(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の荷電粒子線装置の実施例について説明する。荷電粒子線装置とは、荷電粒子源から放出される荷電粒子がレンズで収束された荷電粒子線を試料に照射する装置である。例えば、電子ビームを試料に照射することにより試料が観察される走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡や、収束したイオンビームを試料に照射することで試料の加工や観察を行う収束イオンビーム装置などの様々な装置がある。以下では、荷電粒子線装置の一例として、走査電子顕微鏡(SEM)について説明する。
【実施例1】
【0013】
図1に走査電子顕微鏡の全体構成を示す。走査電子顕微鏡は、鏡体部101と、画像生成部102と、表示部117と、制御部118と、入力部119で構成される。以下、各構成部について説明する。
【0014】
鏡体部101は、電子銃103、コンデンサレンズ105、106、対物レンズ107、試料ホルダ109、XYステージ108、偏向器111、検出器112を有する。電子銃103は電子ビーム104を放射する。コンデンサレンズ105、106、対物レンズ107は電子ビーム104の照射電流量や照射角度、照射位置を調整する。試料ホルダ109は試料110を固定する。XYステージ108は試料ホルダ109をXY面内で位置決めする。偏向器111は電子ビーム104を試料110の観察領域で走査する。検出器112は試料110から放出された二次電子または反射電子を検出し観測信号を出力する。
【0015】
画像生成部102は、増幅器113、A/D変換器114、画像処理部116、フレームメモリ115を有する。増幅器113は検出器112が出力する観測信号を増幅する。A/D変換器114はアナログ信号である増幅された観測信号をデジタル信号に変換する。画像処理部116はデジタル信号である観測信号を用いてフレーム画像を生成したり、複数のフレーム画像を積算したりする演算器である。フレームメモリ115は生成されたフレーム画像を蓄積する。
【0016】
表示部117は画像生成部102によって生成された画像を表示する液晶モニター等である。制御部118は鏡体部101及び画像生成部102を制御する演算器である。入力部119は各種パラメータを入力するために操作者が操作するキーボードやマウス等である。
【0017】
鏡体部101において、電子銃103から放射された電子ビーム104は、コンデンサレンズ105、106、対物レンズ107により、ビーム照射電流量、ビーム照射角度、ビーム照射位置(焦点)が調整され、試料110の表面に照射される。試料110は、XYステージ108で位置決めされた試料ホルダ109上に固定される。試料110に照射される電子ビームは偏向器111により試料表面の観察領域のXY方向に走査される。試料110の表面から放出された二次電子または反射電子は検出器112によって検出され、観測信号として出力される。
【0018】
検出器112から出力される観測信号は、増幅器113で増幅され、増幅された観測信号はA/D変換器114によってアナログ信号からデジタル信号に変換される。デジタル信号に変換された観測信号を用いて画像処理部116が生成したフレーム画像はフレームメモリ115に蓄積されるとともに、表示部117に出力される。また画像処理部116では、複数のフレーム画像が積算されることによりS/Nを向上させた画像であるフレーム積算画像が算出され、表示部117に表示される。ところでフレーム画像を積算している間に試料表面の帯電状態が変化すると、積算処理に用いる各フレーム画像間に視野ずれや輝度値の差が発生し、フレーム積算画像にも画像の劣化が生じる。
【0019】
図2を用いて、異なる組成を複数有する試料表面に電子ビームを照射し続けた時の帯電量の変化と、帯電量の違いによって生じる輝度値の差について説明する。
図2(a)は異なる組成を複数有する試料表面の模式図であり、組成が異なる箇所としてA1部、A2部を有する。
図2(b)は
図2(a)中のA1部、A2部の等価回路であり、静電容量C1、C2と抵抗R1、R2をそれぞれ有し、帯電量と帯電速度は静電容量と抵抗の値に応じた特性を持つ。
