特許第6895936号(P6895936)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

特許6895936表面処理銅箔、並びにこれを用いた銅張積層板及び回路基板
<>
  • 特許6895936-表面処理銅箔、並びにこれを用いた銅張積層板及び回路基板 図000007
  • 特許6895936-表面処理銅箔、並びにこれを用いた銅張積層板及び回路基板 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6895936
(24)【登録日】2021年6月10日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】表面処理銅箔、並びにこれを用いた銅張積層板及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/16 20060101AFI20210621BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20210621BHJP
   C25D 3/38 20060101ALI20210621BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20210621BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   C25D5/16
   C25D7/06 A
   C25D3/38 101
   H05K1/03 630H
   H05K1/09 A
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-184302(P2018-184302)
(22)【出願日】2018年9月28日
(65)【公開番号】特開2020-50941(P2020-50941A)
(43)【公開日】2020年4月2日
【審査請求日】2020年9月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】奥野 裕子
(72)【発明者】
【氏名】宇野 岳夫
(72)【発明者】
【氏名】西 芳正
(72)【発明者】
【氏名】福武 素直
【審査官】 大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−119961(JP,A)
【文献】 特開2014−194067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/16
C25D 3/38
C25D 7/06
H05K 1/03
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を粗化処理して粗化面とした表面処理銅箔であって、三次元粗さ測定器を用いて測定される前記粗化面の表面歪度Sskが−0.300以上0未満の範囲内であり、且つ、頂点曲率算術平均Sscが0.0220nm-1以上0.0300nm-1未満の範囲内である表面処理銅箔。
【請求項2】
前記粗化面の表面歪度Sskが−0.300以上−0.100未満の範囲内であり、且つ、頂点曲率算術平均Sscが0.0250nm-1以上0.0300nm-1未満の範囲内である請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の表面処理銅箔を備える銅張積層板。
【請求項4】
前記表面処理銅箔と、前記表面処理銅箔の粗化面に積層された樹脂基材と、を備え、前記樹脂基材は液晶ポリマーを含有する請求項3に記載の銅張積層板。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の銅張積層板を備える回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面処理銅箔に関する。さらに、本発明は、前記表面処理銅箔を用いた銅張積層板及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
表面を粗化処理して粗化面とした表面処理銅箔は、例えば回路基板の材料として使用される。そして、表面処理銅箔には、回路基板を製造する際に使用される樹脂との密着性(以下「樹脂密着性」と記す)が要求され、得られた回路基板には、信号(例えば高周波信号)の伝送特性が要求される。
