特許第6897087号(P6897087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー株式会社の特許一覧
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6897087
(24)【登録日】2021年6月14日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】紫色ジルコニア焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20210621BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20210621BHJP
   A61C 8/00 20060101ALI20210621BHJP
   A44C 27/00 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   C04B35/486
   A61C13/083
   A61C8/00 Z
   A44C27/00
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-247516(P2016-247516)
(22)【出願日】2016年12月21日
(65)【公開番号】特開2017-141143(P2017-141143A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2019年11月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-22422(P2016-22422)
(32)【優先日】2016年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河村 清隆
(72)【発明者】
【氏名】手代木 洋一
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 浩之
(72)【発明者】
【氏名】畦地 翔
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−020877(JP,A)
【文献】 特開昭64−076964(JP,A)
【文献】 特開昭62−059571(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104529439(CN,A)
【文献】 特開2009−269812(JP,A)
【文献】 特開2010−150063(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/157508(WO,A1)
【文献】 特開2016−121062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/48 − 35/499
A44C 27/00
A61C 8/00
A61C 13/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01重量%以上1.0重量%以下のアルミニウム酸化物、及び、残部が1.2mol%以上3.5mol%以下のイットリア及び0.01mol%以上2mol%以下のネオジアを含有するジルコニアである成形体を、酸化雰囲気中、1350℃以上1500℃以下で焼結する焼結工程、を有するAl含有量が0.01重量%以上1.0重量%以下であり、残部が1.2mol%以上3.5mol%以下のイットリア及び0.01mol%以上2mol%以下のネオジアを含有するジルコニアであって、試料厚さ1.0mmにおける光源D65に対する全光線透過率が10%以上であるジルコニア焼結体の製造方法であって、前記成形体が、イットリア含有ジルコニア及びイットリア・ネオジア含有ジルコニアの混合粉末、又は、イットリア・ネオジア含有ジルコニア粉末の少なくともいずれかと、並びに、アルミナ粉末との混合粉末を成形したものである製造方法。
【請求項2】
