特許第6895920号(P6895920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6895920耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法、シラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体、耐熱性製品、電線及び光ファイバケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6895920
(24)【登録日】2021年6月10日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法、シラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体、耐熱性製品、電線及び光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/24 20060101AFI20210621BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20210621BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20210621BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20210621BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20210621BHJP
   H01B 3/00 20060101ALI20210621BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20210621BHJP
   H01B 7/295 20060101ALI20210621BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20210621BHJP
   G02B 6/44 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   C08J3/24 ACES
   C08L23/00
   C08K5/14
   C08K5/54
   C08K5/20
   H01B3/00 A
   H01B3/44 P
   H01B7/295
   H01B7/02 Z
   G02B6/44 301A
【請求項の数】11
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2018-68862(P2018-68862)
(22)【出願日】2018年3月30日
(65)【公開番号】特開2019-178247(P2019-178247A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2019年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 崇範
(72)【発明者】
【氏名】千葉 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃一
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/056634(WO,A1)
【文献】 特開2017−155238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/24
C08K 5/14
C08K 5/20
C08K 5/54
C08L 23/00
G02B 6/44
H01B 3/00
H01B 3/44
H01B 7/02
H01B 7/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)
工程(1):ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01〜0.5質量部と、無機フィラー0〜250質量部と、前記有機過酸化物から発生したラジカルの存在下で前記ポリオレフィン樹脂とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1〜15質量部と、シラノール縮合触媒と、脂肪酸アミド化合物0.05〜2質量部を溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって、前記グラフト化反応部位とポリオレフィン樹脂とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含む反応組成物を得る工程
工程(2):前記反応組成物を成形して成形体を得る工程
工程(3):前記成形体を水と接触させて耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を得る工程
を有する耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法であって、
前記工程(1)が、下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有する、
工程(a):前記ポリオレフィン樹脂の一部と、前記有機過酸化物と、前記無機フィラーと、前記シランカップリング剤と、前記脂肪酸アミド化合物とを、前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ポリオレフィン樹脂とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ポリオレフィン樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記触媒マスターバッチとを溶融混合して、前記反応組成物を得る工程
耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記脂肪酸アミド化合物が、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド及びベヘニン酸アミドからなる群より選ばれた少なくとも1つを含む請求項1に記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記脂肪酸アミド化合物が、エルカ酸アミドである請求項1に記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(1)において無機フィラーの配合量が5〜250質量部であり、
前記工程(a)が、下記工程(a−1)及び(a−2)を有し、前記脂肪酸アミド化合物が少なくとも工程(a−2)で溶融混合される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法。
工程(a−1):前記有機過酸化物と前記無機フィラーと前記シランカップリング剤とを混合する工程
工程(a−2):前記混合物と前記ポリオレフィン樹脂の一部を前記有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ポリオレフィン樹脂とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン樹脂、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム及びスチレン系エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記無機フィラーが、金属水和物、タルク、クレー、シリカ及びカーボンブラックからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の前記工程(1)により製造されてなるシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法により製造されてなる耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体。
【請求項9】
請求項8に記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を含む耐熱性製品。
【請求項10】
請求項8に記載の前記耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を被覆層として金属導体表面に有する電線。
【請求項11】
請求項8に記載の前記耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を被覆層として光ファイバ表面に有する光ファイバケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法、シラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体、耐熱性製品、電線及び光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線、チューブ、ケーブル、コード、光ファイバ心線(光ファイバを樹脂層で被覆したもの)又は光ファイバコード(光ファイバケーブル)等の配線材は、例えば、ポリオレフィン樹脂からなる被覆層を有している。この被覆層を形成するポリオレフィン樹脂を架橋すると、被覆層の耐熱性を向上させることができる。
ポリオレフィン樹脂を架橋する方法として、特殊な設備を要しない等の利点を有するシラン架橋法が知られている。シラン架橋法では、まず、有機過酸化物の存在下で、加水分解性シリル基と不飽和基とを有するシランカップリング剤をポリオレフィン樹脂にグラフト反応させたシラングラフト樹脂を調製する。次いで、得られたシラングラフト樹脂をシラノール縮合触媒の存在下で水分と接触させることにより、加水分解性シリル基を縮合する。このようにして、ポリオレフィン樹脂をシラン架橋させることができる。
【0003】
シラン架橋法を応用した例として、例えば、特許文献1には、ポリオレフィン樹脂及び無水マレイン酸樹脂を混合してなる樹脂成分にシランカップリング剤で表面処理した無機フィラー、シランカップリング剤、有機過酸化物及び架橋触媒をニーダーにて十分に溶融混練した後に、単軸押出機にて成形する方法が提案されている。
特許文献2には、ベース樹脂にシラン基がグラフトされたシラン材、酸化防止剤、滑剤、及び難燃剤を含有した樹脂組成物を絶縁層とする、シラン架橋電線の製造方法であって、特定の融点を有する滑剤、例えばエルカ酸アミド、を使用する製造方法が提案されている。
特許文献3には、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトオレフィン系樹脂よりなるシラングラフトバッチと、オレフィン系樹脂に金属水酸化物よりなる難燃剤を配合してなる難燃剤バッチと、オレフィン系樹脂にシラン架橋触媒を配合してなる触媒バッチを混練し、水架橋する難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂の製造方法において、ステアリン酸、脂肪酸アミド等の滑剤を難燃材バッチに添加することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−101928号公報
【特許文献2】特開2014−067594号公報
【特許文献3】特開2008−297453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に耐熱電線及び光ファイバケーブルは、使用環境によって機械特性、耐熱性、難燃性を始めとする様々な特性が要求される。さらに外観に優れた耐熱電線及び光ファイバケーブルも求められる。これらに加えて電線及び光ファイバケーブルの端部には、種々の部品への接続のために、良好な端末加工性が求められる。電線及び光ファイバケーブルにおいてこの端末加工性の重要な指標の1つとして、被覆材と金属導体又は光ファイバとの密着力が挙げられる。
