴とする。
【0028】
本発明の一態様に係る回折格子構造は、矩形窓関数をフーリエ変換することによって得られるsinc関数形状を近似的に得る構造を有することを特徴とする。
【0029】
本発明の一態様に係る回折格子構造は、前記所定の方向において略中心対称な構造を有することを特徴とする。
【0030】
本発明の一態様に係る回折格子は、サンプルドグレーティング構造の回折格子であって、本発明の一態様に係る回折格子構造を複数含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、位相調整領域を備えなくてもよい半導体レーザ素子、およびこれを実現するための回折格子構造ならびに回折格子が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、図面を参照して本発明に係る半導体レーザ素子、回折格子構造、および回折格子の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0034】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る半導体レーザ素子を光導波方向(紙面左右方向)に沿って切断した模式的な断面図である。
図1に示すように、半導体レーザ素子100は、電流注入によって発光する活性層である導波路コア層115を有するSG−DFB部である利得SG部110と、利得SG部110に隣接し、受動導波路コア層である導波路コア層125を有するCSG−DBR部である受動SG部120とを備える。利得SG部110、受動SG部120の各端面111、121には不図示の反射防止膜が形成されている。
【0035】
また、半導体レーザ素子100は、裏面にn側電極101が形成されたn型半導体層102と、利得SG部110でn型半導体層102上に形成された回折格子層113と、受動SG部120でn型半導体層102上に形成された回折格子層123と、回折格子層113、123上に形成されたn型スペーサ層104と、利得SG部110のn型スペーサ層104上に形成された導波路コア層115と、受動SG部120のn型スペーサ層104上に形成された導波路コア層125と、導波路コア層115、125上に形成されたp型上部クラッド層106と、利得SG部110のp型上部クラッド層106上に形成されたコンタクト層117と、コンタクト層117上に形成されたp側電極118と、受動SG部120のp型上部クラッド層106上に形成されたSiNからなるパッシベーション膜127と、パッシベーション膜127上に形成されたTi/Auからなるヒータ128a、128bと、を備えている。
【0036】
n型半導体層102は、n型InPからなる基板上にn型InPからなる下部クラッド層が形成された構成を有する。
反射要素としての回折格子層113は、SG構造であり、所定の周期で離散的に存在する、バンドギャップ波長が1.23μm(以下、1.23Qとする)のn型GaInAsP層の間がn型スペーサ層104と同じ半導体材料(n型InP)で埋められた分布ブラッグ反射領域である回折格子G1と、光導波路方向において回折格子G1と接続し、連続的に存在する、1.23Qのn型GaInAsP層からなる導波路領域WG1と、からなるセグメント113aが、光導波方向に複数配列された領域Aを有する。領域Aは6つのセグメント113aを有する。セグメント113aの長さは約160μmである。ただし、セグメント113aのうち、受動SG部120に隣接したセグメントは他のセグメントよりも導波路領域WG1が長く、実質的に回折格子G1が1つ省略された構造を有する。このような回折格子を省く構造によって空間的ホールバーニングを抑制する公知の効果がある。
【0037】
導波路コア層115は、GaInAsPからなり、光導波方向において連続的に存在する導波路領域であり、厚さ5nmの4つの量子井戸層と厚さ10nmの障壁層とを含むMQW層と、MQW層を挟むように配置されたSCH層と、からなるMQW−SCH構造を有する。MQW層の厚さはたとえば40nm〜60nm、SCH層の厚さはたとえば30nmである。回折格子層113は、n型スペーサ層104を挟んで、導波路コア層115の近傍で導波路コア層115に沿って配置している。なお、利得SG部110における導波路コア層115は、光導波方向に沿って、利得を有する活性層と、利得を有しない受動導波路コア層が交互に配置された構造を有するTDA構造を用いることも可能である。
【0038】
導波路コア層125は、1.23QのGaInAsPからなる。p型上部クラッド層106はp型InPからなる。コンタクト層117はp型GaInAsからなる。なお、受動SG部120の導波路コア層125の直上に位置するp型上部クラッド層の一部は、i−InPからなる層に置き換えてもよい。
