(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本実施形態に係る切削ブレード及びマウントフランジが使用される切削装置について
図1を用いて説明する。
図1は、切削装置の一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、切削装置2は、各構成要素を支持する基台4を備える。基台4の上面には保持テーブル(保持手段)6が設けられ、該保持テーブル6の上方には、切削ユニット(切削手段)8が設けられる。
【0019】
保持テーブル6の下方には、X軸移動機構(移動手段)10が設けられる。X軸移動機構10は、基台4の上面に設けられX軸方向に平行な一対のX軸ガイドレール12を備える。X軸ガイドレール12には、X軸移動テーブル14がスライド可能に配設される。
【0020】
X軸移動テーブル14の裏面側(下面側)には、ナット部(不図示)が設けられ、このナット部には、X軸ガイドレール12と平行なX軸ボールネジ16が螺合される。X軸ボールネジ16の一端部には、X軸パルスモータ18が連結される。X軸パルスモータ18でX軸ボールネジ16を回転させると、X軸移動テーブル14は、X軸ガイドレール12に沿ってX軸方向に移動する。
【0021】
X軸移動テーブル14の表面側(上面側)には、支持台20が設けられる。支持台20の中央には、保持テーブル6が配置される。保持テーブル6の周囲には、被加工物を保持する環状のフレーム(不図示)を四方から挟持固定する4個のクランプ22が設けられる。
【0022】
保持テーブル6は、支持台20の下方に設けられた回転機構(不図示)と連結されており、Z軸と平行な回転軸の周りに回転可能である。保持テーブル6の表面には多孔質部材が配設され、該多孔質部材は保持テーブル6の内部に形成された吸引路(不図示)を通じて吸引源(不図示)に接続される。保持テーブルの上面は保持面6aであり、該保持面6a上に載せ置かれた被加工物に対して該吸引源から負圧を作用すると、被加工物は保持テーブル6上に吸引保持される。
【0023】
被加工物は、例えば、シリコン、サファイア等の半導体ウェーハであり、また、ガラス、石英等の基板である。該被加工物の表面には、例えば、格子状に設定された分割予定ラインによって区画される複数の領域のそれぞれに、ICやLSI等のデバイスが形成される。そして、該分割予定ラインに沿って被加工物が切削されて被加工物が分割されると、デバイスチップが形成される。
【0024】
X軸移動機構10に隣接して、切削ユニット8を割り出し送り方向(Y軸方向)に移動させるY軸移動機構(割り出し送り手段)24が設けられる。Y軸移動機構24は、基台4の上面に設けられY軸方向に平行な一対のY軸ガイドレール26を備える。
【0025】
Y軸ガイドレール26には、Y軸移動テーブル28がスライド可能に設置される。Y軸移動テーブル28は、Y軸ガイドレール26に接する基部28aと、基部28aに対して立設された壁部28bと、を備える。Y軸移動テーブル28の基部28aの裏面側(下面側)には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、Y軸ガイドレール26と平行なY軸ボールネジ30が螺合される。
【0026】
Y軸ボールネジ30の一端部には、Y軸パルスモータ32が連結される。Y軸パルスモータ32でY軸ボールネジ30を回転させると、Y軸移動テーブル28は、Y軸ガイドレール26に沿ってY軸方向に移動する。
【0027】
Y軸移動テーブル28の壁部28bには、ブレードユニット8を鉛直方向(Z軸方向)に移動させるZ軸移動機構34が設けられる。Z軸移動機構34は、壁部28bの側面に設けられZ軸方向に平行な一対のZ軸ガイドレール36を備える。
【0028】
Z軸ガイドレール36には、Z軸移動テーブル38がスライド可能に設置される。Z軸移動テーブル38の裏面側(壁部28b側)には、ナット部(不図示)が設けられ、このナット部には、Z軸ガイドレール36と平行なZ軸ボールネジ(不図示)が螺合される。
【0029】
