特許第6895918号(P6895918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6895918磁気ディスク用アルミニウム合金基板、ディスク駆動装置、及び磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6895918
(24)【登録日】2021年6月10日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】磁気ディスク用アルミニウム合金基板、ディスク駆動装置、及び磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/73 20060101AFI20210621BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20210621BHJP
   C22C 21/06 20060101ALN20210621BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20210621BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20210621BHJP
【FI】
   G11B5/73
   G11B5/84 A
   !C22C21/06
   !C22F1/047
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 661D
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 682
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-56479(P2018-56479)
(22)【出願日】2018年3月23日
(65)【公開番号】特開2019-169223(P2019-169223A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2019年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】今川 公恵
(72)【発明者】
【氏名】中村 肇宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英希
(72)【発明者】
【氏名】吉村 敬太
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 航
(72)【発明者】
【氏名】北村 直紀
(72)【発明者】
【氏名】北脇 高太郎
【審査官】 川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−134514(JP,A)
【文献】 特開2004−063028(JP,A)
【文献】 特開2000−230908(JP,A)
【文献】 特開2013−112884(JP,A)
【文献】 特開2003−263731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 − 5/82
G11B 5/84 − 5/858
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/00 − 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延目を圧延スジ方向と定義し、半径rのディスクの中心から前記圧延スジ方向に平行な方向を0°とし、前記ディスクの主面において右回りを正として極座標(0.72r,45°)で表される位置b1の前記ディスクの板厚をtb1、極座標(0.53r、90°)で表される位置b2の板厚をtb2、極座標(0.72r,135°)で表される位置b3の板厚をtb3、極座標(0.72r,315°)で表される位置a1の板厚をta1、極座標(0.53r,270°)で表される位置a2の板厚をta2,極座標(0.72r,225°)で表される位置a3の板厚をta3と定義したとき、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[D]の4つの不等式の全てを満たす、
ことを特徴とする、ディスクブランク材を使用した磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
{|ta1−tb1|≦0.2μm、|ta2−tb2|≦0.2μm、|ta3−tb3|≦0.2μm}・・・[A]
{|ta1−ta2|<0.5μm、|ta2−ta3|<0.5μm、|tb1−tb2|<0.5μm、|tb2−tb3|<0.5μm}・・・[D]
【請求項2】
圧延目を圧延スジ方向と定義し、半径rのディスクの中心から前記圧延スジ方向に平行な方向を0°とし、前記ディスクの主面において右回りを正として極座標(0.72r,45°)で表される位置b1の前記ディスクの板厚をtb1、極座標(0.53r、90°)で表される位置b2の板厚をtb2、極座標(0.72r,135°)で表される位置b3の板厚をtb3、極座標(0.72r,315°)で表される位置a1の板厚をta1座標(0.53r,270°)で表される位置a2の板厚をta2,極座標(0.72r,225°)で表される位置a3の板厚をta3と定義したとき、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[B]の4つの不等式のうちの少なくとも2つを満たすか、又は、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[C]の4つの不等式のうちの少なくとも2つを満たす
ことを特徴とする、ディスクブランク材を使用した磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
{|ta1−tb1|≦0.2μm、|ta2−tb2|≦0.2μm、|ta3−tb3|≦0.2μm}・・・[A]
{(ta1−ta2)<0、(ta2−ta3)<0、(tb1−tb2)<0、(tb2−tb3)<0}・・・[B]
{(ta1−ta2)>0、(ta2−ta3)>0、(tb1−tb2)>0、(tb2−tb3)>0}・・・[C]
【請求項3】
不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ不等式群[B]の4つの不等式のうちの2つを満たす、又は、
不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ不等式群[C]の4つの不等式のうちの2つを満たす、