【0039】
反射要素としての回折格子層123は、CSG構造であり、領域Bと領域Cとを有する。領域Bでは、所定の周期で離散的に存在する、1.23Qのn型GaInAsP層の間がn型InPで埋められた分布ブラッグ反射領域である回折格子G2と、光導波路方向において回折格子G2と接続し、連続的に存在する、1.23Qのn型GaInAsP層からなる導波路領域WG2と、からなる4つのセグメント123aが、光導波方向に複数配列されている。領域Cでは、1.23Qのn型GaInAsP層の間がn型InPで埋められた分布ブラッグ反射領域である回折格子G3と、光導波路方向において回折格子G3と接続し、連続的に存在する、1.23Qのn型GaInAsP層からなる導波路領域WG3と、からなる3つのセグメント123bが、光導波方向に複数配列されている。セグメント123a、123bの長さはそれぞれ約177μmと約184μmである。ヒータ128a、128bはそれぞれ領域B、領域Cの直上に配置されている。ヒータ128a、128bは、受動SG部120を加熱してその屈折率を変化させるために設けられている。
【0040】
なお、半導体レーザ素子100の半導体積層構造は、
図1の紙面と垂直方向の断面では、光導波方向(紙面左右方向)に光を導波するための導波路構造としての公知の埋め込みヘテロ構造を有している。
【0041】
この半導体レーザ素子100は、波長可変レーザとして動作する。
図2は、半導体レーザ素子100の利得SG部110と受動SG部120との反射スペクトルを示す図である。SG構造は、波長軸上で略周期的に反射ピークが配置されており、反射ピークの波長間隔が、セグメントの長さに反比例する反射コムスペクトルを有する。上述したように、利得SG部110と受動SG部120とで、セグメント113aとセグメント123a、123bの長さが異なるので、
図2に示すように、反射コムスペクトルの波長間隔(隣接する反射率のピーク間の間隔)は両者で異なる。したがって、半導体レーザ素子100では、2つの反射コムスペクトルの間に生じるバーニア効果によって、2つの反射コムスペクトルで反射ピークが一致した波長のみでレーザ発振させることができる。それとともに、受動SG部120の屈折率を変化させることによって、どの反射ピークを一致させるかを調整することで、波長可変動作が可能となる。なお、
図2では、波長1550nmにおいて2つの反射コムスペクトルの反射ピークが一致している状態を示している。なお、
図2のような反射スペクトルを得るより具体的な設計については、後に詳述する。
【0042】
具体的な動作としは、まず、利得SG部110において、n側電極101とp側電極107との間に電圧を印加して、駆動電流を注入する。駆動電流は利得SG部110の導波路コア層115に注入される。すると、導波路コア層115は活性層として機能し所定の波長帯域を有する光を発する。
【0043】
一方、受動SG部120において、ヒータ128a、128bに電流を供給して加熱する。これにより受動SG部120の回折格子層123が加熱される。その結果、受動SG部120の波長コムスペクトルが波長軸上で全体的にシフトする。これにより、利得SG部110の波長コムスペクトルと受動SG部120の波長コムスペクトルとで反射ピークが一致する波長が調整される。そして、一致した波長において利得SG部110のSG−DFB構造と受動SG部120のCSG−DBR構造とで光共振器が形成され、半導体レーザ素子100は、主に利得SG部110の端面111からのみレーザ光L10を出力する。
【0044】
(製造方法)
半導体レーザ素子100の製造方法の一例を簡単に説明する。まず半導体基板上に、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)などの結晶成長法により、下部クラッド層および回折格子層113、123となる回折格子層を形成する。つづいて、その上に、電子線露光装置によってパターニングを行い、エッチングすることで回折格子層に回折格子G1、G2、G3のパターンを形成する。この際、所望の回折格子となるようにパターンを形成することが重要である。つづいて、この上に、MOCVDなどによって、エッチングした部分をn型InPで埋め込んで回折格子層113、123とするとともにn型スペーサ層104、活性層としての導波路コア層115およびp型上部クラッド層106の一部を積層する。つづいて、受動SG部120となる領域の活性層をエッチングによって除去して、その領域にMOCVDで導波路コア層125、およびi−InPからなる上部クラッド層の一部を埋め込む。つづいて、公知の方法によって埋め込みヘテロ構造を作製し、さらに、MOCVDなどで全体にp型上部クラッド層106の残りの部分とコンタクト層117とを積層する。