Z軸ボールネジの一端部には、Z軸パルスモータ40が連結される。Z軸パルスモータ40でZ軸ボールネジを回転させると、Z軸移動テーブル38は、Z軸ガイドレール36に沿ってZ軸方向に移動する。このZ軸移動テーブル38には、被加工物を切削する切削ユニット8が支持される。
【0030】
切削ユニット8は、回転可能に支持されたスピンドルと、該スピンドルにより回転される切削ブレード42と、を備える。該切削ブレード42の切り刃は、金属や樹脂等のボンド材(結合剤)にダイヤモンド等の砥粒を混合して形成される。回転する切削ブレード42を保持テーブル6に保持された被加工物に切り込ませると、該被加工物を切削加工できる。
【0031】
切削ユニット8は、切削ブレード42を覆うブレードカバー44をさらに備える。ブレードカバー44について、
図6を用いて詳述する。
図6には切削ユニット8の側面図が示されている。
【0032】
ブレードカバー44は、切削ブレード42の両側面に隣接し切削ブレード42に向いた噴出口が形成された切削液供給ノズル44aと、切削ブレード42の外周方向に隣接する切削液噴出口44bと、を備える。切削液供給ノズル44a及び切削液噴出口44bのそれぞれは、切削液送液パイプ44c,44dを通して切削液供給源(不図示)に接続される。被加工物の切削加工の際には、切削液供給ノズル44aの該噴出口及び切削液噴出口44bから切削ブレード42に切削液が供給される。切削液は、例えば純水である。
【0033】
さらに、ブレードカバー44の下面には、被加工物に向いたスプレーノズル(不図示)が設けられている。被加工物の切削加工の際には、該スプレーノズルから被加工物に洗浄液が噴出される。
【0034】
図1に示すように、切削ユニット8は、切削加工が進行する切削進行方向(加工送り方向)において該切削ブレード42よりも前方に撮像装置46を有する。撮像装置46は被加工物の表面を撮像でき、切削ブレード42が被加工物の切削予定ラインを切削するように切削ブレード42の位置を調整する際に用いられる。
【0035】
次に、切削ユニットについて詳述する。
図2は、切削ユニット8aの一例を模式的に示す分解斜視図である。
図2に示す切削ユニット8aには、ハブタイプの切削ブレード42aが装着されている。切削ブレード42aは、円形基台48aと、切り刃50と、からなる。円形基台48aには、中央に嵌合孔48cが形成されるとともに一面側にハブ部が形成されている。切り刃50は、該円形基台48aの該一面と反対の面側の外周部に形成されている。
【0036】
切削ユニット8aは、スピンドルハウジング52を備えている。スピンドルハウジング52の内部には、エアベアリングによってY軸の周りに回転可能に支持されるスピンドル54が収容されている。スピンドル54の先端部にはねじ穴が形成されており、切削時のスピンドル54の回転方向に回転させることで締め込まれる向きにねじが切られている。スピンドル54の先端にマウントフランジ56aが取り付けられる。
【0037】
マウントフランジ56aは、マウントフランジ本体58aと、該マウントフランジ本体58aとの間で切削ブレード42aを挟持して固定する固定ナット60と、を備える。マウントフランジ本体58aは、切削ブレード42aの嵌合孔48cに挿通されるボス部62aと、該ボス部62aから径方向に突出し該切削ブレード42aを支持する支持面を有したフランジ部64aと、を備える。ボス部62aの先端には雄ねじが形成される。固定ナット60には、該ボス部62aの該雄ねじと螺合する雌ねじが内周に形成される。
【0038】
該ボス部62aと、該フランジ部64aと、はそれぞれの中心軸が重なるように配される。すなわち、円柱状の該ボス部62aの2つの底面のそれぞれの中心を結ぶ軸と、円板状のフランジ部64aの2つの円形の面のそれぞれの中心を結ぶ軸と、が1本の直線に重なる。
【0039】
マウントフランジ56aの内側には、スピンドル装着穴70aが形成されている。該スピンドル装着穴70aは、該スピンドル装着穴70aにスピンドル54が装着されるときに、上述の中心軸と、スピンドル54の回転中心と、が一致するように、該スピンドル54の先端に対応する形状に形成される。該スピンドル装着穴70aは、該ボス部62a側に開口を有し、スピンドル装着穴70aに挿入されたスピンドル54の先端のねじ穴に該開口を通じてボルト72を螺合できる。