前記焼結工程における焼結方法が常圧焼結である請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫色を呈するジルコニア焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア焼結体は、ランタノイド系希土類酸化物や遷移金属を着色剤として含むことで任意の呈色を示す(特許文献1)。ジルコニア焼結体が着色剤を含むことで、ジルコニア本来の高級感及び機械的強度に加え、意匠性が高くなる。そのため、着色剤を含むジルコニア焼結体(以下、「着色ジルコニア焼結体」ともいう。)は、従来の光学用途、医療用途、機械用途に加え、装飾部材及び外装部材等、適用用途が広がってきている。用途の広がりに伴い、着色ジルコニア焼結体には、より差別化された意匠性が求められてきている。さらに、着色ジルコニア焼結体の中でも、赤色、ピンク色、オレンジ色、紫色、ライトブルー、ライトグレーなどの明るい色調を呈するジルコニア焼結体は、色調が意匠性に与える影響が特に強いため、色調に求められる要求が高くなってきている。
【0003】
例えば、紫色を呈するジルコニア焼結体としてこれまでに以下のものが報告されている。
【0004】
特許文献1には紫色を呈するジルコニア焼結体として、Y、MgO又はCaOのいずれかと、CoO又はNdとを含有するジルコニア焼結体が開示されている。
【0005】
また、青色味や赤味を帯びていない紫色のジルコニア焼結体として、酸化コバルト、酸化ニッケル及び酸化チタン、若しくは酸化ネオジウムを含有したジルコニア焼結体が報告されている(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−59571号公報
【特許文献2】特開2011−020877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2で開示された紫色を呈する焼結体は、透光性を示さない。不透明な焼結体の色調は表面の反射光のみにより発現する。これらの焼結体は長期間の使用に伴う焼結体の劣化により、色調が大きく変化するものであった。これらの焼結体は、強度等の低下が無くとも審美性の変化により、部材として使用できる寿命が短くなってしまう。
【0008】
さらに、透光性を示す焼結体の色調は、表面の反射光のみならず、焼結体内部の散乱光及び透過光の影響を受けて発現する。そのため、透光性を有する焼結体の焼結体の劣化に伴う色調変化は不透明な焼結体に比べて大きくなる。
【0009】
これらの課題に鑑み、本発明は、透光性を有し、なおかつ、紫色を呈するジルコニア焼結体であって、長期間の使用における色調変化が小さいジルコニア焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、着色ジルコニア焼結体における使用劣化による変色とその抑制について検討した。その結果、特定の組成とすることで透光性を有するジルコニア焼結体であって、使用においても色調変化がほとんど生じない紫色を呈するジルコニア焼結体を見出した。
【0011】
すなわち、本発明はAl含有量が0.01重量%以上1.0重量%以下であり、残部が1.2mol%以上3.5mol%以下のイットリア及び0.01mol%以上2mol%以下のネオジアを含有するジルコニアであるジルコニア焼結体である。
【0012】
以下、本発明のジルコニア焼結体について説明する。
【0013】
本発明の焼結体は、Al含有量が0.01重量%以上1.0重量%以下であり、0.03重量%以上0.8重量%以下、更には0.04重量%以上0.6重量%以下であることが好ましい。アルミナ含有量が0.01重量%未満では、強度が低い焼結体となる。一方、Al含有量が1.0重量%を超えると焼結体の密度が低下しやすくなり、これにより色調の個体差が大きくなる。より好ましいAl含有量として0.05重量%以上0.3重量%以下を挙げることができる。
【0014】
本発明において、Al含有量は、本発明の焼結体の重量に対するAlの重量割合から求めることができる。
【0015】
本発明の焼結体は、イットリア(Y)及びネオジア(Nd)を含有するジルコニア(以下、「Y/Nd含有ジルコニア」ともいう。)を含む。Y/Nd含有ジルコニアの含有量は99重量%以上99.99重量%以下であればよく、99.2重量%以上99.97重量%以下、更には99.4重量%以上99.96重量%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明において、Y/Nd含有ジルコニア含有量は、本発明の焼結体の重量に対するY/Nd含有ジルコニアの重量割合から求めることができる。