図2(c)は電子ビームを照射し続けた時のA1部、A2部における試料表面の帯電量のグラフであり、横軸は時間t [s]、縦軸は試料表面の帯電量Q[C]である。A2 における帯電量Q2 は、A1における帯電量Q1よりも速く小さい帯電量で飽和する。
図2(d)と
図2(e)は、帯電量の違いにより生成される画像上の輝度値を示す模式図である。
【0020】
図2(d)は
図2(c)中のt=t2における輝度値の差、
図2(e)は、
図2(c)中のt=t7における輝度値の差である。輝度値の差が大きければ
図2(a)のA1部とA2部の差異は見分けやすく、輝度値の差が小さければ差異を見分けにくい。一方で、A2部の輝度値がA1部の輝度値よりも非常に小さく輝度値の最小単位未満である場合、A2部は周辺部に埋もれて認識できなくなる。
【0021】
そこで、試料表面の帯電量を試料に応じて適切に制御し、所望の輝度値を有する画像を取得することが求められる。本実施例では、試料に電子ビームを照射し始めてから所定時間が経過した後、フレーム画像の生成を開始することにより、試料表面の帯電量を制御する。
【0022】
図3に本実施例の処理の流れを示し、以下、各ステップについて説明する。
【0023】
(S301)
図4に示すような設定画面を用いて操作者が観察条件を設定する。本実施例の設定画面には、加速電圧設定部401、倍率設定部402、スキャン条件設定部403、画像取込み前ビーム照射時間設定部408が含まれる。加速電圧設定部401では試料110に照射される電子ビームの加速電圧が設定される。倍率設定部402では観察画像の倍率が設定される。
【0024】
スキャン条件設定部403は、画素時間設定部404、画像サイズ設定部405、積算枚数設定部406、画像生成時間表示部407を有する。画素時間設定部404では、観察画像の1画素あたりに電子ビームが照射される時間である画素時間が設定される。画像サイズ設定部405では、観察画像の画像サイズが設定される。積算枚数設定部406では、フレーム画像が積算される枚数である積算枚数が設定される。画像生成時間表示部407には、フレーム画像の生成からフレーム積算画像の算出までに要する時間である画像生成時間が表示される。画像生成時間は、画素時間、画像サイズ、積算枚数、フレーム画像及びフレーム積算画像を演算するのに要する時間から算出される。
【0025】
画像取込み前ビーム照射時間設定部408では、フレーム画像の生成に先立って電子ビーム104が試料110に照射される時間である画像取込み前ビーム照射時間が設定される。
【0026】
設定された観察条件は制御部118に送信され、以降の処理において用いられる。
【0027】
(S302)
制御部118は、鏡体部101に試料110への電子ビーム104の照射を開始させる。
【0028】
(S303)
制御部118が鏡体部101に試料110の観察領域で電子ビーム104を走査させるのにともなって、画像生成部102が検出器112から出力される観測信号を受信することにより、フレームスキャンが開始される。
【0029】
(S304)
画像生成部102は、S303で受信した観測信号に基づいてフレーム画像を生成する。生成されたフレーム画像はフレームメモリ115に蓄積される。
【0030】
(S305)
制御部118は、電子ビーム104の照射開始から所定時間が経過したか、または試料表面の帯電量が飽和したか否かを判断する。所定時間が経過したか否かは、S301で設定された画像取込み前ビーム照射時間に基づいて判断される。また帯電量が飽和したか否かは、生成されたフレーム画像と直前のフレームスキャンで生成されたフレーム画像との比較結果に基づいて判断される。具体的には、時間方向において隣り合うフレーム画像間の位置ずれや輝度値の変化が予め定められた閾値よりも小さい場合に、帯電量が飽和したと判断される。または操作者が2つのフレーム画像を見比べて帯電量が飽和したか否かを判断し、入力部119から判断結果を入力しても良い。
【0031】
画像取込み前ビーム照射時間が経過しておらず、帯電量が飽和していない場合はS303へ処理が戻り、所定時間が経過したか帯電量が飽和した場合はS306へ処理が進み、フレーム画像の積算処理に移行する。積算処理への移行にともない、フレームメモリ115に蓄積されたフレーム画像はリセットされる。