【0045】
その後、不必要な部分のコンタクト層117の除去、パッシベーション膜127の形成、電流注入用のp側電極118の形成、ヒータ128a、128bの形成、電流注入部分のパッシベーション膜127の除去、p側電極118や電極パッドの形成、基板研磨とn側電極101の形成などを行う。さらに、端面111、121をへき開によって形成し、端面111、121に反射防止膜を形成し、素子分離を行うと半導体レーザ素子100が完成する。これら全ての工程は公知の方法によって実施可能である。なお、半導体レーザ素子内にSOAや光吸収領域を設ける場合には、これらの工程と同時に形成してもよいし、別の工程で形成してもよい。
【0046】
(回折格子の設計方法)
つぎに、本実施形態1における回折格子G1、G2、G3の回折格子構造の設計について説明するが、その前に、比較例として、従来のSGおよびBSGの特性について検討し、本発明が解決しようとする課題がどのような物理現象に起因するものかを検討する。なお、反射スペクトルの計算には、任意の形状の回折格子を制限無く解析できる手法として分離法を用いた。分離法は高屈折率部とそれよりも屈折率が低い低屈折率部との繰り返し構造による回折格子を、1次元的な多層膜の多重反射として解析する方法である。従来、本発明のような半導体光素子に用いられる回折格子の解析にはモード結合理論が主に用いられているが、回折格子の各要素ひとつずつを設計するような詳細な設計には不向きであり、そのような複雑な設計には分離法が好適である。
【0047】
図3、4に、SGとBSGのそれぞれの反射スペクトルと反射位相との一例を示す。
活性層の利得は波長帯域中心から外れるほど利得が小さくなり、一定利得を得るための電流値の増大や線幅増大係数(αパラメータ)の増大が起こる。このため、反射率が中央波長から外れるほど小さければ、中央波長から外れた波長チャネルでは反射率も活性層も好ましくない特性を示すことになる。そこで、反射コムスペクトルの各ピークの反射率は波長依存性を示さないことが好ましい。
【0048】
図3に示すように、SGについては、反射コムスペクトルの中央付近の反射ピークが最も高く、そこから離れるほど小さい。この程度を小さくするために、SGの各セグメントの内部に含まれる回折格子の長さを短くすることが行われる。そうすると、所望の波長可変帯域の外の反射ピークもまた高くなる。
【0049】
一方、
図4に示すように、BSGについては、そのような制約がなく、所定の帯域(たとえば、設定されたレーザ発振波長帯域に対応させた帯域)での反射ピークの反射率の波長依存性がほとんど無く、かつ帯域外の反射ピークが抑制された反射コムスペクトルが得られる。ここで、反射位相とは、ある参照面を位相ゼロで通過した光が反射要素を反射して参照面に戻ってきたときの位相を意味する。
【0050】
一方、反射位相について見ると、丸印で示すように、SGは各反射ピークにおける反射位相が、全てのピークでほぼ一致している。これに対して、BSGの各反射ピークにおける反射位相は、SGとは異なり波長に対してランダムである。BSGは、その設計において、複数の異なる周期の回折格子を、位置を変えながら重ね合わせることによって得られる。これによって複数の波長での反射率をそろえているが、各波長で回折格子の位置が異なるので、反射位相はそれに伴って各波長で異なる。各反射ピークにおける反射位相が波長に対してランダムとなる原因はこのことだと考えられる。
【0051】
波長に対して線形な依存性をもつ反射位相は、ある長さの導波路によって容易に補償可能である。すなわち、ある長さの導波路を光が伝播することによってその光にもたらされる位相変化もまた波長に対して線形であるから、2つの線形な位相を加算した結果が2πの整数倍になるように設計すれば、各反射ピークにおける位相は揃うこととなる。そこで、本明細書中では、このように各反射ピークにおける反射位相が波長に対して線形な関係を有する反射コムスペクトルを、反射位相が揃っていると表現することにする。
【0052】