【0003】
特許文献1には、粗化面の山頂点の算術平均曲Spcが55mm-1以上である表面処理銅箔と、該表面処理銅箔を用いて製造したプリント配線板とが開示されており、この表面処理銅箔は樹脂密着性が優れている旨が記載されている。また、特許文献2には、極薄銅層の粗化面の表面歪度Sskが−0.3以上0.3以下の範囲内であるキャリア付き銅箔が開示されており、該キャリア付き銅箔がファインピッチ形成性に優れている旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/179416号
【特許文献2】特開2014−194067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、表面処理銅箔には、優れた樹脂密着性が要求されることに加えて、回路基板を製造する際に表面処理銅箔の粗化面に密着された樹脂(例えば液晶ポリマー)がレーザー光の照射により粗化面から除去されやすい性質(以下「レーザー加工性」と記す)が要求される。
本発明は、優れたレーザー加工性を備える表面処理銅箔を提供することを課題とする。また、本発明は、製造が容易な銅張積層板及び回路基板を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る表面処理銅箔は、表面を粗化処理して粗化面とした表面処理銅箔であって、三次元粗さ測定器を用いて測定される粗化面の表面歪度Sskが−0.300以上0未満の範囲内であり、且つ、頂点曲率算術平均Sscが0.0220nm-1以上0.0300nm-1未満の範囲内であることを要旨とする。
また、本発明の他の態様に係る銅張積層板及び回路基板は、上記一態様に係る表面処理銅箔を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表面処理銅箔のレーザー加工性が優れており、銅張積層板及び回路基板の製造が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】粗化面の表面歪度Sskが−0.300以上0未満の範囲内である表面処理銅箔の断面図である。
図2】粗化面の表面歪度Sskが0以上である表面処理銅箔の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態について説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0010】
本実施形態の表面処理銅箔は、表面を粗化処理して粗化面とした表面処理銅箔であって、三次元粗さ測定器を用いて測定される粗化面の表面歪度Sskが−0.300以上0未満の範囲内であり、且つ、頂点曲率算術平均Sscが0.0220nm-1以上0.0300nm-1未満の範囲内である。
ここで、表面歪度Sskは、平均面を中心とした表面の高さの対称性の度合いを表すものであり、ISO25178−2に規定されている(下記式を参照)。また、頂点曲率算術平均Sscは、様々な山構造の平均サミット曲率である(下記式を参照)。
【0011】
【数1】
【0012】
【数2】
【0013】
上記式において、Sqは二乗平均平方根高さ、z(x,y)はx,y座標における高さ方向の座標、Nは三次元粗さ測定範囲内における頂点個数である。
このような本実施形態の表面処理銅箔は、優れた樹脂密着性及びレーザー加工性を備えている。よって、本実施形態の表面処理銅箔は、例えば、高周波伝送用銅張積層板等の銅張積層板や高周波伝送用回路基板等の回路基板を製造する際に使用する表面処理銅箔として好適である。
【0014】
三次元粗さ測定器を用いて測定される粗化面の表面歪度Sskが−0.300以上0未満の範囲内であれば、レーザー加工性が良好である。表面歪度Sskが−0.300以上0未満の範囲内であれば、粗化面は、図1に示すように、粗化粒子の間に細かい谷構造を多く有する構造となる。このような構造では、粗化粒子の間に入り込んだレーザー光が繰り返し反射されて、粗化粒子の根元付近に密着された樹脂(例えば液晶ポリマー)まで除去されやすく、レーザー加工性が優れている。ただし、表面歪度Sskが−0.300未満であると、粗化粒子の間の谷構造が細長くなり過ぎ、粗化粒子の根元までレーザー光が届きにくくなるので、レーザー加工性が低下するおそれがある。