本発明は、脂肪酸アミド化合物を滑剤として用い、金属導体又は光ファイバに対する密着力及び外観に優れた、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を製造できる製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造に適したシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体、これを用いた耐熱性製品、電線及び光ファイバケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定量の、ポリオレフィン樹脂とシランカップリング剤と有機過酸化物と脂肪酸アミド化合物を用いて調製したシランマスターバッチと、シラノール縮合触媒を含む触媒マスターバッチとを混合する特定の製造方法により耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を製造すると、得られる耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体に、金属導体又は光ファイバに対する密着力、外観、及び耐熱性の各特性を優れたレベルで付与できることを見出した。本発明者らはこの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
〔1〕
下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)
工程(1):ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01〜0.5質量部と、無機フィラー0〜250質量部と、前記有機過酸化物から発生したラジカルの存在下で前記ポリオレフィン樹脂とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1〜15質量部と、シラノール縮合触媒と、脂肪酸アミド化合物0.05〜2質量部を溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって、前記グラフト化反応部位とポリオレフィン樹脂とを、グラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含む反応組成物を得る工程
工程(2):前記反応組成物を成形して成形体を得る工程
工程(3):前記成形体を水と接触させて耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を得る工程
を有する耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法であって、
前記工程(1)が、下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有する、
工程(a):前記ポリオレフィン樹脂の一部と、前記有機過酸化物と、前記シランカップリング剤と、前記脂肪酸アミド化合物と、前記無機フィラーを含む場合には前記無機フィラーとを、前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ポリオレフィン樹脂とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ポリオレフィン樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記触媒マスターバッチとを溶融混合して、前記反応組成物を得る工程
耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法。
〔2〕
前記脂肪酸アミド化合物が、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド及びベヘニン酸アミドからなる群より選ばれた少なくとも1つを含む〔1〕に記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法。
〔3〕
前記脂肪酸アミド化合物が、エルカ酸アミドを含む〔1〕に記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法。
〔4〕
前記工程(1)において無機フィラーの配合量が5〜250質量部であり、
前記工程(a)が、下記工程(a−1)及び(a−2)を有し、前記脂肪酸アミド化合物が少なくとも工程(a−2)で溶融混合される、〔1〕〜〔3〕のいずれか1つに記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法。
工程(a−1):前記有機過酸化物と前記無機フィラーと前記シランカップリング剤とを混合する工程
工程(a−2):前記混合物と前記ポリオレフィン樹脂の一部を前記有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ポリオレフィン樹脂とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
〔5〕
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン樹脂、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム及びスチレン系エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種である〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法。
〔6〕
前記無機フィラーが、金属水和物、タルク、クレー、シリカ及びカーボンブラックからなる群より選ばれた少なくとも1種である〔1〕〜〔5〕のいずれか1つに記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法。
〔7〕
〔1〕〜〔6〕のいずれか1つに記載の前記工程(1)により製造されてなるシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物。
〔8〕
〔1〕〜〔6〕のいずれか1つに記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法により製造されてなる耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体。
〔9〕
請求項8に記載の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を含む耐熱性製品。
〔10〕
〔8〕に記載の前記耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を被覆層として金属導体表面に有する電線。
〔11〕
〔8〕に記載の前記耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を被覆層として光ファイバ表面に有する光ファイバケーブル。
【0007】
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法は、金属導体又は光ファイバに対する優れた密着力及び外観を兼ね備えた耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を製造できる。
したがって、本発明により、金属導体又は光ファイバに対する優れた密着力及び外観を兼ね備えた耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体及びその製造方法、並びに耐熱性製品、電線及び光ファイバケーブルを提供できる。また、このような優れた特性を示す耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を形成可能な、シラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本発明において用いる各成分について説明する。
【0010】
<脂肪酸アミド化合物>
脂肪酸アミド化合物は、シランマスターバッチに配合され、シランマスターバッチの流動性を高めて、シランマスターバッチと触媒マスターバッチとの溶融混合の際に、各成分(例えば、シラノール縮合触媒)の分散をより均一にする作用を有すると考えられる。また、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の表面において、金属導体又は光ファイバとの密着力を制御する作用を有する。
脂肪酸アミド化合物は、脂肪酸部分の炭素原子数が18〜22であるアミド(例えば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド等)を含むことが好ましい。
脂肪酸アミド化合物は、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド及びベヘニン酸アミドからなる群より選ばれた少なくとも1つを含むことが好ましい。耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の表面に移行しやすく、少量でも高い滑剤効果が得られる点で、エルカ酸アミドがより好ましい。
【0011】
<ポリオレフィン樹脂>
ポリオレフィン樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物を単独重合又は共重合して得られる重合体からなる樹脂であれば特に限定されるものではなく、従来、樹脂組成物に使用されている公知のものを使用することができる。
ポリオレフィン樹脂に包含される樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂、及び、これらのゴム若しくはエラストマー等の各樹脂が挙げられる。ゴム若しくはエラストマーとしては、例えば、エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム、スチレン系エラストマー、エチレンアクリルゴム等が挙げられる。
本発明において、ポリオレフィン樹脂又は樹脂成分は、それぞれ、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン樹脂、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム、スチレン系エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
ポリオレフィン樹脂は、鉱物性オイルを含んでいてもよい。
【0012】
(ポリエチレン樹脂)
ポリエチレン樹脂は、エチレン構成成分を含む重合体の樹脂であればよく、エチレンのみからなる単独重合体、エチレンとα−オレフィン(好ましくは5mol%以下)との共重合体(ポリプロピレンに該当するものを除く)、並びに、エチレンと官能基に炭素、酸素及び水素原子だけを持つ非オレフィン(好ましくは1mol%以下)との共重合体からなる樹脂が包含される。なお、上述のα−オレフィレン及び非オレフィンはポリエチレンの共重合成分として従来用いられる公知のものを特に制限されることなく用いられる。