【0032】
(S306)
制御部118が鏡体部101に試料110の観察領域で電子ビーム104を走査させるのにともなって、画像生成部102が検出器112から出力される観測信号を受信することにより、フレームスキャンが再び開始される。
【0033】
(S307)
画像生成部102は、S306で受信した観測信号に基づいてフレーム画像を生成する。生成されたフレーム画像はフレームメモリ115に蓄積される。
【0034】
(S308)
制御部118は、フレーム画像の生成数がS301で設定された積算枚数に達したか否かを判断する。生成数が積算枚数に達していない場合はS306へ処理が戻り、達した場合はS309へ処理が進む。
【0035】
(S309)
画像処理部116は、フレームメモリ115に蓄積されたフレーム画像を積算し、フレーム積算画像を算出する。
【0036】
(S310)
表示部117にフレーム積算画像が表示される。
【0037】
以上の処理の流れにより、電子ビームの照射を開始してから所定時間が経過した状態で生成されたフレーム画像を用いてフレーム積算画像が算出される。または試料表面の帯電量が飽和した状態、例えば
図2(c)におけるQ1のt=t5以降、もしくはQ2のt=t3以降のフレーム画像を用いてフレーム積算画像が算出される。このように算出されたフレーム積算画像では、帯電状態の変化によって生じる位置ずれや輝度値の変化を抑制できるので、S/Nの向上を図ることができる。
【0038】
また試料表面の帯電量が飽和するまでに要する時間を用いて試料の静電容量や抵抗を算出し、表示するにようにしても良い。算出された試料の静電容量や抵抗は、試料の解析に用いることができる。
【0039】
また試料表面の帯電量が飽和する前の状態、例えば
図2(c)におけるt=t3の状態で試料を観察したい場合は、画像取り込み前ビーム照射時間を操作者が任意に設定するようにしても良い。画像取り込み前ビーム照射時間を任意に設定することにより、試料に応じて所望の帯電量に制御することができる。
【実施例2】
【0040】
実施例1では、フレーム画像取込み前の電子ビーム照射時間を調整して試料表面の帯電量を制御することについて説明した。試料表面の電荷は試料室内の雰囲気や試料ホルダを通じて放電されるので、電子ビームの照射時間と休止時間とのバランスを調整して試料表面の帯電量を制御することも可能である。そこで、本実施例では、フレームスキャンを実施した後にスキャンを休止させる時間を新たに設けることについて説明する。なお、本実施例の全体構成は実施例1と同じであるので、説明を省略する。
【0041】
図5に本実施例の処理の流れを示し、以下、各ステップについて説明する。
【0042】
(S501)
図6に示すような設定画面を用いて操作者が観察条件を設定する。本実施例の設定画面には、実施例1と同様に加速電圧設定部401、倍率設定部402、スキャン条件設定部403が含まれ、さらにスキャン休止時間設定部608が含まれる。加速電圧設定部401、倍率設定部402、スキャン条件設定部403は実施例1と同じである。
【0043】
スキャン休止時間設定部608では、フレームスキャンを実施した後にスキャンを休止させる時間であるスキャン休止時間が設定される。
【0044】
設定された観察条件は制御部118に送信され、以降の処理において用いられる。
【0045】
(S502)
制御部118は、鏡体部101に試料110への電子ビーム104の照射を開始させる。
【0046】
(S503)
制御部118が鏡体部101に試料110の観察領域で電子ビーム104を走査させるのにともなって、画像生成部102が検出器112から出力される観測信号を受信することにより、フレームスキャンが開始される。
【0047】
(S504)
画像生成部102は、S503で受信した観測信号に基づいてフレーム画像を生成する。生成されたフレーム画像はフレームメモリ115に蓄積される。
【0048】
(S505)
制御部118は、フレーム画像の生成数がS501で設定された積算枚数に達したか否かを判断する。生成数が積算枚数に達していない場合はS506を介してS503へ処理が戻り、達した場合はS507へ処理が進む。