【0015】
一方、表面歪度Sskが正の値(0以上)であると、粗化面は、図2に示すように、粗化面上に細長い凸部が点在する構造になる。その結果、照射されたレーザー光が粗化粒子によって繰り返し反射されることが期待できにくくなるため、粗化粒子の根元付近に密着された樹脂の除去のために長時間のレーザー光照射が必要となり、レーザー加工性が低下するおそれがある。
【0016】
優れたレーザー加工性が奏されるためには、表面処理銅箔の粗化面の表面歪度Sskは負の値(0未満)である必要があるが、−0.100未満であることが好ましい。
表面処理銅箔の粗化面の表面歪度Sskは、例えば粗化面に対して垂直をなす位置から、例えば白色光干渉式三次元粗さ測定器等の三次元粗さ測定器を用いて測定することができる。
【0017】
また、三次元粗さ測定器を用いて測定される粗化面の頂点曲率算術平均Sscが0.0220nm-1以上であれば、樹脂密着性が良好である。すなわち、粗化面の頂点曲率を制御することにより、良好な樹脂密着性が担保される。粗化面の凹凸を形成する銅粒子の頂点(先端部)が尖っているほど、例えば銅張積層板の製造時に樹脂に銅粒子の先端が刺さりやすくなるので、アンカー効果が向上することにより樹脂密着性が良好となる。優れた樹脂密着性が奏されるためには、表面処理銅箔の粗化面の頂点曲率算術平均Sscは0.0220nm-1以上である必要があるが、0.0250nm-1以上であることが好ましい。
【0018】
一方、三次元粗さ測定器を用いて測定される粗化面の頂点曲率算術平均Sscが0.0300nm-1未満であれば、粗化粒子の先端部が折れることにより発生する粉落ちを抑制することができる。粗化面の頂点曲率算術平均Sscが0.0300nm-1以上になると、粗化粒子の先端部の鋭利さが過剰になり、先端部が折れて脱落しやすくなる。その結果、銅張積層時に銅箔と樹脂との間に折れた先端部が残存することにより、銅張積層板の信頼性の低下につながる恐れがある。
【0019】
表面処理銅箔の粗化面の上記性状、すなわち、表面歪度Ssk及び頂点曲率算術平均Sscは、表面処理銅箔の製造工程中の粗化処理の条件を調整することによって制御することができる。例えば、粗化処理がメッキ処理である場合は、メッキ槽中のメッキ液に銅とは異なる異種金属元素を添加し、異種金属の種類と濃度によって、粗化面の上記性状を制御することができる。
【0020】
例えば、粗化処理に用いるメッキ液にスカンジウムを適量添加することにより、粗化粒子が生成するサイト間の距離を小さくし、より細かい谷構造が粗化粒子間に多く含まれるようにすることができるため、粗化面の表面歪度Sskが負の値で絶対値が大きくなる方向へとコントロールすることができる。また、粗化処理に用いるメッキ液にモリブデンを適量添加することにより、メッキ液の液抵抗率を高めて電流効率を低下させ、先端部がより鋭利な細長い粗化粒子を形成することができるため、粗化面の頂点曲率算術平均Sscの数値が大きくなる方向へとコントロールすることができる。
【0021】
本実施形態の表面処理銅箔は、銅又は銅合金で構成される。銅合金の種類としては、ニッケル、錫、亜鉛、鉛、アルミニウム、マンガン、チタン、鉄、リン、ベリリウム、コバルト、マグネシウム、クロム、及びケイ素等の合金成分のうち少なくとも一成分を含有する銅合金などが挙げられる。銅又は銅合金は、不可避的不純物を含有していてもよい。
本実施形態の表面処理銅箔は、銅張積層板の製造に好適に用いられる。また、このような銅張積層板は、回路基板の製造に好適に用いられる。
【0022】
本実施形態の銅張積層板は、上述した本実施形態の表面処理銅箔を用いて形成される。このような本実施形態の銅張積層板は、公知の方法により形成することができる。例えば、銅張積層板は、本実施形態の表面処理銅箔の粗化面(貼着面)に樹脂基材を積層し貼着することにより製造することができる。
【0023】