本発明において用い得るポリエチレン樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)又は超低密度ポリエチレン(VLDPE)が挙げられる。中でも、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖型低密度ポリエチレンが好ましく、直鎖型低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンがより好ましい。ポリエチレン樹脂は1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0013】
(ポリプロピレン樹脂)
ポリプロピレン樹脂は、主成分としてプロピレン構成成分を含む重合体であればよく、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン樹脂)、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体等の樹脂を使用することができる。
エチレン−プロピレンランダム共重合体は、エチレン成分の含有量が1〜10質量%程度のものをいい、エチレン成分がプロピレン鎖中にランダムに取り込まれているものをいう。また、エチレン−プロピレンブロック共重合体は、エチレンやエチレン―プロピレンゴム(EPR)成分の含有量が5〜20質量%程度のものをいい、プロピレン成分の中にエチレンやEPR成分が独立して存在する海島構造であるものをいう。ポリプロピレン樹脂として特に好ましいものは、外観の点で、エチレン―プロピレンランダム共重合体の樹脂である。エチレン成分含有量は、ASTM D3900に記載の方法に準拠して、測定される値である。
【0014】
(エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂)
エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂としては、好ましくは、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体(上述のポリエチレン及びポリプロピレンに該当するものを除く)の樹脂が挙げられる。α−オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、1−プロピレン、1−ブテン、1−へキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン又は1−ドデセンが挙げられる。エチレン−α−オレフィン共重合体は1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0015】
(エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム)
エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムは、エチレンと上記α−オレフィンとの共重合体からなるゴムであれば特に限定されない。例えば、エチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPゴム(EPM))であって、エチレンとプロピレンのゴム状共重合体が挙げられる。ここで、エチレン−プロピレン共重合体ゴムとはエチレン成分含有量が通常40〜75質量%程度のものをいう。エチレン−プロピレン共重合体ゴム中のエチレン成分含有量は、50〜75質量%が好ましく、より好ましくは55〜70質量%である。エチレン成分含有量は、ASTM D3900に記載の方法に準拠して、測定される値である。
【0016】
エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムは、エチレン、α−オレフィン(プロピレン)以外の第三成分として不飽和基を有する繰返し単位を有するエチレン−プロピレンターポリマー(例えば、エチレンとα−オレフィンとジエンとの三元共重合体(EPDM)が挙げられる)を包含する。本発明においては、エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムとして、EPM及びEPDMのいずれか一方、又は、両方を用いてもよい。
【0017】
(酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂)
酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂における酸共重合成分又は酸エステル共重合成分としては、特に制限されないが、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸化合物、並びに、酢酸ビニル及び(メタ)アクリル酸アルキル等の酸エステル化合物が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸アルキルのアルキル基は、炭素数1〜12のものが好ましい。酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体等が挙げられる。酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体は1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0018】
(エチレンアクリルゴム)
エチレンアクリルゴムは、特に限定されないが、構成成分として、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルと、エチレンとを共重合させて得られる共重合体からなるゴム弾性体が好ましい。エチレンとの2元共重合体や、これに更にカルボキシ基を側鎖に有する不飽和炭化水素を共重合させた3元共重合体等の各共重合体からなるゴムを特に好適に使用することができる。2元共重合体からなるエチレンアクリルゴムfとしては、例えば、ベイマックDPやベイマックDLSが挙げられる。3元共重合体からなるエチレンアクリルゴムとしては、例えば、ベイマックG、ベイマックHG、ベイマックLS、ベイマックGLS(商品名、いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)が挙げられる。
【0019】
(スチレン系エラストマー)
スチレン系エラストマーとしては、分子内に芳香族ビニル化合物を構成成分とするものをいう。このようなスチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体及びランダム共重合体、又は、それらの水素添加物等が挙げられる。このようなスチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(水素化SBS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、水素化SIS、水素化スチレン−ブタジエンゴム(HSBR)等を挙げることができる。スチレン系エラストマーは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
ポリオレフィン樹脂、すなわち重合体は、酸変性されていてもよい。酸変性に用いられる酸としては、特に限定されず、通常用いられる不飽和カルボン酸等が挙げられる。
【0021】
(鉱物性オイル)
本発明に用いる鉱物性オイルは、芳香族環を有するオイル、ナフテン環を有するオイル及びパラフィン鎖を有するオイルの三者を含む混合油である。パラフィン系オイルとは、パラフィン鎖の炭素数(CP)が、芳香族環、ナフテン環及びパラフィン鎖の全炭素数に対して例えば50%以上75%未満で、ナフテン鎖の炭素数(CN)が20以上40%未満、芳香族環(CA)の炭素数が3以上10%未満を占めるものをいう。ナフテン系オイルとは、上記全炭素数に対して、CNが40以上60%未満、CPが30%以上50%未満、かつCAが8%以上16%未満のもの、芳香族系オイルとはCAが16%以上のものを、いう。
鉱物性オイル(ゴム用軟化材)としては、パラフィン系オイル又はナフテン系オイルを用いることができ、機械的強度の点でパラフィン系オイルが好ましい。
鉱物性オイルは、40℃における動的粘度が20〜500cSt、流動点が−10〜−15℃、引火点(COC)が180〜300℃を示すものが好ましい。
鉱物性オイルとしては、例えば、「ダイアナプロセスオイル」(商品名、出光興産社製)、「コスモニュートラル」(商品名、コスモ石油ルブリカンツ社製)等を挙げることができる。
【0022】
本発明において、ポリオレフィン樹脂中の上記樹脂成分それぞれの含有率は、用途等に応じて適宜に設定でき、例えば、下記含有率に設定できる。
ポリエチレン樹脂の含有率は、ポリオレフィン樹脂100質量%中、0〜100質量%が好ましく、40〜100質量%がより好ましい。
ポリプロピレン樹脂の含有率は、ポリオレフィン樹脂100質量%中、0〜100質量%が好ましく、シラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を成形に適した流動性に調製でき、外観不良を抑制できる観点から、20〜60質量%がより好ましい。
エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂の含有率は、ポリオレフィン樹脂100質量%中、0〜100質量%が好ましく、20〜100質量%がより好ましく、40〜100質量%が更に好ましい。
エチレン−α−オレフィン共重合体ゴムの含有率は、ポリオレフィン樹脂100質量%中、0〜100質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。
酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体の含有率は、ポリオレフィン樹脂100質量%中、0〜100質量%が好ましい。本発明の作用効果を損なうものではないが、触媒マスターバッチの装置等の金属部への粘着を抑制できる観点からは、0〜50質量%がより好ましく、5〜30質量%が特に好ましい。
エチレンアクリルゴムの含有率は、ポリオレフィン樹脂100質量%中、0〜100質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。
スチレン系エラストマーの含有率は、ポリオレフィン樹脂100質量%中、20質量%以上が好ましく、25〜50質量%がより好ましい。
【0023】
鉱物性オイルの含有率は、ポリオレフィン樹脂100質量%中、0〜40質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。鉱物性オイルの含有率が上記範囲内にあると、ブツの発生を抑制することができ、また鉱物性オイルのブリードアウトを防止できる。その結果、優れた外観を有する耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を製造できる。
【0024】
押出成形時のゲルブツ発生の抑制の観点からは、低密度ポリエチレンと、スチレン系エラストマーと、鉱物性オイルとを組み合わせて用いることも好ましく、この場合の各成分の含有率は、上記範囲に設定することもできるが、ポリオレフィン樹脂100質量%中、低密度ポリエチレン40〜80質量%、スチレン系エラストマー10〜40質量%、及び鉱物性オイル10〜40質量%に設定することが好ましい。
【0025】
<有機過酸化物>
有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、シランカップリング剤の樹脂成分へのラジカル反応によるグラフト化反応(シランカップリング剤のグラフト化反応部位と樹脂成分のグラフト化反応可能な部位との共有結合形成反応であって、(ラジカル)付加反応ともいう。)を生起させる働きをする。特にシランカップリング剤がグラフト化反応部位としてエチレン性不飽和基を含む場合、エチレン性不飽和基とポリオレフィン樹脂とのラジカル反応(樹脂成分からの水素ラジカルの引き抜き反応を含む)によるグラフト化反応を生起させる働きをする。