【0017】
Y/Nd含有ジルコニアは、Y及びNdを含有するジルコニアである。
【0018】
イットリウムはジルコニアを着色することなく安定化剤として機能する。ジルコニアのイットリア含有量は、1.2mol%以上3.5mol%以下であり、1.3mol%以上3.2mol%以下、更には1.5mol%以上3.0mol%以下であることが好ましい。イットリア含有量が1.2mol%未満では、焼結体製造時や水熱条件下で焼結体の破壊が生じやすくなる。一方、イットリア含有量が3.5mol%を超えると、焼結体の強度が低下するのみならず、透明性が高くなりすぎる。透明性が高くなりすぎると、呈色が弱くなるため紫色の呈色とは異なる呈色となりやすい。
【0019】
本発明において、イットリア含有量(mol%)はジルコニア中のイットリア、ネオジア及びジルコニアの合計に対するイットリアのモル割合(Y/(Y+Nd+ZrO))から求めることができる。
【0020】
ネオジムは主に着色剤として機能する。ジルコニアがネオジアを含有することで本発明の焼結体が紫色を帯びる。ネオジア含有量は0.01mol%以上2mol%以下であり、0.03mol%以上1.8mol%以下、更には0.05mol%以上1.5mol%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明において、ネオジア含有量(mol%)はジルコニア中のイットリア、ネオジア及びジルコニアの合計に対するネオジアのモル割合(Nd/(Y+Nd+ZrO))から求めることができる。
【0022】
ジルコニア中のネオジア含有量(mol%)に対するイットリア含有量(mol%)のモル割合(以下、「Y/Nd比」とする。)は0.8以上、更には1以上であることが好ましい。イットリア及びネオジアはいずれもジルコニアの結晶相を安定する効果を有する。しかしながら、安定化作用はネオジアよりもイットリアの方が強い。そのため、イットリアがネオジアより多いことで、本発明の焼結体は、より安定化した結晶相を有し、なおかつ、紫色の呈色を呈する焼結体となる。Y/Nd比は、上記のイットリア含有量及び上記のネオジア含有量を満たせば任意であるが、Y/Nd比の上限として50、更には10、また更には5を挙げることができる。
【0023】
本発明の焼結体のジルコニア結晶構造は正方晶を含み、結晶構造の主相が正方晶であることが好ましい。本発明の焼結体が透光性を有し、かつ、紫色を示す色調とするため、粒界で光を散乱する正方晶が必須である。また、本発明の焼結体のジルコニア結晶構造は、主相が正方晶であれば、すなわち、正方晶含有率が50%以上、更には80%以上、また更には90%以上であれば、立方晶を含んでいてもよく、正方晶及び立方晶の混晶であってもよい。
【0024】
平均結晶粒径が適度に小さいことで、本発明の焼結体が各種部材等で使用できる強度を有する。そのため、本発明の焼結体の平均結晶粒径は0.3μm以上0.5μm以下であり、0.3μm以上0.45μm以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の焼結体は、相対密度が99.7%以上であることが好ましく、99.75%以上、更には99.80%以上であることがより好ましい。相対密度が99.7%以上であることで、本発明の焼結体が透光性を有しやすくなる。本発明において、相対密度は、理論密度に対する実測密度の割合である。理論密度には同一の組成を有する成形体を一次焼結及びHIP処理して得られたHIP処理体の密度を使用した。
【0026】
本発明の焼結体の実測密度は組成によって異なるが、6.075g/cm以上6.155g/cm以下、更には6.080g/cm以上6.150g/cm以下、また更には6.085g/cm以上6.145g/cm以下であることが挙げられる。
【0027】
本発明の焼結体は透光性を有する。表面の反射光のみならず、焼結体内部の散乱光及び透過光などの表面反射光とそれ以外の光とにより発現する色調を呈することで本発明の焼結体が表面反射光のみの呈色に比べ、より審美性の高い色調を示す。審美性が高くなるため、本発明の焼結体は、試料厚さ1.0mmにおける光源D65対する全光線透過率(以下、単に「全光線透過率」ともいう。)が10%以上、更には13%以上、また更には15%以上あることが好ましい。一方、透光性が高くなりすぎると色調が弱くなる傾向がある。そのため、全光線透過率は40%未満であることが好ましい。好ましい全光線透過率として10%以上40%未満、更には10%以上35%以下、また更には10%以上25%以下であることが挙げられる。