ここで、樹脂基材に使用される樹脂としては、種々の成分の高分子樹脂を用いることができる。リジッド配線板又は半導体パッケージ(PKG)用のプリント配線板には、主にフェノール樹脂、エポキシ樹脂を用いることができる。フレキシブル基板には、ポリイミド、ポリアミドイミドを主に用いることができる。ファインパターン(高密度)配線板又は高周波基板においては、寸法安定性の良い材料、反りねじれの少ない材料、熱収縮の少ない材料等として、ガラス転移点(Tg)の高い耐熱樹脂を用いることができる。耐熱樹脂としては、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタラート、熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂、又はそれらからなるポリマーアロイ、さらには、ポリイミド、耐熱性エポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン等のシアネート系樹脂、熱硬化変性ポリフェニレンエーテル等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。特に、本実施形態の銅張積層板の樹脂基材に使用される樹脂は、液晶ポリマーであることが好ましい。液晶ポリマーは誘電正接と比誘電率が小さいので、液晶ポリマーを樹脂基材に用いた回路基板は信号の伝送特性に優れる。
【0024】
以下、樹脂基材として液晶ポリマーフィルムを用いる場合を例に、銅張積層板の製造方法の具体例を説明する。
液晶ポリマーには、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーと、溶液状態で液晶性を示すレオトロピック液晶ポリマーとがある。本実施形態では、何れの液晶ポリマーも用い得るが、熱可塑性であること、誘電特性がより優れる観点から、サーモトロピック液晶ポリマーが好適に用いられる。
【0025】
サーモトロピック液晶ポリマーのうちサーモトロピック液晶ポリエステル(以下、単に「液晶ポリエステル」という)とは、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸を必須のモノマーとし、芳香族ジカルボン酸又は芳香族ジオールなどのモノマーと反応させることにより得られる芳香族ポリエステルであって、溶融時に液晶性を示すものである。その代表的なものとしては、パラヒドロキシ安息香酸(PHB)と、フタル酸と、4,4’−ビフェノールから合成されるI型(下式(1)を参照)、PHBと2,6−ヒドロキシナフトエ酸から合成されるII型(下式(2)を参照)、PHBと、テレフタル酸と、エチレングリコールから合成されるIII型(下式(3)を参照)が挙げられる。
【0026】
【化1】
【0027】
本実施形態においては、耐熱性、耐加水分解性がより優れることから、上記のうちI型液晶ポリエステルとII型液晶ポリエステルが好ましい。また、上記式(1)において、フタル酸としてはイソフタル酸が好ましい。
本実施形態で使用する液晶ポリマーフィルムは、誘電特性などのため、実質的に液晶ポリマーのみから構成することが好ましい。一方、液晶ポリマーは、剪断応力をかけると強い異方性を示すため、必要に応じて、液晶ポリマーを溶融加工する際に生じる分子配向の異方性を緩和するためのフィラーを配合してもよい。かかる配向緩和用のフィラーを導入することにより、例えば、押し出された後の液晶ポリマーフィルムの表面が平滑になり、また均配向性・等方性が得られやすくなる。その他、液晶ポリマーフィルムの色調を制御するために、着色のフィラーを配合してもよい。
【0028】
このような液晶ポリマーフィルムの平面方向の熱線膨張係数は、3ppm/℃以上30ppm/℃以下であることが好ましい。液晶ポリマーフィルムの熱線膨張係数と、表面処理銅箔の熱線膨張係数との差が大きいと、銅張積層板に反りが発生する傾向がある。そのため、液晶ポリマーフィルムと表面処理銅箔の熱線膨張係数を概ね一致させることで、反りの発生を抑制することできる。
【0029】
一般に、液晶ポリマーの分子は、剛直で、長い化学構造を有するために、極めて配向し易いことが知られている。液晶ポリマーの分子が特定方向に配向している異方性フィルムは、配向方向に裂け易く取り扱いが困難であり、また、寸法精度が悪く、熱応力、機械的強度、比誘電率などのばらつきも大きい。さらに、異方性フィルムに表面処理銅箔を積層して銅張積層板を製造する場合、フィルムの異方性に起因した反りが銅張積層板に生じるため、回路基板の樹脂基材として用いることができない。
【0030】