有機過酸化物としては、ラジカルを発生させるものであれば、特に制限はなく、例えば、一般式:R−OO−R、R−OO−C(=O)R、RC(=O)−OO(C=O)Rで表される化合物が好ましい。ここで、R〜Rは各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基を表す。各化合物のR〜Rのうち、いずれもアルキル基であるもの、又は、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。
【0026】
このような有機過酸化物としては、国際公開第2015/046478号の段落[0037]に記載の有機過酸化物が挙げられ、該記載はここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3が好ましい。
【0027】
有機過酸化物の分解温度は、120〜195℃であるのが好ましく、125〜180℃であるのが特に好ましい。有機過酸化物の分解温度は、後述する工程(a−2)における溶融混合温度以下である。
本発明において、有機過酸化物の分解温度とは、単一組成の有機過酸化物を加熱したとき、ある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解反応を起こす温度を意味する。具体的には、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
【0028】
<無機フィラー>
本発明において、無機フィラーは、その表面に、シランカップリング剤のシラノール基等の反応部位と水素結合若しくは共有結合等、又は分子間結合により、化学結合しうる部位を有するものであれば特に制限なく用いることができる。この無機フィラーにおける、シランカップリング剤の反応部位と化学結合しうる部位としては、OH基(水酸基、含水若しくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
【0029】
無機フィラーとしては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、タルク等の水酸基あるいは結晶水を有する化合物のような金属水和物が挙げられる。また、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボンブラック、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛等が挙げられる。
【0030】
無機フィラーは、シランカップリング剤等で表面処理した表面処理無機フィラーを使用することができる。例えば、シランカップリング剤表面処理無機フィラーとして、キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、水酸化マグネシウム、協和化学工業社製等)等が挙げられる。シランカップリング剤による無機フィラーの表面処理量は、特に限定されないが、例えば、3質量%以下である。
無機フィラーが予め表面処理されていると、無機フィラー同士の凝集が抑制されて、無機フィラーの分散性が高まる。このため、無機フィラーとポリオレフィン樹脂との架橋の機会が増え、耐熱性等が向上すると考えられる。
【0031】
これらの無機フィラーのうち、金属水和物、タルク、クレー、シリカ及びカーボンブラックからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、金属水和物がより好ましい。
無機フィラーは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
無機フィラーが粉体である場合、無機フィラーの平均粒径は、0.2〜10μmが好ましく、0.3〜8μmがより好ましく、0.4〜5μmがさらに好ましく、0.4〜3μmが特に好ましい。平均粒径が上記範囲内にあると、シランカップリング剤の保持効果が高く、耐熱性に優れたものとできる。また、シランカップリング剤との混合時に無機フィラーが2次凝集しにくく、外観に優れたものとなる。平均粒径は、無機フィラーをアルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
【0033】
<シランカップリング剤>
本発明に用いられるシランカップリング剤は、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下でポリオレフィン樹脂とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位(基又は原子)と、無機フィラーの化学結合しうる部位と反応し、シラノール縮合可能な反応部位(加水分解して生成する部位を含む。例えばモノ、ジ若しくはトリアルコキシシリル基等)とを、少なくとも有するものであればよい。このようなシランカップリング剤として、従来、シラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。
【0034】
シランカップリング剤としては、例えば下記の一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0035】
【化1】
【0036】
一般式(1)中、Ra11はエチレン性不飽和基を含有する基、Rb11は脂肪族炭化水素基、水素原子又はY13である。Y11、Y12及びY13は加水分解しうる有機基である。Y11、Y12及びY13は互いに同じでも異なっていてもよい。
【0037】
a11は、グラフト化反応部位であり、エチレン性不飽和基を含有する基が好ましい。エチレン性不飽和基を含有する基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基、p−スチリル基を挙げることができる。中でも、ビニル基が好ましい。
b11は、脂肪族炭化水素基、水素原子又は後述のY13を示す。脂肪族炭化水素基としては、脂肪族不飽和炭化水素基を除く炭素数1〜8の1価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。Rb11は、好ましくは後述のY13である。
【0038】
11、Y12及びY13は、シラノール縮合可能な反応部位(加水分解しうる有機基)を示す。例えば、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、炭素数1〜4のアシルオキシ基が挙げられ、アルコキシ基が好ましい。加水分解しうる有機基としては、具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、アシルオキシ等を挙げることができる。このなかでも、シランカップリング剤の反応性の点から、メトキシ又はエトキシがさらに好ましい。
【0039】
シランカップリング剤としては、好ましくは、加水分解速度の速いシランカップリング剤であり、より好ましくは、Rb11がY13であり、かつY11、Y12及びY13が互いに同じであるシランカップリング剤、又は、Y11、Y12及びY13の少なくとも1つがメトキシ基であるシランカップリング剤である。
【0040】
シランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシシランを挙げることができる。
【0041】
上記シランカップリング剤のなかでも、末端にビニル基とアルコキシ基を有するシランカップリング剤がさらに好ましく、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0042】
シランカップリング剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、そのままで用いても、溶媒等で希釈して用いてもよい。
【0043】
<シラノール縮合触媒>
シラノール縮合触媒は、ポリオレフィン樹脂にグラフトしたシランカップリング剤を水分の存在下で縮合反応させる働きがある。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤を介して、ポリオレフィン樹脂同士が架橋される。その結果、優れた耐熱性を有する耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体が得られる。
【0044】
シラノール縮合触媒としては、特に限定されず、例えば、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。一般的なシラノール縮合触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ナフテン酸鉛、硫酸鉛、硫酸亜鉛、有機白金化合物等が用いられる。
【0045】
<キャリア>
シラノール縮合触媒は、ポリオレフィン樹脂の残部(キャリアともいう)に混合されて、用いられる。キャリアは、ポリエチレン樹脂が好ましい。
【0046】
<添加剤>
本発明では、電線、電気ケーブル、電気コード、自動車用部材、OA機器、建築部材、雑貨、シート、発泡体、チューブ、パイプにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤を、目的とする効果を損なわない範囲で適宜配合してもよい。このような添加剤としては、例えば、架橋助剤、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤や他の樹脂等が挙げられる。
【0047】
架橋助剤は、有機過酸化物の存在下において樹脂成分との間に部分架橋構造を形成する化合物をいう。例えば、多官能性化合物等が挙げられる。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤又はイオウ酸化防止剤等が挙げられる。
【0048】
<耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法>
以下、本発明の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法を説明する。
【0049】
本発明の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法は、下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する。
工程(1):ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01〜0.5質量部と、無機フィラー0〜250質量部と、前記有機過酸化物から発生したラジカルの存在下で前記ポリオレフィン樹脂とグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1〜15質量部と、シラノール縮合触媒と、脂肪酸アミド化合物0.05〜2質量部を溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって、前記グラフト化反応部位とポリオレフィン樹脂とを、グラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含む反応組成物を得る工程
工程(2):前記反応組成物を成形して成形体を得る工程
工程(3):前記成形体を水と接触させて耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を得る工程
【0050】
前記工程(1)は、下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有する。