【0049】
(S506)
制御部118は、S501で設定されたスキャン休止時間が経過するまで、鏡体部101にスキャンを休止させる。スキャン休止は、観察領域に電子ビーム104を照射させないことで実行される。具体的には、電子銃103からの電子ビーム104の放射停止、電子銃103と試料110間への遮蔽物の挿入、偏向器111による観察領域の外への電子ビーム104の偏向、XYステージ108の移動等のいずれでも良い。観察領域に電子ビーム104を照射させないことにより、試料表面の観察領域の電荷が、試料室内の雰囲気や試料ホルダ109を通じて放電する。放電の速度は試料110の構造や組成に依存する。
【0050】
図7に、S503からS506の処理が繰り替えされる間の試料表面の帯電量の変化を示す。
図7(a)ではスキャン休止の有無を比較しており、
図7(b)ではスキャン休止時間の長短を比較している。
図7(a)及び
図7(b)の上段のグラフは横軸を時間t [s]、縦軸を試料表面の帯電量Q[C]としており、下段のグラフはスキャン休止時間Tのタイミングチャートである。
図7(a)では、スキャン休止時間無しの場合にFS1〜FS10の10回のフレームスキャンが行われ、スキャン休止時間有りの場合にFSa1〜FSa7の7回のフレームスキャンが行われている。また
図7(b)では、スキャン休止時間が短い場合にFSa1〜FSa7の7回のフレームスキャンが行われ、スキャン休止時間が長い場合にFSb1〜FSb5の5回のフレームスキャンが行われている。
【0051】
図7(a)に示されるように、フレームスキャンの間にスキャン休止時間が設けられると、フレームスキャン中の充電量とスキャン休止時間中の放電量とが等しくなったところで、フレーム画像生成時における試料表面の帯電量が一定となり、平衡状態になる。
図7(a)では、横方向の点線で示すFSa4以降において、フレーム画像生成時の帯電量が平衡状態になっている。
【0052】
また、平衡状態のときの試料表面の帯電量は、スキャン休止時間を調整することにより制御ができる。
図7(b)に示されるように、スキャン休止時間を長くすることで試料表面から放電される電荷量が多くなり、平衡状態のときの試料表面の帯電量を低下させることができる。すなわちスキャン休止時間の調整により、加速電圧や倍率、スキャン条件といった他の観察条件を変更することなく、所望の帯電状態の画像を容易に取得することが可能となる。
【0053】
なお、試料表面の帯電量が平衡状態になるまではフレーム画像間に位置ずれや輝度値の変化が生じる場合がある。そのような場合は、時間方向において隣り合うフレーム画像を比較することにより位置ずれや輝度値の変化を検出し、検出された位置ずれや輝度値の変化を各フレーム画像上で補正するようにしても良い。
【0054】
(S507)
画像処理部116は、フレームメモリ115に蓄積されたフレーム画像を積算し、フレーム積算画像を算出する。例えば、積算枚数が5枚である場合、
図7(b)ではFSa1〜FSa5やFSb1〜FSb5のフレームスキャンによりスキャン休止時間をはさんで生成された5枚のフレーム画像が積算される。
【0055】
(S508)
表示部117にフレーム積算画像が表示される。
【0056】
以上の処理の流れにより、フレームスキャン間にスキャン休止時間が設けられた状態で生成されたフレーム画像、言い換えるとスキャン休止時間をはさんで生成されたフレーム画像を用いてフレーム積算画像が算出される。このように算出されるフレーム積算画像では、スキャン休止時間を調整することにより試料表面の帯電量を所望の値にすることができるので、試料に応じて所望の輝度値を有する観察画像を取得することが容易になる。
【0057】
また、制御部118が、試料表面の帯電量や観察画像の輝度値の目標値の入力を受け付け、入力された目標値に応じてスキャン休止時間を算出し、設定しても良い。
【実施例3】
【0058】
実施例1では、フレーム画像取込み前の電子ビーム照射時間を調整して試料表面の帯電量を制御することについて説明した。また実施例2では、電子ビームの照射時間と休止時間とのバランスを調整して試料表面の帯電量を制御することについて説明した。本実施例では、実施例1と実施例2との組み合わせについて説明する。なお、本実施例の全体構成は実施例1と同じであるので、説明を省略する。