請求項2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
【請求項4】
前記ディスクの板厚は、前記ディスクの厚み方向両側に対向配置された静電容量型変位計の一対のセンサ部を用いて、前記ディスクのおもて面側及び裏面側のそれぞれの物理量に基づいて測定された値である、請求項1から3までの何れか1項に記載のディスクブランク材を使用した磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
【請求項5】
筐体にスピンドルを介して回転可能に支持された1枚又は複数枚の磁気ディスクと、
前記磁気ディスクに対してデータ処理を行う磁気ヘッドと、
当該磁気ヘッドを磁気ディスクに対して移動自在に支持するスイングアームと、
前記スイングアームを回動および位置決めするアクチュエータとを備え、
前記磁気ディスクに使用されるディスクブランク材は、
圧延目を圧延スジ方向と定義し、半径rのディスクの中心から前記圧延スジ方向に平行な方向を0°とし、前記ディスクの主面において右回りを正として極座標(0.72r,45°)で表される位置b1の前記ディスクの板厚をtb1、極座標(0.53r、90°)で表される位置b2の板厚をtb2、極座標(0.72r,135°)で表される位置b3の板厚をtb3、極座標(0.72r,315°)で表される位置a1の板厚をta1、極座標(0.53r,270°)で表される位置a2の板厚をta2、極座標(0.72r,225°)で表される位置a3の板厚をta3と定義したとき、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[D]の4つの不等式の全てを満たす、
ことを特徴とするディスク駆動装置。
{|ta1−tb1|≦0.2μm、|ta2−tb2|≦0.2μm、|ta3−tb3|≦0.2μm}・・・[A]
|ta1−ta2|<0.5μm、|ta2−ta3|<0.5μm、|tb1−tb2|<0.5μm、|tb2−tb3|<0.5μm}・・・[D]
【請求項6】
筐体にスピンドルを介して回転可能に支持された1枚又は複数枚の磁気ディスクと、
前記磁気ディスクに対してデータ処理を行う磁気ヘッドと、
当該磁気ヘッドを磁気ディスクに対して移動自在に支持するスイングアームと、
前記スイングアームを回動および位置決めするアクチュエータとを備え、
前記磁気ディスクに使用されるディスクブランク材は、
圧延目を圧延スジ方向と定義し、半径rのディスクの中心から前記圧延スジ方向に平行な方向を0°とし、前記ディスクの主面において右回りを正として極座標(0.72r,45°)で表される位置b1の前記ディスクの板厚をtb1、極座標(0.53r、90°)で表される位置b2の板厚をtb2、極座標(0.72r,135°)で表される位置b3の板厚をtb3、極座標(0.72r,315°)で表される位置a1の板厚をta1、極座標(0.53r,270°)で表される位置a2の板厚をta2、極座標(0.72r,225°)で表される位置a3の板厚をta3と定義したとき、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[B]の4つの不等式のうちの少なくとも2つを満たすか、又は、下記不等式群の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[C]の4つの不等式のうちの少なくとも2つを満たす
ことを特徴とするディスク駆動装置。
{|ta1−tb1|≦0.2μm、|ta2−tb2|≦0.2μm、|ta3−tb3|≦0.2μm}・・・[A]
{(ta1−ta2)<0、(ta2−ta3)<0、(tb1−tb2)<0、(tb2−tb3)<0}・・・[B]
{(ta1−ta2)>0、(ta2−ta3)>0、(tb1−tb2)>0、(tb2−tb3)>0}・・・[C]
【請求項7】
鋳造、熱間圧延、冷間圧延を行ってアルミニウム合金板を作製するアルミニウム合金板作製工程と、
アルミニウム合金板を円環状に打ち抜いて磁気ディスク用アルミニウム合金基板を作製する打ち抜き工程と、
下記加圧焼鈍工程の前に、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[B]の4つの不等式のうちの少なくとも2つを満たすか、又は、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[C]の4つの不等式のうちの少なくとも2つを満たすアルミニウム合金基板を選別する選別工程と、
前記磁気ディスク用アルミニウム合金基板に加圧焼鈍を施す加圧焼鈍工程と、
を有し、
前記磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、圧延目を圧延スジ方向と定義し、半径rのディスクの中心から前記圧延スジ方向に平行な方向を0°とし、前記ディスクの主面において右回りを正として極座標(0.72r,45°)で表される位置b1の前記ディスクの板厚をtb1、極座標(0.53r、90°)で表される位置b2の板厚をtb2、極座標(0.72r,135°)で表される位置b3の板厚をtb3、極座標(0.72r,315°)で表される位置a1の板厚をta1、極座標(0.53r,270°)で表される位置a2の板厚をta2,極座標(0.72r,225°)で表される位置a3の板厚をta3と定義したとき、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし、且つ下記不等式群[B]の4つの不等式のうちの少なくとも2つを満たすか、又は、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[C]の4つの不等式のうちの少なくとも2つを満たす
ことを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
{|ta1−tb1|≦0.2μm、|ta2−tb2|≦0.2μm、|ta3−tb3|≦0.2μm}・・・[A]
{(ta1−ta2)<0、(ta2−ta3)<0、(tb1−tb2)<0、(tb2−tb3)<0}・・・[B]
{(ta1−ta2)>0、(ta2−ta3)>0、(tb1−tb2)>0、(tb2−tb3)>0}・・・[C]
【請求項8】
前記選別工程は、下記不等式群[D]の4つの不等式のうちの少なくとも1つを満たすアルミニウム合金基板を更に選別する、請求項記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