一方、BSGのように各反射ピークにおける反射位相が波長に対してランダムであると、導波路の挿入によって補償することは不可能である。特に、サンプリング周期の異なる2つの反射コムスペクトルを組み合わせて使う場合(バーニア効果を得るためには当然必要な構成である)には、この位相ずれを補償することが不可能である。あるいは、BSGとSGとを組み合わせる構成でも、同様に位相ずれを補償することが不可能である。このため、BSGのような各反射ピークにおける反射位相が波長に対してランダムな、言い換えれば反射位相が揃っていない反射コムスペクトルを有する反射要素を用いる場合は、バーニア型の波長可変型のレーザ素子を実現するためには、光共振器内で光の位相を可変調整する位相調整機構が不可欠になる。また、サンプリング周期の異なる複数のSGを連結したCSG−DRレーザのパッシブ領域もまた、サンプリング周期の異なる2つの反射コムスペクトルを組み合わせて使う構成であり、これにBSGを適用することもまた不可能である。
【0053】
以上の検討で新たに明らかになったところによれば、BSGを用いた場合に位相調整領域が必要になる理由は、反射コムスペクトルの反射ピーク波長間で位相が揃っていないためである。したがって、反射位相がそろった反射コムスペクトルを有する反射要素であれば、それが帯域外反射が抑制されたものであっても、位相調整領域が必要なくなる。この構成によれば、制御が容易で、波長チャネルごとに特性ばらつきが小さい波長可変レーザを実現することができる。この知見は本発明の1つの側面である。
【0054】
上記知見により、本発明者らが検討した回折格子構造の設計を採用したsinc型SGでは、
図5に示すように、帯域外の反射ピークは顕著に抑制されており、帯域内の反射ピークは均一性が高く、かつ反射位相は全ての反射ピークでほぼ一致している。本実施形態1に係る半導体レーザ素子100では、回折格子層113、123が、このような特性を持つように設計したSG構造を備えることにより、位相調整領域を備えなくてもよい半導体レーザ素子を実現している。
【0055】
以下、反射位相が揃っていて、かつ帯域外反射が抑制された反射コムスペクトルが得られる回折格子構造を検討する。極端に強くない(反射率が高くない)回折格子は、フーリエ解析によって設計することができる。これは、回折格子を形成する屈折率分布のフーリエ変換が近似的に反射率スペクトルとなるということである。なお、この反射率スペクトルは厳密には波数領域におけるものであるが、周波数や波長に1対1対応するものであって、狭い範囲では線形な対応とみなせる。
【0056】
まず、位相が揃っているという条件について考える。フーリエ解析の理論によって実対称なもののフーリエ変換は実対称であり、屈折率分布は実数なので、光の進行方向に対して略中心対称な回折格子構造の反射スペクトルは実数、つまり位相変化が無い。このため、略中心対称な回折格子構造であることは、位相がそろうことの十分条件と考えることができる。例えば、公知のSGはその要素の回折格子は短い均一な回折格子であって、略中心対称な構造であるので、位相がそろった回折格子である。なお、BSGはこの条件を満たさない。
【0057】
さらに、反射スペクトルについて考える。矩形窓関数のフーリエ変換はsinc関数である。この事実を元に考えると、SGは小さい矩形窓関数にcos関数を乗じたものを櫛形関数(Comb関数、シャー関数)と畳み込みしてさらに大きい矩形窓関数を乗じたものであるから、そのフーリエ変換は大きいsinc関数を周波数移動したもの(原点と異なる位置のインパルスを畳み込んだもの)に櫛形関数を乗じ、さらに小さいsinc関数を畳み込んだものである(
図6参照)。この場合、複数の反射ピーク全体の包絡線を決定するのは小さい矩形窓関数のフーリエ変換である大きいsinc関数である。このため、従来のSGでは反射ピークの強度は波長に対してsinc関数の依存性があって、小さい窓関数を決定する要素の回折格子を短くすれば包絡線が広がるものの、完全に均一になることは無いし、逆に帯域外のピークをsinc関数の形状を超えて抑圧することもできない。
【0058】
このように、反射スペクトルの全体の包絡線は最も小さい窓関数で決定される。そこで、SGの要素の回折格子を別の形状とすることを検討する。矩形窓関数のフーリエ変換はsinc関数であるが、逆にsinc関数のフーリエ変換は矩形窓関数である。この事実を利用すれば、SGの要素の回折格子をsinc関数状(sinc関数とcos関数を乗じたもの)にしておけば、SGの反射ピークの包絡線は矩形窓関数になる。すなわち、回折格子を、小さいsinc関数にcos関数を乗じたものを櫛形関数と畳み込みしてさらに大きい矩形窓関数を乗じたものとすると、そのフーリエ変換は大きい矩形窓関数を周波数移動したもの(原点と異なる位置のインパルスを畳み込んだもの)に櫛形関数を乗じ、さらに小さいsinc関数を畳み込んだものである(
図7参照)。結果として得られる反射スペクトルは、ピーク間の反射強度が揃ってかつ帯域外の反射ピークが抑制されたものとなる。
【0059】