【0028】
本発明の焼結体は紫色を呈する。このような色調はL表色系において、明度Lが45以上85以下、aが−5以上20以下及びbが−25以上5以下であることにより確認することができる。より好ましい色調として明度Lが50以上80以下、aが−3以上15以下及びbが−20以上0以下、更には明度Lが54以上75以下、aが−1以上12以下及びbが−18以上−5以下であることが挙げられる。
【0029】
本発明の焼結体が長期間使用による色調変化がない。色調変化がないことは、使用前後の焼結体の色調を測定することで確認することができる。特に、140℃の熱水中で24時間浸漬した焼結体の色調と、浸漬前の焼結体の色調とから、以下の式で求まる色調差により、色調変化がないこと確認すればよい。
【0030】
色調差ΔE={(L−L+(a−a
+(b−b0.5
上記式において、L、a及びbはそれぞれ浸漬前の焼結体の明度L、彩度a及びbである。L、a及びbはそれぞれ浸漬後の焼結体の明度L、彩度a及びbである。
【0031】
本発明の焼結体は、上記式で求まるΔEが2.0以下であり、1.8以下、更には1.0以下であることが好ましい。ΔEが2.0以下であれば、目視による観察において審美性の変化が認識できなくなる。理論的にはΔEの下限値は0となるが、測定誤差等を考慮するとΔEは0.2以上であればよい。
【0032】
本発明の焼結体の三点曲げ強度として1000MPa以上、更には1050MPa以上を挙げることができる。強度が高すぎると加工性が低くなるため、本発明のジルコニア焼結体の三点曲げ強度は1300MPa以下、更には1250MPa以下であればよい。
【0033】
本発明において、三点曲げ強度は、IS R 1601に準じた方法で測定することができる。
【0034】
次に、本発明の焼結体の製造方法について説明する。
【0035】
本発明の焼結体は、0.01重量%以上1.0重量%以下のアルミニウム酸化物、及び、残部が1.2mol%以上3.5mol%以下のイットリア及び0.01mol%以上2mol%以下のネオジアを含有するジルコニアである成形体を、1350℃以上1500℃以下で焼結する焼結工程、を有する製造方法、により製造することができる。
【0036】
焼結工程に供する成形体は、0.01重量%以上1.0重量%以下のアルミニウム酸化物、及び、残部が1.2mol%以上3.5mol%以下のイットリア及び0.01mol%以上2mol%以下のネオジアを含有するジルコニアである。より好ましい成形体として、0.03重量%以上0.8重量%以下のアルミウム酸化物、及び、残部が1.3mol%以上3.2mol%以下のイットリア及び0.03mol%以上1.8mol%以下のネオジアを含有するジルコニアであることが挙げられる。
【0037】
アルミニウム酸化物の含有量は、アルミナ(Al)換算したアルミニウム酸化物と、イットリア及びネオジアを含有するジルコニア(Y/Nd含有ジルコニア)との合計重量に対する、アルミナ(Al)換算したアルミニウム酸化物の重量割合として求めることができる。
【0038】
成形体の形状は任意であり、円板状、柱状、板状、球状及び略球状からなる群の少なくとも1種が例示できる。
【0039】
成形体はY/Nd含有ジルコニア及びアルミニウム酸化物を上記の組成で含む原料粉末を成形して得られる。
【0040】
原料粉末は上記の組成を有し、なおかつ、平均粒子径が0.35μm以上0.60μm、更には0.40μm以上0.55μm以下であることが好ましい。また、BET比表面積は5〜15m/g、更には7〜13m/gであることが好ましい。
【0041】
原料粉末は、噴霧造粒粉末顆粒(以下、単に「粉末顆粒」ともいう。)であることが好ましく、有機バインダーを含む粉末顆粒であることが好ましい。原料粉末を粉末顆粒とすることにより、成形体を形成する際の流動性が高くなり、成形体から気孔が排除されやすくなる。これにより、焼結体中に気泡が生成し難くなる。
【0042】
有機バインダーは、一般に用いられるポリビニルアルコール、ポリビニルブチラート、ワックス及びアクリル系からなる群の少なくとも1種の有機バインダーを挙げることができる。粉末顆粒の有機バインダーの含有量は、原料粉末に対して1重量%以上5重量%以下を挙げることができる。
【0043】