{|ta1−ta2|<0.5μm、|ta2−ta3|<0.5μm、|tb1−tb2|<0.5μm、|tb2−tb3|<0.5μm}・・・[D]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用アルミニウム合金基板、ディスク駆動装置、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法及び磁気ディスク用アルミニウム合金基板に関し、特に、コンピュータの記録媒体として使用される磁気ディスク用アルミニウム合金基板及び該アルミニウム合金基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピュータにはハードディスクドライブ(以下「HDD」という)といったディスク駆動装置が広く用いられている。HDDは、一般に、データを記録する1枚又は複数枚の磁気ディスクと、磁気ディスクを回転させるスピンドルモータと、磁気ディスクの内径側部分を固定するクランプ部材と、各磁気ディスクに対してデータ処理を行う磁気ヘッドと、当該磁気ヘッドを磁気ディスクに対して移動自在に支持したスイングアームと、当該スイングアームを回動および位置決めするアクチュエータとを備えている。
【0003】
このようなHDDにおいて、高速なデータ処理を行うためには磁気ディスクの高速回転が必要となる。しかしながら、ディスクが高速回転すると、ディスクと共に回転する空気によって気流が発生し、この気流の乱れによりディスクが振動するフラッタリングと呼ばれる現象が生じる。このようなフラッタリングは、磁気ヘッドの浮上安定性を悪化させ、ディスクに対する磁気ヘッドの位置決め精度が低下し、記録密度の向上に支障を生じさせる要因となる。
【0004】
磁気ヘッドの浮上安定性には、磁気ディスクの平坦度が大きく影響することが分かっている。そこで、磁気ディスクの平坦度を小さくする方法(高平坦化)として、磁気ディスクとして使用されるアルミニウム合金板を所定サイズのドーナツ形状に打抜いて作製されたアルミニウム合金基板に荷重を加えながら焼鈍を施す磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法において、打抜かれたアルミニウム合金基板が0.02mm以下の板厚面積和を有するものが提案されている。この製造方法では、上記板厚面積和が、アルミニウム合金基板の圧延方向に平行で、アルミニウム合金基板の外周円の一方から他方に連続するように内周円の外側に5mm離れた板厚測定直線を引いたときに、上記板厚測定直線上でアルミニウム合金基板の外周円の内側に5mm離れた位置の2点を測定開始点および測定終了点とし、上記測定開始点から上記測定終了点までの上記板厚測定直線に対して測定して得られた板厚測定値から、横軸を上記測定開始点から上記測定終了点までの距離、縦軸を板厚として板厚分布線を作成し、該板厚分布曲線の上記測定開始点および上記測定終了点の両板厚測定値を結ぶ基準直線と前記板厚分布曲線とで囲まれた領域の面積和で定義されるとしている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3960533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の製造方法では、圧延方向に関するアルミニウム合金基板の平坦度を小さくすることができるものの、それ以外の方向におけるアルミニウム合金基板の平坦度は不明であり、磁気ディスクの回転時における磁気ヘッドの浮上安定性が十分とは言えず、依然として磁気ディスクに対する磁気ヘッドの位置決め精度が低下し、記録密度の向上に支障を生じさせる可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、アルミニウム合金基板全体の高平坦化を実現して、磁気ヘッドの浮上安定性を更に向上することができる磁気ディスク用アルミニウム合金基板、磁気ディスク駆動装置、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法、及び磁気ディスクの測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題に対して鋭意検討を行った結果、圧延方向に沿って一定方向に形成される圧延目の方向、すなわち圧延スジ方向からの角度及びディスク中心からの距離を用いて、アルミニウム合金基板の複数の所定位置での板厚を定義し、該複数の所定位置の板厚を用いて示される複数の条件式を満たすことで、アルミニウム合金基板全体での良好な板厚分布を得ることができ、アルミニウム合金基板全体の高平坦化を実現して、磁気ヘッドの浮上安定性を更に向上できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
[1]圧延目を圧延スジ方向と定義し、半径rのディスクの中心から前記圧延スジ方向に平行な方向を0°とし、前記ディスクの主面において右回りを正として極座標(0.72r,45°)で表される位置b1の前記ディスクの板厚をtb1、極座標(0.53r、90°)で表される位置b2の板厚をtb2、極座標(0.72r,135°)で表される位置b3の板厚をtb3、極座標(0.72r,315°)で表される位置a1の板厚をta1、極座標(0.53r,270°)で表される位置a2の板厚をta2,極座標(0.72r,225°)で表される位置a3の板厚をta3と定義したとき、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たすか、又は、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[C]の4つの不等式の全てを満たす、
ことを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
{|ta1−tb1|≦0.2μm、|ta2−tb2|≦0.2μm、|ta3−tb3|≦0.2μm}・・・[A]
{(ta1−ta2)<0、(ta2−ta3)<0、(tb1−tb2)<0、(tb2−tb3)<0}・・・[B]
{(ta1−ta2)>0、(ta2−ta3)>0、(tb1−tb2)>0、(tb2−tb3)>0}・・・[C]
[2]下記不等式群[D]の4つの不等式のうちの全てを更に満たす、上記[1]記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
{|ta1−ta2|<0.5μm、|ta2−ta3|<0.5μm、|tb1−tb2|<0.5μm、|tb2−tb3|<0.5μm}・・・[D]
[3]前記ディスクの板厚は、前記ディスクの厚み方向両側に対向配置された静電容量型変位計の一対のセンサ部を用いて、前記ディスクのおもて面側及び裏面側のそれぞれの物理量に基づいて測定された値である、上記[1]又は[2]記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