このようなsinc関数を用いた回折格子構造の設計方法は知られていて、非特許文献3にそれをファイバブラッググレーティングに応用した実例がある。しかしながら、非特許文献3では反射位相をそろえるために略中心対称にするという動機も知見もなかったので、非特許文献3中の
図1を詳細に見ればわかるように、sinc関数の内部の屈折率分布は中心対称になっていない。
【0060】
以上説明したように、sinc関数状の要素回折格子構造を用いて、かつsinc関数内部の屈折率分布を略中心対称にした回折格子構造は、反射位相が揃っており、かつ帯域外反射が抑制された反射コムスペクトルが得られる回折格子の実現方法となりうる。
sinc関数は1と−1の間の連続的な値を示す関数であるので、回折格子構造を形成する屈折率分布は高屈折率部と低屈折率部との2種類のみでは完全に実現することはできない。半導体光素子は積層構造の組み合わせで作製するプロセスが一般的であって、例えば回折格子層のある場所と無い場所との屈折率差で回折格子を形成する構造などが用いられる。このような連続的に様々な屈折率を実現するためには、回折格子層の厚さを場所によって微妙に異なるように加工すれば実現できるが、これは必ずしも容易ではない。このため、sinc関数状の回折格子を得るにあたって、半導体プロセスに親和性が高い形態を考案することは重要である。
【0061】
なお、屈折率コントラストを小さくしたい部分を小さいDuty比の回折格子で実現することは方法の一つである。しかしながら、極端に微小なDuty比の回折格子を精密に制御して作製することは困難である。
【0062】
そこで、本発明者らは屈折率の大きさを後述する局所的な間引きによって実現するという新たな方法を考案した。具体的には、高屈折率部と、この高屈折率部よりも屈折率が低い低屈折率部とが所定の方向(光の進行方法)において交互に複数組配置されてなる回折格子構造において、高屈折率部と低屈折率部とが交互に周期的に複数組配置されてなる構造を基本構造とすると、基本構造から高屈折率部の少なくとも一つを間引きする、低屈折率部の少なくとも一つを間引きする、高屈折率部と前記低屈折率部との境界の少なくとも一つを間引きする、またはこれらの組み合わせを行うことで形成されている構造を有する回折格子構造とするのである。また、回折格子構造は、基本構造から、高屈折率部と前記低屈折率部との交互配置が1/2周期だけ位相シフトした複数の部分を含む構造を有しているものとする。
【0063】
すなわち、回折格子の反射強度が強い、sinc関数の絶対値が1に近い部分では間引きを行わず、絶対値が1よりも小さい部分では間引きを行う(例えば、0.5であれば2つに1つを間引く)。
【0064】
一般化すると、本発明の別の側面である回折格子構造の設計方法は次のようになる。
まず、所望の反射スペクトルをフーリエ変換することによって回折格子の強度関数を決定する(例えば、矩形の反射スペクトルを得るためにsinc関数形状の強度関数を用いる)。このとき、該所望の反射スペクトルを実対称な形状とすると、強度関数は実関数である。この強度関数は正負の値を含むものである。強度関数が負となる部分では位相の反転を行う(基本構造における高屈折率部と低屈折部の位置を入れ替える)。強度関数の絶対値が1よりも小さい部分では、その大きさに応じて、1を間引きなし、0を完全に間引く(その部分では、高屈折率部と低屈折率部とが交互に配置される回折格子構造が無い)こととする。
【0065】
このような回折格子構造を周期的に繰り返すことにより、全体としてSGを形成することは容易な応用である。この手法では、半導体プロセスに親和性が高い2種類のみの屈折率部を用いて、Dutyの精密制御なども要らない容易に実現可能な構造で任意の反射スペクトルを設計することができる。
【0066】
なお、
図3で示したSGと、
図5で示したsinc型のSGとにおいて、反射位相は全ての反射ピークでほぼ一致しているが、反射を考える参照面の取り方によっては、一致しないことがある。この場合でも、波長に対して線形となるように並ぶ変化であれば、問題は生じない。略中心対称構造のSGでは、要素回折格子構造の中央に参照面を置くと反射位相が全ての反射ピークで一致し、参照面を要素回折格子構造と要素回折格子構造との中間に置くと反射位相が隣接ピーク間で反転し、そのいずれでもなければ反射ピークごとに徐々に反射位相が異なる線形な関係となる。
【0067】
参照面を要素回折格子構造と要素回折格子構造との中間に置くと反射ピークごとの反射位相が一致することは、言い換えると、2つの対向するSGによってバーニアを形成する場合、位相調整を不要にするためには、片方の端部のセグメントをほぼ整数周期延長した位置に他方の端部のセグメントがあることが必要であるということである。この巨視的な配置に加えて、微視的にλ/4(回折格子周期の半分)の位相シフトを挟む構造にすることで、どの反射ピークで発振させる場合でも位相調整が不要となる。