【0040】
マウントフランジ56aを用いてスピンドル54に装着された切削ブレード42aを
図3(A)に示す。
図3(A)は、切削ブレード42a及びマウントフランジ56aを模式的に示す側面図である。本実施形態に係るマウントフランジ56aにおいては、該フランジ部64aには、切削ブレード42aを支持する該支持面の背面側で周方向に渡って切削液返し部66aが形成されている。また、本実施形態に係る切削ブレード42aの円形基台48aには、周方向に渡って切削液返し部66bが形成されている。
【0041】
切削液切り返し部66a,66bの機能について、
図3(B)を用いて説明する。
図3(B)は、ブレードカバー44の切削液噴出口44bから切削ブレード42aに供給される切削液の流れの様子を拡大して模式的に示す上面図である。
【0042】
図3(B)に示す通り、供給された切削液68の一部は、切削ブレード42aの切り刃50に供給された後、切削ブレード42aを伝ってマウントフランジ56aのフランジ部64aに到達する。ここで、該フランジ部64aには、切削液切り返し部66aが形成されている。そのため、切削液68は切削液切り返し部66aで切り返されるため、それ以上に外側には伝わりにくく、勢いを失って落下する。
【0043】
また、
図3(B)に示す通り、供給された切削液68の一部は、切削ブレード42aの切り刃50に供給された後、切削ブレード42aの円形基台48aに到達する。ここで、該円形基台48aには、切削液切り返し部66bが形成されている。そのため、切削液68は切削液切り返し部66aで切り返されるため、それ以上に外側には伝わりにくく、勢いを失って落下する。
【0044】
勢いを失って落下した切削液68は、保持テーブル6に保持された被加工物に到達する。すると、該切削液68が被加工物を洗浄してコンタミネーションを洗い流す。そのため、洗浄用に被加工物に供給する洗浄液を節約できる。従来飛散していた切削液を用いて被加工物の洗浄を実施できるため、切削加工の効率は非常に良い。
【0045】
例えば、マウントフランジに切削液切り返し部が形成されず、切削ブレードの円形基台に切削液切り返し部が形成されない場合、切削液は勢いを失わずに切削ユニットの外部に飛散する。従来の切削ブレード及びマウントフランジについて
図7を用いて説明する。
図7(A)は、切削ブレード及びマウントフランジを模式的に示す側面図であり、
図7(B)は、切削液の流れの様子を拡大して模式的に示す上面図である。
【0046】
図7(A)に示す従来の切削ブレード42b及び従来のマウントフランジ56bには、切削液切り返し部が形成されない。そのため、
図7(B)に示す通り、切削ブレード42bに切削液噴出口44bから供給された切削液68の一部は、切削ブレード42bの切り刃50に供給された後、切削ブレード42b、マウントフランジ56b及びスピンドル54を伝って、外部に飛散する。また切削液68の別の一部は、切削ブレード42b、円形基台48b及び固定ナット60を伝って、外部に飛散する。
【0047】
外部に飛散した切削液は被加工物を洗浄せず、コンタミネーションを洗い流さない。そのため、従来の切削ブレード42b及び従来のマウントフランジ56bを用いる場合、切削加工で生じたコンタミネーションを洗い流すために多量の洗浄液を被加工物に供給しなければならなかった。その一方で、本実施形態に係る切削ブレード及び本実施形態に係るマウントフランジには切削液切り返し部が形成されており、従来飛散していた切削液を用いて被加工物を洗浄できるため、洗浄液を節約でき切削加工の効率は非常に良い。
【0048】
本実施形態に係る切削ブレード及びマウントフランジの他の構成例について、
図4及び
図5を用いて説明する。なお、切削ユニット8aと同様の構成物については説明を省略する。
図4及び