工程(a):前記ポリオレフィン樹脂の一部と、前記有機過酸化物と、前記無機フィラーと、前記シランカップリング剤と、前記脂肪酸アミド化合物とを、前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ポリオレフィン樹脂とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ポリオレフィン樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記触媒マスターバッチとを溶融混合して、前記反応組成物を得る工程
【0051】
本発明の製造方法において、「ポリオレフィン樹脂」とは、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体又はシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を形成するための樹脂である。したがって、本発明の製造方法においては、工程(1)で得られる反応組成物に100質量部のポリオレフィン樹脂が含有されていればよい。したがって、工程(1)におけるポリオレフィン樹脂の配合量100質量部は、工程(a)及び工程(b)で混合されるポリオレフィン樹脂の合計量である。
ポリオレフィン樹脂は、工程(a)において、好ましくは80〜99質量%、より好ましくは94〜98質量%が配合され、工程(b)において、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは2〜6質量%が配合される。
【0052】
工程(1)において、脂肪酸アミド化合物の配合量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.05〜2質量部であり、0.1〜0.5質量部が好ましい。脂肪酸アミド化合物の配合量を0.05〜2質量部にすることにより、シランマスターバッチの流動性と触媒マスターバッチの流動性との差が小さくなる。その結果、シランマスターバッチと触媒マスターバッチの混合をより均一にでき外観に優れた成形体を得ることができる。また、金属導体又は光ファイバに対する密着力を適切な範囲とできる。
脂肪酸アミド化合物は、工程(a)において溶融混合される。すなわち、脂肪酸アミド化合物の存在下で、上記グラフト化反応を行う。
【0053】
工程(1)において、有機過酸化物の配合量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.01〜0.5質量部であり、0.05〜0.2質量部が好ましい。有機過酸化物の配合量を0.01〜0.5質量部にすることにより、適切な範囲でグラフト化反応を行うことができ、シランカップリング剤同士の縮合を抑制して、耐熱性、場合によっては機械特性、補強性、を十分に得ることができ、また、副反応による樹脂成分の直接架橋が抑制されるため、ゲルブツも発生することなく外観に優れた成形体を得ることができる。
【0054】
無機フィラーは任意成分であるが、配合されることが好ましい。無機フィラーの配合量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0〜250質量部であり、5〜250質量部が好ましく、80〜200質量部がより好ましく、100〜130質量部がさらに好ましい。無機フィラーを250質量部以下で配合することにより、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体に耐熱性、場合によっては配線材に必要な機械特性を付与できる。さらに、成形時や混練時の負荷の上昇を抑えて、二次成形を可能とできる。
【0055】
シランカップリング剤の配合量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、1〜15質量部であり、好ましくは3〜15質量部であり、より好ましくは4〜8質量部である。
シランカップリング剤の配合量が1〜15質量部であると、耐熱性及び外観に優れた成形体を得ることができる。
シランカップリング剤の配合量が1〜15質量部であると、無機フィラーを配合した場合には、無機フィラーの表面にシランカップリング剤が吸着して、シランカップリング剤が混練中に揮発するのを抑制できるため、経済的である。また、吸着しないシランカップリング剤が縮合して、成形体にゲルブツや荒れが生じて外観が悪化することを抑制することができる。さらに、必要により、架橋反応を十分に進行させて優れた耐熱性を発揮させることができる。
【0056】
シランカップリング剤の配合量が4.0質量部を超えて15.0質量部以下であると、より耐熱性に優れた耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を製造することができる。
【0057】
シラノール縮合触媒の配合量は、特に限定されず、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.5質量部、より好ましくは0.001〜0.1質量部である。シラノール縮合触媒の配合量が上述の範囲内にあると、シランカップリング剤の縮合反応による架橋反応がほぼ均一に進みやすく、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の耐熱性及び外観に優れる。また、必要により機械特性、外観及び物性を付与でき、生産性も損なわれない。
【0058】
シランマスターバッチは、ポリオレフィン樹脂の一部と、有機過酸化物と、シランカップリング剤と、無機フィラーを含む場合は無機フィラーと、脂肪酸アミド化合物とを、上記配合量で、混合機に投入し、有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱しながら溶融混練する工程(a)により、上記グラフト化反応を生起させて、調製することができる。
本発明において、「ポリオレフィン樹脂の一部と有機過酸化物と無機フィラーとシランカップリング剤とを溶融混合する」とは、溶融混合する際の混合順を特定するものではなく、どのような順で混合してもよいことを意味する。すなわち、工程(a)における混合順は特に限定されない。
また、工程(a)における脂肪酸アミド化合物と、上記成分との混合順は特に特定されるものではなく、どのような順で混合してもよい。
さらに、ポリオレフィン樹脂の混合方法も特に限定されない。例えば、予め混合調製されたポリオレフィン樹脂を用いてもよく、各成分、例えば樹脂成分それぞれを別々に混合してもよい
【0059】
工程(1)において無機フィラーを配合する場合、とりわけ無機フィラーの配合量が5〜250質量部である場合、上記各成分を、下記工程(a−1)及び(a−2)により、溶融混合することが好ましい。
工程(a−1):前記有機過酸化物と前記無機フィラーと前記シランカップリング剤とを混合する工程
工程(a−2):前記混合物と前記ポリオレフィン樹脂の一部を前記有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部位と前記ポリオレフィン樹脂とをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
また、上記各成分を、下記工程(a−1)及び(a−2)により、溶融混合する場合、脂肪酸アミド化合物は、少なくとも工程(a−2)において溶融混合される。
【0060】
本発明においては、好ましくは、シランカップリング剤は、シランマスターバッチに単独で導入されず、有機過酸化物と無機フィラーと前混合等される。すなわち、少なくとも有機過酸化物、無機フィラー及びシランカップリング剤を混合して混合物を調製する(工程(a−1))。この工程により、表面(化学結合しうる部位)に(シラノール縮合可能な加水分解性シリル基を介して)強い結合でシランカップリング剤が結合又は吸着した無機フィラーと、表面に弱い結合でシランカップリング剤が結合又は吸着した無機フィラーとを調製できる。弱い結合としては、水素結合による相互作用、イオン、部分電荷若しくは双極子間での相互作用、吸着による作用等が挙げられ、強い結合としては、無機フィラー表面の化学結合しうる部位との化学結合等が挙げられる。これにより、工程(a−2)等においてシランカップリング剤の揮発を低減でき、また高い耐熱性の成形体を調製又は製造できる。また、無機フィラーに吸着又は結合しないシランカップリング剤が縮合して溶融混練が困難になることも防止できる。さらに、押出成形の際に所望の形状を得ることもできる。
【0061】
このような混合方法として、好ましくは、有機過酸化物の分解温度未満の温度、好ましくは室温(25℃)で有機過酸化物と無機フィラーとシランカップリング剤を、数分〜数時間程度、乾式又は湿式で混合(分散)した後に、得られた混合物とポリオレフィン樹脂とを溶融混合させる方法が挙げられる(工程(a))。この溶融混合により、有機過酸化物から発生したラジカルによって、シランカップリング剤のグラフト化反応部位とポリオレフィン樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させる。その結果、シランカップリング剤がポリオレフィン樹脂成分に共有結合で結合したシラン架橋性樹脂(シラングラフトポリマー)が合成され、このシラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチが調製される。このグラフト化反応においては、通常、1分子のシランカップリング剤が1つのグラフト化反応可能な部位に付加するが、本発明はこれに限定されない。
上記溶融混合は、好ましくは、バンバリーミキサーやニーダー等のミキサー型混練機で行われる。このようにすると、樹脂成分同士の過剰な架橋反応を防止することができ、外観が優れたものとなる。
【0062】
有機過酸化物の分解温度未満の温度での混合においては、上記分解温度未満の温度が保持されている限り、ポリオレフィン樹脂が存在していてもよい。この場合、ポリオレフィン樹脂とともに無機フィラー及びシランカップリング剤を上記温度で混合(工程(a−1))した後に、溶融混合することが好ましい。すなわち、ポリオレフィン樹脂とシランカップリング剤とのラジカルグラフト化反応を抑えて、これらの混合物(例えば、ドライブレンド物)を調製し、次いで、得られた混合物を更に溶融混合して、上記グラフト化反応を生起させることが好ましい。本発明においては、上記各成分を一度に溶融混合することもできる。この場合、溶融混合時にシランカップリング剤の一部又は全部が無機フィラーに吸着又は結合する。
【0063】
無機フィラーとシランカップリング剤とを混合する方法としては、特に限定されず、有機過酸化物は無機フィラー等と同時に混合されても、また無機フィラーとシランカップリング剤との混合段階のいずれにおいて混合されてもよい。
例えば、有機過酸化物は、シランカップリング剤と混合した後に無機フィラーと混合されてもよいし、シランカップリング剤と分けて別々に無機フィラーに混合されてもよい。本発明においては、有機過酸化物とシランカップリング剤とは実質的に一緒に混合した方がよい。一方、生産条件によっては、シランカップリング剤のみを無機フィラーに混合し、次いで有機過酸化物を混合してもよい。
また、有機過酸化物は、他の成分と混合させたものでもよいし、単体でもよい。
【0064】
無機フィラーとシランカップリング剤と有機過酸化物との混合方法として、湿式処理、乾式処理等の混合方法が挙げられる。具体的には、アルコールや水等の溶媒に無機フィラーを分散させた状態でシランカップリング剤を加える湿式処理、加熱又は非加熱で両者を加え混合する乾式処理、及び、その両方が挙げられる。本発明においては、無機フィラー、好ましくは乾燥させた無機フィラー中にシランカップリング剤を、加熱又は非加熱で加え混合する乾式処理が好ましい。
湿式混合では、シランカップリング剤と無機フィラーとの結力合が強くなるため、シランカップリング剤の揮発を効果的に抑えることができるが、シラノール縮合反応が進みにくくなることがある。一方、乾式混合では、シランカップリング剤が揮発しやすいが、無機フィラーとシランカップリング剤の結合力が比較的弱くなるため、効率的にシラノール縮合反応が進みやすくなる。