しがたって、回路基板用の樹脂基材として用いる液晶ポリマーフィルムとしては、等方性を持つように、分子配向が制御されていることが好ましい。具体的には、平面方向の熱線膨張係数の最小値に対する最大値の比が、1.0以上2.5以下であることが好ましい。当該比としては、2.0以下がより好ましく、1.8以下がさらに好ましく、1.5以下が特に好ましい。なお、熱線膨張係数の最小値と最大値のそれぞれは、液晶ポリマーフィルムの平面で円周方向に30°間隔で熱線膨張係数を6点測定し、測定値の中の最小値と最大値とする。
【0031】
熱線膨張係数、及び、平面方向の熱線膨張係数の最小値に対する最大値の比を上記範囲内に調整することにより、平面方向で熱応力、機械的強度、比誘電率の異方性をより確実に低減することができる。
液晶ポリマーフィルムの誘電特性は、一般的に優れている。具体的には、3GHzの周波数で測定した場合、誘電正接が0.0035以下であることが好ましく、0.003以下であることがより好ましく、比誘電率が3.5以下であることがさらに好ましい。なお、誘電体である樹脂基材上に形成した回路に交流電気信号が伝播する際には、その信号の電力の一部が誘電体に吸収されてしまい、信号が減衰・損失する傾向にある。この時に吸収された電力と通過(伝播)した電力との比が誘電正接であり、誘電正接の小さい誘電体を用いた回路では、伝送損失を小さくすることができる。
【0032】
液晶ポリマーが熱可塑性であることから、本実施形態にかかる銅張積層板は、液晶ポリマーフィルムの片面又は両面に表面処理銅箔を積層し、次いで熱プレスすることで、容易に作製することができる。熱プレスは、真空プレス装置、ロールプレス装置、ダブルベルトプレス装置などを用い、従来公知の方法で行うことができる。熱プレスの条件は適宜調整すればよく、例えば、真空プレスの場合は、温度200℃以上350℃以下程度、圧力1MPa以上10MPa以下程度、プレス時間1分間以上2時間以下程度とすることができる。
【0033】
本実施形態の回路基板は、上記銅張積層板を用いて形成されることが好ましい。このような本実施形態の回路基板は、公知の方法により形成することができる。
また、上記銅張積層板の表面処理銅箔の一部を、常法により化学的にエッチングすることにより所望の回路パターンを形成し、回路基板を作製することができる。また、回路パターン上には、勿論、電子回路部品を実装することができる。電子回路部品としては、電子回路基板に実装されるものであれば特に制限されず、半導体素子単体以外にも、例えば、チップ抵抗、チップコンデンサー、半導体パッケージ(PKG)などを挙げることができる。
【0034】
〔実施例〕
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。まず、硫酸−硫酸銅水溶液を電解液とし、以下のような操作により厚さ12μmの電解銅箔を製造した。すなわち、アノードと、アノードに対向して設けられたカソードドラムとの間に電解液を供給し、カソードドラムを一定速度で回転させながらアノードとカソードドラムとの間に直流電流を通電することにより、カソードドラムの表面上に銅を析出させた。そして、析出した銅をカソードドラムの表面から引き剥がし、連続的に巻き取ることにより、電解銅箔を製造した。
【0035】
電解液中の銅濃度は80g/L、硫酸濃度は70g/L、塩素濃度は25mg/Lである。電解液には添加剤として3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、及び低分子量膠(分子量3000)が添加されており、これらの添加剤の濃度は、記載順に2mg/L、10mg/L、50mg/Lである。また、電解銅箔の製造時の電解液の温度は55℃であり、電流密度は45A/dm2である。
得られた電解銅箔の十点平均粗さRzは1.3μmであった。電解銅箔の十点平均粗さRzは、株式会社小坂研究所製の接触式表面粗さ測定機「サーフコーダーSE1700」を用いて測定した。
【0036】
次に、表面を粗化面とする粗化処理を電解銅箔に施して、表面処理銅箔を製造した。具体的には、電解銅箔の表面に微細な銅粒子を電析する電気メッキを粗化処理として施すことにより、銅粒子により微細な凹凸が形成された粗化面とした。
実施例1〜6の表面処理銅箔には、以下に示す条件の粗化処理1を施した。また、実施例7〜12の表面処理銅箔には以下に示す条件の粗化処理2を施し、実施例13〜21の表面処理銅箔には以下に示す条件の粗化処理3を施し、実施例22〜30の表面処理銅箔には以下に示す条件の粗化処理4を施した。電気メッキに用いるメッキ液は、銅、硫酸、モリブデン、スカンジウムを含有しており、各濃度を以下に示す。