図5に示す切削ユニット8cには、中央に嵌合穴が形成された円板状の切削ブレード42cが装着される。切削ブレード42cは、例えば、ワッシャータイプまたはキンバレータイプの切削ブレードである。切削ブレード42cの外周は切り刃となる。
【0049】
切削ユニット8cでは、スピンドル54の先端にマウントフランジ56cが取り付けられる。マウントフランジ56cは、マウントフランジ本体58cと、該マウントフランジ本体58cとの間で切削ブレード42cを支持する支持面を有した前フランジ74と、前フランジ74を固定する固定ナット60と、を備える。該固定ナット60は該前フランジ74を固定することで該前フランジ74を介してマウントフランジ本体58cのフランジ部64cとともに該切削ブレード42cを支持する。
【0050】
マウントフランジ56cを用いてスピンドル54に装着された切削ブレード42cを
図5(A)に示す。
図5(A)は、切削ブレード42c及びマウントフランジ56cを模式的に示す側面図である。本実施形態に係るマウントフランジ56cにおいては、前フランジ74には、切削ブレード42cを支持する該支持面の背面側で周方向に渡って切削液返し部66cが形成されている。
【0051】
切削液切り返し部66cの機能について、
図5(B)を用いて説明する。
図5(B)は、ブレードカバー44の切削液噴出口44bから切削ブレード42cに供給される切削液68の流れの様子を拡大して模式的に示す上面図である。
【0052】
図5(B)に示す通り、供給された切削液68の一部は、切削ブレード42cに供給された後、マウントフランジ56cの前フランジ74に到達する。ここで、前フランジ74には、切削液切り返し部66cが形成されている。そのため、切削液68は切削液切り返し部66cで切り返されるため、それ以上に外側には伝わりにくく、勢いを失って被加工物に落下して、被加工物を洗浄してコンタミネーションを除去する。そのため、被加工物に供給する洗浄液を節約できる。
【0053】
なお、本実施形態に係る切削ブレード及びマウントフランジにおいて、形成される切削液切り返し部66a,66b,66cは、例えば、深さ2mm、幅2mmの円環状の溝である。ただし、切削液切り返し部66a,66b,66cはこれに限らない。
【0054】
次に、本実施形態に係る切削ブレードまたはマウントフランジを装着した切削ユニットを用いた被加工物の切削加工について説明する。該切削加工は、切削装置2で実施される。
図6を用いて該切削方法について説明する。
図6は、該切削方法を模式的に説明する部分断面図である。
【0055】
被加工物1は、例えば、フレーム3に張られたテープ5に貼り付けられた円板状の半導体ウェーハである。まず、被加工物1を該テープ5を介して保持テーブル6の保持面6a上に載せ置き、クランプ22によりフレーム5を固定する。次に、保持テーブル6の内部の吸引源を作動させて、保持テーブル6の内部の吸引路を通して被加工物1を吸引させて、被加工物1を保持テーブル6上に固定する。
【0056】
次に、切削ブレード42が被加工物1の切削予定ラインの一端の外側上方に位置づけられるように、X軸移動機構(移動手段)10と、Y軸移動機構(割り出し送り手段)24と、を作動させて切削ユニット8を所定の位置に位置づける。そして、切削ブレード42の回転を開始し、切削ブレード42に切削液を供給する。切削ブレード42への切削液の供給は、切削液供給ノズル44a及び切削液噴出口44bから行われる。
【0057】
その後、切削ユニット8を下降させて、切削ブレード42を所定の高さ位置に位置付ける。そして、切削装置2のX軸移動機構を作動させて、被加工物1を加工送りする。そして、回転する切削ブレード42が被加工物1に接触すると切削加工が開始される。
【0058】
このとき、切削液噴出口44bから切削ブレード42に供給された切削液は、切削ブレード42やマウントフランジを伝わるが、該切削ブレードの円形基台やマウントフランジに形成された切削液切り返し部に到達した切削液は切り返されて勢いを失う。すると、該切削液は被加工物1に向けて落下して、被加工物1の切削加工で生じる切削屑等のコンタミネーションを洗い流す。そのため、被加工物1の洗浄用の洗浄液を節約でき、切削加工の効率を上げられる。