【0065】
本発明の製造方法においては、次いで、得られた混合物とポリオレフィン樹脂の一部と、工程(a−1)で混合されていない残余の成分とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上に加熱しながら、溶融混練する(工程(a−2))。これにより、シランカップリング剤のポリオレフィン樹脂への上記グラフト化反応を生起させて、上記シラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチが調製される。このとき、無機フィラーと弱い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤は無機フィラーから脱離してグラフト化反応する。一方、無機フィラーと強い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤は無機フィラーとの結合を保持した状態でグラフト化反応する。
脂肪酸アミド化合物は、この工程(a−2)で溶融混合されることが好ましい。
【0066】
工程(a−2)において、上記成分を溶融混合(溶融混練、混練りともいう)する温度は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(25〜110)℃の温度で、より好ましくは150〜230℃である。この分解温度は樹脂成分が溶融してから設定することが好ましい。上記混合温度であれば、上記成分が溶融し、有機過酸化物が分解、作用して必要なシラングラフト化反応が工程(a−2)において十分に進行する。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
混合方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混合装置は、例えば無機フィラーの配合量に応じて適宜に選択される。混練装置として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。樹脂成分の分散性、及び架橋反応の安定性の面で、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーが好ましい。
また、通常、このような無機フィラーがポリオレフィン樹脂100質量部に対して100質量部を超えて混合される場合、連続混練機、加圧式ニーダー、バンバリーミキサーで混練りするのがよい。
【0067】
工程(a−1)及び工程(a−2)、特に工程(a−2)においては、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずに上述の各成分を混練することが好ましい。これにより、シランカップリング剤の縮合反応を抑えることができ、溶融混合しやすく、また押出成形の際に所望の形状を得ることができる。ここで、「実質的に混合せず」とは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤のシラノール縮合による上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。例えば、工程(a−2)において、シラノール縮合触媒は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して0.01質量部以下であれば、存在していてもよい。
【0068】
工程(1)においては、上記成分の他に用いることができる他の樹脂成分や上記添加剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜に設定される。
工程(1)において、上記添加剤、特に酸化防止剤や金属不活性剤は、いずれの工程で又は成分に混合されてもよいが、キャリアに混合されるのがよい。
工程(1)、特に工程(a−1)及び工程(a−2)において、架橋助剤は実質的に混合されないことが好ましい。架橋助剤が実質的に混合されないと、溶融混合中に樹脂成分同士の架橋が生じにくく、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の外観が優れる。ここで、実質的に混合されないとは、架橋助剤を積極的に混合しないことを意味し、不可避的に混合することを除外するものではない。
【0069】
このようにして、工程(a−1)及び工程(a−2)からなる工程(a)を行い、シランカップリング剤とポリオレフィン樹脂とをグラフト化反応させて、シランマスターバッチ(シランMBともいう)を調製する。こうして得られるシランMBは、後述するように、工程(1)で調製される反応組成物(シラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物)の製造に、好ましくは、後述する触媒マスターバッチとともに、用いられる。シランMBは、後述の工程(2)により成形可能な程度にシランカップリング剤がポリオレフィン樹脂成分にグラフト化反応したシラン架橋性樹脂を含有する混合物である。
【0070】
本発明の製造方法において、次いで、ポリオレフィン樹脂の残部とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチ(触媒MBともいう)を調製する工程(b)を行う。
【0071】
キャリアとしてのポリオレフィン樹脂とシラノール縮合触媒との混合割合は、特に限定されないが、好ましくは、工程(1)における上記配合量を満たすように、設定される。
混合は、均一に混合できる方法であればよく、ポリオレフィン樹脂の溶融下で行う混合(溶融混合)が挙げられる。溶融混合は上記工程(a−2)の溶融混合と同様に行うことができる。例えば、混合温度は、好ましくは120〜200℃、より好ましくは140〜180℃で行うことができる。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
【0072】
工程(b)において、ポリオレフィン樹脂の残部に加えて他の樹脂をキャリアとして用いることができる。すなわち、工程(b)は、ポリオレフィン樹脂の残部、又は、工程(a−2)で用いたポリオレフィン樹脂以外の樹脂と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒MBを調製してもよい。
キャリアが他の樹脂である場合、工程(a−2)においてグラフト化反応を促進させることができるうえ、成形中にブツが生じにくい点で、他の樹脂の配合量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜60質量部、より好ましくは2〜50質量部、さらに好ましくは3〜40質量部である。
【0073】
また、工程(b)において、無機フィラーを用いてもよい。この場合、無機フィラーの配合量は、特には限定されないが、キャリア100質量部に対し、350質量部以下が好ましい。無機フィラーの量を350質量部以下とすることにより、シラノール縮合触媒が適度に分散して架橋が進行しやすい。また、必要により、十分な耐熱性を得ることができる。
【0074】
このようにして調製される触媒MBは、シラノール縮合触媒及びキャリア、所望により添加されるフィラーの(溶融)混合物である。
この触媒MBは、シランMBとともに、工程(1)で調製されるシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物の製造に、マスターバッチセットとして、用いられる。
【0075】
本発明の製造方法において、次いで、シランMBと触媒MBとを混合して、反応組成物を得る工程(c)を行う。この反応組成物は、上記工程(a−2)で合成したシラン架橋性樹脂を含む組成物である。
混合方法は、上述のように均一な反応組成物を得ることができれば、どのような混合方法でもよい。
【0076】
混合は、工程(a−2)の溶融混合と基本的に同様である。DSC等で融点が測定できない成分、例えばエラストマーもあるが、少なくともポリオレフィン樹脂成分等及び有機過酸化物のいずれかが溶融する温度で混練する。溶融温度は、ポリオレフィン樹脂又はキャリアの溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80〜250℃、より好ましくは100〜240℃である。その他の条件、例えば混合(混練)時間は適宜設定することができる。
【0077】
工程(c)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
【0078】
このようにして、工程(a)〜(c)(工程(1))を行い、反応組成物として、シラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物が製造される。
このシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物は、シランカップリング剤がポリオレフィン樹脂にグラフト化したシラン架橋性樹脂を少なくとも含有する。このシラン架橋性樹脂において、シランカップリング剤の、シラノール縮合可能な反応部位は、後述するようにシラノール縮合していない。シラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物は、さらに、シランカップリング剤と未反応の樹脂成分を含んでいてもよい。
工程(1)において無機フィラーを配合する場合、このシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物は、架橋方法の異なるシラン架橋性樹脂を含有する。このシラン架橋性樹脂において、シランカップリング剤の、シラノール縮合可能な反応部位は、無機フィラーと結合又は吸着していてもよいが、後述するようにシラノール縮合していない。したがって、シラン架橋性樹脂は、無機フィラーと結合又は吸着したシランカップリング剤がポリオレフィン樹脂にグラフト化した架橋性樹脂と、無機フィラーと結合又は吸着していないシランカップリング剤がポリオレフィン樹脂にグラフト化した架橋性樹脂とを少なくとも含む。また、シラン架橋性樹脂は、無機フィラーが結合又は吸着したシランカップリング剤と、無機フィラーが結合又は吸着していないシランカップリング剤とを有していてもよい。さらに、シランカップリング剤と未反応の樹脂成分を含んでいてもよい。
上記のように、シラン架橋性樹脂は、シランカップリング剤がシラノール縮合していない未架橋体である。実際的には、工程(c)で溶融混合されると、一部架橋(部分架橋)は避けられないが、得られるシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物について、少なくとも工程(2)での成形における成形性が保持されたものとする。
【0079】
工程(1)において、工程(a)〜(c)は、同時又は連続して行うことができる。
【0080】
本発明の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法は、次いで、工程(2)及び工程(3)を行う。
本発明の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法において、得られた反応組成物を成形して成形体を得る工程(2)を行う。この工程(2)は、反応組成物を成形できればよく、成形体の形態に応じて、適宜に成形方法及び成形条件が選択される。成形方法は、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた押出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。押出成形は、成形体が電線又は光ファイバケーブルである場合に、好ましい。
工程(2)を押出成形により行う場合、成形速度(押出速度)は、特に限定されず、通常、線速で10〜250m/分未満、好ましくは20〜100m/分に設定できる。