【0037】
(粗化処理1)
硫酸銅の濃度:銅濃度として60g/L
硫酸濃度:150g/L
モリブデン化合物の濃度:モリブデン濃度として2.0〜3.0g/L
スカンジウム化合物の濃度:スカンジウム濃度として0.001〜0.002ppm
液温:15〜30℃
電流密度:30〜40A/dm2
メッキ処理時間:5〜60秒
【0038】
(粗化処理2)
硫酸銅の濃度:銅濃度として60g/L
硫酸濃度:150g/L
モリブデン化合物の濃度:モリブデン濃度として3.0〜4.0g/L
スカンジウム化合物の濃度:スカンジウム濃度として0.001〜0.002ppm
液温:15〜30℃
電流密度:30〜40A/dm2
メッキ処理時間:5〜60秒
【0039】
(粗化処理3)
硫酸銅の濃度:銅濃度として60g/L
硫酸濃度:150g/L
モリブデン化合物の濃度:モリブデン濃度として2.0〜3.0g/L
スカンジウム化合物の濃度:スカンジウム濃度として0.002〜0.003ppm
液温:15〜30℃
電流密度:30〜40A/dm2
メッキ処理時間:5〜60秒
【0040】
(粗化処理4)
硫酸銅の濃度:銅濃度として60g/L
硫酸濃度:150g/L
モリブデン化合物の濃度:モリブデン濃度として3.0〜4.0g/L
スカンジウム化合物の濃度:スカンジウム濃度として0.002〜0.003ppm
液温:15〜30℃
電流密度:30〜40A/dm2
メッキ処理時間:5〜60秒
【0041】
一方、比較例1〜6の表面処理銅箔には、以下に示す条件の粗化処理5を施し、比較例7〜11の表面処理銅箔には、以下に示す条件の粗化処理6を施した。また、比較例12の表面処理銅箔には、特許文献1の実施例に記載の粗化処理を施した。また、比較例13、14、15、16の表面処理銅箔には、特許文献2の実施例に記載の粗化メッキA、B、C、Dをそれぞれ施した。さらに、比較例17〜22の表面処理銅箔については、以下に示す条件の粗化処理7を施した。
【0042】
(粗化処理5)
硫酸銅の濃度:銅濃度として60g/L
硫酸濃度:150g/L
モリブデン化合物の濃度:モリブデン濃度として2.0〜4.0g/L
スカンジウム化合物の濃度:スカンジウム濃度として0〜0.001ppm
液温:15〜30℃
電流密度:30〜40A/dm2
メッキ処理時間:5〜60秒
【0043】
(粗化処理6)
硫酸銅の濃度:銅濃度として60g/L
硫酸濃度:150g/L
モリブデン化合物の濃度:モリブデン濃度として0〜2.0g/L
スカンジウム化合物の濃度:スカンジウム濃度として0.001〜0.004ppm
液温:15〜30℃
電流密度:30〜40A/dm2
メッキ処理時間:5〜60秒
【0044】
(粗化処理7)
硫酸銅の濃度:銅濃度として60g/L
硫酸濃度:150g/L
モリブデン化合物の濃度:モリブデン濃度として2.0〜4.0g/L
スカンジウム化合物の濃度:スカンジウム濃度として0.004〜0.005ppm
液温:15〜30℃
電流密度:30〜40A/dm2
メッキ処理時間:5〜60秒
【0045】
次に、粗化面からの銅粒子の脱落を防ぐための固定化処理として、粗化面に銅メッキを施した。実施例1〜30、比較例1〜11、及び比較例17〜22については、以下に示す条件で固定化処理を施した。なお、比較例12については、特許文献1の実施例に記載の粗化処理の中に固定化処理が含まれており、比較例13〜16については、特許文献2の実施例に記載の粗化メッキA、B、C、Dの中に固定化処理が含まれているため、追加的な銅メッキは施さなかった。
【0046】
(固定化処理)
硫酸銅の濃度:銅濃度として80g/L
硫酸濃度:120g/L
液温:20〜30℃
電流密度:1.5〜4A/dm2
メッキ処理時間:5〜60秒
【0047】
さらに、固定化処理の後に、さらにニッケルメッキ、亜鉛メッキ、クロムメッキをこの順で施した。ニッケルメッキに用いるメッキ液は、ニッケル、ホウ酸(H3BO3)を含有しており、ニッケル濃度は40g/L、ホウ酸濃度は5g/Lである。また、メッキ液の温度は20℃、pHは3.6であり、電流密度は0.2A/dm2、メッキ処理時間は10秒間である。
【0048】
亜鉛メッキに用いるメッキ液は、亜鉛、水酸化ナトリウムを含有しており、亜鉛濃度は2.5g/L、水酸化ナトリウム濃度は40g/Lである。また、メッキ液の温度は20℃であり、電流密度は0.3A/dm2、メッキ処理時間は5秒間である。