【0059】
そして、切削ブレード42による切削加工が進行し、すべての分割予定ラインに沿って被加工物1が分割されると、例えば、個々のデバイスチップが形成される。
【0060】
なお、本実施形態に係る切削ブレード及びマウントフランジが使用される切削装置においては、ブレードカバー44の切削液供給口44bに隣接して突出部が設けられても良い。該突出部は、該切削液噴出口44bから噴出された切削液が切削ブレード42に到達する地点よりも該切削ブレード42の回転方向手前に配設される。すなわち、該突出部は切削液噴出口44bの切削ブレード42の回転方向の逆方向に隣接する。
【0061】
切削ブレード42による切削加工が実施されている間、切削液噴出口44bからは該切削ブレード42に切削液が供給される。そして、該切削ブレード42が被加工物に接触する加工点に適切に切削液が供給されることが期待される。
【0062】
しかし、切削ブレード42に供給された切削液の一部は、切削ブレード42の回転に伴って切削ブレード42の外周に連れ回る。切削ブレード42の外周部に切削ブレード42に連れ回る連れ回り液が存在すると、切削液噴出口44bから新たに供給される切削液が該連れ回り液に阻まれて、切削液が期待されるようには該加工点に供給されなくなる。
【0063】
そこで、ブレードカバー44には、該切削液噴出口44bから噴出された切削液が切削ブレード42に到達する箇所よりも該切削ブレード42の回転方向手前に突出部を配設する。そのような突出部を有するブレードカバー44を
図8に示す。
図8は、突出部76を有するブレードカバー44を模式的に示す側面図である。例えば、
図8に示す通り、ブレードカバー44の切削液供給口44bに隣接して突出部76が設けられる。
【0064】
すると、切削ブレード42の連れ回り液の一部は該突出部76に衝突して切削ブレード42から離される。つまり、突出部76は該切削ブレード42に連れ回る切削液の一部のそれ以上の連れ回りを阻止する。
【0065】
切削ブレード42の連れ回り液の量を低減できると、切削液噴出口44bから新たに供給される切削液が妨害されにくくなる。そのため、該切削液が適切に加工点に供給されるようになり、過剰に切削液を供給する必要もなくなる。したがって、切削装置2において使用される液体をさらに節約できる。
【実施例】
【0066】
次に本発明の一態様に係る切削ブレード及びマウントフランジの作用効果を確認した実験について説明する。本実施例では、該切削ブレード及び該マウントフランジを備えた切削装置により被加工物を切削加工し、切削加工後の被加工物を観察して付着物の数を計測した。
【0067】
実験の概要について説明する。本実験に使用した切削装置は株式会社ディスコ製の“DFD6362”であり、該切削装置に装着した切削ブレードは、株式会社ディスコ製の“ZH05−SD2000−N1−110GF(HEGF1010)”である。該切削ブレードの装着に用いたマウントフランジ及び該切削ブレードの円形基台には、切削液切り返し部を形成した。
【0068】
本実験に使用した被加工物は、厚さ0.73mmの8インチ径のSiウェーハである。本実験では、該被加工物の表面側にリンテック株式会社製のテープ“D−650”を貼着し、被加工物の裏面側を露出するように該切削装置の保持テーブルに被加工物の表面側を向けて被加工物を載せた。そして、該テープを介して保持テーブルに被加工物を吸引保持させた。なお、被加工物上の付着物の計測を容易にするために、被加工物の裏面側には樹脂膜を形成した。
【0069】
切削加工の条件は、スピンドルの回転数を40000rpm、該被加工物の加工送り速度を30mm/sとし、切削ブレードの最下点と保持テーブル上面との間の距離(ブレードハイト)を0.07mmとした。切削ブレードの割り出し送り量(インデックスサイズ)は第1の方向に5mm、該第1の方向に直交する第2の方向に5mmとした。
【0070】
切削液供給ノズル44a(
図1,6,8等参照)に設けられた噴出口から供給する切削水量は1.5L/min、切削液噴出口44b(