【0081】
また、工程(2)は、工程(c)と同時に又は連続して、行うことができる。すなわち、工程(c)の溶融混合の一実施態様として、溶融成形の際、例えば押出成形の際に、又は、その直前に、成形原料を溶融混合する態様が挙げられる。例えば、ドライブレンド等のペレット同士を常温又は高温で混ぜ合わせて成形機に導入(溶融混合)してもよいし、混ぜ合わせた後に溶融混合し、再度ペレット化をして成形機に導入してもよい。より具体的には、シランMBと触媒MBとからなる成形材料を被覆装置内で溶融混練し、次いで、金属導体又は光ファイバの表面に押出被覆して、所望の形状に成形する一連の工程を採用できる。
このようにして、シラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物の成形体が得られる。この成形体はシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物と同様に、一部架橋は避けられないが、工程(2)で成形可能な成形性を保持する部分架橋状態にある。したがって、この発明の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体は、工程(3)を実施することによって、架橋又は最終架橋された成形体とされる。
【0082】
本発明の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法においては、工程(2)で得られた成形体を水と接触させる工程(3)を行う。これにより、シランカップリング剤の、シラノール縮合可能な反応部位が加水分解されてシラノールとなり、成形体中に存在するシラノール縮合触媒によりシラノールの水酸基同士が縮合して架橋反応が起こる。こうして、シランカップリング剤がシラノール縮合して架橋した耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を得ることができる。
この工程(3)の処理自体は、通常の方法によって行うことができる。シランカップリング剤同士の縮合は、常温で保管するだけで進行する。したがって、工程(3)において、成形体を水に積極的に接触させる必要はない。この架橋反応を促進させるために、成形体を水分と接触させることもできる。例えば、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水に接触させる方法を採用できる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0083】
このようにして、本発明の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法が実施され、シラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物から本発明の耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体が製造される。この耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体は、後述するように、シラン架橋性樹脂がシロキサン結合を介して縮合した架橋樹脂を含んでいる。
この耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の一形態は、シラン架橋樹脂を含有する。このシラン架橋樹脂は、上記シラン架橋性樹脂のシランカップリング剤の反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、シランカップリング剤を介して架橋した架橋樹脂を含む。さらに、シランカップリング剤と未反応の樹脂成分及び/又は架橋していないシラン架橋性樹脂を含んでいてもよい。
この耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の別の一形態は、シラン架橋樹脂と無機フィラーとを含有する。ここで、無機フィラーはシラン架橋樹脂のシランカップリング剤に結合していてもよい。したがって、このシラン架橋樹脂は、複数の架橋樹脂がシランカップリング剤により無機フィラーに結合又は吸着して、無機フィラー及びシランカップリング剤を介して結合(架橋)した架橋樹脂と、上記シラン架橋性樹脂のシランカップリング剤の反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、シランカップリング剤を介して架橋した架橋樹脂とを少なくとも含む。また、シラン架橋樹脂は、無機フィラー及びシランカップリング剤を介した結合(架橋)と、シランカップリング剤を介した架橋とが混在していてもよい。さらに、シランカップリング剤と未反応の樹脂成分及び/又は架橋していないシラン架橋性樹脂を含んでいてもよい。
上記工程(a−1)及び(a−2)により無機フィラーと強い結合又は弱い結合を有するシランカップリング剤を含む場合、無機フィラーと強い結合を有するシランカップリング剤は、シラノール縮合触媒による水存在下での縮合反応が生じにくく、無機フィラーとの結合が保持される。このため、樹脂成分と無機フィラーの結合が維持され、シランカップリング剤を介した樹脂成分の架橋が生じる。一方、無機フィラーと弱い結合を有するシランカップリング剤は、無機フィラーの表面から離脱してグラフト化反応し、このようにして生じたグラフト部分のシランカップリング剤が、水分と接触することにより、縮合反応(架橋反応)が生じる。
【0084】
脂肪酸アミド化合物を配合し、有機過酸化物の分解温度以上で、ポリオレフィン樹脂の一部とシランカップリング剤と有機過酸化物とを溶融混合して得られたシランMBを用いることで、押出成形時にブツの発生を抑制でき、外観に優れるとともに良好な端末加工性を有する成形体を得られる。その理由は十分に明らかになっていないが、以下のように考えられる。脂肪酸アミド化合物をシランMBに含有させることで、シランMBの流動性が高まり、通常の触媒MBの流動性と近くなる。すると、シランMBと触媒MBを溶融混合する際に、触媒MBに含まれる成分(例えばシラノール縮合触媒)が局所的に偏ることなくシランMBの成分と均一に分散されるため、押出成形時に成形体表面のブツの発生が抑制される。また、脂肪酸アミド化合物をシランMBに含有させても架橋阻害を起こさせることなく端末加工性を付与することができる。これは、脂肪酸アミド化合物は脂肪酸金属塩と比べてシラノール縮合触媒作用が低いためと考えられる。
【0085】
本発明の製造方法における反応機構の詳細についてはまだ定かではないが、以下のように考えられる。ポリオレフィン樹脂の一部と有機過酸化物とシランカップリング剤とを有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合することにより、有機過酸化物から発生したラジカルによって、シランカップリング剤は、そのグラフト化反応しうる基で樹脂成分の未架橋部分(グラフト化反応可能な部位)と結合して、保持される。このようにして、シランカップリング剤が樹脂成分にグラフト化反応したシラン架橋性樹脂が形成される。このようにして生じたグラフト部分のシランカップリング剤は、その後シラノール縮合触媒と混合され、水分と接触することにより、縮合反応(架橋反応)が生じる。この架橋反応により得られた耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の耐熱性は高くなり、高温でも溶融しない耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を得ることが可能となる。
本発明では、工程(3)で、最終的な架橋反応を行うこともあり、成形時の加工性(押出成形性)を損なうことなく、耐熱性を併せ持つことができる。
【0086】
さらに、本発明の製造方法によりシランカップリング剤を無機フィラーに混合すると、上記のように、シランカップリング剤同士の縮合が抑えられる等により、外観に優れたものとなる。しかも、本発明において、4.0質量部を超えて15.0質量部以下のシランカップリング剤を無機フィラーに混合する場合には、上述したように、工程(1)、特に工程(a−2)での溶融混練時における樹脂成分同士の架橋反応を効果的に抑えることができる。また、シランカップリング剤は無機フィラーに結合しており、工程(1)、特に工程(a−2)での溶融混練中にも揮発しにくく、遊離しているシランカップリング剤同士の反応も効果的に抑えることができる。
【0087】
本発明の製造方法は、耐熱性が要求される製品(半製品、部品、部材も含む。)、密着性が求められる製品、難燃性が要求される製品、ゴム材料等の製品の構成部品又はその部材の製造に適用することができる。したがって、本発明の耐熱性製品は、このような製品とされる。このとき、耐熱性製品は、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を含む製品でもよく、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体のみからなる製品でもよい。
耐熱性製品として、例えば、耐熱性絶縁電線等の電線又はケーブルの被覆材料、ゴム代替電線・ケーブルの材料、その他、難燃電線部品、難燃耐熱シート、難燃フィルム等が挙げられる。また、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、パッキン、クッション材、防震材、電気・電子機器の内部配線及び外部配線に使用される配線材、特に電線や光ファイバケーブルの被覆材料が挙げられる。
【0088】
本発明の製造方法は、上記耐熱性製品のなかでも、特に電線及び光ファイバケーブルの製造に好適に適用され、これらの被覆材料(絶縁体、シース)を形成することができる。好ましくは、耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体を被覆層として、金属導体表面に有する電線、又は光ファイバ表面に有する光ファイバケーブルの製造に適用される。
【0089】
耐熱性製品が電線、ケーブル等の配線材(押出成形品)である場合、上記一連の工程を有する製造方法において、好ましくは、成形材料を押出機(押出被覆装置)内で溶融混練して上記グラフト化反応させることによりシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を調製しながら、このシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を導体等(光ファイバを含む)の外周に押し出して、導体等を被覆する等により、製造できる(工程(c)及び工程(2))(配線材の製造方法)。このときの押出成形機の温度は、樹脂の種類、導体等の引取り速度の諸条件にもよるがシリンダー部で120〜180℃、クロスヘッド部で約160〜210℃程度にすることが好ましい。このような耐熱性製品は、無機フィラーを大量に加えたシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を電子線架橋機等の特殊な機械を使用することなく汎用の押出被覆装置を用いて、導体等の周囲に、又は抗張力繊維を縦添え若しくは撚り合わせた導体の周囲に押出被覆することにより、成形することができる。例えば、導体としては軟銅、銅合金、アルミニウムなどの単線又は撚り線等を用いることができる。また、導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いることもできる。さらに、光ファイバとしては、ガラス製、プラスチック製のものを用いることができる。導体等の周りに形成される絶縁層(本発明のシラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体からなる被覆層)の肉厚は特に限定しないが、通常、0.15〜5mm程度である。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