クロムメッキに用いるメッキ液は、クロムを含有しており、クロム濃度は5g/Lである。また、メッキ液の温度は30℃、pHは2.2であり、電流密度は5A/dm2、メッキ処理時間は5秒間である。
【0049】
〔銅箔粗化面の表面歪度Ssk、頂点曲率算術平均Sscの測定方法について〕
ブルカー株式会社製白色光干渉式表面形状測定装置Contour GT-X(Model:831-567-1)を使用して、表面処理銅箔の粗化面の表面歪度Ssk及び頂点曲率算術平均Sscを測定した。
具体的には、内部レンズの倍率が1倍、対物レンズの倍率が50倍でVSI/VXIモードを選択し、Terms Removal(F-Operator、Cylinder and Tilt)、Data Restore(Method: Legacy、Interations:5、Restore Edge選択無し)、Fourier Filter(Fourier Filter Window: Gaussian、High Freq Pass、Frequency Cutoff: 62.5[1/mm])、Statistic Filterの順に、測定値のフィルター処理を行う設定を行った。その上で、3D Analysisに列挙されるパラメータ群のうち、「S Parameters-Hybrid」を選択して頂点曲率算術平均Sscを測定し、「S Parameters-Height」を選択して表面歪度Sskを測定した。1回の測定において走査回数は3回とし、3回の走査において得られた数値の平均値を、測定値として採用した。
【0050】
上記のようにして、実施例1〜30及び比較例1〜22の表面処理銅箔をそれぞれ製造した。これらの表面処理銅箔の厚さは、いずれも12μmである。得られた各表面処理銅箔の粗化処理の条件と粗化面の各種性状(表面歪度Ssk、頂点曲率算術平均Ssc)は、表1、2に示す通りである。
次に、得られた実施例1〜30及び比較例1〜22の表面処理銅箔の評価を行った。評価項目は樹脂密着性、レーザー加工性、及び粉落ちの有無である。各評価項目の評価方法について以下に説明する。
【0051】
〔樹脂密着性の評価方法について〕
厚さ50μmの液晶ポリマーフィルム(株式会社伊勢村田製作所製、厚さ精度:0.7μm、比誘電率:3.4、誘電正接:0.0020、熱線膨張係数の最小値に対する最大値の比:1.4)の一方の面に、上記の実施例又は比較例の表面処理銅箔を積層し、他方の面に離形材としてポリイミドフィルム(宇部興業株式会社製の「ユーピレックス20S」)を積層した。
【0052】
この積層物を厚さ2mmのステンレス板2枚の間に挟み、さらに、クッション材である厚さ1mmのステンレス繊維織布2枚の間に挟んで、真空プレス機を用いて温度300℃、圧力3MPaで5分間保持して片面銅張積層板を作製した。
作製した片面銅張積層板を株式会社島津製作所製の引張試験機「AGS−H」に装着し、JIS C6471−1995に規定の方法に準拠して、液晶ポリマーフィルムから表面処理銅箔を引き剥がし、ピール強度を測定した。
【0053】
ピール強度の測定方法を詳述すると、片面銅張積層板の表面処理銅箔に幅5mmのマスキングテープを張り付けて塩化第二鉄溶液に浸漬し、表面処理銅箔の不要部分をエッチング除去した。その後、片面銅張積層板を水洗してマスキングテープを剥離し、80℃の循環式オーブンで1時間乾燥して、片面銅張積層板に幅5mmの直線状の回路パターンを形成した。
【0054】
片面銅張積層板から表面処理銅箔を引き剥がす際に、片面銅張積層板が屈曲して剥離角度が変化しないように、片面銅張積層板を厚さ1mm以上の補強板に張り付けた。形成した回路パターンの一端を片面銅張積層板から引き剥がして引張試験機に挟み込んだら、引張試験機によって表面処理銅箔を剥離角度180°(片面銅張積層板の表面処理銅箔除去面に対する引き剥がす方向の角度が180°)、引張速度50mm/minの条件で引っ張って片面銅張積層板から10mm以上引き剥がし、引き剥がす間の強度の平均値を算出してピール強度とした。
【0055】
そして、ピール強度が0.80N/mm以上であった場合は、樹脂密着性が極めて優れていると評価し、表1、2においては「◎」印で示した。また、ピール強度が0.60N/mm以上0.80N/mm未満であった場合は、樹脂密着性が優れていると評価し、表1、2においては「○」印で示した。さらに、ピール強度が0.5N/mm以上0.60N/mm未満であった場合は、樹脂密着性がやや不良であると評価し、表1、2においては「△」印で示した。さらに、ピール強度が0.5N/mm未満であった場合は、樹脂密着性が不良であると評価し、表1、2においては「×」印で示した。