[4]筐体にスピンドルを介して回転可能に支持された1枚又は複数枚の磁気ディスクと、
前記磁気ディスクに対してデータ処理を行う磁気ヘッドと、
当該磁気ヘッドを磁気ディスクに対して移動自在に支持するスイングアームと、
前記スイングアームを回動および位置決めするアクチュエータとを備え、
前記磁気ディスクは、
圧延目を圧延スジ方向と定義し、半径rのディスクの中心から前記圧延スジ方向に平行な方向を0°とし、前記ディスクの主面において右回りを正として極座標(0.72r,45°)で表される位置b1の前記ディスクの板厚をtb1、極座標(0.53r、90°)で表される位置b2の板厚をtb2、極座標(0.72r,135°)で表される位置b3の板厚をtb3、極座標(0.72r,315°)で表される位置a1の板厚をta1、極座標(0.53r,270°)で表される位置a2の板厚をta2、極座標(0.72r,225°)で表される位置a3の板厚をta3と定義したとき、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たすか、又は、下記不等式群(A)の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[C]の4つの不等式の全てを満たす、
ことを特徴とするディスク駆動装置。
{|ta1−tb1|≦0.2μm、|ta2−tb2|≦0.2μm、|ta3−tb3|≦0.2μm}・・・[A]
{(ta1−ta2)<0、(ta2−ta3)<0、(tb1−tb2)<0、(tb2−tb3)<0}・・・[B]
{(ta1−ta2)>0、(ta2−ta3)>0、(tb1−tb2)>0、(tb2−tb3)>0}・・・[C]
[5]鋳造、熱間圧延、冷間圧延を行ってアルミニウム合金板を作製するアルミニウム合金板作製工程と、
アルミニウム合金板を円環状に打ち抜いて磁気ディスク用アルミニウム合金基板を作製する打ち抜き工程と、
前記磁気ディスク用アルミニウム合金基板に加圧焼鈍を施す加圧焼鈍工程と、
を有し、
前記磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、圧延目を圧延スジ方向と定義し、半径rのディスクの中心から前記圧延スジ方向に平行な方向を0°とし、前記ディスクの主面において右回りを正として極座標(0.72r,45°)で表される位置b1の前記ディスクの板厚をtb1、極座標(0.53r、90°)で表される位置b2の板厚をtb2、極座標(0.72r,135°)で表される位置b3の板厚をtb3、極座標(0.72r,315°)で表される位置a1の板厚をta1、極座標(0.53r,270°)で表される位置a2の板厚をta2,極座標(0.72r,225°)で表される位置a3の板厚をta3と定義したとき、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし、且つ下記不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たすか、又は、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[C]の4つの不等式の全てを満たす、
ことを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
{|ta1−tb1|≦0.2μm、|ta2−tb2|≦0.2μm、|ta3−tb3|≦0.2μm}・・・[A]
{(ta1−ta2)<0、(ta2−ta3)<0、(tb1−tb2)<0、(tb2−tb3)<0}・・・[B]
{(ta1−ta2)>0、(ta2−ta3)>0、(tb1−tb2)>0、(tb2−tb3)>0}・・・[C]
[6]前記加圧焼鈍工程の前に、前記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ前記不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たすか、又は、前記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ前記不等式群[C]の4つの不等式の全てを満たすアルミニウム合金基板を選別する選別工程を更に有する、上記[5]記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
[7]前記選別工程は、下記不等式群[D]の4つの不等式のうちの少なくとも1つを満たすアルミニウム合金基板を更に選別する、上記[6]記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
{|ta1−ta2|<0.5μm、|ta2−ta3|<0.5μm、|tb1−tb2|<0.5μm、|tb2−tb3|<0.5μm}・・・[D]
[8]前記磁気ディスク用アルミニウム合金基板を当該磁気ディスク用アルミニウム基板の周方向に所定角度ずつ回転し、静電容量型変位計の一対のセンサ部を前記磁気ディスク用アルミニウム合金基板の径方向に移動させ、
前記一対のセンサ部で検出された前記磁気ディスク用アルミニウム合金基板のおもて面側及び裏面側のそれぞれの物理量に基づいて前記磁気ディスク用アルミニウム合金基板の板厚を測定する、
ことを特徴とする、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の測定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルミニウム合金基板全体の高平坦化を実現して、磁気ヘッドの浮上安定性を更に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の構成及び板厚の測定位置を概略的に示す平面図である。
図2】(a)及び(b)は、本実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の板厚分布の例を示す平面図である。
図3】(a)〜(c)は、従来の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の板厚分布を示す平面図である。
図4】本実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法を説明するフローチャートである。
図5図1の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の板厚を測定する板厚測定装置の構成を概略的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の構成及び板厚の測定位置を概略的に示す平面図である。
【0014】