【0059】
図8に本実施例の処理の流れを示し、以下、各ステップについて説明する。
【0060】
(S801)
操作者は、実施例2と同様に、
図6に示すような設定画面を用いて、加速電圧、倍率、スキャン条件、スキャン休止時間等の観察条件を設定する。設定された観察条件は制御部118に送信され、以降の処理において用いられる。
【0061】
(S802)
制御部118は、鏡体部101に試料110への電子ビーム104の照射を開始させる。
【0062】
(S803)
制御部118が鏡体部101に試料110の観察領域で電子ビーム104を走査させるのにともなって、画像生成部102が検出器112から出力される観測信号を受信することにより、フレームスキャンが開始される。
【0063】
(S804)
画像生成部102は、S803で受信した観測信号に基づいてフレーム画像を生成する。生成されたフレーム画像はフレームメモリ115に蓄積される。
【0064】
(S805)
制御部118は、試料表面の帯電量が飽和したか否かを判断する。帯電量が飽和したか否かは、生成されたフレーム画像と直前のフレームスキャンで生成されたフレーム画像との比較結果に基づいて判断される。具体的には、時間方向において隣り合うフレーム画像間の位置ずれや輝度値の変化が予め定められた閾値よりも小さい場合に、帯電量が飽和したと判断される。例えば、
図7(b)においてFSa5やFSb4のフレーム画像が生成されたときに、FSa4やFSb3のフレーム画像と比較されて帯電量が飽和したと判断される。または操作者が2つのフレーム画像を見比べて帯電量が飽和したか否かを判断し、入力部119から判断結果を入力しても良い。
【0065】
帯電量が飽和していない場合はS806を介してS803へ処理が戻り、帯電量が飽和した場合はS807へ処理が進み、フレーム画像の積算処理に移行する。積算処理への移行にともない、フレームメモリ115に蓄積されたフレーム画像はリセットされる。
【0066】
(S806)
制御部118は、S801で設定されたスキャン休止時間が経過するまで、鏡体部101にスキャンを休止させる。スキャン休止は、実施例2と同様に実行される。
【0067】
(S807)
制御部118が鏡体部101に試料110の観察領域で電子ビーム104を走査させるのにともなって、画像生成部102が検出器112から出力される観測信号を受信することにより、フレームスキャンが再び開始される。
【0068】
(S808)
画像生成部102は、S807で受信した観測信号に基づいてフレーム画像を生成する。生成されたフレーム画像はフレームメモリ115に蓄積される。
【0069】
(S809)
制御部118は、フレーム画像の生成数がS801で設定された積算枚数に達したか否かを判断する。生成数が積算枚数に達していない場合はS810を介してS807へ処理が戻り、達した場合はS811へ処理が進む。
【0070】
(S810)
制御部118は、S801で設定されたスキャン休止時間が経過するまで、鏡体部101にスキャンを休止させる。スキャン休止は、実施例2と同様に実行される。
【0071】
(S811)
画像処理部116は、フレームメモリ115に蓄積されたフレーム画像を積算し、フレーム積算画像を算出する。
【0072】
(S812)
表示部117にフレーム積算画像が表示される。
【0073】
以上の処理の流れにより、フレームスキャン間にスキャン休止時間が設けられた状態であって、試料表面の帯電量が平衡状態のときに生成されたフレーム画像を用いてフレーム積算画像が算出される。このように算出されたフレーム積算画像では、試料表面の帯電量を所望の値にするとともに、帯電状態の変化によって生じる位置ずれや輝度値の変化を抑制できるので、所望の輝度値と高いS/Nを有する観察画像を容易に取得することができる。
【実施例4】
【0074】