【0056】
〔レーザー加工性の評価方法について〕
厚さ50μmの液晶ポリマーフィルム(株式会社伊勢村田製作所製、比誘電率:3.4、誘電正接:0.0020、熱線膨張係数の最小値に対する最大値の比:1.4)の一方の面に、上記の実施例又は比較例の表面処理銅箔を、「樹脂密着性の評価方法について」において前記した方法と同様の方法で貼り合せて、片面銅張積層板を作製した。このとき、表面処理銅箔の粗化面に液晶ポリマーフィルムを貼り合せた。
【0057】
次に、上記のようにして作製した片面銅張積層板の液晶ポリマーフィルムに炭酸ガスレーザー光を照射して、任意の箇所に100個のビア孔を形成した。なお、炭酸ガスレーザー光の照射は、パルス幅1〜5μs、先端エネルギー1〜3mJ、マスク径1〜3mm、照射数5〜10shotという条件で行った。また、形成したビア孔の直径は100μmであった。
【0058】
片面銅張積層板の各ビア孔の底面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。走査型電子顕微鏡の加速電圧は3kVに設定した。得られた画像の中で、輝度の高い部分は粗化粒子の先端部が露出しており、輝度の低い部分は粗化粒子間の谷構造の底部が露出しており、ともに液晶ポリマーが残存していない部分である。輝度の中間部分は、液晶ポリマーが粗化粒子間や粗化粒子先端部を取り囲むように残存している部分である。
【0059】
そのため、得られた画像の輝度・明度分布を取り、最頻値と最小値を1:2に内分する輝度を下限、最頻値と最大値を1:2に内分する輝度を上限とする輝度範囲にあたる部分を、ビア孔の底面のうち液晶ポリマーが残存している部分として、液晶ポリマーが残存している部分の割合(面積率)を算出した。画像解析には、画像解析ソフトウェアImageJを使用した。液晶ポリマーが残存している部分の割合が小さいほど、レーザー加工性が優れていると言える。
【0060】
そして、ビア孔の底面のうち液晶ポリマーが残存している部分の割合が40面積%未満であった場合は、レーザー加工性が極めて優れていると評価し、表1、2においては「◎」印で示した。また、ビア孔の底面のうち液晶ポリマーが残存している部分の割合が40面積%以上70面積%未満であった場合は、レーザー加工性が優れていると評価し、表1、2においては「○」印で示した。さらに、ビア孔の底面のうち液晶ポリマーが残存している部分の割合が70面積%以上であった場合は、レーザー加工性が不良であると評価し、表1、2においては「×」印で示した。
【0061】
〔粉落ち試験について〕
上記の実施例又は比較例の表面処理銅箔の粗化面上に、幅30mm、長さ100mmの試験紙(濾紙Grade2)を置き、さらにその上に質量200g、底面の直径30mmの分銅を置いた。そして、試験紙を水平方向に引っ張り120mm引き摺った後に、試験紙への銅粒子粉の付着の有無を目視にて確認した。銅粒子粉の付着が確認されなかった場合は、粉落ちがなかったと評価し、表1、2においては「OK」印で示し、銅粒子粉の付着が確認された場合は、粉落ちがあったと評価し、表1、2においては「NG」印で示した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
表1、2から分かるように、実施例1〜30の表面処理銅箔は、粗化面の表面歪度Ssk及び頂点曲率算術平均Sscの要件を満たしているため、レーザー加工性、樹脂密着性、及び粉落ちがいずれも優れていた。
これに対して、比較例1〜6の表面処理銅箔は、粗化面の表面歪度Sskが0を上回って正の値であるため、レーザー加工性が不良であった。また、比較例17〜22の表面処理銅箔は、粗化面の表面歪度Sskが−0.300を下回っているため、レーザー加工性が不良であった。
【0065】
さらに、比較例7〜11の表面処理銅箔は、粗化面の頂点曲率算術平均Sscが0.0220nm-1を下回っているため、樹脂密着性が不良であった。さらに、比較例12〜16の表面処理銅箔は、粗化面の頂点曲率算術平均Sscが0.0300nm-1以上であるため、粉落ちが発生した。
図1
図2