原料粉末を粉末顆粒とする場合、平均顆粒径は30μm以上80μm以下であることが好ましく、嵩密度は1.10g/cm以上1.40g/cm以下であることが好ましい。
【0044】
原料粉末に含まれるY/Nd含有ジルコニアは、イットリア(Y)及びネオジア(Nd)を含有するジルコニア粉末であればよい。さらに、Y/Nd含有ジルコニアはイットリア含有ジルコニア、ネオジア含有ジルコニア、イットリア・ネオジア含有ジルコニアからなる群の少なくとも2種の粉末であってもよく、更にはイットリア含有ジルコニア及びイットリア・ネオジア含有ジルコニアの混合粉末であってもよい。イットリア粉末及びネオジア粉末とジルコニア粉末との混合粉末や、イットリア含有ジルコニア粉末とネオジア粉末との混合粉末と比べ、焼結前にイットリア及びネオジアを含有するジルコニアの粉末を使用することで、得られる焼結体の色調が均一になりやすい。Y/Nd含有ジルコニアは、イットリア含有ジルコニア及びイットリア・ネオジア含有ジルコニアの混合粉末、又は、イットリア・ネオジア含有ジルコニア粉末の少なくともいずれかであることが特に好ましい。
【0045】
Y/Nd含有ジルコニア粉末は、イットリア含有量が1.2mol%以上3.5mol%以下、更には1.3mol%以上3.2mol%以下であることが好ましく、なおかつ、ネオジア含有量が0.01mol%以上2mol%以下、更には0.03mol%以上1.8mol%以下であることが好ましい。Y/Nd含有ジルコニアがイットリア含有ジルコニア粉末を含む場合、当該イットリア含有ジルコニア粉末のイットリア含有量は2mol%以上4mol%以下、更には2mol%以上3.5mol%以下であることが挙げられる。Y/Nd含有ジルコニアがネオジア含有ジルコニア粉末を含む場合、当該ネオジア含有ジルコニア粉末のネオジア含有量は0.02mol%以上4mol%以下であることが挙げられる。
【0046】
原料粉末に含まれる好ましいアルミニウム酸化物は、アルミナ、水和アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム及び硫酸アルミニウムからなる群の少なくとも1種の粉末であることが好ましく、アルミナ、水和アルミナ及びアルミナゾルからなる群の少なくとも1種の粉末であることが好ましい。
【0047】
原料粉末は、Y/Nd含有ジルコニア及びアルミニウム酸化物を任意の方法で混合すればよい。
【0048】
原料粉末は、アルミニウム酸化物の含有量が0.01重量%以上1.0重量%以下であり、残部がY/Nd含有ジルコニアであればよく、更に原料粉末はアルミニウム酸化物の含有量が0.03重量%以上0.8重量%以下であり、残部がY/Nd含有ジルコニアであればよい。
【0049】
特に好ましい原料粉末として、イットリア含有ジルコニア及びイットリア・ネオジア含有ジルコニアの混合粉末、又は、イットリア・ネオジア含有ジルコニア粉末の少なくともいずれかと、アルミナ粉末との混合粉末であることが特に好ましい。
【0050】
成形体は、原料粉末を成形することで得られ、原料粉末を粉砕した後に成形してもよい。成形方法は、原料粉末を所望の形状に成形できる方法であればよく、例えば、金型プレス、冷間静水圧プレス、スリップキャスティング及びインジェクションモールディングからなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0051】
焼結工程では、成形体を酸化雰囲気、焼結温度1350℃以上1500℃以下で焼結する。これにより、本発明の焼結体が得られる。
【0052】
焼結は、酸化雰囲気で行う。酸化雰囲気で焼結することにより、本発明の焼結体が透光性を有し、なおかつ、紫色の呈色を示す。酸化雰囲気として、酸素ガス雰囲気又は大気雰囲気のいずれかを挙げることができる。簡便であるため、大気雰囲気であることが好ましい。
【0053】
焼結温度は1400℃以上1490℃以下、更には1410℃以上1480℃以下、また更には1420℃以上1470℃以下であることが好ましい。
【0054】
昇温速度は、800℃/時間以下、さらには650℃/時間以下である。好ましい昇温速度として50℃/時間以上800℃/時間以下、更には100℃/時間以上700℃/時間以下を挙げることができる。これにより、昇温過程における焼結の進行を抑制し、焼結温度下で成形体を焼結することができる。
【0055】