図6,8等参照)から供給する切削水量は1.0L/minとした。また、ブレードカバーの下面に設けられたスプレーノズル(不図示)から該被加工物に洗浄液を噴出させる。この洗浄液量を1.0L/minとした。
【0071】
このような条件により該被加工物に対して5mm×5mmの格子状に切削加工を実施した。切削加工により形成された切削溝により区画された各領域を一つのチップとして、任意の9チップにおいて付着物の数を計測した。付着物の計測には、株式会社ミツトヨ製の顕微鏡“MF−UA1020THD”及びパーティクルカウント測定用ソフトウェア“FV−PIXELLENCE ENG/3310/STD”を用いた。
【0072】
各チップにおいて四隅と中央の5か所において、顕微鏡観察の倍率200倍の視野内における1μmサイズ以上の付着物の数を計測した。そして、計45回の測定で計測された付着物の数の平均値を算出した。この実験を“実施例1”とする。
【0073】
さらに、
図8に示す通り、切削液供給口44bに隣接して突出部76が設けられたブレードカバー44を装着した切削装置により同様に被加工物を切削加工して、同様に被加工物に付着した付着物の数を計測した。この実験を“実施例2”とする。なお、実験“実施例2”においても、切削液切り返し部が形成されたマウントフランジ及び該切削ブレードの円形基台を使用した。
【0074】
また、切削液供給口44bに隣接して突出部76が設けられたブレードカバー44を装着した切削装置により、供給する切削液及び洗浄液の量を上述の70%程度に減らして被加工物を切削加工して、付着物の数を計測した。この実験を“実施例3”とする。なお、実験“実施例3”においても、切削液切り返し部が形成されたマウントフランジ及び該切削ブレードの円形基台を使用した。
【0075】
なお、比較のために、マウントフランジ及び切削ブレードの円形基台に切削液切り返し部を形成せずに、ブレードカバーに突出部を設けずに同様の切削加工を実施した被加工物についても同様に付着物の数を計測した。この実験を“比較例”とする。
【0076】
付着物の計測の結果について説明する。比較例では平均付着物数は418個、実施例1では平均付着物数は295個、実施例2では平均付着物数は64個、実施例3では平均付着物数は26個となった。
【0077】
比較例1の結果と、実施例1の結果と、を比較すると、該切削ブレードの装着に用いたマウントフランジ及び該切削ブレードの円形基台に、切削液切り返し部を形成することで被加工物の付着物を大幅に低減できることがわかる。切削液切り返し部の形成により、被加工物の洗浄に対する切削液の寄与が大きくなることが理解される。
【0078】
実施例1の結果と、実施例2の結果と、を比較すると、ブレードカバー44に突出部76(
図8参照)を設けることで、被加工物の付着物を大幅に低減できることがわかる。該突出部76により切削ブレードの外周の連れ回り液の連れ回りを阻止することで被加工物に適切に切削液を供給でき、切削屑等が被加工物に付着する前に該切削屑等を排除できることが示唆される。
【0079】
比較例1の結果と、実施例3の結果と、を比較すると、マウントフランジ及び該切削ブレードの円形基台に切削液切り返し部が設けられ、ブレードカバー44に突出部76(
図8参照)が設けられていると、供給される切削液等の量を節約しても付着物が増えないことがわかる。
【0080】
以上の実験により、本発明の一態様により切削液を被加工物上に落下させると、該切削液により被加工物が洗浄されるため、被加工物に供給する洗浄液等の液体を節約できることが確認された。
【0081】
なお、本発明は、上記の実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記の実施形態においては、切削液切り返し部を切削ブレードの円形基台やマウントフランジに形成したが、固定用ナット60や、スピンドル54の外周に沿って形成してもよい。また、切削ブレードの円形基台と、マウントフランジと、の一方のみに形成してもよい。
【0082】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。