図1に示すように、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1は、円盤形状のディスクであり、その中央部に円形状の貫通孔2が同心で設けられている。上記ディスクの基材は、特に限定されないが、アルミニウム製又はアルミニウム合金製であることが好ましい。また、ディスクの厚みは、特に限定されないが、500μm以上1800μm以下である。また、ディスクのサイズは、特に限定されないが、例えばいわゆる3.5インチ、2.5インチが挙げられる。
【0015】
この磁気ディスク用アルミニウム合金基板1は、圧延目を圧延スジ方向と定義し、半径rのディスクの中心Sから上記圧延スジ方向に平行な方向を0°とし、上記ディスクの主面において右回りを正として極座標(0.72r,45°)で表される位置b1の上記ディスクの板厚をtb1、極座標(0.53r、90°)で表される位置b2の板厚をtb2、極座標(0.72r,135°)で表される位置b3の板厚をtb3、極座標(0.72r,315°)で表される位置a1の板厚をta1、極座標(0.53r,270°)で表される位置a2の板厚をta2,極座標(0.72r,225°)で表される位置a3の板厚をta3と定義したとき、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たすか、又は、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[C]の4つの不等式の全てを満たしている。
【0016】
{|ta1−tb1|≦0.2μm、|ta2−tb2|≦0.2μm、|ta3−tb3|≦0.2μm}・・・[A]
{(ta1−ta2)<0、(ta2−ta3)<0、(tb1−tb2)<0、(tb2−tb3)<0}・・・[B]
{(ta1−ta2)>0、(ta2−ta3)>0、(tb1−tb2)>0、(tb2−tb3)>0}・・・[C]
【0017】
上記不等式群[A]は、ディスクの中心Sを通って圧延スジ方向Xに平行な線に関して線対称となる位置の組み合わせ(a1;b1)、(a2;b2)、(a3;b3)を選択し、これら位置での板厚の差を算出し、板厚の差の絶対値のうちの少なくとも2つが0.2μm以下であることを示している。すなわち、板厚の差の絶対値の少なくとも2つが0.2μm以下であれば、圧延スジ方向Xに垂直な方向に関して板厚の偏差が小さいと判断できる。
【0018】
本実施形態において、上記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも1つを満たせばよいが、圧延スジ方向Xに垂直な方向に関して板厚の偏差をより小さくする観点から、上記不等式群[A]の3つの不等式のうちの全てを満たすのが好ましい。
【0019】
上記不等式群[B]は、圧延スジ方向Xに平行な線分上にある位置の組み合わせ(a1;a2)、(a2;a3)、(b1;b2)及び(b2;b3)を選択し、これら位置での板厚の差を算出し、これらの板厚の差がいずれも0未満であることを示している。すなわち、上記板厚の差がいずれも0未満であれば、Xの矢印方向の後方側から前方側に向かって傾斜しており、圧延スジ方向Xに関して一方向勾配を有すると判断できる。
【0020】
上記不等式群[C]は、圧延スジ方向Xに平行な線分上にある位置の組み合わせ(a1;a2)、(a2;a3)、(b1;b2)及び(b2;b3)を選択し、これら位置での板厚の差を算出し、板厚の差がいずれも0より大きいことを示している。すなわち、上記板厚の差がいずれも0より大きければ、Xの矢印方向の前方側から後方側に向かって傾斜しており、圧延スジ方向Xに関して一方向勾配を有すると判断できる。
【0021】
図2(a)及び(b)は、本実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の板厚分布の例を示す平面図である。同図では、白黒の濃淡によって当該位置の板厚を表しており、色が薄い位置(白い部分)では板厚が小さく、色の濃い位置(黒い部分)では板厚が大きいことを示す。
【0022】
図2(a)に示すような磁気ディスク用アルミニウム合金基板では、上記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし、且つ下記不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たしている。これにより、圧延スジ方向Xに垂直な方向に関して板厚の偏差が小さく、且つ圧延スジ方向Xに関して一方向勾配を有しており、磁気ディスク用アルミニウム合金基板全体として良好な板厚分布であることが分かる。
【0023】
また、図2(b)に示すような磁気ディスク用アルミニウム合金基板では、上記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも1つを満たし且つ下記不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たし、更に、下記不等式群[D]の4つの不等式の全てを満たしている。
{|ta1−ta2|<0.5μm、|ta2−ta3|<0.5μm、|tb1−tb2|<0.5μm、|tb2−tb3|<0.5μm}・・・[D]
【0024】
上記不等式群[D]は、圧延スジ方向Xに平行な線分上にある位置の組み合わせ(a1;a2)、(a2;a3)、(b1;b2)及び(b2;b3)を選択し、これらの位置での板厚の差の絶対値を算出し、板厚の差の絶対値の全てが0.5μm未満であることを示している。すなわち、上記板厚の差の絶対値の全てが0.5μm未満であれば、圧延スジ方向Xに関する勾配の度合いが緩やかであり、圧延スジ方向Xに平行な方向に関して板厚の偏差が小さいと判断できる。
【0025】
これにより、圧延スジ方向Xに垂直な方向に関して板厚の偏差が小さく、且つ圧延スジ方向Xに関して一方向勾配を有し、更には圧延スジ方向Xに平行な方向に関して板厚の偏差が小さく、磁気ディスク用アルミニウム合金基板全体としてより良好な板厚分布であることが分かる。
【0026】
図3(a)〜(c)は、従来の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の板厚分布を示す平面図である。
図3(a)の従来の磁気ディスク用アルミニウム合金基板では、上記不等式群[A]の3つの不等式のうちの1つを満たすのみであり、また、上記不等式群[B]の4つの不等式の2つを満たすのみである。更に、上記不等式群[D]の4つの不等式のうちの3つを満たすのみである。よって、圧延スジ方向Xに垂直な方向に関して板厚の偏差が大きく、また、圧延スジ方向Xに関して一方向勾配を有しておらず、磁気ディスク用アルミニウム合金基板全体としては板厚分布が良好でないことが分かる。
【0027】