【0068】
以下、回折格子構造の設計について、さらに具体的に説明する。
まず、
図8に示すように、屈折率nがn
Hの高屈折率部Hと屈折率nがn
Hの低屈折率部Lとが光の進行方法において交互に複数組配置されてなる基本構造を有する回折格子構造Gを考える。以下では回折格子構造Gの屈折率構造を用いて説明する。なお、たとえば、高屈折率部Hは1.23QのGaInAsPからなり、低屈折率部LはInPからなるが、特に限定されない。
【0069】
これに対して、位相反転(1/2周期の位相シフトの挿入と同じ意味)については、
図9のように、回折格子構造Gの屈折率構造に対して、高屈折率部と低屈折率部とを入れ替える。これは、位相反転を行なわない場所と行う場所の間に、1/2周期の位相シフトを挿入することと同じである。
【0070】
つぎに、間引きについて説明するが、以下では2つの実現方法(間引き(A)と間引き(B))について説明する。
【0071】
間引き(A)では、低屈折率部を基本として、高屈折率部を1つの回折格子とみなす。
そして、
図10A、Bに示すように、回折格子構造Gの屈折率構造に対して、高屈折率部を低屈折率部にすることにより、「×」で示した高屈折部の間引きを行うことができる。たとえば、強度関数が1/2の場合には、
図10Aに示すように2つに1つの割合で高屈折率部の間引きを行う。強度関数が1/3の場合には、
図10Bに示すように3つに2つの割合で高屈折率部の間引きを行う。
【0072】
なお、上記間引き(A)では、回折格子構造Gの屈折率構造に対して、高屈折率部を低屈折率部にすることにより間引きを行っているが、低屈折率部を高屈折率部にすることによっても間引き(A)と同様の間引きを行うことができる。
【0073】
図11は、中心対称のsinc型の強度関数の中心から片側の部分と、この強度関数を間引き(A)により実現する回折格子構造の屈折率構造とを示す図である。
図11からわかるように、高屈折率部の密度が強度関数の絶対値の大小に依存して変化している。また、強度関数の符号が変化する部分では屈折率構造が位相反転している。
【0074】
一方、間引き(B)では、屈折率の変化を1つの回折格子とみなす。屈折率が高屈折率から低屈折率に変化する位置もしくは屈折率が低屈折率から高屈折率に変化する位置、すなわち高屈折率部と前記低屈折率部との境界は、光の微小な反射点であって回折格子を構成する要素である。この考え方に基づき、
図12A、Bに示すように、回折格子構造Gの屈折率構造に対して、高屈折率部と前記低屈折率部との境界を、「×」で示すように削除することにより間引きを行うことができる。ただし、高屈折率部から低屈折率部となる境界を削除した場合、それに隣接する低屈折率部から高屈折率部となる境界を必ず削除することが必要である。
【0075】
このとき、回折格子構造Gの屈折率構造における境界の数に対する削除した境界の割合が強度関数となるようにする。
図12Aに示すように、強度関数が1/2の場合については、結果として得られる屈折率構造のパターンは、
図10Aに示す間引き(A)の場合と同一である。しかし、
図12Bに示すように、強度関数が1/3の場合には、得られるパターンは
図10Bに示す間引き(A)のパターンとは異なっている。この違いは、間引き(A)では高屈折率部を低屈折率に置き換えるのみであったのに対して、間引き(B)では、高屈折率部を低屈折率に置き換える箇所と、低屈折率部を高屈折率に置き換える箇所の両方があるためである。
【0076】
したがって、高屈折率部を低屈折率に置き換える、または低屈折率部を高屈折率に置き換えることのいずれかまたは両方を適宜組み合わせることによって、間引き(A)、(B)を定義することも、また別の間引き方法を考案することもできる。
【0077】
図13は、中心対称のsinc型の強度関数の中心から片側の部分と、この強度関数を間引き(B)により実現する回折格子構造の屈折率構造とを示す図である。
図13からわかるように、高屈折率部と低屈折率部との境界の密度が強度関数の絶対値の大小に依存して変化している。また、強度関数の符号が変化する部分では屈折率構造が位相反転している。
【0078】
なお、回折格子の設計にあたっては、上記した2つの間引きのいずれを用いてもよいが、間引き(B)の方が、より細かい強度関数の表現が可能である点で優れている。特に、短い周期数の間に強度関数が変化する設計の場合には有効性が高い。
【0079】