焼結温度における保持時間(以下、単に「保持時間」ともいう。)は、焼結温度により任意の時間とすればよい。保持時間として5時間以下、更には3時間以下、また更には2時間以下を例示することができる。
【0056】
焼結方法は常圧焼結であることが好ましい。常圧焼結とは、成形体に対して外的な力を加えずに単に加熱することにより焼結する方法である。具体的な常圧焼結として、大気圧下での焼結を挙げることができる。
【0057】
本発明の製造方法は、焼結体を研磨する研磨工程又は形状を加工する加工工程の少なくともいずれかを含んでいてもよい。研磨工程は、焼結後の焼結体の表面を研磨する。研磨により、表面に光沢感を付与する等、目的とする用途に適した表面状態を有する焼結体とすることができる。加工工程は、焼結体を任意の形状に加工する。これにより、焼結体を用途に応じた形状とすることができる。研磨工程及び加工工程は、いずれを先に行ってもよい。
【発明の効果】
【0058】
本発明により、透光性を有し、なおかつ、紫色を呈するジルコニア焼結体であって、長期間の使用における色調変化が小さいジルコニア焼結体を提供することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
(平均粒子径)
粉末試料の平均粒子径は、マイクロトラック粒度分布計(装置名:9320−HRA、Honeywell社製)を用いて測定した。前処理として、試料粉末を蒸留水に懸濁させてスラリーとした後、これを超音波ホモジナイザー(装置名:US−150T、日本精機製作所製)を用いて3分間分散処理した。
【0061】
なお、本発明におけるジルコニア粉末に係わる「平均粒径」とは、体積基準で表される粒径分布の累積カーブが中央値(メディアン径;累積カーブの50%に対応する粒径)である粒子と同じ体積の球の直径をいい、レーザー回折法による粒径分布測定装置によって測定したものをいう。
【0062】
(平均顆粒径)
顆粒試料の平均顆粒径は、ふるい分け試験方法によって求めた。
【0063】
(焼結体の平均結晶粒径)
焼結体試料の平均結晶粒径は、電解放出形走査型電子顕微鏡(FESEM)により得られたSEM写真からプラニメトリック法により求めた。すなわち、鏡面研磨した焼結体試料を熱エッチングし、電解放出形走査型電子顕微鏡(装置名:JSM−T220、日本電子社製)を用いてこれを観察した。得られたSEM写真からプラニメトリック法により平均結晶粒径を算出した。
【0064】
(焼結体の密度)
アルキメデス法により焼結体試料の実測密度を求めた。焼結体試料と同一の組成のHIP処理体を作製し、当該HIP処理体の実測密度をアルキメデス法により求め、これを理論密度とした。理論密度に対する焼結体の実測密度の割合をより、焼結体試料の相対密度を求めた。
【0065】
(全光線透過率)
焼結体試料の全光線透過率は、濁度計(装置名:NDH2000、日本電色社製)を用い、JIS K7361に準拠した方法によって測定した。両面研磨した、厚み1mmの円板状の焼結体を測定試料として用いた。
【0066】
(色調)
焼結体試料の色調は、JIS Z 8729に準拠した方法によって測定した。測定には、色差計(装置名:Z−300、日本電色社製)を使用した。
【0067】
測定使用には、片面研磨した厚み2.8mmの円板状の焼結体を使用した。色調の測定は、当該焼結体の研磨面について行なった。
【0068】
(強度)
JIS R 1601に準じた三点曲げ測定法により、焼結体試料の三点曲げ強度を測定した。
【0069】
実施例1
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリア濃度が1.59mol%、ネオジア濃度が0.73mol%になるようにイットリア(Y)及びネオジア(Nd)を水和ジルコニアゾルに添加した後、乾燥及び仮焼して、イットリア及びネオジアを含むジルコニア仮焼粉末を得た。仮焼条件は、大気中、1170℃で2時間とした。得られた仮焼粉末を蒸留水で水洗した後に、乾燥することでY/Nd含有ジルコニア粉末を得た。Y/Nd含有ジルコニア粉末の重量に対するAl含有量が0.05重量%となるように、当該Y/Nd含有ジルコニア粉末に平均粒子径0.3μmのα−アルミナを添加して混合粉末とした。
【0070】
混合粉末に蒸留水を加えて粉末含有量が45重量%のスラリーを得、これをボールミルで粉砕処理した。ボールミルは、水溶媒中、粉砕媒体に直径2mmのジルコニア製ボールを使用し、処理時間は16時間として行った。