実施例1乃至3では、フレーム画像を観察しながら試料表面の帯電量を制御することについて説明した。試料の構造や組成によっては、画像観察に基づく帯電量の制御が困難な場合もある。そのような場合、フレームスキャンの回数に対する帯電傾向を把握することで、帯電量の制御が容易になる。そこで本実施例ではフレームスキャンの回数に対する試料の帯電傾向を取得することについて説明する。なお、本実施例の全体構成は実施例1と同じであるので、説明を省略する。
【0075】
図9に本実施例の処理の流れを示し、以下、各ステップについて説明する。
【0076】
(S901)
図10に示すような設定画面を用いて操作者が観察条件を設定する。本実施例の設定画面には、実施例2と同様に加速電圧設定部401、倍率設定部402、スキャン条件設定部403、スキャン休止時間設定部608が含まれ、さらに連続回数設定部1009が含まれる。加速電圧設定部401、倍率設定部402、スキャン条件設定部403、スキャン休止時間設定部608は実施例2と同じある。
【0077】
連続回数設定部1009では、フレームスキャンを連続して実行させる回数である連続回数が設定される。以降では、連続回数分実行された一連のフレームスキャンを連続フレームスキャンと呼ぶ。
【0078】
設定された観察条件は制御部118に送信され、以降の処理において用いられる。
【0079】
(S902)
制御部118は、鏡体部101に試料110への電子ビーム104の照射を開始させる。
【0080】
(S903)
制御部118が鏡体部101に試料110の観察領域で電子ビーム104を走査させるのにともなって、画像生成部102が検出器112から出力される観測信号を受信することにより、フレームスキャンが開始される。
【0081】
(S904)
画像生成部102は、S903で受信した観測信号に基づいてフレーム画像を生成する。生成されたフレーム画像はフレームメモリ115に蓄積される。
【0082】
(S905)
制御部118は、フレーム画像の生成数がS901で設定された連続回数に達したか否かを判断する。生成数が連続回数に達していない場合はS906を介してS903へ処理が戻る。生成数が連続回数に達した場合はS907へ処理が進むとともに、一つの連続フレームスキャンがなされたとして連続フレームスキャン数がカウントアップされ、フレーム画像の生成数がリセットされる。
【0083】
(S906)
制御部118は、S901で設定されたスキャン休止時間が経過するまで、鏡体部101にスキャンを休止させる。スキャン休止は、実施例2と同様に実行される。
【0084】
(S907)
制御部118は、連続フレームスキャン数がS901で設定された積算枚数に達したか否かを判断する。連続フレームスキャン数が積算枚数に達していない場合はS908を介してS903へ処理が戻り、達した場合はS909へ処理が進む。
【0085】
(S908)
制御部118は、試料110の観察領域が十分に放電するまで、鏡体部101にスキャンを停止させる。スキャン停止は、スキャン休止と同様に、観察領域に電子ビーム104を照射させないことで実行される。
【0086】
本ステップでスキャンを停止させる時間であるスキャン停止時間は、試料110の帯電状態が初期化される時間、すなわちS902前と同じ状態になるのに要する時間であり、予め定められた時間でも良いし、入力部119を用いて別途設定されても良い。
【0087】
図11にS903からS908の処理が繰り替えされる間の試料表面の帯電量の変化を示す。なお、説明を簡略化するためスキャン休止時間はゼロである。
図11の上段のグラフは横軸を時間t [s]、縦軸を試料表面の帯電量Q[C]としており、下段のグラフはスキャン停止時間Tdischargeのタイミングチャートである。
図11は連続回数に4回が設定された例であり、1つ目の連続フレームスキャンでFS11〜FS14の4回のフレームスキャンが連続で行われ、2つ目の連続フレームスキャンでFS21〜FS24の4回のフレームスキャンが連続で行われる。
図11に示されるように、連続フレームスキャンが行われた後、試料110が十分に放電するのに要する時間、例えばスキャン停止時間が設けられると、フレームスキャンの回数が同じ状態(FS11とFS21、FS12とFS22、…)のフレーム画像を生成することができる。
【0088】
(S909)