実際の回折格子構造は、上記の方法によって定めた屈折率構造のパターンを実現するように、高屈折率部と低屈折率部とをそれぞれλ/4(レーザ光の媒質内波長の1/4)ずつの長さで配置することとなる。このときに、高屈折率部と低屈折率部とではλ/4に相当する長さが異なるので、その補正を行うことが好ましい。つまり、高屈折率部はその屈折率に応じて短く、低屈折率部分はそれよりも長くすることが好適である。特に、間引き(A)で屈折率構造のパターン生成した場合、低屈折率部が長く続く領域があるので、長さのわずかな誤差が蓄積して位相ゆらぎとなるため、長さの補正を行うことが重要となりやすい。
【0080】
なお、本実施形態1に係る半導体レーザ素子100の回折格子層113、123の回折格子G1、G2、G3の回折格子構造の設計においては、強度関数はsinc(xπ/xwin)で与えた。xwinは全ての回折格子G1、G2、G3で8.1μmとした。利得SG部110の回折格子層113におけるセグメント113aのサンプリング周期は回折格子G1の回折格子周期の666倍とし、セグメント数は6個とした。この他に前述のように、回折格子が無いセグメントが1個ある。受動SG部120の回折格子層123におけるセグメント123a、123bのサンプリング周期は回折格子G2、G3の回折格子周期の768倍とした。これにより、
図2に示す反射コムスペクトルが得られている。
【0081】
また、上記実施形態1の場合は、受動SG部120の回折格子層123を、レーザ発振波長帯域の中心でレーザ発振させるのに適する反射コムスペクトルとなるように設計を行ったが、
図14、
図15に示すように、レーザ発振波長帯域の長波長側でレーザ発振させるのに適する反射コムスペクトルとなるように設計したり、短波長側レーザ発振させるのに適する反射コムスペクトルとなるように設計したりすることもできる。半導体レーザ素子を長波長側、短波長側のいずれでレーザ発振するように動作させる場合も、CSG−DBR構造内部のバーニア効果によって回帰モードが抑制されている上に、レーザ発振波長帯域外の反射は本発明の効果によって抑制されているから、良好にレーザ発振波長の選択をすることができる。本発明の実施形態1に係る回折格子を波長可変レーザに用いることで、レーザ発振波長帯域内で、発振周波数線幅として100kHz以下を実現できる。
【0082】
(実施形態2)
本発明の一側面にかかる設計方法による回折格子構造は、CSG−DRレーザのみに応用可能なわけではない。当該回折格子構造では、任意の反射スペクトルを容易に実現可能であるという特性を利用すれば、様々な半導体光素子の性能を向上させるために応用可能である。
【0083】
図16は、実施形態2に係る半導体レーザ素子を光導波方向に沿って切断した模式的な断面図である。この半導体レーザ素子200は、素子内部に部分回折格子を設けた多モード(iGM:inner Grating Multimode)レーザと呼ばれるものである(非特許文献4)。
【0084】
半導体レーザ素子200は、裏面にn側電極201が形成されたn型半導体層202と、n型半導体層202上に形成された活性層203と、活性層203上に形成されたp型上部クラッド層204と、p型上部クラッド層204上に形成されたp側電極205と、p型上部クラッド層204内で、活性層203の近傍に活性層203に沿って設けられた回折格子層206と、端面211に形成された第1反射膜としての低反射率膜212と、端面213に形成された、低反射率膜212よりも反射率が高い第2反射膜としての高反射率膜214と、を備えている。活性層203は低反射率膜212と高反射率膜214との間に配置されている。
【0085】
n型半導体層202は、n型InPからなる基板上にn型InPからなる下部クラッド層が形成された構成を有する。p型上部クラッド層204はp型InPからなる。回折格子層206は、離散的に配置された1.23Qのp型GaInAsP層の間がp型上部クラッド層204と同じ半導体材料(p型InP)で埋められた回折格子構造を有する。活性層203は、GaInAsPからなり、MQW−SCH構造を有する。
【0086】
上記のように、半導体レーザ素子200は、低反射率の端面211と高反射率の端面213とを有し、端面211の近傍に短い回折格子層206を設けたものである。そして、回折格子層206の回折格子構造による反射波長帯域の限られた反射ミラーと、高反射率の端面213による反射ミラーにより光共振器が形成され、レーザ発振する。iGMレーザとDFBレーザとの違いは、回折格子層206と高反射率の端面213との間の距離がある程度離れていることであり、これによって回折格子層206の反射帯域の範囲で、複数の縦モードで多モード発振する。iGMレーザは、この発振モード(縦モード)の数を適切に選択することで、例えば光ファイバアンプの励起光源の用途に用いた場合に、誘導ブリルアン散乱による光ファイバからの戻り光を抑制することができる。