【0071】
粉砕処理後のスラリー(以下、「粉砕スラリー」ともいう。)中の粉末の平均粒子径及びBET比表面積を測定した。なお、BET比表面積の測定は粉砕スラリーを大気中、110℃で乾燥した後のジルコニア粉末について行った。平均粒子径が0.45μm及びBET比表面積が12.3m/gであった。
【0072】
粉砕スラリーに有機バインダーを3重量%添加した後、これを噴霧乾燥して粉末顆粒を得た。粉末顆粒は平均顆粒径が46μm及び軽装嵩密度が1.23g/cmであった。
【0073】
得られた顆粒を19.6MPaの一軸プレスで予備成形した後、196MPaで冷間静水圧プレス(以下、「CIP」ともいう。)処理することで成形して成形体を得た。得られた成形体を、大気雰囲気中、焼結温度1450℃、昇温速度600℃/hr、保持時間2時間で常圧焼結して本実施例のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は透光性を有し、なおかつ、紫色を呈していた。
【0074】
Y/Nd含有ジルコニア粉末の組成を表1に、本実施例のジルコニア焼結体の評価結果を表2及び表3に示した。
【0075】
実施例2
イットリア濃度が1.59mol%、ネオジア濃度が1.48mol%となるようにイットリア及びネオジアを水和ジルコニアゾルに添加したこと、及び、仮焼温度を1210℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で粉砕スラリー及び粉末顆粒を得た。
【0076】
粉砕スラリー中の粉末は、平均粒子径が0.43μm及びBET比表面積は13.8m/gであり、粉末顆粒は平均顆粒径が43μm及び軽装嵩密度が1.26g/cmであった。
【0077】
得られた粉末顆粒を用いたこと以外は実施例1と同様な方法で成形及び焼結することで本実施例のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は透光性を有し、なおかつ、紫色を呈していた。
【0078】
Y/Nd含有ジルコニア粉末の組成を表1に、本実施例のジルコニア焼結体の評価結果を表2及び表3に示した。
【0079】
実施例3
イットリア濃度が1.59mol%、ネオジア濃度が1.48mol%となるようにイットリア及びネオジアを水和ジルコニアゾルに添加したこと、及び、仮焼温度を1210℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で粉砕スラリー及び粉末顆粒を得た。
【0080】
粉砕スラリー中の粉末は、平均粒子径が0.43μm及びBET比表面積は13.8m/gであり、粉末顆粒は平均顆粒径が43μm及び軽装嵩密度が1.26g/cmであった。
【0081】
得られた粉末顆粒を用いたこと、及び、焼結温度を1500℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で成形及び焼結することで本実施例のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は透光性を有し、なおかつ、紫色を呈していた。
【0082】
Y/Nd含有ジルコニア粉末の組成を表1に、本実施例のジルコニア焼結体の評価結果を表2及び表3に示した。
【0083】
実施例4
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリア濃度が3mol%になるようにイットリアを水和ジルコニアゾルに添加した後、乾燥及び仮焼して、イットリアを含むジルコニア仮焼粉末を得た。仮焼条件は、大気中、1100℃で2時間とした。得られた仮焼粉末を蒸留水で水洗し、乾燥しイットリア含有ジルコニア粉末を得た。
【0084】
得られたイットリア含有ジルコニア粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で粉砕スラリー及び粉末顆粒を得た。
【0085】
粉砕スラリー中の粉末は平均粒子径が0.42μm及びBET比表面積が13.1m/gであり、粉末顆粒の平均顆粒径は45μm及び軽装嵩密度は1.27g/cmであった。
【0086】
得られた粉末顆粒と、実施例1と同様な方法で得られた粉末顆粒とを以下の組成となるように撹拌混合し、混合粉末顆粒を得た。
【0087】
Al :0.05重量%
Y/Nd含有ジルコニア :残部