画像処理部116は、フレームメモリ115に蓄積されたフレーム画像の中から、フレームスキャンの回数が同じフレーム画像同士、例えばFS11のフレーム画像とFS21のフレーム画像を積算して積算画像を算出する。
【0089】
(S910)
表示部117に、S909で算出された積算画像がフレームスキャンの回数と対応づけられて表示される。このような表示により、フレームスキャンの回数、言い換えると電子ビームの照射時間に対する試料の帯電傾向を把握することができる。その結果、操作者にとって最適な帯電状態、すなわち操作者が望む画素値やコントラストを有する画像の取得が容易になる。例えば、電子ビームの照射時間に対する試料の帯電傾向に基づいて実施例1の画像取込み前ビーム照射時間が設定されても良い。
【0090】
図12に積算画像を表示するとともに評価するための画面の一例を示す。積算画像の評価により、フレームスキャンの回数に対する帯電傾向の把握が容易になる。
図12の画面には、評価項目選択部1201、積算画像選択部1202、評価値表示部1203、グラフ表示部1204、観察条件表示部1205、積算画像表示部1206が含まれる。以下、各部について説明する。
【0091】
評価項目選択部1201では、各積算画像の評価に用いられる評価項目が選択される。
図12には評価項目の例として、積算画像の輝度値の平均(AVE)、輝度値の標準偏差(STD)、AVEとSTDの比であるS/Nが選択項目として表示されている。なお、評価項目はこれらに限定されず、例えば、積算画像の輝度値の最大値と最小値との和や差等で良い。
【0092】
積算画像選択部1202では、フレームスキャンの回数が異なる積算画像の中から特定回数の積算画像が選択される。
【0093】
評価値表示部1203には、積算画像選択部1202で選択された積算画像に対して算出される評価値が表示される。評価値は、評価項目選択部1201での選択と積算画像選択部1202での選択に連動して更新される。また評価値の算出には、積算画像全体の輝度値が用いられても良いし、積算画像の一部の輝度値、例えば、操作者によって指定された領域の輝度値が用いられても良い。
【0094】
グラフ表示部1204には、各積算画像を評価するためのグラフが表示される。グラフの縦軸は評価項目選択部1201で選択された評価項目の値であり、横軸はフレームスキャンの回数である。積算画像選択部1202での選択に応じて、フレームスキャンの回数の中から特定回数が識別される表示をしても良い。例えば
図12では、FS2を四角で囲うことにより識別される表示をしている。
【0095】
観察条件表示部1205には、フレーム画像の生成に用いられた観察条件として、加速電圧や倍率、スキャン条件が表示される。
【0096】
積算画像表示部1206には、フレームスキャンの回数の順に複数の積算画像が並べられて表示される。積算画像選択部1202での選択に応じて、複数の積算画像の中から特定の積算画像が識別される表示をしても良い。例えば
図12では、積算画像FS2を四角で囲うことにより識別される表示をしている。
【0097】
図12に示す画面により、操作者は試料の帯電傾向を把握することができるとともに、各帯電状態での積算画像を各評価項目により定量的に比較することが可能となる。また所望の帯電状態の積算画像を速やかに特定することができるので、観察目的に応じた適切な観察条件やフレームスキャンの回数を容易に取得することができる。取得された観察条件等は、試料表面の帯電状態が重要となるチャージアップしやすい試料観察や、試料表面の微少な電位差により形成されるボルテージコントラスト像観察に役立てられる。
【0098】
さらに、各評価項目において、各フレーム前後における評価値の偏差(微分値)を比較することにより、最も変化が大きくなる状態、すなわち試料表面の帯電量や観察画像の画質が最も変化する状態を制御部118が特定し、操作者に提示しても良い。このような特定と提示により、操作者は所望の帯電状態を実現する条件を速やかに特定できるようになり、試料表面の帯電量の制御をともなう画像観察や画像評価において、更なる簡易化やスループット向上を図ることができる。
【0099】
なお、本発明の荷電粒子線装置は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。