【0087】
半導体レーザ素子200の全体の長さはたとえば2500μmである。そして、回折格子層206の回折構造は上述した設計により設定されたものである。半導体レーザ素子200に関する他の設計値は適宜公知の方法によって決めてよい。
【0088】
従来のiGMレーザでは、単に、高屈折率部と低屈折率部とが交互に周期的に複数組配置された回折格子構造を有する短い回折格子を用いていた。このため、回折格子の反射帯域は限定されていたが、その帯域内で微小な反射率のばらつきがあった(短い回折格子の反射スペクトルがsinc関数状になるのは、実施形態1で説明したことと同様である)。このように反射率が波長によって異なると、複数のモード間でしきい値利得がばらつくことになる。高電流注入時にはスペクトルホールバーニングなどの効果によりしきい値利得が高いモードも発振しやすくなるが、低電流注入時には、まずしきい値利得が小さいモードから発振するため、駆動条件によって発振モードの数がばらつく原因となっていた。
【0089】
これに対して、本実施形態2に係る半導体レーザ素子200では、回折格子層206は、上述した回折格子の設計方法を用いて設計することにより、フラットトップな反射スペクトルを有している。これにより、駆動条件によらず発振モードの数が安定したものとなっている。
【0090】
具体的には、回折格子層206の回折格子構造では、回折格子の強度関数として、公知のフラットトップ窓関数の変形である(0.54+0.46cos(xπ/2.2w))×sinc(xπ/w)、ただし|x|<2wを用いた。窓関数の設計はおしなべてフーリエ変換で所望の形状を得るという指針に基づくものであるから、所望の反射率スペクトルをフーリエ変換することによって得られる形状の強度関数として、このような公知の窓関数を用いる方法は好適である。なお、wは48μmとした。強度関数と、それに対応する屈折率構造(間引き(A)による)を
図17に示す。この強度関数も中心対称なので中心から片側の部分のみを表示している。また、強度関数の符号が変化する部分では屈折率構造が位相反転している、言い換えれば、表示範囲の中央に1/2周期の位相シフトがある。
なお、
図16には、矢印にて回折格子層206における位相シフトがある位置を示している。
【0091】
実施形態2の回折格子層206によるフラットトップの反射スペクトルと従来例の回折格子の反射スペクトルとの計算結果を
図18に示す。実施形態2の回折格子層206による反射スペクトルは、従来例に比べて明らかに反射ピークが平坦である。
【0092】
従来の回折格子でも、結合係数が高く反射率が1に近い設計領域ではフラットトップな反射率を得ることができた。これは、増幅を考慮しない限り反射率が1を超えることは無いので、回折格子を強くしていくと徐々にピークが飽和した形状になるためであった。しかしながら、レーザの設計上、回折格子に求められる反射率は高いとは限らない。たとえば、iGMレーザの主用途である光ファイバアンプ励起用高出力レーザでは、高効率とするために反射率はあまり高くないことが望ましい。したがって、従来の回折格子で高反射率にすることによって得られるフラットトップは実際には利用できないものだった。それに比べて、本明細書で開示した設計による回折格子では、1%前後の適度に低い反射率でフラットトップのスペクトル形状を実現できるので、iGMレーザのようなレーザに適している。
【0093】
なお、実施形態2に係る半導体レーザ素子200では、低電流注入時から高電流注入時まで、安定したモード本数の多モード発振が得られた。
【0094】
なお、上記実施形態では、光素子が半導体レーザ素子であるが、本発明は半導体レーザ素子に限定されない。たとえば、光素子は、活性層を有さず、入力された光を高い反射率で反射する反射素子として機能するブラッグ反射素子でもよい。このとき、入力されて反射される光の波長が、ブラッグ反射素子の動作波長を意味する。したがって、当該ブラッグ反射素子は、入力されるべき光の波長が、反射波長帯域の中心波長より長くなるように設計される。
【0095】
また、上記実施形態に係る半導体レーザ素子では、反射要素としての回折格子層はいずれも受動導波路コア層で構成されているが、回折格子層に発光領域が含まれていてもよい。
【0096】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。