また、混合粉末顆粒中のY/Nd含有ジルコニアの組成はYが2.3mol%、Ndが0.74mol%及び残部がZrOであった。
【0088】
得られた混合粉末顆粒を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で成形及び焼結し、本実施例の焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は透光性を有し、なおかつ、紫色を呈していた。
【0089】
混合粉末顆粒中のY/Nd含有ジルコニアの組成を表1に、本実施例のジルコニア焼結体の評価結果を表2及び表3に示した。
【0090】
実施例5
混合粉末顆粒が以下の組成となるようにしたこと以外は実施例4と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。
【0091】
Al :0.05重量%
Y/Nd含有ジルコニア :残部
また、混合粉末顆粒中のY/Nd含有ジルコニアの組成はYが2.93mol%、Ndが0.07mol%、及び残部がZrOであった。
【0092】
得られたジルコニア焼結体は透光性を有し、なおかつ、紫色を呈していた。
【0093】
混合粉末顆粒中のY/Nd含有ジルコニアの組成を表1に、本実施例のジルコニア焼結体の評価結果を表2及び表3に示した。
【0094】
比較例1
ネオジア濃度が3mol%となるようにネオジアを水和ジルコニアゾルに添加したこと、及び、イットリアを添加しなかったこと以外は実施例1と同様な方法でネオジア含有ジルコニア粉末、粉砕スラリー及び粉末顆粒を得た。
【0095】
粉砕スラリー中の粉末は、平均粒子径が0.41μm及びBET比表面積は14.1m/gであり、粉末顆粒は平均顆粒径が43μm及び軽装嵩密度が1.22g/cmであった。
【0096】
得られた粉末顆粒を用いたこと以外は実施例1と同様な方法で成形及び焼結することで本比較例のジルコニア焼結体を作製した。しかしながら、本比較例において焼結中にクラックが発生し、形状を維持した焼結体が得られなかった。結果を表1及び2に示す。
【0097】
比較例2
ネオジア濃度が4mol%となるようにネオジアを水和ジルコニアゾルに添加したこと以外は比較例1と同様な方法でイットリア含有ジルコニア粉末、粉砕スラリー及び粉末顆粒を得た。
【0098】
粉砕スラリー中の粉末は、平均粒子径が0.42μm及びBET比表面積は13.9m/gであり、粉末顆粒は平均顆粒径が47μm及び軽装嵩密度が1.23g/cmであった。
【0099】
得られた粉末顆粒を使用したこと以外は比較例1と同様な方法で成形及び焼結し、本比較例の焼結体を製造した。しかしながら、本比較例において焼結中にクラックが発生し、形状を維持した焼結体が得られなかった。結果を表1及び2に示す。
【0100】
比較例3
イットリア濃度が1.08mol%となるようにイットリア及びネオジアを水和ジルコニアゾルに添加した以外は比較例1と同様な方法でY/Nd含有ジルコニア粉末、粉砕スラリー及び粉末顆粒を得た。
【0101】
粉砕スラリー中の粉末は、平均粒子径が0.43μm及びBET比表面積は13.8m/gであり、粉末顆粒は平均顆粒径が48μm及び軽装嵩密度が1.26g/cmであった。
【0102】
得られた粉末顆粒を使用したこと、及び、焼結温度を1500℃としたこと以外は比較例1と同様な方法で成形及び焼結し、本比較例の焼結体を製造した。しかしながら、本比較例において焼結中にクラックが発生し、形状を維持した焼結体が得られなかった。結果を表1及び2に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
(色調変化ΔEの測定)
実施例1乃至5の焼結体をそれぞれ140℃の熱水に24時間浸漬し、浸漬前後の焼結体の色調を測定し、色調差ΔEを求めた。結果を表4に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
表4より、色調差ΔEはいずれも2.0以下であり、目視による色調変化は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のジルコニア焼結体は、粉砕部材等の構造材料、歯列補綴材やその色調調整材等の歯科用部材のみならず、宝飾品、装飾部材等の部材、例えば、時計部品、携帯用電子機器の外装部品等や様々な部材へ利用することができる。