また、図3(b)の従来の磁気ディスク用アルミニウム合金基板では、上記不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たすものの、上記不等式群[A]の3つの不等式のうちのいずれも満たさない。更に、上記不等式群[D]の4つの不等式のうちの2つを満たすのみである。よって、圧延スジ方向Xに垂直な方向に関して板厚の偏差が大きく、磁気ディスク用アルミニウム合金基板全体として板厚分布が良好でないことが分かる。
【0028】
図3(c)の従来の磁気ディスク用アルミニウム合金基板では、上記不等式群[A]の3つの不等式のうちの1つを満たすのみであり、また、上記不等式群[B]の4つの不等式の2つを満たすのみである。更に、上記不等式群[D]の4つの不等式のうちの1つを満たすのみである。よって、圧延スジ方向Xに垂直な方向に関して板厚の偏差が大きく、また、圧延スジ方向Xに関して一方向勾配を有しておらず、更には図3(a)と比較してその勾配が大きく、磁気ディスク用アルミニウム合金基板全体としては板厚分布が良好でないことが分かる。
【0029】
図4は、本実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板及び磁気ディスクの製造方法を説明するフローチャートである。
アルミニウム合金の調製(ステップS11)〜切削加工、研削加工、脱脂、エッチング(ステップS18)は、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を製造する工程であり、ジンケート処理(ステップS19)〜磁性体の付着(ステップS21)は、製造された磁気ディスク用アルミニウム合金基板から磁気ディスクを作製する工程である。
【0030】
まず、所望の成分組成を有するアルミニウム合金の溶湯を、常法にしたがって加熱・溶融することによって調製する(ステップS11)。次いで、調製されたアルミニウム合金の溶湯から半連続鋳造(DC鋳造)法又は連続鋳造(CC)法等によりアルミニウム合金を鋳造する(ステップS12)。鋳造時の冷却速度は、例えば、0.1〜1000℃/sの範囲が好ましく、鋳造方法としてはDC鋳造法よりも冷却速度が速いCC法の方がより好ましい。
【0031】
次いで、鋳造されたアルミニウム合金の均質化処理を実施する(ステップS13)。本均質化処理は省略することもできるが、実施する場合には、例えば400〜550℃で1時間以上等の条件で行うことが好ましい。次いで、均質化処理をしたアルミニウム合金を熱間圧延し板材とする(ステップS14)。熱間圧延するにあたっては、特にその条件は限定されるものではないが、熱間圧延開始温度は300〜500℃の範囲であることが好ましく、熱間圧延終了温度は260〜400℃の範囲であることが好ましい。
【0032】
次いで、熱間圧延した板を冷間圧延して、約1.0mm程度のアルミニウム合金板とする(ステップS15)。熱間圧延終了後は、冷間圧延によって所要の製品板厚に仕上げる。冷間圧延の条件は、特に限定されるものではないが、必要な製品板強度、板厚等に応じて定めることができ、例えば、圧延率を20〜80%とすることができる。冷間圧延の前又は冷間圧延の途中で、冷間圧延加工性を確保するために焼鈍処理を施してもよい。焼鈍処理を実施する場合には、例えばバッチ式の加熱ならば、300〜450℃で0.1〜10時間の条件で行うことが好ましく、連続式の加熱ならば、400〜500℃で0〜60秒間保持の条件で行うことが好ましい。このような工程を経て、アルミニウム合金板を製造することができる。
【0033】
次に、アルミニウム合金板を円環状に打ち抜き、ディスクブランク材である磁気ディスク用アルミニウム合金基板を作製する(ステップS16)。次いで、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を大気中にて、300℃以上400℃以下、30分以上1200分以下の加圧焼鈍を施し、該磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面を平坦化する(ステップS17)。次いで、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を切削加工、研削加工、脱脂、エッチングする(ステップS18)。
【0034】
本実施形態では、ステップS16で打ち抜かれた磁気ディスク用アルミニウム合金基板が、上記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ上記不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たすか、又は、上記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも1つを満たし且つ上記不等式群[C]の4つの不等式の全てを満たしている。また、ステップS17で加圧焼鈍を行った後の磁気ディスク用アルミニウム合金基板も、ステップS16で打ち抜かれた磁気ディスク用アルミニウム合金基板と同様、上記条件を満たしていると推察できる。
【0035】
上記加圧焼鈍工程(ステップS17)の前に、上記条件を満たす磁気ディスク用アルミニウム合金基板を選別する選別工程を有していてもよい。この選別工程は、例えば後述する静電容量型変位計の一対のヘッドを有する板厚測定装置を用い、上記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも1つを満たし且つ上記不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たすか、又は、上記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも1つを満たし且つ上記不等式群[C]の4つの不等式の全てを満たす磁気ディスク用アルミニウム合金基板を選別する。これにより、加圧焼鈍後の磁気ディスク用アルミニウム合金基板全体の平坦度をより小さくすることができる。
【0036】
次いで、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面にジンケート処理(Zn置換処理)を施す(ステップS19)。次いで、ジンケート処理した表面に下地処理(Ni−Pめっき)し(ステップS20)、下地処理した表面にスパッタリングで磁性体を付着させる(ステップS21)。このような工程を経て、アルミニウム合金板から磁気ディスクが得られる。
【0037】