表1〜3において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。また、各成分について空欄は対応する成分の配合量が0質量部であることを意味する。
【0091】
表1〜表3中に示す各成分(化合物)の詳細を以下に示す。
(ポリオレフィン樹脂)
LLDPE:エボリューSP0540(商品名)、プライムポリマー社製
HDPE:ハイゼックス5305E(商品名)、プライムポリマー社製
PP:サンアロマーPB222A(商品名)、サンアロマー社製
EVA:エバフレックスEV360(商品名)、三井デュポンポリケミカル社製
EEA:NUC6510(商品名)、NUC社製
EPDM:ノーデル3720P(商品名)、ダウ社製
アクリルゴム:ベイマックDP(商品名)、デュポン社製
SEPS:セプトン4077(商品名)、クラレ社製
OIL:パラフィンオイル(ダイアナプロセスPW90(商品名)、出光興産社製)
(シランカップリング剤)
トリメトキシシラン(KBM−1003(商品名)、信越シリコーン社製)
(有機過酸化物)
2,5ジメチル−2,5ジt−ブチルパーオキシ−ヘキサン(パーヘキサ25B(商品名)、日油社製)
(無機フィラー)
金属水和物:水酸化マグネシウム(マグシーズFK621(商品名)、神島化学社製)
タルク:タルク(K−1(商品名)、日本タルク工業社製)
クレー:クレー(SATINTONE SP33(商品名)、BASF社製)
シリカ:シリカ(クリスタライト5X(商品名)、龍森社製)
カーボンブラック:カーボンブラック(旭70(商品名)、旭カーボン社製)
(滑剤)
オレイン酸アミド:オレイン酸アミド(アーモスリップCP(商品名)、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
エルカ酸アミド:エルカ酸アミド(アルフローP10(商品名)、日本油脂社製)
ベヘニン酸アミド:ベヘニン酸アミド(ダイヤミッドBH(商品名)、日本化成社製)
シリコーンガム:シリコーンガム(CF−9150(商品名)、東レダウコーニング社製)
ステアリン酸金属塩:ステアリン酸マグネシウム(NS−M(商品名)、NIケミテック社製)
ポリオレフィンワックス:ポリエチレンワックス(AC−6(商品名)、ハネウェル社製)
(シラノール縮合触媒)
ジオクチルスズジラウレート(アデカスタブOT−1(商品名)、ADEKA社製)
【0092】
各例において、ポリオレフィン樹脂の一部を触媒MBのキャリア樹脂として用いた。
【0093】
(実施例1〜10、12〜18及び比較例1〜10)
表1の「シランマスターバッチ」欄に示す配合割合で、ポリオレフィン樹脂、シランカップリング剤、有機過酸化物、無機フィラー、滑剤を、日本ロール製2Lバンバリーミキサー内に投入し、有機過酸化物の分解温度以上の温度、具体的には190℃において10分混練り後、材料排出温度190〜210℃で排出し、シランMBを得た(工程(a))。こうして得られたシランMBは、ポリオレフィン樹脂にシランカップリング剤がグラフト化反応したシラン架橋性樹脂を含有している。
一方、キャリア樹脂とシラノール縮合触媒とを、表1に示す質量比で、180〜190℃でバンバリーミキサーにて溶融混合し、材料排出温度180〜190℃で排出して、触媒MBを得た(工程(b))。この触媒MBは、キャリア樹脂及びシラノール縮合触媒の溶融混合物である。
【0094】
次いで、シランMBと触媒MBを密閉型のリボンブレンダーに投入し、室温(25℃)で5分ドライブレンドしてドライブレンド物を得た。このときの混合割合は、シランMBについては「触媒マスターバッチと混合したシランマスターバッチ」欄に示す混合割合とし、触媒マスターバッチについては、「触媒マスターバッチ」欄に示す質量割合(シランMBのポリオレフィン樹脂と触媒MBのキャリア樹脂との合計で100質量部となる。)とした。
表1〜3の「触媒マスターバッチと混合したシランマスターバッチ」欄に記載の各混合割合が、シランMBのポリオレフィン樹脂とキャリア樹脂との合計量100質量部に対する混合割合に相当する。
【0095】
次いで、得られたドライブレンド物を、L/D(スクリュー有効長Lと直径Dとの比)=24、スクリュー直径30mmのスクリューを備えた押出機(圧縮部スクリュー温度170℃、ヘッド温度200℃)に導入した。この押出機内でドライブレンド物を溶融混合しながら、裸軟銅線からなる11/0.16TA導体(導体径0.62mm)の外側に肉厚0.84mmで被覆し、外径2.30mmとなるように、線速50m/分で押出・被覆して、被覆導体を得た。
このように上記ドライブレンド物を押出機内で押出成形前に溶融混合すること(工程(c))により、反応組成物としてシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を調製した。このシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物は、上述のシラン架橋性樹脂を含有している。
【0096】
得られた被覆導体を室温(23℃、50%RH)下で24時間放置し、シランカップリング剤の反応部位(トリアルコキシシリル基)を加水分解し、次いでシラノール縮合反応(シラン架橋)させた(工程(3))。このようにして、上記導体を耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体で被覆した各電線を製造した。被覆層としての耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体は上述のシラン架橋樹脂を有している。
【0097】
(実施例11、19〜22)
下記シランMBを用いた以外は、実施例1と同様にして、各電線を製造した。
有機過酸化物、無機フィラー、及びシランカップリング剤を、表1に示す質量比で、東洋精機製10Lヘンシェルミキサーに投入し、室温(25℃)で10分間混合して、粉体混合物を得た(工程(a−1))。次に、このようにして得られた粉体混合物と、表1のシランマスターバッチ欄に示すポリオレフィン樹脂と滑剤とを、表1に示す質量比で、日本ロール製2Lバンバリーミキサー内に投入し、有機過酸化物の分解温度以上の温度、具体的には190℃において10分混練り後、材料排出温度190〜210℃で排出し、シランMBを得た(工程(a−2))。こうして得られたシランMBは、ポリオレフィン樹脂にシランカップリング剤がグラフト化反応したシラン架橋性樹脂を含有している。
【0098】
(比較例11)
表1のシランMB欄に示す配合割合で、ポリオレフィン樹脂、シランカップリング剤、有機過酸化物を2Lバンバリーミキサーを用いて溶融混合して、シラングラフト樹脂を含む組成物を調製し、この組成物と、触媒MB欄に記載の成分とを表1に示す質量比で、前記押出機に投入した以外は、実施例1と同様にして、電線を製造した。
【0099】
上記押出被覆と同様にして得た各ペレット、上記で得た各被覆導体、又は、製造した各電線について、下記試験をし、その結果を表1〜3に示した。
【0100】
[密着力]
導体に対する密着力は、JASO D 618を参考にして評価した。具体的には、以下のようにして行った。
上記で得られた電線を長さ約150mmに切断し、片側の端末部から長さ30mmの被覆層を残して被覆層を取り除いたものを試料とした。導体外径より大きく、かつ電線外径より小さい孔を有する冶具に前記試料の導体部分のみを通し、冶具を固定した状態で導体を引抜速度200mm/minで引き抜いた際の、導体が被覆層から完全に分離するまでの力を測定し、この最大値を密着力とした。
密着力の最大値が20〜40Nのものを「○」で表記し、40Nを越え50N以下のもの又は5N以上20N未満のものを「△」で表記し、50Nを超えるもの又は5N未満のもの(不合格)を「×」で表記した。「高」と付記されているものは、密着力が高すぎるものであり、「低」と付記されているものは、密着力が低すぎるものである。
【0101】
[押出成形性(外観)]
上記各例で調製したドライブレンド物又は溶融反応物(比較例11)を用いてシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物の押出成形性(外観)を、評価した。
各例で調製したドライブレンド物又は溶融反応物(比較例11)を、線速を変更した以外は上記押出被覆と同様に押出被覆して、電線を得た。
この押出被覆において、押出被覆可能な最大の製造スピード(最高線速)により、下記評価基準で、成形性を評価した。ここで、押出被覆可能な最大の製造スピードとは、押出被覆された被覆層において外観不良がなく、かつ、ブツが観察されない線速であって、最高のものとする。ここで、外観不良とは、いわゆるメルトフラクチャーと呼ばれる、成形体表面等の凹凸や荒れをいう。また、ブツとは、架橋によって形成されたゲルブツ又は原料が相溶せずに凝集した凝集ブツをいう。
最高線速が、150m/分以上であった場合を「◎」で表記し、100m/分以上150m/分未満であった場合を「○」で表記し、40m/分以上100mm/分未満であった場合を「△」で表記し、40m/分未満であった場合(不合格)を「×」で表記した。「ブツ」と付記されているものは、ブツが形成されたものである。
【0102】
[加熱変形試験(耐熱性)]
各電線において、被覆層の加熱変形特性を測定した。この試験により、架橋反応の程度(耐熱性シラン架橋樹脂成形体の耐熱性)を評価できる。
加熱変形試験はUL758に準じて行った。測定温度121℃で、各電線に対して長手方向と垂直の方向に400gf(3.92N)の負荷荷重をかけた。このときの、被覆層の変形率([(加熱前の被覆層の厚さ−加熱後の被覆層の厚さ)/加熱前の被覆層の厚さ]×100)が30%未満のものを「○」、30%以上50%未満のものを「△」、50%以上のもの(不合格)を「×」とした。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
表1〜3の結果から、以下のことが分かる。
比較例は、密着力、外観、及び耐熱性のいずれかに劣るものであった。
シランカップリング剤の配合量が少なすぎるシランMBを用いた比較例1は、耐熱性に劣った。
シランカップリング剤の配合量が多すぎるシランMBを用いた比較例2は、ブツが形成され外観に劣った。
有機過酸化物の配合量が少なすぎるシランMBを用いた比較例3は、耐熱性に劣った。
有機過酸化物の配合量が多すぎるシランMBを用いた比較例4は、ブツが形成され外観に劣った。
脂肪酸アミド化合物の配合量が少なすぎるシランMBを用いた比較例5は、密着力が高すぎた。
脂肪酸アミド化合物の配合量が多すぎるシランMBを用いた比較例6は、密着力が低すぎた。
滑剤としてシリコーンガムを配合したシランMBを用いた比較例7は、密着力が高すぎた。
滑剤としてステアリン酸金属塩を配合したシランMBを用いた比較例8は、ブツが形成され外観に劣った。
滑剤としてポリオレフィンワックスを配合したシランMBを用いた比較例9は、密着力が高すぎた。
脂肪酸アミド化合物を触媒MBに配合した比較例10は、ブツが形成され外観に劣った。
触媒MBを調製せず、シラングラフト樹脂とシラノール縮合触媒とエルカ酸アミドとを一括溶融混合した比較例11は、ブツが形成され外観に劣った。
これに対し、脂肪酸アミド化合物を特定量、さらに有機過酸化物、無機フィラー、及びシランカップリング剤を特定量用いて調製したシランMBを用いた実施例1〜22は、密着力、外観、及び耐熱性のいずれにも優れていた。
有機過酸化物、無機フィラー、及びシランカップリング剤を混合してから、ポリオレフィン樹脂と脂肪酸アミド化合物と混合してシランMBを調製した実施例11は、これらの成分を一度に溶融混合してシランMBを調製した実施例6に比較して、耐熱性及び外観等に更に優れていた。