上記製造方法にて得られた磁気ディスクは、ハードディスクドライブ(以下「HDD」という)といったディスク駆動装置に適用される。ディスク駆動装置の構成は、特に限定されないが、例えば、筐体と、該筐体にスピンドルを介して回転可能に支持された1枚又は複数枚の磁気ディスクと、前記磁気ディスクに対してデータ処理を行う磁気ヘッドと、当該磁気ヘッドを磁気ディスクに対して移動自在に支持するスイングアームと、前記スイングアームを回動および位置決めするアクチュエータとを備える。
【0038】
上記磁気ディスクは、磁気ディスク用アルミニウム合金基板と同様、圧延目を圧延スジ方向と定義し、半径rのディスクの中心から圧延スジ方向に平行な方向を0°とし、前記ディスクの主面において右回りを正として極座標(0.72r,45°)で表される位置b1の前記ディスクの板厚をtb1、極座標(0.53r、90°)で表される位置b2の板厚をtb2、極座標(0.72r,135°)で表される位置b3の板厚をtb3、極座標(0.72r,315°)で表される位置a1の板厚をta1、極座標(0.53r,270°)で表される位置a2の板厚をta2、極座標(0.72r,225°)で表される位置a3の板厚をta3と定義したとき、下記不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たすか、又は、下記不等式群(A)の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ下記不等式群[C]の4つの不等式の全てを満たしている。
【0039】
上記のように構成されるディスク駆動装置では、磁気ディスク全体が高平坦化されているため、高速回転中の磁気ディスクのフラッタリングが抑制され、磁気ヘッドの浮上安定性を更に向上することが可能となる。
【0040】
図5は、図1の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の板厚を測定する板厚測定装置の構成を概略的に示す側面図である。この板厚測定装置は、例えば、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法における上記選別工程にて、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の板厚を測定する際に用いることができる。
【0041】
図5に示すように、板厚測定装置10は、ベース部11と、ベース部11に回転可能に取り付けられた軸部12と、前記軸部12の上端部12aに設けられ、円環状に打ち抜かれた磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の内周縁部を把持する把持部13と、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の厚み方向両側に対向配置された一対のセンサ部14,14と、ベース部11に取り付けられ、一対のセンサ部14,14を磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の径方向に移動するステージ15と、一対のセンサ部14,14をステージ15に固定する断面略コの字型の固定部16と、一対のセンサ部14,14と接続され、一対のセンサ部14,14で検出された磁気ディスク用アルミニウム合金基板1のおもて面側及び裏面側のそれぞれの物理量に基づいて磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の厚みを測定する静電容量型変位計17とを備える。
【0042】
板厚測定装置10を用いて板厚を測定する場合、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1を把持部12を介して軸部11に固定し、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1を当該磁気ディスク用アルミニウム基板の周方向に所定角度ずつ回転し、一対のセンサ部14,14を磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の径方向に移動させる。また、一対のセンサ部14,14で検出された磁気ディスク用アルミニウム合金基板1のおもて面1a側及び裏面1b側のそれぞれの物理量に基づいて磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の板厚を測定する。また、測定前に他の板厚計で測定済みの標準サンプルで校正してから測定を行うのが好ましい。上記標準サンプルとしては、例えば、複数の磁気ディスク用アルミニウム合金基板から無作為に1枚選出してその一部のみ測定したものを用いる。
【0043】
上記物理量とは、一対のセンサ部14,14で検出された磁気ディスク用アルミニウム合金基板1のおもて面1a側及び裏面1b側のそれぞれの静電容量を指す。静電容量型変位計17は、これらの静電容量を電圧に変換し、一対のセンサ部14,14の各センサ部と測定対象である磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の主面との距離に比例した上記電圧に基づいて、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の厚さを算出する。これにより、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の所望の位置での板厚を測定することが可能であり、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1全体の板厚分布を取得することができる。
【0044】
磁気ディスク用アルミニウム合金基板1全体の板厚分布を取得する場合、例えば、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の内周縁部近傍の任意位置に一対のセンサ部14,14を位置させ、当該位置をスタート地点として5°ずつ回転させて、例えば圧延スジ方向を0°として0°〜360°まで、すなわち1周分の72箇所を測定する。その後、一対のセンサ部14,14を径方向外側に3mm移動し、上記と同様にして5°ずつ回転させて1周分の72箇所を測定する。そして、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の外径に相当する位置まで、一対のセンサ部14,14を径方向外側に3mmずつ移動し、上記と同様の測定を繰り返して行う。
【0045】
上記板厚分布を取得する際、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の回転角度単位は、5°に限らず、例えば45°などの他の回転角度単位であってもよい。また、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の1周分の測定を行う場合に、測定半径は一定でなくてもよく、回転位置に応じて測定半径を変更してもよい。また、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1全体の板厚分布を取得する方法は上記に限らず、判定処理の簡略化、高速化の観点から、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1の所定の複数位置、例えば図1に示すような6つの位置での板厚を測定し、測定された複数の板厚を用いた上記の条件式を満たすか否かで、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1全体の板厚分布が良好であるか否かを判定することができる。これにより、磁気ディスク用アルミニウム合金基板1全体の板厚分布が良好であるか否かを容易に判定することができる。また、板厚測定装置10を用いて、上記と同様の方法により、磁気ディスク全体の板厚分布を取得し、あるいは磁気ディスク全体の板厚分布が良好であるか否かを判定することもできる。
【0046】
以上、上記実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板、ディスク駆動装置、磁気ディスク用アルミニウム合金基板及び磁気ディスク用アルミニウム合金基板の測定方法について述べたが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づき、各種の変形および変更が可能である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例1〜2及び比較例1〜2)
先ず、Mg:3.8mass%、Cu:0.02mass%、Zn:0.3mass%、Cr:0.05mass%、Si:0.01mass%、Fe:0.01mass%を含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からなる成分組成を有するアルミニウム合金の溶湯を、常法にしたがって加熱・溶融することによって調製し、次いで、調製されたアルミニウム合金の溶湯から半連続鋳造(DC)法により冷却速度1.0℃/sでアルミニウム合金を鋳造した。次いで、アルミニウム合金鋳塊について10mmの面削を行った後、530℃で3時間の均質化処理を行い、開始温度450℃で熱間圧延し、更に圧延率57%で冷間圧延して、アルミニウム合金板を製造した。その後、アルミニウム合金板を円環状に打ち抜き、ディスクブランク材である磁気ディスク用アルミニウム合金基板を作製した。
【0048】
次いで、図5に示すような板厚測定装置を準備し、上記で作製された磁気ディスク用アルミニウム合金基板を測定対象として、該磁気ディスク用アルミニウム合金基板の上下に一対のセンサ部を対向配置し、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の回転移動と一対のセンサの径方向への直線移動により、図1に示すような6つの位置a1,a2,a3,b1,b2,b3にて、板厚ta1,ta2,ta3,tb1,tb2,tb3を測定した。
【0049】
そして、不等式群[A]〜[D]の各項目に対応する板厚の差を求め、不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たすか、又は、不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ不等式群[C]の4つの不等式の全てを満たす場合を、良好「〇」とした。
【0050】
また、不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たし、更に不等式群[D]の4つの不等式の全てを満たす場合か、又は、不等式群[A]の3つの不等式のうちの少なくとも2つを満たし且つ不等式群[C]の4つの不等式の全てを満たし、更に不等式群[D]の4つの不等式の全てを満たした場合を、極めて良好「◎」とした。
【0051】
一方、不等式群[A]の3つの不等式のうちの1つを満たすか1つも満たさない場合、不等式群[B]の4つの不等式のいずれかを満たさない場合、又は、不等式群[C]の4つの不等式のいずれかを満たさない場合を、不良「×」とした。
【0052】
また、作製された各磁気ディスク用アルミニウム合金基板のおもて面及び裏面の平坦度を算出し、その平均値を求めた。平坦度は、斜入射方式の平坦度測定機(コーニング・トロペル社製、装置名「FlatMaster」)によって算出し、平坦度の平均値が4.4μm以下である場合を良好と判断した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、実施例1では、不等式群[A]の3つの不等式の全てを満たし、且つ不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たしており、磁気ディスク用アルミニウム合金基板全体の板厚分布が良好であることが分かった。また、磁気ディスク用アルミニウム合金基板のおもて面と裏面の平坦度の平均値は3.785μmであり、平坦度が良好であることが確認された。
【0055】
実施例2では、不等式群[A]の3つの不等式の全てを満たし、且つ不等式群[B]の4つの不等式の全てを満たし、更に不等式群[D]の4つの不等式の全てを満たしており、磁気ディスク用アルミニウム合金基板全体の板厚分布が更に良好であることが分かった。また、磁気ディスク用アルミニウム合金基板のおもて面と裏面の平坦度の平均値は3.0015μmであり、平坦度が更に良好であることが確認された。
【0056】
一方、比較例1では、不等式群[A]の3つの不等式のうちの1つしか満たさず、また、不動式群[B](又は不等式群[C])の4つの不等式の2つしか満たさず、磁気ディスク用アルミニウム合金基板全体の板厚分布が不良であることが分かった。また、磁気ディスク用アルミニウム合金基板のおもて面と裏面の平坦度の平均値は4.9505μmであり、実施例1〜2の平坦度の平均値よりも劣った。
【0057】
また、比較例2では、不等式群[A]の3つの不等式の1つも満たさず、また、不動式群[B](又は不等式群[C])の4つの不等式の2つしか満たさず、磁気ディスク用アルミニウム合金基板全体の板厚分布が不良であることが分かった。また、磁気ディスク用アルミニウム合金基板のおもて面と裏面の平坦度の平均値は4.4885μmであり、実施例1〜2の平坦度の平均値よりも劣った。
【符号の説明】
【0058】
1 磁気ディスク用アルミニウム合金基板
2 貫通孔
10 板厚測定装置
11 ベース部
12 軸部
13 把持部
14,14 一対のセンサ部
15 ステージ
16 固定部
17 静電容量型変位計
S 中心
r 半径
X 圧延スジ方向
図1
図2
図3
図4
図5